(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-23
(45)【発行日】2024-05-02
(54)【発明の名称】ジフェニルアミン誘導体化合物およびその製造法
(51)【国際特許分類】
C07C 237/04 20060101AFI20240424BHJP
C07C 231/12 20060101ALI20240424BHJP
C08F 20/18 20060101ALI20240424BHJP
【FI】
C07C237/04 B CSP
C07C231/12
C08F20/18
(21)【出願番号】P 2020097065
(22)【出願日】2020-06-03
【審査請求日】2023-04-05
(73)【特許権者】
【識別番号】502145313
【氏名又は名称】ユニマテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114351
【氏名又は名称】吉田 和子
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 智
【審査官】中村 政彦
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-152163(JP,A)
【文献】特開2009-209268(JP,A)
【文献】特開昭54-062246(JP,A)
【文献】特開昭53-031790(JP,A)
【文献】特開昭48-022529(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 237/00
C07C 231/00
C08F 20/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式
(ここで、R
1は炭素数1~20の一価の炭化水素基であり、R
2およびR
3はそれぞれ独立に水素原子またはメチル基であり、nは1~5の整数である)で表されるジフェニルアミン誘導体化合物。
【請求項2】
R
3がメチル基である請求項1記載のジフェニルアミン誘導体化合物。
【請求項3】
一般式
(ここで、R
1は炭素数1~20の一価の炭化水素基であり、R
2は水素原子またはメチル基であり、nは1~5の整数である)で表されるジフェニルアミン誘導体をアクリル酸ハライドまたはメタクリル酸ハライドと反応させることを特徴とする請求項1記載のジフェニルアミン誘導体化合物の製造法。
【請求項4】
エラストマー共重合体の重合性不飽和単量体として用いられる請求項1または2記載のジフェニルアミン誘導体化合物。
【請求項5】
エラストマー共重合体がアクリルエラストマー共重合体である請求項4記載のジフェニルアミン誘導体化合物の使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジフェニルアミン誘導体化合物およびその製造法に関する。さらに詳しくは、共重合性老化防止剤である、重合性不飽和基を有するジフェニルアミン誘導体化合物およびその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車エンジンに代表される内燃機関で排出される二酸化炭素およびNOxガスは、その排出量規制が一層厳しくなる傾向にある。その対応策として、自動車エンジンには高出力化、高熱効率化および排出ガスの低減および無害化が要求され、エンジンルーム内の温度は上昇する傾向にある。それに伴い、その周辺で使用されるゴム、プラスチック等の高分子材料にはさらなる耐熱性の向上が求められている。
【0003】
具体例として、エンジンの燃費改善を目的としたターボチャージャーシステムを搭載した車両の普及が進んでいる。このターボチャージャーからインタークーラーやエンジンに導かれる空気は高温高圧であることから、これを輸送するゴム製ホース材料には高い耐熱性が求められている。
【0004】
このように、自動車のエンジンに使用される高分子材料の使用環境の高温化や長寿命化の要求に伴い、適切な老化防止剤をゴム製品部材に添加して耐熱性を向上させることが一般的に行われている。
【0005】
老化防止剤としては、フェノール系老化防止剤やアミン系老化防止剤が用いられ、特により高温の使用環境下で用いられるゴム部材では、アミン系老化防止剤が用いられる。
【0006】
例えば、アクリルゴムの場合では、老化防止剤として、4,4′-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミンに代表されるアミン系老化防止剤が用いられている(特許文献1~6)。
【0007】
