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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-23
(45)【発行日】2024-05-02
(54)【発明の名称】凹部を基板中に生成するための方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/53 20140101AFI20240424BHJP
【FI】
B23K26/53
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022564582
(86)(22)【出願日】2021-03-31
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-01
(86)【国際出願番号】 EP2021058498
(87)【国際公開番号】W WO2021239302
(87)【国際公開日】2021-12-02
【審査請求日】2022-10-24
(31)【優先権主張番号】102020114195.5
(32)【優先日】2020-05-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】399007154
【氏名又は名称】エル・ピー・ケー・エフ・レーザー・アンド・エレクトロニクス・ソシエタス・ヨーロピア
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100191835
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 真介
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 大成
(74)【代理人】
【識別番号】100191938
【弁理士】
【氏名又は名称】高原 昭典
(72)【発明者】
【氏名】アンブロジウス・ノルベルト
(72)【発明者】
【氏名】オストホルト・ローマン
(72)【発明者】
【氏名】ドゥンカー・ダーニエール
(72)【発明者】
【氏名】デルゲ・モーリッツ
(72)【発明者】
【氏名】ハレ・ケヴィン
(72)【発明者】
【氏名】フォークト・アーロン・ミヒャエル
【審査官】松田 長親
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-173293(JP,A)
【文献】国際公開第2018/210484(WO,A1)
【文献】独国特許出願公開第102017106372(DE,A1)
【文献】特開2019-214507(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00-26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの凹部(1)を、突き出し構造として板状の基板(2)中に生成するか、又は前記基板(2)の材料の厚さ(3)を減少させるための方法であって、
レーザービームの集光が、前記レーザービームのビーム軸(4)に沿って三次元ビームフォーミングされ、
材料が、前記レーザービームに起因して前記基板から除去されることなしに、複数の欠陥箇所が、前記レーザービームによって前記ビーム軸(4)に沿って前記基板(2)中に生成され、
1つ又は複数の欠陥箇所が、少なくとも1つの変質部分(5)を前記基板(2)中に生成する結果、引き続き、前記凹部(1)及び/又は前記材料の弱い部分が、エッチング液の作用による異方性の材料除去によって前記基板(2)中の複数の変質部分(5)のそれぞれの領域内に生成され、
複数の変質部分(5)が、第1の外面(6)と前記基板(2)中の、この第1の外面(6)に対向する第2の外面(7)から間隔(a)をあけた位置(P)との間の延在部(T)を有する、平行に離間した複数のビーム軸(4)に沿って前記基板(2)中に生成される結果、それぞれの前記変質部分(5)が、外面(6,7)から前記基板の対向する前記外面(6,7)の方向に前記基板(2)中の、前記外面(6,7)から間隔(a)をあけた位置(P)まで延在する当該方法において、
