(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-23
(45)【発行日】2024-05-02
(54)【発明の名称】車両用天井材
(51)【国際特許分類】
B60R 13/02 20060101AFI20240424BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20240424BHJP
B32B 27/06 20060101ALI20240424BHJP
B32B 7/12 20060101ALI20240424BHJP
【FI】
B60R13/02 A
B32B15/08 E
B32B27/06
B32B7/12
(21)【出願番号】P 2022556343
(86)(22)【出願日】2020-10-23
(86)【国際出願番号】 JP2020039880
(87)【国際公開番号】W WO2022085172
(87)【国際公開日】2022-04-28
【審査請求日】2023-03-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000124454
【氏名又は名称】河西工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145908
【氏名又は名称】中村 信雄
(74)【代理人】
【識別番号】100136711
【氏名又は名称】益頭 正一
(72)【発明者】
【氏名】大西 達海
(72)【発明者】
【氏名】舒 礼浩
【審査官】池田 晃一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-218052(JP,A)
【文献】特開昭51-112018(JP,A)
【文献】特開2008-105668(JP,A)
【文献】特開2002-002408(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 13/02
B32B 1/00 - 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材の車両車室内側の面に配置され前記車両車室内の天井面を形成する表皮材層と、前記基材と前記表皮材層との間の接着層と、前記基材の車両ルーフ側の面に配置される裏面層と、を備え、
厚みが10μm以上100μm以下
である金属箔
と、樹脂フィルム
とがラミネートされて前記金属箔よりも伸び率が高い積層フィルムは、前記接着層に用いられている、
ことを特徴とする車両用天井材。
【請求項2】
前記積層フィルムは、前記裏面層として用いられ、
前記樹脂フィルムが前記車両ルーフ側となり、前記金属箔が前記車両車室内側となるように配置されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の車両用天井材。
【請求項3】
ホットメルト層により前記表皮材層と前記基材とが接着されるものであり、
前記接着層の前記樹脂フィルムと接する前記ホットメルト層については、前記樹脂フィルムと同じ素材を主成分として構成されている、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれかに記載の車両用天井材。
【請求項4】
前記接着層に、前記表皮材層と前記基材とを接続する孔部が複数形成されている、
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の車両用天井材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両用天井材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に開示されるように、ポリウレタン発泡体と、ポリウレタン発泡体の両側にガラス繊維層と、裏面材あるいは表面材と、を順に積層した構成を有する車両用天井材が知られている。
【0003】
また、特許文献2に開示されるように、発泡性フェノールウレタン混成樹脂板(これを基材とする)と、強化シート(アルミニウム箔のような金属箔)と、を順に積層した構成を有する車両用天井材が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-79073号公報
【文献】特開昭61-102347号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述の特許文献1に記載されるガラス繊維層が用いられる場合には、ガラス繊維層自体がある程度の重量を有することから、車両用天井材の更なる軽量化が難しい。
