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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-23
(45)【発行日】2024-05-02
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/587 20100101AFI20240424BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20240424BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240424BHJP
   H01M 4/133 20100101ALI20240424BHJP
   H01M 4/1393 20100101ALI20240424BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240424BHJP
【FI】
H01M4/587
H01M4/38 Z
H01M4/36 D
H01M4/133
H01M4/1393
H01M4/62 Z
H01M4/36 E
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022065567
(22)【出願日】2022-04-12
(65)【公開番号】P2023156005
(43)【公開日】2023-10-24
【審査請求日】2023-04-28
(73)【特許権者】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 直利
(72)【発明者】
【氏名】佐野 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】続木 康平
(72)【発明者】
【氏名】森川 有紀
(72)【発明者】
【氏名】小島 ゆりか
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-200984(JP,A)
【文献】特開2019-091651(JP,A)
【文献】特開2018-113167(JP,A)
【文献】国際公開第2013/027686(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/587
H01M 4/38
H01M 4/36
H01M 4/133
H01M 4/1393
H01M 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極活物質を含む負極活物質層を備え、
前記負極活物質は、第1黒鉛粒子、前記第1黒鉛粒子の圧縮弾性率よりも大きい圧縮弾性率を有する第2黒鉛粒子、及びSi含有粒子を含み、
前記第1黒鉛粒子と前記Si含有粒子との接触長さLt1は、前記第2黒鉛粒子と前記Si含有粒子との接触長さLt2と同じか、前記接触長さLt2よりも大きい、非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記第1黒鉛粒子の質量基準の含有量は、前記第2黒鉛粒子の質量基準の含有量よりも小さい、請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
前記負極活物質の総量に対する前記第1黒鉛粒子の含有量は、10質量%以上30質量%以下である、請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項4】
前記負極活物質の総量に対する前記第2黒鉛粒子の含有量は、60質量%以上80質量%以下である、請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項5】
前記負極活物質の総量に対する前記Si含有粒子の含有量は、3質量%以上20質量%以下である、請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項6】
前記第1黒鉛粒子の平均粒子径D50は、前記第2黒鉛粒子の平均粒子径D50の0.30倍以上0.60倍以下である、請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項7】