1つの変質部分(5)の延在部(T)が長い程、隣接した変質部分(5)に対する側方間隔(S)が減少されるように、前記凹部(1)の底面において規則的な波形を成す突き出し構造を形成する重なり合う複数の凹部(1)を、エッチング除去によって前記変質部分(5)の領域内に形成するという方法で、前記凹部(1)が突き出し構造として、前記基板(2)の前記材料の厚さ(3)を部分的に減少させることによって前記基板(2)中に生成され、前記複数の凹部(1)の領域内の残りの材料の厚さが、前記突き出し構造を生成することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記基板(2)は、エッチング浴槽内に浸漬される結果、エッチング加工によって、前記第1の外面(6)の材料が異方性除去され、前記第2の外面(7)が等方性除去されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記基板(2)中の複数の欠陥箇所は、パルス列によって、又は1つの単一パルスによって生成されることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記複数の変質部分(5)は、同じビーム軸(4)ごとに複数のパルスによって生成されることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
当該生成された複数の変質部分(5)が互いに重なり合わないように、複数の前記ビーム軸(4)の側方間隔(S)が設定されることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記複数の変質部分(5)の領域内の異方性の材料除去によって発生する複数の前記凹部(1)が互いに重なり合うように、隣接した複数のビーム軸(4)の側方間隔(S)が設定されることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記複数の変質部分(5)は、規則的なパターンで及び/又は規則的な構造で前記基板(2)中に生成されることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
隣接した全ての変質部分(5)から1つの変質部分(5)までの側方間隔(S)は、少なくともほぼ一致するように選択されることを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
複数の同一ビーム軸(4)及び/又は複数の平行に隣接したビーム軸(4)の少なくとも一部に沿って、複数の変質部分(5)が、前記基板(2)中に生成され、これらの変質部分(5)は、一方では前記第1の外面(6)と前記基板(2)中の第1位置(P1)との間に延在し、他方では前記第2の外面(7)と前記基板(2)中の第2位置(P2)との間に延在する請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
一致する延在部(T)及び/又は隣接した前記外面(6,7)に対して同じ間隔(a)を有する複数の変質部分(5)が、一方では前記第1の外面(6)と前記基板(2)中の第1位置(P1)との間で、他方では前記第2の外面(7)と前記基板(2)中の第2位置(P2)との間で、同一のビーム軸(4)に沿って前記基板(2)中に生成されることを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
複数の平行なビーム軸(4)に沿って前記基板(2)中に生成された複数の隣接した変質部分(5)がそれぞれ、同じ前記外面(6,7)に対して異なる間隔(a)で前記基板(2)中の異なる位置(P)まで延在し、
これらの位置(P)は、前記外面(6,7)に対して平行でない1つの共通の平面上に存在することを特徴とする請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記基板(2)は、300μm~900μm又は300μm~600μmの材料の厚さを有し、前記基板(2)の100μm未満又は30μm~80μmの残厚を有する少なくとも1つの凹部(1)及び/又は材料の弱い部分が生成されることを特徴とする請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つの不貫通凹部を、特に板状の基板を貫通しない止り孔として、特に板状の基板中に生成するか、又は当該基板の材料の弱い部分としての材料の厚さを減少させるための方法に関する。当該方法の場合、レーザービームの集光が、当該レーザービームのビーム軸に沿って三次元ビームフォーミングされる。当該方法の場合、材料が、当該レーザービームに起因して当該基板から除去されることなしに、複数の欠陥箇所が、当該レーザービームによって当該ビーム軸に沿って当該基板中に生成される。この場合、1つ又は複数の欠陥箇所が、少なくとも1つの変質部分を当該基板中に生成する結果、引き続き、当該凹部及び/又は当該材料の弱い部分が、エッチング液の作用による異方性に材料除去する連続エッチングによって当該基板中の複数の変質部分のそれぞれの領域内に生成される。
