(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-23
(45)【発行日】2024-05-02
(54)【発明の名称】フラックス組成物、およびはんだ組成物
(51)【国際特許分類】
B23K 35/363 20060101AFI20240424BHJP
B23K 35/26 20060101ALN20240424BHJP
C22C 13/00 20060101ALN20240424BHJP
【FI】
B23K35/363 C
B23K35/363 E
B23K35/26 310A
C22C13/00
(21)【出願番号】P 2022013102
(22)【出願日】2022-01-31
【審査請求日】2022-05-10
(31)【優先権主張番号】P 2021033230
(32)【優先日】2021-03-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390005223
【氏名又は名称】株式会社タムラ製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 澄怜
(72)【発明者】
【氏名】宗川 裕里加
(72)【発明者】
【氏名】市川 大悟
【審査官】川村 裕二
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-064761(JP,A)
【文献】特開2018-122323(JP,A)
【文献】特開2015-160234(JP,A)
【文献】特開2020-110832(JP,A)
【文献】特開2018-083211(JP,A)
【文献】国際公開第2020/083529(WO,A1)
【文献】特開2020-044562(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/00-35/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ロジン系樹脂、(B)アミン化合物、(C)チクソ剤
、(D)活性剤
および溶剤を含有するフラックス組成物であって、
前記(A)成分が、ロジン類およびロジン系変性樹脂からなる群から選択される少なくとも1つであり、
前記ロジン類が、ガムロジン、ウッドロジンおよびトール油ロジンからなる群から選択される少なくとも1つであり、
前記ロジン系変性樹脂が、不均化ロジン、重合ロジン、水素添加ロジンおよびこれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1つであり、
前記(B)成分が、(B1)トリアゾール化合物、(B2)1分子中に、1つの水素がアミノ基で置換されたベンゼン環、またはピリジン環と、1つのカルボキシル基とを有する環状アミン化合物、並びに、(B3)イミダゾリン化合物からなる群から選択される少なくとも1つであり、
前記(C)成分が、(C1)1分子中に、1つ以上の炭素数10以上である長鎖炭化水素基と、1つ以上のカルボニル基と、1つ以上の水酸基とを有し、示差走査熱量測定による融点が150℃以上である化合物を含有し、
前記(D)成分が、(D1)有機酸を含有し、
前記(D1)成分が、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、ブチリック酸、バレリック酸、カプロン酸、エナント酸、カプリン酸、ラウリル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ツベルクロステアリン酸、アラキジン酸、ベヘニン酸、リグノセリン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、エイコサン二酸、フマル酸、マレイン酸、プロパントリカルボン酸、ヘキサントリカルボン酸、シクロヘキサントリカルボン酸、ベンゼントリカルボン酸、ダイマー酸、トリマー酸、グリコール酸、ジグリコール酸、レブリン酸、乳酸、酒石酸、アクリル酸、安息香酸、サリチル酸、アニス酸、クエン酸、および3-ヒドロキシ-2ナフトエ酸からなる群から選択される少なくとも1つであり、
前記溶剤が、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、ヘキシレングリコール、ヘキシルジグリコール、1,5-ペンタンジオール、メチルカルビトール、ブチルカルビトール、2-エチルヘキシルジグリコール、オクタンジオール、フェニルグリコール、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、およびジブチルマレイン酸からなる群から選択される少なくとも1つであり、