しかしながら、上記のアミン系老化防止剤をもってしても昨今の耐熱要求を満たすに十分に満足することはできない。
【0008】
その対応策として、アミン系老化防止剤の高分子量化および高融点化の検討がなされているが、そこではゴムに対する分散性およびゴム内部での移行性が低下するなどの問題がある。
【0009】
また、老化防止剤の揮散を防止し高温環境下におけるゴム部品の長寿命化を図る目的のために、重合性不飽和基を有する老化防止剤が上市されている。
【0010】
例えば、そのようなものとしてノクラックG-1(大内新興化学工業製品)やAPMA(精工化学製品)が例示される(非特許文献1~2)。
Nocrac G-1 APMA
【0011】
しかしながら、上記老化防止剤ではジフェニルアミノ基のラジカル重合禁止作用により、重合性不飽和単量体とのラジカル共重合は実用的に困難である(特許文献7)。
【0012】
また、エラストマー性重合体の変性反応によりジフェニルアミノ構造を重合体に導入する方法がいくつか開示されている。例えば、オレフィン系不飽和基を有するエラストマーの側鎖をヒドロホルミル化した後ジフェニルアミノ基を導入する方法(特許文献8)、ジエン系共重合体に遊離基発生剤の存在下で無水マレイン酸を付加させた後、ジフェニルアミノ基を導入する方法(特許文献9)などが知られている。しかしながらこれらの方法は、もととなる共重合体を製造した後にジフェニルアミノ基を導入する変性工程がさらに必要となり、製造コストの面から実用的ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開平11-21411号公報
【文献】WO 2007/005458 A1
【文献】特開2010-254579号公報
【文献】WO 2006/001299 A1
【文献】特開2011-032390号公報
【文献】WO 2011/58918 A1
【文献】特開2009-209268号公報
【文献】特開平4-264106号公報
【文献】特開平5-230132号公報
【非特許文献】
【0014】
【文献】Rubber Chem.Technol.,46巻,106頁(1973)
【文献】Rubber Chem.Technol.,52巻,883頁(1979)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、重合性不飽和単量体と容易に共重合可能な共重合性老化防止剤であるジフェニルアミン誘導体化合物およびその製造法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
かかる本発明の第1の目的は、一般式
(ここで、R
1は炭素数1~20の一価の炭化水素基であり、R
2およびR
3はそれぞれ独立に水素原子またはメチル基であり、nは1~5の整数である)で表されるジフェニルアミン誘導体化合物によって達成される。
【0017】
また、本発明の第2の目的は、一般式
(ここで、R
1は炭素数1~20の一価の炭化水素基であり、R
2は水素原子またはメチル基であり、nは1~5の整数である)で表されるジフェニルアミン誘導体を、アクリル酸ハライドまたはメタクリル酸ハライドと反応させるジフェニルアミン誘導体化合物の製造法によって達成される。
【発明の効果】
【0018】
従来の重合性アミン系老化防止剤と異なり、本発明に係るジフェニルアミン誘導体化合物〔I〕では、アミノ基 NHAr2がアシル化されているため、ラジカル重合禁止作用が抑制され、各種重合性不飽和単量体との共重合が容易となる。
【0019】
また、加工段階(一次架橋、二次架橋)または使用段階で、アミド構造 R1C(=O)NAr2が分解してアミノ基 HNAr2を遊離し、熱老化防止作用を発現する。
【0020】
本発明のジフェニルアミン誘導体化合物が共重合されたエラストマー性高分子材料は、熱による老化防止成分の揮散、または油脂や有機溶剤等の液状媒質による老化防止成分の抽出を防止することができ、結果的に多様な劣化環境下おけるゴム部品の長寿命化を可能とするものである。
【0021】
また、従来のアミン系老化防止剤と比較して、高温環境下における各種エラストマー性高分子材料の分子量低下に起因する破断強度低下(軟化劣化)およびその架橋または分子構造の変化に伴う破断時伸びの低下(硬化劣化)を抑制することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】アクリルゴム架橋物の熱老化試験時の硬度変化を図式化(実線:実施例3、破線:比較例4、一点鎖線:比較例5、点線:比較例6)したものである。
【
図2】アクリルゴム架橋物の100%モジュラス変化率を図式化(実線:実施例3、破線:比較例4、一点鎖線:比較例5、点線:比較例6)したものである。
