(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-23
(45)【発行日】2024-05-02
(54)【発明の名称】予測装置、予測システム、予測方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G06Q 10/04 20230101AFI20240424BHJP
G06Q 30/0202 20230101ALI20240424BHJP
G06Q 50/06 20240101ALI20240424BHJP
【FI】
G06Q10/04
G06Q30/0202
G06Q50/06
(21)【出願番号】P 2020078508
(22)【出願日】2020-04-27
【審査請求日】2023-01-31
(31)【優先権主張番号】P 2019096151
(32)【優先日】2019-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】広江 隆治
(72)【発明者】
【氏名】井手 和成
(72)【発明者】
【氏名】佐瀬 遼
【審査官】宮地 匡人
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-244176(JP,A)
【文献】特開2004-062440(JP,A)
【文献】特開昭63-116204(JP,A)
【文献】辛 景民,入出力雑音を受ける場合のMSEに基づくモデル次数の決定法,計測自動制御学会論文集,1998年08月31日,Vol.34 No.8,pp.941-949
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
予測対象の将来における出力を予測する予測装置であって、
プロセッサと、
前記プロセッサに接続され、前記予測対象の入力の計測値である入力計測値、及び出力の計測値である出力計測値を記憶する記録装置と、
を備え、
前記プロセッサは、
過去に記憶された複数の前記入力計測値、及び複数の前記出力計測値から、移動平均フィルタを用いて前記入力に対する第1係数を同定する同定処理と、
前記入力計測値、前記出力計測値、及び前記第1係数からなる予測モデルに基づいて、前記予測対象の将来における出力を予測する予測処理と、
を実行し、
前記同定処理において、観測雑音の共分散行列と、前記第1係数に係るカーネル行列で重み付けした入力外乱の共分散行列とを用いる、
予測装置。
【請求項2】
予測対象の将来における出力を予測する予測装置であって、
プロセッサと、
前記プロセッサに接続され、前記予測対象の入力の計測値である入力計測値、及び出力の計測値である出力計測値を記憶する記録装置と、
を備え、
前記プロセッサは、
過去に記憶された複数の前記入力計測値、及び複数の前記出力計測値から、自己回帰移動平均フィルタを用いて前記入力に対する第1係数と、前記出力に対する第2係数とを同定する同定処理と、
前記入力計測値、前記出力計測値、前記第1係数、及び前記第2係数からなる予測モデルに基づいて、前記予測対象の将来における出力を予測する予測処理と、
を実行し、
前記同定処理において、観測雑音の共分散行列と、前記第1係数に係るカーネル行列で重み付けした入力外乱の共分散行列と、前記第2係数に係るカーネル行列で重み付けした観測雑音の共分散行列とを用いる、
予測装置。
【請求項3】
予測対象の将来における出力を予測する予測装置であって、
プロセッサと、
前記プロセッサに接続され、前記予測対象の入力の計測値である入力計測値、及び出力の計測値である出力計測値を記憶する記録装置と、
を備え、
前記プロセッサは、過去に記憶された複数の前記入力計測値、及び複数の前記出力計測値から、無限インパルス応答フィルタを用いて前記入力に対する第1係数と、前記出力に対する第2係数とを同定する同定処理と、
前記入力計測値、前記出力計測値、前記第1係数、及び前記第2係数からなる無限インパルス応答フィルタの形式による予測モデルに基づいて、前記予測対象の将来における出力を予測する予測処理と、
を実行し、
前記同定処理において、観測雑音の共分散行列、前記第1係数に係るカーネル行列で重み付けした入力外乱の共分散行列を用いる、
予測装置。
【請求項4】
前記プロセッサは、前記予測処理において、現在から所定時間後の前記予測対象の出力を予測する、
請求項1から3の何れか一項に記載の予測装置。
【請求項5】
前記記録装置は、前記予測対象の複数種類の入力計測値、及び複数種類の出力計測値を記憶し、
前記プロセッサは、前記同定処理において、複数種類の前記入力それぞれに対する複数の前記第1係数と、複数種類の前記出力それぞれに対する複数の前記第2係数と、を同定する、
請求項2に記載の予測装置。
【請求項6】
請求項1から5の何れか一項に記載の予測装置と、
前記予測装置と通信可能に接続され、当該予測装置から受信した前記予測対象の出力の予測値に基づいて、当該予測対象の入力を調整する制御装置と、
を備える予測システム。
【請求項7】
前記予測対象は、電力系統に電力の供給を行う電源であり、
前記制御装置は、前記予測値に基づいて、前記電源が有するタービン装置の加減弁の開度を調整する、
請求項6に記載の予測システム。
【請求項8】
予測対象の将来における出力を予測する予測方法であって、
予測装置が、過去の複数の入力の計測値である入力計測値、及び複数の出力の計測値である出力計測値から、移動平均フィルタを用いて前記入力に対する第1係数を同定するステップと、
前記予測装置が、前記入力計測値、前記出力計測値、及び前記第1係数からなる予測モデルに基づいて、前記予測対象の将来における出力を予測するステップと、
を有し、
前記第1係数を同定するステップにおいて、観測雑音の共分散行列と、前記第1係数に係るカーネル行列で重み付けした入力外乱の共分散行列とを用いる、
予測方法。
【請求項9】
予測対象の将来における出力を予測する予測方法であって、
予測装置が、過去の複数の入力の計測値である入力計測値、及び複数の出力の計測値である出力計測値から、自己回帰移動平均フィルタを用いて前記入力に対する第1係数と、前記出力に対する第2係数とを同定するステップと、
前記予測装置が、前記入力計測値、前記出力計測値、前記第1係数、及び前記第2係数からなる予測モデルに基づいて、前記予測対象の将来における出力を予測するステップと、
を有し、
前記第1係数及び前記第2係数を同定するステップにおいて、観測雑音の共分散行列と、前記第1係数に係るカーネル行列で重み付けした入力外乱の共分散行列と、前記第2係数に係るカーネル行列で重み付けした観測雑音の共分散行列とを用いる、
予測方法。
【請求項10】
予測対象の将来における出力を予測する予測方法であって、
予測装置が、過去の複数の入力の計測値である入力計測値、及び複数の出力の計測値である出力計測値から、無限インパルス応答フィルタを用いて前記入力に対する第1係数と、前記出力に対する第2係数とを同定するステップと、
前記予測装置が、前記入力計測値、前記出力計測値、前記第1係数、及び前記第2係数からなる予測モデルに基づいて、前記予測対象の将来における出力を予測するステップと、
を有し、
前記第1係数及び前記第2係数を同定するステップにおいて、観測雑音の共分散行列と、前記第1係数に係るカーネル行列で重み付けした入力外乱の共分散行列と、を用いる、
予測方法。
【請求項11】
プロセッサと、前記プロセッサに接続され、予測対象の入力の計測値である入力計測値、及び出力の計測値である出力計測値を記憶する記録装置と、を備える予測装置のコンピュータを機能させるプログラムであって、前記コンピュータに、
過去に記憶された複数の前記入力計測値、及び複数の前記出力計測値から、移動平均フィルタを用いて前記入力に対する第1係数を同定するステップと、
前記入力計測値、前記出力計測値、及び前記第1係数からなる予測モデルに基づいて、前記予測対象の将来における出力を予測するステップと、
を実行させ、
前記第1係数を同定するステップにおいて、観測雑音の共分散行列と、前記第1係数に係るカーネル行列で重み付けした入力外乱の共分散行列とを用いる、
プログラム。
【請求項12】
プロセッサと、前記プロセッサに接続され、予測対象の入力の計測値である入力計測値、及び出力の計測値である出力計測値を記憶する記録装置と、を備える予測装置のコンピュータを機能させるプログラムであって、前記コンピュータに、
