IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社土木管理総合試験所の特許一覧 ▶ 西日本高速道路株式会社の特許一覧 ▶ 西日本高速道路エンジニアリング九州株式会社の特許一覧

特許7478178鉄筋コンクリート体の鉄筋深さ位置推定方法
<>
  • 特許-鉄筋コンクリート体の鉄筋深さ位置推定方法 図1
  • 特許-鉄筋コンクリート体の鉄筋深さ位置推定方法 図2
  • 特許-鉄筋コンクリート体の鉄筋深さ位置推定方法 図3
  • 特許-鉄筋コンクリート体の鉄筋深さ位置推定方法 図4
  • 特許-鉄筋コンクリート体の鉄筋深さ位置推定方法 図5
  • 特許-鉄筋コンクリート体の鉄筋深さ位置推定方法 図6
  • 特許-鉄筋コンクリート体の鉄筋深さ位置推定方法 図7
  • 特許-鉄筋コンクリート体の鉄筋深さ位置推定方法 図8
  • 特許-鉄筋コンクリート体の鉄筋深さ位置推定方法 図9
  • 特許-鉄筋コンクリート体の鉄筋深さ位置推定方法 図10
  • 特許-鉄筋コンクリート体の鉄筋深さ位置推定方法 図11
  • 特許-鉄筋コンクリート体の鉄筋深さ位置推定方法 図12
  • 特許-鉄筋コンクリート体の鉄筋深さ位置推定方法 図13
  • 特許-鉄筋コンクリート体の鉄筋深さ位置推定方法 図14
  • 特許-鉄筋コンクリート体の鉄筋深さ位置推定方法 図15
  • 特許-鉄筋コンクリート体の鉄筋深さ位置推定方法 図16
  • 特許-鉄筋コンクリート体の鉄筋深さ位置推定方法 図17
  • 特許-鉄筋コンクリート体の鉄筋深さ位置推定方法 図18
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-23
(45)【発行日】2024-05-02
(54)【発明の名称】鉄筋コンクリート体の鉄筋深さ位置推定方法
(51)【国際特許分類】
   G01V 3/12 20060101AFI20240424BHJP
【FI】
G01V3/12 B
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022035561
(22)【出願日】2022-03-08
(65)【公開番号】P2023130949
(43)【公開日】2023-09-21
【審査請求日】2023-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】509072803
【氏名又は名称】株式会社土木管理総合試験所
(73)【特許権者】
【識別番号】505398963
【氏名又は名称】西日本高速道路株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】598017790
【氏名又は名称】西日本高速道路エンジニアリング九州株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001726
【氏名又は名称】弁理士法人綿貫国際特許・商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】井口 達也
(72)【発明者】
【氏名】緒方 辰男
(72)【発明者】
【氏名】平八重 真嗣
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 真一郎
【審査官】福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-004598(JP,A)
【文献】特開2010-239610(JP,A)
【文献】特開2007-017365(JP,A)
【文献】特開2003-315004(JP,A)
【文献】特開昭62-098287(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01V 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋コンクリート体の上方に位置する走行面を前記鉄筋コンクリート体の延長方向に移動しつつ深さ方向に電磁波を照射して得られた前記電磁波の反射波データに対し、前記延長方向における所要長さ毎に分割した第1分割反射波データを生成する第1分割反射波データ生成工程と、
