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▶ エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲーの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-23
(45)【発行日】2024-05-02
(54)【発明の名称】腎障害の処置で使用するための化合物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4418 20060101AFI20240424BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20240424BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240424BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240424BHJP
   C07D 401/12 20060101ALN20240424BHJP
   C07D 213/82 20060101ALN20240424BHJP
   C07D 213/81 20060101ALN20240424BHJP
【FI】
A61K31/4418
A61P13/12
A61K45/00
A61P43/00 121
C07D401/12
C07D213/82
C07D213/81
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2021504186
(86)(22)【出願日】2019-07-26
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-11-18
(86)【国際出願番号】 EP2019070251
(87)【国際公開番号】W WO2020021097
(87)【国際公開日】2020-01-30
【審査請求日】2022-07-22
(31)【優先権主張番号】18185871.3
(32)【優先日】2018-07-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ. ホフマン-ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN-LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】フォルノニ,アレッシア
【審査官】堂畑 厚志
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-516071(JP,A)
【文献】特表2014-505063(JP,A)
【文献】特表2013-509446(JP,A)
【文献】特表2016-523943(JP,A)
【文献】国際公開第2014/180741(WO,A1)
【文献】特表2013-504534(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ABCA1誘導因子化合物、並びに薬学的に許容される担体及び/又はアジュバントを含む、腎疾患の処置で使用するための医薬組成物であって、
前記ABCA1誘導因子化合物が
6-(3,4-ジクロロフェニル)-N-[(1R,2R)-2-ヒドロキシシクロヘキシル]-5-(2,2,2-トリフルオロエトキシ)ピリジン-2-カルボキサミド、
5-(3,4-ジクロロ-フェニル)-N-((1R,2R)-2-ヒドロキシ-シクロヘキシル)-6-(2,2,2-トリフルオロ-エトキシ)-ニコチンアミド、
又は薬学的に許容されるその塩
である、医薬組成物。
【請求項2】
前記腎疾患が慢性腎疾患、一次若しくは二次糸球体性疾患、又はタンパク尿腎疾患から選択される、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記糸球体性疾患がアルポート症候群又は巣状分節性糸球体硬化症である、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記腎疾患が糖尿病性腎疾患である、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
経口投与用に製剤化されている、請求項1~のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
局所、経鼻、眼内、静脈内、筋肉内、皮下、硝子体内、髄腔内、又は経皮での投与用に製剤化されている、請求項1~のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記ABCA1誘導因子化合物の1日の用量が20~800mg/日であるように投与される、請求項1~6のいずれか一項に記載の医薬組成物
【請求項8】
前記ABCA1誘導因子化合物の1日の用量が200mg/日である、請求項の一項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
投与レジメンが1日1回、1日2回、1日3回、3日に1回、1週間に1回、2週間に1回、又はひと月に1回である、請求項1~のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
負荷用量レジメンが、最初の7日間、14日間、又は30日間に用量を2倍にする、請求項1~のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
アンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤薬物、RAS遮断剤;アンギオテンシン受容体遮断薬(ARB);プロテインキナーゼC(PKC)阻害剤;AGE依存性経路の阻害剤;抗炎症剤;GAG;ピリドキサミン;エンドセリンアンタゴニスト、COX-2阻害剤、PPAR-γアンタゴニスト、並びに、アミホスチン、カプトプリル、シクロホスファミド、チオ硫酸ナトリウム、トラニラスト又はシクロデキストリンなどのその他の化合物及びこれらの誘導体、ビタミンD誘導体、抗高血糖剤並びに抗高コレステロール血症剤からなる群から選択される化合物と同時、逐次的、又は個別に使用するための、請求項1~10のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
腎疾患の治療及び/又は予防用の医薬を調製するための、請求項で定義されたABCA1誘導因子化合物の使用。
【請求項13】
局所、経口、経鼻、眼内、静脈内、筋肉内、皮下、硝子体内、髄腔内、又は経皮の経路により投与される、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記投与が1日1回、1日2回、1日3回、3日に1回、1週間に1回、2週に1回、又はひと月に1回である、請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記投与が1日1回である、請求項14に記載の医薬組成物
【請求項16】
前記ABCA1誘導因子化合物の1日の用量が20~800mg/日であるように投与される、請求項13~15に記載の医薬組成物。
【請求項17】
置に有効な量のアンギオテンシン変換酵素阻害剤又はアンギオテンシン受容体遮断剤と組み合わせて、同時に、個別に、又は逐次的に投与される、請求項13~16のいずれか一項に記載の医薬組成物
【請求項18】
アンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤薬物;RAS遮断剤;アンギオテンシン受容体遮断薬(ARB);プロテインキナーゼC(PKC)阻害剤;AGE依存性経路の阻害剤;抗炎症剤;GAG;ピリドキサミン;エンドセリンアンタゴニスト、COX-2阻害剤、PPAR-γアンタゴニスト、並びに、アミホスチン、カプトプリル、シクロホスファミド、チオ硫酸ナトリウム、トラニラスト又はシクロデキストリンなどのその他の化合物及びこれらの誘導体、ビタミンD誘導体、抗高血糖剤並びに抗高コレステロール血症剤からなる群から選択される処置有効量の化合物と組み合わせて同時に、個別に、又は逐次的に投与される、請求項13~16のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、腎障害、特に、慢性腎疾患、糸球体性疾患、又はタンパク尿腎疾患、例えばアルポート症候群、巣状分節性糸球体硬化症、及び糖尿病性腎症の処置で使用するためのABCA1誘導因子化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
透析又は腎移植を必要とする、末期腎疾患(ESRD)をもたらす慢性腎疾患(CKD)は、世界中で数百万人の患者に影響を及ぼす、進行中の伝染病である(Bello AK et al,JAMA,317:1864,2017)。糖尿病は世界中でESRDの最も主たる原因であり続けている一方、高血圧、嚢胞性腎疾患、及び糸球体腎炎などの他の原因が、流行しているESRDの大部分に寄与している(USRDSデータベース)。これらの障害の多くは、中程度のタンパク尿から重度のネフローゼ範囲のタンパク尿にわたる、タンパク尿と共に現れる可能性があり、深刻なタンパク尿は、ESRDに対する進行の主たる危険因子を提示している。腎交換法は患者の死亡率を改善するものの、現在の治療的ストラテジーは、CKDの進行を遅くするもので、止めるものではない。いくつかの介入研究は、有効性を示すことができないでいる。これは主に、これまで試験されてきた介入の多くは、初期の病原プロセスではなく、後期の腎疾患を標的にするという事実に依るものである。
【0003】
現在では、現処置ストラテジーは、タンパク尿を低下させ、糸球体硬化の進行を遅くするのに役立つ、アンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤と、アンギオテンシン受容体遮断薬(ARB)の使用で構成される。従来、タンパク尿腎疾患を患う患者は、ベナザプリル、シラザプリル、エナラプリル(バストテック)、フォシノプリル(モノプリル)、リシノプリル(ゼストリル、プリニビル)、ペリノプリル、ラミプリル、キナプリル(アキュプリル)、トランドラプリルが挙げられるが、これらに限定されないACE阻害剤で処置されてきており、ARBとしては、カンデサルタン(アタカンド)、エプレサルタン、イルベサルタン、ロサルタン(コザール)、テルミサルタン、バルサルタンが挙げられる。FSGSでのタンパク尿の処置に対する、唯一認可されている薬剤はACTHarである。他の免疫抑制剤の多くのオフラベル使用もまた、FSGSなどの複数のタンパク尿腎疾患において実装されてきた。これらには、プレドニゾン(又は一般にはステロイド)、リツキシマブ、カルシニューリン阻害剤(シクロスポリン及びタクロリムス)、ラパマイシン、アバタセプト、ミコフェノラートモフェチルが挙げられる。コエンザイムQ10、魚油、ビタミンD誘導体、グルテンフリー食、アロプリノール、スピロノラクトン、LDLアフェレーシス、血漿分離交換法などの他の方法も利用されている。
【0004】
しかし、これらの処置の多くはケースシリーズに基づいており、無作為研究により支持されておらず、多くの場合、深刻な副作用が付随し、特異的な病原メカニズムを標的にするように設計されていない。更に、これらの処置のいずれかに対する応答は予測不可能である。したがって、現在されている薬剤は、安全で効果的な処置をもたらすことができていない。より具体的には、糸球体性障害、及びより広範には慢性腎疾患を患う患者の予防又は治療に対する、新規の医薬品に対する、長期間感じられている、満たされていないニーズが存在する。
【発明の概要】
【0005】
本発明者らは、慢性腎疾患、特に、アルポート症候群及びFSGSといった一次糸球体性疾患並びに、糖尿病性腎症(DKD)などの二次糸球体性疾患を患う患者の処置ための、新規の治療的ストラテジーを更に調査した。本発明者らは、いくつかのピリジンカルボキサミド化合物が、このような腎疾患の処置において非常に有望な効果を有することを示した。
【0006】
ピリジンカルボキサミドは、ATP結合カセットトランスポーターA1タンパク質の小分子誘導因子(ABCA1誘導因子)として記載されている。このようなピリジンカルボキサミドは例えば、国際特許出願公開第2011/029827号、同第2012/032018号、同第2013/037703号、及び同第2014180741号に記載されている。
【0007】
したがって、本開示は、ABCA1誘導因子化合物である、腎疾患を処置するのに使用される化合物に関する。
特定の実施形態においては、このようなABCA1誘導因子化合物は、以下の式I
【化1】
【0008】
[式中、
及びAの一方はNであり、A及びAの他方はCHであり、
は、C1~7アルキル、C3~7シクロアルキル、C3~7シクロアルキル-C1~7アルキル、C1~7アルコキシ-C1~7アルキル、ハロゲン-C1~7アルキル、ヘテロシクリル-C1~7アルキル(ここで、ヘテロシクリル基は非置換であるか、又はオキソにより置換されている)、及びヘテロアリール-C1~7アルキル(ここで、ヘテロアリール基は非置換であるか、又は低級アルキルによりモノ又はジ置換されている)からなる群から選択され、
及びRは互いに独立して水素又はハロゲンであり、
及びRは互いに独立して水素、C1~7アルキル、C1~7アルコキシ、ハロゲン、ハロゲン-C1~7アルキル、ハロゲン-C1~7アルコキシ、及びシアノからなる群から選択され、
