(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-23
(45)【発行日】2024-05-02
(54)【発明の名称】廃液の処理方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/58 20230101AFI20240424BHJP
【FI】
C02F1/58 R
C02F1/58 Q
(21)【出願番号】P 2020041777
(22)【出願日】2020-03-11
【審査請求日】2023-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【氏名又は名称】衡田 直行
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【氏名又は名称】北村 周彦
(74)【代理人】
【識別番号】100162145
【氏名又は名称】村地 俊弥
(72)【発明者】
【氏名】平山 愉子
(72)【発明者】
【氏名】大神 剛章
【審査官】片山 真紀
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-224587(JP,A)
【文献】特開平03-008490(JP,A)
【文献】特開平01-284390(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F1/28、1/52-1/64
B01D21/00-21/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸イオン及び硫酸イオンを含
み、かつ、温度が6.0℃を超える廃液の処理方法であって、
(A)下記工程(a)の後に、下記工程(b)を行う方法、(B)下記工程(b)の後に、下記工程(a)を行う方法、または、(C)下記工程(a)と下記工程(b)を同時に行う方法、によって、上記廃液中にリン含有固体物を生成させるリン含有固体物生成工程、
上記リン含有固体物生成工程の後、上記廃液を固液分離して、固形分、及び、リン酸イオン濃度が低減した液分である廃液を得る固液分離工程、並びに、
上記(A)~(C)のいずれかの方法の前、途中または後に、
上記廃液を冷却することによって、上記廃液の温度を0.5~6.0℃の範囲内に調整する液温調整工程、
を含
み、
上記液温調整工程の後、少なくとも上記固液分離工程の開始時まで、上記廃液の温度を0.5~6.0℃の範囲内に維持することを特徴とする廃液の処理方法。
(a)上記廃液に
、カルシウム化合物
として塩化カルシウムを添加する工程であって、上記廃液中、リン(P)に対するカルシウム(Ca)のモル比(Ca/P)が1.2~2.0の範囲内になるように、上記カルシウム化合物の量を調整するカルシウム化合物添加工程
(b)上記廃液に
、pH調整剤
として水酸化ナトリウムを添加して、上記廃液のpHを10.5~13.5の範囲内に調整するpH調整工程
【請求項2】
上記液温調整工程において、上記廃液の温度を1.0~5.0℃の範囲内に調整し、かつ、上記工程(b)において、上記pHを11.0~13.0の範囲内に調整する請求項1に記載の廃液の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃液の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リンは栄養塩類の一種であり、水中のリン濃度が大きい場合、植物プランクトンである藻類を大量増殖させる原因となる。藻類が大量に増殖した場合、該藻類が水中の酸素を消費することで、水中が嫌気性雰囲気となり、水質の悪化が起こる。特に、湖沼や内湾等の閉鎖性の水域では、リンを原因とする水質の悪化が起こりやすい。
環境省では、排水基準として、工場等からの排出水のリン含有量を、日間平均8mg/リットルと定めている。
廃水中のリン濃度を減少させる方法として、特許文献1には、廃水中のフルオロリン酸化合物を分解して廃水中のフッ素及びリンの濃度を減少させる方法であり、該方法は、硫酸濃度10~20重量%となるように硫酸を廃水に加えながら、廃水の温度を65~85℃に調整する工程、廃水を該温度範囲内に保持する工程、及びカルシウム化合物を廃水に添加する工程を有することを特徴とする廃水中のフッ素及びリンの濃度を減少させる方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
閉鎖性の水域等では、水質の悪化を防ぐために、廃液(廃水)中のリン濃度(mg/リットル)について、より厳しい基準が設けられる場合がある。
