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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-23
(45)【発行日】2024-05-02
(54)【発明の名称】超音波画像生成装置およびその制御方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 8/06 20060101AFI20240424BHJP
【FI】
A61B8/06
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019135669
(22)【出願日】2019-07-23
(65)【公開番号】P2021016722
(43)【公開日】2021-02-15
【審査請求日】2022-07-22
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000112602
【氏名又は名称】フクダ電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】白井 岳士
【審査官】永田 浩司
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-202829(JP,A)
【文献】特開2013-078438(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0049828(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/00 ー 8/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドプラ法により得られた計測値に基づくカラードプラ像を生成する超音波画像生成装置であって、
前記カラードプラ像を構成する画素の位置における計測値を、複数の計測値を補間する補間処理によって求める補間処理手段と、
前記補間処理に用いる補間係数を決定する決定手段と、
前記補間処理手段が求めた前記画素の位置における計測値に応じた画素データを生成する生成手段と、を有し、
前記決定手段は、前記複数の計測値が得られた計測点から前記画素の位置までの距離と、前記複数の計測値のそれぞれの信頼度とに基づいて、前記距離の増加に伴って非線形に増加する前記補間係数を決定し、
前記信頼度が計測値に対応するパワーである、
ことを特徴とする超音波画像生成装置。
【請求項2】
前記決定手段は、前記複数の計測値の信頼度の大小関係に基づいて前記補間係数を決定することを特徴とする請求項1に記載の超音波画像生成装置。
【請求項3】
前記決定手段は、前記複数の計測値の信頼度の大小関係に基づいて、前記距離の増加に伴う前記補間係数の増加の割合を異ならせることを特徴とする請求項1または2に記載の超音波画像生成装置。
【請求項4】
前記決定手段は、前記複数の計測値のうち、他の計測値よりも信頼度が小さい計測値について、他の計測値との信頼度の差が大きいほど前記補間処理における重みが小さくなるように前記補間係数を決定することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の超音波画像生成装置。
【請求項5】
前記補間処理手段は、補間方向の異なる2種類の補間処理を用いて前記計測値を求めることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の超音波画像生成装置。
【請求項6】
前記画素データのうち、信頼度が第1の閾値未満の計測値に応じた画素データについては、予め定められた値に置き換える置き換え手段をさらに有することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の超音波画像生成装置。
【請求項7】
前記複数の計測値は、信頼度が第2の閾値未満である計測値が予め定められた値に置き換えられた計測値であり、
前記第1の閾値は前記第2の閾値よりも小さい、
ことを特徴とする請求項6に記載の超音波画像生成装置。
【請求項8】
前記計測値が速度および分散の少なくとも一方を含むことを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の超音波画像生成装置。
【請求項9】
超音波プローブと、
前記超音波プローブで受信した信号に基づいて、複数の計測値を算出する算出手段と、
請求項1から8のいずれか1項に記載の超音波画像生成装置と、
を備えたことを特徴とする、超音波診断装置。
【請求項10】
ドプラ法により得られた計測値に基づくカラードプラ像を生成する超音波画像生成装置の制御方法であって、
前記カラードプラ像を構成する画素の位置における計測値を、複数の計測値を補間する補間処理によって求める補間処理工程と、
前記補間処理に用いる補間係数を決定する決定工程と、
