(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-23
(45)【発行日】2024-05-02
(54)【発明の名称】脱窒処理方法および脱窒処理装置
(51)【国際特許分類】
C02F 3/10 20230101AFI20240424BHJP
C02F 3/34 20230101ALI20240424BHJP
C12N 1/00 20060101ALI20240424BHJP
【FI】
C02F3/10 Z
C02F3/34 101A
C02F3/34 101B
C02F3/34 101D
C02F3/34 101C
C12N1/00 R
(21)【出願番号】P 2019501341
(86)(22)【出願日】2018-02-20
(86)【国際出願番号】 JP2018005993
(87)【国際公開番号】W WO2018155436
(87)【国際公開日】2018-08-30
【審査請求日】2020-12-22
(31)【優先権主張番号】P 2017033620
(32)【優先日】2017-02-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】滝田 昌輝
【審査官】松井 一泰
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/073304(WO,A1)
【文献】特開2007-000763(JP,A)
【文献】特開2011-104551(JP,A)
【文献】特開2000-153293(JP,A)
【文献】特開2002-136991(JP,A)
【文献】特開2011-177619(JP,A)
【文献】特開2014-132831(JP,A)
【文献】特開2007-105627(JP,A)
【文献】特開2013-063036(JP,A)
【文献】特開2002-346594(JP,A)
【文献】SHEN, Zhiqiang,Biological denitrification using cross-linked starch/PCL blends as solid carbon source and biofilm carrier,Bioresource Technology,2011年,102,8835-8838
【文献】WO, Weizhong et al.,Biological denitrification with a novel biodegradable polymer as carbon source and biofilm carrier,Bioresource Technology,2012年,No. 118,pp. 136-140
【文献】渡邉淳 et al.,排水中の窒素除去に関する研究(その10)-ポリ乳酸を用いたバイオリアクターの窒素除去活性の向上と長期,電力中央研究所報告,日本,財団法人電力中央研究所、環境科学研究所,2005年06月,V04027,p.i-iv,p.1-13
【文献】田中健治ら,炭素・リン・微生物環境ならびに窒素負荷が浸出水の脱窒効率に及ぼす影響,土木学会論文集B1(水工学),日本,2012年,Vol. 68, No. 4,I_619-I_624
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/02- 3/10
C02F 3/28- 3/34
C12N 1/00- 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硝酸態窒素及び/又は亜硝酸態窒素を含む処理対象液を連続的に脱窒処理する方法であって、
生分解性ポリマーを含む充填材が充填された容器内に前記処理対象液を通液させることで生物学的に前記脱窒処理を行う工程を含み、前記生分解性ポリマーが
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)であり、前記容器における前記処理対象液の平均滞留時間が15分以上10時間以下であり、かつ前記処理対象液が0.5mg/L以上の濃度でリン化合物を含有し、前記容器を通液後の液の溶存酸素濃度が5mg/L以下に維持されるように前記容器への前記処理対象液の流量を制御することを特徴とする脱窒処理方法。
【請求項2】
