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特許7477952リポタンパク質の取り込み能を測定する方法及び測定用試薬、並びにリポタンパク質の取り込み能の測定の安定化試薬
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-23
(45)【発行日】2024-05-02
(54)【発明の名称】リポタンパク質の取り込み能を測定する方法及び測定用試薬、並びにリポタンパク質の取り込み能の測定の安定化試薬
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20240424BHJP
   G01N 33/536 20060101ALI20240424BHJP
   G01N 21/76 20060101ALI20240424BHJP
   C07K 16/00 20060101ALI20240424BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20240424BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20240424BHJP
   G01N 21/78 20060101ALN20240424BHJP
【FI】
G01N33/53 W
G01N33/536 A
G01N21/76
C07K16/00
C12M1/34 F
G01N33/543 545A
G01N21/78 C
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2019180871
(22)【出願日】2019-09-30
(65)【公開番号】P2021056140
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-08-29
(73)【特許権者】
【識別番号】390014960
【氏名又は名称】シスメックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100065248
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 潔
(72)【発明者】
【氏名】久保 卓也
【審査官】西浦 昌哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-207505(JP,A)
【文献】特開2016-080685(JP,A)
【文献】国際公開第2013/161677(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0017556(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一つの炭素-炭素不飽和結合を有する炭化水素鎖を含む化合物(ただし、ステロールを除く)、及び/又はホスホジエステル結合を有さない飽和脂肪族化合物の存在下で、試料中のリポタンパク質と、標識ステロールとを混合することにより、前記標識ステロールを取り込んだリポタンパク質を調製する工程と、
前記リポタンパク質に取り込まれた標識ステロールの標識に基づいて、前記標識ステロールの取り込み能を測定する工程と
を含み、
前記炭化水素鎖を有する化合物が、少なくとも1つの親水基を有し、且つ主鎖の炭素数が8以上30以下であり、
前記飽和脂肪族化合物が、少なくとも1つの親水基を有し、且つ主鎖の炭素数が8以上30以下である、
リポタンパク質の取り込み能を測定する方法。
【請求項2】
前記調製工程における混合が、前記リポタンパク質を含む試料と、前記標識ステロールと、前記炭化水素鎖を有する化合物及び/又は前記飽和脂肪族化合物を含む液状試薬とを混合することにより行われる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記親水基が、アミド基、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、スルホ基、チオール基、カルボニル基、エステル基、エーテル基、及びこれらの組み合わせから選択される請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記炭化水素鎖を有する化合物が、下記の式(I):
R1-CH=CH-R2 ・・・(I)
(式中、
R1及びR2は、同一又は異なって、-R3-(C=O)-NH2、-R3-OH、-R3-NH2、-R3-(C=O)-OH、-R3-SO2-OH、-R3-SH、-R3-O-(C=O)-OH、-R3-NH-(C=O)-NH2、主鎖の炭素数が1以上28以下である置換又は無置換のアルキル基、又は水素原子であり、ただし、R1が前記アルキル基又は水素原子であるとき、R2は前記アルキル基及び水素原子以外であり、
R1及びR2の主鎖の炭素数の和が6以上28以下であり、
R3は、結合手、又は主鎖の炭素数が1以上28以下の置換又は無置換のアルキレン基である)
で表される化合物である請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記炭化水素鎖を有する化合物が、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、オレイルアル
コール、パルミトレイルアルコール、シス-4-デセン-1-オル、エライジルアルコール及び
オレイルアミンからなる群より選択される少なくとも1種である請求項1~4のいずれか
1項に記載の方法。
【請求項6】
前記飽和脂肪族化合物が、主鎖の炭素数が8以上30以下である飽和脂肪族アミド、主鎖の炭素数が8以上30以下である飽和脂肪族アルコール、及び主鎖の炭素数が8以上30以下である飽和脂肪族アミンからなる群より選択される少なくとも1種である請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記飽和脂肪族化合物が、ステアリン酸アミド及びパルミチン酸アミドからなる群より選択される少なくとも1種である請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記調製工程で得られる混合液中の前記炭化水素鎖を有する化合物及び/又は前記飽和脂肪族化合物の濃度が、1μM以上1000μM以下である請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記標識ステロールが、標識コレステロールである請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記標識コレステロールが、下記の式(II):
【化1】
(式中、
R4は、メチル基を有していてもよい炭素数1~6のアルキレン基であり、
X及びYは、同一又は異なって、-R5-NH-、-NH-R5-、-R5-(C=O)-NH-、-(C=O)-NH-R5-、-R5-NH-(C=O)-、-NH-(C=O)-R5-、-R5-(C=O)-、-(C=O)-R5-、-R5-(C=O)-O-、-(C=O)-O-R5-、-R5-O-(C=O)-、-O-(C=O)-R5-、-R5-(C=S)-NH-、-(C=S)-NH-R5-、-R5-NH-(C=S)-、-NH-(C=S)-R5-、-R5-O-、-O-R5-、-R5-S-、又は-S-R5-で表され、ここで、R5は、それぞれ独立して、結合手、置換基を有していてもよい炭素数1以上10以下のアルキレン基、置換基を有していてもよい炭素数6以上12以下のアリーレン基若しくはヘテロアリーレン基、又は、置換基を有していてもよい炭素数3以上8以下のシクロアルキレン基若しくはヘテロシクロアルキレン基であり、
Lは、-(CH2)d-[R6-(CH2)e]f-、又は-[(CH2)e-R6]f-(CH2)d-で表わされ、ここで、R6は、酸素原子、硫黄原子、-NH-、-NH-(C=O)-又は-(C=O)-NH-であり、
TAGは、タグであり、
a及びcは、同一又は異なって、0~6の整数であり、
bは、0又は1であり、
d及びeは、同一又は異なって、0~12の整数であり、
fは、0~24の整数である。)
で表されるタグ付加コレステロールである請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記調製工程と前記測定工程の間に、前記標識ステロールを取り込んだリポタンパク質と、前記リポタンパク質に結合する第1の捕捉体とを混合し、前記標識ステロールを取り込んだリポタンパク質と前記第1の捕捉体とを含む複合体を形成する工程を含む請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記調製工程と前記測定工程の間に、前記標識ステロールを取り込んだリポタンパク質と、前記リポタンパク質に結合する第1の捕捉体と、前記標識ステロールに結合する第2の捕捉体とを混合し、前記標識ステロールを取り込んだリポタンパク質と前記第1の捕捉体と第2の捕捉体とを含む複合体を形成する工程を含む請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記複合体形成工程において、前記第1の捕捉体が固相に固定化されており、前記複合体が前記固相上に固定され、
前記第1の捕捉体が、前記リポタンパク質に特異的に結合する抗体であり、
前記固相に固定化された複合体が、前記標識ステロールを取り込んだ前記リポタンパク質を含む、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
前記複合体形成工程で得られる、前記固相を含む混合液中の前記炭化水素鎖を有する化合物及び/又は前記飽和脂肪族化合物の濃度が、1μM以上1000μM以下である請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記測定工程が、前記リポタンパク質に取り込まれた前記標識ステロールに由来するシグナルを検出することにより行われる請求項11及び請求項11を引用する請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記測定工程が、前記第2の捕捉体を検出することにより行われる請求項12及び請求項12を引用する請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記第2の捕捉体が第2の標識で標識され、前記測定工程が、前記第2の標識に由来するシグナルを検出する工程である請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記第2の標識が酵素であり、前記シグナルが、前記酵素と基質との反応産物から生じる化学発光シグナルである請求項17に記載の方法。
【請求項19】
標識ステロールと、少なくとも一つの炭素-炭素不飽和結合を有する炭化水素鎖を含む化合物(ただし、ステロールを除く)、及び/又はホスホジエステル結合を有さない飽和脂肪族化合物とを含み、
前記炭化水素鎖を有する化合物が、少なくとも1つの親水基を有し、且つ主鎖の炭素数が8以上30以下であり、
前記飽和脂肪族化合物が、少なくとも1つの親水基を有し、且つ主鎖の炭素数が8以上30以下である、
リポタンパク質の取り込み能測定用試薬。
【請求項20】
少なくとも一つの炭素-炭素不飽和結合を有する炭化水素鎖を含む化合物(ただし、ステロールを除く)、及び/又はホスホジエステル結合を有さない飽和脂肪族化合物を含み、
前記炭化水素鎖を有する化合物が、少なくとも1つの親水基を有し、且つ主鎖の炭素数が8以上30以下であり、
前記飽和脂肪族化合物が、少なくとも1つの親水基を有し、且つ主鎖の炭素数が8以上30以下である、
リポタンパク質の取り込み能測定の安定化試薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リポタンパク質の取り込み能を測定する方法に関する。また、本発明は、リポタンパク質の取り込み能測定用試薬に関する。さらに、本発明は、リポタンパク質の取り込み能の測定の安定化試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リポタンパク質の機能を反映する指標が注目されている。リポタンパク質の機能を調べる方法として、例えば、特許文献1及び2に記載の方法が知られている。これらの文献の方法では、試料中のリポタンパク質とタグ付加コレステロールとを接触して、タグ付加コレステロールを取り込んだリポタンパク質を形成し、取り込まれたタグ付加コレステロールに由来するシグナルを検出することにより、リポタンパク質のコレステロール取り込み能を測定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許出願公開第2017/0315112号明細書
【文献】米国特許出願公開第2016/0109469号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、リポタンパク質のステロール取り込み能の測定の再現性を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、少なくとも一つの炭素-炭素不飽和結合を有する炭化水素鎖を含む化合物(ただし、ステロールを除く)、及び/又はホスホジエステル結合を有さない飽和脂肪族化合物の存在下で、試料中のリポタンパク質と、標識ステロールとを混合することにより、該標識ステロールを取り込んだリポタンパク質を調製する工程と、該リポタンパク質に取り込まれた標識ステロールの標識に基づいて、該標識ステロールの取り込み能を測定する工程とを含む、リポタンパク質の取り込み能を測定する方法を提供する。
【0006】
また、本発明は、標識ステロールと、少なくとも一つの炭素-炭素不飽和結合を有する炭化水素鎖を含む化合物(ただし、ステロールを除く)、及び/又はホスホジエステル結合を有さない飽和脂肪族化合物とを含む、リポタンパク質の取り込み能測定用試薬を提供する。
【0007】
さらに、本発明は、少なくとも一つの炭素-炭素不飽和結合を有する炭化水素鎖を含む化合物(ただし、ステロールを除く)、及び/又はホスホジエステル結合を有さない飽和脂肪族化合物を含む、リポタンパク質の取り込み能測定の安定化試薬を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、リポタンパク質のステロール取り込み能の測定の再現性を向上することできる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1A】本実施形態の測定用試薬又は安定化試薬の外観の一例を示す図である。