【0006】
そこで、そのような車両用天井材の軽量化を図るために、ガラス繊維層に替えて、特許文献2に記載される金属箔について所定厚とした強化シートを用いることが考えられる。ガラス繊維層より弾性率の高い所定厚の金属箔を用いることにより、軽量化を図ることができる。さらには、特許文献1に記載の車両用天井材と同程度の剛性についても確保することができる。
【0007】
しかし、金属箔は、車両用天井材の3次元形状に合わせて伸びることができずに破れてしまい、容易に成形し難いことが考えられる。
【0008】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、軽量で剛性を確保したまま3次元形状を容易に成形することができる車両用天井材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる課題を解決するために、本発明の車両用天井材は、基材と、前記基材の車両車室内側の面に配置され前記車両車室内の天井面を形成する表皮材層と、前記基材と前記表皮材層との間の接着層と、前記基材の車両ルーフ側の面に配置される裏面層と、を備え、厚みが10μm以上100μm以下である金属箔と、樹脂フィルムとがラミネートされて前記金属箔よりも伸び率が高い積層フィルムは、前記接着層に用いられている、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る車両用天井材によれば、従来用いられていた重いガラス繊維層の代わりに金属箔を用いるため、かつ10μm以上100μm以下の金属箔及び樹脂フィルムをラミネートするため、軽量に形成すると共に剛性を確保すると同時に金属箔の伸びを向上させることが可能となり、軽量で剛性を確保したまま3次元形状を容易に成形することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、(a)本実施形態に係る車両用天井材を示す上方平面図、(b)(a)に示した車両用天井材の断面図である。
【
図2】
図2は、(a)車両用天井材の裏面層の断面図、(b)車両用天井材の接着層の断面図である。
【
図3】
図3は、(a)変形例2に係る車両用天井材の裏面層の断面図、(b)変形例2に係る車両用天井材の接着層の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を好適な実施形態に沿って説明する。なお、本発明は以下に示す実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。また、以下に示す実施形態においては、一部構成の図示や説明を省略している箇所があるが、省略された技術の詳細については、以下に説明する内容と矛盾が発生しない範囲内において、適宜公知又は周知の技術が適用されていることはいうまでもない。
【0013】
図1(a)は、本実施形態に係る車両用天井材1を示す上方平面図である。本実施形態に係る車両用天井材1は、例えば車両ルーフ部(車体)に対して車両車室内側から取り付けられるものである。このような車両用天井材1は、マップランプユニット等の電子機器(不図示)が搭載されたうえで、車両ルーフ部に取り付けられる。
【0014】
図1(a)に示す車両用天井材1は、車両ルーフ部に沿う平面部1aと車両上下方向に(平面部1aに対して傾斜して)延びる段部1bを有している。平面部1a及び段部1bは、はプレス加工によって作製され、車両ルーフ部の形状や搭載される電子機器等の関係から平面部1a及び段部1bの形状が設計されている。
【0015】
図1(b)は、
図1(a)に示した車両用天井材1の断面図である。
図2(a)は、裏面層14の断面図である。
図2(b)は、接着層13の断面図である。
図1(b)に示すように、車両用天井材1は、基材11と、表皮材層12と、接着層13と、裏面層14と、を備えている。以下の説明においては、車両車室の天井の裏面側を、車両ルーフ側(又は裏面側)といい、車両車室の天井の表面側を、車両車室内側(又は表面側)という場合がある。
【0016】
[基材・表皮材層]
基材11は、例えばウレタン発泡体によって構成されている。
表皮材層12は、基材11の車両車室内側(表面側)の面に配置され、車両車室内の天井面を形成するものである。一般的に表皮材層12は、布地や不織布などの表面層121と、ラミウレタン層122と、を有する。
【0017】
[裏面層]
