(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-23
(45)【発行日】2024-05-02
(54)【発明の名称】トルクリミッタ
(51)【国際特許分類】
F16D 7/02 20060101AFI20240424BHJP
F16D 43/20 20060101ALI20240424BHJP
【FI】
F16D7/02 F
F16D43/20
(21)【出願番号】P 2023202479
(22)【出願日】2023-11-30
【審査請求日】2023-12-21
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000103976
【氏名又は名称】株式会社オリジン
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】磯部 太郎
(72)【発明者】
【氏名】根岸 幸雄
(72)【発明者】
【氏名】池川 汐里
(72)【発明者】
【氏名】水山 裕太
(72)【発明者】
【氏名】米倉 花奈
【審査官】中野 裕之
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-085083(JP,A)
【文献】特許第7035254(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 7/02
F16D 43/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向の片側は閉鎖されているが他側は開放されている内側空間を有する外側部材と、前記内側空間に収容される内側部材及び制動部材と、前記内側部材及び前記制動部材が前記内側空間に収容された後に前記外側部材に組み合わされて前記内側空間の前記他側を閉鎖するシールド部材とを具備し、
前記シールド部材によって前記他側が閉鎖された前記内側空間の軸方向長さは前記内側部材の軸方向長さよりも長く、
前記外側部材及び前記内側部材は相対回転可能であり、前記制動部材は前記外側部材と前記内側部材との間に配置されて前記相対回転に対し所要制動トルクを付与するトルクリミッタにおいて、
前記内側部材は付勢手段によって前記外側部材及び前記シールド部材に対し軸方向に
弾性的に付勢されている、ことを特徴とするトルクリミッタ。
【請求項2】
前記付勢手段は前記内側空間に収容されたウェーブワッシャーである、請求項1に記載のトルクリミッタ。
【請求項3】
軸方向の片側は閉鎖されているが他側は開放されている内側空間を有する外側部材と、前記内側空間に収容される内側部材及び制動部材と、前記内側部材及び前記制動部材が前記内側空間に収容された後に前記外側部材に組み合わされて前記内側空間の前記他側を閉鎖するシールド部材とを具備し、
前記シールド部材によって前記他側が閉鎖された前記内側空間の軸方向長さは前記内側部材の軸方向長さよりも長く、
前記外側部材及び前記内側部材は相対回転可能であり、前記制動部材は前記外側部材と前記内側部材との間に配置されて前記相対回転に対し所要制動トルクを付与するトルクリミッタにおいて、
前記制動部材は前記内側部材と密着して前記外側部材及び前記シールド部材に対し軸方向に
弾性的に付勢されている、ことを特徴とするトルクリミッタ。
【請求項4】
前記制動部材は前記外側部材及び前記シールド部材によって軸方向両側から圧縮せしめられる圧縮コイルばねであって線材が巻回された巻回部と前記線材が前記巻回部から離隔する方向に延びるフック部とを備え、
前記内側部材の外周面は円筒形状であって、前記外周面には前記圧縮コイルばねの前記巻回部が装着され、前記外周面の径は前記圧縮コイルばねが自由状態にあるときの前記巻回部の内径よりも大きい、請求項3に記載のトルクリミッタ。
【請求項5】
前記制動部材はコイルばねであって線材が巻回された巻回部と前記線材が前記巻回部から離隔する方向に延びるフック部とを備え、
