(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-23
(45)【発行日】2024-05-02
(54)【発明の名称】工程フィルム
(51)【国際特許分類】
B32B 27/20 20060101AFI20240424BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20240424BHJP
【FI】
B32B27/20 Z
B32B27/00 L
(21)【出願番号】P 2020054951
(22)【出願日】2020-03-25
【審査請求日】2023-01-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 貴紀
(72)【発明者】
【氏名】古野 会美子
(72)【発明者】
【氏名】森 剛志
【審査官】清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-205443(JP,A)
【文献】特開2009-098654(JP,A)
【文献】特開2016-084158(JP,A)
【文献】特開2006-243217(JP,A)
【文献】特開平05-138736(JP,A)
【文献】特開2020-152005(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C09D 1/00-10/00
101/00-201/10
B44C 1/16-1/175
B41M 5/00-5/52
D06N 1/00-7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材の表面の少なくとも一部に形成された剥離層と、を備え、
前記剥離層が、剥離剤と、無機粒子と、を含有し、
前記剥離剤が、シリコーン変性アルキド樹脂を含有し、
前記無機粒子が、球状、棒状、板状、繊維状、又は不定形状であるシリカ、アルミナ及び酸化チタンからなる群より選択される1種以上であり、
前記無機粒子の平均粒子径が、0.5μm以上10.0μm以下であり、
前記無機粒子のメタノール滴定法で測定される疎水化度が、20%以上であり、
前記剥離層における前記無機粒子の含有量が、20質量%以上80質量%以下である、
工程フィルム。
【請求項2】
前記無機粒子が、シリコーンオイルにより表面が疎水化処理された粒子であることを特徴とする請求項1に記載の工程フィルム。
【請求項3】
前記無機粒子が、シランカップリング剤により表面が疎水化処理された粒子であることを特徴とする請求項1に記載の工程フィルム。
【請求項4】
前記シリコーンオイルが、ジメチルシリコーンオイルであることを特徴とする請求項2に記載の工程フィルム。
【請求項5】
前記剥離層の光沢度が、60°グロス値で10%以下であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の工程フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、工程フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ラベル素材、電子機器やプリプレグ、合成皮革等のシート状製品の製造工程において、いわゆる工程フィルムと呼ばれるフィルムを用いて、当該シート状製品の保護・固定や装飾性の付与を行っている。
【0003】
近年、表面のグロス(光沢度)を低減させ、マット(艶消し)調とするシート状製品が要望されている。シート状製品のグロスを低減させる工程フィルムの一般的な構成としては、基材の片面側に剥離層が設けられ、剥離層形成組成物中にマット化剤として粒子を添加し、塗膜表面に凹凸形状を形成したものが挙げられる。この工程フィルムの凹凸形状部分をシート状製品(被着体)に転写することにより、表面がマット調のシート状製品を得ることができる。
【0004】
マット調のシート状製品を製造する際に用いられる工程フィルムとして、例えば、特許文献1には、基材層と少なくとも一方の表面に粒子含有の艶消し層とを有し、艶消し層中の粒子が、不定形シリカである二軸配向ポリエステルフィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般的に、マット化剤としては、シリカ粒子や金属粒子等の無機粒子が使用されており、所望のグロス値を達成するために、剥離層には、当該無機粒子が大量に添加されている。しかし、シリカ粒子及び金属粒子の表面には、多くの水酸基が存在しているため、無機粒子表面の水酸基と樹脂製のシート状製品との相互作用で剥離力が上昇し、剥離が安定して行えない、というおそれがあった。
