(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-24
(45)【発行日】2024-05-07
(54)【発明の名称】切削インサート、及び当該切削インサートを備えた切削工具
(51)【国際特許分類】
B23C 5/02 20060101AFI20240425BHJP
【FI】
B23C5/02
(21)【出願番号】P 2024015055
(22)【出願日】2024-02-02
【審査請求日】2024-02-02
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000221144
【氏名又は名称】株式会社タンガロイ
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】城間 ひかる
【審査官】亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/080486(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/088125(WO,A1)
【文献】特開2022-043380(JP,A)
【文献】特開2009-226577(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23C 5/00 - 5/28
B23B 27/00 - 27/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向する2つの端面、及び、該2つの端面に繋がる側面を有し、該端面の平面視において略多角形状をなす切削インサートであって、
前記端面の辺部に形成された切れ刃と、前記側面において前記切れ刃に接続する負の逃げ角を有する逃げ面とを備え、
前記切れ刃は、前記平面視においてそれぞれ直線状をなす第1切れ刃及び第2切れ刃と、前記第1切れ刃と前記第2切れ刃との間に形成され、且つ、前記平面視において曲線状をなす第3切れ刃とを有し、
前記逃げ面は、前記第1切れ刃、前記第2切れ刃、及び前記第3切れ刃のそれぞれに接続する第1側面部、第2側面部、及び第3側面部を有し、
前記第3側面部の前記逃げ角は、前記第3側面部と前記第1側面部との第1境界、及び、前記第3側面部と前記第2側面部との第2境界のうちの何れか一方から他方に向かう途中にかけて負の方向に徐々に大きくなった後、該途中から前記他方にかけて負の方向に徐々に小さくなる、
切削インサート。
【請求項2】
前記第3側面部の逃げ角が最大となる位置は、前記第1境界から前記第2境界へ向かう距離の半分よりも前記第1境界側にある、
請求項1記載の切削インサート。
【請求項3】
当該切削インサートは、前記2つの端面を貫通するように設けられた貫通孔を有し、
前記2つの端面の少なくも何れか一方には、前記切れ刃が複数形成されており、該複数の切れ刃は、前記貫通孔の中心軸を基準にして互いに回転対称である、
請求項1記載の切削インサート。
【請求項4】
前記複数の切れ刃は、前記貫通孔の中心軸を基準にして互いに120°回転対称であり、
当該切削インサートは、前記端面の平面視において略六角形状をなす、
請求項
3記載の切削インサート。
【請求項5】
前記切れ刃は、前記2つの端面の両方に形成されており、
当該切削インサートは、前記2つの端面の前記切れ刃が互いに180°回転対称に配置される仮想回転軸を有する、
請求項1記載の切削インサート。
【請求項6】
回転するボディと、
前記ボディに装着される請求項1記載の切削インサートと、
を備える切削工具。
【請求項7】
前記ボディに装着された状態の前記切削インサートの前記第3側面部において、前記第3切れ刃の回転軌跡に対する真の逃げ角の変化が3°以内である、
請求項
6記載の切削工具。
【請求項8】
前記ボディに装着された状態の前記切削インサートの前記第3側面部において、前記第3切れ刃の回転軌跡に対する真の逃げ角の変化が1.5°以内である、
請求項