前記第1分割反射波データを前記鉄筋コンクリート体の所要深さ範囲毎に分割した第2分割反射波データを生成する第2分割反射波データ生成工程と、
各前記第1分割反射波データにおける各前記第2分割反射波データの反射強度の変化を前記延長方向にフーリエ変換してフーリエ変換データを生成するフーリエ変換データ生成工程と、
前記フーリエ変換データにおいて特定周波数成分の有無を確認する特定周波数成分有無確認工程と、
前記特定周波数成分有無確認工程において、前記特定周波数成分が確認された位置を鉄筋深さ位置として抽出する鉄筋深さ位置抽出工程と、
前記特定周波数成分に基づいて前記鉄筋コンクリート体の前記延長方向における配筋ピッチを算出する配筋ピッチ算出工程と、を有することを特徴とする鉄筋コンクリート体の鉄筋深さ位置推定方法。
【請求項2】
前記鉄筋深さ位置抽出工程は、
前記特定周波数成分が確認された前記第2分割反射波データに対応する深さ位置を前記鉄筋深さ位置として抽出することを特徴とする請求項1記載の鉄筋コンクリート体の鉄筋深さ位置推定方法。
【請求項3】
前記鉄筋深さ位置抽出工程により抽出された前記鉄筋深さ位置よりも前記走行面の側において前記深さ方向に隣接する各前記第2分割反射波データにおける各前記反射強度の差が、予め設定された閾値を超えている前記第2分割反射波データを境界面反射波データとして抽出する境界面反射波データ抽出工程と、
前記境界面反射波データのうち前記反射強度が最大である前記境界面反射波データに対応する深さ位置を走行面高さ位置として抽出する走行面高さ位置抽出工程と、
前記走行面高さ位置と前記鉄筋深さ位置との間に存在する前記境界面反射波データに対応する深さ位置を鉄筋コンクリート体上面高さ位置として抽出する鉄筋コンクリート体上面高さ位置抽出工程と、をさらに有することを特徴とする請求項1または2記載の鉄筋コンクリート体の鉄筋深さ位置推定方法。
【請求項4】
前記鉄筋深さ位置抽出工程が行われた後は、前記延長方向における次の前記反射波データに対して、
前記フーリエ変換データ生成工程、前記特定周波数成分有無確認工程、および、前記鉄筋深さ位置抽出工程を行うことを特徴とする請求項1~のうちのいずれか一項記載の鉄筋コンクリート体の鉄筋深さ位置推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋コンクリート体の鉄筋深さ位置推定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
いわゆる電磁波レーダを用いた鉄筋コンクリート体の非破壊検査方法としては、例えば特許文献1(特開2005-331404号公報)に開示されているようなものが知られている。特許文献1における鉄筋コンクリート体の非破壊検査方法によれば、鉄筋コンクリート体に電磁波レーダを照射することにより、鉄筋コンクリート体の内部における鉄筋や空隙の位置における反射波データがコンクリート部分における反射波データとは異なることを利用して鉄筋の位置や空隙の位置を推定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-331404号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されている鉄筋コンクリート体の非破壊検査方法は、鉄筋コンクリート体に電磁波レーダを照射して得られた反射波データを解析者が観察することにより、鉄筋コンクリート体の内部における鉄筋深さ位置や空隙位置の推定を行っている。このため、検査結果の精度は解析者の経験や勘に頼る部分があることに加え、膨大な反射波データを解析者が目視により観察しなければならず、より効率的な鉄筋コンクリート体の非破壊検査方法の提案が望まれている。このような鉄筋コンクリート体の非破壊検査にあたっては、鉄筋コンクリート体の内部における鉄筋の深さ位置や配設間隔を短時間で正確に把握する技術の提案が必要であるとされている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで本発明は上記課題を解決するためのものであり、その目的とするところは次のとおりである。すなわち、鉄筋コンクリート体の内部における鉄筋の深さ位置や配設間隔を短時間で正確に把握することが可能な鉄筋コンクリート体の鉄筋深さ位置推定方法を提供することにある。
