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特許7478261器官の組織活性の指標を推定するためのシステム及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-23
(45)【発行日】2024-05-02
(54)【発明の名称】器官の組織活性の指標を推定するためのシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/055 20060101AFI20240424BHJP
【FI】
A61B5/055 380
A61B5/055 382
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022570329
(86)(22)【出願日】2021-05-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-21
(86)【国際出願番号】 FR2021050872
(87)【国際公開番号】W WO2021234278
(87)【国際公開日】2021-11-25
【審査請求日】2022-12-26
(31)【優先権主張番号】2005142
(32)【優先日】2020-05-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】510139128
【氏名又は名称】オレア メディカル
【住所又は居所原語表記】93 avenue du Sorbier - Z.I ATHELIA IV - 13600 LA CIOTAT - FRANCE
(74)【代理人】
【識別番号】110000970
【氏名又は名称】弁理士法人 楓国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シュードル ロマン
(72)【発明者】
【氏名】ルイエ ジュリアン
(72)【発明者】
【氏名】ブゥトゥリエ ティモンテ
(72)【発明者】
【氏名】アヴァール クリストフ
【審査官】亀澤 智博
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-506916(JP,A)
【文献】特開2018-175856(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0139226(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第109820506(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/055
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
器官の基本ボリュームであるボクセルに対してバイオマーカーの量を定めるための方法(100)であって、前記方法は、拡散MRIのためのイメージング解析システムの処理ユニット(4)によって実行され、実験データS(b)(10、12)に基づいて、組織活性指標としてバイオマーカー(TAI)の値を生成するステップ(130)を備え、前記バイオマーカー(TAI)の値を生成する前記ステップ(130)は、拡散勾配の強度に対応する取得パラメータbの値の画定された間隔bminからbmaxに亘って、
【数1】
を計算することからなり、L(b)は前記取得パラメータbの関数であり、ΓS[S(b)]は前記実験データS(b)の全単射の変換であり、TAIはバイオマーカーの値であることを特徴とする、方法(100)。
【請求項2】
前記関数及び全単射の変換は、L(b)がbminとbmaxの間に含まれる前記取得パラメータbの全ての値に亘ってΓS[S(b)]以上であるように相互に決定される、請求項1に記載の方法(100)。
【請求項3】
前記関数及び全単射の変換は、L(bmin)= ΓS[S(bmin)]及び/又はL(bmax)= ΓS[S(bmax)]であるように相互に決定される、請求項1又は2に記載の方法(100)。
【請求項4】
前記イメージング解析システムは、前記量を定められたバイオマーカー(TAI)の前記システムのユーザ(6)に対する出力ヒューマンマシンインターフェース(5)を備え、前記出力ヒューマンマシンインターフェース(5)は前記処理ユニット(4)と協働し、前記方法は、前記量を定められたバイオマーカー(TAI)の適切なフォーマットでの出力をトリガする後のステップ(140)を備える、請求項1から3の何れかに記載の方法(100)。
【請求項5】
前記イメージング解析システムは、前記処理ユニット(4)と協働する入力ヒューマンマシンインターフェース(8)を備え、前記方法(100)は、前記入力ヒューマンマシンインターフェース(8)のユーザの入力データに基づいて、前記取得パラメータbの前記関数L(b)及び前記実験データS(b)の前記全単射の変換ΓS[S(b)]を決定するステップ(110)を備える、請求項1から4の何れかに記載の方法(100)。
【請求項6】
前記バイオマーカーの値を生成するステップ(130)は、当の複数のボクセルに対する連続する反復によって実行され、前記バイオマーカー(TAI)はボクセル毎に量を定められる、請求項1から5の何れかに記載の方法(100)。
【請求項7】
前記量を定められたバイオマーカー(TAI)の出力をトリガするステップ(140)は、パラメータマップの形で画像を生成することからなり、前記パラメータマップのピクセルは、それぞれ、当のボクセルに対する前記量を定められたバイオマーカーの値を符号化している、請求項4を引用する請求項6に記載の方法(100)。
【請求項8】
処理ユニット(4)、外界と通信する手段、及び記憶手段を備え、
前記通信手段は器官の基本ボリュームの実験データS(b)を外界から受信するように設けられ、
前記記憶手段は命令を含み、前記命令の前記処理ユニットによる解釈又は実行によって、請求項1から7の何れかに記載の前記器官の基本ボリュームのバイオマーカーの量を定めるための方法(100)が実行されることを特徴とする、イメージング解析システム。