また、廃水の中には、リン(特に、リン酸イオン)の他に、硫酸イオンを含むものがある。この場合、硫酸イオンが存在することを前提にして、廃水中のリンの除去処理を行う必要がある。
本発明の目的は、リン酸イオン及び硫酸イオンを含む廃液に含まれるリン酸イオンの量を低減することができる廃液の処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、リン酸イオン及び硫酸イオンを含む廃液の処理方法であって、(a)廃液中、リン(P)に対するカルシウム(Ca)のモル比(Ca/P)が1.2~2.0の範囲内になるように、廃液にカルシウム化合物を添加すること、及び、(b)廃液にpH調整剤を添加して、廃液のpHを10.5~13.5の範囲内に調整すること、の両方の処理を行うとともに、これらの処理の前、途中、または後の時点において、廃液の温度を0.5~6.0℃の範囲内に調整すれば、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の[1]~[4]を提供するものである。
【0006】
[1] リン酸イオン及び硫酸イオンを含む廃液の処理方法であって、
(A)下記工程(a)の後に、下記工程(b)を行う方法、
(B)下記工程(b)の後に、下記工程(a)を行う方法、または、
(C)下記工程(a)と下記工程(b)を同時に行う方法、
によって、上記廃液中にリン含有固体物を生成させるリン含有固体物生成工程、を含み、かつ、
上記(A)~(C)のいずれかの方法の前、途中または後に、上記廃液の温度を0.5~6.0℃の範囲内に調整する液温調整工程、を含むことを特徴とする廃液の処理方法。
(a)上記廃液にカルシウム化合物を添加する工程であって、上記廃液中、リン(P)に対するカルシウム(Ca)のモル比(Ca/P)が1.2~2.0の範囲内になるように、上記カルシウム化合物の量を調整するカルシウム化合物添加工程
(b)上記廃液にpH調整剤を添加して、上記廃液のpHを10.5~13.5の範囲内に調整するpH調整工程
[2] 上記カルシウム化合物が、塩化カルシウム、硫酸カルシウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、及び、炭酸カルシウムからなる群より選ばれる一種以上からなる前記[1]に記載の廃液の処理方法。
[3] 上記pH調整剤が、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、または、無機酸である前記[1]又は[2]に記載の廃液の処理方法。
[4] 上記リン含有固体物生成工程の後、上記廃液を固液分離して、リン酸イオン濃度が低減した液分である廃液を得る固液分離工程を含み、かつ、上記液温調整工程の後、少なくとも上記固液分離工程の開始時まで、上記廃液の温度を0.5~6.0℃の範囲内に維持する前記[1]~[3]のいずれかに記載の廃液の処理方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の廃液の処理方法によれば、リン酸イオン及び硫酸イオンを含む廃液に含まれるリン酸イオンの量を低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の廃液の処理方法は、リン酸イオン及び硫酸イオンを含む廃液(廃水)の処理方法であって、(A)下記工程(a)の後に、下記工程(b)を行う方法、(B)下記工程(b)の後に、下記工程(a)を行う方法、または、(C)下記工程(a)と下記工程(b)を同時に行う方法、によって、上記廃液中にリン含有固体物を生成させるリン含有固体物生成工程、を含み、かつ、上記(A)~(C)のいずれかの方法の前、途中または後に、上記廃液の温度を0.5~6.0℃の範囲内に調整する液温調整工程、を含むものである。
(a)上記廃液にカルシウム化合物を添加する工程であって、上記廃液中、リン(P)に対するカルシウム(Ca)のモル比(Ca/P)が1.2~2.0の範囲内になるように、上記カルシウム化合物の量を調整するカルシウム化合物添加工程
(b)上記廃液にpH調整剤を添加して、上記廃液のpHを10.5~13.5の範囲内に調整するpH調整工程
【0009】
本発明において、処理の対象となる廃液は、リン酸イオン及び硫酸イオンを含む廃液であれば特に限定されるものではなく、例えば、下水処理場において、下水を脱水処理して得られるろ液(下水処理場における下水を処理する過程において、余剰汚泥を脱水処理した際に発生する水等)や、食品製造工場等の工場において排出される水や、農業または畜産業において排出される水や、日常生活において排出される水(生活排水)等の廃液(廃水)が挙げられる。また、上述した廃液を水で希釈してなる希釈液を対象としてもよい。
