(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-23
(45)【発行日】2024-05-02
(54)【発明の名称】誘導部品および誘導部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 37/00 20060101AFI20240424BHJP
H01F 27/255 20060101ALI20240424BHJP
H01F 27/24 20060101ALI20240424BHJP
【FI】
H01F37/00 A
H01F27/255
H01F27/24 J
(21)【出願番号】P 2021559409
(86)(22)【出願日】2020-03-11
(86)【国際出願番号】 EP2020056424
(87)【国際公開番号】W WO2020207687
(87)【国際公開日】2020-10-15
【審査請求日】2021-12-07
(31)【優先権主張番号】102019204950.8
(32)【優先日】2019-04-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【氏名又は名称】鳥居 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100201743
【氏名又は名称】井上 和真
(72)【発明者】
【氏名】ケスナー,シュテファン
(72)【発明者】
【氏名】ヘンネック,シュテファン
(72)【発明者】
【氏名】プルム,トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ピーパー,ビトルド
【審査官】秋山 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-182203(JP,A)
【文献】特表2002-520844(JP,A)
【文献】特開2005-064422(JP,A)
【文献】特開平09-086984(JP,A)
【文献】特公昭46-014676(JP,B1)
【文献】特開平02-064446(JP,A)
【文献】特開2012-069598(JP,A)
【文献】特開2012-212856(JP,A)
【文献】特開昭61-145707(JP,A)
【文献】特開昭60-214510(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 37/00
H01F 27/255
H01F 27/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅線巻線(3)と、前記銅線巻線(3)を囲む被覆材(8)とを含む誘導部品であって、前記被覆材(8)が、マトリックス(5)と、前記マトリックス(5)内に分散している第1のフィラー(6)とを含み、
前記マトリックス(5)が、アルミナセメントおよびリン酸塩セメントから選択される少なくとも1つを含み、
前記第1のフィラー(6)が、少なくとも1つの軟磁性粉末を含み、
前記被覆材(8)の合計質量に対する前記マトリックス(5)の合計質量が5~25質量%である、誘導部品。
【請求項2】
少なくとも1つの第2のフィラー(7)をさらに含み、前記第2のフィラー(7)が特にAl
2O
3を含む、請求項1に記載の誘導部品。
【請求項3】
前記第1のフィラー(6)および前記第2のフィラー(7)が焼結されていない、請求項2に記載の誘導部品。
【請求項4】
前記被覆材(8)の合計質量に対する前記第1および第2のフィラー(6、7)の合計質量が75~95質量%である、請求項2または3に記載の誘導部品。
【請求項5】
前記銅線巻線(3)に囲まれた磁気コアがなく、前記第1および第2のフィラー(6、7)の合計質量に対する前記第1のフィラー(6)の合計質量が75~95質量%である、請求項2から4のいずれか一項に記載の誘導部品。
【請求項6】
磁気コア(4)、特にフェライトコアをさらに含み、前記銅線巻線(3)が、前記磁気コア(4)を少なくとも部分的に囲む、請求項
2から4のいずれか一項に記載の誘導部品。
【請求項7】