前記内側部材の外周面は円筒形状であって、前記外周面には前記コイルばねの前記巻回部が装着され、前記外周面の径は前記コイルばねが自由状態にあるときの前記巻回部の内径よりも大きく、
前記シールド部材及び/又は前記外側部材には前記コイルばねを軸方向に付勢する付勢手段が一体的に形成されている、請求項3に記載のトルクリミッタ。
【請求項6】
前記制動部材はコイルばねであって線材が巻回された巻回部と前記線材が前記巻回部から離隔する方向に延びるフック部とを備え、
前記内側部材の外周面は円筒形状であって、前記外周面には前記コイルばねの前記巻回部が装着され、前記外周面の径は前記コイルばねが自由状態にあるときの前記巻回部の内径よりも大きく、
前記内側空間には前記コイルばねを軸方向に付勢する付勢手段も収容されている、請求項3に記載のトルクリミッタ。
【請求項7】
前記外側部材は固定のハウジングであり、前記内側部材が外部機器に接続されて、角度位置保持装置として使用される、請求項1乃至6のいずれかに記載のトルクリミッタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はトルクリミッタに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、軸方向の片側は閉鎖されているが他側は開放されている内側空間を有する外側部材と、前記内側空間に収容される内側部材及び制動部材(コイルばね)と、前記内側部材及び前記制動部材が前記内側空間に収容された後に前記外側部材に組み合わされて前記内側空間の前記他側を閉鎖するシールド部材とを具備し、前記外側部材及び前記内側部材は相対回転可能であり、前記制動部材は前記外側部材と前記内側部材との間に配置されて前記相対回転に対し所要制動トルクを付与するトルクリミッタが開示されている。内側部材及び制動部材が内側空間に収容された後に内側空間の前記他側がシールド部材によって閉鎖されることから、シールド部材によって前記他側が閉鎖された内側空間の軸方向長さは内側部材の軸方向長さよりも長い。
【0003】
特許文献1に示されたトルクリミッタにあっては、外側部材及び内側部材は共に回転可能であるが、いずれか一方が固定される場合もある。いずれか一方が固定される場合、上記トルクリミッタは、例えば車両のハッチバックを電動モーターの如き駆動手段で回転駆動させる際の角度位置保持装置として使用されうる。かような角度位置保持装置では電磁ブレーキが通常用いられるが、電磁ブレーキは構成が複雑で高価であることから、構成が簡単で安価な機械式のトルクリミッタを用いることが望まれている。この場合、外側部材がハウジングとして車両に固定され、内側部材は、電動モーターとハッチバックとを接続するシャフトに連結される。また、本願の出願人によって本願に先立って出願されて既に特許された特許第7035254号公報に示されているように、内側部材は電動モーターから延びるシャフトとハッチバックから延びるシャフトとを接続する継手部材として使用されることもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
而して、上記特許文献1に示されたトルクリミッタにあっては、シールド部材によって前記他側が閉鎖された内側空間の軸方向長さが内側部材の軸方向長さよりも長いことから、内側部材は上記内側空間において軸方向にガタを有し、かかるガタに起因して作動中に好ましくない異音が発生する虞がある。
【0006】
本発明は上記事実に鑑みてなされたものであり、その主たる技術的課題は、シールド部材によって前記他側が閉鎖された内側空間の軸方向長さが内側部材の軸方向長さよりも長くとも、内側部材が上記内側空間において軸方向にガタつくことのない、新規且つ改良されたトルクリミッタを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、鋭意検討の結果、内側部材又はこれと密着する制動部材を外側部材及びシールド部材に対し軸方向に弾性的に付勢することによって、上記主たる技術的課題を解決できることを見出した。