【0006】
上記課題を解決するため発明者が鋭意研究した結果、以下の構成に想到した。すなわち、本発明は、鉄筋コンクリート体の上方に位置する走行面を前記鉄筋コンクリート体の延長方向に移動しつつ深さ方向に電磁波を照射して得られた前記電磁波の反射波データに対し、前記延長方向における所要長さ毎に分割した第1分割反射波データを生成する第1分割反射波データ生成工程と、前記第1分割反射波データを前記鉄筋コンクリート体の所要深さ範囲毎に分割した第2分割反射波データを生成する第2分割反射波データ生成工程と、各前記第1分割反射波データにおける各前記第2分割反射波データの反射強度の変化を前記延長方向にフーリエ変換してフーリエ変換データを生成するフーリエ変換データ生成工程と、前記フーリエ変換データにおいて特定周波数成分の有無を確認する特定周波数成分有無確認工程と、前記特定周波数成分有無確認工程において、前記特定周波数成分が確認された位置を鉄筋深さ位置として抽出する鉄筋深さ位置抽出工程と、前記特定周波数成分に基づいて前記鉄筋コンクリート体の前記延長方向における配筋ピッチを算出する配筋ピッチ算出工程と、を有することを特徴とする鉄筋コンクリート体の鉄筋深さ位置推定方法である。
【0007】
これにより、解析者の経験や勘に頼ることなく、簡便で精度の高い鉄筋コンクリート体の鉄筋深さ位置推定方法を提供することができる。また、車両に搭載した照射装置を用いて長距離にわたって得た反射波データを適宜区間長で分割処理することができ、短時間でのデータ処理が可能になると共に、鉄筋コンクリート体の延長方向における鉄筋の配設間隔を推定することもできる。
【0008】
また、前記鉄筋深さ位置抽出工程は、前記特定周波数成分が確認された前記第2分割反射波データに対応する深さ位置を前記鉄筋深さ位置として抽出することが好ましい。
【0009】
また、前記鉄筋深さ位置抽出工程により抽出された前記鉄筋深さ位置よりも前記走行面の側において前記深さ方向に隣接する各前記第2分割反射波データにおける各前記反射強度の差が、予め設定された閾値を超えている前記第2分割反射波データを境界面反射波データとして抽出する境界面反射波データ抽出工程と、前記境界面反射波データのうち前記反射強度が最大である前記境界面反射波データに対応する深さ位置を走行面高さ位置として抽出する走行面高さ位置抽出工程と、前記走行面高さ位置と前記鉄筋深さ位置との間に存在する前記境界面反射波データに対応する深さ位置を鉄筋コンクリート体上面高さ位置として抽出する鉄筋コンクリート体上面高さ位置抽出工程と、をさらに有することが好ましい。
【0010】
これにより、電磁波照射装置を装着した車両を走行させながら電磁波を鉄筋コンクリート体に照射させて得た反射波データに基づいて、車両の走行面と鉄筋コンクリート体の上面の位置をより簡便かつ高精度で推定することができる。
【0011】
また、前記鉄筋深さ位置抽出工程が行われた後は、前記延長方向における次の前記反射波データに対して、前記フーリエ変換データ生成工程、前記特定周波数成分有無確認工程、および、前記鉄筋深さ位置抽出工程を行うことが好ましい。
【0012】
これにより鉄筋コンクリート体の上に舗装が施されている場合には、走行面(舗装表面)や走行面からは直視することができない鉄筋コンクリート体の上面の高さ位置を推定することできる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、解析者の経験や勘に頼ることなく、簡便で精度の高い鉄筋コンクリート体の鉄筋深さ位置推定方法を提供することができる。また、車両に搭載した照射装置を用いて長距離にわたって得た反射波データを適宜区間長で分割処理することができ、短時間でのデータ処理が可能になると共に、鉄筋コンクリート体の延長方向における鉄筋の配設間隔を推定することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に係る鉄筋コンクリート体の鉄筋深さ推定システムの概略構成図である。
