(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-23
(45)【発行日】2024-05-02
(54)【発明の名称】超電導コイル装置
(51)【国際特許分類】
H01F 6/06 20060101AFI20240424BHJP
H01F 6/04 20060101ALI20240424BHJP
H10N 60/81 20230101ALI20240424BHJP
【FI】
H01F6/06 130
H01F6/06 110
H01F6/06 510
H01F6/04
H10N60/81 ZAA
(21)【出願番号】P 2019205014
(22)【出願日】2019-11-12
【審査請求日】2022-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】平山 貴士
【審査官】久保田 昌晴
(56)【参考文献】
【文献】特公平01-035482(JP,B2)
【文献】特開2009-243820(JP,A)
【文献】特開平11-219814(JP,A)
【文献】特開平03-174706(JP,A)
【文献】実公昭60-005535(JP,Y2)
【文献】実開昭56-046213(JP,U)
【文献】実開平02-118906(JP,U)
【文献】特開平05-315130(JP,A)
【文献】特開2002-158110(JP,A)
【文献】特開2015-176990(JP,A)
【文献】特開平08-288561(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0008187(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 6/00-6/06
H10N 60/80-60/81
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超電導コイルと、
前記超電導コイルの外周面に隣接して配置されたケース外周枠と、前記超電導コイルの上端面に隣接して配置され、前記ケース外周枠と気密に接合されたケース上板と、前記超電導コイルの下端面に隣接して配置され、前記ケース外周枠と気密に接合されたケース下板と、を備え、前記超電導コイルを補強するように前記超電導コイルを囲んで配置され、前記超電導コイルとともに冷却ガスを気密に収容するコイル補強ケースと、
前記コイル補強ケースの外表面に装着された伝熱プレートと、を備え、
前記コイル補強ケースは、前記コイル補強ケースの外にある極低温冷凍機と
前記伝熱プレートを介して熱的に結合され、前記超電導コイルは、前記極低温冷凍機によって前記コイル補強ケースと前記冷却ガスを介して冷却されることを特徴とする超電導コイル装置。
【請求項2】
前記超電導コイルに接続され、前記コイル補強ケースに収容された超電導電流リードと、前記超電導電流リードに接続された金属電流リードと、をさらに備え、
前記金属電流リードは、前記冷却ガスを封止するように前記コイル補強ケースに取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載の超電導コイル装置。
【請求項3】
前記超電導コイルは、超電導線材を巻回して形成され、超電導線材間には含浸材を有しないことを特徴とする請求項1または2に記載の超電導コイル装置。
【請求項4】
前記超電導コイルは、超電導線材を巻回して形成され、超電導線材間の隙間を前記冷却ガスが満たしていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の超電導コイル装置。
【請求項5】
前記伝熱プレートは、可撓性をもつ伝熱部材を介して前記極低温冷凍機と熱的に結合されることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の超電導コイル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導コイル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超電導コイルは使用時に、超電導を発現する極低温に冷却されるが、これには大きく2つの冷却方式がある。1つは、超電導コイルを液体ヘリウムなど極低温の冷媒に浸して冷却するものであり、浸漬冷却とも称される。もう1つの方式では、液体冷媒は使用されない。超電導コイルは、たとえばギフォード・マクマホン(Gifford-McMahon;GM)冷凍機などの極低温冷凍機で直接冷却される。これは、伝導冷却とも称される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
