(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-23
(45)【発行日】2024-05-02
(54)【発明の名称】装着式動作補助装置
(51)【国際特許分類】
B25J 11/00 20060101AFI20240424BHJP
A61F 2/72 20060101ALI20240424BHJP
A61H 1/02 20060101ALI20240424BHJP
A61H 3/00 20060101ALI20240424BHJP
【FI】
B25J11/00 Z
A61F2/72
A61H1/02 N
A61H3/00 B
(21)【出願番号】P 2020086044
(22)【出願日】2020-05-15
【審査請求日】2023-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】506310865
【氏名又は名称】CYBERDYNE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原 大雅
【審査官】尾形 元
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-221139(JP,A)
【文献】特開2018-121942(JP,A)
【文献】特開2013-173190(JP,A)
【文献】特開2015-188740(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00-21/02
A61F 2/00
A61F 2/02- 2/80
A61F 3/00- 4/00
A61H 1/00- 5/00
A61H 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
装着者の腰部の動作をアシストする装着式動作補助装置において、
前記装着者の左右の股関節の側方にそれぞれ配置され、アクチュエータを収納する第1および第2の筐体部が当該アクチュエータの駆動に応じて相対的に回転駆動するように駆動トルクを発生する駆動ユニットと、
前記装着者の腰部の正面に装着され、左右両側でそれぞれ前記駆動ユニットの前記第1の筐体部に結合される腰フレームと、
左右の前記駆動ユニットの前記第2の筐体部にそれぞれ結合され、前記装着者の左右の大腿部の前側に当接させるための大腿カフをそれぞれ有する大腿フレームと、
前記腰フレームにおける左右の前記第1の筐体部にそれぞれ固定され、前記装着者の腰部を中心とする衣服への巻回留め具または当該衣服自体に対して着脱自在に固定保持する固定保持具と、
左右の前記駆動ユニットにそれぞれ設けられ、前記第1および第2の筐体部の間の回動角度を前記装着者の左右の股関節角度として検出する股関節角度計測部と、
前記装着者の左腿および右腿の動きに伴う大腿直筋および大殿筋の生体信号と、当該装着者の背中の広背筋の生体信号とを検出する生体信号検出部と、
前記股関節角度計測部による前記装着者の左右の前記股関節角度と、前記生体信号検出部から出力された生体信号とに基づいて、当該装着者の動作および姿勢を判定し、当該判定の結果に応じた駆動トルクを前記駆動ユニットの前記アクチュエータに発生させる制御部と
を備え
、前記駆動ユニットの前記第2の筐体部と前記大腿フレームとの結合部位は、前記アクチュエータの出力軸に対して垂直方向に沿った回動軸を有し、
前記第2の筐体部および前記大腿フレームは、前記回動軸を中心として回動自在に結合されている
ことを特徴とする装着式動作補助装置。
【請求項2】
左右の前記駆動ユニットのいずれか一方または両方における前記第1の筐体部に結合され、着脱自在に収納可能なバッテリを含む電源ユニットをさらに備え、
前記電源ユニットは、前記装着者の背面側に向けて突出するように前記第1の筐体部の結合部位に結合されるとともに、
前記電源ユニットへの前記バッテリの収納時に、前記第1の筐体部の内部空間を通じて当該バッテリと前記駆動ユニットとが電気的に接続される
ことを特徴とする請求項
1に記載の装着式動作補助装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、装着式動作補助装置に関し、装着者の腰部に装着して重筋作業の動作をアシストする装着式動作補助装置に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