前記第1のフィラーおよび前記第2のフィラー(6、7)の合計質量に対する前記第1のフィラー(6)の合計質量が1~50質量%である、請求項6に記載の誘導部品。
【請求項8】
前記第1のフィラーおよび前記第2のフィラー(6、7)の合計質量に対する前記第2のフィラー(7)の合計質量が50~99質量%である、請求項6または7に記載の誘導部品。
【請求項9】
銅線巻線(3)と、前記銅線巻線(3)を囲む被覆材(8)とを含む誘導部品であって、前記被覆材(8)が、マトリックス(5)と、前記マトリックス(5)内に分散している第1のフィラー(6)と、少なくとも1つの第2のフィラー(7)とを含み、
前記マトリックス(5)が、アルミナセメントおよびリン酸塩セメントから選択される少なくとも1つを含み、
前記第1のフィラー(6)が、少なくとも1つの軟磁性粉末を含み、
前記第2のフィラー(7)が特にAl
2O
3を含み、
前記被覆材(8)の合計質量に対する前記第1および第2のフィラー(6、7)の合計質量が75~95質量%である、誘導部品。
【請求項10】
銅線巻線(3)と、前記銅線巻線(3)を囲む被覆材(8)とを含む誘導部品であって、前記被覆材(8)が、マトリックス(5)と、前記マトリックス(5)内に分散している第1のフィラー(6)と、少なくとも1つの第2のフィラー(7)とを含み、
前記マトリックス(5)が、アルミナセメントおよびリン酸塩セメントから選択される少なくとも1つを含み、
前記第1のフィラー(6)が、少なくとも1つの軟磁性粉末を含み、
前記第2のフィラー(7)が特にAl
2O
3を含み、
前記銅線巻線(3)に囲まれた磁気コアがなく、前記第1および第2のフィラー(6、7)の合計質量に対する前記第1のフィラー(6)の合計質量が75~95質量%である、誘導部品。
【請求項11】
銅線巻線(3)と、前記銅線巻線(3)を囲む被覆材(8)とを含む誘導部品であって、前記被覆材(8)が、マトリックス(5)と、前記マトリックス(5)内に分散している第1のフィラー(6)と、少なくとも1つの第2のフィラー(7)と、磁気コア(4)とを含み、
前記マトリックス(5)が、アルミナセメントおよびリン酸塩セメントから選択される少なくとも1つを含み、
前記第1のフィラー(6)が、少なくとも1つの軟磁性粉末を含み、
前記銅線巻線(3)が、前記磁気コア(4)を少なくとも部分的に囲み、
前記第1のフィラーおよび前記第2のフィラー(6、7)の合計質量に対する前記第1のフィラー(6)の合計質量が1~50質量%である、誘導部品。
【請求項12】
銅線巻線(3)と、前記銅線巻線(3)を囲む被覆材(8)とを含む誘導部品であって、前記被覆材(8)が、マトリックス(5)と、前記マトリックス(5)内に分散している第1のフィラー(6)と、少なくとも1つの第2のフィラー(7)と、磁気コア(4)とを含み、
前記マトリックス(5)が、アルミナセメントおよびリン酸塩セメントから選択される少なくとも1つを含み、
前記第1のフィラー(6)が、少なくとも1つの軟磁性粉末を含み、
前記銅線巻線(3)が、前記磁気コア(4)を少なくとも部分的に囲み、
前記第1のフィラーおよび前記第2のフィラー(6、7)の合計質量に対する前記第2のフィラー(7)の合計質量が50~99質量%である、誘導部品。
【請求項13】
前記第2のフィラー(7)がAl
2O
3を含む、請求項11または12に記載の誘導部品。
【請求項14】
前記第1のフィラー(6)および前記第2のフィラー(7)が焼結されていない、請求項9、10および13のうちのいずれか1項に記載の誘導部品。
【請求項15】
前記軟磁性粉末が、カルボニル鉄粉およびフェライト粉から選択される、請求項11から14のいずれか1項に記載の誘導部品。
【請求項16】
前記被覆材(8)が、少なくとも1つのポリマー、特に熱可塑性ポリマーを含む、請求項1から15のいずれか1項に記載の誘導部品。
【請求項17】
磁気コア(4)、特にフェライトコアをさらに含み、前記銅線巻線(3)が、前記磁気コア(4)を少なくとも部分的に囲む、請求項9に記載の誘導部品。
【請求項18】
前記部品(1、10)がポルトランドセメントを含まない、請求項1から17のいずれか一項に記載の誘導部品。
【請求項19】