前記補間処理工程で求めた前記画素の位置における計測値に応じた画素データを生成する生成工程と、を有し、
前記決定工程は、前記複数の計測値が得られた計測点から前記画素の位置までの距離と、前記複数の計測値のそれぞれの信頼度とに基づいて、前記距離の増加に伴って非線形に増加する前記補間係数を決定し、
前記信頼度が計測値に対応するパワーである、
ことを特徴とする超音波画像生成装置の制御方法。
【請求項11】
コンピュータを、請求項1から8のいずれか1項に記載の超音波画像生成装置として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波画像生成装置およびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置は体内に超音波を送信し、反射波を観測することによって非侵襲的に体内の状態を観察する装置である。超音波診断装置には、反射波の強弱や周波数の変化などを画像化して表示するさまざまなモードがあり、ユーザは観察する部位や観察の目的によって適切なモードを選択する。例えば、カラードプラモード(カラーモード、フロー、CFM(Color Flow Mapping)などとも呼ばれる)は、血管や血流を観察する際に用いられる代表的なモードである。
【0003】
カラードプラモードは、超音波の周波数が体内の移動体(血液)で反射されてドプラ偏移することを利用し、計測範囲内の各位置における組織の移動速度や移動方向、反射波の強さ(パワー)などを色で表した画像(カラードプラ像)を表示するモードである。カラードプラモードでは、走査線ごとに超音波の送受信が複数回必要であるため、Bモードのように走査線ごとに超音波の送受信が1回でよいモードよりもフレームレートが低下する。
【0004】
カラードプラモードにおけるフレームレートの低下を抑制するため、カラードプラモード1フレームあたりの走査線の数をBモードよりも低減し、補間によりカラードプラ像の解像度を高めることが知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平10-165402号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
複数の計測点のそれぞれから補間する画素位置までの距離の差に応じた比率で各計測点での計測値を加算することで、画素位置の計測値を補間することができる。しかし、補間に用いる計測値の精度が低いと、補間された計測値の精度も低くなる。
【0007】
例えば散乱などによって超音波同士が相殺され、十分な強さの反射波が得られないと、算出される血流速度が0もしくは0に近い値になる場合がある。また、ノイズの影響などにより、算出される血流速度が非常に大きな値になる場合もある。計測値だけでカラードプラ像を生成すれば、このような特異な計測値が発生した場合であっても、周辺の計測値が正常であれば目立つことはない。しかし、計測値を補間して解像度の高いカラードプラ像を生成すると、特異な計測値が補間によって周囲に拡大され、不自然な領域として認知されやすくなる。
【0008】
本発明は、このような従来技術の課題を軽減するためになされたものであり、補間によって生成されるカラードプラ像の品質を向上することが可能な超音波画像生成装置およびその制御方法の提供を1つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の目的は、ドプラ法により得られた計測値に基づくカラードプラ像を生成する超音波画像生成装置であって、カラードプラ像を構成する画素の位置における計測値を、複数の計測値を補間する補間処理によって求める補間処理手段と、補間処理に用いる補間係数を決定する決定手段と、補間処理手段が求めた画素の位置における計測値に応じた画素データを生成する生成手段と、を有し、決定手段は、複数の計測値が得られた計測点から画素の位置までの距離と、複数の計測値のそれぞれの信頼度とに基づいて、前記距離の増加に伴って非線形に増加する補間係数を決定し、信頼度が計測値に対応するパワーである、ことを特徴とする超音波画像生成装置によって達成される。
【発明の効果】
【0010】
本発明はこのような構成により、補間によって生成されるカラードプラ像の品質を向上することが可能な超音波画像生成装置およびその制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明を適用可能な超音波診断装置の機能構成例を示すブロック図である。
図2図1におけるドプラ処理部の機能構成例を示すブロック図である。
図3図1におけるDSCの機能構成例を示すブロック図である。
図4】DSCにおける補間処理に関する模式図である。
図5】DSCにおける補間処理に用いる補間係数を生成するための関数の例を示す図である。
図6】ドプラ像生成処理に関するフローチャートである。
図7】従来法および第1実施形態に係る方法で得られたドプラ像の例を示す図である。
