(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-24
(45)【発行日】2024-05-07
(54)【発明の名称】被覆電線、及びワイヤーハーネス
(51)【国際特許分類】
H01B 7/02 20060101AFI20240425BHJP
H01B 7/295 20060101ALI20240425BHJP
H01B 7/00 20060101ALI20240425BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20240425BHJP
C08K 5/3415 20060101ALI20240425BHJP
C08L 53/00 20060101ALI20240425BHJP
C08L 23/26 20060101ALI20240425BHJP
【FI】
H01B7/02 F
H01B7/295
H01B7/00 301
C08K3/22
C08K5/3415
C08L53/00
C08L23/26
(21)【出願番号】P 2020182212
(22)【出願日】2020-10-30
【審査請求日】2023-03-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【氏名又は名称】山野 宏
(72)【発明者】
【氏名】大井 勇人
【審査官】神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-158629(JP,A)
【文献】国際公開第2018/180689(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/082782(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/02
H01B 7/295
H01B 7/00
C08K 3/22
C08K 5/3415
C08L 53/00
C08L 23/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、絶縁被覆とを備える被覆電線であって、
前記絶縁被覆は、樹脂組成物から構成され、
前記樹脂組成物は、
シラングラフトポリオレフィンと、
未変性ポリオレフィンと、
カルボキシ基、エステル基、酸無水物基、アミノ基、及びエポキシ基からなる群より選択される1種以上の官能基を有する変性ポリオレフィンと、
難燃剤と、
架橋触媒と、
酸化亜鉛及びイミダゾール系化合物とを含み、
前記未変性ポリオレフィンは、ポリエチレン、ポリプロピレン、及びエチレンまたはプロピレンとα-オレフィンとの共重合体からなる群より選択される1種以上の重合体と、ブロックポリプロピレンとを含み、
前記シラングラフトポリオレフィンと前記未変性ポリオレフィンと前記変性ポリオレフィンの合計を125質量部としたとき、前記1種以上の重合体の含有量は25質量部以上45質量部以下であり、前記ブロックポリプロピレンの含有量は3質量部以上10質量部以下であり、
前記絶縁被覆の表面粗さRaが
2.0μm以下である、
被覆電線。
【請求項2】
前記表面粗さRaが0.6μm以上である、請求項
1に記載の被覆電線。
【請求項3】
前記導体は、撚線を含み、
前記撚線を構成する複数の金属線のそれぞれは、アルミニウム合金線である、請求項1
または請求項
2に記載の被覆電線。
【請求項4】
請求項1から請求項
3のいずれか1項に記載の被覆電線と、端子と、止水部材とを備え、
前記端子は、前記被覆電線の二つの端部のうち、少なくとも一方の端部に取り付けられており、
前記止水部材は、前記絶縁被覆の外周に取り付けられている、
ワイヤーハーネス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、被覆電線、及びワイヤーハーネスに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、耐熱性に優れる絶縁電線として、絶縁被覆が特定のポリオレフィン系組成物を架橋させてなるものを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
耐熱性に優れると共に、外観も優れる被覆電線が望まれている。
【0005】
特許文献1は、上述の組成物において耐熱性を向上させる添加剤として、酸化亜鉛及びイミダゾール系化合物を開示する。本発明者は、酸化亜鉛及びイミダゾール系化合物は絶縁被覆の外観に影響を与え得るとの知見を得た。具体的には絶縁被覆の表面が荒れる。