は水素、C1~7アルキル、C1~7アルコキシ、ハロゲン、ハロゲン-C1~7アルキル、ハロゲン-C1~7アルコキシ、アミノ、及びシアノからなる群から選択され、
はC1~7アルキル、C3~7シクロアルキル(当該シクロアルキルは非置換であるか又はヒドロキシにより置換されている)、ヘテロシクリル(当該ヘテロシクリルは、N、O及びSから選択される1、2、又は3つのヘテロ原子を含み、非置換であるか、ヒドロキシ又はオキソにより置換されている、3~7個の環原子を有する)、フェニル(ここで、フェニルは非置換であるか、又はC1~7アルキル、ヒドロキシ、C1~7アルコキシ、シアノ、ハロゲン、及びハロゲン-C1~7アルキルからなる群から選択される1つ又は2つの基により置換されている)、及びヘテロアリール(ここで、ヘテロアリールは非置換であるか、又はC1~7アルキル、ヒドロキシ、C1~7アルコキシ、シアノ、ハロゲン、及びハロゲン-C1~7アルキルからなる群から選択される1つ又は2つの基により置換されている)からなる群から選択され、
Gは-(CH2)-(式中、mは0又は1から選択される)、及び-NR(式中、Rは水素又はC1~7アルキルである)からなる群から選択される。]
並びに薬学的に許容可能なそれらの塩により表される。
【0009】
特定の実施形態において、Gは結合であり、RはC3~7シクロアルキル(当該シクロアルキルは非置換であるか又はヒドロキシにより置換されている)である。
【0010】
前述の実施形態と組み合わせることができる特定の実施形態において、Rはヒドロキシにより置換されたシクロヘキシルである。
【0011】
前述の実施形態と組み合わせることができる特定の実施形態において、R及びRはそれぞれ水素であり、Rはハロゲンであり、R及びRの一方はハロゲンであり、R及びRの他方は水素である。
【0012】
前述の実施形態と組み合わせることができる特定の実施形態において、Rはハロゲン-C1~7アルキルである。典型的には、Rは-CF、-CHF、-CHCl、-CHCF、-CH(CF、-CF-CFから選択することができる。
【0013】
好ましい実施形態において、本明細書に記載のとおりに使用するためのABCA1誘導因子化合物は、6-(3,4-ジクロロフェニル)-N-[(1R,2R)-2-ヒドロキシシクロヘキシル]-5-(2,2,2-トリフルオロエトキシ)ピリジン-2-カルボキサミドである。
【0014】
別の好ましい実施形態では、本明細書に記載のとおりに使用するためのABCA1誘導因子化合物は、5-(3,4-ジクロロ-フェニル)-N-((1R,2R)-2-ヒドロキシ-シクロヘキシル)-6-(2,2,2-トリフルオロ-エトキシ)-ニコチンアミドである。
【0015】
前述の実施形態と組み合わせることができる特定の実施形態において、ABCA1誘導因子化合物は、慢性腎疾患、一次及び二次糸球体性疾患、又はタンパク尿疾患の処置において有用である。典型的には、このようなABCA1誘導因子化合物は、アルポート症候群、巣状分節性糸球体硬化症、又は糖尿病性腎疾患の処置において有用であり得る。
【0016】
前述の実施形態と組み合わせることができる特定の実施形態において、本明細書に記載するとおりに使用するためのABCA1誘導因子化合物は、経口投与用に製剤化される。
【0017】
別の特定の実施形態において、本明細書に記載するとおりに使用するためのABCA1誘導因子化合物は局所、経鼻、眼内、静脈内、筋肉内、皮下、硝子体内、髄腔内、又は経皮での投与用に製剤化される。
【0018】
本開示は、それを必要とする対象における、腎疾患の処置方法であって、治療に有効な量の、上で定義したABCA1を投与することを含む方法にもまた関する。
【0019】
このような方法の特定の実施形態において、上記ABCA1誘導因子は、処置に有効な量の別の剤、例えばアンギオテンシン変換酵素阻害剤又はアンギオテンシン受容体遮断剤と組み合わせて、同時に、個別に、又は逐次的に投与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明者らは、ABCA1誘導因子化合物は、腎障害、特に糸球体性疾患、例えばアルポート症候群若しくは巣状分節性糸球体硬化症、又は他の慢性腎疾患、例えば糖尿病性腎症の処置において非常に有望な効果を有することを示した。化合物は、これらの障害においてタンパク尿を減少させるだけでなく、腎機能を改善し、末期腎疾患の進行を予防する。
【0021】
本開示に従った使用のためのABCA1誘導因子化合物
本明細書で使用する場合、用語「ABCA1誘導因子化合物」とは、ATP結合カセットトランスポータータンパク質(ABCA1)の発現量又は活性を直接又は間接的に誘導可能な化合物を意味する。トランスポーターABCA1は、細胞コレステロール及びリン脂質ホメオスタシスの主たる制御因子として知られている。具体的には、ABCA1は、コレステロール及びリン脂質の、脂質が不十分なApoリポタンパク質(ApoA1及びApoE)への流出を媒介し、その後初期の高密度リポタンパク質(HDL)を形成する。細胞でABCA1タンパク質の上方制御を測定するためのインビトロアッセイは、例えば国際公開第2012/031817号に記載されている。これらのインビトロアッセイとしては、国際公開第2012/031817号に記載されているコレステロール流出アッセイ又は蛍光性ApoA1結合アッセイが挙げられるが、これらに限定されない。
【0022】
ピリジンカルボキサミドは、ATP結合カセットトランスポーターA1タンパク質の小分子誘導因子(ABCA1誘導因子)として記載されている。このようなピリジンカルボキサミドは例えば、国際特許出願公開第2011/029827号、同第2012/032018号、同第2013/037703号、及び同第2014/180741号に記載されている。
【0023】
好ましい実施形態では、本開示は、式IのABCA1誘導因子化合物
【化2】

[式中、A及びAの一方はNであり、A及びAの他方はNであり、
は、C1~7アルキル、C3~7シクロアルキル、C3~7シクロアルキル-C1~7アルキル、C1~7アルコキシ-C1~7アルキル、ハロゲン-C1~7アルキル、ヘテロシクリル-C1~7アルキル(ここで、ヘテロシクリル基は非置換であるか、又はオキソにより置換されている)、及びヘテロアリール-C1~7アルキル(ここで、ヘテロアリール基は非置換であるか、又は低級アルキルによりモノ又はジ置換されている)からなる群から選択され、
及びRは互いに独立して水素又はハロゲンであり、
及びRは互いに独立して水素、C1~7アルキル、C1~7アルコキシ、ハロゲン、ハロゲン-C1~7アルキル、ハロゲン-C1~7アルコキシ、及びシアノからなる群から選択され、
は水素、C1~7アルキル、C1~7アルコキシ、ハロゲン、ハロゲン-C1~7アルキル、ハロゲン-C1~7アルコキシ、アミノ、及びシアノからなる群から選択され、
はC1~7アルキル、C3~7シクロアルキル(当該シクロアルキルは非置換であるか又はヒドロキシにより置換されている)、ヘテロシクリル(当該ヘテロシクリルは、N、O及びSから選択される1、2、又は3つのヘテロ原子を含み、非置換であるか、ヒドロキシ又はオキソにより置換されている、3~7個の環原子を有する)、フェニル(ここで、フェニルは非置換であるか、又はC1~7アルキル、ヒドロキシ、C1~7アルコキシ、シアノ、ハロゲン、及びハロゲン-C1~7アルキルからなる群から選択される1つ又は2つの基により置換されている)、及びヘテロアリール(ここで、ヘテロアリールは非置換であるか、又はC1~7アルキル、ヒドロキシ、C1~7アルコキシ、シアノ、ハロゲン、及びハロゲン-C1~7アルキルからなる群から選択される1つ又は2つの基により置換されている)からなる群から選択され、
Gは-(CH-(式中、mは0又は1から選択される)、及び-NR(式中、Rは水素又はC1~7アルキルである)からなる群から選択される。]、
薬学的に許容可能なそれらの塩類の使用に関する。
【0024】
用語「低級アルキル」又は「C1~7アルキル」は、単独で又は組み合わせて、1~7個の炭素原子を有する直鎖又は分岐鎖アルキル基、特に、1~6個の炭素原子直鎖又は分岐鎖アルキル基、及びより具体的には、1~4個の炭素原子を有する直鎖又は分岐鎖アルキル基を表す。直鎖及び分岐鎖C1~7アルキル基の例としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert-ブチル、異性体ペンチル、異性体ヘキシル、及び異性体ヘプチル、特にメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、及びtert-ブチルがある。
【0025】
用語「低級アルコキシ」又は「C1~7アルコキシ」とは、基R’-O-を意味し、式中、R’は低級アルキルであり、用語「低級アルキル」は、以前に記載した意味を有する。低級アルコキシ基の例としてはメトキシ、エトキシ、n-プロポキシ、イソプロポキシ、n-ブトキシ、イソブトキシ、sec-ブトキシ、及びtert-ブトキシ、特にメトキシがある。
【0026】
用語「低級アルコキシ」又は「C1~7アルコキシ-C1~7アルキル」とは、上で定義した低級アルコキシ基でモノ又は複数置換されている、上で定義した低級アルキル基を意味する。低級アルコキシアルキル基の例としては例えば、-CH-O-CH、-CH-CH-O-CH、-CH-O-CH-CH、及び本明細書で具体的に例示する基がある。より具体的には、低級アルコキシはメトキシエチルである。
【0027】
用語ヒドロキシは、基-OHを意味する。
【0028】
用語「シクロアルキル」又は「C3~7シクロアルキル」は、3~7個の炭素原子を含有する飽和炭素環式基、例えばシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、又はシクロへプチルを意味する。
【0029】
用語「低級シクロアルキルアルキル」又は「C3~7シクロアルキル-C1~7アルキル」とは、低級アルキル基の水素原子の少なくとも1つが、上で定義したシクロアルキル基により置き換えられている、上で定義した低級アルキル基を意味する。低級シクロアルキルアルキル基の中でも、特に興味深いものとしてシクロプロピルメチルがある。
【0030】
用語「ハロゲン」とは、フルオロ、クロロ、ブロモ、及びヨードを意味し、特にフルオロ、クロロ、及びブロモが興味深い。より具体的には、ハロゲンとはフルオロ及びクロロを意味する。
【0031】
用語「低級ハロゲンアルキル」又は「ハロゲン-C1~7アルキル」とは、ハロゲン、特にフルオロ又はクロロ、最も具体的にはフルオロで、モノ又は複数置換された低級アルキル基を意味する。低級ハロゲンアルキル基の例としては、例えば-CF、-CHF、-CHCl、-CHCF、-CH(CF、-CF-CF、-CH-CH-CF、-CH(CH)-CF、及び本明細書で具体的に例示した基がある。特に興味深いのは、基トリフルオロメチル(-CF)及び2,2,2-トリフルオロエチル(-CHCF)である。
【0032】
用語「低級ハロゲンアルコキシ」又は「ハロゲン-C1~7アルコキシ」とは、低級アルコキシ基の水素原子の少なくとも1つがハロゲン原子、特にフルオロ又はクロロ、最も具体的にはフルオロで置き換えられている、上で定義した低級アルコキシ基を意味する。低級ハロゲンアルコキシの中でも、特に興味深いのはトリフルオロメトキシ、ジフルオロメトキシ、フルオロメトキシ、及びクロロメトキシで、あり、より具体的にはトリフルオロメトキシである。
【0033】
用語「アミノ」とは、基-NHを意味する。
【0034】
用語「シアノ」とは、基-CNを意味する。
【0035】
用語「アジド」とは、基-Nを意味する。
【0036】
用語「ヘテロアリール」とは、N、O及びSから選択される1、2、又は3つの原子を含むことができる、芳香族の5又は6員環を意味する。ヘテロアリール基の例としては例えば、フラニル、ピリジル、ピラジニル、ピリミジニル、ピリダジニル、チエニル、イソキサゾリル、チアゾリル、イソチアゾリル、チアジアゾリル、オキサゾリル、イミダゾリル、ピラゾリル、トリアゾリル、オキサジアゾリル、オキサトリアゾリル、テトラゾリル、ペンタゾリル、又はピロリルがある。用語「ヘテロアリール」は、1つ又は両方の環が芳香族であり、窒素、酸素、又は硫黄から選択される1、2、又は3つの原子を含有することができる、2つの5又は6員環を含む二環状基、例えばキノリニル、イソキノリニル、シンノリニル、ピラゾロ[1,5-a]ピリジル、イミダゾ[1,2-a]ピリジル、キノキサリニル、ベンゾチアゾリル、ベンゾトリアゾリル、インドリル、インダゾリル、及び3,4-ジヒドロ-2H-ピリド[3,2-b][1,4]オキサジニルもまた含む。特に興味深いヘテロアリール基は、イソキサゾリル、ピラゾリル、オキサジアゾリル、チアゾリル、ピリジル、ピリダジニル、ピリミジニル、及びピラジニルである。より具体的には、ヘテロアリールはピリジル又はピリダジニルである。
【0037】
用語「低級ヘテロアリールアルキル」又は「ヘテロアリール-C1~7アルキル」とは、低アルキル基の水素原子の少なくとも1つが、上で定義したヘテロアリール基により置き換えられている、上で定義した低級アルキル基を意味する。
【0038】
用語「ヘテロシクリル」とは、N、O及びSから選択される1、2、又は3つのヘテロ原子を含有することができる、飽和又は部分不飽和の3、4、5、6、又は7員環を意味する。ヘテロシクリル環の例としては、ピペリジニル、ピペラジニル、アゼチジニル、アゼピニル、ピロリジニル、ピラゾリジニル、イミダゾリニル、イミダゾリジニル、オキサゾリジニル、イソオキサゾリジニル、モルホリニル、チアゾリジニル、イソチアゾリジニル、オキシラニル、チアジアゾリリジニル、オキセタニル、ジオキソラニル、ジヒドロフラニル、テトラヒドロフラニル、ジヒドロピラニル、テトラヒドロピラニル、及びチオモルフォリニルが挙げられる。特に興味深いのは、ピペリジニル及びテトラヒドロピラニルである。