裏面層14は、基材11の車両ルーフ側(裏面側)の面に配置され、図示しないブラケットによって上方から支持される部位である。
図2(a)に示されるように、裏面層14は、積層フィルム21と、ホットメルト層22と、を有する。積層フィルム21が車両ルーフ側に配置され、ホットメルト層22が車両車室内側に配置される。
【0018】
[積層フィルム]
積層フィルム21は、金属箔26と、樹脂フィルム27と、が積層されて構成されている。金属箔26と樹脂フィルム27とはラミネートされている。ラミネートされることにより、金属箔26と樹脂フィルム27とが強固にくっついている状態となっている。本実施形態でのラミネートは、接着剤にて実施したが、圧接(熱・圧力を加えることで原子同士を金属融合させて接合する方法)によってラミネートするものであっても良い。
この中の金属箔26は、外部からの熱が車両車室内に伝わらないように遮熱するために用いられている。本実施形態では、金属箔26は車両車室内側に配置され、樹脂フィルム27は車両ルーフ側に配置されている。
【0019】
金属箔26と樹脂フィルム27との配置関係は、どちらが車両ルーフ側に配置されてもどちらが車両車室内側に配置されても良いとも考えられる。しかし、下から順に、ホットメルト層22、金属箔26、及び樹脂フィルム27が配置されることにより、金属箔26がホットメルト層22と樹脂フィルム27との間に挟まれる。そのために、金属箔26の外気に曝される部位は減少し、金属箔26の錆びる現象が抑制される。特に、積層フィルム21の上面が車両天井の図示しないブラケットに取り付けられるときに、金属箔26の上面が樹脂フィルム27により被覆されていると、金属箔26の裏面側が錆び難い。
【0020】
また、車両用天井材1を図示しない車両天井のブラケットに貼付する構成の場合には、金属箔26よりは樹脂フィルム27の方が図示しないブラケットに貼りつき易いため、樹脂フィルム27を金属箔26よりも車両ルーフ側に配置する方が良い。
また、電気伝導度の高い金属箔26が表面に出ないために、車両車室の天井の裏面に電子機器等を設置する場合、短絡の懸念を防止できる。
【0021】
[金属箔]
金属箔26としては、例えばアルミニウム箔(AL箔)が用いられる。金属箔26として、銅箔その他の金属箔が用いられても良い。金属箔26としてアルミニウム箔を用いるのは、比重が軽く、剛性が強く、低コストであるからである。基材11の面に金属箔が接着されることにより、従来のように基材11の面にガラス繊維層が接着される必要がなくなり、車両用天井材1の軽量化が実現される。重いガラス繊維層に替えて積層フィルム21が用いられることにより、車両用天井材1は従来の車両用天井材よりも2割以上軽くすることができる。
【0022】
金属箔26は、10μm以上100μm以下の範囲内の厚みに設定されている。金属箔26は、10μmよりも薄いと剛性が不足し、100μmよりも厚いと重量が重いためである。金属箔26は、20μm以上50μm以下の範囲内の厚みに設定されると更に良い。本実施形態では、金属箔26として、20μmのものを用いた。金属箔26の板厚は、狙いとする剛性に応じて選択する。
【0023】
[樹脂フィルム]
樹脂フィルム27は、金属箔26の成形性を向上させるために用いられる。樹脂フィルム27は、金属箔26よりも伸び率が高い。
樹脂フィルム27が金属箔26とラミネートされるのは、以下の理由による。金属箔26は、それ単独では、引張力の負荷により、所定の割合まで一様に伸び、所定の割合以上に伸び難くなる。そして、金属箔26は、仮にその状態で更に荷重が負荷されると、破れてしまう。そのために、金属箔26は、これ単独で基材11に取り付けられるときに、金属箔26,36の伸び特性により、基材11の凹凸形状に追従し難く、引張力が負荷されたときに破れ易い。従って、金属箔26では、展開率が制限され、深絞り加工等し難い場合も考えられる。
【0024】
これに対して、金属箔26及び樹脂フィルム27がラミネートされた積層フィルム21にすれば、金属箔26が樹脂フィルム27の伸びと共に均一に伸び易い。積層フィルム21は、常温でもMD(流れ方向)及びTD(垂直方向)に40%~50%という高い伸び率で伸びることができ、140℃~150℃の熱により熱プレスをするときには、それよりも伸びることができる。従って、金属箔26及び樹脂フィルム27の積層フィルム21は、金属箔26単独の場合よりも、基材11の凹凸形状に良く追従して取り付けることができ、引張力が負荷されても破れ難い。例えば、サンバイザ格納部の凹部やアシストグリップ格納部の凹部等に良く追従して積層フィルム21を取り付けることができる。このようなことから、金属箔26に樹脂フィルム27がラミネートした積層フィルム21を用いると、成形容易性が向上する。
