IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東洋製罐グループホールディングス株式会社の特許一覧 ▶ 東罐マテリアル・テクノロジー株式会社の特許一覧

特許7478138金属銅微粒子含有樹脂組成物及びその製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-23
(45)【発行日】2024-05-02
(54)【発明の名称】金属銅微粒子含有樹脂組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/00 20060101AFI20240424BHJP
   C08K 9/04 20060101ALI20240424BHJP
   C08K 3/105 20180101ALI20240424BHJP
   C08K 3/16 20060101ALI20240424BHJP
   C08K 5/053 20060101ALI20240424BHJP
   C08K 3/24 20060101ALI20240424BHJP
   C08K 5/103 20060101ALI20240424BHJP
   C08K 5/09 20060101ALI20240424BHJP
【FI】
C08L67/00
C08K9/04
C08K3/105
C08K3/16
C08K5/053
C08K3/24
C08K5/103
C08K5/09
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021512197
(86)(22)【出願日】2020-04-02
(86)【国際出願番号】 JP2020015135
(87)【国際公開番号】W WO2020204119
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2023-03-13
(31)【優先権主張番号】P 2019071609
(32)【優先日】2019-04-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000229874
【氏名又は名称】TOMATEC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】小坂 泰啓
(72)【発明者】
【氏名】大橋 和彰
(72)【発明者】
【氏名】小金井 章子
(72)【発明者】
【氏名】生田目 大輔
(72)【発明者】
【氏名】濱野 亮介
(72)【発明者】
【氏名】石河 明
【審査官】久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-316009(JP,A)
【文献】特開2017-178942(JP,A)
【文献】特開2018-100234(JP,A)
【文献】特開2018-100255(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 67/00-67/08
C08K 9/00- 9/12
C08K 3/00- 3/40
C08K 5/00- 5/59
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオール中に脂肪酸銅を添加し、これを加熱混合することにより、脂肪酸及び/又は該脂肪酸とポリオールのエステル化合物で被覆された金属銅微粒子が分散する分散液を調製し、該分散液からポリオールを除去することにより脂肪酸及び/又はエステル化合物が被覆された金属銅微粒子を得た後、該金属銅微粒子を樹脂に添加し、混練することを特徴とする金属銅微粒子含有樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
ポリオール中に脂肪酸及び銅化合物を添加し、これを加熱混合することにより、脂肪酸及び/又は該脂肪酸とポリオールから成るエステル化合物で被覆された金属銅微粒子が分散する分散液を調製し、該分散液からポリオールを除去することにより脂肪酸及び/又はエステル化合物で被覆された金属銅微粒子を得た後、該金属銅微粒子を樹脂に添加し、混練することを特徴とする金属銅微粒子含有樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