超電導コイルは超電導線材を巻回して形成される。そのため、伝導冷却の場合、超電導コイル内部での径方向の熱伝導は、巻回された超電導線材間の接触熱抵抗に依存しうる。これは、とくに、超電導コイルの製造において樹脂材料の含浸をしない場合、顕著である。しかし、超電導線材間の接触熱抵抗を超電導コイル全体で一様となるように管理することは、製造上容易でない。もし、超電導コイル内部で熱伝導に局所的な不均一があったとすると、これは超電導コイルの熱的な不安定性につながりうる。熱的な不安定性は、さらに、超電導を消失させる熱暴走につながりうるので、望ましくない。
【0005】
本発明のある態様の例示的な目的のひとつは、超電導コイルの熱的安定性を向上することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様によると、超電導コイル装置は、超電導コイルと、超電導コイルを補強するように超電導コイルを囲んで配置され、超電導コイルとともに冷却ガスを気密に収容するコイル補強ケースと、を備える。
【0007】
本発明のある態様によると、超電導コイル装置は、超電導コイルと、超電導コイルとともに冷却ガスを気密に収容するコイルケースと、超電導コイルに接続され、コイルケースに収容された超電導電流リードと、超電導電流リードに接続され、冷却ガスを封止するようにコイルケースに取り付けられた金属電流リードと、を備える。
【0008】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや本発明の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、超電導コイルの熱的安定性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施の形態に係る超電導コイル装置を概略的に示す図である。
【
図2】
図1に示される超電導コイル装置の極低温冷却を概略的に示す図である。
【
図3】
図1に示される超電導コイルの例示的な構成を概略的に示す図である。
【
図4】
図1に示されるコイル補強ケースの例示的な構成を超電導コイルとともに概略的に示す図である。
【
図5】コイル補強ケースの変形例を概略的に示す図である。
【
図6】実施の形態に係り、
図1に示される超電導コイル装置に適用されうる電流リード部を概略的に示す図である。
【
図7】
図7(a)および
図7(b)は、
図6の実施の形態の変形例を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。説明および図面において同一または同等の構成要素、部材、処理には同一の符号を付し、重複する説明は適宜省略する。図示される各部の縮尺や形状は、説明を容易にするために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。実施の形態は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0012】
図1は、実施の形態に係る超電導コイル装置10を概略的に示す図である。超電導コイル装置10は、超電導コイル12を備え、超電導コイル12を超電導転移温度以下の極低温に冷却した状態で超電導コイル12に通電することにより強力な磁場を発生するように構成される。超電導コイル装置10は、例えばNMRシステム、MRIシステム、サイクロトロンなどの加速器、核融合システムなどの高エネルギー物理システム、またはその他の高磁場利用機器(図示せず)の磁場源として高磁場利用機器に搭載され、その機器に必要とされる高磁場を発生させることができる。
【0013】
超電導コイル12は、一例として、高温超電導コイルである。
【0014】
超電導コイル装置10は、超電導コイル12を補強するように超電導コイル12を囲んで配置されるコイル補強ケース14を備える。コイル補強ケース14は、超電導コイル12とともに冷却ガス16を気密に収容する。超電導コイル12には、励磁中、自身に流れる大電流とそれにより発生する高磁場との相互作用によって、超電導コイル12を径方向に膨らませる強力な電磁力が働く。コイル補強ケース14は、この電磁力に抗して超電導コイル12を補強するために要求される機械的強度を提供するとともに、収容する冷却ガス16の圧力に耐えるように、例えばステンレス鋼などの金属材料またはその他の適する高強度材料で形成される。
【0015】