【0006】
また、被覆電線において止水性が求められる用途では、被覆電線の外周に筒状の止水部材が取り付けられる。絶縁被覆の表面が荒れている場合には、止水部材が絶縁被覆の外周面に密着しない。そのため、絶縁被覆と止水部材との間に微小な隙間が生じ得る。上記微小な隙間によって、絶縁被覆と止水部材との間における止水性が低下する。
【0007】
上記を鑑みて、本開示は、耐熱性に優れると共に外観も優れる被覆電線を提供することを目的の一つとする。また、本開示は、耐熱性に優れると共に外観も優れる被覆電線を備えるワイヤーハーネスを提供することを別の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の被覆電線は、
導体と、絶縁被覆とを備える被覆電線であって、
前記絶縁被覆は、樹脂組成物から構成され、
前記樹脂組成物は、
シラングラフトポリオレフィンと、
未変性ポリオレフィンと、
カルボキシ基、エステル基、酸無水物基、アミノ基、及びエポキシ基からなる群より選択される1種以上の官能基を有する変性ポリオレフィンと、
難燃剤と、
架橋触媒と、
酸化亜鉛及びイミダゾール系化合物とを含み、
前記絶縁被覆の表面粗さRaが4.0μm以下である。
【0009】
本開示のワイヤーハーネスは、
本開示の被覆電線と、端子と、止水部材とを備え、
前記端子は、前記被覆電線の二つの端部のうち、少なくとも一方の端部に取り付けられており、
前記止水部材は、前記絶縁被覆の外周に取り付けられている。
【発明の効果】
【0010】
本開示の被覆電線及び本開示のワイヤーハーネスに備えられる被覆電線は、耐熱性に優れると共に外観も優れる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施形態の被覆電線の一例を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、実施形態のワイヤーハーネスの一例を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[本開示の実施形態の説明]
本開示の被覆電線は、以下の知見に基づくものである。
絶縁被覆の原料に用いられる樹脂混合物が上述の酸化亜鉛及びイミダゾール系化合物を含むポリオレフィン系組成物である場合には、絶縁被覆の表面が荒れることがある。この理由の一つとして、上記樹脂混合物を押出して絶縁被覆を成形する際に、酸化亜鉛及びイミダゾール系化合物が上記樹脂混合物の流動性を低下させることが考えられる。本発明者は、上記樹脂混合物の流動性の向上を検討した結果、絶縁被覆の表面荒れには上記樹脂混合物の水分量が関係するとの知見を得た。上記水分量が多いと、上記樹脂混合物の内部と上記樹脂混合物の外表面とにおいて、水分が気化することで生じる気泡の分布状態が異なり得る。上記の気泡の分布状態の相違によって、上記樹脂混合物の流動性が低下し得ると考えられる。上記樹脂混合物の流動性が低下することで、押出時にメルトフラクチャー等の不良現象が生じ易い。メルトフラクチャー等に起因して、表面が荒れた絶縁被覆が成形されると考えられる。本発明者は、上記樹脂混合物中の水分量が適切に調整された場合、特に上記水分量がある程度少ない場合には、平滑な表面を有する絶縁被覆が製造されるとの知見を得た。
【0013】
最初に本開示の実施形態の内容を列記して説明する。
(1)本開示の一態様に係る被覆電線は、
導体と、絶縁被覆とを備える被覆電線であって、
前記絶縁被覆は、樹脂組成物から構成され、
前記樹脂組成物は、
シラングラフトポリオレフィンと、
未変性ポリオレフィンと、
カルボキシ基、エステル基、酸無水物基、アミノ基、及びエポキシ基からなる群より選択される1種以上の官能基を有する変性ポリオレフィンと、
難燃剤と、
架橋触媒と、
酸化亜鉛及びイミダゾール系化合物とを含み、
前記絶縁被覆の表面粗さRaが4.0μm以下である。
【0014】
本開示の被覆電線は、酸化亜鉛及びイミダゾール系化合物を含むことで、耐熱性に優れる。架橋触媒を含む絶縁被覆は一般に架橋されていることからも、本開示の被覆電線は耐熱性に優れる。
【0015】