【0007】
そこで、本発明の1つの側面としては、所望のグロス値を達成しつつ、適度な剥離力を持つ工程フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者の鋭意検討の結果、無機粒子の表面に疎水化処理を行い、表面の疎水化度が特定の範囲を満たす無機粒子を剥離層中に添加することで、上記課題を克服できることを見出した。
【0009】
本発明の第1の態様は、
[1]基材と、上記基材の表面の少なくとも一部に形成された剥離層と、を備え、
上記剥離層が、剥離剤と、無機粒子と、を含有し、
前記無機粒子のメタノール滴定法で測定される疎水化度が、20%以上であることを特徴とする工程フィルムである。
【0010】
[2]上記無機粒子が、シリコーンオイルにより表面が疎水化処理された粒子であることを特徴とする[1]に記載の工程フィルムである。
【0011】
[3]上記無機粒子が、シランカップリング剤により表面が疎水化処理された粒子であることを特徴とする[1]に記載の工程フィルムである。
【0012】
[4]上記無機粒子が、シリカ、アルミナ及び酸化チタンからなる群より選択される1種以上であることを特徴とする[1]から[3]のいずれか1項に記載の工程フィルムである。
【0013】
[5]上記シリコーンオイルが、ジメチルシリコーンオイルであることを特徴とする[2]に記載の工程フィルムである。
【0014】
[6]上記剥離層の光沢度が、60°グロス値で10%以下であることを特徴とする[1]から[5]のいずれか1項に記載の工程フィルムである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の1つの側面によれば、所望のグロス値を達成しつつ、適度な剥離力を持つ工程フィルムを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】一実施例における工程フィルムの断面を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0018】
[工程フィルム]
本発明の工程フィルム1は、
図1に示すように、基材20と、上記基材20の表面の少なくとも一部に形成された剥離層10と、を備え、上記剥離層10が、剥離剤11と、無機粒子12と、を含有している。
【0019】
1.各部材
(1)基材
工程フィルム1の基材20としては、後述の剥離層10を支持できるものであれば適宜選択でき、例えば、紙基材、樹脂フィルム等が挙げられる。
【0020】
紙基材としては、例えば、上質紙、中質紙、グラシン紙、アート紙、コート紙及びキャストコート紙等が挙げられ、また、これらの紙基材にポリエチレン等の熱可塑性樹脂をラミネートしたラミネート紙も挙げられる。
【0021】
樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステルからなるフィルム、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィンからなるフィルム、ポリカーボネート、ポリ酢酸ビニル等のプラスチックからなるフィルムが挙げられる。
【0022】
これらの基材20は単層であってもよいし、同種又は異種の2層以上の多層であってもよい。
【0023】
これらの基材20の中でも、ポリエステルフィルムが好ましく、ポリエチレンテレフタレートフィルムがより好ましく、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムが更に好ましい。ポリエチレンテレフタレートフィルムは、加工時、使用時等において、埃等が発生しにくく、塗工不良等を効果的に防止することができる。
【0024】
基材20の厚さは特に限定されないが、5μm以上300μm以下であることが好ましく、10μm以上200μm以下であることがより好ましい。
【0025】
(2)剥離層
剥離層10を形成する剥離層形成組成物は、剥離剤11と後述する所定の疎水化度を有する無機粒子12と、を備え、必要に応じて添加剤、有機溶媒を配合する。
【0026】
(2-1)剥離剤
剥離層10を形成する剥離層形成組成物に含有される剥離剤11としては、例えば、
(1)低極性でそれ自体が剥離性を示すポリマー化合物、
(2)化学修飾されることにより剥離性を付与されたポリマー材料、
(3)ポリマー材料に剥離性の低分子又はオリゴマー成分を添加して剥離性を付与された組成物等が挙げられる。
【0027】
低極性でそれ自体が剥離性を示すポリマー化合物としては、例えば、ポリオルガノシロキサン;フルオロポリマー;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン;ポリブタジエン、ポリイソプレン等のジエン系ポリマー等が挙げられる。
