(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-23
(45)【発行日】2024-05-02
(54)【発明の名称】超電導コイル装置、および超電導コイルの電流リード構造
(51)【国際特許分類】
H01F 6/06 20060101AFI20240424BHJP
H10N 60/81 20230101ALI20240424BHJP
【FI】
H01F6/06 510
H01F6/06 130
H10N60/81 ZAA
(21)【出願番号】P 2019205013
(22)【出願日】2019-11-12
【審査請求日】2022-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】平山 貴士
【審査官】久保田 昌晴
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-203573(JP,A)
【文献】特開平08-288561(JP,A)
【文献】特開平07-111212(JP,A)
【文献】特開平05-315130(JP,A)
【文献】特開平03-174706(JP,A)
【文献】実開昭56-091411(JP,U)
【文献】実開昭62-157168(JP,U)
【文献】特開2007-005573(JP,A)
【文献】特開2004-207305(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0008187(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 6/00-6/06
H10N 60/80-60/81
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超電導コイルと、
超電導電流リードを備え、前記超電導コイルに接続される電流リード部と、
前記超電導コイルおよび前記超電導電流リードとともに冷却ガスを気密に収容するコイルケースであって、前記超電導電流リードを収容するリード収容パイプと、前記電流リード部を前記コイルケースの外に取り出すために前記リード収容パイプの一端に設けられたフィードスルーと、を備えるコイルケースと、
前記リード収容パイプ内での前記冷却ガスの対流を抑制するように前記リード収容パイプ内に配置され、前記超電導電流リードを前記リード収容パイプに支持する支持構造と、を備え、
前記冷却ガスは、前記コイルケースに封入され
、
前記フィードスルーは、前記リード収容パイプの前記一端を閉塞し気密に封止することを特徴とする超電導コイル装置。
【請求項2】
前記電流リード部は、前記超電導電流リードに接続され、前記コイルケースの外に配置される金属電流リードを備え、前記金属電流リードが前記フィードスルーを形成することを特徴とする請求項1に記載の超電導コイル装置。
【請求項3】
前記支持構造は、前記リード収容パイプ内を複数の区画に分割するように前記超電導電流リードに沿って配置された複数の支持プレートを備え、前記超電導電流リードが前記複数の支持プレートを介して前記リード収容パイプによって支持されることを特徴とする請求項1または2に記載の超電導コイル装置。
【請求項4】
前記コイルケースは、前記超電導コイルを補強するように前記超電導コイルを囲んで配置されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の超電導コイル装置。
【請求項5】
前記超電導コイルは、超電導線材を巻回して形成され、超電導線材間には含浸材を有しないことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の超電導コイル装置。
【請求項6】
前記冷却ガスは、前記冷却ガスが前記コイルケース内で気体状態をとるように定められた圧力で前記コイルケースに封入されていることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の超電導コイル装置。
【請求項7】
前記超電導コイル装置は、伝導冷却式であり、
前記超電導コイルを冷却する極低温冷凍機をさらに備えることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の超電導コイル装置。
【請求項8】
超電導コイルの電流リード構造であって、
超電導電流リードを備え、前記超電導コイルに接続される電流リード部と、
前記超電導電流リードを収容するリード収容パイプと、
前記電流リード部を前記リード収容パイプの外に取り出すために前記リード収容パイプの一端に固定されたフィードスルーと、