【0008】
即ち、本発明の第一の局面によれば、上記主たる技術的課題を解決するトルクリミッタとして、軸方向の片側は閉鎖されているが他側は開放されている内側空間を有する外側部材と、前記内側空間に収容される内側部材及び制動部材と、前記内側部材及び前記制動部材が前記内側空間に収容された後に前記外側部材に組み合わされて前記内側空間の前記他側を閉鎖するシールド部材とを具備し、
前記シールド部材によって前記他側が閉鎖された前記内側空間の軸方向長さは前記内側部材の軸方向長さよりも長く、
前記外側部材及び前記内側部材は相対回転可能であり、前記制動部材は前記外側部材と前記内側部材との間に配置されて前記相対回転に対し所要制動トルクを付与するトルクリミッタにおいて、
前記内側部材は付勢手段によって前記外側部材及び前記シールド部材に対し軸方向に弾性的に付勢されている、ことを特徴とするトルクリミッタが提供される。
【0009】
この場合には、前記付勢手段は前記内側空間に収容されたウェーブワッシャーであるのが好ましい。
【0010】
本発明の第二の局面によれば、上記主たる技術的課題を解決するトルクリミッタとして、軸方向の片側は閉鎖されているが他側は開放されている内側空間を有する外側部材と、前記内側空間に収容される内側部材及び制動部材と、前記内側部材及び前記制動部材が前記内側空間に収容された後に前記外側部材に組み合わされて前記内側空間の前記他側を閉鎖するシールド部材とを具備し、
前記シールド部材によって前記他側が閉鎖された前記内側空間の軸方向長さは前記内側部材の軸方向長さよりも長く、
前記外側部材及び前記内側部材は相対回転可能であり、前記制動部材は前記外側部材と前記内側部材との間に配置されて前記相対回転に対し所要制動トルクを付与するトルクリミッタにおいて、
前記制動部材は前記内側部材と密着して前記外側部材及び前記シールド部材に対し軸方向に弾性的に付勢されている、ことを特徴とするトルクリミッタが提供される。
【0011】
この場合には、前記制動部材は前記外側部材及び前記シールド部材によって軸方向両側から圧縮せしめられる圧縮コイルばねであって線材が巻回された巻回部と前記線材が前記巻回部から離隔する方向に延びるフック部とを備え、前記内側部材の外周面は円筒形状であって、前記外周面には前記圧縮コイルばねの前記巻回部が装着され、前記外周面の径は前記圧縮コイルばねが自由状態にあるときの前記巻回部の内径よりも大きいのがよい。また、前記制動部材はコイルばねであって線材が巻回された巻回部と前記線材が前記巻回部から離隔する方向に延びるフック部とを備え、前記内側部材の外周面は円筒形状であって、前記外周面には前記コイルばねの前記巻回部が装着され、前記外周面の径は前記コイルばねが自由状態にあるときの前記巻回部の内径よりも大きく、前記シールド部材及び/又は前記外側部材には前記コイルばねを軸方向に付勢する付勢手段が一体的に形成されていてもよい。更にまた、前記制動部材はコイルばねであって線材が巻回された巻回部と前記線材が前記巻回部から離隔する方向に延びるフック部とを備え、前記内側部材の外周面は円筒形状であって、前記外周面には前記コイルばねの前記巻回部が装着され、前記外周面の径は前記コイルばねが自由状態にあるときの前記巻回部の内径よりも大きく、前記内側空間には前記コイルばねを軸方向に付勢する付勢手段も収容されていてもよい。
【0012】
本発明の第一の局面及び第二の局面とも、前記外側部材は固定のハウジングであり、前記内側部材が外部機器に接続されて、角度位置保持装置として使用されうる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の第一の局面に従って構成されたトルクリミッタにあっては、内側部材が付勢手段によって外側部材及びシールド部材に対し軸方向に弾性的に付勢されていることで、シールド部材によって軸方向の他側が閉鎖された内側空間において、内側部材の軸方向両端は付勢手段と外側部材の軸方向側面及びシールド部材の軸方向側面のいずれか一方とによって、又は軸方向両側に配置された付勢手段によって同時に支持されるため、軸方向のガタつきに起因する異音の発生は防止される。
