(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-23
(45)【発行日】2024-05-02
(54)【発明の名称】恒温測定システム
(51)【国際特許分類】
G05D 23/19 20060101AFI20240424BHJP
G01B 21/02 20060101ALI20240424BHJP
【FI】
G05D23/19 G
G01B21/02 Z
(21)【出願番号】P 2020182519
(22)【出願日】2020-10-30
【審査請求日】2023-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】593146017
【氏名又は名称】光精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147625
【氏名又は名称】澤田 高志
(72)【発明者】
【氏名】西村 憲一
(72)【発明者】
【氏名】西村 昌能
(72)【発明者】
【氏名】山本 啓二
(72)【発明者】
【氏名】藤田 直紀
(72)【発明者】
【氏名】入舩 泰輝
(72)【発明者】
【氏名】鯖戸 雅貴
【審査官】今井 貞雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-261679(JP,A)
【文献】特開昭58-55708(JP,A)
【文献】特開平7-27572(JP,A)
【文献】特開2008-249352(JP,A)
【文献】特開2016-176791(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 23/19
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定物の形状寸法を測定して寸法情報を出力する測定装置と、
基準形状を有するマスターワークを冷却または加熱する第1冷熱ユニットと、
前記マスターワークの温度を測定してマスター温度情報を出力する第1温度センサと、
前記測定装置を冷却または加熱する第2冷熱ユニットと、
前記測定装置の温度を測定して測定装置温度情報を出力する第2温度センサと、
測定対象の被測定ワークの温度を測定してワーク温度情報を出力する第3温度センサと、
前記マスター温度情報、前記ワーク温度情報および前記測定装置温度情報が入力されるとともにこれらの温度情報に基づいて前記第1冷熱ユニットおよび前記第2冷熱ユニットの出力温度を制御する温度コントローラと、を含み、
前記温度コントローラは、温度一致制御として、前記マスターワークの温度が前記被測定ワークの温度に一致するように前記第1冷熱ユニットの出力温度を制御し、かつ、前記測定装置の温度が前記被測定ワークの温度に一致するように前記第2冷熱ユニットの出力温度を制御する、ことを特徴とする恒温測定システム。
【請求項2】
被測定物の形状寸法を測定して寸法情報を出力する測定装置と、
基準形状を有するマスターワークを冷却または加熱する第1冷熱ユニットと、
前記マスターワークの温度を測定してマスター温度情報を出力する第1温度センサと、
前記測定装置の温度を測定して測定装置温度情報を出力する第2温度センサと、
測定対象の被測定ワークを冷却または加熱する第2冷熱ユニットと、
前記被測定ワークの温度を測定してワーク温度情報を出力する第3温度センサと、
前記マスター温度情報、前記測定装置温度情報および前記ワーク温度情報が入力されるとともにこれらの温度情報に基づいて前記第1冷熱ユニットおよび前記第2冷熱ユニットの出力温度を制御する温度コントローラと、を含み、
前記温度コントローラは、温度一致制御として、前記マスターワークの温度が前記測定装置の温度に一致するように前記第1冷熱ユニットの出力温度を制御し、かつ、前記被測定ワークの温度が前記測定装置の温度に一致するように前記第2冷熱ユニットの出力温度を制御する、ことを特徴とする恒温測定システム。
【請求項3】
被測定物の形状寸法を測定して寸法情報を出力する測定装置と、
基準形状を有するマスターワークを冷却または加熱する第1冷熱ユニットと、
前記マスターワークの温度を測定してマスター温度情報を出力する第1温度センサと、
前記測定装置を冷却または加熱する第2冷熱ユニットと、
前記測定装置の温度を測定して測定装置温度情報を出力する第2温度センサと、
測定対象の被測定ワークを冷却または加熱する第3冷熱ユニットと、
前記被測定ワークの温度を測定してワーク温度情報を出力する第3温度センサと、
前記マスター温度情報、前記測定装置温度情報および前記ワーク温度情報が入力されるとともにこれらの温度情報に基づいて前記第1冷熱ユニット、前記第2冷熱ユニットおよび前記第3冷熱ユニットの出力温度を制御する温度コントローラと、を含み、
前記温度コントローラは、温度一致制御として、前記マスターワーク、前記被測定ワークおよび前記測定装置の各温度が予め定められた所定の温度にそれぞれ一致するように、前記第1冷熱ユニット、前記第2冷熱ユニットおよび前記第3冷熱ユニットの出力温度を制御する、ことを特徴とする恒温測定システム。
【請求項4】
前記第1冷熱ユニットおよび前記第2冷熱ユニットは、前記温度コントローラにより冷却制御または加熱制御されるペルチェモジュールを備えることを特徴とする請求項1または2に記載の恒温測定システム。
【請求項5】
前記第1冷熱ユニット、前記第2冷熱ユニットおよび前記第3冷熱ユニットは、前記温度コントローラにより冷却制御または加熱制御されるペルチェモジュールを備えることを特徴とする請求項3に記載の恒温測定システム。
【請求項6】
前記寸法情報が入力される計測コントローラをさらに含み、
前記計測コントローラは、前記温度一致制御による温度の一致状態において、前記マスターワークの測定により前記寸法情報として前記測定装置から出力されるマスター寸法情報と、前記被測定ワークの測定により前記寸法情報として前記測定装置から出力されるワーク寸法情報と、を比較して両者の寸法誤差を出力する、または前記寸法誤差が所定の範囲内であるか否かを判定してその結果を出力する、ことを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の恒温測定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定ワークの形状寸法を測定する恒温測定システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
鍛造や切削等による金属加工においては、ミクロンオーダの加工精度が要求される場合があるが、典型的にはワークは加工時の発熱により熱膨張する。そのため、所定温度に冷却された後に寸法測定されることが多い。寸法測定を行う計測装置においても、被測定物に測定子を接触させて計測するダイヤルゲージやリニアゲージ等は、当該装置の周囲温度の変化によりダイヤルゲージ等を支える支柱が膨張したり収縮したりし得る。そのため、このような計測装置は、空調装置で温度管理された室内に設備されることが望ましい。
【0003】
加工後のワークを所定温度に冷却する装置として、例えば下記特許文献1に開示される「恒温槽」がある。しかし、恒温槽は体格が大きく大掛かりになり易いため、製造現場によっては作業スペース等の都合上、設けることが難しい場合がある。また、製造ライン等に寸法測定を行う計測装置が設備されているケースでは、製造ライン等の全体を空調装置等により温度管理する必要があるものの、そのような空調設備を設けることが現実的ではない場合もある。
【0004】
そこで、比較的コンパクトなサイズでありながら、加工後のワーク等を所定温度に冷却し得る装置として、例えば、下記特許文献2に開示される「精密定温度定盤」がある。この精密定温度定盤では、上記ワーク等の金属加工物を載置し得る石板を冷却可能な電子クーラーと、その石板下部に埋設された温度センサとを温度調節器に接続することにより、石板上に載置された金属加工物を冷却し得るように構成されている。石板のサイズは、一辺40cm四方、厚さ20mm~30mmである(特許文献2;段落0006)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-177459号公報
【文献】特開平9-126703号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献2に開示される精密定温度定盤は、上述のように温度センサが石板下部に埋設された構成を採る。そのため、当該精密定温度定盤では、上記ワーク等の金属加工物の温度を直接的に測定することは難しいことに加え、一般に金属板と比較して熱容量が大きい石板は温度変化が遅い。したがって、ある程度の温度制御は可能でも精密な温度管理の実現は技術的なハードルが高いという問題がある。
【0007】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、大掛かりな設備を設けることなく、熱膨張や熱収縮の影響を受け難いように精密に温度管理された被測定物の形状寸法を測定し得る恒温測定システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、特許請求の範囲に記載された請求項1の技術的手段を採用する。この手段によると、測定装置、第1冷熱ユニット、第1温度センサ、第2冷熱ユニット、第2温度センサ、第3温度センサおよび温度コントローラを含む。そして、第1温度センサは、マスターワークの温度を測定してマスター温度情報を出力する。第2温度センサは、測定装置の温度を測定して測定装置温度情報を出力する。第3温度センサは、測定対象の被測定ワークの温度を測定してワーク温度情報を出力する。温度コントローラは、温度一致制御として、マスターワークの温度が被測定ワークの温度に一致するように第1冷熱ユニットの出力温度を制御し、かつ、測定装置の温度が被測定ワークの温度に一致するように第2冷熱ユニットの出力温度を制御する。これにより、マスターワークと被測定ワークの温度が異なる場合、マスターワークと測定装置の温度が異なる場合や、被測定ワークと測定装置の温度が異なる場合(以下「マスターワーク等の三者の温度が異なる場合」という)があっても、マスターワークや測定装置が冷却されたり加熱されたりして、マスターワークと測定装置の温度が被測定ワークの温度と同じになる。また、各温度センサは、マスターワーク、被測定ワークや測定装置の温度を測定するので、第1冷熱ユニット等の温度を測定する場合に比べて高精度に測定することが可能になる。そのため、被測定ワークを冷却や加熱する冷熱ユニットを設けることなく、これら三者の温度を高精度に揃えることが可能になる。なお、本明細書において、○○○の出力温度とは、○○○の吸熱や発熱により○○○自体または○○○に熱結合する物の温度が低下したり上昇したりした場合のその温度のことをいう(○○○には任意の同じ名称が入る)。
【0009】
上記目的を達成するため、特許請求の範囲に記載された請求項2の技術的手段を採用する。この手段によると、測定装置、第1冷熱ユニット、第1温度センサ、第2冷熱ユニット、第2温度センサ、第3温度センサおよび温度コントローラを含む。そして、第1温度センサは、マスターワークの温度を測定してマスター温度情報を出力する。第2温度センサは、測定装置の温度を測定して測定装置温度情報を出力する。第3温度センサは、被測定ワークの温度を測定してワーク温度情報を出力する。温度コントローラは、温度一致制御として、マスターワークの温度が測定装置の温度に一致するように第1冷熱ユニットの出力温度を制御し、かつ、被測定ワークの温度が測定装置の温度に一致するように第2冷熱ユニットの出力温度を制御する。これにより、マスターワーク等の三者の温度が異なる場合があっても、マスターワークや被測定ワークが冷却されたり加熱されたりして、マスターワークと被測定ワークの温度が測定装置の温度と同じになる。また各温度センサは、マスターワーク、被測定ワークや測定装置の温度を測定するので、第1冷熱ユニット等の温度を測定する場合に比べて高精度に測定することが可能になる。そのため、測定装置に冷熱ユニットを設けることなく、これら三者の温度を高精度に揃えることが可能になる。