【0039】
用語「低級ヘテロシクリルアルキル」又は「ヘテロシクリル-C1~7アルキル」とは、低アルキル基の水素原子の少なくとも1つが、上で定義したヘテロシクリル基により置き換えられている、上で定義した低級アルキル基を意味する。
【0040】
用語「オキソ」とは、ヘテロシクリル又はヘテロアリール環のC原子が=Oにより置換され得ることを意味し、故に、ヘテロシクリル又はヘテロアリール環が、1つ以上のカルボニル(-CO-)基を含有し得ることを意味する。
【0041】
式(I)の化合物の使用に関する特定の実施形態において、Gは結合であり、RはC3~7シクロアルキル(当該シクロアルキルは非置換であるか又はヒドロキシにより置換されている)である。例えば、Rは、ヒドロキシにより置換されていても、いなくてもよいシクロヘキシルである。
【0042】
特定の実施形態において、R及びRはそれぞれ水素である。
【0043】
特定の実施形態において、Rはハロゲン、例えばクロロ又はフルオロであり、R及びRの一方はハロゲン、例えばクロロ又はフルオロであり、R及びRの他方は水素である。
【0044】
特定の実施形態において、Rはハロゲン-C1~7アルキルであり、典型的には、Rは-CF、-CHF、-CHCl、-CHCF、-CH(CF、-CF-CFから選択される。
【0045】
具体的な化合物の例は、以下の化合物である:
【表1】
【0046】
特定の実施形態において、本明細書に記載した腎疾患の処置に使用するための化合物は、5-(3,4-ジクロロ-フェニル)-N-((1R,2R)-2-ヒドロキシ-シクロヘキシル)-6-(2,2,2-トリフルオロ-エトキシ)-ニコチンアミド、及び6-(3,4-ジクロロフェニル)-N-[(1R,2R)-2-ヒドロキシシクロヘキシル]-5-(2,2,2-トリフルオロエトキシ)ピリジン-2-カルボキサミドからなる群から選択される。
【0047】
本開示は、腎疾患で使用するための、式(I)の化合物、互変異性体、エナンチオマー、ジアステレオマー、ラセミ化合物、若しくはこれらの混合物、又は水和物、溶媒和物、薬学的に許容される塩もまた包含する。
【0048】
用語「薬学的に許容される塩」とは、遊離塩基又は遊離酸の生物学的有効性及び性質を保持し、望ましくないあらゆる自身の性質を有しない塩類を意味する。塩は、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸などの無機酸、特に塩酸、及びギ酸、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、ピルビン酸、シュウ酸、マレイン酸、マロン酸、サリチル酸、コハク酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、ケイ皮酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、サリチル酸、N-アセチルシステインなどの有機酸と共に形成される。したがって、特定の実施形態において、「薬学的に許容される塩」は、式Iの化合物の酢酸塩、臭化物、塩化物、ギ酸塩、フマル酸塩、メシル酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩、リン酸塩、硫酸塩、酒石酸塩、及びトシル酸塩を含む。加えて、薬学的に許容される塩は、無機塩基又は有機塩基を遊離酸に添加することで調製することができる。無機塩基から誘導される塩には、ナトリウム、カリウム、リチウム、アンモニウム、カルシウム、及びマグネシウム塩などが含まれるがこれらに限定されない。有機塩基に由来する塩類としては、一級、二級、及び三級アミン、自然に生じる置換アミン、環式アミン、及び塩基性イオン交換樹脂を含む置換アミン、例えばイソプロピルアミン、トリメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、エタノールアミン、ジエチルアミン、リジン、アルギニン、N-エチルピペリジン、ピペリジン、ピペラジンなどの塩が挙げられるが、これらに限定されない。式Iの化合物は、双性イオンの形態、又は水和物の形態で存在することもできる。具体的には、式Iの化合物の薬学的に許容される塩は、塩酸塩であることができる。
【0049】
式Iの化合物の合成法の例は、国際公開第2011/029827号、同第2012/032018号、同第2013/37703号、及び同第2014/180741号に記載されている。化合物を調製するための例示的な方法は、国際公開第2011/029827号に記載されており、化合物を調製するための例示的な方法は、国際公開第2014/180741号に記載されている。
【0050】
式Iの化合物の使用方法
式Iの化合物、典型的には、実施例にて記載する化合物及び、又は薬学的に許容される塩は、腎疾患の処置において有用であることが示されている。
【0051】
本明細書で使用する場合、用語「腎疾患」は、腎臓の通常の生理学及び機能のあらゆる変化を意味する。この用語は、腎臓移植;腎症;一次腎糸球体症、巣状分節性糸球体硬化症を伴う散在性の特発性ステロイド耐性ネフローゼ症候群を含む巣状分節性糸球体硬化症、微小変化群、膜性GN、C3糸球体症、深刻な腎の免疫グロブリン血症、IgA腎症、慢性腎疾患(CKD);糸球体腎炎;多発性嚢胞腎疾患などの遺伝病;急性及び慢性間質性腎炎、メソアメリカ腎症;ネフローゼ症候群;腎炎症候群、末期腎疾患(ESRD);急性及び慢性腎不全;間質性疾患;腎炎;硬化症、例えば病気又は怪我による炎症を含む原因により生じる、組織及び/又は血管の硬変又は硬化;腎繊維症及び瘢痕;腎随伴増殖性障害;並びに、その他の一次又は二次腎性状態などの病気及び状態を含むが、これらに限定されない。
【0052】
腎疾患はまた、一般に「(1つ又は複数の)腎症」と定義されることもできる。用語「(1つ又は複数の)腎症」は、腎線維症、及び/又は糸球体性疾患(例えば糸球体硬化若しくは糸球体腎炎)、及び/又は慢性腎機能不全をもたらし得、かつ、末期腎疾患及び/又は腎不全を引き起こし得る、腎臓における、あらゆる臨床的・病理学的変化を包含する。
【0053】
本開示のいくつかの態様は、高血圧性腎症、糖尿病腎障害などの糖尿病性腎症、並びに、鎮痛腎症、免疫媒介腎糸球体症(例えばIgA腎症、又はバーガー病、狼瘡性腎炎)、虚血性腎症、HIV随伴腎症、膜性腎症、糸球体腎炎、糸球体硬化、放射線造影中膜誘発腎症、毒性腎症、鎮痛誘発性腎毒性、シスプラチン腎症、移植組織腎症、及び、他の形態の糸球体性異常若しくは損傷、又は糸球体性毛管損傷(管状繊維症)などの他の種類の腎症の予防及び/又は治療のための、組成物及びその使用に関する。いくつかの実施形態では、用語「(1つ又は複数の)腎症」とは具体的に、本明細書において「タンパク質尿腎障害」とも呼ばれる、対象の尿にタンパク質が存在する(即ち、タンパク尿)、及び/又は、腎機能不全が存在するいずれかの、障害又は疾患を意味する。
【0054】
いくつかの実施形態では、対象はアルブミン尿又はタンパク尿を患っている。アルブミン尿と関係する例示的な障害としては、慢性腎疾患、増殖性糸球体腎炎(例えば免疫グロブリンA腎症、膜増殖性糸球体腎炎、メサンギウム増殖性糸球体腎炎、抗GBM病、腎血管炎、狼瘡性腎炎、寒冷グロブリン血症随伴糸球体腎炎、細菌性心内膜炎、ヘノッホ・シェーンライン紫斑病、感染後糸球体腎炎、又はC型肝炎)、並びに、非増殖性糸球体腎炎(例えば膜糸球体腎炎、微小変化群、一次巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)、原線維性糸球体腎炎、イムノタクトイド糸球体腎炎、アミロイド症、アルポート症候群、高血圧性腎硬化症、多発性骨髄腫由来の軽鎖病、及び二次巣状糸球体硬化)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0055】
本明細書において提供する実施形態のいずれかにおいて、対象を特定の試験に通し、腎機能を評価することができる。このような試験としては、対象における血中尿素窒素の測定;対象の血液中でのクレアチニンの測定;対象の血液中でのクレアチニンクリアランスの測定;対象におけるタンパク尿の測定;対象におけるアルブミン:クレアチニン比率の測定;対象における糸球体濾過量の測定;及び、対象における泌尿器出力の測定が挙げられるが、これらに限定されない。
【0056】
本明細書で使用する場合、用語「処置すること」又は「処置」とは、このような用語が適用される障害若しくは状態の、逆転、緩和、進行の阻害、若しくは予防、又は、このような用語が適用される障害若しくは状態の1つ以上の症状の、逆転、緩和、進行の阻害、若しくは予防を意味する。したがって、別の態様において、本開示はまた、タンパク尿の減少、タンパク尿の増加の遅延、泌尿器のアルブミン:クレアチニン比率(UACR)の増加の遅延、UACRの低下、UAERの増加の遅延、UAERの低下、アルブミン尿の減少、アルブミン尿の増加の遅延、糸球体上皮細胞密度の増加、糸球体性基底膜(GBM)の壁厚増大の予防又は遅延、糸球体性面積の減少、腎間質マクロファージの数の低下、腎組織の繊維症の低下又は遅延、腎臓での炎症の停止又は低下、マクロファージが誘発する腎臓への損傷の停止又は減少、推定される糸球体濾過量(eGFR)の増加又は正規化、eGFRの減少の弱化、糸球体硬化の減少、糸球体性細胞外マトリックスの拡大の停止又は低下、硝子質塊の沈着の停止又は減少、糸球体性上皮過形成損傷(EPHL)の停止又は減少、及び、リンパ球湿潤の停止又は減少を含むがこれらに限定されない、腎障害に関連する症状を低減、阻害、又は除去するのに使用するための、式Iの化合物、典型的には、実施例にて記載する化合物及び、又は薬学的に許容される塩に関する。
【0057】
本開示はそれ故、上で定義した腎疾患の処置に使用するための、上で定義した式Iの化合物、並びに薬学的に許容される担体及び/又はアジュバントを含む、医薬組成物にも関する。
【0058】
特に、本開示は、慢性腎疾患、タンパク尿及び/又は糸球体性疾患を含む、腎疾患の治療及び/又は予防に使用するための、上で定義した医薬組成物に関する。好ましい使用は、アルポート症候群、巣状分節性糸球体硬化症、及び糖尿病性腎症に関する。
【0059】
別の実施形態において、本発明は、腎疾患の治療及び/又は予防方法であって、処置に有効な量の式Iの化合物を、それを必要とする患者に投与することを含む、方法に関する。このような腎疾患の例としては、慢性腎疾患、タンパク尿、及び/又は糸球体性疾患が挙げられる。アルポート症候群、巣状分節性糸球体硬化症、及び糖尿病性腎症の治療及び/又は予防方法が、好ましい。
【0060】
更に、本開示は、腎疾患の治療及び/又は予防用の医薬を調製するための、上で定義した式Iの化合物、典型的には、実施例にて記載する化合物及び、又は薬学的に許容される塩の使用に関する。このような腎疾患の例としては、慢性腎疾患、タンパク尿、及び/又は糸球体性疾患が挙げられる。アルポート症候群、巣状分節性糸球体硬化症、及び糖尿病性腎症の治療及び/又は予防用の医薬を調製するための、上で定義した式Iの化合物の使用が、特に興味深い。
【0061】
医薬組成物の形態、投与経路、用量、及びレジメンは自然に、処置される条件、病気の重症度、患者の年齢、体重、及び性別などに左右される。
【0062】
本開示の医薬組成物は、局所、経口、経鼻、眼内、静脈内、筋肉内、又は皮下での投与用に製剤化することができる。好ましくは、本開示の医薬組成物は経口投与用に製剤化されることができる。
【0063】
特定の実施形態においては、本開示の医薬組成物は、硝子体内、髄腔内、又は経皮での投与用に製剤化することができる。
【0064】
医薬組成物は、錠剤、丸薬、カプセル、半固体、粉末、持続放出性製剤、溶液、懸濁液、エマルション、シロップ剤、エリキシル剤、エアゾール、又は任意の他の適切な組成物の形態を取ることができ、上で定義した少なくとも1つの式Iの化合物を含むことができる。
【0065】
特定の実施形態においては、経口製剤は錠剤、口内分散性錠剤、カプセル、溶液、パッチ、舌下錠、鼻内スプレー、又は経口スプレーである。ある副実施形態において、製剤は、上で定義した式Iの化合物の持続性放出のために調製される。
【0066】
投与の容易さのために、錠剤及びカプセルが最も有利な経口投薬単位形態を示し、これらの場合においては、固体医薬担体が明らかに用いられる。所望する場合、錠剤を標準的な技術により糖衣することができる、又は、腸溶性コーティングすることができる。錠剤又は丸薬をコーティングして、作用が長引く利点が得られる用量剤形をもたらすことができる。例えば、錠剤又は丸薬は、内部投与成分及び外部投与成分を含むことができ、後者は、前者を覆うエンベロープの形態である。2つの構成成分は1つの腸溶性層により分離することができ、この層は、胃の中での崩壊に耐える役割を果たし、内部構成要素が無傷で十二指腸まで通過するか、又は放出が遅れるようにすることができる。種々の材料をこのような腸溶性層又はコーティングに使用することができ、このような材料としては、このような材料を含む多数の高分子酸、例えばセラック塗料、セチルアルコール、及び酢酸セルロースが挙げられる。
【0067】