【請求項9】
前記器官の基本ボリュームの実験データS(b)は、拡散MRIイメージングによる信号の取得から生じるデータであり、
前記量を定められたバイオマーカーは前記器官の基本ボリュームにおける水分子の拡散の指標(TAI)である、請求項8に記載のイメージング解析システム。
【請求項10】
前記通信手段は、請求項4に記載の前記方法(100)の実行によって、前記量を定められたバイオマーカーと関連したグラフィックコンテンツを出力ヒューマンマシンインターフェース(5)に送信するように設けられる、請求項8又は9に記載のシステム。
【請求項11】
前記通信手段は、前記システムの入力ヒューマンマシンインターフェース(2)によって送信された入力データを受け取るように設けられ、前記入力データによって、前記取得パラメータbの関数L(b)及び前記実験データS(b)の全単射の変換ΓS[S(b)]を決定することが可能になる、請求項8から10の何れかに記載のシステム。
【請求項12】
請求項8から11の何れかに記載のイメージング解析システムの前記処理ユニット(4)によって解釈又は実行され得る1つ以上の命令を含み、前記システムの記憶手段に置かれ得、前記処理ユニットによる前記命令の解釈又は実行によって、請求項1から7の何れかに記載の基本ボリュームのバイオマーカー(TAI)の量を定めるための方法(100)が実行されることを特徴とする、コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人間又は動物の器官の組織活性の新規なバイオマーカーの量を定めるためのシステム及び方法に関する。好ましい応用例として、そのようなバイオマーカーは、動物又は人間の患者の身体の1つ以上の部分の画像シーケンスの取得から生じる拡散データに基づいて、生体組織内の水分子の拡散の新規な指標の形で、生体組織内の生物学的流体の拡散性を表す。この好ましい応用例の枠組みの中で、そのようなバイオマーカーは以下で「組織活性指標」又は“tissue activity indicator”の頭字語「TAI」と呼ばれる。
【背景技術】
【0002】
本発明は、特に、磁気共鳴イメージング技術又はMRI、とりわけ拡散強調イメージング又はDWI、コンピュータ断層撮影(CT)に依拠する。これらの技術によって、人間又は動物内に存在する器官又は組織の内部の水分子の動きに関する貴重な情報を速やかに得ることが可能である。これらの情報は、診断を確立して病変の治療において治療の決定を行おうとする医師にとって特に重要である。
【0003】
そのような技術を実行するために、図1及び図2に非限定的な例として示されるような、核磁気共鳴を使用するイメージング装置1が一般に使用される。イメージング装置1は、患者の身体の1つ以上の部分、非限定的な例として、脳、心臓、肺の複数のデジタル画像シーケンス12を提供し得る。この目的で、前記装置は、高周波の電磁波の組合せを当の身体の部分に印加し、非限定的な例として核磁気共鳴イメージングに対する水素のような特定の原子によって再放出された信号を測定する。従って、その装置は、撮像されたボリュームの、一般にボクセルと呼ばれる、それぞれの基本ボリュームにおいて、磁気特性、従って生物学的組織の化学組成、それ故それらの性質を決定することを可能にする。核磁気共鳴イメージングを用いるイメージング装置1はコンソール2によって制御される。従って、ユーザ6、例えば、操作者、医師、又は研究者は、解析システムの入力ヒューマンマシンインターフェース8を介して入力されるパラメータ又は命令16に基づいて、コマンド11を選択して装置1を制御し得る。そのようなヒューマンマシンインターフェース8は、例えば、コンピュータキーボード、ポインティングデバイス、タッチスクリーン、マイクロフォン、又は、より一般に、人間6によって発せられたジェスチャコマンド又は命令を制御又は設定データとして表すように設けられた任意のインターフェースからなり得る。前記装置1によって生成された情報10に基づいて、人間又は動物の身体の一部の複数のデジタル画像シーケンス12が得られる。そのような情報10又は画像12は「実験データ」とも呼ばれる。
【0004】
画像シーケンス12は、任意に、サーバ3内に記憶され、患者の医療ファイル13を構成し得る。そのようなファイル13は、組織の活性を示す機能的な画像、又は組織の特性を反映する解剖学的な画像のような異なる型の画像を含み得る。画像シーケンス12又はより一般に実験データは処理ユニット4によって解析され、処理ユニット4はこの目的で設けられる。処理ユニット4は、例えば、前記イメージング解析システムの不揮発性メモリのような記憶手段に置かれた適切なアプリケーションプログラム命令を実行する1つ以上のマイクロプロセッサ又はマイクロコントローラの形を取る。前記処理ユニット4は画像を受け取るために外界と通信する手段を備える。また、前記通信手段によって、処理ユニット4は、出力ヒューマンマシンインターフェース5を介して、イメージング解析システムのユーザ6に、磁気共鳴イメージングによって得られた実験データ10及び/又は12に基づいて前記処理ユニット4によって生成されたバイオマーカーの推定値又は定められた量の、レンダリング、例えばグラフィック及び/又はオーディブルレンダリングを最終的に提供することが可能である。本文書を通して、「出力ヒューマンマシンインターフェース」は、単独で又は組み合わせて使用され、再構成された生理学的信号、この場合バイオマーカーの、グラフィック、ハプティック、オーディブル表示、又は、より一般に、人間によって知覚され得るものを、磁気共鳴イメージング解析システムのユーザ6に出力又は提供することを可能にする任意の装置を意味する。そのような出力ヒューマンマシンインターフェース5は、非限定的に、1つ以上のスクリーン、ラウドスピーカー、又は他の適切な代替手段からなり得る。従って、解析システムの前記ユーザ6は、診断の間違いの有無の確認、自分が適切と考える治療行為の決定、さらなる調査の開始等を行い得る。