【0014】
本発明の第二の局面に従って構成されたトルクリミッタにあっては、制動部材が外側部材及びシールド部材に対し軸方向に弾性的に付勢されることで、シールド部材によって軸方向の他側が閉鎖された内側空間において、制動部材の軸方向両端は外側部材の軸方向側面及びシールド部材の軸方向側面によって、外側部材の軸方向側面及びシールド部材の軸方向側面のいずれか一方と付勢手段とによって、又は軸方向両側に配置された付勢手段によって同時に支持される。内側部材は制動部材に密着していることから、制動部材の軸方向両端が上記内側空間において同時に支持されることで内側部材も上記内側空間において軸方向にガタつくことなく支持される。つまり、内側部材は制動部材を介して支持される。このとき、内側部材が軸方向に付勢されるわけではないため、内側部材と外側部材又はシールド部材との所謂当たりの強さ、つまり内側部材と外側部材又はシールド部材との間の摩擦に起因した抵抗の大きさに変化はなく、また、上記所要制動トルクは内側部材と制動部材との間で設定されることから所要制動トルクの大きさも変化しない。それ故に、個体間での所要制動トルクのばらつきが抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の第一の局面に従って構成されたトルクリミッタの好適実施形態の構成を示す図。
【
図2】
図1に示すトルクリミッタの外側部材を単体で示す図。
【
図3】
図1に示すトルクリミッタの内側部材を単体で示す図。
【
図4】
図1に示すトルクリミッタのシールド部材を単体で示す図。
【
図5】本発明の第二の局面に従って構成されたトルクリミッタの第一実施形態の構成を示す図。
【
図6】本発明の第二の局面に従って構成されたトルクリミッタの第二実施形態の構成を示す図。
【
図7】本発明の第二の局面に従って構成されたトルクリミッタの第三実施形態の構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に従って構成されたトルクリミッタの好適実施形態を示す添付図面を参照して、更に詳細に説明する。なお、以下の説明における軸方向の「片側」及び「他側」は、特に指定しない限り、
図1のA-A断面に示される状態を基準として、「片側」は同図において左側を、「他側」は同図において右側のこととする。
【0017】
図1には本発明の第一の局面に従って構成されたトルクリミッタの好適実施形態の構成が示されている。全体を番号2aで示すトルクリミッタは、外側部材4aと、内側部材6aと、制動部材8aと、シールド部材10aとを具備し、共通の中心軸oを有する。
図1のB-B断面図では、容易に理解できるよう、制動部材8aには薄墨を付している。
【0018】
図1と共に
図2を参照して説明すると、合成樹脂製である外側部材4aは軸方向に対して垂直に配置される円形の端板12aとこの端板12aの外周縁から軸方向他側に向かって延びる円筒形状の外周壁14aとを有し、外周壁14aの内側には内側空間16aが形成されている。つまり、内側空間16aの軸方向の片側は閉鎖されているが他側は開放されている。端板12aの中央には軸方向に貫通する円形の貫通穴18aが形成されている。端板12aの軸方向片側面の外周縁部には所要周方向幅を有する円弧形状の凹部20aが周方向に間隔をおいて4つ形成されている。端板12aの軸方向他側面の中央部には円形の支持凹部22aが形成されており、支持凹部22aの底面には貫通穴18aの外周縁を囲繞する円環形状の支持突条24aが形成されている。外周壁14aの外周面には軸方向全域に亘って直線状に延びる断面弧状の凹溝26aが周方向に等角度間隔をおいて6つ形成されている。外周壁14aの内周面には端板12aの軸方向他側面から軸方向に所要程度延びる断面円弧形状の係止壁が周方向に間隔をおいて一対設けられており(各々の係止壁を28a1及び28a2で示す)、一対の係止壁28a1及び28a2の間には一対の隙間30a1及び30a2が存在する。外周壁14aの内周面の軸方向他側端部には周方向に延在する円環形状の係止溝32aが形成されている。
