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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-23
(45)【発行日】2024-05-02
(54)【発明の名称】チャック装置
(51)【国際特許分類】
   B23B 31/30 20060101AFI20240424BHJP
   B23B 31/02 20060101ALI20240424BHJP
   B23Q 3/06 20060101ALI20240424BHJP
   F15B 15/14 20060101ALN20240424BHJP
【FI】
B23B31/30 Z
B23B31/02 610Z
B23Q3/06 303B
F15B15/14 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021084279
(22)【出願日】2021-05-19
(65)【公開番号】P2022177871
(43)【公開日】2022-12-02
【審査請求日】2023-05-24
(73)【特許権者】
【識別番号】591014835
【氏名又は名称】高松機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092727
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 忠昭
(74)【代理人】
【識別番号】100146891
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 ひろ美
(72)【発明者】
【氏名】沢山 一也
(72)【発明者】
【氏名】中村 武尊
【審査官】野口 絢子
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-099205(JP,A)
【文献】特開平08-174315(JP,A)
【文献】特開昭48-102379(JP,A)
【文献】国際公開第2007/018166(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B31/00-33/00
B23Q 3/00- 3/154
B23Q 3/16- 3/18
F15B15/00-15/28
F15B11/00-11/22
F15B21/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械の主軸と一体的に所定方向に回動されるチャック本体と、前記チャック本体に周方向に間隔を置いて配設された複数の爪部材と、前記複数の爪部材を径方向に往復動させて加工物を保持するためのチャッキングシリンダと、前記チャッキングシリンダの出力部の移動を前記複数の爪部材に伝達するための移動伝達機構と、前記チャック本体に取り付けられて前記加工物を前方側に押し出す押出し具と、を具備するチャック装置において、
前記チャッキングシリンダは、シリンダ本体と、前記シリンダ本体に収容された第1及び第2ピストンとを備え、前記シリンダ本体と前記第1ピストンとの間に第1シリンダ室が規定され、前記シリンダ本体と前記第2ピストンとの間に第2シリンダ室が規定され、前記第1及び第2ピストンの間に中間シリンダ室が規定され、前記第1ピストンにおける前記シリンダ本体から突出する第1突出軸部が前記チャッキングシリンダの前記出力部として機能し、前記第2ピストンにおける前記シリンダ本体から突出する第2突出軸部に当接部材が取り付けられ、前記第1シリンダ室及び前記中間シリンダ室に第1圧力の第1圧力流体が供給されるように構成され、前記第2シリンダ室に前記第1圧力よりも大きい第2圧力の第2圧力流体が供給されるように構成されていることを特徴とするチャック装置。
【請求項2】
前記チャッキングシリンダに関連して、前記第1圧力流体を供給するための第1圧力流体供給手段及び前記第2圧力流体を供給するための第2圧力流体供給手段が設けられ、前記複数の爪部材を前記径方向外方に移動させて開放するときには、前記第1圧力流体供給手段からの前記第1圧力流体が前記チャッキングシリンダの前記中間シリンダ室に送給され、前記複数の爪部材を前記径方向内方に移動させて半開放するときには、前記第1圧力流体供給手段からの前記第1圧力流体が前記チャッキングシリンダの前記第1シリンダ室に送給されるとともに、前記第2圧力流体供給手段からの前記第2圧力流体が前記チャッキングシリンダの前記第2シリンダ室に送給され、また前記複数の爪部材を前記径方向内方に移動させて前記加工物を保持するときには、前記第1圧力流体供給手段からの前記第1圧力流体が前記チャッキングシリンダの前記第1シリンダ室に送給されることを特徴とする請求項1に記載のチャック装置。
【請求項3】