前記Si含有粒子の平均粒子径D50は、前記第2黒鉛粒子の平均粒子径D50の0.15倍以上0.30倍以下である、請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項8】
前記Si含有粒子は、炭素ドメインと、サイズが50nm以下であるケイ素ドメインとを含むSiC粒子を含み、
前記SiC粒子中の酸素含有量は、7質量%以下である、請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項9】
負極活物質層を有する非水電解質二次電池の製造方法であって、
第1黒鉛粒子、前記第1黒鉛粒子の圧縮弾性率よりも大きい圧縮弾性率を有する第2黒鉛粒子、Si含有粒子、及び分散媒を含むスラリーを準備する工程と、
前記スラリーを用いて前記負極活物質層を形成する工程と、を含み、
前記スラリーを準備する工程は、
前記第1黒鉛粒子と前記Si含有粒子とを混合することにより混合物を調製する工程と、
上記混合物、前記第2黒鉛粒子、及び前記分散媒を用いて前記スラリーを調製する工程と、を含む、非水電解質二次電池の製造方法。
【請求項10】
前記スラリーは、さらにバインダを含む、請求項9に記載の非水電解質二次電池の製造方法。
【請求項11】
前記負極活物質層を形成する工程は、負極集電体上に前記スラリーを塗布する工程と、塗布した前記スラリーを乾燥する工程と、を含む、請求項9又は10に記載の非水電解質二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解質二次電池の負極を構成する負極活物質層に、径の異なる黒鉛粒子を用いることが知られている(例えば、特許文献1及び2等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2018/047939号
【文献】特開2016-103347号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
負極活物質層が黒鉛粒子とSi含有粒子とを含む場合、充放電時に発生する内部ストレスにより、負極活物質層を備える負極が膨張することがあった。
【0005】
本開示の目的は、負極活物質層を備える負極の膨化を抑制できる非水電解質二次電池及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
〔1〕 負極活物質を含む負極活物質層を備え、
前記負極活物質は、第1黒鉛粒子、前記第1黒鉛粒子の圧縮弾性率よりも大きい圧縮弾性率を有する第2黒鉛粒子、及びSi含有粒子を含み、
前記第1黒鉛粒子と前記Si含有粒子との接触長さLt1は、前記第2黒鉛粒子と前記Si含有粒子との接触長さLt2と同じか、前記接触長さLt2よりも大きい、非水電解質二次電池。
〔2〕 前記第1黒鉛粒子の質量基準の含有量は、前記第2黒鉛粒子の質量基準の含有量よりも小さい、〔1〕に記載の非水電解質二次電池。
〔3〕 前記負極活物質の総量に対する前記第1黒鉛粒子の含有量は、10質量%以上30質量%以下である、〔1〕又は〔2〕に記載の非水電解質二次電池。
〔4〕 前記負極活物質の総量に対する前記第2黒鉛粒子の含有量は、60質量%以上80質量%以下である、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の非水電解質二次電池。
〔5〕 前記負極活物質の総量に対する前記Si含有粒子の含有量は、3質量%以上20質量%以下である、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の非水電解質二次電池。
〔6〕 前記第1黒鉛粒子の平均粒子径D50は、前記第2黒鉛粒子の平均粒子径D50の0.30倍以上0.60倍以下である、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の非水電解質二次電池。
〔7〕 前記Si含有粒子の平均粒子径D50は、前記第2黒鉛粒子の平均粒子径D50の0.15倍以上0.30倍以下である、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の非水電解質二次電池。
〔8〕 前記Si含有粒子は、炭素ドメインと、サイズが50nm以下であるケイ素ドメインとを含むSiC粒子を含み、
前記SiC粒子中の酸素含有量は、7質量%以下である、〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の非水電解質二次電池。