前記(A)成分の配合量が、前記フラックス組成物100質量%に対して、30質量%以上70質量%以下であり、
前記(B)成分の配合量が、前記フラックス組成物100質量%に対して、0.05質量%以上10質量%以下であり、
前記(C)成分の配合量が、前記フラックス組成物100質量%に対して、1質量%以上20質量%以下であ
り、
前記(C1)成分の配合量が、前記(C)成分100質量%に対して、50質量%以上であり、
前記(D)成分の配合量が、前記フラックス組成物100質量%に対して、1質量%以上20質量%以下であり、
前記溶剤の配合量が、前記フラックス組成物100質量%に対して、10質量%以上60質量%以下である、
フラックス組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のフラックス組成物において、
前記(B)成分が、前記(B1)成分および前記(B2)成分からなる群から選択される少なくとも1つである、
フラックス組成物。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のフラックス組成物において、
前記(B1)成分が、1分子中に、1つのカルボキシル基を有する、
フラックス組成物。
【請求項4】
請求項1に記載のフラックス組成物において、
前記(B)成分が、前記(B3)成分である、
フラックス組成物。
【請求項5】
請求項1~請求項4のいずれか1項に記載のフラックス組成物と、(E)はんだ粉末と
を含有する
はんだ組成物であって、
前記(E)成分の配合量が、前記はんだ組成物100質量%に対して、65質量%以上95質量%以下である、
はんだ組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラックス組成物、はんだ組成物および電子基板に関する。
【背景技術】
【0002】
はんだ組成物は、はんだ粉末にフラックス組成物(ロジン系樹脂、活性剤および溶剤など)を混練してペースト状にした混合物である(特許文献1参照)。近年、はんだとしては、環境問題に配慮して、鉛(Pb)を含有しない鉛フリーはんだが広く使用されている。また、フラックス組成物としては、環境問題に配慮して、ハロゲンを削減したハロゲンフリーや、ハロゲンを全く含有しないノンハロゲンが求められている。
【0003】
一方で、プリント配線基板においては、狭い範囲に小型部品が密集して実装されるようになっている。そのため、隣接する小型部品に影響を与えないように、はんだ組成物の加熱だれおよびはんだボールが発生しないことが重要となってきている。さらに、はんだ組成物のフラックス成分が、プリント配線基板上の絶縁被膜への悪影響が小さいことも重要となってきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、加熱だれおよびはんだボールの発生を抑制でき、プリント配線基板上の絶縁被膜への悪影響が小さいフラックス組成物、およびはんだ組成物、並びに、電子基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、(A)ロジン系樹脂、(B)アミン化合物、(C)チクソ剤、および(D)活性剤を含有するフラックス組成物であって、前記(B)成分が、(B1)トリアゾール化合物、(B2)1分子中に、1つの水素がアミノ基で置換されたベンゼン環、またはピリジン環と、1つのカルボキシル基とを有する環状アミン化合物、並びに、(B3)イミダゾリン化合物からなる群から選択される少なくとも1つであり、前記(C)成分が、(C1)1分子中に、1つ以上の長鎖炭化水素基と、1つ以上のカルボニル基とを有する化合物を含有する、フラックス組成物が提供される。
【0007】
本発明の一態様に係るフラックス組成物においては、前記(B)成分が、前記(B1)成分および前記(B2)成分からなる群から選択される少なくとも1つであることが好ましい。
本発明の一態様に係るフラックス組成物においては、前記(B1)成分が、1分子中に、1つのカルボキシル基を有することが好ましい。
本発明の一態様に係るフラックス組成物においては、前記(B)成分が、前記(B3)成分であることが好ましい。
本発明の一態様に係るフラックス組成物においては、前記(C1)成分が、1分子中に、1つ以上の水酸基を含有することが好ましい。
本発明の一態様に係るフラックス組成物においては、前記(C1)成分は、示差走査熱量測定による融点が130℃以上であることが好ましい。
【0008】
本発明の一態様によれば、前記本発明の一態様に係るフラックス組成物と、(E)はんだ粉末とを含有する、はんだ組成物が提供される。
【0009】