変圧器として構成されている、請求項1から18のいずれか一項に記載の誘導部品。
【請求項20】
スラリーを生成しながら、マトリックス材料を、第1のフィラー(6)、水、および任意で少なくとも1つの流動化剤と混合するステップであって、前記マトリックス材料が、非硬化アルミナセメントおよび非硬化リン酸塩セメントから選択される少なくとも1つを含み、前記第1のフィラー(6)が、少なくとも1つの軟磁性粉末を含む、ステップと、
前記スラリーで銅線巻線(3)を囲むステップと、
50~150℃の範囲の温度で、水により前記マトリックス材料を少なくとも部分的に硬化させて被覆材(8)を形成するステップと
を含み、
前記被覆材(8)の合計質量に対する前記マトリックス材料(5)の合計質量が5~25質量%である、誘導部品(1、10)の製造方法。
【請求項21】
前記マトリックス材料の前記硬化後にアニールを行うステップをさらに含み、前記アニールが100~150℃の範囲の温度で行われる、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
磁気コア(4)、特にフェライトコアを、前記銅線巻線(3)で囲むステップを含む、請求項20または21に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高電力密度の誘導部品、および非常に良好な熱伝導性にて良好なインダクタンスを有する誘導部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の変圧器の製造では、磁気コアが、例えば銅線巻線などの不均等な数の巻線を有する2つの導電体によって既知の方法で囲まれる。それに続いて、導電体は、巻線によって囲まれている磁気コアと、ハウジングとの間を接続する被覆材で囲まれる。変圧器の動作中、磁気コア内または巻線内で生じる損失電力は、被覆材を介してハウジングに放出される。これにより、従来の変圧器の電力密度が低下する。
【発明の概要】
【0003】
これに対し、請求項1に記載の本発明にかかる誘導部品は、電力密度が高いことを特徴とする。これは、誘導部品の構造構成により、高透磁率(μR=2~4または10~500)を達成することができ、その結果、漏れインダクタンスも増加させることができることによって達成され、これにより、それに加えて誘導部品の効率、ひいては電力密度を大幅に損なうことなく、共振インダクタンスを統合することも可能である。さらに、熱伝導率が高く、電力密度が非常に良好であるため、誘導部品の設置スペースを削減できる。本発明によれば、誘導部品は、銅線巻線と、銅線巻線を囲む被覆材とを含む。本発明によれば、2つ以上の銅線巻線、またはただし1つの銅線巻線と導電性材料の少なくとも1つのさらなる巻線とを使用することもできる。その際巻線の数は、誘導部品の用途によって異なる。ここで、銅線巻線は、例えば自由形状の銅線巻線とすることができ、その形状および形態は略制限されない。特に適した形状はトロイダル形状の巻線である。
【0004】
被覆材は、マトリックスと、少なくとも1つの第1のフィラーとを含む。つまり、第1のフィラーのみが存在しても、またはただし第1のフィラーと1つもしくは複数のさらなるフィラーとの混合物が存在してもよい。ここで、第1のフィラーと、場合によってはさらなるフィラーがマトリックスに分散され、発生する複合材によって一定の機械的安定性が得られ、マトリックスが、銅線巻線と、例えば周囲の部品とを接続する。ここで、マトリックスは、アルミナセメント、リン酸塩セメント、SiO2、MgO、および反応性アルミナ、から選択される少なくとも1つを含む。これらは水で固められた化学化合物またはこれらの化合物の混合物であり、焼結されたセラミック材ではない。これにより、高透磁率での誘電率の上昇を防ぐことができると想定される。この時、インダクタンスは、マトリックスに含まれる第1のフィラーによってもたらされてもよく、第1のフィラーは、少なくとも1つの軟磁性粉末を含む。ここで、第1のフィラーは、軟磁性粉末のみ、または2つ以上の軟磁性粉末の混合物を含んでいてもよい。
【0005】
