(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-23
(45)【発行日】2024-05-02
(54)【発明の名称】植物栽培用培地
(51)【国際特許分類】
A01G 24/42 20180101AFI20240424BHJP
A01G 24/30 20180101ALI20240424BHJP
A01G 24/50 20180101ALI20240424BHJP
A01G 24/48 20180101ALI20240424BHJP
【FI】
A01G24/42
A01G24/30
A01G24/50
A01G24/48
(21)【出願番号】P 2021512157
(86)(22)【出願日】2020-03-31
(86)【国際出願番号】 JP2020014886
(87)【国際公開番号】W WO2020204044
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-11-07
(31)【優先権主張番号】P 2019072126
(32)【優先日】2019-04-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000131810
【氏名又は名称】株式会社ジェイエスピー
(74)【代理人】
【識別番号】100218062
【氏名又は名称】小野 悠樹
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【氏名又は名称】西澤 利夫
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 秀浩
(72)【発明者】
【氏名】大貫 丞二
【審査官】坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-41759(JP,A)
【文献】国際公開第2011/062224(WO,A1)
【文献】特開2011-241262(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0051398(US,A1)
【文献】特開2007-236228(JP,A)
【文献】特開2011-135844(JP,A)
【文献】特開2014-110784(JP,A)
【文献】特開2015-107082(JP,A)
【文献】特開平8-252031(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 24/00 - 24/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
袋体と、
前記袋体に圧縮された状態で充填され、脂肪族ポリエステル系樹脂からなる発泡体を破砕してなる破砕物とからなり、
前記袋体に充填される前の前記破砕物のかさ密度に対する、前記袋体に充填された後の前記破砕物のかさ密度の比は、1より大きく2以下であ
り、
前記袋体が伸縮性のニット袋である植物栽培用培地。
【請求項2】
前記袋体に充填される前の前記破砕物の比表面積が、0.5m
2/g~2.0m
2/gである請求項1に記載の植物栽培用培地。
【請求項3】
前記袋体に充填される前の前記破砕物のかさ密度が、10kg/m
3以上100kg/m
3未満である請求項1または2に記載の植物栽培用培地。
【請求項4】
前記袋体が、脂肪族ポリエステル系樹脂からなる、編
物である請求項1から3のいずれか一項に記載の植物栽培用培地。
【請求項5】
前記発泡体がポリ乳酸系樹脂からなる請求項1から4のいずれか一項に記載の植物栽培用培地。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物栽培用培地に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、無農薬の野菜等を気象の影響を受けることなく、安定して生産できる植物工場が普及し始めている。
【0003】
植物工場では、従来の露地栽培と比較して、高度な温度管理や養液管理等が要求されることから、土耕栽培に替えて、高設栽培が採用されることも少なくない。高設栽培では、植物工場施設内の床面ないし地表面に架台を設置し、該架台上に載置した栽培用トレイに土壌の代わりとして植物栽培用培地を充填し、この培地に植物を定植し栽培している。植物栽培用培地としては、土壌と比較して相対的に軽量な農業資材、例えば、ロックウールやピートモス、ココピート等が用いられている。
【0004】
これらの農業資材のうち、ピートモスおよびココピートについては、植物由来の有機材料であることから、植物栽培用培地として使用した後、一般廃棄物として処理可能であり、また、土壌中の微生物による分解も可能であった。
【0005】
しかしながら、ロックウールについては、天然鉱物由来の無機材料であるため、ゴミの分別、リサイクルが徹底されている国や地域、特に、日本の廃棄物処理事情では、産業廃棄物として埋め立て等による処理を行う以外に処理方法がないとされていた。
【0006】
また、これらの農業資材については、土壌と比較すると空気を保持可能な空隙、空孔が少なく、植物の根の周囲、いわゆる根域のほとんどを水あるいは養液と、固形状の植物栽培用培地が占め、空気を保持する余地が少なかった。そのため、いずれの農業資材も保水性は高いものの、植物は根からの空気の取り込みが不十分となり、生育不良や根腐れといった農業上好ましくない状況が引き起こされることがあり、通気性に改善の余地が残されていた。そこで、これまでに、軽量かつ保水性と通気性が良好な樹脂の粒状体を主材とした植物栽培用培地が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0007】