冷却ガス16は、コイル補強ケース14から超電導コイル12への伝熱経路の一部となる。冷却ガス16は、コイル補強ケース14に高圧で封入される。冷却ガス16の封入圧力は、室温(例えば300K)で、例えば約7.5MPa~約30MPa(または例えば約10MPa~約20MPa)であってもよい。すなわち、冷却ガス16の封入圧力は、極低温(例えば20K)で、例えば約0.5MPa~約2MPa(または例えば約0.67MPa~約1.33MPa)であってもよい。冷却ガス16は、こうした使用環境で気体状態をとる物質、例えばヘリウムガスが使用される。
【0016】
コイル補強ケース14には、冷却ガス16をケース内に供給するためのガス供給口18が設けられていてもよい。ただし、ガス供給口18は、冷却ガス16をコイル補強ケース14に供給するときには開かれるが、ガス供給が完了すれば閉鎖され、冷却ガス16がケース外に漏れないように封じられる。
【0017】
超電導コイル装置10は、超電導コイル12に電源(図示せず)を接続するための電流リード部20をさらに備える。電流リード部20は、例えば無酸素銅などの純銅に代表される導電性に優れる金属材料で形成される金属電流リードを有してもよく、または、超電導線材(例えば高温超電導線材)で形成される超電導電流リードを有してもよい。電流リード部20は、コイル補強ケース14に設けられた気密フィードスルーを通じてケース外からケース内へと導入され、超電導コイル12に接続される。
【0018】
また、超電導コイル装置10は、超電導コイル12とコイル補強ケース14の間に介在する軟質材層22をさらに備えてもよい。軟質材層22は、超電導コイル12とコイル補強ケース14との間に挟み込まれることによって両者の間に存在しうる間隙を埋め、それにより、超電導コイル12とコイル補強ケース14の熱接触を良好にするために設けられる。軟質材層22は、例えば、フッ素樹脂(例えばPTFE)シートなどの樹脂材料または極低温での使用に適するその他の軟質材料で形成されてもよい。一例として、
図1では、軟質材層22は、超電導コイル12の下面とコイル補強ケース14の底面の間に設けられているが、これとともに、またはこれに代えて、超電導コイル12の側面及び/または上面に設けられてもよい。
【0019】
図2は、
図1に示される超電導コイル装置10の極低温冷却を概略的に示す図である。超電導コイル装置10は、使用時に、クライオスタットなどの真空容器30の中に設置される。コイル補強ケース14の周囲は真空とされる。
【0020】
真空容器30には、極低温冷凍機32が設置される。極低温冷凍機32は、真空容器30の中に配置される一段冷却ステージ32aおよび二段冷却ステージ32bを備える。極低温冷凍機32は、作動ガス(たとえばヘリウムガス)の圧縮機(図示せず)と、コールドヘッドとも呼ばれる膨張機とを備え、圧縮機と膨張機により極低温冷凍機32の冷凍サイクルが構成され、それにより一段冷却ステージ32aおよび二段冷却ステージ32bがそれぞれ所望の極低温に冷却される。一段冷却ステージ32aは、例えば50K~80Kに冷却され、二段冷却ステージ32bは、例えば10K~20Kに冷却される。一段冷却ステージ32aおよび二段冷却ステージ32bは、例えば銅などの金属材料またはその他の高い熱伝導率をもつ材料で形成される。
【0021】
極低温冷凍機32は、一例として、二段式のギフォード・マクマホン(Gifford-McMahon;GM)冷凍機であるが、パルス管冷凍機、スターリング冷凍機、またはそのほかのタイプの極低温冷凍機であってもよい。極低温冷凍機32は、単段式のGM冷凍機またはそのほかのタイプの極低温冷凍機であってもよい。
【0022】
また、真空容器30には、一段冷却ステージ32aと熱的に結合され一段冷却ステージ32aの冷却温度に冷却される熱シールド34が設けられてもよい。熱シールド34は、それよりも低温に冷却される超電導コイル装置10、極低温冷凍機32の二段冷却ステージ32b、またはその他の低温部を囲むように配置され、外部からの輻射熱からこれら低温部を熱的に保護することができる。熱シールド34は、例えば銅などの金属材料またはその他の高い熱伝導率をもつ材料で形成される。
【0023】
熱シールド34は、一段伝熱部材36aを介して一段冷却ステージ32aと熱的に結合されてもよい。一段伝熱部材36aは、可撓性をもつように例えば細線の束または箔の積層として形成されてもよく、熱シールド34と同様に高熱伝導材料で形成されてもよい。あるいは、熱シールド34は、一段冷却ステージ32aに直接取り付けられ、または剛性の伝熱部材を介して取り付けられてもよい。
【0024】
コイル補強ケース14は、コイル補強ケース14の外にある極低温冷凍機32と熱的に結合され、超電導コイル12は、極低温冷凍機32によってコイル補強ケース14と冷却ガス16を介して冷却される。超電導コイル装置10は、伝導冷却式として構成される。