図2】本発明の実施形態に係る鉄筋コンクリート体の鉄筋深さ推定方法の概略工程図である。
図3】鉄筋コンクリート体に電磁波レーダを照射して得られた反射波データのイメージ図である。
図4図3に示す反射波データを延長方向における所要範囲で分割した一例を示す説明図である。
図5】鉄筋コンクリート体の所要深さ位置における分割データ位置を示す説明図である。
図6図5の分割データにおける反射信号の強弱を示すプロット図である。
図7図6に示すプロット図をフーリエ変換処理した状態を示す振幅と周波数の相関図である。
図8図5とは異なる深さ位置における分割データ位置を示す説明図である。
図9図8の分割データにおける反射信号の強弱を示すプロット図である。
図10図9に示すプロット図をフーリエ変換処理した状態を示す振幅と周波数の相関図である。
図11】鉄筋コンクリート体の延長方向所要範囲および所要深さ範囲からなる解析対象範囲を示す説明図である。
図12図11に示す解析対象範囲におけるスペクトログラムである。
図13】鉄筋コンクリート体において解析対象範囲が延長方向において一部が重複している状態を示す説明図である。
図14】反射波データにおいて注目すべきサンプルデータ数を削減した形態例における反射波データの説明図である。
図15図14中の代表深さ方向における反射波データの反射強度プロット図とフーリエ変換データを示す説明図である。
図16】鉄筋位置詳細注目範囲におけるフーリエ変換データを深さ方向にまとめたスペクトログラムである。
図17】損傷個所を含んでいるRCスラブの反射波データおよびスペクトログラムの一例を示す説明図である。
図18】反射波データに基づいて走行面高さ位置と境界面高さ位置を算出する際における概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1に示すように、本実施形態における鉄筋コンクリート体鉄筋深さ位置推定装置(以下、鉄筋位置推定装置100という)は、鉄筋コンクリート体としてのRCスラブ10の上面(走行面)を走行する車両VHに搭載されている形態について説明する。鉄筋位置推定装置100は、車両VHの前方位置に取り付けられた電磁波レーダ20と、車両VHの内部に配設された計算機30とを具備している。なお、本実施形態における鉄筋位置推定装置100における計算機30はノートパソコン等に代表される持ち運び可能な形態にすることもでき、車両VHとは別体とした計算機30を採用することもできる。計算機30の記憶部32には鉄筋コンクリート体鉄筋深さ位置推定プログラム(以下、プログラムPGMという)が予め記憶(インストール)されている。
【0016】
本実施形態における電磁波レーダ20は、電磁波照射部22と反射波受信部24とを有し、車両VHの走行方向(走査方向)前方側に電磁波照射部22を配設し、電磁波照射部22よりも走行方向後方側に反射波受信部24が配設されている。電磁波レーダ20のオンオフ動作は車両VHに搭乗している補助者または運転前後の運転者が図示しないオンオフスイッチを操作することにより切り替えが行われる。図1に示すように本実施形態における電磁波レーダ20は、車両VHの前端部(図示しないフロントバンパー)に取り付けられている形態を採用しているが、電磁波レーダ20は車両VHの底面や後端部(リアバンパー)の他、図示しない牽引車両に電磁波レーダ20を搭載した形態を採用することもできる。
【0017】
本実施形態における電磁波レーダ20の電磁波照射部22および反射波受信部24は、車両VHの幅方向(走行方向と水平面内において直交する方向)に複数のチャンネルを有している。また、電磁波照射部22および反射波受信部24のチャンネル数は同一であって、互いのチャンネルは対をなしている。これにより電磁波照射部22は、探査対象であるRCスラブ10をRCスラブ10の延長方向と水平面内で直交する方向に所要間隔で分割した分割エリア12毎に電磁波を照射して、反射波受信部24が分割エリア12毎に反射波を受信することができる。反射波受信部24が受信した反射波データHSDは制御部34によって計算機30の記憶部32にそれぞれの分割エリア12に紐づけした状態で順次記憶される。