特許文献1に記載の植物栽培用培地は、主として、グリコールと脂肪族二塩基酸とから合成された脂肪族ポリエステル樹脂の粒状体からなり、粒状体として脂肪族ポリエステル樹脂の発泡体等の成形体を目開き10mmのふるいを通過することができる程度の粒径に粉砕したものが用いられている。この植物栽培用培地では、脂肪族ポリエステル樹脂が合成高分子でありながら、生物分解性を有していることから、該植物栽培用培地を土壌に混合することにより、土壌の仮比重を低下させ、排水性、保水性、通気性を改良できるとされている。また、植物栽培用培地が生物によって分解されることにより、土壌中に空孔が発生し、土壌の仮比重の低下を促進可能とされている。
【0008】
特許文献2に記載の植物栽培用培地は、樹脂発泡体の熱処理により表面にある気泡の少なくとも一部が消失した樹脂粒子から形成される透水層を有しており、該樹脂粒子のうち50%以上の粒子の粒子径が0.5~30mmの範囲内にあり、かつ該樹脂粒子の平均粒子径が5~30mmの範囲内にあるとともに、真比重が0.1~0.5の範囲内にある樹脂粒子から形成されている。この植物栽培用培地では、上記のとおりの樹脂粒子を用いて透水層を形成しているので、コンクリート等の上に植物栽培用培地を載置、充填し、植物を定植しても、透水層による排水性と保水性のバランスが良く、植物を良好に育成することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平7-26262号公報
【文献】特開平8-252031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に記載の植物栽培用培地では、脂肪族ポリエステル樹脂の発泡体である粒状体を、必ず土壌に混合して併用することを前提とするものであった。また、仮に、該粒状体を土壌と混合せずに単独で使用すると、真密度の値が極めて低いため、栽培トレイに充填して養液を供給する際に、粒状体が流動したり、浮き上がるなどして安定した植物の定植を行うことが難しいという問題があった。
【0011】
特許文献2には、樹脂粒子を透水性袋状体に充填することが開示されているものの、水の透水性を向上させるために樹脂粒子の充填量を袋状体の容量よりも少なくするものであった。また、植物栽培用培地の主材である樹脂発泡体として、ポリスチレン等のポリスチレン系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ABSまたはMBS等の各種共重合体のいずれかの樹脂を用いることが開示されているが、これらの樹脂発泡体は生分解性を具備していない。そのため、植物栽培後に土壌中の微生物により分解されずに残った樹脂系廃棄物と、この樹脂系廃棄物内に根を張り巡らせた植物残渣との混合物が生じ、ロックウールと同様に産業廃棄物として埋め立て等による処理を行う必要があった。したがって、特許文献2のように、生物分解性を具備していない樹脂発泡体を植物栽培用培地の主材として用いると、産業廃棄物を発生させるという環境問題としての側面のみならず、産業廃棄物としての処理手続の負担および処理コストの負担が増大するという経済的な問題も生じていた。
【0012】
そこで、本発明者らは、軽量でありながら安定した植物定植が可能であり、保水性と通気性とを両立し得るとともに、植物栽培後に土壌中の微生物により分解、堆肥化が可能(コンポスタブル)な環境負荷の小さい植物栽培用培地の開発について、鋭意試験、研究を進めてきた。その中で、生分解性を備える脂肪族ポリエステル系樹脂の発泡体を破砕して得た破砕物を、特定のかさ密度の範囲内になるよう圧縮、圧密化したものを植物栽培用培地として用いることにより、軽量でありながら安定した植物定植が可能であり、保水性と通気性とを両立し得る植物栽培用培地を開発するに至った。しかも、この植物栽培用培地について、使用後に、植物残渣とともに堆肥化できることを確認した。
【0013】
本発明は、以上のとおりの事情に鑑みてなされたものであり、保水性と通気性とを両立し得るとともに、植物栽培後に土壌中の微生物により分解、堆肥化が可能(コンポスタブル)な環境負荷の小さい植物栽培用培地を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するために、本発明の植物栽培用培地は、袋体と、前記袋体に圧縮された状態で充填され、脂肪族ポリエステル系樹脂からなる発泡体を破砕してなる破砕物とからなり、前記袋体に充填される前の前記破砕物のかさ密度に対する、前記袋体に充填された後の前記破砕物のかさ密度に対する比は、1より大きく2以下である
【0015】
本発明の植物栽培用培地では、袋体に充填される前の前記破砕物の比表面積が、0.5m2/g~2.0m2/gであることが好ましい。
【0016】
また、本発明の植物栽培用培地では、袋体に充填される前の前記破砕物のかさ密度が、10kg/m3以上100kg/m3未満であることが好ましい。
【0017】
さらにまた、本発明の植物栽培用培地では、前記袋体が、脂肪族ポリエステル系樹脂からなる、編物、織物または不織布であることが好ましい。
【0018】
また、本発明の植物栽培用培地では、前記発泡体がポリ乳酸系樹脂であることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の植物栽培用培地によれば、保水性と通気性とを両立し得るとともに、植物栽培後に土壌中の微生物により分解、堆肥化が可能(コンポスタブル)な環境負荷の小さい植物栽培用培地が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の植物栽培用培地の第1の実施形態を模式的に示した概略斜視図である。
【
図2】
図1のA-A’断面における概略断面図である。
【
図3】本発明の植物栽培用培地の第2の実施形態、すなわち、第1の実施形態の植物栽培用培地を短手方向に複数並べ、包装フィルムで包装した態様を模式的に示した一部破断概略斜視図である。
【
図4】
図3のB-B’断面における概略断面図である。
【