任意に、このユーザ6は、作動及び/又は取得パラメータ16によって、処理ユニット4又は出力ヒューマンマシンインターフェース5の作動を設定し得る。従って、例えば、ユーザ6は、表示閾値を定め得、又は、表示を利用できることを望む、バイオマーカー、指標、又は推定された若しくは量を定められたパラメータを選択し得る。この目的で、ユーザは、上述の入力ヒューマンマシンインターフェース8、又はこの目的で設けられる第2入力インターフェースを利用する。有利に、入力ヒューマンマシンインターフェース8及び出力ヒューマンマシンインターフェース5は1つの同じ物理的実体のみを構成し得る。また、イメージング解析システムの前記入力ヒューマンマシンインターフェース8及び出力ヒューマンマシンインターフェース5は取得コンソール2に統合され得る。図2に関して記述される変形例が存在する。それについて、上述のようなイメージングシステムは、画像シーケンス12を解析し、それから実験信号15を推定し、従ってこのタスクから解放される処理ユニット4にこれらの実験信号15を提供するための前処理ユニット7さらに備える。
【0005】
以下でMRIと呼ばれる磁気共鳴イメージングによって、1つ以上の実験データ、有利に1つ以上の実験信号をそれぞれ取得することは、所定の断面において平行六面体のボリュームを規則的にサンプリングすることで行われ得る。所定の断面の中で、コロナル、サジタル、アキシャル面の名が挙げられ得る。得られる二次元画像は、断面の厚みに相当する厚みを与えられ、ボクセルと呼ばれるピクセルで構成される。従って、そのようなイメージング技術によって、同様に良好に、解剖学的であり例えば組織の特性を反映することを可能にするだろう、又は機能的であり例えば組織の活性を示すだろう画像の取得が可能になる。
【0006】
磁気共鳴イメージングに基づく技術又は方法の中で、拡散磁気共鳴イメージングが区別され得る。拡散イメージングは従来のイメージングシーケンスで得られない情報を提供する。非限定的な例として、それは、虚血性血管障害の早期診断を可能にし、癌病変の診断の助けとなる。また、それは、例えば一般に可逆な血管原性浮腫を一般に不可逆な細胞毒性水腫と識別することを可能にすることで、予後情報を提供する。観測される拡散は周囲の組織によって束縛されるため、このイメージング法によって、特に、非限定的な例として脳内の白質束のような繊維性の組織又は構造の位置、方向、及び異方性を間接的に推定することが可能となる。磁気共鳴イメージングは主に水分子の水素原子の応答の解析に基づくため、「関心のあるパラメータ」とも呼ばれる、定められたバイオマーカーの形で、この方法によって観測されるのは、主に水分子の拡散である。
【0007】
拡散画像で一般に使用されるシーケンスの中で、生物、一般に動物又は人間の有機体内に存在する水分子の動きに関する1つ以上の情報を与えようとするマルチb拡散イメージングシーケンスを区別することができる。例えば開放液体媒体中で、水分子は一般にブラウン運動によって動かされる。そして、これは自由拡散と呼ばれる。逆に、生体組織内において、流体の動きは、例えば静水圧及び浸透圧の変化のような幾つかの物理的要因によって、さらに例えば組織の細胞密度及び前記組織内における高分子の存在のような構造的要因によって抑制される。
【0008】
所与のボクセルにおける拡散の評価は、取得パラメータ、この場合、以下で「拡散勾配」と呼ばれ、一般に「パラメータb」と呼ばれる磁場勾配の強度の様々な値に対する反復取得に依拠する。パラメータbは、
【数1】
のように定義される。ここで、γは磁気回転比からなり、次のパラメータ、即ち、振幅gD、パルスの持続時間δ、「繰返し時間」とも呼ばれる2つのパルス間の時間Δは、インパルス勾配の特性を定める。
【0009】
一般に、所与のb値で測定を行うために、2つの連続する拡散勾配が使用される。初めに、位相コヒーレンスの状態で、水分子の水素プロトンの核スピンの位相は第1拡散パルス磁場勾配によってディフェーズされるが、第2拡散パルス磁場勾配は前記位相コヒーレントな核スピンをその初期状態に戻すことが可能である。そのような初期状態の可逆性は、拡散現象がないという条件でのみ可能である。拡散現象が存在する場合、水分子の確率的な動きによって、第2勾配はスピンをその初期状態に戻すことができなくなる。
【0010】
従って、位相のランダムな分布は、取得される信号の強度の低下を引き起こす。なぜなら、取得される信号は、当のボクセルに存在するそれぞれのスピンの寄与の総和から生じるからである。そのような信号強度の低下は減衰として扱われる。b値が増加すると、繰返し時間Δは定義により増加する。従って、信号強度のより大きな減衰によって表されるより大きなディフェージングが観測される。観測されるような一般に信号減衰と呼ばれる信号強度の減衰は、拡散勾配なしで、即ちbがゼロである場合に得られる信号S0に対する測定される信号S(D,b)の比率としてモデル化され得る。この比率は、
【数2】
のように、特定のバイオマーカー、拡散係数D、及びパラメータbに依存する指数関数的な振舞いを有する。
【0011】
そのようなモデルは生物学的組織内に存在する水分子のガウス拡散の仮定に依拠する。従って、パラメータbの次元は、拡散係数Dの逆の次元に一致し、s/mm2として表される。図3は、信号強度減衰曲線の一例、特に1.3x10-3 mm2/sの拡散係数Dに対するパラメータbに応じた信号減衰の指数関数的な依存性を示す。
【0012】
信号減衰曲線を利用し、最終的に1つ以上のバイオマーカーを推定することを可能にするために、幾人かの研究者が拡散の異なる解析モデルを提案している。そのようなバイオマーカーは組織の代謝に関する情報を提供する。非限定的な例として、そのようなバイオマーカーは拡散係数からなり得る。
【0013】
現在、臨床の現場で最も使用されているモデルの一つは単一指数関数モデルからなる。そのような単一指数関数モデルは、拡散勾配なしで得られる信号S0に対する測定される信号S(D,b)の比率のモデル化の利用に依拠し、拡散係数は、見かけの拡散係数ADCとして解釈され、
【数3】