【背景技術】
【0002】
レーザー誘起ディープエッチングによってガラスを精密加工するためのこのような種類の方法は、略称LIDE(Laser Induced Deep Etching)の下で公知である。この場合、当該LIDEの方法は、孔及びパターンを外部から正確に高速に生成することを可能にし、マイクロシステム技術における材料としてのガラスを多様な用途に備えて事前に準備する。
【0003】
例えば、国際公開第2014/161534号明細書及び国際公開第2016/004144号明細書から公知のレーザー誘起ディープエッチングの場合、透明な材料が、レーザーパルス又はパルス列によって、縦領域にわたって、例えばガラス板の場合は透明な材料の厚さの全体にわたってビーム軸に沿って変質される。その結果、当該変質部分が、繋がっているウェットエッチング浴槽内で異方性エッチングされる。
【0004】
凹部、例えば止め孔をレーザービームによって板状の基板中に生成するための方法が、国際公開第2016/041544号明細書から公知である。エッチング液が、連続エッチングによって作用するので、基板の変質された領域内の材料が異方性除去される。
【0005】
しかしながら、例えば止め孔又は他の凹部を製造するための片側のエッチングが、基板の対向する外面を保護するために追加の措置を必要とすること、及び、対向する両側面間を貫通する変質部分が、当該凹部に面しない当該基板の外面でも当該基板の材料特性を変化させることが、当該レーザー誘起エッチング方法の場合の欠点として実証されている。
【0006】
欧州特許出願公開第2503859号明細書は、選択的なレーザーエッチング方法を開示する。当該方法の場合、ガラス基板中の希望した位置にある焦点に集光されるレーザーが、当該ガラス基板に照射される。当該ガラス基板が、エッチング液中に浸漬され、変質された領域が、当該ガラス基板から除去されることによって、複雑な三次元構造が、ガラス又は止め孔中に製造され得る。当該エッチング除去は、例えば10x10x10μmの寸法の個々の容積が変質されることを必要とする。このため、当該焦点が、当該ガラス基板中で適切に新たに方向調整される必要がある。これにより、確かに、こうして変質された複数の容積が任意に組み合わせられ得るが、制御に多大な時間及び労力を要する。
【0007】
独国特許出願公開第102018110211号明細書には、フィラメント状の損傷部を非常に微細な止め孔として異なる長さで基板中に生成するため、当該基板中の焦点位置及び深さが制御可能である方法が開示されている。複雑な幾何構造を有する空洞を、互いに隣接した少なくとも2つのフィラメントを結合することによって生成するため、このフィラメント状の損傷部の直径が、後続する等方性エッチングによって拡大される。
【0008】
独国特許出願公開第102011111998号明細書は、表面をパターンニングするための方法に関する。この場合、レーザーが、表面に照射され、例えば当該表面の下方の領域が変質される。エッチング工程中に、複数の凹部が、当該変質された領域内の表面に生成され又は拡大される。材料が、当該レーザー照射によって変化する。当該材料の変化は、エッチング液の作用を変化させる。当該材料の変化は、微細欠陥、微細亀裂、微細孔、微細凹部又は相転移であり得る。この場合、例えばパターン変化又は当該レーザー照射によるアブレーションが起こり得る。
【0009】
欧州特許出願公開第2600411号明細書は、凹凸が基板の表面上に生成されるように、複数の変質された領域を当該基板中に生成するためのレーザー光が当該基板に照射され、当該表面が異方性エッチングされることを開示する。当該基板の表面と当該レーザー光の集光点との間の距離が変更される間に、当該レーザー光が、当該基板に複数回照射されることによって、当該変質された領域が生成される。
【0010】
さらに、異方性エッチングが、米国特許出願公開第2012/0295066号明細書から公知である。
【0011】