図5】実施例の植物栽培用培地と対照区のココピート培地で栽培したトマトの根域の形状を示した断面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の植物栽培用培地について、図面に沿って以下に詳細に説明する。
【0022】
図1は、本発明の植物栽培用培地の第1の実施形態を模式的に示した概略斜視図である。
図2は、
図1のA-A’断面における概略断面図である。
【0023】
本実施形態の植物栽培用培地1は、袋体3と、袋体3に圧縮された状態で充填され、脂肪族ポリエステル系樹脂からなる発泡体を破砕してなる破砕物2とからなる。袋体3に充填される前の破砕物(以下「充填前の破砕物」という)2のかさ密度に対する、袋体3に充填された後の破砕物(以下「充填後の破砕物」という)2のかさ密度に対する比は、1より大きく2以下である。すなわち、脂肪族ポリエステル系樹脂からなる発泡体を破砕してなる破砕物2が、充填前の破砕物2のかさ密度に対する充填後の前記破砕物2のかさ密度の比で1より大きく2以下の圧縮状態で袋体3に充填されていることを特徴とする。
【0024】
前述のとおり、脂肪族ポリエステル系樹脂は、合成高分子でありながら、生物分解性を有しており、土壌中の微生物等によって分解可能という特性を備えている。脂肪族ポリエステル系樹脂とは、その主鎖に脂肪族エステルを主成分として含むものである。脂肪族ポリエステル系樹脂の脂肪族エステルの含有割合は、少なくとも60モル%、好ましくは80~100モル%、より好ましくは90~100モル%の割合である。脂肪族ポリエステル系樹脂には、脂肪族多価カルボン酸成分と脂肪族多価アルコール成分とを含むポリエステル、又は脂肪族ヒドロキシカルボン酸成分を含むポリエステルであり、例えば、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート、ポリ乳酸などが挙げられる。中でも、発泡体を構成する脂肪族ポリエステル系樹脂がポリ乳酸系樹脂であることが好ましい。
【0025】
ポリ乳酸系樹脂は、通常の利用環境では物理的に安定しており、長期の利用が可能である。また、使用後のポリ乳酸系樹脂は、コンポスト内部や土壌中のように適度な水分と温度が維持された環境下では、分解(加水分解)しやすく、その後、微生物による分解(生分解)が進行し、最終的には、水と二酸化炭素に完全に分解される。そのため、ポリ乳酸系樹脂を植物栽培用培地1の主材として用いることにより、茎葉物などの植物残渣と共にコンポスト化(堆肥化)処理することができ、使用後の培地の廃棄コストを大幅に低減することが可能である。
【0026】
このように、植物栽培用培地1の主材として、ポリ乳酸系樹脂の発泡体の破砕物2を用いると、軽量でありながら安定した植物定植が可能であり、保水性と通気性とを両立し得る。さらにまた、植物栽培用培地1の主材として、ポリ乳酸系樹脂の発泡体の破砕物2を用いると、植物栽培後にコンポスト内部や土壌中において、加水分解や微生物による生分解が進行し、堆肥化が可能な環境負荷の小さい植物栽培用培地1を実現することができる。
【0027】
前記ポリ乳酸系樹脂は、乳酸に由来する成分単位を50モル%以上含むポリマーであることが好ましい。該ポリ乳酸系樹脂としては、例えば(a)乳酸の重合体、(b)乳酸と他の脂肪族ヒドロキシカルボン酸とのコポリマー、(c)乳酸と脂肪族多価アルコールと脂肪族多価カルボン酸とのコポリマー、(d)乳酸と脂肪族多価カルボン酸とのコポリマー、(e)乳酸と脂肪族多価アルコールとのコポリマー、(f)これら(a)~(e)の何れかの組合せによる混合物等が包含される。また、該ポリ乳酸には、ステレオコンプレックスポリ乳酸、ステレオブロックポリ乳酸と呼ばれるものも包含される。なお、乳酸の具体例としては、L-乳酸、D-乳酸、DL-乳酸又はそれらの環状2量体であるL-ラクチド、D-ラクチド、DL-ラクチド又はそれらの混合物が挙げられる。
【0028】
前記(b)における他の脂肪族ヒドロキシカルボン酸としては、例えば、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシヘプタン酸等が例示される。
【0029】
また、前記(c)及び(e)における脂肪族多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、デカメチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリット等が例示される。
【0030】
また、前記(c)及び(d)における脂肪族多価カルボン酸としては、例えば、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、無水コハク酸、無水アジピン酸、トリメシン酸、プロパントリカルボン酸、ピロメリット酸、無水ピロメリット酸等が例示される。
【0031】
発泡体としては、樹脂粒子から発泡粒子を得たものの他、発泡ストランド、発泡成形体及び押出発泡体等が挙げられる。その中でも、細かく均一な気泡径及び気泡膜厚が得られ易いことから発泡粒子からなることが好ましい。
【0032】
発泡体は、脂肪族ポリエステル系樹脂で樹脂粒子を製造し、該樹脂粒子を発泡させることにより、内部に多数の微細気泡を有する発泡体を得ることができる。ただ、該発泡体は、内部には微細気泡が形成されているものの、その表面については、一般的に平滑であり、内部の微細気泡に起因する性能を完全には発揮しきれていない。
【0033】
そこで、本発明では、前記発泡体を破砕してなる破砕物2を植物栽培用培地1の主材として用い、該発泡体内部の微細気泡を破砕物2表面に露出させることで、破砕物2の比表面積の増大を図っている。また、このような破砕物2が、圧縮状態で袋体3に充填されている。破砕物2の比表面積は、0.5m2/g~2.0m2/gであることが好ましい。
【0034】