過去に記憶された複数の前記入力計測値、及び複数の前記出力計測値から、自己回帰移動平均フィルタを用いて前記入力に対する第1係数と、前記出力に対する第2係数とを同定するステップと、
前記入力計測値、前記出力計測値、前記第1係数、及び前記第2係数からなる予測モデルに基づいて、前記予測対象の将来における出力を予測するステップと、
を実行させ、
前記第1係数及び前記第2係数を同定するステップにおいて、観測雑音の共分散行列と、前記第1係数に係るカーネル行列で重み付けした入力外乱の共分散行列と、前記第2係数に係るカーネル行列で重み付けした観測雑音の共分散行列とを用いる、
プログラム。
【請求項13】
プロセッサと、前記プロセッサに接続され、予測対象の入力の計測値である入力計測値、及び出力の計測値である出力計測値を記憶する記録装置と、を備える予測装置のコンピュータを機能させるプログラムであって、前記コンピュータに、
過去の複数の入力の計測値である入力計測値、及び複数の出力の計測値である出力計測値から、無限インパルス応答フィルタを用いて前記入力に対する第1係数と、前記出力に対する第2係数とを同定するステップと、
前記入力計測値、前記出力計測値、前記第1係数、及び前記第2係数からなる予測モデルに基づいて、前記予測対象の将来における出力を予測するステップと、
を実行させ、
前記第1係数及び前記第2係数を同定するステップにおいて、観測雑音の共分散行列と、前記第1係数に係るカーネル行列で重み付けした入力外乱の共分散行列と、を用いる、 プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、予測装置、予測システム、予測方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
電力事業、ガス事業等のエネルギー事業分野、通信事業分野、タクシー、配送業投の運送事業分野等の様々な分野において、消費者の需要に応じて設備を稼働させるため、及び資源を適切に配分するために、将来の需要量を予測することが行われている。将来の需要量の予測には、予測対象の数値モデル(予測モデル)が使われる。
【0003】
しかしながら、予測対象の特性は一定ではなく、経時的に変動する。したがって、ある時点で定めた数値モデルを使って算出した予測値と、実際に観測された値との間には乖離が生じる可能性がある。このため、予測精度を向上するために、予測モデルを時間の経過とともに更新することが考えられている(たとえば、特許文献1を参照)。
【0004】
また、予測モデルの更新は、過去の実際の観測値に基づいて行われる。予測モデルの更新に使われるデータ(たとえば、入力及び出力の観測値)は、実用上はより少ないことが望まれる。少ないデータ(短期間の入力及び出力を示すデータ)で予測モデルを更新することが出来れば、予測対象の特性が短時間のうちに変動したとしても、予測モデルで変動をとらえることができるからである。たとえば、予測対象の特性が10分間かけて変動する場合、過去1分間分の観測値からモデル更新できるならば、変動に合わせて予測モデルを更新することができる。一方、モデル更新に過去60分間分の観測値が必要である場合、予測モデルが更新されるのは、予測対象が変動してから数十分後となるので、予測が現実と違ってしまう可能性がある。
【0005】
近年では、少ないデータで予測を可能とする技術として、カーネル型システム同定法が考えられている(たとえば、非特許文献1及び非特許文献2を参照)。カーネル型システム同定法では、予測対象のインパルス応答をベイズ推定により同定して予測モデルを更新する。ここで、予測対象の出力は移動平均フィルタ(MAフィルタ)の形式で表現される。具体的には、予測対象の入力をui(i=t,t-1,t-2,…)、出力をyi(i=t,t-1,t-2,…)としたとき、出力yを、入力uの荷重付きの移動平均と、観測雑音との和で表現する。荷重付きの移動平均の荷重係数{a1,a2,…,an}は、予測対象の有限インパルス応答に相当する。観測雑音は平均がゼロ、標準偏差がσwの正規分布で表されると仮定する。なお、標準偏差σは予め与えられているとする。移動平均フィルタによる予測モデルでは、荷重係数{a1,a2,…,an}の値を実際の入力及び出力の観測値y、uに基づいて定める。カーネル型システム同定法では、荷重係数{a1,a2,…,an}に対し平均がゼロ、共分散行列K(n×n)の事前分布と、観測雑音に対し平均がゼロ、共分散行列σw
2I(n×n)の事前分布と、を導入して、{a1,a2,…,an}の値を定める。このKはカーネル行列と呼ばれ、予測対象に関する事前情報が組み込まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【文献】藤本悠介,杉江俊治:カーネル型システム同定のための入力設計に関する一考察,第59回自動制御連合講演会,北九州,2016.11.10-12, pp. 448--449 (2016.11.10)
【文献】G. Pillonetto, A. Chiuso and G. De Nicolao, “Prediction error identification of linear systems: A nonparametric Gaussian regression approach,” Automatica, 47(2), 291-305, 2011.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、一般に、予測対象は複数の入力の影響を受ける。上述のような移動平均フィルタを使う予測モデルでは、特定の一つの入力(入力u)に対して、予測対象の応答(出力y)を予測する。言い換えれば、予測対象の応答は、特定の一つの入力にのみ影響されるとみなしている。このため、計測できない未知の入力(外乱)が加わると、応答は予測モデルで表すことができない。このため、従来の技術では、観測不可能な外乱による影響が生じると、予測精度が低下する可能性があった。
【0009】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであって、観測不可能な外乱による影響が生じた場合であっても、外乱の事前情報を表す標準偏差などの統計値を利用して、予測対象の出力の予測精度が低下することを抑制可能な予測装置、予測システム、予測方法、及びプログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は以下の手段を採用している。
本発明の第1の態様によれば、予測対象の将来における出力を予測する予測装置は、プロセッサと、前記プロセッサに接続され、前記予測対象の入力の計測値である入力計測値、及び出力の計測値である出力計測値を記憶する記録装置と、を備える。前記プロセッサは、過去に記憶された複数の前記入力計測値、及び複数の前記出力計測値から、移動平均フィルタを用いて前記入力に対する第1係数を同定する同定処理と、前記入力計測値、前記出力計測値、及び前記第1係数からなる予測モデルに基づいて、前記予測対象の将来における出力を予測する予測処理と、を実行する。前記同定処理については、出力yの予測値の事前分布の評価において、観測雑音の共分散行列σw
2I(n×n)と、前記第1係数に係るカーネル行列で重み付けした入力外乱の共分散行列と、を用いることを特徴とする。
【0011】
本発明の第2の態様によれば、予測対象の将来における出力を予測する予測装置は、プロセッサと、前記プロセッサに接続され、前記予測対象の入力の計測値である入力計測値、及び出力の計測値である出力計測値を記憶する記録装置と、を備える。前記プロセッサは、過去に記憶された複数の前記入力計測値、及び複数の前記出力計測値から、自己回帰移動平均フィルタを用いて前記入力に対する第1係数と、前記出力に対する第2係数とを同定する同定処理と、前記入力計測値、前記出力計測値、前記第1係数、及び前記第2係数からなる自己回帰移動平均フィルタの形式による予測モデルに基づいて、前記予測対象の将来における出力を予測する予測処理と、を実行する。前記同定処理については、出力yの予測値の事前分布の評価において、観測雑音の共分散行列σw
2I(n×n)に加え、前記第1係数に係るカーネル行列で重み付けした入力外乱の共分散行列と、さらに前記第2係数に係るカーネル行列で重み付けした観測雑音の共分散行列と、を用いることを特徴とする。
【0012】