前記銅化合物が、酢酸銅、塩化銅、臭化銅の何れかである請求項記載の金属銅微粒子含有樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
前記ポリオールが、ジエチレングリコール、エチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンの何れかである請求項1又は2記載の金属銅微粒子含有樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属銅微粒子含有樹脂組成物及びその製造方法に関するものであり、より詳細には、金属銅微粒子が均一に分散され、抗ウイルス性を効率よく発現可能な金属銅微粒子含有樹脂組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、抗菌性や抗ウイルス性を有する材料には、銀イオンや銅(II)イオンが有効成分として使用されており、これらの金属イオンをゼオライトやシリカゲルなどの物質に担持させ、或いは溶媒中に分散させて成る抗ウイルス材料が種々提案されている。
しかしながら、上記金属イオンは、インフルエンザウイルスのようなエンベロープ構造を有するウイルスに対する抗ウイルス性を発現することはできるが、ノロウイルスのようなエンベロープ構造を持たないウイルスに対しては抗ウイルス性を発現することはできなかった。
【0003】
エンベロープ構造の有無にかかわらず、抗ウイルス性を発現可能な金属化合物として一価銅化合物も知られており、例えば、下記特許文献1には、一価の銅化合物微粒子と、還元剤と、分散媒を含有し、pH6以下であることを特徴とする抗ウイルス組成物が記載されている。下記特許文献2には、BET比表面積が5~100m/gの亜酸化銅粒子と、アルデヒド基を有する糖類と、光触媒物質とを含有することを特徴とする抗菌抗ウイルス性組成物が記載されている。下記特許文献3には、銅粒子及び銅化合物粒子の少なくともいずれか一方を酸化物粒子に担持した、平均二次粒子径が80nm~600nmの銅担持酸化物と、平均二次粒子径が1μm~15μmの硫酸バリウムと撥水性の樹脂バインダーとを有する抗ウイルス性塗膜が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5194185号公報
【文献】特開2013-82654号公報
【文献】特開2015-205998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、一価銅化合物の微粒子は凝集しやすく、一価銅化合物を均一に分散させることは困難であり、分散液を抗ウイルス組成物として利用する場合や塗料と混合してコーティングされた抗ウイルス成型体として用いる場合において、一価銅化合物の微粒子が有する抗ウイルス性を効率よく発現することが困難であった。
また、上記特許文献で挙げられているような粒子径の大きい一価銅化合物を用いた場合には、粒子表面積が小さくなり、ウイルスとの接触機会が減少することで抗ウイルス性が低下する。また、粒子径の大きい一価銅化合物がコーティングされた抗ウイルス成型体では、ヘイズや光透過率が悪化して透明性が損なわれるという問題がある。
更に、一価銅化合物の微粒子は粉砕することによっても得られるが、被膜剤や安定化剤がないため凝集しやすく、亜酸化銅から酸化銅(II)への酸化が起こりやすいといった問題もある。
【0006】
本発明者等は、このような問題を解決するため、効率よく高い抗ウイルス性を発現可能な微粒子について鋭意研究を続けた結果、一価銅化合物よりも金属銅がより高い抗ウイルス性を発現できることを見出すと共に、金属銅微粒子の表面を脂肪酸及び該脂肪酸のエステル化合物で被覆することにより、低沸点溶媒中に高濃度で含有されている場合にも凝集することなく均一に分散することを見出した。
上記金属銅微粒子は、低沸点溶媒を分散媒とする分散液の状態で提供されることから、この分散液を樹脂に添加し、加熱混練して金属銅微粒子を均一に分散させることは、溶媒が揮発しやすく、また引火の危険性があり製造現場では取扱が困難である。
従って本発明の目的は、抗ウイルス性を効率よく発現可能な金属銅微粒子が均一に分散された金属銅微粒子含有樹脂組成物及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第二の製造方法によれば、ポリオール中に脂肪酸銅を添加し、これを加熱混合することにより、脂肪酸及び/又は該脂肪酸とポリオールのエステル化合物で被覆された金属銅微粒子が分散する分散液を調製し、該分散液からポリオールを除去することにより、脂肪酸及び/又はエステル化合物が被覆された金属銅微粒子を得た後、該金属銅微粒子を樹脂に添加し、混練することを特徴とする金属銅微粒子含有樹脂組成物の製造方法が提供される。