発泡体の平均粒径は、3~15mmであることが好ましく、より好ましくは5~10mmである。発泡体の平均粒径が上記範囲であると、細かく均一な気泡径及び気泡膜厚が得られ易く、発泡体を破砕した後の破砕物の気泡径及び気泡膜厚も均一なものにし易いことから好ましい。
【0035】
発泡体の見掛け密度は、12~30kg/m3であることが好ましく、14~25kg/m3であることがより好ましく、15~20kg/m3であることがさらに好ましい。発泡体の見掛け密度が上記範囲であると、軽量性に優れる破砕物とし易いことから好ましい。
【0036】
発泡体の平均粒径及び発泡体の見掛け密度は、次のようにして求められる。まず、発泡体を、相対湿度50%、温度23℃、1atmの条件にて2日間放置する。次いで、温度23℃の水が入ったメスシリンダーを用意し、2日間放置した任意の量の発泡体を上記メスシリンダー内の水中に金網などの道具を使用して沈める。そして、金網などの道具の体積を考慮し、水位上昇分より読みとられる発泡体の容積[L]を測定する。この容積をメスシリンダーに入れた発泡体の個数にて割り算することにより、発泡体1個あたりの平均体積を算出する。そして、得られた平均体積と同じ体積を有する仮想真球の直径をもって発泡体の平均粒径[mm]とする。また、メスシリンダーに入れた発泡体の質量を容積で割り算することにより、発泡体の見掛け密度を求める。
【0037】
発泡体の平均気泡径は、30~500μmであることが好ましく、50~250μmであることがより好ましい。平均気泡径が上記範囲を満足すると、発泡体を破砕する際、独立気泡が破壊され、元の発泡体の気泡膜に由来する薄片状の部分を含む破砕物となり、かつ元の発泡体の気泡膜に由来する薄片状の部分を縁どるエッジおよびエッジが集まる節点が含まれる形状となり易く、比表面積を高くすることができる。その結果、保水性に優れる培地が得られやすくなることから好ましい。また、比表面積の上昇は、養液との接触面積を増やすこととなるため、培地としての一定の保水性能を担保する上で、有効な手段となる。
【0038】
発泡体の平均気泡径の測定は、発泡体を略二等分した切断面を顕微鏡で撮影した拡大写真に基づき、以下のとおり求めることができる。発泡体の切断面拡大写真において発泡体の一方の表面から他方の表面に亘って、気泡切断面の略中心を通る4本の線分を引く。ただし、該線分は、気泡切断面の略中心から切断粒子表面へ等間隔の8方向に伸びる放射状の直線を形成するように引くこととする。次いで前記4本の各線分と交わる気泡の数(n1~n4)をカウントし、各線分と交わる気泡の数の総和N=n1+n2+n3+n4(個)を求める。次いで4本の各線分の長さの総和L(μm)を求め、総和Lと総和Nから、以下式(1)により発泡粒子の平均気泡径(d´)を求める。
【0039】
d´=L/(0.616×N)・・・(1)
この作業を無作為に選んだ10個の発泡体について行い、各発泡体の平均気泡径を相加平均した値を発泡体の平均気泡径(d)とする。上記式(1)は、気泡が球状でほぼ均一な大きさの場合における気泡球の平均直径を求める式であり、「プラスチックフォームハンドブック」(発行所:日刊工業新聞社、昭和48年2月28日発行)、「4.2.2の項」の37頁目に記載されている。
【0040】
発泡体の平均気泡膜厚みは、3μm以下であることが好ましく、2μm以下であることがより好ましく、1.5μm以下であることがさらに好ましい。平均気泡膜厚みが上記範囲を満足すると、発泡体を破砕した破砕物が、薄片状であり、かさ密度の低い破砕物とすることができることから好ましい。一方、破砕により気泡膜が過度に破れて破砕物が細かくなりすぎることを抑制する観点からは、0.5μm以上であることが好ましく、0.7μm以上であることがより好ましい。
【0041】
発泡体の平均気泡膜厚みは、上記の方法で測定された平均気泡径dから以下の式(2)を使って算出される。
【0042】
VS=(ρf-ρg)/(ρs-ρg)=[(d+T)3-d3]/(d+T)3・・・(2)
但し、VSは基材樹脂の容積分率、ρfは発泡粒子の見掛け密度(g/cm3)、ρsは基材樹脂の密度(g/cm3)、ρgは気泡内のガス密度(g/cm3)、dは平均気泡径(μm)、Tは平均気泡膜厚み(μm)である。上記式は、平均気泡径と平均気泡膜厚みとの関係式であり、「プラスチックフォームハンドブック」(発行所:日刊工業新聞社、昭和48年2月28日発行)、222頁目の「1.3.2の項」に記載されている。式(2)により、本発明の発泡粒子の平均気泡径が定まれば、発泡粒子の平均気泡膜厚み(T)が定まる。
【0043】
脂肪族ポリエステル系樹脂の発泡体の製造方法については、従来公知の方法を適宜用いることができ、これらの樹脂の加水分解性や生分解性を低下させたり、植物の生育を阻害させたりしない限り、発泡体の製造に通常用いられている発泡剤等の各種添加剤を添加してもよい。発泡体の製造方法としては、例えば、溶融発泡成形法による二段発泡で発泡体を得る方法が好ましい。この方法では、まず、「一段発泡」として、脂肪族ポリエステル系樹脂、ポリ乳酸系樹脂の樹脂ビーズを密閉容器内の水系分散媒に分散させ、高温、高圧下にて発泡剤を含浸させ、密閉容器の内圧よりも低い圧力域に放出させて発泡させる。一段発泡により得られる脂肪族ポリエステル系樹脂、ポリ乳酸系樹脂の予備発泡粒子を「一段発泡粒子」と呼ぶ場合がある。
【0044】
さらに、「二段発泡」として、一段発泡粒子を、例えば耐圧容器内にて空気などの無機ガスにて加圧し、内圧を付与させたのち、蒸気加熱することでさらに発泡させる。二段発泡によって得られた脂肪族ポリエステル系樹脂の予備発泡粒子を「二段発泡粒子」と呼ぶ場合がある。
【0045】
このようにして得られた脂肪族ポリエステル系樹脂の発泡体の破砕については、従来公知の方法を適宜用いることができ、例えば、市販の破砕機による破砕処理等が例示される。また、得られた破砕物2については、篩下成分分取等の方法により、破砕物2の粒径を一定数値以下に揃えることができる。
【0046】