本発明の第3の態様によれば、予測対象の将来における出力を予測する予測装置は、プロセッサと、前記プロセッサに接続され、前記予測対象の入力の計測値である入力計測値、及び出力の計測値である出力計測値を記憶する記録装置と、を備える。前記プロセッサは、過去に記憶された複数の前記入力計測値、及び複数の前記出力計測値から、無限インパルス応答フィルタを用いて前記入力に対する第1係数と、前記出力に対する第2係数とを同定する同定処理と、前記入力計測値、前記出力計測値、前記第1係数、及び前記第2係数からなる無限インパルス応答フィルタの形式による予測モデルに基づいて、前記予測対象の将来における出力を予測する予測処理と、を実行する。前記同定処理については、出力yの予測値の事前分布の評価において、観測雑音の共分散行列σw
2I(n×n)に加え、前記第1係数に係るカーネル行列で重み付けした入力外乱の共分散行列を用いることを特徴とする。
【0013】
本発明の第4の態様によれば、前記プロセッサは、前記予測処理において、現在から所定時間後の前記予測対象の出力を予測する。
【0014】
本発明の第5の態様によれば、前記記録装置は、前記予測対象の複数種類の入力計測値、及び複数種類の出力計測値を記憶する。前記プロセッサは、前記同定処理において、複数種類の前記入力それぞれに対する複数の前記第1係数と、複数種類の前記出力それぞれに対する複数の前記第2係数と、を同定する。
【0015】
本発明の第6の態様によれば、予測システムは、第1から第5の何れか一の態様に記載の予測装置と、前記予測装置と通信可能に接続され、当該予測装置から受信した前記予測対象の出力の予測値に基づいて、当該予測対象の入力を調整する制御装置と、を備える。
【0016】
本発明の第7の態様によれば、前記予測対象は、電力系統に電力の供給を行う電源であり、前記制御装置は、前記予測値に基づいて、前記電源が有するタービン装置の加減弁の開度を調整する。
【0017】
本発明の第8の態様によれば、予測対象の将来における出力を予測する予測方法は、過去の複数の入力の計測値である入力計測値、及び複数の出力の計測値である出力計測値から、移動平均フィルタを用いて前記入力に対する第1係数を同定するステップと、前記入力計測値、前記出力計測値、及び前記第1係数からなる予測モデルに基づいて、前記予測対象の将来における出力を予測するステップと、を有する。前記第1係数を同定するステップについては、出力yの予測値の事前分布の評価において、観測雑音の共分散行列σw
2I(n×n)と、前記第1係数に係るカーネル行列で重み付けした入力外乱の共分散行列と、を用いることを特徴とする。
【0018】
本発明の第9の態様によれば、予測対象の将来における出力を予測する予測方法は、過去の複数の入力の計測値である入力計測値、及び複数の出力の計測値である出力計測値から、自己回帰移動平均フィルタを用いて前記入力に対する第1係数と、前記出力に対す第2係数とを同定するステップと、前記入力計測値、前記出力計測値、前記第1係数、及び前記第2係数からなる予測モデルに基づいて、前記予測対象の将来における出力を予測するステップと、を有する。前記第1係数及び前記第2係数を同定するステップについては、出力yの予測値の事前分布の評価において、観測雑音の共分散行列σw
2I(n×n)に加え、前記第1係数に係るカーネル行列で重み付けした入力外乱の共分散行列と、さらに前記第2係数に係るカーネル行列で重み付けした観測雑音の共分散行列と、を用いることを特徴とする。
【0019】
本発明の第10の態様によれば、予測対象の将来における出力を予測する予測方法は、過去の複数の入力の計測値である入力計測値、及び複数の出力の計測値である出力計測値から、無限インパルス応答フィルタを用いて前記入力に対する第1係数と、前記出力に対する第2係数とを同定するステップと、前記入力計測値、前記出力計測値、前記第1係数、及び前記第2係数からなる予測モデルに基づいて、前記予測対象の将来における出力を予測するステップと、を有する。前記第1係数及び前記第2係数を同定するステップにおいて、観測雑音の共分散行列と、前記第1係数に係るカーネル行列で重み付けした入力外乱の共分散行列と、を用いることを特徴とする。
【0020】
本発明の第11の態様によれば、プロセッサと、前記プロセッサに接続され、予測対象の入力の計測値である入力計測値、及び出力の計測値である出力計測値を記憶する記録装置と、を備える予測装置のコンピュータを機能させるプログラムは、前記コンピュータに、過去に記憶された複数の前記入力計測値、及び複数の前記出力計測値から、移動平均フィルタを用いて前記入力に対する第1係数を同定するステップと、前記入力計測値、前記出力計測値、及び前記第1係数からなる予測モデルに基づいて、前記予測対象の将来における出力を予測するステップと、を実行させる。前記第1係数を同定するステップについては、観測雑音の共分散行列σw
2I(n×n)と、前記第1係数に係るカーネル行列で重み付けした入力外乱の共分散行列と、を用いることを特徴とする。
【0021】
本発明の第12の態様によれば、プロセッサと、前記プロセッサに接続され、予測対象の入力の計測値である入力計測値、及び出力の計測値である出力計測値を記憶する記録装置と、を備える予測装置のコンピュータを機能させるプログラムは、前記コンピュータに、過去に記憶された複数の前記入力計測値、及び複数の前記出力計測値から、自己回帰移動平均フィルタを用いて前記入力に対する第1係数と、前記出力に対す第2係数とを同定するステップと、前記入力計測値、前記出力計測値、前記第1係数、及び前記第2係数からなる予測モデルに基づいて、前記予測対象の将来における出力を予測するステップと、を実行させる。前記第1係数及び前記第2係数を同定するステップについては、出力yの予測値の事前分布の評価において、観測雑音の共分散行列σw
2I(n×n)に加え、前記第1係数に係るカーネル行列で重み付けした入力外乱の共分散行列と、さらに前記第2係数に係るカーネル行列で重み付けした観測雑音の共分散行列と、を用いることを特徴とする。
【0022】
本発明の第13の態様によれば、プロセッサと、前記プロセッサに接続され、予測対象の入力の計測値である入力計測値、及び出力の計測値である出力計測値を記憶する記録装置と、を備える予測装置のコンピュータを機能させるプログラムは、前記コンピュータに、過去の複数の入力の計測値である入力計測値、及び複数の出力の計測値である出力計測値から、無限インパルス応答フィルタを用いて前記入力に対する第1係数と、前記出力に対する第2係数とを同定するステップと、前記入力計測値、前記出力計測値、前記第1係数、及び前記第2係数からなる予測モデルに基づいて、前記予測対象の将来における出力を予測するステップと、を実行させる。前記第1係数及び前記第2係数を同定するステップにおいて、観測雑音の共分散行列と、前記第1係数に係るカーネル行列で重み付けした入力外乱の共分散行列と、を用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
上述の少なくとも一の態様によれば、観測不可能な外乱による影響が生じた場合であっても、外乱の標準偏差についての事前情報を利用して、予測対象の出力の予測精度が低下することを抑制可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1A】本発明の第1の実施形態に係る予測システムの機能構成を示す図である。
【
図1B】本発明の第2の実施形態に係る予測システムの機能構成を示す図である。
【
図2】本発明の第2の実施形態に係る予測システムの実用例を示す図である。
【
図3】本発明の第3の実施形態に係る予測システムの機能構成を示す図である。
【
図4】本発明の第4の実施形態に係る予測システムの機能構成を示す図である。
【
図5】本発明の第5の実施形態に係る予測システムの機能構成を示す図である。
【
図6】本発明の少なくとも一実施形態に係る予測装置、及び制御装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
<第1の実施形態>
以下、本発明の第1の実施形態に係る予測装置、及び当該予測装置を具備する予測システムについて、
図1Aを参照しながら説明する。
【0026】
(機能構成)
図1Aは、本発明の第1の実施形態に係る予測システムの機能構成を示す図である。
図1Aに示すように、予測システム1は、予測対象2の将来における出力を予測する予測装置3を備えている。
【0027】
本実施形態に係る予測装置3は、カーネル型システム同定法の技術を利用して、将来の出力を予測する。また、予測装置3は、サーバ、パーソナルコンピュータ等のコンピュータを用いて構成され、記録装置30と、プロセッサ31とを備えている。
