(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-23
(45)【発行日】2024-05-02
(54)【発明の名称】乗客コンベア装置
(51)【国際特許分類】
B66B 23/00 20060101AFI20240424BHJP
B66B 29/00 20060101ALI20240424BHJP
【FI】
B66B23/00 B
B66B29/00 J
(21)【出願番号】P 2021020190
(22)【出願日】2021-02-10
【審査請求日】2023-03-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000232955
【氏名又は名称】株式会社日立ビルシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健永
【審査官】八板 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-167925(JP,A)
【文献】特開2017-178541(JP,A)
【文献】特開2016-088633(JP,A)
【文献】国際公開第2020/202534(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第105947858(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 23/00
B66B 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築構造物の一方の受梁と他方の受梁とに架け渡される本体枠と、前記本体枠の長手方向における両側の終端部にそれぞれ設けられ、前記受梁に載置されて前記本体枠を支持する支持部材とを備えた乗客コンベア装置において、
少なくともいずれかの受梁に取り付けられ、前記支持部材の上面と非接触で対向する面を有する受梁側固定具と、
前記支持部材の上面に取り付けられ、前記受梁側固定具に前記本体枠の短手方向の両側から当接する本体枠側固定具と、
を備え、前記本体枠は、前記受梁側固定具が取り付けられた受梁に対して、前記長手方向に摺動可能であることを特徴とする乗客コンベア装置。
【請求項2】
両方の前記受梁に前記受梁側固定具が取り付けられ、
前記支持部材の前記受梁に対するかかり代は、逆側における前記本体枠の端部と前記受梁との隙間よりも大きいことを特徴とする、請求項1記載の乗客コンベア装置。
【請求項3】
前記支持部材の前記受梁側に設けられ、前記かかり代を延長する延長部材をさらに備え、
前記本体枠側固定具は、前記支持部材と延長部材とを固定することを特徴とする、請求項2記載の乗客コンベア装置。
【請求項4】
前記支持部材の上面から前記受梁側固定具までに所定の間隙を設けたことを特徴とする請求項1記載の乗客コンベア装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗客コンベア装置に関する。
【背景技術】
【0002】
乗客コンベアの本体枠の支持方法は、一般に、建築構造物の受梁に本体枠の終端部に設けられる支持アングルを載置する構成が用いられる。例えば、特許文献1は、本体枠の支持アングルと建築構造物について、本体枠の一方の終端部を建築構造物に対して移動不能に固定する固定部と、本体枠の他方の終端部を建築構造物に載置する非固定部とを備えるとともに、本体枠と、非固定部の位置する建築構造物との間に、本体枠の長手方向の移動を可能にする間隔を有し、本体枠の長手方向の移動による建築構造物との間の位置ずれに対して、その長手方向にのみ追従可能な滑動部を非固定部に備える構成を開示している。また、この隙間は、建築構造物の層間変位を考慮したもので、本体枠が建築構造物の受梁に衝突しない隙間にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に代表される従来技術では、乗客コンベアの揚程が大きい場合に、建築構造物の受梁に本体枠を固定する固定部において、大地震時の揺れに耐えうる強度を確保する構造が複雑となり、据付時にも多大な労力と時間が発生してしまう。そこで、本体枠の両端の支持アングルを非固定として、本体枠の支持アングルと建築構造物の受梁との間に隙間を夫々設け、両端の支持アングルのかかり代を夫々長くすることにより脱落を防ぐ方法も考えられる。この場合は、強固な固定構造は必須ではなく、短手方向にのみ固定すればよい。しかし、支持アングルの長手方向への可動範囲を確保しつつ、短手方向に固定する構造とするには、支持アングルの周囲に十分なスペースを要する。特に既設の乗客コンベアに対して脱落防止の改造を施す場合、建築構造物の制約から支持アングルの周囲にスペースが無く、短手方向の固定が困難となる場合があった。