また、本発明では、充填前の破砕物2の比表面積が、0.5m2/g~2.0m2/gであることが好ましく、1.0m2/g~2.0m2/gであることがより好ましく、1.2m2/g~1.8m2/gであることがさらに好ましい。比表面積が上記の範囲内であれば、破砕物2の微細気泡により養液や空気が良好に保持されるため、植物が根腐れせず、植物の生育に適した保水性と通気性とを高水準で両立することができることから好ましい。なお、本明細書中において、「比表面積」の値は、不活性ガス(例えば、窒素ガス)の低温低湿物理吸着によるBET法で測定したものとする。
【0047】
充填前の破砕物は、目開き4mmの篩を通過する割合が90質量%以上であることが好ましく、目開き1.7mmの篩を通過する割合が90質量%以上であることがより好ましい。一方、破砕物が小さすぎると破砕物のかさ密度が大きくなるという観点から、充填前の破砕物は、目開き45μmの篩を通過しない割合が90質量%以上であることが好ましい。なお、上記目開きは、JIS Z8801-1:2006に基づき規定される篩網の公称目開きである。
【0048】
破砕数は、以下の式(3)に基づいて算出することができる。
【0049】
(破砕数)=(破砕前の発泡体の平均粒径)/(充填前の破砕物が90質量%以上通過した篩の目開き)・・・(3)
破砕数は、1.1~5であることが好ましく、1.5~4であることがより好ましい。破砕数が上記範囲内であれば、発泡体が適度に破砕されていることを意味し、植物栽培用培地の保水性と通気性とを両立し易くなることから好ましい。
【0050】
本発明の植物栽培用培地1は、破砕物2が袋体3に充填されている。破砕物2は、袋体3の内部で圧縮状態となり、これにより破砕物2の粒子間の距離が均一となり、毛管現象が起こりやすくなる。そのため、培地としての保水率が向上する。なお、本明細書中では、破砕物2の体積を圧縮状態とするための処理を圧密化処理と呼称する。
【0051】
破砕物2の圧縮状態について、具体的には、充填前の破砕物2のかさ密度に対する充填後の破砕物2のかさ密度の比が1より大きく2以下である圧縮状態とすることを特徴としている。なお、本明細書中において、「充填前の破砕物のかさ密度」の値は、JIS K6911-1995 熱硬化性プラスチック一般試験方法に基づいて求められる。充填前の破砕物2のかさ密度は、以下の式(4)に基づき算出するものとする。
【0052】
充填前の破砕物のかさ密度(kg/m3)=〔破砕物を入れたメスシリンダーの質量(kg)-メスシリンダーの質量(kg)〕/〔メスシリンダーの内容積(m3)〕・・・(4)
また、充填後の破砕物2のかさ密度は、以下の式(5)に基づき算出するものとする。
【0053】
充填後の破砕物のかさ密度(kg/m3)={充填後の破砕物の質量(kg)-袋体の質量(kg)}/{充填後の破砕物の内容積(m3)}・・・(5)
なお、充填後の破砕物の内容積は、破砕物が圧縮状態で充填された袋体の外径寸法から求めるものとする。
【0054】
充填前の破砕物2のかさ密度に対する充填後の破砕物2のかさ密度の比が上記範囲内であれば、圧密化処理後の破砕物2を植物栽培用培地1に用いた際に、破砕物2の粒子間の距離が均一化し、毛管現象が起こりやすくなり、その結果として、培地の保水率を向上させることができる。
【0055】
充填前の破砕物2のかさ密度に対する充填後の破砕物2のかさ密度の比の制御方法としては、例えば、袋体3への破砕物2の充填量を調節することが例示される。
【0056】
破砕した発泡体のかさ密度は一般的に元の発泡体のかさ密度より上昇する傾向にある。破砕処理は発泡体の独立気泡構造を破壊する行為に外ならず、気泡構造の破壊は、いわゆる気相と固相のコンポジットである発泡体の気相体積が割合として減少することになる。従って、破砕後の発泡体のかさ密度は破砕前の発泡体のかさ密度より上昇する傾向がある。本発明では、充填前の破砕物2のかさ密度が、10kg/m3以上100kg/m3未満であるであることが好ましく、10kg/m3以上40kg/m3以下であることがより好ましく、12kg/m3以上30kg/m3以下であることがさらに好ましい。かさ密度が上記の範囲内であれば、所期の保水性能を発揮することができ、安定した植物の定植が可能となる。
【0057】
発泡体の破砕物2を充填する袋体3としては、破砕物2と同様に生分解性を具備していれば特に制限されることはないが、例えば、脂肪族ポリエステル系樹脂からなる編物、織物または不織布であることが好ましい。また、袋体3が伸縮性を具備していることが好ましい。本明細書中では、「編物」の用語は、糸、繊維の結び目を作る要領で一目ずつ形を作って行くことにより得られた布製品を意味する。また、本明細書中では、「織物」の用語は、多数の経糸および1本ないし複数本の横糸を用いて、糸が交差する構造で一段ずつ布地を作ってゆくことに得られた布製品を意味する。
【0058】
袋体3を構成する糸については、脂肪族ポリエステル系樹脂製の3次元捲縮加工糸を用いることが好ましく、特に、ポリ乳酸系樹脂からなるマルチフィラメント繊維糸の一種である仮捲縮加工糸を用いることが好ましい。このような糸の伸縮特性としては、例えば、CR値が10%以上であることが好ましく、さらに20%以上であることが好ましく、40%以上であることがより好ましい。CR値は、Compliance Ratioの略であり、繊維に対する荷重と繊維の伸長との関係を評価するための指標の一つである。CR値は、繊維の種類によってそれぞれ異なる固有値をもっており、CR値が高いほど、繊維が伸縮性に富んでいることを意味する。
【0059】
編物の袋体3としては、例えば、伸縮性のニット袋等が例示される。また、織物の袋体3としては、例えば、スパンデックス織物等が例示される。さらにまた、不織布の袋体3としては、スパンデックス不織布等が例示される。これらの袋体3の製造方法については、特に制限されることはなく、例えば、全自動編機や全自動織機等による機械編み、機械織り、メルトブロー不織布等の方法が例示される。袋体3は、両端部が開放端部である筒状の編物、織物または不織布として得られた後、一方の端部を熱融着等により封鎖して袋体3としたものであってもよいし、あらかじめ一方の端部が閉鎖端部として形成された袋体3であってもよい。