【0028】
化学修飾されることにより剥離性を付与されたポリマー材料において、化学修飾されるポリマー成分としては、例えば、ポリビニルアルコール、部分鹸化ポリ酢酸ビニル、水酸基含有アクリル酸エステル共重合体、ウレタン樹脂、アルキド樹脂、アミノ樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等が挙げられる。これらポリマー成分は、化学修飾されていなければ剥離性を示さない場合が多い。
【0029】
また、化学修飾されることにより剥離性を付与されたポリマー材料において、化学修飾する成分としては、例えば、官能基を有するポリオルガノシロキサンまたはオルガノシロキサンオリゴマー;官能基を有するフルオロカーボン化合物;官能基を有する長鎖アルキル化合物が挙げられる。このうちの長鎖アルキル化合物としては、ラウリル基、パルミチル基、ステアリル基等の炭素数12以上のアルキル基を持つ化合物が挙げられる。
【0030】
化学修飾する化合物の官能基としては、例えば、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、イソシアネート基、(メタ)アクリロイル基、チオール基、アルコキシシリル基等が挙げられる。
【0031】
化学修飾されることにより剥離性を付与されたポリマー材料は、通常、シリコーン変性樹脂、フルオロ変性樹脂、長鎖アルキル変性樹脂のように呼称される。
【0032】
ポリマー材料に剥離性の低分子またはオリゴマー成分を添加して剥離性を付与された組成物において、用いられるポリマー材料としては、例えば、ポリビニルアルコール、部分鹸化ポリ酢酸ビニル、アクリル酸エステル共重合体、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、アルキド樹脂、アミノ樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等が挙げられる。
【0033】
これらのポリマー材料に添加される剥離性の低分子またはオリゴマー成分としては、例えば、ワックス(炭化水素化合物);ポリオルガノシロキサンまたはオルガノシロキサンオリゴマー;フルオロカーボン;長鎖アルキル化合物が挙げられ、更にこれらのポリエーテル付加物、ポリエステル付加物等が挙げられる。これらの中でも、剥離性や耐熱性が向上しやすいこと、また、充填剤や他の添加剤との親和性が良好になり得るという観点から、化学修飾されることにより剥離性を付与されたポリマー材料が剥離性主剤として好ましく、ポリオルガノシロキサンで化学修飾されたアルキド樹脂、いわゆるシリコーン変性アルキド樹脂がより好ましい。なお、上記の剥離性主剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
(2-2)無機粒子
剥離層10中に添加される無機粒子12は、メタノール滴定法による疎水化度が20%以上のものである。無機粒子12の疎水化度は、25%以上がより好ましく、30%以上が更に好ましい。無機粒子12の疎水化度が20%以上の範囲にあることで、無機粒子12と樹脂製シート状製品との相互作用を弱め、剥離力をコントロールすることができる。また、無機粒子12の疎水化度の上限値は、特に限定されないが、100%以下であり、90%以下がより好ましく、80%以下が更に好ましい。なお、本発明に係るメタノール滴定法による疎水化度は、以下の条件で測定したものを指す。
【0035】
試料(無機粒子)0.2gを所定量(50mL)のイオン交換水中に添加し、攪拌しながらメタノールを滴下する。試料の全量が液面上に認められなくなった時を終点として、終点までに要したメタノールの添加量をG(mL)としたとき、疎水化度は、次式で得られる。
疎水化度={G(mL)}/{G(mL)+イオン交換水量(50mL)}×100
【0036】
無機粒子12としては、例えば、シリカ、アルミナ、酸化チタン、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、カオリン、タルク、クレー等が挙げられる。これらの中でも、耐熱性の観点から、不定形シリカ及び不定形アルミナより選択される1種以上であることが好ましく、経済的な観点から、不定形シリカを採用することがより好ましい。
【0037】
無機粒子12の疎水化度は、無機粒子12の形成条件、疎水化処理の有無、疎水化処理を実施する場合の疎水化処理条件を適宜選択することにより制御することができる。
【0038】
無機粒子12の疎水化処理方法としては、公知の方法を用いることができるが、例えば、乾式法又は湿式法を用いることができる。