【
図3】アクリルゴム架橋物の破断強度変化率を図式化(実線:実施例3、破線:比較例4、一点鎖線:比較例5、点線:比較例6)したものである。
【
図4】アクリルゴム架橋物の破断時伸び変化率を図式化(実線:実施例3、破線:比較例4、一点鎖線:比較例5、点線:比較例6)したものである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
一般式〔I〕で表されるジフェニルアミン誘導体化合物において、R1は一価の炭素数1~20の炭化水素基である。
脂肪族炭化水素基の具体的としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、2-エチルヘキシル基、n-ノニル基、n-ウンデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘプタデシル基等の1級炭化水素基、
イソプロピル基、2-ブチル基、2-ペンチル基、3-ペンチル基、2-ヘキシル基、3-ヘキシル基、2-ヘプチル基、3-ヘプチル基、4-ヘプチル基、2-オクチル基、3-オクチル基、4-オクチル基等の2級炭化水素基、
第3ブチル基、1,1-ジメチル-1-プロピル基、1,1-ジメチル-1-ブチル基、1,1-ジメチル-1-ペンチル基、1,1-ジメチル-1-ヘキシル基、3-メチル-3-ペンチル基、3-エチル-3-ペンチル基、3-メチル-3-ヘキシル基等の3級炭化水素基、
シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、1-メチル-1-シクロペンチル基、1-メチル-1-シクロヘキシル基等の脂環状炭化水素基、
1-アダマンチル基等の炭素数1~20の脂肪族炭化水素基が挙げられる。
芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ナフチル基、アントラニル基等の炭素数6~20の芳香族炭化水素基が挙げられる。
R2は、水素原子またはメチル基である。
R3は、水素原子またはメチル基であり、ジフェニルアミン誘導体化合物自体の化学的安定性から、メチル基が好ましい。
nは1~5の整数である。
【0024】
一般式〔I〕で表される化合物の製造方法に特に制限はないが、例えば下記のような方法により安価な原料から容易に製造することができる。
【0025】
〔第1工程〕および〔第2工程〕:
上式において、化合物(a)および(b)は、特許文献3記載の方法に従って製造することができる。
【0026】
〔第3工程〕カルボン酸エステルのN-アシル化反応:
化合物(b)のN-アシル化において、アシル化剤としてはカルボン酸塩化物等のカルボン酸ハライドまたはカルボン酸無水物を用いることができる。
【0027】
N-アシル化剤としてカルボン酸塩化物を使用する場合、その使用量は化合物(b)1モルに対して約1~5モル、好ましくは約1~2モルの範囲である。
【0028】
反応に際しては、ピリジン、トリエチルアミン等の活性水素を有しない含窒素塩基性化合物の共存下で行うのが好ましい。含窒素塩基性化合物の使用量は、カルボン酸塩化物 1モルに対して、約1~10モル、好ましくは約1~5モルである。
【0029】
反応溶媒としては、ジクロロメタン〔DCM〕、クロロホルム、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、テトラヒドロフラン等を用いることができる。また、ピリジン〔Py〕を溶媒として用いることができる。ピリジンを溶媒として用いる場合、その使用量はカルボン酸塩化物1モルに対して、約10モル以上用いてもよい。
【0030】
反応は約0~50℃で行われるが、反応速度、カルボン酸塩化物の沸点および溶媒の沸点等を考慮して適宜調整される。
【0031】
N-アシル化剤としてカルボン酸無水物を使用する場合、その使用量は化合物(b) 1モルに対して約1~100モル、好ましくは約1~50モルの範囲である。
【0032】
反応に際しては、ピリジン、トリエチルアミン等の活性水素を有しない含窒素塩基性化合物の共存下で行うのが好ましい。含窒素塩基性化合物の使用量は、化合物(b)1モルに対して約1~10モル、好ましくは約1~2モルである。
【0033】
反応溶媒としては、ジクロロメタン、クロロホルム、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、テトラヒドロフラン等を用いることができるが、カルボン酸無水物を溶媒として用いることもできる。
【0034】
反応は約0~50℃で行われるが、反応速度、溶媒およびカルボン酸無水物の沸点等を考慮して適宜調整される。