近年、筋力が失われた身体障害者や筋力が衰えた高齢者等の動作を補助あるいは代行したり、身体障害者や高齢者ではなくても、日常生活での作業や労働中の作業において動作を補助したりするための種々のパワーアシスト装置が普及している。
【0003】
これらのパワーアシスト装置として、例えば、装着者の意図に応じた随意的な筋活動に伴う生体電位を基に、運動を制御および補助することが可能な装着式動作補助装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-173190号公報
【文献】特開2014-198655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述の特許文献1および2における装着式動作補助装置は、装着者の腰部に背面側から装着され、装着者が屈んだ状態(中腰姿勢)から立ち上がる際に、腰部に対する大腿部の動きを補助するものである。
【0006】
このような装着者の背面側から腰部に装着するタイプの装着式動作補助装置では、装着者が椅子に着座したり、自動車に搭乗したりする場合に、当該装着式動作補助装置自体が障害となって背もたれにもたれることが困難になる問題がある。
【0007】
また、このような装着式動作補助装置は、体幹ベルトを腰部に巻回するタイプのものが一般的であり、さらにリュックのような肩掛けベルトを掛けるタイプのものもある。このため装着者が数キロ程度の重量を有する装着式動作補助装置を保持しながらベルトを腰部に巻回するのは手間がかかるといった問題がある。
【0008】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、装着時の利便性を図るとともに着座時の快適性を向上させることが可能な装着式動作補助装置を提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる課題を解決するために本発明においては、装着者の腰部の動作をアシストする装着式動作補助装置において、装着者の左右の股関節の側方にそれぞれ配置され、アクチュエータを収納する第1および第2の筐体部が当該アクチュエータの駆動に応じて相対的に回転駆動するように駆動トルクを発生する駆動ユニットと、装着者の腰部の正面に装着され、左右両側でそれぞれ駆動ユニットの第1の筐体部に結合される腰フレームと、左右の駆動ユニットの第2の筐体部にそれぞれ結合され、装着者の左右の大腿部の前側に当接させるための大腿カフをそれぞれ有する大腿フレームと、腰フレームにおける左右の第1の筐体部にそれぞれ固定され、装着者の腰部を中心とする衣服への巻回留め具または当該衣服自体に対して着脱自在に固定保持する固定保持具と、左右の駆動ユニットにそれぞれ設けられ、第1および第2の筐体部の間の回動角度を装着者の左右の股関節角度として検出する股関節角度計測部と、装着者の左腿および右腿の動きに伴う大腿直筋および大殿筋の生体信号と、当該装着者の背中の広背筋の生体信号とを検出する生体信号検出部と、股関節角度計測部による装着者の左右の股関節角度と、生体信号検出部から出力された生体信号とに基づいて、当該装着者の動作および姿勢を判定し、当該判定の結果に応じた駆動トルクを駆動ユニットのアクチュエータに発生させる制御部とを備えるようにした。
【0010】
この結果、装着式動作補助装置では、装着者が装置全体を保持したまま腰部の正面側から、固定保持具を装着者自身の巻回留め具または衣服自体に固定保持するだけで装着を完了させることができる。このため従来のような腰部に体幹ベルトを巻回する手間を回避することができる分、装着時の利便性を図るとともに、装着者の腰部の正面に腰フレームを配置した点で着座時の快適性を向上させることが可能となる。
【0011】
また本発明においては、駆動ユニットの第2の筐体部と大腿フレームとの結合部位は、アクチュエータの出力軸に対して垂直方向に沿った回動軸を有し、第2の筐体部および大腿フレームは、回動軸を中心として回動自在に結合されているようにした。この結果、装着式動作補助装置では、装着者の大腿部の動作時に大腿カフの角度が変化することにより、当該大腿カフによる大腿部への局所荷重を低減させることができる。