【0039】
乾式法の場合、無機粒子12をせん断力の大きなミキサ等で攪拌しながら、直接又は有機溶媒若しくは水に溶解させた疎水化処理剤を滴下、乾燥空気や窒素ガスとともに噴霧させることで、無機粒子12の表面を均一に処理することができる。疎水化処理剤の滴下又は噴霧は、50℃以上の温度で行うことが好ましい。疎水化処理剤を滴下又は噴霧した後、更に100℃以上で焼き付けを行ってもよい。また、乾式法においては、無機粒子12を疎水化処理剤で表面を疎水化処理する前に加熱乾燥して表面吸着水を除去することができる。無機粒子12の疎水化処理に表面吸着水を除去することによって、無機粒子12の表面に疎水化処理剤を均一に吸着させることができる。無機粒子12は、せん断力の大きなミキサ等で攪拌しながら加熱乾燥することも可能である。
【0040】
湿式法の場合、無機粒子12を溶剤中に攪拌、超音波、サンドミルやアトライター、ボールミル等を用いて分散し、疎水化処理剤溶液を添加し攪拌又は分散した後、溶剤除去することで無機粒子12の表面を均一に処理することができる。湿式法においては、無機粒子12を疎水化処理剤で表面を疎水化面処理する前に表面吸着水を除去することができる。この表面吸着水除去方法には、乾式法と同様に加熱乾燥による除去の他に、表面処理に用いる溶剤中で攪拌加熱しながら除去する方法、溶剤と共沸させて除去する方法等により実施される。溶剤除去後、更に100℃以上で焼き付けを行うこともできる。
【0041】
また、後述する剥離層形成組成物の調整中に無機粒子12と疎水化処理剤を添加し攪拌又は分散させ、表面処理を行ってもよい。
【0042】
疎水化処理剤の使用割合は、無機粒子12を100質量部に対して、0.05質量部以上80質量部以下とすることが好ましく、0.1質量部以上40質量部以下とすることがより好ましい。0.05質量部より少ないと表面処理が不十分となり、80質量部を超えると後処理が煩雑となる。
【0043】
疎水化処理剤としては、通常、無機粒子12の表面処理に用いられる公知のものを、特に制限なく使用することができ、必要とする無機粒子12の性能等に応じて適宜選択すればよく、例えば、シリコーンオイル、アルコキシシラン、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、ハロゲン化合物、シロキサン、シラザン及び高級脂肪酸等が挙げられる。なお、上記の疎水化処理剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
シリコーンオイルとしては、例えば、ジメチルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル等のストレートシリコーンオイル;アルキル変性シリコーンオイル、クロロアルキル変性シリコーンオイル、クロロフェニル変性シリコーンオイル、脂肪酸変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、アルコキシ変性シリコーンオイル、カルビノール変性シリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル、エポキシ変性シリコーンオイル、カルボキシル変性シリコーンオイル、フッ素変性シリコーンオイル、メタクリル変性シリコーンオイル、メルカプト変性シリコーンオイル等が挙げられる。
【0045】
アルコキシシランとしては、例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0046】
シランカップリング剤としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロイルオキシトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N,N-ジメチル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N,N-ジエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、4-スチリルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0047】