図1B】本実施形態の測定用試薬キットの外観の一例を示す図である。
図2A】本実施形態の測定用試薬キットの外観の一例を示す図である。
図2B】本実施形態の測定用試薬キットの外観の一例を示す図である。
図2C】本実施形態の測定用試薬キットの外観の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[1.リポタンパク質の取り込み能を測定する方法]
本実施形態のリポタンパク質の取り込み能を測定する方法(以下、「測定方法」ともいう)では、まず、少なくとも一つの炭素-炭素不飽和結合を有する炭化水素鎖を含む化合物(ただし、ステロールを除く)、及び/又はホスホジエステル結合を有さない飽和脂肪族化合物の存在下で、試料中のリポタンパク質と、標識ステロールとを混合する。これにより、上記化合物の存在下にリポタンパク質と標識ステロールとが接触し、標識ステロールがリポタンパク質に取り込まれる。
【0011】
以下では、「少なくとも一つの炭素-炭素不飽和結合を有する炭化水素鎖を含む化合物(ただし、ステロールを除く)」を「第1の添加剤」とも呼ぶ。また、「ホスホジエステル結合を有さない飽和脂肪族化合物」を「第2の添加剤」とも呼ぶ。本実施形態の測定方法では、後述の実施例に示されるように、添加剤の存在下で試料中のリポタンパク質と標識ステロールとを混合することにより、添加剤を用いない場合に比べて、リポタンパク質の取り込み能の測定値のばらつきが低減される。すなわち、本実施形態の測定方法は、リポタンパク質の取り込み能の測定の再現性を向上することを可能にする。
【0012】
(少なくとも一つの炭素-炭素不飽和結合を有する炭化水素鎖を含む化合物)
第1の添加剤において、少なくとも一つの炭素-炭素不飽和結合を有する炭化水素鎖は、末端を有する鎖状構造の部位であり、化合物分子内で環を形成しない。例えば、カリクサレンなどの環式化合物は、少なくとも一つの炭素-炭素不飽和結合を有する炭化水素鎖が分子内で環を形成した構造であるので、そのような環式化合物は第1の添加剤から除外される。少なくとも一つの炭素-炭素不飽和結合を有する炭化水素鎖は、末端を有する鎖状構造である限り、鎖内に環式構造を含んでもよい。環式構造としては、例えば、炭素数3~8の非芳香環、及び炭素数6~12の芳香環が挙げられる。非芳香環としては、環式炭化水素、環状エーテル、環状エステル(ラクトン)などが挙げられる。芳香環としては、ベンゼン核、ナフタレン核などが挙げられる。環式構造は、N、S、O及びPから選択される1つ以上のヘテロ原子を含んでいてもよい。ただし、第1の添加剤はステロール以外の化合物である。例えば、コレステロール、及び本実施形態の測定方法に用いられる標識ステロールなどは、第1の添加剤から除外される。好ましい実施形態では、第1の添加剤は鎖式化合物である。
【0013】
少なくとも一つの炭素-炭素不飽和結合を有する炭化水素鎖は、直鎖状でもよいし、分岐鎖状でもよい。本実施形態では、少なくとも一つの炭素-炭素不飽和結合を有する炭化水素鎖の主鎖の炭素数は、例えば8以上30以下であり、好ましくは10以上26以下であり、より好ましくは14以上22以下である。ここで、少なくとも一つの炭素-炭素不飽和結合を有する炭化水素鎖の主鎖とは、IUPAC(International Union of Pure and Applied Chemistry)命名規則に従って第1の添加剤を命名するときに決定される、炭素数が最も多くなる鎖である。
【0014】
第1の添加剤において、炭化水素鎖が有する炭素-炭素不飽和結合の数は、1つでもよいし、複数でもよい。炭素-炭素不飽和結合は、二重結合でもよいし、三重結合でもよい。炭素-炭素不飽和結合が複数である場合、第1の添加剤の炭化水素鎖は、二重結合及び三重結合の両方を含んでもよい。
【0015】
第1の添加剤は、少なくとも1つの親水基を有することが好ましい。親水基の位置は特に限定されないが、少なくとも一つの炭素-炭素不飽和結合を有する炭化水素鎖が親水基を有することが好ましい。親水基は、該炭化水素鎖の主鎖及び側鎖のいずれに含まれていてもよい。親水基としては、例えばアミド基、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、スルホ基、チオール基、カルボニル基、エステル基、エーテル基、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0016】
第1の添加剤は、例えば、下記の式(I)で表される化合物であってもよい。
R1-CH=CH-R2 ・・・(I)
(式中、
R1及びR2は、同一又は異なって、-R3-(C=O)-NH2、-R3-OH、-R3-NH2、-R3-(C=O)-OH、-R3-SO2-OH、-R3-SH、-R3-O-(C=O)-OH、-R3-NH-(C=O)-NH2、主鎖の炭素数が1以上28以下である置換又は無置換のアルキル基、又は水素原子であり、ただし、R1が前記アルキル基又は水素原子であるとき、R2は前記アルキル基及び水素原子以外であり、
R1及びR2の主鎖の炭素数の和が6以上28以下であり、
R3は、結合手、又は主鎖の炭素数が1以上28以下の置換又は無置換のアルキレン基である)
【0017】
R1及びR2に関して、主鎖の炭素数が1以上28以下である置換又は無置換のアルキル基は、分岐鎖(側鎖)を有してもよい。ここで、主鎖とは、上記のアルキル基において最も長い炭素鎖をいう。上記のアルキル基において、炭素数が1以上28以下である主鎖は、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチレン、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシル、イコシル、ヘンイコシル、ドコシル、トリコシル、テトラコシル、ペンタコシル、ヘキサコシル、ヘプタコシル及びオクタコシルからなる群より選択される直鎖アルキル基として命名される部分をいう。R1及び/又はR2が、主鎖の炭素数が1以上28以下である置換のアルキル基であるとき、炭素数が1以上28以下の直鎖状の炭素鎖が主鎖となるように、置換基が選択される。
【0018】
R3に関して、結合手とは、間に他の原子を介さずに直接結合することをいう。R3に関して、主鎖の炭素数が1以上28以下である置換又は無置換のアルキレン基は、分岐鎖(側鎖)を有してもよい。ここで、主鎖とは、上記のアルキレン基において最も長い炭素鎖をいう。上記のアルキレン基において、炭素数が1以上28以下である主鎖は、メチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン、ペンチレン、ヘキシレン、ヘプチレン、オクチレン、ノニレン、デシレン、ウンデシレン、ドデシレン、トリデシレン、テトラデシレン、ペンタデシレン、ヘキサデシレン、ヘプタデシレン、オクタデシレン、ノナデシレン、イコシレン、ヘンイコシレン、ドコシレン、トリコシレン、テトラコシレン、ペンタコシレン、ヘキサコシレン、ヘプタコシレン及びオクタコシレンからなる群より選択される直鎖アルキレン基として命名される部分をいう。R3が、主鎖の炭素数が1以上28以下である置換のアルキレン基であるとき、炭素数が1以上28以下の直鎖状の炭素鎖が主鎖となるように、置換基が選択される。
【0019】
R1、R2及びR3における置換基としては、例えばシアノ基、アルコキシ基、=O、=S、-NO2、-SH、ハロゲン、ハロアルキル基、ヘテロアルキル基、カルボキシアルキル基、及びチオエーテル基などが挙げられる。R1、R2及びR3はそれぞれ、置換基を複数有していてもよい。ハロゲンは、フッ素、塩素、臭素又はヨウ素を表す。アルコキシは、-O-アルキル基を示す。置換基におけるアルキル基は、炭素数が1以上5以下、好ましくは炭素数が1又は2の直鎖状又は分岐鎖状の飽和脂肪族炭化水素基である。
【0020】
式(I)で表される化合物は、シス体でもよいし、トランス体でもよい。本実施形態では、式(I)で表される第1の添加剤としては、例えば、1つの炭素-炭素二重結合を有し、且つ炭素数が8以上30以下である直鎖状の不飽和脂肪族アミド、不飽和脂肪族アルコール及び不飽和脂肪族アミンが挙げられる。具体的には、シス-4-デセン酸アミド、パルミトレイン酸アミド、オレイン酸アミド、エライジン酸アミド、エルカ酸アミド、シス-4-デセン-1-オル、パルミトレイルアルコール、オレイルアルコール、エライジルアルコール、エルシルアルコール、シス-4-デセンアミン、パルミトレイルアミン、オレイルアミン、トランス-9-オクタデセンアミン、シス-13-ドコセンアミンなどが挙げられる。それらの中でも、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、オレイルアルコール、パルミトレイルアルコール、シス-4-デセン-1-オル、エライジルアルコール及びオレイルアミンが好ましい。
【0021】
(ホスホジエステル結合を有さない飽和脂肪族化合物)
第2の添加剤は、ホスホジエステル結合を有さず、且つ炭素-炭素不飽和結合を有さない脂肪族化合物である。ここで、脂肪族化合物とは、芳香族化合物以外の化合物をいう。第2の添加剤はホスホジエステル結合を有さないので、例えば、リン脂質、及びリン脂質に類似した構造を有する飽和脂肪族化合物などは、第2の添加剤から除外される。第2の添加剤は、分子内に環式構造を有さない鎖式化合物でもよいし、環式化合物でもよい。環式構造としては、例えば炭素数3~8の非芳香環が挙げられる。非芳香環としては、環式炭化水素、環状エーテル、ラクトンなどが挙げられる。環式構造は、N、S、O及びPから選択される1つ以上のヘテロ原子を含んでいてもよい。
【0022】
第2の添加剤としては、主鎖の炭素数が8以上30以下である飽和脂肪族化合物が好ましい。ここで、第2の添加剤としての飽和脂肪族化合物の主鎖とは、IUPAC命名規則に従って第2の添加剤を命名するときに決定される、炭素数が最も多くなる鎖である。そのような飽和脂肪族化合物としては、主鎖の炭素数が8以上30以下である飽和脂肪族アミド、飽和脂肪族アルコール及び飽和脂肪族アミンが挙げられる。好ましい第2の添加剤は、炭素数が8以上30以下である直鎖状の飽和脂肪族アミド、飽和脂肪族アルコール及び和脂肪族アミンである。
【0023】
炭素数が8以上30以下である直鎖状の飽和脂肪族アミドとしては、例えば、オクタン酸アミド、ノナン酸アミド、デカン酸アミド、ウンデカン酸アミド、ドデカン酸アミド、テトラデカン酸アミド、ヘキサデカン酸アミド(パルミチン酸アミド)、オクタデカン酸アミド(ステアリン酸アミド)、イコサン酸アミド、ドコサン酸アミド、テトラコサン酸アミド、ヘキサコサン酸アミド、オクタコサン酸アミド、トリアコンタン酸アミドなどが挙げられる。炭素数が8以上30以下である直鎖状の飽和脂肪族アルコールとしては、例えば、n-オクタノール、n-ノナノール、n-デカノール、n-ウンデカノール、n-ドデカノール、n-テトラデカノール、n-ヘキサデカノール、n-オクタデカノール、n-イコサノール、n-ドコサノール、n-テトラコサノール、n-ヘキサコサノール、n-オクタコサノール、n-トリアコンタノールなどが挙げられる。炭素数が8以上30以下である直鎖状の飽和脂肪族アミンとしては、例えば、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ウンデシルアミン、ドデシルアミン、テトラデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン、イコシルアミン、ドコシルアミン、テトラコシルアミン、ヘキサコシルアミン、オクタコシルアミン、トリアコンチルアミンなどが挙げられる。好ましい第2の添加剤は、ステアリン酸アミド及びパルミチン酸アミドである。
【0024】
(リポタンパク質を含む試料)
本実施形態において、試料は、哺乳動物のリポタンパク質、好ましくはヒトのリポタンパク質を含む限り、特に限定されない。そのような試料としては、例えば血液試料が挙げられる。血液試料としては、例えば血液(全血)、血漿、血清などが挙げられる。本実施形態では、リポタンパク質を含む試料を、超遠心分離法、ポリエチレングリコール(PEG)沈殿法などの公知の方法によって分離又は分画して、所定のリポタンパク質を含む画分を取得してもよい。このようにして得られた所定のリポタンパク質を含む画分を、リポタンパク質を含む試料として用いてもよい。
【0025】
リポタンパク質は、高比重リポタンパク質(HDL)、低比重リポタンパク質(LDL)、中間比重リポタンパク質(IDL)、超低比重リポタンパク質(VLDL)、又はカイロミクロン(CM)のいずれであってもよい。HDLは、1.063 g/mL以上の密度を有するリポタンパク質である。LDLは、1.019 g/mL以上1.063 g/mL未満の密度を有するリポタンパク質である。IDLは、1.006 g/mL以上1.019g/mL未満の密度を有するリポタンパク質である。VLDLは、0.95 g/mL以上1.006 g/mL未満の密度を有するリポタンパク質である。CMは、0.95 g/mL未満の密度を有するリポタンパク質である。本実施形態では、HDLのステロール取り込み能を測定することが好ましい。
【0026】
リポタンパク質は、コレステロールをエステル化して取り込むことが知られている。標識ステロールとして、後述の標識コレステロールを用いる場合、リポタンパク質によるコレステロールのエステル化反応に必要となる脂肪酸又はそれを含む組成物(例えばリポソーム)を試料に添加してもよい。該脂肪酸又はそれを含む組成物は、後述の試料希釈用試薬、標識ステロールを含む溶液、及び、第1の添加剤及び/又は第2の添加剤を含む液状試薬のいずれかに添加してもよい。
【0027】
本実施形態では、リポタンパク質を含む試料を希釈してもよい。例えば、リポタンパク質濃度を調整するために、上記の血液試料又は所定のリポタンパク質を含む画分を希釈して得た液を、試料として用いることができる。試料の希釈には、水性媒体又は試料希釈用試薬を用いることができる。水性媒体は、リポタンパク質による取り込み反応を阻害しない限り、特に限定されない。そのような水性媒体としては、例えば水、生理食塩水、緩衝液などが挙げられる。緩衝液としては、例えばリン酸緩衝生理食塩水(PBS)、Tris-HCl、グッドバッファーなどが挙げられる。試料希釈用試薬は、リポタンパク質のステロール取り込み能の測定に有用な物質を上記の水性媒体中に含む液をいう。測定に有用な物質としては、例えば、環状構造を有さない界面活性剤、環状オリゴ糖、測定対象のリポタンパク質とは異なるリポタンパク質に結合する成分、ブロッキング剤などが挙げられる。
