(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-23
(45)【発行日】2024-05-02
(54)【発明の名称】還元熱加水分解法を用いて六フッ化ウランから二酸化ウラン粉末を抽出するための反応チャンバー
(51)【国際特許分類】
C01G 43/025 20060101AFI20240424BHJP
【FI】
C01G43/025 Z
(21)【出願番号】P 2020573543
(86)(22)【出願日】2019-09-05
(86)【国際出願番号】 RU2019000619
(87)【国際公開番号】W WO2021045636
(87)【国際公開日】2021-03-11
【審査請求日】2022-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】521001180
【氏名又は名称】パブリクノエ アクツィオネルノエ オブシチェストヴォ“ノヴォシビルスキー ザヴォッド シムコンシントラトフ”
(74)【代理人】
【識別番号】110001900
【氏名又は名称】弁理士法人 ナカジマ知的財産綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】オストロフスキー ドミトリー ユレヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】フリチン アレクサンドル レオニドヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】オストロフスキー ユリー ウラジミロヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】ザボルトゼフ グリゴリー ミハイロヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】ゼリン イワン イグナチエヴィチ
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】ロシア国特許出願公開第02381993(RU,A)
【文献】特開2007-217266(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 43/025
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部カバーと下部カバーを備えたハウジングを有し、還元的熱加水分解法により六フッ化ウランから二酸化ウラン粉末を抽出するための反応チャンバーであって、
窒素により再生される焼結フィルターを備えた上部濾過エリアと、
六フッ化ウランをフッ化ウラニルに変換する第1反応ゾーンと、
水蒸気、水素及び窒素を供給するノズルを備え、フッ化ウラニルを二酸化ウランに還元するための流動層を構築するためのガス分配グリッドを備えた第2反応ゾーンと、
を含み、
六フッ化ウラン
の供給用
であり、六フッ化ウランの供給のための入口である第1ノズルを、第1反応ゾーンのハウジングの側壁に有し、
第1反応ゾーンのハウジングの側壁の、前記第
1ノズルと対称的な位置に
、水素及び水蒸気供給用
であり、水素及び水蒸気の供給のための入口である第2ノズルがさらに設けられている
ことを特徴とする反応チャンバー。
【請求項2】
前記反応チャンバーにおいて、前
記第1ノズルと第2ノズルが、垂直面内で可動である
ことを特徴とする請求項1に記載の反応チャンバー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属化合物の抽出方法に関し、特に、還元熱加水分解の方法を適用することにより、六フッ化ウランを二酸化ウランのセラミック粉末へ変換する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
六フッ化ウラン(UF6)を、二酸化ウラン(UO2)のセラミック粉末(U235を最大5%濃縮)へ変換するプロセスは、以下の化学反応によって説明される。
【0003】
UF6(g)+2H2O(g)→UO2F2(g)+4HF(g) (1)
UO2F2(g)+H2(g)→UO2(g)+2HF(g) (2)
特許文献1には、六フッ化ウランから二酸化ウラン粉末を抽出するための設備であって、水蒸気の存在下で六フッ化ウランの加水分解を適用することによってフッ化ウラニルを形成するための反応チャンバーと、当該反応チャンバーに接続され、水素によりフッ化ウラニルを還元して二酸化ウランを引き続いて抽出する回転管炉を備えている。回転管炉は、加熱装置を備え、水蒸気および水素が向流で供給される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】ロシア特許第2162058号明細書
【文献】ロシア特許第2381993号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1における設備は、化学反応による酸化ウランの抽出をいくつかの段階に分離し、異なる装置で実施するため、設備規模の増大および運転コストの増大につながるという欠点がある。
【0006】