さらに、独国特許出願公開第102014109792号明細書は、ガラス製の要素の表面の少なくとも一部に、当該要素中に延在する点状の表面損傷部が、分離線に沿って生成される方法を開示する。この場合、1つの止め孔又は複数の点状の止め孔若しくは直線状のレーザー痕を生成するため、レーザービームが、当該要素の表面上に照射される。1つの直線状の表面損傷部が、これらの止め孔の開口部の領域内で結合し得るか又は特に好ましくは重なり合い得る連続する複数の止め孔によって生成され得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】国際公開第2014/161534号明細書
【文献】国際公開第2016/004144号明細書
【文献】国際公開第2016/041544号明細書
【文献】欧州特許出願公開第2503859号明細書
【文献】独国特許出願公開第102018110211号明細書
【文献】独国特許出願公開第102011111998号明細書
【文献】欧州特許出願公開第2600411号明細書
【文献】米国特許出願公開第2012/0295066号明細書
【文献】独国特許出願公開第102014109792号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の課題は、複数の凹部を基板中に製造するための労力をレーザー誘起エッチングによって著しく軽減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明によれば、この課題は、請求項1に記載の特徴にしたがう方法によって解決される。本発明の別の構成は、従属請求項に記載されている。
【0015】
したがって、本発明によれば、複数の変質部分が、特に平行に離間した複数のビーム軸に沿って当該基板中に生成される。この場合、それぞれの変質部分が、当該基板の対向する第2外面の方向に、第1外面からこれらの外面間に存在する、当該対向する外面から離間している1つの位置まで延在するように、これらのビーム軸は、最小値と最大値との間の1つの側方間隔を互いに有することが提唱されている。本発明の重要な思想は、当該基板の材料の厚さの全体にわたって延在するのではなくて、1つの外面からこれらの外面間に存在する1つの領域までに延在する変質部分だけを生成するという思想に基づく。これにより、片側の凹部が、マスクなしに、例えばエッチングレジストなしにエッチング浴槽内に浸漬することによって生成され得る。この場合、当該基板は、これらの変質部分の領域内で異方性エッチングされ、残りの領域内で等方性エッチングされる。これらの変質部分が、当該対向する外面まで延在しないことによって、当該基板のこの外面の特性が変化しない。これにより、従来では専ら限定的に実現可能であった用途の選択肢が広がる。さらに、三次元ビームビームフォーミングと、当該三次元ビームビームフォーミングによって発生する、当該外面から当該基板中の既定の位置までの均一で、連続し、中断のない変質部分とによって、複数の容積部分が適切に変更された複数の焦点位置によって1つのビーム軸に沿って連続して生成される方法の場合よりも遥かに均一なエッチング除去が達成され得ることが実証されている。さらに、焦点合わせを変更することなしに、レーザービームが、加工中に専ら当該基板の表面に対して平行に移動されることによって、すなわち希望した輪郭に沿って移動されるだけで済むことによって、処理期間及び制御コストが著しく低減され得る。この場合、当該レーザービームのエネルギー入力は、化学反応を励起又は開始させるために使用され、それぞれの変質部分を生成する欠陥箇所を生成するために使用される。これらの変質部分の作用は、後続の方法ステップでエッチング液を希望した材料除去に対して作用させることによって初めて発揮又は利用される。
【0016】
本発明によれば、欠陥箇所が、レーザービームによって基板中に生成され、少なくとも1つの変質部分が、当該基板中に生成される。しかしながら、当該変質部分自体は、材料除去を伴わない。引き続き、すなわち先行する材料除去なしに、エッチング液の作用に起因した凹部又は材料の弱い部分が、当該変質部分のそれぞれの領域内の異方性の材料除去によって当該基板中に生成される。それ故に、当該材料除去は、エッチング液のエッチング作用だけに起因して発生し、当該レーザービームの作用の直接の結果として発生するものではない。
【0017】
本発明によれば、発生する複数の凹部が、これらの凹部の前面の、外面に対して特に平行に延在する境界面の領域内に非常に小さい凸凹又は起伏を有することによって、非常に有益な効果が得られる。このため、こうして製造可能な突出構造は、従来では達成されなかった均一な材料の厚さを有する。
【0018】
