(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-23
(45)【発行日】2024-05-02
(54)【発明の名称】樹脂フィルム、その製造方法、及び成形体
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20240424BHJP
C08K 5/103 20060101ALI20240424BHJP
B29C 48/08 20190101ALI20240424BHJP
B29C 51/10 20060101ALI20240424BHJP
B29C 48/88 20190101ALI20240424BHJP
【FI】
C08J5/18 CFD
C08K5/103
B29C48/08
B29C51/10
B29C48/88
(21)【出願番号】P 2020020511
(22)【出願日】2020-02-10
【審査請求日】2022-12-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長谷部 花子
(72)【発明者】
【氏名】阿部 輝正
(72)【発明者】
【氏名】嶋本 幸展
【審査官】石塚 寛和
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-162884(JP,A)
【文献】特開2010-174085(JP,A)
【文献】特開平09-131779(JP,A)
【文献】国際公開第2014/020838(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00-5/02、5/12-5/22
B29C 48/00-48/96、49/00-49/46、
49/58-49/68、49/72-51/28、
51/42、51/46
C08L 1/00-101/14、101/16
C08K 3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂、及び、結晶核剤を含有し、
前記ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂以外の他の樹脂の含有量は、前記ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂100重量部に対して0重量部以上30重量部以下であり、
幅が500mm以上
5000mm以下、長さが100m以上、膜厚が20~500μmであり、幅方向の膜厚精度(±μm)×Aが8以下である、樹脂フィルム。
但し、前記Aは、式:(1+(200-膜厚(μm))×0.002)より算出される数値である。
【請求項2】
前記樹脂フィルムがロール状に巻かれている、請求項1に記載の樹脂フィルム。
【請求項3】
前記樹脂フィルムは全ヘイズ(%)/膜厚(μm)の比が0.3未満である、請求項1又は2に記載の樹脂フィルム。
【請求項4】
前記ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂が、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の樹脂フィルム。
【請求項5】
前記結晶核剤がペンタエリスリトールである、請求項1~4のいずれか1項に記載の樹脂フィルム。
【請求項6】
前記幅が500mm以上1000mm以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の樹脂フィルム。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれか1項に記載の樹脂フィルムを製造する方法であって、
前記ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂を押出機中で溶融し、Tダイからフィルム状の溶融樹脂を連続的に押出す工程、及び、
前記Tダイの下に配置された冷却用ロール又はエンドレスベルトに前記フィルム状の溶融樹脂の片面を接触させつつ、当該接触の際に前記フィルム状の溶融樹脂を両面から加圧することはせず、前記フィルム状の溶融樹脂を搬送する工程を含み、
前記冷却用ロール又はエンドレスベルトの設定温度が40~60℃であり、
前記フィルム状の溶融樹脂と前記冷却用ロール又はエンドレスベルトの接触時間が2.2秒以上10秒以下である、製造方法。
【請求項8】
請求項1~
6のいずれか1項に記載の樹脂フィルムを、切り出し、熱成形に付して成形された成形体。
【請求項9】
少なくとも一部に立体的な形状が付与されている、請求項
8に記載の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂から構成される樹脂フィルム、その製造方法、及び、前記樹脂フィルムが成形された成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、欧州を中心に生ゴミの分別回収やコンポスト処理が進められており、生ゴミと共にコンポスト処理できるプラスチック製品が望まれている。そのようなプラスチック製品の一例として、特許文献1では、ポリ乳酸系重合体からなるシートを熱成形した加工品が開示されている。
【0003】