誘導部品は、非常に良好な磁気特性に加えて、高い熱伝導性も有し、誘電率の損失係数が低い。例えば、本発明によって使用される被覆材の熱伝導率は5~8W/mKであり、これは、特にアルミナセメント、リン酸塩セメント、SiO2、MgOまたは反応性アルミナの使用に起因する。また、この誘導部品は、従来の磁気コアなしに構成できるため、材料費および部品製造費を削減する。
【0006】
従属請求項は、本発明の好ましい改善形態を示す。
【0007】
誘導特性が非常に良好であるため、軟磁性粉末は、有利にはカルボニル鉄粉およびフェライト粉から選択される。つまり、カルボニル鉄粉およびフェライト粉は、それぞれ単独で、またはただし混合物の形態で使用することができる。
【0008】
さらなる有利な一改善形態によれば、被覆材は、少なくとも1つのポリマーを含む。例えば、1つまたは複数のポリマーを使用することにより、例えば収縮率または熱伝導率などの被覆材の熱特性に有利な影響を与えることができる。また、ポリマーを使用することにより、例えばハウジングなどの周囲の部品に対する被覆材の接着性を向上することができる。その際特に適したポリマーは、熱可塑性ポリマーである。
【0009】
好ましいポリマーは、アクリル酸エステル、エチレンおよびビニルエステルの共重合体、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルおよびスチレンの共重合体、エチレンおよび酢酸ビニルの共重合体、ならびにメチルシリコン樹脂である。
【0010】
被覆材の特性を向上させるために、被覆材は有利には少なくとも1つの第2のフィラーを含む。ここで、この第2のフィラーは、被覆材にさらなる機能性をもたらすことができる。ここで、第2のフィラーのみ、またはただし2つ以上の第2のフィラーの混合物を使用することができる。熱伝導性が非常に良好であるため、第2のフィラーはAl2O3を含むことが好ましい。
【0011】
良好な機械的安定性と同時に高い熱伝導性と良好な透磁率とを提供するために、被覆材の合計質量に対するマトリックスの合計質量は5~25質量%である。ここで、アルミナセメント、リン酸塩セメント、SiO2、MgOまたは反応性アルミナが、最大200μmの粒子径を有する非常に微細なミクロ構造を形成しており、これがマトリックスの高い安定性と非常に良好な熱伝導性とに寄与している。
【0012】
被覆材の機能を最適化し、特に誘導性と熱伝導性とを向上させるために、被覆材の合計質量に対する第1および第2のフィラーの合計質量は、特に75~95質量%である。
【0013】
誘導部品の誘導特性を最大化するという観点から、特に、銅線巻線に囲まれた磁気コアのない自由形状の銅線巻線を使用する場合、第1および第2のフィラーの合計質量に対する第1のフィラーの合計質量は、有利には75~95質量%である。つまり、第1のフィラーに加えて、わずかな割合の第2のフィラーのみがマトリックスに含まれ、ひいては被覆体にも含まれる。このため、軟磁性粉末の割合は非常に高い。これにより、非常に良好な透磁率が達成される。
【0014】
さらなる有利な一改善形態によれば、誘導部品は磁気コアを含む。したがって、銅線巻線は、磁気コアを少なくとも部分的に、または少なくとも区分で囲んでいる。磁気コアは、例えば、フェライトコアもしくはポリマーマトリックスを用いた磁性粉末コア、または焼結磁性粉末コアとすることもでき、特にフェライトコアとして構成されている。
【0015】
上記の磁気コアを用いた実施形態では、第1のフィラーおよび第2のフィラーの合計質量に対する軟磁性粉末の合計質量は1~50質量%であることが好ましい。これにより、軟磁性粉末の合計質量を減らしても、誘導部品に高透磁率を提供することができる。低誘電率係数を維持しながら、漏れインダクタンスの増加および共振インダクタンスの集積化が可能である。
【0016】
また、磁気コアを用いたこの実施形態では、被覆材の熱伝導性、ひいては誘導部品の熱伝導性の観点からも、第1のフィラーおよび第2のフィラーの合計質量に対する第2のフィラー、特にAl2O3の合計質量は50~99質量%であると有利である。
【0017】
