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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-23
(45)【発行日】2024-05-02
(54)【発明の名称】質量分析計及び質量分析計の校正方法
(51)【国際特許分類】
   H01J 49/00 20060101AFI20240424BHJP
   H01J 49/04 20060101ALI20240424BHJP
   H01J 49/14 20060101ALI20240424BHJP
   H01J 49/42 20060101ALI20240424BHJP
   H01J 49/26 20060101ALI20240424BHJP
【FI】
H01J49/00 090
H01J49/04 900
H01J49/14 700
H01J49/42 400
H01J49/26
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2022523940
(86)(22)【出願日】2019-10-22
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-23
(86)【国際出願番号】 EP2019078764
(87)【国際公開番号】W WO2021078368
(87)【国際公開日】2021-04-29
【審査請求日】2022-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】507102296
【氏名又は名称】ライボルト ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Leybold GmbH
【住所又は居所原語表記】Bonner Str. 498, D-50968 Koeln, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 博子
(74)【代理人】
【識別番号】100196221
【弁理士】
【氏名又は名称】上潟口 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】ゴルクホヴァー レオニド
(72)【発明者】
【氏名】ブラヒトホイザー イェシカ
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-155677(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0067336(US,A1)
【文献】特開2009-264950(JP,A)
【文献】特表2015-536453(JP,A)
【文献】特開2001-021537(JP,A)
【文献】特開平04-110653(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 49/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量分析計(1)であって、
前記質量分析計(1)の電離域(5)にイオン化すべき試料ガス(4)を供給するように適合されたガス注入口(2)と、
前記電離域(5)にイオン化すべき校正ガス(7)を供給するように適合された校正ユニット(6)と、
前記電離域(5)において前記試料ガス(4)及び/又は前記校正ガス(7)をイオン化するように適合されたイオン化ユニット(8)と、
を備え、
前記校正ユニット(6)は、原料物質(10)を蒸発させることによって前記校正ガス(7)を生成する少なくとも1つの蒸発源(9)を含み、
前記原料物質(10)及び前記電離域(5)は、前記質量分析計(1)のいずれかのコンポーネントによって遮断されない見通し線(14a)に沿って配置され、
前記原料物質(10)は、好ましくはAl、Co、Mn、Bi、Ni、Fe、Cu及び貴金属、とりわけAuから成る群から選択された金属であり、または前記原料物質(10)は、金属窒化物及び金属酸化物、とりわけタンタル、バナジウム、タングステン、レニウム又はイットリウムから成る群から選択される、
ことを特徴とする質量分析計。
【請求項2】
前記蒸発源は熱蒸発源(9)であり、好ましくは抵抗蒸発源、電子ビーム蒸発源又はエフュージョン蒸発源である、
請求項1に記載の質量分析計。
【請求項3】
前記抵抗蒸発源(9)は、前記原料物質(10)で少なくとも部分的に被覆された加熱フィラメント(26)を含む、
請求項2に記載の質量分析計。
【請求項4】
前記蒸発源(9)は、パルスレーザー堆積(PLD)蒸発源である、
請求項1に記載の質量分析計。
【請求項5】
好ましくは前記校正ガス(7)の圧力(pC)を決定する少なくとも1つのセンサ(15a、15b)をさらに備え、該センサ(15a、15b)は、好ましくは前記電離域(5)への見通し線(14a)に沿って、及び/又は前記原料物質(10)への見通し線(14a、14b)に沿って配置される、
請求項1から4のいずれか1項に記載の質量分析計。
【請求項6】
前記センサは圧力センサ(15a)であり、好ましくは電離真空計(15b)であり、より好ましくは冷陰極真空計、とりわけペニング真空計又は熱陰極真空計、とりわけベイヤードアルパート真空計又はエクストラクタ電離真空計である、
請求項5に記載の質量分析計。
【請求項7】
前記質量分析計(1)の前記圧力センサ(15a、15b)又は制御ユニット(13)は、前記圧力センサ(15a)によって決定された前記校正ガス(7)の前記圧力(pC)に基づいて前記校正ガス(7)の流量(QC)を決定するように適合される、
請求項6に記載の質量分析計。
【請求項8】
前記センサ(15b)は、好ましくは前記校正ガス(7)の流量(QC)を決定する水晶振動子マイクロバランスである、
