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特許7477957難燃性シクロオレフィン系樹脂成形体製造方法
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  • 特許-難燃性シクロオレフィン系樹脂成形体製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-23
(45)【発行日】2024-05-02
(54)【発明の名称】難燃性シクロオレフィン系樹脂成形体製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 65/00 20060101AFI20240424BHJP
   C08J 5/00 20060101ALI20240424BHJP
   B29C 45/00 20060101ALI20240424BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20240424BHJP
   C08G 61/08 20060101ALI20240424BHJP
【FI】
C08L65/00
C08J5/00 CEZ
B29C45/00
C08K3/22
C08G61/08
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019197610
(22)【出願日】2019-10-30
(65)【公開番号】P2021070742
(43)【公開日】2021-05-06
【審査請求日】2022-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000000077
【氏名又は名称】アキレス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077573
【弁理士】
【氏名又は名称】細井 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100123009
【弁理士】
【氏名又は名称】栗田 由貴子
(72)【発明者】
【氏名】薄井 亨一
【審査官】三宅 澄也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/018505(WO,A1)
【文献】特開2010-235699(JP,A)
【文献】特開昭63-122726(JP,A)
【文献】特開2008-006590(JP,A)
【文献】特開平11-279314(JP,A)
【文献】特開2010-084043(JP,A)
【文献】国際公開第2013/137175(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/020085(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08K
C08G
C08J
B29C
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シクロオレフィン系樹脂を重合してなる樹脂骨格を有し、
メタセシス触媒、メタセシス触媒活性剤、臭素系難燃剤、および三酸化アンチモンを含む難燃性シクロオレフィン系樹脂成形体を反応射出成形により製造する方法であって、
メタセシス触媒活性剤を含む第1反応液と、
メタセシス触媒を含む第2反応液と、
メチレン-1、2-ビスペンタブロモフェニル、チレン-1、2-ビスペンタブロモフェニルのいずれかまたは組み合わせである臭素系難燃剤、および三酸化アンチモンを含む第3反応液と、を用い、
前記第1反応液、前記第2反応液、および前記第3反応液の少なくとも1つにシクロオレフィン系樹脂を含有させ、
金型の射出口上流側に配置されたミキシングヘッドに対し、
第1反応液槽に充填された前記第1反応液を第1流路から流入させ、
第2反応液槽に充填された前記第2反応液を第2流路から流入させ、かつ
第3反応液槽において充填され撹拌された状態にある第3反応液を第3流路から流入させて、
前記ミキシングヘッドで各反応液を混合して混合反応液を調製し、
前記混合反応液を金型に射出し、
前記金型内において前記シクロオレフィン系樹脂を重合させることを特徴とする難燃性シクロオレフィン系樹脂成形体製造方法。
【請求項2】
前記三酸化アンチモンが平均粒子径0.3μm以上0.9μm以下である請求項1に記載の難燃性シクロオレフィン系樹脂成形体製造方法。
【請求項3】
前記第3反応液に熱膨張マイクロカプセルが配合される請求項1または2に記載の難燃性シクロオレフィン系樹脂成形体製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性を有するシクロオレフィン系樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
シクロオレフィン系モノマーを用いる反応射出成形は、大型のシクロオレフィン系樹脂成形体を容易に製造することができる。シクロオレフィン系樹脂成形体は、剛性と耐衝撃性とのバランスが良好であり種々の技術分野において利用が期待されている。特に難燃剤を含む難燃性シクロオレフィン系樹脂成形体は、工業的な利用価値が高く、その提供が期待されている。
【0003】
シクロオレフィン系樹脂成形体に用いられる難燃剤としては、水酸化マグネシウム等の無機系難燃剤、ハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤および臭素系難燃剤などが知られている。中でも臭素系難燃剤は、高い難燃性を付与可能であり、その使用が検討されている。
【0004】