【0028】
記録装置30は、プロセッサ31に接続され、予測対象2から所定周期ごとに受信する入力の計測値(以下、「入力計測値u」と記載する)、及び出力の計測値(以下、「出力計測値y」と記載する)を記憶する。
【0029】
プロセッサ31は、予測装置3の動作全体を司る。プロセッサ31は、所定のプログラムに従って動作することにより、同定部310、予測部311としての機能を発揮する。
【0030】
同定部310は、過去に記憶された複数の入力計測値u、及び複数の出力計測値yから、移動平均フィルタ(MAフィルタ)を用いて予測対象2の入力に対する第1係数aを同定する同定処理S1を実行する。
【0031】
予測部311は、入力計測値u、出力計測値y、第1係数aからなる予測モデルに基づいて、予測対象2の将来における出力を予測する予測処理S2を実行する。
【0032】
(カーネル型システム同定法について)
ここで、従来のカーネル型システム同定法における同定処理について説明する。従来のカーネル型システム同定法において、予測対象の時刻毎の入力計測値をui(i=t,t-1,t-2,…)、出力計測値をyi(i=t,t-1,t-2,…)とすると、予測対象の1ステップ先(時刻t+1)における出力yt+1は、以下の式(1)のように、移動平均フィルタ(MAフィルタ)の形式で表現される。なお、明細書中における「^y」との表記は、以下に示す図、式中において「y」にハット記号「^」が付された表記に対応する。同様に、明細書中における「^K」、「^a」との表記は、以下に示す図、式中において「K」、「a」にハット記号「^」が付された表記に対応する。
【0033】
【0034】
上式(1)は、予測対象の出力yを、入力計測値uの荷重付きの移動平均と、観測雑音wの和とで表現している。荷重付きの移動平均の荷重係数は{a1,a2,…,an}である。この荷重係数は予測対象のインパルス応答に相当する。観測雑音wは平均が「0」で、標準偏差が「σw」の正規分布、すなわちw~N(0,σw
2)と表されるものとする。「^yt+1」は「yt+1」の予測値である。この「^yt+1」を求める式が予測モデルを表している。
【0035】
カーネル型システム同定法は、入力の荷重係数{a1,a2,…,an}を多変量正規分布に従う確率変数としてベイズ推定するところに特徴がある。表記の簡単化のために、上式(1)の入力の荷重係数{a1,a2,…,an}をひとまとめにしたものを、列ベクトルaで表すことにする。列ベクトルaが従う前記多変量正規分布とは、より具体的には、平均が「0(n×1)」、共分散行列が「K(n×n)」である。すなわち、a~N(0,K)である。カーネル型システム同定法においては、共分散行列Kはカーネル行列と呼ばれており、予測対象に関する事前情報を表している。たとえば、一次安定スプラインカーネル(Tuned and Correlatedカーネル)に従うと、予測対象のインパルス応答が、時間に対して指数的に収束する時定数の事前情報からカーネル行列を定めることができる。具体的には、一次安定スプラインカーネルに従うと、カーネル行列Kのi行j列要素は、以下の式(2)で与えられる。λは入力uに対する出力yのインパルス応答の大きさを表すパラメータであり、βはインパルス応答の収束の速さを表すパラメータである。これらの値は、予測対象の運転経験や運転の記録から、おおよその値を知ることは容易である。
【0036】
【0037】
また、ベクトル表現を導入すると、入力計測値u及び出力計測値yは以下の式(3)で表される。なお、Nは計算に使用される観測点の数(ステップ数)であり、nはインパルス応答の次数(荷重係数aの要素数)である。
【0038】
【0039】
これらのベクトルU,Yが分かっており、さらに、カーネル行列Kと、入力外乱の標準偏差σvと、観測雑音の標準偏差σwと、が事前情報として既知であるならば、ベイズ推定の意味において、荷重係数aと出力計測値Yの予測値の事前分布は式(4)のように多変量正規分布として表される。式(4)において、記号Nの括弧の内側の第1項は期待値であり、第2項が共分散行列である。
【0040】
【0041】
このとき、前述の事前情報に加え、さらに出力計測値yを得たならば、ベイズ推論の意味において、荷重係数aの最適推定値は事後分布の平均値として式(5)のように表される。式(5)の「^a」を、予測モデルの定数(荷重係数a)に用いる。
【0042】
【0043】
式(4)において、左辺のaは式(1)の荷重係数{a1,a2,…,an}を列ベクトルとして表記したものである。式(4)の多変量正規分布において、共分散行列の(2,2)要素は出力計測値Yの予測値の共分散行列Var(Y)を表している。本願の特徴はVar(Y)の評価方法にあるので、その導出過程を説明しておく。式(4)のとおり、Var(Y)=UKUT+σw
2Iである。これは、観測雑音の時系列{w1,w2,…,wN}の列ベクトルW(N×1)で表すと、Var(Y)=Var(Ua+W)=E(UaaTUT)+E(UaWT)+E(WaTUT)+E(WWT)である。カーネル行列の定義からE(aaT)=K、観測雑音と入力は無相間だからE(UWT)=0、そして観測雑音の定義からE(WWT)=σw
2Iである。したがって、Var(Y)=UKUT+0+0+σw
2Iとなる。
【0044】
従来より、カーネル型システム同定法には、少ないデータ点数Nで予測モデルが得られるという利点がある。一般的な手法では、予測モデルの定数の数nが5から10のときに、データ点数は2000程度が必要となる場合がある。これに対し、カーネル型システム同定法では、データ点数Nを200程度で同定することが可能となる。
【0045】
しかしながら、従来のカーネル型システム同定法は、観測雑音を考慮するのみであり、入力に重畳する外乱があると、予測精度が低下する可能性があった。入力に重畳する外乱とは、入力を指令する信号の伝送に関わる雑音の他に、バルブなどの操作量の誤差などを含むものであり、以下では入力外乱と表記する。入力外乱に対処するため、本実施形態に係る予測装置3は、以下に説明するように、従来とは異なる同定処理S1及び予測処理S2を実行する。
【0046】
(移動平均フィルタによる予測装置の処理)
本実施形態に係る予測装置3の同定部310は、移動平均フィルタ(MAフィルタ)を用いるところは従来と同様である。しかし、本実施形態の移動平均フィルタでは、予測対象2の1ステップ先(時刻t+1)における出力「yt+1」を、入力外乱vを考慮して以下の式(6A)で表して、同定処理S1を行う。ここに、入力外乱vは、平均が「0」、標準偏差がσvのガウス分布に従うものとする。これを、v~N(0,σv
2)と表記する。なお、観測雑音wは従来の手法と同様である。「^yt+1」は「yt+1」の予測値である。この「^yt+1」を求める式は、本実施形態における予測モデルを表している。
【0047】
【0048】
本実施形態では、入力外乱が予測値に及ぼす影響を考慮する点において、従来の手法と異なっている。式(6A)の移動平均フィルタの形式のモデルについて、カーネル行列Kと、入力外乱の標準偏差σvと、観測雑音の標準偏差σwと、入力計測値uとが事前情報として既知であるならば、ベイズ推定の意味において、荷重係数a(第1係数)と出力計測値Yの予測値の事前分布は式(6B)のように多変量正規分布で表される。式(6B)において、記号Nの括弧の内側の第1項は期待値であり、第2項が共分散行列である。
【0049】
式(6B)の多変量正規分布において、共分散行列の(2,2)要素は出力計測値Yの予測値の共分散行列Var(Y)を表している。本願の特徴はVar(Y)の評価方法にあるので、その導出過程を説明しておく。式(6A)のとおり、Var(Y)=UKUT+DK+σw
2Iである。これは、観測雑音の時系列{w1,w2,…,wN}を列ベクトルW(N×1)で表し、同様に、入力外乱の時系列{v1,v2,…,vN}を列ベクトルV(N×1)で表すと、Var(Y)=Var((U+V)a+W)=E(UaaTUT)+E(VaaTVT)+E((U+V)aWT)+E(WaT(UT+VT))+E(WWT)である。カーネル行列の定義からE(aaT)=K、入力は観測雑音および入力外乱と無相間だからE((U+V)WT)=0、そして観測雑音の定義からE(WWT)=σw
2Iである。したがって、Var(Y)=UKUT+E(VKVT)+0+0+σw