【0005】
本発明は、前述した従来技術における実状からなされたもので、その目的は、簡易な構成で脱落や破損を防止する乗客コンベア装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明は、建築構造物の一方の受梁と他方の受梁とに架け渡される本体枠と、前記本体枠の長手方向における両側の終端部にそれぞれ設けられ、前記受梁に載置されて前記本体枠を支持する支持部材とを備えた乗客コンベア装置において、少なくともいずれかの受梁に取り付けられ、前記支持部材の上面と非接触で対向する面を有する受梁側固定具と、前記支持部材の上面に取り付けられ、前記受梁側固定具に前記本体枠の短手方向の両側から当接する本体枠側固定具と、を備え、前記本体枠は、前記受梁側固定具が取り付けられた受梁に対して、前記長手方向に摺動可能であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、簡易な構成で脱落や破損を防止する乗客コンベア装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の乗客コンベア装置の第1の実施の形態を示す本体枠載置部の側面図である。
【
図2】実施例1における上部支持アングル載置部の上面図である。
【
図3】実施例1における下部支持アングル載置部の上面図である。
【
図4】実施例1における上部支持アングル載置部の側面図である。
【
図5】実施例1における下部支持アングル載置部の側面図である。
【
図6】実施例2における上部支持アングル載置部の上面図である。
【
図7】実施例2における下部支持アングル載置部の上面図である。
【
図8】実施例2における上部支持アングル載置部の側面図である。
【
図9】実施例2における下部支持アングル載置部の側面図である。
【
図10】実施例3における上部支持アングル載置部の上面図である。
【
図11】実施例3における下部支持アングル載置部の上面図である。
【
図12】実施例3における上部支持アングル載置部の側面図である。
【
図13】実施例3における下部支持アングル載置部の側面図である。
【
図14】実施例3における固定金具の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係る乗客コンベア装置の実施の形態を図に基づき説明する。
【実施例1】
【0010】
乗客コンベア装置は、例えばエスカレータであり、
図1~
図5に示すように、建築構造物の上階床面と下階床面とを跨ぐように本体枠1が架け渡されている。本体枠1の両側の終端部には、それぞれ本体枠1を支持する上部支持アングル2、及び下部支持アングル3が設けられている。上部支持アングル2及び下部支持アングル3は、特許請求の範囲における支持部材に対応する。
【0011】
上部支持アングル2は、
図1に示すように、建築構造物の上部受梁4に載置されており、下部支持アングル3は、建築構造物の下部受梁5に載置される。上部支持アングル2の上面とは、上部支持アングル2が有する面のうち、上部受梁4に載置される面と表裏の関係にある面であり、上階床面と平行な面である。同様に、下部支持アングル3の上面とは、下部支持アングル3が有する面のうち、下部受梁5に載置される面と表裏の関係にある面であり、下階床面と平行な面である。
【0012】
上部支持アングル2は、本体枠1の長辺方向(長手方向)のスライド移動に対して追従可能であるが、短辺方向(短手方向)の動きは支持アングル上面プレート6と固定金具7によって制限される。支持アングル上面プレート6は、特許請求の範囲における本体枠側固定具に対応する。同様に、下部支持アングル3は、本体枠1の長辺方向(長手方向)のスライド移動に対して追従可能であるが、短辺方向(短手方向)の動きは支持アングル上面プレート6と固定金具7によって制限される。
【0013】
上部支持アングル2と上部受梁4とのかかり代は、建築構造物の層間変位量に加えて、下部側における下部支持アングル3と下部受梁5との隙間10を合わせた値以上を確保する。同様に、下部支持アングル3と下部受梁5とのかかり代は、建築構造物の層間変位量に加えて、上部側における上部支持アングル2と上部受梁4との隙間9を合わせた値以上を確保する。
【0014】
上部側において、支持アングル上面プレート6は、上部支持アングル2の上面の左右端、すなわち短手の辺の両端側にそれぞれ取り付ける。固定金具7は、特許請求の範囲における受梁側固定具であり、板状の金属をL字型に曲げて形成される。固定金具7は、上部支持アングル2の上面と非接触で対向し且つ長手方向に平行な第1の面と、第1の面と逆側の縁で上部受梁4に取り付けられる第2の面とを有する。固定金具7の上部受梁4に対する取り付けは、例えば溶接などを用いる。
