(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-23
(45)【発行日】2024-05-02
(54)【発明の名称】増幅器及び送信機
(51)【国際特許分類】
H03F 1/02 20060101AFI20240424BHJP
H03F 3/24 20060101ALI20240424BHJP
H04B 1/04 20060101ALI20240424BHJP
【FI】
H03F1/02 188
H03F3/24
H04B1/04 A
(21)【出願番号】P 2021148902
(22)【出願日】2021-09-13
(62)【分割の表示】P 2017180690の分割
【原出願日】2017-09-20
【審査請求日】2021-09-13
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100118876
【氏名又は名称】鈴木 順生
(74)【代理人】
【識別番号】100103263
【氏名又は名称】川崎 康
(72)【発明者】
【氏名】ホーン トーマス マーティン
(72)【発明者】
【氏名】山岡 敦志
(72)【発明者】
【氏名】山口 恵一
【審査官】▲高▼橋 徳浩
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0295547(US,A1)
【文献】特開2003-264402(JP,A)
【文献】特表2011-507445(JP,A)
【文献】特開2015-126432(JP,A)
【文献】特表2008-541648(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03F1/00-H03F3/72
H03F7/00-H03F7/06
H04B1/02-H04B1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力される第1信号を増幅する第1アンプと、
入力される第2信号を増幅する第2アンプと、
入力される第3信号を増幅する第3アンプと、
前記第1アンプの出力ノード及び負荷が接続されるノードに接続される第1出力ネットワークと、
前記第2アンプの出力ノード及び前記負荷が接続されるノードに接続される第2出力ネットワークと、
前記第3アンプの出力ノード及び前記負荷が接続されるノードに接続される第3出力ネットワークと、
前記第1アンプと前記第1出力ネットワークの間に一端が接続され、前記第1出力ネットワークに第1直流電圧を供給し、電気長が90度未満の第1バイアスネットワークと、
前記負荷が接続されるノードに一端が接続され、前記第1バイアスネットワークとは異なる電圧レベルの第2直流電圧を前記負荷に供給する第2バイアスネットワークと、を備え、
前記第1出力ネットワーク、前記第2出力ネットワーク、及び前記第3出力ネットワークの電気長は、90度より大きい又は小さい値に設定される、増幅器。
【請求項2】
前記第1出力ネットワーク及び前記第1バイアスネットワークは、前記第1アンプ、前記第2アンプ及び前記第3アンプによって増幅された前記第1信号、前記第2信号及び前記第3信号に含まれる3次高調波を低減し、
前記第2バイアスネットワークは、3次高調波が低減された前記第1信号、前記第2信号及び前記第3信号に含まれる2次高調波を低減する、請求項1に記載の増幅器。
【請求項3】
前記第1バイアスネットワークは、前記第2出力ネットワーク及び前記第3出力ネットワークのうち少なくとも1つに前記第1直流電圧を供給し、
前記第1出力ネットワーク~前記第3出力ネットワークのうち、前記第1直流電圧が供給される少なくとも2つの出力ネットワークは、前記少なくとも2つの出力ネットワークに接続されるアンプによって増幅された信号に含まれる2次高調波及び3次高調波を低減する、請求項1又は2に記載の増幅器。
【請求項4】
前記第1出力ネットワーク~前記第3出力ネットワークは、それぞれ2次高調波及び3次高調波を可変可能であり、かつ制御可能である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の増幅器。
【請求項5】
前記第1出力ネットワーク~前記第3出力ネットワークのうち、前記第1直流電圧が供給される少なくとも一つの出力ネットワークの電気長は90度より大きい、請求項3に記載の増幅器。