好適なキャリア材料は無機キャリア材料であるだけでなく、有機キャリア材料でもある。したがって、例えば、ラクトース、コーンスターチ又はその誘導体、タルク、ステアリン酸又はその塩を、錠剤、コーティング錠剤、糖衣丸、及びハードゼラチンカプセル用のキャリア材料として使用することができる。ソフトゼラチンカプセル用の好適な支持材料は例えば、植物油、ワックス、脂質、並びに半固体及び液体ポリオールである(しかし活性成分の性質に応じて、ソフトゼラチンカプセルの場合にはキャリアが必要ない場合がある)。溶液及びシロップ剤の製造に好適なキャリア材料は例えば、水、ポリオール、スクロース、転化糖などである。注射液に適したキャリア材料は、例えば、水、アルコール、ポリオール、グリセロール、及び植物油である。座薬に適したキャリア材料は、例えば、天然又は硬化油、ワックス、脂肪、及び半固体又は液体ポリオールである。局所調製物に適したキャリア材料は、グリセリド、半合成及び合成グリセリド、硬化油、液体ワックス、流動パラフィン、液体脂肪族アルコール、ステロール、ポリエチレングリコール、及びセルロース誘導体である。
【0068】
通常の安定剤、防腐剤、湿潤及び乳化剤、コンシステンシー改善剤、風味改善剤、浸透圧変化のための塩、緩衝物質、可溶化剤、着色剤、並びにマスキング剤及び酸化防止剤が、医薬用アジュバントとして考慮される。
【0069】
投与に使用する用量は、関連する病状、又は代替的に、所望する処置期間の様々なパラメータに応じて、特に、使用する投与方法に応じて、適応させることができる。化合物、及び化合物を含む組成物の適切な用量は、患者毎で異なり得ることが理解されよう。最適用量の決定には一般に、本明細書で記載される処置のあらゆるリスク又は有害な副作用に対する、処置効果のレベルのバランスを取ることが伴う。選択する用量レベルは、特定の化合物の活性、投与経路、投与時期、化合物の排泄速度、処置期間、組み合わせて使用する他の薬剤、化合物、及び/又は材料、並びに、患者の年齢、性別、体重、状態、総体的な健康、及び以前の病歴を含むがこれらに限定されない様々な因子に左右される。化合物の量及び投与経路は、最終的に医師の自由裁量に依るものの、一般的に、用量は、実質的な有害(harmful or deleterious)な副作用を引き起こさずに所望の効果を達成する、作用部位における局部濃度を達成するものである。
【0070】
成人患者に対しては、毎日の用量は約1~100mg、特に約1~50mgが考慮される。病気の重症度、及び正確な薬物動態学的プロファイルに応じて、化合物は1回の剤形、又は複数の毎日の剤形、例えば1~3個の剤形で投与することができる。
【0071】
特定の実施形態では、本開示に従った使用のための化合物は、20~800mg/日の1日用量で投与される。
【0072】
別の実施形態では、本開示に従った使用のための化合物は、200mg/日の1日用量で投与される。
【0073】
本開示に従った使用のための医薬組成物は便利には、約1~200mg、好ましくは75~100mgの、式Iの化合物、典型的には、実施例にて記載する化合物及び、又は、それらの薬学的に許容される塩を含有する。投与レジメンを、式Iの化合物の特定の薬物動態学的性質に対してテーラーメイドすることができる。
【0074】
特定の実施形態では、式Iの化合物、典型的には、実施例にて記載する化合物及び、又はそれを含む医薬組成物は1日1回、1日2回、1日3回、3日に1回、1週間に1回、2週に1回、又はひと月に1回投与される。好ましくは、投薬の周期性は、1日2回、1日1回、及び2日に1回から選択される。
【0075】
別の特定の実施形態において、式Iの化合物、典型的には、実施例にて記載する化合物及び、又は薬学的に許容される塩の、負荷用量レジメンは、最初の7日間、14日間、及び30日間に用量を2倍にする。
【0076】
別の特定の実施形態において、本開示に従った使用のための医薬組成物は、約20~800mg、好ましくは約50~400mgの、及びより好ましくは約200mgの、式Iの化合物、典型的には、実施例にて記載する化合物及び、又は、それらの薬学的に許容される塩を含有することができる。
【0077】
別の特定の実施形態において、本開示に従った、式Iの化合物、典型的には、実施例にて記載する化合物及び、又は薬学的に許容される塩の使用に関して、1日用量は20~800mg/日、好ましくは、1日用量は約200mg/日である。
【0078】
更に、本開示に従った使用のための式Iの化合物は、腎疾患、又は関連する障害若しくは合併症の予防又は治療用の別の剤との、同時、個別、又は逐次的な組み合わせ又は会合においてもまた有用であり得る。このような既知の化合物の例としては、アンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤薬物(例えばカプトプリル(Capoten(登録商標))、エナラプリル(Innovace(登録商標))、フォシノプリル(Staril(登録商標))、リシノプリル(Zestril(登録商標))、ペリンドプリル(Coversyl(登録商標))、キナプリル(Accupro(登録商標))、トランダナロプリル(Gopten(登録商標))、ロテンシン、モエキシプリル、ラミプリル);RAS遮断剤;アンジオテンシン受容体遮断薬(ARB)(例:オルメサルタン、イルベサルタン、ロサルタン、バルサルタン、カンデサルタン、エプロサルタン、テルミサルタンなど);プロテインキナーゼC(PKC)阻害剤(例:ルボキシスタウリン);AGE依存性経路の阻害剤(例えば、アミノグアニジン、ALT-946、ピリドキサミン(ピロドドリン)、OPB-9295、アラゲブリウム);抗炎症剤(例えば、クリクロオキシゲナーゼ-2阻害剤、ミコフェノール酸モフェチル、ミゾリビン、ペントキシフィリン)、GAG(例えば、スロデキシド(米国特許第5,496,807号));ピリドキサミン(米国特許第7,030,146号);エンドセリン拮抗薬(例、SPP301)、COX-2阻害剤、PPAR-γ拮抗剤、及びアミホスチン(シスプラチン腎症に使用)、カプトプリル(糖尿病性腎症に使用)、シクロホスファミド及びリツキシマブ(特発性膜性腎症に使用)、チオ硫酸ナトリウム(シスプラチン腎症に使用)、トラニラスト、シクロデキストリンなどのその他の化合物、並びにそれらの誘導体(例、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン)などが挙げられるが、これらに限定されない(Williams and Tuttle(2005),Advances in Chronic Kidney Disease,12(2):212-222;Giunti et al.(2006),Minerva Medica,97:241-62)。特定の実施形態において、組み合わせての、又は会合での使用のための既知の化合物としては、バルドキソロン又はmir-21のオリゴヌクレオチド阻害剤(mir-21アンタゴミール)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0079】
別の特定の実施形態において、組み合わせての、又は会合での使用のための既知の化合物としては、ビタミンD誘導体、抗高血糖剤(例えば、SGLT2阻害剤、GLP1アゴニスト、DPP4阻害剤)、抗高コレステロール血症剤(例えば、スタチン、ナイアシン、フィブラート、PCSK9阻害剤、エゼチマイブ)が挙げられる。
【0080】
本明細書で使用する場合、用語「組み合わせ」とは、1つの単位剤形の固定用量の組み合わせ、非固定用量の組み合わせ、又は併用投与のための複数のパーツのキットのいずれかを意味し、ここで、式Iの化合物、及び1種以上の組み合わせパートナー(例えば、ACE阻害剤薬物又はARB薬剤)は、同時に独立して、又は、特に、これらの時間間隔によって、組み合わせパートナーが共同、例えば相乗効果を示すことができる場合には、複数の時間間隔以内に個別に投与されることができる。
【0081】
用語「固定用量の組み合わせ」とは、単一要素又は用量の形態で、患者に有効成分が両方同時に投与されることを意味する。
【0082】
用語「非固定用量の組み合わせ」とは、有効成分、例えば式Iの化合物、及び1種以上の組み合わせパートナー(例えばACE阻害剤薬物又はARB薬剤)が、特定の時間制限なく、同時又は逐次的のいずれかにより、個別の要素として患者に両方投与されることを意味し、このような投与により、患者の体内において、処置に効果的な濃度の2つの化合物が提供される。
【0083】
更に、本明細書に記載の方法は、脂質異常症、高血圧、肥満、ニューロパシー、炎症、及び/又は網膜症を含むがこれらに限定されない腎疾患合併症に直接又は間接的に関連する別の病気の処置のための、少なくとも1種の他の治療薬の同時投与もまた含むことができる。このような追加の治療薬としては、コルチコステロイド;免疫抑制薬物投薬;抗生物質;降圧及び利尿薬物投薬(サイアザイド系利尿薬、及びACE阻害剤又はβ-アドレナリン作動性アンタゴニスト);胆汁封鎖樹脂、コレスチラミン、コレスチポール、ニコチン酸などの脂質低下剤、より具体的には、コレステロール及びトリグリセリドを低下させるために使用する薬剤及び投薬(例えば、フィブラート(例えばGemfibrozil(登録商標))及び、Lovastatin(登録商標)、Atorvastatin(登録商標)、Fluvastatin(登録商標)、Lescol(登録商標)、Lipitor(登録商標)、Mevacor(登録商標)、Pravachol(登録商標)、Pravastatin(登録商標)、Simvastatin(登録商標)、Zocor(登録商標)、Cerivastatin(登録商標)などのHMG-CoA阻害剤);ニコチン酸;並びにビタミンDが挙げられるが、これらに限定されない。
【0084】
本明細書で使用する場合、用語「同時投与」又は「併用投与」とは、選択した組み合わせパートナーを、単一の対象の中に投与することを包含することを意味し、剤が必ずしも同一経路で、又は同時に投与される必要のない処置レジメンを含むことが意図される。
【0085】
用語「組み合わせて処置に有効な」とは、治療薬が、このような時間間隔で個別に(経時的にずらす方法、特に、順序特異的な方法で)与えられて、(好ましくは相乗的な)相互作用(即ち、組み合わせの処置効果)を示すことができることを意味する。
【0086】
本開示はそれ故、
(i)上で定義した式Iの化合物、典型的には、実施例に記載する化合物又はを含む医薬であって、以下
(ii)アンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤薬物、RAS遮断剤;アンギオテンシン受容体遮断薬(ARB);プロテインキナーゼC(PKC)阻害剤;AGE依存性経路の阻害剤;抗炎症剤、GAG;ピリドキサミン(米国特許第7,030,146号);エンドセリン拮抗薬、COX-2阻害剤、PPAR-γアゴニスト、及び、アミホスチン(シスプラチン腎症に使用)、カプトプリル(糖尿病性腎症に使用)、シクロホスファミド(特発性膜性腎症に使用)、チオ硫酸ナトリウム(シスプラチン腎症に使用)、又はトラニラスト;シクロデキストリンなどのその他の化合物並びにこれらの誘導体類(例えばヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン)からなる群から選択される化合物、並びに
(iii)薬学的に許容される担体、及び/又はアジュバント
と組み合わせた、又は会合した、医薬にも関する。
【0087】
本明細書で使用する場合、用語「医薬」とは、1つの医薬組成物、又は複数の医薬組成物の組み合わせを意味し、1種以上の賦形剤の存在下にて、1種以上の有効成分を含有する。
【0088】
本開示は更に、アンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤薬物、RAS遮断剤;アンギオテンシン受容体遮断薬(ARB);プロテインキナーゼC(PKC)阻害剤;AGE依存性経路の阻害剤;抗炎症剤、GAG;ピリドキサミン(米国特許第7,030,146号);エンドセリン拮抗薬、COX-2阻害剤、PPAR-γアゴニスト、及び、アミホスチン(シスプラチン腎症に使用)、カプトプリル(糖尿病性腎症に使用)、シクロホスファミド(特発性膜性腎症に使用)、チオ硫酸ナトリウム(シスプラチン腎症に使用)、トラニラスト、又はシクロデキストリンなどのその他の化合物並びにこれらの誘導体類(例えばヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン)、ビタミンD誘導体、抗高血糖剤、並びに抗高コレステロール血症剤からなる群から選択される化合物との同時、逐次、又は個別使用のための、上で定義した式Iの化合物に関する。本開示は、腎疾患の治療及び/又は予防方法であって、処置に有効な量の、アンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤薬物、RAS遮断剤;アンギオテンシン受容体遮断薬(ARB);プロテインキナーゼC(PKC)阻害剤;AGE依存性経路の阻害剤;抗炎症剤、GAG;ピリドキサミン(米国特許第7,030,146号);エンドセリン拮抗薬、COX-2阻害剤、PPAR-γアゴニスト、及び、アミホスチン(シスプラチン腎症に使用)、カプトプリル(糖尿病性腎症に使用)、シクロホスファミド(特発性膜性腎症に使用)、チオ硫酸ナトリウム(シスプラチン腎症に使用)、トラニラスト、又はシクロデキストリンなどのその他の化合物、並びにこれらの誘導体類(例えばヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン)、ビタミンD誘導体、抗高血糖剤、並びに抗高コレステロール血症剤からなる群から選択される化合物と組み合わせて、又は会合して、処置に有効な量の、式Iに従った化合物を投与することを含む、方法にもまた関する。
【0089】