【0010】
上記目的を達成するため、特許請求の範囲に記載された請求項3の技術的手段を採用する。この手段によると、測定装置、第1冷熱ユニット、第1温度センサ、第2冷熱ユニット、第2温度センサ、第3冷熱ユニット、第3温度センサおよび温度コントローラを含む。そして、第1温度センサは、マスターワークの温度を測定してマスター温度情報を出力する。第2温度センサは、測定装置の温度を測定して測定装置温度情報を出力する。第3温度センサは、被測定ワークの温度を測定してワーク温度情報を出力する。温度コントローラは、温度一致制御として、マスターワーク、被測定ワークおよび測定装置の各温度が予め定められた所定の温度にそれぞれ一致するように、第1冷熱ユニット、第2冷熱ユニットおよび第3冷熱ユニットの出力温度を制御する。これにより、マスターワーク等の三者の温度が異なる場合があっても、マスターワーク、被測定ワークや測定装置が冷却されたり加熱されたりして、これら三者の温度を予め定められた所定の温度に高精度に揃えることが可能になる。
【0011】
また、特許請求の範囲に記載された請求項4の技術的手段や請求項5の技術的手段を採用する。これらの手段によると、第1冷熱ユニット、第2冷熱ユニットや第3冷熱ユニットは、温度コントローラにより冷却制御または加熱制御されるペルチェモジュールを備える。例えば、ペルチェモジュールは、複数のペルチェ素子を直列および/または並列に接続して構成されるものである。ペルチェモジュールは、所定電圧を印加することにより一方側で発熱し他方側で吸熱をする。そして、印加電圧の極性を逆に変更することによって一方側で吸熱し他方側で発熱する。つまり、印加する所定電圧の極性を切り換えることによって、同じペルチェモジュールを発熱体や吸熱体として機能させることが可能になる。これにより、発熱体と吸熱体のそれぞれを用いて第1冷熱ユニット、第2冷熱ユニットや第3冷熱ユニットを構成する場合に比べて、1つのペルチェモジュールでこれら第1~第3冷熱ユニットを構成することが可能になる。したがって、第1冷熱ユニット、第2冷熱ユニットや第3冷熱ユニットをシンプルに構成することができる。
【0012】
また、特許請求の範囲に記載された請求項6の技術的手段を採用する。この手段によると、計測コントローラをさらに含み、計測コントローラは、温度一致制御による温度の一致状態において、マスターワークの測定により寸法情報として測定装置から出力されるマスター寸法情報と、被測定ワークの測定により寸法情報として測定装置から出力されるワーク寸法情報と、を比較して両者の寸法誤差を出力したり、寸法誤差が所定の範囲内であるか否かを判定してその結果を出力したりする。これにより、被測定ワークの形状寸法に関する検査の自動化が可能になる。したがって、大掛かりな設備を設けることなく、熱膨張や熱収縮の影響を受け難いように精密に温度管理された被測定物の形状寸法を測定することができるとともに、被測定ワークの形状寸法検査を自動的に行うことができる。
【0013】
なお、マスター寸法情報およびワーク寸法情報は、請求項1~5の温度一致制御による温度の一致状態において測定装置から出力されるものであり、測定装置がマスターワークや被測定ワークの形状寸法を測定するタイミングにおいて、マスターワークや被測定ワークの温度が特定温度に一致している状態(温度の一致状態)にあれば、測定装置がマスターワークの形状寸法を測定するタイミングと、測定装置が被測定ワークの形状寸法を測定するタイミングと、が同じ時期(同時)でも異なる時期(異時)でもよい。特定温度は、請求項1では「被測定ワークの温度」、請求項2では「測定装置の温度」、請求項3では「所定の温度」である。したがって、「温度一致制御による温度の一致状態において」は、マスターワーク、被測定ワークおよび測定装置の三者の温度が一致している状況を表すものであり、測定装置によるマスターワークや被測定ワークの測定タイミングの一致(同時)を表すものではない。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、大掛かりな設備を設けることなく、熱膨張や熱収縮の影響を受け難いように精密に温度管理された被測定物の形状寸法を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る恒温測定システムの構成例を示すブロック図である。
【
図2】本第1実施形態の恒温測定システムに含まれる冷熱装置の構成例を示す模式的な斜視図であり、
図2(A)は、被測定ワークまたはマスターワークをセットする前の図であり、
図2(B)は被測定ワークまたはマスターワークをセットした後の図である。
【
図3】本第1実施形態の恒温測定システムに含まれる冷熱装置の他の構成例を示す模式的な斜視図であり、
図3(A)は斜め上方から見た図であり、
図3(B)は長手方向に切断した断面を短手方向から見た図である。
【
図4】本第1実施形態の恒温測定システムにおいて温度コントローラが実行する恒温制御処理の流れを示すフローチャートである。
【
図5】本第1実施形態の恒温測定システムにおいて温度コントローラが実行する冷熱制御処理の流れを示すフローチャートである。
【
図6】本発明の第2実施形態に係る恒温測定システムの構成例を示すブロック図である。
【
図7】本第2実施形態の恒温測定システムにおいて計測コントローラが実行する情報処理の流れを示すフローチャートであり、
図7(A)は計測制御処理のフローチャート、
図7(B)は、
図7(A)に示す寸法計測処理のフローチャート、
図7(C)は、
図7(A)に示すOK/NG処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の恒温測定システムの各実施形態について図を参照して説明する。
[第1実施形態]
本発明の恒温測定システムの第1実施形態について
図1~
図5を参照して説明する。
図1に示すように、本第1実施形態の恒温測定システム10は、例えば、被測定ワークW、マスターワークMや計測装置20を特定温度に保つためのシステムであり、主に、計測装置20、冷熱装置40,50、温度センサ61~63、温度コントローラ70により構成されている。本第1実施形態では、被測定ワークWやマスターワークMは、例えば、径の異なる円柱体を同軸に積み重ねた形状を有する金属製の軸部品であり同じ材質からなる。
【0017】
計測装置20は、被測定物X(例えば、被測定ワークWやマスターワークM)の形状寸法を計測する器械であり、上部に平坦面21aを有する測定台21、この測定台21から垂直に立ち上がる円柱形状の支柱23、測定台21に対して上下動可能に支柱23に取り付けられるブラケット25、このブラケット25に保持される測定ユニット30等を備えている。測定台21、支柱23やブラケット25を組み合わせたものは「スタンド」と呼ばれ、測定台21は「定盤」と呼ばれることもある。本第1実施形態では、支柱23は金属製である。被測定物Xは、測定台21の平坦面21aに載置されて測定ユニット30に形状寸法を測定される。
【0018】
測定ユニット30は、例えば、ダイヤルゲージであり、本体部31、スピンドル32、測定子33、表示部35等により構成され、本体部31から出入自在に突出するスピンドル32の移動量(突出量)を直線距離として精密に測り得る測定装置である。スピンドル32の先端には、被測定物Xに接触する測定子33が設けられている。またスピンドル32の後端には、スピンドル32の直線運動を回転運動に変換する図略のラック・アンド・ピニオンのラックギヤが設けられている。ピニオンギヤは、その動きを拡大する拡大伝達機構等を介して本体部31の表示部35に連結され指針35aを回転させ得るように構成されている。これらのギヤや拡大伝達機構等は本体部31内に収容されている。
【0019】
本第1実施形態では、測定ユニット30は、計測装置20のスタンド(測定台21、支柱23、ブラケット25)のブラケット25に取り付けられて使用される。具体的には、被測定物X等に測定子33を接触させたときに表示部35の指針35aが指し示す目盛り(図略)を読み取ることでスピンドル32の移動量を測定する。そのため、例えば、マスターワークMに対する被測定ワークWの寸法誤差をスピンドル32の移動量として測定したり、測定子33が接触した被測定物X等の部位の大きさ(幅や高さ)を測定台21の平坦面から当該部位までのスピンドル32の移動量として測定したりすることができる。
【0020】
本第1実施形態の計測装置20は、測定ユニット30を支えるスタンドを構成する、測定台21、支柱23、ブラケット25に加えて、ペルチェユニット27やファンユニット29も備えている。支柱23は、前述のように金属製であるため、温度変化により径方向や軸方向に膨張したり縮小したりする。即ち、計測装置20の周囲温度が変化すると、測定ユニット30を支える支柱23が膨張や収縮して支柱23の軸長が長くなったり短くなったりし得る。支柱23の軸方向は、それに支えられる測定ユニット30のスピンドル32の移動方向に一致し得ることから、このような支柱23の軸長の変化はスピンドル32の移動量に影響を与え得る。
【0021】
例えば、熱膨張により支柱23の軸長が長くなった場合には、支柱23に支持される測定ユニット30が測定台21から離れる方向に移動するため、スピンドル32の移動量は支柱23のほぼ熱膨張分増加し得る。これとは逆に、熱収縮により支柱23の軸長が短くなった場合には、測定ユニット30が測定台21に近づく方向に移動するため、スピンドル32の移動量は支柱23のほぼ熱収縮分減少し得る。
【0022】
このため、本第1実施形態では、支柱23の温度を制御し得るペルチェユニット27等を支柱23に設けるとともに、後述するように温度コントローラ70によりペルチェユニット27による冷却や加熱を制御し得るように恒温測定システム10を構成する。これによって、熱膨張や熱収縮に起因した支柱23の軸長の変化が測定ユニット30のスピンドル32の移動量に与える影響を軽減し得るようにしている。なお、支柱23に設けられるペルチェユニット27等の構成については後述する。
【0023】
このように本第1実施形態の恒温測定システム10では、ペルチェユニット27等により計測装置20の全体を冷却したり加熱したりするのではなく、計測装置20の周囲温度の変化により熱膨張や熱収縮して当該計測装置20(測定ユニット30)による測定に影響を与え得る特定部分(この例では支柱23)だけを、局所的にペルチェユニット27等により冷却や加熱し得るように構成している。これにより、周囲の温度変化に影響を受け易い部分として支柱23に対して効率的に冷却や加熱を行うことが可能になる。
【0024】
本第1実施形態では、以下、マスターワークMに対する被測定ワークWの寸法誤差を測定したり良品検査の合否を判定したりする検査工程において、測定ユニット30にダイヤルゲージを用いる場合を例示して説明する。
【0025】
なお、上述のように測定ユニット30は、被測定ワークWやマスターワークMのそれぞれの所定部位について寸法測定する場合にも用いることが可能である。また、測定ユニット30がダイヤルゲージである場合には、ダイヤルタイプのほかに梃子(てこ)タイプのダイヤルゲージを用いることも可能である。
【0026】