絶縁被覆の表面粗さRaが上述のように小さいことで、絶縁被覆の表面が平滑である。このような本開示の被覆電線は外観も優れる。本開示の被覆電線の外周に止水部材が取り付けられた場合には、絶縁被覆と止水部材とが密着する。そのため、本開示の被覆電線は止水性も優れる。なお、表面粗さRaは算術平均粗さである。また、絶縁被覆の表面が平滑であることで、止水部材の取付が容易である。この点から、本開示の被覆電線が防水用途のワイヤーハーネスに用いられる場合には、上記ワイヤーハーネスは製造性に優れる。
【0016】
更に、絶縁被覆の表面が平滑であることで、本開示の被覆電線を切断した際に絶縁被覆からの切削屑が生じ難い。そのため、後述するように切断された被覆電線の端部に端子を取り付ける作業において、切削屑に起因する作業性の低下が抑えられる。この点から、本開示の被覆電線がワイヤーハーネスに用いられる場合には、ワイヤーハーネスは製造性に優れる。
【0017】
(2)本開示の被覆電線の一例として、
前記未変性ポリオレフィンは、ブロックポリプロピレンを含む形態が挙げられる。
【0018】
上記形態では、製造過程において絶縁被覆の原料となる樹脂混合物が流動性に優れる。そのため、外観に優れる被覆電線が製造され易い。この点で、上記形態は製造性に優れる。
【0019】
(3)本開示の被覆電線の一例として、
前記表面粗さRaが3.0μm以下である形態が挙げられる。
【0020】
上記形態は、外観、止水性、端子の取付時の作業性により優れる。
【0021】
(4)本開示の被覆電線の一例として、
前記表面粗さRaが2.0μm以下である形態が挙げられる。
【0022】
上記形態は、外観、止水性、端子の取付時の作業性に更に優れる。
【0023】
(5)本開示の被覆電線の一例として、
前記表面粗さRaが0.6μm以上である形態が挙げられる。
【0024】
上記形態は、製造過程において上述の水分量の調整を行い易いことで製造性に優れる。
【0025】
(6)本開示の被覆電線の一例として、
前記導体は、撚線を含み、
前記撚線を構成する複数の金属線のそれぞれは、アルミニウム合金線である形態が挙げられる。
【0026】
上記形態は、上記金属線が銅線又は銅合金線である場合に比較して軽量である。また、上記形態は、導体が単線のアルミニウム合金線であって同じ断面積を有する場合と比較して曲げ易い。この点から、上記形態は屈曲性に優れる。
【0027】
(7)本開示の一態様に係るワイヤーハーネスは、
上記(1)から(6)のいずれか一つに記載の被覆電線と、端子と、止水部材とを備え、
前記端子は、前記被覆電線の二つの端部のうち、少なくとも一方の端部に取り付けられており、
前記止水部材は、前記絶縁被覆の外周に取り付けられている。
【0028】
本開示のワイヤーハーネスに備えられる本開示の被覆電線は、耐熱性に優れる上に外観も優れる。本開示のワイヤーハーネスは、上述の理由により止水性及び製造性も優れる。
【0029】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、図面を適宜参照して、本開示の実施の形態を詳細に説明する。図中の同一符号は、同一名称物を示す。
【0030】
[被覆電線]
以下、
図1を参照して、実施形態の被覆電線を説明する。
実施形態の被覆電線1は、導体2と、絶縁被覆3とを備える。導体2は、単一の金属線22又は複数の金属線22を備える。
図1は、導体2が複数の金属線22を備える撚線20である場合を例示する。絶縁被覆3は樹脂組成物から構成される成形体である。絶縁被覆3は導体2の外周を覆う。代表的には、絶縁被覆3は、絶縁被覆3の原料である樹脂混合物が導体2の外周に押出されることで所定の形状に成形された後、架橋されることで製造される。絶縁被覆3は被覆電線1の外表面を構成する。そのため、絶縁被覆3の外観は被覆電線1の外観でもある。
【0031】
実施形態の被覆電線1では、絶縁被覆3が特定の樹脂組成物から構成される。また、実施形態の被覆電線1では、絶縁被覆3の表面粗さRaが4.0μm以下である。このような絶縁被覆3の表面は平滑である。
以下、絶縁被覆3、導体2、被覆電線1の使用形態を順に説明する。
【0032】
〈絶縁被覆〉
《組成》
絶縁被覆3を構成する樹脂組成物は、(A)シラングラフトポリオレフィンと、(B)未変性ポリオレフィンと、(C)変性ポリオレフィンと、(D)難燃剤と、(E)架橋触媒と、(F)酸化亜鉛及びイミダゾール系化合物とを含む。上記樹脂組成物は、更に、(G)酸化防止剤、(H)金属不活性剤、及び(I)滑剤からなる群より選択される1種以上の添加剤を含んでもよい。
【0033】