【0018】
計算機30の制御部34としてはCPUおよびGPUを例示することができる。制御部34はプログラムPGMに基づいて、鉄筋コンクリート体鉄筋深さ位置推定方法を実行すべく、各種の機能として作動する。具体的な機能とその内容については後述する。
【0019】
次に、以上に説明した鉄筋位置推定装置100を用いた鉄筋コンクリート体鉄筋深さ位置推定方法について説明を行う。図2は、本実施形態に係る鉄筋コンクリート体鉄筋深さ位置推定方法における概略工程図である。計測者は図1に示すように、鉄筋位置推定装置100が搭載された車両VHを検査対象の鉄筋コンクリート体であるRCスラブ10の延長方向に走行させながら車両VHに搭載されたスタートスイッチ(図示はせず)を操作して、反射波データ収集機能としての制御部34に反射波データHSDを収集させる(S-1)。このようにして収集された反射波データHSDは図3に示すようなグレースケールの画像データとして表すことができる。このようにして得られた反射波データHSDは、RCスラブ10の延長方向および幅方向に分割された分割エリア12に紐づけられた状態で記憶部32に記憶される。
【0020】
なお、図3に示すグレースケールの画像データは、RCスラブ10の延長方向の所要長さおよび深さ範囲で抽出したもののイメージ図である。本実施形態においては、RCスラブ10の延長方向における1.2mの範囲と深さ方向における18cmの範囲を抽出している。なお、反射波データHSDの抽出範囲である、反射波データHSDの反射強度に基づくグレースケール画像の抽出範囲は本実施形態における数値に限定されるものではなく、任意の抽出範囲を設定することができる。また、図3のグレースケールの画像データにおいては、反射波データHSDの反射強度が最も高い部分が黒い部分としてあらわれ、反射波データHSDの反射強度が最も低い部分が白い部分としてあらわれており、抽出範囲の各箇所における反射波データHSDの反射強度に応じたグレー階調であらわされている。
【0021】
第1分割反射波データ生成機能としての制御部34は、図3に示した反射波データHSDを、RCスラブ10の延長方向における予め設定されている所要長さ範囲で分割して第1分割反射波データBHSD1を生成する第1分割反射波データ生成工程を実行する(S-2)。なお、上記の所要範囲は、図4中の矢印の範囲であって本実施形態においては256サンプルデータの範囲としている。次に第2分割反射波データ生成機能としての制御部34は、第1分割反射波データBHSD1を予め設定した所要深さ毎(本実施形態においては1mm間隔)に分割して第2分割反射波データBHSD2を生成する第2分割反射波データ生成工程を実行する(S-3)。このようにして反射波データHSDは、複数の第1分割反射波データBHSD1に分割されると共に、それぞれの第1分割反射波データBHSD1は複数の第2分割反射波データBHSD2に分割される。第1分割反射波データBHSD1と第2分割反射波データBHSD2の分割間隔は、本実施形態における分割間隔に限定されるものではなく、任意の分割間隔を採用することができる。
【0022】
次に、ある第1分割反射波データBHSD1に対する解析方法について説明する。特定深さ位置反射波プロット機能としての制御部34は、第1分割反射波データBHSD1におけるそれぞれの第2分割反射波データBHSD2について、最上段側から順番に反射波信号強度の強弱とRCスラブ10の延長方向(以下、走査方向ということがある)のプロットを生成する特定深さ位置反射波プロット生成工程を実行する(S-4)。具体例として図5の矢印の深さ位置の処理について説明する。図5中の矢印位置におけるグレースケールの数値を縦軸の値とし、第1分割反射波データBHSD1の走査方向(サンプルデータの累積数が増加する方向)を横軸とした場合、図6に示す特定深さ位置反射波プロットPRが得られる。特定深さ位置における第2分割反射波データBHSD2を用いて特定深さ位置反射波プロットPRを生成する際において、第2分割反射波データBHSD2に分割する際に予め設定された最小分割範囲内により囲まれた領域において複数のグレースケールの数値がある場合には、それぞれのグレースケールの数値の平均値を採用することができる。