冷熱装置40,50は、被測定ワークWやマスターワークM(以下、これらをまとめて「ワークW,M」という場合がある)を冷却したり加熱したりすることが可能な冷熱ユニットであり、これらはほぼ同様に構成されている。そのため、ここでは冷熱装置40,50のうち、冷熱装置40を代表してこれらの構成について
図1および
図2を参照して説明する。冷熱装置50については、各部に付与された符号「4x」を「5x」に置き換えることにより説明できる(xは一桁の数字)。なお、
図2には、被測定ワークW(またはマスターワークM)を冷熱装置40(または冷熱装置50)に載置する前後の状態が図示されている(
図2(A)は載置前の状態、
図2(B)は載置後の状態)。
【0027】
冷熱装置40は、例えば、冷熱キャビティ41、ペルチェユニット43、ヒートシンク44、ファンユニット47等により構成されている。冷熱キャビティ41は、例えば、比較的廉価で熱伝導率の大きい金属(例えば、銅やアルミニウム等)からなる厚板のプレートであり、その上面41aにはワークW,Mの径方向半分を収容可能な凹部42が形成されている。この凹部42の形状は、ワークW,Mの形状によって異なるが、基本的には、冷熱キャビティ41にワークW,Mを容易に載置したり取り出したりすることが可能な凹形状であって、凹部42の内表面とマスターワークMの外表面との接触面積が最大になり得るように構成されている。なお、図示されていないが、ヒートシンク44やファンユニット47を冷熱キャビティ41に図略のボルトのねじ締結により取り付けるための雌ねじ孔が、例えば、当該冷熱キャビティ41の四隅に形成されている。
【0028】
なお、
図2(B)に示すように、被測定ワークWやマスターワークMを冷熱キャビティ41に載置した状態において、凹部42の内表面とワークW,Mの外表面との間に隙間(空間)が生じる場合には、これらの間に機械油MOが入り込むことにより両者間における熱伝達効率を向上させることが可能になる。被測定ワークWの加工中には冷却用に機械油MOが被測定ワークWに散布され、また加工後においては機械油MOが満たされた冷却槽に被測定ワークWが投入され得る。そのため、加工後の被測定ワークWは、概ね機械油MOの油膜に覆われていることから、このような膜状にワークW,Mを覆う機械油MOが凹部42とワークW,Mの間に介在することで熱伝達効率の低下を抑制し得る。
【0029】
ペルチェユニット43は、薄板形状の冷熱モジュールであり、冷熱装置40の吸熱体や発熱体として機能するものである。例えば多数のペルチェ素子を有する。ペルチェ素子は、異種金属の接合部に電流を流すと一方の金属から他方に金属に熱が移動するペルチェ効果を利用した半導体素子である。ペルチェユニット43は、このようなペルチェ素子を多数、電気的に直列に接続して2枚のセラミック基板の間に挟み込むように構成されている。ペルチェユニット43は、順方向に電流を流すと一方面側で吸熱し他方面側で発熱し、逆方向に電流を流すと一方面側で発熱し他方面側で吸熱する。また、ペルチェユニット43に供給される電力(駆動電力)を増減により吸熱量や発熱量を増やしたり減らしたりすることができる。
【0030】
本第1実施形態では、ペルチェユニット43の一方面側のセラミック基板が冷熱キャビティ41の下面41bに対してほぼ全面において熱結合し得るように冷熱キャビティ41の下面41bと同様の矩形状に形成されている。また、このセラミック基板と冷熱キャビティ41の下面41bとの間には、熱伝導率の大きいペースト状のシリコングリスが介在している。なお、ペルチェユニット43の他方面側のセラミック基板は、次に説明するヒートシンク44に対してシリコングリスを介して熱結合する。
【0031】
ペルチェユニット43には、直流電力を供給するためのプラス電極とマイナス電極が設けられており、本第1実施形態では、温度コントローラ70に内蔵された図略のペルチェドライバ回路に接続されている。ペルチェユニット43は、供給される直流電力の極性が入れ替わることによって一方面側または他方面側の吸熱(冷却)や発熱(加熱)を切り換えることができる。ペルチェユニット43は、ヒートシンク44が前述の図略のボルトのねじ締結により冷熱キャビティ41に取り付けられる際に冷熱キャビティ41とヒートシンク44の間にサンドイッチ状に挟持されて両者間に固定される。
【0032】
なお、前述した計測装置20のペルチェユニット27も、吸熱体や発熱体として機能するものである。電気的にはペルチェユニット43と同様に構成されているが、複数の短冊状片に分割されてこれらが電気的に直列に接続されている。例えば、1枚の短冊状片は、支柱23(円柱形状)の軸方向に沿った細長の矩形形状を有し、支柱23の周囲を囲み得るように配置上の断面形状がロ字状、コ字状またはL字状を成すように複数の短冊状片が支柱23に取り付けられている。また、これらの短冊状片からなるペルチェユニット27と支柱23の間にも、上記のシリコングリスが介在している。また、ペルチェユニット27の支柱23に対する取付構造は、例えば、後述するファンユニット29の専用ブラケット等を介して取り付け可能に構成される。
【0033】
なお、ペルチェユニット43,53,27に供給される駆動電力を増加させたり減少させたり制御することによって、ペルチェユニット43,53,27の吸熱量や発熱量を増やしたり減らしたりすることができる。そのため、ペルチェユニット43,53に供給される駆動電力の増減によって、結果的に冷熱装置40,50がワークW,Mを冷却や加熱する温度(冷熱装置40,50の出力温度)を制御することが可能になる。
【0034】
ヒートシンク44は、例えば、一方側に平坦面、他方側に放熱用の複数のフィン45を有するアルミニウム製の放熱板である。ヒートシンク44の平坦面は、前述したペルチェユニット43を構成する他方のセラミック基板に対してほぼ全面において熱結合し得るように同セラミック基板と同様の矩形状に形成されている。このセラミック基板とヒートシンク44の平坦面との間には、熱伝導率の大きいペースト状のシリコングリスが介在している。ヒートシンク44の他方側に形成される複数のフィン45は、その先端がファンユニット47の吸気側に接するように配置されている。
【0035】
ヒートシンク44は、前述の図略のボルトを介して冷熱キャビティ41にねじ締結されるか、または次に説明するファンユニット47が前述の図略のボルトを介して冷熱キャビティ41にねじ締結される際にペルチェユニット43とともに冷熱キャビティ41とファンユニット47の間にサンドイッチ状に挟持されてペルチェユニット43とファンユニット47の間に固定される。
【0036】
ファンユニット47は、例えば、DCモータでファンブレードを回転させ得る軸流タイプの冷却ファンであり(DCモータやファンブレードは図示されていない)、外部に排熱する機能を有するものである。本第1実施形態では、前述したヒートシンク44の他方側(フィン45側)に吸気側が接するように、つまり排気側が周囲空間に向くように、図略のボルトを介して冷熱キャビティ41またはヒートシンク44にねじ締結される。このファンユニット47は、他のファンユニット29,57とともに温度コントローラ70に内蔵された図略のファンドライバ回路から個別に駆動電力が供給される。なお、流通する冷水により排熱する機能を有するウォータジャケットを、ファンユニット47に代えて用いたり、ファンユニット47と併用したりしてもよい。
【0037】
なお、前述した計測装置20のファンユニット29も、電気的にはファンユニット47と同様に構成されているが、ファンユニット29やそのファンブレードの大きさや形状が短冊状片からなるペルチェユニット27に適した形状等に構成されている点がファンユニット47,57と異なる。また支柱23に対するファンユニット29の取付構造は、専用ブラケット等を介して取り付け可能に構成される。なお、ファンユニット47と同様に前述のウォータジャケットを、ファンユニット29に代えて用いたり、ファンユニット29と併用したりしてもよい。
【0038】
温度センサ61,62は、非接触タイプの放射温度センサであり、被測定ワークWやマスターワークM等の被測定対象物が発する赤外線をワークW,Mの上方からそれぞれ検知してその温度を測定するものである。そのため、温度センサ61,62は、例えば、冷熱装置40,50に載置されたワークW,Mから放射される赤外線をこれらの斜め上方から吸収可能な位置関係を維持し得るように図略のスタンド等に設けられる。
【0039】
本第1実施形態では、温度センサ61は、被測定ワークWの温度情報としてワーク温度情報を出力し、温度センサ62は、マスターワークMの温度情報としてマスター温度情報を出力する。温度センサ61,62は、いずれも温度コントローラ70に接続されているため、これらから出力される温度情報(ワーク温度情報、マスター温度情報)は、温度コントローラ70に入力される。
【0040】
温度センサ63は、接触タイプの温度センサ(例えば、熱電対やサーミスタ)であり、計測装置20の支柱23に取り付けられて支柱23の温度を測定するものである。温度センサ63は、例えば、その温度検知部分が支柱23に対して直接的またはシリコングリス等を介して間接的に接するように支柱23に取り付けられる。本第1実施形態では、温度センサ61,62と同様に、温度センサ63も温度コントローラ70に接続されている。そのため、計測装置20の支柱23の温度情報として温度センサ63から出力された測定装置温度情報は、温度コントローラ70に入力される。また、外部から特定温度情報が入力されることもある。
【0041】
温度コントローラ70は、例えば、MPU、メモリ(RAM、ROM(EEPROMを含む))、入出力インタフェース、ペルチェドライバ回路、ファンドライバ回路等により構成されるマイコンユニットである(TCNT)。本第1実施形態では、冷熱装置40のペルチェユニット43、冷熱装置50のペルチェユニット53、計測装置20のペルチェユニット27がペルチェドライバ回路に接続され、また冷熱装置40等のファンユニット47,57,29がファンドライバ回路に接続されてそれぞれ駆動制御される。また温度コントローラ70の入出力インタフェースには温度センサ61~63が接続されており、これらから出力される被測定ワークWのワーク温度情報、マスターワークMのマスター温度情報や計測装置20の支柱23の測定装置温度情報が温度コントローラ70に入力される。
【0042】
これらの温度情報に基づいて、温度コントローラ70が後述の恒温制御処理や冷熱制御処理を実行することによって、冷熱装置40等のペルチェユニット43,53,27の温度制御が行われる。なお、冷熱装置40のファンユニット47、冷熱装置50のファンユニット57、計測装置20のファンユニット29については、いずれも、例えば、温度コントローラ70の電源スイッチ(図略)がオンされて電源が投入されたほぼ直後から起動され、電源オフの検知により所定時間経過後に停止するように制御される。これらのファンユニット47,57,29に対する制御も、温度コントローラ70に入力されるワーク温度情報、マスター温度情報や測定装置温度情報に基づいて、起動や停止が個々に行われるように構成してもよい。
【0043】
本第1実施形態では、
図2に示すように、冷熱装置40,50の冷熱キャビティ41,51を厚板のプレートにより構成したが、例えば、
図3(A)や
図3(B)に示すように、内部空間SPに機械油MOを満たし得る無蓋の矩形箱形状に冷熱キャビティ141を構成してもよい。このような冷熱キャビティ141を備える冷熱装置140では、冷熱キャビティ141の内部空間SPにワークW,Mが収容されてその全体が機械油MOに浸かる。そのため、ワークW,Mの全体が機械油MOととも冷却されたり加熱されたりすることから、
図2の冷熱装置40,50の冷熱キャビティ41,51に比べて、効率よくワークW,Mの温度を制御することが可能になる。なお、図面表現上の便宜から