廃液中のリンの濃度は、廃液に含まれるリンの量を低減する本発明の目的を考慮すると、好ましくは10mg/リットル以上、より好ましくは100mg/リットル以上、さらに好ましくは500mg/リットル以上、特に好ましくは800mg/リットル以上である。
上記リンの濃度の上限値は、特に限定されないが、実際に処理の対象となる廃液中のリンの濃度を考慮すると、通常、5,000mg/リットル、好ましくは4,000mg/リットル、より好ましくは3,000mg/リットルである。
なお、廃液中のリンは、通常、リン酸イオンの形態で存在している。
【0010】
廃液中の硫酸イオンの濃度は、カルシウム化合物の添加後の廃液中に、十分な量の芒硝(硫酸ナトリウムの10水和物;Na2SO4・10H2O)、及び、リン含有固体物を生成させるとともに、低い液温下で固体として存在している芒硝に、リン含有固体物を吸着させて、生成した固体物(リン含有固体物と芒硝とからなるもの)を固液分離によって固形物として回収し易い形態にし、最終的に廃液(固液分離後の液分)中のリン酸イオン濃度を大きく低減させる観点からは、好ましくは30,000mg/リットル以上、より好ましくは32,000mg/リットル以上、さらに好ましくは35,000mg/リットル以上、特に好ましくは40,000mg/リットル以上である。
廃液中の硫酸イオンの濃度の上限値は、特に限定されないが、実際に処理の対象となる廃液中の硫酸イオンの濃度を考慮すると、通常、90,000mg/リットル、好ましくは80,000mg/リットル、特に好ましくは75,000mg/リットルである。
【0011】
廃液中には、リン酸イオン及び硫酸イオンの他、ナトリウムイオンが存在することがある。この場合、廃液中のナトリウムイオンの濃度は、例えば、200~30,000mg/リットルである。
本発明において、芒硝(硫酸ナトリウムの10水和物)を十分に生成させる観点から、廃液中にナトリウムイオンが存在することが好ましい。廃液中のナトリウムイオンの濃度は、好ましくは5,000mg/リットル以上、より好ましくは10,000mg/リットル以上、特に好ましくは20,000mg/リットル以上である。
本発明の処理対象物である廃液の例として、リン(P)換算で30~6,000mg/リットルの濃度のリン酸イオンと、30,000~90,000mg/リットルの濃度の硫酸イオンと、200~30,000mg/リットルの濃度のナトリウムイオンとを含む廃液が挙げられる。このような廃液の例として、金属リン酸塩(例えば、リン酸アルミニウム)の合成で生成する廃液が挙げられる。
本発明において、廃液中の硫酸イオン及びナトリウムイオンの濃度を調整する目的で、廃液に、硫酸塩や、ナトリウムを含む塩を適宜添加してもよい。特に、硫酸ナトリウムは、硫酸イオンとナトリウムイオンの両方を供給するため、本発明において好ましく用いられる。
【0012】
[リン含有固体物生成工程]
リン含有固体物生成工程は、以下の(A)、(B)または(C)の方法によって、廃液中にリン含有固体物を生成させる工程である。
(A)下記工程(a)の後に、下記工程(b)を行う方法
(B)下記工程(b)の後に、下記工程(a)を行う方法
(C)下記工程(a)と下記工程(b)を同時に行う方法
(a)廃液にカルシウム化合物を添加する工程であって、廃液中、リン(P)に対するカルシウム(Ca)のモル比(Ca/P)が1.2~2.0の範囲内になるように、カルシウム化合物の量を調整するカルシウム化合物添加工程
(b)廃液にpH調整剤を添加して、廃液のpHを10.5~13.5の範囲内に調整するpH調整工程
【0013】
リン含有固体物生成工程において、廃液中のリン酸イオンとカルシウムイオンが反応することによって、ヒドロキシアパタイト等のリン含有固体物を生成させて、廃液に含まれている水溶性のリン成分の量を低減することができる。
また、後述の低い液温(0.5~6.0℃)下で、廃液中の硫酸イオンとナトリウムイオンが反応することによって、液中に溶解せずに固体として析出する芒硝(硫酸ナトリウムの10水和物)が生成される。この芒硝が、微細な粒状のリン含有固体物(固液分離しても、固形分として回収されずに、液分中に留まるような微細な粒状のもの)を吸着することから、固液分離工程後の液分(処理済みの廃液)に含まれるリンの量を低減することができ、また、固液分離の処理効率を向上させることができる。
以下、工程(a)、工程(b)について詳しく説明する。
【0014】
[工程(a):カルシウム化合物添加工程]