以下の実施例において、式(I)の化合物を特に、少なくとも3つの異なる腎疾患、即ち、アルポート症候群、巣状分節性糸球体硬化症、及び糖尿病腎障害のインビボ動物モデルにて試験したところ、多数の腎疾患におけるこのような化合物の有望な処置効果が反映された。
【図面の簡単な説明】
【0090】
図1】Balb/cマウスにおけるADR誘発性腎症での、化合物の最適用量を試験するための実験設計。30匹のメスBalb/cマウスに、12mg/kgの用量で、ドキソルビシン(ADR、アドリアマイシン)を尾静脈注射により注射した。ベースライン群の5匹のマウスは、食塩水を受けた。次に、ADR注射したマウスを、それぞれが5匹の動物となる6つの群に分け、合計で7つの実験群を得た。翌日に開始し、化合物を1日1回、5週間経口摂食により投与した。尿を毎週収集し、体重を毎週記録した。血液と腎臓の毛皮質を、ADR注射の35日後に犠牲にして収集した。
図2】Balb/cマウスにおけるADR誘発性腎症での、化合物を試験するための実験設計。メスBalb/cマウスに、12mg/kgの用量で、ドキソルビシン(ADR、アドリアマイシン)を尾静脈注射により注射した。対照群の5匹のマウスは、食塩水を受けた。ADRを注射したメスを、6匹の5つの群に分けた。翌日に開始し、ビヒクル又は化合物を1日1回、示すように4週間経口摂食により投与した。尿を毎週収集し、体重を毎週記録した。血液と腎臓の毛皮質を、ADR注射の28日後に犠牲にして収集した。
図3】分化したヒト糸球体上皮細胞における化合物の細胞傷害性。分化したヒト糸球体上皮細胞を、0μM(ビヒクル)、1μM、5μM、及び10μMのCpd A、Cpd C、Cpd D、Cpd E、Cpd F、及びCpd Gで18時間処理した。Promega CytoTox Assayキットを使用して、細胞傷害性を評価した。プレーンな培地(無地の棒)をベースラインとして使用した。細胞傷害性シグナルを生存能シグナルに対して正規化し、細胞数の差による偏りを排除した。全ての処理を、ビヒクル処理した細胞と比較した。有意な毒性は、10μMを上回るCpd A及びCpd Cのみで見いだされた。一元ANOVA、n=3、独立実験、ダネット検定、*p<0.5、***p<0.001。
図4】Cpd C、Cpd A、及びCpd Gでの処理では、分化した糸球体上皮細胞におけるABCA1の発現と、コレステロール流出が増加する。 分化したヒト糸球体上皮細胞を、ビヒクル(0.1% DMSO)又は記載した化合物で18時間処理し、ABCA1発現、局在化、及びコレステロール流出への関与を測定した。(a)LXRアゴニスト(Cpd C、E及びD)によるABCA1発現の強力な誘発、並びに、10μMのABCA1誘導因子Cpd A及びGによる中程度の誘発を示す、全細胞可溶化物におけるABCA1及びGAPDHウェスタンブロット。(b~e)Cpd C、Cpd A、及びCpd Gは、原形質膜におけるABCA1の発現を増加させる。ビヒクル又は化合物C、A、及びGで、示したとおりに18時間処理した、分化したヒト糸球体上皮細胞を、細胞分画に通した。(b)Cpd A(5μM)及びCpd G(10μM)で処理した後の、ABCA1発現の中程度の増加を示す、全細胞可溶化物におけるABCA1及びGAPDHウェスタンブロット。(c~e)ABCA1、Na/KATPaseポンプ、及びMEKでブロット及びプローブ処理した、原形質膜、ミクロソーム、及びサイトゾル収集分画。(f~h)Cpd C、A、及びGは、分化した糸球体上皮細胞にて、ApoA1が媒介するコレステロール流出を増加させる。[-H]コレステロールでロードした、分化した糸球体上皮細胞を、示した化合物で18時間インキュベートした。ApoA1が媒介するコレステロール流出を、ApoA1有り又は無しで18時間、細胞をインキュベートした後に計算した。データを、少なくとも3つの独立実験の平均(標準偏差含む)として報告した。一元ANOVA、ダネット検定、*P<0.05%、**P<0.01%
図5】ADRにより誘発される腎損傷を軽減するための、化合物の最適用量の選択。(a~e)指示用量での、化合物による5週間の処理の間の、ADR注射したマウスにおけるアルブミン尿。マウスは、ADRの注射から2~3週間後に多量のタンパク尿を生み出し、これは、30mg/KgのCpd Aの用量(b)、及び、100mg/KgのCpd Gの用量(e)で処理したマウスにおいて軽減された。(f~j)ADRを注射したマウスは、ADR注射の2~3週間後に体重の有意な低下を特徴とし、これは、30mg/kgのCpd A、又は100mgのCpd Gを受けたマウスにおいて特に軽減される表現型である。結果は、各群の平均及びSEを示す。一元ANOVA、n=5、ダネット検定、*P<0.05%。
図6】ABCA1誘導因子Cpd A及びCpd Gは、ADRを注射したマウスにおいて、アルブミン尿と体重減少を有意に減少/低下させる。ADR(12mg/Kg)を注射したマウスは、ビヒクル、LXRアゴニストCpd C、又は最適用量のABCA1誘導因子Cpd A及びCpd Gを28日間、1日1回受けた。アルブミン尿及び体重は、週に1回測定した。(a)4週間の処置後のアルブミン尿。(b)各マウスに、処置の4週間後、及び、ADR注射の1日前に行った、体重の差として表す体重減少。ADRを注射していないマウスであるベースライン群(左に示す)は、腎損傷のない表現型を反映する。棒は中央値、及び、各処置群の範囲を表す。全ての群を、マン・ホイットニーの検定を使用して、ビヒクルを受けたものと比較した(n=8、*P<0.05%、**P< 0.01%、****P<0.0001%)。
図7】ADRを注射し、ビヒクル、又は100mg/Kg/日のCpd Gで4週間処理した動物の腎臓からの、PAS及びHE分泌物の病理学的試験。病理学者は、全節性硬化症の割合(A);分節状硬化症の割合(B);糸球体上皮細胞の肥大(C);糸球体上皮細胞の過形成(D);管状小嚢腫(E)、及び間質炎(F)を評価した。尺度値は以下を表す:0:0 %;0.5+:1~10 %;1+:11~25%;2+:26~50 %;3+:51~75 %;4+>75%。マン・ホイットニーの検定を使用して、Cpd G処理群のサンプルを、ビヒクル処理と比較した(n=7;*P<0.05%)
図8】食塩水又はADRを注射したマウスを、ビヒクル又は100mg/KgのCpd Gのいずれかで28日間処理した。腎皮質の断面をOROで染色して、脂肪滴の沈着を検出した。健常なベースライン群(A)、ADRを注射し、ビヒクル(B)、及び100mg/Kg/日のCpd G(C)で処理した群からの分泌物の、代表的な写真。
図9】Cpd Gは、ADRを注射したマウスの腎組織で、エステル化したコレステロールの蓄積を低減する。ビヒクル又はCpd Gで28日間処理した、ADRを注射したマウスの腎皮質から抽出した脂質の、コレステロールエステル、総コレステロール、及びトリグリセリドを評価した。各脂質種の量を、試料に存在する全タンパク質に対して正規化した。腎組織中で見いだされる、(a)エステル化したコレステロール、(b)総コレステロールの含量、及び(c)トリグリセリドの含量。ADR注射を受けなかった動物が左に示され、腎損傷が誘発されないときのベースライン値を表す。Cpd G及びビヒクルで処理した群を、マン・ホイットニー両側検定を使用して比較した(n=8;****P<0.0001%)。(d~f)。各マウスのアルブミン尿と、腎皮質に存在する脂質種の量との相関関係。コレステロールエステル(d)とは強力な相関関係が見いだされたが、総コレステロール(e)及びトリグリセリド(f)とは見いだされなかった。ピアソン検定、n=10
図10】12mg/KgのADRを注射した動物を、ADR注射の1日後に、ビヒクル又は100mg/Kgで処理した。ビヒクル(A~B)、及び100mg/KgのCpd G(C~D)で20日間処理した後に撮影した写真。
図11】Cpd Gにより、Col4A3 KOマウスを処理することで、末期腎疾患の進行が遅延される。4週齢の129-Col4A3 KOマウスを、ビヒクル又は100mg/KgのCpd Gで4週間処理した。実験の終わり(56日目)に、体重を測定して、随時尿及び血液を採取して、腎臓での脂質の蓄積を分析した。ビヒクル又はCpd Gで処理したKOマウスの、(a)アルブミン尿、(b)血清クレアチニン、(c)血中尿素窒素、及び(d)体重。(e)各群からのPAS染色した腎臓断面の代表的な写真、(f)eで言及した、PAS染色した肝臓断面の、盲検病理学分析後の、メサンギウム拡大の定量化。同じ年齢のCol4a3+/+マウス(wt)を左に含めて、慢性腎疾患を有しない表現型を反映した。(g)6週齢の時点で開始した、4週間ビヒクル又はCpd G(100mg/Kg/日)を受けた、129-Col4a3 KOマウスの生存曲線。水平の棒は、各基の中央値を表す。群間での統計学的差異を、両側マン・ホイットニー検定を使用して計算した(n=4、*P<0.05%、**P<0.01%)。
図12】Db/+、db/dbビヒクルで処理した、及び、db/db ABCA1誘導因子(化合物A)で処理したマウスを利用して、以下について分析した:(A)における、処理の開始時(14週間)、処理の2週間後(16週間)、及び、4週間の処理の後に犠牲にした時点(18週間)にて測定した、クレアチニンに対するアルブミンの比率;マウス血清から測定し、mg/dLで表した、血液尿素窒素(BUN)(B);総コレステロール(TC)、遊離コレステロール(FC)、及びコレステロールエステル(CE)の形態での、腎皮質コレステロール顔料(タンパク質1mg当たりでの、コレステロールnmolの倍率変化)(C);BUNとCEとの相関関係(D);WT1抗体(E)により測定し、定量化した(F)、糸球体性断面積当たりの糸球体上皮細胞の数;PAS染色した腎皮質断面(G)を使用して定量化(H)した、メサンギウム拡大スコア;TEM画像から測定し(I)定量化(J)した、糸球体上皮細胞足突起の消滅。テューキー検定の後の一元ANOVA(*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001)。
図13】Cpd Gは、腎皮質中でのエステル化コレステロールの蓄積を低下させ、(a)エステル化コレステロール(CE)、(b)総コレステロール(TC)、及び(c)トリグリセリド含量(TG)を、4週齢の時点で開始した、ビヒクル又はCpd Gを28日間受けた、8週齢のCol4A3KOの腎皮質にて測定した。各脂質の含量を、総タンパク質含量に対して正規化した。野生型同腹子の群もまた、この研究に含めた(白円)。水平の棒は、各基の中央値を表す。両側マン・ホイットニー検定を使用して、統計学的差異を測定した(n=8):*P<0.05、**P<0.001。
【実施例
【0091】
ABCA1誘導因子化合物の調製
化合物のリスト:
【表2】
【0092】
上記化合物、及びこれらの合成法は、国際公開第2014/180741号に記載されている。
【0093】
化合物:5-(3,4-ジクロロ-フェニル)-N-((1R,2R)-2-ヒドロキシ-シクロヘキシル)-6-(2,2,2-トリフルオロ-エトキシ)-ニコチンアミドの調製
国際公開第2011/029827号の実施例3に記載されている手順に従い、化合物を5-ブロモ-6-クロロ-3-ピリジンカルボン酸、2,2,2-トリフルオロエタノール、(1R,2R)-2-アミノ-シクロヘキサノール、及び3,4-ジクロロフェニルボロン酸から調製した。MS 463.079,465.077(M+H)
【0094】
化合物:6-(3,4-ジクロロフェニル)-N-[(1R,2R)-2-ヒドロキシシクロヘキシル]-5-(2,2,2-トリフルオロエトキシ)ピリジン-2-カルボキサミドの調製
化合物Aを、以下の工程で、国際公開第2014/180741号に記載されている手順に従い調製した:
【0095】
a)6-クロロ-2-(3,4-ジクロロフェニル)-3-フルオロピリジン
100mLの4ツ口フラスコ内で、2,6-ジクロロ-3-フルオロピリジン(765mg、4.61mmol、当量:1.00、CAS登録番号52208-50-1)、及び(3,4-ジクロロフェニル)トリフルオロホウ酸カリウム(1.21g、4.61mmol、当量:1.00、CAN 850623-68-6)を、ジオキサン(23mL)及び水(13mL)と組み合わせた。2M NaCO(6.91mL、13.8mmol、当量:3)、続いて、PdCl(DPPF)-CHCl付加化合物(169mg、230μmol、当量:0.05、CAS登録番号95464-05-4)を添加した。反応混合物を3回脱気させ、アルゴンでパージした後、撹拌しながら一晩60℃まで加熱した。反応混合物を周囲温度まで冷却し、50mLのHOを注いで、tert-ブチルメチルエーテルで抽出した(2×100mL)。有機層をHO/ブラインで洗浄して合わせ、NaSOで乾燥させて真空中で濃縮した。粗物質をフラッシュクロマトグラフィー(シリカゲル、70g、5%~20% ヘプタン中のジクロロメタン)により2回精製し、540mgの表題化合物を白色半固体として得た。
【0096】
b)6-クロロ-2(3.4-ジクロロフェニル)-3-(2,2,2-トリフルオロエチル)ピリジン
25mLの梨型フラスコ中で、上で調製した6-クロロ-2-(3,4-ジクロロフェニル)-3-フルオロピリジン(530mg、1.44mmol、当量:1.00)をDMSO(8mL)と合わせた。KOH(118mg、2.1mmol、当量:1.46)と2,2,2-トリフルオロエタノール(211mg、153μL、2.11mmol、当量:1.47)を添加し、反応を2時間周囲温度にて続けた。混合物を30mLのHOに注ぎ、tert-ブチルメチルエーテルで抽出した(2×40mL)。有機層をHO/ブラインで洗浄して合わせ、NaSOで乾燥させて真空中で濃縮した。粗生成物をフラッシュクロマトグラフィー(シリカゲル、70g、5%~20%ヘプタン中のEtOAc)により精製し、444mgの表題化合物を無色液体として得た;MS(ESI)356.3,358.3,360.3(M+H)