図3においては、内部空間SPに貯留された機械油MOを薄い灰色に着色している。
【0044】
冷熱装置140は、例えば、冷熱キャビティ141、ペルチェユニット145、ヒートシンク146、ファンユニット148,149等により構成されている。冷熱キャビティ141は、例えば、比較的廉価で熱伝導率の大きい金属(例えば、銅やアルミニウム等)からなり、片仮名のロ字状に配置される4枚の側壁部142と、これらの側壁部142に囲まれる内部空間SPの底を塞ぐ底部143とにより構成されている。これらは、いずれも厚肉であり一体に形成されている。底部143には、図略のボルトのねじ締結により取り付けるための雌ねじ孔が複数箇所に形成されている。冷熱キャビティ141は、冷熱装置40,50の冷熱キャビティ41,51に比べると、その開口や底部143の形状は、ワークW,Mの軸方向形状よりも一回り大きい細長矩形に形成されている。
【0045】
ペルチェユニット145は、冷熱キャビティ141の底部143に対してほぼ全面において熱結合し得るように底部143と同様の細長矩形状にペルチェユニット145のセラミック基板が形成される点を除いて前述したペルチェユニット43とほぼ同様に構成される。また、複数のフィン147を有するヒートシンク146も、底部143と同様の細長矩形状に形成される点を除いて前述したヒートシンク44とほぼ同様に構成されている。
【0046】
ヒートシンク146は、前述の図略のボルトを介して冷熱キャビティ141の底部143にねじ締結されるか、またはファンユニット148,149が前述の図略のボルトを介して底部143にねじ締結される際にペルチェユニット145とともに冷熱キャビティ141の底部143とファンユニット148,149の間にサンドイッチ状に挟持されてペルチェユニット145とファンユニット148,149の間に固定される。
【0047】
ヒートシンク146が細長矩形状に形成されるため、冷熱装置140は2つの小型のファンユニット148,149を備えている。ファンユニット148,149は、ファンユニット47,57よりも小型である点を除いて、ファンユニット47,57と同様に構成される。なお、ファンユニット148,149は、いずれも図略のボルトを介して冷熱キャビティ141またはヒートシンク146にねじ締結される。なお、ファンユニット47と同様に前述したウォータジャケットを、ファンユニット148,149に代えて用いたり、ファンユニット148,149と併用したりしてもよい。
【0048】
なお、内部空間SPに貯留される機械油MOの注入量は、ワークW,Mの全体が機械油MOに浸かる量でも、またワークW,Mの一部が内部空間SPに露出し得る量であってもよい(
図3(B)に示す一点鎖線L)。機械油MOの注入量を一点鎖線L付近に留めることによって、ワークW,Mの一部が内部空間SPに露出することから、ワークW,Mの全体が機械油MOに覆われる場合に比べて温度センサ61,62での温度測定の際に機械油MOの影響を受け難い。そのため、温度センサ61,62(放射温度センサ)による温度の測定精度を高めることが可能になる。
【0049】
次に、温度コントローラ70により実行される恒温制御処理や冷熱制御処理について
図4および
図5を参照しながら説明する。この恒温制御処理と冷熱制御処理は、温度コントローラ70のメモリ(ROM)に記憶された恒温制御プログラムや冷熱制御プログラムを温度コントローラ70のMPUが実行することにより実現される。本第1実施形態では、後述のように恒温制御処理と冷熱制御処理が並列に実行される。そのため、温度コントローラ70にはタスク制御プログラムも実装されている。恒温制御プログラム(恒温制御処理)は、温度コントローラ70の電源スイッチ(図略)がオンされて電源が投入された直後から起動される(恒温制御タスク)。
【0050】
なお、ここでは、被測定ワークWが冷熱装置40に載置され、またマスターワークMが冷熱装置50に載置された状態を前提に説明するが、例えば、冷熱装置40,50のいずれにも被測定ワークWやマスターワークMが載置されていない場合についても同様に説明することができる。被測定ワークWやマスターワークMが載置されていない場合においては、温度センサ61,62により測定される温度は冷熱キャビティ41,51の温度になるため、以下の恒温制御処理や冷熱制御処理の説明においては、被測定ワークWやマスターワークMの温度(マスター温度情報やワーク温度情報)が冷熱キャビティ41,51の温度になる。この場合には、冷熱キャビティ41,51は、ワークW,Mの載置に備えて待機している状態になる。
【0051】
図4に示すように、恒温制御処理では、まずステップS101により所定の初期化処理が行われる。この処理では、例えば、温度コントローラ70のメモリ(RAM)の本処理用のワーク領域やフラグをクリアしたり、ペルチェドライバ回路や温度センサ61,62に初期設定用の制御コマンドを送出したりする。
【0052】
次のステップS103では特定温度情報取得処理が行われる。本恒温制御処理は、冷熱装置40,50のペルチェユニット43,53および計測装置20のペルチェユニット27を制御して、被測定ワークW、マスターワークMや計測装置20の支柱23の温度を特定の同じ温度(特定温度)に合わせて(揃えて)保つことを主な目的とする。そのため、この特定温度情報取得処理では、一致させる特定温度の情報が取得される。
【0053】
特定温度の情報は、例えば、(1)温度コントローラ70の外部から図略の操作パネル等を介して数値入力されて取得される。入力操作は検査工程の担当者により行われ、例えば23℃(所定の温度)に設定される(23℃±1℃のように上下1℃の誤差を許容する場合には22℃~24℃のように上限温度と下限温度がそれぞれ設定される)。また(2)温度センサ61により測定されて温度コントローラ70に入力される現在の被測定ワークWの温度情報(ワーク温度情報)を、特定温度の情報として取得してもよい。さらに(3)温度センサ63により測定されて温度コントローラ70に入力される現在の計測装置20の支柱23の温度情報(測定装置温度情報)を、特定温度の情報として取得してもよい。また(4)温度センサ62により測定されて温度コントローラ70に入力される現在のマスターワークMの温度情報(マスター温度情報)を、特定温度の情報として取得してもよい。
【0054】
即ち、上記(1)の場合には図略の操作パネル等から温度コントローラ70に入力される数値情報が特定温度の情報として取得され、また上記(2)~(4)の場合には温度センサ61~63から温度コントローラ70に入力されるワーク温度情報(温度センサ61が出力)、測定装置温度情報(温度センサ63が出力)、マスター温度情報(温度センサ62が出力)が特定温度の情報として取得される。なお、後述する設定情報記憶処理(S117)により前回の特定温度情報が温度コントローラ70のメモリに記憶されている場合には、当該前回の特定温度情報をメモリから読み出して、今回の特定温度の情報として取得してもよい。特定温度情報取得処理(S103)により取得された特定温度の情報は、ステップS105の特定温度情報記憶処理により温度コントローラ70のメモリ(RAM)に記憶される。
【0055】
続くステップS107では冷熱制御起動処理が行われる。この処理では、温度コントローラ70のメモリ(ROM)に記憶された冷熱制御プログラムがMPUにより起動されて
図5に示す冷熱制御処理が開始される。本第1実施形態では、冷熱装置40,50のペルチェユニット43,53や計測装置20のペルチェユニット27のそれぞれに対応して別々の冷熱制御処理(冷熱制御タスク)が実行される。そのため、本第1実施形態では、恒温制御処理(
図4)による恒温制御タスク(親タスク)と、冷熱制御処理(
図5)による3つの冷熱制御タスク(子タスク)が並行して実行される。厳密には、後述するように、冷熱制御処理(
図5)においてもさらにその子タスク(孫タスク)としてペルチェ駆動制御タスクが実行される。このようなマルチタスク処理は、温度コントローラ70に実装されているタスク制御プログラムにより行われる。なお、
図5の冷熱制御処理については後で説明する。
【0056】
ステップS107により、ペルチェユニット43,53,27に対する各冷熱制御処理(
図5)が開始された後、後述するように温度センサ61~63により測定された温度と目標温度とが一致すると(
図5に示すS307;Yes)、本恒温制御処理に対して温度一致情報が出力される(
図5に示すS311)。
【0057】
例えば、冷熱装置40のペルチェユニット43を制御する冷熱制御処理(
図5)からは、被測定ワークWの温度が特定温度に一致した旨のワーク温度一致情報が本恒温制御処理に出力される。また、冷熱装置50のペルチェユニット53を制御する冷熱制御処理(
図5)からは、マスターワークMの温度が特定温度に一致した旨のマスター温度一致情報が本恒温制御処理に出力される。さらに、計測装置20のペルチェユニット27を制御する冷熱制御処理(
図5)からは、支柱23の温度が特定温度に一致した旨の測定装置温度一致情報が本恒温制御処理に出力される。
【0058】
このため、本恒温制御処理では、ステップS109による温度一致情報取得処理により各温度一致情報(ワーク温度一致情報、マスター温度一致情報、測定装置温度一致情報)を取得されて、次のステップS111によりこれら3つの温度一致情報が揃ったか否か、即ち、被測定ワークW、マスターワークMおよび計測装置20の支柱23のいずれの温度も特定温度に揃って(一致して)保たれているか否かの恒温判定処理が行われる。そして、特定温度に揃って保たれている(恒温完了)と判定された場合には(S111;Yes)、続くステップS113により恒温完了情報出力処理が行われる。これに対して、まだ特定温度に揃っていない(恒温未了)と判定された場合には(S111;No)、ステップS114により恒温未了情報出力処理が行われる。
【0059】
ステップS113,S114により出力される恒温完了情報や恒温未了情報は、例えば、温度コントローラ70の入出力インタフェースからデジタル信号またはアナログ信号として外部出力される。そのため、例えば、赤と緑の二色表示灯に対して、恒温完了情報の信号が出力された場合には緑色を点灯させ、また恒温未了情報の信号が出力された場合には赤色を点灯させて、検査工程の担当者に発光色により恒温完了や恒温未了の情報を告知し得るように構成することが可能になる。なお、外部出力に代えて、温度コントローラ70にカラーLED等の表示装置を設けて緑色や赤色を発光させてもよい。
【0060】
ステップS115では、温度コントローラ70の電源スイッチ(図略)がオフされたか否かを判定する処理が行われる。例えば、電源スイッチのオフ操作をトリガーにした割込み信号の入力が検知された場合には(S115;Yes)、続くステップS117により設定情報記憶処理が行われる。このような割込み信号の入力が検知されない場合には(S115;No)、電源スイッチのオフ操作はされていないので、ステップS109に戻って再度、温度一致情報取得処理等が行われる。
【0061】
ステップS117の設定情報記憶処理では、例えば、S103により取得してステップS105によりメモリに記憶した特定温度(被測定ワークW、マスターワークMや計測装置20の支柱23の温度を揃えるべき特定の同じ温度)の情報を、前回の特定温度として温度コントローラ70のメモリ(EEPROM)に記憶する。これより記憶された前回の特定温度は、例えば、特定温度情報取得処理(S103)においてメモリから読み出すことが可能になる。
【0062】
そして、次のステップS119により冷熱制御終了処理が行われることによって、冷熱制御処理(