【0012】
さらに本発明においては、左右の前記駆動ユニットのいずれか一方または両方における第1の筐体部に結合され、着脱自在に収納可能なバッテリを含む電源ユニットをさらに備え、電源ユニットは、装着者の背面側に向けて突出するように第1の筐体部の結合部位に結合されるとともに、電源ユニットへのバッテリの収納時に、第1の筐体部の内部空間を通じて当該バッテリと駆動ユニットとが電気的に接続されるようにした。
【0013】
この結果、装着式動作補助装置では、比較的サイズが大きいバッテリを駆動ユニットのいずれか一方または両方に取り付けた際、装着者の動作時に腕がバッテリに触れたり、装着者の着座時に椅子の背もたれにバッテリが挟まれたりするなどの煩雑さを回避することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、装着時の利便性を図るとともに着座時の快適性を向上させることが可能な装着式動作補助装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態に係る装着式動作補助装置の外観構成(正面斜視図および背面斜視図)を示す斜視図である。
【
図2】
図1に示す装着式動作補助装置の駆動ユニットの構成を示す分解図である。
【
図3】駆動ユニットの内部構成を示す分解斜視図である。
【
図4】装着式動作補助装置を装着した装着者の立位状態を示す斜視図、側面図および正面図である。
【
図5】装着式動作補助装置の関節可動範囲を示す側面図である。
【
図6】装着式動作補助装置の開脚可動範囲を示す側面図である。
【
図7】駆動ユニットの内部システムの構成を示すブロック図である。
【
図8】装着式動作補助装置を装着した装着者の動作の説明に供する斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下図面について、本発明の一実施の形態を詳述する。
【0017】
(1)本実施の形態による装着式動作補助装置の構成
図1(A)および(B)は、本実施の形態による装着式動作補助装置1を示す。装着式動作補助装置1は、装着者の作業や動作を支援(アシスト)する装置であり、脳からの信号により筋力を発生させる際に生じる生体信号(表面筋電位)や当該装着者の股関節の動作角度を検出し、この検出信号に基づいて駆動機構(アクチュエータ)からの駆動力を付与するように作動する。
【0018】
装着式動作補助装置1では、装着者の左右の股関節の側方にそれぞれ駆動ユニット2、3が配置されている。駆動ユニット2、3は、後述するように筐体構造が部分的に異なることを除いて、同一の内部構造を有する。
【0019】
左側の駆動ユニット2は、アクチュエータ10(
図3)を収納する第1および第2の筐体部2A、2Bが当該アクチュエータ10の駆動に応じて相対的に回転駆動するように駆動トルクを発生する。同様に右側の駆動ユニット3は、アクチュエータ10を収納する第1および第2の筐体部3A、3Bが当該アクチュエータ10の駆動に応じて相対的に回転駆動するように駆動トルクを発生する。
【0020】
また装着式動作補助装置1には、左右両側でそれぞれ駆動ユニット2、3の第1の筐体部2A、3Aに結合され、装着者の腰の正面側に左右にわたって腰フレーム4が装着されるようになされている。この腰フレーム4は、例えば、CFRP(carbon-fiber-reinforced plastic:炭素繊維強化プラスチック)製の中空部材であり、人体の腰部の背面および両側面の形状に合わせてラウンドした形状を有する。
【0021】
左右の駆動ユニット2、3は、第2の筐体部2B、3Bにそれぞれ大腿フレーム5、6が特定方向に回動自在に結合されており、当該大腿フレーム5、6は、装着者の左右の大腿部の前側に当接させるための大腿カフ5C、6Cをそれぞれ有する。
【0022】
さらに右側の駆動ユニット3には、着脱自在に収納可能なバッテリ7を含む電源ユニット8が第1の筐体部3Aに結合され、当該電源ユニット8へのバッテリ7の収納時に、第1の筐体部3Aの内部空間を通じて当該バッテリ7と駆動ユニット3とが電気的に接続されるようになされている。
【0023】