【0035】
〔第4工程〕N-アシル化されたカルボン酸エステルの還元反応:
化合物(c)から(d)への還元反応は、水素化ホウ素ナトリウムを用いて行われる。水素化ホウ素ナトリウムは、化合物(c)1モルに対して約1~10モル、好ましくは約2~5モルである。
【0036】
溶媒としては、メタノール、エタノール、テトラヒドロフラン等を用いることができるが、特にメタノールが好ましい。
【0037】
反応温度は、約20~100℃、好ましくは約40~80℃である。
【0038】
〔第5工程〕末端アルコール化合物の(メタ)アクリレート化反応:
化合物(d)から〔I〕の変換は、アクリロイルクロリドまたはメタクリロイルクロリドを用いることができる。
【0039】
アクリロイルクロリドまたはメタクリロイルクロリドの使用量は、化合物(d)1モルに対して約1~3モル、好ましくは約1~2モルの範囲である。
【0040】
反応に際しては、ピリジン、トリエチルアミン等の活性水素を有しない含窒素塩基性化合物の共存下で行うのが好ましい。含窒素塩基性化合物の使用量は、アクリロイルクロリドまたはメタクリロイルクロリド 1モルに対して、約1~5モル、好ましくは約1~2モルである。
【0041】
反応溶媒としては、ジクロロメタン〔DCM〕、クロロホルム、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、テトラヒドロフラン等を用いることができる。また、ピリジン〔Py〕を溶媒として用いることができる。ピリジンを溶媒として用いる場合、その使用量はアクリロイルクロリドまたはメタクリロイルクロリド 1モルに対して、約10モル以上用いてもよい。
【0042】
反応は約0~50℃、好ましくは約0~20℃である。
【0043】
化合物(d)~〔I〕の変換はまた、酸触媒存在下、アクリル酸またはメタクリル酸を反応させてもよい。
【0044】
酸触媒としては、パラトルエンスルホン酸、硫酸等が用いられる。
【0045】
溶媒としては、トルエンを用いることができる。
【0046】
ジフェニルアミン誘導体化合物〔I〕を重合性不飽和単量体と共重合させる場合、重合性不飽和単量体100重量部に対して約0.1~5重量部、好ましくは約0.3~3重量部用いられる。これより少ないと、十分な老化防止効果が見込まれない。一方、これより多く用いても、老化防止効果の向上は見込まれず不経済である。
【0047】
上記化合物〔I〕の適用範囲は、ラジカル重合によって製造されるエラストマー性高分子材料であれば特に制限はない。
【0048】
アクリルエラストマー共重合体の場合、一般的なアクリルゴムの共重合方法によって製造される。共重合反応は、乳化重合法、けん濁重合法、溶液重合法、塊状重合法など任意の方法で行ない得るが、好ましくは乳化重合法またはけん濁重合法が用いられ、約-10~100℃、好ましくは約5~80℃の温度で反応が行われる。
【0049】
反応の重合開始剤としては、ベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、第3ブチルヒドロパーオキサイド、クミルヒドロパーオキサイド、p-メチレンヒドロパーオキサイド等の有機パーオキサイドまたはヒドロパーオキサイド、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソブチルアミジン等のジアゾ化合物、過硫酸アンモニウムによって代表されるアンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等の過酸化物塩などが単独であるいはレドックス系として用いられる。
【0050】
特に好ましい乳化重合法に用いられる乳化剤としては、アニオン系またはノニオン系の界面活性剤が、必要に応じて酸または塩基によりpH調整され、無機塩で緩衝溶液とした水溶液などとして用いられる。
【0051】
重合反応は、単量体混合物の転化率が90%以上に達する迄継続される。得られた水性ラテックスは、塩-酸凝固法、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム、硫酸アンモニウム等の塩を用いる方法、ホウ酸、ホウ砂等のホウ素化合物を用いる方法、熱による凝固法、凍結凝固法などによって凝固させ、得られた共重合体は十分に水洗、乾燥される。このアクリルゴムは、約5~100、好ましくは約20~80のムーニー粘度 PML1+4(100℃)を有する。
【0052】