図5)に対して制御終了情報が出力される。より具体的には、恒温制御タスクから冷熱制御タスクにタスク間通信を介して制御終了情報が送られる。本第1実施形態では、冷熱装置40,50のペルチェユニット43,53や計測装置20のペルチェユニット27のそれぞれに対応して別々の冷熱制御処理(冷熱制御タスク)が実行されている。そのため、この制御終了情報の送出されることにより、それぞれの冷熱制御処理(
図5)において行われる制御終了判定処理(S315)で「Yes」の判定が行われて各冷熱制御処理(冷熱制御タスク)の実行が終了する。その後、本恒温制御処理も終了する。
【0063】
続いて、
図5に示す冷熱制御処理について説明する。この冷熱制御処理は、前述したように、
図4の恒温制御処理の冷熱制御起動処理(S107)により冷熱制御プログラムが起動されて開始される。本第1実施形態では、冷熱装置40,50のペルチェユニット43,53や計測装置20のペルチェユニット27のそれぞれに対応する3つの冷熱制御処理が個々に実行される。これらのペルチェユニット43,53,27に対する冷熱制御処理はほぼ同様であるため、ここでは、冷熱装置40のペルチェユニット43に対応する冷熱制御処理を代表して説明する。
【0064】
図5に示すように、冷熱制御処理では、まずステップS301により目標温度設定処理が行われる。目標温度は、冷熱装置40により冷却されたり加熱されたりする被測定ワークWの温度であって到達を目指す温度のことである。本第1実施形態では、この目標温度は、恒温制御処理(
図4)の設定情報記憶処理(S117)によりメモリに記憶した特定温度のことであるから、このステップS301ではメモリから読み出された特定温度の情報が目標温度として設定される。
【0065】
次のステップS303ではペルチェ制御開始処理が行われる。この処理では、冷熱装置40のペルチェユニット43に対して駆動電力を供給するペルチェ駆動制御が開始される。このペルチェ駆動制御では、例えば、温度センサ61から出力される被測定ワークWのワーク温度情報に基づいてPID制御された駆動電力(電圧、電流)がPWM制御によりペルチェユニット43に供給される。ペルチェ駆動制御はペルチェ駆動制御プログラムによるペルチェ駆動制御タスクとして実行される。これにより、ペルチェユニット43に対する駆動電力の供給が始まることから、ペルチェユニット43の吸熱または発熱が開始されて冷熱キャビティ41に載置された被測定ワークWの冷却または加熱がスタートする。
【0066】
なお、冷熱装置50の場合には、温度センサ62から出力されるマスターワークMのマスター温度情報に基づいてPID制御された駆動電力がPWM制御によりペルチェユニット53に供給される。また計測装置20の場合には、温度センサ63から出力される支柱23の測定装置温度情報に基づいてPID制御された駆動電力がPWM制御によりペルチェユニット27に供給される。これらは、ペルチェユニット43のペルチェ駆動制御とはそれぞれ別のペルチェ駆動制御(ペルチェ駆動制御タスク)として実行される。
【0067】
次のステップS305では温度情報取得処理が行われる。冷熱装置40においては、この温度情報は被測定ワークWの現在の温度のことである。そのため、この処理では、温度センサ61から出力される被測定ワークWの現在のワーク温度情報を取得する。なお、ステップS305の温度情報は、冷熱装置50では温度センサ62から出力される現在のマスターワークMのマスター温度情報のことであり、また計測装置20では温度センサ63から出力される現在の支柱23の測定装置温度情報のことである。
【0068】
続くステップS307では、ステップS305により取得された現在のワーク温度情報とステップS301により設定された目標温度情報とを比較し、被測定ワークWの現在の温度が目標温度に一致しているか否かの判定が行われる。つまり、被測定ワークWの温度が目標温度(特定温度)に到達しているか否かを判定する。この一致は、目標温度に完全に一致する場合に加えて予め許容された誤差の範囲(例えば±1℃)内において一致する場合も含まれる。
【0069】
そして、被測定ワークWの温度が目標温度に一致していると判定された場合には(S307;Yes)、当該被測定ワークWは特定温度に到達しておりこれ以上の冷却や加熱は必要ないことから次のステップS309によるペルチェ制御終了処理によりペルチェ駆動制御を終了する。これにより、ペルチェユニット43に対する駆動電力の供給が終わることから、ペルチェユニット43の吸熱または発熱が終了して冷熱キャビティ41に載置された被測定ワークWの冷却または加熱がストップする。一方、被測定ワークWの温度が目標温度に一致していないと判定された場合には(S307;No)、被測定ワークWの冷却や加熱を継続する必要があるため、ステップS305に戻って、再度、温度情報取得処理が行われる。
【0070】
ステップS311の温度一致情報出力処理では、被測定ワークWの温度が目標温度、つまり特定温度に一致している旨のワーク温度一致情報を、恒温制御処理(
図4)に対して出力する。より具体的には、冷熱制御タスクから恒温制御タスクにタスク間通信を介してワーク温度一致情報が送られる。これにより、恒温制御処理(
図4)の温度一致情報取得処理(S109)では、前述したようにワーク温度一致情報の取得が可能になる。このように
図4の恒温制御処理に出力される温度一致情報は、冷熱装置50のペルチェユニット53を制御する冷熱制御処理の場合には、マスター温度一致情報であり、計測装置20のペルチェユニット27を制御する冷熱制御処理の場合には、測定装置温度一致情報であり、それぞれ温度一致情報取得処理(S109)により取得される。
【0071】
次のステップS313では制御情報取得処理が行われる。この処理は、前述した恒温制御処理(
図4)の冷熱制御終了処理(S119)から本冷熱制御処理に送られてくる制御終了情報等の制御情報を取得するものである。この制御終了情報は、温度コントローラ70の電源スイッチがオフされた場合に恒温制御タスクから冷熱制御タスクに送られてくる。そのため、続くステップS315の制御終了判定処理では、送られてきた制御情報が制御終了情報である場合には(S315;Yes)、本冷熱制御処理を終了する。また、送られてきた制御情報が制御終了情報でない場合には(S315;No)、温度コントローラ70の電源スイッチがまだオン状態であり、ペルチェユニット43の冷熱制御が継続されている。そのため、ステップS303からペルチェ制御開始処理等が再度行われる。
【0072】
このように本冷熱制御処理が行われることによって、ペルチェユニット43,53,27により冷熱装置40,50や計測装置20が冷却されたり加熱されたりすることから、ワークW,Mや計測装置20の支柱23が特定温度を保つことが可能になる。また、被測定ワークW、マスターワークMや支柱23の温度が特定温度に一致すると、ペルチェユニット43,53,27を制御するそれぞれの冷熱制御処理(冷熱制御タスク)からワーク温度一致情報、マスター温度一致情報や測定装置温度一致情報が恒温制御処理(恒温制御タスク)に出力される。そのため、上述の恒温制御処理(
図4)では、ワークW,Mおよび計測装置20の支柱23のいずれの温度も特定温度に揃って保たれているか否かの恒温判定処理(S111)を行うことが可能になる。
【0073】
また、恒温判定処理(S111)により恒温完了情報が出力されている場合には、冷熱装置40,50に載置されているワークW,Mはそれらの温度が特定温度に到達していることから、例えば、二色表示灯の点灯色から恒温完了を認識した検査工程の担当者は、冷熱装置50から特定温度のマスターワークMを取り出して計測装置20の測定台21にセットする。このとき測定ユニット30を支える計測装置20の支柱23も、マスターワークMと同じ特定温度に保たれている。これにより、測定ユニット30は一定の位置で支持されることから、当該担当者が測定ユニット30を操作して、例えば、マスターワークMの測定ポイントに測定子33を接触させたときに表示部35に表示されるスピンドル32の移動量Mmは、特定温度下において一定の基準値となる。
【0074】
このため、次に当該担当者は、冷熱装置40から特定温度の被測定ワークWを取り出して計測装置20の測定台21にセットした後、測定ユニット30を操作して、被測定ワークWの測定ポイントに測定子33を接触させる。これにより、表示部35には当該被測定ワークWの場合のスピンドル32の移動量Mwが表示される。そのため、マスターワークMに対する被測定ワークWの寸法誤差は、基準値の移動量Mmとこの移動量Mwとの差Md(=Mw-Mm)として求められる。例えば、測定ユニット30がダイヤルゲージである場合には、移動量Mwを表示する指針35aが許容誤差範囲の上限と下限を明示するリミット針の範囲内を指し示しているか否かによって、当該被測定ワークWの合否判定を行うことができる。
【0075】
なお、検査工程の途中で被測定ワークWを冷熱装置40に載置した場合や、次の新たな被測定ワークWを冷熱装置40に載置した場合には、検査工程の担当者は、ワークW,Mや計測装置20の支柱23の温度が特定温度に到達するまで待ち、その後、冷熱装置40から被測定ワークWを取り出して計測装置20の測定台21にセットする。そして、測定ユニット30の操作により当該被測定ワークWの誤差を測定する。基準値となるマスターワークMの移動量の測定は、新たな被測定ワークWの誤差を測定するごとに行われる必要はなく、所定時間ごと(例えば、6時間ごとや12時間ごと)や被測定ワークWの測定数ごと(例えば、500個ごとや1000個ごと)に行われる。
【0076】
以上説明したように、本第1実施形態に係る恒温測定システム10では、測定ユニット30を備えるとともに支柱23にペルチェユニット27を有する計測装置20、ペルチェユニット43,53で冷却や加熱される冷熱キャビティ41,51を有する冷熱装置40,50、温度センサ61~63、温度コントローラ70を含む。温度センサ61は、被測定ワークWの温度を測定してワーク温度情報を出力する。温度センサ62は、マスターワークMの温度を測定してマスター温度情報を出力する。温度センサ63は、計測装置20の支柱23の温度を測定して測定装置温度情報を出力する。そして、温度コントローラ70は、ワークW,Mおよび計測装置20の支柱23のそれぞれの温度が予め定められた所定の温度(例えば23℃)に一致するように冷熱装置40,50のペルチェユニット43,53や計測装置20のペルチェユニット27の出力温度を制御する(S301~S309,S313,S315)。
【0077】
これにより、マスターワークMと被測定ワークWの温度が異なる場合、マスターワークMと計測装置20の支柱23の温度が異なる場合や、被測定ワークWと計測装置20の支柱23の温度が異なる場合があっても、ワークW,Mおよび支柱23が冷却されたり加熱されたりして(S301~S309,S313,S315)、これらの温度が予め定められた所定の温度(例えば23℃)と同じになる(S111;Yes)。また、各温度センサ61~63は、ワークW,Mや計測装置20の支柱23の温度を直接的に測定するので、冷熱装置40,50等の温度を測定してワークW,Mや支柱23の温度を間接的に測定する場合に比べて高精度に測定することが可能になる。さらに、冷熱装置40,50の冷熱キャビティ41,51は、熱伝導率の大きい金属(例えば、銅やアルミニウム等)を用いて構成されているため、これらの金属よりも熱伝導率の小さい石製の定盤(石版)等に比べて、ワークW,Mを短い時間で冷却や加熱することが可能になる。そのため、これら三者の温度を高精度かつ短時間に合わせる(揃える)ことが可能になる。したがって、大掛かりな設備を設けることなく、熱膨張や熱収縮の影響を受け難いように精密に温度管理されたワークW,Mの形状寸法を測定することができる。
【0078】