〔9〕 負極活物質層を有する非水電解質二次電池の製造方法であって、
第1黒鉛粒子、前記第1黒鉛粒子の圧縮弾性率よりも大きい圧縮弾性率を有する第2黒鉛粒子、Si含有粒子、及び分散媒を含むスラリーを準備する工程と、
前記スラリーを用いて前記負極活物質層を形成する工程と、を含み、
前記スラリーを準備する工程は、
前記第1黒鉛粒子と前記Si含有粒子とを混合することにより混合物を調製する工程と、
上記混合物、前記第2黒鉛粒子、及び前記分散媒を用いて前記スラリーを調製する工程と、を含む、非水電解質二次電池の製造方法。
〔10〕 前記スラリーは、さらにバインダを含む、〔9〕に記載の非水電解質二次電池の製造方法。
〔11〕 前記負極活物質層を形成する工程は、負極集電体上に前記スラリーを塗布する工程と、塗布した前記スラリーを乾燥する工程と、を含む、〔9〕又は〔10〕に記載の非水電解質二次電池の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、負極活物質層を備える負極の膨化を抑制できる非水電解質二次電池及びその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態の負極を模式的に示す断面図である。
図2】実施形態の水電解質二次電池の製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(非水電解質二次電池)
本実施形態の非水電解質二次電池(以下「本電池」ともいう。)は、負極活物質を含む負極活物質層を備える。本電池は通常、負極、正極、及びセパレータを有する電極体と、電解液とを有する。本電池は、電極体と電解とを収容する外装体を含むことができる。電極体の厚みをTとし、外装体(ケース)の一対の側壁の間の距離をDとするとき、T/Dは好ましくは10以上200以下であり、より好ましくは20以上100以下である。後述するように、本電池は負極活物質層の膨化が抑制されているため、上記範囲のT/Dであっても電極体の膨張を許容することができる。本電池は、角型電池であることが好ましい。
【0010】
電極体は、負極の負極活物質層と正極の正極活物質層とがセパレータを介して積層された構造を有する。電極体は、巻回型であってもよく、積層型であってもよい。電極体は偏平状の電極体であることが好ましい。
【0011】
負極は、負極集電体上に形成された負極活物質層を有する。負極集電体は、例えば、銅及び銅合金等の銅材料を用いて構成された金属箔である。正極、セパレータ、及び電解は、本電池の分野で公知の材料を用いることができる。
【0012】
(負極活物質層)
図1は、実施形態の負極を模式的に示す断面図である。負極活物質層は通常、負極集電体10上に形成される。負極活物質層は負極活物質を含む。負極活物質は、第1黒鉛粒子11、第1黒鉛粒子11の圧縮弾性率[MPa]よりも大きい圧縮弾性率[MPa]を有する第2黒鉛粒子12、及びSi含有粒子15を含む。第1黒鉛粒子11及び第2黒鉛粒子12は、その表面に非晶質炭素で形成された被覆層を有していてもよい。Si含有粒子15はケイ素原子を含む粒子である。
【0013】
黒鉛粒子(第1黒鉛粒子又は第2黒鉛粒子)の圧縮弾性率[MPa]は、黒鉛粒子1粒を垂直方向に圧縮したときの圧縮応力及び圧縮変位量を測定し、圧縮ひずみ(=圧縮変位量/黒鉛粒子の平均粒子径D50(後述))圧縮応力除した値である。
【0014】
第1黒鉛粒子の圧縮弾性率は、好ましくは10MPa以上120MPa以下であり、より好ましくは10MPa以上100MPa以下である。第2黒鉛粒子の圧縮弾性率は、好ましくは140MPa以上250MPa以下であり、より好ましくは160MPa以上250MPa以下である。第1黒鉛粒子の圧縮弾性率と第2黒鉛粒子の圧縮弾性率との差(第2黒鉛粒子の圧縮弾性率-第1黒鉛粒子の圧縮弾性率)は、好ましくは20MPa以上240MPa以下であり、より好ましくは60MPa以上240MPa以下である。
【0015】