チタンカップリング剤としては、例えば、イソプロピルトリ(N-アミノエチルアミノエチル)チタネート、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、ジイソプロピルビス(ジオクチルホスフェート)チタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、テトラ(2,2-ジアリルオキシメチル-1-ブチル)ビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)エチレンチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート等が挙げられる。
【0048】
ハロゲン化合物としては、例えば、フッ化マグネシウム、フッ化アルミニウム、フッ化ストロンチウム、フッ化バリウム、フッ化カルシウム、フッ化アンモニウム、塩化マグネシウム、塩化アルミニウム、塩化ストロンチウム、塩化バリウム、塩化カルシウム、塩化アンモニウム、臭化マグネシウム、臭化アルミニウム、臭化ストロンチウム、臭化バリウム、臭化カルシウム、臭化アンモニウム、ヨウ化マグネシウム、ヨウ化アルミニウム、ヨウ化ストロンチウム、ヨウ化バリウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化アンモニウム、ホウフッ化水素酸、酸性フッ化アンモニウム、ケイフッ化水素酸、ケイフッ化アンモニウム、ホウフッ化亜鉛等が挙げられる。
【0049】
シロキサンとしては、例えば、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ヘキサメチルジシロキサン、オクタメチルトリシロキサン等が挙げられる。
【0050】
シラザンとしては、例えば、ヘキサメチルジシラザン、ヘキサエチルジシラザン、へキサプロピルジシラザン、ヘキサブチルジシラザン、ヘキサペンチルジシラザン、ヘキサヘキシルジシラザン、ヘキサシクロヘキシルジシラザン、ヘキサフェニルジシラザン、ジビニルテトラメチルジシラザン、ジメチルテトラビニルジシラザン等が挙げられる。
【0051】
高級脂肪酸としては、例えば、ステアリン酸、パルミチン酸、イソパルミチン酸、オレイン酸等が挙げられる。
【0052】
これらの中でも、疎水化処理の効率性の観点から、シランカップリング剤又はシリコーンオイルが好ましい。シランカップリング剤としては、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン及び3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシランが好ましく、シリコーンオイルとしては、ジメチルシリコーンオイルが好ましい。
【0053】
無機粒子12の形状は、球状、中空状、多孔質状、棒状(アスペクト比が1を超えて10以下の形状を言う)、板状、繊維状、又は不定形状があり、任意の形状とすることができる。これらの中でも、工程フィルム1及びそれを用いて得られるシート状製品の光沢度を低くする観点から、不定形状が好ましい。
【0054】
剥離層10における無機粒子12の含有量が、10質量%以上80質量%以下であることが好ましく、15質量%以上50質量%以下であることがより好ましく、20質量%以上40質量%以下であることが更に好ましい。この範囲とすることで、適度な剥離力を得ることができる。
【0055】
無機粒子12の平均粒子径は、0.5μm以上10.0μm以下であるのが好ましく、1.5μm以上8.0μm以下であることがより好ましく、2.0μm以上7.0μm以下であることが更に好ましい。平均粒子径が0.5μmより小さくなると無機粒子12が剥離層10から露出しにくくなることで光沢感が強くなってしまうおそれがある。また、平均粒子径が10.0μmより大きくなると、無機粒子12が剥離層10から露出しすぎることでマット感が強くなりすぎるおそれがある。なお、平均粒子径は、無機粒子12単独又は無機粒子12が配合された剥離層形成組成物を計測対象として、レーザー回折式粒度分布計により測定することができる。
【0056】
(2-3)その他の成分
剥離層形成組成物に用いられる硬化剤、架橋剤及び反応開始剤は、剥離剤11が有する官能基と化学結合が可能な官能基を持つ化合物が選択される。硬化剤、架橋剤、反応開始剤は、剥離剤11と反応して三次元網目構造を形成することにより、剥離層10の被膜の強度や耐熱性を向上させる。剥離層形成組成物に使用される硬化剤、架橋剤及び反応開始剤としては、剥離剤11が有する官能基に反応が可能であれば特に限定はなく、例えば、多価ヒドロシリル基含有オルガノシロキサン化合物、メラミン化合物、多価イソシアネート化合物、多価エポキシ化合物、多価アルデヒド化合物、多価アミン化合物、多価オキサゾリン化合物、金属錯体等が挙げられる。
【0057】