たとえば、特許文献1には、難燃剤として臭素化ポリスチレンを含むシクロオレフィン系樹脂成形体が提案されている。臭素化ポリスチレンは、シクロオレフィン系樹脂材料に溶解する溶解型難燃剤であるため、分散性に優れ、シクロオレフィン系樹脂成形体に対し、部分的な偏りなく難燃性を付与することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平08-41177号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、溶解型臭素系難燃剤に微量の不純物が入っていた場合、難燃成分とともに不純物がシクロオレフィン系樹脂材料に溶出して分散し、その結果、樹脂の硬化反応が阻害され硬化不良が引き起こされる場合があった。硬化不良が生じた場合、製造されたシクロオレフィン系樹脂成形体の重合度が低下し、当該成形体の表面にべたつきが発生する等の不具合が発生する。
【0007】
また、工業的にシクロオレフィン系樹脂成形体を製造する場合、用いる難燃剤のロットは例えば1トン単位等の多量である。反応射出成形において、不純物の分散に起因すると思われる硬化不良が一度でも確認された場合には、該当のロットを全て処分する必要があり、経済的な不利益も大きい。
【0008】
本発明は上述のような課題に鑑みてなされたものである。即ち、本発明は、難燃性に優れ、かつ難燃剤由来の不純物により発生する硬化不良が防止され、表面にべたつき等のない難燃性シクロオレフィン系樹脂成形体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の難燃性シクロオレフィン系樹脂成形体製造方法は、クロオレフィン系樹脂を重合してなる樹脂骨格を有し、メタセシス触媒、メタセシス触媒活性剤、臭素系難燃剤、および三酸化アンチモンを含む難燃性シクロオレフィン系樹脂成形体を反応射出成形により製造する方法であって、メタセシス触媒活性剤を含む第1反応液と、メタセシス触媒を含む第2反応液と、メチレン-1、2-ビスペンタブロモフェニル、エチレン-1、2-ビスペンタブロモフェニルのいずれかまたは組み合わせである臭素系難燃剤、および三酸化アンチモンを含む第3反応液と、を用い、上記第1反応液、上記第2反応液、および上記第3反応液の少なくとも1つにシクロオレフィン系樹脂を含有させ、金型の射出口上流側に配置されたミキシングヘッドに対し、第1反応液槽に充填された上記第1反応液を第1流路から流入させ、第2反応液槽に充填された上記第2反応液を第2流路から流入させ、かつ第3反応液槽において充填され撹拌された状態にある第3反応液を第3流路から流入させて、上記ミキシングヘッドで各反応液を混合して混合反応液を調製し、上記混合反応液を金型に射出し、上記金型内において上記シクロオレフィン系樹脂を重合させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、難燃性が良好であり、かつ表面のべたつき等がないシクロオレフィン樹脂を提供することがでる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】製造方法1に用いられる反応射出成形用装置の説明図である。
図2】製造方法2に用いられる反応射出成形用装置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の難燃性シクロオレフィン系樹脂成形体(以下、単に本発明の樹脂成形体ともいう)は、射出成形で成形された樹脂成形体である。本発明の樹脂成形体は、シクロオレフィン系樹脂を重合してなる樹脂骨格を有し、メタセシス触媒、メタセシス触媒活性剤、臭素系難燃剤、および三酸化アンチモンを含んで構成される。本発明において、上記臭素系難燃剤は、シクロオレフィン系樹脂材料に対し非溶解性である非溶解型臭素系難燃剤である。
【0013】
射出成形により樹脂成形体を形成する場合、任意のタイミングで樹脂成形体を構成する複数の組成が混合される。特に液体原料をミキシングヘッド内で混合し、金型内に流し込んで反応させ硬化させることで所定形状の樹脂成形体を形成する反応射出成形(Reaction Injection Molding;以下、単にRIMともいう)では、各組成が良好に混合され得る。そのため、可溶性の難燃剤に不純物が混在していると、当該不純物が樹脂材料全体に分散してしまい、重合反応(硬化反応)を阻害し樹脂成形体の成形不良が発生するという問題があった。これに対し、本発明の樹脂成形体は、含有される難燃剤がシクロオレフィン系樹脂材料に対し非溶解性であるため、そのような問題が生じない。したがって本発明は、難燃性が示されるとともに、表面にべたつき等がないシクロオレフィン樹脂成形体を提供することができる。また本発明は、非溶解型臭素系難燃剤を用いるため、難燃剤由来の不純物が樹脂材料中に分散することに起因して、当該難燃剤をロット単位で処分するといった経済的不利益の発生も防止することができる。
【0014】
非溶解型臭素系難燃剤は、溶解型臭素系難燃剤と比較すると、樹脂材料中における分散性に劣るため、一般的には、非溶解型臭素系難燃剤を用いてなる樹脂成形体は難燃性が不充分であり、また難燃性の程度が部分的に偏る場合がある。これに対し、本発明の樹脂成形体は、非溶解型臭素系難燃剤と三酸化アンチモンとを併用し、非溶解型臭素系難燃剤を用いたことによる難燃性の低下をカバーし、難燃性の良好なシクロオレフィン系樹脂成形体を提供可能である。
以下に、本発明の樹脂成形体についてさらに詳細に説明する。
【0015】
射出成形:
本発明は、射出成形で成形された樹脂成形体である。本発明に関し、射出成形方法の詳細は限定されないが、特にRIMは、原料が液体のため、低い射出圧でも型内に樹脂をスムーズに流し込むことができ、大型成形品の製造に好ましい。従来は、RIMで難燃性の大型樹脂成形体を製造する場合には、分散性が不充分と認識されていた非溶解型臭素系難燃剤の使用は困難であった。これに対し、本発明は、RIMにおいても非溶解型臭素系難燃剤が良好に分散された樹脂成形体を提供可能であり、優れた難燃性を示す大型樹脂成形体を提供することができる。ここでいう大型樹脂成形体とは、特に寸法を限定されるものではないが、たとえば最大長が70cm以上、さらには100cm以上、300cm程度までの大型樹脂成形体を含む。上記最大長とは、樹脂成形体と対向した際に平面視において確認できる最大の長さ部分をいい、一方の外縁部から最も遠くに位置する他方の外縁部までの距離であって上記平面視において確認される最大距離を指す。
【0016】
シクロオレフィン系樹脂:
本発明の樹脂成形体は、シクロオレフィン系樹脂を重合してなる樹脂骨格を備える。ここでシクロオレフィン系樹脂とは、メタセシス触媒系で重合可能な環状オレフィン化合物であればよく、シクロオレフィン系モノマーおよび/またはシクロオレフィン系オリゴマーを含む。またシクロオレフィン系樹脂からなる樹脂骨格とは、上記シクロオレフィン系樹脂から構成された重合物を指す。上記樹脂骨格は、シクロオレフィン樹脂が開環反応により開環してなる開環構造を有していてもよいし、シクロオレフィン系樹脂由来の環状構造の一部を維持していてもよい。
【0017】
上記シクロオレフィン系樹脂としては、たとえば、ジシクロペンタジエン、およびテトラシクロドデセンなどを含む多環の環状オレフィン類だけでなく、単環の環状オレフィン類または多環状若しくは単環状のジオレフィンなどであってもよい。
上記シクロオレフィン系樹脂は、アルキル基、アルケニル基、アルキリデン基、極性基等の置換基を有していてもよい。
【0018】
本発明の樹脂成形体を構成するシクロオレフィン系樹脂は1種であってもよいし、2種以上の組合せであってもよい。
たとえば、本発明の樹脂成形体において、ジシクロペンタジエン(シクロオレフィン系モノマー1)と、他のシクロオレフィン系樹脂(シクロオレフィン系モノマー2)との組み合わせは好ましい態様の一つといえる。かかる態様において、質量比に関し、シクロオレフィン系モノマー1:シクロオレフィン系モノマー2は、50:50~97:3であることが好ましく、70:30~95:5であることがより好ましく、80:20~92:8であることが更に好ましい。
中でも上記質量比の範囲において、シクロオレフィン系モノマー1としてジシクロペンタジエンを用い、かつシクロオレフィン系モノマー2としてエチリデンノルボルネンを用いて成形された難燃性シクロオレフィン系樹脂成形体は好ましい。かかる組み合わせが好ましい理由は明らかではないが、当該組み合わせの樹脂材料を含む反応液は、液状化の状態が非常に良好であり、特にRIMに適する。当該組み合わせによれば、後述するミキシングヘッドにおける撹拌時の非溶解型臭素系難燃剤の分散性が良好であるとともに、樹脂の重合性にも優れることから、難燃性および重合性に特に優れた樹脂成形体を提供できるものと思われる。
【0019】
特に耐衝撃性、耐低温特性を有しているという観点から、シクロオレフィン系樹脂として、ジシクロペンタジエンを含むことが好ましい。
【0020】
メタセシス触媒:
本発明の樹脂成形体は、メタセシス触媒を含む。上記メタセシス触媒とは、シクロオレフィン系樹脂の重合反応を促進可能な触媒であり、開環メタセシス重合反応を促進する化合物を含む。
上記メタセシス触媒は、たとえば、タングステン、モリブデン、レニウム、もしくはタンタル等の金属原子をいずれか1以上を含むハロゲン化物、オキシハロゲン化物、酸化物、アンモニウム塩、またはヘテロポリ酸などから選択される少なくとも1種が含まれる化合物が挙げられる。例えば本明細書において、タングステン系メタセシス触媒とは、金属原子としてタングステンを含む上述に例示された化合物を指す。モリブデン系メタセシス触媒等も同様である。
【0021】
本発明の樹脂成形体におけるメタセシス触媒の含有量は特に限定されないが、たとえば、樹脂成形体を構成するシクロオレフィン系モノマー単位とメタセシス触媒中の金属原子のモル比で、シクロオレフィン系モノマー単位1に対し、メタセシス触媒中の金属原子が0.000002以上0.0001以下であることが好ましい。メタセシス触媒が、0.000002未満であると、メタセシス重合反応の促進が充分になされない場合があり、0.0001を超えた場合、実質的に重合反応の必要な触媒量を超え経済的に不利益がある。尚、シクロオレフィン系モノマー単位とは、本発明の樹脂成形体を構成するシクロオレフィンの重合物をモノマー単位に換算した場合のモル数を意味する。
【0022】
メタセシス触媒活性剤
本発明の樹脂成形体は、上述するメタセシス触媒とともに、メタセシス触媒活性剤を含む。これによってメタセシス重合反応が良好に促進され、重合反応が充分に進み、重合性が高く、表面にべたつきなどがない樹脂成形体を提供可能である。
上記メタセシス触媒活性剤とは、メタセシス触媒の触媒反応を活性化させることができる化合物であり、メタセシス重合反応に用いられる公知の触媒から適宜選択することができ、たとえば、アルキルアルミニウム、エチルアルミニウムクロリド若しくはジエチルアルミニウムクロリド等のアルキルアルミニウムハライド、またはアルコキシアルキルアルミニウムハライドなどの有機アルミ化合物などが挙げられる。
【0023】
樹脂成形体におけるメタセシス触媒活性剤の含有量は特に限定されないが、メタセシス触媒中の金属原子とメタセシス触媒活性剤とのモル比で、メタセシス触媒中の金属原子1に対し、メタセシス触媒活性剤が0.5以上10以下の範囲であることが好ましい。メタセシス触媒活性剤が、0.5未満であると、メタセシス重合反応の促進が充分になされない場合があり、10を超えた場合、実質的に重合反応に必要な触媒量を超え経済的不利益が発生し得る。
【0024】
臭素系難燃剤:
本発明の樹脂成形体は、難燃剤として、非溶解型臭素系難燃剤を含む。本発明において非溶解型臭素系難燃剤とは、液状材料であるシクロオレフィン系樹脂材料に対し溶解性を示さない臭素系難燃剤を指す。
上記非溶解型臭素系難燃剤は、本発明の樹脂成形体に難燃性を付与可能な化合物であり、たとえば、メチレン-1、2-ビスペンタブロモフェニルまたはエチレン-1、2-ビスペンタブロモフェニルのいずれかまたは組合せが例示されるがこれに限定されない。
【0025】
中でも、本発明における臭素難燃剤として、エチレン-1、2-ビスペンタブロモフェニルを含むことが好ましく、上記臭素難燃剤が実質的にエチレン-1、2-ビスペンタブロモフェニルであることがより好ましい。
エチレン-1、2-ビスペンタブロモフェニルは、下記化学式1で表される化合物であって、1分子あたりの臭素含有量が82モル%と高く、難燃性に優れる。
(化学式1)
【化1】
【0026】
三酸化アンチモン:
本発明は、上述する臭素系難燃剤とともに三酸化アンチモン(Sb)を含む。上記臭素系難燃剤と三酸化アンチモンとを併用することで良好な難燃性を発揮可能である。特にエチレン-1、2-ビスペンタブロモフェニルと三酸化アンチモンとの組み合わせによれば、良好な難燃性が発揮されるとともに、非溶解型臭素系難燃剤であるエチレン-1、2-ビスペンタブロモフェニルの分散性の改善が図られる。分散性の改善が図られる理由は明らかではないが、三酸化アンチモンおよびエチレン-1、2-ビスペンタブロモフェニルは、顕微鏡観察にて確認される概略形状が球形状である。そのため、両者を併存させた場合に、一次粒子間に空隙が形成され易すく凝集し難い。そのためこれらの組合せによれば、シクロオレフィン系樹脂材料中において分散性が改善されるものと推察される。
ここで一次粒子とは、各化合物を構成する単一の結晶核の成長によって生成した粒子のことを指し、凝集などに、よって生成された集合体(二次粒子)と区別される。
【0027】
本発明に用いられる三酸化アンチモンの粒子径は特に限定されないが、粒子径が小さいほど、良好な難燃性効果を発揮する傾向にある。
一方、三酸化アンチモンは、粒子径が小さいほど毛細管現象で吸湿性が高くなる。本願発明者の検討によれば、粒径の小さい三酸化アンチモンを用いてシクロオレフィン系樹脂の硬化反応を行った場合、水分の影響から反応阻害が生じる虞があり、その結果、樹脂成形体の表面にべたつきが発生する場合があることがわかった。
したがって、シクロオレフィン系樹脂の反応時における反応阻害を抑制しつつ、充分難燃性を発揮させるという観点からは、三酸化アンチモンの平均粒子径は、0.3μm以上0.9μm以下であることが好ましく、0.4μm以上0.8μm以下であることがより好ましい。上記平均粒子径が0.3μm以上であることにより、一次粒子間における凝集の発生が良好に防止され、分散性の改善が図られ得る一方、上記平均粒子径が0.8μm以下であることにより高い難燃性効果が得られる。
なお、ここでいう平均粒子径とは、粒度分布測定のメディアン径である。
【0028】
熱膨張マイクロカプセル:
ところで射出成形により成形されたシクロオレフィン系樹脂成形体は、成形後に熱収縮が発生することが知られている。RIMにより大型の樹脂成形体を成形した際には、特に熱収縮による成形体の形状の予定しない変形が発生する場合がある。
より具体的には、シクロオレフィン系樹脂成形体は、樹脂自体が熱収縮し易く、金型から取り出された成形体の表面に、凹みが発生するという問題があった。
たとえば、成形体の一部にリブ等の肉厚部が設けられた場合、当該肉厚部の表面に「ヒケ」と呼ばれる凹みが発生する傾向にあった。凹みの程度が小さい場合、当該ヒケをパテで埋めて補修し、表面を平滑にするパテ補修で対応する場合があった。一方、凹みの程度が大きい場合には、ヒケをパテで埋めきれず、樹脂成形体を廃棄しなくてはならなかった。
また、上述のような肉厚部がない場合であっても、成形体表面に、凹み深さは僅かであるが比較的大きな面積で凹む、所謂「レイク」と呼ばれる凹みが発生する場合があった。当該レイクも、上述する補修工程により補修し、あるいは、レイクの外縁を削って凹みを目立たなくする研磨補修で対応する場合があった。しかし、凹み深さの程度またはレイクの面積が大きい場合には、研磨補修では対応しきれず、樹脂成形体を廃棄しなくてはならなかった。
【0029】
上記熱収縮の問題を解決するために、本発明の樹脂成形体は、さらに熱膨張マイクロカプセルを含んでいてもよい。シクロオレフィン系樹脂成形体に熱膨張マイクロカプセルを含有させることにより、当該樹脂成形体の内部に気泡が形成される。かかる気泡の存在により樹脂の熱収縮が緩和され、樹脂成形体の表面に現れるヒケやレイクの発生を抑制することが可能である。
【0030】
上記熱膨張マイクロカプセルは、加熱されることによって、外郭を構成する熱可塑性樹脂が軟化し、これによってシクロオレフィン樹脂中に気泡を形成するための部材である。
熱膨張マイクロカプセルの熱膨張開始温度は特に限定されていないが、たとば、100℃以上180℃以下であることが好ましく、110℃以上130℃以下であることがより好ましい。かかる温度範囲であれば、当該マイクロカプセルは、シクロオレフィン樹脂成形体の材料配合時の熱(例えば80℃程度)では膨張せず、金型内における成形時の熱(例えば200℃程度)で膨張するため、これによって樹脂成形体内に当該マイクロカプセルよりなる気泡が良好に形成されるからである。
【0031】
上記熱膨張マイクロカプセルは、外郭がアクリロニトリル、メタアクリロニトリル、アクリル酸エステル、およびメタクリル酸エステルなどの(メタ)アクリロイル基を有する樹脂、スチレン系樹脂、塩化ビニリデン系樹脂、並びに酢酸ビニル系樹脂等からなる群から選択されたいずれかの樹脂若しくは組合せ、または上記群から選択された2以上の樹脂の共重合体である熱可塑性樹脂を含んで構成されていることが好ましい。