一方で、廃棄プラスチックが引き起こす環境問題がクローズアップされ、特に海洋投棄や河川などを経由して海に流入したプラスチックが、地球規模で多量に海洋を漂流していることが判ってきた。この様なプラスチックは長期間にわたって形状を保つため、海洋生物を拘束、捕獲する、いわゆるゴーストフィッシングや、海洋生物が摂取した場合は消化器内に留まり摂食障害を引き起こすなど、生態系への影響が指摘されている。
【0004】
更には、プラスチックが紫外線などで崩壊・微粒化したマイクロプラスチックが、海水中の有害な化合物を吸着し、これを海生生物が摂取することで有害物が食物連鎖に取り込まれる問題も指摘されている。
【0005】
この様なプラスチックによる海洋汚染に対し、生分解性プラスチックの使用が期待されるが、国連環境計画が2015年に取り纏めた報告書では、ポリ乳酸などのコンポストで生分解可能なプラスチックは、温度が低い実海洋中では短期間での分解が期待できないために、海洋汚染の対策にはなりえないと指摘されている。
【0006】
この様な中、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂は海水中でも生分解が進行しうる材料であるため、上記課題を解決する素材として注目されている。
【0007】
特許文献2では、2種類のポリヒドロキシアルカノエートを含有するポリエステル樹脂組成物が記載されており、その成形品の一例としてフィルムやシートが挙げられ(段落[0067])、また、幅100mm、厚さ100μmのシートを製造したことが記載されている(段落[0119])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2002-248677号公報
【文献】国際公開第2015/146194号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂は、一般に、熱分解温度が低く、また、結晶化しにくい特性を有する。そのため、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂を用いたフィルムの工業的生産は困難で、特に、長尺、薄膜で、幅広でありながら、幅方向の膜厚精度が高い樹脂フィルムを、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂から製造することは困難であった。特許文献2においても、十分に幅広な樹脂フィルムの製造は検討されていない。
【0010】
本発明は、上記現状に鑑み、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂を用いて、長尺、薄膜で、幅広でありながら、幅方向の膜厚精度が高い樹脂フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂から構成され、幅が500mm以上、長さが100m以上、膜厚が20~500μmであり、幅方向の膜厚精度(±μm)×Aが8以下である、樹脂フィルムに関する。但し、前記Aは、式:(1+(200-膜厚(μm))×0.002)より算出される数値である。
好ましくは、前記樹脂フィルムがロール状に巻かれている。
好ましくは、前記樹脂フィルムは全ヘイズ(%)/膜厚(μm)の比が0.3未満である。
好ましくは、前記ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂が、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)を含む。
また本発明は、前記樹脂フィルムを製造する方法であって、
前記ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂を押出機中で溶融し、Tダイからフィルム状の溶融樹脂を連続的に押出す工程、及び、
前記Tダイの下に配置された冷却用ロール又はエンドレスベルトに前記フィルム状の溶融樹脂の片面を接触させつつ、前記フィルム状の溶融樹脂を搬送する工程を含み、
前記冷却用ロール又はエンドレスベルトの設定温度が40~60℃であり、
前記フィルム状の溶融樹脂と前記冷却用ロール又はエンドレスベルトの接触時間が2.2秒以上である、製造方法にも関する。
さらに本発明は、前記樹脂フィルムを、必要に応じ切り出し、熱成形に付して成形された成形体に関する。
好ましくは、前記成形体の少なくとも一部に立体的な形状が付与されている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂を用いて、長尺、薄膜で、幅広でありながら、幅方向の膜厚精度が高い樹脂フィルムを提供することができる。本発明の樹脂フィルムは薄膜にも関わらず、該樹脂フィルムを熱成形に付した時の成形性が良好である。また、該樹脂フィルムはロール状に巻かれたものであってもよく、膜厚精度が高いため、前記ロールの外観を良好なものとすることができる。また、本発明の製造方法によれば、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂から、長尺、薄膜で、幅広でありながら、幅方向の膜厚精度が高く、外観が良好な樹脂フィルムを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態に係る製造方法について説明する概略図
【
図2】Tダイ直下で挟込みロールを配置した比較例の製造方法について説明する概略図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の実施形態について説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0015】