図8】第2実施形態におけるDSCの機能構成例を示すブロック図である。
図9】従来法および第2実施形態に係る方法で得られたドプラ像の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明をその例示的な実施形態に基づいて詳細に説明する。以下では、超音波画像生体装置の一例としての超音波診断装置に本発明を適用した実施形態について説明する。しかしながら本発明には超音波の送受信に関する構成は必須でなく、カラードプラ像を生成可能な任意の電子機器において実施可能である。
【0013】
なお、以下に説明する実施形態は本発明をいかなる意味においても限定しない。また、実施形態で説明される構成の全てが本発明に必須とは限らない。また、明らかに不可能である場合や、それが否定されている場合を除き、異なる実施形態に含まれる構成を組み合わせたり、入れ替えたりしてもよい。また、重複した説明を省略するために、添付図面においては全体を通じて同一もしくは同様の構成要素には同一の参照番号を付してある。
【0014】
●(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る超音波診断装置の構成例を表わすブロック図である。超音波診断装置100は、本体120と、本体120に着脱可能な超音波プローブ130とから構成される。超音波診断装置100の機能は制御部101が各部の動作を制御することによって実現される。制御部101は例えばプログラマブルプロセッサを有し、不揮発性メモリ102に記憶されたプログラムをシステムメモリ103に読み込んで実行し、超音波診断装置100の各部の動作を制御する。なお、制御部101は処理の一部にASIC(Application Specific Integrated Circuit)やASSP(Application Specific Standard Product)などのハードウェア回路を利用してもよい。
【0015】
例えば書き換え可能な不揮発性メモリ102は、制御部101が実行するためのプログラム、GUIデータ、超音波診断装置100の各種の設定値などを記憶する。なお、駆動回路104が超音波プローブ130の有する振動子105を駆動するために用いるパルス状電圧を生成するための波形パターンを表すデータ(駆動波形パターンデータ)も不揮発性メモリ102に記憶されている。
【0016】
システムメモリ103は制御部101がプログラムを読み込んで実行するために用いたり、受信信号のバッファとして用いたりするメモリである。
【0017】
駆動回路104は、不揮発性メモリ102に保存されている複数の駆動波形パターンデータのうち、制御部101が選択した駆動波形パターンデータを不揮発性メモリ102から読み出す。そして、駆動回路104は、読み出した駆動波形パターンデータに基づいてパルス状の駆動電圧を生成し、超音波プローブ130の振動子105に印加することによって振動子105を駆動する。
【0018】
超音波プローブ130が有する振動子105は、1次元または2次元配列された複数の振動子を有する。個々の振動子は電気機械変換素子(例えば圧電素子)である。振動子105は、駆動回路104から印加される電圧によって超音波を発生(送信)する。また、振動子105は、受信した振動を電気信号(観測信号)に変換して出力する。なお、ここでは説明および理解を容易にするために振動子105の詳細については説明を省略する。駆動回路104は計測の種類や設定、スキャン方法などに応じたタイミングで、振動子105が有する複数の振動子を別個に駆動する。
【0019】
受信回路106は、超音波プローブ130の振動子105が出力する観測信号に対し、ノイズ低減、増幅、A/D変換、加算などの処理を実行し、反射波データとしてシステムメモリ103に保存する。なお、各振動子の受信信号の遅延時間を制御して加算することにより、受信信号のフォーカスを高めることができる。
【0020】
ドプラ処理部107は、システムメモリ103に保存された反射波データに対し、例えば連続波ドプラ法、パルスドプラ法、カラードプラ法(CFM(Color Flow Mapping)とも呼ばれる)などの、ドプラ法などに対応した信号処理を適用することができる。システムメモリに保存された反射波データのうち、ドプラ法に基づく表示を行う走査線の反射波データが保存されているアドレスは例えば制御部101からドプラ処理部107に与えられる。ドプラ処理部107は対象の走査線上の各計測点における計測値を算出し、計測値データをデジタルスキャンコンバータ(DSC)111に出力する。
【0021】