6記載の切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、切削インサート、及び当該切削インサートを備えた切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、加工能率の向上を実現するために、高送り加工が可能な回転切削工具に対する要請が高まってきている。これに対し、例えば特許文献1には、切屑の排出性、及び、切れ刃に対応するすくい面の耐摩耗性を向上させることを企図した切削インサート、及び切削工具が記載されている。一方、かかる従来の切削インサートでは、主切れ刃に繋がるコーナ切れ刃において、それに対応する逃げ面の高さ(幅)によっては、加工時の損傷を十分に抑制することができないことがあった。これを解消するべく、本出願人は、例えば特許文献2において、コーナ切れ刃とその周辺の形状に着目することにより、その損傷を抑制することが可能な切削インサート、及び回転切削工具を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2023/176619号
【文献】特許第7011689号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、切削インサートでは、通常、主切れ刃にて最適な切削性能が得られるような切れ刃設計が行われる傾向にある。また、切削インサートのなかでも特に両面使用可能なネガインサートにおいては、逃げ角の設計自由度が比較的低く、採用される逃げ角は、おおよそ決定されていることが多い。そのため、主切れ刃において最適設計が実施され、他に特段の工夫がなされないと、コーナ切れ刃に対応する部位の逃げ角は、通常、不可避的に大きくなり易い。これに起因して、場合によっては、コーナ切れ刃の損傷を十分に抑制し難くなるおそれがある。
【0005】
そこで、本開示は、コーナ切れ刃の損傷を従来よりも更に抑制することができ、これにより、工具寿命を殊更に向上させることが可能な切削インサート、及び当該切削インサートを備えた切削工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示は、以下の構成を採用する。
【0007】
〔1〕本開示による切削インサートの一例は、互いに対向する2つの端面、及び、それらの2つの端面に繋がる側面を有し、その端面の平面視において略多角形状をなし、端面の辺部(外縁)に形成された切れ刃と、側面において切れ刃に接続する負の逃げ角を有する逃げ面とを備える。また、切れ刃は、第1切れ刃及び第2切れ刃と、それらの第1切れ刃と第2切れ刃との間に形成され、且つ、平面視において曲線状をなす第3切れ刃とを有する。さらに、逃げ面は、第1切れ刃、第2切れ刃、及び第3切れ刃のそれぞれに接続する第1側面部、第2側面部、及び第3側面部を有する。そして、第3側面部の幅方向長さは、第3側面部と第1側面部との第1境界において最も大きく、その第1境界から、第3側面部と第2側面部との第2境界に向かう少なくとも途中にかけて、徐々に小さくなるように形成されている。尚、本開示において、「逃げ角」が「負」とは、切れ刃から離れるにつれて外方に傾斜するように形成されていることを示す。また、「幅方向長さ」とは、後述する切削インサートの基準面P1に直交又は略直交する方向(すなわち同じく後述の中心軸Azに沿う方向又は略沿う方向)の長さを示す(換言すれば実質的な「縦幅」又は「高さ」と呼ぶこともできる。)。
【0008】
このような構成では、従来の切れ刃設計とは異なり、平面視において曲線状をなす第3切れ刃(従来の「コーナ切れ刃」に相当)に対応する逃げ面としての第3側面部の逃げ角は、第1切れ刃(従来の「主切れ刃」に相当)に対応する逃げ面としての第1側面部の逃げ角に比して大きくなり過ぎず、また、第3切れ刃のくさび角は、第1切れ刃のくさび角に比して小さくなり過ぎない。
【0009】
〔2〕また、当該切削インサートは、上記構成とは別の観点から、第3側面部の逃げ角は、第3側面部と第1側面部との第1境界、及び、第3側面部と第2側面部との第2境界のうちの何れか一方から他方に向かう途中にかけて負の方向に徐々に大きくなった後、その途中から他方にかけて負の方向に徐々に小さくなるように形成されてもよい。
【0010】
〔3〕より具体的には、第3側面部の逃げ角が最大となる位置が、前記第1境界から前記第2境界へ向かう距離の半分(50%)よりも前記第1境界側にあるように構成してもよい。
【0011】
〔4〕かかる構成において、当該切削インサートは、2つの端面を貫通するように設けられた貫通孔を有し、それらの2つの端面の少なくも何れか一方には、切れ刃が複数形成されており、それらの複数の切れ刃は、貫通孔の中心軸を基準にして互いに回転対称であってもよい。これにより、本開示による切削インサートは、一の端面で複数回の交換使用が可能となるので、経済性の向上に資することができる。
【0012】
〔5〕この場合、更に具体的には、複数の切れ刃が貫通孔の中心軸を基準にして互いに120°回転対称であり、当該切削インサートが端面の平面視において略六角形状をなすような構成を例示することができる。