2Iとなる。E(VKVT)は前記第1係数に係るカーネル行列で重み付けした入力外乱の共分散行列であり、式(6B)では、DKと記している。
【0050】
【0051】
共分散行列を構成する行列DKは本実施形態が特徴とする、第1係数aに係るカーネル行列Kで重み付けした入力外乱の共分散行列である。行列DKの構造は式(6C)で表され、その要素は式(6D)で計算される。式(6D)において、記号Trは行列のトレースまたは跡、すなわち行列の対角要素の総和を表している。また、epとeqはN次元線形空間のp番目とq番目の基底を表す行ベクトルであり、「p=q」ならば「epeq
T=0」、「p≠q」ならば「epeq
T=1」である。
【0052】
【0053】
【0054】
このとき、前述の事前情報に加え、さらに出力計測値yを得たならば、ベイズ推論の意味において、第1係数aの最適推定値は式(6E)のように事後分布の平均値として表される。従来の技術による第1係数aの最適値には、式(5)に示すとおり行列DKがないので、入力外乱は考慮されておらず、したがって第1係数aを正しく推定できなかった。両者の違いは、Yの事前分布の評価において、Var(Y)として、第1係数aに係るカーネル行列Kで重み付けした入力外乱の共分散行列DKを考慮するか否かに起因する。本実施形態に係る技術では、標準偏差σvと、第1係数aに係るカーネル行列Kと、から、入力外乱が出力Yの事前分布に及ぼす影響を考慮するので、特に入力外乱があるときの第1係数aの推定精度を向上することができる。
【0055】
【0056】
上式(6E)の「^a」の値を、予測モデルの定数(第1係数a)に用いる。
【0057】
同定部310は、所定時間(たとえば、10分)ごとに上述の同定処理S1を実行して予測モデルを更新する。これにより、同定部310は、予測対象2の特性の変化に応じた予測モデルを常に提供することができる。なお、所定時間は、予測対象2の特性の変動周期等に応じて任意に設定される。
【0058】
また、予測部311は、同定部310により同定された定数(第1係数a)と、入力計測値及u及び出力計測値yとからなる予測モデルに基づいて、予測対象2の1ステップ先(時刻t+1)の出力を予測する予測処理S2を実行する。
【0059】
予測部311が予測した予測値「^yt+1」は、予測対象2の制御装置210に送信される。そうすると、制御装置210は、この予測値「^yt+1」に基づいて、予測対象2の出力が適正な値となるように制御、調整する。
【0060】
(作用効果)
以上のように、本実施形態に係る予測システム1の予測装置3は、入力に対する第1係数aの同定処理S1については、観測雑音の共分散行列σw
2I(n×n)と、前記第1係数に係るカーネル行列で重み付けした入力外乱の共分散行列と、を用いることを特徴とする。これにより、観測不可能な外乱による影響が生じた場合であっても、外乱の標準偏差についての事前情報を利用して、予測対象の出力の予測精度が低下することを抑制することができる。
【0061】
<第2の実施形態>
以下、本発明の第2の実施形態に係る予測装置、及び当該予測装置を具備する予測システムについて、
図1Bを参照しながら説明する。前述した第1の実施形態との差異は、第1の実施形態が移動平均フィルタを利用するのに対し、本実施形態では自己回帰移動平均フィルタを利用するところにある。これは、予測装置3の同定部310にて行う同定処理S1と予測部311にて行う予測処理S2の演算にのみ影響を及ぼすので、それのみを説明する。それ以外の機能と構成は第1の実施形態と同一である。
【0062】
(自己回帰移動平均フィルタによる予測装置の処理)
本実施形態に係る予測装置3の同定部310は、前述の移動平均フィルタに代えて、自己回帰移動平均フィルタ(ARMAフィルタ)を用いて同定処理S1を行う。自己回帰移動平均フィルタでは、予測対象2の1ステップ先(時刻t+1)における出力「yt+1」を以下の式(6F)で表す。なお、観測雑音wは従来の手法と同様である。「^yt+1」は「yt+1」の予測値である。この「^yt+1」を求める式は、本実施形態における予測モデルを表している。
【0063】
【0064】
本実施形態では、過去の出力計測値yを予測に利用する点において、前実施形態の移動平均フィルタを用いる手法と異なっている。これに伴い、同定部310は、入力に対する係数(以下、「第1係数」とも記載する)のみならず、出力に対する係数(以下、「第2係数」とも記載する)も同定する。これを実現するために、入力に対する係数aの共分散行列をカーネル行列Kaにより、出力に対する係数bの共分散行列をカーネル行列Kbにより、個別に表記する。
【0065】
カーネル行列Ka及びKbのi行j列要素は、それぞれ以下の式(8)及び(9)で与えられる。λa、λb、βa、βbについては、値について事前情報が有り、おおよその値は分かっているものとする。なお、λa及びλbの値は、同一であってもよいし、異なっていてもよい。同様に、βa及びβbの値も、同一であってもよいし、異なっていてもよい。さらに、式(6F)では第1係数{a1,a2,…}と第2係数{b1,b2,…}は、ともに同じ長さnであると記している。しかし、長さが異なっていても良い。例えば、第1係数の長さは0であっても良い。
【0066】
【0067】
【0068】
また、次の式(10)で表されるベクトル表現を導入すると、予測モデルの定数[aT,bT]Tの事前分布は、式(11)で表される。
【0069】
式(11)の多変量正規分布において、共分散行列の(2,2)要素は出力計測値Yの予測値の共分散行列Var(Y)を表している。式(11)では、Var(Y)=UaKaUa
T+UbKbUb
T+DKa+DKb+σw
2Iと記している。これは以下のようにして導出される。観測雑音の時系列{w1,w2,…,wN}を列ベクトルW(N×1)で表し、同様に、入力外乱の時系列{v1,v2,…,vN}を列ベクトルV(N×1)で表すと、Var(Y)=Var((Ua+V)a+(Ub+W)b+W)=E(UaKaUa
T)+E(UbKbUb
T)+E(VKaVT)+E(WKbWT)+E((Ua+V)abT(Ub+W)T)+E((Ub+W)baT(Ua+V)T)+E(WWT)である。したがって、Var(Y)=UaKaUa
T+UbKbUb
T+DKa+DKb+0+0+σw
2Iとなる。E(VKaVT)は前記第1係数に係るカーネル行列で重み付けした入力外乱の共分散行列であり、DKaと記している。E(WKbWT)は前記第2係数に係るカーネル行列で重み付けした観測雑音の共分散行列であり、DKbと記している。
【0070】
【0071】
【0072】
【0073】
この事前分布に加えて、出力計測値yを得たならば、ベイズ推論の意味において、第1係数aと第2係数bの最適推定値は式(12)のように表される。式(12)において、DKaは前記第1係数に係るカーネル行列Kaで重み付けした入力外乱の共分散行列であり、第1の実施形態で述べたとおりである。DKbは前記第2係数に係るカーネル行列Kbで重み付けした観測雑音wの共分散行列であり、本実施例で特徴とするものである。DKaの計算は、第1の実施例におけるDKの計算において、KをKaに代えて実施する。DKbの計算は、第1の実施例におけるDKの計算において、KをKbに代え、さらにσvをσwに代えて実施する。本願の技術の新規性として、例えば、非特許文献2を参照する。非特許文献2の式(36)および式(37)が本実施形態の式(12)に対応しているが、非特許文献2の式にはDKaとDKbに相当する項は記されていない。DKaとDKbは、それぞれ入力外乱と観測雑音が出力計測値Yの予測値の事前分布に及ぼす影響を表すものであるから、これらを欠く技術では、前記事前分布は実際に対して誤差を持つ。その結果、従来の技術では、予測モデルを正しく同定することができない。
【0074】
なお、上式(10)において、Nは計算に使用される観測点の数(ステップ数)であり、nは移動平均または自己回帰の要素数である。たとえば、「N=100」、「n=10」等の値が任意に設定される。このとき、同定部310は、記録装置30からNステップ分の計測値からなる入力計測値ベクトルu及び出力計測値ベクトルyを抽出し、これらから以下の式(10)に表されるベクトルを得る処理S11を実行しているとする。また、上式(11)及び(12)において、「σw」は観測雑音wの標準偏差であり、値について事前情報を有しており、おおよその値が分かっているとする。同様に「σv」は入力外乱vの標準偏差であり、値について事前情報を有しており、おおよその値が分かっているものとする。