【0028】
リポタンパク質の構成成分であるアポリポタンパク質の濃度は、生体試料中のリポタンパク質の濃度の指標となる。本実施形態では、アポリポタンパク質の濃度に基づいて、リポタンパク質を含む試料を希釈することにより、試料中のリポタンパク質濃度を調整してもよい。アポリポタンパク質の濃度は、公知の免疫学的測定法(例えば免疫比濁法)により測定できる。アポリポタンパク質の濃度としては、ApoAIの濃度が特に好ましい。アポリポタンパク質の測定は、リポタンパク質を含む試料の一部を取って測定試料として用い、本実施形態のステロール取り込み能の測定とは別途行うことが好ましい。
【0029】
本実施形態では、リポタンパク質を含む試料を、第1の添加剤及び/又は第2の添加剤の存在下で希釈してもよい。例えば、第1の添加剤及び/又は第2の添加剤を上記の水性媒体又は試料希釈用試薬中に含む液で、リポタンパク質を含む試料を希釈してもよい。このようにして希釈した試料と、後述の標識ステロールとを混合することにより、リポタンパク質と標識ステロールとが、第1の添加剤及び/又は第2の添加剤の存在下で接触する。
【0030】
本実施形態では、リポタンパク質を含む試料を、環状構造を有さない界面活性剤の存在下で希釈してもよい。例えば、環状構造を有さない界面活性剤を含む試料希釈用試薬で、リポタンパク質を含む試料を希釈してもよい。環状構造を有さない界面活性剤を用いることで、リポタンパク質によるステロールの取り込み反応が促進される。また、環状構造を有さない界面活性剤はブロッキング剤の役割も果たす。そのため、ウシ血清アルブミン(BSA)などの、免疫学的測定でブロッキング剤として一般的に用いられる動物由来タンパク質を用いなくともよい。ここで、環状構造を有さない界面活性剤とは、非環式化合物である界面活性剤をいう。環状構造を有さない界面活性剤の詳細は後述する。
【0031】
本実施形態では、リポタンパク質を含む試料を、環状オリゴ糖の存在下で希釈してもよい。例えば、環状オリゴ糖を含む試料希釈用試薬で、リポタンパク質を含む試料を希釈してもよい。環状オリゴ糖としては、例えばシクロデキストリン、ヒドロキシプロピルシクロデキストリンなどが挙げられる。環状オリゴ糖は、試料に由来するコレステロールを包接して、ブロッキング剤として機能する。
【0032】
本実施形態では、リポタンパク質を含む試料を、測定対象のリポタンパク質とは異なるリポタンパク質に結合する成分の存在下で希釈してもよい。例えば、該成分を含む試料希釈用試薬で、リポタンパク質を含む試料を希釈してもよい。測定対象のリポタンパク質とは異なるリポタンパク質に結合する成分としては、例えばカリクサレンなどが挙げられる。カリクサレンはLDL、VLDL及びCMに結合するが、HDLには結合しない。HDLによる取り込み能を測定する場合、カリクサレンを試料に添加することで、試料に由来するLDL、VLDL及びCMをマスキングできる。
【0033】
本実施形態では、リポタンパク質を含む試料を、標識ステロールの非特異的吸着を防止するためのブロッキング剤の存在下で希釈してもよい。例えば、そのようなブロッキング剤を含む試料希釈用試薬で、リポタンパク質を含む試料を希釈してもよい。ブロッキング剤の添加により、標識ステロールが、例えば後述の固相や捕捉体に非特異的に吸着することが抑制される。標識ステロールの非特異的吸着を防止するためのブロッキング剤としては、例えば、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン系重合体が挙げられる。この重合体は、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンの単独重合体であってもよいし、他のモノマーとの共重合体であってもよい。他のモノマーとしては、疎水性基として炭素数1~20のアルキル基を有するアクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルが好ましい。2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン系重合体は市販されている。例えば、日油株式会社のリピジュア(商標)のシリーズが挙げられ、それらの中でもリピジュア-BL203、リピジュア-SF08が特に好ましい。
【0034】
(標識ステロール)
標識ステロールは、標識物質を有するステロールである。以下、標識ステロールが有する標識物質を「第1の標識」ともいう。標識ステロールに用いられるステロールは、リポタンパク質に取り込まれる限り、特に限定されない。そのようなステロールとしては、例えば、コレステロール及びその誘導体が挙げられる。コレステロール誘導体としては、例えば、胆汁酸の前駆体、ステロイドの前駆体などが挙げられる。具体的には、3β-ヒドロキシ-Δ5-コレン酸、24-アミノ-5-コレン-3β-オルなどが好ましい。
【0035】
本実施形態では、標識ステロールは、標識物質を有するコレステロール(以下、「標識コレステロール」ともいう)が好ましい。標識コレステロールにおけるコレステロール部分は、天然に存在するコレステロールの構造を有してもよいし、又は、天然に存在するコレステロールのC17位に結合しているアルキル鎖から1つ以上のメチレン基及び/又はメチル基が除かれたコレステロール(ノルコレステロールとも呼ばれる)の構造を有してもよい。
【0036】
リポタンパク質はコレステロールをエステル化して取り込むので、リポタンパク質によりエステル化される標識コレステロールを用いることが好ましい。本実施形態では、標識コレステロールは、生体試料と混合した際に、該試料に含まれる生体由来のレシチン-コレステロールアシルトランスフェラーゼ(LCAT)によりエステル化される。リポタンパク質による標識コレステロールのエステル化を確認する方法自体は、当該技術において公知であり、当業者がルーチンで行うことができる。
【0037】
第1の標識は、リポタンパク質に取り込まれた標識ステロールを検出可能にする標識物質であれば、特に限定されない。第1の標識は、例えば、それ自体が検出対象となるタグであってもよいし、検出可能なシグナルを発生する物質(以下、「シグナル発生物質」ともいう)であってもよい。
【0038】
第1の標識としてのタグは、リポタンパク質によるステロールの取り込みを阻害せず、且つ、該タグと特異的に結合できる物質が存在するか又は得られる限り、特に限定されない。以下では、第1の標識としてタグを付加されたステロールを「タグ付加ステロール」ともいう。同様に、第1の標識としてタグを付加されたコレステロールを「タグ付加コレステロール」ともいう。タグ付加コレステロール自体は当該技術分野において公知であり、例えば特許文献1(US2017/0315112A1)に記載されている。
【0039】
タグ付加コレステロールとしては、例えば、下記の式(II)で表されるタグ付加コレステロールが挙げられる。
【0040】
【化1】
(式中、R4は、メチル基を有していてもよい炭素数1~6のアルキレン基であり、
X及びYは、同一又は異なって、-R5-NH-、-NH-R5-、-R5-(C=O)-NH-、-(C=O)-NH-R5-、-R5-NH-(C=O)-、-NH-(C=O)-R5-、-R5-(C=O)-、-(C=O)-R5-、-R5-(C=O)-O-、-(C=O)-O-R5-、-R5-O-(C=O)-、-O-(C=O)-R5-、-R5-(C=S)-NH-、-(C=S)-NH-R5-、-R5-NH-(C=S)-、-NH-(C=S)-R5-、-R5-O-、-O-R5-、-R5-S-、又は-S-R5-で表され、ここで、R5は、それぞれ独立して、結合手、置換基を有していてもよい炭素数1~10のアルキレン基、置換基を有していてもよい炭素数6~12のアリーレン基若しくはヘテロアリーレン基、又は、置換基を有していてもよい炭素数3~8のシクロアルキレン基若しくはヘテロシクロアルキレン基であり、
Lは、-(CH2)d-[R6-(CH2)e]f-、又は-[(CH2)e-R6]f-(CH2)d-で表わされ、ここで、R6は、酸素原子、硫黄原子、-NH-、-NH-(C=O)-又は-(C=O)-NH-であり、
TAGは、タグであり、
a及びcは、同一又は異なって、0~6の整数であり、
bは、0又は1であり、
d及びeは、同一又は異なって、0~12の整数であり、
fは、0~24の整数である。)
【0041】
式(II)においてa、b及びcがいずれも0であるとき、この式で表されるタグ付加コレステロールはリンカーを有さず、タグとコレステロール部分とが直接結合している。式(II)においてa、b及びcのいずれかが0でないとき、この式で表されるタグ付加コレステロールは、タグとコレステロール部分との間にリンカー(-[X]a-[L]b-[Y]c-)を有する。リンカーにより、リポタンパク質の外表面に露出したタグと捕捉体とがより結合しやすくなると考えられる。以下に、式(II)の各置換基について説明する。
【0042】
R4は、炭素数が1以上6以下のアルキレン基を主鎖とし、いずれかの位置にメチル基を有しいてもよい。R4は、天然に存在するコレステロールのC17位に結合したアルキル鎖に相当する。本実施形態では、R4は、炭素数が1以上5以下の場合、天然に存在するコレステロールにおけるC20の位置にメチル基を有することが好ましい。R4は、炭素数が6の場合、天然に存在するコレステロールのC20位~C27位のアルキル鎖と同じ構造であることが好ましい。
【0043】
[X]aは、R4と、L、[Y]c又はタグとの連結部分に相当する。[Y]cは、R4、[X]a又はLと、タグとの連結部分に相当する。X及びYは、コレステロール部分とリンカーとを結合する反応及びリンカーとタグとを結合する反応の種類に応じて決定される。
【0044】
R5に関して、結合手とは、間に他の原子を介さずに直接結合することをいう。R5が、炭素数1~10のアルキレン基であるとき、そのようなアルキレン基としては、例えば、メチレン、エチレン、プロピレン、イソプロピレン、ブチレン、イソブチレン、ペンチレン、ネオペンチレン、ヘキシレン、ヘプチレン、オクチレン、2-エチルヘキシレン、ノニレン及びデシレンなどの基が挙げられる。それらの中でも、炭素数が1以上4以下のアルキレン基が好ましい。R5が、置換基を有するアルキレン基であるとき、上記の炭素数には、置換基の炭素数は含まれない。
【0045】
R5が、アリーレン基若しくはヘテロアリーレン基であるとき、そのような基は、N、S、O及びPから選択される1つ以上のヘテロ原子を含んでいてもよい、炭素数が6以上12以下の芳香環であればよい。例えば、フェニレン、ナフチレン、ビフェニリレン、フラニレン、ピローレン、チオフェニレン、トリアゾーレン、オキサジアゾーレン、ピリジレン、ピリミジレンなどの基が挙げられる。R5が、置換基を有するアリーレン基又はヘテロアリーレン基であるとき、上記の炭素数には、置換基の炭素数は含まれない。
【0046】
R5が、シクロアルキレン基若しくはヘテロシクロアルキレン基であるとき、そのような基は、N、S、O及びPから選択される1つ以上のヘテロ原子を含んでいてもよい、炭素数3以上8以下の非芳香環であればよい。例えば、シクロプロピレン、シクロブチレン、シクロペンチレン、シクロヘキシレン、シクロヘプチレン、シクロオクチレン、ピロリジニレン、ピペリジニレン、モルホリニレンなどの基が挙げられる。R5が、置換基を有するシクロアルキレン基又はヘテロシクロアルキレン基であるとき、上記の炭素数には、置換基の炭素数は含まれない。
【0047】
R5における置換基としては、例えば、ヒドロキシル、シアノ、アルコキシ、=O、=S、-NO2、-SH、ハロゲン、ハロアルキル、ヘテロアルキル、カルボキシアルキル、アミン、アミド、及びチオエーテルなどの基挙げられる。R5は、置換基を複数有していてもよい。ここで、ハロゲンは、フッ素、塩素、臭素、又はヨウ素を表す。アルコキシは、-O-アルキル基を示し、このアルキル基は、炭素数が1以上5以下、好ましくは炭素数が1又は2の直鎖状又は分岐鎖状の飽和脂肪族炭化水素基である。
【0048】
好ましくは、a及びcが共に1であり、X及びYが、同一又は異なって、-(C=O)-NH-、又は-NH-(C=O)-である。
【0049】
Lは、スペーサーに相当し、リンカーに所定の長さを付与するポリマー構造を有する。このポリマー構造部分は、リポタンパク質によるコレステロールの取り込みを阻害せず、且つ、リンカー部分がリポタンパク質に取り込まれにくい性質であることが好ましい。そのようなポリマーとしては、ポリエチレングリコール(PEG)などの親水性ポリマーが挙げられる。好ましい実施形態において、Lは、-(CH2)d-[O-(CH2)e]f-、又は-[(CH2)e-O]f-(CH2)d-で表わされる構造である。ここで、d及びeは、同一又は異なって、0~12の整数、好ましくは2~6の整数、より好ましくは共に2である。fは、0~24の整数、好ましくは2~11の整数、より好ましくは4~11の整数である。
【0050】
タグは、天然由来の物質及び合成された物質のいずれであってもよく、例えば、化合物、ペプチド、タンパク質、核酸及びそれらの組み合わせなどが挙げられる。化合物は、これと特異的に結合できる物質が存在するか又は得られるかぎり、当該技術において公知の標識化合物であってもよく、例えば、色素化合物などが挙げられる。
【0051】
当該技術分野において、コレステロールはエステル化されることで脂溶性が増大して、リポタンパク質による取り込みが促進することが知られている。コレステロールに付加されるタグは、脂溶性又は疎水性の物質であってもよい。
【0052】
タグと該タグに特異的に結合できる物質との組み合わせとしては、例えば、抗原と該抗原を認識する抗体、ハプテンと抗ハプテン抗体、ペプチド又はタンパク質とそれらを認識するアプタマー、リガンドとその受容体、オリゴヌクレオチドとその相補鎖を有するオリゴヌクレオチド、ビオチン類(ビオチン、及びデスチオビオチンなどのビオチン類縁体を含む)とアビジン類(アビジン、及びストレプトアビジン、タマビジン(登録商標)などのアビジン類縁体を含む)、ヒスチジンタグ(6~10残基のヒスチジンを含むペプチド)とニッケル、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)とグルタチオンなどが挙げられる。タグとしての抗原は、当該技術において公知のペプチドタグ及びプロテインタグであってもよく、例えば、FLAG(登録商標)、ヘマグルチニン(HA)、Mycタンパク質、緑色蛍光タンパク質(GFP)などが挙げられる。タグとしてのハプテンは、例えば、2, 4-ジニトロフェノールなどが挙げられる。