本発明の一態様によれば、前記本発明の一態様に係るはんだ組成物を用いたはんだ付け部を備える、電子基板が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、加熱だれおよびはんだボールの発生を抑制でき、プリント配線基板上の絶縁被膜への悪影響が小さいフラックス組成物、およびはんだ組成物、並びに、電子基板を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[フラックス組成物]
まず、本実施形態のフラックス組成物について説明する。本実施形態のフラックス組成物は、はんだ組成物におけるはんだ粉末以外の成分であり、以下説明する(A)ロジン系樹脂、(B)アミン化合物、(C)チクソ剤、および(D)活性剤を含有するものである。
本実施形態のフラックス組成物においては、(B)成分が、(B1)トリアゾール化合物、並びに、(B2)1分子中に、1つの水素がアミノ基で置換されたベンゼン環、またはピリジン環と、1つのカルボキシル基とを有する環状アミン化合物からなる群から選択される少なくとも1つであり、(C)成分が、(C1)1分子中に、1つ以上の長鎖炭化水素基と、1つ以上のカルボニル基とを有する化合物を含有する。
【0012】
本実施形態のフラックス組成物によれば、加熱だれおよびはんだボールの発生を抑制でき、プリント配線基板上の絶縁被膜への悪影響が小さい理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。
すなわち、加熱だれおよびはんだボールの発生要因の1つには、リフロー加熱時などにはんだ組成物が流れてしまうことにある。また、リフロー加熱時などにはんだ組成物中のフラックス成分が流れることで、プリント配線基板上の絶縁被膜へ悪影響を与えやすくなる。そのため、フラックス成分として、絶縁被膜への悪影響が少ないものを選択しなければならない。
これに対し、本実施形態のフラックス組成物によれば、リフロー加熱時などに(B1)成分または(B2)成分と、(C1)成分とが、相互作用を起こし、(C1)成分のチクソ性をさらに向上できる。これにより、リフロー加熱時などに、はんだ組成物がダレにくくなる。また、はんだ組成物中のはんだ粉末が流れ出しにくくなる。さらに、はんだ組成物中のフラックス成分が流れ出しにくくなる。また、(B1)成分または(B2)成分は、絶縁被膜への悪影響が少ないものである。以上のようにして、上記本発明の効果が達成されるものと本発明者らは推察する。
【0013】
[(A)成分]
本実施形態に用いる(A)ロジン系樹脂としては、ロジン類およびロジン系変性樹脂が挙げられる。ロジン類としては、ガムロジン、ウッドロジンおよびトール油ロジンなどが挙げられる。ロジン系変性樹脂としては、不均化ロジン、重合ロジン、水素添加ロジンおよびこれらの誘導体などが挙げられる。水素添加ロジンとしては、完全水添ロジン、部分水添ロジン、並びに、不飽和有機酸((メタ)アクリル酸などの脂肪族の不飽和一塩基酸、フマル酸、マレイン酸などのα,β-不飽和カルボン酸などの脂肪族不飽和二塩基酸、桂皮酸などの芳香族環を有する不飽和カルボン酸など)の変性ロジンである不飽和有機酸変性ロジンの水素添加物(「水添酸変性ロジン」ともいう)などが挙げられる。これらのロジン系樹脂は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0014】
(A)成分の配合量は、フラックス組成物100質量%に対して、30質量%以上70質量%以下であることが好ましく、35質量%以上60質量%以下であることがより好ましく、40質量%以上55質量%以下であることが特に好ましい。(A)成分の配合量が前記下限以上であれば、はんだ付ランドの銅箔面の酸化を防止してその表面に溶融はんだを濡れやすくする、いわゆるはんだ付け性を向上でき、はんだボールを十分に抑制できる。また、(A)成分の配合量が前記上限以下であれば、フラックス残さ量を十分に抑制できる。
【0015】
[(B)成分]
本実施形態に用いる(B)アミン化合物は、(B1)トリアゾール化合物、(B2)1分子中に、1つの水素がアミノ基で置換されたベンゼン環、またはピリジン環と、1つのカルボキシル基とを有する環状アミン化合物、並びに、(B3)イミダゾリン化合物からなる群から選択される少なくとも1つである。
(B1)成分としては、カルボキシベンゾトリアゾール、メチルベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、ベンゾトリアゾール、および1,2,4-トリアゾールなどが挙げられる。これらの中でも、(C)成分との相互作用の観点から、カルボキシベンゾトリアゾール、メチルベンゾトリアゾール、または2-(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾールが好ましく、カルボキシベンゾトリアゾールが特に好ましい。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