ドプラ法は、反射波のドプラ偏移に基づいて動体の速度を検出する方法である。そして、カラードプラモードは、検出した動体の速度の大きさ、方向、分散、反射波の強さ(パワー)などを色によって表した画像を表示するモードである。カラードプラモードでは同一走査線上の複数の計測点について超音波を間欠的に送受信して、各計測点における物体の速度を検出する。同じ走査線に対して超音波の送受信を複数回行うため、カラードプラ像のフレームレートは原理的にBモード像のフレームレートより低い。計測値の信頼を高めるため、同じ計測点に対して複数回の計測を行う場合にはさらにフレームレートが低下する。カラードプラ像のフレームレートを向上させるため、カラードプラ像は注目領域(ROI:Region of Interest)やカラーウィンドウなどと呼ばれる部分領域についてのみ生成されるのが一般的である。カラードプラ像を生成する部分領域の位置や大きさはユーザが設定ならびに変更することができる。
【0022】
カラードプラモードが設定されている場合、制御部101は、Bモード像とカラードプラ像とを生成するための駆動パターンで超音波振動子を駆動するよう、駆動回路104を制御する。
【0023】
Bモード処理部109は、システムメモリ103に保存された反射波データに対してBモード(反射波の強さを輝度で表すモード)に対応した信号処理を行うことができる。システムメモリに保存された反射波データのうち、Bモードでの表示を行う走査線の反射波データが保存されているアドレスは例えば制御部101からBモード処理部109に与えられる。Bモード処理部109は対象の走査線ごとに、深さと反射波の強さとの関係を表す画像を生成し、DSC111に出力する。なお、本実施形態では一般にカラードプラ像と合成されるBモード像を生成するBモード処理部109しか記載していないが、超音波診断装置100は、Aモード像やMモード像など、他の公知の超音波画像を生成する機能を備えている。
【0024】
DSC111は、ドプラ処理部107が出力する計測値データに基づいて、カラードプラ像を生成する。カラードプラ像の生成には、カラードプラ像の各画素位置についての計測値を求める補間処理、求めた計測値に応じた色を表す画素データを生成する処理などが含まれる。カラードプラ像の生成処理の詳細については後述する。DSC111はまた、Bモード処理部109が走査線単位で生成する深さ方向の1次元画像を、ラスタースキャン方式の表示部112において2次元画像として表示するための座標変換を行う。DSC111は、Bモード像とカラードプラ像との一方、あるいはそれらの合成画像を表示部112に出力する。
【0025】
DSC111は、例えばカラードプラモードでは、Bモード画像に、カラードプラ像を合成した表示用画像を生成する。また、B/PWモード表示を行う場合には、Bモード画像と、FFT波形像とを並べた表示用画像を生成する。表示用画像のフォーマットは計測モードやユーザ設定に応じて定まる。上述したように、DSC111で超音波画像の合成を行うか否かは、ユーザ指示や設定されているモードに応じて制御部101が制御する。
【0026】
表示部112はタッチ操作を検出可能なディスプレイ(タッチディスプレイ)であり、DSC111が出力する超音波画像を表示する。また、表示部112の表示画面の一部はソフトウェアキーの表示領域として用いられてもよい。この場合、DSC111が出力する超音波画像は、表示画面のうち、ソフトウェアキーの表示領域以外の領域に表示される。
【0027】
操作部113は、ユーザが超音波診断装置100に指示を入力するための入力デバイスである。物理的なスイッチやキー、表示部112が実現するソフトウェアキーなどを含む。
【0028】
(ドプラ処理部107)
図2は、ドプラ処理部107の機能構成例を示すブロック図である。ドプラ処理部107は、直交検波回路1071、MTIフィルタ1072、自己相関演算回路1073、速度分散演算回路1074、およb、選択およびブランク処理回路1075を有する。
【0029】
直交検波回路1071は、例えば受信信号(反射波)に同一周波数で位相が90°異なる参照周波数信号を乗じる一対のミキサと、ミキサの出力信号に適用する一対のローパスフィルタとを有する。直交検波回路1071は、受信信号(反射波)から、ドプラ偏移を表す1対の信号(I,Q)を抽出する。
【0030】
MTI(Moving Target Indicator)フィルタ1072は直交検波回路1071の一対の出力(I,Q)に適用され、表示する動きの下限速度を調整するために用いられる。MTIフィルタ1072はウォールフィルタとも呼ばれ、ハイパスフィルタによって実現される。MTIフィルタ1072のカットオフ周波数はユーザが調整可能である。MTIフィルタ1072の一対の出力(MTII,MTIQ)は自己相関演算回路1073に出力される。
【0031】
自己相関演算回路1073は、同一計測点に関して異なる時間に得られた受信信号(MTII,MTIQ)の自己相関(DENO,NUME)およびパワー(POWER)を以下の様に求めて出力する。
【数1】
ここで、自己相関を求めるiはMTIフィルタ1072が出力する信号を構成する時系列データのサンプル番号、Nは自己相関を求めるサンプル総数である。なお、DENOは速度ベクトルの実部、NUMEは速度ベクトルの虚部に相当する。
【0032】