その他のエラストマー性共重合体の具体例としては、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、エチレン-酢酸ビニルゴム(EVA)、ニトリルゴム(NBR)、水添ニトリルゴム(H-NBR)、エチレン-アクリル酸メチルゴム(AEM)、等があげられる。
【実施例】
【0053】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0054】
実施例1
DPA-MAの製造
DPA-MA
下記カルボン酸およびそのメチルエステルは、特許文献3を参考にして製造した。
【0055】
〔第1工程〕マグネット攪拌子、温度計および滴下ロートを備えた容量1000mlの三口フラスコに、無水コハク酸36.0g、N,N-ジメチルアセトアミド30gおよびトルエン90gを投入した。この溶液に、4-アミノジフェニルアミン63.0gをトルエン120gに溶解した溶液を室温で1時間かけて滴下し、さらに0.5時間反応を行った。反応終了後、反応混合物にトルエン600mLを加え、生じた固体をロ別し、粗生成物を褐色の固体として87.1g(粗収率90%)得た。得られた粗生成物は、下記カルボン酸を主成分とする2成分からなる混合物であった。
【0056】
〔第2工程〕マグネット攪拌子、温度計および還流冷却管を備えた容量2000mlの三口フラスコに、上記第3工程で得られたカルボン酸化合物混合物113.2g、濃硫酸4.8g、メタノール96gおよびトルエン1Lを投入し、70℃で2時間反応させた。反応終了後、反応混合物から水およびトルエンを減圧下で留去し、次いで残渣をメチルイソブチルケトンに溶解させた。これを1重量%炭酸水素ナトリウム水溶液で2回洗浄し、有機層に無水硫酸マグネシウム、アルカリ吸着剤として合成ケイ酸アルミニウム(協和化学工業製品キョウーワード700)および活性炭(大阪ガスケミカル製品白鷺A)を添加した。不溶物をロ別後、有機層から揮発性成分を減圧下留去し、淡赤色固体として粗生成物115.5g(粗収率97%)を得た。キョーワード700を添加したトルエンを用いて得られた粗生成物の再結晶を3回繰り返し、無色の固体として下記カルボン酸エステルを62.6g(収率53%)得た。
1H NMR(300MHz、(CD
3)
2CO、δ ppm):
2.65 (s、4H、-NHC(=O)C
H
2C
H
2C(=O)OCH
3)
3.63(s、3H、-NHC(=O)CH
2CH
2C(=O)OC
H
3)
6.79 (t、1H、J=7.2Hz、H
e)
7.00-7.25 (m、6H、H
b 、H
c 、H
d)
7.26 (brs、1H、-N
HC(=O)CH
2CH
2C(=O)OCH
3)
7.54 (d、2H、J=9.0Hz、H
a )
9.05 (brs、1H、ArN
HAr)
【0057】
〔第3工程〕マグネット攪拌子、温度計および滴下ロートを備えた容量300mlの三口フラスコに、上記第2工程で得られたカルボン酸エステル40g、ピリジン17.8gおよびジクロロメタン200mLを投入し、内容物を5℃に冷却した。5~20℃に保ちながら、アセチルクロリド13.8gを滴下し、さらに1時間反応させた。反応終了後、ジクロロメタン100mLを加えて希釈し、飽和塩化ナトリウム水溶液で3回洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥し、不溶物をロ別した後、ロ液から揮発性成分を減圧下留去し、粗生成物を51.9g得た。これを、酢酸エチル/n-ヘキサン混合溶媒(容量比3/1)を用いて再結晶を行い、無色の固体としてNアセチル化したエステルを無色の固体として43.0g(収率94%)得た。
1H NMR(300MHz、CDCl
3、δ ppm):
2.06 (s、3H、N-C(=O)C
H
3)
2.64 (t、J=6.3Hz、2H、-NHC(=O)C
H
2CH
2C(=O)OCH
3)
2.74 (t、J=6.3Hz、2H、-NHC(=O)CH
2C
H
2C(=O)OCH
3)
3.71(s、3H、-NHC(=O)CH
2CH
2C(=O)OC
H
3)
7.1-7.6 (m、9H、Ar)
7.84 (brs、1H、-N
HC(=O)CH
2CH
2C(=O)OC
H
3)
【0058】
〔第4工程〕マグネット攪拌子、温度計、ガス排出口および還流冷却管を備えた容量1000mlの四口フラスコに、上記第3工程で得られたNアセチル化されたエステル酸化合物30gおよびメタノール150mLを投入し、内容物を45℃に加熱した。内温を45~55℃に保ちながら、水素化ホウ素ナトリウム10gをゆっくり加え、さらに1時間反応させた。減圧下でメタノールを留去し、残渣をメチルイソブチルケトンに溶解させた。有機層を飽和塩化ナトリウム水溶液で2回洗浄し、次いで無水硫酸マグネシウムで乾燥後、不溶物をロ別した。ロ液から揮発性成分を減圧下留去し、無色の固体として末端アルコール化合物を26.7g(粗収率97%)得た。酢酸エチル/エタノール混合溶媒(容量比5/2)を用いて再結晶を行い、無色の固体として下記末端アルコール化合物を20.0g(収率73%)得た。