【0053】
タグ付加ステロールは、タグとして、例えば、下記の式(III):
【0054】
【化2】
で表される構造、又は、下記の式(IV):
【0055】
【化3】
で表される構造が付加されたステロールが挙げられる。式(III)で表される構造は、ボロンジピロメテン(BODIPY(登録商標))骨格である。式(IV)で表される構造は、ビオチンの一部分を示す。式(III)又は(IV)で表される構造がタグとして付加されたステロールは、これらのタグに対する捕捉体が一般に入手可能であるので、好ましい。また、タグとして2,4-ジニトロフェニル(DNP)基が付加されたステロールも、抗DNP抗体が市販されているので、好ましい。
【0056】
リンカーを有さないタグ付加コレステロールとしては、例えば、下記の式(V)で表される蛍光標識コレステロール(23-(ジピロメテンボロンジフルオリド)-24-ノルコレステロール、CAS No: 878557-19-8)が挙げられる。
【0057】
【化4】
【0058】
この蛍光標識コレステロールは、Avanti Polar Lipids社よりTopFluor Cholesterolとの商品名で販売されている。式(V)で表される蛍光標識コレステロールは、タグ(BODIPY骨格構造を有する蛍光部分)がコレステロールのC23位に直接結合している。上記のBODIPY骨格構造を有する蛍光部分に特異的に結合する捕捉体として、抗BODIPY抗体(BODIPY FL Rabbit IgG Fraction、A-5770、Lifetechnologies社)が市販されている。
【0059】
タグがリンカーを介して結合しているタグ付加コレステロールとしては、下記の式(VI)で表されるビオチン付加コレステロールが挙げられる。
【0060】
【化5】
(式中、nは、0~24の整数、好ましくは2~11の整数、より好ましくは4~11の整数である。)
【0061】
このタグ付加コレステロールにおいては、タグ(式(IV)で表されるビオチン部分)がリンカー(ポリエチレングリコール鎖)を介してコレステロール部分と結合している。ビオチン部分に特異的に結合する捕捉体としては、アビジン又はストレプトアビジンが適している。また、セイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)、アルカリホスファターゼ(ALP)などの標識物質が結合したアビジン又はストレプトアビジンも市販されている。
【0062】
また、タグがリンカーを介して結合しているタグ付加コレステロールとして、下記の式(VII)で表されるDNP付加コレステロールが挙げられる。
【0063】
【化6】
【0064】
このタグ付加コレステロールにおいては、DNPがリンカー(-(C=O)-NH-CH2-CH2-NH-)を介してコレステロール部分と結合している。DNPに特異的に結合する捕捉体としては、抗DNP抗体が適している。また、HRP、ALPなどの標識物質が結合した抗DNP抗体も市販されている。
【0065】
ステロール部分とタグとの結合様式は特に限定されないが、ステロール部分とタグとを結合させてもよいし、ステロール部分とタグとをリンカーを介して結合させてもよい。結合手段は特に限定されないが、例えば、官能基を利用したクロスリンクが簡便で好ましい。官能基は特に限定されないが、アミノ基、カルボキシル基及びスルフヒドリル基は、市販のクロスリンカーを利用できるので好ましい。
【0066】
コレステロールは、C17位に結合しているアルキル鎖に官能基がないので、タグの付加においては、該アルキル鎖に官能基を有するコレステロール誘導体を用いることが好ましい。そのようなコレステロール誘導体としては、例えば、胆汁酸の前駆体、ステロイドの前駆体などが挙げられる。具体的には、3β-ヒドロキシ-Δ5-コレン酸、24-アミノ-5-コレン-3β-オルなどが好ましい。タグの官能基はタグの種類に応じて異なる。例えば、ペプチド又はタンパク質をタグに用いる場合は、アミノ基、カルボキシル基及びスルフヒドリル基(SH基)が利用でき、ビオチンをタグに用いる場合は、側鎖のカルボキシル基が利用できる。リンカーは、両端に官能基を有するポリマー化合物が好ましい。なお、ビオチンをタグとして付加する場合、市販のビオチン標識試薬を用いてもよい。この試薬は、末端にアミノ基などの官能基を有する様々な長さのスペーサーアーム(PEGなど)を結合させたビオチンが含まれている。
【0067】
第1の標識としてのシグナル発生物質としては、例えば、蛍光物質、発色物質、発光物質、放射性同位元素などが挙げられる。これらのうち、蛍光物質が特に好ましい。蛍光物質は、有極性構造を有する蛍光団を含むことが好ましい。当該技術分野において、有極性構造を有する蛍光団を含む蛍光物質自体は公知である。
【0068】
シグナル発生物質で標識されたステロールは、該物質を公知の方法でステロールに付加することにより製造できる。なお、ステロールにおいて、シグナル発生物質が付加される位置は特に限定されず、用いるシグナル発生物質の種類に応じて適宜決定できる。ステロールとシグナル発生物質との結合様式は特に限定されないが、両者が共有結合を介して直接結合していることが好ましい。
【0069】
蛍光物質を含むステロールとしては、例えば、上記の式(III)で表されるBODIPY骨格構造を有する蛍光団を含む蛍光標識ステロールなどが挙げられる。本実施形態では、市販の蛍光標識ステロールを用いてもよい。例えば、BODIPY骨格構造を有する蛍光団を含むステロールとして、上記の式(V)で表される蛍光標識コレステロールが挙げられる。式(V)で表される蛍光標識コレステロールは、470~490 nmの励起波長により、525~550 nmの波長の蛍光シグナルを発生する。
【0070】
(標識ステロールを取り込んだリポタンパク質の調製工程)
この調製工程において、第1の添加剤及び/又は第2の添加剤の存在下でのリポタンパク質と標識ステロールとの混合は、例えば、リポタンパク質を含む試料と、標識ステロールを含む溶液と、第1の添加剤及び/又は第2の添加剤を含む液状試薬とを混合することにより行うことができる。混合の順序は特に限定されない。この場合、液状試薬として、例えば、上記の水性媒体又は試料希釈用試薬中に第1の添加剤及び/又は第2の添加剤を含む液が挙げられる。あるいは、液状試薬として、標識ステロールを含む溶液中に第1の添加剤及び/又は第2の添加剤を含む液を用いてもよい。この場合、上記の混合は、リポタンパク質を含む試料と、第1の添加剤及び/又は第2の添加剤及び標識ステロールを含む液状試薬とを混合することにより行われる。この調製工程では、第1の添加剤及び/又は第2の添加剤の存在下で、リポタンパク質が標識ステロールを取りこみ始め、標識ステロールを取り込んだリポタンパク質が得られる。
【0071】
混合における温度及び時間の条件は特に限定されない。例えば、試料と標識ステロールと液状試薬との混合液を20~48℃、好ましくは25~42℃にて、10秒間~24時間、好ましくは1分間~2時間インキュベーションしてもよい。インキュベーションの間、混合液は静置してもよいし、攪拌又は振とうしてもよい。
【0072】
第1の添加剤及び/又は第2の添加剤の添加量は、適宜決定できる。例えば、標識ステロールを取り込んだリポタンパク質の調製工程で得られる混合液中の第1の添加剤及び/又は第2の添加剤の濃度は、1μM以上1000μM以下であり、好ましくは13μM以上352μM以下である。ここで、調製工程で得られる混合液とは、リポタンパク質と、標識ステロールと、第1の添加剤及び/又は第2の添加剤とを含む液である。そのような混合液は、例えば、リポタンパク質を含む試料と、標識ステロールを含む溶液と、第1の添加剤及び/又は第2の添加剤とを含む液状試薬との混合液である。あるいは、調製工程で得られる混合液は、リポタンパク質を含む試料と、第1の添加剤及び/又は第2の添加剤及び標識ステロールを含む液状試薬との混合液であってもよい。調製工程で得られる混合液において、第1の添加剤及び/又は第2の添加剤の濃度が上記の範囲内であるとき、測定値のばらつきがより低減される。
【0073】
標識ステロールの添加量は特に限定されないが、標識ステロールが枯渇しないよう、やや過剰に添加してもよい。例えば、標識ステロールを取り込んだリポタンパク質の調製工程で得られる混合液中の標識ステロールの濃度は、0.1μM以上30μM以下であり、好ましくは1μM以上10μM以下である。
【0074】
本実施形態では、試料中のリポタンパク質と、標識ステロールとの混合は、環状構造を有さない界面活性剤の存在下で行ってもよい。例えば、標識ステロールを含む溶液又は上記の液状試薬に、環状構造を有さない界面活性剤を添加してもよい。環状構造を有さない界面活性剤の添加量は、適宜設定できる。例えば、標識ステロールを取り込んだリポタンパク質の調製工程で得られる混合液中の界面活性剤の濃度は、0.001%(v/v)以上0.5%(v/v)以下であり、好ましくは0.01%(v/v)以上0.1%(v/v)以下である。
【0075】
本実施形態では、試料中のリポタンパク質と、標識ステロールとの混合は、上記の環状オリゴ糖及び環状構造を有さない界面活性剤の存在下で行ってもよい。また、試料中のリポタンパク質と、標識ステロールとの接触は、上記の測定対象のリポタンパク質とは異なるリポタンパク質に結合する成分及び環状構造を有さない界面活性剤の存在下で行ってもよい。例えば、標識ステロールを含む溶液又は上記の液状試薬に、環状オリゴ糖及び/又は測定対象のリポタンパク質とは異なるリポタンパク質に結合する成分を添加してもよい。
【0076】
本実施形態では、試料中のリポタンパク質と、標識ステロールとの混合は、標識ステロールの非特異的吸着を防止するためのブロッキング剤の存在下で行ってもよい。例えば、標識ステロールを含む溶液又は上記の液状試薬に該ブロッキング剤を添加してもよい。ブロッキング剤としては、上記の2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン系重合体が好ましい。
【0077】
(環状構造を有さない界面活性剤)
環状構造を有さない界面活性剤は、非イオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤及び両性界面活性剤から適宜選択できるが、好ましくは非イオン性界面活性剤である。環状構造を有さない非イオン性界面活性剤は、特に限定されないが、例えば、ポリアルキレングリコールエチレンオキシド付加物、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンジアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル、ポリオキシエチレン分岐アルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリプロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヤシ脂肪酸グリセリル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレントリイソステアリン酸、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルプロピレンジアミン、脂肪酸ジエタノールアミド、ポリオキシエチレン脂肪酸モノエタノールアミドなどが挙げられる。環状構造を有さない非イオン性界面活性剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0078】
上記の非イオン性界面活性剤の中でも、ポリオキシエチレンアルキルエーテル及びポリアルキレングリコールエチレンオキシド付加物が好ましい。ポリオキシエチレンアルキルエーテルとしては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンベヘニルエーテルなどが挙げられる。本実施形態では、ポリオキシエチレンラウリルエーテルが特に好ましい。ポリオキシエチレンラウリルエーテルは市販されており、例えば、日油株式会社のノニオンK-230及びノニオンK-220、花王株式会社のエマルゲン123P及びエマルゲン130Kなどが挙げられる。
【0079】
本実施形態では、ポリアルキレングリコールエチレンオキシド付加物としては、ブロック共重合体が好ましく、エチレンオキシドとプロピレンオキシドとのトリブロック共重合体がより好ましい。そのようなブロック共重合体の非イオン製界面活性剤としては、下記の式(VIII)で表される化合物が特に好ましい。
【0080】
【化7】
(式中、x、y及びzが、同一又は異なって、1以上の整数であり、
ポリプロピレンオキシド部分の分子量が、2750以下である)
【0081】
式(VIII)で表される化合物は、ポリプロピレングリコールエチレンオキシド付加物、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー、又はプルロニック(商標)型非イオン界面活性剤とも呼ばれる。
【0082】
式(VIII)において、ポリプロピレンオキシド部分(以下、「PPO」ともいう)の分子量とは、-(O-CH(CH3)-CH2)y-で表される部分の分子量であって、分子構造式から算出される分子量をいう。本実施形態では、PPOの分子量は、好ましくは900以上2750以下であり、より好ましくは950以上2750以下であり、特により好ましくは950以上2250以下である。プルロニック型非イオン界面活性剤におけるPPOは、比較的高疎水性であるため、PPOの分子量が大きいほど、界面活性剤の疎水性も大きくなる。そのため、PPOの分子量が2750より高いプルロニック型非イオン界面活性剤は、リポタンパク質に作用して、コレステロールの取り込みを阻害するおそれがある。
【0083】
式(VIII)で表される化合物の平均分子量は、1000~13000であることが好ましい。式(VIII)において、x及びzの和は2~240であることが好ましい。また、式(VIII)において、yは15~47であることが好ましく、16~47であることがより好ましく、16~39であることが特により好ましい。本明細書において「平均分子量」は、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)によって測定される重量平均分子量ある。