前記容器は、前記充填材が前記容器の容量(100vol%)に対して30vol%以上の充填度で充填された容器である、請求項
1に記載の脱窒処理方法。
【請求項3】
硝酸態窒素及び/又は亜硝酸態窒素を含む処理対象液を連続的に脱窒処理する装置であって、
内部を通液させることによって前記処理対象液を生物学的に脱窒処理する脱窒処理部を備え、前記脱窒処理部は生分解性ポリマーを含む充填材が充填されており、前記生分解性ポリマーが生分解性ポリエステルであり、
前記脱窒処理部の出口における液の溶存酸素濃度を監視して、当該溶存酸素濃度が5mg/L以下に維持されるように前記脱窒処理部の入口における前記処理対象液の流量を制御する機構を備えることを特徴とする、脱窒処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硝酸態窒素及び/又は亜硝酸態窒素(以下、窒素化合物とも言う)を含有する汚染水から連続的に窒素化合物を処理する方法およびその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
人間活動と環境の調和を図るためには、人間活動によって発生する汚濁物質をできるだけ減らすこと、発生した汚濁物質を無害化処理することが必要である。汚濁対象物質の1つに硝酸態窒素、亜硝酸態窒素が挙げられる。
【0003】
この硝酸態窒素の処理方法の1つとして生物学的処理方法があり、その代表例が活性汚泥処理を用いた脱窒処理である。これは、嫌気状態で脱窒菌を用いて、硝酸態窒素、および/または亜硝酸態窒素を窒素ガスにまで還元させて無害化する処理方法である(脱窒反応)。この脱窒反応は、硝酸態窒素を電子受容体とする硝酸呼吸菌の作用を利用したものであり、これにより、硝酸態窒素は、亜硝酸、一酸化窒素、一酸化二窒素を経て窒素まで還元され、その結果、処理対象液中の各種窒素化合物は、窒素ガスとして大気中に放散されて除去される。
【0004】
この脱窒反応には、電子供与体が必須であり、従来はメタノールや酢酸を利用するなど安価な液体状の電子供与体が使用されてきたが、残存する硝酸態窒素に応じて適切な量の電子供与体を添加する必要があり、そのコントロールが非常に難しい。よって、過剰量を添加し、後段の処理で残存したメタノールを除去する方法が採用されているが、残存メタノールの影響、例えば養殖設備などへの適用を考えた場合、魚体への影響が懸念されるため、確実に残存電子供与体の除去を実施するために、設備費が膨れ上がる結果となっている。
【0005】
このような問題を回避するために、生分解性固形物質を電子供与体として用いる方法が挙げられている。この例として、ウッドチップや高級脂肪酸、生分解性ポリマーなどが挙げられており、電子供与体の徐放性を利用し、前述の課題の解決が試みられている。
【0006】
例えば、特許文献1においては、生分解性固形電子供与体として、分子量等の物性を改変して加水分解性を高めた固体状ポリ乳酸(以降、PLAと記載)を用いた固相脱窒法の提案がなされている。この改変されたPLAは、乳酸を供給できる程度の加水分解性が付与され、加水分解に伴って放出される乳酸の徐放速度を調整することが可能と述べられている。また、例えば、特許文献2には、生分解性固形電子供与体として、生分解性ポリマーの1種である微生物産生ポリエステルをを用いた脱窒法が提案されている。これによると、一般的な活性汚泥処理にて、生分解性ポリマーを添加・共存させることで、処理対象液中に含まれる有機物が不足した際の菌に起こる菌の活性低下、特に脱窒能の低下を抑制することが可能と述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2011-104551号公報
【文献】特開2000-153293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、一般にPLAは生分解性がきわめて悪く、そのままでは脱窒処理の基質としては適さないという問題点があった。例えば、特許文献1においては、加水分解性を高めた固体状PLAを用いた固相脱窒法の提案がなされており、加水分解に伴って放出される乳酸の徐放速度を調整することが可能と述べられているが、加水分解の持続性に課題があった。
【0009】
また、特許文献2においては、通常の活性汚泥処理において、電子供与体として微生物産生ポリエステルを添加し、菌の活性を維持させる方法が提案されているが、依然として脱窒処理効率は不十分であり、また、処理の安定性に課題があった。
