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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-23
(45)【発行日】2024-05-02
(54)【発明の名称】発光ダイオードおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/06 20100101AFI20240424BHJP
   H01L 33/12 20100101ALI20240424BHJP
   H01L 33/30 20100101ALI20240424BHJP
【FI】
H01L33/06
H01L33/12
H01L33/30
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023084362
(22)【出願日】2023-05-23
(62)【分割の表示】P 2019151768の分割
【原出願日】2019-08-22
(65)【公開番号】P2023106531
(43)【公開日】2023-08-01
【審査請求日】2023-05-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317011920
【氏名又は名称】東芝デバイス&ストレージ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004026
【氏名又は名称】弁理士法人iX
(72)【発明者】
【氏名】菅原 秀人
【審査官】佐竹 政彦
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-029715(JP,A)
【文献】特開2010-226067(JP,A)
【文献】特開平07-235732(JP,A)
【文献】特開2003-031902(JP,A)
【文献】特開平06-152052(JP,A)
【文献】特開平07-170022(JP,A)
【文献】特開平08-250807(JP,A)
【文献】特開平10-270787(JP,A)
【文献】特開平04-049689(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0013552(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0132890(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/00-33/64
H01S 5/00-5/50
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
GaAs基板と、
前記GaAs基板上に交互に積層される障壁層と井戸層とを含む多重量子井戸層であって、前記障壁層は、組成式Al1-xGaAs1-y(0<x≦1、0<y<1)で表されるAlGaAsPを含み、前記井戸層は、組成式InGa1-zAs(0<z<1)で表されるInGaAsを含む、多重量子井戸層と、
を備え、
前記AlGaAsPの格子定数は、前記GaAs基板の格子定数よりも小さく、
前記InGaAsの格子定数は、前記GaAs基板の格子定数よりも大きく、
前記多重量子井戸層は、それぞれ、複数の前記障壁層と、複数の前記井戸層と、を含む、第1領域および第2領域を有し、前記第1領域は、前記GaAs基板と前記第2領域との間に位置し、
前記複数の井戸層は、同じ組成「z」を有するInGaAsを含み、且つ、同じ層厚を有し、
前記第2領域の前記障壁層におけるAlGaAsPのP組成「y」は、前記第1領域の前記障壁層におけるAlGaAsPのP組成「y」よりも大きい、発光ダイオード。
【請求項2】
前記第1領域は、第1障壁層と、前記第1障壁層上に設けられる第2障壁層と、を含み、
前記第2領域は、第3障壁層と、前記第3障壁層上に設けられる第4障壁層と、を含み、
前記第2障壁層のAlGaAsPにおけるP組成「y」は、前記第1障壁層のAlGaAsPにおけるP組成「y」よりも大きく、
前記第4障壁層のAlGaAsPにおけるP組成「y」は、前記第3障壁層のAlGaAsPにおけるP組成「y」よりも大きい、請求項1記載の発光ダイオード。
【請求項3】
前記第1領域は、第1障壁層と、前記第1障壁層上に設けられる第2障壁層と、を含み、
前記第2領域は、第3障壁層と、前記第3障壁層上に設けられる第4障壁層と、を含み、
前記第2障壁層のAlGaAsPにおけるP組成「y」は、前記第1障壁層のAlGaAsPにおけるP組成「y」と同じであり、