【請求項6】
前記第2出力ネットワーク及び前記第3出力ネットワークのうち、前記第1直流電圧が供給されない出力ネットワークの電気長は90度より小さい、請求項3に記載の増幅器。
【請求項7】
入力信号が入力される入力端子と、
前記入力端子から前記入力信号を受けて前記第1信号を前記第1アンプに出力する第1入力ネットワークと、
前記入力端子から前記入力信号を受けて前記第2信号を前記第2アンプに出力する第2入力ネットワークと、
前記入力端子から前記入力信号を受けて前記第3信号を前記第3アンプに出力する第3入力ネットワークと、をさらに備え、
前記第1入力ネットワークと前記第1アンプを通る経路に関し、前記入力端子と前記負荷が接続されるノード間の位相シフト量は、前記第2入力ネットワークと前記第2アンプを通る経路に関し、前記入力端子と前記負荷が接続されるノードとの間の位相シフト量、又は前記第3入力ネットワークと前記第3アンプを通る経路に関し、前記入力端子と前記負荷が接続されるノードとの間の位相シフト量と等しい、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の増幅器。
【請求項8】
複数の前記第1バイアスネットワークが設けられ、前記複数の第1バイアスネットワークのそれぞれは、前記第1出力ネットワーク~前記第3出力ネットワークのうちいずれかに接続され、
前記複数の第1バイアスネットワークの各一端には、同じ電圧レベルの直流バイアス電圧が供給される、請求項1乃至
7のいずれか一項に記載の増幅器。
【請求項9】
前記第2バイアスネットワークの一端は、接地レベルに設定される、請求項1乃至
8のいずれか一項に記載の増幅器。
【請求項10】
前記第1出力ネットワーク~前記第3出力ネットワーク、前記第1バイアスネットワーク、及び前記第2バイアスネットワークの電気長及び幅は、可変可能であり個別に調整される、請求項1乃至
9のいずれか一項に記載の増幅器。
【請求項11】
前記第1出力ネットワーク~前記第3出力ネットワーク、前記第1バイアスネットワーク、及び前記第2バイアスネットワークの電気長のうち、少なくとも2つは異なる電気長であり、
前記第1出力ネットワーク~前記第3出力ネットワーク、前記第1バイアスネットワーク、及び前記第2バイアスネットワークの幅のうち、少なくとも2つは異なる幅である、請求項1乃至
10のいずれか一項に記載の増幅器。
【請求項12】
ベースバンド信号の信号処理を行うベースバンド処理部と、
局部発振信号を用いて、前記ベースバンド信号を変調して高周波信号を生成する変調器と、
前記高周波信号を増幅してアンテナに送信する高周波増幅器と、を備え、
前記高周波増幅器は、
入力される、前記高周波信号に基づいた第1信号を増幅する第1アンプと、
入力される、前記高周波信号に基づいた第2信号を増幅する第2アンプと、
入力される、前記高周波信号に基づいた第3信号を増幅する第3アンプと、
前記第1アンプの出力ノード及び負荷が接続されるノードに接続される第1出力ネットワークと、
前記第2アンプの出力ノード及び前記負荷が接続されるノードに接続される第2出力ネットワークと、
前記第3アンプの出力ノード及び前記負荷が接続されるノードに接続される第3出力ネットワークと、
前記第1アンプと前記第1出力ネットワークの間に一端が接続され、前記第1出力ネットワークに第1直流電圧を供給し、電気長が90度未満の第1バイアスネットワークと、
前記負荷が接続されるノードに一端が接続され、前記第1バイアスネットワークとは異なる電圧レベルの第2直流電圧を前記負荷に供給する第2バイアスネットワークと、を備え、
前記第1出力ネットワーク、前記第2出力ネットワーク、及び前記第3出力ネットワークの電気長は、90度より大きい又は小さい値に設定される、送信機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、増幅器及び送信機に関する。
【背景技術】
【0002】