【0019】
図1と共に
図3を参照して説明すると、金属製である内側部材6aは筒形状である。図示の実施形態においては、内側部材6aの外周面は円筒形状である。内側部材6aの軸方向片側面の外周縁部には円環形状の被支持突条34aが形成されている。内側部材6aの内周面における、軸方向他側端部を除く部分にはセレーションからなる雌係合部36aが、軸方向片側端部にはスプラインからなる雌係止部38aが夫々形成されている。
【0020】
図1を参照して説明すると、図示の実施形態においては、制動部材8aはコイルばねであって、(以下では、コイルばねを番号8で示すこともある)、金属製の線材が螺旋状に巻回された巻回部40aと巻回部40aから上記線材が径方向外方に延出する一対のフック部42a1及び42a2とを備えており、巻回部40aが内側部材6aの外周面に装着されている。コイルばね8aは圧縮コイルばね及び引張コイルばねのどちらであってもよい。コイルばね8aに何らの負荷もかかっていない自由状態における巻回部40aの内径は内側部材6aの外周面の径よりも小さく(換言すれば、内側部材6aの外周面の径はコイルばねが自由状態にあるときの巻回部40aの内径よりも大きく)、コイルばね8aは巻回部40aの内径が拡径された状態で内側部材6aの外周面に密着して装着されている。一対のフック部42a1及び42a2は上記線材の両端部により構成されている。従って、一対のフック部42a1及び42a2は巻回部40aの軸方向両端に夫々設けられている。
【0021】
図1を参照して説明を続けると、内側部材6a及びコイルばね8a(制動部材)は外側部材4aの内側空間16aに収容される。このとき、内側部材6aの軸方向片側端部の外周面が外側部材4aの支持凹部22aを規定する外側部材4aの内周面によって径方向外側から支持されると共に、内側部材6aの被支持突条34aの内周面が外側部材4aの支持突条24aの外周面によって径方向内側から支持される。コイルばね8aの巻回部40aの外面は一対の係止壁28a1及び28a2の内周面と対向し、一対のフック部42a1及び42a2は隙間30a1に共通して嵌め合わされる。かくして、コイルばね8aは外側部材4aに対して回転不能な状態で支持される。
【0022】
図1と共に
図4を参照して説明すると、合成樹脂製であるシールド部材10aは軸方向に対して垂直に配置される円形のシールド板44aを含んでいる。シールド板44aの中央には軸方向に貫通する円形の貫通穴46aが形成されている。シールド板44aの軸方向片側面には貫通穴46aの外周縁を囲繞する円環形状の支持壁48aが形成されている。シールド板44aの軸方向他側面には外周縁から軸方向に延びる円筒形状の装着壁50aが形成されている。装着壁50aには軸方向他側に向かって開放された円環形状の周溝52aが形成されており、周溝52aには周方向に等角度間隔をおいて6つのリブ54aが配設されている。装着壁50aの外周面には周方向に延在する円環形状の係止突条56aが形成されており、係止突条56aが外側部材4aの外周壁14aの内周面に形成された係止溝32aに係止せしめられることで、シールド部材10aは外側部材4aに組み合わされて内側空間16aの軸方向他側を閉鎖する。かくすると、
図1のA-A断面図に示すとおり、シールド板44aの軸方向片側面が内側部材6aの軸方向他側面を軸方向に支持すると共に支持壁48aの内周面が内側部材6aの軸方向他側端部の外周面を径方向に支持する。但し、シールド部材10aによって軸方向他側が閉鎖された内側空間16aの軸方向長さは内側部材6aの軸方向長さよりも長い。上記「シールド部材10aによって軸方向他側が閉鎖された内側空間16aの軸方向長さ」は、外側部材4aの支持凹部22aの底面からシールド部材10aのシールド板44aの軸方向片側面までの長さのことであり、図示の実施形態においては、支持凹部22aの軸方向他側面における支持突条24aを除く部分からシールド板44aの軸方向片側面における支持壁48aを除く部分までの軸方向長さである。