【0013】
〔6〕また、切れ刃は、2つの端面の両方に形成されており、当該切削インサートは、2つの端面の切れ刃が互いに180°回転対称に配置される仮想回転軸を有してもよい。換言すれば、2つの端面の両方の切れ刃は、それら両面を裏返す方向に180°回転対称となるように設けられていてもよい。これにより、本開示による切削インサートは、両面仕様での交換使用が可能となるので、経済性の更なる向上に資することができる。
【0014】
〔7〕本開示による切削工具の一例は、回転するボディと、そのボディに装着される本開示による切削インサートを備えて有効に構成することができる。すなわち、その切削インサートは、互いに対向する2つの端面、及び、それらの2つの端面に繋がる側面を有し、その端面の平面視において略多角形状をなし、端面の辺部(外縁)に形成された切れ刃と、側面において切れ刃に接続する負の逃げ角を有する逃げ面とを備える。また、切れ刃は、第1切れ刃及び第2切れ刃と、それらの第1切れ刃と第2切れ刃との間に形成され、且つ、平面視において曲線状をなす第3切れ刃とを有する。さらに、逃げ面は、第1切れ刃、第2切れ刃、及び第3切れ刃のそれぞれに接続する第1側面部、第2側面部、及び第3側面部を有する。
【0015】
そして、第3側面部の幅方向長さは、第3側面部と第1側面部との第1境界において最も大きく、その第1境界から、第3側面部と第2側面部との第2境界に向かう少なくとも途中にかけて、徐々に小さくなるように形成されている。或いは、第3側面部の逃げ角は、第3側面部と第1側面部との第1境界、及び、第3側面部と第2側面部との第2境界のうちの何れか一方から他方に向かう途中にかけて徐々に大きくなった後、その途中から他方にかけて徐々に小さくなるように形成されてもよい。
【0016】
〔8〕・〔9〕このとき、より具体的には、ボディに装着された状態の切削インサートの第3側面部において、第3切れ刃の回転軌跡に対する真の逃げ角の変化が好ましくは3°以内、より好ましくは1.5°以内であってもよい。これらにより、第3切れ刃の耐欠損性が第1切れ刃及び第2切れ刃に比して著しく損なわれることがない切れ刃形状を実現することができる。
【発明の効果】
【0017】
本開示によれば、コーナ切れ刃の損傷を更に有効に抑止することができ、これにより、工具寿命を一層向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本実施形態に係る切削工具に備わる切削インサートの全体構成を概略的に示す斜視図である。
【
図2】
図1に示す切削インサートの平面図(上面図)である。
【
図3】
図1に示す切削インサートの側面図であり、
図1及び
図2に示すIII-III線に沿う方向から視認した図である。
【
図4】本実施形態に係る切削工具の先端付近を拡大して示す斜視図である。
【
図5】本実施形態に係る切削工具の先端付近を拡大して示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照しながら本実施形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して重複する説明を省略する。
図1は、本実施形態に係る切削工具に備わる切削インサートの全体構成を概略的に示す斜視図であり、
図2は、
図1に示す切削インサートの平面図(上面図)であり、
図3は、
図1に示す切削インサートの側面図であって、
図1及び
図2に示すIII-III線に沿う方向から視認した図である。
【0020】
<切削インサート10>
図1乃至
図3に示すように、切削インサート10は、互いに対向する端面10U(第1端面)、及び端面10L(第2端面)と、端面10U,10Lに繋がる(両者を接続する)側面10Sを備える。ここで、便宜的に、端面10Uが向いている方向を上方とすると、端面10Lは、端面10Uの向きとは反対方向である下方を向いている、つまり、端面10U,10Lが垂直方向を向いている一方、側面10Sは、横方向すなわち水平方向を向いている。
【0021】
また、
図1及び
図2に示すように、端面10U,10Lには、これらを貫通する貫通孔Hが形成されている。換言すれば、
図2は、貫通孔Hの中心軸Azに沿って端面10Uを上方から視認したときの上面図に相当し、
図3は、貫通孔Hの中心軸Azに垂直な方向から側面10Sを横向きに視認したときの側面図に相当する。さらに、
図1及び