また外郭がポリプロピレン系樹脂からなるポリプロピレンビースや、外郭がポリエチレン系樹脂からなるポリエチレンビーズなども熱膨張マイクロカプセルとして用いることができる。
【0032】
なお、本明細書において(メタ)アクリロイル基とは、アクリロイル基およびメタアクリロイル基の2つの官能基の総称として用いるものとする。ここで、上記アクリロイル基は、アクリレート基およびアクリロキシ基を含み、上記メタアクリロイル基はメタクリレート基やメタクリロキシ基を含む。
【0033】
下記の観点からは、熱膨張マイクロカプセルの外殻としては、特に(メタ)アクリロイル基を有する樹脂を含むことが好ましい。
即ち、シクロオレフィン樹脂骨格は、非極性の分子構造を有する。そのため、シクロオレフィン系樹脂成形体の外表面を塗装する際には、外表面に対する塗料の密着性を向上させる目的で、プライマー処理やサンディング処理(凹凸加工処理)を施す場合がある。これに対し、(メタ)アクリロイル基を有する樹脂を含む外殻を有する熱膨張マイクロカプセルを用いた場合、(メタ)アクリロイル基の極性基と塗料に含まれる樹脂の官能基とが水素結合等の一次結合を形成し、外表面に対する塗料の密着性を向上させ得る。
また外郭を構成する樹脂部材の種類に関わらず、熱膨張マイクロカプセルを含有する樹脂成形体は、塗料の密着性が良好となる傾向にある。熱膨張マイクロカプセルの含有によって樹脂成形体の表面に微細な凹凸ができやすく、その結果、後工程において樹脂成形体を塗装した際、塗料の密着性が強くなるからである。
【0034】
上述する熱膨張マイクロカプセルの内部には、加熱により気化膨張可能な化合物が封入されている。上記化合物としては、たとえば、プロパン、ブタン、ノルマルブタン、イソブタン、ペンタン、イソペンタン、ノルマルペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、メチレンクロライド、フロン、トルエン、またはキシレン等の低沸点炭化水素であることが好ましい。
【0035】
本発明に用いられる市販品の熱膨張マイクロカプセルとしては、松本油脂製薬株式会社製「マツモトマイクロスフェアー」シリーズ、アクゾノーベル社製「EXPANCEL」シリーズや積水化学工業社製「ADVANCELL」、大日精化工業社製「ダイフォーム」、アクゾノーベル社製「EXPANCEL」などが例示される。
【0036】
尚、熱膨張マイクロカプセルの替りに炭酸ガスやフロンガス等のそれ自体が気化して発泡する物理発泡剤を使用した場合であっても、シクロオレフィン樹脂成形体中に気泡を形成することができる。しかしこれらの気体は、時間の経過とともに空気との置換現象が生じる。置換現象の際、樹脂成形体の内部から外部に揮発するガスが、樹脂成形体の表面に設けられた樹脂塗膜を破り、あるいは膨らませるため、当該の表面の外観や手触りが劣化する虞がある。一方、熱膨張マイクロカプセルであればそのような問題が発生し難いため好ましい。
【0037】
本発明の樹脂成形体において上記熱膨張マイクロカプセルの含有量は特に限定されない。本発明の樹脂成形体は実質的に発泡樹脂成形体ではないため、熱膨張マイクロカプセルを含有させる場合には、上述する熱収縮の問題を良好に解決できる範囲の適度な量に調整することが好ましい。具体的には、シクロオレフィン樹脂成形体100質量%において、0.05質量%以上3.0質量%以下の範囲で含まれていることが好ましく、0.1質量%以上2.0質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以上1.0質量%以下であることがさらに好ましい。熱膨張マイクロカプセルが、上記範囲の下限を下回ると、樹脂成形体中に形成される気泡の量が少なく熱収縮の緩和が有意に生じない場合があり、上記範囲の上限を上回ると、樹脂成形体の機械的物性が低下する虞がある。
【0038】
難燃性の評価:
本発明の樹脂成形体の難燃性は、UL94燃焼性試験評価に倣い、樹脂成形体から切り出した厚み3mm、縦125mm、横13mmの試験片を用いて評価することができる。
本発明に関する難燃性評価は、樹脂成形体の任意の箇所から所定寸法のサンプルを切り出し、当該サンプルを用い、上述の方法によって実施することができる。本発明の樹脂成形体は、樹脂材料に対し非溶解型であって分散性が悪いとされる非溶解型臭素系難燃剤を用いるにも関わらず、難燃性が良好である。本発明の樹脂成形体は、燃焼性のグレードによって限定されるわけではないが、UL94燃焼性試験において、UL94V-0以上であることが好ましく、UL945VB以上であることがさらに好ましく、UL945VAでることが特に好ましい。
【0039】
特に本発明の樹脂成形体は、RIMによって形成された樹脂成形体であって、難燃性が当該樹脂成形体において部分的に偏りなく優れることが好ましい。
より具体的には、本発明の樹脂成形体は、RIMにより成形された樹脂成形体であって、樹脂成形体の、射出口側端部を含む所定領域AのUL94燃焼性試験評価と、側面視において射出口対向側端部を含む所定領域BのUL94燃焼性試験評価とが、ともにUL94V-0以上であって、かつ、同じグレードであることが好ましい。所定領域Aおよび所定領域Bは後述する図1において参照される。
特には、最大長が70cm以上、さらには100cm以上、300cm程度までの大型のシクロオレフィン系樹脂成形体であって、上記所定領域Aおよび所定領域BのUL94燃焼性試験評価が、ともにUL94V-0以上であって、かつ、同じグレードであることが好ましい。従来、経済的不利益がなく、かつ全体的にバランスよく難燃性が付与された大型の樹脂成形体を提供することは難しかったが、本発明はそのような樹脂成形体を提供することが可能である。
【0040】