1H NMR(300MHz、CDCl
3、δ ppm):1.91 (quin、J=6.3Hz、2H、-C(=O)CH
2C
H
2CH
2OH)
2.06 (s、3H、N-C(=O)C
H
3)
2.47 (t、J=6.6Hz、2H、-C(=O)C
H
2CH
2CH
2O-)
2.65 (brs、1H、-C(=O)CH
2CH
2CH
2O
H)
3.69 (t、J=6.0Hz、2H、-C(=O)CH
2CH
2C
H
2O-)
7.1-7.6 (m、9H、Ar)
8.36 (brs、1H、N
H)
【0059】
〔第5工程〕マグネット攪拌子、温度計、滴下ロートを備えた容量500mlの三口フラスコに、上記第4工程で得られた末端アルコール化合物37.8g、ジクロロメタン200mLおよびピリジン16.1gを投入し、内容物を5℃に冷却した。内温を5~15℃に保ちながら、メタクリロイルクロリド16.4gを滴下し、さらに1時間反応させた。ジクロロメタン100ml加えて内容物を希釈し、飽和塩化ナトリウム水溶液で3回洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥し、不溶物をロ別後、ロ液に4-メトキシフェノールを生成物に対して200ppm添加した。減圧下で揮発性成分を留去し、下記粗メタクリレートを53.0g(粗収率115%)得た。酢酸エチルを溶出液とするカラムクロマトグラフィー(担体:ワコーゲルC300)により、無色の粘稠な液体としてDPA-MAを42.1g(収率92%)得た。
DPA-MA
1H NMR(300MHz、CDCl
3、δ ppm):1.93 (t、J=1.2Hz、3H、CH
2=C-C
H
3)
2.06 (s、3H、N-C(=O)C
H
3)
2.09 (quin、J=6.6Hz、2H、-C(=O)CH
2C
H
2CH
2O-)
2.41 (t、J=7.2Hz、2H、-C(=O)C
H
2CH
2CH
2O-)
4.23 (t、J=6.0Hz、2H、-C(=O)CH
2CH
2C
H
2O-)
5.56 (t、J=1.5Hz、1H、C(=O)-C=C-
H(trans))
6.11 (s、1H、C(=O)-C=C-
H(cis))
6.1-7.8 (m、9H、Ar)
8.00 (brs、1H、N
H)
【0060】
実施例2
温度計、撹拌機、窒素ガス導入管およびジムロート冷却管を備えたセパラブルフラスコ内に、
水 187重量部
ラウリル硫酸ナトリウム 2 〃
ポリオキシエチレンラウリルエーテル 2 〃
仕込み単量体混合物
アクリル酸エチル〔EA〕 97.4 〃
フマル酸モノn-ブチル〔MBF〕 1.6 〃
DPA-MA 1.0 〃
を仕込み、窒素ガス置換を行って系内の酸素を十分に除去下後、
ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート 0.008重量部
(富士フィルム和光純薬工業製品ロンガリット)
第3ブチルハイドロパーオキサイド 0.0047 〃
(日油製品パーブチルP)
を加えて室温条件下で重合反応を開始させ、重合転化率が90%以上になる迄反応を継続した。得られた水性ラテックスを10重量%硫酸ナトリウム水溶液で凝析させた後、水洗、乾燥してアクリルゴムAを得た。
【0061】
得られたアクリルゴムAのムーニー粘度 PML1+4(100℃)は、46であった。
【0062】
また、モル分率組成は、1H-NMR(300MHz、(CD3)2CO、δ ppm)より下式より求め、DPA―MA:0.27モル%、EA+MBF:99.73モル%であった。
A:7.4ppmと7.7ppmのシグナルの積分値の合計
B:4.1ppmのシグナルの積分値
DPA―MA(mol%)=(A/B)×20
EA+MBF(mol%)=100-DPA―MA(mol%)
また近似的な重量分率組成は下式より求め、DPA―MA:1.0重量%、EA+MBF:99.0重量%であった。
DPA―MA(wt%)=(DPA―MA(mol%)×380.3×100)/〔DPA―MA(mol%)×380.3
+(EA+MBF(mol%)×100.8)〕
EA+MBF(wt%)=100-DPA―MA(wt%)
【0063】
【0064】