この電源ユニット8は、装着者の背面側に向けて突出するように第1の筐体部3Aの結合部位に結合されており、装着者の動作時に腕が電源ユニット8に触れたり、装着者の着座時に椅子の背もたれに電源ユニット8が挟まれたりするなどの煩雑さを回避し得るようになされている。
【0024】
さらに装着式動作補助装置1では、腰フレーム4における左右の第1の筐体部2A、3Aにそれぞれ固定保持具9が固定され、装着者の腰部を中心とする衣服への体幹ベルト(巻回留め具)BTに対して着脱自在に固定保持するようになされている。この
図1(A)および(B)では、装着式動作補助装置1とは別体の体幹ベルトTBを図示し、固定保持具9との係合した状態を表している。この体幹ベルトTBは、装着者が一般的に身に着けるための服飾帯胴用のベルトでもよい。
【0025】
この結果、装着式動作補助装置1では、装着者が装置全体を保持したまま腰部の正面側から固定保持具9を、装着者が装着する体幹ベルトTBに固定保持するだけで装着を完了させることができる。
【0026】
また
図1には図示しないが、左右の駆動ユニット2、3からはそれぞれ生体信号検出センサ(生体信号検出部)15(
図7)の配線が引き出されている。生体信号検出センサ15は、装着者の左腿および右腿の動きに伴う大腿直筋および大殿筋の生体信号と、当該装着者の背中の広背筋の生体信号とを検出する検出部である。
【0027】
具体的に生体信号検出センサ15は、駆動ユニット2、3から伸延する配線の先端に3つの電極が接続されて構成され、装着者の腰部の背面に貼り付けられることによって、装着者が体幹の筋肉を動かす際に発生する生体信号を検出する。
【0028】
生体信号検出センサ15で検出された生体信号は、駆動ユニット2、3の制御装置20(後述する
図3)に入力される。なお、生体信号検出センサ15は、テープ等を用いて装着者の背中に貼り付けてもよいし、ゲル等を用いて貼り付けてもよい。3つの電極のうちの1つは、基準信号を測定するために用いられ、残りの2つの電極は、生体電位信号を測定するために用いられる。
【0029】
さらに左右の駆動ユニット2、3には、第1の筐体部2A、3Aおよび第2の筐体部2B、3Bの間の回動角度を装着者の左右の股関節角度として検出する動作・姿勢センサ(股関節角度計測部)25(後述する
図7)がそれぞれ設けられている。
【0030】
なお、
図1(A)および(B)との対応部分に同一符号を付した
図2(A)~(D)において、装着式動作補助装置1の正面図、上面図および左右の側面図を示す。この
図2(A)および(B)に示すように、腰フレーム4の中央部には、外部との通信端末やサーバ装置等との無線ネットワーク通信(無線LANや近距離無線通信等)が可能な通信装置30が内蔵されている。通信装置30においては、内蔵アンテナの位置関係が所定配置に設定され、実用上十分な電波強度を確保し得るようになされている。
【0031】
ここで
図3に駆動ユニット2、3の内部構成を示す。駆動ユニット2、3は、アクチュエータ10の固定子側および回転子側がそれぞれ収納され、当該アクチュエータ10の駆動に応じて双方分かれて回転するように係合された第1の筐体部2A、3Aおよび第2の筐体部2B、3Bを有する。
【0032】
上述した
図1(A)および(B)に示すように、駆動ユニット2、3の第1の筐体部2A、3Aには腰フレーム4が結合されている。さらに右側の駆動ユニット3の第1の筐体部3Aには、腰フレーム4のみならず電源ユニット8も結合されている。また駆動ユニット2、3の第2の筐体部2B、3Bには、大腿フレーム5、6が特定方向に回動自在に結合されている。
【0033】
この駆動ユニット2、3は、例えばブラシレスDCモータからなる扁平形のアクチュエータ10と、当該アクチュエータ10を駆動制御する制御装置20と、当該アクチュエータ10の回転子の回転速度を所定の減速比に変換して出力する減速機35と、タッチセンサ36Aを含む扁平形の操作部36とを有する。
【0034】
駆動ユニット2、3は、第1の筐体部2A、3Aまたは第2の筐体部2B、3Bのいずれか一方に、減速機35の本体および制御装置20が略同一平面状に収納され、当該減速機35の本体にアクチュエータ10を挟んで操作部36が固定されるとともに、第1の筐体部2A、3Aまたは第2の筐体部2B、3Bのいずれか他方に、減速機35の出力軸が固定されている。
【0035】