【0023】
次にフーリエ変換データ生成機能としての制御部34は、図6に示す特定深さ位置反射波プロットPRの走査方向に対して高速フーリエ変換処理し、フーリエ変換データFTDを生成するフーリエ変換データ生成工程を実行する(S-5)。なお、フーリエ変換データ生成工程を実行する前に、制御部34に特定深さ位置反射波プロットPRに対しヒルベルト変数を乗じさせる処理を実行させることもできる。これにより、フーリエ変換では出力される周波数データが負の成分を持たないようにすることができ,正の領域のみでの比較が可能となる。図7は、図6の特定深さ位置反射波プロットPRをフーリエ変換処理した結果を示す振幅と周波数の関係を示すフーリエ変換データFTDである。図7のフーリエ変換データFTDにおいては、フーリエ変換処理が行われる特定深さ位置反射波プロットPRにおける反射強度の変動が小さいため、特定周波数分の0が卓越したグラフになる。すなわち、図5の深さ位置においては、走査方向におけるRCスラブ10の内部構造が均一であると判断することができる。
【0024】
これに対し、図8中の矢印の深さ位置においても図5に示す深さ位置における方法と同様にして特定反射波プロット生成工程を行うと、図9に示すような特定深さ位置反射波プロットPRが得られる。この特定深さ位置反射波プロットPRの走査方向に対してフーリエ変換データ生成工程を実行して得られたフーリエ変換データFTDを図10に示す。図10のフーリエ変換データFTDにおいては、図7に示すフーリエ変換データFTDとは異なり、図10中の矢印に示すように、周波数が0以外の部分においてもピークがあらわれている。このピークはRCスラブ10の内部に所要間隔で異物(ここでは鉄筋)が存在していることを意味している。
【0025】
制御部34は、第1分割反射波データBHSD1の深さ方向の全体(図11の四角で囲った部分)に対し、特定深さ位置反射波プロット生成工程とフーリエ変換データ生成工程を繰り返し実行する。このようにして得られたそれぞれの第2分割反射波データBHSD2に対応するフーリエ変換データFTDは、深さ方向重複データ生成機能としての制御部34により、深さ方向に重複されて深さ方向重複データ(図示はせず)を生成する深さ方向重複データ生成工程が実行される(S-6)。
【0026】
次に、スペクトログラム生成機能としての制御部34は、深さ方向重複データから図12に示すようなスペクトログラムSPCを生成するスペクトログラム生成工程を実行する(S-7)。図12に示すようなスペクトログラムSPCが生成されると、第1分割反射波データBHSD1における反射波データHSDの強弱を色分けした状態であらわすことができる。そして、走査方向データ合成機能としての制御部34は、第1分割反射波データBHSD1を走査方向の全範囲に合成する走査方向合成データSGDを生成する走査方向データ合成工程を実行する(S-8)。
【0027】
このとき、制御部34は、図13に示すように、走査方向に隣り合う第1分割反射波データBHSD1の走査方向の所要範囲を互いに重複させた状態で走査方向合成データSGDを生成することもできる。具体的には、走査方向の前後で隣り合う第1分割反射波データBHSD1のうち、前方に位置する第1分割反射波データBHSD1の終端側50サンプルデータ分と後方に位置する第1分割反射波データBHSD1の先端側50サンプルデータ分を互いに重複させている。このような処理を行うことにより、第1分割反射波データBHSD1におけるスペクトログラムSPCの連続性が担保され、鉄筋の深さ位置や配設間隔の推定精度を高めることができる。
【0028】