【0025】
樹脂フィルム27は、10μm以上100μm以下の範囲内の厚みに設定されている。樹脂フィルム27は、100μmを超えると取り扱いし難いので、100μm以下が望ましい。樹脂フィルム27は、20μm以上50μm以下の範囲内の厚みに設定されると更に良い。本実施形態では、樹脂フィルム27として、25μmのものを用いた。
【0026】
樹脂フィルム27は、熱プレス時の温度を考慮して、融点が120℃以上のものが好ましい。本実施形態では、樹脂フィルム27として、ポリエステルを主成分とする材質であって、融点が250℃~260℃のものが用いられた。樹脂フィルム27は、ナイロンその他の材料であっても良い。ホットメルト層22が溶融して接着し、樹脂フィルム27が溶融しないで応力歪み線図を保持するようにするために、樹脂フィルム27には、ホットメルト層22よりも高い融点を有するものが用いられる。
【0027】
[ホットメルト層]
ホットメルト層22は、自動車の通常の使用環境を考慮して、融点が110℃以上のものが好ましい。また、樹脂フィルム27が溶融すると本来の機能を発現できないため、樹脂フィルム27の融点以下で使用する必要がある。
ホットメルト層22には、本実施形態では、ポリエステル系材質が用いられる。ホットメルト層22の材質としては、PE(ポリエチレン),PP(ポリプロピレン),PET(ポリエチレンテレフタレート),PA(ポリアミド(ナイロンでも良い))、ウレタン等の変性物が用いられても良いが、この中では、PA,PET系材質が良い。ホットメルト層22には、使用環境よりも融点が高いホットメルトフィルムあるいは反応性ホットメルトが使われ、実用上の耐熱性に影響しないようにされている。本実施形態ではホットメルト層22の溶融及び冷却固化により接着され、有害なガスの発生がなくなるので、従来のイソシアネート、アミンを使う場合に必要となる程の高性能な排気設備が必要ない。
【0028】
本実施形態では、ホットメルト層22には、ポリエステル系材質の融点が110℃のものが用いられたが、100℃以上かつ樹脂フィルム27よりも低い融点のものが用いられれば良い。例えば、ホットメルト層22の融点は、100℃以上160℃以下が望ましい。ユーザが自動車に通常通りに乗っているときにホットメルト層22が溶融すると基材11、接着層13及び表皮材層12が落下する(ずり落ちる)ことになるため、ホットメルト層22は、100℃以上の融点である必要がある。また、樹脂フィルム27よりも熱で早く溶ける必要があるので、ホットメルト層22は、樹脂フィルム27よりも低い融点である必要がある。
【0029】
ホットメルト層22は、10μm以上200μm以下の範囲内の厚みに設定される。ホットメルト層22は、10μmよりも小さいと基材11との密着性が低下(基材11のセルへの入り込みが低下)するので、望ましくない。ホットメルト層22は、30μm以上100μm以下の範囲内の厚みに設定されると更に良い。本実施形態では、ホットメルト層22として、40μm~50μmのものを用いた。ホットメルト層22は、金属箔26にラミネートされており、溶融された状態でプレス成型することにより金属箔26の全面が基材11に化学的に結合される。ラミネートせずにそのまま積層してプレス成型しても良い。
【0030】
[接着層]
接着層13は、
図1(b)に示されるように、基材11と表皮材層12との間に配置され、これらを接着する接着機能を有するものである。
図2(b)に示されるように、接着層13は、積層フィルム31と、ホットメルト層32,33と、を有する。車両ルーフ側から順に、ホットメルト層32、積層フィルム31、ホットメルト層33が配置されている。
【0031】
[積層フィルム]
積層フィルム31は、金属箔36と、樹脂フィルム37と、が積層されて構成されている。金属箔36は、10μm以上100μm以下の厚みに設定されている。樹脂フィルム37は、金属箔36よりも伸び率が高い。
本実施形態では、金属箔36及び樹脂フィルム37の構成は、金属箔26及び樹脂フィルム27と同様の構成である。但し、金属箔36及び樹脂フィルム37の構成は、金属箔26及び樹脂フィルム27と全く同じ構成というわけではなく、厚みの変更、層の順番の変更は許容される。
例えば、金属箔36の厚みは金属箔26の厚みと異なっていても良いし、樹脂フィルム37の厚みは樹脂フィルム27の厚みと異なっていても良い。