【0075】
上式(12)の「^a」及び「^b」の値を、予測モデルの定数(第1係数a及び第2係数b)に用いる。
【0076】
同定部310は、所定時間(たとえば、10分)ごとに上述の同定処理S1を実行して予測モデルを更新する。これにより、同定部310は、予測対象2の特性の変化に応じた予測モデルを常に提供することができる。なお、所定時間は、予測対象2の特性の変動周期等に応じて任意に設定される。
【0077】
なお、本実施形態では、第1係数a及び第2係数bの長さはともにnであり等しい値である態様を例として説明したが、これに限られることはない。他の実施形態では、第1係数a及び第2係数bの長さは異なっていてもよい。
【0078】
また、予測部311は、同定部310により同定された定数(第1係数a及び第2係数b)と、入力計測値及u及び出力計測値yとからなる予測モデルに基づいて、予測対象2の1ステップ先(時刻t+1)の出力を予測する予測処理S2を実行する。
【0079】
予測部311が予測した予測値「^yt+1」は、予測対象2の制御装置210に送信される。そうすると、制御装置210は、この予測値「^yt+1」に基づいて、予測対象2の出力が適正な値となるように制御、調整する。
【0080】
(実用例)
図2は、本発明の第2の実施形態に係る予測システムの実用例を示す図である。
以下、
図2を参照しながら、本実施形態に係る予測システム1の実用方法の一例について説明する。なお、以下に説明する実用例は、第1の実施形態に適用してもよい。
【0081】
図2に示すように、本実施形態に係る予測システム1は、電力の需給調整を適切に実施するために、発電所Gにより発電される電力の出力変動を予測する態様であるとする。電力の需給調整とは、電力系統L1の周波数を一定に維持することを示す。電力系統L1には、電力を消費する不図示の需要家(工場、一般家庭等)が接続され、これら需要家はそれぞれ必要に応じて電力を消費する。電力系統L1の一般的な性質として、電力の消費(需要)が発電(供給)を超過すると電力系統L1の周波数が低下し、逆に供給が需要を超過すると周波数が増加する。発電所Gは、周波数の変動が一定範囲(たとえば、基準値±0.2Hz)を逸脱しないように、時々刻々と変化する需要に応じて発電量を調整している。しかしながら、発電所Gの調整能力には限度があるため、需給調整を行う場合、将来の周波数変動を予測することは有効である。周波数が増加又は低下することが予め分かっていれば、先回りして発電量を低下又は増加させることができるからである。
【0082】
このような知見をふまえ、本実施形態に係る予測システム1は、発電所Gにおける将来の周波数変動を予測するものである。
【0083】
図2に示すように、予測システム1は、予測装置3と、計測器50とを備えている。
予測装置3は、将来において発電所Gから電力系統L1へ供給される電力の周波数(出力)を予測する。
計測器50は、発電所Gと電力系統L1との接続点に設置され、当該接続点において発電所Gから電力系統L1に供給される有効電力と、当該接続点における電力系統L1の周波数とを計測可能とする。
【0084】
また、発電所には、発電した電力を電力系統L1に供給する複数の電源21、22、23、…が設けられている。電源21、22、23、…はいずれも同一の構成を有しているとする。このため、ここでは、複数の電源のうち電源21の構成を例に説明する。電源21は、制御装置210と、タービン装置211(たとえば、ガスタービン、蒸気タービン等)と、発電機212と、加減弁213とを有している。
【0085】
制御装置210は、コンピュータにより構成され、タービン装置211及び発電機212の運転制御を行う。特に、制御装置210は、発電機212の回転速度(出力の周波数に対応)を常時モニタリングして、当該回転速度が一定に保たれるように、タービン装置211への燃料、又は蒸気の供給量を自動調整する。また、制御装置210は、予測装置3から受信した周波数の予測値「^yt+1」に基づいて、タービン装置211への燃料又は蒸気の供給量を自動調整する。
【0086】
加減弁213は、制御装置210から受信した制御信号に基づいて動作することにより、タービン装置211に供給される燃料、又は蒸気の供給量を変更する。
【0087】
電源21は、電力系統L1に接続されている。電源21と電力系統L1との接続点には、計測器50が設置されている。電源21と電力系統L1との接続点に設置された計測器50は、当該電源21から電力系統L1へと出力される有効電力の計測値、及び、周波数の計測値を取得する。計測器50は、所定の通信網(インターネット回線等)を介して、有効電力及び周波数の計測値を予測装置3に送信する。予測装置3は発電所Gの内部に配置してもよい。さらに、予測装置3は制御装置210の内部に配置してもよい。
【0088】
同様に、他の電源22、23、…と電力系統L1との接続点に設置された計測器50は、当該電源22、23、…の各々から電力系統L1へと出力される有効電力の計測値、及び周波数の計測値を取得し、予測装置3に送信する。ここで、有効電力の計測値及び周波数の計測値は、それぞれ
図1の入力計測値u、出力計測値yに対応する。
【0089】
また、制御装置210が予測装置3から受信した周波数の予測値「^yt+1」に基づいて、タービン装置211への燃料又は蒸気の供給量を自動調整する処理の詳細について説明する。たとえば、制御装置210は、周波数の予測値「^yt+1」を加減弁213の開度に利用する。周波数の基準値に対する偏差Δfに応じて発電所Gが追加的に発生する出力ΔP1は、一般に調停率とよばれる定数δにより、以下の式(13)で関連付けられる。ここで、fnは電力系統L1の基準周波数、Pnは電源21,22,23,…の定格出力である。
【0090】
【0091】
同様に、制御装置210は、回転速度の基準値からの偏差に基づいて、以下の式(14)で算出したΔP2にしたがって、燃料又は蒸気の加減弁213の開度を調整している。ここで、Rnは発電機212の定格回転数である。
【0092】
【0093】
制御装置210は、上述の各式で求めたΔP1、及びΔP2の加重平均に基づいて、加減弁213の開度指令値を計算する。制御装置210は、このように求めた開度指令値を制御信号として加減弁213に送信することにより、タービン装置211への燃料又は蒸気の供給量を調整する。これにより、制御装置210は、電力系統L1の周波数(出力)を適切に維持できるように、電源21,22,23,…の有効電力(入力)を精度よく調整することができる。すなわち、制御装置210は、発電所Gにおける調整能力を向上させることができる。
【0094】
(作用効果)
以上のように、本実施形態に係る予測システム1の予測装置3は、プロセッサ31と、プロセッサ31に接続され、予測対象2の入力の計測値である入力計測値u、及び出力の計測値である出力計測値yを記憶する記録装置30と、を備える。プロセッサ31は、過去に記憶された複数の入力計測値u、及び複数の出力計測値yから、自己回帰移動平均フィルタを用いて入力に対する第1係数aと、出力に対する第2係数bとを同定する同定処理S1と、入力計測値u、出力計測値y、第1係数a、及び第2係数bからなる予測モデルに基づいて、予測対象2の将来における出力を予測する予測処理S2と、を実行する。 第1実施例で述べた移動平均フィルタによる予測は、入力計測値uのみから出力を予測するので、観測不可能な外乱の影響によって出力計測値yが変動した場合であっても、これを予測に使うことが出来ない。したがって、外乱が大きい場合には予測精度が低下する。しかし、一般に自己回帰移動平均フィルタによる予測では、過去の出力計測値yも予測につかうので、観測不可能な外乱の影響によって出力計測値yが変動した場合であっても、その変動を予測に反映できる点は有利である。さらに、第2の実施形態で述べた自己回帰移動平均フィルタによる予測は、事前分布の評価において、第1係数に係るカーネル行列で重み付けした入力外乱の共分散行列と、第2係数に係るカーネル行列で重み付けした観測雑音の共分散行列と、を用いるところに特徴がある。この特徴により、予測対象2の入力計測値uと出力計測値yとを関係付ける第1係数a、及び第2係数bを、観測不可能な入力外乱および出力外乱の影響を考慮に入れつつ決定することができる。これにより、第2の実施例による予測装置3は外乱による予測精度の低下が抑制される。
【0095】