前記リード収容パイプ内での冷却ガスの対流を抑制するように前記リード収容パイプ内に配置され、前記超電導電流リードを前記リード収容パイプに支持する支持構造と、を備え、
前記フィードスルーは、前記リード収容パイプの前記一端を閉塞し気密に封止することを特徴とする超電導コイルの電流リード構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導コイル装置、および超電導コイルの電流リード構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、超電導コイルに接続されるガス冷却式の電流リードが知られている。銅などの導体が筒状部材の中に配置され、冷却ガスが筒状部材の中を所定の流路に沿って流れ、それにより導体が冷却される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、超電導電流リードの冷却は、伝導冷却式によることもしばしばある。伝導冷却式では、超電導電流リードに冷却ガスを流す代わりに、超電導電流リードがたとえばギフォード・マクマホン(Gifford-McMahon;GM)冷凍機などの極低温冷凍機と熱的に結合され熱伝導により冷却される。この場合、超電導電流リードは典型的には真空断熱領域に配置されるが、接続される超電導コイルの設計によっては、超電導電流リードが超電導コイルとともにガス雰囲気に配置されるケースもありうる。このようなケースでは、超電導電流リードのまわりのガスが超電導コイルへの入熱を増加させ、超電導コイルの熱的な不安定性を高めるリスクをもたらしうる。
【0005】
本発明のある態様の例示的な目的のひとつは、超電導コイルの熱的安定性を向上することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様によると、超電導コイル装置は、超電導コイルと、超電導電流リードを備え、超電導コイルに接続される電流リード部と、超電導コイルおよび超電導電流リードとともに冷媒を気密に収容するコイルケースであって、超電導電流リードを収容するリード収容パイプと、電流リード部をコイルケースの外に取り出すためにリード収容パイプの一端に設けられたフィードスルーと、を備えるコイルケースと、リード収容パイプ内での冷媒の対流を抑制するようにリード収容パイプ内に配置され、超電導電流リードをリード収容パイプに支持する支持構造と、を備える。
【0007】
本発明の別の態様は、超電導コイルの電流リード構造に関する。超電導コイルの電流リード構造は、超電導電流リードを備え、超電導コイルに接続される電流リード部と、超電導電流リードを収容するリード収容パイプと、電流リード部をリード収容パイプの外に取り出すためにリード収容パイプの一端に固定されたフィードスルーと、リード収容パイプ内に配置され、超電導電流リードをリード収容パイプに支持する支持構造と、を備える。
【0008】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや本発明の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、超電導コイルの熱的安定性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施の形態に係る超電導コイル装置を概略的に示す図である。
【
図2】
図2(a)は、
図1に示される支持構造を概略的に示す拡大図であり、
図2(b)は、
図2(a)に示される支持構造のA-A断面を概略的に示す図である。
【
図3】実施の形態に係る超電導コイル装置の極低温冷却を概略的に示す図である。
【
図4】
図4(a)から
図4(d)は、支持構造の他の例を概略的に示す図である。
【
図5】実施の形態に係る超電導コイルの例示的な構成を概略的に示す図である。
【
図6】実施の形態に係るコイルケースの他の一例を超電導コイルとともに概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。説明および図面において同一または同等の構成要素、部材、処理には同一の符号を付し、重複する説明は適宜省略する。図示される各部の縮尺や形状は、説明を容易にするために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。実施の形態は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0012】
図1は、実施の形態に係る超電導コイル装置10を概略的に示す図である。超電導コイル装置10は、超電導コイル12を備え、超電導コイル12を超電導転移温度以下の極低温に冷却した状態で超電導コイル12に通電することにより強力な磁場を発生するように構成される。超電導コイル装置10は、例えばNMRシステム、MRIシステム、サイクロトロンなどの加速器、核融合システムなどの高エネルギー物理システム、またはその他の高磁場利用機器(図示せず)の磁場源として高磁場利用機器に搭載され、その機器に必要とされる高磁場を発生させることができる。