また、車両ルーフ側から順に樹脂フィルム27、金属箔26が配置される場合に、これとは順番を反対にして、車両ルーフ側から順に金属箔36、樹脂フィルム37が配置される構成であっても良く、あるいは、車両ルーフ側から順に金属箔26、樹脂フィルム27が配置される場合に、これとは順番を反対にして、車両ルーフ側から順に樹脂フィルム37、金属箔36が配置される構成であっても良い。
【0032】
[ホットメルト層]
ホットメルト層32は、積層フィルム31と基材11とを接着するものである。ホットメルト層33は、積層フィルム31と表皮材層12とを接着するものである。本実施形態では、ホットメルト層32,33には、ポリエステル系材質の融点が110℃のものが用いられたが、100℃以上かつ樹脂フィルム37よりも低い融点のものであれば良い。ユーザが自動車に通常通りに乗っているときにホットメルト層32,33が溶融すると接着層13及び表皮材層12が落下する(ずり落ちる)ことになるため、ホットメルト層32,33は、100℃以上の融点である必要がある。また、樹脂フィルム37よりも熱で早く溶ける必要があるので、ホットメルト層32,33は、樹脂フィルム37よりも低い融点である必要がある。
【0033】
特に、樹脂フィルム37と接するホットメルト層32は、樹脂フィルム37と同じ素材を主成分として構成されている。例えば、樹脂フィルム37がポリエステルにより形成されている場合に、ホットメルト層32がポリエステルを主成分としつつ他のものと共重合させた組成物で構成される。この場合に、ホットメルト層32は、ポリエステル部分とポリエステル部分以外の部分とが共重合していることにより、ポリエステル単独よりも融点が下がっており、低い温度で溶融及び冷却固化して基材11に接着する。ホットメルト層32と樹脂フィルム37とは、溶解度パラメータ(SP値)が近いものが好ましい。
【0034】
また、接着層13には、孔部15が複数形成されている。本実施形態では、複数の孔部15には、1mm以下の径のもので1cm~2cmピッチで形成されたものが用いられたが、その他の径及びピッチで形成されても良い。複数の孔部15は、ヘルムホルツ共鳴に基づいた公式に従って構成されても良い。車両車室内の音は、表皮材層12、接着層13の孔部15を通過して基材11のセルの内部に吸収される。また、複数の孔部15及び基材11により、共鳴器型の吸音構造が取られ、狙った吸音性能で吸音できる。吸音の要求度合によって、孔部15の径、ピッチの組合せが調節される。
なお、従来の車両用天井材では、基材の下面に取り付けられるガラス繊維層には、空隙があったが、本実施形態の車両用天井材1では、基材11の下面に金属箔がそのまま取り付けられると金属箔が音を反射して基材11に吸音され難くなるため、金属箔36に孔部15が必要となる。なお、この複数の孔部15が無い場合には、車両車室内で会話等した場合に、基材11に吸音されず、音が反響することもあり得る。
【0035】
[製造方法]
車両用天井材1の製造方法としては、以下のようなものが想定される。前述した表皮材層12、接着層13、基材11、及び裏面層14を重ね合わせた積層体を加熱して軟化させ、ホットメルト層22,32,33を溶融させ、図示しないプレス機で圧力をかけるといった熱プレスにより、車両用天井材1を製造する。
【0036】
または、前述した接着層13及び裏面層14を予備加熱して、ホットメルト層22,32,33を溶融させた状態で、表皮材層12、接着層13、基材11、及び裏面層14を重ね合わせて図示しないプレス機で圧力をかけるといった冷間プレスにより、車両用天井材1を製造しても良い。
【0037】
または、前述した冷間プレスのときに、図示しないプレス金型に高周波誘導加熱装置が設けられたものを用い、高周波誘導加熱装置が有する図示しないコイルによって、接着層13及び裏面層14を予備加熱(インダクションヒーティング)して、ホットメルト層22,32,33を溶融させても良い。
【0038】
以上説明してきたように、本実施形態の車両用天井材1は、基材11と、基材11の車両車室内側の面に配置され車両車室内の天井面を形成する表皮材層12と、基材11と表皮材層12との間の接着層13と、基材11の車両ルーフ側の面に配置される裏面層14と、を備え、接着層13及び裏面層14の両方が、10μm以上100μm以下の金属箔26,36及び樹脂フィルム27,37がラミネートされて金属箔26,36よりも伸び率が高い積層フィルム21,31を有している。
【0039】