なお、上述した本第1実施形態では、測定装置を冷却または加熱する第2冷熱ユニットとして、計測装置20の支柱23にペルチェユニット27を設ける構成を例示して説明したが、被測定ワークおよびマスターワークの各温度を測定装置の温度に合わせる場合にはペルチェユニット27(第2冷熱ユニット)を削除した構成を採用してもよい。
【0079】
即ち、測定ユニット30を備える計測装置20、ペルチェユニット43,53で冷却や加熱される冷熱キャビティ41,51を有する冷熱装置40,50、温度センサ61~63、温度コントローラ70を含み、計測装置20のペルチェユニット27を除いて恒温測定システムを構成する。この場合、温度センサ61は、被測定ワークWの温度を測定してワーク温度情報を出力する。温度センサ62は、マスターワークMの温度を測定してマスター温度情報を出力する。温度センサ63は、計測装置20の支柱23の温度を測定して測定装置温度情報を出力する。そして、温度コントローラ70は、マスターワークMの温度が計測装置20の支柱23の温度に一致するように冷熱装置50の出力温度を制御し(S301~S309,S313,S315)、かつ、被測定ワークWの温度が計測装置20の支柱23の温度に一致するように冷熱装置40の出力温度を制御する(S301~S309,S313,S315)。
【0080】
これにより、マスターワークMと被測定ワークWの温度が異なる場合、マスターワークMと計測装置20の支柱23の温度が異なる場合や、被測定ワークWと計測装置20の支柱23の温度が異なる場合があっても、ワークW,Mが冷却されたり加熱されたりして(S301~S309,S313,S315)、ワークW,Mの温度が計測装置20の支柱23の温度と同じになる(S111;Yes)。また、各温度センサ61~63は、ワークW,Mや計測装置20の支柱23の温度を直接的に測定するので、冷熱装置40,50等の温度を測定してワークW,Mの温度を間接的に測定する場合に比べて高精度に測定することが可能になる。さらに、冷熱装置40,50の冷熱キャビティ41,51は、熱伝導率の大きい金属(例えば、銅やアルミニウム等)を用いて構成したため、これらの金属よりも熱伝導率の小さい石製の定盤(石版)等に比べて、ワークW,Mを短い時間で冷却や加熱することが可能になる。そのため、計測装置20にペルチェユニット27を設けることなく、これら三者の温度を高精度かつ短時間に合わせる(揃える)ことが可能になる。したがって、大掛かりな設備を設けることなく、熱膨張や熱収縮の影響を受け難いように精密に温度管理されたワークW,Mの形状寸法を測定することができる。
【0081】
また、上述した本第1実施形態では、被測定ワークを冷却または加熱する第2冷熱ユニット(請求項2)または第3冷熱ユニット(請求項3)として、冷熱装置40を設ける構成を例示して説明したが、マスターワークおよび測定装置の温度の各温度を被測定ワークに合わせる場合には冷熱装置40(第2冷熱ユニット(請求項2)、第3冷熱ユニット(請求項3))を削除した構成を採用してもよい。
【0082】
即ち、測定ユニット30を備えるとともに支柱23にペルチェユニット27を有する計測装置20、ペルチェユニット53で冷却や加熱される冷熱キャビティ51を有する冷熱装置50、温度センサ61~63、温度コントローラ70を含み、冷熱装置40を除いて恒温測定システムを構成する。この場合、温度センサ61は、被測定ワークWの温度を測定してワーク温度情報を出力する。温度センサ62は、マスターワークMの温度を測定してマスター温度情報を出力する。温度センサ63は、計測装置20の支柱23の温度を測定して測定装置温度情報を出力する。そして、温度コントローラ70は、マスターワークMの温度が被測定ワークWの温度に一致するように冷熱装置50の出力温度を制御し(S301~S309,S313,S315)、かつ、計測装置20の支柱23の温度が被測定ワークWの温度に一致するように計測装置20のペルチェユニット27の出力温度を制御する(S301~S309,S313,S315)。
【0083】
これにより、マスターワークMと被測定ワークWの温度が異なる場合、マスターワークMと計測装置20の支柱23の温度が異なる場合や、被測定ワークWと計測装置20の支柱23の温度が異なる場合があっても、マスターワークMや計測装置20の支柱23が冷却されたり加熱されたりして(S301~S309,S313,S315)、マスターワークMと計測装置20の支柱23の温度が被測定ワークWの温度と同じになる(S111;Yes)。また、各温度センサ61~63は、ワークW,Mや計測装置20の支柱23の温度を直接的に測定するので、冷熱装置40,50等の温度を測定してワークW,Mの温度を間接的に測定する場合に比べて高精度に測定することが可能になる。さらに、冷熱装置50の冷熱キャビティ51は、熱伝導率の大きい金属(例えば、銅やアルミニウム等)を用いて構成したため、これらの金属よりも熱伝導率の小さい石製の定盤(石版)等に比べて、マスターワークMを短い時間で冷却や加熱することが可能になる。そのため、冷熱装置40を設けることなく、これら三者の温度を高精度かつ短時間に揃えることが可能になる。したがって、大掛かりな設備を設けることなく、熱膨張や熱収縮の影響を受け難いように精密に温度管理されたワークW,Mの形状寸法を測定することができる。
【0084】
さらに、上述した第1実施形態では、被測定ワークWとマスターワークMは、同じ材質の金属製の軸部品である場合を例示して説明したが、被測定ワークWとマスターワークMは異なる材質で構成されていてもよい。このような場合、例えば、被測定ワークWとマスターワークMの間に材質の差異に起因した熱膨張や熱収縮に違いが存在するときには、両者の形状寸法が同じになる温度差ΔTaを予め求め、そのような温度差ΔTaを含めて目標温度(特定温度)を設定するアルゴリズムを構成してもよい。これにより、被測定ワークWとマスターワークMの材質の差異による寸法誤差を吸収することができるので、ステップS307による判定精度を高めることが可能になる。
【0085】
[第2実施形態]
次に、本発明の恒温測定システムの第2実施形態について
図6および
図7を参照して説明する。本第2実施形態の恒温測定システム10’は、第1実施形態の恒温測定システム10と比べると、主に次の4点が異なり、これらの点以外は恒温測定システム10とほぼ同様に構成される。そのため、本第2実施形態においては、恒温測定システム10の構成と実質的に同一の構成部分については同一符号を付して説明を省略する。
【0086】
・測定ユニット30に代えて測定ユニット30’を備える点
・温度コントローラ70に加えて計測コントローラ80を備える点
・恒温の完了や未了を知らせる表示灯に代えてディスプレイ90を備える点
・測定準備完了ボタン100を備える点
【0087】
計測装置20’が備える測定ユニット30’は、例えば、リニアゲージであり、外部から測定開始コマンドが入力されると、測定を開始しスピンドル32の移動量を電気信号に変換して外部に出力し得る本体部31’を有する。本第2実施形態では、例えば、測定ユニット30’では、スピンドル32の移動量がマスターワークMや被測定ワークWの測定ポイントにおけるそれぞれの寸法値Sm,Swを表す。そのため、測定開始コマンドが計測コントローラ80から出力されると、移動量を表す電気信号が寸法情報として計測コントローラ80に入力される。計測コントローラ80には、本体部31’から出力される寸法情報のほかに、温度コントローラ70から出力される恒温完了情報や恒温未了情報も入力される。また計測コントローラ80にはディスプレイ90(オーディオアンプ内蔵のスピーカ付きタイプ)も接続されている。なお、測定ユニット30’には表示部35は設けられていない。
【0088】
計測コントローラ80は、温度コントローラ70とほぼ同様に、例えば、MPU、メモリ(RAM、ROM(EEPROMを含む))、入出力インタフェース、ビデオカード等により構成されるマイコンユニットである(MCNT)。本第2実施形態では、入出力インタフェースには、測定ユニット30’の本体部31’や温度コントローラ70が接続されており、これらから出力される寸法情報、恒温完了情報や恒温未了情報が計測コントローラ80に入力される。ビデオカードにはディスプレイ90が接続されており、計測コントローラ80から後述するように出力される恒温完了情報、合格情報、不合格情報や誤差情報がディスプレイ90に表示される。
【0089】
本第2実施形態では、寸法情報、恒温完了情報や恒温未了情報に基づいて、計測コントローラ80が次に説明する計測制御処理を実行することによって、合格情報等がディスプレイ90に出力されて表示される。ここからは、計測コントローラ80により実行される計測制御処理について
図7を参照しながら説明する。この計測制御処理は、計測コントローラ80のメモリ(ROM)に記憶された計測制御プログラムを計測コントローラ80のMPUが実行することにより実現される。計測制御プログラム(計測制御処理)は、計測コントローラ80の電源スイッチ(図略)がオンされて電源が投入された直後から起動される。
【0090】
図7(A)に示すように、計測制御処理では、まずステップS501により所定の初期化処理が行われる。この処理では、例えば、計測コントローラ80のメモリ(RAM)の本処理用のワーク領域やフラグをクリアしたり、ビデオカードに初期設定用の制御コマンドを送出したりする。
【0091】
本計測制御処理では、被測定ワークWの寸法計測の前に、まずマスターワークMの寸法計測を行ってマスター寸法情報を取得する。そのため、次のステップS502ではマスター寸法計測処理が行われる。この処理は、温度コントローラ70から恒温完了情報に基づいてワークW,Mや計測装置20’の支柱23の温度が特定温度に揃って保たれている、つまり恒温完了状態になったことをディスプレイ90に表示したり、その後に測定ユニット30’から出力される寸法情報を取得したりするものであり、サブルーチンとして
図7(B)にその寸法計測処理の流れが図示されている。そのため、ここからは
図7(B)を主に参照しながら説明する。なお、
図7(B)の寸法計測処理は、後述するように、ステップS503で説明するワーク寸法情報計測処理と同じである。
【0092】
図7(B)に示すように、寸法計測処理では、まずステップS601により恒温完了/未了情報取得処理が行われる。即ち、第1実施形態で説明したように、
図4に示す恒温制御処理では、3つの温度一致情報(ワーク温度一致情報、マスター温度一致情報、測定装置温度一致情報)が揃ったか否かを表す恒温完了情報や恒温未了情報が温度コントローラ70から出力される(S113,S114)。そのため、この恒温完了/未了情報取得処理ではその恒温完了情報や恒温未了情報を取得する。
【0093】
恒温完了情報は、3つの温度一致情報が揃った場合に出力されワークW,Mおよび計測装置20の支柱23が特定温度に保たれている、つまり恒温完了状態にあることを表す。恒温未了情報は、それら3つの情報が揃っていない場合に出力されてまだ恒温完了状態になっていないことを表す。そのため、続くステップS603では恒温完了情報が取得されるまでステップS601に戻り(S603;No)、恒温完了/未了情報取得処理を行う。そして、恒温完了情報が取得された場合には(S603;Yes)、次のステップS605により恒温完了情報出力処理を行う。
【0094】
ステップS605の恒温完了情報出力処理では、検査工程の担当者に対して恒温完了状態であることを知らせるため、ディスプレイ90に対して告知情報を出力する。例えば、視覚的に認識可能に「恒温完了!」の文字情報を目立つ色彩や配色等でディスプレイ90に大きく表示したり、聴覚的に認識可能に恒温完了をイメージさせる音響情報をディスプレイ90のスピーカから出力したりする処理が行われる。