図2に示すとおり、切削インサート10は、平面視において略多角形(略六角形)状をなしており、側面10Sに、互いに120度回転対称に形成された角部CA,CB,CCを有する。つまり、
図2において、側面10Sには、互いに同一形状を有する角部CA,CB,CCが、その順で反時計回りに120°おきに設けられている。尚、本実施形態において、これらの角部CA,CB,CCは、例えば、80°乃至100°の頂角を有する例えば略円弧状等の曲線状に形成されている。
【0022】
さらに、端面10Uの辺部、すなわち、端面10Uと側面10Sとの交差稜線部には、互いに同一構造を有する切れ刃2A,2B,2Cが、この順で
図1及び
図2における反時計回りに120°毎に設けられている。すなわち、これらの複数の切れ刃2A,2B,2Cは、貫通孔Hの中心軸Azを基準にして互いに120°回転対称(つまり3回回転対称)となるように形成されている。
【0023】
また、これらの切れ刃2A,2B,2Cのそれぞれは、
図1及び
図2における反時計回りに順に連接された底刃20、主切れ刃21(第1切れ刃)、コーナ切れ刃23(第3切れ刃)、及び内刃22(第2切れ刃)を有する。これらのうち底刃20は、切削インサート10が後述するボディ50に装着された状態で、回転切削工具100の最先端側に位置し、切れ刃2A,2B,2Cの各2者間を仕切る部位でもある。この底刃20は、例えば略直線状に形成され、被切削部の仕上げ面を改善する機能を有する。また、主切れ刃21及び内刃22は、例えば、平面視において直線状をなし、それらの間に形成されたコーナ切れ刃23は、平面視において曲線状(例えば略円弧状)をなす。このコーナ切れ刃23は、角部CA,CB,CCと同様には、例えば、80°乃至100°の頂角を有するように形成される。尚、主切れ刃21及び内刃22ともに、平面視において直線状に限られず、例えば、平面視においてコーナ切れ刃23よりも大きな曲率半径を有する円弧状等の曲線状であってもよい。
【0024】
さらに、
図3に示すように、主切れ刃21は、底刃20から離れるにつれて、基準面P1(図示水平面)から離間するように、基準面P1に対して傾斜して形成される。一方、コーナ切れ刃23は、主切れ刃21から離れるにつれて、基準面P1から一旦離間し、その後、基準面P1に再度接近するように、基準面P1に対して弧状凸部として形成される。他方、内刃22は、コーナ切れ刃23から離れるにつれて、基準面P1に一旦接近してから、再び離間するように、基準面P1に対して弧状凹部として形成される。尚、基準面P1は、貫通孔Hの中心軸Azに垂直で、端面10U,10Lの中間部を通過する仮想平面である。
【0025】
ここで、
図1及び
図2には、その基準面P1上に存在する2次元座標軸の一例として、仮想軸Ax,Ayを示す。切削インサート10は、それらの仮想軸Ax,Ayのうち、平面視において底刃20及びコーナ切れ刃23を横断する仮想軸Ay(端面に沿って切削インサートを仮想的に貫通する所定軸)を基準として、180度回転対称(つまり2回回転対称)に形成されている。このとおり、切削インサート10の端面10Uに対向して反対側に設けられる端面10Lは、端面10Uと同一の構造を有している。つまり、端面10Lの辺部、すなわち、端面10Lと側面10Sとの交差稜線部にも、同一構造の切れ刃2A,2B,2Cが形成されている。
【0026】
また、端面10Uの外縁側において切れ刃2A,2B,2Cに接続する領域は、すくい面として機能する。さらに、端面10U,10Lの貫通孔Hの周辺には、それぞれ端面10U,10Lを切れ刃として用いる場合に、ボディ50のチップ座に対して押圧されることにより、切削インサート10をボディ50に対して固定するための当接面(平面部)が形成されている。
【0027】
さらに、切れ刃2A及びその周辺部位を主として示す
図3に記載のとおり、端面10U,10Lに繋がる側面10Sは、底刃20、主切れ刃21(第1切れ刃)、内刃22(第2切れ刃)、及びコーナ切れ刃23(第3切れ刃)のそれぞれに接続する側面部S0,S1,S2,S3を含む逃げ面が形成されている。これら各側面部S0,S1,S2,S3は、何れも負の逃げ角を有する、所謂、逆ポジ面として形成されている。より詳細には、側面部S1(第1側面部)は、底刃20に繋がる主切れ刃21の一方端から、コーナ切れ刃23に繋がる主切れ刃21の他方端に亘って形成されている。また、側面部S2(第2側面部)は、主切れ刃21に繋がるコーナ切れ刃23の一方端から、内刃22に繋がるコーナ切れ刃23の他方端に亘って形成されている。さらに、側面部S3(第3側面部)は、コーナ切れ刃23に繋がる内刃22の一方端から、別の底刃20に繋がる内刃22の他方端に亘って形成されている。