【0025】
コイル補強ケース14は、二段冷却ステージ32bと熱的に結合され二段冷却ステージ32bの冷却温度に冷却される。コイル補強ケース14は、二段伝熱部材36bを介して二段冷却ステージ32bと熱的に結合されてもよい。二段伝熱部材36bは、一段伝熱部材36aと同様に、可撓性をもつように例えば細線の束または箔の積層として形成されてもよく、銅などの高熱伝導材料で形成されてもよい。あるいは、コイル補強ケース14は、二段冷却ステージ32bに直接取り付けられ、または剛性の伝熱部材を介して取り付けられてもよい。
【0026】
コイル補強ケース14の外表面には、伝熱プレート38が装着されてもよい。二段伝熱部材36bの一端が二段冷却ステージ32bに取り付けられ、二段伝熱部材36bの他端が伝熱プレート38に取り付けられ、それにより、コイル補強ケース14は、二段伝熱部材36bと伝熱プレート38を介して二段冷却ステージ32bと熱的に結合されてもよい。伝熱プレート38は、コイル補強ケース14と面接触しているので、二段伝熱部材36bがコイル補強ケース14上の一点で接続される場合に比べて、二段冷却ステージ32bとコイル補強ケース14との熱伝導を良好にすることができる。伝熱プレート38は、例えば銅などの金属材料またはその他の高熱伝導材料で形成される。
【0027】
一例として、伝熱プレート38は、コイル補強ケース14の上側の外表面に設けられているが、これとともに、またはこれに代えて、コイル補強ケース14の側面及び/または下面に設けられてもよい。
【0028】
電流リード部20は、真空容器30に設けられる真空フィードスルーを通じて真空容器30の中から外へと取り出され、真空容器30の外にある電源(図示せず)に超電導コイル12を接続する。
【0029】
このようにして、超電導コイル12は、極低温冷凍機32の二段冷却ステージ32bによって、二段伝熱部材36b、伝熱プレート38、コイル補強ケース14、冷却ガス16を介して、二段冷却ステージ32bの冷却温度に冷却される。電流リード部20を通じて超電導コイル12に通電することにより、超電導コイル装置10は、強力な磁場を発生することができる。
【0030】
図3は、
図1に示される超電導コイル12の例示的な構成を概略的に示す図である。超電導コイル12は、REBCO線材とも称されるテープ状の高温超電導線材40をコイル径方向42に積層させるように巻回して形成されるシングルパンケーキコイルである。
【0031】
高温超電導線材40は、基板40a上に中間層40bを介して超電導層40cが形成され、その超電導層40c上に第1安定化層40dが形成されるとともに、それらの外周部に第2安定化層40eが被覆されて構成されている。
【0032】
基板40aは、ニッケル合金(ハステロイ)、銀、銀合金等の金属により、例えば厚さ100μm、幅10mmに形成されている。なお、ハステロイは、ニッケルを主成分とし、クロム、モリブデン等を含む合金で、耐熱性、機械的強度等が良好である。中間層40bは、ガドリニウム・ジルコニウム酸化物(Gd・Zr酸化物)、酸化マグネシウム(MgO)、イットリウム安定化ジルコニウム(YSZ)、バリウム・ジルコニウム酸化物(Ba・Zr酸化物)、酸化セリウム(CeO2)等の化合物により、例えば厚さ500nm、幅10mmに形成されている。
【0033】
超電導層40cは、希土類系酸化物超電導体のCVD法(化学蒸着法)により、例えば厚さ約1μm、幅10mmに形成されている。希土類元素としては、ランタン(La)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、イットリウム(Y)、イッテルビウム(Yb)等が挙げられる。希土類系酸化物としては、RE・Ba・Cu・O等が挙げられる。但し、REは希土類元素を表す。この超電導層40cとして具体的には、イットリウム・バリウム・銅酸化物(Y・Ba・Cu酸化物)、ランタン・バリウム・銅酸化物(La・Ba・Cu酸化物)等が挙げられる。
【0034】
第1安定化層40dは、銀等の金属のスパッタリング等により、例えば厚さ約15μm、幅10mmに形成されている。第2安定化層40eは、銅等の金属のメッキ等により、例えば厚さ約50μmに形成されている。
【0035】
ところで、従来、NbTiに代表される低温超電導線材で形成される低温超電導コイルでは、コイルを製造する際に、エポキシ樹脂など樹脂材料による含浸処理がよく用いられている。コイル状に巻回された線材間に含浸した樹脂材料が硬化し、線材どうしを強く固定することができるので、コイルの機械的強度が高まる。含浸樹脂は、コイル励磁中にコイル内部に発生する強力な電磁力によって生じうるコイルの変形を抑制することに役立つ。また、含浸樹脂は、線材どうしを熱的に結合する伝熱経路をコイル内部に一様に形成し、コイルの熱的安定性を向上することにも役立つ。