この場合、本発明によれば、例えば、個々の領域が、望まないエッチング除去から保護されなければならない場合に、当然に、マスク、特にエッチングレジストの使用が必ずしも省略される必要はない。片側だけのエッチング作用も、問題なく実現され得て、本発明の対象である。したがって、エッチングによる腐食によって、第1外面が、異方性に材料除去され、第2外面が、等方性に材料除去されるように、基板が、エッチング浴槽内に浸漬され、特にマスク又はエッチングレジストなしにエッチングされる場合は、特に実用的である。これにより、例えば、1つの薄膜だけによって分離されている互いに対向する複数の凹部も、これらの外面内に生成され得る。この場合、当然に、この薄膜の面は、これらの外面間の中心の面からずれていてもよい。このような構造は、従来の方法では実現不可能であるか、又は多大な労力を要する多段階式のエッチング方法だけによって実現可能である。
【0019】
複数の変質部分が、同じビーム軸ごとに複数のパルスによって生成されることによって、本発明の特に好適な実施の形態が達成される。この場合、少なくとも個々のパルスが、当該変質部分に対する閾値未満のエネルギー入力で入射され、該当する基板材料の励起だけを引き起こし、累積したエネルギー入力が、当該変質部分を生成する。同じビーム軸に沿って引き起こされた状態変化によって、当該状態変化から発生した変質部分の、このビーム軸に対する横断面が拡大するか、又は、テーパー角度が大きくなる。その結果、凹部が、理想的に円柱状である。これにより、エッチング方法の実行時に、隣接した複数の変質部分が、この凹部の底面に複数の円錐形の深堀部分を生成する従来の技術とは違って、この凹部の境界面がほぼ平坦になる。それぞれのパルスが、当該もたらされた励起によって当該基板の光学特性を変化させ、これによって、影響範囲を当該ビーム軸に対して同心円状に拡大させる変質を引き起こすことによって、こうして確定された容積部分の、当該ビーム軸に対して直角方向の幅が拡大する。これにより、同時に、横断面に延在する前面又は鈍角を成す広角の円錐形の深堀部分が生成される。その結果、変質部分が生成される。当該変質部分の長さは、一定であるが、当該変質部分の直径は、当該パルスの数及びパラメータによって決定されている。
【0020】
この場合、複数の変質部分が重なり合うように、隣接した複数のビーム軸の間隔を選択することが考えられる。このため、異方性の材料除去によって変質された領域内に発生する複数の凹部が、当該ビーム軸に対して互いに直角方向に重なり合うように、当該生成された複数の変質部分が互いに重なり合うのではなくて、僅かに離間して互いに隣接するように、当該ビーム軸の間隔が設定されることが特に重要である。
【0021】
隣接した複数の変質部分の生成時の、レーザービームに関する望まない相互作用、いわゆるシャドーイング効果を先行する変質によって回避するため、エッチングされた複数の凹部の直径(d)に依存する複数の変質部分の間隔(p)が、式10>d/p>1.15にしたがって決定される。したがって、一体化された1つの容積部分が生成されるように、当該それぞれの凹部の直径(d)は、これらの変質部分の間隔(p)の少なくとも1.15倍の大きさである。しかし、同時に、これらの変質部分(p)の最小間隔を当該直径の10分の1未満にならないようにすることも必要である。何故なら、これらの変質部分(p)の最小間隔が、当該直径の10分の1未満であると、シャドーイングによるエッジ効果が発生するからである。
【0022】
この場合、規則的なパターン及び/又は規則的な構造を有する複数の変質部分が、基板中に生成されると、非常に有益であることが既に実証されている。これにより、均一なパターンが、凹部を画定する面内で得られる。この場合、特に、望まない材料の弱い部分が回避され、この凹部の延在部分の全体にわたる面の特性がほぼ均一である。
【0023】
このため、例えば、複数の変質部分の六角形パターンが得られるように、1つの変質部分から隣接した全ての変質部分までの間隔が、少なくともほぼ一致するように選択されると、非常に実用的であることが実証されている。さらに、連続する複数の変質部分を近接させて生成するのではなくて、場合によってはこれらの変質部分をさらに離間させて生成することが有益であり得る。これにより、特に、熱の影響に起因する相互作用が回避される。
【0024】