前記第4障壁層のAlGaAsPにおけるP組成「y」は、前記第3障壁層のAlGaAsPにおけるP組成「y」よりも大きい、請求項1記載の発光ダイオード。
【請求項4】
前記第1領域は、第1障壁層と、前記第1障壁層上に設けられる第2障壁層と、を含み、
前記第2領域は、第3障壁層と、前記第3障壁層上に設けられる第4障壁層と、を含み、
前記第2障壁層のAlGaAsPにおけるP組成「y」は、前記第1障壁層のAlGaAsPにおけるP組成「y」と同じであり、
前記第4障壁層のAlGaAsPにおけるP組成「y」は、前記第3障壁層のAlGaAsPにおけるP組成「y」と同じである、請求項1記載の発光ダイオード。
【請求項5】
GaAs基板と、
前記GaAs基板上に交互に積層される障壁層と井戸層とを含む多重量子井戸層であって、前記障壁層は、組成式Al1-xGaAs1-y(0<x≦1、0<y<1)で表されるAlGaAsPを含み、前記井戸層は、組成式InGa1-zAs(0<z<1)で表されるInGaAsを含む、多重量子井戸層と、
を備え、
前記AlGaAsPの格子定数は、前記GaAs基板の格子定数よりも小さく、
前記InGaAsの格子定数は、前記GaAs基板の格子定数よりも大きく、
前記多重量子井戸層は、それぞれ、複数の前記障壁層と、複数の前記井戸層と、含む、第1領域および第2領域を有し、前記第1領域は、前記GaAs基板と前記第2領域との間に
位置し、
前記複数の井戸層は、同じ組成「z」を有するInGaAsを含み、且つ、同じ層厚を有し、
前記複数の障壁層は、同じ組成「y」を有するAlGaAsPを含み、
前記第1領域から前記第2領域に向かう第1方向において、前記第2領域における前記障壁層の層厚は、前記第1領域における前記障壁層の層厚よりも大きい、発光ダイオード。
【請求項6】
前記第1領域は、第1障壁層と、前記第1障壁層上に設けられる第2障壁層と、を含み、
前記第2領域は、第3障壁層と、前記第3障壁層上に設けられる第4障壁層と、を含み、
前記第2障壁層の前記第1方向の層厚は、前記第1障壁層の前記第1方向の層厚よりも大きく、前記第4障壁層の前記第1方向の層厚は、前記第3障壁層の前記第1方向の層厚よりも大きい、請求項5記載の発光ダイオード。
【請求項7】
GaAs基板と、
前記GaAs基板上に交互に積層される障壁層と井戸層とを含む多重量子井戸層であって、前記障壁層は、組成式Al1-xGaAs1-y(0<x≦1、0.05≦y≦0.058)で表されるAlGaAsPを含み、前記井戸層は、組成式InGa1-zAs(0<z≦0.2)で表されるInGaAsを含む、多重量子井戸層と、
を備え、
前記AlGaAsPの格子定数は、前記GaAs基板の格子定数よりも小さく、
前記InGaAsの格子定数は、前記GaAs基板の格子定数よりも大きく、
前記多重量子井戸層は、それぞれ、複数の前記障壁層と、複数の前記井戸層と、を含む、第1領域および第2領域を有し、前記第1領域は、前記GaAs基板と前記第2領域との間に位置し、
前記複数の井戸層は、同じ組成「z」を有するInGaAsを含み、且つ、同じ層厚を有し、
前記第2領域の前記障壁層におけるAlGaAsPのP組成「y」は、前記第1領域の前記障壁層におけるAlGaAsPのP組成「y」よりも大きく、
前記多重量子井戸層から放射される光の発光スペクトル幅が30nm以下である発光ダイオード。
【請求項8】
前記GaAs基板と、前記多重量子井戸層と、の間に設けられた下地層をさらに備え、
前記下地層は、In、Ga、Al、PおよびAsのいずれかを含む化合物半導体を含む、請求項1~6のいずれか1つに記載の発光ダイオード。
【請求項9】
組成式Al1-xGaAs1-y(0<x≦1、0<y<1)で表されるAlGaAsPを含む障壁層と、組成式InGa1-zAs(0<z<1)で表されるInGaAsを含む井戸層と、を含む多重量子井戸層と、
前記多重量子井戸層上に設けられる第2基板と、を有する発光ダイオードの製造方法であって、
GaAs基板上に、前記多重量子井戸層の前記障壁層と前記井戸層とを交互に形成する工程と、
前記多重量子井戸層上に前記第2基板を接合する工程と、
前記GaAs基板を除去する工程と、
を備え、
前記多重量子井戸層は、それぞれ、複数の前記第1障壁層と複数の前記井戸層とを含む、第1領域および第2領域を有し、前記第2領域は、前記第1領域と前記第2基板との間に位置し、
前記AlGaAsPの格子定数は、前記GaAs基板の格子定数よりも小さく、
前記InGaAsの格子定数は、前記GaAs基板の格子定数よりも大きく、