【0010】
一般的に脱窒処理の前段で、アンモニア態窒素を硝酸態窒素および亜硝酸態窒素にまで酸化する硝化処理が実施されることが多いが、この硝化反応は好気条件下で実施する必要があることから、その後段の脱窒処理の処理対象液は、酸素を多く含んだ好気状態であることが多い。よって、速やかに脱窒反応を進行させるためには、処理対象液中の酸素を除去し嫌気状態にする必要がある。そこで、一般的には、酸素低減処理として、酸素供給を遮断し静置させるが、酸素低減に必要な十分な時間を確保するために、槽の容量が大きくなってしまうという課題があった。
【0011】
本発明は、上記問題点に鑑みて行われたものであり、生物学的処理における脱窒処理の作業性の向上を図ると共に、硝酸態窒素および/または亜硝酸態窒素除去を迅速かつ良好に長期間にわたって安定的に実現する脱窒処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、固形の電子供与体を用いた連続式脱窒方法において、処理対象液にリン化合物を共存させること及び、処理対象液の平均滞留時間を10時間以下に設定することで、脱窒能力を格段に高めることができると同時に比較的活性が低下しやすい中温領域以下でも問題なく脱窒できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、例えば以下の発明を提供する。
【0014】
[1]硝酸態窒素及び/又は亜硝酸態窒素を含む処理対象液を連続的に脱窒処理する方法であって、
生分解性ポリマーを含む充填材が充填された容器内に前記処理対象液を通液させることで生物学的に前記脱窒処理を行う工程を含み、前記容器における前記処理対象液の平均滞留時間が10時間以下であり、かつ前記処理対象液がリン化合物を含有することを特徴とする脱窒処理方法。
【0015】
[2]前記容器を通液後の液の溶存酸素濃度が5mg/L以下である、[1]に記載の脱窒処理方法。
【0016】
[3]前記生分解性ポリマーが脂肪族ポリエステルである、[1]又は[2]に記載の脱窒処理方法。
【0017】
[4]前記脂肪族ポリエステルがポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)である、[3]に記載の脱窒処理方法。
【0018】
[5]前記容器は、前記充填材が前記容器の容量(100vol%)に対して30vol%以上の充填度で充填された容器である、[1]~[4]のいずれか1つに記載の脱窒処理方法。
【0019】
[6]硝酸態窒素及び/又は亜硝酸態窒素を含む処理対象液を連続的に脱窒処理する装置であって、
内部を通液させることによって前記処理対象液を生物学的に脱窒処理する脱窒処理部を備え、前記脱窒処理部は生分解性ポリマーを含む充填材が充填されており、
前記脱窒処理部の出口における液の溶存酸素濃度を監視して、当該溶存酸素濃度が5mg/L以下に維持されるように前記脱窒処理部の入口における前記処理対象液の流量を制御する機構を備えることを特徴とする、脱窒処理装置。
【発明の効果】
【0020】
本発明は上記構成を有するため、窒素化合物の除去を迅速かつ安定的に実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の方法又は装置における脱窒処理部の一例を示す概略図である。
【
図2】本発明の方法又は装置における脱窒処理部内の溶存酸素濃度の分布のイメージを示す図である。
【
図3】実施例で作製及び使用した脱窒処理装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
一般的に窒素化合物の1種である硝酸態窒素、もしくは亜硝酸態窒素を生物学的に処理するためには、嫌気状態で脱窒菌を用いて、硝酸態窒素もしくは亜硝酸態窒素を窒素ガスまで還元させる方法が用いられる。この脱窒反応は、硝酸態窒素を電子受容体とする硝酸呼吸菌の作用を利用したものであり、これにより、硝酸態窒素は、亜硝酸、一酸化窒素、一酸化二窒素を経て窒素まで還元され、その結果、処理対象液中の各種窒素化合物は、窒素ガスとして大気中に放散されて除去される。
【0023】