本実施形態の構成によれば、車両用天井材1は、従来用いられていた重いガラス繊維層(有機繊維層)の代わりに金属箔26,36を用いるため、かつ10μm以上100μm以下の金属箔26,36に樹脂フィルム27,37をラミネートするため、軽量に形成すると共に剛性を確保すると同時に金属箔26,36の伸びを向上させることが可能となり、軽量で剛性を確保したまま3次元形状を容易に成形できる。
【0040】
また、本実施形態では、積層フィルム21は、裏面層14として用いられ、樹脂フィルム27が金属箔26よりも車両ルーフ側に配置されている。こうした構成によれば、積層フィルム21が車両天井のブラケット(不図示)に取り付けられたときに、樹脂フィルム27が金属箔26よりもブラケット(不図示)側(車両用天井材1の最上部)に配置されていることによって樹脂フィルム27が金属箔26の錆びる現象を抑制し、樹脂フィルム27の方が金属箔26よりもブラケット(不図示)への接着性が良いことによって積層フィルム21を車両天井に安定して固定することができる。
【0041】
また、本実施形態では、積層フィルム31は、接着層13に用いられ、ホットメルト層32,33により表皮材層12と基材11とが接着されるものであり、接着層13の樹脂フィルム37と接するホットメルト層32については、樹脂フィルム37と同じ素材を主成分として構成されている。こうした構成によれば、樹脂フィルム37とホットメルト層32とが同じ素材を含むために、ホットメルト層32の樹脂フィルム37との接着性が向上する。
【0042】
本実施形態では、積層フィルム21は、接着層13として用いられ、接着層13に、表皮材層12と基材11とを接続する孔部15が複数形成されている。こうした構成によれば、接着層13に複数の孔部15が形成されていることにより、音が複数の孔部15を通過して基材11に吸収され、吸音性が向上する。
なお、この一方で、仮に接着層13に孔部15が無い場合には、接着層13が含む金属箔36により音が反響することもあり得る。
以下、本実施形態の車両用天井材1の効果について、更に詳述する。
【0043】
(高い剛性)
車両用天井材1は、剛性が高い金属箔26,36が基材11に全面接着されるので、剛性を高く設定することができる。基材11の両面に、金属箔26,36がホットメルト層22,32によって接着される構成である。また、表皮材層12に、金属箔36がホットメルト層33によって接着される構成である。そのため、ホットメルト層22,32,33が溶融して固化した際に生じる化学的結合と、ホットメルト層22,32,33が基材11や表皮裏面のラミウレタン層122の表面の微細な孔に均一に入り込む物理的なアンカー効果と、によって、接着性が高まり、高い剛性が生じる。
【0044】
この一方で、従来は、車両用天井材1がガラス繊維層、有機繊維層を基材11に接着させていたので、剛性が低かった。すなわち、従来のガラス繊維層、有機繊維層では、素材に空隙ができているために、基材11に対して全面的に接着することができない。そのために、均一で高い剛性が得られにくかった。また、接着剤量を最も強度が出ない部位に合わせる必要があり使用量が多くなっていた。
【0045】
(高い接着性)
車両用天井材1は、金属箔26の表面が平滑であるため、金属箔26と基材11との接着面積が大きく確保され、基材11に対する金属箔26の接着性が向上する。
この一方で、従来のような基材にガラス繊維層が貼付される構成では、ガラス繊維層の表面がでこぼこしていてガラス繊維層には基材の表面の接着状態が不均一であった。
【0046】
(作業者の健康への悪影響の低減)
車両用天井材1は、ホットメルト層22,32,33が溶融及び冷却固化されることにより接着されるため有害物や有害なガスの発生がほとんどなく、環境に対する悪影響が低減される。
この一方で、従来は、ガラス繊維層が使用されていて、環境に悪影響が及ぶ可能性があった。また、基材にガラス繊維層を接着させるために薬品類(フェノール、イソシアネート、アミン等)が使用されていて、薬品類の化学反応により生じる臭気、VOC(揮発性有機化合物)により、環境に悪影響が及ぶ可能性があった。
【0047】
(製造時間の短縮)
車両用天井材1は、ホットメルト層22,32,33が溶融及び冷却固化して形成されるので、製造時間が従来よりも短縮化される。熱プレス後に風が当てられると金属箔26,36がヒートシンクとして機能して更に冷却速度が速くなる。
