(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-23
(45)【発行日】2024-05-02
(54)【発明の名称】斜面地建築物の基礎構造
(51)【国際特許分類】
E02D 27/01 20060101AFI20240424BHJP
E02D 27/12 20060101ALI20240424BHJP
【FI】
E02D27/01 Z
E02D27/12 Z
(21)【出願番号】P 2020116158
(22)【出願日】2020-07-06
【審査請求日】2023-06-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】100154726
【氏名又は名称】宮地 正浩
(72)【発明者】
【氏名】江原 勇介
(72)【発明者】
【氏名】芹澤 好徳
(72)【発明者】
【氏名】柳澤 信行
【審査官】佐久間 友梨
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-029956(JP,A)
【文献】特開2017-150142(JP,A)
【文献】特開2002-194750(JP,A)
【文献】特開2009-001998(JP,A)
【文献】米国特許第04807418(US,A)
【文献】横浜市まちづくり調整局,横浜市がけ関係小規模建築物技術指針―がけ上編―[Online],日本,2005年11月,p.32,インターネット<URL:https://www.city.yokohama.lg.jp/business/bunyabetsu/kenchiku/tetsuduki/jorei/gakeue.html>,[検索日:2024年2月13日]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/22-5/80
27/00-27/52
E04B 1/35
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平面に対して所定の安定角度を超える迎角で傾斜する斜面上に建築される斜面地建築物の基礎構造であって、
前記斜面の下端を起点として前記安定角度の仰角をなす安定角度線以深に立ち下げられた直接基礎部分を有し、
前記直接基礎部分における前記安定角度線以深に位置する底部に、前記斜面側に臨む支圧面が設けられており、
前記支圧面が、前記安定角度よりも大きな迎角をなす方向に地盤か
ら支圧力を受ける傾斜支圧面として形成されてい
る斜面地建築物の基礎構造。
【請求項2】
前記直接基礎部分から前記斜面側に向けて跳ね出す跳ね出し基礎部分を有し、
前記直接基礎部分が前記安定角度線以深に位置すると共に、前記跳ね出し基礎部分が前記安定角度線以浅に位置する請求項
1に記載の斜面地建築物の基礎構造。
【請求項3】
前記跳ね出し基礎部分と前記安定角度線以浅の地盤領域である安定角度線以浅領域との間に、両者間に生じる摩擦力を軽減するための隙間が設けられている請求項2に記載の斜面地建築物の基礎構造。
【請求項4】
安定角度線以深に立ち下げられて、前記跳ね出し基礎部分の鉛直荷重を支持する基礎杭を備える請求項
2又は3に記載の斜面地建築物の基礎構造。
【請求項5】
前記跳ね出し基礎部分に対して前記基礎杭の杭頭部がピン接合されている請求項4に記載の斜面地建築物の基礎構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水平面に対して所定の安定角度を超える迎角で傾斜する斜面上に建築される斜面地建築物の基礎構造に関する。
【背景技術】
【0002】
水平面に対して所定の安定角度(安息角、安定勾配ともいう)を超える迎角で傾斜するがけや傾斜地などの斜面上に斜面地建築物を建築する場合は、原則として擁壁を構築する或いは築造替えをすることが推奨されるが、やむを得ない場合は、直接基礎や杭基礎、地盤改良工法を用いて基礎を立ち下げることにより、斜面地建築物の基礎の応力が斜面に影響を及ぼさないようにする必要がある(例えば、非特許文献1を参照)。