のように定められる。
【0014】
また、変形例において、別の医師は、Denis Le Bihan氏によって最初に紹介及び開発された、双指数関数モデルとも呼ばれるIVIM(“intravoxel incoherent motion”(イントラボクセルインコヒーレント運動)の頭字語)の概念及びモデルを使用する。そのようなモデルによって、特に拡散MRIで取得される信号に寄与し得る全ての微視的な並進運動を定量的に評価することが可能になる。このモデルにおいて、生物学的組織は、2つの異なる環境、「真の拡散」とも呼ばれる組織内の水の分子拡散、及び「灌流」とも呼ばれる毛細血管網内の血液の微小循環を含む。IVIMの概念は、全ての方向が毛細血管において示される、即ち正味のコヒーレントな流れがどの方向にもないという仮定が満足される限り、毛細血管内を流れる水は、所与のボクセルに対して、「擬似拡散」とも呼ばれるランダムウォークによく似ると考えることからなる。毛細血管内の血流は、「灌流現象」と呼ばれ、拡散過程によく似ており、拡散MRIで取得される測定値に影響を与える。従って、それは拡散MRIにおける信号減衰の原因であり、その信号減衰は血流の速度及び血管の構造に依存する。擬似拡散の信号減衰への影響は値bに依存する。しかし、擬似拡散から生じる信号の減衰率は一般に組織内の分子拡散より一桁大きいため、それの拡散強調MRI信号への相対的な寄与は非常に低いb値でのみ重要になり、それにより拡散と灌流の影響を分離することが可能になる。実際、0と200 s/mm2の間のbの低い値に対して、マルチb拡散イメージング技術は、拡散現象に敏感であるだけでなく、毛細血管の灌流現象にも敏感になる。従って、この場合、信号減衰は、
【数4】
のように双指数関数でモデル化され得る。ここで、fは灌流割合からなり、Dは拡散係数からなり、D*は擬似拡散係数からなる。
【0015】
変形例として又は加えて、組織内の拡散の非ガウス的な振舞いを考慮するために、第3のモデルが使用されている。そのようなモデルは尖度モデルと呼ばれる。実際、1000 s/mm2を超える非常に高いb値に対して、ガウス拡散領域は遮断される。ガウス拡散仮定は、移動が自由な液体及び/又はゲルにおいて正しいけれども、流体が分子の自由な変位を制限する障壁によって束縛される場合、そのような仮定は根拠をなくす。この束縛された拡散は、制限拡散とも呼ばれ、特に生物学的組織内で観測される。なぜなら、細胞膜は間質液を区画に分けるからである。従って、高いb値において、即ち拡散現象の生起を可能にする一定の時間後、信号減衰はガウスモデルから逸脱する。それ故、研究者は、
【数5】
のように、逸脱の影響を考慮するためにIVIMモデルの一般化を提案している。ここで、Kはガウスモデルに対する逸脱の程度を特徴付ける無次元尖度係数からなる。
【0016】
図4は、0から3000 s/mm2まで及ぶ、b値の広い範囲に亘る、信号減衰、即ち拡散勾配なしで得られる信号S0に対する測定される信号S(D,b)の比率の対数表現の一例を示す。そのような表現は、主に、図4において(1)、(2)、及び(3)と付された3つの相に分けられ、特に、図4の相(1)と関連したb値の範囲に対応するガウスモデル又は単一指数関数モデルにおける、図4の相(2)及び(3)と関連したb値の範囲に対応する2つの逸脱を表示することを可能にする。そのような逸脱は、特に、それぞれ、0から200 s/mm2のオーダーの(図4の相(2)に対応する)低いb値において観測され、従って灌流の影響によって引き起こされ、1000から3000 s/mm2のオーダーの(図4の相(3)に対応する)高いb値において観測され、従って制限拡散の影響によって引き起こされる。
【0017】
減衰曲線を利用するために上述の解析モデルを用いることで、特に、様々な生物学的スケールで組織内の拡散現象の有益な描写を生成することが可能になる。しかし、そのような解析モデルの実施は一般に容易ではなく、推定の精度は取得されるデータ又は信号の質に強く関連する。一般に、3つの主要な要因、
-臨床における使用を禁止することになり得る長い計算時間、
-マルチb拡散取得シーケンスから生じる取得されるデータ又は信号の高いレベルのノイズ、
-現在のマルチb拡散取得シーケンスによって提供される少ない数のb値、がその使用を妨げる。
【0018】
現在、臨床の現場で普及した使用法において、単一指数関数モデルによる見かけの拡散係数ADCの形を取ったバイオマーカーの推定は、主に、2つの主要なb値、b = 0 s/mm2(即ち拡散勾配なし)及びb = 1000 s/mm2(拡散強調)に関する取得から生じる実験信号及び/又はデータに依拠する。それは、少ないサンプリング、その結果、比較的短い取得時間を必要とする。しかし、ノイズレベルが高くなると、見かけの拡散係数ADCのそのような推定は著しく劣化するとわかっている。加えて、そのようなバイオマーカーは、一般に、例えば上述のIVIM又は尖度の影響のような、拡散信号に影響し得る様々な現象にあまり敏感ではなく、結果として前記現象に十分に対応しない。
【0019】
IVIMモデル又は尖度モデルと関連する推定されたバイオマーカーを示すパラメータ画像又はマップを得ることで、特に、様々な拡散領域を示し、従って、医師又はより広く操作者に、さらに動物又は人間の組織内で起こるだろう様々な微視的過程を知らせことが可能になり、最終的に診断を確立して病変の治療において治療の決定を行うことが可能になる。しかし、IVIMモデル又は尖度モデルと関連した1つ以上のバイオマーカーの推定に関する計算時間は比較的長いとわかっており、そのようなバイオマーカーを示すように得られるパラメータマップ、特に、図7C、7D、及び8Bに関して以下で検討されるように、灌流割合f、擬似拡散係数D*、及び無次元尖度係数Kを示すマップは一般にノイズに非常に敏感である。さらに、信号減衰曲線の少ないサンプリングはIVIMモデル又は尖度モデルの使用に対して有利な条件を提供しない。実際、少ないサンプリングと関連して使用される回帰は、偏った推定に繋がり、その信頼性及びロバスト性を低下させ得る。