前記当接部材は、前記第2ピストンの第2突出軸部に螺合された調整ナットから構成され、前記調整ナットの螺合位置を変えることによって、前記第2ピストンの前記第1ピストン側への移動量が調整されることを特徴とする請求項1又は2に記載のチャック装置。
【請求項4】
前記第1圧力流体供給手段と前記チャッキングシリンダの前記第1シリンダ室及び前記中間シリンダ室との間に第1流路切替弁が配設され、前記第1流路切替弁が第1切替位置にあるときには、前記第1圧力流体供給手段が前記第1シリンダ室に連通されるとともに、前記中間シリンダ室が戻し流路に連通され、前記第1流路切替弁が第2切替位置にあるときには、前記第1圧力流体供給手段が前記中間シリンダ室に連通されるとともに、前記第1シリンダ室が前記戻し流路に連通されることを特徴とする請求項2に記載のチャック装置。
【請求項5】
前記第2圧力流体供給手段と前記チャッキングシリンダの前記第2シリンダ室との間に第2流路切替弁が配設され、前記第2流路切替弁が第1切替位置にあるときには、前記第2圧力流体供給手段が前記第2シリンダ室に連通され、前記第2流路切替弁が第2切替位置にあるときには、前記第2シリンダ室が前記戻し流路に連通されることを特徴とする請求項4に記載のチャック装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工物の全長基準が加工物の前面側となる場合にこの加工物を安定して位置決め保持できるチャック装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械の一例としてのNC旋盤では、主軸によって所定方向に回転されるチャック装置に加工物が着脱自在に保持され、チャック装置に保持された加工物に対して例えば切削工具によって切削加工が施される(例えば、特許文献1参照)。このようなNC旋盤を用いた加工では、加工物の全長基準が前側となるようにしてチャック装置に取り付けて切削加工を行う場合があり、このような場合、例えば図10に示すようにして加工物の取付けが行われる。
【0003】
図10において、NC旋盤に適用される従来のチャック装置は、チャック本体102を備え、このチャック本体102に周方向に間隔をおいて複数(例えば、3つ)の爪部材104が径方向に移動自在に装着されている。また、このチャック本体102には中央孔106が設けられ、この中央孔106内に押出し具108が取り付けられている。この押出し具108は、チャック本体102に装着されたハウジング本体110と、このハウジング本体110に収容された弾性部材112としての例えばコイルばね(例えば、エアシリンダなどを用いこともある)と、加工物Pに作用して前側に押し出すための押出し部材114とを備えている。
【0004】
また、複数の爪部材104を開閉するためのチャッキングシリンダ116(例えば、油圧シリンダ機構)が設けられている。チャッキングシリンダ116はシリンダ本体118を備え、このシリンダ本体118内にピストン120が内蔵され、このチャッキングシリンダ116の出力部122が移動伝達機構124を介して複数の爪部材104に駆動伝達されている。このように構成されているので、チャッキングシリンダ116の第1シリンダ室126に圧力流体が供給されると、ピストン120が図10において左側に移動し、移動伝達機構124を介して複数の爪部材104が径方向内方に移動され、これによって、加工物Pは、複数の爪部材104間に保持される。また、チャッキングシリンダ116の第2シリンダ室128に圧力流体が供給されると、ピストン120が図10において右側に移動し、移動伝達機構124を介して複数の爪部材104が径方向外方に移動され、これによって、複数の爪部材104による加工物Pの保持が解除される。
【0005】
加工物Pとしては、例えば円筒状の本体部130及び環状フランジ部132を有する形状に加工する場合があり、この加工の際の加工物の全長基準が前側となる、即ち環状フランジ部132の前面134が基準面となるようにして加工する場合がある。このような加工の場合、加工物Pは、その環状フランジ部132の前面134が複数の爪部材104の背面136に当接するように複数の爪部材104に保持され、このような保持状態で加工物Pに対する切削加工が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-176951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来のチャック装置では、加工物Pを次のようにして保持していために、この加工物Pを正確に且つ確実に保持することができないという問題があった。即ち、従来においては、チャッキングシリンダ116の第2のシリンダ室128に圧力流体を送給して複数の爪部材104を開方向(即ち、径方向外方)に移動させて開状態とし、次いで、加工物Pの環状フランジ部132を複数の爪部材104の内側に挿入し、その後、チャッキングシリンダ116の第1シリンダ室126に圧力流体を送給して複数の爪部材104を閉方向(即ち、径方向内方)に移動させて閉状態にし、このようにして加工物Pを複数の爪部材104でもって一旦保持していた。