請求項5から7のいずれか1項に記載の質量分析計。
【請求項9】
前記原料物質(10)と前記電離域(5)との間の見通し線(14a)及び/又は前記原料物質(10)と前記圧力センサ(15b)との間の見通し線(14b)を遮断する可動カバー(16)をさらに備える、
請求項5から8のいずれか1項に記載の質量分析計。
【請求項10】
前記イオン化ユニット(8)は電子イオン化源である、
請求項1から9のいずれか1項に記載の質量分析計。
【請求項11】
前記試料ガス(4)及び/又は前記校正ガス(7)のイオン(7a、7b)を貯蔵するイオントラップ(18)をさらに備え、前記電離域(5)は、前記イオントラップ(18)の内部に形成される、
請求項1から10のいずれか1項に記載の質量分析計。
【請求項12】
質量分析計(1)の校正方法であって、
前記質量分析計(1)の少なくとも1つの蒸発源(9)において原料物質(10)を蒸発させることによって校正ガス(7)を生成するステップと、
前記校正ガス(7)を、前記原料物質(10)と、前記質量分析計(1)のいずれかのコンポーネントによって遮断されない見通し線(14a)に沿って配置された電離域(5)に供給し、前記電離域(5)において前記校正ガス(7)をイオン化するステップと、
前記質量分析計(1)の検出器(12)において、前記イオン化された校正ガス(7)を検出するステップと、
前記検出されたイオン化された校正ガス(7)に基づいて前記質量分析計(1)を校正するステップと、
含み、
前記原料物質(10)は、好ましくはAl、Co、Mn、Bi、Ni、Fe、Cu及び貴金属、とりわけAuから成る群から選択された金属であり、または前記原料物質(10)は、金属窒化物及び金属酸化物、とりわけタンタル、バナジウム、タングステン、レニウム又はイットリウムから成る群から選択される、ことを特徴とする方法。
【請求項13】
前記質量分析計(1)を校正するステップは、前記イオン化された校正ガス(7)を検出する際には前記検出器(12)の信号強度(Sk)に基づき、前記校正ガス(7)を前記電離域(5)に供給する際には少なくとも1つの圧力センサ(15a、15b)によって検出された圧力(pc)に基づいて、前記質量分析計(1)の感度(Kk)を決定するステップを含む、
請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記校正ガス(7)を前記電離域(5)に供給する前及び/又は後に、前記質量分析計(1)内の真空部品(3)の表面(3a)を前記原料物質(10)のゲッター材料(17)で被覆するステップをさらに含む、
請求項12又は13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量分析計及び質量分析計の校正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析計の質量スケール及び信号強度/感度の校正は、一般にガス注入口を介して質量分析計の真空システムに校正ガスを導入することによって行われる。通常、校正ガスは、既知の原子質量又は(同等に)質量対電荷比(m/z)を有する成分で構成される。校正ガスの成分の既知の原子質量は、結果として得られる質量スペクトルに、校正ガスの成分の質量対電荷比に対応する1又は2以上の校正ピークを生じる。校正ガスの成分が既知であるため、この校正ピークは、試料ガスの未知の成分に対応するピークの質量対電荷比を決定できる質量スケールとしての役割を果たすことができる。
【0003】
定量的測定のためには、特定のm/z比において質量分析計によって検出された信号強度を、試料ガスの対応する成分のイオン数又は分圧と相関させる必要がある。この目的のために、質量分析計の校正時には、特定のm/z比の場合の質量分析計の感度を決定する必要がある。この目的のために、例えばRobert E.Ellefsonによる論文「分圧及び組成分析の原位置QMS校正のための方法(Methods for in situ QMS calibration for partial pressure and composition analysis)」、Vacuum101、(2014)、423-432、に記載されるような校正プロセスを実行することができる。
【0004】
通常、質量分析計への校正ガスの導入では、さらなるガス導入システムのためのコストが発生する。しかしながら、多くのUHV(超高真空)又はXHV(極高真空)システムでは、一般にさらなるガス注入口は望ましくない。さらに、校正ガスは、質量分析計の、具体的には質量分析計の真空システムの汚染を引き起こすこともある。
【0005】
周期表の最も重い揮発性の非放射性元素は、124~136a.m.uの範囲の原子質量を有する複数の同位体を有するキセノンである。従って、揮発性の(非放射性の)化学元素から成る校正ガスを使用した場合には、質量分析計の質量スケールを最大で136a.m.uまでしか校正できない可能性がある。さらに、Xeの軽い同位体では、校正の実行時に干渉が起きる恐れもある。また、Xeは、複数の同位体の存在に起因して質量分析計の信号強度の校正/感度の決定への適格性も限られる。一方では、異なるa.m.u.を有するXe同位体の信号強度をタイムリーに測定する必要があり、他方では、校正ガス中の異なるXe同位体の割合をあらかじめ知っておく(十分に定めておく)必要がある。
【0006】