この脱窒反応には電子供与体が必要であるが、本発明では、固形の電子供与体として生分解性ポリマーを用いる。生分解性ポリマーを用いることで、微生物が必要に応じて生分解性ポリマーを分解し、その分解物を電子供与体として利用することで脱窒反応を進めることが可能となる。このように生分解性樹脂を用いることで、メタノールのような液体の電子供与体の添加が不要となり、従来まで困難であったその濃度コントロールも不要となり不要な設備を削減することができる。
【0024】
<脱窒処理方法>
本発明の脱窒処理方法は、硝酸態窒素及び/又は亜硝酸態窒素(硝酸態窒素及び亜硝酸態窒素のいずれか一方又は両方)を含む液である処理対象液を連続的に脱窒処理する方法であって、生分解性ポリマーを含む充填材が充填された容器内に前記処理対象液を通液させることで生物学的に脱窒処理を行う工程(「脱窒処理工程」と称する場合がある)を必須の工程として含む方法である。
【0025】
[脱窒処理工程]
上記脱窒処理工程においては、生分解性ポリマーを含む充填材が充填された容器を用いる。当該容器内に処理対象液を通液させることにより、生物学的な脱窒処理を進行させることができる。前記充填材は、1種の生分解性ポリマーのみからなるものであってもよいし、2種以上の生分解性ポリマーを含むか、または、1種以上の生分解性ポリマーと他の成分(例えば、添加剤等)とを含む組成物からなるものであってもよい。
【0026】
<生分解性ポリマー>
本発明において用いる生分解性ポリマーは、生分解性を有するポリマーであれば適用可能であるが、好ましくは生分解性ポリエステル、より好ましくは脂肪族ポリエステルである。
【0027】
脂肪族ポリエステルとしては、例えば、ポリヒドロキシアルカノエート(以降PHAと略す)、およびポリアルキレンジカルボキシレートなどが挙げられ、脂肪族ポリエステル以外の生分解性ポリエステルとしては、例えば、ポリブチレンアジペート-co-テレフタレートが挙げられる。
【0028】
前記PHAとは、ヒドロキシアルカン酸をモノマーユニットとするポリエステルを指す。具体的には、ポリグリコール酸、ポリ乳酸(以降PLAと略す)、ポリ-3-ヒドロキシアルカノエート(以降P3HAと略す)、ポリ-4-ヒドロキシアルカノエート等が挙げられる。このうち、窒素化合物の除去速度が速いため、PLA、P3HAが好ましく、P3HAがより好ましい。また、処理対象である汚染水が海水などの塩濃度が高い水に由来する場合は、海水生分解性の観点から、P3HAが最も好ましい。
【0029】
前記P3HAとは、3-ヒドロキシアルカン酸を主要モノマーユニットとする重合体(「ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)」と称する)である。3-ヒドロキシアルカン酸モノマーユニットとしては特に限定されないが、例えば、3-ヒドロキシブチレート、3-ヒドロキシプロピオネート、3-ヒドロキシバレレート、3-ヒドロキシヘキサノエート、3-ヒドロキシヘプタノエート、3-ヒドロキシオクタノエートなどのモノマーユニットが挙げられる。また、これらの重合体は、単独重合体でも、2種以上のモノマーユニットを含む共重合体でも良い。P3HAが共重合体の場合には、2種類以上の3-ヒドロキシアルカン酸を共重合させたものであってもよいし、1種又は2種以上の3-ヒドロキシアルカン酸に対し、4-ヒドロキシブチレート等の4-ヒドロキシアルカン酸を共重合させたものであってもよい。
【0030】
中でも、3-ヒドロキシブチレートをモノマーユニットとして含む重合体が供給の観点から好ましく、その具体例としては、ポリ-3-ヒドロキシブチレート単独重合体や、ポリ-3-ヒドロキシブチレート共重合体であるポリ-3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート(PHBH)やポリ-3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシバレレート(PHBV)、ポリ-3-ヒドロキシブチレート-co-4-ヒドロキシブチレートなどが挙げられる。P3HAを使用する場合、1種類のP3HAのみを使用してもよいし、複種類のP3HAを併用してもよい。もちろん、他の生分解性ポリマーや生分解性ポリエステル、生分解性脂肪族ポリエステルとの併用も可能である。
【0031】