【0028】
ここで、
図3に、コーナ切れ刃23に接続する側面部S3の水平方向範囲を略等間隔に6区画に分けときの各境界A~Gの位置と、それらの各境界における幅方向長さを破線両矢印で示す。これより、境界A~Gのそれぞれにおける幅方向長さをW1~W7で表すとすると、本実施形態の切削インサート10は、側面部S3における幅方向長さが一例として下記式(1)で表される関係を満たすように構成されていても好適である。
【0029】
W1>W2>W3≒W4≒W5≒W6≒W7 …(1)
このとおり、切削インサート10では、側面部S3の幅方向長さWは、側面部S3,S1の境界A(第1境界)におけるW1が最も大きくされている。すなわち、切削インサート10は、境界A(第1境界)から、側面部S3,S2の境界G(第2境界)に向かう少なくとも途中(境界C近傍)にかけて、概ねW3程度まで徐々に小さくなるように形成されている(式(1))。
【0030】
ここで、側面部S3内の境界A~Gのそれぞれにおける逃げ角をC1~C7で表すとすると、本実施形態の切削インサート10は、それらの逃げ角が一例として下記式(2)及び式(3)で表される関係を満たすように構成されていても好適である。
【0031】
C1<C2<C3 …(2)
C3>C4>C5>C6>C7 …(3)
このとおり、切削インサート10は、側面部S3の逃げ角が、側面部S3,S1の境界A(第1境界)から、側面部S3,S2との境界G(第2境界)に向かう途中(境界C近傍)にかけて負の方向に徐々に大きくなった後(式(2))、その途中位置(境界C近傍)から境界Gにかけて負の方向に徐々に小さくなるように形成されている(式(3))。
【0032】
このような逃げ角の傾向が示すとおり、また、
図3に示すとおり、切削インサート10は、側面部S3の逃げ角が最大となる位置(境界C近傍)が、境界A(第1境界)から境界G(第2境界)へ向かう距離の半分(境界D近傍)よりも境界A(第1境界)側となるように構成されている。
【0033】
<回転切削工具100>
図4は、本実施形態に係る切削工具の先端付近を拡大して示す斜視図であり、4つの切削インサート10を、回転軸J周りに回転するボディ50に取り付けた回転切削工具100(切削工具)を、回転軸Jの斜め先端側から視認したときの図である。また、
図5は、本実施形態に係る切削工具の先端付近を拡大して示す側面図であり、
図4に示す状態の回転切削工具100を、回転軸Jに平行な方向から視認したときの図である。
【0034】
これらの
図4及び
図5に示すように、回転切削工具100は、複数の切削インサート10と、切削インサート10が取り付けられるボディ50を備える。また、切削インサート10は、貫通孔Hに挿入された雄ねじを、ボディ50のチップ座に形成された雌ねじと螺合させ、この雄ねじで切削インサート10をボディ50に押し付けることにより、ボディ50に装着される。その際、端面10Uは、ボディ50が回転する方向を向き、反対方向を向く端面10Lの当接面は、ボディ50のチップ座に押圧される。さらに、側面10Sにおける側面部S0は、回転軸Jの
図5における下方を向く。また、角部CAの切れ刃2Aにおけるコーナ切れ刃23は、回転軸Jから最も離れた外周部に位置し、ボディ50よりも外径方向に僅かにはみ出る。加えて、底刃20及び主切れ刃21は、ボディ50よりも回転軸Jの下方向に僅かにはみ出る。
【0035】
以上のように構成された切削インサート10、及び、それが装着された回転切削工具100によれば、切削インサート10が両面仕様で且つ交換式の多機能加工用部材として機能する。すなわち、切削インサート10を、端面10U,10Lのそれぞれにおいて回転させ、また、端面10U,端面10Lで反転させて、複数回分使用することが可能となる。これにより、工具の経済性を向上させることができる。
【0036】
また、切削インサート10では、従来の切れ刃設計とは異なり、コーナ切れ刃23に対応する逃げ面としての側面部S3の逃げ角は、前述のとおり、側面部S3,S1の境界A(第1境界)よりも境界G側への途中である境界Cで最も大きくなる。このとおり、切削インサート10によれば、コーナ切れ刃23に接続する側面部S3の逃げ角が、主切れ刃21に接続する側面部S1の逃げ角に比して、過度に大きくならず、また、コーナ切れ刃23のくさび角は、主切れ刃21のくさび角に比して過度に小さくならない。これにより、回転切削工具100に切削インサート10を装着した加工中におけるコーナ切れ刃23の損傷を、従来よりも更に抑制することができ、その結果、工具寿命を殊更に向上させることが可能となる。