【0095】
これにより、ワークW,Mや計測装置20の支柱23の温度が特定温度になったことを認識した検査工程の担当者により、例えば、特定温度のマスターワークMが冷熱装置50から取り出されて計測装置20’の測定台21にセットされた後、測定準備完了ボタン100が当該担当者等に押下されると、その信号入力(準備完了情報)が計測コントローラ80に入力される。
【0096】
この準備完了情報の入力により、次のステップS607の判定処理によって、計測装置20’(測定ユニット30’)による測定の準備が完了したと判定されると(S607;Yes)、次のステップS609により測定ユニット30’に対して測定開始コマンドが出力される。これにより、測定された当該マスターワークMのワーク寸法情報が測定ユニット30’から出力されて計測コントローラ80に入力される。測定ユニット30’から出力されたマスター寸法情報は、ステップS611の寸法情報取得処理により取得された後、続くステップS613の寸法情報記憶処理により計測コントローラ80のメモリ(RAM)に記憶される。
【0097】
図7(A)に示す計測制御処理に戻ると、次は被測定ワークWの寸法計測が行われる(S503)。ワーク寸法計測処理(S503)では、先に説明したマスター寸法計測処理と同様に、
図7(B)に示す寸法計測処理が実行される。即ち、被測定ワークWについても、冷熱装置40から取り出されてマスターワークMと同様に計測装置20’の測定台21にセットされた後、測定ユニット30’に測定され、そのワーク寸法情報が計測コントローラ80のメモリに記憶される(S607~S613)。このように一連の寸法計測処理が終了すると、
図7(A)に示す計測制御処理に戻る。
【0098】
次のステップS505ではOK/NG処理が行われる。この処理は、寸法計測処理(S503)により取得された寸法情報に基づいて被測定ワークWの合否判定等を行うものであり、サブルーチンとして
図7(C)にその処理の流れが図示されている。そのため、ここからは
図7(C)を主に参照しながら説明する。
【0099】
図7(C)に示すように、OK/NG処理では、まずステップS701により寸法情報読出処理が行われる。前述したように計測コントローラ80のメモリ(RAM)には、計測装置20’(測定ユニット30’)によって測定されたワークW,Mの各寸法情報(ワーク寸法情報、マスター寸法情報)が記憶されている(S613)。そのため、この処理ではこれらの寸法情報を計測コントローラ80のメモリから読み出す。
【0100】
続くステップS703の寸法誤差算出処理によりマスターワークMに対する被測定ワークWの寸法誤差が算出される。例えば、ワーク寸法情報による被測定ワークWの寸法値Swから、マスター寸法情報によるマスターワークMの寸法値Smを減算して得られる値が寸法誤差Sd(=Sw-Sm)として求められる。これにより算出された寸法誤差Sdが予め定められた範囲内であるか否かの判定が次のステップS705により行われる。
【0101】
例えば、合格対象の寸法誤差Sdとして「±0.05mm範囲内であること」が予め定められている場合において、ステップS705の合否判定により被測定ワークWの寸法誤差Sdが当該範囲以内であると判定されたときには(S705;合格)、当該被測定ワークWは検査合格であることから、ステップS707の合格情報出力処理に移行して当該被測定ワークWは検査合格品であることを検査工程の担当者に対して知らせ得る合格情報をディスプレイ90に出力する。例えば、視覚的に認識可能に「OK」や「○」の文字や記号の情報を目立つ色彩や配色等でディスプレイ90に大きく表示したり、聴覚的に認識可能に検査合格をイメージさせる音響情報をディスプレイ90のスピーカから出力したりする処理が行われる。
【0102】
これに対して、被測定ワークWの寸法誤差Sdが当該範囲外であると判定されたときには(S705;不合格)、当該被測定ワークWは検査不合格品であることから、ステップS708の不合格情報出力処理に移行して当該被測定ワークWは不合格品であることを検査工程の担当者に対して知らせ得る不合格情報をディスプレイ90に出力する。例えば、視覚的に認識可能に「NG」や「×」の文字や記号の情報を目立つ色彩や配色等でディスプレイ90に大きく表示したり、聴覚的に認識可能に不合格をイメージさせる音響情報をディスプレイ90のスピーカから出力したりする処理が行われる。
【0103】
本第2実施形態では、続くステップS709により誤差情報出力処理も行われる。この処理は、ステップS703により算出された寸法誤差情報(寸法誤差Sd)をディスプレイ90に出力するものである。例えば、寸法誤差Sdは、視覚的に認識可能にその数値を文字情報でディスプレイ90に表示したり、聴覚的に認識可能にその数値を合成音声で読み上げてディスプレイ90のスピーカから出力したりする処理が行われる。
【0104】
なお、誤差情報出力処理(S709)において、寸法誤差Sdの数値を文字情報でディスプレイ90に表示する場合には、例えば、検査合格品の数値を青色文字で表し、検査不合格品の数値を赤色文字で表してもよい。これにより、文字色の違いから、検査合格品と検査不合格品の数値を視覚的に容易に判別することが可能になる。また、誤差情報出力処理(S709)の前後いずれかにおいて、寸法誤差Sdの数値情報を計測コントローラ80のメモリ(RAMやEEPROM)に逐次記憶させてもよい。これにより、記憶されて蓄積された各誤差情報は、被測定ワークWの品質管理情報として活用することが可能になる。
【0105】
合格情報出力処理等(S707,S708)と誤差情報出力処理(S709)は、いずれか一方だけ行うように、OK/NG処理のアルゴリズムを構成してもよい。このように一連のOK/NG処理が終了すると、
図7(A)に示す計測制御処理に戻る。
【0106】
次のステップS507では計測コントローラ80の電源スイッチ(図略)がオフされたか否かを判定する処理が行われる。例えば、電源スイッチのオフ操作をトリガーにした割込み信号の入力が検知された場合には(S507;Yes)、当該計測コントローラ80はMPU等に対する駆動電力の供給が断たれるため、一連の本計測制御処理を終える。このような割込み信号の入力が検知されない場合には(S507;No)、電源スイッチのオフ操作なく、引き続き別の被測定ワークWの寸法測定を行う必要があるから、ステップS503に戻って再度、寸法情報計測処理等が行われる。
【0107】
以上説明したように、本第2実施形態に係る恒温測定システム10’では、測定ユニット30’を備える計測装置20’、冷熱装置40,50、温度センサ61~63、温度コントローラ70、計測コントローラ80、ディスプレイ90、測定準備完了ボタン100を含む。計測コントローラ80は、温度一致制御による温度の一致状態において、マスターワークMの測定により寸法情報として計測装置20’の測定ユニット30’から出力されるマスター寸法情報と、被測定ワークWの測定により寸法情報として計測装置20’の測定ユニット30’から出力されるワーク寸法情報と、を比較して両者の寸法誤差を出力したり(S709)、寸法誤差が所定の範囲内であるか否かを判定し(S705)、その結果を出力したりする(S707,S708)。これにより、被測定ワークWの形状寸法に関する検査の自動化が可能になる。したがって、大掛かりな設備を設けることなく、熱膨張や熱収縮の影響を受け難いように精密に温度管理された被測定ワークWの形状寸法を測定することができるとともに、被測定ワークWの形状寸法検査や形状寸法に関する良否判定検査を自動的に行うことができる。
【0108】
なお、上述した第2実施形態では、計測コントローラ80が実行する計測制御処理のOK/NG処理(
図7(C))において、「マスター寸法情報とワーク寸法情報とを比較して両者の寸法誤差を出力する」処理として寸法誤差算出処理(S703)および誤差情報出力処理(S709)を行い、また「寸法誤差が所定の範囲内であるか否かを判定する」処理として合否判定処理(S705)、合格情報出力処理(S707)および不合格情報出力処理(S708)も行った。しかし、ステップS703,S709による各処理と、ステップS705~S708による各処理は、いずれか一方だけを行うようにOK/NG処理のアルゴリズムを構成してもよい。また、これらの情報の出力先は、ディスプレイ90に限られることはなく、他のコントローラ(制御装置)、パソコン等を含む情報処理装置や、LAN、LPWAN(Low-Power Wide-Area Network)、WAN等を含む電気通信回線による情報通信網でもよい。
【0109】
また、上述した第2実施形態では、検査工程において、ディスプレイ90の表示等によりワークW,Mや計測装置20の支柱23の温度が特定温度になったことを担当者が確認しその担当者が冷熱装置40から被測定ワークWを取り出して計測装置20の測定台21にセットし、セット完了後に測定準備完了ボタン100を押下する等の作業を行う場合を例示して説明した。つまり、検査工程を半自動で行う場合について説明した。しかし、例えば、検査担当者の作業工数を大幅に削減する必要がある場合には、検査工程を全自動で行いたいというニーズも生じ得る。このような場合、例えば、次のように構成することにより、検査工程を全自動化した検査システム(または恒温測定システム)を実現することが可能になる。
【0110】
例えば、この検査システム(または恒温測定システム)では、第2実施形態の恒温測定システム10’のディスプレイ90と測定準備完了ボタン100に代えて、被測定ワークWやマスターワークMを把持や吸着により搬送可能な図略のロボットと、当該ロボットを制御する図略のロボットコントローラと、備え、当該ロボットコントローラを計測コントローラ80に接続する。即ち、計測コントローラ80から出力される恒温完了情報、マスター寸法記憶情報、合格情報、不合格情報や誤差情報がロボットのロボットコントローラに入力され、また当該ロボットコントローラから準備完了情報が出力されて計測コントローラ80に入力される。なお、ロボットは、円筒座標ロボット、直角座標ロボット、水平多関節ロボット、垂直多関節ロボット、パラレルリンクロボット等である。
【0111】
また、ロボットを制御するロボットコントローラは、当該ロボットが、図略のワークストッカ等からワークW,Mを取り出して冷熱装置40,50に載置したり、特定温度のワークW,Mを冷熱装置40,50から取り出して計測装置20の測定台21にセットしたり、測定済みのワークW,Mを計測装置20から取り出して合否判定の結果ごとに異なるワークトレイ(良品トレイ、不良品トレイ)等に搬送したり、するように予めプログラムされる。
【0112】
このように検査システム(または恒温測定システム)を構成することによって、第2実施形態で説明した計測制御処理等と相俟って、例えば、次の順番でロボットコントローラによるロボット等の制御処理が行われる。なお、括弧内は、第2実施形態で説明した計測制御処理等における処理ステップの番号である。
【0113】
(1) ロボットがマスターワークMを冷熱装置50に搬送する。
(2) 計測コントローラ80からロボットコントローラに恒温完了情報が出力されると(S605)、ロボットが特定温度になったマスターワークMを冷熱装置50から取り出して計測装置20に搬送する。
(3) ロボットによる被測定ワークWの搬送が完了すると、ロボットコントローラが計測コントローラ80に準備完了情報を出力する(S607;Yes)。
(4) マスター寸法情報が記憶されてマスター寸法記憶情報が計測コントローラ80からロボットコントローラに出力されると(S613)、ロボットが計測装置20からマスターワークMを取り出して冷熱装置50に搬送する。
(5) ロボットがワークストッカ等から被測定ワークWを取り出して冷熱装置40に搬送する。