また、特許文献2には、本発明の技術的本質に最も近い設備として、熱加水分解法により六フッ化ウランから二酸化ウランを抽出する方法の実施のため、加熱された反応チャンバーであって、フィルター再生システムを備えた濾過エリアと、六フッ化ウランをフッ化ウラニルに変換するための第1反応ゾーンと、フッ化ウラニルを二酸化ウランに還元するための流動層を構築するためのガス分配グリッドを備えた第2反応ゾーンと、二酸化ウランの抽出粉末の排出装置とを含む設備が開示されている。
【0007】
しかしながら、この設備の欠点は、反応チャンバー壁およびフィルターエレメント上に、六フッ化ウランの二酸化物への変換反応における中間生成物の堆積物、主としてフッ化ウラニルおよび酸化ウラン濃縮物を含む堆積物が生じることである。
【0008】
この堆積物は、濾過エリアにおける、六フッ化ウラン・水素および水蒸気混合物の供給用ノズルとは反対側の上隅に局在する。
【0009】
このような堆積物の局在化は、ノズルから反応ゾーンに供給される六フッ化ウラン、水素および水蒸気の流れの混合物流と、ガス分配グリッドの下の下部反応ゾーンに供給される水蒸気、水素および窒素の混合物との相互作用による。
【0010】
上記相互作用の過程において、六フッ化ウランの熱加水分解の固体生成物の微細な画分(UO2F2、U3O8、その他)のフィルター要素上の不均一な荷重が、反応チャンバー内で観察される。したがって、窒素逆流の方法を使用するフィルター再生システムは、必ずしも、完全なフィルター再生、特に、固体堆積物の濾過エリアの上隅に位置するフィルターの再生を保証するとは限らない。
【0011】
フィルターの不完全な再生の結果として、フィルターが、六フッ化ウランの熱加水分解生成物で徐々に詰まる。
【0012】
その結果、反応チャンバーの流体抵抗が全体として増加し、反応チャンバーの冷却とフィルターの交換のためプロセスを長期間停止する必要が生じる。
【0013】
六フッ化ウランの熱加水分解反応の中間生成物の形成の主な理由は、第1反応ゾーンにおけるフッ化ウラニルの粒子形成に必要な反応時間が不十分であるため、第1反応ゾーンから、流動層でフッ化ウラニル粒子の二酸化ウランへの還元が行われる第2反応ゾーンへと移動することができるまで十分な粒子形成が行われないことによる。
【0014】
時間的要因の欠如は、フッ化ウラニルと酸化ウランの微細な部分の形成と、それらの濾過システムへのそれらの集中的な移流をもたらし、これにより必然的にフィルターエレメントに目詰まりが生じる。
【0015】
本発明の技術的課題は、中間生成物の形成を最小限に抑えながら、反応チャンバーのオーバーホール間隔を長くすると共に、フィルターエレメントの動作寿命を延長し、コストパフォーマンスを向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題は、上部カバーと下部カバーを備えたハウジングを有し、還元的熱加水分解法により六フッ化ウランから二酸化ウラン粉末を抽出するための反応チャンバーであって、窒素により再生される焼結フィルターを備えた上部濾過エリアと、六フッ化ウランをフッ化ウラニルに変換する第1反応ゾーンと、水蒸気、水素及び窒素を供給するノズルを備え、フッ化ウラニルを二酸化ウランに還元するための流動層を構築するためのガス分配グリッドを備えた第2反応ゾーンと、を含み、六フッ化ウラン、水素及び水蒸気の供給用の第1ノズルを第1反応ゾーンのハウジングの側壁に有し、第1反応ゾーンのハウジングの側壁の、前記第1ノズルと対称的な位置に、六フッ化ウラン、水素及び水蒸気供給用の第2ノズルが更に設けられていることによって達成される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】六フッ化ウラン還元的熱加水分解法を用いて二酸化ウラン粉末を抽出するための反応チャンバーを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
上部カバーと下部カバーを備えたハウジングを有し、還元的熱加水分解法により六フッ化ウランから二酸化ウラン粉末を抽出するための反応チャンバーであって、窒素により再生される焼結フィルターを備えた上部濾過エリアと、六フッ化ウランをフッ化ウラニルに変換する第1反応ゾーンと、水蒸気、水素及び窒素を供給するノズルを備え、フッ化ウラニルを二酸化ウランに還元するための流動層を構築するためのガス分配グリッドを備えた第2反応ゾーンと、を含み、六フッ化ウラン、水素及び水蒸気の供給用の第1ノズルを第1反応ゾーンのハウジングの側壁に有し、第1反応ゾーンのハウジングの側壁の、前記第2ノズルと対称的な位置に、六フッ化ウラン、水素及び水蒸気供給用の第2ノズルが更に設けられている。
【0019】
このように反応チャンバーの第1反応ゾーンに、六フッ化ウラン、水素及び水蒸気を供給するための第2ノズルを追加し、第1ノズルに対称に配置することで、上部濾過エリア中のガスの流れをただすことができ、供給された微粒子をフィルターに均一に充填することが可能になる。
【0020】
これにより、六フッ化ウランの熱加水分解によって生成される微粒子が局在化して急速に過成長するのを抑制し、窒素ガスのバックフロウー(逆流)によるフィルターの均一な再生を確実にすることができる。