速度分散演算回路1074は、自己相関演算回路1073が求めた自己相関およびパワーに基づいて、計測値としての速度および分散を以下の様に求めて出力する。
速度=tan-1(NUME/DENO)
分散=1 - (DENO2+NUME2)1/2 / POWER
なお、同一計測点から得られた受信信号(反射波)の自己相関に基づいて速度を求める方法は公知であるため、これ以上の詳細についての説明は省略する。
【0033】
選択及びブランク処理回路1075は、計測値として速度のみを出力するか、速度と分散の両方を出力するか選択する。また、選択及びブランク処理回路1075は、出力する計測値に対応するパワーが閾値未満の場合には、その計測値を特定の値(例えば0)に置き換えるブランク処理を行う。ここで用いる閾値は、例えば予め定められたノイズレベルに対応する値である。対応するパワーが閾値未満のデータは信頼が低いと考えられるため、ブランク処理によって特定の値とする。したがって、自己相関演算回路1073が算出するパワーは、同じタイミングで算出された自己相関(DEMO,NUME)に基づいて算出される計測値の信頼度として用いることができる。
【0034】
(DSC111)
図3はDSC111の機能構成例を示すブロック図である。DSC111は2つのフレームメモリ1111および1113、補間演算回路1112、読み出しアドレス生成回路1114、補間係数生成回路1115、書き込みアドレス生成回路1116、およびBモード画像処理回路1117を有する。
【0035】
フレームメモリ1111は、ドプラ処理部107の出力する計測値およびパワーを1フレーム分記憶する。ドプラ処理部107は計測点の並びでデータを出力するため、フレームメモリ1111には走査線順の並びで計測値およびパワーが記憶される。
【0036】
読み出しアドレス生成回路1114は、フレームメモリ1111から補間演算回路1112に読み出すデータのアドレスを生成して、フレームメモリ1111に供給する。具体的には、読み出しアドレス生成回路1114は、補間演算回路1112で画素データの生成に必要な複数の計測点におけるデータを読み出すためのアドレスを生成する。フレームメモリ1111から読み出された速度や分散のデータは補間演算回路1112に、パワーのデータは補間係数生成回路1115に、それぞれ出力される。
【0037】
なお、ドプラ像を構成する各画素位置についての計測値を補間により求めるために必要な計測点は予め把握することができる。そのため、補間演算回路1112が予め定められた順序で画素データを生成する場合には、フレームメモリ1111に供給すべき読み出しアドレスとその順序も予め把握することができる。したがって、読み出しアドレス生成回路1114は、予め定められた読み出しアドレスの組をフレームメモリ1111に順次供給するような構成であってよい。
【0038】
補間係数生成回路1115は、補間に用いる複数の計数値の信頼度(ここではパワー)と、補間に用いる複数の計測点から補間する画素の位置までの距離とに基づいて、補間演算回路1112における補間演算に用いる補間係数を決定する。補間係数生成回路1115は、決定した補間係数を補間演算回路1112に供給する。補間係数生成回路1115の詳細については後述する。補間係数は、計測値データの重み付け加算に基づく補間処理において、計測値に適用する重みを制御する。
【0039】
補間演算回路1112は、フレームメモリ1111から読み出された複数の計測値と、補間係数生成回路1115から供給される補間係数とを用いた補間処理により、ドプラ像を構成する各画素の位置における計測値を求める。
【0040】
図4は、本実施形態における補間処理の例を示す図である。
図4(a)は、計測点とドプラ像を構成する画素との位置関係を模式的に示している。ドプラ法による計測点の位置(図中○)は、プローブ位置から放射状に延びる走査線上に存在する。一方、ドプラ像を構成する画素の座標(図中●)は水平および垂直方向に均等である。また、計測点の密度はドプラ像の画素の密度よりも低い。本実施形態では、ドプラ像を構成する各画素の値を、その周辺に存在する計測点における計測値を補間することにより求める。
【0041】
図4(b)は、図4(a)における1つの画素Pの値を求める補間方法を示している。本実施形態では、計測点を頂点とする矩形のうち、補間する画素位置を包含する最小の矩形の頂点を構成する4つの計測点における計測値を補間に用いる。図4(b)の例では、B[L,N]、B[L+1,N]、B[L,N+1]、B[L+1,N+1]の4つの計測点の計測値が、画素Pの補間に用いられる。ここで、B[m,n]は計測点の方位方向にm番目、深さ方向にn番目の計測点、またはその計測点で得られた計測値を表す。
【0042】
本実施形態では、4つの計測値を用いて、異なる方向の補間処理を行うことにより、画素の位置の計測値を求める。具体的には、走査線方向における補間(第1の補間処理)により、画素Pと同じ深さにおける2点(図中★)における値を求める。次に、第1の補間処理で得られた2つの値を用いた方位方向における補間(第2の補間処理)により、画素Pの位置の計測値を求める。なお、先に方位方向の補間を行ってから深さ方向の補間を行って画素Pの位置の計測値を求めてもよい。