前記ポリアルキレンジカルボキシレートとは、脂肪族ジオール(又はその誘導体)と脂肪族ジカルボン酸(又はその誘導体)の重縮合体を指す。具体的には、ポリブチレンサクシネート(以降PBSと略す)、ポリエチレンサクシネート、ポリ(ブチレンサクシネート-co-ブチレンアジペート)等が挙げられる。
【0032】
本発明で用いる生分解性ポリマーとしては、窒素化合物の処理速度の観点から、P3HA、PBS、PLAがより好ましく、P3HA、PBSがさらに好ましく、P3HAが特に好ましい。また、処理対象である汚染水が海水などの塩濃度が高い水に由来する場合は、海水生分解性の観点から、P3HAが最も好ましい。
【0033】
本発明において生分解性ポリマーは、1種類のみを使用してもよいし、複種類を併用してもよい。また、各生分解性ポリマーの成型体を混合して充填材として使用してもよいし、予め各生分解性ポリマーを混合・成型させた成型体を充填材として使用してもよい。
【0034】
本発明で用いる生分解性ポリマーを含む充填材の形状は通液を阻害しない固形状であれば特に制限はなく、粉末状、ペレット状、球状、シート状、コイル状、ひも状、網状のいずれであっても良い。ただし処理効果と作業効率を上げるために、表面積が広く、ある程度の物理的耐性を有し、取り扱いが容易であれば、形態には制限されない。使用に際しては、各形態のものを単独で用いても良く、複数の形態のものを混合して用いても良い。
【0035】
脱窒処理工程において使用する上記容器は、その内部に処理対象液を通液させることによって該処理対象液を生物学的に脱窒処理するものであればよく、その形状等は特に限定されない。上記容器は、上記処理対象液の入口と出口とを有するが、当該入口及び出口の位置も特に限定されない。内部において処理対象液を生分解性ポリマーを含む充填材と接触させて生物学的な脱窒処理を進行させることができるような容器であればよい。例えば、
図1で表されるようなカラム状の容器が使用できる。
【0036】
本発明における脱窒処理工程においては、上記容器内で、処理対象液を生分解性ポリマーを含む充填材に接触させる必要がある。処理対象液を充填材に接触させる方法としては、処理対象液に直接充填材を添加する方法や充填材が充填されたカラム状構造を有する装置を用いることが考えられるが、処理対象液と充填材の接触頻度を考えると、
図1に示すような容器に生分解性ポリマーを含む充填材を充填させた装置(カラム様の脱窒処理部)を用いることが好ましい。
【0037】
上記容器における生分解性ポリマーを含む充填材の充填度(充填率)は、特に限定されないが、反応容積あたりの処理速度の観点から、容器の容量(100vol%)に対して30vol%以上が好ましく、より好ましくは40vol%以上、さらに好ましくは50%以上である。一方、充填度の上限は、90vol%以下が好ましく、より好ましくは80%以下である。充填度を90vol%以下とすることにより、生分解性ポリマーに付着する微生物又はバイオフィルムによる閉塞が抑制され、より効率的に脱窒反応を進行させることができる傾向がある。
【0038】
上記容器における生分解性ポリマーを含む充填材の充填度を30vol%以上とすることで、処理対象液中に存在する溶存酸素濃度を速やかに低減させるのに効果がある。つまり、本発明では、容器(脱窒処理部)内に導入された処理対象液中の溶存酸素は生分解性ポリマーに付着した微生物によって、生分解性ポリマーの資化と共に速やかに消費され、容器内は嫌気状態に移行する。よって、例えば
図2で示すように、容器下部に設けた入口より処理対象液を流入させ、容器上部に設けた出口から排出させる場合、容器内下部は好気状態であるが、容器内上部は嫌気状態となる。以上により、脱窒反応が速やかに進む環境を迅速に整えることを可能とし、連続的な脱窒処理を可能としている。
【0039】
もちろん、容器内で生物学的な脱窒反応を進行させるために、本方法を実施する前(後述の本装置を本格的に稼動させる前)に予め、容器内に微生物を繁殖させておく必要があることは言うまでもない。この繁殖方法・馴養方法については特に限定されないが、多くの場合、容器内を処理対象液で満たしておくことで、時間とともに環境中に存在する微生物が繁殖し、安定運転可能な状態となる。もちろん、立ち上げの時間を早めるために、活性汚泥中の汚泥を添加することも可能である。
【0040】