【0013】
超電導コイル12は、一例として、高温超電導コイルである。
【0014】
また、超電導コイル装置10は、コイルケース14と、電流リード部20と、支持構造30とを備える。コイルケース14は、ケース本体16と、リード収容パイプ18と、フィードスルー26とを備える。電流リード部20は、超電導電流リード22と、金属電流リード24とを備える。
【0015】
コイルケース14は、超電導コイル12および超電導電流リード22とともに冷却ガス28を気密に収容する。ケース本体16は、超電導コイル12を収容し、リード収容パイプ18は、超電導電流リード22を収容する。フィードスルー26は、電流リード部20をコイルケース14の外に取り出すためにリード収容パイプ18の一端に設けられている。
【0016】
ケース本体16は、超電導コイル12を囲んで配置される。例えば、超電導コイル12が円環状の形状を有する場合、ケース本体16は、超電導コイル12を収容する円筒形の箱であってもよい。ケース本体16には、電流リード部20をケース本体16の外に取り出すための開口部が形成され、リード収容パイプ18は、この開口部からフィードスルー26へと延びている。例えば、開口部は円形であり、リード収容パイプ18も円筒である。ケース本体16とリード収容パイプ18は、収容する冷却ガス28の圧力に耐えるように、例えばステンレス鋼などの金属材料またはその他の適する高強度材料で形成される。ケース本体16とリード収容パイプ18は、一体的に形成されてもよいし、あるいは、溶接または機械的接合など適宜の接合手段により接合されてもよい。
【0017】
フィードスルー26は、リード収容パイプ18の端部に気密に接合される。フィードスルー26は、例えば銅などの金属材料またはその他の高い熱伝導率をもつ材料で形成されてもよい。フィードスルー26とリード収容パイプ18との接合方法は、種々ありうるが、例えば、溶接により接合されてもよく、あるいは、接合される2つの部材間にメタルOリングなど金属製のシール部材を挟み込むようにして、ボルトなど接合部品で機械的に接合されてもよい。
【0018】
したがって、リード収容パイプ18はケース本体16と同様に冷却ガス28を内部に収容する。しかし、リード収容パイプ18の端部はフィードスルー26によって閉塞され気密に封止されているので、リード収容パイプ18は、冷却ガス28をコイルケース14の中から外へと導くガス流路であるとはみなされない。
【0019】
冷却ガス28は、コイルケース14から超電導コイル12への伝熱経路の一部となる。冷却ガス28は、コイルケース14に高圧で封入される。冷却ガス28の封入圧力は、室温(例えば300K)で、例えば約7.5MPa~約30MPa(または例えば約10MPa~約20MPa)であってもよい。すなわち、冷却ガス28の封入圧力は、極低温(例えば20K)で、例えば約0.5MPa~約2MPa(または例えば約0.67MPa~約1.33MPa)であってもよい。冷却ガス28は、こうした使用環境で気体状態をとる物質、例えばヘリウムガスが使用される。
【0020】
超電導電流リード22は、超電導コイル12に接続され、金属電流リード24は、超電導電流リード22に接続されている。すなわち、金属電流リード24は、超電導電流リード22を介して超電導コイル12に接続されている。
【0021】
超電導電流リード22は、例えばロッド状(例えば円柱状)の形状を有し、銅酸化物超伝導体またはその他の高温超伝導材料で形成されうる。あるいは、超電導電流リード22は、NbTiに代表される低温超電導材料で形成されてもよい。金属電流リード24は、例えば無酸素銅などの純銅に代表される導電性に優れる金属材料で形成される。
【0022】
また、フィードスルー26は、超電導電流リード22と金属電流リード24の境界に形成され、金属電流リード24の一部を形成する。よって、フィードスルー26も、銅などの金属材料で形成されている。
【0023】
電流リード部20は、超電導コイル12の正極の端子に接続される正極側電流リードと負極の端子に接続される負極側電流リードを含みうる。よって、図示されるように、超電導電流リード22と金属電流リード24も2本ずつ正極側と負極側に設けられうる。
【0024】
支持構造30は、リード収容パイプ18内での冷却ガス28の対流を抑制するようにリード収容パイプ18内に配置され、超電導電流リード22をリード収容パイプ18に支持する。超電導コイル12の励磁中、超電導電流リード22には、自身に流れる大電流と超電導コイル12が発生する高磁場との相互作用によって、強力な電磁力が働く。電磁力は、例えば、超電導電流リード22の長手方向に直交する方向に働きうる。支持構造30は、この電磁力に対する機械的な支持を提供する。