【0021】
また、前記反応チャンバーにおいて、前記六フッ化ウランと水素と水蒸気供給用の第1と第2のノズルが、垂直面内で可動とすることで、各ノズルの傾斜角を調整することができる。
【0022】
これにより、第1反応ゾーンで形成されたフッ化ウラニル粒子の滞流時間に影響を与え、必要なサイズの固体粒子を形成することが可能になる。
【0023】
さらに、次の反応(3)による酸化ウランの形成条件が最小限に抑えられ、その結果、一般にフィルターエレメントへの負荷が軽減される。
【0024】
3UO2F2(g)+ЗН2O(g)→U3O8(g)+1.5O2(g)+6НF(g) (3)
追加の第2ノズルを介して第1反応ゾーンに水素を供給すると水素の濃度が増加し、反応(2)および反応(4)に従って、第2反応ゾーンにおける流動層中の水素によるフッ化ウラニルの還元過程の流体力学的状態に影響を及ぼすことはなく、フッ化ウラニルおよび酸化ウランの微粒子の還元の反応速度が増加する。
【0025】
U3O8(g)+2H2(g)→3UO2(g)+2Н2O(g) (4)
また、前記反応チャンバーにおいて、前記第1ノズルが六フッ化ウランの供給用とし、前記第2ノズルを水素及び水蒸気の供給用として分離すれば、供給すべき混合物の各成分の反応チャンバーへの供給をより正確に調節することができるため、プロセス全体の定性的および定量的指標に望ましい影響を及ぼす。
【0026】
<実施形態>
図1は、六フッ化ウラン還元的熱加水分解法を用いて二酸化ウラン粉末を抽出するための反応チャンバーの構成を示す。
【0027】
反応チャンバーは、ハウジング1、上部カバー2、及びガス分配グリッド(gas distribution grid) (図示せず)を備えた下部カバー3を備え、フランジ接続部で互いに気密に接続されている。
【0028】
上部カバー2のフランジには、交換可能な焼結フィルター4が、密に接続されている。
【0029】
各焼結フィルター4は、フィルター再生のために必要な窒素を間欠的に供給するために、上部カバー2に設置された入口システム5を備えている。
【0030】
上部カバー2の補償容積部(compensating volume)の側壁には、排気ガスの放出のために設けられたノズル6がある。
【0031】
反応チャンバーのハウジング1は、ハウジング1の上部に位置し、焼結フィルター4が設置された上部濾過エリア7、六フッ化ウランをフッ化ウラニルに変換する第1反応ゾーン8、及びフッ化ウラニルを二酸化ウランに還元するため流動層を構築する第2反応ゾーン9から構成されている。
【0032】
反応チャンバーのハウジング1の第1反応ゾーン8は、上部濾過エリア7と流動層の第2反応ゾーン9とに接続する。
【0033】
第1反応ゾーン8には、六フッ化ウラン、水素及び水蒸気の供給のために対称に配置された2つのノズル10及び11がある。
【0034】
下部カバー3には、蒸気、水素及び窒素混合物を供給するためのノズル12と、ガス分配グリッドに気密に接続された、反応チャンバーから粉末を排出するための装置(不図示)のノズル13とが装備されている。
【0035】
反応チャンバーは、以下のように動作する。
【0036】
反応チャンバーは、上部濾過エリア7および第1反応ゾーン8では、450℃-500℃まで、第2反応ゾーン9では580℃-635℃まで予備加熱される。
【0037】
第1反応ゾーン8のハウジング1の対向する壁に対称的に配置されたノズル10および11を介して、第1反応ゾーン8に、六フッ化ウラン、水素および水蒸気が供給される。
【0038】
供給された材料は、互いに反応してフッ化ウラニル粉末が形成され、その大部分は流動層の第2反応ゾーン9に下降し、下部カバー3のガス分配グリッドによって減速される。
【0039】
そして、微細画分の粒子は上方に上昇し、焼結フィルター4に保持されるが、窒素空気の逆洗によってフィルターが定期的に再生される。
【0040】
窒素が吹き込まれたフッ化ウラニルの粒子は、第2反応ゾーン9の流動層に入る。
【0041】
ガス分配グリッド下の下部カバー3のノズル12を介して、水蒸気、水素及び窒素の混合物が供給され、ガス分配グリッド上に流動層を形成し、そこでフッ化ウラニルの二酸化ウランへの還元が行われる。
【0042】
二酸化ウラン粉末が蓄積するにつれて、二酸化ウラン粉末は、反応チャンバーから粉末を排出するための装置のノズル13を介して反応チャンバーから排出される。
【0043】
等しい流れを有するノズル10および11の対称的な配置により、その壁に並行な上部濾過エリア7における流れの均一化を実現し、焼結フィルター4に等しい負荷を提供する。
【0044】
その結果、反応チャンバーのオーバーホールの時間的間隔が長くなる。
【0045】
中間生成物の蓄積を排除することにより、反応チャンバーの生産性の向上につながる。
【0046】
したがって、本実施の形態に係る追加ノズルを用いた六フッ化ウランの還元的熱加水分解の方法による二酸化ウラン粉末の抽出のための反応チャンバー構造によれば、反応チャンバーのオーバーホールを実行する間隔を長くするという課題を解決し、フィルターエレメントの動作寿命を延長させ、中間生成物の形成を最小限に抑えて、反応チャンバーの性能の向上を達成することを可能にする。