上記UL94燃焼試験とはUL規格に規定された試験であって、自己消化性を評価することによって難燃性(材料の燃え難さの程度)を確認するための試験である。グレードは、難燃性が低いものから順に、UL94V-2、UL94V-1、UL94V-0、UL945VB、UL945VAで表される。
【0041】
尚、上述において、射出口側端部とは、金型内に成形された樹脂成形体の、射出口に最も近い端部を意味する。また射出口対向側端部とは、金型内に成形された樹脂成形体の、当該射出口から最も離れた端部を意味する。
また上記所定領域Aとは、射出口側端部から10cmの距離までの領域を指し、所定領域Bとは、射出口対向側端部から10cmの距離までの領域を指す。
【0042】
以下に、本発明の樹脂成形体の製造方法の好ましい例について説明する。ただし、下記に示す製造方法は、何ら本発明を限定するものではなく、本発明の樹脂成形体は、所期の課題を解決する範囲において、種々の製造方法により製造することができる。
【0043】
製造方法1:
製造方法1は、RIMにより難燃性シクロオレフィン系樹脂成形体を製造する方法の一例である。製造方法1の説明には、図1を用いる。図1は、製造方法1で用いるRIM用装置100を側面方向からみた説明図である。
図1に示すとおり、RIM用装置100は、金型110と、第1反応液槽120、第2反応液槽130、第3反応液槽140と、ミキシングヘッド116を備える。第3反応液槽140の内部には、充填された反応液を予備撹拌するための撹拌機構である撹拌羽144が設けられている。尚、上記撹拌機構は、第3反応液槽140に充填された反応液を適度に撹拌することができる機構であればよく、撹拌羽144に限定されない。
第1反応液槽120、第2反応液槽130、第3反応液槽140それぞれは、金型110の射出口112の上流側に配置されたミキシングヘッド116に対し、第1流路122、第2流路132、第3流路142によって連係されている。第1流路122、第2流路132、第3流路142それぞれに、計量ポンプ118が設けられており、これによって、金型110に対する各反応液の注入量を調整することができる。図1に示す金型110の内部には樹脂成形体10が示されている。ここで所定領域Aは、金型110内に成形された樹脂成形体10の、射出口112側端部を含む所定領域を指し、所定領域Bは、射出口112から最も離れた端部である射出口112対向側端部を含む所定領域を指す。上記所定領域とは、具体的には、樹脂成形体10において、射出口112側端部から10cmの距離までの領域を指し、所定領域Bとは、射出口112対向側端部から10cmの距離までの領域を指す。
【0044】
製造方法1は、メタセシス触媒を含む第1反応液と、メタセシス触媒活性剤を含む第2反応液と、非溶解型臭素系難燃剤および三酸化アンチモンを含む第3反応液と、を準備する。
ここで第1反応液、第2反応液、および第3反応液の少なくとも1つにシクロオレフィン系樹脂を含有させ、それぞれ第1反応液槽120、第2反応液槽130、第3反応液槽140に充填する。第3反応液槽140に充填された第3反応液は、撹拌羽144によって予備撹拌され、これによって第3反応液に含有される非溶解型臭素系難燃剤および三酸化アンチモンが沈降するのを防止し良好な分散状態を保つことが肝要である。
尚、熱膨張マイクロカプセルを配合する場合、熱膨張マイクロカプセルは、第一反応液、第二反応液、第三反応液のいずれかまたは全てに配合することができる。たとえば、熱膨張マイクロカプセルを、難燃剤とともに第三反応液に配合することは好ましい態様の一つといえる。難燃剤とともに熱膨張マイクロカプセルを予備撹拌することができ、粒子の沈降を防止することができるからである。
【0045】
上述のとおり、樹脂成形体の製造に用いる液状材料を3種に分けることで、メタセシス触媒、メタセシス触媒活性剤(以下、メタセシス触媒およびメタセシス触媒活性剤を総括して触媒等ともいう)、および非溶解型臭素系難燃剤をそれぞれ分離して管理することができ、事前に難燃剤と触媒等とが反応することを防止し、樹脂の重合反応前における実質的な触媒等の活性低下を防止しつつ、非溶解型の難燃剤の分散性を良好に維持することができる。
【0046】
続いて、金型110の射出口112上流側に配置されたミキシングヘッド116に対し、第1反応液槽120に充填された第1反応液を第1流路122から流入させ、第2反応液槽130に充填された第2反応液を第2流路132から流入させ、かつ第3反応液槽140に充填され撹拌された状態にある第3反応液を第3流路142から流入させて、ミキシングヘッド116で各反応液を撹拌して混合し、混合反応液を調製する。そして、上記混合反応液を60~90℃程度に加温された金型110に注入し、金型110内においてシクロオレフィン系樹脂を重合させることで所定形状の樹脂成形体10を形成する。
【0047】
上述する製造方法1によれば、非溶解型難燃剤の沈降を防止するために、ミキシングヘッド116に流入される直前まで第3反応液を予備撹拌し、これによって難燃剤の分散性を高めるとともに、予備撹拌において非溶解型難燃剤および三酸化アンチモンと、触媒または触媒活性剤とが反応することによって触媒等の活性が低下することを防止することができる。
この結果、樹脂の重合反応時において触媒等の所期の活性が発揮され、望ましい重合反応を可能とし、樹脂成形体10の重合度が低下したことに起因する表面のべたつきの発生が防止されるとともに、樹脂成形体10における難燃剤の分散性を高め、難燃性に偏りのない樹脂成形体を製造することができる。即ち、UL94燃焼性試験評価に関し、所定領域Aおよび所定領域Bにおける難燃評価が、ともにUL94V-0以上であって、かつ、同じ評価である樹脂成形体10を製造することが可能である。
【0048】
製造方法2:
以下に、本発明の樹脂成形体の製造方法2について説明する。製造方法2は、図2に示すRIM用装置200を用いて説明する。図2は、製造方法2で用いるRIM用装置200を側面方向からみた説明図である。