負極活物質層において、第1黒鉛粒子11とSi含有粒子15との接触長さLt1は、第2黒鉛粒子12とSi含有粒子15との接触長さLt2と同じか、接触長さLt2よりも大きい。接触長さLt1は、接触長さLt2よりも大きいことが好ましい。接触長さLt1及びLt2は、負極活物質層の断面SEM観察によって次のように算出することができる。断面SEM観察により測定されるSi含有粒子15の1粒子の輪郭部分の長さをLaとし、長さLaのうちの第1黒鉛粒子11との接触部分の合計長さをLb1とし、第2黒鉛粒子12との接触部分の合計長さをLb2とする。ここで、負極活物質層がバインダを含む場合、長さLb1には、バインダを介してSi含有粒子15と第1黒鉛粒子11とが接触している場合を含み、長さLb2には、バインダを介してSi含有粒子15と第2黒鉛粒子12とが接触している場合を含む。長さLaに対する長さLb1及びLb2の割合Lb1/La及びLb2/Laを、それぞれ接触長さLt1及びLt2とする。負極活物質層において、好ましくは、接触長さLt1が0.5以上1.0以下であり、かつ、接触長さLt2が0以上0.5以下であり、より好ましくは、接触長さLt1が0.7以上1.0以下であり、かつ、接触長さLt2が0以上0.3以下である。
【0016】
負極活物質層において接触長さLt1及びLt2が上記の範囲内であることにより、図1に示すように、Si含有粒子15の周囲に第1黒鉛粒子11が存在し、この第1黒鉛粒子11の外側に第2黒鉛粒子12が存在している状態が形成されていると考えられる。Si含有粒子15は本電池の充放電に伴って膨張及び収縮して内部ストレスを発生しやすいが、本電池ではSi含有粒子15の周囲に第1黒鉛粒子11が多く存在している。第1黒鉛粒子11は圧縮弾性率が相対的に小さく軟らかいため、Si含有粒子15の膨張及び収縮に追従して負極活物質の隙間に入り込むように変形できる。これにより、上記内部ストレスを緩和し負極の膨化を抑制できる。一方、圧縮弾性率が相対的に大きい第2黒鉛粒子12は相対的に硬く、本電池の充放電に伴う膨化量も小さい。このような第2黒鉛粒子12がSi含有粒子15及び第1黒鉛粒子11の外側に存在するため、Si含有粒子15の膨張及び収縮、並びに第1黒鉛粒子11の変形が生じても、負極活物質層の変形を抑制でき、負極の膨化を抑制できる。また、接触長さLt1及びLt2が上記の範囲内であることにより、Si含有粒子15と第1黒鉛粒子11との密着性が維持されやすく、導電パスが切断されにくいため、本電池の充放電に伴う容量維持率を向上できる。
【0017】
負極活物質層において、第1黒鉛粒子の質量基準の含有量は、第2黒鉛粒子の質量基準の含有量よりも小さいことが好ましい。第1黒鉛粒子の上記含有量は、第2黒鉛粒子の上記含有量の0.1倍以上0.6倍以下であってもよく、0.2倍以上0.6倍以下であってもよく、0.2倍以上0.5倍以下であってもよい。
【0018】
負極活物質層に含まれる負極活物質の総量に対する第1黒鉛粒子11の含有量は、好ましくは10質量%以上30質量%以下であり、15質量%以上25質量%以下であってもよい。負極活物質層に含まれる負極活物質の総量に対する第2黒鉛粒子12の含有量は、好ましくは60質量%以上80質量%以下であり、65質量%以上75質量%以下であってもよい。負極活物質層に含まれる負極活物質の総量に対する第1黒鉛粒子11及び第2黒鉛粒子12の総含有量は、好ましくは80質量%以上97質量%以下であり、90質量%以上95質量%以下であってもよい。負極活物質層に含まれる負極活物質の総量に対するSi含有粒子15の含有量は、好ましくは3質量%以上20質量%以下であり、5質量%以上10質量%以下であってもよい。負極活物質層における各負極活物質の含有量が上記の範囲内であることにより、本電池の充放電に伴って負極が膨化することをより一層抑制できる。
【0019】
第1黒鉛粒子11の平均粒子径D50(以下「D50」ともいう。)は、第2黒鉛粒子12のD50の0.20倍以上0.70倍以下であってもよく、好ましくは0.30倍以上0.60倍以下である。Si含有粒子15のD50は、第2黒鉛粒子12のD50の0.10倍以上0.35倍以下であってもよく、好ましくは0.15倍以上0.30倍以下である。第2黒鉛粒子12のD50は、好ましくは12μm以上30μm以下であり、より好ましくは14μm以上25μm以下である。第1黒鉛粒子11、第2黒鉛粒子12及びSi含有粒子15のD50が上記の範囲内であることにより、負極活物質層においてSi含有粒子15の膨張及び収縮に伴う内部ストレスを緩和しやすく、負極の膨化を抑制しやすい。また、導電パスの切断を抑制して容量維持率をより一層向上できる。本明細書における平均粒子径D50は、体積基準の粒度分布において粒子径が小さい方からの頻度の累積が50%になる粒子径である。体積基準の粒度分布は、レーザ回折式粒度分布測定装置(島津製作所製の「SALD-2200」等)により測定できる。