制御装置20は、動作・姿勢センサ25による装着者の左右の股関節角度と、生体信号検出センサ15から出力された生体信号とに基づいて、当該装着者の動作および姿勢を判定し、当該判定の結果に応じた駆動トルクを駆動ユニット2、3のアクチュエータ10に発生させる。
【0036】
実際に装着者が腰部の正面側から装着式動作補助装置1を装着した状態を
図4(A)~(C)に示す。この装着式動作補助装置1を装着した装着者は、自らの意思で比較的重い対象物を持ち上げて運搬動作を行う場合、その際に発生した広背筋または大殿筋(大臀筋)の生体信号や当該装着者の股関節の動作角度に応じた駆動トルクがアシスト力として装着式動作補助装置1から付与される。従って、装着者は、自身の筋力と駆動機構(アクチュエータ10)からの駆動トルクとの合力によって対象物を持ち上げて運搬することができる。
【0037】
また装着式動作補助装置1は、対象物を持ち上げて歩行する運搬作業以外にも、例えば、装着者が荷物を持ったまま階段を上り下りするといった昇降作業も補助することができる。
【0038】
本実施の形態における装着式動作補助装置1は、左右の駆動ユニット2、3の第2の筐体部2B、3Bと対応する各大腿フレーム5、6との結合部位は、アクチュエータ10の出力軸に対して垂直方向に沿った回動軸を有し、第2の筐体部2B、3Bおよび大腿フレーム5、6は、回動軸を中心として回動自在に結合されている。
【0039】
図5(A)の状態を基準として
図5(B)に示すように、装着式動作補助装置1は、大腿フレーム5、6がアクチュエータ10の出力軸を回動中心として回転角度が最大120度程度まで(最大屈曲時)回動し得るように構成されている。人間の大腿部の関節動作範囲としては、0~120度が必要とされるためである。なお、装着式動作補助装置1の側面図である
図5(A)および(B)に対して、同一状態の装着式動作補助装置1の正面図を
図6(A)および(B)に示す。
【0040】
この
図6(A)および(B)に示すように、装着者の大腿部の開脚可能範囲(屈曲に伴う開脚状態の変移)が駆動ユニット2、3の第2の筐体部2B、3Bと大腿フレーム5、6との結合部位である回動軸の軸方向により定まるようになされ、装着者の大腿部の屈曲度合いに伴い開脚度合いが広がるようになされている。
【0041】
したがって、装着式動作補助装置1では、装着者の大腿部の動作時に大腿カフ5C、6Cの角度が変化することにより、当該大腿カフ5C、6Cによる大腿部への局所荷重を低減させることができる。特に装着者の大腿部の屈曲角度が最大のとき大腿カフ5C、6Cによる大腿部への局所荷重が最小となる。
【0042】
このように装着式動作補助装置1は、装着者の腰部に正面側から装着された状態において、装着者が屈んだ状態(中腰姿勢)から立ち上がる際に、腰部に対する大腿部の動きを補助するように補助力(アシスト力)を発生する装置である。このような装着者の動作は、例えば、中腰姿勢から立ち上がる動作、中腰姿勢から対象物を持ち上げる動作、移乗介助時の動作等である。
【0043】
(2)駆動ユニットにおける内部システムの構成
図7は駆動ユニット2、3の内部システム構成を示すブロック図である。
図7に示されるように、駆動ユニット2、3の制御装置20は、例えば、メモリを有するCPU(Central Processing Unit)チップで構成され、随意的制御部40、自律的制御部41、フェーズ特定部42およびゲイン制御部43から構成されると統括制御部50と、電源ユニット8に対する電力制御用の電力増幅部51と、アクチュエータ10に対する駆動制御用のアクチュエータドライバ52と、基準パラメータデータベース53および指令信号データベース54から構成されるデータ格納部55とを有する。
【0044】
装着者に対してアシスト力を付与する駆動ユニット2、3において、アクチュエータドライバ52には、装着者の関節の回動に伴う第1の筐体部2A、3Aおよび第2の筐体部2B、3Bの回動角度を検出する角度センサからなる動作・姿勢センサ25(
図1では図示せず)が設けられている。また装着者の生体電位等を含む信号(生体信号)を検出する生体信号検出センサ15(
図1では図示せず)も設けられている。
【0045】