この(B1)成分のトリアゾール構造が、長鎖炭化水素基を有する(C)成分中のカルボニル基などとの間で、相互作用を起こすことで、(C1)成分のチクソ性をさらに向上できる。また、相互作用の観点から、(B1)成分は、1分子中に、1つのカルボキシル基を有することが好ましい。
【0016】
(B2)成分としては、ピコリン酸、ニコチン酸、およびアントラニル酸などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
この(B2)成分のアミン構造およびカルボキシル基が、長鎖炭化水素基を有する(C)成分中のカルボニル基などとの間で、相互作用を起こすことで、(C1)成分のチクソ性をさらに向上できる。
【0017】
(B3)成分としては、2-フェニルイミダゾリン、および2-ベンジルイミダゾリンなどが挙げられる。これらの中でも、(C)成分との相互作用の観点から、2-フェニルイミダゾリンが特に好ましい。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
この(B3)成分のイミダゾリン構造が、長鎖炭化水素基を有する(C)成分中のカルボニル基などとの間で、相互作用を起こすことで、(C1)成分のチクソ性をさらに向上できる。
【0018】
(B)成分の配合量は、フラックス組成物100質量%に対して、0.05質量%以上10質量%以下であることが好ましく、0.08質量%以上7質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以上5質量%以下であることが特に好ましい。(B)成分の配合量が前記下限以上であれば、(C1)成分との相互作用を起こすことができる。また、(B)成分の配合量が前記上限以下であれば、粘度安定性などを維持できる。
【0019】
[(C)成分]
本実施形態に用いる(C)チクソ剤は、(C1)1分子中に、1つ以上の長鎖炭化水素基と、1つ以上のカルボニル基とを有する化合物を含有する。
(C1)成分としては、脂肪酸アマイド、および硬化ひまし油などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。また、これらの(C1)成分は、(B1)成分または(B2)成分との相互作用の観点から、1分子中に、1つ以上の水酸基を含有することが好ましい。
(C1)成分の示差走査熱量測定(DSC)による融点は、130℃以上であることが好ましく、140℃以上であることがより好ましく、150℃以上であることが特に好ましい。(C1)成分の融点が前記下限以上であれば、高温時のチクソ性をさらに向上できる。
【0020】
(C)成分としては、本発明の課題を達成できる範囲において、(C1)成分以外のチクソ剤を含有していてもよい。(C1)成分以外のチクソ剤としては、カオリン、コロイダルシリカ、有機ベントナイト、およびガラスフリットなどが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
ただし、(C1)成分以外のチクソ剤を使用する場合において、(C1)成分の配合量が、(C)成分100質量%に対して、50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが特に好ましい。
【0021】
(C)成分の配合量は、フラックス組成物100質量%に対して、1質量%以上20質量%以下であることが好ましく、3質量%以上12質量%以下であることがより好ましく、5質量%以上10質量%以下であることが特に好ましい。配合量が前記下限未満では、チクソ性が得られず、ダレが生じやすくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、チクソ性が高すぎて、印刷不良となりやすい傾向にある。
【0022】
[(D)成分]
本実施形態に用いる(D)活性剤は、(D1)有機酸を含有することが好ましい。
(D1)成分としては、モノカルボン酸、ジカルボン酸およびトリカルボン酸などの他に、その他の有機酸が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0023】
モノカルボン酸としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、ブチリック酸、バレリック酸、カプロン酸、エナント酸、カプリン酸、ラウリル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ツベルクロステアリン酸、アラキジン酸、ベヘニン酸、およびリグノセリン酸などが挙げられる。