具体的に、非特許文献1の指針では、斜面の下端を起点とした迎角が安定角度となる安定角度線を基準として、斜面地建築物の基礎の立下げ深さは安定角度線以深にし、安定角度は原則として土質により判断され一般的に30°程度とされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】”横浜市がけ関係小規模建築物技術指針―がけ上編―”,[online],平成17年11月,横浜市まちづくり調整局,インターネット<URL:https://www.city.yokohama.lg.jp/business/bunyabetsu/kenchiku/tetsuduki/jorei/gakeue.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のように斜面地建築物の基礎を安定角度線以深に立ち下げて構築する場合、斜面地建築物が基礎からそれが通過する安定角度線以浅に対して比較的大きな水平力が作用する場合がある。このように水平力が安定角度線以浅に作用すると、安定角度線以浅の土圧が上昇することから、斜面の崩壊や斜面下建築物への悪影響が懸念される。
【0005】
この実情に鑑み、本発明の主たる課題は、斜面上に斜面地建築物を建築するにあたり、安定角度線以浅における土圧上昇を抑制して斜面の崩壊や斜面下建物への悪影響を防止できる斜面地建築物の基礎構造を実現する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1特徴構成は、水平面に対して所定の安定角度を超える迎角で傾斜する斜面上に建築される斜面地建築物の基礎構造であって、
前記斜面の下端を起点として前記安定角度の仰角をなす安定角度線以深に立ち下げられた直接基礎部分を有し、
前記直接基礎部分における前記安定角度線以深に位置する底部に、前記斜面側に臨む支圧面が設けられており、
前記支圧面が、前記安定角度よりも大きな迎角をなす方向に地盤から支圧力を受ける傾斜支圧面として形成されている点にある。
【0009】
本構成によれば、水平面に対して所定の安定角度を超える迎角で傾斜する斜面上に斜面地建築物を建築するにあたり、その斜面地建築物の基礎構造が、斜面の下端を起点とした迎角が安定角度となる安定角度線を基準として当該安定角度線以深に立ち下げられた直接基礎部分を有する。すると、斜面地建築物の鉛直荷重は、直接基礎部分を通じて安定角度線以深の地盤により好適に支持される。更に、直接基礎部分の底部には、安定角度線以深に位置して斜面側に臨む支圧面が設けられている。このことで、斜面地建築物の斜面側に向かう水平力についても、支圧面が安定角度線以深における地盤から受ける支圧力により好適に支持されることになるので、その水平力が安定角度線以浅に作用することが抑制される。
従って、本発明により、斜面上に斜面地建築物を建築するにあたり、安定角度線以浅における土圧上昇を抑制して斜面の崩壊や斜面下建物への悪影響を防止できる斜面地建築物の基礎構造を実現することができる。
更に、本構成によれば、傾斜支圧面から地盤に対して作用する支圧力の反力ベクトルが安定角度線以浅の地盤に向かうものではなくなる。このことで、傾斜支圧面から地盤に作用する反力による安定角度線以浅における土圧上昇を好適に抑制することができる。
【0010】
本発明の第2特徴構成は、前記直接基礎部分から前記斜面側に向けて跳ね出す跳ね出し基礎部分を有し、
前記直接基礎部分が前記安定角度線以深に位置すると共に、前記跳ね出し基礎部分が前記安定角度線以浅に位置する点にある。
【0011】
本構成によれば、斜面地建築物から跳ね出し基礎部分に作用する鉛直荷重の少なくとも一部が、当該跳ね出し基礎部分を片持ち支持する直接基礎部分により好適に支持される。
このことで、その鉛直荷重による安定角度線以浅における土圧上昇を好適に抑制することができる。また、跳ね出し基礎部分を安定角度線以深に立下げる必要がないので、地盤掘削量を削減することができる。
本発明の第3特徴構成は、前記跳ね出し基礎部分と前記安定角度線以浅の地盤領域である安定角度線以浅領域との間に、両者間に生じる摩擦力を軽減するための隙間が設けられている点にある。