統括制御部50において、随意的制御部40は、生体信号検出センサ15により検出された検出信号(生体信号)に応じた指令信号(随意制御の制御信号)を電力増幅部51に供給する。随意的制御部40は、生体信号検出センサ15に所定の指令関数f(t)またはゲインPを適用して指令信号を生成する。このゲインPは予め設定された値又は関数でも良く、操作部36の操作内容に応じてゲイン制御部43を介して調整することができる。
【0046】
また、駆動ユニット2、3は、制御装置20に設けられた動作・姿勢センサ25により検出された角度データに基づいて、アクチュエータ10の駆動トルク(トルクの大きさ及び回動角度)を制御する方法を選択することも可能である。装着者の皮膚が汗で濡れることが予想される場合など、生体信号検出センサ15からの生体信号の入力が得られないときに有効である。
【0047】
データ格納部55は、各データを格納するメモリを有し、起立動作、歩行動作や着席動作など各動作パターン(タスク)毎に設定されたフェーズ単位の制御データが予め格納されたデータベース格納領域と、各アクチュエータ10を制御するための制御プログラムが格納された制御プログラム格納領域などが設けられている。データベース格納領域には、基準パラメータデータベース53と指令信号データベース54が格納されている。
【0048】
この動作・姿勢センサ25によって検出された関節角度(θ)によって検出された角度データは、基準パラメータデータベース53に入力される。フェーズ特定部42では、動作・姿勢センサ25により検出された関節の回動角度を基準パラメータデータベース53に格納された基準パラメータの関節角度と荷重と比較することにより、装着者の動作のフェーズを特定する。
【0049】
そして、自律的制御部41では、フェーズ特定部42により特定されたフェーズの制御データを得ると、このフェーズの制御データに応じた指令信号(自律制御の制御信号)を生成し、この動力を駆動ユニット2、3のアクチュエータ10に発生させるための指令信号を電力増幅部51に供給する。
【0050】
また、自律的制御部41は、前述したゲイン制御部43により調整されたゲインが入力されており、このゲインに応じた指令信号を生成し、電力制御部51に出力する。電力制御部51は、駆動ユニット2、3のアクチュエータ10を駆動する電流を制御して駆動トルクの大きさおよび回動角度を制御して当該装着者の関節に駆動ユニット2、3のアクチュエータ10による駆動力をアシスト力として付与する。
【0051】
このように、駆動ユニット2、3は、装着者の関節を基準に貼り付けられた生体信号検出センサ15によって検出された検出信号に基づいて、駆動ユニット2、3を制御する制御信号が電力制御部51によって増幅されてアクチュエータ10に供給され、装着者の関節にアクチュエータ10の駆動力がアシスト力として伝達される。
【0052】
また駆動ユニット2、3の制御装置20は、データ格納部55に格納された基準パラメータに基づいて、装着者のタスクおよびフェーズを推定し、当該フェーズに応じた動力を発生させるように、アクチュエータ10に対する駆動制御を調整するとともに、動作・姿勢センサ25による絶対角度、回動角度、角速度および角加速度とアクチュエータドライバ52から得られる駆動トルクとに基づいて、装置全体および装着者からなる系全体の制御対象の機械的インピーダンス(慣性、粘性、剛性)を、当該装着者の粘弾性特性および当該系全体の制御対象の重力に合わせて補償するようにしてもよい。
【0053】
なお、上述した系全体の制御対象の機械的インピーダンスについて、装着者の粘弾性特性に合わせた補償方法については、本願発明者による公開特許(特再公表2018ー92325号)に詳述されており、当該系全体の制御対象の重力に合わせた補償方法については、本願発明者による登録特許(特許第4178187号)に詳述されている。
【0054】
さらに
図7には図示しないが、駆動ユニット2、3の制御装置20において、データ格納部55に格納されている各種データは、統括制御部50の制御の下、上述した
図2(A)および(B)に示す通信装置30から外部の通信端末やサーバ装置に無線ネットワーク通信し得るようになされている。受信した通信端末やサーバ装置は、装着式動作補助装置1から得られる各種データを保管し管理する。
【0055】
(3)装着式動作補助装置における制御システムの構成