誘導部品、特に被覆材は、有利にはポルトランドセメントを含まない。つまり、誘導部品の製造時にポルトランドセメントは添加または使用されない。したがって、ポルトランドセメントの合計質量は、被覆材、ひいては誘導部品の合計質量に対しても略0質量%である。本発明にかかるマトリックスに比べて、ポルトランドセメントには多くの不純物が含まれているという欠点があり、これらの不純物は、耐荷重部品としては許容できるが、電子機器用途、特に誘導部品としては特性が著しく損なわれる。さらに、ポルトランドセメントは、アルミナセメント、リン酸塩セメント、SiO2、MgO、または反応性アルミナに比べて熱伝導性が著しく低いが、これは、個々のマトリックス相の化学構造に起因すると考えられる。
【0018】
さらに有利には、第1のフィラーと第2のフィラーは焼結されていない。これにより、生産の省エネ化に関する利点だけでなく、高透磁率および高熱伝導性に関する利点ももたらされる。
【0019】
誘導部品は、例えば、コイルとして構成することができ、このために、特に銅線巻線を含む。誘導性と熱伝導性とが非常に良好であるため、本発明にかかる誘導部品は、特に変圧器として構成されており、この目的のために、銅線巻線と、銅線巻線として構成することもできる少なくとも1つのさらなる導電性巻線とを含む。
【0020】
同様に、本発明によれば、誘導部品の製造方法についても記載されている。この方法は、スラリーを生成しながら、マトリックス材料を、少なくとも1つの第1のフィラー、水、および任意で少なくとも1つの流動化剤と混合するステップを含む。ここで、スラリーとは、固化していない、硬化していない、多かれ少なかれ流動性のある、または少なくとも成形可能な塊であると理解される。
【0021】
本発明の意味での流動化剤は、例えば、変性ポリカルボン酸エーテルとすることができ、例えば、スラリーの合計質量に対して0.1~2質量%で使用することができる。
【0022】
この時、マトリックス材料は、非硬化アルミナセメント、非硬化リン酸塩セメント、非硬化SiO2、非硬化MgO、および非硬化反応性アルミナから選択される少なくとも1つを含む。また、第1のフィラーは、少なくとも1つの軟磁性粉末を含む。混合は、例えば適切な撹拌機で撹拌することによって行うことができる。次に、得られたスラリーを銅線巻線の周りに配置し、スラリーが銅線巻線の可能な限り全面を、ただし少なくとも銅線巻線の外周部を囲むようにする。続いて、50~150℃の範囲の温度で、水によるマトリックス材料の少なくとも部分的な硬化により、スラリーを固化する。この硬化するステップは、例えば、オーブン内で行うことができる。200℃を超える温度での焼結は行われない。硬化により、それまで使用されていた流動化剤がほとんど除去され、その後は略検出され得なくなる。
【0023】
本発明によって既に上述したような、本発明の意味における被覆材が得られる。マトリックス材の硬化度合いは、水の添加量で調整できる。適切な水の量は、簡単な実験で見つけることができる。
【0024】
本発明にかかる方法は、容易かつ安価に実施可能であり、高透磁率(μR=2~4または10~500)、高漏れインダクタンス、および統合された共振インダクタンスを有する誘導部品を、誘電率をほとんどまたは全く増加させることなく製造することができる。さらに、本発明によって製造される部品は、高い熱伝導率も特徴であるため、誘導部品は高効率であり、優れた電力密度を有する。
【0025】
本発明にかかる誘導部品について述べた利点、有利な効果、および改善形態は、本発明にかかる誘導部品の製造方法にも適用される。
【0026】
機械的特性を向上させるために、この方法は、マトリックス材料の硬化後にアニールを行うステップをさらに含んでもよい。この時、アニールは好ましくは100~150℃の範囲の温度で行われる。
【0027】
同様に、有利には、この方法は、特にフェライトコアとして構成されている磁気コアを、銅線巻線で囲むステップを含んでいてもよい。したがって、本実施形態では、銅線巻線は自由形状の銅線巻線としては存在せず、磁気コアを囲んでいる。このため、被覆材は磁気コアを囲む銅線巻線の周囲に配置され、特に銅線巻線の内部には配置されていない。
【0028】