互いに隣接した、特に平行な複数の変質部分のうちの少なくとも個々の変質部分が、共通の水平面内に外面に対して平行に複数の異なる側方間隔を有し、当該側方間隔と当該延在部分とが反比例するように、すなわち当該延在部分が長い程、当該側方間隔が短くされ、当該延在部分が短い程、当該側方間隔が長くされるように、当該それぞれの側方間隔が、当該外面と基板中の1つの位置との間の変質部分の延在部分、すなわち長さに依存して設定されることによっても、本発明の特に好適な実施の形態が達成される。すなわち、側方間隔と延在部分との間のこの関係を観察した場合に、こうして生成された凹部又は材料の弱い部分が、規則的で、実際にはほぼ平坦な表面を有することが新たに解明された。これは、当該延在部分に依存しない側方間隔の場合と異なる。本発明で利用可能なこの効果は、変質部分の横断面が基板中の1つの位置に近いこの変質部分の端部で減少しているという認識に基づく。すなわち、当該変質部分が、先細りするように推移している。それ故に、最適な面が、隣接した複数の変質部分の延在部分と側方間隔との間の逆比によって達成され得る。
【0025】
一方では第1外面と基板中の1つの位置との間に延在し、他方では第2外面と基板中の1つの位置との間に延在する複数の異なる変質部分の一部が、同一又は平行の複数の軸に沿って当該基板中に生成され、これらの変質部分の延在部分が一致し得る場合に、本発明の同様に特に好適な別のバリエーションが達成される。これにより、三次元の輪郭が、当該基板中に生成され得る。この場合、レーザービームが、同じ外面を透過して当該基板中に入射する。この場合、それぞれの変質部分が、第1外面又は第2外面から基板中の既定の位置まで延在している。この場合、エッチングによる腐食が、エッチング液の作用によって、特に当該エッチング液中に浸漬させることによって両側から実行される。その結果、材料除去が、両側又は全方向側から実行される。これにより、複雑なパターンが、複数の変質部分を生成し、引き続きエッチングを実行することによって比較的少ない労力で達成され得る。
【0026】
一方では基板中の1つの位置と他方では第1外面との間の変質部分と、一方では基板中の1つの位置と他方では第2外面との間の変質部分とが、当該隣接した外面に対して一致する延存部分(延存長さ)又は同じ延存部分(延存長さ)を有して同一の複数の軸に沿って当該基板中に生成される本発明の特に好適なバリエーションによれば、複数の分離面が、例えば、基板から製造すべき部分の周囲輪郭に沿って両側から面取りすることによって面取りされ得る。したがって、目標輪郭に沿った切削と、望まない鋭利な縁部を回避するための面取りの生成とが、ただ1つの方法ステップで実行される。
【0027】
本発明の方法の同様に特に好適なバリエーションの場合、平行な複数の軸に沿って基板中に生成された隣接する複数の変質部分がそれぞれ、当該基板中の複数の異なる位置に対して隣接した外面に対して異なる間隔で生成される。この場合、これらの位置は、当該外面に対して平行でない共通の1つの平面上に存在する。こうして、当該外面に対して傾斜して配向している1つの平坦な材料の弱い部分又は1つの凹部が生成され得る。
【0028】
当然に、特に、当該凹部の移行領域内の不連続箇所と、基板の隣接する縁領域内の不連続箇所とを回避するため、湾曲した面も同様に生成され得る。これにより、特に外部からの力の作用時の基板中の望まない応力変化が効率的に回避され、こうして生成されたパターン、例えば突き出し構造の弾性が著しく向上する。
【0029】
こうして、300μm~900μm、特に500μmの材料の厚さを有する1つの基板と、100μm未満、特に約50μmの基板の残りの厚さとを有する少なくとも1つの凹部及び/又は材料の弱い部分とが生成され得る。その結果、フレキシブルな特性が、少なくとも個々の凹部又は材料の弱い部分の領域内で達成され得て、これにより、例えば薄膜又はヒンジが生成され得る。
【0030】
様々な実施の形態が、本発明によって実現可能である。これらの実施の形態の基本原理をさらに説明するため、これらの実施の形態のうちの1つの実施の形態を図面に示し、以下で説明する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】基板中の1つの位置まで延在する変質部分を有する当該基板の側面図である。
図2】基板中のエッチングによって生成された変質部分を示す。
図3】エッチングプロセスによって重なり合っている複数の凹部を有する並んで配置された複数の変質部分を示す。
図4】複数の隣接した凹部によって生成された波状の縁輪郭部を有する基板の正面図である。
図5】複数の変質部分と複数の凹部とによる規則的なパターンを示す。
図6】整列された複数の変質部分を有する基板の正面図である。