【0023】
本発明の第一の局面に従って構成されるトルクリミッタにあっては、内側部材6aは付勢手段によって外側部材4a及びシールド部材10aに対し軸方向に弾性的に付勢されていることが重要である。図示の実施形態においては、付勢手段は内側空間16aに収容されたウェーブワッシャー58aであり、これは外側部材4aの支持突条24aの内側に配置されて内側部材6aを軸方向他側に付勢している。所望ならば、ウェーブワッシャー58aを支持突条24aの外側に配置してもよい。
【0024】
このとき、本発明の第一の局面に従って構成されたトルクリミッタにあっては、内側部材6aが付勢手段であるウェーブワッシャー58aによって外側部材4a及びシールド部材10aに対し軸方向に弾性的に付勢されていることで、シールド部材10aによって軸方向他側が閉鎖された内側空間16aにおいて、内側部材6aの軸方向両端はウェーブワッシャー58aとシールド部材10aの軸方向側面とによって同時に支持されるため、軸方向のガタつきに起因する異音の発生は防止される。本局面にあっては、内側部材6aが付勢手段によって外側部材4a及びシールド部材10aに対し軸方向に付勢されさえすればよいことから、制動部材は任意の形式であってよい。つまり、コイルばね8aは内側部材6aの外周面ではなく外側部材4aの内周面に密着していてもよく、コイルばね8aが外側部材4aの内周面に密着する場合、一対のフック部42a1及び42a2が嵌め合わされる隙間(30a1)は内側部材の外周面に形成される。更に、制動部材は外側部材4aと内側部材6aとの相対回転に対し制動トルクを付与さえすればよいことから、コイルばねではなく板ばねやトレランスリング等他の手段でもよい。更にまた、付勢手段は内側部材6aとシールド部材10aとの間に配置されていてもよく、この場合には、内側部材6aの軸方向両端は付勢手段と外側部材4aの軸方向側面とによって同時に支持される。また、付勢手段は内側部材6aの軸方向両側、つまり内側部材6aと外側部材4aとの間及び内側部材6aとシールド部材10aとの間に配置されていてもよく、この場合には、内側部材6aの軸方向両端は付勢手段によって同時に支持される。
【0025】
ここで、図示の実施形態においては、外側部材4aは凹部20a及び凹溝26aを介して保持される固定のハウジングであり、内側部材6aが外部機器に接続されて角度位置保持装置として使用される。内側部材6aの雌係止部38aには、
図1において二点鎖線で示す連結部材100が有するスプラインからなる雄係止部102が係止せしめられていて、内側部材6aと連結部材100とは一体的に回転する。連結部材100には更に雄係合部104が内側部材6aの雌係合部36aと同軸上に形成されている。そして、内側部材6aの雌係合部36a及び連結部材100の雄係合部104のいずれか一方が図示しない電動モーターの如き入力側機器に、いずれか他方が図示しない車両のハッチバックの如き出力側機器に接続される。従って、入力側機器から回転トルクが付与されると、内側部材6aがコイルばね8aと共に回転しようとする。このとき、上述したとおりコイルばね8aは外側部材4aに対して回転不能であることから、一対のフック部42a1及び42a2のいずれか一方が外側部材4aに形成された隙間30a1内で一対の係止壁28a1及び28a2のいずれか一方の周方向側面によって相対的にコイルばね8aが緩む方向に押され、内側部材6aはコイルばね8aの締め付け力による所要制動トルクに抗してコイルばね8aに対して回転する。つまり、入力側機器からの回転トルクが出力側機器に伝達されてこれを駆動させる。一方、入力側機器からの回転トルクが入力されないときは、内側部材6aはコイルばね8aによる所要制動トルクによって保持される。かくして、出力側機器の角度位置が保持される。
【0026】