(1)マグネット攪拌子、温度計、滴下ロートおよび還流冷却管を備えた容量2000mlの三口フラスコに、無水コハク酸30gおよびトルエン1,100mlを投入し、50℃に昇温した。内容物を激しく攪拌しながら、アニリン30.6gをゆっくり加え、さらに1時間反応させた。析出した無色の固体をロ別し、次いでトルエンで洗浄して、下記カルボン酸を56.8g(収率96%)得た。
【0065】
(2)マグネット攪拌子、温度計および還流冷却管を備えた容量2000mlの三口フラスコに、上記(1)で得られたカルボン酸化合物56.8g、濃硫酸1.5g、メタノール93gおよびトルエン0.900mlを投入し、70℃で2時間反応させた。反応終了後、反応混合物から水およびトルエンを減圧下で留去し、次いで残渣を酢酸エチルに溶解させた。これを1重量%炭酸水素ナトリウム水溶液で2回洗浄し、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した。不溶物をロ別後、有機層から揮発性成分を減圧下で留去し、下記エステル化合物を無色の固体として56.4g (収率93%)得た。
【0066】
(3)マグネット攪拌子、温度計、ガス排出口および還流冷却管を備えた容量1000mlの四口フラスコに、上記(2)で得られたエステル化合物56.4gおよびメタノール200mLを投入し、内容物を45℃に加熱した。内温を45~55℃に保ちながら、水素化ホウ素ナトリウム20.6gをゆっくり加え、さらに1時間反応させた。減圧下でメタノールを留去し、残渣をメチルイソブチルケトンに溶解させた。有機層を飽和塩化ナトリウム水溶液で2回洗浄し、次いで無水硫酸マグネシウムで乾燥後、不溶物をロ別した。ロ液から揮発性成分を減圧下留去し、淡褐色の固体として粗アルコールを50.1g(粗収率103%)得た。230mLの酢酸エチルを用いて再結晶を行い、無色の固体として下記アルコール化合物を36.5g(収率75%)得た。
【0067】
(4)マグネット攪拌子、温度計および滴下ロートを備えた容量300mlの三口フラスコに、上記(3)で得られたアルコール化合物15.0g、ジクロロメタン100mLおよびピリジン11.2gを投入し、内容物を5℃に冷却した。内温を5~15℃に保ちながら、メタクリロイルクロリド11.4gを滴下しさらに1時間反応させた。ジクロロメタン100mL加えて内容物を希釈し、飽和塩化ナトリウム水溶液で3回洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥し、不溶物をロ別し、次いでロ液に4-メトキシフェノールを生成物に対して200ppm添加した。減圧下で揮発性成分を留虚し、粗メタクリレート化合物を無色の固体として21.1g(粗収率102%)得た。酢酸エチルを用いて再結晶を行い、無色の固体として下記AN-MAを14.2g(収率69%)得た。
AN-MA
1H NMR(300MHz、CDCl
3、δ ppm):1.94 (s、3H、-C
H
3)
2.13 (quin、J=6.6Hz、2H、-C(=O)CH
2C
H
2CH
2O-)
2.45 (t、J=7.2Hz、2H、-C(=O)C
H
2CH
2CH
2O-)
4.27 (t、J=6.0Hz、2H、-C(=O)CH
2CH
2C
H
2O-)
5.56 (t、J=1.2Hz、1H、C(=O)-C=C-
H(trans))
6.12 (s、1H、C(=O)-C=C-
H(cis))
7.10 (t、J=7.5Hz、1H、NH-Ar-
H(para))
7.32 (t、J=7.5Hz、2H、NH-Ar-
H(meta))
7.52 (d、J=8.1Hz、2H、NH-Ar-
H(ortho))
7.50 (brs、1H、N
H)
【0068】
比較例2
下記仕込み単量体混合物を用いた以外は、実施例2と同様に行い、アクリルゴムBを得た。
仕込み単量体混合物
アクリル酸エチル〔EA〕 97.4重量部
フマル酸モノn-ブチル〔MBF〕 1.6 〃
AN-MA 1.0 〃
【0069】
得られたアクリルゴムBのムーニー粘度 PML1+4(100℃)は、50であった。
【0070】
また、そのモル分率組成は、1H-NMR(300MHz、(CD3)2CO、δ ppm)より下式より求め、AN-MA:0.39モル%、EA+MBF:99.61モル%であった。
A:7.0ppm、7.3ppmおよび7.7ppmのシグナルの積分値の合計
B:4.1ppmのシグナルの積分値
AN-MA(mol%)=(A/3B)×100
EA+MBF(mol%)=100-AN-MA(mol%)
またその近似的な重量分率組成は、下式より求め、AN-MA:1.0重量%、EA+MBF:99.0重量%であった。
AN-MA(wt%)=(AN-MA(mol%)×247.3×100)/〔AN-MA(mol%)×247.3
+(EA+MBF(mol%)×100.8)〕