以下、上記樹脂組成物の各成分を説明する。以下の説明では、上記樹脂組成物のうち樹脂成分である(A)、(B)及び(C)の各成分の含有量は、これら三成分を合計した125質量部に含まれる割合を質量部数で示す。上記樹脂組成物のうち上記三成分以外の各成分の含有量は、上記三成分を合計した125質量部に対する質量部数で示す。なお、上記樹脂成分を含む上記樹脂組成物全体の合計質量部は、例えば195質量部以上250質量部以下が挙げられる。各成分の測定には、代表的には核磁気共鳴分光法(NMR)を用いることが挙げられる。
【0034】
(A)シラングラフトポリオレフィン
シラングラフトポリオレフィンは、主鎖となるポリオレフィンにシランカップリング剤をグラフト重合させたもの、即ちシラングラフト鎖が導入されたものである。シラングラフトポリオレフィンの含有量は、例えば50質量部以上80質量部以下が挙げられる。
【0035】
シラングラフトポリオレフィンにおけるポリオレフィンとして、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、及びエチレン又はプロピレンとα-オレフィンとの共重合体からなる群より選択される1種以上の重合体を含むことが挙げられる。PEはエチレンの単独重合体である。PPはプロピレンの単独重合体である。上記共重合体は、例えば、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-オクテン共重合体が挙げられる。
【0036】
(B)未変性ポリオレフィン
未変性ポリオレフィンは、炭化水素からなるポリオレフィンであって、グラフト重合、共重合等によって変性基が導入されていない。未変性ポリオレフィンの含有量は、例えば30質量部以上55質量部以下が挙げられる。
【0037】
未変性ポリオレフィンとして、例えば(A)シラングラフトポリオレフィンにおけるポリオレフィンとして列挙した1種以上の重合体を含むことが挙げられる。特に、未変性ポリオレフィンと(A)シラングラフトポリオレフィンにおけるポリオレフィンとが同種の重合体を含む場合には相溶性に優れる。そのため、製造過程では樹脂混合物が均一的に混練され易い。均一的に混練された樹脂混合物を用いることで、耐熱性及び外観に優れる被覆電線1が製造され易い。
【0038】
又は、未変性ポリオレフィンとして、オレフィンをベースとするポリオレフィンエラストマーを含むことが挙げられる。ポリオレフィンエラストマーは絶縁被覆3に柔軟性を付与する。ポリオレフィンエラストマーは、例えば、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)、エチレン-プロピレンゴム(EPM、EPR)、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体(EPDM、EPT)等が挙げられる。TPOは、例えば、ポリエチレン系エラストマー、ポリプロピレン系エラストマーが挙げられる。
【0039】
又は、未変性ポリオレフィンとして、上述の1種以上の重合体と、ポリオレフィンエラストマーとを含むことが挙げられる。具体例としてPEとPPエラストマーとを含むことが挙げられる。この形態におけるポリオレフィンエラストマーは、製造過程では樹脂混合物の流動性を改善すると考えられる。この形態において上記1種以上の重合体の合計含有量は、例えば25質量部以上45質量部以下が挙げられる。ポリオレフィンエラストマーの含有量は、例えば3質量部以上10質量部以下が挙げられる。
【0040】
又は、未変性ポリオレフィンとして、ブロックポリプロピレンを含むことが挙げられる。以下、ブロックポリプロピレンをブロックPPと呼ぶ。ブロックPPは、製造過程では樹脂混合物の流動性を改善すると考えられる。ブロックPPにおける流動性の改善効果は、上述のポリオレフィンエラストマーにおける流動性の改善効果より高いと考えられる。ブロックPPを含む樹脂混合物が流動性に優れることで、平滑な表面を有する絶縁被覆3が製造され易い。また、後述する試験例に示すようにブロックPPを含む樹脂混合物を用いると、ブロックPPを含まない場合に比較して、上記樹脂混合物中の水分量がある程度多くても平滑な表面を有する絶縁被覆3が製造され易い。この点から、ブロックPPを含む樹脂混合物は、平滑な表面を有する絶縁被覆3を製造可能である上記水分量の範囲が広いといえる。このような樹脂混合物は、上記水分量を調整し易い。例えば乾燥時間を短くすることができる。又は、例えば簡易な設備によって乾燥作業を行うことができる。好ましくは乾燥が不要である。過度の水分調整が不要であることから、ブロックPPを含む絶縁被覆3を備える被覆電線1は外観に優れる上に製造性にも優れる。