150a.m.u.を上回るような大きな原子質量を有する分子又は原子は不揮発性又は低揮発性であるため、その質量スケールの校正が複雑である。より大きな分子、例えば有機分子又はSF6などの分子はイオン化中に断片化され、従って複数の異なるより小さな原子質量を有するイオン化された断片化生成物を生じる。これらの断片化生成物の割合をそれぞれの測定条件下で決定し又は知っておく必要があり、このことが校正プロセスを複雑にする。さらに、ドデカン(C1226、170a.m.u.)などの150a.m.u.を上回る質量を有する実質的に全ての有機分子は、質量分析計の真空部品及びその環境に汚染物質として堆積し、高温でしか除去できないためかなりの時間がかかってしまう。200a.m.u.の範囲内の良好な校正が強く必要とされる1つの例に、広く使用されている四重極型質量分析計(QMS)がある。これらは、前史(prehistory)、環境及び温度のような異なる要因に大きく依存する高質量の信号の識別で知られている。
【0007】
米国特許第4,847,493号には、質量分析計を校正する装置及び方法が開示されている。質量分析計のイオン源アセンブリ及び分析部を含む同じハウジング内に校正ガスタンクが配置される。校正ガス及び試料ガスは、それぞれ独自の関連するバルブと連通する。これらの2つのバルブは、試料ガス及び校正ガスのうちの選択された一方のガスのイオン源アセンブリへの流れを制御する。
【0008】
米国特許第6,797,947B2号には、質量分析計のポストソース段(post-source stage)において校正(ロック)質量を内部的に導入することによって質量分析計を校正する装置及び方法が開示されている。この質量校正装置は、質量分析器に被分析イオンを供給するためのイオン源と、イオン源と質量分析器との間に位置するイオン光学系と、イオン光学系に隣接するロックマス源(lock mass source)及びロックマスイオン化源(lock mass ionization source)を含む、イオン光学系内でロックマスイオン(lock mass ions)を生成するためのロックマスイオン源(source of lock mass ions)とを含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】米国特許第4,847,493号明細書
【文献】米国特許第6,797,947号明細書
【非特許文献】
【0010】
【文献】Robert E.Ellefson著、「分圧及び組成分析の原位置QMS校正のための方法(Methods for in situ QMS calibration for partial pressure and composition analysis)」、Vacuum101、(2014)、423-432
【文献】インターネット<http//www.mbe-komponenten.de/products/pdf/data-sheet-bfm.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、特に大きな原子質量の場合の質量分析計の校正の単純化を可能にする質量分析計及び質量分析計の校正方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の1つの態様は、質量分析計の電離域にイオン化すべき試料ガスを供給するように適合されたガス注入口と、(同じ)電離域にイオン化すべき校正ガスを供給するように適合された校正ユニットと、電離域において試料ガス及び/又は校正ガスをイオン化するように適合されたイオン化ユニットとを備え、校正ユニットが、原料物質(source material)を蒸発させることによって校正ガスを生成する少なくとも1つの蒸発源を含む、質量分析計に関する。質量分析計は、通常通りに分析部も含む。分析部は、試料ガス/校正ガスの特定の質量対電荷比を選択するための質量分析器/質量フィルタと、イオン化された試料ガス及び/又は校正ガスを検出するための検出器とを含む。
【0013】
通常、校正ユニット、具体的には蒸発源は、イオン化ユニット及び分析部を含む同じハウジング内に配置される。校正中には、イオン化ユニットによって、典型的にはイオン化エネルギー入力/放射線(例えば、電子、レーザー放射線、...)を提供することによって、電離域内で校正ガスがイオン化され、校正ガスの少なくとも一部がイオン化される。校正ガスのイオンは、質量分析計において試料ガス(被分析物)と同じ方法で処理され、すなわち質量分析器を通過した後に質量分析計の検出器によって検出される。
【0014】
蒸発源における原料物質の蒸発によって校正ガスが生成されるので、電離域に校正ガスを供給するさらなるガス注入システムは不要である。さらに、原料物質は136a.m.u.以上を有する化学元素、例えば標準状態において不揮発性である金属材料とすることができる。このような化学元素の原子から成る校正ガスはイオン化中に断片化されず、従って最大約200a.m.u.の大きな原子質量の校正を単純化することができる。化学元素の特定の同位体の形態、或いは27Al又は197Auなどの安定同位体を1つだけ有する化学元素の形態の原料物質を使用する場合には、校正をさらに単純化することができる。さらに、例えばステンレス鋼で形成された質量分析計の真空部品の表面上で1に近い付着確率を有する原料物質を校正に使用することもできる。この場合、校正後に真空部品に堆積する原料物質の原子は、校正ガスの影響を受ける真空部品の表面に付着して、質量分析計の他の部品及び質量分析計が取り付けられた真空システムを汚染しない。
【0015】
1つの実施形態では、蒸発源、より正確には原料物質、及び電離域が、見通し線に沿って、すなわち一般に質量分析計のいずれかのコンポーネントによって遮断されない直線に沿って配置される。このようにして、基本的に直線に沿って伝搬するビームとして校正ガスを蒸発源から電離域に供給することができる。このことが有利な理由は、一般に校正ガスは中性原子又は中性分子のみを含み、従って電離域に到達するまでにイオン光学系などによって偏向できないからである。とりわけイオン化ユニットが電離域を(少なくとも部分的に)取り囲んでいる場合には、校正ユニット又は蒸発源をイオン化ユニットの内部に配置することもできる。
【0016】