【0008】
しかる後、チャッキングシリンダ116の第2シリンダ室128に圧力流体を送給した後にその第1シリンダ室126に圧力流体を送給し、このように圧力流体の送給を切り替えて複数の爪部材104を開いた後に閉じていた。そして、この一時的に開いた時に、押出し具108の弾性部材112(コイルばね)の弾性復元作用を利用して、押出し部材114を介して加工物Pを前方側に押し出して、加工物Pの環状フランジ部132の前面134を複数の爪部材104の背面136に押し当てるようにし、かかる当接状態において、複数の爪部材104により加工物Pを保持していた。
【0009】
従来、加工物Pをこのように保持していた故に、例えば圧力流体として作動油を用いた場合、温度変化により作動油の粘性が変化し、これにより、複数の爪部材104の開閉スピードが大きく変わり、押出し具108により正しく押し出される前に複数の爪部材104が加工物Pを保持してしまい、このような場合に、加工後の加工物Pの寸法にバラツキが生じるという問題が生じたり、或いは複数の爪部材104が開きすぎて加工物Pが複数の爪部材104から外れてしまい、このような場合に、加工物Pに対する加工を行うことができず、加工ミスが生じるという問題が生じたりしていた。
【0010】
本発明の目的は、加工物の全長基準が前側となる加工物を複数の爪部材の背面に確実に押し当てた状態で保持することができるチャック装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の請求項1に記載のチャック装置は、工作機械の主軸と一体的に所定方向に回動されるチャック本体と、前記チャック本体に周方向に間隔を置いて配設された複数の爪部材と、前記複数の爪部材を径方向に往復動させて加工物を保持するためのチャッキングシリンダと、前記チャッキングシリンダの出力部の移動を前記複数の爪部材に伝達するための移動伝達機構と、前記チャック本体に取り付けられて前記加工物を前方側に押し出す押出し具と、を具備するチャック装置において、
前記チャッキングシリンダは、シリンダ本体と、前記シリンダ本体に収容された第1及び第2ピストンとを備え、前記シリンダ本体と前記第1ピストンとの間に第1シリンダ室が規定され、前記シリンダ本体と前記第2ピストンとの間に第2シリンダ室が規定され、前記第1及び第2ピストンの間に中間シリンダ室が規定され、前記第1ピストンにおける前記シリンダ本体から突出する第1突出軸部が前記チャッキングシリンダの前記出力部として機能し、前記第2ピストンにおける前記シリンダ本体から突出する第2突出軸部に当接部材が取り付けられ、前記第1シリンダ室及び前記中間シリンダ室に第1圧力の第1圧力流体が供給されるように構成され、前記第2シリンダ室に前記第1圧力よりも大きい第2圧力の第2圧力流体が供給されるように構成されていることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の請求項2に記載のチャック装置では、前記チャッキングシリンダに関連して、前記第1圧力流体を供給するための第1圧力流体供給手段及び前記第2圧力流体を供給するための第2圧力流体供給手段が設けられ、前記複数の爪部材を前記径方向外方に移動させて開放するときには、前記第1圧力流体供給手段からの前記第1圧力流体が前記チャッキングシリンダの前記中間シリンダ室に送給され、前記複数の爪部材を前記径方向内方に移動させて半開放するときには、前記第1圧力流体供給手段からの前記第1圧力流体が前記チャッキングシリンダの前記第1シリンダ室に送給されるとともに、前記第2圧力流体供給手段からの前記第2圧力流体が前記チャッキングシリンダの前記第2シリンダ室に送給され、また前記複数の爪部材を前記径方向内方に移動させて前記加工物を保持するときには、前記第1圧力流体供給手段からの前記第1圧力流体が前記チャッキングシリンダの前記第1シリンダ室に送給されることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の請求項3に記載のチャック装置では、前記当接部材は、前記第2ピストンの第2突出軸部に螺合された調整ナットから構成され、前記調整ナットの螺合位置を変えることによって、前記第2ピストンの前記第1ピストン側へのストロークが調整されることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の請求項4に記載のチャック装置では、前記第1圧力流体供給手段と前記チャッキングシリンダの前記第1シリンダ室及び前記中間シリンダ室との間に第1流路切替弁が配設され、前記第1流路切替弁が第1切替位置にあるときには、前記第1圧力流体供給手段が前記第1シリンダ室に連通されるとともに、前記中間シリンダ室が戻し流路に連通され、前記第1流路切替弁が第2切替位置にあるときには、前記第1圧力流体供給手段が前記中間シリンダ室に連通されるとともに、前記第1シリンダ室が前記戻し流路に連通されることを特徴とする。