剥離層形成組成物に使用される触媒は、剥離層形成組成物の硬化反応(架橋反応)が低温ないし短時間で進むよう反応促進させる化合物であり、当該化学反応に応じた化合物が選択される。多価ヒドロシリル基含有オルガノシロキサン化合物による付加反応に使用される触媒としては、例えば、白金触媒が用いられる。また、メラミン化合物による脱水、脱アルコールを伴う反応に使用される触媒としては、例えば、p-トルエンスルホン酸等の酸触媒が用いられる。
【0058】
剥離層形成組成物において、剥離剤11への硬化剤、架橋剤及び反応開始剤の配合比率は、必要とされる工程フィルム1の諸物性に適合するよう適宜選択すればよいが、例えば、剥離剤11の不揮発成分100質量部に対して、0.1質量部以上400質量部以下が好ましく、10質量部以上200質量部以下がより好ましい。また、触媒の配合比率も同様に、必要とされる剥離層形成組成物の反応速度及び必要とされる工程フィルム1の諸物性に適合するよう適宜選択すればよく、例えば、剥離剤11の不揮発成分100質量部に対して、0.01質量部以上10質量部以下が好ましく、0.5質量部以上5質量部以下がより好ましい。
【0059】
本実施形態に係る剥離層10を形成するための剥離層形成組成物は、上記の成分に加えて、貯蔵弾性率調整剤、染料や顔料等の着色剤、難燃剤等の各種添加剤を含有してもよい。
【0060】
剥離層形成組成物は、有機溶媒を含む溶液の形態で用いることが好ましい。当該有機溶媒としては、剥離層10に対する溶解性及び揮発性が良好であって、剥離層形成組成物の各成分に対し化学的に不活性な公知の有機溶媒の中から適宜選択して用いることができる。このような有機溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、ヘキサン、ヘプタン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、イソブタノール、n-ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0061】
3.工程フィルムの物性
本発明の工程フィルム1は、基材20と、基材20の表面の少なくとも一部に形成された剥離層10と、を備え、剥離層10が、剥離剤11と所定の範囲内の疎水度を有する無機粒子12とを含むことで、工程フィルム1として所望のグロスを達成しつつ、適度な剥離力を持つことができる。具体的には、後述する実施例に記載の方法で測定される31Bテープに対する剥離力が、6000mN/20mm以下が好ましく、4000mN/20mm以下がより好ましく、3500mN/20mm以下が更に好ましい。また、当該剥離力の下限値は、特に制限はないが、好ましくは100mN/20mm以上である。
【0062】
また、後述する実施例に記載の方法で測定される転写樹脂に対する剥離力が、10000mN/50mm以下が好ましく、9000mN/50mm以下がより好ましく、8000mN/50mm以下が更に好ましい。また、当該剥離力の下限値は、特に制限はないが、好ましくは100mN/50mm以上である。
【0063】
本発明の工程フィルム1の剥離層10の表面の光沢度は、後述する実施例に記載の方法で測定される60°グロス値10%以下が好ましく、60°グロス値8%以下がより好ましく、60°グロス値6%以下が更に好ましい。
【0064】
また、本発明の工程フィルム1により製造される転写樹脂の表面の光沢度は、後述する実施例に記載の方法で測定される60°グロス値10%以下が好ましく、60°グロス値7%以下がより好ましく、60°グロス値5%以下が更に好ましい。
【0065】
4.工程フィルムの製造方法
本実施形態に係る工程フィルム1の製造方法は、剥離剤11と、無機粒子12と、を混合して、剥離層形成組成物を調製する第1工程と、剥離層形成組成物を基材20の表面の少なくとも一部に塗布し、塗膜を形成する第2工程と、塗膜を硬化して剥離層10を形成する第3工程と、を含むこと、が好ましい。
【0066】
第1工程における剥離層形成組成物の調整方法としては、特に限定されず、例えば、剥離層形成組成物の分散体や溶液として調製することができる。本発明では、有機溶媒を含む溶液を調製することが好ましい。
【0067】
剥離層形成組成物の溶液の不揮発分濃度は、塗工適性及び乾燥性の観点から、5.0質量%以上60質量%以下が好ましく、10質量%以上50質量%以下がより好ましく、20質量%以上40質量%以下が更に好ましい。
【0068】
第2工程における塗布方法としては、例えば、スピンコート法、スプレーコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ロールナイフコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法等が挙げられる。
【0069】