【0060】
例えば、上記の伸縮性のニット袋に、破砕物2を充填する際には、充填後の破砕物2の圧密化度が1.05~1.4の範囲となることが好ましい。圧密化度を上記範囲とすることにより、保水性に優れる植物栽培用培地とすることができる。
【0061】
圧密化度は、以下の式(6)に基づき算出するものとする。
【0062】
(圧密化度)=(充填前の破砕物のかさ密度)/(充填後の破砕物のかさ密度)・・・(6)
このような圧密化度の制御、充填前の破砕物2のかさ密度に対する充填後の破砕物2のかさ密度の比の制御は、袋体3に破砕物2を充填する分量を調整することにより可能である。
【0063】
発泡体の破砕物2を充填した袋体3の開放端部については、例えば、脂肪族ポリエステル系樹脂製の3次元捲縮加工糸からなる紐等による緊結や縫着、電熱線を内蔵したシーラー等により樹脂成分を熱融着するなどして密封することが例示される。
【0064】
このようにして製造された植物栽培用培地1の外径寸法については、栽培トレイやその他の植物栽培容器に収容可能であれば、特に制限されることはない。もちろん、充填前の破砕物2のかさ密度に対する充填後の破砕物2のかさ密度の比が所定の数値範囲内であれば、植物栽培用培地1を収容する植物栽培容器の内部形状に応じ、任意の形状となるように袋体3に発泡体の破砕物2を収容することが可能である。大規模な植物工場で使用されている栽培トレイの形状を考慮すると、例えば、長さ1000mm程度の長尺の袋体3を用いることが好適に例示される。また、植物栽培用培地1の取り回し、可搬性等を考慮すると、その直径を50mm~150mm程度とすることが好ましい。
【0065】
本発明における植物栽培用培地1の圧密化処理については、前述の袋体3への発泡体の破砕物2の充填量を圧縮状態となるように調整した後、破砕物2を充填した袋体3の上に、土壌や砂、その他既存の植物栽培用培地、例えば、ロックウール、ピートモス、ココピート等の農業資材を積層し、さらに圧密化処理することもできる。
【0066】
このように、植物栽培用培地1と土壌、その他の農業資材との積層構造を形成して、圧密化処理する場合には、植物栽培用培地1が、常に、根域側、最下部となるよう配置することが好ましい。植物栽培用培地1が最下部となるよう配置することにより、植物の根が、主に、植物栽培用培地1内部へと伸長し、土壌、その他の農業資材の根域への影響を最小限度に抑制することができる。そして、植物栽培用培地1は、外装が袋体3であることから、植物栽培後には、袋体3ごと植物残渣と堆肥化が容易な植物栽培用培地1のみを、土壌およびその他の農業資材と簡便に分別することができる。
【0067】
本発明の圧密化処理以外の圧密化処理としては、例えば以下の方法がある。1つ目として、発泡体の破砕物2を袋体に充填せずにそのまま最下部となるよう層状に配置し、層状に配置した発泡体の破砕物2の上に土壌等を配置する方法がある。この場合、破砕物2の上に配置する土壌の質量によって、破砕物2が圧密化されることとなる。2つ目として、発泡体の破砕物2を圧縮状態とせずに袋体に充填し(すなわち、発泡体の破砕物2の充填量を袋体の容量よりも少なくする)、最下部となるように発泡体の破砕物2を充填した袋体を配置し、袋体の上に土壌を配置する方法がある。この場合も上記と同様に土壌の質量によって、袋体内の破砕物2が圧密化されることとなる。3つ目として、発泡体の破砕物2を圧縮状態にて型内成形し、発泡成形体とすることにより圧密化する方法がある。
【0068】
本実施形態の植物栽培用培地1の使用方法について、以下に詳細に説明する。
【0069】
植物栽培用培地1を使用する際には、あらかじめ水に浸漬し、発泡体の破砕物2表面の微細気泡に十分な水分を保持させることが望ましい。浸漬時間については、例えば、12時間~24時間程度とすることが好ましい。浸漬した培地を水中から引き上げ、排水すると、袋体3から余剰水分が排水され、植物の生育に好適な水分含量となる。
【0070】
植物栽培用培地1の水分含量は、常態保水率から求めることができる。十分に大きなバケツに水を張り、植物栽培用培地が完全に水に浸漬するよう沈めた後、24時間以上放置する。放置した後、十分な大きさのざるで引き上げ、引き上げから1時間後に植物栽培用培地1の質量を測定し、あらかじめ測定しておいた植物栽培用培地1の乾燥状態の質量(初期質量)との差から常態保水率を算出することができる。なお、植物栽培用培地1からの排水は、重力にまかせた自然排水とする。植物栽培用培地1の乾燥状態の質量は、温度23℃、湿度50%の雰囲気下で24時間以上保存した後に測定するものとする。
【0071】
常態保水率の算出式は、以下の式(7)に基づき算出するものとする。
【0072】
(常態保水率vol%)={((引き上げ開始から1時間後の植物栽培用培地1質量)-(植物栽培用培地1の乾燥状態の質量))/(水の密度)}/(外形寸法から算出した植物栽培用培地の体積)×100・・・(7)
このようにして、含水させた植物栽培用培地1は、高設栽培用の培地としての使用のほか、土耕、プランター栽培における土壌の一部または全部の代替培地として使用することが例示される。特に、本発明の植物栽培用培地1は軽量性に優れることから、高設栽培用の培地として好適に用いることができる。
【0073】
本発明の植物栽培用培地1の具体的な用途としては、例えば、トマト(ナス科)やイチゴ(バラ科)などの果菜類栽培用培地、レタス(キク科)などの葉物類栽培用培地が例示される。また、通常、栽培品種として用いられる植物種の栽培であれば、特に制限されることはない。例えば、トマトと同じくナス科に属するピーマン、ナス等、白菜等のアブラナ科、キュウリ、ニガウリ等のウリ科等が例示される。また、イネ科、セリ科、ネギ科、キク科、ヒルガオ科、アヤメ科等の植物についても栽培可能である。