【0097】
c)メチル6-(3,4-ジクロロフェニル)-5-(2,2,2-トリフルオロエトキシ)ピリジン-2-カルボキシレート
35mLのオートクレーブ中で、上で調製した6-クロロ-2-(3,4-ジクロロフェニル)-3-(2,2,2-トリフルオロエトキシ)ピリジン(437mg、1.22mmol、当量:1.00)を5mLのMeOHに溶解させた。アルゴンにより酸素及び湿気から保護し、PdCl(DPPF)-CHCl付加化合物(75.2mg、92μmol、当量:0.083、CAS登録番号95464-05-4)、続いてトリエチルアミン(233mg、321mL、2.31mmol、当量:2.31)を添加した。次に、反応容器にCOを3回流し、70barまで圧力をかけた後、カルボニル化を20時間110℃で進めた。冷却して圧力を放出した後、粗反応混合物を真空中で濃縮した。次に残留物をAcOEt/HOに溶解させ、分液漏斗に移した。水層をEtOAcで逆抽出し、有機層をHOとブラインで洗浄して合わせ、NaSOで乾燥させて真空中で濃縮した。フラッシュクロマトグラフィー(シリカゲル、70g、10%~40% ヘプタン中のEtOAc)を行って、最終的に327mgの表題生成物を白色固体として得た;MS(ESI)380.4,382.4(M+H)
【0098】
d)6-(3,4-ジクロロフェニル)-5-(2,2,2-トリフルオロエトキシ)ピリジン-2-カルボン酸
25mLの梨型フラスコ中で、上で調製した6-(3,4-ジクロロフェニル)-5-(2,2,2-トリフルオロエトキシ)ピコリネート(326mg、858μmol、当量:1.00)をテトラヒドロフラン(5mL)と合わせ、無色溶液を得た。水(2.5mL)、続いてLiOH(41.1mg、1.72mmol、当量:2)を添加し、反応混合物を2時間、40℃で撹拌した。反応混合物を5mLの飽和NHCl溶液及び3mLの1N KHSO溶液に注ぎ、EtOAcで抽出した(2×30mL)。有機層を合わせ、NaSOで乾燥させて真空中で濃縮すると、表題の酸が322mg、白色泡状物として残った;MS(ESI)366.4,368.4(M+H)
【0099】
e)6-(3,4-ジクロロフェニル)-N-[(1R,2R)-2-ヒドロキシシクロヘキシル]-5-(2,2,2-トリフルオロエトキシ)ピリジン-2-カルボキサミド
25mLの梨型フラスコ中で、上で合成した6-(3,4-ジクロロフェニル)-5-(2,2,2-トリフルオロエトキシ)-ピコリン酸(322mg、879μmol、当量:1.00)をDMF(12mL)に溶解させた。TBTU(O-(ベンゾチアゾール)-1-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウムテトラフルオロボレート、424mg、1.32mmol、当量:1.5、CAS 登録番号125700-67-6)、及びN,N-ジイソプロピルエチルアミン(568mg、768μL、4.4mmol、当量:5)を添加し、反応混合物を10分間周囲温度にて撹拌した後、(1R,2R)-2-アミノシクロヘキサノールヒドロクロリド(160mg、1.06mmol、当量:1.2、CAS登録番号13374-31-7)を追加の溶媒なしで添加した。次に、反応を3時間室温で進めた。粗製混合物をHOで希釈してCHClで抽出した。有機層を合わせ、NaSOで乾燥させて真空中で濃縮した。フラッシュクロマトグラフィー(塩基性アルミナ、50g、10%~80% ヘプタン中のEtOAc)により精製し、EtOAc及びヘプタンからの、粗生成物の沈殿により、表題アミドが白色固体として得られた;高解像度MS(ESI)463.0798,465.0769(M+H);予想:463.0798,465.0768。
【0100】
化合物:(N’-(6-クロロピリダジン-3-イル)-5-(4-シアノフェニル)-N’-メチル-6(2,2,2-トリフルオロエトキシ)ピリジン-3-カルボヒドラジド)の調製
化合物Hを、以下の工程で、国際公開第2014/180741号に記載されている手順に従い調製した:
【0101】
a)5-(4-シアノ-フェニル)-6-(2,2,2-トリフルオロ-エトキシ)-ニコチン酸メチルエステル
50mLの4ツ口フラスコ中で、メチル5-ブロモ-6-(2,2,2-トリフルオロエトキシ)ニコチネート(1g、3.18mmol、当量:1.00、CAS登録番号1211589-51-3)及び炭酸セシウム(3.11g、9.55mmol、当量:3)を、トルエン(25mL)及び水(2.8mL)と組み合わせ、無色溶液を得た。反応混合物を3回脱気させ、アルゴンでパージした後、酢酸パラジウム(II)(14.3mg、63.7μmol、当量:0.02)、(4-シアノフェニル)トリフルオロホウ酸カリウム(732mg、3.5mmol、当量:1.1、CAS登録番号850623-36-8)、及びブチルジ-1-アダマンチルホスフィン(68.5mg、191μmol、当量:0.06、CAS登録番号321921-71-5)を連続して添加した。脱気-パージサイクルを、各添加の後に繰り返した。次に、反応混合物を120℃まで5時間加熱した。冷却後、反応混合物を50mLのHOに注ぎ、AcOEtで抽出した(2×50mL)。有機層をHO/ブラインで洗浄して合わせ、NaSOで乾燥させて真空中で濃縮した。フラッシュクロマトグラフィー(シリカゲル、50g、50%~100% ヘプタン中のCHCl)による精製によって、最終的に表題化合物を898mg、白色泡状物として得た;MS(ESI)337.2(M+H)
【0102】
b)5-(4-シアノ-フェニル)-6-(2,2,2-トリフルオロ-エトキシ)-ニコチン酸
25mLの丸底フラスコ中で、上で調製した5-(4-シアノ-フェニル)-6-(2,2,2-トリフルオロ-エトキシ)-ニコチン酸メチルエステル(0.891g、2.65mmol、当量:1.00)を、THF(7mL)及び水(3.5mL)と合わせて淡黄色の二相系を得た。TLCが反応の完了を示したとき、水酸化リチウム(127mg、5.3mmol、当量:2)を添加し、反応混合物を40℃で3時間撹拌した。事前作業:10mLのHO及び7mLのHCl 1Nを添加し、混合物をAcOEtで抽出して(2×50mL)、有機層を合わせてブラインで洗浄し、NaSOで乾燥させて真空中で濃縮した。ヘプタン/EtOAc(9:1)での粉砕により、最終的に、所望の表題生成物を794mg、白色固体として得た;MS(ESI)321.2(M-H)
【0103】
c)N’-(6-クロロピリダジン-3-イル)-5-(4-シアノフェニル)-N’-メチル-6-(2,2,2-トリフルオロエトキシ)ピリジン-3-カルボヒドラジド
5mLの丸底フラスコ中で、上で調製した5-(4-シアノ-フェニル)-6-(2,2,2-トリフルオロ-エトキシ)-ニコチン酸(0.050g、155μmol、当量:1.00)をTHF(2mL)と合わせ、無色溶液を得た。TBTU(O-(ベンゾチアゾール)-1-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウムテトラフルオロボレート、74.7mg、233μmol、当量:1.5、CAS登録番号125700-67-6)とN,N-ジイソプロピルエチルアミン(100mg、135μL、776μmol、当量:5を添加した。反応混合物を10分間室温で撹拌した後、3-クロロ-6-(1-メチルヒドラジニル)-ピリダジン(29.5mg、186μmol、当量:1.2、CAN76953-33-8)を添加し、反応混合物を室温で一晩維持した。25mLの1M HClに注ぎ、EtOAcで抽出し(2×50mL)、1M NaOHで洗浄してNaSOで乾燥させ、全ての溶媒を真空中で蒸発させた後、フラッシュクロマトグラフィー(シリカゲル、10グラム、2%~10% CHCl中のMeOH)にかけて、ヘプタン/AcOEtからの再結晶を行うことにより、最終的に表題化合物を28mg、白色固体として得た;MS(ESI)463.1,465.3(M+H)
【0104】
化合物:6-(4-クロロ-フェニル)-5-(2,2,2-トリフルオロ-エトキシ)-ピリジン-2-カルボン酸(3-イソプロピル-イソオキサゾール-5-イルメチル)-アミドの調製
化合物Jを、以下の工程で、国際公開第2014/180741号に記載されている手順に従い調製した:
【0105】
表題化合物を、国際公開第2012/032018号の実施例64に記載されている方法に従い、6-(4-クロロ-フェニル)-5-(2,2,2-トリフルオロ-エトキシ)-2-ピリジンカルボン酸及び3-(1-メチルエチル)-5-イソキサゾールメタンアミン(CAS登録番号543713-30-0)から合成した。LC-MS(UVピーク面積/ESI)100.0%,454.4(M+H)
【0106】
化合物(6-(4-クロロフェニル)-N-(ピリミジン-5-イル)-5-(2,2,2-トリフルオロエトキシ)ピコリンアミド、比較化合物)の調製:
6-(4-クロロ-フェニル)-5-(2,2,2-トリフルオロ-エトキシ)-ピリジン-2-カルボン酸(国際公開第2012/032018号、実施例AEに記載のとおりに調製)をDMF(30mL)と室温で合わせ、無色溶液を得た。ピリミジン-5-アミン、TBTU、及びN-エチルジイソプロピルアミンを添加した。反応混合物を室温で15時間撹拌した。反応混合物を150mLのHOに注ぎ、EtOAcで抽出した(2×150mL)。合わせた有機層をブラインで洗浄し、MgSOで乾燥させて蒸発させた。粗物質をフラッシュクロマトグラフィー(シリカゲル、20g、0%~50%、ヘキサン中のEtOAc)により精製した。LC-MS(ESI)409.068(M+H)
【0107】
比較の他の化合物
【表3】
【0108】
化合物(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-{2-メチル-1-[5-メチル-2-(3-トリフルオロメチル-フェニル)-オキサゾール-4-イルメチル]-1H-インドール-5-イル}-プロパン-2-オール、LXRアゴニスト)の合成は、国際公開第2005/105791号、実施例56に記載されていた。
【0109】
化合物(4-{5-[(RS)-(3-ブロモ-ベンゼンスルホニル)-((SR)-7-クロロ-1,2,3,4-テトラヒドロ-シクロペンタ[b]インドール-2-イル)-フルオロ-メチル]-[1,3,4]オキサジアゾール-2-イル}-安息香酸、部分的なLXRアゴニスト)は、国際公開第2005/092856号の実施例113に記載されていた。
【0110】
化合物((R)-2-[(S)-ベンゼンスルホニル-フルオロ-(5-メチル-[1,3,4]オキサジアゾール-2-イル)-メチル]-7-クロロ-1,2,3,4-テトラヒドロ-シクロペンタ[b]インドール、部分的なLXRアゴニスト)は、国際公開第2005/092856号、実施例74(6)に記載されていた。
【0111】
材料及び方法
インビトロ実験のために、凍結乾燥した化合物をDMSO(Sigma)中で再構成し、同じ溶媒中で希釈して、20mM、10mM、5mM、1mM、及び0mMのストックを生成し、これらを-20℃で保管した。
【0112】
インビボ実験のために、凍結乾燥させた化合物を、ビヒクル(Rocheにて設計された特異的な製剤:1.25% ヒドロキシプロピルメチルセルロース、0.10% ドクセートナトリウム塩、0.18% プロピルパラベンナトリウム、0.02% クエン酸一水和物、pH6)に懸濁した。微粒子懸濁液を、3回の簡単なパルス音波処理(氷上)により確保した。懸濁液中の化合物濃度を、Cpd C(LXRアゴニスト)に関して2mg/mLに調整し、両方のABCA1誘導因子であるCpd A及びCpd Gに関しては、2つの濃度(6mg/mL及び20mg/mL)に調整した。化合物の懸濁液を、長期保存のためには-20℃で保管し、化合物が1週間以内に使用される予定の場合は、4℃で保管した。懸濁液を完全に混合した後投与して、確実に用量が均一に送達されるようにした。
【0113】
細胞培養
ラットコラーゲンI型、RPMI及びITSをCorningから購入した。FBSをGIBCOから、脂肪非含有BSAをSigma-Aldrichから購入した。コレステロール流出アッセイのために、ヒトApoA1及びH-コレステロールをそれぞれ、Calbiochem及びAmerican Radiolabeled Chemicalsから購入した。
【0114】
条件的に不死化したヒト糸球体上皮細胞は、Moin Saleemから好意による贈答品であった。細胞をコラーゲンI型でコーティングしたフラスコ内で播種し、完全培地(RPMI、10% FBS、1×Pen/ストレプトマイシン)中で33℃、5% COにて増殖させ、1×ITSを補充した。分化のために、細胞を、ITS非含有の完全培地培地中で、2,500cells/cmの密度で播種し、37℃及び5% COで15日間培養した。
【0115】
細胞傷害性