続いて、本発明の第二の局面に従って構成されたトルクリミッタについて説明する。上述した本発明の第一の局面に従って構成されるトルクリミッタでは、内側部材が付勢手段によって外側部材及びシールド部材に対し軸方向に
弾性的に付勢されていたが、以下で説明する本発明の第二の局面に従って構成されるトルクリミッタでは、内側部材と密着する制動部材が外側部材及びシールド部材に対し軸方向に
弾性的に付勢される点で、本発明の第二の局面に従って構成されるトルクリミッタは本発明の第一の局面に従って構成されるトルクリミッタと相違する。
図5乃至
図7には夫々、本発明の第二の局面に従って構成されたトルクリミッタの第一実施形態乃至第三実施形態が示されている。図示の第一実施形態乃至第三実施形態に係るトルクリミッタの全体的な構成は
図1に示すトルクリミッタのものと同一であるため、以下の説明では、同一の構成については同一の番号に文字b乃至dのいずれか(第一実施形態ではb、第二実施形態ではc、第三実施形態ではd)を夫々付して詳細な説明については省略し、相違する構成についてのみ説明する。図示の第一実施形態乃至第三実施形態においても制動部材はコイルばねが採用されており、従って、コイルばねが自由状態にあるときの巻回部の内径は内側部材の外径よりも小さく、コイルばねは巻回部の内周面が内側部材の外周面に密着してこれに装着されている。なお、
図5乃至
図7ではシールド部材10b乃至10dは外側部材4b乃至4dから分離せしめられているが、これは便宜上の理由であり、実際は係止突条56b乃至56d及び係止溝32b乃至32dとの係止により組み合わせられる。
【0027】
図5に示すトルクリミッタ2bにおいては、制動部材8bは圧縮コイルばねである。従って、自由状態にあるとき、巻回部40bを構成する線材は軸方向に隙間を有する。内側部材6b及び圧縮コイルばね8bが内側空間16bに収容された後にシールド部材10bによって内側空間16bの軸方向他側が閉鎖されると、圧縮コイルばね8bは外側部材4b及びシールド部材10bによって軸方向両側から圧縮せしめられる。図示の実施形態においては、圧縮コイルばね8bの軸方向他側はシールド部材10bの支持壁48bによって軸方向片側に押圧せしめられる。かくして、圧縮コイルばね8bの両端は外側部材4bの軸方向側面及びシールド部材10bの軸方向側面によって軸方向両側から同時に支持される。
【0028】
図6に示すトルクリミッタ2cでは、コイルばね8cを軸方向に付勢する付勢手段58cがシールド部材10cに一体的に形成されている。図示の実施形態においては、コイルばね8cは引張コイルばねであるが、圧縮コイルばねであってもよい。付勢手段58cはシールド板44cの軸方向片側面に形成されたウェーブ状の弾性片であって、内側部材6c及びコイルばね8cが内側空間16cに収容された後にシールド部材10cによって内側空間16cの軸方向他側が閉鎖された際に、コイルばね8cの軸方向他側端と当接してこれを軸方向片側に押圧し、コイルばね8cの軸方向両端は外側部材4cの端板12cの軸方向他側面と付勢手段58cとによって軸方向両側から同時に支持される。所望ならば、本実施形態にあっては、付勢手段58cはシールド部材10cではなく外側部材4cに一体的に形成されていてもよく、この場合には、コイルばね8cの軸方向両端は付勢手段とシールド部材の軸方向片側面とによって軸方向両側から同時に支持される。また、付勢手段58cはシールド部材10cだけでなく外側部材4cにも一体的に形成されていてもよく、この場合には、内側部材6cの軸方向両端は付勢手段58dによって軸方向両側から同時に支持される。
【0029】