【0025】
図2(a)は、
図1に示される支持構造30を概略的に示す拡大図であり、
図2(b)は、
図2(a)に示される支持構造30のA-A断面を概略的に示す図である。
【0026】
支持構造30は、リード収容パイプ18内を複数の区画31に分割するように超電導電流リード22に沿って配置された複数の支持プレート32を備え、超電導電流リード22が複数の支持プレート32を介してリード収容パイプ18によって支持される。区画31には冷却ガス28が収容される。支持プレート32は、その外周面がリード収容パイプ18の内壁面によって接触する。それにより、超電導電流リード22がリード収容パイプ18に支持される。リード収容パイプ18が円筒である場合、支持プレート32は円形である。支持プレート32には、超電導電流リード22が挿通されるリード挿通孔33が設けられている。2本の超電導電流リード22に対応して2つのリード挿通孔33がある。支持プレート32は、例えば、繊維強化プラスチック(FRP)などの絶縁材料で形成されうる。
【0027】
なお、この例では、リード収容パイプ18内で超電導電流リード22の長手方向に沿って2個の支持プレート32が配置されるが、これより多数の支持プレート32が配置されてもよい。あるいは、支持プレート32は1つだけであってもよい。
【0028】
また、支持プレート32は、2本より多くの超電導電流リード22を支持してもよい。あるいは、支持プレート32は、1本の超電導電流リード22だけを支持してもよい。
【0029】
図3は、実施の形態に係る超電導コイル装置10の極低温冷却を概略的に示す図である。超電導コイル装置10は、使用時に、クライオスタットなどの真空容器40の中に設置される。コイルケース14の周囲は真空とされる。
【0030】
真空容器40には、極低温冷凍機42が設置される。極低温冷凍機42は、真空容器40の中に配置される一段冷却ステージ42aおよび二段冷却ステージ42bを備える。極低温冷凍機42は、作動ガス(たとえばヘリウムガス)の圧縮機(図示せず)と、コールドヘッドとも呼ばれる膨張機とを備え、圧縮機と膨張機により極低温冷凍機42の冷凍サイクルが構成され、それにより一段冷却ステージ42aおよび二段冷却ステージ42bがそれぞれ所望の極低温に冷却される。一段冷却ステージ42aは、例えば50K~80Kに冷却され、二段冷却ステージ42bは、例えば10K~20Kに冷却される。一段冷却ステージ42aおよび二段冷却ステージ42bは、例えば銅などの金属材料またはその他の高い熱伝導率をもつ材料で形成される。
【0031】
極低温冷凍機42は、一例として、二段式のギフォード・マクマホン(Gifford-McMahon;GM)冷凍機であるが、パルス管冷凍機、スターリング冷凍機、またはそのほかのタイプの極低温冷凍機であってもよい。極低温冷凍機42は、単段式のGM冷凍機またはそのほかのタイプの極低温冷凍機であってもよい。
【0032】
また、真空容器40には、一段冷却ステージ42aと熱的に結合され一段冷却ステージ42aの冷却温度に冷却される熱シールド44が設けられてもよい。熱シールド44は、それよりも低温に冷却される超電導コイル装置10、極低温冷凍機42の二段冷却ステージ42b、またはその他の低温部を囲むように配置され、外部からの輻射熱からこれら低温部を熱的に保護することができる。熱シールド44は、例えば銅などの金属材料またはその他の高い熱伝導率をもつ材料で形成される。
【0033】
熱シールド44は、フィードスルー26と一段伝熱部材46aを介して一段冷却ステージ42aと熱的に結合されてもよい。一段伝熱部材46aは、フィードスルー26を一段冷却ステージ42aに接続するとともに、フィードスルー26を一段冷却ステージ42aから電気的に絶縁するように構成されてもよい。一段伝熱部材46aは、可撓性をもつように例えば細線の束または箔の積層として形成されてもよく、熱シールド44と同様に高熱伝導材料で形成されてもよい。
【0034】
コイルケース14は、コイルケース14の外にある極低温冷凍機42と熱的に結合され、超電導コイル12は、極低温冷凍機42によってコイルケース14と冷却ガス28を介して冷却される。超電導コイル装置10は、伝導冷却式として構成される。
【0035】
コイルケース14は、二段冷却ステージ42bと熱的に結合され二段冷却ステージ42bの冷却温度に冷却される。コイルケース14は、二段伝熱部材46bを介して二段冷却ステージ42bと熱的に結合されてもよい。二段伝熱部材46bは、一段伝熱部材46aと同様に、可撓性をもつように例えば細線の束または箔の積層として形成されてもよく、銅などの高熱伝導材料で形成されてもよい。あるいは、コイルケース14は、二段冷却ステージ42bに直接取り付けられ、または剛性の伝熱部材を介して取り付けられてもよい。