前記多重量子井戸層中の前記井戸層は、同じ組成「z」を有するInGaAsを含み、且つ、同じ層厚を有し、
前記第2領域の前記障壁層におけるAlGaAsPのP組成「y」は、前記第1領域の前記障壁層におけるAlGaAsPのP組成「y」よりも大きいか、
または、前記多重量子井戸層中の前記障壁層は、同じ組成「y」を有するAlGaAsPを含み、前記第1領域から前記第2領域に向かう方向において、前記第2領域における前記障壁層の層厚は、前記第1領域における前記障壁層の層厚よりも大きく、
前記第2基板は、Si、Ge、酸化膜、および金属のうちのいずれか1つを含む、発光ダイオードの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、発光ダイオードおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
InGaAs井戸層およびGaAsP障壁層を含むMQW(Multi Quantum Well:多重量子井戸)構造を有する半導体発光デバイスにおいて、GaAs基板に対する2つの層のそれぞれの格子不整合により結晶歪を補償する構造が用いられる。
【0003】
大電流注入を必要とするパワー発光ダイオードでは、MQW積層の層数を増やしてその発光効率を向上させる。
【0004】
しかしながら、MQWの積層数を単に増やすと新たな歪緩和を生じ易くなり、発光特性の低下や信頼性の低下が起こる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-103930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発光スペクトルの半値幅が狭くかつ長時間動作における信頼性が高められた発光ダイオードおよびその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態の発光ダイオードは、GaAs基板と、前記GaAs基板上に交互に積層される障壁層と井戸層とを含む多重量子井戸層であって、前記障壁層は、組成式Al1-xGaAs1-y(0<x≦1、0<y<1)で表されるAlGaAsPを含み、前記井戸層は、組成式InGa1-zAs(0<z<1)で表されるInGaAsを含む、多重量子井戸層と、を備える。前記AlGaAsPの格子定数は、前記GaAs基板の格子定数よりも小さく、前記InGaAsの格子定数は、前記GaAs基板の格子定数よりも大きい。前記多重量子井戸層は、それぞれ、複数の前記障壁層と、複数の前記井戸層と、を含む、第1領域および第2領域を有し、前記第1領域は、前記GaAs基板と前記第2領域との間に位置する。前記複数の井戸層は、同じ組成「z」を有するInGaAsを含み、且つ、同じ層厚を有し、前記第2領域の前記障壁層におけるAlGaAsPのP組成「y」は、前記第1領域の前記障壁層におけるAlGaAsPのP組成「y」よりも大きい。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1(a)は第1の実施形態にかかる半導体発光デバイスの模式断面図、図1(b)は多重量子井戸層の模式断面図、である。
図2図2(a)は、比較例にかかる半導体発光デバイスの多重量子井戸層の模式断面図、図2(b)はGaAs基板上のInGaAsの臨界膜厚のグラフ図、である。
図3】比較例の多重量子井戸層の断面のTEM観察写真図である。
図4】第2の実施形態にかかる半導体発光デバイスの多重量子井戸層の模式断面図である。
図5】第3の実施形態にかかる半導体発光デバイスの多重量子井戸層の模式断面図である。
図6】第4の実施形態にかかる半導体発光デバイスの多重量子井戸層の模式断面図である。
図7】第5の実施形態にかかる半導体発光デバイスの多重量子井戸層の模式断面図である。
図8】第6の実施形態にかかる半導体発光デバイの多重量子井戸層の模式断面図である。
図9】第7の実施形態にかかる半導体発光デバイスの多重量子井戸層の模式断面図である。
図10】第8の実施形態にかかる半導体発光デバイスの模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態について説明する。
図1(a)は第1の実施形態にかかる半導体発光デバイスの模式断面図、図1(b)は多重量子井戸層拡大模式断面図、である。
半導体発光デバイス10は、基板12と、多重量子井戸層40と、を少なくとも有する。
図1(a)に表すように、半導体発光デバイス10は、AlGaAsクラッド層を含む第1の層14、AlGaAsクラッド層を含む第2の層16、上部電極50、および下部電極60をさらに有することができる。