また、予測システム1は、予測装置3と、予測装置3と通信可能に接続され、当該予測装置3から受信した予測対象2の出力の予測値に基づいて、当該予測対象2の入力を調整する制御装置210と、を備える。
このようにすることで、予測システム1は、予測対象2の出力が適切な値となるように、入力を精度よく調整することができる。
【0096】
また、予測対象2は、たとえば、電力系統L1に電力の供給を行う電源21,22,23,…である。制御装置210は、電力系統L1の周波数(出力)の予測値に基づいて、電源21,22,23,…が有するタービン装置211の加減弁213の開度を調整する。
このようにすることで、予測システム1の制御装置210は、電力系統L1の周波数(出力)を適切に維持できるように、電源21,22,23,…の有効電力(入力)を精度よく調整することができる。すなわち、制御装置210は、発電所Gにおける調整能力を向上させることができる。
【0097】
<第3の実施形態>
以下、本発明の第3の実施形態に係る予測装置、及び当該予測装置を具備する予測システムについて、
図1Cを参照しながら説明する。前述した第2の実施形態との差異は、第2の実施形態が自己回帰移動平均フィルタ(ARMAフィルタ)を利用するのに対し、本実施形態では無限インパルス応答フィルタ(IIRフィルタ)を利用するところにある。これは、予測装置3の同定部310にて行う同定処理S1と予測部311にて行う予測処理S2の演算にのみ影響を及ぼすので、それのみを説明する。それ以外の機能と構成は第1の実施形態と同一である。
【0098】
(無限インパルス応答フィルタ(IIRフィルタ)による予測装置の処理)
本実施形態に係る予測装置3の同定部310は、前述の移動平均フィルタ、自己回帰移動平均フィルタ(ARMAフィルタ)に代えて、無限インパルス応答フィルタを用いて同定処理S1を行う。無限インパルス応答フィルタでは、予測対象2の1ステップ先(時刻t+1)における出力「yt+1」を以下の式(15A)で表す。「^yt+1」は「yt+1」の予測値である。この「^yt+1」を求める式は、本実施形態における予測モデルを表している。
【0099】
【0100】
無限インパルス応答フィルタと自己回帰移動平均フィルタとの違いは、内部状態量xの有無にある。自己回帰移動平均フィルタは、入力観測値uと出力の観測値yとに基づいて出力を予測した。これに対し、無限インパルス応答フィルタでは、出力の観測値に代えて、内部状態xを利用する。これにより、無限インパルス応答フィルタは、移動平均フィルタと同様に、入力観測値uのみから出力を予測することが可能となり実装が容易である。さらに、移動平均フィルタとの比較では、無限インパルス応答フィルタは、一般に、移動平均フィルタに比べてフィルタの次数(荷重係数の数n)が小さくて済むので、数値演算の点で有利である。
【0101】
カーネル行列Ka及びKbは、第2の実施形態と同様である。予測モデルの定数[aT,bT]Tの事前分布は、多変量正規分布として式(15B)のように表される。
【0102】
【0103】
式(15B)の多変量正規分布において、共分散行列の(2,2)要素は出力計測値Yの予測値の共分散行列Var(Y)を表している。式(15A)では、Var(Y)=UaKaUa
T+UbKbUb
T+DKa+σw
2Iと記している。これは以下のように導出したものである。観測雑音の時系列{w1,w2,…,wN}を列ベクトルW(N×1)で表し、同様に、入力外乱の時系列{v1,v2,…,vN}を列ベクトルV(N×1)で表すと、Var(Y)=Var((Ua+V)a+Ubb+W)=E(UaaaTUa
T)+E(UbbbTUb
T)+E(VaaTVT)+E((Ua+V)aWT)+E(WaT(Ua+V)T)+E(WWT)である。したがって、Var(Y)=UaKaUa
T+UbKbUb
T+DKa+0+0+σw
2Iとなる。E(VaaTVT)は前記第1係数に係るカーネル行列で重み付けした入力外乱の共分散行列であり、E(VKaVT)またはDKaと記している。この事前分布に加えて、出力計測値yを得たならば、ベイズ推論の意味において、第1係数aと第2係数bの最適推定値は事後分布の平均値として式(15C)のように表される。
【0104】
【0105】
(作用効果)
以上のように、本実施形態に係る予測システム1の予測装置3は、プロセッサ31と、プロセッサ31に接続され、予測対象2の入力の計測値である入力計測値u、及び出力の計測値である出力計測値yを記憶する記録装置30と、を備える。プロセッサ31は、過去に記憶された複数の入力計測値u、及び複数の出力計測値yから、無限インパルス応答フィルタの形式のモデルを用いて入力に対する第1係数aと、出力に対する第2係数bとを同定する同定処理S1と、入力計測値u、出力計測値y、第1係数a、及び第2係数bからなる予測モデルに基づいて、予測対象2の将来における出力を予測する予測処理S2と、を実行する。無限インパルス応答フィルタを利用することにより、移動平均フィルタと同様に、入力観測値uのみから出力を予測することが可能であるから実装が容易である。さらに、移動平均フィルタとの比較では、一般に、無限インパルス応答フィルタは、移動平均フィルタに比べて、フィルタの次数(荷重係数の数n)が小さくて済むから数値演算の点で有利である、などの利点が得られる。
【0106】
<第4の実施形態>
次に、本発明の第4の実施形態に係る予測システム1について、
図3を参照しながら説明する。
第1及び第2の実施形態と共通の構成要素には同一の符号を付して詳細説明を省略する。
本実施形態に係る予測装置3は、予測対象2のmステップ先(時刻t+m)における出力の予測を行う点において、第1~第3の実施形態と異なっている。
【0107】
(予測装置の処理)
図3は、本発明の第4の実施形態に係る予測システムの機能構成を示す図である。
図3に示すように、本実施形態では、予測対象2のmステップ先(時刻t+m)における出力の予測値「^y
m+1」を以下の式(16)で表す。この「^y
t+1」を求める式は、本実施形態における予測モデルを表している。
【0108】
【0109】
上式(16)において、右辺第1項はmステップ先の予測を表している。また、{ut+1,ut+2,…,ut+m-1}は将来の入力である。{^yt+1,^yt+2,…,^yt+m-1}は無限インパルス応答フィルタによる将来の出力の予測値、または自己回帰移動平均フィルタによる将来の出力の予測値であってもよい。上式(16)において、右辺第2項は自己回帰移動平均フィルタによる過去の出力の推定値を表している。また、{ut―n+m,ut―n+m+1,…,ut}は過去の入力値、{yt―n+m,yt―n+m+1,…,yt}は過去の出力の計測値である。
【0110】
予測装置3の予測部311は、予測処理S2において、上式(16)で表される予測モデルに基づいて、予測対象2のmステップ先(時刻t+m)の出力を予測する。なお、mの値は、たとえば予測システム1の運用者が予測対象2に応じて任意の値を設定してもよい。
【0111】
予測部311が予測した予測値「^yt+m」は、予測対象2の制御装置210に送信される。そうすると、制御装置210は、この予測値「^yt+m」に基づいて、予測対象2の出力が適正な値となるように制御(調整)する。
【0112】
(作用効果)
以上のように、本実施形態に係る予測装置3のプロセッサ31(予測部311)は、予測処理S2において、現在から所定時間後(mステップ先)の前記予測対象の出力を予測する。
このようにすることで、予測装置3は、第1の実施形態よりも長時間先における予測対象2の出力を予測することができる。
【0113】
また、予測システム1の制御装置210は、mステップ先の出力の予測値「^yt+m」に基づいて、早い段階から予測対象2の出力を調整することができる。
【0114】
なお、第2の実施形態に係る実用例は、本実施形態にも適用可能である。この場合、予測システム1は、早い段階から電力系統L1の周波数(出力)を適切に維持できるように、電源21,22,23,…の有効電力(入力)を調整することができる。
【0115】
<第5の実施形態>
次に、本発明の第5の実施形態に係る予測システム1について、
図4を参照しながら説明する。
第1~第4の実施形態と共通の構成要素には同一の符号を付して詳細説明を省略する。
本実施形態に係る予測装置3は、複数種類の入力、及び複数種類の出力を持つシステム等を予測対象2として扱う点において、第1~第4の実施形態と異なっている。
【0116】
図4は、本発明の第5の実施形態に係る予測システムの機能構成を示す図である。