【0011】
本発明の第四の製造方法によれば、ポリオール中に脂肪酸及び銅化合物を添加し、これを加熱混合することにより、脂肪酸及び/又は該脂肪酸とポリオールから成るエステル化合物で被覆された金属銅微粒子が分散する分散液を調製し、該分散液からポリオールを除去することにより脂肪酸及び/又はエステル化合物で被覆された金属銅微粒子を得た後、該金属銅微粒子を樹脂に添加し、混練することを特徴とする金属銅微粒子含有樹脂組成物の製造方法。
【0012】
本発明の製造方法においては、
1.前記銅化合物が、酢酸銅、塩化銅、臭化銅の何れかであること、
2.前記ポリオールが、ジエチレングリコール、エチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンの何れかであること、
が好適である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の金属銅微粒子含有樹脂組成物においては、金属銅微粒子が脂肪酸及び/又は該脂肪酸とポリオールのエステル化合物で被覆されていることから、樹脂中で凝集することなく均一に分散されており、この樹脂組成物を用いて成形された成形品は優れた抗ウイルス性を発現できる。
また本発明の金属銅微粒子含有樹脂組成物は、抗ウイルス性のみならず、抗菌性、導電性、紫外線遮蔽性、防汚性等の特性をも有している。特に、エンベロープ構造の有無にかかわらず抗ウイルス性を発現可能であり、ノロウイルス等のエンベロープ構造を持たないウイルスに対しても抗ウイルス性を発現することができる。
本発明の金属銅微粒子含有樹脂組成物の製造方法においては、脂肪酸及び/又は該脂肪酸とポリオールのエステル化合物が被覆された金属銅微粒子が凝集することなく均一に分散された樹脂組成物を効率よく製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(金属銅微粒子含有樹脂組成物)
本発明の金属銅微粒子含有樹脂組成物において、金属銅微粒子は表面が脂肪酸及び/又はエステル化合物で被覆されていることにより、樹脂中で微粒子の凝集を抑制することが可能であり、優れた抗ウイルス性を長期に亘って発現できる。
抗ウイルス性を示す有効成分である金属銅はウイルスを吸着してウイルスを不活性化することが可能であり、エンベロープ構造の有無にかかわらず優れた抗ウイルス性を発現することができる。すなわち、金属銅微粒子が有する優れた抗ウイルス性は、金属銅から発生する活性酸素の酸化力によって、微小蛋白質から成るウイルスの蛋白質を変性させると共に、金属銅がウイルスの蛋白質のチオール基と反応することによって蛋白質を変性させることにより、ウイルスを不活性化できると考えられる。尚、脂肪酸及び/又はエステル化合物が被覆された金属銅微粒子が抗ウイルス性を発現されるメカニズムは明らかではないが、金属銅微粒子表面に存在する被覆に付着したウイルスが被覆と置換することにより、金属銅と接触すると考えられる。
【0015】
また、後述の実施例からわかるように、実施例1,2,3は抗ウイルス性を有するのに対して、エステル化合物を後添加した比較例2は抗ウイルス性を示さない。これは、金属銅微粒子が混練中に酸化されているからと考えられる。エステル成分を混練時に添加しても効果は無く、最初から被覆されていることが重要である。
本発明の金属銅微粒子含有樹脂組成物において、樹脂中の金属銅微粒子は、脂肪酸又はエステル化合物のそれぞれが金属銅微粒子の周囲に配位する一方、エステル化合物は脂肪酸と親和性を有することから、脂肪酸の周囲又は脂肪酸と混合した状態で脂肪酸及びエステル化合物の両方が金属銅微粒子に配位していると考えられる。
金属銅微粒子含有樹脂組成物においては、エステル化合物が十分に被覆された金属銅微粒子を十分に含有することにより、特に優れた抗ウイルス性が発現される。
【0016】
[金属銅微粒子]
金属銅微粒子表面を被覆する脂肪酸としては、ミリスチン酸,ステアリン酸,オレイン酸,パルミチン酸,n-デカン酸,パラトイル酸,コハク酸,マロン酸,酒石酸,リンゴ酸,グルタル酸,アジピン酸、酢酸等を例示することができ、これらは複数種の組み合わせであってもよいが、特に炭素数が10~22の高級脂肪酸、中でもステアリン酸であることが好適である。