第3工程における塗膜を硬化する方法としては、乾燥とともに加熱により硬化させてもよく、塗膜中の成分が活性エネルギー線で反応する官能基を有する場合には、活性エネルギー線の照射により硬化させてもよく、加熱及び活性エネルギー線の照射を併用して硬化させてもよい。活性エネルギー線としては、例えば、紫外線、電子線等が挙げられる。
【0070】
加熱温度は、80℃以上250℃以下が好ましく、100℃以上230℃以下がより好ましい。また、加熱時間は、15秒間以上5分間以下が好ましく、20秒間以上3分間以下がより好ましい。
【0071】
工程フィルム1において、硬化後の剥離層10の膜厚は、特に限定されないが、0.5μm以上12μm以下が好ましく、1.0μm以上、8μm以下がより好ましい。
【0072】
5.工程フィルムの用途
本発明の工程フィルム1は、ラベル素材、電子機器やプリプレグ、合成皮革等のシート状製品の製造工程で使用することができる。
【実施例】
【0073】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらに何ら限定されるものではない。
【0074】
[実施例1]
剥離剤としてシリコーン変性アルキド樹脂溶液(商品名:TA31-209E、日立化成ポリマー株式会社製)100質量部、トルエン216質量部、メチルエチルケトン144質量部の混合溶液中に後述の無機粒子を添加し、ディスパーを用いて2000rpmで20分間分散した。無機粒子として、平均粒子径3.0μm、ジメチルシリコーンオイルにより表面をポリジメチルシロキサンで修飾した、疎水化度60%の不定形シリカ粒子(商品名:ニップシール SS-50A、東ソー・シリカ株式会社製)を乾燥後の塗膜(剥離層)中の無機粒子質量割合が23.8質量%になるよう添加した。分散後の混合溶液に硬化触媒として、p-トルエンスルホン酸メタノール溶液(固形分濃度50質量%)を2.5質量部添加し、ディスパーを用いて1500rpmで5分間攪拌し剥離層形成組成物の溶液を得た。この剥離層形成組成物の溶液を厚さ50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(商品名:ダイアホイル T100、三菱ケミカル株式会社製)の片面に塗工し、150℃で1分間乾燥及び硬化させ、硬化後の厚さが1.5μmの剥離層を有する工程フィルムを作製した。
【0075】
[実施例2]
無機粒子として、平均粒子径2.0μm、ジメチルシリコーンオイルにより表面をポリジメチルシロキサンで修飾した、疎水化度60%の不定形シリカ粒子(商品名:ニップシール SS-50B、東ソー・シリカ株式会社製)を乾燥後の塗膜(剥離層)中の無機粒子質量割合が23.8質量%になるよう添加した以外は、実施例1と同様にして工程フィルムを作製した。
【0076】
[実施例3]
無機粒子として、平均粒子径1.3μm、ジメチルシリコーンオイルにより表面をポリジメチルシロキサンで修飾した、疎水化度60%の不定形シリカ粒子(商品名:ニップシール SS-50G、東ソー・シリカ株式会社製)を乾燥後の塗膜(剥離層)中の無機粒子質量割合が23.8質量%になるよう添加した以外は、実施例1と同様にして工程フィルムを作製した。
【0077】
[実施例4]
剥離剤としてシリコーン変性アルキド樹脂溶液(商品名:TA31-209E、日立化成ポリマー株式会社製)100質量部、トルエン216質量部、メチルエチルケトン144質量部の混合溶液中に、無機粒子として、表面が未修飾の不定形シリカ粒子(商品名:ニップシール E-200A、東ソー・シリカ株式会社製)を乾燥後の塗膜(剥離層)中の無機粒子質量割合が23.8質量%になるように添加し、さらにシランカップリング剤として3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン(商品名:KBM-402、信越化学工業株式会社製)0.4質量部を添加し、ディスパーを用いて2000rpmで20分間分散した。分散後の混合溶液に硬化触媒として、p-トルエンスルホン酸メタノール溶液(固形分濃度50質量%)を2.5質量部添加し、さらにディスパーを用いて1500rpmで5分間攪拌し剥離層形成組成物の溶液を得た。この剥離層形成組成物の溶液を厚さ50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(商品名:ダイアホイル T100、三菱ケミカル株式会社製)の片面に塗工し、150℃で1分間乾燥及び硬化させ、硬化後の厚さが1.5μmの剥離層を有する工程フィルムを作製した。無機粒子の疎水化度は30%であった。
【0078】
[実施例5]