さらなる実施形態では、蒸発源が熱蒸発源であり、好ましくは抵抗蒸発源、電子ビーム蒸発源又はエフュージョン蒸発源(effusion evaporation source)である。熱蒸発源では、原料物質が融点又は沸点に近い温度まで加熱され、従って原料物質を気体相に移行させる。抵抗蒸発源では、原料物質が配置されたフィラメント、抵抗ボート(resistive boat)又はるつぼなどの抵抗体に大電流が流される。電子ビーム蒸発源では、高エネルギー電子の集束ビームを使用して原料物質が直接加熱される。通常、エフュージョン蒸発源は、固形の原料物質を収容するるつぼ、原料物質の温度を制御する電熱線、冷却器及び熱電対を含む。
【0017】
1つの展開では、抵抗蒸発源が、原料物質で少なくとも部分的に被覆された加熱フィラメントを含む。被覆を行うには、典型的には(例えば、金又はアルミニウム製の)金属線の形態のいくつかの原料物質をフィラメントに引っ掛ける。フィラメントを加熱すると、金属線がはんだごて上のはんだのように溶けてフィラメントに沿って流れ、例えば原料物質の液滴の形態の被覆を生じる。このようなフィラメントを加熱すると、例えばタングステン製の加熱されたフィラメントから原料物質が蒸発する。
【0018】
さらなる実施形態では、蒸発源がパルスレーザー堆積(PLD)蒸発源である。パルスレーザー堆積では、真空チャンバ内で高出力パルスレーザービームを集光して原料物質の標的に命中させ、原料物質がレーザービームによって溶発して(典型的にはプラズマプルームの形で)標的から気化する。
【0019】
さらなる実施形態では、原料物質が、好ましくはAl、Co、Mn、Bi、Ni、Fe、Cu及び貴金属、とりわけAuから成る群から選択された金属である。Auは、高い原子質量と197a.m.u.の単一の安定同位体のみとを有しているため校正ガスの原子のソースとして特に適していることが証明されている。しかしながら、他の金属、特にAlなどの単一の安定同位体を有する化学元素を原料物質として使用することもできる。原則として、鉛(Pb)よりも高い飽和蒸気圧を有する化学元素は、質量分析計の真空システム、特に真空ダクト又は真空ハウジングなどの真空部品を汚染する恐れがあるため(いずれにしても真空システムで使用しない場合には)原料物質としては避けるべきである。
【0020】
さらなる実施形態では、原料物質が、金属窒化物及び金属酸化物、とりわけタンタル、バナジウム、タングステン、レニウム又はイットリウムの窒化物及び酸化物から成る群から選択される。窒化物及び酸化物以外の化合物も蒸発源の原料物質として機能することができる。上述したように、特に質量分析計の真空部品の表面上で高い付着確率を有する化学元素又は化合物が好ましい原料物質である。
【0021】
さらなる実施形態では、質量分析計が、好ましくは校正ガスの圧力(又はバックグラウンド圧力)を決定する少なくとも1つのセンサを含み、このセンサは、電離域との見通し線に沿って、及び/又は原料物質との見通し線に沿って配置されることが好ましい。センサは、原料物質の蒸発速度を制御又は調節するために使用することができる。この目的のために、少なくとも1つのセンサは、典型的には質量分析計の一部である制御ユニットと信号通信することができる。制御ユニットは、例えばマイクロプロセッサ、プログラマブルコントローラ、コンピュータ又はその他の電子装置などの好適なハードウェア及び/又はソフトウェアの形態のプログラマブル装置である。制御ユニットは、校正ユニットに統合することも、又は質量分析計内の別の場所に配置することもできる。
【0022】
1つの展開では、センサが圧力センサであり、好ましくは電離真空計であり、さらに好ましくは冷陰極真空計、特にペニング真空計又は熱陰極真空計、特にベイヤードアルパート真空計又はエクストラクタ電離真空計である。電離真空計は、質量分析計に含まれる残留ガス(この事例では校正ガス又はバックグラウンドガス)のイオン化によるガス圧を測定するために使用される。このような圧力センサに供給される(残留)ガスを電子ビームイオン化を通じてイオン化する電子を生成するために熱陰極又は冷陰極が使用される。イオン化ユニットが電子衝突電離によって試料ガス及び/又は校正ガスをイオン化するように適合されている場合、すなわちイオン化ユニットが電離真空計と同じタイプのイオン化、特に異なる原子に同様のイオン化断面積を使用する場合には、ペニング真空計、ベイヤードアルパート真空計又はエクストラクタ真空計などの電離真空計の使用が特に有利である。或いは、圧力センサとして圧電センサを使用して、圧電効果に基づいて圧力センサの環境内の圧力を測定することもできる。
【0023】
1つの展開では、圧力センサ又は制御ユニットが、校正ガスの圧力に基づいて校正ガスの流量を決定するように適合される。この目的のために、ベイヤードアルパート電離真空計などの電離真空計を使用することができる。通常、このような真空計(ゲージヘッド)は、分子線エピタキシーにおいてエフュージョン蒸発源などの源を形成する原子の流量を決定するビーム光束モニタとして使用される(例えば、www.mbe-komponenten.de/products/pdf/data-sheet-bfm.pdfを参照)。ベイヤードアルパート電離真空計に基づくこのようなビーム光束モニタは、原子又は分子ビームのビーム等価圧(beam equivalent pressure:BEP)の決定を可能にする。ビーム等価圧は、圧力計によって測定される、表面上の指向性ガスビームの局所的圧力である。従って、ベイヤードアルパート電離計又は別のタイプの電離真空計は、上記で引用したRobert E.Ellefsonの論文に記載されるような試料ガス又はガス混合物の質量分析中における質量分析計の信号強度の決定、及び(単複の)蒸発源の原子についての質量分析計の感度の決定/監視/校正の両方を可能にする。
【0024】