カルシウム化合物添加工程は、廃液にカルシウム化合物を添加する工程であって、廃液中、リン(P)に対するカルシウム(Ca)のモル比(Ca/P)が1.2~2.0の範囲内になるように、カルシウム化合物の量を調整する工程である。
カルシウム化合物は、粉末状、溶液状、またはスラリー状の形態で添加することができる。中でも、反応性および混合性の観点から、溶液状またはスラリー状の形態が好ましい。
カルシウム化合物の例としては、塩化カルシウム、硫酸カルシウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、及び、炭酸カルシウム等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
中でも、水への溶解性に優れ、水溶液の形態で廃液に添加することができる観点から、塩化カルシウムが好ましい。
【0015】
上記モル比(Ca/P)は、1.2~2.0、好ましくは1.3~1.9、より好ましくは1.4~1.8、特に好ましくは1.5~1.6である。上記モル比が1.2未満であると、ヒドロキシアパタイト等のリン含有固体物の生成量が少なくなるため、固液分離後の廃液に含まれているリンの量を低減する効果が小さくなる。上記モル比が2.0を超えると、本発明の効果(リンの除去)が頭打ちになる一方、カルシウム化合物の量が増えることによるコストの増大を招く。
【0016】
本発明において、リン(P)に対するカルシウム(Ca)のモル比(Ca/P)とは、廃液中にリン酸イオンとして存在する水溶性のリン成分に含まれるリン(P)のモルに対する、廃液中にカルシウムイオンとして存在する水溶性のカルシウム成分に含まれるカルシウム(Ca)のモルの比を意味する。
したがって、難溶性のリン成分に含まれるリンや、難溶性のカルシウム成分に含まれるカルシウムは、上記モル比におけるリンおよびカルシウムには含めないものとする。
本発明において、カルシウム化合物の添加前の廃液中に、カルシウムイオンが存在する場合、このカルシウムイオンのカルシウム(Ca)は、上記モル比(Ca/P)におけるカルシウムに含めるものとする。この場合、当該カルシウムイオンの量を考慮して、カルシウム化合物の量を定める。
【0017】
[工程(b):pH調整工程]
pH調整工程は、廃液にpH調整剤を添加して、廃液のpHを10.5~13.5の範囲内に調整する工程である。
pH調整剤の例としては、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、及び無機酸等が挙げられる。
アルカリ金属の水酸化物の例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等が挙げられる。
アルカリ土類金属の水酸化物の例としては、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等が挙げられる。
無機酸としては、塩酸、硫酸等が挙げられる。
中でも、入手の容易性等の観点から、水酸化ナトリウム、塩酸が好ましい。水酸化ナトリウムは、ナトリウムイオンを供給して、芒硝の生成量を増大させる点でも、好ましい。
pH調整剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
廃液のpHは、10.5~13.5、好ましくは10.8~13.2、特に好ましくは11.0~13.0である。
上記pHが10.5未満であると、固液分離後の液分(処理済みの廃液)に含まれているリンの量を低減する効果が小さくなる。
上記pHが13.5を超えると、pH調整剤の使用量が多くなり、薬剤コストが増大する。また、固液分離後の液分(処理済みの廃液)を排出させる際に、中和に要する薬剤の使用量が多くなり、薬剤コストが増大する。
【0019】
工程(b)の後に、工程(a)を行う場合、工程(b)において、pHを10.5~13.5の数値範囲内に調整した後、工程(a)においてカルシウム化合物を添加している際に、廃液のpHが上記数値範囲を外れた場合には、工程(a)において、適宜、pH調整剤を添加して、廃液のpHが上記範囲内になるように調整することが好ましい。
また、工程(a)と工程(b)を同時に行う場合、カルシウム化合物の添加が終了した後の廃液のpHが上記数値範囲内となるように、pH調整剤を添加することが好ましい。
【0020】
[液温調整工程]
液温調整工程は、(A)工程(a)の後に、工程(b)を行う方法、(B)工程(b)の後に、工程(a)を行う方法、または、(C)工程(a)と工程(b)を同時に行う方法、において、該方法の前、途中または後に、廃液の温度を0.5~6.0℃の範囲内に調整する工程である。