図7】異なる長さの複数の変質部分を有する図6に示された基板の側断面図である。
図8】エッチングによる材料除去後の図6及び7に示された基板の側断面図である。
図9】複数の同様な軸に沿って部分的に生成された複数の変質部分を有する別の基板の側断面図である。
図10】エッチングによる材料除去後の図9に示された基板の側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下に、基板2の材料の厚さ3を部分的に減少させることによって、凹部1を深堀部分(Vertiefung)又は突き出し構造(Ueberhangstruktur)として基板2中に生成するための本発明を、図面に基づいて詳しく説明する。この場合、図1で見て取れるように、基板2におけるそれ自体公知のLIDE(Laser Induced Deep Etching(レーザー誘起ディープエッチング))方法にしたがって、図示されていないレーザービームの集光が、当該レーザービームのビーム軸4に沿って三次元ビームフォーミングされる。これにより、それぞれ1つの変質部分を基板2中に生成する複数の欠陥箇所(Fehlstellen)が、ビーム軸4に沿って基板2中に生成される。
【0033】
引き続き、複数の変質部分5のそれぞれの領域内にエッチング液を作用させ、その結果として発生する異方性の材料除去によって、図2に示されているように、凹部1が、基板2中に生成される。
【0034】
特に図6及び7で認識できるように、当該凹部1を生成するため、複数の変質部分5が、第1の外面6と基板2中の(第1の外面6に対向する第2の外面7から間隔aをあけた)位置Pとの間の延在部Tを有する複数の平行なビーム軸4に沿って基板2中に生成される。その結果、それぞれの変質部分5が、基板2の外面6,7から対向する外面6,7の方向に基板2中の位置Pまで延在する。この場合、互いに隣接した複数の変質部分5が、それぞれのビーム軸4に対する側方間隔Sを有する。
【0035】
重なり合う複数の凹部1が、エッチング除去によって変質部分5の領域内に発生する。これらの凹部1は、当該凹部1の底面に沿って波形を成すポケット状の1つの深堀部分又は1つの突き出し構造を基板2中に生成する。この場合、ポケット状の複数の凹部1の領域内の残りの厚さが、当該突き出し構造を生成する。
【0036】
図4は、凹部1の縁領域の拡大正面図である。縁領域の一般的な形は、複数の変質部分5間の側方間隔Sとエッチングされた複数の凹部1の大きさとによって決まり、同時に当該縁領域の角部分の半径を決定する幅bによって示される。
【0037】
図5は、凹部1の縁領域内の複数の変質部分5と複数の凹部1とによる規則的なパターンの正面図である。
【0038】
隣接した複数の変質部分5の側方間隔Sは、基板2中の延在部Tの長さ又は深さに反比例する。図6で認識できるように、当該反比例は、1つの列Rの1つの変質部分5から隣接した複数の列Rの複数の変質部分5までの側方間隔Sと、同じ列Rの複数の異なる変質部分5同士のそれぞれの側方間隔Sとの双方で成立する。このため、本発明の方法が、複数の変質部分5の延在部Tに依存する異なる横断面形状と、これらの変質部分5のそれぞれの端部領域9内のこれらの変質部分5のこれらの横断面形状の幅bとを利用することによって、図8に横断面で示された凹部1のほぼ平坦な表面8を本発明にしたがって問題なく達成することができる。
【0039】
図9及び10には、当該方法のバリエーションがさらに示されている。当該バリエーションの場合、複数の異なる変質部分5が、レーザービームの同じビーム軸4に沿って基板2中に生成される。これらの変質部分5は、一方では第1の外面6と第1位置P1との間に延在し、他方では第2の外面7と第2位置P2との間に延在する。図示された実施の形態の場合、これらの変質部分5は、同じ長さの延在部Tを有する。これらの変質部分5が、ビーム軸4に沿って分断されていることによって、基板2の当該包囲されている内側の領域が、後続するエッチング処理時に、材料が除去されない。エッチング除去後のこうして生成された階段状の構造が、図10に示されている。化学効果に起因して、当該階段状の構造は、一部を図示された追加の面取り輪郭10を有する。こうして生成された面取り部分又は射角面は、基板2の負荷に強い部分又は一部を最適な方法で製造するために適していて、ただ1つの共通の方法ステップで本発明にしたがって製造され得る。
なお、本願は、特許請求の範囲に記載の発明に関するものであるが、他の態様として以下の構成も包含し得る:
1.