高周波入力信号の振幅に応じて動作させるアンプの数を動的に切り替えるドハティ増幅器が知られている。ドハティ増幅器は、1個のメインアンプと1個以上のピークアンプで構成される。使用するアンプの数をNとした場合、これをN-ウェイのドハティ増幅器と呼ぶ。メインアンプは常時動作し、ピークアンプは大きい電力でのみ動作する。ピークアンプを1個とする2-ウェイのドハティ増幅器の構成が一般的であるが、ピークアンプを2個以上使用するものも存在する。各アンプは増幅素子としてトランジスタ(バイポーラ、FET)を使用する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
トランジスタには寄生成分があるため、理想的な増幅動作とはかけ離れた動作をするおそれがある。本実施形態では、回路構成を複雑化することなく回路素子の寄生成分を補償可能な増幅器及び送信機を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本実施形態では、N個の入力ネットワークは、入力信号を入力する入力端子に接続される。第1アンプは、前記N個の入力ネットワークのうち1つの出力信号を増幅する。(N-1)個(Nは3以上の整数)の第2アンプは、前記第1アンプが増幅動作を行っている場合に、前記N個の入力ネットワークの出力信号の振幅に応じて前記N個の入力ネットワークのうち前記1つの出力信号以外のN-1個の出力信号を増幅する。N個の出力ネットワークは、前記第1アンプの出力ノードと負荷接続ノードとの間に接続されるとともに、前記(N-1)個の第2アンプの出力ノードと前記負荷接続ノードとの間に接続される。
第1バイアスネットワークは、前記N個の出力ネットワークのうち、少なくとも一つに直流バイアス電圧を供給する。前記第1バイアスネットワークの電気長は、90度未満である、増幅器が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図4A】
図1の増幅器のうち、メインアンプの基本構成を示す回路図。
【
図4B】
図4Aの回路のS21の周波数による位相変化と、S21の周波数による振幅変化を示すグラフ。
【
図4C】
図1の増幅器のうち、ピークアンプの基本構成を示す回路図。
【
図5】
図1に第2バイアスネットワークを追加した増幅器。
【
図6A】
図5の増幅器のうち、メインアンプの基本構成を示す回路図。
【
図7】右端のピークアンプの出力ノードに第1バイアスネットワークを接続した増幅器。
【
図8】左右端以外のピークアンプの出力ノードにも第1バイアスネットワークを接続した増幅器。
【
図9】
図8から第2バイアスネットワークを省略した増幅器。
【
図10】バイアスネットワークとしてインダクタ素子を設けた増幅器。
【
図11】送信機の内部構成の一例を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。なお、本件明細書と添付図面においては、理解のしやすさと図示の便宜上、一部の構成部分を省略、変更又は簡易化して説明及び図示しているが、同様の機能を期待し得る程度の技術内容も、本実施の形態に含めて解釈することとする。
【0008】
図1は一実施形態による増幅器1の等価回路図、
図2は
図1の増幅器1の概念的なブロック図である。ここでは、トランジスタを理想電流源として表現する。本実施形態による増幅器1は、高周波入力信号の振幅に応じて動作させるアンプの数を動的に切り替えるN-ウェイのドハティ増幅器1である。N-ウェイとは、N個のアンプを備えていることを意味する。Nは3以上である。電気長は、特に断らない限り、基本波に対する電気長とする。
【0009】
図1及び
図2に示すように、本実施形態による増幅器1は、入力スプリッタ2と、メインアンプ(第1アンプ)3と、(N-1)個(Nは3以上の整数)のピークアンプ(第2アンプ)4と、N個の入力ネットワーク5と、N個の出力ネットワーク6と、第1バイアスネットワーク7と、出力コンバイナ8と、直流電圧源9とを備えている。これらメインアンプ3と(N-1)個のピークアンプ4は、並列接続されている。入力ネットワーク5、出力ネットワーク6及びバイアスネットワーク7は伝送線路で実現してもよいし、コイルやコンデンサなどの集中定数の部品で実現してもよいし、導波管などで実現してもよい。また、これらの組み合わせで実現してもよい。メインアンプ3と各ピークアンプ4には、直流電圧源9からの単一の直流電圧が供給される。この単一の直流電圧は、後述するようにバイアス電圧として用いられる。ここでは、バイアス電圧とは、FETであればドレイン、バイポーラトランジスタであればコレクタに印加する電圧を指す。このように、単一の直流電圧にてバイアスをかけることが特徴の一つである。