【0020】
Si含有粒子15は、例えばケイ素単体の粒子、SiOx粒子、SiC(多孔質炭素粒子内にケイ素のナノ粒子が分散されたもの)粒子等が挙げられ、好ましくはSiC粒子である。Si含有粒子15は、表面が非晶質炭素により被覆されていてもよい。
【0021】
SiC粒子は、炭素ドメインと、サイズが50nm以下であるケイ素ドメインとを含み、SiC粒子中の酸素含有量が7質量%以下であることが好ましい。このようなSiC粒子を含むことにより、SiC粒子の割れを抑制することができ、酸素含有量が少ないため電池容量を向上できる。SiC粒子に含まれる酸素は、炭素ドメインに含まれていてもよく、ケイ素ドメインに含まれていてもよく、両方に含まれていてもよい。ケイ素ドメインのサイズは、集束イオンビーム(FIB)加工により取り出した負極活物質層を透型過電子顕微鏡(TEM)で観察し、エネルギー分散型X線分析(EDX)マッピングにより元素(Si,C)を確認した後、明視野像(BF像)の高角度散乱暗視野像(HAADF像)で確認した形状及び得られるコントラストから判断できる。酸素含有量は、酸素分析装置を用い、不活性ガス中の加熱溶融法により抽出した酸素量により決定できる。SiC粒子の平均粒子径D50は、好ましくは2μm以上8μm以下であり、より好ましくは3μm以上5μm以下である。SiC粒子は内部に空隙を有していてよく、空隙率は好ましくは5体積%以上である。SiC粒子は、表面が非晶質炭素により被覆されていてもよい。
【0022】
負極活物質層は、さらにバインダ及び繊維状炭素を含むことができる。バインダとしては、スチレンブタジエンラバー(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、及びポリアクリル酸(PAA)等が挙げられる。繊維状炭素としては、カーボンナノチューブ(CNT)が挙げられる。繊維状炭素を含むことにより、負極活物質間の導電パスを維持しやすくなり、本電池の容量維持率を向上できる。
【0023】
SBRの含有量は、負極活物質層の総量に対して好ましくは0.5質量%以上5.0質量%以下であり、より好ましくは1.0質量%以上3.0質量%以下である。CMCの含有量は、負極活物質層の総量に対して好ましくは0.3質量%以上3.0質量%以下であり、より好ましくは0.5質量%以上1.5質量%以下である。PAAの含有量は、負極活物質層の総量に対して好ましくは0.5質量%以上5.0質量%以下であり、より好ましくは1.0質量%以上3.0質量%以下である。
【0024】
CNTは、炭素六角網面が1層で1本の円筒形状を構成する炭素ナノ構造体(SWCNT)であることが好ましい。SWNCTの長さは0.01μm以上5μm以下であることができ、SWCNTの径は50nm以下であることが好ましく、15nm以下であることがより好ましい。
【0025】
負極活物質層の厚みは、好ましくは100μm以上260μm以下であり、より好ましくは120μm以上200μm以下である。
【0026】
負極活物質層の充填密度は、好ましくは1.20g/cm以上1.70g/cm以下であり、より好ましくは1.45g/cm以上1.65g/cm以下である。負極活物質層の空隙率は、20%以上35%以下であることが好ましい。負極活物質層の充填密度は、負極活物質層の目付量[g/m]を厚みで除して算出することができる。負極活物質層の空隙率[%]は、{1-(充填密度/2.2)}×100として算出できる。
【0027】
(非水電解質二次電池の製造方法)
図2は、実施形態に係る非水電解質二次電池の製造方法を示すフローチャートである。本電池の製造方法は、第1黒鉛粒子、第1黒鉛粒子の圧縮弾性率[MPa]よりも大きい圧縮弾性率[MPa]を有する第2黒鉛粒子、Si含有粒子、及び分散媒を含むスラリーを準備する工程と、準備したスラリーを用いて負極活物質層を形成する工程とを含む。スラリーを準備する工程は、第1黒鉛粒子とSi含有粒子とを混合することにより混合物を調製する工程と、混合物、第2黒鉛粒子、及び分散媒を用いてスラリーを調製する工程とを含む。
【0028】
負極活物質層を形成する工程は、負極集電体上にスラリーを塗布する工程と、塗布したスラリーを乾燥する工程とを含むことが好ましい。負極活物質層を形成する工程は、乾燥したスラリーを圧縮する工程を含むことができる。
【0029】