ジカルボン酸としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、エイコサン二酸、フマル酸、およびマレイン酸などが挙げられる。
トリカルボン酸としては、プロパントリカルボン酸、ヘキサントリカルボン酸、シクロヘキサントリカルボン酸、およびベンゼントリカルボン酸などが挙げられる。
その他の有機酸としては、ダイマー酸、トリマー酸、グリコール酸、ジグリコール酸、レブリン酸、乳酸、酒石酸、アクリル酸、安息香酸、サリチル酸、アニス酸、クエン酸、および3-ヒドロキシ-2ナフトエ酸などが挙げられる。
【0024】
(D)成分は、本発明の課題を達成できる範囲において、(D1)成分以外に、その他の活性剤((D2)ハロゲン系活性剤など)をさらに含有してもよい。ただし、ハロゲンフリーの観点からは、(D)成分は、(D1)成分のみからなることが好ましい。また、(D1)成分の配合量の合計は、(D)成分100質量%に対して、85質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることが特に好ましい。
【0025】
(D)成分の配合量としては、フラックス組成物100質量%に対して、1質量%以上20質量%以下であることが好ましく、2質量%以上15質量%以下であることがより好ましく、3質量%以上10質量%以下であることが特に好ましい。(D)成分の配合量が前記下限以上であれば、活性作用を向上できる傾向にあり、他方、前記上限以下であれば、フラックス組成物の絶縁性を維持できる傾向にある。
【0026】
[溶剤]
本実施形態のフラックス組成物においては、印刷性などの観点から、さらに溶剤を含有することが好ましい。ここで用いる溶剤としては、公知の溶剤を適宜用いることができる。このような溶剤としては、沸点170℃以上の溶剤を用いることが好ましい。
このような溶剤としては、例えば、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、ヘキシレングリコール、ヘキシルジグリコール、1,5-ペンタンジオール、メチルカルビトール、ブチルカルビトール、2-エチルヘキシルジグリコール(EHDG)、オクタンジオール、フェニルグリコール、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、およびジブチルマレイン酸などが挙げられる。これらの溶剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0027】
溶剤を用いる場合、その配合量は、フラックス組成物100質量%に対して、10質量%以上60質量%以下であることが好ましく、20質量%以上40質量%以下であることがより好ましい。溶剤の配合量が前記範囲内であれば、得られるはんだ組成物の粘度を適正な範囲に適宜調整できる。
【0028】
[他の成分]
本実施形態に用いるフラックス組成物には、(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分、および溶剤の他に、必要に応じて、その他の添加剤、更には、その他の樹脂を加えることができる。その他の添加剤としては、酸化防止剤、消泡剤、改質剤、つや消し剤、および発泡剤などが挙げられる。これらの添加剤の配合量としては、フラックス組成物100質量%に対して、0.01質量%以上5質量%以下であることが好ましい。その他の樹脂としては、アクリル系樹脂、およびポリブタジエンなどが挙げられる。
【0029】
[はんだ組成物]
次に、本実施形態のはんだ組成物について説明する。本実施形態のはんだ組成物は、前述の本実施形態のフラックス組成物と、以下説明する(E)はんだ粉末とを含有するものである。
フラックス組成物の配合量は、はんだ組成物100質量%に対して、5質量%以上35質量%以下であることが好ましく、7質量%以上15質量%以下であることがより好ましく、8質量%以上12質量%以下であることが特に好ましい。フラックス組成物の配合量が5質量%未満の場合(はんだ粉末の配合量が95質量%を超える場合)には、バインダーとしてのフラックス組成物が足りないため、フラックス組成物とはんだ粉末とを混合しにくくなる傾向にあり、他方、フラックス組成物の配合量が35質量%を超える場合(はんだ粉末の配合量が65質量%未満の場合)には、得られるはんだ組成物を用いた場合に、十分なはんだ接合を形成できにくくなる傾向にある。
【0030】
本実施形態のはんだ組成物は、ハロゲンフリーまたはノンハロゲンタイプのはんだ組成物として特に好適に用いることができる。