【0015】
更に、本発明の請求項5に記載のチャック装置では、前記第2圧力流体供給手段と前記チャッキングシリンダの前記第2シリンダ室との間に第2流路切替弁が配設され、前記第2流路切替弁が第1切替位置にあるときには、前記第2圧力流体供給手段が前記第2シリンダ室に連通され、前記第2流路切替弁が第2切替位置にあるときには、前記第2シリンダ室が前記戻し流路に連通されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の請求項1に記載のチャック装置によれば、複数の爪部材を開閉するためのチャッキングシリンダは、シリンダ本体と、シリンダ本体に収容された第1及び第2ピストンとを備え、シリンダ本体と第1ピストンとの間に第1シリンダ室が規定され、シリンダ本体と第2ピストンとの間に第2シリンダ室が規定され、第1及び第2ピストンの間に中間シリンダ室が規定され、第1ピストンにおけるシリンダ本体から突出する第1突出軸部が出力部として機能し、第2ピストンにおける前記シリンダ本体から突出する第2突出軸部に当接部材が取り付けられている。そして、第1シリンダ室及び中間シリンダ室に第1圧力の第1圧力流体が供給され、第2シリンダ室に第2圧力の第2圧力流体が供給されるので、複数の爪部材を開状態、半開状態及び閉状態にすることができ、これによって、加工物を複数の爪部材の背面に確実に押し当てた状態で保持することができる。
【0017】
また、本発明の請求項2に記載のチャック装置によれば、第1圧力流体供給手段からの第1圧力流体をチャッキングシリンダの中間シリンダ室に送給することにより、複数の爪部材を径方向外方に移動させて開状態にし、加工物を複数の爪部材の内側に挿入することができ、また第1圧力流体供給手段からの第1圧力流体をチャッキングシリンダの第1シリンダ室に送給するとともに、第2圧力流体供給手段からの第2圧力流体をチャッキングシリンダの第2シリンダ室に送給することにより、複数の爪部材を径方向内方に移動させて半開状態にし、加工物の前面側を複数の爪部材の背面側に押し当てることができ、更に、第1圧力流体供給手段からの第1圧力流体をチャッキングシリンダの第1シリンダ室に送給することにより、複数の爪部材を径方向内方に移動させて閉状態にして加工物を保持することができる。
【0018】
また、本発明の請求項3に記載のチャック装置によれば、当接部材が第2ピストンの第2突出軸部に螺合された調整ナットから構成されているので、この調整ナットの螺合位置を変えることによって、第2ピストンの移動量を調整し、これによって、複数の爪部材の半開放位置を調整することができる。
【0019】
また、本発明の請求項4に記載のチャック装置によれば、第1圧力流体供給手段とチャッキングシリンダの第1シリンダ室及び中間シリンダ室との間に第1流路切替弁が配設されているので、この第1流路切替弁を切り替えることにより、チャッキングシリンダの第1及び中間シリンダ室に送給される第1圧力流体の送給を切り替え、第1ピストンの移動を制御することができる。
【0020】
更に、本発明の請求項5に記載のチャック装置によれば、第2圧力流体供給手段とチャッキングシリンダの第2シリンダ室との間に第2流路切替弁が配設されているので、この第2流路切替弁を切り替えることにより、第2ピストンの移動を制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明に従うチャック装置の一実施形態の要部を示す断面図。
図2図1のチャック装置のチャッキングシリンダに送給される圧力流体を制御する流体圧回路を示す流体圧回路図。
図3図1のチャック装置の複数の爪部材を開状態にしたときの状態を示す図。
図4】複数の爪部材を開状態にするときの圧力流体の流れを示す流体圧回路図。
図5図1のチャック装置の複数の爪部材を半開状態にしたときの状態を示す図。
図6】複数の爪部材を半開状態にするときの圧力流体の流れを示す流体圧回路図。
図7】加工物の前面側を複数の爪部材の背面側に当接させた状態を示す図。
図8図1のチャック装置の複数の爪部材を閉状態にしたときの状態を示す図。
図9】複数の爪部材を閉状態にするときの圧力流体の流れを示す流体圧回路図。
図10】従来のチャック装置を簡略的に示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面を参照して、本発明に従うチャック装置の一実施形態について説明する。まず、図1を参照して、チャック装置の一実施形態の構造について説明すると、図示のチャック装置は、加工物Pを保持するためのチャック本体2と、このチャック本体2に周方向に間隔をおいて配設された複数(例えば、3つ又は4つ)の爪部材4と、これら爪部材4を径方向に移動させて開閉するためのチャッキングシリンダ6と、このチャッキングシリンダ6の動きを複数の爪部材4に伝達するための移動伝達機構8とを含んでいる。