【0036】
しかしながら、高温超電導線材40で形成される超電導コイル12には、こうした含浸処理は適さない。高温超電導線材40の層間の剥離強度に比べて、樹脂材料による線材どうしの接着が強固となりすぎる傾向にある。超電導コイル12の使用時に生じうる内部応力は、強度に劣る高温超電導線材40の内部に集中し、含浸樹脂部に比べて強度に劣る高温超電導線材40の層間に剥離を発生させ高温超電導線材40が破壊されうるからである。
【0037】
そこで、超電導コイル12には製造工程において含浸処理が行われない。したがって、超電導コイル12は、積層される高温超電導線材40間に含浸材を有しない。超電導コイル12のように、絶縁処理を施していない超電導線材で形成される超電導コイルは、無絶縁(No-Insulation;NI)超電導コイルとも称されうる。励磁中に何らかの原因で局所的に常電導部が発生しても、電流は隣接する線材に迂回することができ、安定的な励磁が可能になるという利点がある。また高電流密度化が可能である。
【0038】
その反面、無絶縁コイルである超電導コイル12では、コイル径方向42の熱伝導は、巻回された高温超電導線材40間の接触熱抵抗に強く依存することになる。高温超電導線材40間の接触熱抵抗をコイル全体で一様となるように管理することは、製造上必ずしも容易でない。もし、コイル内で熱伝導に局所的な不均一があったとすると、これはコイルの熱的な不安定性につながりうるので、望ましくない。
【0039】
これに対し、実施の形態に係る超電導コイル装置10によると、
図1に示されるように、コイル補強ケース14に冷却ガス16が充填され、超電導コイル12は冷却ガス16とともにコイル補強ケース14に収容される。冷却ガス16は、超電導コイル12を形成する高温超電導線材40間のわずかな隙間44(
図3参照)にも浸透し、隙間44を満たす。こうして、冷却ガス16は、高温超電導線材40間に伝熱経路を形成する。これにより、超電導コイル12の内部の熱伝導は促進され、超電導コイル12の熱的安定性は向上される。
【0040】
図4は、
図1に示されるコイル補強ケース14の例示的な構成を超電導コイル12とともに概略的に示す図である。
図4には、超電導コイル12の中心軸を含む平面による超電導コイル装置10の断面を概略的に示す。超電導コイル12は、
図3に示されるように、高温超電導線材40を巻回して円環状に形成される。
【0041】
コイル補強ケース14は、超電導コイル12の外周面に隣接して配置されたケース外周枠14aと、超電導コイル12の上端面に隣接して配置されたケース上板14bと、超電導コイル12の下端面に隣接して配置されたケース下板14cと、を備える。ケース外周枠14aが超電導コイル12の外周面を支持し、ケース上板14bが超電導コイル12の上端面を支持し、ケース下板14cが超電導コイル12の下端面を支持する。
【0042】
超電導コイル12が円環状の形状を有する場合、コイル補強ケース14は、超電導コイル12をちょうど収める円筒形の箱であってもよい。よって、ケース外周枠14aは、超電導コイル12の外周面に沿ってコイルの周方向に延びる円環状のフレームであってもよい。ケース上板14bとケース下板14cはそれぞれ、超電導コイル12の上端面と下端面に沿って延びる円形のディスク状のプレートであってもよい。
【0043】
また、ケース上板14bは、ケース外周枠14aと気密に接合され、ケース下板14cは、ケース外周枠14aと気密に接合される。ケース上板14bの外周部がケース外周枠14aの上端部に接合され、ケース下板14cの外周部がケース外周枠14aの下端部に接合される。接合方法は、種々ありうるが、例えば、溶接により接合されてもよく、あるいは、接合される2つの部材間にメタルOリングなど金属製のシール部材を挟み込むようにして、ボルトなど接合部品で機械的に接合されてもよい。
【0044】
また、
図4には、超電導コイル12の励磁中にコイルに径方向に働く電磁力50を太い矢印で示すとともに、この電磁力50に抗してコイル補強ケース14のケース上板14bとケース下板14cに働く機械的な内部応力52を細い矢印で示す。このように、コイル補強ケース14が超電導コイル12を補強し、超電導コイル12とコイル補強ケース14を含む構造体が全体で強力な電磁力50に対する機械的な支持を提供することができる。
【0045】