EA+MBF(wt%)=100-AN-MA(wt%)
【0071】
比較例3
下記仕込み単量体混合物を用いた以外は、実施例2と同様に行い、アクリルゴムCを得た。得られたアクリルゴムCのムーニー粘度 PML1+4(100℃)は、28であった。
仕込み単量体混合物
アクリル酸エチル〔EA〕 98.4重量部
フマル酸モノn-ブチル〔MBF〕 1.6 〃
【0072】
実施例3
アクリルゴムA 100重量部
FEFカーボンブラック(東海カーボン製品シーストGSO) 60 〃
ステアリン酸(ミヨシ油脂製品TST) 1 〃
ポリオキシエチレンステアリルエーテルリン酸 0.5 〃
(東邦化学工業製品フォスファノールRL-210)
架橋促進剤 1 〃
(Safic-Alcan社製品Vulcofac ACT55)
ヘキサメチレンジアミンカーバメート 0.6 〃
(ユニマテック製品ケミノックスAC6F)
以上の各成分の内、アクリルゴムA、FEFカーボンブラック、ステアリン酸およびポリオキシエチレンステアリルエーテルリン酸を、バンバリーミキサーで混和した。得られた混和物に、残りの各成分をオープンロールを用いて混和し、アクリルゴム組成物を得た。
【0073】
これを、100トンプレス成形機により、180℃で8分間の一次架橋および175℃で4時間のオーブン架橋を行い、厚さ約2mmのシート状架橋物および直径約29mm、高さ約12.5mmの円柱状架橋物を得た。
【0074】
アクリルゴム組成物の架橋特性およびその架橋物の物性を、次のようにして測定した。
ムーニースコーチ試験:JIS K6300準拠(125℃)
東洋精機製作所製ムーニービスコメーターAM-3を用い、最小ムーニー粘度(ML min)とスコーチ時間(t5)の値を測定
架橋試験:JIS K6300-2準拠(180℃、12分間)
東洋精機製作所製ロータレス・レオメータRLR-3使を用い、ML、MH、tc
(10)およびtc(90)の値を測定
ML:最小トルク
MH:最大トルク
tc(10):架橋トルクがML+(MH-ML)×0.1に達するまでに要する時間
tc(90):架橋トルクがML+(MH-ML)×0.9に達するまでに要する時間
常態物性:JIS K6251、JIS K6253準拠
空気加熱老化試験:JIS K6257準拠
(175℃:70時間、250時間、500時間、750時間、1000時間)
圧縮永久歪: JIS K6262準拠(175℃:70時間)
【0075】
比較例4
実施例3において、アクリルゴムAの代りに、アクリルゴムBが用いられた。
【0076】
比較例5
実施例3において、アクリルゴムBの代りに、アクリルゴムCが用いられた。
【0077】
比較例6
比較例5において、新たに4,4′-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン(大内新興化学工業製品ノクラックCD)が1重量部添加された。
【0078】
以上の実施例3および比較例4~6で得られた結果は、次の表に示される。
表
【0079】
以上の結果から、次のようなことがいえる。
(1)熱老化試験において、実施例3と比べて比較例4~5の破断強度および破断時伸びの減少が顕著である。また、老化防止剤を添加した比較例6では、軟化劣化に伴う破断時伸びの増大および破断強度の減少が顕著である。
(2)実施例3では、ジフェニルアミン誘導体化合物が共重合されることにより、熱老化試験時の物性変化を最小限に抑えることができる。
【0080】
また、グラフの結果から、次のようなことがいえる。
(1)破断強度変化率:
比較例4~5では、500時間から硬化劣化が進行し、破断強度が増加する。実施例3、比較例6では、破断強度の面からは、硬化劣化の進行が遅い。
(2)破断時伸び変化率:
この値がマイナスのときは、ゴム弾性が失われることを示すので好ましくなくその低下を最小限にすることが望ましい。ただし、単に伸び変化率が増大すればよいという訳ではなく、破断時強度をできるだけ保持した状態で、伸び変化率が増大あるいはその低下を最小限にすることがよいと考えられる。つまり、伸びと強度とのバランスが重要である。
(3)100%モジュラス変化率:
実施例3は、比較例6に比べて、モジュラス低下が小さい。一方、比較例6では、モジュラス低下が顕著である。
(4)DPA―MAとAN-MAについて:
DPA―MAによる効果が、ジフェニルアミド構造のメタクリレートを共重合したことによるものであることを明確にするため、ジフェニルアミド構造を有しないAN-MAについての比較例を記載している。
この対比では、DPA-MAの老化防止性がジフェニルアミド構造に起因するものであることを明確に示している。