図7に示すトルクリミッタ2dでは、コイルばね8dを軸方向に付勢する付勢手段58dが内側空間16dに収容されている。図示の実施形態においては、コイルばね8dは引張コイルばねであるが、圧縮コイルばねであってもよい。付勢手段58dは外側部材4dの端板12dの軸方向他側面とコイルばね8dとの間に配置されたゴム状のリングであって、内側部材6d及びコイルばね8dが内側空間16dに収容された後にシールド部材10dによって内側空間16dの軸方向他側が閉鎖された際に、コイルばね8dの軸方向片側端と当接してこれを軸方向他側に押圧し、コイルばね8dの軸方向両端は付勢手段58dとシールド部材10dの支持壁48dの軸方向片側面とによって軸方向両側から同時に支持される。所望ならば、本実施形態にあっては、付勢手段58dはシールド部材10dの支持壁48dの軸方向側面とコイルばね8dとの間に配置されていてもよく、この場合には、コイルばね8dの軸方向両端は外側部材の軸方向他側面と付勢手段とによって軸方向両側から同時に支持される。また、付勢手段58dは内側部材6dの軸方向両側、つまり内側部材6dと外側部材4dとの間及び内側部材6dとシールド部材10dとの間に配置されていてもよく、この場合には、内側部材6dの軸方向両端は付勢手段58dによって同時に支持される。
【0030】
本発明の第二の局面に従って構成されたトルクリミッタにあっては、制動部材8b乃至8dが外側部材4b乃至4d及びシールド部材10b乃至10dに対し軸方向に弾性的に付勢されることで、シールド部材10b乃至10dによって軸方向他側が閉鎖された内側空間16b乃至16dにおいて、制動部材8bの軸方向両端は外側部材4bの軸方向側面及びシールド部材10bの軸方向側面によって、制動部材8c及びdの軸方向両端は外側部材4c及び4dの軸方向側面並びにシールド部材10c及び10dの軸方向側面のいずれか一方と付勢手段58c及び58dとによって或いは軸方向両側に配置された付勢手段58c及び58dによって同時に支持される。内側部材6b乃至6dは制動部材8b乃至8dに密着していることから、制動部材8b乃至8dの軸方向両端が上記内側空間16b乃至16dにおいて同時に支持されることで内側部材6b乃至6dも上記内側空間16b乃至16dにおいて軸方向にガタつくことなく支持される。つまり、内側部材6b乃至6dは制動部材8b乃至8dを介して支持される。このとき、内側部材6b乃至6dが軸方向に付勢されるわけではないため、内側部材6b乃至6dと外側部材4b乃至4d及びシールド部材10b乃至10dとの所謂当たりの強さ、つまり内側部材6b乃至6dと外側部材4b乃至4d及びシールド部材10b乃至10dとの間の摩擦に起因した抵抗の大きさに変化はなく、また、上記所要制動トルクは内側部材6b乃至6dと制動部材8b乃至8dとの間で設定されることから所要制動トルクの大きさも変化しない。それ故に、個体間での所要制動トルクのばらつきが抑制される。本局面における第二実施形態及び第三実施形態あっては、制動部材は内側部材6b乃至6dに密着していれば任意の形式であってよく、従って、板ばねやトレランスリング等であってもよい。
【0031】
以上、本発明に従って構成されたトルクリミッタについて添付した図面を参照して詳述したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明を逸脱しない範囲内において適宜の修正や変更が可能である。例えば、図示の実施形態においては、トルクリミッタが角度位置保持装置として使用される場合、つまり外側部材が固定される場合について説明したが、外側部材が回転する場合もある。
【符号の説明】
【0032】
2a乃至2d:トルクリミッタ
4a乃至4d:外側部材
6a乃至6d:内側部材
8a乃至8d:制動部材
10a乃至10d:シールド部材
16a乃至16d:内側空間
58a、58c、58d:付勢手段
【要約】
【課題】シールド部材10a乃至10dによって軸方向他側が閉鎖された内側空間16a乃至16dの軸方向長さが内側部材6a乃至6dの軸方向長さよりも長くとも、内側部材6a乃至6dが上記内側空間16a乃至16dにおいて軸方向にガタつくことのない、新規のトルクリミッタを提供すること。
【解決手段】内側部材6a乃至6d又はこれと密着する制動部材8a乃至8dを外側部材4a乃至4d及びシールド部材10a乃至10dに対し軸方向に付勢する。
【選択図】
図1