本発明の脱窒処理方法においては、上述のように内部に微生物を繁殖させた上記容器(生分解性ポリマーを含む充填材を充填した容器)を用いることで、簡便に連続的に脱窒させることが可能となる。なお、上記容器の容量については、発生する処理対象負荷に応じて決定されるため、特に限定されない。また、上記容器の材質についても、処理対象液の種類によるため特に限定されないが、処理対象液が海水であれば、塩による腐食を防止するために、金属製であればSUS製が好ましく、耐加重の観点で特に問題なければ塩ビ製などが安価なので用いやすい。
【0041】
また、本発明により安定的かつ高い能力で窒素化合物を除去するためには、処理対象液中のリン化合物の存在が重要である。即ち、本発明の方法又は装置における処理対象液はリン化合物を含有する。処理対象液中にリン化合物が存在することで、脱窒の効率が飛躍的に向上する。特に低温~中温領域での効果は顕著であり、リン化合物の非存在下であれば、ほとんど脱窒反応が起きないケースでもリン化合物が存在することで、反応率を格段に向上させることが可能である。本発明において、リン化合物とは、オルトリン酸態リンに代表される無機態リンとリン脂質などに代表される有機態リンの総称である。
【0042】
基本的には、処理対象液中に好ましくは0.5mg/L以上(より好ましくは1.0mg/L以上、さらに好ましくは2.0mg/L以上)の濃度でリン化合物が含まれていると、本発明の方法及び装置において脱窒能力を最大限に発揮させることができる。リン化合物の濃度が十分でなければ、上記容器(脱窒処理部)出口の溶存酸素濃度が高位すなわち概ね5mg/L超となり、脱窒処理の効率が低下する傾向がある。もし、リン化合物の濃度が不十分と判断されれば、処理対象液にリン化合物を添加することで対応できる。その際のリン化合物の形態は特に限定されず、水溶性のリン化合物、例えばリン酸、および/またはその塩がコストの面から好適に使用される。処理対象液に含まれるリン化合物の濃度の上限は特に限定されないが、コストおよび環境負荷の観点で、10mg/L以下が好ましく、より好ましくは5mg/L以下である。なお、本発明におけるリン化合物の濃度は、総リン表記(T-P)としており、酸加水分解-吸光度法で定量できる。また、簡易的に測定したい場合、HACH社製のリン定量キット(例えばTNT845など)が操作の簡便性などからも好適に利用できる。
【0043】
また、本発明においては、装置内の処理対象液の平均滞留時間は、脱窒反応率(1-(装置出口の窒素化合物濃度)/(装置入口の窒素化合物濃度))に影響するため極めて重要なファクターである。本発明者は、リン化合物の非存在下であれば、脱窒効率が顕著に高い滞留時間が存在しないが、一方で、リン化合物の存在下であれば、滞留時間に応じて脱窒の反応率が劇的に変化するため、特に脱窒効率が顕著に高い滞留時間が存在することを見出した。本発明における上記平均滞留時間は10時間以下であり、リン化合物の存在下での平均滞留時間は正味の窒素化合物除去量の観点から、好ましくは5時間以下、より好ましくは4時間以下、さらにより好ましくは3時間以下である。しかしながら前述したように、基本的に平均滞留時間が短くなればなるほど脱窒反応率が低下するため、その下限は、好ましくは15分以上、より好ましくは30分以上、さらにより好ましくは1時間以上である。
【0044】
本発明において、平均滞留時間は、処理部(生分解性ポリマーを含む充填材の充填部)の容積を単位時間当たりの体積流量で除した値と定義する。
【0045】
本発明の脱窒処理方法においては、上記容器に流入させる処理対象液(上記容器の入口付近の処理対象液)の溶存酸素濃度は、特に限定されない。
【0046】
本発明の脱窒処理方法においては、上記容器を通液後の液(上記容器の出口付近の処理済みの液)の溶存酸素濃度は、特に限定されないが、5mg/L以下に維持されることが好ましく、より好ましくは3.5mg/L以下、さらに好ましくは1mg/L以下、さらに好ましくは0.5mg/L以下、さらに好ましくは0.1mg/L以下に維持される。溶存酸素濃度の下限は特に限定されず、例えば、0mg/Lであってもよい。上記溶存酸素濃度を5mg/L以下とすることにより、容器内の脱窒環境が整い、脱窒反応が効率よく進む傾向がある。上記溶存酸素濃度は、後述するように上記容器への処理対象液の流量を制御することや、処理対象液中のリン化合物の濃度を調節することで、所望の範囲に維持することができる。