さらなる実施形態では、センサが、好ましくは校正ガスの流量を決定する(そして場合によっては制御する)水晶振動子マイクロバランス(QCM)である。このような薄膜蒸着において周知のセンサを使用することによって、校正原子又は分子の流れを測定又は制御することができる。センサ上の高い付着確率を有する校正ガスの原子又は分子は、QCMセンサ上に薄膜を形成し、従って校正ガスの原子又は分子の流量に対応する速度でQCMセンサの共振周波数を変化させる。従って、QCMセンサは、直接、すなわち校正ガスの圧力を決定することなく、校正ガスの原子又は分子の流量の決定を可能にする。
【0025】
さらなる展開では、質量分析計が、原料物質と電離域との間の見通し線、及び/又は原料物質と圧力センサとの間の見通し線を遮る可動カバーを含む。通常、可動カバーは、カバーが原料物質と電離域/圧力センサとの間の見通し線を遮らない第1の位置と、可動カバーがそれぞれの見通し線を遮る第2の位置との間で移動することができる。2つの位置間のカバーの移動は、平行移動及び/又は回転移動とすることができる。それぞれの見通し線を遮ることにより、校正ユニットから電離域/圧力センサへの校正ガスの流れが基本的に妨げられる。このようにして、少なくとも1つの圧力センサを使用して、校正ガスの流れに起因する圧力上昇を同時に測定することなく、蒸発源が加熱された際の質量分析計の真空システム内の圧力上昇を決定することができる。また、可動カバーは、質量分析計の残り部分から校正ユニット又は蒸発源を気密シールすることもできる。
【0026】
さらなる実施形態では、イオン化ユニットが電子イオン化源を含む(又は電子イオン化源から成る)。電子イオン化源は、試料ガス及び/又は校正ガスの原子又は分子を電子衝撃によってイオン化する。電子イオン化源は、例えば電子銃などとして実装することができる。当業者であれば、例えば誘導結合プラズマ(ICP)、グロー放電イオン化などの異なる方法でイオン化を実行するようにイオン化ユニットを適合することができると理解するであろう。イオン化ユニットのタイプに応じて、電離域は、電子銃の場合のようにイオン化ユニットの外部に存在することも、或いは電離域をイオン化ユニットの一部とし、すなわちイオン化ユニットが電離域を少なくとも部分的に取り囲むこともできる。
【0027】
さらなる実施形態では、質量分析計が、試料ガス及び/又は校正ガスのイオンを貯蔵するイオントラップを含み、電離域がイオントラップの内部(イオンの貯蔵領域内)に形成される。質量分析計は、とりわけフーリエ変換(イオンサイクロトロン共鳴)質量分析計とすることができる。FTイオントラップ質量分析計では、イオントラップの貯蔵領域にイオンを貯蔵することに加えて、貯蔵領域内でイオンが励起(質量選択)され、FTイオントラップ内で、具体的にはイオントラップの電極において検出される。電離域は、イオントラップの中心に位置することが好ましい。この場合、通常、原料物質と電離域との間の見通し線は、原料物質からイオントラップの中心に至る。
【0028】
本発明のさらなる態様は、質量分析計の少なくとも1つの蒸発源において原料物質を蒸発させることによって校正ガスを生成するステップと、校正ガスを電離域に供給し、電離域において校正ガスをイオン化するステップと、質量分析計の検出器において、イオン化された校正ガスを検出するステップと、検出されたイオン化された校正ガスに基づいて質量分析計を校正するステップとを含む、質量分析計の校正方法に関する。上述したように、校正ガスのイオンは、試料ガス(被分析物)と同様に電離域に供給されて質量分析計で処理され、すなわち通常は質量分析計がイオントラップを含む場合に励起装置として具体化できる質量分析器を通過した後に質量分析計の検出器によって検出される。
【0029】
上述したように、校正ガスは、質量分析計の質量スケールの決定を可能にすることができる。例えば、質量分析計が四重極分析器を含む場合には、付与される四重極電圧と質量対電荷比との間の相関を校正/決定し、それぞれの質量スペクトル中の質量対電荷比によって特定の化学元素の同定を可能にすることができる。イオンドリフト時間と質量対電荷比との間の相関を校正できる飛行時間型質量分析器でも同様の校正を実行することができる。
【0030】
1つの変形例では、質量分析計を校正するステップが、イオン化された校正ガスを検出する際には信号強度に基づき、校正ガスを電離域に供給する際には圧力センサによって検出された圧力に基づいて、質量分析計の感度を決定するステップを含む。質量スケールに加えて、例えば小さな原子質量及び大きな原子質量の両方の場合の質量分析計の感度も決定/校正することが有利である。質量分析計の感度の校正は、上記で引用してその全体が引用により本出願に組み入れられるRobert E.Ellefsonによる論文に示されるように実行することができる。
【0031】
例えば、質量分析計の感度を決定するために、第1のステップにおいて、電離域に校正ガスを供給する前に、バックグラウンド圧力p0と、関心のある(単複の)質量対電荷比kにおける、すなわち原料物質の(単複の)質量対電荷比における信号強度Bkとを決定する。第2のステップにおいて、原料物質を蒸発させて校正ガスを生成し、原料物質の(単複の)質量対電荷比kにおける信号強度Skと、バックグラウンド圧力に加えて校正ガスの圧力p1とを2度目に決定する。関心のある(単複の)質量対電荷比kにおける第1のステップの信号強度と第2のステップの信号強度との間の差分Sk-Bkと、第2のステップの圧力値と第1のステップの圧力値との間の差分p1-p0との比率を計算することによって、以下のように感度Kkを決定することができる。
k=(Sk-Bk)/(p1-p0) (1)
【0032】
このようにして、例えばk=27(Al)又はk=197(Au)の場合のそれぞれの質量対電荷比kについての感度Kkを決定/校正することができる。
【0033】