【0020】
現在、特に拡散の実験データに基づいてバイオマーカーを推定し、特に拡散のイメージングシーケンスによって動物又は人間の器官又は組織内で示される、微視的現象、特に水分子の動きを、速やかに、ロバストに、確実に考慮に入れることを可能にする方法は存在しない。
【発明の概要】
【0021】
本発明は、既知又は前述の解決策で提起された欠点の全て又は一部を克服することを可能にする。
【0022】
本発明によって提案される多くの利点の中で、本発明は、
-実験データが由来する医用イメージング信号に存在するノイズに対して特に抵抗力を有して安定した組織活性の新規なバイオマーカーの量を定め、
-非限定的に、癌の解析及び/又は監視、脳血管障害の評価が挙げられるだろう多くの応用に、利用され得、関連性を有する新規なバイオマーカーを獲得し、
-ノイズ、取得設定、イメージングシステムの不同に対する量を定める方法の非常に低い敏感度のため、生の実験データに基づいてバイオマーカーの量を定め、
-理論モデルを利用して推定される既知のバイオマーカーとは異なり、多くの計算資源又は多大な計算時間を必要としないバイオマーカーの量を定め、
-医師の予想、取得手段、検査される器官に応じて、新規なバイオマーカーの量の決定を適合させ又は設定すること、を可能にすることが挙げられるだろう。
【0023】
第1の主題によれば、本発明は器官の「ボクセル」と呼ばれる基本ボリュームのバイオマーカーの量を定めるための方法を提供する。前記方法は、拡散MRIイメージング解析システムの処理ユニットによって実行され、実験データS(b)に基づいて、以下「組織活性指標」又はTAIを意味する前記バイオマーカーの値を生成するステップを備える。
【0024】
既知の技術と関連した前述の欠点を克服するために、バイオマーカーTAIの値を生成するステップは、拡散勾配の強度に対応する取得パラメータbの値の画定された間隔bminからbmaxに亘って、
【数6】
を計算することからなり、L(b)は前記取得パラメータbの関数であり、ΓS[S(b)]は前記実験データS(b)の全単射の変換である。
【0025】
有利な実施形態によれば、前記関数及び全単射の変換は、L(b)がbminとbmaxの間に含まれる取得パラメータbの全ての値に亘ってΓS[S(b)]以上であるように相互に決定され得る。
【0026】
変形例において又は加えて、前記関数及び全単射の変換は、L(bmin)= ΓS[S(bmin)]及び/又はL(bmax) = ΓS[S(bmax)]であるように相互に決定され得る。
【0027】
このように適合したイメージング解析システムの任意のユーザによるバイオマーカーTAIの利用を容易にするために、イメージング解析システムが出力ヒューマンマシンインターフェースを備える場合、本発明による方法は、前記量を定められたバイオマーカーの適切なフォーマットでの出力をトリガする後のステップを備え得る。
【0028】
医師又は操作者の予想、取得方法、検査される器官に応じてバイオマーカーの量の決定を適合させ又は設定するために、イメージング解析システムが入力ヒューマンマシンインターフェースを備える場合、本発明による方法は、前記入力ヒューマンマシンインターフェースのユーザの入力データに基づいて、前記取得パラメータbの関数L(b)及び前記実験データS(b)の全単射の変換ΓS[S(b)]を決定するステップを備え得る。
【0029】
当の複数のボクセルに対してそのようなバイオマーカーの量を定めるために、前記バイオマーカーの値を生成するステップは当の複数のボクセルに対する連続する反復によって実行され得、前記組織活性指標はボクセル毎に量を定められる。
【0030】
バイオマーカーの出力の好ましい例として、バイオマーカーの出力をトリガするステップは、パラメータマップの形で画像を生成することからなり得、パラメータマップのピクセルは、それぞれ、当のボクセルに対する前記量を定められたバイオマーカーの値を符号化している。
【0031】
第2の主題によれば、本発明は、処理ユニット、外界と通信する手段、及び記憶手段を備えるイメージング解析システムを提供し、
-通信手段は器官の基本ボリュームの実験データS(b)を外界から受信するように設けられ、
-記憶手段は命令を含み、命令の前記処理ユニットによる解釈又は実行によって、本発明による及び上述の前記器官の基本ボリュームのバイオマーカーの量を定めるための方法が実行される。
【0032】
好ましい応用例として、
-器官の基本ボリュームの実験データS(b)は、拡散イメージングによる信号の取得から生じるデータであり得、
-量を定められたバイオマーカーは前記器官の基本ボリュームにおける水分子の拡散の指標であり得る。
【0033】
第3の主題によれば、本発明は、本発明によるイメージング解析システムの処理ユニットによって解釈又は実行され得る1つ以上の命令を含むコンピュータプログラムを提供し、前記プログラムは前記システムの記憶手段に置かれ得、前記処理ユニットによる前記命令の解釈又は実行によって、本発明による基本ボリュームのバイオマーカーの量を定めるための方法が実行されることを特徴とする。
【0034】
他の特徴及び利点は、以下の説明を読み、添付図を検討することで、より明確にわかるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】既に説明された図1は、核磁気共鳴で得られた画像の解析のためのシステムの簡略化された描写を示す。
図2】既に説明された図2は、核磁気共鳴で得られた画像の解析のためのシステムの変形例の簡略化された描写を示す。
図3】既に説明された図3は、取得パラメータに応じた実験データの強度減衰曲線の一例を示す。
図4】既に説明された図4は、取得パラメータに応じた実験データの強度減衰の対数表現の一例を示す。
図5図5は、器官のバイオマーカーの量を定めるための本発明による方法の簡略化された描写を示す。
図6A図6Aは、器官のボクセルの実験データに基づく本発明によるバイオマーカーの量の決定の変形例を示す。
図6B図6Bは、器官のボクセルの実験データに基づく本発明によるバイオマーカーの量の決定の変形例を示す。