【0036】
コイルケース14の外表面には、伝熱プレート48が装着されてもよい。二段伝熱部材46bの一端が二段冷却ステージ42bに取り付けられ、二段伝熱部材46bの他端が伝熱プレート48に取り付けられ、それにより、コイルケース14は、二段伝熱部材46bと伝熱プレート48を介して二段冷却ステージ42bと熱的に結合されてもよい。伝熱プレート48は、コイルケース14と面接触しているので、二段伝熱部材46bがコイルケース14上の一点で接続される場合に比べて、二段冷却ステージ42bとコイルケース14との熱伝導を良好にすることができる。二段伝熱部材46bは、伝熱プレート48を一段冷却ステージ42aに接続するとともに、伝熱プレート48を一段冷却ステージ42aから電気的に絶縁するように構成されてもよい。伝熱プレート48は、例えば銅などの金属材料またはその他の高熱伝導材料で形成される。
【0037】
一例として、伝熱プレート48は、コイルケース14の上側の外表面に設けられているが、これとともに、またはこれに代えて、コイルケース14の側面及び/または下面に設けられてもよい。
【0038】
電流リード部20は、真空容器40に設けられる真空フィードスルーを通じて真空容器40の中から外へと取り出され、真空容器40の外にある電源(図示せず)に超電導コイル12を接続する。
【0039】
このようにして、超電導コイル12は、極低温冷凍機42の二段冷却ステージ42bによって、二段伝熱部材46b、伝熱プレート48、コイルケース14、冷却ガス28を介して、二段冷却ステージ42bの冷却温度に冷却される。電流リード部20を通じて超電導コイル12に通電することにより、超電導コイル装置10は、強力な磁場を発生することができる。
【0040】
超電導コイル装置10の使用中、超電導コイル12と超電導電流リード22の一端は例えば10K~20Kの極低温に冷却されるのに対し、フィードスルー26と超電導電流リード22の他端はそれより高い温度、例えば50K~80Kの極低温に冷却される。そのため、超電導電流リード22とその周囲の構造には長手方向に温度差が生じている。
【0041】
仮に支持構造30が無かったとすると、超電導電流リード22のまわりの空間は長手方向に開放される。上述の超電導電流リード22の両端に生じる温度差は、超電導電流リード22のまわりの冷却ガス28に長手方向の対流を発生させ、それにより、フィードスルー26から超電導コイル12への対流による熱伝達が促進されうる。これは、超電導コイル12への入熱を増加させ、超電導コイル12の熱的な不安定性を高めるリスクをもたらしうる。
【0042】
しかしながら、実施の形態によると、支持構造30は、リード収容パイプ18内での冷却ガス28の対流を抑制するようにリード収容パイプ18内に配置されている。複数の支持プレート32が、超電導電流リード22に沿って配置され、リード収容パイプ18内を複数の区画31に分割する。したがって、リード収容パイプ18内で超電導電流リード22の長手方向に生じうる対流を抑制することができ、これは超電導コイル12の熱的安定性の向上につながる。
【0043】
また、支持構造30を設けずに、超電導電流リード22に働く電磁力に抗するための補強部材を別の形で設けるとしたら、補強部材は、超電導電流リード22に沿って長手方向に延びる構成となりうる。この場合、補強部材は、超電導電流リード22に沿って高温部を低温部へと直接つなぐ伝熱経路となり、補強部材を通じた熱伝導による超電導コイル12への入熱を増加させうる。しかしながら、実施の形態によると、支持構造30を設けることにより、このような補強部材は無くすことができ、超電導コイル12への入熱を低減できる。これも超電導コイル12の熱的安定性の向上につながる。
【0044】
また、金属電流リード24は高温部(室温部)へと接続されるので低温部(超電導電流リード22、超電導コイル12)への侵入熱の経路となりうる。もし、金属電流リード24がコイルケース14の中に配置されたとすると、金属電流リード24からコイルケース14内の冷却ガス28への熱伝達により冷却ガス28に対流が起こり、熱の侵入が増えるかもしれない。しかし、この実施の形態では、フィードスルー26が超電導電流リード22と金属電流リード24の境界に形成され、金属電流リード24はコイルケース14の外にあるので、金属電流リード24からコイルケース14内への入熱を低減できる。
【0045】