【0084】
プルロニック型非イオン界面活性剤は市販されており、例えば、BASF社のプルロニックのシリーズ、日油株式会社のプロノンのシリーズ、旭電化工業株式会社のアデカプルロニックのシリーズなどが挙げられる。プルロニックのシリーズは、PPOの分子量を縦軸にとり、エチレンオキシド(EO)含有量(%)を横軸にとったプルロニックグリッド(例えばPitto-Barry A.及びBarry N.P.E., Poly. Chem., 2014, vol.5, p.3291-3297参照)により分類される。プルロニックグリッドは、学術文献だけでなく、種々の製造業者からも提供される。本実施形態では、プルロニックグリッドに基づいて、式(VIII)で表される化合物を選択してもよい。
【0085】
式(VIII)で表されるプルロニック型非イオン界面活性剤としては、例えば、プルロニックL31(PPOの分子量:950、EO含有率:10%)、プルロニックL35(PPOの分子量:950、EO含有率:50%)、プルロニックF38(PPOの分子量:950、EO含有率:80%)、プルロニックL42(PPOの分子量:1200、EO含有率:20%)、プルロニックL43(PPOの分子量:1200、EO含有率:30%)、プルロニックL44(PPOの分子量:1200、EO含有率:40%)、プルロニックL61(PPOの分子量:1750、EO含有率:10%)、プルロニックL62(PPOの分子量:1750、EO含有率:20%)、プルロニックL63(PPOの分子量:1750、EO含有率:30%)、プルロニックL64(PPOの分子量:1750、EO含有率:40%)、プルロニックP65(PPOの分子量:1750、EO含有率:50%)、プルロニックF68(PPOの分子量:1750、EO含有率:80%)、プルロニックL72(PPOの分子量:2050、EO含有率:20%)、プルロニックP75(PPOの分子量:2050、EO含有率:50%)、プルロニックF77(PPOの分子量:2050、EO含有率:70%)、プルロニックL81(PPOの分子量:2250、EO含有率:10%)、プルロニックP84(PPOの分子量:2250、EO含有率:40%)、プルロニックP85(PPOの分子量:2250、EO含有率:50%)、プルロニックF87(PPOの分子量:2250、EO含有率:70%)、プルロニックF88(PPOの分子量:2250、EO含有率:80%)、プルロニックL92(PPOの分子量:2750、EO含有率:20%)、プルロニックP94(PPOの分子量:2750、EO含有率:40%)、プルロニックF98(PPOの分子量:2750、EO含有率:80%)などが挙げられる。
【0086】
あるいは、エチレンオキシドとプロピレンオキシドとのトリブロック共重合体は、下記の式(IX)で表される化合物であってもよい。この化合物は、リバースプルロニック型非イオン界面活性剤とも呼ばれる。
【0087】
【化8】
(式中、p、q及びrが、同一又は異なって、1以上の整数であり、
ポリプロピレンオキシド部分の分子量が、2750以下である)
【0088】
式(IX)において、ポリプロピレンオキシド部分の分子量とは、-(O-CH(CH3)-CH2)p-及び-(O-CH(CH3)-CH2)r-で表される部分の分子量の合計であって、分子構造式から算出される分子量をいう。本実施形態では、PPOの分子量は、好ましくは900以上2750以下であり、より好ましくは950以上2250以下である。式(IX)で表されるプルロニック型非イオン界面活性剤は市販されており、例えば、BASF社のプルロニック10R5(PPOの分子量:950、EO含有率:50%)などが挙げられる。
【0089】
式(IX)で表される化合物の平均分子量は、1000~13000であることが好ましい。式(IX)において、qは2~240であることが好ましい。また、式(IX)において、p及びrの和は15~47であることが好ましく、16~47であることがより好ましく、16~39であることが特により好ましい。
【0090】
(リポタンパク質と第1の捕捉体との複合体の形成工程)
本実施形態の測定方法は、上記の標識ステロールを取り込んだリポタンパク質の調製工程と、後述の取り込み能の測定工程の間に、標識ステロールを取り込んだリポタンパク質と、該リポタンパク質に結合する第1の捕捉体とを混合し、標識ステロールを取り込んだリポタンパク質と第1の捕捉体とを含む複合体を形成する工程を含むことが好ましい。リポタンパク質と第1の捕捉体との接触により、第1の捕捉体がリポタンパク質に結合して、リポタンパク質と第1の捕捉体との複合体が形成される。
【0091】
第1の捕捉体は、リポタンパク質の表面の一部と特異的に結合できる物質であれば特に限定されない。第1の捕捉体としては、リポタンパク質に特異的に結合する抗体が好ましく、リポタンパク質の構成成分であるアポリポプロテインと特異的に結合できる抗体がより好ましい。そのような抗体としては、例えば、抗ApoAI抗体、抗ApoAII抗体などが挙げられる。それらの中でも、抗ApoAI抗体が特に好ましい。市販の抗リポタンパク質抗体及び抗ApoAI抗体を用いてもよい。
【0092】
抗リポタンパク質抗体及び抗ApoAI抗体は、モノクローナル抗体であってもよいし、ポリクローナル抗体であってもよい。抗体の由来は特に限定されず、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ヤギ、ウマ、ラクダなどのいずれの哺乳動物に由来する抗体であってもよい。また、抗体のアイソタイプはIgG、IgM、IgE、IgAなどのいずれであってもよいが、好ましくはIgGである。第1の捕捉体として、抗体のフラグメント及びその誘導体を用いてもよく、例えば、Fabフラグメント、F(ab')2フラグメントなどが挙げられる。
【0093】
標識ステロールを取り込んだリポタンパク質と第1の捕捉体との混合は、例えば、第1の添加剤及び/又は第2の添加剤の存在下で、リポタンパク質を含む試料と、標識ステロールを含む溶液と、第1の捕捉体を含む溶液とを混合することにより行ってもよい。混合の順序は特に限定されない。好ましい実施形態では、第1の添加剤及び/又は第2の添加剤の存在下で、リポタンパク質と標識ステロールとを混合した後に、該リポタンパク質と第1の捕捉体との混合を行う。例えば、第1の添加剤及び/又は第2の添加剤の存在下で、リポタンパク質を含む試料と、標識ステロールを含む溶液とを混合した後、得られた混合液と、第1の捕捉体を含む溶液とを混合する。第1の添加剤及び/又は第2の添加剤の存在下での混合は、上記の液状試薬を用いて行うことが好ましい。これにより、標識ステロールを取り込んだリポタンパク質と第1の捕捉体との複合体が形成される。第1の捕捉体の添加量は特に限定されず、第1の捕捉体の種類などに応じて当業者が適宜設定できる。
【0094】
第1の捕捉体として抗ApoAI抗体を用いる場合、抗ApoAI抗体と、標識ステロールを取り込んだリポタンパク質とが接触する前に、該リポタンパク質を酸化剤で処理してもよい。酸化剤の作用により、抗ApoAI抗体とリポタンパク質との反応性が改善されうる。そのような酸化剤としては、例えば、過酸化水素、過酸化亜硝酸、二酸化塩素、次亜塩素酸などが挙げられる。
【0095】
リポタンパク質と第1の捕捉体との混合における温度及び時間の条件は、特に限定されない。例えば、上記の混合液を20~48℃、好ましくは25~42℃にて、10秒間~24時間、好ましくは1分間~2時間インキュベーションしてもよい。インキュベーションの間、混合液は静置してもよいし、攪拌又は振とうしてもよい。
【0096】
(複合体の固相上への固定)
本実施形態では、標識ステロールを取り込んだリポタンパク質と第1の捕捉体との複合体を、固相上に固定してもよい。固相としては、複合体中の第1の捕捉体を捕捉可能な固相が好ましい。複合体の固相上への固定は、例えば、第1の添加剤及び/又は第2の添加剤の存在下で、リポタンパク質を含む試料と、標識ステロールを含む溶液と、第1の捕捉体を含む溶液と、固相とを混合することにより行ってもよい。あるいは、第1の添加剤及び/又は第2の添加剤の存在下で、リポタンパク質を含む試料と、標識ステロールを含む溶液と、第1の捕捉体を含む溶液とを混合し、そして、得られた混合液と固相とを混合してもよい。好ましくは、まず、第1の添加剤及び/又は第2の添加剤の存在下で、リポタンパク質を含む試料と、標識ステロールを含む溶液とを混合し、次いで、得られた混合液と、第1の捕捉体を含む溶液とを混合し、そして、得られた混合液と固相とを混合する。ここで、第1の添加剤及び/又は第2の添加剤の存在下での混合は、上記の液状試薬を用いて行うことが好ましい。
【0097】
本実施形態では、第1の捕捉体は、あらかじめ固相上に固定化されていてもよい。例えば、第1の添加剤及び/又は第2の添加剤の存在下で、リポタンパク質を含む試料と、標識ステロールを含む溶液と、第1の捕捉体を固定化した固相とを混合してもよい。好ましくは、第1の添加剤及び/又は第2の添加剤の存在下で、リポタンパク質を含む試料と、標識ステロールを含む溶液とを混合し、そして、得られた混合液と、第1の捕捉体を固定化した固相とを混合する。ここで、第1の添加剤及び/又は第2の添加剤の存在下での混合は、上記の液状試薬を用いて行うことが好ましい。
【0098】
複合体中の第1の捕捉体が固相に捕捉されて、該固相の表面上に固定されることにより、複合体が固相上に固定される。固相を用いる混合の温度及び時間の条件は、特に限定されない。例えば、上記のリポタンパク質と第1の捕捉体との混合と同様の条件であってもよい。
【0099】
固相の種類は特に限定されず、例えば、抗体を物理的に吸着する材質の固相、抗体と特異的に結合する分子が固定化されている固相などが挙げられる。抗体と特異的に結合する分子としては、プロテインA又はG、抗体を特異的に認識する抗体(すなわち二次抗体)などが挙げられる。また、抗体と固相との間を介在する物質の組み合わせを用いて、両者を結合することもできる。そのような物質の組み合わせとしては、ビオチン類とアビジン類、ハプテンと抗ハプテン抗体などの組み合わせが挙げられる。例えば、第1の捕捉体をあらかじめビオチン修飾している場合、アビジン類が固定化された固相によって第1の捕捉体を捕捉できる。
【0100】
固相の素材は、有機高分子化合物、無機化合物、生体高分子などから選択できる。有機高分子化合物としては、ラテックス、ポリスチレン、ポリプロピレン、スチレン-メタクリル酸共重合体、スチレン-グリシジル(メタ)アクリレート共重合体、スチレン-スチレンスルホン酸塩共重合体、メタクリル酸重合体、アクリル酸重合体、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体、塩化ビニル-アクリル酸エステル共重合体、ポリ酢酸ビニルアクリレートなどが挙げられる。無機化合物としては、磁性体(酸化鉄、酸化クロム、コバルト及びフェライトなど)、シリカ、アルミナ、ガラスなどが挙げられる。生体高分子としては、不溶性アガロース、不溶性デキストラン、ゼラチン、セルロースなどが挙げられる。これらのうちの2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0101】
固相の形状は特に限定されず、例えば、粒子、マイクロプレート、マイクロチューブ、試験管などが挙げられる。それらの中でも、粒子及びマイクロプレートが好ましく、磁性粒子及び96ウェルマイクロプレートが特に好ましい。固相の形状が粒子である場合、固相として、粒子の懸濁液を上記の混合に用いることができる。固相の形状がマイクロプレートなどの容器である場合、固相としての容器内で上記の混合を行うことができる。
【0102】
固相として粒子の懸濁液を用いる場合、複合体形成工程で得られる、固相を含む混合液中の第1の添加剤及び/又は第2の添加剤の濃度は、1μM以上1000μM以下であり、好ましくは10μM以上271μM以下である。ここで、固相が粒子である場合、複合体形成工程で得られる、固相を含む混合液とは、リポタンパク質と、標識ステロールと、第1の添加剤及び/又は第2の添加剤と、第1の捕捉体と、粒子とを含む液である。第2の捕捉体を用いる場合は、複合体形成工程で得られる、固相を含む混合液とは、リポタンパク質と、標識ステロールと、第1の添加剤及び/又は第2の添加剤と、第1の捕捉体と、後述の第2の捕捉体と、粒子とを含む液である。固相が容器である場合、複合体形成工程で得られる、固相を含む混合液とは、リポタンパク質と、標識ステロールと、第1の添加剤及び/又は第2の添加剤と、第1の捕捉体とを容器内に含む液である。第2の捕捉体を用いる場合は、複合体形成工程で得られる、固相を含む混合液とは、リポタンパク質と、標識ステロールと、第1の添加剤及び/又は第2の添加剤と、第1の捕捉体と、第2の捕捉体とを容器内に含む液である。
【0103】
複合体形成工程で得られる、固相を含む混合液は、具体的には、リポタンパク質を含む試料と、標識ステロールを含む溶液と、第1の添加剤及び/又は第2の添加剤とを含む液状試薬と、第1の捕捉体を含む溶液と、粒子の懸濁液との混合液である。第2の捕捉体を用いる場合は、上記の混合液は、リポタンパク質を含む試料と、標識ステロールを含む溶液と、第1の添加剤及び/又は第2の添加剤とを含む液状試薬と、第1の捕捉体を含む溶液と、第2の捕捉体を含む溶液と、粒子の懸濁液との混合液である。液状試薬は、第1の添加剤及び/又は第2の添加剤及び標識コレステロールを含む試薬であってもよい。複合体形成工程で得られる、固相を含む混合液において、第1の添加剤及び/又は第2の添加剤の濃度が上記の範囲内であるとき、測定値のばらつきがより低減される。
【0104】
(洗浄工程)
本実施形態では、標識ステロールを取り込んだリポタンパク質の調製工程と、後述のステロール取り込み能の測定工程との間に、未反応の遊離成分を除去する洗浄工程を行ってもよい。この洗浄工程は、B/F分離及び複合体の洗浄を含む。未反応の遊離成分とは、標識ステロールを取り込んだリポタンパク質を含む複合体を構成しない成分である。例えば、リポタンパク質に取り込まれなかった遊離の標識ステロール、リポタンパク質と結合しなかった遊離の第1の捕捉体などが挙げられる。B/F分離の手段は特に限定されないが、例えば、超遠心分離法などにより複合体だけを回収することで、複合体と、未反応の遊離成分とを分離できる。複合体を固相上に形成させている場合、固相が粒子であれば、遠心分離や磁気分離により粒子を回収し、上清を除去することにより、複合体と、未反応の遊離成分とを分離できる。固相がマイクロプレートやマイクロチューブなどの容器であれば、未反応の遊離成分を含む液を除去することにより、複合体と、未反応の遊離成分とを分離できる。