【0023】
このチャック装置は、例えば工作機械の一例としてのNC旋盤に適用され、このチャック本体2は、NC旋盤の主軸部に回転自在に支持された主軸(図示せず)に取り付けられ、この主軸と一体的に所定方向に回動される。複数の爪部材4は、チャック本体2の前面に配設され、後述するように径方向に往復動される。複数の爪部材4が径方向外方に移動して開状態になる(図3参照)と、これら爪部材4への加工物P(例えば、図3参照)の取付け、取外しを行うことができる。また、複数の爪部材4が径方向内方に移動して半開状態となる(図5及び図7参照)と、加工物Pを軸方向に移動させてその前面側を複数の爪部材4の背面側に当接させることができる。更に、複数の爪部材4を径方向内方に移動させて閉状態になる(図8参照)と、複数の爪部材4間に加工物Pを保持することができる。
【0024】
この実施形態では、例えば図3に示すように、加工物Pは、図10に示したものと同様の形状を有し、円筒状の本体部10と、この本体部10の一端部に設けられた環状フランジ部12とを有し、環状フランジ部12が本体部10の外周面から径方向外方に延びている。この加工物Pは、軸線方向(図3において左右方向)の基準が前面側(具体的には、環状フランジ部12の環状の前面14)となるようにして加工され、このことに関連して、加工の際に、この環状フランジ部12の前面14が、後述するようにして複数の爪部材4の背面側に当接される。
【0025】
この実施形態では、各爪部材4の先端部の背面側に、先端から径方向に延びる切欠き凹部16が設けられ、加工物Pの前面14が各爪部材4の切欠き凹部16の背面18に当接されて軸方向の位置決めが行われ、この当接状態でもって加工物Pが複数の爪部材4間に挟持保持される。
【0026】
チャック本体2には、更に、その中心部に中央孔20が設けられ、この中央孔20に押出し具22が取り付けられている。この押出氏具22は、チャック本体2に取り付けられるハウジング本体24と、このハウジング本体24の収容凹部26に装着された押出し部材28と、ハウジング本体24と押出し部材28との間に介在された弾性部材30とを備え、弾性部材30は、例えばコイルばねから構成され、押出し部材28を前面側(図1において右側)に押し出す作用をする。
【0027】
複数の爪部材4に関連して配設されるチャッキングシリンダ6は、シリンダ本体32を備え、このシリンダ本体32内に第1ピストン34及び第2ピストン36が軸方向(図1において左右方向)に往復移動自在に配設されている。図示の第1ピストン34は、シリンダ本体32の内周面に沿って移動する第1ピストン本体38と、この第1ピストン本体38の両側に設けられた第1ボス部40,42と、第1ボス部40,42から軸方向に延びる第1軸部44,46とを有し、一方の第1軸部44がシリンダ本体32の一方の端壁48を貫通して外方に延びており、かかる第1軸部44(第1突出軸部を構成する)がチャッキングシリンダ6の出力部として機能する。尚、このようなチャッキングシリンダ6は、流体圧力を利用した流体圧シリンダ機構から構成することができ、例えば油圧を利用した油圧シリンダ機構、例えば空圧を利用した空圧シリンダ機構などを用いることができる。
【0028】
また、第2ピストン36は、シリンダ本体32の内周面に沿って移動する第2ピストン本体50と、この第2ピストン本体50の両側に設けられた第2ボス部52,54と、第2ボス部54から軸方向に延びる第2軸部56とを有し、第2軸部56がシリンダ本体32の他方の端壁58を貫通して外方に延びており、かかる第2軸部56(第2突出軸部を構成する)に当接部材59が取り付けられている。
【0029】
この形態では、当接部材59は調整ナットから構成され、この調整ナットが第2軸部56に螺合されている。このように構成されているので、調整ナットの螺合位置を変えることにより、第2ピストン36のストロークを調整することができ、例えば、締付け方向(又は緩み方向)に移動させることにより、第2ピストン36のストロークが小さくなる(又は大きくなる)ように調整することができる。
【0030】
この実施形態では、第2ピストン36(具体的には、第2ピストン本体50、第2ボス部52,54及び第2軸部56)を軸方向に貫通して貫通支持孔60が設けられ、かかる貫通支持孔60に、第1ピストン34の他方の第1軸部46が移動自在に支持されており、このように構成されているので、第1及び第2ピストン34,36は、相互に相対的に移動自在に配設されている。
【0031】