この実施の形態のように、超電導電流リード22をコイルケース14に収容すれば、超電導電流リード22の気密フィードスルー構造をコイルケース14に設ける必要が無い。このような構成は、超電導コイル装置10に電流リード部20を実装しやすいので、有利である。
【0046】
なお、金属電流リード24の少なくとも一部がフィードスルー26からコイルケース14内へと延び、超電導電流リード22と金属電流リード24の境界がコイルケース14の中に配置されてもよい。
【0047】
図4(a)から
図4(d)は、支持構造30の他の例を概略的に示す図である。支持構造30は、上述のものには限られず、種々の構成をとりうる。
【0048】
図4(a)に示されるように、支持プレート32には、リード挿通孔33とは別の小孔34が設けられてもよい。支持プレート32によって分割される2つの区画31間の冷却ガス28の流通を抑制するように、小孔34は、十分に小さく、例えばリード挿通孔33より小さいサイズを有してもよい。小孔34は、支持プレート32を超電導電流リード22とともにリード収容パイプ18に装着するとき使用されるジグを挿し通すために設けられていてもよい。
【0049】
図4(b)に示されるように、超電導電流リード22は、テープ状の高温超電導線材であってもよい。支持プレート32には、こうしたテープ状の線材の断面形状にちょうど合う細長いリード挿通孔33を有してもよい。なお、テープ状の高温超電導線材の一例は後述する。
【0050】
図4(c)に示されるように、支持構造30は、超電導電流リード22を挟み込むようにしてリード収容パイプ18内に配置される一組のクランプ部材35を備えてもよい。クランプ部材35は、超電導電流リード22の長手方向に直交する方向に延びる棒状の部材であってもよく、この場合、クランプ部材35は、リード収容パイプ18内を複数の区画に分割せずに、リード収容パイプ18内で長手方向にガス流れが許容されてもよい。例えば、フィードスルー26と超電導コイル12の温度差が小さく、冷却ガス28の対流の影響が小さいと見積もられる場合には、こうした構成が採用されてもよい。
【0051】
図4(d)に示されるように、リード収容パイプ18は、超電導コイル12と冷却ガス28を気密に収容する別の圧力容器(コイルケース)36の中に配置されてもよい。すなわち、リード収容パイプ18は、圧力容器(コイルケース)36に気密に接合されていなくてもよい。上述の実施の形態と同様に、支持構造30(例えば支持プレート32)が、リード収容パイプ18内に配置され、超電導電流リード22をリード収容パイプ18に支持する。リード収容パイプ18の一端はフィードスルー26に固定されてもよい。
【0052】
図5は、実施の形態に係る超電導コイル12の例示的な構成を概略的に示す図である。超電導コイル12は、REBCO線材とも称されるテープ状の高温超電導線材50をコイル径方向52に積層させるように巻回して形成されるシングルパンケーキコイルである。
【0053】
高温超電導線材50は、基板50a上に中間層50bを介して超電導層50cが形成され、その超電導層50c上に第1安定化層50dが形成されるとともに、それらの外周部に第2安定化層50eが被覆されて構成されている。
【0054】
基板50aは、ニッケル合金(ハステロイ)、銀、銀合金等の金属により、例えば厚さ100μm、幅10mmに形成されている。なお、ハステロイは、ニッケルを主成分とし、クロム、モリブデン等を含む合金で、耐熱性、機械的強度等が良好である。中間層50bは、ガドリニウム・ジルコニウム酸化物(Gd・Zr酸化物)、酸化マグネシウム(MgO)、イットリウム安定化ジルコニウム(YSZ)、バリウム・ジルコニウム酸化物(Ba・Zr酸化物)、酸化セリウム(CeO2)等の化合物により、例えば厚さ500nm、幅10mmに形成されている。
【0055】
超電導層50cは、希土類系酸化物超電導体のCVD法(化学蒸着法)により、例えば厚さ約1μm、幅10mmに形成されている。希土類元素としては、ランタン(La)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、イットリウム(Y)、イッテルビウム(Yb)等が挙げられる。希土類系酸化物としては、RE・Ba・Cu・O等が挙げられる。但し、REは希土類元素を表す。この超電導層50cとして具体的には、イットリウム・バリウム・銅酸化物(Y・Ba・Cu酸化物)、ランタン・バリウム・銅酸化物(La・Ba・Cu酸化物)等が挙げられる。
【0056】
第1安定化層50dは、銀等の金属のスパッタリング等により、例えば厚さ約15μm、幅10mmに形成されている。第2安定化層50eは、銅等の金属のメッキ等により、例えば厚さ約50μmに形成されている。
【0057】