以上の処理を探査対象のRCスラブ10の全延長方向に繰り返し実行することで、RCスラブ10の全延長方向におけるスペクトログラムSPCを得るようにしてもよい。そして、特定周波数成分有無確認機能としての制御部34は、RCスラブ10の全延長方向におけるスペクトログラムSPC中から特定周波数成分の有無を確認する特定周波数成分有無確認工程を実行する(S-9)。特定周波数成分有無確認工程により特定周波数成分が確認されると、鉄筋深さ位置抽出機能としての制御部34は、鉄筋ピッチに相当する特定周波数の反応があらわれた深さ位置を鉄筋深さ位置TFI(図12中の矢印Aの深さ位置)として抽出する鉄筋深さ位置抽出工程を実行する(S-10)。このとき、配筋ピッチ算出機能としての制御部34は、鉄筋深さ位置TFIにおける正規化周波数(データサンプル数に相当する長さ:図12中の矢印Bの正規化周波数)をRCスラブ10の延長方向における鉄筋配設間隔TKPとして抽出する配筋ピッチ算出工程を実行する(S-11)こともできる。
【0029】
ところで、橋梁等におけるRCスラブ10における鉄筋深さ位置TFIを推定するにあたっては、サンプルデータ数が多いと反射波データHSDに含まれる鉄筋の本数が多くなりすぎる場合がある。また、RCスラブ10を含むたいていの鉄筋コンクリート体における鉄筋の深さ位置は10~35cmの範囲であって、同配筋ピッチは5~20cmであることが多い。したがって実務上はこれらのようにある程度の条件を設けて鉄筋の深さ位置を推定する方法が採られることがある。図14は、先の実施形態の第1分割反射波データBHSD1に対し、サンプルデータ数を0~64に設定した形態における反射波データHSDを示すものである。図14におけるBHSD1に対し所要深さ方向に分割した第2分割反射波データBHSD2のそれぞれに対し、図15に示すように特定深さ位置反射波プロットPR、これをフーリエ変換したフーリエ変換データFTDを算出する。なお、図15においては、代表深さ位置(10cm、20cm、30cm)についてのみの特定深さ位置反射波プロットPRとフーリエ変換データFTDを示している
【0030】
そして第1分割反射波データBHSD1の深さ方向全体にわたってフーリエ変換データFTDをまとめた後、図16に示すようなスペクトログラムSPCを生成することで、RCスラブ10の内部における異物(鉄筋)の深さ位置と鉄筋の配設間隔をより詳細に推定することができる。図16中のスペクトログラムSPCにおいて矢印で示す丸で囲まれた範囲の色調はその周辺における色調とは明らかに異なっているので、この部分を鉄筋の深さ位置(縦軸の値)と鉄筋の配設間隔(横軸の値)として推定することができる。
【0031】
また、RCスラブ10の内部に損傷個所を有している場合における反射波データHSDは、図17に示すように走査方向の連続性が崩れた状態になっていることが多い。図17中の損傷範囲SSHについても先に説明した方法と同様にして反射波データHSDを処理して得られたスペクトログラムSPCは、図16に対応する鉄筋の深さ位置および鉄筋の配設間隔を示す周波数の色調とその周辺の色調との相違が図16に比較して不鮮明になる。すなわち、走査方向にわたって同じ深さ範囲のスペクトログラムSPCを連続させることにより、鉄筋の深さ位置と走査方向における損傷個所の位置をそれぞれ推定することが可能になる。
【0032】
以上に説明したとおり、RCスラブ10に電磁波レーダ20から電磁波を照射して得られた反射波データHSDをRCスラブ10の延長方向にフーリエ変換処理することで、RCスラブ10の内部における鉄筋の深さ位置や配設間隔を短時間で効率的に推定することができる。また、反射波データHSDの全範囲に対するスペクトログラムSPCを作成することで、解析者による解析を行う際にもビジュアル的に鉄筋の深さ位置や鉄筋の配設間隔を判断することができるため、解析者による再確認作業も効率的に行うことができる点において好都合である。
【0033】