【0047】
本発明の脱窒処理方法は、上述の脱窒処理工程を有するものであれば特に限定されず、その他の工程を有するものであってもよい。その他の工程の例としては、例えば、処理対象液のpHを調整するpH中和工程やストレーナやサイクロンなどにより固形分を除去する工程が挙げられる。
【0048】
<脱窒処理装置>
本発明の脱窒処理装置は、硝酸態窒素及び/又は亜硝酸態窒素を含む処理対象液を連続的に脱窒処理する装置であって、下記の脱窒処理部と流量制御機構とを必須の構成として有する装置である。
【0049】
脱窒処理部:内部を通液させることによって処理対象液を生物学的に脱窒処理する部分
流量制御機構:脱窒処理部の出口における液の溶存酸素濃度を監視して、当該溶存酸素濃度が5mg/L以下(より好ましくは3.5mg/L以下、さらに好ましくは1mg/L以下、さらに好ましくは0.5mg/L以下、さらに好ましくは0.1mg/L以下)に維持されるように脱窒処理部の入口における処理対象液の流量(脱窒処理部への流入量)を制御する機構
本発明の脱窒処理装置における脱窒処理部としては、例えば、上述の生分解性ポリマーを含む充填材を充填した容器が挙げられる。
【0050】
<設備構成>
以上を鑑みて、本発明の脱窒処理装置における流量制御機構について説明する。本方法を利用した脱窒処理装置の能力を最大限に活用するためには、上述したカラム構造を有する脱窒処理部に一定流量で処理対象液を送液するシステムが必要で、脱窒処理部出口で処理水(脱窒処理部で処理後の液)の溶存酸素濃度を監視し、当該溶存酸素濃度が5mg/L以下に維持されるように流量を可変できるシステムが望ましい。こうすることで、脱窒処理部内の嫌気状態、即ち脱窒環境をモニターすることができるとともに、溶存酸素濃度の情報に基づいて流量を制御することで、脱窒環境を最適な状態に保つことができる。もちろん、溶存酸素濃度のモニターはオンラインで分析しても良いし、オフラインで分析しても良い。重要なのは、溶存酸素濃度をもとに適宜流量を制御することであるから、自動で流量を制御しても良いし、手動で流量を制御する方法でも良い。
【0051】
流量制御の機構は、例えば、脱窒処理部出口の溶存酸素濃度が設定値よりも10%増加すれば、脱窒処理部入口の流量を10%低減させるというフィードバックによる制御が好ましい。それでもなお、脱窒処理部出口の溶存酸素濃度が設定値以上であれば、さらに10%ずつ低減させ、最終的に脱窒処理部出口の溶存酸素濃度が設定値以下になるまで同じ操作を繰り返す。勿論、例えば、脱窒処理部出口の溶存酸素濃度が設定値よりも10%低下すれば、脱窒処理部入口の流量を10%増加させる制御を組み入れることも、装置の能力を最大限に活用するためには、好ましい。但し、脱窒処理部の滞留時間があるため、脱窒処理部の溶存酸素濃度の応答が遅いことに留意する必要がある。勿論、フィードバック制御のみでは、対応できない場合を考慮し、フィードフォワード制御を組み入れても良い。
【0052】
なお、脱窒処理部出口の溶存酸素濃度が脱窒処理部入口の流量を低減してもなかなか下がらない場合は、原水(処理対象液)中のリン化合物濃度が不足しているケースが多い。よって、その際は上述した濃度になるように、リン化合物を添加することが好ましい。添加方法は、脱窒処理部へ処理対象液を流入させる直前に混合していても良いし、事前に処理対象液に混合させておいても良い。もちろん、脱窒処理装置内にリン化合物を添加する設備を設け、処理対象液中のリン濃度をモニターしながら間欠的及び/又は連続的に添加できるようなシステムを構築しても良い。
【0053】
本発明の脱窒処理方法、及び本発明の脱窒処理装置を活用することで、窒素化合物処理で課題を抱えている下水処理分野や水族館・観賞魚用水槽、養殖の飼育水中の窒素化合物除去に適用できる。
【実施例】
【0054】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、実施例において「%」は重量基準である。
【0055】
実施例1[常温(34℃)での脱窒処理]
<脱窒処理装置の組み立て>
容器(1L)にKANEKA Biopolymer PHBHを充填率60vol%の密度で充填して脱窒処理部を作製し、
図2に示すように脱窒処理部の出口付近のpHとDOを測定するための器具(pH計4、DO計5)を設置し、さらに、脱窒処理部の入口と出口に配管を設置して、