ハロゲンフリーのはんだ組成物は、塩素濃度が900質量ppm以下(より好ましくは、100質量ppm以下、特に好ましくは、0質量ppm)であり、臭素濃度が900質量ppm以下(より好ましくは、100質量ppm以下、特に好ましくは、0質量ppm)であり、ヨウ素濃度が900質量ppm以下(より好ましくは、100質量ppm以下、特に好ましくは、0質量ppm)であり、かつ、ハロゲン濃度が1500質量ppm以下(より好ましくは、300質量ppm以下、特に好ましくは、0質量ppm)であるものであることが好ましい。なお、ハロゲンとしては、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素などが挙げられる。
なお、はんだ組成物中の塩素濃度、臭素濃度およびハロゲン濃度は、JEITA ET-7304Aに記載の方法に準じて測定できる。また、簡易的には、はんだ組成物の配合成分およびその配合量から算出できる。
【0031】
[(E)成分]
本発明に用いる(E)はんだ粉末は、鉛フリーはんだ粉末のみからなることが好ましいが、有鉛のはんだ粉末であってもよい。また、このはんだ粉末におけるはんだ合金は、スズ(Sn)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、銀(Ag)、アンチモン(Sb)、鉛(Pb)、インジウム(In)、ビスマス(Bi)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)およびゲルマニウム(Ge)からなる群から選択される少なくとも1種を含有することが好ましい。
このはんだ粉末におけるはんだ合金としては、スズを主成分とする合金が好ましい。また、このはんだ合金は、スズ、銀および銅を含有することがより好ましい。さらに、このはんだ合金は、添加元素として、アンチモン、ビスマスおよびニッケルのうちの少なくとも1つを含有してもよい。本実施形態のフラックス組成物によれば、アンチモン、ビスマスおよびニッケルなどの酸化しやすい添加元素を含むはんだ合金を用いた場合でも、ボイドの発生を抑制できる。
ここで、鉛フリーはんだ粉末とは、鉛を添加しないはんだ金属または合金の粉末のことをいう。ただし、鉛フリーはんだ粉末中に、不可避的不純物として鉛が存在することは許容されるが、この場合に、鉛の量は、300質量ppm以下であることが好ましい。
【0032】
鉛フリーのはんだ粉末の合金系としては、具体的には、Sn-Ag-Cu系、Sn-Cu系、Sn-Ag系、Sn-Bi系、Sn-Ag-Bi系、Sn-Ag-Cu-Bi系、Sn-Ag-Cu-Ni系、Sn-Ag-Cu-Bi-Sb系、Sn-Ag-Bi-In系、Sn-Ag-Cu-Bi-In-Sb系などが挙げられる。
【0033】
(E)成分の平均粒子径は、通常1μm以上40μm以下であるが、はんだ付けパッドのピッチが狭い電子基板にも対応するという観点から、1μm以上35μm以下であることがより好ましく、2μm以上35μm以下であることがさらにより好ましく、3μm以上32μm以下であることが特に好ましい。なお、平均粒子径は、動的光散乱式の粒子径測定装置により測定できる。
【0034】
[はんだ組成物の製造方法]
本実施形態のはんだ組成物は、上記説明したフラックス組成物と上記説明した(E)はんだ粉末とを上記所定の割合で配合し、撹拌混合することで製造できる。
【0035】
[電子基板]
次に、本実施形態の電子基板について説明する。本実施形態の電子基板は、以上説明したはんだ組成物を用いたはんだ付け部を備えることを特徴とするものである。本発明の電子基板は、前記はんだ組成物を用いて電子部品を電子基板(プリント配線基板など)に実装することで製造できる。
前述した本実施形態のはんだ組成物は、ぬれ性が優れている。そのため、電子部品の電極の材質が、洋白やスズメッキなどであっても、適切にはんだ付けができる。
ここで用いる塗布装置としては、スクリーン印刷機、メタルマスク印刷機、ディスペンサー、およびジェットディスペンサーなどが挙げられる。
また、前記塗布装置にて塗布したはんだ組成物上に電子部品を配置し、リフロー炉により所定条件にて加熱して、前記電子部品をプリント配線基板に実装するリフロー工程により、電子部品を電子基板に実装できる。
【0036】
リフロー工程においては、前記はんだ組成物上に前記電子部品を配置し、リフロー炉により所定条件にて加熱する。このリフロー工程により、電子部品およびプリント配線基板の間に十分なはんだ接合を行うことができる。その結果、前記電子部品を前記プリント配線基板に実装することができる。
リフロー条件は、はんだの融点に応じて適宜設定すればよい。例えば、プリヒート温度は、140℃以上200℃以下であることが好ましく、150℃以上160℃以下であることがより好ましい。プリヒート時間は、60秒間以上120秒間以下であることが好ましい。ピーク温度は、230℃以上270℃以下であることが好ましく、240℃以上255℃以下であることがより好ましい。また、220℃以上の温度の保持時間は、20秒間以上60秒間以下であることが好ましい。