【0012】
本発明の第4特徴構成は、安定角度線以深に立ち下げられて、前記跳ね出し基礎部分の鉛直荷重を支持する基礎杭を備える点にある。
【0013】
本構成によれば、斜面地建築物から跳ね出し基礎部分に作用する鉛直荷重の少なくとも一部が、安定角度線以深に立ち下げられた基礎杭により好適に支持される。このことで、その鉛直荷重による安定角度線以浅における土圧上昇を好適に抑制することができる。
【0014】
本発明の第5特徴構成は、前記跳ね出し基礎部分に対して前記基礎杭の杭頭部がピン接合されている点にある。
【0015】
本構成によれば、跳ね出し基礎部分に対して基礎杭の杭頭部がピン接合されているので、杭頭部に発生する曲げモーメントが軽減される。このことで、安定角度線以浅を通過する基礎杭として、受動抵抗(地盤反力)が少ない細い杭を採用して、安定角度線以浅における土圧上昇を好適に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本実施形態に係る斜面地建築物の基礎構造の概略構成図
【
図2】別実施形態に係る斜面地建築物の基礎構造の概略構成図
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施形態として、
図1に基づいて、がけや傾斜地などの斜面C上に建築される斜面地建築物1の基礎構造2(以下、「本基礎構造2」と呼ぶ。)の詳細について説明する。
斜面地建築物1が建築される斜面Cは、水平面Hに対して所定の安定角度θを超える迎角で傾斜するものである。このことから、本基礎構造2は、斜面地建築物1の基礎の応力が斜面Cに影響を及ぼさないようにするために、安定角度線L以深に立ち下げられた直接基礎部分21を有するものとして構成されている。
【0018】
尚、安定角度θは、安息角、安定勾配とも呼ばれ、その地盤を構成する土壌が崩れることなく安定を保つ斜面の最大角度として設定される。例えば、安定角度θは、各地の土質により判断されて一般的に30°程度とされている。
安定角度線Lは、斜面Cの下端Cbを起点とした迎角が安定角度θとなる境界線である。以下の説明において、安定角度線L以浅の地盤領域を安定角度線以浅領域A1と呼び、安定角度線L以深の地盤領域を安定角度線以深領域A2と呼ぶ。
【0019】
本基礎構造2は、斜面地建築部1の底部に沿って構築された鉄筋コンクリート造の直接基礎2Aと、当該直接基礎2Aの底面から支持地盤の間に打設された無筋のラップルコンクリート2Bとで構成されている。
また、本基礎構造2において、斜面Cに対して遠い側に位置する直接基礎2Aとその下に構築されたラップルコンクリート2Bで構成された部分を直接基礎部分21としており、その直接基礎部分21から斜面C側に向けて跳ね出す直接基礎2Aで構成された部分を跳ね出し基礎部分22としている。
即ち、直接基礎部分21は、底面全体が安定角度線以深領域A2に位置する部分として構成されており、一方、跳ね出し基礎部分22は、その直接基礎部分21に対して斜面C側に連続形成されて少なくとも底面全体が安定角度線以浅領域A1に位置する部分として構成されている。
【0020】
このように構成された本基礎構造2により、斜面地建築物1から跳ね出し基礎部分22に作用する鉛直荷重の少なくとも一部は、当該跳ね出し基礎部分22を片持ち支持する直接基礎部分21により好適に支持されることになる。すると、跳ね出し基礎部分22から安定角度線以浅領域A1に伝達される鉛直荷重が軽減される。よって、安定角度線以浅領域A1において、跳ね出し基礎部分22から伝達される鉛直荷重に起因する土圧上昇が好適に抑制されている。また、跳ね出し基礎部分22については、安定角度線以深領域A2に立下げる必要がないので、その分の地盤掘削量が削減されている。
【0021】
跳ね出し基礎部分22と安定角度線以浅領域A1の地盤との間には、両者間に生じる摩擦力を軽減するための隙間等が設けられて縁切りされている。このことにより、安定角度線以浅領域A1において、跳ね出し基礎部分22との摩擦力に起因する土圧上昇が好適に抑制されている。