本願におけるポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂とは、微生物から生産され得る脂肪族ポリエステル樹脂であって、3-ヒドロキシブチレートを繰り返し単位とするポリエステル樹脂である。当該ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂は、3-ヒドロキシブチレートのみを繰り返し単位とするポリ(3-ヒドロキシブチレート)であってもよいし、3-ヒドロキシブチレートと他のヒドロキシアルカノエートとの共重合体であってもよい。また、前記ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂は、単独重合体と1種または2種以上の共重合体の混合物、又は、2種以上の共重合体の混合物であってもよい。
【0016】
前記ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の具体例としては、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバリレート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-4-ヒドロキシブチレート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシオクタノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシオクタデカノエート)等が挙げられる。中でも、工業的に生産が容易であることから、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバリレート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-4-ヒドロキシブチレート)が好ましい。
【0017】
更には、繰り返し単位の組成比を変えることで、融点、結晶化度を変化させ、ヤング率、耐熱性などの物性を変化させることができ、ポリプロピレンとポリエチレンとの間の物性を付与することが可能であること、また上記したように工業的に生産が容易であり、物性的に有用なプラスチックであるという観点から、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)が好ましい。特に、180℃以上の加熱下で熱分解しやすい特性を有するポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の中でも、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)は融点を低くすることができ、低温での成形加工が可能となる観点からも好ましい。
【0018】
前記ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)の繰り返し単位の組成比は、柔軟性と強度のバランスの観点から、3-ヒドロキシブチレート単位/3-ヒドロキシヘキサノエート単位の組成比が80/20~99/1(mol/mol)であることが好ましく、75/15~97/3(mo1/mo1)であることがより好ましい。その理由は、柔軟性の点から99/1以下が好ましく、また樹脂が適度な硬度を有する点で80/20以上が好ましいからである。
【0019】
ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)の市販品としては、株式会社カネカ「カネカ生分解性ポリマーPHBH」(登録商標)などが挙げられる。
【0020】
前記ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバリレート)は、3-ヒドロキシブチレート成分と3-ヒドロキシバレレート成分の比率によって融点、ヤング率などが変化するが、両成分が共結晶化するため結晶化度は50%以上と高く、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)に比べれば柔軟ではあるが、脆性の改良は不充分である。
【0021】
前記樹脂フィルムには、発明の効果を損なわない範囲で、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂以外の他の樹脂が含まれていてもよい。そのような他の樹脂としては、例えば、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンサクシネート、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸などの脂肪族ポリエステル系樹脂や、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリブチレンセバテートテレフタレート、ポリブチレンアゼレートテレフタレートなどの脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂等が挙げられる。他の樹脂としては1種のみが含まれていてもよいし、2種以上が含まれていてもよい。
【0022】