糸球体上皮細胞を96ウェルプレート(Greiner)に播種し、14日間分化させた。次に、細胞をPBSで洗浄し、ビヒクル及び化合物含有又は非含有の培地(RPMI-0.2% BSA)で、18時間37℃、5% COでインキュベートした。試験した化合物の濃度は、1μM、5μM、10μM、及び20μMであった。ビヒクル(DMSO)の終濃度は0.1%であった。全ての処理を2通りに行った。メーカーの指示に従い、ApoTox-Glo Triplex Assay(Promega)を使用して細胞傷害性をアッセイした。簡単に言うと、細胞透過性(GF-AFC)及び細胞不透過性(ビス-AAF-R110)ペプチド基質を希釈して、全てのウェルに添加し、細胞を37℃、5% COで1時間インキュベートした。細胞の集合を、細胞傷害性の陽性対照としてサポニン(2mg/mL)で処理した。細胞生存能及び細胞傷害性蛍光シグナルを、蛍光マイクロプレートリーダー(SpectraMax i3)を使用してそれぞれ、400nm/505nm、及び485nm/520nmの励起/発光で測定した。細胞傷害性基質で得たRFUシグナルを、同じウェル内で生存可能な基質により得たシグナルに対して正規化して、ウェルあたりの異なる細胞数の効果を除外した。
【0116】
コレステロール流出
13日間分化したヒト糸球体上皮細胞を、2% FBSを含有するRPMI培地中で、1μCi/mLの[H]-コレステロールを用いて24時間標識した。次に、細胞をPBSで洗浄し、ビヒクル、又は化合物Cpd C(1μM)、Cpd A(1μM、5μM)、及びCpd G(1μM、5μM、10μM)を補充した平衡培地(RPMI-0.2%脂肪非含有BSA)で18時間インキュベートした。次に、細胞をPBSで洗浄し、20μg/mLのヒトApoA1を含有する、又は非含有の平衡培地で、18時間37℃、5% COでインキュベートした。培地を収集し、12,000xgで5分間スピンし、200μLのアリコートの放射能を、液体シンチレーションにより計測した。細胞をPBSで洗浄し、250μLの0.1% SDS、0.1M NaOHで溶解し、100μLのアリコートの放射能を、液体シンチレーションにより測定した。コレステロール流出を、以下の式により、培地に対する、細胞から取り除いた標識コレステロールの割合として計算した:
流出(%)=100×{(培地のcpm)/[(培地のcpm)+(溶解物のcpm)]}
【0117】
ApoA1が媒介するコレステロール流出を、ApoA1の存在下又は不存在下における流出間の差として計算した。全ての処理を2通りに行った。4つ以上の独立実験を実施した。
【0118】
ABCA1の発現。
14日間分化させた糸球体上皮細胞を、RPMI-0.2% FBS中で18時間飢餓状態にし、その後、完全培地中で18時間、37℃及び5% COで、新たに調製した化合物の希釈液にて処理した。1μM、5μM、及び10μMの化合物濃度を評価した。次に、細胞をPBSで洗浄し、プロテアーゼ及びホスファターゼ阻害剤カクテル(Roche)を補充した、1X細胞溶解緩衝液(Cell Signaling)で溶解した。総タンパク質含有量をBCA法(Pierce,Thermoscientific)により測定した。ABCA1の発現をウェスタンブロットにより分析した。
【0119】
細胞の分画
14日間分化させた糸球体上皮細胞を、化合物Cpd C(1μM)、Cpd A(5μM)、及びCpd G(10μM)で18時間処理した後洗浄して、氷冷PBSで掻き取った。細胞を1,000xgで5分間遠心分離にかけ、上清を注意深く吸引して、ペレットを、Rocheのプロテアーゼ阻害剤カクテルを補充した低張性緩衝液(15mM KCl、1.5mM MgCl、10mM HEPES、及び1mM DTT)中で懸濁した。ガラスダウンサー中で、2回の凍結及び解凍サイクルにて起泡させることで、細胞を更に確実に破壊した。スクロースを添加し、227mMの終濃度にして、細胞を1,000xgにて30分間、4℃で遠心分離にかけた。次に、上清を新しい管に移し、10,000xgにて15分間、4℃で遠心分離にかけた。ミクロソーム分画を含有するペレットを収集し、上清を新しい管に移して、100,000xgにて1時間、4℃で遠心分離にかけた。ペレット処理した原形質膜画分を収集し、非膜性サイトゾル分画を含有する上清を、Vivaspin 500フィルターカラム内で濃縮した。各画分内での、ABCA1、並びに、原形質膜に存在することが知られているタンパク質(Na/Kナトリウムポンプ)及び細胞質基質(MEK)の存在を、ウェスタンブロットにより確認した。
【0120】
ウェスタンブロット
溶解物、又は細胞画分を、緩衝液サンプルにより55℃で10分間、減圧条件にてインキュベートした。合計で30gの、溶解物中のタンパク質、及び、細胞画分調製物中で収集した体積の3分の1を、4~20%ゲル中のSDSPAGE(Biorad)で分離した後、タンパク質をPVDF膜に移した。膜を5%乳で遮断し、タンパク質特異的抗体で18時間4℃にてブロットした。以下の抗体を使用した:マウス抗ABCA1(Abcam;1:1,000)、ウサギ抗GAPDH抗体(Millipore;1:10,000)、ウサギ抗MEK及び抗Na/KATPase(Cell Signaling;1:1,000)。PBS-Tで洗浄した後、5%乳中で、HRP(Promega)に1:10,000で抱合体化した、抗マウス及び抗ウサギ特異的抗体を用いて、膜をインキュベートした。膜を洗浄して、Western bright ECL基質(Advansta)を使用してシグナルを展開した。
【0121】
インビボ実験
研究認可
マウスにおける化合物を試験するための研究手順は、University of Miami’s IACUCにより認可された。University of Miami(UM)は、Office of Laboratory Animal Welfare、NIHと共に、Animal Welfare Assuranceのファイルを有している(A-3224-01、2014年11月24日に有効化)。更に、UMは、US Department of Agriculture Animal and Plant Health Inspection Serviceにより登録されている(2014年12月、登録58-R-007)。2013年10月22日時点で、Council on Accreditation of the Association for Assessment and Accreditation of Laboratory Animal Care(AAALAC International)は、UMの完全な認定を続けている。
【0122】
アドリアマイシン誘発性腎損傷
購入したメスBalb/cマウスは、6週齢の時点でJackson Labsから購入し、実験の開始前に2週間、我々の設備にて保管した。
【0123】
まず、予備実験を実施し、使用する化合物の最良の用量を見いだし、他の実験変数の調整が必要か否かを決定した。この実験において、30匹のマウスが単回用量のアドリアマイシン(Sigma-Aldrich、12mg/Kg、尾静脈注射による)を受け、その後、それぞれ5匹のマウスがいる6つの群に無作為に分けた。別の5匹のマウスに、同一経路で0.9% NaClを注射し、腎損傷なしのベースライン群として使用した。ADR注射の24時間後に開始して、ビヒクル、又は異なる用量の化合物を、35日間経口摂食にて、1日1回与えた。試験化合物の用量は、以下のとおりであった:LXRアゴニスト(Cpd C、10mg/Kg);ABCA1誘導因子Cpd A及びCpd G(30mg/Kg及び100mg/Kg)。体重測定及び随時尿採集を、1週間に1回行った。ADR注射の35日後に、動物を犠牲にした(図1)。
【0124】
第2の実験を繰り返し、第1の実験におけるCpd A及びGの用量にて達成した、腎機能の改善を確認した。簡単に言うと、8週齢の30匹のメスBalb/cマウスに、12mg/KgのADRを、尾静脈を介して注射し、マウスを、それぞれ6匹の動物がいる5つの群に無作為に分配した。動物に、ビヒクル又は化合物を、ADR注射の1日後からはじめて28日間、経口摂食により1日1回与えた。以下の化合物用量を試験した:Cpd C、10mg/Kg/日;Cpd A、30mg/Kg/日並びにCpd G、30mg/Kg/日、及び100mg/Kg/日。尾静脈注射で食塩水を受け、ビヒクルで処理した5匹の動物の群を、健常なベースライン対照として使用した。体重測定及び随時尿採集を、1週間に1回行った。ADR注射の28日後に、動物を犠牲にした(図2)。
【0125】
アルポートマウスモデル
129 Col4a3tm1/Dec/JマウスをJackson Labsから購入し、交配してCol4a3 KOマウスを生成した。マウスをジェノタイピングして、プライマー:F(TGCTCTCTCAAATGCACCAG)、R(CCAGGCTTAAAGGGAAATCC)、及びRm(GCTATCAGGACATAGCGTTGG)を使用して、PCR反応(94Cで5分間、続けて、95Cで30秒・60Cで15秒・及び72Cで30秒を30サイクル、並びに72Cで1分)で、選択した。129匹のCol4A3-KOマウスを、それぞれ5匹のマウス(オス及びメス)がいる2つの群に分けた。4週齢の時点で、マウスは、ビヒクル又はCpd G(100mg/Kg)のいずれかを経口摂食で、4週間毎日受けることを開始した。体重測定及び随時尿採集を、1週間に1回実施した。動物を、8週齢の時点で、処置の終わりに犠牲にした。後続の研究もまた実施して、病気が確立した時点での、Col4A3-KOマウスの処置がマウスの生残を延ばすか否かを評価した。本研究では、マウスを、6週齢の時点で開始する、Cpd G(100mg/Kg/日)を毎日経口摂食することにより処理し、生残を評価した。
【0126】
DKDマウスモデル
Jackson laboratoryから、B6.BKSdb/db、及びB6.BKSdb/+マウスを購入した。14週齢の時点で、マウスは、ビヒクル又はABCA1誘導因子であるCpd A(30mg/Kg)を、経口摂食により1日1回4週間、受けることを開始した。体重測定及び尿採集を毎週行った。マウスを18週齢で犠牲にし、採血して組織を処理し、以下のとおりに分析した。
【0127】
マウスの表現型分析
随時尿サンプルを全てのマウスから、ベースライン及び犠牲時に採集した。アルブミンELISAキット(Bethyl laboratories)、及びクレアチニン測定のための比色分析アッセイ(Stanbio)を使用して、泌尿器のアルブミン及びクレアチニンを測定した。アルブミン尿を計算し、クレアチニン(mg)で除したアルブミン(μg)として表した。糖尿病マウスモデルに関して、体重及び血糖を2週間に1回ベースで測定した。
【0128】
犠牲時に、ヘパリン処理した管で採血をし、マウスを、等張生理食塩を用いる水左心室灌流によって灌流した。腎皮質を注意深く切除し、以下の分析:糸球体上皮細胞の数の測定、脂肪滴の染色、電子顕微鏡法(EM)、腎脂質含量アッセイ、病理学的評価のためのPAS&HE染色のために更に細断した。
【0129】
糸球体上皮細胞の数の測定
腎皮質の細断物を、免疫蛍光浅色及び脂肪滴の更なる分析のために、OCTに埋め込んだ。具体的には、切断して、WT1抗体(1:200,Santa Cruz)及びProLong GOLD DAPI固定培地で染色した4μm厚の組織断片を使用して、糸球体性断面当たりの糸球体上皮細胞の数を測定した。40倍の湿った対物レンズを備えるLeica SP5倒立顕微鏡を使用する共焦点顕微鏡法により、画像を入手した。マウス当たり20個の糸球体を定量化した。
【0130】
脂肪滴染色Filtered Oil-Red O-Isopropanol溶液(Electron Microscopy Science,PA)を水(6:4)で希釈した。4μmの腎断片を、100μLの新しく調製したOil-Red O溶液(ORO)で15分間インキュベートし、ヘマトキシリンHarris Hg Free(VWR,PA)で対比染色し、脂質の沈着を検出した。光学顕微鏡(Olympus BX 41,Tokyo,Japan)を使用して、糸球体の染色を評価した。
【0131】
電子顕微鏡法。透過型電子顕微鏡法のために、腎皮質の断片を、0.1M リン酸緩衝液(pH7.4)中の、4%パラホルムアルデヒド、1%グルタルアルデヒドに配置した。足突起を、1μmの糸球体性基底膜当たりで定量化した。
【0132】
腎脂質種アッセイ。腎皮質の断片を急速冷凍し、脂質抽出及びコレステロール含量の測定のために使用した。組織を、氷上のガラスダウンサー中の2mM リン酸カリウム緩衝液で均質化した。100μLのホモジェネート(約5~10mgの組織)中の脂質を、1mLのヘキサン:イソプロパノール(3:2)で、2連続の30分間抽出で抽出した。脂質含有溶媒を次いで、窒素雰囲気にて乾燥させた。次に脂質を、イソプロパノール:NP-40(9:1)を使用して再構成し、メーカーの手順に従い、Amplex赤色コレステロールアッセイキット(Invitrogen)を使用してコレステロール含量を定量化した。脂質抽出物中のトリグリセリドを、メーカーの指示(Cayman)に従い、比色分析キットを用いてアッセイした。総コレステロールとコレステロールエステルを、酵素蛍光定量法を用いてアッセイした。総コレステロールに関しては、腎脂質抽出物を、アッセイ緩衝液(100mM リン酸カリウム、50mM NaCl、5mM コール酸、0.1%Triton X-10、pH 7.4)で希釈し、終濃度が1U/mLのコレステロールオキシダーゼ、1U/mLのコレステロールエステル、1U/mLのホースラディッシュペルオキシダーゼ、及び75μMのAmplex Redを補充した同じ緩衝液を用いてインキュベートした。反応物を、黒色不透明の96ウェルプレート(Greiner)中で、37℃にて30分間インキュベートし、530nmの励起及び580の発光を用いて、蛍光をマイクロプレートリーダー(Spectramax i3X,Molecular Devices)にて測定した。
【0133】