ところで、従来、NbTiに代表される低温超電導線材で形成される低温超電導コイルでは、コイルを製造する際に、エポキシ樹脂など樹脂材料による含浸処理がよく用いられている。コイル状に巻回された線材間に含浸した樹脂材料が硬化し、線材どうしを強く固定することができるので、コイルの機械的強度が高まる。含浸樹脂は、コイル励磁中にコイル内部に発生する強力な電磁力によって生じうるコイルの変形を抑制することに役立つ。また、含浸樹脂は、線材どうしを熱的に結合する伝熱経路をコイル内部に一様に形成し、コイルの熱的安定性を向上することにも役立つ。
【0058】
しかしながら、高温超電導線材50で形成される超電導コイル12には、こうした含浸処理は適さない。高温超電導線材50の層間の剥離強度に比べて、樹脂材料による線材どうしの接着が強固となりすぎる傾向にある。超電導コイル12の励磁中に生じうる内部応力は、強度に劣る高温超電導線材50の内部に集中し、含浸樹脂部に比べて強度に劣る高温超電導線材50の層間に剥離を発生させ高温超電導線材50が破壊されうるからである。
【0059】
そこで、超電導コイル12には製造工程において含浸処理が行われない。したがって、超電導コイル12は、積層される高温超電導線材50間に含浸材を有しない。超電導コイル12のように、絶縁処理を施していない超電導線材で形成される超電導コイルは、無絶縁(No-Insulation;NI)超電導コイルとも称されうる。励磁中に何らかの原因で局所的に常電導部が発生しても、電流は隣接する線材に迂回することができ、安定的な励磁が可能になるという利点がある。また高電流密度化が可能である。
【0060】
その反面、無絶縁コイルである超電導コイル12では、コイル径方向52の熱伝導は、巻回された高温超電導線材50間の接触熱抵抗に強く依存することになる。高温超電導線材50間の接触熱抵抗をコイル全体で一様となるように管理することは、製造上必ずしも容易でない。もし、コイル内で熱伝導に局所的な不均一があったとすると、これはコイルの熱的な不安定性につながりうるので、望ましくない。
【0061】
これに対し、実施の形態に係る超電導コイル装置10によると、
図1に示されるように、コイルケース14に冷却ガス28が充填され、超電導コイル12は冷却ガス28とともにコイルケース14に収容される。冷却ガス28は、超電導コイル12を形成する高温超電導線材50間のわずかな隙間54(
図5参照)にも浸透し、隙間54を満たす。こうして、冷却ガス28は、高温超電導線材50間に伝熱経路を形成する。これにより、超電導コイル12の内部の熱伝導は促進され、超電導コイル12の熱的安定性は向上される。
【0062】
図6は、実施の形態に係るコイルケース14の他の一例を超電導コイル12とともに概略的に示す図である。
図6には、超電導コイル12の中心軸を含む平面による超電導コイル装置10の断面を概略的に示す。超電導コイル12は、
図5に示されるように、高温超電導線材50を巻回して円環状に形成される。
【0063】
コイルケース14は、超電導コイル12の外周面に隣接して配置されたケース外周枠14aと、超電導コイル12の上端面に隣接して配置されたケース上板14bと、超電導コイル12の下端面に隣接して配置されたケース下板14cと、を備える。ケース外周枠14aが超電導コイル12の外周面を支持し、ケース上板14bが超電導コイル12の上端面を支持し、ケース下板14cが超電導コイル12の下端面を支持する。
【0064】
超電導コイル12が円環状の形状を有する場合、コイルケース14は、超電導コイル12をちょうど収める円筒形の箱であってもよい。よって、ケース外周枠14aは、超電導コイル12の外周面に沿ってコイルの周方向に延びる円環状のフレームであってもよい。ケース上板14bとケース下板14cはそれぞれ、超電導コイル12の上端面と下端面に沿って延びる円形のディスク状のプレートであってもよい。
【0065】
また、ケース上板14bは、ケース外周枠14aと気密に接合され、ケース下板14cは、ケース外周枠14aと気密に接合される。ケース上板14bの外周部がケース外周枠14aの上端部に接合され、ケース下板14cの外周部がケース外周枠14aの下端部に接合される。接合方法は、種々ありうるが、例えば、溶接により接合されてもよく、あるいは、接合される2つの部材間にメタルOリングなど金属製のシール部材を挟み込むようにして、ボルトなど接合部品で機械的に接合されてもよい。
【0066】
リード収容パイプ18は、例えば、ケース上板14b(またはケース下板14c)に設置されてもよい。
【0067】
また、
図6には、超電導コイル12の励磁中にコイルに径方向に働く電磁力60を太い矢印で示すとともに、この電磁力60に抗してコイルケース14のケース上板14bとケース下板14cに働く機械的な内部応力62を細い矢印で示す。このように、コイルケース14が超電導コイル12を補強し、超電導コイル12とコイルケース14を含む構造体が全体で強力な電磁力60に対する機械的な支持を提供することができる。