【0010】
多重量子井戸層40は、基板12上に設けられる。また、図1(b)に表すように、多重量子井戸層40は、3層以上のInGaAs井戸層401~410と、2つのInGaAs井戸層に挟まれた複数のGaAs1-y障壁層411~419と、を含み、活性層を構成する。
【0011】
InGaAs井戸層401~410は、InGa1-xAs(たとえば、0<x≦0.2)のIn混晶比xおよび厚さT1(たとえば、6nm)が、たとえばすべて同一であるものとする。他方、障壁層411~419は、GaAsPのV族混晶比が異なる少なくとも2つの領域を含む。図1(b)では、障壁層411~419は、P混晶比yが結晶成長方向(積層方向)に沿って、たとえば、0.05から0.058に向かって連続的に増大する。すなわち、障壁層411~419のP混晶比yは一定ではなく変化する。本図では、障壁層411~419において、すべてのP混晶比が異なっている。なお、GaAs1-y 障壁層411~419の厚さは、たとえば、すべて30nmとする。
【0012】
第1の実施形態にかかる半導体発光デバイス10は、たとえば、1000nm以下の波長の赤外光を放出可能なLED(Light Emitting Diode)である。量子井戸層数を多くすると、光出力を増大できる。しかし、この場合、InGaAs井戸層内に格子緩和が発生しやすくなる。第1の実施形態では、GaAsP障壁層のP混晶比yを変化させることにより格子緩和を抑制する。このため、光スペクトルの半値幅が狭くかつ長時間動作における信頼性が高められた半導体発光デバイス(LED:Light Emitting Diodeなど)が提供される。
【0013】
図2(a)は、比較例にかかる半導体発光デバイスの多重量子井戸層の模式断面図、図2(b)はGaAs基板上のInGaAsの臨界膜厚のグラフ図、である。
図2(a)に表すように、半導体発光デバイス110は、AlGaAsクラッド層を含む第1の層114、多重量子井戸層140、AlGaAsクラッド層を含む第2の層116、を有する。InGa1-xAs井戸層141は、x=0.15かつ厚さ6nmである。また、GaAs1-y障壁層160のy=0.05かつ厚さ30nmである。比較例では、GaAs基板112に対してInGaAs井戸層141の格子定数は大きいが、GaAs基板112に対してGaAsP障壁層160の格子定数が小さくなるようにして応力が釣り合う関係とされる。なお、発光波長は約950nmなどである。
【0014】
図2(b)の縦軸は臨界膜厚(nm)、横軸は格子不整合度、である。臨界膜厚にはMatthewsの式を用い、転位は刃状転位を想定して算出されている。格子不整合度は、In0.15Ga0.85As井戸層の格子がGaAs基板に格子に弾性変形してコヒーレントで積層していることを仮定し、弾性スティフネス定数を用いて算出した値を用いている。比較例のInGaAs井戸層141~150の総膜厚(6nm×10層=60nm)は、図中に点PCで表される。比較例の総膜厚60nmは臨界膜厚を超えている。すなわち、比較例にかかる多重量子井戸層140は、逆歪を持つGaAsP障壁層160の存在により成り立つ構造といえる。
【0015】
図3は、比較例の多重量子井戸層の断面TEM観察写真図である。
断面TEM(Transmission Electron Microscope:透過型電子顕微鏡)観察写真図に表す白色ストライプ部分がInGaAs井戸層141~150を表し、その両側はGaAsP障壁層160を表す。結晶成長方向は、下方から上方に向かっており、下から5層目までは上側障壁層との界面はほぼ平坦に保たれている。他方、6層目よりも上方になるほど上側障壁層との界面の平坦性が損われ井戸層厚さにゆらぎが発生している。この界面不均一性は結晶成長が進行するほど(写真図で上方になるほど)増加する。この不均一性はInGaAs井戸層141~150の格子緩和(膜厚ゆらぎなど)によるもので、結晶成長が進行するほどGaAsP障壁層での歪補償が機能しなくなるためと思われる。
【0016】
素子設計上では格子定数差に起因する応力は釣り合うように構成されるにもかかわらず格子緩和が発生する要因として、たとえば、結晶成長が進行するのに伴ってその積層上面での応力の逃げが基板の反りや形状などにより発生して影響する可能性がある。これらのため、比較例では、発光スペクトルが約40nmなどと広がるか、または10000時間動作後の光出力が5%以上低下するなど信頼性低下が生じ易い。
【0017】