【0037】
より具体的には、本出願人が、上述した回転切削工具100に関し、切削インサート10の側面部S3において、コーナ切れ刃23の回転軌跡に対する真の逃げ角の変化を計測したところ、1.5°以内と非常に小さく抑えられていることが確認された。また、実際に、真の逃げ角の変化が、1.5°~10°である回転切削工具を複数準備し、それらの回転切削工具について工具寿命を比較する試験を行った。その結果、真の逃げ角の変化が10°である回転切削工具は、真の逃げ角の変化がより小さい他の回転切削工具よりも早期にコーナ切れ刃部分の欠損が生じてしまい使用不可となった。そして、この比較試験の結果から総合的に判断して、真の逃げ角の変化が3°以内である回転切削工具は、真の逃げ角の変化が10°である回転切削工具に比して、工具寿命が有意に長いことが判明した。これらの点からも、本開示による切削インサート10、及び回転切削工具100によるコーナ切れ刃の損傷に対する優位な抑制効果が理解される。
【0038】
以上、具体例を参照しつつ本実施形態について説明したが、本開示の理解を容易にするためのものであり、本開示を限定して解釈するためのものではない。つまり、本開示は、これらの具体例に限定されるものではなく、これらの具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本開示の特徴を備える限り、本開示の技術的範囲に包含される。また、前述した各具体例が備える各要素、配置、材料、条件、形状、寸法サイズ、縮尺等は、特に明示のない限り、例示したものに限定されず、適宜変更することができる。さらに、前述した各具体例が備える各要素は、技術的な矛盾が生じない限り、適宜組み合わせを変更することもできる。
【0039】
すなわち、例えば、本開示による切削インサートは、切れ刃2A,2B,2Cと同等の他の切れ刃を、端面10U,10Lのそれぞれに4つ以上備えてもよい。その際、場合によっては、端面10U,10Lに形成された切れ刃は、それらに沿って切削インサートを仮想的に貫通する所定軸としての仮想軸Ax,Ayの両方を基準として180°回転対称に設けられる。また、底刃20としては、直線状ではなく、適宜の曲率を有して切れ味を増大させるように形成してもよく、この場合、底刃20の部位も一種のコーナ切れ刃と捉え得る。さらに、端面10U,10Lには、切れ刃2A,2B,2Cに接続する領域(すくい面)に更に接続する溝やチップブレーカが適宜設けられていてもよい。またさらに、側面部S3における境界A~Gのそれぞれにおける幅方向長さW1~W7は、W1からW7まで全体的に徐々に小さくなるように、すなわち、例えば下記式(4)で表される関係を満たすようにしてもよい。或いは、W1からW7の途中まで大きくなった後に小さくなるように、すなわち、例えば下記式(5)及び式(6)で表される関係を満たすように構成してもよい。
【0040】
W1>W2>W3>W4>W5>W6>W7 …(4)
W1>W2>W3>W4 …(5)
W4<W5<W6<W7 …(6)
【符号の説明】
【0041】
2A,2B,2C…切れ刃、10…切削インサート、10L…端面(第2端面)、10U…端面(第1端面)、10S…側面、20…底刃、21…主切れ刃(第1切れ刃)、22…内刃(第2切れ刃)、23…コーナ切れ刃(第3切れ刃)、50…ボディ、100…回転切削工具(切削工具)、A~G…境界、Ax,Ay…仮想軸、Az…中心軸、CA,CB,CC…角部、H…貫通孔、J…回転軸、P1…基準面、S0,S1,S2,S3…側面部
【要約】
【課題】コーナ切れ刃の損傷を従来よりも更に抑制して工具寿命を殊更に向上させ得る切削インサート及び切削工具を提供すること。
【解決手段】切削インサート10は、2つの端面10U,10L、及び、それらに繋がる側面10Sを有して略多角形状をなし、切れ刃2Aと、側面10Sにおいて切れ刃2Aに接続する負の逃げ角を有する逃げ面とを備える。切れ刃2Aは、主切れ刃21及び内刃22と、それらの間に形成された曲線状をなすコーナ切れ刃23とを有する。逃げ面は、主切れ刃21、内刃22、及びコーナ切れ刃23のそれぞれに接続する側面部S1,S2,S3を有する。そして、側面部S3の幅方向長さWは、側面部S3,S1の境界Aにおいて最も大きく、その境界Aから、側面部S3,S2の境界Gに向かう少なくとも途中にかけて、徐々に小さくなるように形成されている。
【選択図】
図3