この一方で、従来は、例えばガラス繊維層にイソシアネートを含ませて、水、及びアミンを散布して成形する場合には、その化学反応により硬化する時間を待つ必要があったので、製造時間が長くかかっていた。また、これに加えて、ガラス繊維層にイソシアネートを含ませた後は反応性が高く保管できる時間が短いため、早く積層及び成形する必要があり、また、水、及びアミンを散布した後ではさらに短時間で、イソシアネートが成形前に固化してしまい基材11にガラス繊維層が接着できなくなるようなことがあり、作業効率も悪かった。
【0048】
なお、従来、例えば、2つのガラス繊維層が基材の裏面と表面とを挟む構成において、2つのガラス繊維層にイソシアネートを塗布・含侵させ、接着に際しては、アミンを希釈した水がスプレー等によって基材側に散布されていた。そして、基材のアミン水は、ガラス繊維層のイソシアネートと反応してウレアを生成し、基材とガラス繊維層とを結合させていた。基材に対してガラス繊維層を熱プレス成形にて取り付ける場合には、貼付が完了するまでに20秒~30秒の待ち時間が必要であった。
【0049】
(車両用天井材の薄型化)
2層のガラス繊維層に替えて金属箔26及び金属箔36が用いられるために、車両用天井材1の薄型化や軽量化が実現される。車両用天井材1を用いた内装デザインの自由度が増す。剛性の高い金属箔を選ぶ、あるいは金属箔の板厚を厚くすれば、さらに車両用天井材1を薄くすることも可能となり、内装デザインの自由度は向上する。
【0050】
(高い接着性)
車両用天井材1は、金属箔26,36にホットメルト層22,32,33が積層され、基材11に取り付けられる前に加熱溶融した状態で基材11にプレスされることにより、材料の相性による化学的結合とセルへの入り込みによる物理結合とを均一に発現させることで、強固な接着力が得られる。また、ホットメルト層22,32,33が用いられることにより、ホットメルト層の溶融+プレスという簡単な方法で接着させることができる。
この一方で、従来、車両用天井材は、ガラス繊維層、有機繊維層が多く、均一な面ではないことから高い接着性を得るためには多量の接着剤が必要であった。また、化学反応を使うために、接着剤が硬化するまでの時間がかかっていた。
【0051】
[変形例1]
前述の実施形態では、基材11と表皮材層12との間の接着層13、及び裏面層14の両方が積層フィルム21,31により形成されていたが、上記実施形態に限定されない。例えば、基材11と表皮材層12との間の接着層13だけが積層フィルム21により形成されていても良い。あるいは、裏面層14だけが積層フィルム31により形成されていても良い。以上のことから、基材11と表皮材層12との間の接着層13、及び、裏面層14の少なくとも一方が積層フィルム21により形成されていれば良いということになる。
【0052】
[変形例2]
前述の実施形態では、裏面層14において、金属箔26の上面に樹脂フィルム27が配置され、金属箔26の下面にホットメルト層22が配置されていたが、上記実施形態に限定されない。例えば、
図3(a)に示されるように、裏面層14において、金属箔26の下面に樹脂フィルム27が配置され、樹脂フィルム27の下面にホットメルト層22が配置される構成であっても良い。
また、前述の実施形態では、接着層13において、金属箔36の上面に樹脂フィルム37が配置され、金属箔36の下面にホットメルト層33が配置され、樹脂フィルム37の上面にホットメルト層32が配置されていたが、上記実施形態に限定されない。例えば、
図3(b)に示されるように、接着層13において、金属箔36の下面に樹脂フィルム37が配置され、樹脂フィルム37の下面にホットメルト層33が配置され、金属箔36の上面にホットメルト層32が配置される構成であっても良い。
【0053】
[変形例3]
前述の実施形態では、樹脂フィルム27が金属箔26よりも伸び率が高いものを例示したが、上記実施形態に限定されない。例えば、樹脂フィルム27が金属箔26よりも伸び率が低い構成であっても、樹脂フィルム27及び金属箔26がラミネートされて金属箔26よりも伸び率が高くなる構成であれば良い。
同様に、前述の実施形態では、樹脂フィルム37が金属箔36よりも伸び率が高いものを例示したが、上記実施形態に限定されない。例えば、樹脂フィルム37が金属箔36よりも伸び率が低い構成であっても、樹脂フィルム37及び金属箔36がラミネートされて金属箔36よりも伸び率が高くなる構成であれば良い。
【符号の説明】
【0054】
1 車両用天井材
1a 平面部
1b 段部
11 基材
12 表皮材層
13 接着層
14 裏面層
15 孔部
21 積層フィルム
22 ホットメルト層
26 金属箔
27 樹脂フィルム
31 積層フィルム
32,33 ホットメルト層
36 金属箔
37 樹脂フィルム
121 表面層
122 ラミウレタン層