コイル補強ケース14は、電磁力50だけでなく、内部に封入している冷却ガス16の圧力にも耐えるように設計されなければならない。超電導コイル12の励磁中は極低温に冷却されるため、このときの冷却ガス16の圧力は上述のように、比較的低い(例えば1MPa程度)。一方、超電導コイル装置10にメンテナンスを施すときには、超電導コイル装置10は室温に昇温される。温度に比例して冷却ガス16の圧力も上昇するので、室温では極低温に比べて、コイル補強ケース14内の冷却ガス16の圧力は、はるかに高くなる。例えば、20Kから300Kへと昇温すれば、温度は15倍に増すから、圧力も15倍に高まる(例えば15MPa程度にも増加する)。しかし、室温では、超電導コイル12は動作しないから、電磁力50はコイル補強ケース14に働かない。
【0046】
結局、本発明者の試算によれば、コイル補強ケース14が電磁力50と極低温での冷却ガス16の圧力に耐える設計を有するとき、たいていの場合、室温で上昇した冷却ガス16の圧力にも耐えられる。室温でのかなり高い冷却ガス16の圧力を考慮して、コイル補強ケース14の肉厚を過剰に大きくする必要はない。したがって、超電導コイル12の補強構造の提供と冷却ガス16の気密性の確保という2つの役割をコイル補強ケース14にもたせる設計は、現実的に可能である。
【0047】
以上説明したように、実施の形態に係る超電導コイル装置10は、超電導コイル12とともに冷却ガス16を気密に収容するとともに、超電導コイル12を補強するように超電導コイル12を囲んで配置されるコイル補強ケース14を備える。このようにして、超電導コイル装置10に充填される冷却ガス16が、超電導コイル12の内部の熱伝導の均一化を促進することができる。よって、超電導コイル12ひいては超電導コイル装置10の熱的安定性が向上される。また、補強と気密性を1つのコイル補強ケース14で実現できるので、部品点数が削減され、製造コストが低減される。超電導コイル12を補強するフレーム構造とこれを包囲する圧力容器というような二重の構造は必要ない。
【0048】
図5は、コイル補強ケース14の変形例を概略的に示す図である。コイル補強ケース14は、ケース外周枠14a、ケース上板14b、ケース下板14cに加えて、ケース内周枠14dを備えてもよい。ケース内周枠14dは、超電導コイル12の内周面に隣接して配置され、ケース上板14bおよびケース下板14cと気密に接合される。ケース内周枠14dが設けられているので、コイル補強ケース14は、超電導コイル12をより強固に補強することができる。
【0049】
この場合、コイル補強ケース14は、超電導コイル12と同様に中心に開口部をもつドーナツ形状であってもよい。ケース上板14b、ケース下板14cは、ドーナツ形状のプレートであってもよい。
【0050】
なお、ケース内周枠14dは、
図4に示される円筒形状または箱形のコイル補強ケース14に適用されてもよく、すなわちコイル補強ケース14の内部に設置されてもよい。
【0051】
図6は、実施の形態に係り、
図1に示される超電導コイル装置10に適用されうる電流リード部20を概略的に示す図である。電流リード部20は、超電導電流リード60と、金属電流リード62とを備える。超電導電流リード60は、超電導コイル12に接続され、金属電流リード62は、超電導電流リード60に接続されている。すなわち、金属電流リード62は、超電導電流リード60を介して超電導コイル12に接続されている。
【0052】
超電導電流リード60は、例えばREBCO線材であってもよく、または、銅酸化物超伝導体またはその他の高温超伝導材料で形成されうる。あるいは、超電導電流リード60は、NbTiに代表される低温超電導材料で形成されてもよい。金属電流リード62は、例えば無酸素銅などの純銅に代表される導電性に優れる金属材料で形成される。
【0053】
超電導電流リード60は、コイル補強ケース14に収容される一方、金属電流リード62は、冷却ガス16を封止するようにコイル補強ケース14に取り付けられている。金属電流リード62の一部を形成する気密封止部64が、超電導電流リード60と金属電流リード62の境界に形成され、この気密封止部64がコイル補強ケース14に気密に接合される。金属電流リード62が気密フィードスルー構造をコイル補強ケース14に形成する。コイル補強ケース14は、超電導コイル12を補強するように超電導コイル12を囲んで配置されるケース本体66と、超電導電流リード60を囲むようにしてケース本体66から気密封止部64へと延びる筒部68とを備えてもよい。筒部68が気密封止部64に気密に接合される。
【0054】