本実施の形態における装着式動作補助装置1では、上述した駆動ユニット2、3は、腰フレーム4の左右にそれぞれ第1の筐体部2A、3Aを介して連結されるとともに、左右の大腿フレーム4にそれぞれ第2の筐体部2B、3Bを介して連結され、第1の筐体部2A、3Aおよび第2の筐体部2B、3Bをそれぞれ相対的に回転駆動するように駆動トルクを発生して、腰フレーム4および大腿フレーム5、6を駆動する。
【0056】
上述した動作・姿勢センサ25は、股関節角度計測部として、腰フレーム4の左右両側と大腿フレーム5、6との間の回動角度をそれぞれ装着者の左右の股関節角度として検出する。すなわち、動作・姿勢センサ25は、装着者の左右の股関節における屈曲伸展時の動作角度をそれぞれ当該装着者の左右の股関節角度として継続的に計測する。
【0057】
制御装置20は、動作・姿勢センサ25による装着者の左右の股関節角度に基づいて、当該装着者の動作および姿勢を判定し、当該判定の結果に応じた駆動トルクをアクチュエータ10に発生させる。
【0058】
ここで左右の駆動ユニット2、3には、それぞれ制御装置20が内蔵されているが、装着者の腰部に対する両方の大腿部の動作の同期をとるべく、いずれか一方の駆動ユニット2、3の制御装置20が主制御部としてマスタ的役割を果たすように設定されている。
【0059】
左右の駆動ユニット2、3は、装着者が対象物を持ち上げる際は、腰フレーム4に同時に駆動トルクを伝達して当該腰フレーム4を装着者の背中側に駆動する一方、装着者の歩行および階段の昇降時には、大腿フレーム5、6に駆動トルクを伝達して左右の大腿フレーム5、6を交互に前後方向に駆動するようになされている。
【0060】
また左右の駆動ユニット2、3のいずれか一方または両方には、構成要素として、マイナスボタン、プラスボタンおよび電源ボタンのボタン群の役割をタッチセンサとして果たす操作部36が接続されている。さらに左右の駆動ユニット2、3には、それぞれ対応するアクチュエータ10の回転動作に対して制動力を発生させるブレーキ機構(図示せず)が接続されている。
【0061】
駆動ユニット2、3において、制御装置20は、操作部36の電源ボタンが押下されると電源オン状態にし、マイナスボタン、プラスボタンおよび電源ボタンを点灯させるとともに、ブレーキ機構をオン状態にして、大腿フレーム5、6が動かされると抵抗力を発生させる。
【0062】
そして、制御装置20は、生体信号検出センサ15によって検出された生体信号が入力されると、操作部36のマイナスボタンまたはプラスボタンによって入力されるアクチュエータ10の駆動レベルに応じた駆動力をアクチュエータ10に発生させる。マイナスボタンまたはプラスボタンは、制御装置20のトルクチューナを制御するためのボタンであり、トルクチューナは、アシスト力を複数段階に設定することができる。
【0063】
例えば、アシスト力を5段階に設定されている場合において、トルクチューナを「1」に設定した場合には、20%のアシストトルクを上限とし、最大3Nmのアシストが受けられ、トルクチューナを「5」に設定した場合には、100%のアシストトルクを上限とし、最大15Nmのアシストが受けられる。また、トルクの上限を設定するためのトルクリミッタを設けてもよい。
【0064】
この際に、制御装置20は、生体信号検出センサ15から入力される生体信号の信号レベルに応じて、駆動力を制御する。アシストを行うために本装置にはサイバニック随意制御(CVC:Cybernic Voluntary Control)モードが搭載されている。
【0065】
CVCモードのとき駆動ユニット2、3の制御装置20において、以下(1)~(3)の順序でアシストトルクを決定する。(1)腰部の生体電位信号から基準アシストトルクを計算する。(2)トルクチューナの値に基づき基準アシストトルクを増幅する。(3)姿勢や動作内容に応じてアシストトルクを調整する。
【0066】
また、制御装置20は、アクチュエータ10の回転動作時に、腰フレーム4と大腿フレーム5、6とから入力される装着者の反力を検出し、反力が所定レベル以下になると、ブレーキ機構の抵抗力を増大させて、アクチュエータ10の動作を停止させる。反力が所定レベル以下になる状態は、例えば、大腿フレーム5、6の大腿カフ5C、6Cが外れた状態で安全性を確保すべく動作を停止させる必要があるためである。
【0067】