また、図18に示すように、鉄筋深さ位置抽出工程(S-10)により抽出された鉄筋深さ位置TFIよりも走行面の側(図18中における上側)において所要深さ範囲(深さ方向に隣り合う第2分割反射波データBHSD2)における反射波データHSDの反射強度の差が、予め設定された閾値を超えている場合、反射波データHSDの反射強度が高い方の第2分割反射波データBHSD2を境界面反射波データKHSDとして抽出する境界面反射波データ抽出工程(S-12)を実行することもできる。これに続けて、境界面反射波データKHSDのうち反射強度が最大である最大境界面反射波データKHSDmに対応する第2分割反射波データBHSD2の深さ位置を走行面高さ位置SKMTとして抽出する走行面高さ位置抽出工程(S-13)を実行することもできる。なお、図18においては境界面反射波データKHSDが1つなので、これが最大境界面反射波データKHSDmになる。
【0034】
さらには、走行面高さ位置SKMTと鉄筋深さ位置TFIとの間に存在する境界面反射波データKHSDのうち、予め設定された第2閾値を超えているものに対応する第2分割反射波データBHSD2の深さ位置を鉄筋コンクリート体上面高さ位置TKJTとして抽出する鉄筋コンクリート体上面高さ位置抽出工程(S-14)を実行することもできる。なお、図18においては、RCスラブ10の上面が走行面になっているため、図18においては、走行面高さ位置SKMTと鉄筋コンクリート体上面高さ位置TKJTの高さ位置が一致している。通常、反射波データHSDにはリンギングにより複数の反応が生じるため、RCスラブ10の上面、舗装上面等の境界面の推定は容易ではない。これに対し本発明においては、鉄筋の深さ位置を推定することができるため、鉄筋および走行面における反射波の反応から、鉄筋と走行面との間の境界面の推定も可能になる点で好都合である。
【0035】
また、境界面反射波データ抽出工程(S-12)、走行面高さ位置抽出工程(S-13)および鉄筋コンクリート体上面高さ位置抽出工程(S-14)は、鉄筋コンクリート体上面高さ位置抽出工程(S-14)を省略することもできる。そして、上記説明においては、境界面反射波データ抽出工程(S-12)、走行面高さ位置抽出工程(S-13)および鉄筋コンクリート体上面高さ位置抽出工程(S-14)を鉄筋深さ位置抽出工程(S-10)の後に行う形態について説明しているが、この形態に限定されるものではない。特定深さ位置反射波プロット生成工程(S-4)を実行した後の任意のタイミングで、境界面反射波データ抽出工程(S-12)、走行面高さ位置抽出工程(S-13)の実行や、境界面反射波データ抽出工程(S-12)、走行面高さ位置抽出工程(S-13)および鉄筋コンクリート体上面高さ位置抽出工程(S-14)の実行をする形態を採用することもできる。
【0036】
以上の実施形態においては、特定深さ位置反射波プロットPRを作成する際に、第2分割反射波データBHSD2に分割する際における予め設定された所要深さ方向の範囲および走査方向における最小分割範囲内により囲まれた領域における複数のグレースケールの数値の平均値を採用する形態について説明したがこの形態に限定されるものではない。第2分割反射波データBHSD2に分割する際における予め設定された所要深さ方向の範囲および走査方向における最小分割範囲内により囲まれた領域の中央点におけるグレースケールの数値を代表値とする形態を採用することもできる。
【0037】
そして以上に説明した変形例の他、実施形態において説明した変形例等を適宜組み合わせた形態を採用することも可能である。
【符号の説明】
【0038】
10:RCスラブ(鉄筋コンクリート体)
12:分割エリア
20:電磁波レーダ
22:電磁波照射部,24:反射波受信部
30:計算機
32:記憶部,34:制御部
100:鉄筋位置推定装置(鉄筋コンクリート体鉄筋深さ位置推定装置)
BHSD1:第1分割反射波データ
BHSD2:第2分割反射波データ
FTD:フーリエ変換データ
HSD:反射波データ
KHSD:境界面反射波データ
KHSDm:最大境界面反射波データ
PGM:プログラム(鉄筋コンクリート体鉄筋深さ位置推定プログラム)
PR:特定深さ位置反射波プロット
SGD:走査方向合成データ
SKMT:走行面高さ位置
SPC:スペクトログラム
SSH:損傷範囲
TFI:鉄筋深さ位置
TKJT:鉄筋コンクリート体上面高さ位置
TKP:鉄筋配設間隔
VH:車両
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18