少なくとも1つの凹部(1)を、特に板状の基板(2)中に生成するか、又は前記基板(2)の材料の厚さ(3)を減少させるための方法であって、
レーザービームの集光が、前記レーザービームのビーム軸(4)に沿って三次元ビームフォーミングされ、
材料が、前記レーザービームに起因して前記基板から除去されることなしに、複数の欠陥箇所が、前記レーザービームによって前記ビーム軸(4)に沿って前記基板(2)中に生成され、
1つ又は複数の欠陥箇所が、少なくとも1つの変質部分(5)を前記基板(2)中に生成する結果、引き続き、前記凹部(1)及び/又は前記材料の弱い部分が、エッチング液の作用による異方性の材料除去によって前記基板(2)中の複数の変質部分(5)のそれぞれの領域内に生成される当該方法において、
複数の変質部分(5)が、第1の外面(6)と前記基板(2)中の、この第1の外面(6)に対向する第2の外面(7)から間隔(a)をあけた位置(P)との間の延在部(T)を有する、特に平行に離間した複数のビーム軸(4)に沿って前記基板(2)中に生成される結果、それぞれの前記変質部分(5)が、外面(6,7)から前記基板の対向する前記外面(6,7)の方向に前記基板(2)中の、前記外面(6,7)から間隔(a)をあけた位置(P)まで延在する当該方法。
2.
前記基板(2)は、エッチング浴槽内に浸漬される結果、エッチング加工によって、前記第1の外面(6)の材料が異方性除去され、前記第2の外面(7)が等方性除去される上記1に記載の方法。
3.
前記基板(2)中の複数の欠陥箇所は、パルス列によって、又は1つの単一パルスによって生成される上記1又は2に記載の方法。
4.
前記複数の変質部分(5)は、同じビーム軸(4)ごとに複数のパルスによって生成される上記1~3のいずれか1つに記載の方法。
5.
当該生成された複数の変質部分(5)が互いに重なり合わないように、複数の前記ビーム軸(4)の側方間隔(S)が設定される上記1~4のいずれか1つに記載の方法。
6.
前記複数の変質部分(5)の領域内の異方性の材料除去によって発生する複数の前記凹部(1)が互いに重なり合うように、隣接した複数のビーム軸(4)の側方間隔(S)が設定される上記1~5のいずれか1つに記載の方法。
7.
前記複数の変質部分(5)は、規則的なパターンで及び/又は規則的な構造で前記基板(2)中に生成される上記1~6のいずれか1つに記載の方法。
8.
隣接した全ての変質部分(5)から1つの変質部分(5)までの側方間隔(S)は、少なくともほぼ一致するように選択される上記1~7のいずれか1つに記載の方法。
9.
1つの変質部分(5)の延在部(T)が長い程、隣接した変質部分(5)に対する前記側方間隔(S)が減少される上記1~8に記載の方法。
10.
複数の同一ビーム軸(4)及び/又は複数の平行に隣接したビーム軸(4)の少なくとも一部に沿って、複数の変質部分(5)が、前記基板(2)中に生成され、これらの変質部分(5)は、一方では前記第1外面(6)と前記基板(2)中の第1位置(P1)との間に延在し、他方では前記第2外面(7)と前記基板(2)中の第2位置(P2)との間に延在する請求項1~9のいずれか1つに記載の方法。
11.
一致する延在部(T)及び/又は隣接した前記外面(6,7)に対して同じ間隔(a)を有する複数の変質部分(5)が、一方では前記第1外面(6)と前記基板(2)中の第1位置(P1)との間で、他方では前記第2外面(7)と前記基板(2)中の第2位置(P2)との間で、同一のビーム軸(4)に沿って前記基板(2)中に生成される上記1~10のいずれか1つに記載の方法。
12.
複数の平行なビーム軸(4)に沿って前記基板(2)中に生成された複数の隣接した変質部分(5)がそれぞれ、同じ前記外面(6,7)に対して異なる間隔(a)で前記基板(2)中の異なる位置(P)まで延在し、
これらの位置(P)は、前記外面(6,7)に対して平行でない1つの共通の平面上に存在する上記1~11のいずれか1つに記載の方法。
13.
前記基板(2)は、300μm~900μm、特に300μm~600μmの材料の厚さを有し、前記基板(2)の100μm未満、特に30μm~80μmの残厚を有する少なくとも1つの凹部(1)及び/又は材料の弱い部分が生成される上記1~12のいずれか1つに記載の方法。
【符号の説明】
【0040】
1 凹部
2 基板
3 材料の厚さ
4 ビーム軸
5 変質部分
6 外面
7 外面
8 表面
9 端部領域
10 輪郭
T 延在部
P 位置
a 間隔
S 側方間隔
R 列
b 幅
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10