【0010】
メインアンプ3と各ピークアンプ4の出力ノードは、いずれもN個の出力ネットワーク6を介して負荷接続ノードn1に接続されており、この負荷接続ノードn1には各アンプ3,4共通の負荷抵抗RLOADが接続されている。メインアンプ3は、信号の増幅動作を行う。メインアンプ3は、信号が入力されている間は常に増幅動作を行う。メインアンプ3に入力される信号は、
図2に示す入力スプリッタ2の入力信号が入力スプリッタ2でN個の信号に分配されてN個の入力ネットワーク5に入力され、N個の入力ネットワーク5から出力された信号のうちの1つである。メインアンプ3の出力電圧をVM、出力電流をIMとすると、メインアンプ3は、等価的には、
図1に示すように、
図1の右端のピークアンプ4に流れる電流の位相に対して-j×(N-2)だけシフトした電流を流す電流源を有するものとして表される。
【0011】
(N-1)個のピークアンプ4は、メインアンプ3が増幅動作を行っている場合に、信号の振幅に応じて順次増幅動作を行う。すなわち、信号の振幅に応じて、増幅動作を行うピークアンプ4の数が変化する。信号の振幅が大きくなるほど、増幅動作を行うピークアンプ4の数が増える。これにより、効率よく信号の増幅動作を行うことができ、消費電力を削減できる。
【0012】
より具体的には、
図1に示した(N-1)個のピークアンプ4のうち、右端のピークアンプ4が最初に増幅動作を行い、ピークアンプ4に入力される信号の振幅が大きくなるにつれて、右端から左端に向かって順に各ピークアンプ4が増幅動作を開始する。
【0013】
(N-1)個のピークアンプ4を流れる出力電流の位相はそれぞれ異なっており、右端のピークアンプ4を流れる電流の位相に対して、左端すなわちメインアンプ3の右隣のピークアンプ4を流れる電流の位相はメインアンプ3と同様の-j×(N-2)だけシフトしており、その右隣のピークアンプ4を流れる電流の位相は-j×(N-3)だけシフトしている。このように、各ピークアンプ4は、等価的には、それぞれ固有の位相の電流を流す電流源を有するものとして表わされる。これらの電流の位相差は、
図2の入力スプリッタ2で入力信号を複数の入力ネットワーク5に分けることによって生じる。
【0014】
N個の入力ネットワーク5は、入力スプリッタ2への入力信号を入力する入力端子とメインアンプ3の入力ノードとの間に接続されるとともに、前記入力端子と(N-1)個のピークアンプ4の各入力ノードとの間にそれぞれ接続されている。N個の入力ネットワーク5のうち一つを介したメインアンプ3を通る経路に関し、前記入力端子と負荷接続ノードn1間の位相シフト量は、N個の入力ネットワーク5のうち上記一つ以外の任意の一つを介したピークアンプ4の1つを通る経路に関し、前記入力端子と前記負荷接続ノード間の位相シフト量と等しくなるように設計されている。このような設計は、入力ネットワーク5を構成する回路(例えば、マイクロストリップ線路の電気長及び幅)の調整によって行うことができる。
【0015】
N個の出力ネットワーク6は、メインアンプ3の出力ノードと負荷接続ノードn1との間に接続されるとともに、(N-1)個のピークアンプ4の出力ノードと負荷接続ノードn1との間に接続されている。これら出力ネットワーク6は、マイクロストリップラインやLC回路等で実現された回路である。これらの回路は、後述するように、高調波インピーダンスを制御可能であるという特徴を有する。高調波インピーダンスを制御可能とは、各回路(例えばマイクロストリップ線路の電気長と幅)を個別に調整できることを意味する。例えば、N個の出力ネットワーク6の電気長は、信号の基本周波数での伝達特性と、2次高調波周波数での伝達特性と、3次高調波周波数での伝達特性とが理想的な特性になるように、個別に調整される。
【0016】
第1バイアスネットワーク7は、メインアンプ3と(N-1)個のピークアンプ4の少なくとも一つの出力ノード、すなわちN個の出力ネットワーク6のうち、少なくとも一つに直流バイアス電圧を供給する。この直流バイアス電圧は、
図1に示す直流電圧源9から供給される。