【0074】
次に、本発明の植物栽培用培地の他の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施形態では、上記第1の実施形態との相違点について主に説明し、同様の構成については、同一の符号を付し、その説明を省略または簡略に説明する。
【0075】
図3は、本発明の植物栽培用培地の第2の実施形態を模式的に示した概略斜視図である。
図4は、
図3のB-B’断面における概略断面図である。
【0076】
本実施形態の植物栽培用培地1aでは、
図3、4に模式的に示したように、発泡体の破砕物2を袋体3に充填してなる第1の実施形態の植物栽培用培地1を、短手方向に複数本並べ、その外側を包装材としての樹脂フィルム(以下、包装フィルム4と称する)等で包装している。包装フィルム4については、ポリ乳酸系樹脂等の脂肪族ポリエステル系樹脂であることが好ましいが、必ずしも生分解性を具備していなくてもよく、ポリプロピレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂等を原料としていてもよい。
【0077】
このような、植物栽培用培地1aについては、上面側の包装フィルム4に植物定植用の穴を設けたり、側面下部の包装フィルム4に排水用の切込みを設けることができる。包装フィルム4に穴や切込みを設けることにより、袋体3内部に充填された発泡体の破砕物2が漏出することなく、植物の安定した定植を促したり、培地内部の余剰の水分を排出することができる。
【0078】
植物栽培用培地1aを使用する際には、あらかじめ包装フィルム4に設けた定植穴を注水口とし、この注水口を通じて注水することができる。注水後、12時間~24時間程度放置した後、包装フィルム4の側面下部に排水用切込みを設け、該切込みから余剰水分を排水することが可能である。
【0079】
このようにして含水させ、水分含量を調整した植物栽培用培地1aは、第1の実施形態と同様に、高設栽培用の培地としての使用のほか、土耕、プランター栽培における土壌の一部または全部の代替培地として使用することが例示される。
【0080】
そして、植物栽培後には、包装フィルム4として生分解性を備えた樹脂フィルムを用いている場合は、包装フィルム4ごと植物残渣、植物栽培用培地1aを堆肥化することができる。一方、包装フィルム4として生分解性を備えていない樹脂フィルムを用いた場合には、包装フィルム4を除去した後、植物残渣、植物栽培用培地1aを堆肥化する。
【0081】
以下に、実施例を示すが、本発明の植物栽培用培地は、これら実施例によって何ら制限されるものではない。
【実施例】
【0082】
1.植物栽培用培地の常態保水率の測定
<実施例1>
発泡体としてかさ発泡倍率100倍のポリ乳酸系樹脂の発泡粒子(見掛け密度20kg/m3、平均粒径5.3mm、平均気泡径188μm、気泡膜厚み1.0μm)5kgを、1.5Φスクリーンをセットしたメッシュミル(HA8-2542-25、(株)ホーライ製)の投入口から50kg/hrの投入速度で投入し、破砕した。
【0083】
ポリ乳酸系樹脂発泡粒子のかさ発泡倍率は、1Lのメスシリンダーを用意し、発泡粒子をメスシリンダーの1Lの標線まで充填し、充填された・BR>ュ泡粒子の質量(g)を測定し、単位換算してかさ密度(kg/m3)を求めた後、ポリ乳酸の樹脂密度1.25(g/cm3)を上記かさ密度で割った値をかさ発泡倍率とした。
【0084】
ポリ乳酸系樹脂発泡粒子の見掛け密度は、次のようにして求めた。まず、発泡粒子を、相対湿度50%、温度23℃、1atmの条件にて2日間放置した。次いで、温度23℃の水が入ったメスシリンダーを用意し、2日間放置した発泡粒子をメスシリンダー内の水中に金網を使用して沈めた。そして、金網の体積を考慮し、水位上昇分より読みとられる発泡体の容積[L]を測定した。メスシリンダーに入れた発泡粒子の質量を容積で割り算し、単位換算することにより発泡粒子の見掛け密度を求めた。
【0085】
ポリ乳酸系樹脂発泡粒子の平均気泡径は、発泡体を略二等分した切断面を顕微鏡で撮影した拡大写真に基づき、以下のとおり求めた。発泡体の切断面拡大写真において発泡体の一方の表面から他方の表面に亘って、気泡切断面の略中心を通る4本の線分を引く。ただし、該線分は、気泡切断面の略中心から切断粒子表面へ等間隔の8方向に伸びる放射状の直線を形成するように引いた。次いで前記4本の各線分と交わる気泡の数(n1~n4)をカウントし、各線分と交わる気泡の数の総和N=n1+n2+n3+n4(個)を求めた。次いで4本の各線分の長さの総和L(μm)を求め、総和Lと総和Nから、式(1)により発泡粒子の平均気泡径(d´)を求める。この作業を無作為に選んだ10個の発泡体について行い、各発泡粒子の平均気泡径を相加平均した値をポリ乳酸系樹脂発泡粒子の平均気泡径(d)とした。
【0086】
ポリ乳酸系樹脂発泡粒子の気泡膜厚みは、式(2)において(ρfおよびρs)>>ρgであることから、ρgを0(g/cm3)とすると、Vs=ρf/ρsとなる。よって、平均気泡膜厚みT(μm)は、以下の式(8)に基づき算出した。
【0087】
T=d〔(X/(X-1))1/3-1〕・・・(8)
但し、ρsは、基材樹脂の密度であり、ポリ乳酸の樹脂密度が1.25(g/cm3)であることから、1.25とした。ρfは、発泡粒子の見掛け密度であることから、0.020(g/cm3)とした。
【0088】
得られた破砕物は、目開き1.4mmの篩を100%通過するものであった。
【0089】
また、得られた発泡体の破砕物をKrガスによるBET吸着試験機(マイクロメリティクス社製、商品名:Smart VacPrep)を用い、多点法でその比表面積を測定したところ比表面積の値は1.28m2/gであった。
【0090】