【0068】
コイルケース14は、電磁力60だけでなく、内部に封入している冷却ガス28の圧力にも耐えるように設計されなければならない。超電導コイル12の励磁中は極低温に冷却されるため、このときの冷却ガス28の圧力は上述のように、比較的低い(例えば1MPa程度)。一方、超電導コイル装置10にメンテナンスを施すときには、超電導コイル装置10は室温に昇温される。温度に比例して冷却ガス28の圧力も上昇するので、室温では極低温に比べて、コイルケース14内の冷却ガス28の圧力は、はるかに高くなる。例えば、20Kから300Kへと昇温すれば、温度は15倍に増すから、圧力も15倍に高まる(例えば15MPa程度にも増加する)。しかし、室温では、超電導コイル12は動作しないから、電磁力60はコイルケース14に働かない。
【0069】
結局、本発明者の試算によれば、コイルケース14が電磁力60と極低温での冷却ガス28の圧力に耐える設計を有するとき、たいていの場合、室温で上昇した冷却ガス28の圧力にも耐えられる。室温でのかなり高い冷却ガス28の圧力を考慮して、コイルケース14の肉厚を過剰に大きくする必要はない。したがって、超電導コイル12の補強構造の提供と冷却ガス28の気密性の確保という2つの役割をコイルケース14にもたせる設計は、現実的に可能である。
【0070】
なお、コイルケース14には、ケース内周枠が設けられてもよい。ケース内周枠は、超電導コイル12の内周面に隣接して配置され、ケース上板14bおよびケース下板14cと気密に接合されてもよい。このようにすれば、コイルケース14は、超電導コイル12をより強固に補強することができる。
【0071】
図6に示される実施の形態に係る超電導コイル装置10は、超電導コイル12とともに冷却ガス28を気密に収容するとともに、超電導コイル12を補強するように超電導コイル12を囲んで配置されるコイルケース14を備える。このようにして、超電導コイル装置10に充填される冷却ガス28が、超電導コイル12の内部の熱伝導の均一化を促進することができる。よって、超電導コイル12ひいては超電導コイル装置10の熱的安定性が向上される。また、補強と気密性を1つのコイルケース14で実現できるので、部品点数が削減され、製造コストが低減される。超電導コイル12を補強するフレーム構造とこれを包囲する圧力容器というような二重の構造は必要ない。
【0072】
以上、本発明を実施例にもとづいて説明した。本発明は上記実施形態に限定されず、種々の設計変更が可能であり、様々な変形例が可能であること、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。ある実施の形態に関連して説明した種々の特徴は、他の実施の形態にも適用可能である。組合せによって生じる新たな実施の形態は、組み合わされる実施の形態それぞれの効果をあわせもつ。
【0073】
上述の実施の形態では、極低温冷凍機42を用いて超電導コイル12を伝導冷却により冷却する場合を例として説明しているが、実施の形態に係る支持構造30は、超電導コイル12を液体ヘリウムなど極低温の冷媒に浸して冷却するいわゆる浸漬冷却に適用されてもよい。よって、コイルケース14に収容される冷媒は上述のように冷却ガス28には限られず、液体の冷媒であってもよい。
【0074】
上述の実施の形態では、超電導コイル12が高温超電導線材50から形成されるシングルパンケーキコイルである場合を例として説明しているが、実施の形態に係る超電導コイル装置10に適用されうる超電導コイル12は、そうした特定の形状および材質を有するものには限定されない。例えば、超電導コイル12は、ダブルパンケーキコイルまたはその他の多層のパンケーキコイルであってもよい。超電導コイル12は、線材をソレノイド状に巻回して形成される超電導コイルであってもよい。超電導コイル12は、低温超電導線材から形成される低温超電導コイルであってもよい。コイルケース14は、こうした様々な超電導コイル12に適合するように設計されてもよい。
【0075】
実施の形態にもとづき、具体的な語句を用いて本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用の一側面を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が認められる。
【符号の説明】
【0076】
10 超電導コイル装置、 12 超電導コイル、 14 コイルケース、 18 リード収容パイプ、 20 電流リード部、 22 超電導電流リード、 24 金属電流リード、 26 フィードスルー、 30 支持構造、 31 区画、 32 支持プレート。