図1では、第1バイアスネットワーク7をメインアンプ3の出力ノードに接続する例を示しているが、第1バイアスネットワーク7は、(N-1)個のピークアンプ4の任意の出力ノードに接続してもよい。例えば、複数の出力ネットワーク6に第1バイアスネットワーク7をそれぞれ接続する場合には、いずれの第1バイアスネットワーク7にも単一の直流電圧が供給される。これにより、複数のバイアス電源を設ける必要がなくなり、増幅器1の回路構成を簡略化できる。
【0017】
メインアンプ3と(N-1)個のピークアンプ4を構成するトランジスタ等の回路素子は寄生成分を有する。
図1では、各アンプの出力ノードにおける寄生成分を等価的にシャント・キャパシタとシリーズ・インダクタで表している。例えば、メインアンプ3のシャント・キャパシタをCM、シリーズ・インダクタをLMとし、右端のピークアンプ4のシャント・キャパシタをCP1、シリーズ・インダクタをLP1とし、左端のピークアンプ4のシャント・キャパシタをCP(N-1)、シリーズ・インダクタをLP(N-1)としている。
【0018】
図1及び
図2の増幅器1では、メインアンプ3の出力ノードに接続される第1バイアスネットワーク7を、電気長が90度未満の回路にしている。この回路は、メインアンプ3と(N-1)個のピークアンプ4の全出力ノードに接続されるN個の出力ネットワーク6に直流バイアス電圧を供給するとともに、これらアンプ3,4の高調波インピーダンスを制御する。
【0019】
また、
図1及び
図2の増幅器1では、N個の出力ネットワーク6の電気長を個別に90度より大きく又は小さく調整することにより、所望の増幅動作を行わせるようにしている。例えば、3-ウェイのドハティ増幅器1の場合、回路T1の電気長を90度より大きくし、回路T2とT3の電気長を90度より小さくすることで、所望の増幅性能が得られる。第1バイアスネットワーク7は、メインアンプ3と各ピークアンプ4のいずれか2以上の出力ノードに接続してもよいが、その場合には、いずれの第1バイアスネットワーク7にも、単一の直流バイアス電圧が供給される。
【0020】
図3は一比較例による増幅器1の等価回路図である。
図3では、
図1と異なり、第1バイアスネットワーク7を備えていない。また、
図3におけるN個の出力ネットワーク6の電気長はいずれも90度である。各ピークアンプ4の出力電流の位相は、位相バランスが取れるように構成されている。
図3の増幅器1における最適な位相バランスは、各アンプの出力ノードで決定される。増幅器1を構成するトランジスタ等の寄生成分が周波数と位相応答を有するため、N-ウェイのドハティ増幅器1を設計する際には寄生成分を考慮しなければならない。寄生成分は、等価的には、回路の電気長を長くしたり、あるいは短くするような作用があるが、理想的な増幅器1では、回路の電気長を90度と仮定するため、実際の増幅器1の増幅動作とはずれが生じてしまう。また、増幅器1の内部マッチングとパッケージ形状も、実際の増幅器1の増幅動作が理想的な増幅動作にならない要因になる。
【0021】
これに対して、本実施形態では、
図1に示すように、単一の直流バイアス電圧を供給する第1バイアスネットワーク7を例えばメインアンプ3の出力ノードに接続し、この第1バイアスネットワーク7の電気長を90度未満にし、かつN個の出力ネットワーク6の電気長を個別に調整して、電気長を90度より大きく又は小さくする。これにより、各アンプの出力ノードにおける寄生成分を補償することができる。
【0022】
図4A及び
図4Bは
図1の増幅器1のうち、メインアンプ3の特性を示す図である。
図4Aは
図1の増幅器1のメインアンプ3の基本構成を示す回路図、
図4Bは
図4Aの回路のSパラメータのS21(通過)の周波数による位相変化と、S21の周波数による振幅変化を示すグラフである。このグラフは、理想的なN-ウェイのドハティ増幅器1に近い増幅動作を行いつつ、第2及び第3高調波インピーダンスをどのように制御するかを示している。また、
図4Cは
図1の増幅器1のうち、ピークアンプ4の基本構成を示す回路図である。
【0023】
図4Aの回路では、Port1に寄生成分としてシャント・キャパシタCとシリーズ・インダクタLが接続されている。また、シリーズ・インダクタLの出力には出力ネットワーク6T1を介してPort2が接続され、さらに、直流バイアス電圧VDDを供給する第1バイアスネットワーク7が接続されている。第1バイアスネットワーク7の電気長は90度より小さい値に設定されている。Port2は、
図1の負荷接続ノードn1と等価である。
【0024】