前記他の樹脂の含有量は、特に限定されないが、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂100重量部に対して、30重量部以下が好ましく、より好ましくは20重量部以下である。他の樹脂の含有量の下限は特に限定されず、0重量部であってもよい。
【0023】
また、前記樹脂フィルムには、発明の効果を阻害しない範囲で、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂と共に使用可能な添加剤が含まれていてもよい。そのような添加剤としては、タルク、炭酸カルシウム、マイカ、シリカなどの無機充填剤、顔料、染料などの着色剤、活性炭、ゼオライト等の臭気吸収剤、バニリン、デキストリン等の香料、可塑剤、酸化防止剤、抗酸化剤、耐候性改良剤、紫外線吸収剤、結晶核剤、滑剤、離型剤、撥水剤、抗菌剤、摺動性改良剤等が挙げられる。添加剤としては1種のみが含まれていてもよいし、2種以上が含まれていてもよい。これら添加剤の含有量は、その使用目的に応じて当業者が適宜設定可能である。
【0024】
前記樹脂フィルムは、長尺、幅広のものである。具体的には、前記樹脂フィルムの長さは100m以上であることが好ましく、200m以上がより好ましく、300m以上がさらに好ましく、400m以上が特に好ましい。上限値は特に限定されないが、例えば、5000m以下が好ましく、3000m以下がより好ましい。
【0025】
また、前記樹脂フィルムの幅は500mm以上であることが好ましく、700mm以上がより好ましく、900mm以上がさらに好ましく、1000mm以上が特に好ましい。上限値は特に限定されないが、例えば、5000mm以下が好ましく、3000mm以下がより好ましい。
【0026】
前記樹脂フィルムの膜厚は、20~500μmであることが好ましい。樹脂フィルムの膜厚が前記範囲より薄くなると、樹脂フィルムの製造が困難となり、また、逆に厚くなると、樹脂フィルムを熱成形に付すことによって、比較的均一な肉厚を有し且つ外観が良好な成形体を得ることが困難となる。前記樹脂フィルムの膜厚は、30~400μmがより好ましく、40~350μmがさらに好ましく、50~300μmが特に好ましい。
【0027】
前記樹脂フィルムは、上記のように幅広でありながら、幅方向の膜厚精度が高いものであり、具体的には、幅方向の膜厚精度(±μm)×Aが8以下のものである。但し、前記Aは、膜厚精度の絶対値が膜厚の大小に影響され得るためその影響を緩和するためのパラメーターであり、式:(1+(200-膜厚(μm))×0.002)より算出される数値である。前記幅方向の膜厚精度(±μm)×Aは、好ましくは5以下、より好ましくは4以下、さらに好ましくは3以下である。このように前記樹脂フィルムは膜厚精度が高いため、前記樹脂フィルムを熱成形に付した時の成形性が良好で、熱成形によって外観が良好な成形体を得ることができ、また、前記樹脂フィルムがロール状に巻かれている時に、ロールの外表面に凹凸が少なくなり、ロールの外観が良好なものとなり得る。
【0028】
前記樹脂フィルムは、透明性の高いものとなり得る。具体的には該樹脂フィルムの全ヘイズ(%)/樹脂フィルムの膜厚(μm)の比が、0.3未満であることが好ましく、より好ましくは0.25以下であり、さらに好ましくは0.2以下である。
【0029】
次に、
図1に基づいて、前記樹脂フィルムを製造する方法の一実施形態について説明する。
まず、前記ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂を含むフィルム原料を押出機中で溶融する。Tダイ(11)が、下方に向けて、押出機の出口に接続されており、該Tダイ(11)からフィルム状の溶融樹脂(12)が下方に、連続的に押出される。Tダイ(11)の直下には冷却用ロール(13)が配置されており、押出されたフィルム状の溶融樹脂(12)は、その片面が冷却用ロール(13)に接触しながら搬送される。溶融樹脂(12)が冷却用ロール(13)に接触することでポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の結晶化が進行して、溶融していない樹脂フィルムに変換することができる。
【0030】
冷却用ロール(13)は、表面の温度が設定できるように構成された円筒状の部材である。冷却用ロールの代わりに、冷却用のエンドレスベルトを配置してもよい。該エンドレスベルトも表面の温度が設定できるように構成される。
【0031】
一般的に、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂は、ポリプロピレンなど他の結晶性樹脂と比べて結晶化速度が極めて遅いことからフィルムの連続生産に困難を伴うが、本実施形態では、以下に説明する製造条件を採用することで、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂から、長尺、薄膜で、幅広でありながら、幅方向の膜厚精度が高い樹脂フィルムの連続的な製造を実現することができる。
【0032】
前記フィルム状の溶融樹脂を前記冷却用ロール又はエンドレスベルトに接触させる際には、
図2に示すような、Tダイ(11)直下において前記冷却用ロール(13)又はエンドレスベルトに対向させて挟込みロール(14)を配置してフィルムを両面から加圧する手法は採用しないことが好ましい。Tダイから押し出された直後の前記ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂は結晶化が十分に進行していないため、Tダイ直下でフィルム両面を加圧すると、薄膜で、幅広でありながら、幅方向の膜厚精度が高い樹脂フィルムを製造することが困難となる。