【0043】
ここでは、図4(c)に示すような、画素の位置を通る直線上で、画素の位置を挟んで存在する2点における計測値を用いて補間を行うものとする。図4(c)は、計測点A,Bにおける計測値を補間して、画素位置Cの計測値を求める場合を示している。計測点A、B間の距離を1としたときの、一方の計測点(ここでは計測点A)から補間対象の画素位置Cまでの距離をx、補間係数をy(0≦y≦1)とすると、
画素位置Cの計測値=計測点Aの計測値×(1-y)+計測点Bの計測値×y
として、画素位置Cの値を求めることができる。なお、ここでは補間係数yを計測点Bの計測値の重みとしたが、補間係数yを計測点Aの計測値の重みとし、計測点Bの計測値の重みを(1-y)としてもよい。
【0044】
そして、本実施形態では、補間係数yを、補間に用いる計測値の信頼度(計測値に対応するパワー)の大小関係に応じた変化特性を有する関数f(x)によって決定する。例えば、計測点AのパワーをAp、計測点BのパワーをBpとすると、合計パワー(Ap+Bp)に対するApの割合(α=Ap/(Ap+Bp))に応じて、複数の関数f(x)から1つを選択し、補間係数の決定に用いる。
【0045】
図5は、本実施形態で用いる関数f(x)の例を示す図である。縦軸は補間係数y(計測点Bの計測値に適用する係数)を示す(0≦y≦1)。また、横軸は計測点Aから補間位置Cまでの距離x(0≦x≦1)を示し、x=0は計測点A、x=1は計測点Bの位置にそれぞれ合致する。ここでは、線形補間を行う関数y=xと関数g1(x)~g14(x)とを含む15種類の関数を用いる場合を例示している。しかし、関数の数(種類)はより多くても少なくてもよい。線形補間による重みは、距離の増加に伴って0から1に線形増加する。
【0046】
上述のαが1未満の場合、ApよりもBpが大きいことを意味する。この場合、パワーの大きな計測点Bにおける計測値に対する重みが、線形補間の場合よりも大きくなるような変化特性を有する関数g(x)を用いて補間係数を決定する。これにより、パワーが相対的に低い計測値が補間結果に与える影響を低減することができる。例えばブランク処理された計測値のようにパワーが低い計測値が補間に用いられる場合に、パワーの低い計測値の影響が補間によって周囲に拡大することを抑制することができる。さらに、ApとBpの差が大きいほど(αが0に近いほど)、計測点Bにおける計測値の重みの増加が速くなるような関数を用いるようにすることで、パワーが低い計測値ほど補間値に与える影響を小さくすることができる。
【0047】
具体的には、補間係数生成回路1115は、フレームメモリから読み出された、補間に用いる計測点に対応するパワーから上述のαを求め、αの値に従って、補間係数を決定する関数を以下の様に選択することができる。
0 ≦ 16×α < 1 ⇒ y=g1(x)
1 ≦ 16×α < 2 ⇒ y=g2(x)
2 ≦ 16×α < 3 ⇒ y=g3(x)
3 ≦ 16×α < 4 ⇒ y=g2(x)
4 ≦ 16×α < 5 ⇒ y=g5(x)
5 ≦ 16×α < 6 ⇒ y=g6(x)
6 ≦ 16×α < 7 ⇒ y=g7(x)
7 ≦ 16×α < 9 ⇒ y=x
9 ≦ 16×α < 10 ⇒ y=g8(x) ( =1-g7(1-x) )
10 ≦ 16×α < 11 ⇒ y=g9(x) ( =1-g6(1-x) )
11 ≦ 16×α < 12 ⇒ y=g10(x) ( =1-g5(1-x) )
12 ≦ 16×α < 13 ⇒ y=g11(x) ( =1-g4(1-x) )
13 ≦ 16×α < 14 ⇒ y=g12(x) ( =1-g3(1-x) )
14 ≦ 16×α < 15 ⇒ y=g13(x) ( =1-g2(1-x) )
15 ≦ 16×α < 16 ⇒ y=g14(x) ( =1-g1(1-x) )
【0048】
なお、補間係数生成回路1115は、各関数を式として記憶してもよいし、各関数について複数の離散的な距離に対する補間係数を記憶してもよい。前者の場合、補間係数生成回路1115は選択した関数を用いて距離に応じた補間係数を算出する。後者の場合、補間係数生成回路1115は、選択された関数について記憶されている複数の補間係数のうち、補間係数を算出すべき距離に最も近い2つの距離に対応する補間係数を線形補間して任意の距離に対する補間係数を算出する。
【0049】
なお、上述したように本実施形態では1つの画素データを得るために深さ方向を補間方向とする2回の補間処理と、方位方向を補間方向とする1回の補間処理とを行う。したがって、補間係数生成回路1115は、補間処理ごとに関数の選択と補間係数の決定を実施する。この際、計測値をそのまま補間に用いる深さ方向における第1の補間処理では、対応するパワーが計測値とともにフレームメモリ1111から供給されるので、αを直ちに算出することができる。