RIM用装置200は、第3反応液槽を有しないこと、および第1反応液槽120および第2反応液槽130それぞれに撹拌機構として撹拌羽124、撹拌羽134が設けられていること以外は、RIM用装置100と同様の構成を備える。尚、製造方法2は、第1反応液槽120および第2反応液槽130のいずれか一方にのみ撹拌羽などの撹拌機構を有する態様であってもよい。
【0049】
製造方法2は、メタセシス触媒を含む第1反応液と、メタセシス触媒活性剤を含む第2反応液と、を準備する。そして、上記第1反応液および第2反応液を用い、下記第1射出工程または第2射出工程を実施し、続いて金型内においてシクロオレフィン系樹脂を重合させることで、難燃性シクロオレフィン系樹脂成形体を形成する。
尚、製造方法2は、図1に示す反応槽を3つ有するRIM用装置100を用い、いずれかの反応槽を閉鎖して、RIM用装置200の代替として使用することもできる。つまり、製造方法1および製造方法2で説明する反応槽120、130、140とは、反応に実際に使用する反応槽を指しており、製造方法1および製造方法2において使用する製造装置が、反応に使用しない閉鎖した反応槽を有していることを除外するものではない。
【0050】
(第1射出工程)
製造方法2における第1射出工程は、第1反応液にメタセシス触媒活性剤、非溶解型臭素系難燃剤および三酸化アンチモンを含有させるとともに、第1反応液および上記第2反応液の少なくともいずれか一方には、シクロオレフィン系樹脂が含有される。
上述のとおり準備された第1反応液および第2反応液を、それぞれ、第1反応液槽120、第2反応液槽130に充填する。ここで、第1反応液槽120に充填された第1反応液を、撹拌羽124によって予備撹拌する。これによって第1反応液に含有される非溶解型臭素系難燃剤および三酸化アンチモンの沈降が防止され、良好な分散状態が保たれる。一方、第2反応液槽130に充填された第2反応液は撹拌しなくてよい。
続いて、撹拌状態にある第1反応液、および第2反応液を、第1流路122および第2流路132を通じてミキシングヘッド116に流入させて混合し、混合反応液を調製する。そして、当該混合反応液が金型110に注入されることで、第1射出工程が完了する。
【0051】
(第2射出工程)
一方、製造方法2における第2射出工程は、第2反応液にメタセシス触媒、非溶解型臭素系難燃剤および三酸化アンチモンを含有させるとともに、第1反応液および第2反応液の少なくともいずれか一方には、シクロオレフィン系樹脂が含有される。
上述のとおり準備された第1反応液および第2反応液を、それぞれ、第1反応液槽120、第2反応液槽130に充填する。ここで、第2反応液槽130に充填された第2反応液を、撹拌羽134によって予備撹拌する。これによって第2反応液に含有される非溶解型臭素系難燃剤および三酸化アンチモンの沈降が防止され、良好な分散状態が保たれる。一方、第1反応液槽120に充填された第1反応液は撹拌しなくてよい。
続いて、第1反応液、および撹拌状態にある第2反応液を、第1流路122および第2流路132を通じてミキシングヘッド116に流入させて混合し、混合反応液を調製する。そして、当該混合反応液が60~90℃程度に加温された金型110に注入されることで、第2射出工程が完了する。
【0052】
第1射出工程または第2射出工程を備える製造方法2は、製造方法1に比べ、取扱う反応液の数および装置の流路が少なく、製造上のメリットがある。また、非溶解型の難燃剤を予備撹拌することによって、当該難燃性の沈降を防止し、シクロオレフィン系樹脂の重合反応時に良好な分散性を維持し易い。
【実施例
【0053】
(実施例1)
以下の組成の第1反応液、第2反応液、および第3反応液を調製した。尚、実施例1は、図1に示すRIM用装置100と同じ構成の装置を用いた。
第1反応液
ジシクロペンタジエン 90質量部
エチリデンノルボルネン 9質量部
アルキルアルミニウム(メタセシス触媒活性剤) 1質量部
第2反応液
ジシクロペンタジエン 89質量部
エチリデンノルボルネン 9質量部
2,6-ジ-ターシャリブチル-4-クレゾール 1質量部
タングステン系メタセシス触媒 1質量部
第3反応液
ジシクロペンタジエン 40質量部
エチリデンノルボルネン 4質量部
エチレンビスペンタブロモフェニル(難燃剤) 40質量部
三酸化アンチモン(平均粒子径0.6μm) 20質量部
尚、上記エチレンビスペンタブロモフェニル(難燃剤)は、アルベマール日本株式会社製SAYTEX8010を用いた。
【0054】
第1反応液、第2反応液、第3反応液を、それぞれ第1反応液槽、第2反応液槽、第3反応液槽に充填した。第3反応液槽は、撹拌羽を回転させ、第3反応液の撹拌状態を維持した。そして、質量比で、第1反応液:第2反応液:第3反応液=1:1:1の比率にてミキシングヘッドに流入させて撹拌し、混合反応液を調製した。そして上記混合反応液を75度に加温された金型内にて樹脂を反応させ硬化させ、これによって縦100cm、横100cm、厚み0.3cmの矩形状の樹脂成形体を得た。
【0055】
(実施例2~4)
表1に示す組成に変更したこと以外は、実施例1と同様に樹脂成形体を作成し、実施例2~4とした。
【0056】
(比較例1、2)
表1に示す組成に変更したこと以外は、実施例1と同様に樹脂成形体を作成し、比較例1、2とした。
【0057】
上述する実施例および比較例において得られた樹脂成形体を以下のとおり評価した。評価結果は、表1に示す。
第一反応液、第二反応液および第三反応液それぞれに含まれるシクロオレフィン系モノマー1、2の総和におけるシクロオレフィン系モノマー単位のモル数と、メタセシス触媒に含まれる金属原子(タングステン)のモル数の比率(モル比)を表1に示す。またメタセシス触媒に含まれる金属原子(タングステン)のモル数と、メタセシス触媒活性剤のモル数との比率(モル比)を表1に示す。