【0105】
未反応の遊離成分を除去した後、回収した複合体を適切な水性媒体で洗浄できる。そのような水性媒体としては、例えば、水、生理食塩水、PBS、Tris-HCl、グッドバッファーなどが挙げられる。洗浄に用いる水性媒体は、環状構造を有さない界面活性剤を含むことが好ましい。例えば、環状構造を有さない界面活性剤を上記の水性媒体に溶解して洗浄液を調製し、回収した複合体を該洗浄液で洗浄してもよい。固相を用いた場合は、複合体を捕捉した固相を洗浄液で洗浄してもよい。具体的には、回収した複合体又は複合体を捕捉した固相に洗浄液を添加して、B/F分離を再度行う。
【0106】
(ステロール取り込み能の測定工程)
本実施形態の測定方法では、標識ステロールを取り込んだリポタンパク質を調製した後、リポタンパク質による標識ステロールの取り込み能を測定する。ステロール取り込み能の測定は、リポタンパク質に取り込まれた標識ステロールに由来するシグナルを検出することにより行われる。このシグナルは、リポタンパク質に取り込まれた標識ステロールの量を反映するので、該シグナルの検出結果は、リポタンパク質のステロール取り込み能の指標となる。
【0107】
本明細書において、「シグナルを検出する」とは、シグナルの有無を定性的に検出すること、シグナル強度を定量すること、及び、シグナルの強度を、「シグナル発生せず」、「弱」、「強」などのように複数の段階に半定量的に検出することを含む。本実施形態では、シグナル強度を定量して、測定値を取得することが好ましい。
【0108】
リポタンパク質に取り込まれた標識ステロールに由来するシグナルは、標識ステロールから直接発生するシグナルであってもよい。そのようなシグナルは、例えば、第1の標識としてシグナル発生物質を有する標識ステロールを用いた場合に検出できる。すなわち、リポタンパク質に取り込まれた標識ステロール中の第1の標識から発生するシグナルを検出することにより、取り込み能を測定できる。例えば、蛍光標識ステロールを用いた場合は、蛍光強度を測定すればよい。蛍光強度を測定する方法自体は、当該技術分野において公知である。例えば、分光蛍光光度計及び蛍光プレートリーダーなどの公知の測定装置を用いて、複合体から生じる蛍光強度を測定できる。励起波長及び蛍光波長は、用いた蛍光標識コレステロールの種類に応じて適宜決定できる。例えば、上記の式(V)の蛍光標識コレステロールを用いた場合は、励起波長は470~490 nm、蛍光波長は525~550 nmの範囲から決定すればよい。
【0109】
(標識ステロールと第2の捕捉体との複合体の形成工程)
リポタンパク質に取り込まれた標識ステロールに由来するシグナルは、リポタンパク質に取り込まれた標識ステロールを検出するときに発生するシグナルであってもよい。リポタンパク質に取り込まれた標識ステロールを検出するため、本実施形態の測定方法は、上記の調製工程と測定工程との間に、標識ステロールを取り込んだリポタンパク質と、第1の捕捉体と、標識ステロールに結合する第2の捕捉体とを混合し、標識ステロールを取り込んだリポタンパク質と第1の捕捉体と第2の捕捉体とを含む複合体を形成する工程を含むことが好ましい。標識ステロールは、タグ付加ステロールが好ましく、タグ付加コレステロールがより好ましい。また、第2の捕捉体は、タグに特異的に結合する物質が好ましい。
【0110】
リポタンパク質に取り込まれたタグ付加コレステロールの検出原理は、次のとおりである。通常、コレステロールは、リポタンパク質に取り込まれると、該リポタンパク質粒子の表層から中心部へと移動する。タグ付加コレステロールにおいて、リポタンパク質に取り込まれるのはコレステロール部分であり、タグは、リポタンパク質の外表面に露出していると考えられる。ここで、「リポタンパク質の外表面」とは、リポタンパク質粒子の外側の面をいう。「外表面に露出している」とは、リポタンパク質の外表面上に存在すること、及び、リポタンパク質の外表面から突出していることの両方を意味する。本実施形態では、この外表面に露出しているタグと、該タグに特異的に結合する第2の捕捉体とを接触させ、複合体を形成する。そして、この複合体中の第2の捕捉体を検出することにより、リポタンパク質に取り込まれたコレステロールを検出する。
【0111】
タグに特異的に結合する物質は、タグの種類に応じて適宜決定できる。例えば、上述したタグと該タグに特異的に結合できる物質との組み合わせを参照して、抗体、リガンド受容体、オリゴヌクレオチド、ビオチン類、アビジン類、ヒスチジンタグ又はニッケル、GST又はグルタチオンなどから選択できる。それらの中でも、タグに特異的に結合する抗体が好ましい。そのような抗体は、市販の抗体であってもよいし、当該技術において公知の方法により作製した抗体であってもよい。抗体は、モノクローナル抗体であってもよいし、ポリクローナル抗体であってもよい。抗体の由来及びアイソタイプは特に限定されず、抗HDL抗体について述べたことと同様である。また、抗体のフラグメント及びその誘導体を用いてもよく、例えば、Fabフラグメント、F(ab')2フラグメントなどが挙げられる。
【0112】
本実施形態の測定方法は、上記の複合体の形成工程と測定工程との間に、標識ステロールを取り込んだリポタンパク質と第1の捕捉体との複合体と、標識ステロールに結合する第2の捕捉体とを混合し、標識ステロールを取り込んだリポタンパク質と第1の捕捉体と第2の捕捉体とを含む複合体を形成する工程を含むことがより好ましい。特に、標識ステロールを取り込んだリポタンパク質と第1の捕捉体との複合体を固相上に形成した後に、固相に固定された複合体と、第2の捕捉体とを混合することが好ましい。これにより、第1の捕捉体と、標識ステロールを取り込んだリポタンパク質と、第2の捕捉体との複合体が形成される。この複合体において、標識ステロールを取り込んだリポタンパク質は、第1の捕捉体及び第2の捕捉体で挟まれた状態にある。本実施形態では、第1の捕捉体と、標識ステロールを取り込んだリポタンパク質と、第2の捕捉体との複合体を「サンドイッチ複合体」ともいう。
【0113】
標識ステロールと第2の捕捉体との接触における温度及び時間の条件は、特に限定されない。例えば、リポタンパク質と第1の捕捉体との複合体を含む溶液と、第2の捕捉体を含む溶液との混合物を4~60℃、好ましくは25~42℃にて、1秒間~24時間、好ましくは1分間~2時間インキュベーションしてもよい。インキュベーションの間、混合物は静置してもよいし、攪拌又は振とうしてもよい。
【0114】
(第2の標識)
第2の捕捉体は、第2の標識で標識されることが好ましい。第2の捕捉体が第2の標識で標識されている場合、標識ステロールと第2の捕捉体との複合体中の第2の標識に由来するシグナルを検出することにより、ステロール取り込み能を測定できる。第2の標識は、シグナル発生物質であってもよいし、他の物質の反応を触媒して検出可能なシグナルを発生させる物質を用いることができる。シグナル発生物質としては、例えば、蛍光物質、放射性同位元素などが挙げられる。他の物質の反応を触媒して検出可能なシグナルを発生させる物質としては、例えば酵素が挙げられる。酵素としては、アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、チロシナーゼ、酸性ホスファターゼ、ルシフェラーゼなどが挙げられる。蛍光物質としては、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、ローダミン、Alexa Fluor(登録商標)、シアニン系色素などの蛍光色素、GFPなどの蛍光タンパク質などが挙げられる。放射性同位元素としては、125I、14C、32Pなどが挙げられる。それらの中でも酵素が好ましく、アルカリホスファターゼ及びペルオキシダーゼが特に好ましい。
【0115】
第2の標識による第2の捕捉体の標識は、第2の捕捉体に第2の標識を直接又は間接的に結合することにより行うことができる。例えば、市販のラベリングキットなどを用いて、第2の標識を第2の捕捉体に直接結合することができる。また、第2の捕捉体に特異的に結合できる抗体を第2の標識で標識して得た二次抗体を用いることで、第2の標識を第2の捕捉体に間接的に結合させてもよい。本実施形態では、第2の標識が結合した第2の捕捉体を用いてもよい。あるいは、第2の捕捉体と、第2の標識が結合した、第2の捕捉体に対する抗体とを用いてもよい。
【0116】
本実施形態では、シグナルの検出を行う前に、未反応の遊離成分を除去する洗浄工程を行ってもよい。未反応の遊離成分としては、例えば、タグに結合しなかった遊離の第2の捕捉体、第2の捕捉体と結合しなかった遊離の第2の標識などが挙げられる。洗浄の具体的な手法及び洗浄液については、上述の洗浄工程と同様である。
【0117】
(第2の標識に由来するシグナルの検出)
第2の標識に由来するシグナルを検出する方法自体は、当該技術分野において公知である。本実施形態では、第2の標識に由来するシグナルの種類に応じて、適切な測定方法を選択できる。例えば、第2の標識が酵素である場合、酵素と該酵素に対する基質とが反応することによって発生する光、色などのシグナルを、公知の装置を用いて測定することにより行うことができる。そのような測定装置としては、分光光度計、ルミノメータなどが挙げられる。
【0118】
酵素の基質は、該酵素の種類に応じて公知の基質から適宜選択することができる。例えば、酵素としてペルオキシダーゼを用いる場合、基質としては、ルミノール及びその誘導体などの化学発光基質、2, 2'-アジノビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸アンモニウム)(ABTS)、1, 2-フェニレンジアミン(OPD)、3, 3', 5, 5'-テトラメチルベンジジン(TMB)などの発色基質が挙げられる。また、酵素としてアルカリホスファターゼを用いる場合、基質としては、CDP-Star(登録商標)(4-クロロ-3-(メトキシスピロ[1, 2-ジオキセタン-3, 2'-(5'-クロロ)トリクシロ[3. 3. 1. 13, 7]デカン]-4-イル)フェニルリン酸2ナトリウム)、CSPD(登録商標)(3-(4-メトキシスピロ[1, 2-ジオキセタン-3, 2-(5'-クロロ)トリシクロ[3. 3. 1. 13, 7]デカン]-4-イル)フェニルリン酸2ナトリウム)などの化学発光基質、5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリルリン酸(BCIP)、5-ブロモ-6-クロロ-インドリルリン酸2ナトリウム、p-ニトロフェニルリン酸などの発色基質が挙げられる。
【0119】
第2の標識が放射性同位体である場合は、シグナルとしての放射線を、シンチレーションカウンターなどの公知の装置を用いて測定できる。また、第2の標識が蛍光物質である場合は、シグナルとしての蛍光を、蛍光マイクロプレートリーダーなどの公知の装置を用いて測定できる。なお、励起波長及び蛍光波長は、用いた蛍光物質の種類に応じて適宜決定できる。
【0120】
本実施形態の測定方法では、上述の各工程は、インビトロで実施される。また、上述の各工程は、実質的に無細胞系で行われる。実質的に無細胞系とは、リポタンパク質のステロール取り込み能の測定に利用する目的で、細胞を積極的に添加することがないことを意味する。例えば、従来のコレステロール排出機能の測定法では、マクロファージなどのコレステロールを溜め込んだ細胞を用いる。しかし、本実施形態の測定方法では、試料中のリポタンパク質に標識ステロールを直接取り込ませるので、そのような細胞を用いる必要がない。試料に被検者由来の細胞が含まれている場合であっても、その細胞自体はリポタンパク質の標識ステロールの取り込みにほとんど影響しないと考え、測定方法は無細胞系であるとみなす。
【0121】
[2.リポタンパク質の取り込み能測定用試薬、安定化試薬及び試薬キット]
別の実施形態では、本実施形態の測定方法に用いられる試薬が提供される。すなわち、標識ステロールと、第1の添加剤及び/又は第2の添加剤とを含む、リポタンパク質の取り込み能測定用試薬(以下、「測定用試薬」ともいう)が提供される。また、第1の添加剤及び/又は第2の添加剤を含む、リポタンパク質の取り込み能測定の安定化試薬(以下、「安定化試薬」ともいう)が提供される。標識ステロール、第1及び第2の添加剤の詳細は上述のとおりである。ここで、本明細書において「安定化試薬」とは、測定の再現性を向上させる試薬をいう。本実施形態の「測定用試薬」は、「安定化試薬」のうち標識ステロールを含有する試薬である。
【0122】
第1の添加剤は、例えば、上記の式(I)で表される化合物であってもよい。式(I)で表される第1の添加剤としては、例えば、1つの炭素-炭素二重結合を有し、且つ炭素数が8以上30以下である直鎖状の不飽和脂肪族アミド、不飽和脂肪族アルコール及び不飽和脂肪族アミンが挙げられる。好ましい第1の添加剤は、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、オレイルアルコール、パルミトレイルアルコール、シス-4-デセン-1-オル、エライジルアルコール及びオレイルアミンである。
【0123】
第2の添加剤は、例えば、主鎖の炭素数が8以上30以下である飽和脂肪族化合物であってもよい。そのような飽和脂肪族化合物としては、主鎖の炭素数が8以上30以下である飽和脂肪族アミド、飽和脂肪族アルコール及び飽和脂肪族アミンが挙げられる。好ましい第2の添加剤は、炭素数が8以上30以下である直鎖状の飽和脂肪族アミド、飽和脂肪族アルコール及び和脂肪族アミンである。特に好ましくは、ステアリン酸アミド及びパルミチン酸アミドである。
【0124】
標識ステロールは、上記のタグ付加ステロール、又は上記のシグナル発生物質を有するステロールが好ましい。タグ付加ステロールとしては、上記の式(II)で表されるタグ付加コレステロールが挙げられる。それらの中でも、上記の式(V)、(VI)及び(VII)で表されるタグ付加コレステロールが好ましい。シグナル発生物質を有するステロールとしては、蛍光標識ステロールが挙げられる。蛍光標識ステロールとしては、例えば、上記の式(V)で表される蛍光標識コレステロールが挙げられる。
【0125】