図4Bのグラフは、
図4Aの回路の理想的な特性に近いグラフを示している。このグラフからわかるように、基本周波数のときのS21の位相は約-90度、振幅は約0.75である。基本周波数のときの位相は、寄生成分CとL、第1バイアスネットワーク7、及び出力ネットワーク6の相互作用によって、-90度に設定される。
【0025】
また、2次高調波のときのS21の位相は約180度、振幅は約1である。また、3次高調波のときのS21の位相は約0、振幅は約0.5にまで最小化される。このグラフの特性は、出力ネットワーク6の電気長を90度より大きく又は小さくするような調整を行うことで得られる。このように、基本周波数でのPort1,2間の位相差は90度、2次高調波でのPort1,2間の位相差は180度、3次高調波でのPort1,2間の位相差は0度になる。
【0026】
図4Bのグラフからわかるように、メインアンプ3やピークアンプ4の出力ノードに、電気長が90度未満の第1バイアスネットワーク7を接続して、出力ネットワーク6に単一の直流バイアス電圧を供給し、かつ、出力ネットワーク6の電気長を90度から大きく又は小さく調整することで、増幅器1の出力ノードにおける寄生成分の影響を考慮に入れた上で、理想に近い増幅動作を行わせることができる。
【0027】
しかしながら、N個の出力ネットワーク6と第1バイアスネットワーク7を設けるだけでは、高調波制御がまだ不十分であり、高調波制御をより精度よく行うには、さらなる回路的な工夫が必要となる。
【0028】
図5は
図1に第2バイアスネットワーク10を追加したものである。第2バイアスネットワーク10は、負荷接続ノードn1に例えば接地レベルと同じレベルのバイアス供給を行う回路である。なお、第2バイアスネットワーク10の一端は、必ずしも接地レベルに設定されている必要はないが、本実施形態では、単一の直流バイアス電圧を用いることに特徴があるため、第2バイアスネットワーク10の一端を、ベタの接地パターンに導通させることで回路構成を簡略化している。このように、第2バイアスネットワーク10は、第1バイアスネットワーク7とは異なる電圧レベルでバイアスを行う点に特徴がある。第2バイアスネットワーク10は、メインアンプ3と(N-1)個のピークアンプ4の高調波を制御するために設けられている。第2バイアスネットワーク10は他のネットワーク、例えば出力ネットワーク6と同様に、伝送線路で実現してもよいし、コイルやコンデンサなどの集中定数の部品で実現してもよいし、導波管などで実現してもよい。また、これらの組み合わせで実現してもよい。
【0029】
図6A及び
図6Bは
図5の増幅器1のうち、メインアンプ3の特性を示す図である。
図6Aは
図5の増幅器1のメインアンプ3の基本構成を示す回路図、
図6Bは
図6Aの回路のスミスチャートである。
図6Aの回路は、
図5Aの回路に第2バイアスネットワーク10を追加したものである。第2バイアスネットワーク10の一端は接地電圧に設定され、他端はPort2に接続されている。
図6Aの回路では、
図5Aの回路と同様に、第1バイアスネットワーク7の電気長は90度より小さい値に設定され、出力ネットワーク6の電気長は90度より大きいか、又は小さい値に設定される。第2バイアスネットワーク10の電気長は、その一端が接地レベルに設定されている場合には、例えば90度に設定される。
【0030】
図6Bのスミスチャートからわかるように、
図6Aの回路において、出力ネットワーク6の電気長を90度より大きくまたは小さくなるように調整することにより、基本周波数f0、2次高調波2f0、および3次高調波3f0がほぼ一直線に並ぶようになる。より具体的には、2次高調波2f0はスミスチャートの右端に位置し、開放に近い値になる。
または、3次高調波はスミスチャートの左端に位置し、短絡に近い値になる。これにより、
図5および
図6Aの増幅器1は、理想的な増幅動作を行う。
【0031】
図1及び
図5の増幅器1は、第1バイアスネットワーク7が対称的な接続になっていないが、第1バイアスネットワーク7を対称的な接続にすることで、より理想的な増幅動作を行うことができる。
図7は、
図5の増幅器1の構成に加えて、右端のピークアンプ4の出力ノードにも第1バイアスネットワーク7を接続したものである。