【0050】
一方、第2の補間処理に用いる計測点におけるパワーはフレームメモリ1111から供給されない。そのため、第1の補間処理において、パワーについても補間によって求め、第2の補間処理に用いる関数を選択するためのαの算出に用いることができる。なお、パワーについては、線形補間(関数y=x)によって補間すればよい。補間係数生成回路1115は、このようにして求めた2つの補間係数を補間演算回路1112に供給する。
【0051】
補間演算回路1112は、フレームメモリ1111から読み出された4つの計測値と、補間係数生成回路1115から供給される2つの補間係数とを用いて、画素位置における計測値を補間によって求める。第1の補間処理における補間係数y1=f(a)、第2の補間処理における補間係数y2=f(b)とすると、補間演算回路1112は、図4(b)に示した画素位置Pにおける計測値を、
P = {B[L,N]×(1-y1)+B[L,N+1]×y1}×(1-y2)+{B[L+1,N]×(1-y1)+B[L+1,N+1]×y1}×y2
として求める。なお、ここでは便宜上、第1の補間処理で行う2回の補間処理において同じ関数が用いられるものとしたが、実際にはそれぞれの補間処理に用いる1対の計測値の信頼度の関係に応じて異なる関数が用いられうる。
【0052】
そして、補間演算回路1112はPの値に対応する色を有する画素データを、フレームメモリ1113に出力する。カラードプラモードで一般的に行われているように、Pが速度だけの場合と、速度と分散とを有する場合とで画素の色は異なる。カラードプラモードが設定されている場合、書き込みアドレス生成回路1116は、補間演算回路1112が出力する画素データが表示部112のラスタ順のアドレスに保存されるように書き込みアドレスを生成してフレームメモリ1113に供給する。
【0053】
Bモード画像処理回路1117は、Bモード処理部109が走査線単位で出力する深さ方向の1次元画像を、ラスタースキャン方式の表示部112において2次元画像として表示するための座標変換と、補間処理とを行う。Bモード画像の補間処理は、補間演算回路1112における線形補間と同様の処理であってよい。Bモード像を表示する場合に、Bモード画像処理回路1117はフレームメモリ1113にBモード像を出力する。補間演算回路1112が生成するドプラ像にBモード像を合成して出力する場合には、フレームメモリ1113において合成処理を実行することができる。フレームメモリ1113はビデオメモリを兼ねていてもよい。フレームメモリ1113に保存された画像データは、表示部112に表示される。
【0054】
図6は、本実施形態におけるDSC111が実行する、カラードプラ像の生成処理に関するフローチャートである。S101で読み出しアドレス生成回路1114が読み出しアドレスを供給して、補間に用いる計測値群と対応するパワーをフレームメモリ1111から読み出す。
【0055】
S103で補間係数生成回路1115が、計測値のパワーの大小関係に応じた関数を選択し、選択した関数に基づいて、計測点から補間する画素位置までの距離に応じた補間係数を決定する。1つの画素位置について計測値を求めるために補間処理を2回行う場合、補間係数生成回路1115は個々の補間処理についての補間係数を算出する。なお、補間対象の画素位置と位置が同じ計測点が存在する場合、補間処理は不要であるため、S103およびS105の処理をスキップしてもよい。
【0056】
S105で補間演算回路1112は、計測値群と補間係数とを用いて、画素位置における計測値を算出する。
S107で補間演算回路1112は、算出した計測値に応じた色を有する画素データを生成する。
【0057】
S109で補間演算回路1112は、生成した画素データをフレームメモリ1113に出力する。書き込みアドレス生成回路1116は、フレームメモリ1113に書き込みアドレスを供給する。
【0058】
S111で制御部101は、DSC111においてカラードプラ像の全ての画素位置について画素データの生成が完了したか否かを判定し、完了したと判定されれば処理を終了し、判定されなければ処理をS101に戻して次の画素位置について画素データを生成させる。
【0059】
図7(a)は、計測値の信頼度を考慮せず、距離のみに基づく補間係数を用いた補間処理によって生成された2つのカラードプラ像を示す。また、図7(b)は、図7(a)を生成したものと同じ計測値について、本実施形態で説明したような、計測値の信頼度を考慮した補間係数を用いた補間処理によって生成された2つのカラードプラ像を示す。
【0060】
図7の上段および下段のそれぞれについて左右のドプラ像を比較すると、特に白い枠で示す領域について、いずれも右側のドプラ像では左側のドプラ像よりも、黒抜け(動きのある領域内に存在する黒い部分)の大きさが減少し、かつ辺縁部(ドプラ像において、動きのない部分と動きのある部分との境界部)の滑らかさが向上していることが分かる。