尚、表1において、各実施例における各組成に対する数値は、特段の断りがないものはいずれも「質量部」を示す。
【0058】
(重合性評価)
金型から取り出された樹脂成形体を目視観察するとともに手で触感を確認し、以下のとおり評価した。
○・・・樹脂成形体の外表面において未硬化のゲル状部分およびべたつきがなかった。
△・・・樹脂成形体の外表面において未硬化のゲル状部分はなかったが、部分的にべたつきが観察された。
【0059】
(仕上げ作業性評価)
得られた樹脂成形体に対し、塗装前補修により仕上げ作業を行った。具体的には塗装前補修として、サンディングおよび/またはパテ埋めを実施した。ここで、サンディングとは、紙やすりを用いて成形体表面が平滑になるまで研磨する作業をいう。また、パテ埋めとは、パテを使用して樹脂成形体表面に生じたピンホールや凹状部を埋める、いわゆる肉盛り作業をいう。仕上げ作業は、樹脂成形体表面の平滑性が目視で確認された時点で終了した。
仕上げ作業に要した時間について、比較例1で得られた樹脂成形体と比較して評価した。
○・・・仕上げ作業時間が5%以上短縮できた。
△・・・仕上げ作業時間が2%以上5%未満短縮できた。
【0060】
(燃焼性評価)
得られた樹脂成形体から13mm×125mm×3mmの試験片を5本切り出し、UL94燃焼性試験を行い、以下のとおり燃焼性評価を行った。尚、試験片は、図1に示すA領域より切り出したサンプルAおよびB領域より切り出したサンプルBとした。
◎・・・サンプルAおよびサンプルBの燃焼性評価がいずれも945VBであった。
○・・・サンプルAおよびサンプルBの燃焼性評価がいずれも94V-0以上であった。
△・・・サンプルAおよびサンプルBの燃焼性評価のいずれかが94V-0未満であった。
【0061】
表1に示すとおり、いずれの実施例も重合性評価、および塗装性評価が実用レベルであり、かつ、燃焼性評価も、溶解型臭素系難燃剤を用いた比較例1と同レベルであり、優れた難燃性が確認された。また、実施例は、非溶解型臭素系難燃剤を用いたにもかかわらず、大型の樹脂成形体において、射出口側であるA領域および当該射出口に対向する側(B領域)のいずれにおいても同レベルで高い難燃性を発揮することが確認された。
【0062】
尚、実施例1~3では、実施例4に対し、重合性評価および塗装性評価においてより優れた評価が示された。これは、実施例4に用いた三酸化アンチモンの平均粒子径が0.2μmと小さく、樹脂の重合反応に不利な影響が働いたものと推測された。
【0063】
比較例1は、溶解型臭素系難燃剤を用いたため、難燃性に優れた樹脂成形体が得られたものの、溶解型臭素系難燃剤に含まれていた不純物が樹脂材料に分散したことに起因する重合不良によって重合性評価が不良であったものと推測された。また重合性不良により樹脂成形体の外表面の状態が不良だったため塗装性も不良であった。
【0064】
【表1】
【0065】
上記実施形態は、以下の技術思想を包含するものである。
(1)射出成形で成形された樹脂成形体であって、
シクロオレフィン系樹脂を重合してなる樹脂骨格を有し、
メタセシス触媒、メタセシス触媒活性剤、臭素系難燃剤、および三酸化アンチモンを含み、
前記臭素系難燃剤が、前記シクロオレフィン系樹脂材料に対し非溶解性である非溶解型臭素系難燃剤であることを特徴とする難燃性シクロオレフィン系樹脂成形体。
(2)前記三酸化アンチモンが平均粒子径0.3μm以上0.9μm以下である上記(1)に記載の難燃性シクロオレフィン系樹脂成形体。
(3)前記臭素難燃剤が、エチレン-1、2-ビスペンタブロモフェニルを含む上記(1)または(2)に記載の難燃性シクロオレフィン系樹脂成形体。
(4)前記シクロオレフィン系樹脂が、ジシクロペンタジエンを含む上記(1)~(3)のいずれか一項に記載の難燃性シクロオレフィン系樹脂成形体。
(5)熱膨張マイクロカプセルを含む上記(1)から(4)のいずれか一項に記載の難燃性シクロオレフィン系樹脂成形体。
(6)反応射出成形により成形された樹脂成形体であって、
UL94燃焼試験において、前記樹脂成形体の、射出口側端部を含む所定領域Aの燃焼性と、側面視において射出口対向側端部を含む所定領域Bの燃焼性が、ともにUL94V-0以上であって、かつ同じ評価である上記(1)から(5)のいずれか一項に記載の難燃性シクロオレフィン系樹脂成形体。
(7)反応射出成形により樹脂成形体を製造する製造方法であって、
メタセシス触媒活性剤を含む第1反応液と、
メタセシス触媒を含む第2反応液と、
非溶解型臭素系難燃剤および三酸化アンチモンを含む第3反応液と、を用い、
前記第1反応液、前記第2反応液、および前記第3反応液の少なくとも1つにシクロオレフィン系樹脂を含有させ、
金型の射出口上流側に配置されたミキシングヘッドに対し、
第1反応液槽に充填された前記第1反応液を第1流路から流入させ、
第2反応液槽に充填された前記第2反応液を第2流路から流入させ、かつ
第3反応液槽において充填され撹拌された状態にある第3反応液を第3流路から流入させて、
前記ミキシングヘッドで各反応液を混合して混合反応液を調製し、
前記混合反応液を金型に射出し、
前記金型内において前記シクロオレフィン系樹脂を重合させることを特徴とする難燃性シクロオレフィン系樹脂成形体製造方法。
【符号の説明】
【0066】
10・・・樹脂成形体
100、200・・・RIM用装置
110・・・金型
112・・・射出口
116・・・ミキシングヘッド
118・・・計量ポンプ
120・・・第1反応液槽
122・・・第1流路
130・・・第2反応液槽
132・・・第2流路
140・・・第3反応液槽
142・・・第3流路
124、134、144・・・撹拌羽
A・・・所定領域
B・・・所定領域
図1
図2