本電池の製造方法では、まず混合物を調製し、続いて混合物、第2黒鉛粒子及び分散媒を用いてスラリーを調製し、当該スラリーを用いて負極活物質層を形成している。これにより、図1に示すように、接触長さLt1が接触長さLt2と同じか、接触長さLt2よりも大きい負極活物質層を形成することができる。
【0030】
第1黒鉛粒子、第2黒鉛粒子及びSi含有粒子は、非水電解質二次電池で説明したものを用いることができる。スラリーに含まれる分散媒としては、水(イオン交換水等)が挙げられる。スラリーは、さらに上記したバインダ及び繊維状炭素を含むことができる。
【0031】
スラリーを調製するために用いる原料としての第1黒鉛粒子の比表面積BETは、1.0m/g以上5.0m/g以下であってもよく、2.5m/g以上4.5m/g以下であってもよい。スラリーを形成するために用いる原料としての第2黒鉛粒子の比表面積BETは、好ましくは0.5m/g以上3.5m/g以下であり、より好ましくは1.0m/g以上2.5m/g以下である。比表面積BETは、ガス吸着法により測定される吸着等温線において、BET多点法により算出される比表面積である。比表面積BETが上記の範囲内である第2黒鉛粒子は、本電池の充放電に伴う膨張量を小さくでき、圧縮弾性率の大きい硬い粒子といえる。
【0032】
混合物を調製する工程は、第1黒鉛粒子及びSi含有粒子の他に、バインダ、繊維状炭素、及び分散媒のうちの少なくとも1つを混合して混合物を調製してもよい。
【0033】
スラリーを調製する工程は、下記[a]~[d]のいずれの工程であってもよい。
[a]混合物及び第2黒鉛粒子を混合し、これを分散媒に投入する工程、
[b]混合物、第2黒鉛粒子、及びバインダを混合し、これを分散媒に投入する工程、
[c]分散媒に、混合物及び第2黒鉛粒子を別々に投入する工程、
[d]混合物及びバインダを混合したものを分散媒に投入して得られた第1混練体と、第2黒鉛粒子及びバインダを混合したものを分散媒に投入して得られた第2混練体と、を混合する工程。
【実施例
【0034】
以下、実施例及び比較例を示して本開示をさらに具体的に説明する。
[第1黒鉛粒子及び第2黒鉛粒子の圧縮弾性率の測定]
島津微小圧縮試験機MCT-211を用い、黒鉛粒子(第1黒鉛粒子又は第2黒鉛粒子)1粒を垂直方向に圧縮したときの圧縮応力及び圧縮変位量を測定した。圧縮応力を圧縮ひずみ(=圧縮変位量/黒鉛粒子の平均粒子径D50)除した値(圧縮応力/圧縮ひずみ)を算出した。この値を、D50が同等の黒鉛粒子5粒について算出し、その平均値を、各黒鉛粒子の圧縮弾性率[MPa]とした。
【0035】
[第1黒鉛粒子及び第2黒鉛粒子の比表面積BETの測定]
全自動比表面積計Macsorb Model-1201(Nガスを使用)を用い、所定の重量の黒鉛粒子(第1黒鉛粒子又は第2黒鉛粒子)をセル内に挿入して測定を行い、単位重量あたりの比表面積(BET)を算出した。
【0036】
〔実施例1〕
(正極板(正極)の作製)
正極活物質としてのリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(NCM)100質量部に対し、導電材としてのアセチレンブラック(AB)1質量部、及び、バインダとしてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)1質量部を混合して正極合剤を用意した。正極合剤及びN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を混合して、ペースト状の正極合剤スラリーを作製した。正極集電体としてのアルミニウム箔(厚み15μm)上に正極合剤スラリーを塗布し乾燥して圧縮した後、これを切り出して正極板とした。
【0037】
(負極板(負極)の作製)
負極活物質として表1に示す第1黒鉛粒子を用い、Si含有粒子としてSiC粒子(D50:3μm)を用い、バインダとしてポリアクリル酸(PAA)を用い、これらをドライミックスして第1混合粉体を得た。第1混合粉体に、繊維状炭素としてのSWCNT(固形分率2重量%の水溶性ペースト)及び分散媒としての水を投入して混練し、第1混練体を得た。
【0038】
負極活物質として表1に示す第2黒鉛粒子を用い、バインダとしてCMCを用い、これらをドライミックスして第2混合粉体を得た。第2混合粉体に、分散媒としての水を投入して混練し、第2混練体を得た。
【0039】