このチャッキングシリンダ6においては、図1に示すように、シリンダ本体32(具体的には、一方の端壁48)と第1ピストン34との間に第1シリンダ室61が規定され、シリンダ本体32(具体的には、他方の端壁58)と第2ピストン36との間に第2シリンダ室62が規定され、また第1ピストン34と第2ピストン36との間に中間シリンダ室63が規定されている。そして、このことに関連して、シリンダ本体32の一端部には、第1シリンダ室61に連通する第1流体連通孔64が設けられ、その他端部には、第2シリンダ室62に連通する第2流体連通孔65が設けられ、またその中間部には、中間シリンダ室63に連通する中間連通孔66が設けられている。
【0032】
この実施形態では、更に、チャッキングシリンダ6の動きを複数の爪部材4に伝達するための移動伝達機構8は、伝達ロッド67及び揺動伝達部材68を含んでいる。伝達ロッド67の一端部にはスリーブ部材69が螺着され、このスリーブ部材69と各爪部材4とが揺動伝達部材68を介して駆動連結されている。また、伝達ロッド67の他端部には雄ねじ軸部70が設けられ、かかる雄ねじ軸部70が第1ピストン34の第1軸部44(第1突出軸部)の雌ねじ部に螺着されている。このように構成されているので、伝達ロッド67が矢印71で示す方向に移動すると、スリーブ部材69及び揺動伝達部材68を介して複数の爪部材4は矢印72で示す径方向外方(即ち、開方向)に移動される。
【0033】
チャッキングシリンダ6は、図2に示す流体圧制御回路により作動制御される。図示の流体圧制御回路は、第1圧力(例えば、0.5~3.0MPa程度)の圧力流体(第1圧力流体)を供給するための第1圧力流体供給手段と、第1圧力よりも大きい第2圧力(例えば1.0~3.4MPa程度)の圧力流体(第2圧力流体)を供給するための第2圧力流体供給手段とを備え、この実施形態では、圧力流体を供給する供給ライン73から分岐する第1分岐供給ライン74に配設された減圧弁75が、第1圧力の第1圧力流体(例えば、圧油)を供給するための第1圧力流体供給手段として機能し、この供給ライン73から分岐する第2分岐供給ライン76に配設された圧力調整弁88が、第2圧力の第2圧力流体(例えば、圧油)を供給するための第2圧力流体供給手段として機能する。
【0034】
第1分岐供給ライン74を通して送給される圧力流体(第1圧力流体)は、チャッキングシリンダ6の第1シリンダ室61及び中間シリンダ室63に送給されるように構成されている。この形態では、減圧弁75に関連して第1流路切替弁77が設けられ、第1分岐供給ライン74及び第1分岐戻りライン78が第1流路切替弁77の流入側に接続されるとともに、第1シリンダ室61に連通する第1流体ライン79及び中間シリンダ室63に連通する中間流体ライン80が第1流路切替弁77のシリンダ側に接続されている。また、減圧弁75と第1流路切替弁77との間に逆止弁81が配設されている。
【0035】
このように構成されているので、第1流路切替弁77が図2(及び図4)に示す第1切替位置に位置するときには、第1分岐供給ライン74と中間流体ライン80とが接続されるとともに、第1分岐戻りライン78と第1流体ライン79とが接続され、第1分岐供給ライン74からの圧力流体が中間流体ライン80を通してチャッキングシリンダ6の中間シリンダ室63に送給され、またチャッキングシリンダ6の第1シリンダ室61内の圧力流体が第1流体ライン79及び第1分岐戻りライン78を通して戻りライン82に戻される。また、この第1流路切替弁77が図6(及び図9)に示す第2切替位置に位置するときには、第1分岐供給ライン74と第1流体ライン79とが接続されるとともに、第1分岐戻りライン78と中間流体ライン80とが接続され、第1分岐供給ライン74からの圧力流体が第1流体ライン79を通してチャッキングシリンダ6の第1シリンダ室61に送給され、またチャッキングシリンダ6の中間シリンダ室63内の圧力流体が中間流体ライン80及び第1分岐戻りライン78を通して戻りライン82に戻される。
【0036】
第2分岐供給ライン76を通して送給される圧力流体(第2圧力流体)は、チャッキングシリンダ6の第2シリンダ室62に送給されるように構成されている。この形態では、圧力調整弁76に関連して第2流路切替弁83が設けられ、第2分岐供給ライン76及び第2分岐戻りライン84が第2流路切替弁83の流入側に接続されるとともに、第2シリンダ室62に連通する第2流体ライン85が第2流路切替弁83のシリンダ側に接続されている。
【0037】
このように構成されているので、第2流路切替弁83が図2(及び図6)に示す第1切替位置に位置するときには、第2分岐供給ライン74と第2流体ライン85とが接続され、第2分岐供給ライン76からの圧力流体(第2圧力流体)が第2流体ライン85を通してチャッキングシリンダ6の第2シリンダ室62に送給される。また、この第2流路切替弁83が図4(及び図9)に示す第2切替位置に位置するときには、第2分岐戻りライン84と第2流体ライン85とが接続され、チャッキングシリンダ6の第2シリンダ室62内の圧力流体が第2流体ライン85及び第2分岐戻りライン84を通して戻りライン82に戻される。