金属銅微粒子表面を被覆するエステル化合物は、後述する本発明の金属銅微粒子粉末の製造方法における原料である脂肪酸及びポリオールに由来するエステル化合物であることが好適であるが、原料由来以外のエステル化合物を配合することもでき、これらは異なるエステル化合物であってもよいが、好適には、原料由来のエステル化合物と同種のものであることが望ましい。
金属銅微粒子表面を被覆する好適なエステル化合物としては、上記脂肪酸のエステル化合物と後述するポリオールとのエステル化合物、例えばこれに限定されないが、ジエチレングリコールジステアレート、エチレングリコールジステアレート、プロピレングリコールジステアレート、ポリエチレングリコールジステアレート、ポリプロピレングリコールジステアレート等を挙げることができる。
【0017】
本発明の金属銅微粒子含有樹脂組成物中の金属銅微粒子の平均一次粒径は、10~500nm、特に10~200nmの範囲にあることが好適である。金属銅微粒子の平均粒径が上記範囲にあることにより、優れた抗ウイルス性能を効率よく発現することが可能になる。すなわち、このように平均一次粒径の小さい金属銅微粒子は、金属銅微粒子の酸素との接触率が高いことから、効率よく活性酸素を発生することができ、優れた抗ウイルス性能を発現することが可能になる。尚、本明細書でいう平均一次粒径とは、金属銅微粒子と金属銅微粒子との間に隙間がないものを一つの粒子とし、その平均をとったものをいう。平均一次粒径は走査型顕微鏡で得た画像から、画像解析式粒度分布測定ソフトウェア(例えばMac-View等)を用いることにより算出することができる。
金属銅微粒子に対する前記脂肪酸及び/又はエステル化合物の被覆量は、0.1~20質量%、特に0.1~10質量%の範囲にあることが好適である。上記範囲よりも被覆量が少ない場合には、上記範囲にある場合に比して金属銅微粒子の酸化や凝集のおそれがあり、一方上記範囲よりも被覆量が多い場合には、上記範囲にある場合に比して抗ウイルス性が低下するおそれがある。
【0018】
[樹脂]
本発明の金属銅微粒子含有樹脂組成物において、金属銅微粒子を含有する樹脂としては、低-,中-,高-密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、線状超低密度ポリエチレン、アイソタクティックポリプロピレン、シンジオタクティックポリプロピレン、プロピレン-エチレン共重合体、ポリブテン-1、エチレン-ブテン-1共重合体、プロピレン-ブテン-1共重合体、エチレン-プロピレン-ブテン-1共重合体等のオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタエート等のポリエステル樹脂、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン6,10等のポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂等の従来公知の熱可塑性樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂等の熱硬化性樹脂や、或いは光硬化型アクリル系樹脂等の従来公知の熱硬化性樹脂を例示することができる。
【0019】
本発明の金属銅微粒子含有樹脂組成物において、金属銅微粒子は、樹脂(固形分)に対して0.01~20質量%、0.01~2質量%、特に0.01~0.2質量%の量で配合されていることが好適である。上記範囲よりも金属微粒子の量が少ない場合には、抗ウイルス性を十分に発現することができず、その一方上記範囲よりも金属微粒子の量が多い場合には、上記範囲にある場合に比して経済性が劣るだけでなく、かえって成形性や塗工性が損なわれるおそれがある。尚、本発明の金属銅微粒子含有樹脂組成物においては、高濃度のマスターバッチを製造し、このマスターバッチを樹脂に配合して金属銅微粒子含有量が上記範囲にある成形品を成形しても勿論よい。
本発明の金属銅微粒子含有樹脂組成物には、その用途に応じて、それ自体公知の各種配合剤、例えば、充填剤、可塑剤、レベリング剤、増粘剤、減粘剤、安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、分散剤、顔料等を公知の処方に従って配合することができる。