(6) 計測コントローラ80からロボットコントローラに恒温完了情報が出力されると(S605)、ロボットが特定温度になった被測定ワークWを冷熱装置40から取り出して計測装置20に搬送する。
(7) ロボットによる被測定ワークWの搬送が完了すると、ロボットコントローラが計測コントローラ80に準備完了情報を出力する(S607;Yes)。
(8) 計測コントローラ80からロボットコントローラに合格情報が出力された場合には(S707)、ロボットが計測装置20から被測定ワークWを取り出して良品トレイに搬送する。
(9) 計測コントローラ80からロボットコントローラに不合格情報が出力された場合には(S708)、ロボットが計測装置20から被測定ワークWを取り出して不良品トレイに搬送する。
(10)計測コントローラ80からロボットコントローラに出力された誤差情報が当該ロボットコントローラに記憶される。
(11)電源がオフにされていない場合には(S507;No)上記(5)に戻る。
【0114】
上記の検査システム(または恒温測定システム)は、技術的思想の創作として、次のように把握することができる。
被測定物の形状寸法を測定して寸法情報を出力する測定装置と、
前記寸法情報が入力される計測コントローラと、
基準形状を有するマスターワークを冷却または加熱する第1冷熱ユニットと、
前記マスターワークの温度を測定してマスター温度情報を出力する第1温度センサと、
前記測定装置を冷却または加熱する第2冷熱ユニットと、
前記測定装置の温度を測定して測定装置温度情報を出力する第2温度センサと、
測定対象の被測定ワークを冷却または加熱する第3冷熱ユニットと、
前記被測定ワークの温度を測定してワーク温度情報を出力する第3温度センサと、
前記マスター温度情報、前記測定装置温度情報および前記ワーク温度情報が入力されるとともにこれらの温度情報に基づいて前記第1冷熱ユニット、前記第2冷熱ユニットおよび前記第3冷熱ユニットの出力温度を制御する温度コントローラと、
前記マスターワークを前記第1冷熱ユニットおよび前記測定装置に搬送し、前記被測定ワークを前記第3冷熱ユニットおよび前記測定装置に搬送するロボットと、
前記ロボットを制御するロボットコントローラと、を含み、
前記温度コントローラは、前記マスターワーク、前記被測定ワークおよび前記測定装置の各温度が予め定められた所定の温度にそれぞれ一致するように、前記第1冷熱ユニット、前記第2冷熱ユニットおよび前記第3冷熱ユニットの出力温度を制御し、前記各温度が前記所定の温度にそれぞれ一致した場合には温度一致情報を出力し、
前記計測コントローラは、前記温度一致情報が出力された場合において、前記マスターワークの測定により前記寸法情報として前記測定装置から出力されるマスター寸法情報と、前記被測定ワークの測定により前記寸法情報として前記測定装置から出力されるワーク寸法情報と、を比較して両者の寸法誤差が所定の範囲内であるか否かを判定してその判定結果情報を出力し、
前記ロボットコントローラは、前記温度一致情報に基づいて、前記マスターワークを前記第1冷熱ユニットから前記測定装置に搬送し、または前記被測定ワークを前記第3冷熱ユニットから前記測定装置に搬送し、かつ、前記判定結果情報に基づいて、前記寸法誤差が所定の範囲内である場合には前記被測定ワークを前記測定装置から所定の第1場所に搬送し、前記寸法誤差が所定の範囲内でない場合には前記被測定ワークを前記測定装置から所定の第2場所に搬送するように前記ロボットを制御する、
ことを特徴とする検査システム(または恒温測定システム)。
【0115】
上記の検査システム(または恒温測定システム)によると、測定装置、第1冷熱ユニット、第1温度センサ、第2冷熱ユニット、第2温度センサ、第3冷熱ユニット、第3温度センサ、温度コントローラ、計測コントローラ、ロボットおよびロボットコントローラを含む。そして、温度コントローラは、マスターワーク、被測定ワークおよび測定装置の各温度が予め定められた所定の温度にそれぞれ一致するように、第1冷熱ユニット、第2冷熱ユニットおよび第3冷熱ユニットの出力温度を制御し、各温度が前記所定の温度にそれぞれ一致した場合には温度一致情報を出力する。また、前記計測コントローラは、温度一致情報が出力された場合において、マスターワークの測定により寸法情報として測定装置から出力されるマスター寸法情報と、被測定ワークの測定により寸法情報として測定装置から出力されるワーク寸法情報と、を比較して両者の寸法誤差が所定の範囲内であるか否かを判定してその判定結果情報を出力する。さらに、ロボットコントローラは、温度一致情報に基づいて、マスターワークを第1冷熱ユニットから測定装置に搬送し、または被測定ワークを第2冷熱ユニットから測定装置に搬送し、かつ、判定結果情報に基づいて、寸法誤差が所定の範囲内である場合には被測定ワークを測定装置から所定の第1場所に搬送し、寸法誤差が所定の範囲内でない場合には被測定ワークを測定装置から所定の第2場所に搬送するようにロボットを制御する。所定の第1場所は、例えば良品トレイであり、所定の第2場所は、例えば不良品トレイである。
【0116】
これにより、マスターワーク等の三者の温度が異なる場合があっても、マスターワーク、被測定ワークや測定装置が冷却されたり加熱されたりして、これら三者の温度を予め定められた所定の温度に高精度に揃えることが可能になる。また、マスターワークを第1冷熱ユニットや測定装置に搬送したり、被測定ワークを第3冷熱ユニットや測定装置に搬送したりするロボットは、温度一致情報に基づいて、マスターワークを第1冷熱ユニットから測定装置に搬送し、または被測定ワークを第3冷熱ユニットから測定装置に搬送する。またロボットは、判定結果情報に基づいて、寸法誤差が所定の範囲内である場合には被測定ワークを測定装置から所定の第1場所(例えば良品トレイ)に搬送し、寸法誤差が所定の範囲内でない場合には被測定ワークを測定装置から所定の第2場所(例えば、不良品トレイ)に搬送する。したがって、大掛かりな設備を設けることなく、熱膨張や熱収縮の影響を受け難いように精密に温度管理された被測定物の形状寸法を測定することが可能になり、また当該測定により得られた寸法情報に基づく検査工程の全自動化を実現することが可能になる。これで、検査工程においては人手による作業がほぼ不要になることから、検査担当者の作業工数を大幅に削減することができる。
【0117】
なお、上述した第1,第2実施形態では、測定装置を冷却または加熱する第2冷熱ユニットとして、計測装置20の支柱23にペルチェユニット27やファンユニット29を設ける構成を例示して説明したが、測定装置やその周囲空間の温度変化に起因して当該測定装置の一部が熱膨張や熱収縮することにより当該測定装置による形状寸法の測定に影響を与え得る可能性がある場合には、当該測定装置の一部として、例えば、計測装置20のブラケット25や測定ユニット30のスピンドル32等にペルチェユニット27やファンユニット29を設けてもよい。この場合においても上述と同様に、計測装置20等に冷熱ユニットを設けることなく、これら三者の温度を高精度かつ短時間に合わせる(揃える)ことが可能になり、大掛かりな設備を設けることなく、熱膨張や熱収縮の影響を受け難いように精密に温度管理されたワークW,Mの形状寸法を測定することができる。
【0118】
また、上述した第1,第2実施形態では、測定装置の温度を測定する第3温度センサとして、温度センサ63を計測装置20の支柱23に取り付けて当該支柱23の温度を測定する構成を例示して説明した。しかし、測定装置の周囲温度を第3温度センサが測定するように構成してもよい。即ち、温度センサ63を計測装置20に接触させることなくその周囲空間に露出させて計測装置20(測定装置)の周囲温度を温度センサ63(第3温度センサ)が測定して周囲空間温度情報を出力するように構成する。このように構成した場合においても、上述の測定装置温度情報を当該周囲空間温度情報に置き換えることによって、上述と同様に、大掛かりな設備を設けることなく、熱膨張や熱収縮の影響を受け難いように精密に温度管理されたワークW,Mの形状寸法を測定することができる。
【0119】
また、上述した第1,第2実施形態では、マスターワーク、被測定ワークや測定装置を冷却または加熱する第1~第3冷熱ユニットの吸熱体や発熱体として、ペルチェユニット43,53,145,27を冷熱装置40,50等に設ける構成を例示して説明した。しかし、吸熱や発熱することが可能であれば、例えば、冷水や温水が流通することによって吸熱したり発熱体したりし得る冷却ユニットや発熱ユニットを、冷熱装置40,50や計測装置20,20’の支柱23に設けてもよい。
【0120】
さらに、上述した第1,第2実施形態では、温度コントローラ70は1つのMPUを備える構成を例示して説明したが、例えば、複数のMPUを温度コントローラ70が備えて、上述した各タスク(恒温制御タスク、冷熱制御タスク、ペルチェ駆動制御タスク)のそれぞれを複数のMPUが分担して実行するように構成してもよい。これにより、MPUによる情報処理の負荷が軽減されるので、処理時間を短くすることが可能になり、温度センサ61~63により測定される各温度情報に対する応答速度を速くすることができる。
【0121】
さらにまた、上述した第1,第2実施形態では、冷熱装置40,50,140の冷熱キャビティ41,51,141を比較的廉価で熱伝導率の大きい金属(例えば、銅やアルミニウム等)により構成したが、熱伝導率の大きさを最優先に金属材料を選択する場合には、銀を用いて冷熱キャビティ41,51,141を構成してもよい。また、金属である必要がない場合にはカーボンナノチューブにより冷熱キャビティ41,51,141を構成してもよい。これにより、ペルチェユニット43,53,145による冷却や加熱をさらに短時間にワークW,Mに伝達することが可能になる。
【0122】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、上述した具体例を様々に変形または変更したものが含まれる。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時の請求項に記載の組合せに限定されるものではない。さらに、本明細書または図面に例示した技術は、複数の目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つ。なお、[符号の説明]の欄における括弧内の記載は、上述した各実施形態で用いた用語と、特許請求の範囲に記載の用語との対応関係を明示し得るものである。一部においては、特許請求の範囲の請求項との対応関係が明示されている。
【符号の説明】
【0123】
10,10’…恒温測定システム
20,20’…計測装置(測定装置)
27…ペルチェユニット(第2冷熱ユニット(請求項1,3)、ペルチェモジュール)
30,30’…測定ユニット(測定装置)
31,31’…本体部
32…スピンドル
33…測定子
35…表示部
40…冷熱装置(第2冷熱ユニット(請求項2)、第3冷熱ユニット(請求項3))
50…冷熱装置(第1冷熱ユニット(請求項1~3))
140…冷熱装置(第1冷熱ユニット(請求項1~3)、第2冷熱ユニット(請求項2)、第3冷熱ユニット(請求項3))
41,51,141…冷熱キャビティ
43,53,145…ペルチェユニット(ペルチェモジュール)
61…温度センサ(第3温度センサ(請求項1,2)、第2温度センサ(請求項3))
62…温度センサ(第1温度センサ(請求項1~3))
63…温度センサ(第2温度センサ(請求項1,2)、第3温度センサ(請求項3))
70…温度コントローラ
80…計測コントローラ
90…ディスプレイ
M…マスターワーク
W…被測定ワーク
X…被測定物
SP…内部空間
MO…機械油