図4では、固定金具7は溶接部7aで上部受梁4に溶接されている。
【0015】
また、固定金具7の第1の面は、上部支持アングル2の上面中央で、2つの支持アングル上面プレート6の間に設置する。すなわち、上部支持アングル2の上面に取り付けられた2つの支持アングル上面プレート6は、固定金具7に本体枠1の短手方向の両側から当接し、本体枠1が上部受梁4に対して短手方向に動くことを制限する。
【0016】
ここで、固定金具7の第1の面の下面と上部支持アングル2の上面との隙間11は、1mm以上となるように、固定金具7の下面を切断して高さを調整する。固定金具7と上部支持アングル2との間に隙間を設けることにより、地震時の上下振動が固定金具に伝わり、破損することを防ぐことができる。また、固定金具7の、上部受梁4での取り付け位置は、上部支持アングル2の先端から、上部支持アングル2と上部受梁4の隙間9だけ間隔を取ることにより、上部支持アングル2との衝突を防ぐ。
【0017】
下部側において、支持アングル上面プレート6は、下部支持アングル3の上面の左右端、すなわち短手の辺の両端側にそれぞれ取り付ける。固定金具7は、特許請求の範囲における受梁側固定具であり、板状の金属をL字型に曲げて形成される。固定金具7は、下部支持アングル3の上面と非接触で対向し且つ長手方向に平行な第1の面と、第1の面と逆側の縁で下部受梁5に取り付けられる第2の面とを有する。固定金具7の下部受梁5に対する取り付けは、例えば溶接などを用いる。
【0018】
また、固定金具7の第1の面は、下部支持アングル3の上面中央で、2つの支持アングル上面プレート6の間に設置する。すなわち、下部支持アングル3の上面に取り付けられた2つの支持アングル上面プレート6は、固定金具7に本体枠1の短手方向の両側から当接し、本体枠1が上部受梁4に対して短手方向に動くことを制限する。
【0019】
ここで、固定金具7の第1の面の下面と下部支持アングル3の上面との隙間11は、1mm以上となるように、固定金具7の下面を切断して高さ調整する。固定金具7と下部支持アングル3との間に隙間を設けることにより、地震時の上下振動が固定金具に伝わり、破損することを防ぐことができる。また、固定金具7の、下部受梁5での取り付け位置は、下部支持アングル3の先端から、下部支持アングル3と下部受梁5の隙間10だけ間隔を取ることにより、下部支持アングル3との衝突を防ぐ。
【実施例2】
【0020】
ここで、本発明に係る乗客コンベア装置の第2の実施の形態を実施例2として図に基づき説明する。なお、前述の実施例で説明した構成要素と同等の構成要素には同一符号を付して説明を適宜省略する。
【0021】
実施例2の乗客コンベア装置は、
図6~
図9に示すように、実施例1において、支持アングル上面プレート6を延長し、追加プレート8を追加したものである。追加プレート8は、特許請求の範囲における延長部材に対応する。追加プレート8は、支持アングルの受梁側に設けられ、支持アングル上面プレート6は、支持アングルと追加プレート8とを固定する。
【0022】
この実施例2の構成によれば、前述した実施例1と同様の効果を得ることができる。また、支持アングルの長さを延長したのと同様に、支持アングルと受梁とのかかり代を増すことができる。支持アングル上面プレート6と固定金具7は、同一線上にないため、支持アングル上面プレート6を延長しても、固定金具7は位置と形状の変更が不要である。
【実施例3】
【0023】
ここで、本発明に係る乗客コンベア装置の第3の実施の形態を実施例3として図に基づき説明する。なお、前述の実施例で説明した構成要素と同等の構成要素には同一符号を付して説明を適宜省略する。
【0024】
実施例3の乗客コンベア装置は、
図10~
図14に示すように、実施例1および実施例2において、固定金具7に開口部12と固定金具補強プレート13を追加した構成である。
【0025】
既に説明したように、固定金具7は、板状の金属を曲げて形成されることで、支持アングルの上面と対向し且つ本体枠1の長手方向に平行な第1の面と、第1の面と逆側の縁で受梁に取り付けられる第2の面とを有する。
【0026】
開口部12は、固定金具7の第1の面に設けられ、第2の面の表裏で受梁に取り付け加工される。
図12及び
図13では、固定金具7は、溶接部7aと溶接部7bで受梁に溶接されている。
【0027】
溶接部7aは、固定金具7の曲がりの外側になるため、前述の実施例と同様に溶接できる。一方、溶接部7bは固定金具7の内側になり、前述の実施例の構成では第1の面に遮蔽されて溶接が困難である。そこで、本実施例3では、第1の面に開口部12を設け、開口部12を通して溶接部7bでの溶接を可能としているのである。