【0033】
前記冷却用ロール又はエンドレスベルトとの接触によってポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の結晶化を促進すると共に、前記冷却用ロール又はエンドレスベルトへの固着を回避する観点から、前記冷却用ロール又はエンドレスベルトの温度は、40~60℃に設定することが好ましい。該温度が40℃より低くなったり、また60℃より高くなると、樹脂フィルムの連続生産においてポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の結晶化が十分に進行しないため、前記冷却用ロール又はエンドレスベルトからフィルムを剥離させようとする際に、前記冷却用ロール又はエンドレスベルトへのフィルムの張り付きが発生し、長尺、薄膜で、幅広でありながら、幅方向の膜厚精度が高い樹脂フィルムを製造することが困難となる。前記温度は、好ましくは、43~55℃であり、より好ましくは、45~50℃である。
【0034】
更に、前記冷却用ロール又はエンドレスベルトとの接触によるポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の結晶化を促進するために、前記フィルム状の溶融樹脂と前記冷却用ロール又はエンドレスベルトの接触時間は長いことが好ましく、具体的には、前記接触時間は2.2秒以上であることが好ましい。該接触時間が2.2秒より短い場合、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の結晶化が不十分で、前記冷却用ロール又はエンドレスベルトからフィルムを剥離させようとする際に、前記冷却用ロール又はエンドレスベルトへのフィルムの張り付きが発生し、長尺、薄膜で、幅広でありながら、幅方向の膜厚精度が高い樹脂フィルムを製造することが困難となる。接触時間の上限は特に限定されないが、生産性の観点から、例えば、20秒以下が好ましく、10秒以下がより好ましい。
【0035】
前記接触時間の調節は、Tダイからの押出速度又はフィルムの引取速度を調節したり、また、前記フィルム状の溶融樹脂と前記冷却用ロール又はエンドレスベルトが接触する距離が長くなるようにフィルムの搬送経路を調節したり、ロールの径やエンドレスベルトの長さを調節することにより達成できる。
【0036】
前記樹脂フィルムは、必要に応じ所望の大きさに切り出した後、熱成形によって、容器等の成形体に成形するために使用することができる。熱成形は、フィルム端部をクランプやピンで固定し、遠赤外線ヒーターなどを用いてフィルムを予備加熱して軟化させた後、真空または圧空でフィルムを型に沿わせることで実施することができる。前記熱成形の具体例としては、真空成形、圧空成形、真空圧空成形、マッチド・モールド成形、プラグアシスト成形、TOM成形などの方法が挙げられるが、簡便で金型費用が安価であることから、真空成形、圧空成形が好ましい。
【0037】
なお、前記温度に樹脂フィルムを予備加熱するために使用する装置としては特に限定されず、遠赤外線ヒーター、熱線ヒーター、温風ヒーターなどが例示されるが、これらの内、早く均一に加熱しやすいことから、遠赤外線ヒーターが好ましい。遠赤外線ヒーターを使用する場合、一般には目的の樹脂フィルム温度よりも高くヒーターの温度を設定し、ヒーターと樹脂フィルムまでの距離や予熱時間で樹脂フィルムの温度をコントロールする。例えば、300~350℃に設定した遠赤外線ヒーターを樹脂フィルムから10~50cmの距離に設置し、5~30秒間加熱する方法などが挙げられる。前記樹脂フィルムの実際の温度は、赤外線を用いた非接触温度計で測定する方法や、温度により色が変わるサーモラベル(登録商標)を樹脂フィルムに貼付して予熱条件を設定する方法などが挙げられる。
【0038】
前記樹脂フィルムを熱成形して得られる成形体としては特に限定されないが、例えば、中央に凹部を有する容器や包装材、仕切りを有する容器や包装材、開口部周辺に折り返し部を有する容器や包装材、等が挙げられる。
【実施例】
【0039】
以下に実施例と比較例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0040】
(製膜性)
フィルムの製膜性を、下記の4段階の基準で評価した。
A:キャストロールへのフィルムの張り付きが発生せず、500mm幅以上、長さ100m以上、膜厚精度(±μm)×Aが8以下のロール状のフィルムを取得可能
B:一部キャストロールへのフィルムの張り付きが発生したが、500mm幅以上、長さ100m以上、膜厚精度(±μm)×Aが8以下のロール状のフィルムを取得可能
C:キャストロールへのフィルムの張り付きは発生しないが、500mm幅以上、長さ100m以上、膜厚精度(±μm)×Aが8以下のロール状のフィルムが取得不可
D:キャストロールへのフィルムの張り付きが発生し、500mm幅以上、長さ100m以上、膜厚精度(±μm)×Aが8以下のロール状のフィルムが取得不可
【0041】
(フィルムの膜厚精度)
フィルムの幅方向の膜厚精度(±μm)を、接触式厚み計測装置(山文電気製、TOF-5R01)を用いて測定した。また、前記膜厚精度(±μm)×Aを算出した。前記Aは、式:(1+(200-膜厚(μm))×0.002)より算出した。
【0042】
(フィルムの外観)