図6C図6Cは、器官のボクセルの実験データに基づく本発明によるバイオマーカーの量の決定の変形例を示す。
図7A図7Aは、T2シーケンスで得られた、関心のある領域、この場合、前立腺を含む解剖学的画像を示す。
図7B図7Bは、本発明による方法に従って、実験拡散データに基づいて、図7Aに関する前述の前立腺のそれぞれのボクセルに対して量を定められたバイオマーカーのグラフィックレンダリングを画像の形で示す。
図7C図7Cは、実験拡散データ及び従来技術による方法に従う単一指数関数モデルに基づいて、図7Aに関する前述の前立腺のそれぞれのボクセルに対して推定されたバイオマーカーのグラフィックレンダリングを画像の形で示す。
図7D図7Dは、実験拡散データ及び従来技術による方法に従うIVIM(イントラボクセルインコヒーレント運動)型の双指数関数モデルに基づいて、図7Aに関する前述の前立腺のそれぞれのボクセルに対して推定されたバイオマーカーのグラフィックレンダリングを画像の形で示す。
図8A図8Aは、本発明によるバイオマーカーの量の決定によって得られた、図7Bに関して説明されるようなグラフィック表現に基づく4つの領域の決定を画像の形で示す。前記4つの領域は、前立腺に向けられた関心のある領域、及びそれに隣接した3つの他の領域を表す。
図8B図8Bは、元画像が、本発明によるバイオマーカー(図7B参照)、又は単一指数関数(図7C参照)若しくは双指数関数(図7D参照)モデルに基づく従来技術によるバイオマーカーの量の決定によって得られたものである場合、前記関心のある領域の3つの他の前述の領域のそれぞれに対する識別における「コントラストノイズ」比をヒストグラムの形で示す。
【発明を実施するための形態】
【0036】
次に、図5及び6Aに関して、新規なバイオマーカーTAIの量を定めるための本発明による方法の好ましいが非限定的な実施例が記述される。前記バイオマーカーは、人間の、器官、例えば前立腺の実験拡散データに基づいて得られる組織活性指標と同類である。本発明は、単に、取得方法、器官のこれらの例に限定されるとみなされるべきではなく、動物にも適用され得る。
【0037】
そのような方法100は、図1又は図2に関して先に示されたような医用イメージング解析システムの処理ユニットによって実行されることを意図されている。
【0038】
それは、主に、器官の関心のあるそれぞれのボクセルの実験データS(b)に基づいてバイオマーカーTAIを生成するステップ130を備える。そのような実験データは、取得パラメータb、この場合、一般に「パラメータb」と呼ばれる拡散勾配の強度に従って、拡散MRIイメージングによる信号の取得に基づいて、前のステップ120で生成され得る。そのようなステップ130は、一組の関心のあるボクセルに対してそのようなバイオマーカーTAIの量を定めるために反復して実行され得る。
【0039】
本発明による方法100は、従来技術に始まる他のバイオマーカーのための推定方法と同様に、1つ又は複数のボクセルに対して量を定められたバイオマーカーTAIの1つ又は複数の値を、グラフィックコンテンツの形で、例えばパラメータマップの形で、符号化するステップ140をさらに備える。そのようなパラメータマップは、ピクセルのテーブルの形で示され、又は図7Bに示されるパラメータマップPCbの例のように一般に「画像」と呼ばれ得る。前記パラメータマップPCbのそれぞれのピクセルは、有利に、RGB(“red green blue”(赤緑青)の略語)カラーコード化に従って0から255の間に含まれる3つ組の整数値を符号化している。そのようなコンピュータで処理されるカラーコード化は利用可能な機器で最も使用されている。一般に、コンピュータスクリーンは、三原色、赤色、緑色、及び青色に基づいて加算合成で色を再構成し、一般に人間の目で識別するには小さすぎるモザイクをスクリーン上に形成する。RGBコード化では、これらの原色のそれぞれに値を与える。そのような値は、一般に1バイトでコード化され、従って0と255の間に含まれる整数値区間に属する。従って、ステップ140は、有利に、関心のあるボクセルに対して量を定められたバイオマーカーTAIの値を、色のグラデーションに基づいて、例えば前記バイオマーカーを最低値から最高値まで符号化するために青色から黄色までで符号化することからからなり得る。このようにして、器官の複数のボクセルが関心の対象である場合、パラメータマップPCbのそれぞれのピクセルは、前記複数のボクセルに対して量を定められたバイオマーカーのそれぞれの値を二次元で図示するように、対応するボクセルと関連付けられる。黄色を符号化しているピクセルは、バイオマーカーTAIが高い組織活性を示すボクセルを表す。それは、緑色を符号化しているものが中間の組織活性を示すのと違い、青色を符号化しているものが非常に低い組織活性を示すのとも違う。前述のグラデーションに加えて又はその変形例において、他の任意のグラフィック符号化がステップ140で実行され得る。
【0040】
方法100を実行するイメージング解析システムが、図1又は2の例によって示されるようなコンピュータスクリーン5のような出力ヒューマンマシンインターフェースを備える場合、ステップ140は、また、有利に表示の形で又は人間によって理解できる任意の出力モードの形で、上述のように、パラメータマップPCbで、又は他の任意の適切なフォーマットで、量を定められた前記組織活性指標TAIの出力をトリガすることからなる。このようにして、前記解析システムのユーザ6は、前記バイオマーカーの量の決定の結果を確認し得、治療行為のため、診断を確立するため、又はさらに臨床検査の間違いの有無を示すための意思決定補助から利益を得られる。
【0041】
本発明によるバイオマーカーTAIの量を定めるステップ130の実施例を記述するために、実験データS(b)に注意を払うべきである。実験データS(b)は、取得パラメータbが拡散勾配の強度である拡散イメージングによる信号の取得に基づいて前記実験データを生成する前記方法100のステップ120から生じる。
【0042】