【0061】
以上説明したように本実施形態によれば、ドプラ法により得られた計測値を補間してカラードプラ像を生成する際に、信頼度の低い計測値が補間結果に与える影響を低減するよう、計測値に対応する信頼度を考慮した補間係数を用いるようにした。そのため、生成されるドプラ像において、信頼度の低い計測値の範囲が拡大されることを抑制することができる。
【0062】
●(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。第1実施形態においては、補間によって求めた画素データについてはそのままフレームメモリ1113に保存していた。それに対して本実施形態では、補間した画素データに対し、信頼度(パワー)に基づくブランク処理を適用する。
【0063】
図8は、本実施形態に係るDSC111の機能構成例を示すブロック図である。第1実施形態と同じ構成については同じ参照数字を付し、重複する説明を省略する。なお、本実施形態は、DSC111の構成および処理以外は第1実施形態と同じ構成および処理により実現できるため、以下では本実施形態に係るDSC111に関してのみ説明する。
【0064】
本実施形態のDSC111は、補間位置におけるパワーを求めるパワー補間演算回路1121と、補間された画素値に対してパワーに基づくブランク処理を適用する第2ブランク処理回路1122とを有している。
【0065】
パワー補間演算回路1121は、補間する画素位置の計測値に対応するパワーを、補間処理に用いる計測値に対応するパワーに基づいて求める。パワー補間演算回路1121は、距離に基づく線形補間を用いる点を除き、補間演算回路1112と同様の補間処理によって、補間された計測値に対応するパワーを求めることができる。
【0066】
第2ブランク処理回路1122(置き換え手段)は、補間演算回路1112が出力する画素データのうち、パワー補間演算回路1121が出力するパワーが閾値未満である画素データを、特定色(例えば黒色)を表す画素データに置き換えてフレームメモリ1113に出力する。ここで、第2ブランク処理回路1122が用いる閾値(第1の閾値)は、選択及びブランク処理回路1075が用いる閾値(第2の閾値)よりも小さい値(例えば3dB小さい値)とする。
【0067】
補間結果に対してブランク処理を適用することにより、ドプラ像における特に辺縁部の滑らかさを改善することができる。
【0068】
図9は、図7と同様、図9(a)が従来の線形補間によるカラードプラ像、図9(b)が本実施形態による補間処理および第2ブランク処理によるカラードプラ像をそれぞれ示している。第1実施形態と同様に、黒抜け部の大きさが減少し、特に白枠で示している辺縁部における滑らかさが向上していることが分かる。
【0069】
本実施形態によれば、ドプラ法により得られた計測値を補間してカラードプラ像を生成する際に、信頼度の低い計測値が補間結果に与える影響を低減するよう、計測値に対応する信頼度を考慮した補間係数を用いるようにした。また、補間結果に対して、対応する信頼度に基づくブランク処理をさらに適用するようにした。そのため、第1実施形態が実現する効果に加え、ドプラ像における辺縁部の滑らかさをさらに向上させることができる。
【0070】
発明は上述した実施形態に制限されるものではなく、発明の要旨の範囲内で、種々の変形・変更が可能である。例えば、上述した実施形態では2つの値を用いた補間処理を2回行って1つの画素位置についての計測値を求めていた。しかし、4つの計測値を用いた1回の補間処理によって1つの画素位置についての計測値を求めてもよい。この場合、補間する画素位置までの距離の差に応じた重みの差と、信頼度(パワー)の大きさの差に応じた重みの差を4つの計測値に対する補間係数に適用すればよい。本発明の本質は、補間に用いる値に適用する重みを、各値の信頼度の大きさの差を考慮して定めることにより、信頼度の低い値が補間値に与える影響を低減することにある。したがって、本発明は任意の重み付け補間方法に適用することができる。
【0071】
なお、本発明に係る超音波画像生成装置は、一般的に入手可能な、パーソナルコンピュータ、スマートフォン、タブレット端末のようなプログラムを実行可能な電子機器(コンピュータ)においてプログラムを実行することによっても実現できる。従って、コンピュータを発明に係る超音波画像生成装置として機能させるプログラム、および、そのようなプログラムを格納した記憶媒体(CD-ROM、DVD-ROM等の光学記録媒体や、磁気ディスクのような磁気記録媒体、半導体メモリカードなど)もまた本発明を構成する。
【符号の説明】
【0072】
100…超音波診断装置、101…制御部、104…駆動回路、106…受信回路、107…ドプラ処理部、109…Bモード処理部、111…DSC、112…表示部、113…操作部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9