【0028】
固定金具7に開口部12を設けることで固定金具7の強度は低下するが、開口部12を覆う補強部材である固定金具補強プレート13を第1の面に取り付けることで、固定金具7の強度低下を補うことができる。なお、固定金具補強プレート13の取り付けは、溶接などを用いればよい。
【0029】
また、固定金具7の第2の面には、切断代14を設けて置き、現地で第1の面の高さを合わせて切断する。受梁の状態を実際に確認し、支持アングルの上面から固定金具7の第1の面までの高さを適正に決定するためである。
【0030】
このように、実施例3によれば、固定金具の固定作業を容易にし、固定金具自体の強度も確保することが可能である。
【0031】
上述してきたように、実施例に開示した乗客コンベア装置は、建築構造物の一方の受梁と他方の受梁とに架け渡される本体枠1と、前記本体枠の長手方向における両側の終端部にそれぞれ設けられ、前記受梁に載置されて前記本体枠を支持する支持部材である上部支持アングル2及び下部支持アングル3とを備える。
【0032】
さらに、乗客コンベア装置は、少なくともいずれかの受梁に取り付けられて支持部材の上面と非接触で対向する面を有する受梁側固定具としての固定金具7と、前記支持部材の上面に取り付けられ、固定金具7に前記本体枠の短手方向の両側から当接する本体枠側固定具としての支持アングル上面プレート6とを備え、前記本体枠1は、前記受梁側固定具が取り付けられた受梁に対して、前記長手方向に摺動可能である。
【0033】
かかる構成では、本体枠載置部において、両端の支持アングルを長手方向で非固定とし、短手方向の固定は支持アングルの中央部上面とすることにより、支持アングルの周囲にスペースを要することなく、受梁から本体枠が脱落せず、短手方向では建築物と衝突することを防止できる。例えば、大地震時において、建築構造物の受梁と、本体枠の支持アングル固定構造の破損を防ぎ、本体枠が建築構造物の受梁から脱落しない。
【0034】
このように、簡易な構成で脱落や破損を防止する乗客コンベア装置を提供することができる。また、支持アングルの周囲にスペースが不要であるため、既設の乗客コンベア装置を改修して本発明の適用を行うことも容易である。
【0035】
また、開示の乗客コンベア装置は、両方の前記受梁に前記受梁側固定具が取り付けられ、前記支持部材の前記受梁に対するかかり代は、逆側における前記本体枠の端部と前記受梁との隙間よりも大きい。このため、一方の端で本体枠が受梁と衝突しても、他方の端における支持部材の脱落を防止できる。
【0036】
また、開示の乗客コンベア装置は、前記支持部材の前記受梁側に設けられ、前記かかり代を延長する延長部材をさらに備え、前記本体枠側固定具は、前記支持部材と延長部材とを固定することもできる。すなわち、既設の乗客コンベア装置の支持アングルに延長部材を追加し、かかり代を大きくする改修を容易に行うことができる。また、規格化された支持アングルに対して適用してもよい。
【0037】
また、開示の乗客コンベア装置は、前記支持部材の上面から前記受梁側固定具までに所定の間隙を設けることで、上下の揺れにより固定金具7が破損する事態を回避できる。
【0038】
また、板状の金属を曲げて固定金具7を形成することで、固定金具7に前記支持部材の上面と対向し且つ前記長手方向に平行な第1の面と、前記第1の面と逆側の縁で前記受梁に取り付けられる第2の面とを設け、前記第1の面に開口部12を設け、前記第2の面の表裏で前記受梁に取り付け加工することで、固定金具7を受梁に強固に取り付けることができる。合わせて、前記開口部を覆って前記第1の面に補強部材を取り付けることで、開口部による固定金具7の強度低下を補うことができる。
【0039】
なお、前述した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、各実施の形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置き換えをすることが可能である。
【0040】
例えば、前述の実施例では、上部側と下部側の双方で長手方向の摺動を許容する構成を例示したが、一方で長手方向の摺動を許容し、他方では長手方向の固定を行う構成としてもよい。
【0041】
また、前述の実施例では、エスカレータを例示して説明を行ったが、傾斜した斜面を動かして乗客を運搬する構成や、水平方向に乗客を運搬する構成で本発明を実施してもよい。
【符号の説明】
【0042】
1:本体枠 2:上部支持アングル 3:下部支持アングル 4:上部受梁 5:下部受梁 6:支持アングル上面プレート 7:固定金具 7a,7b:溶接部 8:追加プレート 9,10,11:隙間 12:開口部 13:固定金具補強プレート 14:切断代