【0038】
次に、主として図3図9を参照して、上述したチャック装置による加工物Pのチャッキング動作について説明する。加工物Pを軸方向前側を基準としてチャック装置に保持するには、先ず、図3及び図4に示すように複数の爪部材4を開放状態にする。第1流路切替弁77が第1切替位置に位置付けられるとともに、第2流路切替弁83が第2切替位置に位置付けられる。この切替状態においては、供給ライン73からの圧力流体は、第1分岐供給ライン74及び中間流体ライン80を通してチャッキングシリンダ6の中間シリンダ室63に送給されるとともに、チャッキングシリンダ6の第1シリンダ室61内の圧力流体が第1流体ライン79及び第1分岐戻りライン78を通して戻りライン82に戻され、更にチャッキングシリンダ6の第2シリンダ室62内の圧力流体が第2流体ライン85及び第2分岐戻りライン84を通して戻りライン82に戻される。
【0039】
このように中間シリンダ室63に圧力流体が送給されると、図3に矢印で示すように、第1ピストン34は図3において右側に移動される(その第1ボス部40が一方の端壁48に当接する位置まで移動される)とともに、第2ピストン36は図3において左側に移動され(その第2ボス部54が他方の端壁58に当接する位置まで移動される)、この第1ピストン34の移動により第1軸部44(第1突出軸部)が伸張する。
【0040】
かくすると、第1軸部44の動きが移動伝達機構8(伝達ロッド68及び揺動伝達部材68など)(図2参照)を介して複数の爪部材4に伝達され、これら爪部材4は矢印で示すように径方向外方に移動して開状態(即ち、加工物Pの環状フランジ部12が複数の爪部材4間を通して内側に挿入可能な状態)となる。
【0041】
複数の爪部材4が開放されると、図3及び図5から理解されるように、例えばローダ装置(図示せず)により搬送保持された加工物Pをこれら爪部材4間を通して内側に挿入し、その環状フランジ部12がチャック本体2の前面に当接する位置まで挿入する。かく挿入すると、挿入した加工物Pが押出し具22の押出し部材28に作用し、弾性部材30が収縮状態となる。
【0042】
このように加工物Pを挿入した後、図5及び図6に示すように複数の爪部材4を半開状態にする。第1流路切替弁77が第1切替位置から第2切替位置に切り替えられるとともに、第2流路切替弁83が第2切替位置から第1切替位置に切り替えられる。この切替状態においては、供給ライン73からの圧力流体は、第1分岐供給ライン74及び第1流体ライン79を通してチャッキングシリンダ6の第1シリンダ室61に送給されるとともに、チャッキングシリンダ6の中間シリンダ室63内の圧力流体が中間流体ライン80及び第1分岐戻りライン78を通して戻りライン82に戻され、更に供給ライン73からの圧力流体が第2分岐供給ライン76及び第2流体ライン85を通してチャッキングシリンダ6の第2シリンダ室62に送給される。
【0043】
このように第1シリンダ室61及び第2シリンダ室62に圧力流体が送給されると、図5に矢印で示すように、第1ピストン34は図3において左側に移動されるとともに、第2ピストン36は図3において右側に移動される。このとき、第2シリンダ室62に送給される圧力流体(第2圧力流体)の圧力が第1シリンダ室61に送給される圧力流体(第1圧力流体)の圧力よりも大きいので、第2ピストン36が優先的に移動され、この第2ピストン36は、第2軸部56(第2突出軸部)に装着された当接部材59がシリンダ本体32の他方の端壁58に当接する位置まで矢印で示す方向に移動され、また第1ピストン34は、第1ボス42が第2ピストン36の第2ボス部52に当接する位置まで矢印で示す位置まで移動され、この第1ピストン34の移動により、第1軸部44(第1突出軸部)が収縮する。
【0044】
かくすると、第1軸部44の収縮の動きが移動伝達機構8(伝達ロッド68及び揺動伝達部材68など)(図2参照)を介して複数の爪部材4に伝達され、これら爪部材4は矢印で示すように径方向内方に移動して半開状態(即ち、加工物Pの環状フランジ部12が複数の爪部材4の切欠き凹部16の背面18に当接可能な状態)となる。
【0045】
その後、これら爪部材4の半開状態において、ローダ装置(図示せず)による加工物Pの搬送保持を解除すると、図7に示すように、押出し具22の弾性部材30によって、押出し部材28とともに加工物Pが軸方向前方側(図7において右方)に押し出され、加工物Pの環状フランジ部12の前面14が複数の爪部材4の背面18に当接し、加工物Pの軸方向前面側を基準とする位置付けが行われる。このとき、複数の爪部材4が半開状態に保持されているので、この押出しの際に複数の爪部材4が加工物Pを挟持することがなく、また加工物Pが複数の爪部材4の間から外側に外れることもなく、この加工物Pの環状フランジ部12の前面14を複数の爪部材4の背面18に確実に当接させて位置付けることができる。