それ故、ステップ130は、
【数7】
を計算することからなる。ここで、L(b)は前記取得パラメータbの関数であり、ΓS[S(b)]は前記実験データS(b)の全単射の変換である。この例によれば、前記関数及び全単射の変換は、L(b)がbminとbmaxの間に含まれる取得パラメータbの全ての値に亘ってΓS[S(b)]以上であるように相互に決定され得る。このようにして、バイオマーカーTAIの値はbminとbmaxの間で正のままである。本発明はこの有利な選択によって限定されるとみなされるべきではない。
【0043】
第1実施形態によれば、全単射の変換ΓS[S(b)]は恒等関数である。それ故、それはΓS[S(b)] = S(b)と書くことが可能である。
【0044】
そして、関数L(b)は、S(bmin)とS(bmax)を繋ぐ直線として選択され得、次の関係
【数8】
に従って決定される。
【0045】
関心のあるボクセルに対してバイオマーカーTAIの量を定める第1実施形態は図6Aに示される。取得パラメータ、この場合、拡散勾配の強度bは、それぞれ0と1000 s/mm2に等しい値bminとbmaxの間に含まれる。
【0046】
実験データS(b)は点線上の点で表される。アフィン関数L(b)は図6A上に破線の形で表された直線を描く。バイオマーカーTAIの量の決定は、関数L(b)の曲線より下の面積と実験データS(b)の曲線より下の面積との間の減算又は差分に相当する。この減算から生じる面積は、図6Aにハッチングで示され、組織活性指標の形のバイオマーカーTAIの定められた値に一致する。有利に、アフィン関数L(b)はL(bmin) = ΓS[S(bmin)] = S(bmin)及びL(bmax)= ΓS[S(bmax)] = S(bmax)となるように選択されたことに留意すべきである。
【0047】
図6B及び6CはバイオマーカーTAIの量の決定の2つの変形例を示す。これらの変形例によれば、実験データS(b)は図6Aによる量の決定の枠組み内で利用されるものと同一である。他方、関数L(b)は、値bminからbmaxまでの区間に亘って定数であるように、選択、即ち事前に構築、計算、又は設定される。従って、図6Bによる前記関数L(b)は、一定であり、実験データS(b)から事前に決定され又は導出される値に等しいようなものである。この場合、図6Bによれば、値bminからbmaxまでの区間に亘って、
【数9】
即ち、L(b)は前記b値の区間に亘る実験データS(b)の最大値を取る。図6Aと同様に、バイオマーカーTAIの量を決定は、関数L(b)の曲線より下の面積と、実験データS(b)の曲線より下の面積との間の減算又は差分に相当する。この減算から生じる面積は、図6Bにハッチングで示され、組織活性指標の形のバイオマーカーTAIの定められた値に一致する。そのような定数は、別に、決定又は事前に決定され得る。従って、図6Cに示されるように、関数L(b)は、値bminからbmaxまでの区間に亘って、
【数10】
のように選択され得る。ここで、Nbは当のサンプル又は実験データの数を表す。図6Cに示されるこの例によれば、バイオマーカーTAIの量の決定は符号付きの方法で行われ得、実際、関数L(b)と実験データS(b)によって決定される曲線は200 s/mm2に近いbの値の辺りで交差する。それぞれの曲線L(b)とS(b)より下の面積の間の差分は、図6Cに示されるように、時々負、時々正となり得、記号「+」及び「-」はこれらの状況を示す。
【0048】
別の手法によれば、バイオマーカーTAIのそのような量の決定は、L(b) = αb2 + βb + γのような2以上の高次の多項式関数L(b)を選択することで実行され得、それに対して、
【数11】
である。
【0049】
変形例において、全単射の変換ΓS[S(b)]は、実際、対数で表され得る。方法100のステップ130は、
【数12】
のような変換ΓS[S(b)]に基づいてバイオマーカーTAIの値を生成し得る。この変形例によれば、関数L(b)は2点ΓS[S(bmin)]とΓS[S(bmax)]を通る減少直線として定義され得る。本発明は関数及び全単射の変換のそのような選択又は設定によって限定されるとみなされるべきではない。変形例において、L(b)が取得パラメータbの関数、ΓS[S(b)]が前記実験データS(b)の全単射の変換のままであるという条件で、実験データS(b)の性質に適した他の任意の組合せが利用され得る。
【0050】
ステップ130の実行を設定するために、本発明は、方法100が関数L(b)及び全単射の変換ΓS[S(b)]を一緒に決定するステップ110を備え得ることを提供する。イメージング解析システムが図1又は図2に関して記述されるインターフェース8のような入力ヒューマンマシンインターフェースを備え、前記入力ヒューマンマシンインターフェースが前記方法100を実行する処理ユニットと協働する場合、操作者6は、習慣的な使用法、ハードウェア、検査される器官等に従って、前記関数L(b)及び全単射の変換ΓS[S(b)]を、例えば事前に準備されたデータベースから選択し、入力し、及び/又は適合させるために、前記入力ヒューマンマシンインターフェース8を介してジェスチャコマンド又はより一般に命令を表現し得る。従って、前記取得パラメータbの関数L(b)と前記実験データS(b)の全単射の変換ΓS[S(b)]の一緒の決定が、前記入力ヒューマンマシンインターフェース8の前記操作者6の入力データに基づいて行われる。従って、操作者6は、方法100の実行、その結果、検査される器官の組織活性を示すバイオマーカーTAIの量の決定及び/又は出力を容易に最適化し得る。
【0051】
図7Aから7Dは、好ましい応用例を通じて、既知の方法に対して本発明によって与えられる利益を強調することを可能にする。図7Aは、T2シーケンスによって得られ、関心のある領域ROI、この場合、前立腺を含む高分解能解剖学的画像AIを示す。前記関心のある領域ROIは白色の破線の円によって表される。
【0052】