Mizoguchi et al(Mizoguchi,2004)が記載している直接法を用いて、コレステロールエステルをアッセイした。簡単に言うと、150μLのFC分解試薬(上述したアッセイ緩衝液中の、45U/mLのウシカタラーゼ、及び1U/mLのコレステロールオキシダーゼ)を、最大1mMの総コレステロールを含有する25μLのサンプルに添加した。遊離コレステロールを一晩37℃で分解させた後、75μLの4Xコレステロールエステル検出試薬(1U/mLのコレステロールオキシダーゼ、4U/mLのコレステロールエステル、24U/mLのホースラディッシュペルオキシダーゼ、300μMのAmplex Red)を添加した。反応物を37℃で30分間インキュベートし、総コレステロールの蛍光を上述のとおりに測定した。1mMのコレステロール、及び5μMのコレステロールオレエート規格を内部対照として含めて、アッセイの感度及び特異度を確認した。
【0134】
病理学的評価。腎皮質の断片をパラフィン包埋し、過ヨウ素酸-Schiff(PAS)及びHEで4μm厚に切断した。二重盲検荘園で実施した、半定量分析(スケール0~5)、又は、メサンギウムが拡大した糸球体の割合(%)に基づき、メサンギウム拡大をスコア付けした。
【0135】
統計
統計。全ての値を、平均+標準偏差として表す。Prism GraphPad 7ソフトウェアを使用して統計分析を実施した。2つ以上の化合物用量を使用して、群が通常のデータ分布を示す場合、一元ANOVAを使用して結果を分析した。差が観察される場合、対照(ビヒクル)の平均を、ダネット検定を使用して各群の平均と比較した。テューキー検定を、複数の比較のために実施した。
【0136】
インビボ研究のために、ビヒクル及び化合物で処理した群を、両側t検定を使用して比較した。ウェルチの補正を、等しくない分散の場合に用いた。正規分布を主張できないときに、マン・ホイットニー検定も使用して、群を比較した。0.05%未満のP値を、統計的に有意であるとみなした。
【0137】
結果
化合物の細胞傷害性
細胞傷害性アッセイを実施して、培養したヒト糸球体上皮細胞で安全に使用可能な化合物の濃度範囲を測定した。
【0138】
全ての化合物が、細胞傷害性の兆候なく10μMまでの濃度で使用することができた。しかし、化合物A及びCを用いるときは、これら2つの化合物が20μMにて有意な傷害性を誘発した(図3)ため、5μMの濃度を超えないようにした。
【0139】
ABCA1発現及びコレステロール流出
インビトロ実験を行い、動物研究で更に使用するための、糸球体上皮細胞内でのABCA1の機能的発現をよりよく誘発する化合物を選択した。したがって、化合物のABCA1タンパク質発現、血漿膜におけるABCA1局在化、及びApoA1が媒介するコレステロール流出における効果を研究した。
【0140】
化合物により誘発されるABCA1発現を、ウェスタンブロットにより対処した。全てのLXRアゴニスト、Cpd C、Cpd E、及びCpd Dは、最低1μMの用量にて、糸球体上皮細胞におけるABCA1の発現を著しく増加させた。試験した3つのABCA1誘導因子(Cpd A、Cpd F、及びCpd G)のうち、Cpd A及びCpd GのみがABCA1の発現を増加させたが、これは10μMにおけるものではなく、また、LXRアゴニストほど著しいものでもなかった(図4a)。
【0141】
観察されたABCA1発現の増加が、より機能的なタンパク質の産生と関連しているか否かに対処するため、1μMのCpd C、5μMのCpd A、及び10μMのCpd Gで処理した糸球体上皮細胞の細胞分画を実施した。使用した薬剤濃度に伴い増加したABCA1の発現をまず確認し(図4b)、入手した画分のそれぞれにおけるABCA1の局在化をウェスタンブロットにより確認した。入手した画分を、原形質膜及びサイトゾル画分に位置することが知られているタンパク質(それぞれNa/KATPase及びMEK)に対してもブロットし、細胞分画の成功を確認した(図4c~e)。用いた3つの化合物の用量は、原形質膜におけるABCA1の局在化を促進し(図4c)、予想通り、非膜性サイトゾル画分においてABCA1は発見されなかった。ABCA1誘導因子であるCpd A及びCpd Gで処理した細胞のミクロソーム区画では、さほどABCA1が発見されず(図4d)、このことは、これらの化合物がLXRアゴニストによりも、原形質膜においてこのタンパク質の局在化をより効果的に促進することを示唆している。更に、ApoA1をコレステロール担体として用いるコレステロール流出アッセイを実施した。ABCA1が、細胞から初期のHDL粒子へのコレステロールの移動に関して、ApoA1と特異的に相互作用するため、このアッセイは、コレステロール流出に関するABCA1の機能性を測定する。ApoA1が媒介する外向き流束、流出の有意な増加を、1μM Cpd C(LXRアゴニスト)、5μM Cpd A及び10μM Cpd Gで達成することができた(図4d~e)。
【0142】
これらのインビトロ実験に基づき、ABCA1誘導因子であるCpd A及びCpd Gを選んで、参照としてのLXRアゴニストであるCpd Cと共に、腎損傷の動物モデルにおいて試験した。
【0143】
ABCA1誘導因子は実験FSGSを保護する
腎損傷のADRモデルは、薬剤が誘発したタンパク尿腎疾患のモデルであり、巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)の、最も幅広く用いられた実験モデルを保持する。用量範囲を見いだす実験を、インビトロ実験で選択した化合物を用いて実施した。
【0144】
ADR注射は、深刻な一過性タンパク尿と体重減少を誘発した。アルブミン尿及び体重を毎週確認した。LXRアゴニスト(Cpd C)で処理した群では、有意差は観察されなかった(図5a)。しかし、30mg/KgのCpd A及び100mg/KgのCpd Gを受けた群ではタンパク尿が減少し(図5b及びe)、30mg/KgのCpd Gを受けた群では、より小さい程度で減少した(図5d)。同様に、ADRを注射した動物は、10~20%の体重減少を経験したが、これは、30mg/KgのCpd A及び100mg/KgのCpd Gで処理した動物では予防され(図5g及びj)、LXRアゴニストで処理した動物では予防されなかった(図5f)。
【0145】
第2の独立したインビボ実験において、多数のマウスを利用し、以前の実験で有益であることが分かったCpd A及びGの用量、即ち、30mg/KgのCpd A及び100mg/KgのCpd Gを選択した。以前の実験と同様に、両方のABCA1誘導因子が、アルブミン尿及び体重減少を低下させた(図6b)。
【0146】
化合物Gが、最も有益な効果を有するものであることが判明し、腎疾患のADRモデルは、腎機能不全を示さないため、この化合物で処理した動物において、更なる定量的組織学的研究を実施した。腎皮質の盲検病理学的研究により、100mg/Kg/日のCpd Gを受けた動物における、全体及び部分的な糸球体性硬化症、糸球体上皮細胞の肥大及び過形成、管状小嚢腫及び隙間炎症の低下が明らかとなった(図7)。これらのデータを合わせると、化合物Gが、アドリアマイシンにより引き起こされるFSGSの特徴を減少させるのに非常に効果的であり、コンパレータとして評価したLXRアゴニストよりも効果的であることが明らかとなった。
【0147】
コレステロール代謝に影響を及ぼすことが予想された化合物を投与していたため、実験動物の血液中での、コレステロールとトリグリセリドの濃度を測定した。両方の臨床パラメータに対して、有意差は発見されなかった(表1及び2)。
【表4】

【表5】
【0148】
腎組織での脂質沈着を、腎損傷の設定において記録した。ADRを注射した動物において脂質の蓄積があるか否か、及び、Cpd Gがこの効果を低下させることができるか否かを測定するために、Oil Red O(ORO)染色を実施した。ADRを注射したマウスの腎臓で、脂肪滴の有意な沈着が発見され、これは、Cpd Gで処理した動物において有意に減少した(図8)。実際、ビヒクルを受けた、ADRを注射したマウスは、腎皮質での有意な脂質沈着を示し、対照的に、Cpd Gは、ADRに応答して糸球体性脂質の蓄積を完全に予防した。このことは、年齢が一致する通常の対照マウスと比較して、腎皮質中に検出可能な脂質の蓄積がないことを示している。
【0149】
腎組織に蓄積した脂質種を測定するために、腎皮質の脂質を抽出し、トリグリセリド、総コレステロール、及びコレステロールエステルを分析した。ADR、又はプレーンな食塩水を注射した動物の腎臓の間で、トリグリセリドと総コレステロールの含量に差を発見することはできなかった。しかし、ADRを注射したマウスにおいて、エステル化コレステロールの含量が非常に有意に増加していることを発見し、これは、Cpd G処理により有意に低下した(図9a~c)。アルブミン尿の重症度と、腎組織で検出されたコレステロールエステル含量には強力な相関関係があった(図9d)が、分析した他の脂質種とは相関関係がなかった(図9e及びf)。ADRを注射したマウスをCpd Gで処理することにより、コレステロールエステルの蓄積が予防され、いかなる理論によっても束縛されるものではないが、この化合物は、ABCA1の上方制御を介して、糸球体性コレステロールの除去を改善することができると考えられる。
【0150】
次に、血清学により、化合物C、A、及びGの毒性を調査した。より具体的には、ヘマトクリット値、ヘモグロビン白色細胞の血球数、並びに、処理した全ての動物の肝臓アミノ基転移酵素ALT及びASTを測定し、肝臓毒性及び血液悪液質が化合物と関連しているか否かを測定した。このような毒性の明らかな兆候は、実験マウスでは発見されなかった(表3)。
【表6】
【0151】
最適用量のCpd Gで処理した動物は、実験を通してADRを受けた動物よりも、良好な物理的外見を有した。これは特に、処置の3週目及び4週目で顕著であった(図10)。
【0152】
進行性腎疾患(アルポート症候群)のマウスモデルにおける、腎破壊からのCpd G保護
未処理のCoL4a3 KOマウスは、深刻なアルブミン尿を進行させ、4週齢と8週齢の間で、高いBUN及び血清クレアチニン濃度を進行させた。これらのマウスは8週齢までにESRDに達し、その時点を超えて生残しない。
【0153】
アルポート症候群のこのモデルにおける、Cpd Gの腎臓保護効果を研究するために、4週齢の時点で開始する、4週間の100mg/KgのCpd G、又はビヒクルでのCoL4a3 KOマウス処理を行った。100mg/KgのCpd Gで処理した動物は、ESRDへの進行を遅延させることを示し、ビヒクルのみを受けた動物と比較して、有意に少ないアルブミン尿、BUN、及び血清クレアチニンを有した(図11を参照のこと)。Cpd Gで処理した動物もまた、ビヒクルを受けた動物よりも体重減少が少なかった。
【0154】
腎臓断片を組織学的に分析することにより、ビヒクルで処理したCol4a3 KOよりも、Cpd Gで処理したCol4a3 KOマウスにおける、有意に低いメサンギウム拡大が明らかとなった。個別の研究を実施し、腎破壊が確立されたマウスをCpd Gで処理することが、生残の改善をもたらすか否かを調査した。実際、Cpd Gでの処理が、比較的進行しているCKDを有する6週齢のマウスで開始したときでも、Cpd Gで処理したCol4a3 KOマウスの腎機能の改善は、死亡率の低下と関連しており、約15%の寿命延長をもたらした。
【0155】
最終的に、8週齢のCol4a3 KOマウスの腎皮質断片は、著しい脂質の蓄積を示し(Oil-Red O染色の増加)、これは、Cpd Gを受けた動物において減少した(図13を参照のこと)。ADRモデルにおける以前の結果に一致して、WT同腹子よりも有意に多かった、Col4a3 KOマウスの腎臓におけるコレステロールエステルは、Cpd Gでの処理により有意に減少した。
【0156】
Cpd Aは、糖尿病性腎症のマウスモデルを部分的に保護する
ABCA1の増加は、糸球体上皮細胞の損傷及びDKDを回復する
ABCA1を、肥満糖尿病db/dbマウスモデルにおけるDKD用の処置標的として確認することを目標とした。ABCA1の薬理学的誘導因子で処理したdb/dbマウスは、db/dbビヒクル処理したマウスと比較して、処理の2週間後(16週間)にアルブミン尿の減少を経験し、及び更に、処理の4週間後(18週間)(図12A)にも経験した。血中尿素窒素(BUN)は有意に改善されたことが判明し(図12B)、これは、db/dbマウスと比較して、ABCA1誘導因子(化合物A)処理群における、コレステロールエステルの有意な減少(図12C~D)と相関していた。腎皮質の断片を、db/dbマウス経験におけるABCA1誘導因子の処置が、WT1溶性細胞を定量化することにより測定される糸球体上皮細胞の数(図12E~F)、PAS染色断片を使用して測定したメサンギウム拡大(図12G~H)、及び、TEM画像を使用して測定した糸球体上皮細胞足突起の消滅(図12I~J)を改善したことを示した、様々な組織学的評価に使用した。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図4F
図4G
図4H
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図5F
図5G
図5H
図5I
【図 】
図5J
【図 】
図6A
図6B
図7A
図7B
図7C
図7D
図7E
図7F
図8A
図8B
図8C
図9A
図9B
図9C
図9D
図9E
図9F
図10
図11A
図11B
図11C
図11D
図11E
図11F
図11G
図12A
図12B
図12C
図12D
図12E
図12F
図12G
図12H
図12I
図12J
図13A
図13B
図13C