本実施形態の測定用試薬及び安定化試薬は、液状の組成物であることが好ましい。溶媒としては、例えば水、生理食塩水、PBS、Tris-HCl、グッドバッファーなどの水性媒体が挙げられる。本実施形態の測定用試薬及び安定化試薬は、通常、容器に収容されてユーザに提供される。試薬を収容した容器は、箱又は袋に入れられてユーザに提供されてもよい。箱又は袋には、試薬の使用方法などを記載した添付文書を同梱してもよい。
【0126】
本実施形態の測定用試薬は、標識ステロールと、第1の添加剤及び/又は第2の添加剤との両方を含む一試薬の形態であってもよい。あるいは、本実施形態の測定用試薬は、標識ステロールを含む第1試薬と、第1の添加剤及び/又は第2の添加剤を含む第2試薬とを備える二試薬の形態であってもよい。二試薬の形態の場合、第1試薬と、第2試薬とは、別々にユーザに提供されてもよい。あるいは、第1試薬と第2試薬とを箱などに同梱し、試薬キットとしてユーザに提供されてもよい。一試薬の形態及び二試薬の形態のいずれの場合も、試薬の使用方法などを記載した添付文書とともにユーザに提供されてもよい。
【0127】
図1Aに、一試薬の形態である測定用試薬、又は安定化試薬の外観の一例を示す。図中、10は、測定用試薬又は安定化試薬を収容した容器を示し、11は、梱包箱を示し、12は、添付文書を示す。図1Bに、試薬キットの外観の一例を示す。この試薬キットは、二試薬の形態である測定用試薬の第1試薬及び第2試薬を、箱に同梱して含む。図中、20は、試薬キットを示し、21は、標識ステロールを含む第1試薬を収容した第1容器を示し、22は、第1の添加剤及び/又は第2の添加剤を含む第2試薬を収容した第2容器を示し、23は、梱包箱を示し、24は、添付文書を示す。
【0128】
各試薬における第1の添加剤及び/又は第2の添加剤の濃度は、測定用試薬と、リポタンパク質を含む試料とを混合したとき、又は、安定化試薬と、リポタンパク質を含む試料と、標識コレステロールを含む溶液とを混合したとき、混合液中の添加剤の濃度を1μM以上1000μM以下、好ましくは13μM以上352μM以下にできる濃度であればよい。測定用試薬における第1の添加剤及び/又は第2の添加剤の濃度は、例えば1μM以上1000μM以下、好ましくは15μM以上392μM以下である。安定化試薬における第1の添加剤及び/又は第2の添加剤の濃度は、例えば10μM以上10000μM以下、好ましくは178μM以上1779μM以下である。
【0129】
測定用試薬における標識ステロールの濃度は、測定用試薬と、リポタンパク質を含む試料とを混合したときに、混合液中の標識ステロールの濃度を0.1μM以上30μM以下、好ましくは1μM以上10μM以下にできる濃度であればよい。測定用試薬における標識ステロールの濃度は、例えば0.2μM以上600μM以下、好ましくは1μM以上200μM以下である。
【0130】
本実施形態の測定用試薬及び安定化試薬は、リポタンパク質のステロール取り込み能の測定に有用な物質をさらに含んでもよい。測定に有用な物質としては、例えば、環状構造を有さない界面活性剤、環状オリゴ糖、測定対象のリポタンパク質とは異なるリポタンパク質に結合する成分、ブロッキング剤などが挙げられる。これらの物質の詳細は上述のとおりである。
【0131】
環状構造を有さない界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレンラウリルエーテル及びポリアルキレングリコールエチレンオキシド付加物などが挙げられる。試薬における該界面活性剤の濃度は特に限定されないが、例えば0.002%(v/v)以上10%(v/v)以下、好ましくは0.005%(v/v)以上5%(v/v)以下である。環状オリゴ糖としては、例えばシクロデキストリン、メチル-β-シクロデキストリン、ヒドロキシプロピルシクロデキストリンなどが挙げられる。試薬における環状オリゴ糖の濃度は特に限定されないが、例えば0.2 mM以上20 mM以下、好ましくは1mM以上10 mM以下である。測定対象のリポタンパク質とは異なるリポタンパク質に結合する成分としては、例えばカリクサレンなどが挙げられる。試薬における該成分の濃度は特に限定されないが、カリクサレンを用いる場合は、例えば0.1μM以上0.1 mM以下、好ましくは1μM以上5μM以下である。ブロッキング剤としては、例えば、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン系重合体が挙げられる。試薬における該ブロッキング剤の濃度は特に限定されないが、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン系重合体を用いる場合は、例えば0.01%(w/w)以上5%(w/w)以下、好ましくは0.05%(w/w)以上2%(w/w)以下である。
【0132】
別の実施形態では、リポタンパク質の取り込み能測定用試薬の製造のための、標識コレステロール、及び第1の添加剤及び/又は第2の添加剤の使用が提供される。また、リポタンパク質の取り込み能測定の安定化試薬の製造のための、第1の添加剤及び/又は第2の添加剤の使用が提供される。また、上述のリポタンパク質の取り込み能測定方法のための、第1の添加剤及び/又は第2の添加剤の使用が提供される。
【0133】
上述の試薬キットは、第1の捕捉体、第2の捕捉体、固相及び試料希釈用試薬のうち少なくとも1をさらに備えていてもよい。試薬キットに含まれる試薬類は、それぞれ別の容器に収容されることが好ましい。標識ステロール、第1及び第2の添加剤、第1の捕捉体、第2の捕捉体、固相及び試料希釈用試薬の詳細は上述のとおりである。
【0134】
図2Aに、本実施形態の試薬キットの外観の一例を示す。図中、30は、試薬キットを示し、31は、標識ステロールを含む溶液を収容した第1容器を示し、32は、第1の添加剤及び/又は第2の添加剤を含む液状試薬を収容した第2容器を示し、33は、第1の捕捉体を含む溶液を収容した第3容器を示し、34は、固相としての粒子を含む懸濁液を収容した第4容器を示し、35は、梱包箱を示し、36は、添付文書を示す。
【0135】
図2Bに、別の実施形態に係る試薬キットの外観の一例を示す。図中、40は、試薬キットを示し、41は、標識ステロールを含む溶液を収容した第1容器を示し、42は、第1の添加剤及び/又は第2の添加剤を含む液状試薬を収容した第2容器を示し、43は、第1の捕捉体を含む溶液を収容した第3容器を示し、44は、第2の捕捉体を含む溶液を収容した第4容器を示し、45は、固相としての粒子を含む懸濁液を収容した第5容器を示し、46は、梱包箱を示し、47は、添付文書を示す。
【0136】
図2Cに、別の実施形態に係る試薬キットの外観の一例を示す。図中、50は、試薬キットを示し、51は、試料希釈用試薬を収容した第1容器を示し、52は、標識ステロールを含む溶液を収容した第2容器を示し、53は、第1の添加剤及び/又は第2の添加剤を含む液状試薬を収容した第3容器を示し、54は、第1の捕捉体を含む溶液を収容した第4容器を示し、55は、第2の捕捉体を含む溶液を収容した第5容器を示し、56は、固相としての粒子を含む懸濁液を収容した第6容器を示し、57は、梱包箱を示し、58は、添付文書を示す。
【0137】
本実施形態の試薬キットは、粒子を含む懸濁液を収容した容器に替えて、マイクロプレートを備えてもよい。本実施形態の試薬キットは、標識ステロールと、第1の添加剤及び/又は第2の添加剤との両方を収容した容器を備えてもよい。本実施形態の試薬キットは、第1の捕捉体を予め粒子上に固定して、第1の捕捉体が固定された粒子を含む懸濁液を収容した容器を備えてもよい。第2の標識が酵素である場合、本実施形態の試薬キットは、酵素に対する基質、及び酵素反応に必要なバッファーをさらに含んでもよい。
【0138】
別の実施形態では、リポタンパク質の取り込み能測定用試薬キットの製造のための、標識コレステロール、及び第1の添加剤及び/又は第2の添加剤の使用が提供される。
【0139】
以下に、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。以下、「HISCL」とは、シスメックス株式会社の登録商標である。
【実施例
【0140】
実施例1: 添加剤の効果の検討(1)
標識ステロールを含む反応バッファーに添加剤を添加して、リポタンパク質のコレステロール取り込み能を測定し、測定の再現性に対する効果を検討した。第1の添加剤として、オレイン酸アミド(花王株式会社)及びエルカ酸アミド(東京化成工業株式会社)を用い、第2の添加剤として、ステアリン酸アミド(花王株式会社)及びパルミチン酸アミド(東京化成工業株式会社)を用いた。取り込み能の測定は、磁性粒子を固相として用いるELISA法に基づいて、全自動免疫測定装置HI-1000(シスメックス株式会社)により行った。
【0141】
(1) リポタンパク質を含む試料
健常者の血清(0.1 mL)に等量の22%ポリエチレングリコール4000(富士フイルム和光純薬株式会社)を混合して、懸濁液を得た。得られた懸濁液を室温にて20分間静置した後、3000 rpmで15分間室温にて遠心分離した。得られた上清をHDL画分として回収した。回収したHDL画分を複数のアリコートに分け、測定に用いるまで凍結保存した。
【0142】
(2) 試薬
(2.1) 試料希釈用試薬
試料希釈用試薬の組成は、次のとおりであった:0.02%(v/v)ノニオンK-230(日油株式会社)、0.018%(v/v)プルロニックP84(BASF社)、及びPIPES緩衝液。
【0143】
(2.2) R1試薬(標識ステロールを含む溶液)
添加剤を含むR1試薬の組成は、次のとおりであった:0.003%(w/v)添加剤、1%(v/v)プルロニックF68(Thermo社)、0.3%(v/v)リピジュア(商標)SF08(日油株式会社)、1mMメチル-β-シクロデキストリン、0.05%(v/v)リポソーム、0.008%(v/v)ノニオンK-230、1μMビオチン付加コレステロール、及びPBS。添加剤は、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、ステアリン酸アミド及びパルミチン酸アミドのいずれか1つであった。対照として、添加剤を含まないこと以外は上記と同じ組成のR1試薬を調製した。リポソームの組成は、2mMジミリストイルホスファチジルグリセロール、2mMコレステロール及び4mM水素添加大豆ホスファチジルコリンであった。PBSは、Phosphate buffered saline tablet (Sigma-Aldrich社)を水に溶解して調製した。ビオチン付加コレステロール(PEG7-Biotin)は、特許文献1を参照して調製した。
【0144】
(2.3) R2試薬(第1の捕捉体が固定化された固相)
R2試薬として、抗ApoAI抗体が固定化された磁性粒子を調製した。具体的には次のとおりである。磁性粒子に対しWSC(Dojindo)及びNHS(キシダ化学株式会社)を添加し、続いて抗ApoA1抗体(clone 8E10)を添加することで、磁性粒子表面のカルボキシ基に抗ApoA1抗体を結合させた。これにより、R2試薬として、抗ApoAI抗体が固定化された磁性粒子を含む懸濁液を得た。
【0145】
(2.3) R3試薬(第2の標識を有する第2の捕捉体)
R3試薬として、アルカリホスファターゼ(ALP)標識ストレプトアビジン溶液(Vector Laboratories社)を用いた。
【0146】
(2.4) R4試薬(測定用緩衝液)及びR5試薬(基質溶液)
R4試薬として、HISCL R4試薬(シスメックス株式会社)を用いた。R5試薬として、ALPの化学発光基質であるCDP-Star(登録商標)(アプライドバイオシステムズ社)を含むHISCL R5試薬(シスメックス株式会社)を用いた。
【0147】
(3) 標識ステロールを取り込んだリポタンパク質の調製
(3.1) 試料の希釈
上記のHDL画分から一部を取り、ApoAI測定用キット(N-アッセイ TIA ApoAI-H、ニットーボーメディカル株式会社)を用いてApoAI濃度を測定した。濃度測定の具体的な操作は、該キットに添付のマニュアルに従って行った。測定後、HDL画分を試料希釈用試薬で希釈して、ApoAI濃度が1,000 ng/mLのHDL画分含有希釈液を調製した。
【0148】
(3.2) 添加剤の存在下でのHDLと標識ステロールとの混合
各添加剤を含むR1試薬を全自動免疫測定装置HI-1000(シスメックス株式会社)にセットした。1時間又は70時間の経過後、添加剤を含むR1試薬(90μL)にHDL画分含有希釈液(10μL)を添加して混合し、37℃にて1分間静置した。これにより、添加剤の存在下でHDLとビオチン付加コレステロールとを接触させて、HDLによるビオチン付加コレステロールの取り込み反応を促し、測定用試料を得た。また、添加剤を含まないR1試薬を用いて、同様にして測定用試料を得た。
【0149】
(4) 磁性粒子上でのHDLと抗ApoAI抗体との複合体の形成
測定用試料(100μL)を含むキュベットにR2試薬(30μL)を添加して、37℃で6分間反応させた。反応液中の磁性粒子を集磁して上清を除去し、0.1%(v/v)プルロニックF68/PBSを添加して、磁性粒子を洗浄した。この洗浄操作を合計3回行った。そして、磁性粒子を集磁して上清を除去した。ビオチン付加コレステロールを取り込んだHDLと抗ApoI抗体との複合体が固定された磁性粒子にR3試薬(100μL)を添加して、37℃で9分間反応させた。反応液中の磁性粒子を集磁して上清を除去し、0.1%(v/v)プルロニックF68/PBSを添加して、磁性粒子を洗浄した。この洗浄操作を合計3回行った。
【0150】
(5) HDLのコレステロール取り込み能の測定
洗浄後、磁性粒子を集磁して上清を除去した。磁性粒子を含むキュベットにHISCL R4試薬(50μL)及びR5試薬(100μL)を添加し、37℃で5分間反応させた。反応後、化学発光強度を測定した。測定の再現性の検討するため、上記(1)で得たHDL画分を用いて、上記と同様にして、HDL画分含有希釈液の調製からコレステロール取り込み能の測定までを10回繰り返して行った。10回の測定で得られた化学発光強度からを変動係数(CV)の値を算出した。表1に、各添加剤を用いた10回の測定のCV値(%)を示す。表中、「1時間後」及び「70時間後」は、R1試薬を装置にセットしてからの経過時間を示す。
【0151】
【表1】
【0152】
(6) 結果