異なる質量対電荷比において質量分析計を校正するには、異なる原料物質を有する異なる蒸発源を使用することができる。当業者であれば、上記の方程式(1)は、質量分析計の感度を校正する基本原理を説明するために使用されると理解するであろう。実際には、金属の蒸発で典型的に見られる異なる効果を考慮するために、校正中にさらなるステップが必要になることもある。このような効果のうちの1つは、他のガスの圧力低下をもたらす校正ガス、特にAl、Ti、Taなどのゲッター金属の原子から成る新鮮な膜で被覆された表面のゲッター効果である。一方で、蒸発源を加熱すると、上昇温度において周囲の部品からの分子の脱離が高まるため圧力上昇が発生する。
【0034】
1つの変形例では、方法が、校正ガスを電離域に供給する前及び/又は後に、質量分析計内の真空部品の表面を原料物質のゲッター材料で被覆するステップをさらに含む。本出願で典型的に使用される原料物質の好適なゲッター材料は、例えばAl又はTiである。原料物質の堆積物が形成される真空部品の表面から原料物質が剥がれるのを避けるために、これらの表面はゲッター材料で被覆することができる。この被覆は、ゲッター材料の蒸発のためのさらなる蒸発源を使用して(単複の)影響を受ける表面にゲッター材料を供給することによって(単複の)影響を受ける表面に適用することができる。ゲッター材料での被覆は、その後の校正前に適用することができ、或いは場合によってはその後の校正の準備のために校正後に適用することができる。
【0035】
以下の詳細な説明及び特許請求の範囲からは、本発明の他の特徴及び利点が明らかになるであろう。
【0036】
例示的な実施形態を概略図に示し、以下の説明において説明する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】原料物質の蒸発によって校正ガスを生成する蒸発源を含む校正ユニットを有する質量分析計の例を示す概略図である。
図2図1に示すものと同様の校正ユニットを有するイオントラップ質量分析計を示す概略図である。
図3a】抵抗蒸発源、及び原料物質で部分的に被覆されたフィラメントの概略図である。
図3b】抵抗蒸発源、及び原料物質で部分的に被覆されたフィラメントの概略図である。
図3c】抵抗蒸発源、及び原料物質で部分的に被覆されたフィラメントの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
図1に、質量分析計1の(真空)ハウジング3の外部のプロセスチャンバから質量分析計1のハウジング3の内部の電離域5に試料ガス4を供給するためのガス注入口2(より正確には、ガス注入口システム)を有する質量分析計1を概略的に示す。質量分析計1は、質量分析計1の電離域5に校正ガス7を供給するように適合された校正ユニット6を有する。校正ユニット6は、質量分析計1のハウジング3の内部に(すなわち原位置に)配置される。ハウジング3内には、電離域5において試料ガス4(被分析物)及び校正ガス7の両方をイオン化するように適合されたイオン化ユニット8も設けられる。
【0039】
本実施例では、イオン化ユニット8が、電子衝突電離によってそれぞれのガス4、7をイオン化するために電離域5に向けられる電子ビーム8aを生成する電子銃の形態の電子イオン化源である。試料ガス4及び校正ガス7は電離域5に供給され、すなわち試料ガス4及び校正ガス7は同時に電離域5に供給することもできるが、通常は同時に電離域5に供給されることはない。典型的には未知の成分及び/又は未知の量の成分を有する試料ガス4は、その質量分光分析のためにイオン化ユニット5に供給される。校正ガス7は、質量分析計1の校正のために電離域5に供給される。
【0040】
試料ガス4及び校正ガス7は、電離域5において(部分的に)イオン化された後にいずれも質量分析計1の分析部に供給される。分析部は、試料ガス4又は校正ガス7の成分の好適な範囲の質量対電荷比を選択する、本実施例では四重極質量フィルタの形態の分析器11を有する。分析部は、イオン化ガス4、7の質量分析測定を実行する検出器12も有する。質量分析計1では、飛行時間型分析器、セクタフィールド型分析器などの他のタイプの分析器を使用することもできると理解されるであろう。検出器12は、ファラデーカップなどの複数の検知素子を含むことができる。
【0041】
電離域5に試料ガス4又は校正ガス7を選択的に供給するために、質量分析計1には制御ユニット13が設けられる。制御ユニット13は、電離域5に試料ガス4を供給するように又は電離域5への試料ガス4の流れを遮断するように制御可能バルブなどのガス注入口2を制御するように適合することができる。当業者であれば、ガス注入口2は必ずしも制御可能バルブを有しているわけではないと理解するであろう。この事例では、試料ガス4を連続して電離域5に供給することができる。当業者であれば、場合によってはハウジング3を省くこともできると理解するであろう。制御ユニット13は、電離域5に校正ガス7を供給するように又は校正ガス7の生成を回避するように校正ユニット6を制御するようにも適合される。本実施例では、校正ユニット6が、原料物質10を蒸発させることによって校正ガス7を生成する単一の蒸発源9を有する。図1に示す例では、蒸発源9が、以下で詳細に説明するような原料物質10が配置されたフィラメントなどの抵抗素子に電流が流される抵抗蒸発源の形態の熱蒸発源である。校正ユニット6は、電子ビーム蒸発源、エフュージョン蒸発源などの他のタイプの熱蒸発源を含むこともできる。
【0042】
図1から推測されるように、原料物質10及び電離域5(又はイオン化体積)は見通し線14aに沿って配置される。より正確には、見通し線14aは校正ガス7の主な流れ方向に対応する直線の形で原料物質10から延び、電離域5においてイオン化ユニット8によって生成された電子ビーム8aと交わる。
【0043】