以下に、本発明の実施例を、添付の図面を参照して詳述する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】第1の実施形態にかかる誘導部品の断面図である。
【
図2】第2の実施形態にかかる誘導部品の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図には、本発明の本質的な特徴のみを示す。その他の特徴はすべて、見易くするために省略している。また、同一の参照符号は同一の構成要素を示す。
【0031】
図1は、第1の実施形態にかかる誘導部品1の断面図を示す。誘導部品1は、銅線巻線3に四方を囲まれた磁気コア4が配置されたハウジング2を含む。ここで、銅線巻線3は、磁気コア4に直接巻回されている。
【0032】
磁気コア4は、例えば、フェライトコアとして構成されるか、またはポリマーマトリックスを用いた磁性粉末コアとして、もしくは焼結磁性粉末コアとしても構成され、フェライトコアとして構成されることが好ましい。磁気コア4と、磁気コア4を囲む銅線巻線3とがハウジング2内に配置されている。ハウジング2と銅線巻線3との間には、銅線巻線3とハウジング2との間の接続を提供する被覆材8が配置されている。
【0033】
被覆材8は、マトリックス5と、第1のフィラー6および第2のフィラー7とを含み、第1のフィラー6は、例えばカルボニル鉄粉またはフェライト粉などの軟磁性粉末であり、第2のフィラー7は、Al2O3である。第1のフィラー6と第2のフィラー7とは、マトリックス5に分散しており、非焼結型である。
【0034】
マトリックス5は、アルミナセメント、リン酸塩セメント、SiO2、MgO、および反応性アルミナから選択される少なくとも1つを含む。これらの化合物またはこれらの化合物の混合物は、50~150℃の水で少なくとも部分的に硬化した形態で存在し、焼結されていない。したがって、マトリックス5は、最大粒径が200μmの粒子の微結晶ネットワークを形成し、微結晶ネットワークではフィラー6、7が均一に分散している。被覆材8、ひいては誘導部品1にもポルトランドセメントは含まれていない。
【0035】
被覆材8の合計質量に対するマトリックス5の合計質量は、5~25質量%である。
【0036】
被覆材8の合計質量に対する第1および第2のフィラー6,7の合計質量は75~95質量%であり、第1のフィラー6および第2のフィラー7の合計質量に対する第1のフィラー6、すなわち軟磁性粉末の割合は、有利には1~50質量%である。これにより、第2のフィラー7の割合が高いため、良好な磁気特性において特に高い熱伝導率が得られる。
【0037】
誘導部品1は、被覆材8の使用により、高電力密度および高効率を特徴とする。つまり、誘導部品1は、誘電率を大幅に上げることなく、高透磁率(μR=2~4または10~500)で高い漏れインダクタンスと共振インダクタンスとを有する。さらに、被覆材8は熱伝導率が高いため、誘導部品1の電力密度をさらに高める。
【0038】
図2は、第2の実施形態にかかる誘導部品10の断面図を示す。誘導部品10は、
図1からの誘導部品1とは磁気コアを有していない点で異なる。したがって、銅線巻線3は、例えばキャリア上に予め作製された自由形状の銅線巻線の形態をしている。
【0039】
被覆材8の合計質量に対するマトリックス5の合計質量は、ここでも5~25質量%である。
【0040】
被覆材8の合計質量に対する第1のフィラー6および第2のフィラー7の合計質量は75~95質量%であり、第1のフィラー6および第2のフィラー7の合計質量に対する第1のフィラー6、すなわち軟磁性粉末の割合は、
図1からの誘導部品1からのマトリックスにおけるよりも高く、特に75~95質量%である。そのため、第2のフィラー7、すなわち特にAl
2O
3の割合は低くなる。軟磁性粉末の割合がより高いことは、誘導部品10の磁気特性の観点から有利である。
【0041】
また、誘導部品10も、被覆材8を使用しているため電力密度が高く、高効率であることを特徴とする。高透磁率(μR=2~4または10~500)、ならびに高い漏れインダクタンスおよび共振インダクタンスも得られる。さらに、被覆材8は良好な熱伝導性を有しているため、誘導部品10の電力密度をさらに高める。