充填前の破砕物が90質量%以上通過した篩の目開きは、以下のようにして求めた。メッシュミルのスクリーンよりも小さく、最も近い公称目開きを有するふるい網から破砕物をふるい分けした(5分間の振とう)。破砕物が90質量%以上通過した場合、次に小さな公称目開きを有するふるい網について同様にふるい分けを行った。上記操作によって、破砕物が90質量%以上通過しなくなるまでふるい分けを行い、破砕物が90質量%以上通過した最も小さな公称目開きを表1に記載した。
このようにして得られたポリ乳酸系樹脂の発泡体の破砕物から体積4.19L、質量152.5gを分取し、一方の端部が熱融着された閉鎖端部であり、他方の端部が開放端部とされたポリ乳酸系樹脂からなる全長1000mmの伸縮性ニット袋に充填し、開放端部を熱融着して植物栽培用培地を得た。この培地の外形寸法は、直径70mmの略円柱形状であり、長さは990mmであった。また、培地の外形寸法より算出した充填後の破砕物の体積は、3.81Lであった。充填前の破砕物のかさ密度は、体積が4.19L、質量が152.2gであったことから、上記質量を体積で割ることにより36.3kg/m3と算出された。充填後の破砕物のかさ密度は、体積が3.81L、質量が充填前の破砕物と同じであるため152.2gであったことから、39.9kg/m3と算出された。
【0091】
十分に大きなバケツに水を張り、植物栽培用培地が完全に水に浸漬するよう沈めた後、24時間放置した。放置した後、十分な大きさのざるで引き上げ、引き上げから1時間後に植物栽培用培地1の質量を測定し、あらかじめ測定しておいた植物栽培用培地1の乾燥状態の質量(初期質量)との差から式(7)に基づき常態保水率を算出した。なお、植物栽培用培地1からの排水は、重力にまかせた自然排水とした。また、植物栽培用培地1の乾燥状態の質量は、温度23℃、湿度50%の雰囲気下で24時間以上保存した後に測定した。
<実施例2>
メッシュミルにセットしたスクリーンのメッシュ径をΦ3に変更したこと以外は、実施例1と同様にして植物栽培用培地を製造し、水に浸漬した。
<実施例3>
メッシュミルにセットしたスクリーンのメッシュ径をΦ1.7に変更したこと以外は、実施例1と同様にして植物栽培用培地を製造し、水に浸漬した。
<実施例4>
メッシュミルにセットしたスクリーンのメッシュ径をΦ4に変更したこと以外は、実施例1と同様にして植物栽培用培地を製造し、水に浸漬した。
<比較例1>
かさ発泡倍率100倍のポリ乳酸系樹脂の発泡体を、メッシュミルで破砕することなく袋体に充填したこと以外は、実施例1と同様にして植物栽培用培地を製造し、水に浸漬した。
<比較例2>
メッシュミルにセットしたスクリーンのメッシュ径をΦ3に変更し、圧密化度が1.00となるように破砕物を袋体に充填したこと以外は、実施例1と同様にして植物栽培用培地を製造し、水に浸漬した。
【0092】
実施例1-4および比較例1-2の植物栽培用培地について、各種特性値を測定した結果を表1に示す。
【0093】
【0094】
表1に示したように、充填前の破砕物が90質量%以上通過した篩の目開きが小さくなるほど、破砕数が増大するとともに、袋体への充填前の破砕物の比表面積が増大し、培地の常態保水率の値が大きくなることが確認された。
【0095】
2.植物栽培用培地を用いたトマトの栽培試験
次に、実施例3の植物栽培用培地3袋を長手方向に平行に並べ、ポリエチレン樹脂製の包装フィルムで包装したものを用いてトマトの栽培試験を行った。
【0096】
トマトの定植前日に、包装フィルムの上面に注水用の切り口を空け、培地全体が水に浸漬するように、包装フィルムの内部が満水になるまで水を充填し、24時間放置した。放置した後、包装フィルムの上面に設けた注水用の切り口を、育苗ポットの底面と同程度になるよう広げ、定植穴とし、包装フィルムの両側面下部に複数の排水用の切込みを設けた。これを大きなざるにのせ、重力にまかせて余剰の水分を自然排水した。
【0097】
排水後の培地の包装フィルムに設けられた定植穴に合わせて、育苗ポットの底部をくり抜いた、二次育苗のトマト(フルティカ<登録品種>)苗を培地上に配置した。定植に際し、株間は15cm、ベッド間は110cm、1ベッドあたり26株とした。定植後の養液管理については、循環式とし、ドリップチューブ(ネタフィム社製)でタイマー灌水した。灌液頻度は、30分に1回の少量多頻度で行った。また、排液率は20%に設定した。また、温室内の環境は、昼温(換気温度)/夜温(暖房温度)を28℃/15℃に設定した。
【0098】
このような条件でトマトを栽培し、結実を確認した後、1果房4果となるよう摘果し、収穫まで栽培を継続した。トマトの収穫後は、植物栽培用培地から包装フィルムを除去し、植物残渣、袋体、発泡体の破砕物を分別せずに、コンポストに投入した。
<結果>
実施例の植物栽培用培地にて栽培したトマトから50個を無作為に選択し、重量及び糖度をそれぞれ測定し、それらを算術平均して重量平均値及び糖度平均値を求めた。実施例の植物栽培用培地にて栽培したトマトは、重量平均値19.9g、糖度平均値5.9%であった。なお、糖度測定には糖度計(アタゴ社製、商品名「PAL-1」)を使用した。一方、従来の植物栽培用培地の一つであるココピート培地で栽培したトマトは、重量平均値19.3g、糖度平均値5.7%であった。上記から実施例の植物栽培用培地にて栽培したトマト果実は、従来の植物栽培用培地の一つであるココピート培地で栽培したトマト果実と比較して、ほぼ同等の品質のトマト果実が得られることが確認できた。
【0099】
また、実施例の植物栽培培地について、包装フィルムを除去した後に、深さ方向に培地を切断したところ、
図5に示したように、トマトの根は、水耕栽培時のように細根主体であり、培地の中央部分および培地の下面部分に集中するように伸長していることが確認できた。また、植物残渣、実施例の植物栽培培地の袋体、発泡体の破砕物を分別せずにコンポストに投入したところ、生分解が進行していることが確認された。
【符号の説明】
【0100】
1、1a 植物栽培用培地
2 破砕物
3 袋体
4 包装フィルム