これに対して、第1の実施形態によれば、InGaAs井戸層401~410の格子緩和が抑制されるので上側障壁層との界面の平坦性が維持され、その厚さを結晶成長方向に沿って均一に揃えることができる。この結果、30nm以下の狭い発光スペクトル幅を得ることが容易となり、10000時間動作後の光出力の低下を、たとえば、1%以下などと低減できる。
【0018】
図4は、第2の実施形態にかかる半導体発光デバイスの多重量子井戸層の模式断面図である。
InGaAs井戸層401~410は、InGa1-xAsのIn混晶比xおよび厚さT1が、たとえば、すべて同一であるものとする。他方、障壁層411~419は、GaAs1-yのP混晶比yが異なる少なくとも2つの領域を含む。図4では、GaAsP障壁層は、P混晶比yの高い第1領域416~419がP混晶比yの低い第2領域411~415の上方に結晶成長される。GaAsP障壁層の第1領域416~419は、P混晶比yが結晶成長方向(積層方向)に沿って、たとえば、0.051から0.054に増大する。すなわち、GaAsP障壁層411~419のP混晶比yは一定ではなく変化する。
【0019】
なお、GaAsP障壁層411~419の厚さは、たとえば、すべて30nmとする。このようにすると、30nm以下の狭い発光スペクトル幅を得ることが容易であり、10000時間動作後の光出力の低下を、たとえば、1%以下などと低減できる。
【0020】
図5は、第3の実施形態にかかる半導体発光デバイスの多重量子井戸層の模式断面図である。
InGaAs井戸層401~410は、InGa1-xAsのIn混晶比xおよび厚さT1が、たとえば、すべて同一であるものとする。他方、GaAsP障壁層411~419は、GaAs1-yのP混晶比yが異なる少なくとも2つの領域を含む。図5では、GaAsP障壁層は、P混晶比yの高い第1領域416~419がP混晶比yの低い第2領域411~415の上方に結晶成長(積層)される。すなわち、GaAsP障壁層416~419は、P混晶比yが、たとえば、0.055で一定とされる。また、第2領域411~415は、P混晶比yが、たとえば、0.05とより低くかつ一定とされる。
【0021】
GaAsP 障壁層411~419の厚さは、たとえば、すべて30nmとする。このようにすると、30nm以下の狭い発光スペクトル幅を得ることが容易であり、10000時間動作後の光出力の低下を、たとえば、1%以下などと低減できる。
【0022】
図6は、第4の実施形態にかかる半導体発光デバイスの多重量子井戸層の模式断面図である。
InGaAs井戸層401~410は、InGa1-xAsのIn混晶比xおよび厚さT1が、たとえば、すべて同一であるものとする。他方、GaAsP障壁層411~419は、厚さが異なる少なくとも2つの領域を含む。GaAsP障壁層411~419の厚さは、たとえば、30.0nm~31.6nmまで、たとえば、結晶成長方向(積層方向)に沿って0.2nmずつ連続的に増加する。このようすると、30nm以下の狭い発光スペクトル幅を得ることが容易であり、10000時間動作後の光出力の低下を、たとえば、1%以下などと低減できる。
【0023】
図7は、第5の実施形態にかかる半導体発光デバイスの多重量子井戸層の模式断面図である。
InGaAs井戸層401~410は、InGa1-xAsのIn混晶比xおよび厚さT1が、たとえば、すべて同一であるものとする。他方、GaAsP障壁層411~419は、その厚さが結晶成長方向(積層方向)に沿って変化する。図7では、厚さが大きい第3領域416~419が厚さの小さい第4領域411~415の上に結晶成長(積層)により設けられる。たとえば、GaAsP障壁層の第4領域411~415の厚さは、たとえば、30nmと一定であるが、GaAsP障壁層の第3領域416~419の厚さが結晶成長方向(積層方向)に沿って、たとえば、30.2~30.8nmまで0.2nmずつ連続的に増加する。
【0024】
このようにすると、30nm以下の狭い発光スペクトル幅を得ることが容易であり、10000時間動作後の光出力の低下を、たとえば、1%以下などと低減できる。
【0025】
図8は、第6の実施形態にかかる半導体発光デバイの多重量子井戸層の模式断面図である。
InGaAs井戸層401~410は、InGa1-xAsのIn混晶比xおよび厚さT1が、たとえば、すべて同一であるものとする。他方、GaAsP障壁層411~419は、その厚さが結晶成長方向(積層方向)に沿って変化する。図8では、第3領域416~419が厚さの小さい第4領域411~415の領域の上に設けられる。たとえば、GaAsP障壁層411~415の厚さは、たとえば、30nmと一定であり、GaAsP障壁層416~419の厚さは、たとえば、31nmと一定でありかつ障壁層411~415の厚さよりも大きい。