コイル補強ケース14は、上述のように、極低温冷凍機の二段冷却ステージと熱的に結合され、二段冷却ステージの冷却温度に冷却されうる。また、気密封止部64は、極低温冷凍機の一段冷却ステージと熱的に結合され、一段冷却ステージの冷却温度に冷却されうる。
【0055】
この実施の形態のように、超電導電流リード60をコイル補強ケース14に収容すれば、超電導電流リード60の気密フィードスルー構造をコイル補強ケース14に設ける必要が無い。この構成は、超電導コイル装置10に電流リード部20を実装しやすいので、有利である。
【0056】
また、金属電流リード62は高温部(室温部)へと接続されるので低温部(超電導電流リード60、超電導コイル12)への侵入熱の経路となる。金属電流リード62がコイル補強ケース14の中に配置される場合には、金属電流リード62からコイル補強ケース14内の冷却ガス16への熱伝達により冷却ガス16に対流が起こり、熱の侵入が増えるかもしれない。しかし、
図6に示されるように、気密封止部64が超電導電流リード60と金属電流リード62の境界に形成され、金属電流リード62はコイル補強ケース14の外にあるので、金属電流リード62からコイル補強ケース14内への入熱を低減できる。
【0057】
なお、金属電流リード62の少なくとも一部が気密封止部64からコイル補強ケース14内へと延び、超電導電流リード60と金属電流リード62の境界がコイル補強ケース14の中に配置されてもよい。
【0058】
図7(a)および
図7(b)は、
図6の実施の形態の変形例を概略的に示す図である。
図6の実施の形態と同様に、電流リード部20は、超電導電流リード60と、金属電流リード62とを備える。金属電流リード62の一部を形成する気密封止部64が、超電導電流リード60と金属電流リード62の境界に形成される。
【0059】
図7(a)に示されるように、超電導コイル装置10は、超電導コイル12とともに冷却ガス16を気密に収容するコイルケース70と、超電導コイル12を補強するように超電導コイル12を囲んで配置されるコイル補強構造72と、を備えてもよい。気密封止部64は、コイルケース70に気密に接合される。コイル補強構造72は、コイルケース70の中に配置される。コイル補強構造72は、上述の実施の形態と同様に、超電導コイル12の励磁中にコイルに径方向に働く電磁力による超電導コイル12の変形を抑制するように構成される外周枠、上板、および下板を備えてもよい。ただし、コイル補強構造72は、気密性をもつ必要はない。このように、超電導コイル装置10は、コイルケース70とコイル補強構造72を別個の構成要素として備えてもよい。
【0060】
また、
図7(b)に示されるように、超電導コイル装置10は、超電導コイル12とともに冷却ガス16を気密に収容するコイルケース70を備えるが、超電導コイル12にコイル補強構造が設けられていなくてもよい。
【0061】
以上、本発明を実施例にもとづいて説明した。本発明は上記実施形態に限定されず、種々の設計変更が可能であり、様々な変形例が可能であること、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。ある実施の形態に関連して説明した種々の特徴は、他の実施の形態にも適用可能である。組合せによって生じる新たな実施の形態は、組み合わされる実施の形態それぞれの効果をあわせもつ。
【0062】
上述の実施の形態では、超電導コイル12が高温超電導線材40から形成されるシングルパンケーキコイルである場合を例として説明しているが、実施の形態に係る超電導コイル装置10に適用されうる超電導コイル12は、そうした特定の形状および材質を有するものには限定されない。例えば、超電導コイル12は、ダブルパンケーキコイルまたはその他の多層のパンケーキコイルであってもよい。超電導コイル12は、線材をソレノイド状に巻回して形成される超電導コイルであってもよい。超電導コイル12は、低温超電導線材から形成される低温超電導コイルであってもよい。コイル補強ケース14は、こうした様々な超電導コイル12に適合するように設計されてもよい。
【0063】
実施の形態にもとづき、具体的な語句を用いて本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用の一側面を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が認められる。
【符号の説明】
【0064】
10 超電導コイル装置、 12 超電導コイル、 14 コイル補強ケース、 14a ケース外周枠、 14b ケース上板、 14c ケース下板、 16 冷却ガス、 32 極低温冷凍機、 60 超電導電流リード、 62 金属電流リード。