通常、原料物質10は揮発性材料であり、とりわけ金属である。好適な金属は貴金属、特に金(Au)であるが、例えばAl、Co、Mn、Bi、Ni、Fe、Cuなどの他の金属も原料物質10として使用することができる。
【0044】
金属形態の原料物質10を蒸発させることにより、原料物質10の原子を含む校正ガス7が供給される。金属蒸気の原子の形態の校正ガス7はイオン化中に断片化されず、校正プロセスを単純化する。しかしながら、原料物質10の選択は金属に限定されるものではない。例えば、バナジウム、レニウム又はタンタル、タングステン又はイットリウムの窒化物又は酸化物といった金属窒化物又は金属酸化物などの化合物も同様に原料物質として提供することができる。さらに、校正ユニット6は、異なる原料物質10を蒸発させるために複数の蒸発源9を有することができる。これらの蒸発源9に関連する校正ガス7は、場合によっては試料ガス2と共に同時に電離域5に供給することができる。
【0045】
校正ユニット6のための好ましい原料物質10は、校正ガス7と接触する質量分析計1の真空部品の表面、例えば典型的にはステンレス鋼製の質量分析計1の真空ハウジング3の内部の表面3aへの高い付着確率を有する。このように、それぞれの表面3a上の原料物質10の堆積物は、この表面3aに付着して質量分析計1を汚染しない。影響を受ける表面3aから原料物質10が剥がれるのを避けるために、これらの表面3aは、電離域5に校正ガス7を供給する前又は後に、例えばAl又はTiなどの原料物質10のゲッター材料17で被覆することができる。
【0046】
図1に示す例では、質量分析計1が、必須ではないが校正ユニット6を含む質量分析計1の動作に役立つ2つのセンサ15a、15bを含む。第1のセンサ15aは、電離域5及び原料物質10との見通し線14aに沿って配置される圧力センサである。上述した圧力値p1及びp0は、第1のセンサ15aを使用して決定することができる。また、第1のセンサ15aが試料ガス4のガス流中の好適な位置に配置されている限り、第1のセンサ15aを使用して試料ガス4の圧力を測定することもできる。
【0047】
第2のセンサ15bは、原料物質10への(さらなる)見通し線14bに沿って配置される。第2のセンサ15bは、校正ガス7の流量QCの直接制御/測定を可能にする。この目的のために、第2のセンサ15bは水晶振動子マイクロバランスである。或いは、この目的でベイヤーズアルパート真空計のような圧力センサを使用することもできる。第1/第2のセンサ15a、15bとしては、例えばペニング真空計又はエクストラクタ電離真空計といった冷陰極真空計などの他のタイプの真空計を使用することもできる。
【0048】
第1の圧力センサ15aによって決定された校正ガス7の圧力pcは、(校正ガス7の流量QCが水晶マイクロバランス15bによって直接決定されない限り)制御ユニット13内で校正ガス7の流量Qcを決定するために使用することができる。一般に、定量的質量スペクトルの校正プロセス中には、校正ガス7の流量Qcはできる限り一定であることが望ましい。制御ユニット13は、校正ガス7の流量QCを(閉ループ制御で)制御又は調節するように適合することができる。以下でさらに詳細に説明するように、校正ガス7の流量QC又は校正ガス7の圧力pCは、質量分析計1の校正において使用することができる。
【0049】
校正プロセスでは、質量分析計1の質量スケールの校正が実行される。本実施例では、校正が、四重極分析器10に付与される四重極電圧と、検出器12によって検出される校正ガス7の成分の(単複の)既知の原子質量の質量対電荷比との間の相関を伴う。校正ガス7の質量スペクトルにおける校正ガス7の成分のピークの既知の質量又は質量対電荷比は、試料ガス4の質量スペクトル中に存在する試料ガス4の(未知の)成分のピークをその正しい質量対電荷比に割り当てることができる質量スケールとして機能する。
【0050】
また、定量的測定のためには、試料ガス4の特定の成分の同定に加えて質量分析計1の感度/信号強度も校正すべきである。
【0051】
この目的のために、第1のステップにおいて、本実施例では金(197Au、k=197)である原料物質10の所与の質量対電荷比kについて、第1及び/又は第2の圧力センサ15a、bを使用して、質量分析計1内のバックグラウンド圧力p0(すなわち、校正ガス7又は試料ガス4が存在しない場合の圧力)が決定される。バックグラウンド圧力p0に加えて、質量対電荷比k=197a.m.u.において検出器12によって測定されるバックグラウンド信号強度Bkも決定される。その後のステップにおいて、電離域5に校正ガス7が導入され、圧力センサ15a、bによって圧力p1(又は同等にpc)が測定される。検出器12によって、k=197の質量対電荷比又はa.m.u.におけるイオン化された校正ガス7の信号強度Skが決定される。
【0052】
その後のステップにおいて、質量対電荷比kにおける第1のステップの信号強度と第2のステップの信号強度との差分Sk-Bkと、第2のステップの圧力値と第1のステップの圧力値との間の差分p1-p0との比率を計算することによって、質量対電荷比k=197の場合の質量分析計1の感度Kkが以下のように決定される(Robert E.Ellefsonの論文も参照)。
k=(Sk-Bk)/(p1-p0) (1)
【0053】
このようにして、質量対電荷比k=197(すなわちAu)の場合の感度Kkが決定される。質量分析計1は、例えばk=27(すなわち、Al)などの比較的小さなa.m.u.(又は、同等のm/z比)の少なくとも1つのさらなる値について校正することが有利である。k=27の場合の質量分析計1の感度は、原料物質10としてAlを蒸発させるさらなる蒸発ユニットを使用することにより、上述した方法で決定することができる。
【0054】