【0026】
このようにすると、30nm以下の狭い発光スペクトル幅を得ることが容易であり、10000時間動作後の光出力の低下を、たとえば、1%以下などと低減できる。
【0027】
図9は、第7の実施形態にかかる半導体発光デバイスの多重量子井戸層の模式断面図である。
InGaAs井戸層401~410は、InGa1-xAsのIn混晶比xおよび厚さT1が、たとえば、すべて同一であるものとする。他方、障壁層1011~1019は、AlGa1-zAs1-y(0.05≦y≦0.058)からなるものとし、その厚さは、たとえば、すべて30nmであるとする。障壁層にAlを加えたことでバンドギャップが大きくなり、井戸層へのキャリアの閉じ込め効果を高めることができる。但し、障壁高さが増加することでキャリア注入に必要なバイアス電圧も増加する。
【0028】
他方、格子不整合に与える影響は少なく、デバイス特性はP混晶比yでほぼ決定することになり、歪補償に必要な特性は第1の実施形態の場合と同等となる。
【0029】
AlGa1-zAs1-y障壁層1011~1019は、P混晶比yが異なる少なくとも2つの領域を含む。図9では、AlGa1-zAs1-y障壁層1011~1019は、P混晶比yが結晶成長方向(積層方向)に沿って、たとえば、0.05~0.058のように増大するように変化する。このようにしても、30nm以下の狭い発光スペクトル幅を得ることが容易であり、10000時間動作後の光出力の低下を、たとえば、1%以下などと低減できる。
【0030】
図10は、第8の実施形態にかかる半導体発光デバイスの模式断面図である。
第1の実施形態では、GaAs基板12上に、AlGaAsクラッド層を含む第1の層14、多重量子井戸層40、AlGaAsクラッド層を含む第2の層16がこの順序に結晶成長される。第8の実施形態では、別に用意した支持基板1101の表面に、第2の層16の表面をウェーハ状態で貼り付けたのち、結晶成長に用いたGaAs基板12を剥離する。支持基板1101としては、たとえば、Si、Ge、Al、Al以外の酸化膜、および金属のうちのいずれかとすることができる。
【0031】
第8の実施形態によれば、転写により多重量子井戸層の上下が反転する。すなわち、多重量子井戸層の結晶成長方向が支持基板1101に向かうように配列される。本実施形態の多重量子井戸層によれば、InGaAs井戸層の格子緩和が抑制されるので、転写しても第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0032】
第1~第8の実施形態の半導体発光デバイスによれば、発光スペクトルの半値幅が狭くかつ長時間動作における信頼性が高められた半導体発光デバイスが提供される。これらの半導体発光デバイス波長がたとえば、1000nm以下の赤外光を放出可能である。
【0033】
これらの半導体発光デバイスは、自動車運転システムに用いるLiDAR(Light Detection and Ranging)などのイメージング、リモコン、フォトカプラー、IrDA(Infrared Data Association)をはじめとした赤外線通信用光源などに広く用いることができる。
【0034】
なお、本発明の実施形態はこれらに限定されない。多重量子井戸数は10などに限定されること無く、InGaAs井戸層に格子緩和を生じる可能性があり障壁層が複数の形態であれば適用可能である。また、結晶成長用基板としてGaAs基板を用いたが、InP、GaP、Si、Ge、酸化膜、およびAlなどの基板と、多重量子井戸層と、の間に半導体からなる結晶成長下地層として積層すると、InGaAsの格子緩和の基準になるので単純に基板の格子定数でInGaAsの臨界膜合厚が決まるわけではない。この場合、結晶成長下地層は、In、Ga、Al、P、Asのいずれかを含む化合物半導体、Si、Ge、および酸化膜のうちのいずれか1つを含んでもよい。
【0035】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0036】
10 半導体発光デバイス、12 基板、40 多重量子井戸層、401~410 InGaAs井戸層、411~419 GaAsP障壁層、1011~1019 AlGaAsP障壁層
図1
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図10