図4に示すように、本実施形態に係る予測装置3の記録装置30は、予測対象2から複数種類の入力計測値(入力ベクトル)、及び複数種類の出力計測値(出力ベクトル)を記憶する。
【0117】
また、入力の次数をnu、入力ベクトルを[u1,…,unu]、出力の次数をny、出力ベクトルを[y1,…,yny]、入力外乱を[v1,…,vnu]、その標準偏差を[σv
1,…,σv
nu]、観測雑音を[y1,…,yny]、その共分散行列を[σw
1,…,σw
ny]と記すと、出力の予測式(予測モデル)は係数ベクトルAi,Bi(i=1,2,…,n)により、以下の式(17)のように表される。
【0118】
【0119】
また、本実施形態では、一次安定スプラインカーネルに従いカーネル行列KA、KBを以下の式(18)のように定める。
【0120】
【0121】
さらに、カーネル行列KA及びKBのi行j列要素は、それぞれ以下の式(19)及び(20)で与えられる。
【0122】
【0123】
【0124】
また、次の式(21)で表されるベクトル表現を導入すると、予測モデルの定数[AT,BT]Tと出力Yの事前分布は、式(22)で表される。この事前分布に加えて、出力計測値Yを得たならば、ベイズ推論の意味において、予測モデルの定数[AT,BT]Tの最適推定値は式(23)のように表される。式(22)において、DKAはカーネル行列KAで重み付けした入力外乱の共分散行列であり、DKbはカーネル行列KBで重み付けした入力外乱の共分散行列であり、本実施例で特徴とするものである。DKAとDKBの計算は、第1の実施形態と同様である。なお、明細書中における「^A」、「^B」との表記は、本実施形態において説明する図、式中において「A」、「B」にハット記号「^」が付された表記に対応する。
【0125】
【0126】
【0127】
【0128】
上式(23)において、「^A」はサイズn×nuの行列であり、「^B」はサイズn×nyの行列である。これら「^A」及び「^B」の値を、予測モデルの定数(第1係数A及び第2係数B)に用いる。また、予測モデルのAi,Bj(i=1,2,…,n)は、それぞれ、A、Bのi行ベクトルである。
【0129】
同定部310は、所定時間ごとに上述の同定処理S1を実行して予測モデルを更新する。これにより、同定部310は、予測対象2の特性の変化に応じた予測モデルを常に提供することができる。なお、所定時間は、予測対象2の特性の変動周期等に応じて任意に設定される。
【0130】
なお、本実施形態では、第1係数A及び第2係数Bの行数はともにnであり等しい値である例が示されているが、これに限られることはない。他の実施形態では、第1係数A及び第2係数Bの行数は異なっていてもよい。
【0131】
また、予測部311は、同定部310により同定された定数(第1係数A及び第2係数B)と、入力計測値及u(入力ベクトル)及び出力計測値y(出力ベクトル)とからなる予測モデルに基づいて、予測対象2の1ステップ先(時刻t+1)の複数種類(ny種類)の出力それぞれの値を予測する予測処理S2を実行する。
【0132】
予測部311が予測した予測値[^y;1,…,^y;ny]t+1は、予測対象2の制御装置210に送信される。そうすると、制御装置210は、この予測値[^y;1,…,^y;ny]t+1に基づいて、予測対象2の各出力値が適正な値となるように制御、調整する。
【0133】
なお、本実施形態では、予測部311が1ステップ先(時刻t+1)の出力を予測する態様を例として説明したが、これに限られることはない。予測部311は、第2の実施形態と同様に、mステップ先(時刻t+m)の出力を予測するようにしてもよい。
【0134】
(作用効果)
以上のように、本実施形態に係る予測装置3の記録装置30は、予測対象2の複数種類の入力計測値u、及び複数種類の出力計測値yを記憶し、プロセッサ31(同定部310)は、同定処理S1において、複数種類の入力それぞれに対する複数の第1係数Aと、複数種類の出力それぞれに対する複数の第2係数Bと、を同定する。
このようにすることで、予測装置3は、予測対象2が複数の入力及び複数種類の出力を持つシステム等であった場合でも、この予測対象2の複数種類の出力それぞれを予測することができる。
【0135】
なお、第2の実施形態に係る実用例は、本実施形態にも適用可能である。この場合、予測装置3は、入力計測値として、計測器50から受信した有効電力の計測値に加え、他の計測値(たとえば、発電機212の発電量等)を利用してもよい。さらに、他の発電所から受信した有効電力の計測値や、太陽光や風力などの自然エネルギーによる発電を支配する日射や風力などを利用しても良い。同様に、予測装置3は、出力計測値として、計測器50から受信した周波数の計測値に加え、他の計測値(たとえば、発電機212の回転速度等)を利用してもよい。さらに、他の発電所から受信した周波数や発電機の回転速度を利用しても良い。
【0136】
<ハードウェア構成>
図5は、本発明の少なくとも一実施形態に係る予測装置、及び制御装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
図5に示すように、コンピュータ900は、プロセッサ901、メインメモリ902、ストレージ903、インタフェース904を備える。
【0137】
上述の予測装置3及び制御装置210は、それぞれコンピュータ900に実装される。そして、上述した各処理部の動作は、プログラムの形式でストレージ903に記憶されている。プロセッサ901は、プログラムをストレージ903から読み出してメインメモリ902に展開し、当該プログラムに従って上記処理を実行する。また、プロセッサ901は、プログラムに従って、上述した各記憶部に対応する記憶領域をメインメモリ902に確保する。
【0138】
プログラムは、コンピュータ900に発揮させる機能の一部を実現するためのものであってもよい。たとえば、プログラムは、ストレージ903に既に記憶されている他のプログラムとの組み合わせ、または他の装置に実装された他のプログラムとの組み合わせによって機能を発揮させるものであってもよい。なお、他の実施形態においては、コンピュータ900は、上記構成に加えて、または上記構成に代えてPLD(Programmable Logic Device)などのカスタムLSI(Large Scale Integrated Circuit)を備えてもよい。PLDの例としては、PAL(Programmable Array Logic)、GAL(Generic Array Logic)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)、FPGA(Field Programmable Gate Array)が挙げられる。この場合、プロセッサ901によって実現される機能の一部または全部が当該集積回路によって実現されてよい。
【0139】
ストレージ903の例としては、磁気ディスク、光磁気ディスク、光ディスク、半導体メモリ等が挙げられる。ストレージ903は、コンピュータ900のバスに直接接続された内部メディアであってもよいし、インタフェース904または通信回線を介してコンピュータ900に接続される外部メディア910であってもよい。また、このプログラムが通信回線によってコンピュータ900に配信される場合、配信を受けたコンピュータ900が当該プログラムをメインメモリ902に展開し、上記処理を実行してもよい。少なくとも1つの実施形態において、ストレージ903は、一時的でない有形の記憶媒体である。
【0140】
また、当該プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。さらに、当該プログラムは、前述した機能をストレージ903に既に記憶されている他のプログラムとの組み合わせで実現するもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。
【0141】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明の技術的思想を逸脱しない限り、これらに限定されることはなく、多少の設計変更等も可能である。
【符号の説明】
【0142】
1 予測システム
2 予測対象
21,22,23 電源
210 制御装置
211 タービン装置
212 発電機
213 加減弁
3 予測装置
30 記録装置
31 プロセッサ
310 同定部
311 予測部
50 計測器