フィルムの外観を目視にて確認し、下記の3段階の基準で評価した。
A:キャストロール剥離跡無し
B:一部にキャストロール剥離跡有り
C:キャストロールから剥離不可
【0043】
(フィルムのヘイズ)
JIS K 6174に準じて、フィルムのヘイズ値を測定した。
【0044】
(成形体の外観)
製造されたフィルムから、300mm×300mmの大きさのフィルム片を切り出し、フィルム温度が130℃になるよう該フィルム片の予熱を行い、熱成形を実施した。その際の成形性を、下記の4段階の基準で評価した。
A:成形体が立体形状に賦形され、成形体に皺や表面荒れなどの外観不良が無い
B:成形体が立体形状に賦形されたが、成形体に皺や表面荒れなどの外観不良がある
C:成形体の賦形不良がある
D:フィルムが破れ、成形不可
【0045】
<実施例1>
ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)(カネカ製、カネカ生分解性ポリマーPHBHTM X131A)を45重量部と、ペンタエリスリトールを5重量部配合してドライブレンドした。得られた樹脂材料を、シリンダー温度及びダイ温度を150℃に設定したφ26mmの同方向二軸押出機に投入して押出し、45℃の湯を満たした水槽に通してストランドを固化し、ペレタイザーで裁断することにより、樹脂ペレットX131Nを得た。
得られたX131Nを50重量部と、ペレット状のポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)(カネカ製、カネカ生分解性ポリマーPHBHTM X151C )を50重量部ブレンドした原料を、Tダイ付きφ90mm径単軸押出機を用いて、シリンダー温度を155℃にて溶融混練し、ダイス温度170℃にてTダイより吐出し、Tダイの直下において挟込みロールを用いず、45℃に温調したキャストロールに8.8秒間フィルム状の樹脂の片面を接触させて搬送し、幅1000mm、長さ400m、厚み300μmのフィルムを得た。
【0046】
<実施例2>
Tダイより吐出した樹脂をキャストロールに7.7秒間接触させて搬送し、フィルムの厚みを200μmとした以外は実施例1と同様にしてフィルムを得た。
【0047】
<実施例3>
Tダイより吐出した樹脂をキャストロールに2.2秒間接触させて搬送し、フィルムの厚みを50μm、長さを500mとした以外は実施例1と同様にしてフィルムを得た。
【0048】
<実施例4>
Tダイより吐出した樹脂をキャストロールに2.2秒間接触させて搬送し、フィルムの厚みを20μm、長さを500mとした以外は実施例1と同様にしてフィルムを得た。
【0049】
<実施例5>
Tダイより吐出した樹脂を、55℃に温調したキャストロールに2.2秒間接触させて搬送し、フィルムの厚みを50μm、長さを500mとした以外は実施例1と同様にしてフィルムを得た。
【0050】
<比較例1>
Tダイ付きφ40mm径単軸押出機を用いて、シリンダー温度を150℃にて溶融混練し、ダイス温度170℃にてTダイより吐出し、Tダイの直下において、45℃に温調したキャストロールとゴムロールで挟み込みつつ、該キャストロールに10.6秒間フィルム状の樹脂を接触させて搬送し、フィルムの幅300mm、長さ60m、厚み200μmとした以外は実施例1と同様にしてフィルムを得た。結晶化が十分に進行していない状態のままTダイ直下でフィルム両面を加圧したため、膜厚精度が〇〇となり、実施例1~5と比較して膜厚精度が悪化した。
【0051】
<比較例2>
Tダイより吐出した樹脂をキャストロールに2.0秒間接触させた以外は実施例1と同様にしてフィルムの製造を試みたが、キャストロールと樹脂の接触時間が短く、樹脂の結晶化が不十分で、キャストロールへのフィルムの張り付きが発生し、製造できなかった。
【0052】
<比較例3>
Tダイより吐出した樹脂を、30℃に温調したキャストロールに2.2秒間接触させた以外は実施例1と同様にしてフィルムの製造を試みたが、キャストロールの温度が樹脂の結晶成長温度を外れており、キャストロールとの接触による樹脂の結晶化が不十分で、キャストロールへのフィルムの張り付きが発生し、製造できなかった。
【0053】
【0054】
実施例1~5では、長尺、薄膜で、幅広でありながら、幅方向の膜厚精度が高く、外観が良好な樹脂フィルムを製造することができ、得られたフィルムを熱成形に付した時の成形性が良好であった。但し、キャストロールの温度を55℃と比較的高めに設定した実施例5では、一部でキャストロールへのフィルムの張り付きが発生し、フィルムにキャストロール剥離跡が残留した。
比較例1では、Tダイの直下で冷却用ロールに挟み込みロールを対向させてフィルムを両面から挟み込みつつ製膜をしたものであり、結晶化が十分に進行していない状態のままTダイ直下でフィルム両面を加圧したため、膜厚精度(±μm)×Aの数値が9.1となり、実施例1~5と比較して膜厚精度が悪化した。
比較例2では、キャストロールの接触時間を2.0秒と短く設定したものであり、樹脂の結晶化が不十分となり、キャストロールへのフィルムの張り付きが発生し、フィルムを製造できなかった。
比較例3では、キャストロールの温度が30℃と低く、樹脂の結晶成長温度から外れているため、樹脂の結晶化が不十分となり、キャストロールへのフィルムの張り付きが発生し、フィルムを製造できなかった。
【符号の説明】
【0055】
11 Tダイ
12 フィルム状の溶融樹脂
13 冷却用ロール
14 挟込みロール