【0046】
しかる後、図8及び図9に示すように複数の爪部材4を閉状態にする。第1流路切替弁77が第2切替位置に保持されるとともに、第2流路切替弁83が第1切替位置から第2切替位置に切り替えられる。この切替状態においては、供給ライン73からの圧力流体は、第1分岐供給ライン74及び第1流体ライン79を通してチャッキングシリンダ6の第1シリンダ室61に送給されるとともに、チャッキングシリンダ6の中間シリンダ室63内の圧力流体が中間流体ライン80及び第1分岐戻りライン78を通して戻りライン82に戻され、更にチャッキングシリンダ6の第2シリンダ室62内の圧力流体が第2流体ライン85及び第2分岐戻りライン84を通して戻りライン82に戻される。
【0047】
このように第1シリンダ室61に圧力流体(第1圧力流体)が送給されると、図8に矢印で示すように、第1ピストン34は図3において左側に移動されるとともに、第2ピストン36も図3において左側に移動され、第1ピストン34は、第1ボス部42が第2ピストン36の第2ボス部52に当接する位置まで矢印で示す方向に移動され、また第2ピストン36は、第2ボス部54がシリンダ本体32の他方の端壁58に当接する位置まで矢印で示す方向に移動され、この第1及び第2ピストン34、36の移動により、第1軸部44(第1突出軸部)が更に収縮する。
【0048】
かくすると、この第1軸部44の収縮の動きが移動伝達機構8(伝達ロッド68及び揺動伝達部材68など)(図2参照)を介して複数の爪部材4に伝達され、これら爪部材4は矢印で示すように径方向内方に更に移動して閉状態となり、かくして、加工物Pは、その本体部10が複数の爪部材4により挟持され、このようにて加工物の全長基準が前側となるように加工物Pをチャック装置に保持することができる。
【0049】
以上、本発明に従うチャック装置の一実施形態について説明したが、本発明はこのような実施形態に限定されず、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変更乃至修正が可能である。
【0050】
例えば、上述した実施形態では、チャッキングシリンダ6の出力部が収縮(又は伸張)することによって、複数の爪部材4が径方向内方に移動して閉状態に(又は径方向外方に移動して開状態に)なるように構成しているが、これとは反対に、チャッキングシリンダ6の出力部が収縮(又は伸張)することによって、複数の爪部材4が径方向外方に移動して開状態に(又は径方向内方に移動して閉状態に)なるようにしてもよい。
【0051】
また、例えば、上述した実施形態では、供給ライン73を流れる圧力流体を第2圧力に設定し、供給ライン73を流れる圧力流体(第2圧力流体)をチャッキングシリンダ6の第2シリンダ室62に送給するとともに、この第2圧力から第1圧力に減圧した圧力流体(第1圧力流体)をチャッキングシリンダ6の第1シリンダ室61及び中間シリンダ室63に送給するようにしているが、このような構成に限定されず、例えば供給ライン73を通して送給される圧力流体の圧力を第2圧力よりも高く設定し、この高い圧力から第2圧力に減圧した圧力流体(第2圧力流体)をチャッキングシリンダ6の第2シリンダ室62に送給するとともに、この高い圧力から第1圧力に減圧した圧力流体(第1圧力流体)をチャッキングシリンダ6の第1シリンダ室61及び中間シリンダ室63に送給するようにしてもよい。或いは、これらの構成に代えて、第1圧力の圧力流体(第1圧力流体)を供給する第1圧力流体供給源(例えば、流体圧ポンプから構成される)と第2圧力の圧力流体(第2圧力流体)を供給する第1圧力流体供給源(例えば、流体圧ポンプから構成される)を設け、第1圧力流体供給源からの圧力流体(第1圧力流体)をチャッキングシリンダ6の第1シリンダ室61及び中間シリンダ室63に送給するようにし、また第2圧力流体供給源からの圧力流体(第2圧力流体)をチャッキングシリンダ6の第2シリンダ室62に送給するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0052】
2,102 チャック本体
4,104 爪部材
6,116 チャッキングシリンダ
8,124 移動伝達機構
22 押出し具
32,118 シリンダ本体
34 第1ピストン
36 第2ピストン
44 第1軸部(第1突出軸部)
56 第2軸部(第2突出軸部)
58 当接部材(調整ナット)
61,126 第1シリンダ室
62,128 第2シリンダ室
63 中間シリンダ室
77 第1流路切替弁
83 第2流路切替弁
P 加工物




図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10