【0022】
跳ね出し基礎部分22の底部側には、安定角度線以深領域A2に立ち下げられて、直接基礎部分21で支持される分を除く跳ね出し基礎部分22の鉛直荷重を支持する基礎杭23が設けられている。このことで、安定角度線以浅領域A1の土圧上昇が一層好適に抑制されている。
更に、基礎杭23の杭頭部23aは、跳ね出し基礎部分22に対してピン接合されている。このことで、杭頭部23aに発生する曲げモーメントが軽減されるので、基礎杭23として細い杭が採用されている。このような基礎杭23の小径化により、安定角度線以浅領域A1からの受動抵抗(地盤反力)が少なくなる。よって、安定角度線以浅領域A1において、基礎杭23からの受動抵抗に起因する土圧上昇が好適に抑制されている。
【0023】
更に、本基礎構造2では、安定角度線以浅領域A1における土圧上昇を一層抑制して斜面Cの崩壊や例えば斜面Cに面する形態で当該Cの下に建造された斜面下建築物50への悪影響を防止するために、直接基礎部分21における安定角度線以深領域A2に位置するラップルコンクリート2Bの底部に、斜面C側に臨む支圧面21aが設けられている。
この構成により、斜面地建築物1の斜面C側に向かう水平力は、直接基礎部分21の支圧面21aが安定角度線以深領域A2における地盤から受ける支圧力Fにより好適に支持されることになり、当該水平力が安定角度線以浅領域A1に作用することが抑制される。
【0024】
更に、上記支圧面21aは、安定角度線以深領域A2から受ける支圧力Fの方向が安定角度θよりも大きな迎角aをなす方向となるように傾斜する傾斜支圧面として形成されている。
即ち、傾斜支圧面21aから安定角度線以深領域A2に対して作用する支圧力Fの反力fのベクトルが安定角度線以浅領域A1の地盤に向かわなくなる。このことで、安定角度線以浅領域A1において、支圧面21aからの反力fに起因する土圧上昇が好適に抑制されている。
【0025】
〔別実施形態〕
本発明の他の実施形態について説明する。尚、以下に説明する各実施形態の構成は、それぞれ単独で適用することに限らず、他の実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0026】
(1)上記実施形態では、直接基礎部分21の底部に設けられた支圧面21aを、当該支圧力Fの方向が安定角度θよりも大きな迎角aをなす方向となるように傾斜する傾斜支圧面としたが、支圧面21aは、斜面C側に向かう水平力を支持するべく斜面Cに臨む面であればよく、例えば、
図2に示すように、斜面C側に水平に向かう直立面を支圧面21aとして有する段部を直接基礎部分21の底部に設けても構わない。
【0027】
(2)上記実施形態では、斜面地建築物1から跳ね出し基礎部分22に作用する鉛直荷重の少なくとも一部を跳ね出し基礎部分22を片持ち支持する直接基礎部分21により支持し、他の鉛直荷重を基礎杭23で支持するように構成したが、跳ね出し基礎部分22に作用する鉛直荷重の全部を、直接基礎部分21又は基礎杭23で支持するように構成しても構わない。そして、跳ね出し基礎部分22に作用する鉛直荷重の全部を直接基礎部分21で支持する場合には、基礎杭23については省略することができる。一方、跳ね出し基礎部分22に作用する鉛直荷重の全部を基礎杭23で支持する場合には、跳ね出し基礎部分22を直接基礎部分21に対して鉛直荷重の伝達を回避するように縁切りすることができる。
【0028】
(3)上記実施形態では、跳ね出し基礎部分22に対する基礎杭23の杭頭部23aの接合をピン接合としたが、杭頭部23aに発生する曲げモーメントが問題とならない範囲内で、跳ね出し基礎部分22に対する杭頭部23aの接合を剛接合又は半剛接合とすることもできる。
【符号の説明】
【0029】
1 斜面地建築物
2 基礎構造
21 直接基礎部分
21a 支圧面(傾斜支圧面)
22 跳ね出し基礎部分
23 基礎杭
23a 杭頭部
A1 安定角度線以浅領域
A2 安定角度線以深領域
C 斜面
Cb 下端
F 支圧力
H 水平面
L 安定角度線
θ 安定角度