【0037】
また、本実施形態のはんだ組成物および電子基板は、前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良などは本発明に含まれるものである。
例えば、前記電子基板では、リフロー工程により、プリント配線基板と電子部品とを接着しているが、これに限定されない。例えば、リフロー工程に代えて、レーザー光を用いてはんだ組成物を加熱する工程(レーザー加熱工程)により、プリント配線基板と電子部品とを接着してもよい。この場合、レーザー光源としては、特に限定されず、金属の吸収帯に合わせた波長に応じて適宜採用できる。レーザー光源としては、例えば、固体レーザー(ルビー、ガラス、YAGなど)、半導体レーザー(GaAs、およびInGaAsPなど)、液体レーザー(色素など)、並びに、気体レーザー(He-Ne、Ar、CO2、およびエキシマーなど)が挙げられる。
【実施例】
【0038】
次に、本発明を実施例および比較例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。なお、実施例および比較例にて用いた材料を以下に示す。
((A)成分)
ロジン系樹脂:水添酸変性ロジン、商品名「パインクリスタルKE-604」、荒川化学工業社製
((B1)成分)
トリアゾール化合物A:カルボキシベンゾトリアゾール
トリアゾール化合物B:メチルベンゾトリアゾール
トリアゾール化合物C:2-(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール
トリアゾール化合物D:ベンゾトリアゾール
トリアゾール化合物E:1,2,4-トリアゾール
((B2)成分)
環状アミン化合物A:ピコリン酸
環状アミン化合物B:ニコチン酸
環状アミン化合物C:アントラニル酸
((B3)成分)
イミダゾリン化合物:2-フェニルイミダゾリン、商品名「2-PZL-T」、四国化成工業社製
((C)成分)
チクソ剤A:下記調製例1で得られるチクソ剤(融点200℃以上、水酸基含有)
チクソ剤B:脂肪酸アマイド(融点145℃、水酸基含有)、商品名「スリパックスH」、日本化成社製
チクソ剤C:脂肪酸アマイド(融点135℃、水酸基含有)、商品名「スリパックスZHH」、日本化成社製
チクソ剤D:脂肪酸アマイド(融点145℃)、商品名「スリパックスE」、日本化成社製
チクソ剤E:硬化ひまし油、商品名「ヒマコウ」、KFトレーディング社製
((D)成分)
有機酸A:コハク酸
有機酸B:グルタル酸
有機酸C:セバシン酸
有機酸D:3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸
有機酸E:エイコサン二酸、商品名「SL-20」、岡本製油社製
(他の成分)
イミダゾール化合物:ベンゾイミダゾール
カフェイン化合物:カフェイン
溶剤:ジエチレングリコールモノ-2-エチルヘキシルエーテル(2-エチルヘキシルジグリコール(EHDG)、沸点:272℃)、日本乳化剤社製
酸化防止剤:N,N’-ビス{3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニル}ヒドラジン、商品名「イルガノックスMD1024」、BASFジャパン社製
ポリブタジエン:商品名「BI-2000」、日本曹達社製
((E)成分)
はんだ粉末:合金組成はSn-3.0Ag-0.5Cu、粒子径分布は15~25μm、はんだ融点は217~220℃
【0039】
[調製例1]
攪拌器、温度計、分水器を備えた反応装置に、水素添加ひまし油脂肪酸由来の12-ヒドロキシステアリン酸600.0質量部を加え、80~100℃に加温して溶融させた。その後、ジアミンであるヘキサメチレンジアミン116.0質量部を加え、170℃で、窒素雰囲気下、5~8時間、脱水しながら縮合反応を行いアミド化させ、酸価4.2、アミン価9.4の低分子量ジアミド化合物を得た。さらに、重量平均分子量10000、酸価80mgKOH/gのプロピレン・無水マレイン酸共重合体であるカルボキシル基含有ポリマー68.0質量部を加え、170℃で1~2時間、脱水しながら縮合反応を行い、低分子量ジアミド化合物の一部の未反応アミノ基に反応させてアミド化させ高分子量ジアミド化合物を生成させた。その結果、淡黄色で低分子量ジアミド化合物と高分子量ジアミド化合物との混合物(酸価6.0、アミン価4.2)をワックス状生成物として得た。得られた生成物を粉砕し、平均粒径7μmに微粒化したアミド系縮合体微粒子(チクソ剤A)を得た。
【0040】
[実施例1]