【0020】
(第一及び第二の製造方法)
本発明の金属銅微粒子樹脂組成物は以下の製造方法によって調製することができる。
(1)金属銅微粒子含有分散液の調製
脂肪酸銅をポリオールに添加し、これを加熱することにより、脂肪酸及び/又は該脂肪酸とポリオールのエステル化合物が表面に被覆された金属銅微粒子が分散するポリオール分散液を調製する。
加熱温度は、用いる脂肪酸銅の分解開始温度未満の温度であり、具体的には160~230℃の範囲であることが好ましい。加熱混合の時間は、60~360分であることが好適である。
【0021】
脂肪酸銅の配合量は、ポリオール当たり0.1~5質量%の範囲にあることが好ましい。上記範囲よりも脂肪酸銅の量が少ない場合には、上記範囲にある場合に比して十分な抗ウイルス性を分散液に付与することができないおそれがある。一方上記範囲よりも脂肪酸銅の量が多い場合には上記範囲にある場合に比して、経済性が劣ると共に塗工性や成形性が損なわれるおそれがある。
ポリオールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリンを挙げることができるが、本発明においては、高沸点及び還元性を有することが好ましいことから、特にグリセリンを好適に使用することができる。
【0022】
(2)金属銅微粒子分散液を用いた樹脂組成物の調製
次いで、脂肪酸及び/又は該脂肪酸とポリオールのエステル化合物で被覆された金属銅微粒子が分散するポリオール分散液を樹脂に添加し、混練することにより、金属微粒子含有樹脂組成物を調製する。
ポリオールを溶媒とする金属銅微粒子含有分散液を用いる場合には、上述した熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂のいずれを用いることができる。
ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド等の熱可塑性樹脂を用いる場合には、二軸押出機を用い、樹脂を溶融混練しながら金属銅微粒子含有分散液を添加して樹脂中に金属銅微粒子を分散させて、溶融状態にある金属銅微粒子含有樹脂組成物を調製する。
溶融混練された金属銅微粒子含有樹脂組成物を、ストランド状に押出しこれを切断してペレット状の成形体とすることもできるし、Tダイを用いてフィルム状の成形体とすることもできるし、或いは紡糸して不織布状の成形体とする等、従来公知の成形体の形状に成形することができる。
また熱硬化性樹脂を用いる場合には、熱硬化性樹脂及び硬化剤と共に、金属銅微粒子含有分散液を添加して、加熱硬化することにより、塗膜や成形体を成形することができる。
【0023】
(3)金属銅微粒子粉末を用いた樹脂組成物の調製
本発明の第二の製造方法においては、上述した金属銅微粒子含有分散液から分散媒を除去して回収した乾燥状態にある金属銅微粒子粉末を用い、これを樹脂に添加することにより金属銅微粒子含有樹脂組成物を調製することができる。
ポリオールを分散媒とする金属銅微粒子含有分散液からの金属銅微粒子の回収は、膜分離、遠心分離、蒸発、デカンテーション等、従来公知の分離方法により行うことができるが、好適には、下記の方法により行うことにより、特に抗ウイルス性に優れた脂肪酸及び/又はエステル化合物の被覆量が調整された金属銅微粒子を回収することができる。
【0024】
すなわち、上記金属銅微粒子含有ポリオール分散液と低沸点溶媒とを混合し、混合液を調製する。
上記混合液を、0~40℃の温度で30~120分間静置することにより、ポリオール及び低沸点溶媒を相分離させる。混合液が相分離されると、混合液中に存在していた過剰な脂肪酸銅、遊離脂肪酸又は脂肪酸のエステル化合物、或いは不純物が低沸点溶媒側に抽出され、脂肪酸及び/又は該脂肪酸とポリオールのエステル化合物で被覆された金属銅微粒子はポリオール中に沈殿した状態で残存する。
次いで、相分離された混合液から低沸点溶媒を除去することにより、ポリオール中に脂肪酸及び/又は該脂肪酸とポリオールのエステル化合物で被覆された金属銅微粒子が沈殿した分散液を得ることができる。尚、ポリオール中に金属銅微粒子が分散した分散液を得るためには、低沸点溶媒との混合に際して、分散剤を添加しないことが重要である。低沸点溶媒の除去は、単蒸留、減圧蒸留、精密蒸留、薄膜蒸留、抽出等の、従来公知の分離方法によって行うことができる。
【0025】