図3に示される脱窒処理装置を製造した。
【0056】
<菌の馴養操作>
組み立てた装置における脱窒処理部の内部を、窒素源として0.1%硫酸アンモニウム、硝酸ナトリウムを約10mM含む無機塩培地で満たし、34℃で1~3ヶ月間回分培養し、複合微生物群集を馴養させた。
【0057】
<処理対象液(実験用模擬排水)の作製>
10mM硝酸ナトリウムを蒸留水に溶解させ、その後、全リン濃度が0.5mg/Lになるようにリン酸を添加し、さらに、水酸化ナトリウムもしくは塩酸でpHを7に調整して、処理対象液を作製した。
【0058】
<分析方法>
アンモニア態窒素、亜硝酸態窒素、硝酸態窒素、リンの濃度の測定には、HACH社製 DR6000及び対応試薬(TNT832、TNT835、TNT840、843)を用いた。
【0059】
<脱窒処理>
上記で作製した模擬排水を上述の馴養済脱窒処理装置における脱窒処理部に通水させた。脱窒処理部における平均滞留時間が表1に示すように1.3時間となるように模擬排水の流量をコントロールした。なお、装置温度は、内温が34℃になるようにコントロールした。
【0060】
脱窒処理を実施している間、脱窒処理部出口の液をサンプリングし、アンモニア態窒素、亜硝酸態窒素、及び硝酸態窒素の濃度を分析した。得られたアンモニア態窒素、亜硝酸態窒素、硝酸態窒素の濃度の総和を全窒素濃度とし、正味の窒素除去量を(正味の窒素除去量[mg/h])=(入口全窒素濃度[mg/L]-出口全窒素濃度[mg/L])×(流量[L/h])として算出した。結果を表1に示す。
【0061】
実施例2~4
脱窒処理部における平均滞留時間を表1に示すように変更したこと以外は実施例1と同様にして、脱窒処理を実施した。結果を表1に示す。
【0062】
実施例5[中温(24℃)での脱窒処理]
装置内温を24℃に変更したこと以外は実施例1と同様に脱窒処理を行った。結果を表1に示す。
【0063】
実施例6、7
装置内温を24℃に変更し、脱窒処理部における平均滞留時間を表1に示すように変更したこと以外は実施例1と同様にして、脱窒処理を実施した。結果を表1に示す。
【0064】
比較例1[常温(34℃)での脱窒処理]
処理対象液にリン酸を添加しなかったこと以外は実施例1と同様にして、脱窒処理を行った。結果を表1に示す。
【0065】
比較例2~5
脱窒処理部における平均滞留時間を表1に示すように変更したこと以外は比較例1と同様にして、脱窒処理を実施した。結果を表1に示す。
【0066】
比較例6
脱窒処理部における平均滞留時間を表1に示すように変更したこと以外は実施例1と同様にして、脱窒処理を実施した。結果を表1に示す。
【0067】
比較例7[中温(24℃)での脱窒実験]
処理対象液にリン酸を添加せず、装置内温を24℃に変更し、脱窒処理部における平均滞留時間を表1に示すように変更したこと以外は実施例1と同様にして、脱窒処理を実施した。結果を表1に示す。
【0068】
比較例8~10
脱窒処理部における平均滞留時間を表1に示すように変更したこと以外は比較例7と同様にして、脱窒処理を実施した。結果を表1に示す。
【0069】
比較例11
脱窒処理部における平均滞留時間を表1に示すように変更したこと以外は実施例5と同様にして、脱窒処理を実施した。結果を表1に示す。
【0070】
表1では、脱窒処理部出口で測定した処理液の溶存酸素濃度についても記載した。ただし、「-」との表示は溶存酸素濃度を測定していないことを示す。
【0071】
【0072】
表1より、処理対象液がリン化合物を含有し、かつ処理対象液の平均滞留時間を10時間以下とした実施例1~7では、時間当たりの窒素化合物除去量が高く、脱窒能力が格段に優れていることが分かる。なかでも、実施例5~7は、比較的脱窒活性が低下しやすい中温(24℃)領域で実施したものであるが、優れた脱窒能力を示した。
【0073】
一方、処理対象液がリン化合物を含有しなかったり、処理対象液の平均滞留時間が10時間を超えた比較例1~11では、時間当たりの窒素化合物除去量が実施例1~7よりも大幅に低く、脱窒能力に劣っていることが分かる。
【符号の説明】
【0074】
1 生分解性ポリマーを含む充填材
2 入口
3 出口
4 pH計
5 DO計(溶存酸素濃度計)
6 水槽
7 処理水液貯槽