実施の形態の装着式動作補助装置1によれば、装着者が屈んだ状態から立ち上がる際に、腰部に対する大腿部の動きを補助するように補助力を発生することができる。
【0068】
このような補助力は、生体信号検出センサ15によって検出される、装着者が体幹を起こそうとする際の筋活動あるいは体幹の角度を維持しようとする際の筋活動に伴う生体信号に基づいてアクチュエータ10が駆動されることによって発生される。
【0069】
従って、装着者の意志に応じて必要な補助力を必要な方向に提供できる、利便性の高い装着式動作補助装置1を提供することができる。また、装着者が自ら発生すべき動力(筋力)を可及的に抑えることができ、かつ、装着者の利便性を損なう事態を抑えることのできる装着式動作補助装置1を提供することができる。
【0070】
なお、左右の駆動ユニット2、3の少なくともいずれか一方が、装着者の左右大腿の生体信号の信号レベルが左右均等でないと判断した場合は、装着者が歩行中であると判定する一方、当該信号レベルが左右均等であると判断した場合は、装着者が停止状態にあると判定するようになされている。
【0071】
また、制御装置20は、装着者が停止状態にあると判定した状態において、左右の股関節角度が共に所定の規定角度より大きいと判断した場合は、当該装着者が歩行中であると判定する一方、当該規定角度以下であると判断した場合、当該装着者が上体を前方に低くした姿勢であると判定するようになされている。
【0072】
(4)本実施の形態による装着式動作補助装置の動作および効果
以上の構成において、装着式動作補助装置1では、装着者が装置全体を保持したまま腰部の正面側から、固定保持具9を装着者自身の巻回留め具または衣服自体に固定保持するだけで装着を完了させることができる。
【0073】
このため従来のような腰部に体幹ベルトを巻回する手間を回避することができる分、装着時の利便性を図ることが可能となる。
【0074】
また装着式動作補助装置1では、腰フレーム4が装着者の正面側に装着されるようにして、装着者の両側を除く背面側には何も装着しないようにしたことにより、装着者の腰部の正面に腰フレーム4を配置した点で着座時の快適性を向上させることが可能となる。
【0075】
(5)他の実施の形態
なお本実施の形態においては、装着式動作補助装置1として、腰フレーム4に固定された固定保持具9を体幹ベルトを用いて当該腰フレーム4を装着者の腰部の正面に装着し、装着者の腰部の動作をアシストする構成のものを適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、固定保持具9は、装着者が装着する体幹ベルト以外にも、装着者の腰部を中心とする衣服への巻回留め具(体幹ベルト、ガードル、ウエストバンド等)または当該衣服自体に対して着脱自在に固定保持するようにしてもよい。要は、腰フレーム4を装着者の腰の正面に保持することができれば、固定保持具9が固定保持される部位は自由に設定するようにしてもよい。
【0076】
また本実施の形態においては、装着式動作補助装置1の右側の駆動ユニット3に固定保持される電源ユニット8は、装着者の背面側に向けて突出するように第1の筐体部3Aの結合部位に結合するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、要は、装着者の動作時に腕が電源ユニット8に触れたり、装着者の着座時に椅子の背もたれに電源ユニット8が挟まれたりするなどの煩雑さを回避することができれば、電源ユニット8を装着式動作補助装置1における所望の部位に結合させるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0077】
1…装着式動作補助装置、2、3…駆動ユニット、2A、3A…第1の筐体部、2B、3B…第2の筐体部、4…腰フレーム、5、6…大腿フレーム、5C、6C…大腿カフ、7…バッテリ、8…電源ユニット、9…固定保持具、10…アクチュエータ、15…生体信号検出センサ、20…制御装置、25…動作・姿勢センサ、30…通信装置、35…減速機、36…操作部、40…随意的制御部、41…自律的制御部、42…フェーズ特定部、43…ゲイン変更部、50…統括制御部、51…電力増幅部、52…アクチュエータドライバ、53…基準パラメータデータベース、54…指令信号データベース、55…データ格納部。