低沸点溶媒は、ポリオールに対して10~200質量%の量でポリオール分散液に添加することが好ましい。
低沸点溶媒としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、ヘキサン、ヘプタン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン等の炭化水素類、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類等の低沸点溶媒を例示することができるが、エステル系溶媒が好ましく、中でも、酢酸ブチル、酢酸エチル、メチルイソブチルケトンを好適に使用できる。低沸点溶媒は、ポリオールと相溶しないことが重要であり、ポリオールと低沸点溶媒の溶解度パラメータ(Sp値)の差が3以上となるように組み合わせることが好ましい。
好適には、ポリオールとしてジエチレングリコール(Sp値:12.6)を用いた場合には、低沸点溶媒として酢酸ブチル(Sp値:8.4)を用いることが望ましい。
【0026】
このようにして得られた金属銅微粒子粉末を用いて、金属銅微粒子含有樹脂組成物を調製する場合には、熱可塑性樹脂と金属微粒子粉末を二軸押出機に混合して投入することが好ましい。押出機に投入された熱可塑性樹脂と金属微粒子粉末は、樹脂を溶融混練しながら金属銅微粒子を樹脂中に分散させて、溶融状態にある金属銅微粒子含有樹脂組成物を調製することができる。調製された金属銅微粒子含有樹脂組成物は、金属銅微粒子含有分散液を用いた場合と同様にして成形体を成形することができる。尚、金属銅微粒子を熱可塑性樹脂と直接混合させる場合には、熱可塑性樹脂の融点が低いことが望ましいことから、ポリオレフィンを用いることが好適である。
熱硬化性樹脂を用いる場合には、上述した金属微粒子含有分散液を使用した場合と同様に、熱硬化性樹脂及び硬化剤に、金属銅微粒子粉末を添加混合し、加熱硬化させることができる。
塗膜、樹脂成形品等への加熱硬化条件は、用いる熱硬化性樹脂又は硬化剤の種類によって一概に規定できないが、用いる熱硬化性樹脂の硬化温度及び硬化時間を基準して設定することができる
【0027】
(第三及び第四の製造方法)
本発明の金属銅微粒子樹脂組成物は上述した第一及び第二の製造方法の他、以下の方法によっても調製することができる。
すなわち、上述した第一及び第二の製造方法において、原料として使用した脂肪酸銅に代えて、脂肪酸及び銅化合物の組み合わせを添加する以外は第一及び第二の製造方法と同様に行うことにより、脂肪酸及び/又はエステル化合物が被覆した金属銅微粒子が分散した分散液を調製することができ、得られた分散液は第一及び第二の製造方法と同様にして使用することができる。
銅化合物としては、酸化物、酢酸化合物、塩化物、臭化物、水酸化物、シアン化物等を例示することができるが、特に酢酸銅、塩化銅、臭化銅の何れかを好適に使用できる。
脂肪酸及び銅化合物の配合量は、ポリオール当たり、それぞれ0.1~5質量%の量で配合することが好ましい。
【0028】
(金属銅微粒子含有樹脂組成物の用途)
本発明の金属銅微粒子含有組成物のより具体的な用途としては、熱可塑性樹脂をベース樹脂とする樹脂組成物として、フィルム、シート、不織布、繊維、或いはペレット等の成型体を直接成形して成る成型体等を例示することができる。また熱硬化性樹脂をベースとする場合には、塗料組成物として、不織布や樹脂フィルム或いは繊維製品等を基材とし、この基材表面に塗工して塗膜を形成して成る成型体等を例示できる。
【実施例
【0029】
(金属銅微粒子分散液の作製)
ジエチレングリコールに対してステアリン酸銅2.5質量%を加え、撹拌しながら加熱した。190℃に達した時点から2時間加熱した後、ジエチレングリコール分散液を120℃以下まで冷却した。冷却後、酢酸ブチルを加えて約1分撹拌した。静置しジエチレングリコール層と酢酸ブチル層が分離後、酢酸ブチル層を除去し金属銅微粒子を含有したジエチレングリコール分散液1を得た。
また、作製した分散液1に分散剤であるDISPERBYK―2090(ビック・ケミー社製)1.0質量%とジエチレングリコールジステアレート1.0質量%を溶かした酢酸ブチルを加えて撹拌した。1時間ほど静置した後、酢酸ブチル層を採取し、酢酸ブチル分散液2を得た。
【0030】
(実施例1)