図7Bは、パラメータマップPCbの形で、複数の関心のあるボクセルと関連した、本発明によるバイオマーカーTAIの量の決定から生じるグラフィックレンダリングを示す。それぞれの関心のあるボクセルに対して、前記バイオマーカーTAIは、拡散イメージング信号の取得から生じる実験拡散データS(b)に基づいて、上述の方法100のような方法の実行によって量を定められた。得られたPCb画像は、バイオマーカーが低値それとも高値を有するかどうかに応じて、ダークブルーから黄色まで及ぶカラーグラデーションで前記バイオマーカーTAIを表現する。図7Bに白色の破線の円によって表される、関心のある領域、前立腺は、患者の身体の残りに対してはっきりと識別されることに留意し得る。バイオマーカーTAIは主に高い組織活性を示すピクセルを表示する。
【0053】
図7Cは、パラメータマップPCcの形で、図7Bと同じ関心のあるボクセルのそれぞれに対して、同様の実験拡散データS(b)に基づくが、従来技術による方法に従う単一指数関数モデルに基づいて、推定されたバイオマーカー、この場合、見かけの拡散係数ADCを示す。バイオマーカーADCの値に適用される1つの同じカラーグラデーション(青色から黄色)では、より苦労してやっと、関心のある領域ROI、この場合、前立腺を身体の残りから識別することができる。また、前記関心のある領域ROI内において、バイオマーカーADCと関連したグラフィック情報はバイオマーカーTAIの場合より広がっている。
【0054】
図7Dは、パラメータマップPCdの形で、図7Bと同じ関心のあるボクセルのそれぞれに対して、同様の実験拡散データS(b)に基づくが、従来技術による方法に従うIVIM(イントラボクセルインコヒーレント運動)型の双指数関数モデルに基づいて、推定されたバイオマーカー、この場合、擬似拡散係数D IVIMを示す。図7Cと同様に、バイオマーカーD IVIMの値に適用される1つの同じカラーグラデーション(青色から黄色)では、より苦労してやっと、関心のある領域ROI、この場合、前立腺を身体の残りから識別することができる。また、前記関心のある領域ROI内において、D IVIMバイオマーカーと関連したグラフィック情報は、バイオマーカーTAIの場合より広がり、多数の高い値のアーチファクトの存在によって示されるようにノイズに非常に敏感である。
【0055】
図8A及び8Bは、既知の方法に対して本発明によって与えられる利益をさらに上手く測ることを可能にする。実際、前記図8A及び8Bは(略語CNRによっても知られる)コントラストノイズ基準に基づく性能の比較を示す。実際、図7B、7C及び7Dに示されるように、本発明によるTAI(組織活性指標)バイオマーカー、単一指数関数モデルのADC(見かけの拡散係数)バイオマーカー、又は双指数関数モデルのD IVIM(擬似拡散係数)バイオマーカーは、ノイズリダクション処理なしで、マルチb拡散イメージングシーケンスから獲得された実験データS(b)に基づいて推定された。取得パラメータbは0と1000s/mm2の間に含まれる。CNR基準、臨床におけるイメージングで普及している基準に基づいて性能を比較することが通常であり、それにより、関心のある領域のそれに隣接する領域に対する検出可能性を評価することが可能になる。従って、そのようなCNR基準は、次の関係、
【数13】
に従って評価される。ここで、μROI及びμBKGは、それぞれ、関心のある領域ROI及びそれに隣接する領域BKGの平均値を表し、σBKGは前記隣接する領域BKGの標準偏差の値である。
【0056】
図8Aは、バイオマーカーTAIを示し、前立腺を患者の身体の残りから識別することを可能にする図7Bに関して先に言及されたパラメータマップPCbの部分図である。図8Aにおいて、関心のある領域ROIは、対象の理解を確実にするために、白線で人為的に囲まれている。それは、以前に図7Aから図7Dにおいて破線の円によって区切られた関心のある領域ROIより正確に前立腺に向けられている。それぞれBKG1、BKG2、及びBKG3を付された、前記関心のある領域ROIに隣接する3つの他の領域も前記図8Aにおいて白線で囲まれている。
【0057】
バイオマーカーTAI、ADC、及びD IVIMのそれぞれの性能を比較するために、それぞれのバイオマーカーに対して、3つのバイオマーカーに対して同一である、1つの同じ関心のある領域ROIと、異なる隣接する領域BKG1、BKG2、及びBKG3との間のコントラストノイズ比CNRが計算された。この性能の比較を行うために、そのようなCNRは、図8Aに示されるようなパラメータマップPCbに基づいて計算されたが、図7Bから7Dに関して既に記述されたパラメータマップPCc及びPCdにも基づいて計算された。従って、それぞれのバイオマーカーに対して、3つのCNR、ROI vs BKG1、ROI vs BKG2、及びROI vs BKG3が計算された。
【0058】
図8Bは、3つのバイオマーカーTAI、ADC、及びD IVIMに対して計算されたCNRを示す。図8Bで明示されるように、本発明によるバイオマーカーTAIの量の決定が前立腺のより優れた検出可能性を可能にすることは明らかである。バイオマーカーTAIと関連したパラメータマップPCbに基づいて計算されたCNRは、既知のADC及びD IVIMバイオマーカーと関連したパラメータマップPCc及びPCdに基づいて得られたものの2倍より高く、特にこれら2つのADC及びD IVIMバイオマーカーのより高いノイズ敏感度のレベルの結果として高い。
【0059】
この比較によって、本発明は、この文脈で応用できる他のバイオマーカーに対して、医用イメージング信号に存在するノイズに対して特に抵抗力を有して安定した組織活性の新規なバイオマーカーの量を速やかに定めるための方法を達成することを強調することが可能である。従って、本発明は、非限定的に、癌の解析及び/又は監視、脳血管障害の評価が挙げられるだろう多くの応用に、利用され得、関連性を有する新規なバイオマーカーを提供する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図7A
図7B
図7C
図7D
図8A
図8B