図7の場合、左右両端のメインアンプ3とピークアンプ4に第1バイアスネットワーク7がそれぞれ接続されているため、対称性がよくなり、より理想的な増幅動作が行われる。
【0032】
図8は、
図7の増幅器1の構成に加えて、さらに左右端以外のピークアンプ4の出力ノードにも第1バイアスネットワーク7を接続したものである。
図8の増幅器1では、各ピークアンプ4の出力ノードに接続される第1バイアスネットワーク7の数が増えるため、各ピークアンプ4の出力ノードの寄生成分をより精度よく補償できるとともに、高調波インピーダンスの制御もより精度よく行うことができ、
図7よりも理想に近い増幅動作を行うことができる。
【0033】
図7や
図8の増幅器1は、第2バイアスネットワーク10を備えているが、
図9に示すように第2バイアスネットワーク10を省略してもよい。また、上述した各増幅器1では、第1バイアスネットワーク7をマイクロストリップライン等の伝送線路で構成する例を示したが、第1バイアスネットワーク7は
図10に示すようにランプ波形を生成するインダクタ素子であってもよい。
【0034】
上述した
図1、
図5~
図10の増幅器1では、N個の出力ネットワーク6、第1バイアスネットワーク7、及び第2バイアスネットワーク10の電気長を調整する例を説明したが、電気長だけでなく、N個の出力ネットワーク6、第1バイアスネットワーク7、及び第2バイアスネットワーク10の幅を調整してもよい。幅を調整することで、各の特性インピーダンスを調整でき、増幅器1の増幅動作をより理想的なものに近づけることができる。
【0035】
上述した本実施形態による増幅器1の用途は特に問わないが、例えば送信機の内部で用いることができる。
図11は送信機11の内部構成の一例を示すブロック図である。
図11の送信機11は、ベースバンド処理部12と、局部発振器13と、変調器14と、高周波増幅器15と、アンテナ16とを備えている。ベースバンド処理部12は、ベースバンド信号の信号処理を行う。局部発振器13は、局部発振信号を生成する。変調器14は、局部発振信号を用いて、ベースバンド信号を変調して高周波信号を生成する。高周波増幅器15は、高周波信号を増幅してアンテナ16に送信する。上述した
図1、
図5~
図10に示す増幅器1は、高周波増幅器15の内部で用いることができる。
【0036】
なお、
図1等では、第1バイアスネットワーク7の一端に供給される直流バイアス電圧を各第1バイアスネットワーク7ごとに異なる記号で表記しているが、上述したように、本実施形態では単一の直流バイアス電圧を供給することができる。ただし、場合によっては、複数の第1バイアスネットワーク7に、別々の電圧レベルの直流バイアス電圧を供給してもよい。
【0037】
このように、本実施形態では、増幅器1内の個々のアンプを構成する回路素子の寄生成分を補償し、かつ高調波インピーダンスも制御するため、理想的な増幅動作に近い増幅動作を増幅器1に行わせることができる。これにより、大きなダイナミックレンジの信号の平均電力効率を改善できる。また、単一の直流バイアス電圧を用いるため、単一の直流電圧源9を設ければよくなり、増幅器1の全体構成を簡略化できる。
【0038】
より具体的には、本実施形態では、出力ネットワーク6の第1バイアスネットワーク7の電気長を調整することにより、寄生成分の補償と高調波インピーダンスの制御を行うため、回路構成を複雑化することなく、増幅器1に理想的な増幅動作を行わせることができる。また、第2バイアスネットワーク10を設けることで、さらに高調波インピーダンスの制御を精度よく行うことができる。
【0039】
このように、高調波インピーダンスを制御することで、増幅器1に使用するトランジスタの性能を向上させることができる。また、トランジスタの寄生素子の解析と対策には膨大な時間がかかるが、本実施形態によれば、トランジスタの寄生素子の影響を精度よく補償することができる。
【0040】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0041】
1 増幅器、2 入力スプリッタ、3 メインアンプ、4 ピークアンプ、5 入力ネットワーク、6 出力ネットワーク、7 第1バイアスネットワーク、8 出力コンバイナ、9 直流電圧源、10 第2バイアスネットワーク、11 送信機、12 ベースバンド処理部、13 局部発振器、14 変調器、15 高周波増幅器、16 アンテナ