表1に示されるように、添加剤を含まないR1試薬を用いた場合、10回の測定のCV値は14%以上であった。添加剤を含むR1試薬を用いることで、添加剤を含まないR1試薬を用いた場合に比べて、CV値が低下した。CV値が小さいほど、測定値のばらつきが小さいことを表す。特に、炭素-炭素不飽和結合を有する炭化水素鎖を含む化合物であるオレイン酸アミド及びエルカ酸アミドを含むR1試薬を用いた場合は、CV値が顕著に低下した。これらの結果より、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、ステアリン酸アミド及びパルミチン酸アミドは、リポタンパク質のステロール取り込み能の測定の再現性を向上することが示された。また、CV値は、R1試薬を装置にセットしてから1時間後と70時間後との間で、大きな変化は認められなかった。よって、取り込み能の測定の再現性は、R1試薬の調製からの経過時間の影響をほとんど受けないことが示唆された。
【0153】
実施例2: 添加剤の効果の検討(2)
添加剤を含む試薬を用いて、リポタンパク質のコレステロール取り込み能を測定して、測定の再現性に対する効果を検討した。添加剤として、オレイン酸アミド(花王株式会社)、パルミトレイルアルコール(Sigma社)及びオレイルアミン(東京化成工業株式会社)を用いた。取り込み能の測定は、実施例1と同様にして行った。
【0154】
(1) 試料及び試薬
リポタンパク質を含む試料として、実施例1で調製したHDL画分を用いた。試料希釈用試薬、R2試薬、R3試薬、R4試薬及びR5試薬は、実施例1と同じであった。添加剤を含むR1試薬の組成は、次のとおりであった:0.005%(w/v)添加剤、1%(v/v)プルロニックF68、0.3%(v/v)リピジュア(商標)SF08、1mMメチル-β-シクロデキストリン、0.05%(v/v)リポソーム、0.008%(v/v)ノニオンK-230、1μMビオチン付加コレステロール、及びPBS。添加剤は、オレイン酸アミド、パルミトレイルアルコール及びオレイルアミンのいずれか1つであった。リポソームの組成は実施例1と同じであった。また、実施例1と同様にして、添加剤を含まないR1試薬を調製した。
【0155】
(2) 標識ステロールを取り込んだリポタンパク質の調製
実施例1と同様にして、HDL画分を試料希釈用試薬で希釈して、ApoAI濃度が1,000 ng/mLのHDL画分含有希釈液を調製した。各添加剤を含むR1試薬をHI-1000にセットした。12日間の経過後、実施例1と同様にして、R1試薬とHDL画分含有希釈液とを混合して、測定用試料を得た。また、添加剤を含まないR1試薬を用いて、同様にして測定用試料を得た。
【0156】
(3) 固相上での複合体の形成、及び取り込み能の測定
実施例1と同様にして、測定用試料とR2試薬とを反応させ、磁性粒子を集磁及び洗浄した。そして、複合体が固定された磁性粒子とR3試薬とを反応させ、磁性粒子を集磁及び洗浄した。洗浄後、磁性粒子を集磁して上清を除去した。実施例1と同様にして、磁性粒子と、HISCL R4試薬及びR5試薬とを反応させて、化学発光強度を測定した。測定の再現性の検討するため、HDL画分含有希釈液の調製からコレステロール取り込み能の測定までを10回繰り返して行った。10回の測定で得られた化学発光強度からCV値(%)を算出した。表2に、各添加剤を用いた10回の測定のCV値(%)を示す。表中、「12日後」は、R1試薬を装置にセットしてからの経過時間を示す。
【0157】
【表2】
【0158】
(4) 結果
表2より、実施例1の結果と同様に、オレイン酸アミドを含むR1試薬を用いることで、10回の測定のCV値が顕著に低下した。また、添加剤として、パルミトレイルアルコール及びオレイルアミンを含むR1試薬を用いた場合も、CV値が顕著に低下した。これらの結果より、添加剤は、炭素-炭素不飽和結合を有する炭化水素鎖を含む酸アミドだけでなく、そのような炭化水素鎖を含むアルコール及びアミンであっても、リポタンパク質のステロール取り込み能の測定の再現性を向上することが示された。
【0159】
実施例3: 添加剤の効果の検討(3)
添加剤を含む試薬を用いて、リポタンパク質のコレステロール取り込み能を測定して、測定の再現性に対する効果を検討した。添加剤として、オレイン酸アミド(花王株式会社)、オレイルアルコール(東京化成工業株式会社)、シス-4-デセン-1-オル(東京化成工業株式会社)及びエライジルアルコール(東京化成工業株式会社)を用いた。取り込み能の測定は、実施例1と同様にして行った。
【0160】
(1) 試料及び試薬
リポタンパク質を含む試料として、実施例1で調製したHDL画分を用いた。試料希釈用試薬、R2試薬、R3試薬、R4試薬及びR5試薬は、実施例1と同じであった。添加剤を含むR1試薬の組成は、次のとおりであった:0.005%(w/v)添加剤、1%(v/v)プルロニックF68、0.3%(v/v)リピジュア(商標)SF08、1mMメチル-β-シクロデキストリン、0.05%(v/v)リポソーム、0.008%(v/v)ノニオンK-230、1μMビオチン付加コレステロール、及びPBS。添加剤は、オレイン酸アミド、オレイルアルコール、シス-4-デセン-1-オル及びエライジルアルコールのいずれか1つであった。リポソームの組成は実施例1と同じであった。また、実施例1と同様にして、添加剤を含まないR1試薬を調製した。
【0161】
(2) 標識ステロールを取り込んだリポタンパク質の調製
実施例1と同様にして、HDL画分を試料希釈用試薬で希釈して、ApoAI濃度が1,000 ng/mLのHDL画分含有希釈液を調製した。各添加剤を含むR1試薬をHI-1000にセットした。40時間の経過後、実施例1と同様にして、R1試薬とHDL画分含有希釈液とを混合して、測定用試料を得た。また、添加剤を含まないR1試薬を用いて、同様にして測定用試料を得た。
【0162】
(3) 固相上での複合体の形成、及び取り込み能の測定
実施例1と同様にして、測定用試料とR2試薬とを反応させ、磁性粒子を集磁及び洗浄した。そして、複合体が固定された磁性粒子とR3試薬とを反応させ、磁性粒子を集磁及び洗浄した。洗浄後、磁性粒子を集磁して上清を除去した。実施例1と同様にして、磁性粒子と、HISCL R4試薬及びR5試薬とを反応させて、化学発光強度を測定した。測定の再現性の検討するため、HDL画分含有希釈液の調製からコレステロール取り込み能の測定までを10回繰り返して行った。10回の測定で得られた化学発光強度からCV値(%)を算出した。表3に、各添加剤を用いた10回の測定のCV値(%)を示す。表中、「40時間後」は、R1試薬を装置にセットしてからの経過時間を示す。
【0163】
【表3】
【0164】
(4) 結果
表3より、実施例1の結果と同様に、オレイン酸アミドを含むR1試薬を用いることで、10回の測定のCV値が顕著に低下した。また、添加剤として、オレイルアルコール、シス-4-デセン-1-オル及びエライジルアルコールを含むR1試薬を用いた場合も、CV値が顕著に低下した。ここで、オレイルアルコールとエライジルアルコールとは、幾何異性体である。上記の結果から、炭素-炭素不飽和結合を有する炭化水素鎖を含む化合物は、シス体及びトランス体のいずれであってもよいことが示唆された。また、シス-4-デセン-1-オルは、炭素数10の炭化水素鎖を有し、シス-4-デセン-1-オル以外の添加剤は、炭素数18の炭化水素鎖を有する。上記の結果から、炭素-炭素不飽和結合を有する炭化水素鎖は、主鎖の炭素数が約10であればよいことが示唆された。比較のため、表4に、実施例1~3の結果(CV値(%))をまとめた。
【0165】
【表4】
【0166】
実施例4: 試料希釈用試薬への添加剤の添加
試料希釈用試薬に添加剤を添加しても、R1試薬に添加剤を添加した場合と同様に、リポタンパク質のコレステロール取り込み能の測定の再現性が向上するかを検討した。添加剤として、オレイン酸アミド(花王株式会社)を種々の濃度で用いた。取り込み能の測定は、実施例1と同様にして行った。
【0167】
(1) 試料及び試薬
リポタンパク質を含む試料として、実施例1で調製したHDL画分を用いた。添加剤を含む試料希釈用試薬の組成は、次のとおりであった:0.005%(w/v)、0.01%(w/v)又は0.02%(w/v)オレイン酸アミド、0.02%(v/v)ノニオンK-230(日油株式会社)、0.018%(v/v)プルロニックP84(BASF社)、及びPIPES緩衝液。R1試薬として、実施例1と同様にして、添加剤を含まないR1試薬を調製した。R2試薬、R3試薬、R4試薬及びR5試薬は、実施例1と同じであった。
【0168】
(2) 標識ステロールを取り込んだリポタンパク質の調製
添加剤を含む試料希釈用試薬を用いること以外は、実施例1と同様にHDL画分を希釈して、ApoAI濃度が1,000 ng/mLのHDL画分含有希釈液を調製した。R1試薬をHI-1000(シスメックス株式会社)にセットした。24時間の経過後、実施例1と同様にして、R1試薬とHDL画分含有希釈液とを混合して、測定用試料を得た。
【0169】
(3) 固相上での複合体の形成、及び取り込み能の測定
実施例1と同様にして、測定用試料とR2試薬とを反応させ、磁性粒子を集磁及び洗浄した。そして、複合体が固定された磁性粒子とR3試薬とを反応させ、磁性粒子を集磁及び洗浄した。洗浄後、磁性粒子を集磁して上清を除去した。実施例1と同様にして、磁性粒子と、HISCL R4試薬及びR5試薬とを反応させて、化学発光強度を測定した。測定の再現性の検討するため、HDL画分含有希釈液の調製からコレステロール取り込み能の測定までを5回繰り返して行った。5回の測定で得られた化学発光強度からCV値(%)を算出した。表5に、各添加剤を用いた5回の測定のCV値(%)を示す。
【0170】
【表5】
【0171】
(4) 結果
表5より、オレイン酸アミドを含む試料希釈用試薬を用いることで、CV値が顕著に低下した。よって、添加剤を試料希釈用試薬に添加した場合も、リポタンパク質のステロール取り込み能の測定の再現性を向上することが示された。
【0172】
実施例5: 添加剤の濃度の検討
取り込み能の測定の再現性を向上させるのに最適な添加剤の濃度を検討した。添加剤として、オレイン酸アミド(花王株式会社)及びエルカ酸アミド(東京化成工業株式会社)をそれぞれ種々の濃度でR1試薬又は試料希釈用試薬に添加した。取り込み能の測定は、実施例1と同様にして行った。
【0173】
(1) 試料及び試薬
リポタンパク質を含む試料として、実施例1で調製したHDL画分を用いた。R2試薬、R3試薬、R4試薬及びR5試薬は、実施例1と同じであった。
【0174】
オレイン酸アミドを含む試料希釈用試薬の組成は、次のとおりであった:177.9μM、355.9μM、711.7μM、1067.6μM又は1779.4μMオレイン酸アミド、0.02%(v/v)ノニオンK-230、0.018%(v/v)プルロニックP84、及びPIPES緩衝液。また、実施例1と同様にして、添加剤を含まない試料希釈用試薬を調製した。
【0175】
オレイン酸アミドを含むR1試薬の組成は、次のとおりであった:26.7μM、53.4μM、106.8μM、160.1μM、249.1μM、320.3μM又は391.5μMオレイン酸アミド、1%(v/v)プルロニックF68、0.3%(v/v)リピジュア(商標)SF08、1mMメチル-β-シクロデキストリン、0.05%(v/v)リポソーム、0.008%(v/v)ノニオンK-230、1μMビオチン付加コレステロール、及びPBS。リポソームの組成は実施例1と同じであった。
【0176】
エルカ酸アミドを含むR1試薬の組成は、次のとおりであった:14.8μM、44.4μM、147.9μM、221.9μM又は295.9μMエルカ酸アミド、1%(v/v)プルロニックF68、0.3%(v/v)リピジュア(商標)SF08、1mMメチル-β-シクロデキストリン、0.05%(v/v)リポソーム、0.008%(v/v)ノニオンK-230、1μMビオチン付加コレステロール、及びPBS。リポソームの組成は実施例1と同じであった。
【0177】
(2) 標識ステロールを取り込んだリポタンパク質の調製
(2.1) 添加剤を含むR1試薬を用いた場合
実施例1と同様にして、添加剤を含まない試料希釈用試薬でHDL画分を希釈して、ApoAI濃度が1,000 ng/mLのHDL画分含有希釈液を調製した。各添加剤を含むR1試薬をHI-1000にセットした。26時間の経過後、実施例1と同様にして、添加剤の存在下でHDLとビオチン付加コレステロールとを接触させて、測定用試料を得た。
【0178】
(2.2) 添加剤を含む試料希釈用試薬を用いた場合
オレイン酸アミドを含む試料希釈用試薬を用いること以外は、実施例1と同様にHDL画分を希釈して、ApoAI濃度が1,000 ng/mLのHDL画分含有希釈液を調製した。添加剤を含まないR1試薬をHI-1000(シスメックス株式会社)にセットした。24時間の経過後、実施例1と同様にして、R1試薬とHDL画分含有希釈液とを混合して、測定用試料を得た。
【0179】
(3) 固相上での複合体の形成、及び取り込み能の測定
実施例1と同様にして、測定用試料とR2試薬とを反応させ、磁性粒子を集磁及び洗浄した。そして、複合体が固定された磁性粒子とR3試薬とを反応させ、磁性粒子を集磁及び洗浄した。洗浄後、磁性粒子を集磁して上清を除去した。実施例1と同様にして、磁性粒子と、HISCL R4試薬及びR5試薬とを反応させて、化学発光強度を測定した。測定の再現性の検討するため、HDL画分含有希釈液の調製からコレステロール取り込み能の測定までを5回繰り返して行った。5回の測定で得られた化学発光強度からCV値(%)を算出した。表6~8に、各試薬を用いた測定のCV値(%)を示す。表中、「R1試薬の添加後の濃度」は、リポタンパク質を含む試料(HDL画分)と試料希釈用試薬とR1試薬との混合液である測定用試料における添加剤の濃度を示す。また、「R2試薬の添加後の濃度」は、測定用試料とR2試薬との混合液における添加剤の濃度を示す。
【0180】
【表6】
【0181】
【表7】
【0182】
【表8】
【0183】
表6~8に示される結果より、いずれの濃度であっても測定の再現性向上の効果が認められた。
【符号の説明】
【0184】
10: 測定用試薬又は安定化試薬を収容した容器
20、30、40、50: 試薬キット
21、31、41、51: 第1容器
22、32、42、52: 第2容器
33、43、53: 第3容器
34、44、54: 第4容器
45、55: 第5容器
56: 第6容器
11、23、35、46、57: 梱包箱
12、24、36、47、58: 添付文書
図1A
図1B
図2A
図2B
図2C