シランカップリング剤として、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン(商品名:KBM-502、信越化学工業株式会社製)を用いた以外は実施例4と同様にして工程フィルムを作製した。無機粒子の疎水化度は35%であった。
【0079】
[比較例1]
無機粒子として、平均粒子径3.0μm、表面が未修飾で疎水化度が0%の不定形シリカ粒子(商品名:ニップシール E-200A、東ソー・シリカ株式会社製)を乾燥後の塗膜(剥離層)中の無機粒子質量割合が23.8質量%になるよう添加した以外は、実施例1と同様にして工程フィルムを作製した。
【0080】
[比較例2]
無機粒子として、平均粒子径1.7μm、表面が未修飾で疎水化度が0%の不定形シリカ粒子(商品名:ニップシール E-220A、東ソー・シリカ株式会社製)を乾燥後の塗膜(剥離層)中の無機粒子質量割合が23.8質量%になるよう添加した以外は、実施例1と同様にして工程フィルムを作製した。
【0081】
[評価方法]
<無機粒子の平均粒子径測定>
剥離層形成組成物の溶液を測定対象とし、無機粒子の平均粒子径を、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置「マスターサイザー3000」(Malvern Panalytical)を用いて測定した。結果を表1に示す。
【0082】
<疎水化度の測定(メタノール滴定法)>
実施例及び比較例で用いた無機粒子の疎水化度は以下のようにして測定した。なお、実施例4及び実施例5の無機粒子は剥離層形成組成物の溶液から遠心分離機を用いて分離した無機粒子の疎水化度を測定した。200mlのビーカーにイオン交換水50mlを入れ、0.2gの試料(無機粒子)を添加する。スターラーで撹拌しながら、スポイト(ビュレット)でメタノールを加える。液面上に試料が認められなくなった時を終点として要したメタノール量から、下記の式(1)により疎水化度を算出する。式中のGはメタノール使用量(ml)を表す。
疎水化度(%)=(G/G+50)×100 ・・・(1)
【0083】
<31Bテープに対する剥離力>
実施例及び比較例で得られた工程フィルムの表面に、アクリル系粘着剤付ポリエステルテープ(商品名:No.31Bテープ、日東電工株式会社製)を貼り、23℃、相対湿度50%の恒温室内に30分間放置した後、幅20mm、長さ150mmに裁断した。引張試験機(装置名:テンシロン、株式会社エー・アンド・デイ製)を用いて、31Bテープを300mm/minの速度で180°方向に引っ張り、剥離した際の剥離力を測定した。結果を表1に示す。
【0084】
<転写樹脂に対する剥離力>
実施例及び比較例で得られた工程フィルムの表面に、熱硬化性アクリル樹脂(製品名:UC-3000、東亜合成株式会社製)を塗工し、塗膜と工程フィルムとの積層体を得た。160℃で30秒加熱することにより塗膜を硬化させ、工程フィルム上に厚さ約3.0μmのアクリル塗膜を作製した。上記アクリル塗膜を幅50mm、長さ150mmに裁断し、23℃、相対湿度50%の恒温室内で、引張試験機(装置名:テンシロン、株式会社エー・アンド・デイ製)を用いて、300mm/minの速度で180°方向に引っ張り、剥離した際の剥離力を測定した。結果を表1に示す。
【0085】
<工程フィルムの光沢度>
JIS Z 8741に準拠し、光沢計(製品名:VG7000、日本電色工業株式会社製)を用いて、実施例及び比較例で得られた工程フィルム表面の光沢度(60°グロス値)を測定した。結果を表1に示す。
【0086】
<転写樹脂の光沢度>
実施例及び比較例で得られた工程フィルムの表面に、熱硬化性アクリル樹脂(商品名:UC-3000、東亜合成株式会社製)を塗工し、塗膜と工程フィルムとの積層体を得た。160℃で30秒加熱することにより塗膜を硬化させ、工程フィルム上に厚さ3μmのアクリル塗膜を作製した。得られたアクリル樹脂膜を工程フィルムから剥離し、JIS Z 8741に準拠し、光沢計(製品名:VG7000、日本電色工業株式会社製)を用いてアクリル樹脂膜表面の光沢度(60°グロス値)を測定した。結果を表1に示す。
【0087】
【0088】
実施例1~5の工程フィルムは、適度な剥離力と低い光沢度を有しており、それを用いて光沢度が低い転写樹脂(シート状製品)を得ることができた。
【0089】
以上、各実施例について詳述したが、特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内において、種々の変形及び変更が可能である。また、前述した実施例の構成要素を全部又は複数を組み合わせることも可能である。
【符号の説明】
【0090】
1 工程フィルム
10 剥離層
11 剥離剤
12 無機粒子
20 基材