廃液の温度は、0.5~6.0℃、好ましくは0.6~5.8℃、より好ましくは0.6~5.6℃、さらに好ましくは0.8~5.3℃、特に好ましくは1.0~5.0℃である。
上記温度が0.5℃未満であると、芒硝の生成量が頭打ちになる一方、冷却によるコストの増大を招く。
上記温度が6.0℃を超えると、液中に溶解せずに析出する固体としての芒硝の生成量が少なくなるため、ヒドロキシアパタイト等のリン含有固体物が芒硝に吸着される量も少なくなり、その結果、固液分離によって固形分の中に分離されるリンの量も少なくなり、固液分離後の液分(処理済みの廃液)に含まれているリンの量を低減する効果が小さくなる。
調整後の液温は、少なくとも、固液分離工程の開始時まで維持することが好ましい。
【0021】
[固液分離工程]
固液分離工程は、リン含有固体物生成工程及び液温調整工程の後に設けられる工程であり、廃液を固液分離して、リン酸イオン濃度が低減した液分である処理済みの廃液を得る工程である。
固液分離の処理効率を向上させる観点から、固液分離工程において、廃液にろ過助材を添加してもよい。
ろ過助材の例としては、珪藻土、パーライト、セルロース、及び高分子凝集剤等が挙げられる。
固液分離の方法の例としては、吸引ろ過、フィルタープレス、及び遠心脱水等が挙げられる。
廃液を固液分離することで、リン酸イオン濃度が低減した液分である処理済みの廃液と、固形分(芒硝に、ヒドロキシアパタイト等のリン含有固体物が吸着してなるもの)を分離することができる。
【実施例】
【0022】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[使用材料]
(1)廃液
リン酸アルミニウムの製造工場の廃液に、リン酸、硫酸、及び水酸化ナトリウムを添加して調製した廃液(リン酸のリン換算の濃度:1,000mg/リットル、硫酸イオン濃度:45,000mg/リットル、ナトリウムイオン濃度:25,000mg/リットル)
(2)塩化カルシウム水溶液
塩化カルシウムを35質量%の濃度で含むもの
(3)水酸化ナトリウム溶液
水酸化ナトリウムを20質量%の濃度で含むもの
【0023】
[実施例1]
1リットルの廃液(液温:20℃)に水酸化ナトリウム水溶液を添加して撹拌し、pHが13.0であるpH調整済みの廃液を得た。
このpH調整済みの廃液に、該廃液中のカルシウム(Ca)とリン(P)のモル比(Ca/P)が1.6となるように、該廃液を撹拌しながら、塩化カルシウム水溶液を添加し、カルシウム量を調整済みの廃液を得た。
塩化カルシウム水溶液の添加の終了時から30分間が経過した時点で、カルシウム量を調整済みの廃液を冷却して、その液温を5.0℃に調整し、次いで、5.0℃に達した時から30分間、この液温(5.0℃)を維持しながら、該廃液を撹拌した。
撹拌の終了後、廃液をろ過し、ろ液を得た。このろ液(処理済みの廃液)を対象に、ICP発光分光分析装置を用いて、リン濃度を測定した。リン濃度は、0.8mg/リットルであった。
測定したリン濃度は、元素であるリン(P)の濃度である。該廃液には、難溶性のリン成分はほとんど含まれていないので、測定されたリン濃度の大きさは、リン酸イオンの濃度の大きさに対応する。
【0024】
[実施例2]
1リットルの廃液(液温:20℃)に、該廃液中のカルシウム(Ca)とリン(P)のモル比(Ca/P)が1.6となるように、該廃液を撹拌しながら、塩化カルシウム水溶液を添加し、カルシウム量を調整済みの廃液を得た。
このカルシウム量を調整済みの廃液に、水酸化ナトリウム水溶液を添加して撹拌し、pHが11.0であるpH調整済みの廃液を得た。
pHが11.0に調整された時点から30分間、このpH調整済みの廃液を撹拌した。
その後、pH調整済みの廃液を冷却して、その液温を1.0℃に調整し、次いで、1.0℃に達した時から30分間、この液温(1.0℃)を維持しながら、該廃液を撹拌した。
撹拌の終了後に、実施例1と同様に、ろ液(処理済みの廃液)中のリン濃度を測定した。
【0025】
[実施例3及び比較例1~2]
表1に示すようにpH及び液温を変更した以外は実施例1と同様にして、実験を行った。
以上の結果を表1に示す。
なお、表1中、「Ca添加前」は、塩化カルシウム水溶液(Ca含有水溶液)を添加する前に、水酸化ナトリウム水溶液を添加して、pHを調整したことを意味する。
「Ca添加後」は、塩化カルシウム水溶液(Ca含有水溶液)を添加した後に、水酸化ナトリウム水溶液を添加して、pHを調整したことを意味する。
「リン濃度」は、ろ液(処理済みの廃液)に含まれているリンの濃度を意味する。
表1に示すとおり、実施例1~3は、比較例1~2に比べて、処理後の廃液中のリン濃度が小さいことがわかる。
【0026】