第1混練体と第2混練体とを混合し、これにバインダとしてのSBR、及び水を投入して希釈混合し、負極合剤スラリー(スラリー)を得た。負極合剤スラリーは、第1黒鉛粒子:第2黒鉛粒子:SiC:SWCNT:CMC:PAA:SBR=20:70:10:0.5:1:2:2(重量比)となるように、撹拌造粒機を用いて調製した。
【0040】
負極集電体としての銅箔(厚み10μm)上に、負極合剤スラリーを塗布して乾燥し、圧縮することにより負極活物質層を形成し、これを切り出して負極板とした。負極板を真空乾燥した後、負極活物質層の目付量及び負極板の厚みを測定したところ、それぞれ220g/m及び152μmであった。負極活物質層の充填密度(=目付量/厚み)は1.55g/cmであり、空隙率(={1-(充填密度/2.2)}×100)は30%であった。
【0041】
(電池の作製)
正極板及び負極板のそれぞれにリードを取り付け、セパレータを介して正極板と負極板とを積層して電極体を作製した。電極体をアルミニウムラミネートフィルムで構成される外装体内に挿入し、電解液を注入し、外装体の開口部を封止して電池を得た。電解液は、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とジメチルカーボネート(DMC)とを体積比でEC:EMC:DMC=20:40:40で含む混合溶媒に、LiPFを1mol/Lの濃度で溶解させたものを用いた。外装体の側壁間の距離Dと電極体の厚みTとの比T/Dは20であった。
【0042】
〔実施例2~6、比較例1〕
表1に示す第1黒鉛粒子、第2黒鉛粒子、及びSi含有粒子を用い、これらの含有比(質量比)を表1に示す含有比としたこと以外は、実施例1の手順で電池を作製した。
【0043】
[負極活物質層における接触長さLt1及びLt2の算出]
負極活物質層の断面SEM観察により測定されるSi含有粒子1粒子の輪郭部分の長さをLaとし、長さLaのうちの第1黒鉛粒子との接触部分の合計長さをLb1とし、第2黒鉛粒子の接触部分の合計長さをLb2とする。長さLb1には、バインダを介してSi含有粒子と第1黒鉛粒子とが接触している場合を含み、長さLb2には、バインダを介してSi含有粒子と第1黒鉛粒子とが接触している場合を含めた。長さLaに対する長さLb1及びLb2の割合Lb1/La及びLb2/Laを、それぞれ接触長さLt1及びLt2とした。これをSi含有粒子30粒について測定し、その平均値を算出した。結果を表1に示す。
【0044】
[電池の容量維持率の評価]
温度25℃の環境下において、上記で作製した電池のCCCV充電(充電電流0.4C、終止電圧4.2V、終止電流0.1C)及びCC放電(放電電流0.4C、終止電圧2.5V)を1サイクル行い、このときの容量を初期容量とした。CCCV充電及びCC放電を300サイクル行い、このときの容量を300サイクル後の容量とした。下記式にしたがって容量維持率を算出した。結果を表1に示す。
容量維持率[%]=(300サイクル後の容量/初期容量)×100
【0045】
[負極厚みの評価]
電池の作製で用いた負極の厚みを初期の厚みとした。電池の容量維持率の評価で300サイクルの充放電を行った電池を、2.5Vまで放電し、アルゴン雰囲気下で解体し、負極を取り出した。取り出した負極をDMCに浸漬して洗浄した後、乾燥して負極の厚みを測定し、300サイクル後の厚みとした。下記式にしたがって負極の厚みの変化率を算出した。結果を表1に示す。
厚みの変化率[%]={(300サイクル後の厚み/初期の厚み)-1}×100
【0046】
【表1】
【0047】
比較例1では、第1黒鉛粒子の圧縮弾性率が第2黒鉛粒子の圧縮弾性率よりも大きい。そのため、Si含有粒子の周囲に圧縮弾性率の大きい黒鉛粒子が配置され、その外側に圧縮弾性率の小さい黒鉛粒子が配置されるため、厚みの変化率が大きくなったと考えられる。また、比較例1では、充放電により導電パスが切断され、容量維持率が低下したと考えられる。これに対し、実施例1~6では、Si含有粒子の周囲に圧縮弾性率の小さい黒鉛粒子が配置され、その外側に圧縮弾性率の大きい黒鉛粒子が配置されるため、厚みの変化率及び容量維持率が良好であると考えられる。実施例1と実施例5との対比から、第1黒鉛粒子のD50が相対的に小さい方が厚みの変化率及び容量維持率をより向上できることがわかる。実施例1と実施例6との対比から、第1黒鉛粒子の含有量が相対的に小さい方が、厚みの変化率をより向上できることがわかる。
【符号の説明】
【0048】
10 負極集電体、11 第1黒鉛粒子、12 第2黒鉛粒子、15 Si含有粒子。
図1
図2