校正ユニット6の熱蒸発源9が加熱された時の電離域5又は質量分析計1内の圧力上昇を決定するために、図1の質量分析計1は可動カバー16を有する。可動カバー16は、校正ユニット6の近くに配置され、カバー16が原料物質10と電離域5及び圧力センサ15a、bとの間の見通し線14aを遮らない第1の位置と、可動カバー16が見通し線14aを遮る第2の位置との間で移動することができる。本実施例では、図1に両方向矢印で示すように可動カバー16を2つの位置間で平行移動させることができる。それぞれの見通し線14a、bを遮ることにより、少なくとも1つの圧力センサ15a、bを使用して、校正ガス7に起因する圧力上昇を同時に測定することなく、蒸発源6が加熱された際の質量分析計1の真空システム内の圧力上昇を決定することができる。場合によっては、質量分析計1の校正のために、蒸発源9の温度上昇による圧力上昇を考慮することもできる。
【0055】
また、図1に関して上述した校正は、図2に示す電気フーリエ変換イオントラップ18を有する質量分析計1において実行することもできる。図2の質量分析計1は、見通し線14bを介して電離域5に試料ガス4を供給するための入口(図示せず)を有する。電離域5は、基本的にイオントラップ18の中心に対応する。図2には、本実施例では金である原料物質10を蒸発させるように校正ユニット6、より正確にはその蒸発ユニット9が作動した状態の質量分析計1を示す。図2では、校正ユニット6から電離域5に至る見通し線14aと共に電離域5内に校正ガス7を示す。図2の例では、蒸発源9がパルスレイヤー堆積(PLD)源である。しかしながら、PLD源9を使用せずに、図1に示すような熱蒸発源を使用することもできる。さらに、図1の例において熱蒸発源9を使用せずにPLD源又は別のタイプのイオン化源を使用することもできる。
【0056】
図2の電気FTイオントラップ18では、校正ガス7のイオン7a、7bがリング電極19と第1及び第2のキャップ電極20a、20bとの間に捕捉される。イオン7a、7bをイオントラップ18内に貯蔵するために、RF信号生成ユニット21は、リング電極19に供給される高周波信号VRFを生成する。2つの励起ユニット22a、22bの各々は、イオン7a、7bを励起して振動させるためにそれぞれのキャップ電極20a、20bに供給される励起信号S1、S2を生成する。イオントラップ18内のイオン7a、7bの振動数は、イオン7a、7bの質量対電荷比に依存する。2つの測定増幅器23a、23bは、振動によって生じたそれぞれの測定電流を増幅する。これらの2つの測定電流の差分からイオン信号uion(t)が生成される。FFT(「高速フーリエ変換」)スペクトロメータを含む検出器12は、イオン信号uion(t)のフーリエ変換を実行して質量スペクトル25の形態の質量分析データを決定する役割を果たす。質量スペクトル25は、励起イオン7a、7bの質量対電荷比m/zに依存して励起イオン7a、7bの数を示す。換言すれば、質量スペクトル25又は質量スペクトルデータ25は、校正ガス7中のイオン7a、7bの質量対電荷分布を示す。
【0057】
図2の例では、校正ガス7が電気的に中性の状態でイオントラップ18に導入される。質量分析計1は、イオントラップ18に導入された中性の校正ガス7の少なくとも一部を電離域5内でイオン化するイオン化ユニット8を有する。本実施例では、イオン化ユニット8が、イオントラップ18に導入された中性の校正ガス7を電子線でイオン化する電子銃(例えば70eV又は別の好適なイオン化エネルギー)を含む。図1の例と同様に、電子ビーム8aは、校正ユニット6から電離域5に至る見通し線14aと交わる。図1の質量分析計1及び図2の質量分析計1では、例えば誘導結合プラズマ、グロー放電イオン化などを使用する他のタイプのイオン化ユニット8を使用することもできると理解されるであろう。
【0058】
イオン7a、7bは、検出前に、例えばSWIFT(蓄積波形逆フーリエ変換)励起によって、質量対電荷比m/zに従って少なくとも一回選択的に励起することができる。とりわけ、SWIFT励起は、特定の質量対電荷比を有するイオン7a、7bをイオントラップ18から排除する役割を果たすことができる。具体的には、バッファガス又はバックグラウンドガスのイオン7a、7bをイオントラップ18から排除し、従って校正ガス7のガス種の微量のイオン7a、7bの検出を可能にすることができる。図2に示す質量分析計1は、図1の質量分析計1を参照しながら上述したように質量分析計1、とりわけ校正プロセスを制御する評価ユニット13も含む。
【0059】
図3aに、図1の蒸発源9をさらに詳細に示す。蒸発源9は、フィラメント26及び電圧源27を有する。電圧源は、フィラメント26に電流を流してフィラメント26を1000℃以上の温度に加熱できるように(調整可能な)電圧を発生させる。本実施例では、フィラメント26がタングステン(W)で形成され、約0.3mm~0.5mmの直径を有する。図3b、図3cから推測されるように、フィラメント26には金線28が引っ掛けられている。フィラメント26を金線28の融点よりも高い温度に加熱することにより、金線が溶けてフィラメント26に沿って流れ、従って図3cに示すように、例えば原料物質10の液滴の形態の被覆が施される。フィラメント26に電流を流した時に蒸発できる原料物質10を提供するために、金の代わりに銅などの他の(金属)材料製のワイヤーを使用することもできると理解されるであろう。
【符号の説明】
【0060】
1 質量分析計
2 ガス注入口
3 ハウジング
4 試料ガス
5 電離域
6 校正ユニット
7 校正ガス
8 イオン化ユニット
8a 電子ビーム
9 蒸発源
10 原料物質
11 分析器
12 検出器
13 制御ユニット
14a、b 見通し線
15a 第1のセンサ
15b 第2のセンサ
16 可動カバー
17 ゲッター材料
Qc 校正ガスの流量
Pc 校正ガスの圧力
P0 バックグラウンド圧力
Bk 第1のステップの信号強度
Sk 第2のステップの信号強度
Kk 感度
図1
図2
図3a
図3b
図3c