ロジン系樹脂50質量%、トリアゾール化合物A3質量%、有機酸A1質量%、有機酸B1質量%、有機酸C1質量%、有機酸D1質量%、有機酸E1質量%、溶剤30質量%、酸化防止剤3質量%、ポリブタジエン2質量%、およびチクソ剤A7質量%を容器に投入し、プラネタリーミキサーを用いて混合してフラックス組成物を得た。
その後、得られたフラックス組成物11質量%、溶剤1.6質量%およびはんだ粉末87.4質量%(合計で100質量%)を容器に投入し、プラネタリーミキサーにて混合することではんだ組成物を調製した。
【0041】
[実施例2~15]
表1に示す組成に従い各材料を配合した以外は実施例1と同様にして、フラックス組成物およびはんだ組成物を得た。
[比較例1~3]
表1に示す組成に従い各材料を配合した以外は実施例1と同様にして、フラックス組成物およびはんだ組成物を得た。
【0042】
<フラックス組成物およびはんだ組成物の評価>
フラックス組成物およびはんだ組成物の評価(加熱だれ、はんだボール、ディウェッティング、はんだ耐熱性)を以下のような方法で行った。得られた結果を表1に示す。
(1)加熱だれ
両面銅張積層板に、0.1mmから1.2mmのピッチ(0.1mm刻み)のはんだを印刷して、150℃1分加熱する。冷却後はんだのだれがない最小ピッチを計測し、その平均を算出する。そして、以下の基準に従って、加熱だれを評価した。
◎:平均0.2mmピッチ以下である。
○:平均0.2mmピッチ超0.3mmピッチ以下である。
△:平均0.3mmピッチ超0.4mmピッチ以下である。
×:平均0.4mmピッチ超である。
(2)はんだボール
各はんだ組成物について、JIS規格Z3284附属書11で定める条件に準じて各試験片を作製した、そして、試験片にはんだボール試験を実施し、試験後の各試験片の外観全体について、以下の基準に従って、はんだボールを評価した。なお、作製した各試験片は180℃のホットプレートを用いて60秒間プリヒート処理した後に270℃のソルダバスにて溶融させた。
◎:はんだが一つの大きな球となり、周囲にはんだボールがない。
○:はんだが一つの大きな球となり、周囲に直径75μm以下のはんだボールが3つ以下ある。
△:はんだが一つの大きな球となり、周囲に多数の細かい球が半連続の環状に並んでいる。
×:上記以外の状態となっている。
(3)ディウェッティング
JIS Z 3284のディウェッティング試験に準拠した方法で、ディウェッティングを評価した。すなわち、まず、銅板の表面を、2-プロパノールで洗い、銅板の片面を、2-プロパノールを滴下しながら研磨紙を用いて研磨した後、2-プロパノールで表面の汚れを洗い、室温で十分乾燥させた。そして、メタルマスクを用いて、銅板の中央にはんだ組成物を塗布し、試験板とした。次に、はんだ槽の設定温度を235℃とし、試験板をはんだ槽から水平に保ちながら引き上げ、室温まで冷却した。その後、フラックス残さを、2-プロパノールで取り除いた状態で、はんだの広がりの度合を観察し、以下の基準に従って、ディウェッティングを評価した。
◎:溶融したはんだがはんだ組成物を塗布した面積以上に広がり、試験板をぬらしている状態である。
○:はんだ組成物を塗布した部分はすべてはんだでぬれた状態である。
△:はんだ組成物を塗布した部分の大半は、はんだでぬれた状態である。
×:試験板は、はんだがぬれた様子はなく、溶融したはんだは一つまたは複数のボールとなった状態である。
(4)はんだ耐熱性
はんだ耐熱性は、プリント配線基板(FR-4、厚み1.6mm、Cu厚50μm)の上に形成した絶縁被膜(タムラ製作所社製「DSR-2200」、膜厚20μm)を、JIS C-6481の試験方法に従って、フラックス組成物を全面に塗布し、続いて260℃のはんだ槽に30秒間浸せき後、セロハンテープによるピーリング試験を1サイクルとし、これを1~3回繰り返した後の絶縁被膜状態を目視により観察し、以下の基準に従って評価した。
◎:3サイクル繰り返し後も絶縁被膜に変化が認められない。
○:3サイクル繰り返し後の絶縁被膜にほんの僅か変化が認められる。
△:2サイクル繰り返し後の絶縁被膜に変化が認められる。
×:1サイクル繰り返し後の絶縁被膜に剥離が認められる。
【0043】
【0044】
表1に示す結果からも明らかなように、本発明のフラックス組成物およびはんだ組成物(実施例1~15)は、加熱だれ、はんだボール、ディウェッティング、およびはんだ耐熱性の全ての結果が良好であることが確認された。
従って、本発明のフラックス組成物およびはんだ組成物によれば、加熱だれおよびはんだボールの発生を抑制でき、プリント配線基板上の絶縁被膜への悪影響が小さいことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明のはんだ組成物は、電子機器のプリント配線基板などの電子基板に電子部品を実装するための技術として好適に用いることができる。