作製した分散液1を金属銅が0.5質量%になるよう添加しながら、ポリプロピレン樹脂(日本ポリプロ製 WMG03)を押出成形機設定温度230℃、Q(吐出量)/N(スクリュー回転数)=4/100=0.04の成形条件で2軸押出機((株)テクノベル製)を用いてマスターバッチを作製した。
次いで、ポリプロピレン樹脂(プライムポリプロ製 S119)中に金属銅の含有量が0.05質量%になるように前記マスターバッチを配合し、2次成形温度200℃で2軸押出機にて混練し、ノズル径600μmから押出し、エアーエジェクターにて延伸させてポリプロピレン繊維を作製し、エンボスロールで加熱圧着して不織布を得た。
【0031】
(金属銅微粒子粉末の作製)
作製した分散液1を孔径10μmのメンブレンフィルターで吸引濾過し、水で洗浄後、50℃で2時間乾燥して金属銅微粒子粉末1を得た。
作製した分散液2の溶媒を乾固させて金属銅微粒子粉末2を得た。
【0032】
(実施例2)
ポリプロピレン樹脂(日本ポリプロ製 WMG03)中に得られた金属銅微粒子粉末1を0.5質量%配合し、押出成形機設定温度230℃、Q(吐出量)/N(スクリュー回転数)=4/100=0.04の成形条件で2軸押出機((株)テクノベル製)を用いてマスターバッチを作製した。
次いで、ポリプロピレン樹脂(プライムポリプロ製 S119)中に金属銅の含有量が0.05質量%になるように前記マスターバッチを配合し、2次成形温度200℃で2軸押出機にて混練し、ノズル径600μmから押出し、エアーエジェクターにて延伸させてポリプロピレン繊維を作製し、エンボスロールで加熱圧着して不織布を得た。
【0033】
(実施例3)
ポリプロピレン樹脂(日本ポリプロ製 WMG03)中に得られた金属銅微粒子粉末2を0.5質量%配合し、押出成形機設定温度230℃、Q(吐出量)/N(スクリュー回転数)=4/100=0.04の成形条件で2軸押出機((株)テクノベル製)を用いてマスターバッチを作製した。
次いで、ポリプロピレン樹脂(プライムポリプロ製 S119)中に金属銅の含有量が0.05質量%になるように前記マスターバッチを配合し、2次成形温度200℃で2軸押出機にて混練し、ノズル径600μmから押出し、エアーエジェクターにて延伸させてポリプロピレン繊維を作製し、エンボスロールで加熱圧着して不織布を得た。
【0034】
(比較例1)
使用した金属銅微粒子粉末を粉末1から市販の金属銅微粒子粉末3(Sigma-Aldrich社製)に変更した以外は実施例2と同様に不織布を作製した。
【0035】
(比較例2)
使用した金属銅微粒子粉末を粉末1から市販の金属銅微粒子粉末3(Sigma-Aldrich社製)に変更して、ジエチレングリコールジステアレート0.5質量%を加えた以外は実施例2と同様に不織布を作製した。
【0036】
(不織布の抗ウイルス性評価方法)
1.宿主細胞にウイルスを感染させ、培養後、遠心分離により細胞残渣を除去したものをウイルス懸濁液とする。
2.上記1のウイルス懸濁液を滅菌蒸留水で10倍希釈したものを試験ウイルス懸濁液とする。
3.不織布の試験片0.4gに試験ウイルス懸濁液0.2mLを接種する。
4.25℃2時間放置後、SCDLP培地20mLを加えボルテックスミキサーで撹拌し、検体からウイルスを洗い出す。
5.プラーク測定法にてウイルス感染価を測定し、抗ウイルス活性値を算出する。
6.抗ウイルス活性値が3.0以上であれば、そのウイルスに対して十分な抗ウイルス性があると判断できる。
【0037】
作製した不織布の抗ウイルス製評価結果を表1に示す。
【0038】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の金属銅微粒子含有樹脂組成物は、紙製品、マスク、ウエットティッシュ、エアコンフィルター、空気清浄機用フィルター、衣服、作業服、カーテン、カーペット、自動車用部材、包装部材、鮮度保持剤、シーツ、タオル、バスマット、おむつカバー、ぬいぐるみ、スリッパ、靴インソール、ワイパーなどの掃除用品等の繊維製品の製造に用いることができ、これらの製品に抗ウイルス性を付与することが可能になる。
また、医療用具、医療用具の包装フィルム、廃棄容器、ゴミ袋、介護施設或いは病院や学校などの公共施設の壁材や床材、ワックスコート材、吐しゃ物の処理用具などに使用することができる。
更に、衛生製品以外にも、導電膜、フィルム、金属板、ガラス板、船舶用塗料、熱交換器フィン、或いは食器等のセラミックス製品、ゴム製品、蛇口等の金属製品、加湿器用添加剤、液体洗剤、イオン吸着剤、消臭剤など各種用途に適用可能である。