【0041】
又は、未変性ポリオレフィンとして、上述の1種以上の重合体と、ブロックPPとを含むことが挙げられる。具体例として、PEとブロックPPとを含むことが挙げられる。ブロックPPを含むことで、製造過程では上述のように樹脂混合物が流動性に優れる。この形態において上記1種以上の重合体の合計含有量は、例えば25質量部以上45質量部以下が挙げられる。ブロックPPの含有量は、例えば、3質量部以上10質量部以下が挙げられる。
【0042】
(C)変性ポリオレフィン
ここでの変性ポリオレフィンは、カルボキシ基、エステル基、酸無水物基、アミノ基、及びエポキシ基からなる群より選択される1種以上の官能基を有する。変性ポリオレフィンの含有量は、例えば3重量部以上15重量部以下が挙げられる。なお、シラノール誘導体が導入された変性ポリオレフィンは、(A)シラングラフトポリオレフィンに分類されるため、(C)変性ポリオレフィンに分類されない。
【0043】
変性ポリオレフィンは、樹脂成分である(A)及び(B)と、無機成分である酸化亜鉛との相溶化剤として機能する。この機能によって無機成分の分散性が高められることで、無機成分が均一的に分散された絶縁被覆3が製造され易い。結果として、耐熱性に優れる被覆電線1が製造され易い。変性ポリオレフィンにおけるポリオレフィンは、例えば(A)シラングラフトポリオレフィンにおけるポリオレフィンとして列挙した1種以上の重合体を含むことが挙げられる。
【0044】
カルボキシ基を有する重合性化合物は、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、α-クロロアクリル酸、イタコン酸、ブテントリカルボン酸、マレイン酸、フマル酸、これらを分子構造の一部に含む誘導体等が挙げられる。上記に列挙する酸が酸無水物を形成する場合には、この酸無水物によって酸無水物基を導入することができる。
【0045】
エステル基を有する重合性化合物は、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等が挙げられる。
【0046】
アミノ基を有する重合性化合物は、例えば、エステル類、ビニルアミン、アリルアミン、これらを分子構造の一部に含む誘導体等が挙げられる。
【0047】
エポキシ基を有する重合性化合物は、例えば、グリシジルエーテル類、p-グリシジルスチレン、これらを分子構造の一部に含む誘導体等が挙げられる。
【0048】
上記の官能基を有する重合性化合物と共重合可能な重合性モノマーは、官能基を有しないオレフィンモノマーと、カルボキシ基及びエポキシ基以外の官能基を有する重合性モノマーとの少なくとも一方が挙げられる。上記オレフィンモノマーは、例えば、PE、PP等が挙げられる。
【0049】
(D)難燃剤
難燃剤は、例えば金属水酸化物及び臭素系難燃剤の少なくとも一方を含むことが挙げられる。
【0050】
金属水酸化物は、単独で難燃性を付与できる、耐熱変形性に優れる、低コストであるといった効果が得られる。金属水酸化物は、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化ジルコニウム等が挙げられる。難燃剤として金属水酸化物を単独で含む場合、金属水酸化物の含有量は、例えば10重量部以上100重量部以下が挙げられる。
【0051】
臭素系難燃剤は、無機系難燃助剤と共に含むことが挙げられる。臭素系難燃剤は、例えば、フタルイミド系難燃剤、エチレンビスペンタブロモフェニル、及びエチレンビスペンタブロモフェニルの誘導体からなる群より選択される1種以上が挙げられる。上記に列挙する臭素系難燃剤は高い融点を有することで、絶縁被覆3は耐熱性に優れる。無機系難燃助剤は、例えば三酸化アンチモンが挙げられる。臭素系難燃剤のみの含有量は、例えば10質量部以上40質量部以下が挙げられる。無機系難燃助剤のみの含有量は、例えば5質量部以上20質量部以下が挙げられる。
【0052】
難燃剤として、金属水酸化物と臭素系難燃剤とを含む場合には金属水酸化物の含有量と臭素系難燃剤の含有量とは上述の範囲より少なくてよい。例えば、金属水酸化物の含有量は10質量部以上50質量部以下、臭素系難燃剤の含有量は5質量部以上20質量部以下、無機系難燃助剤の含有量は5質量部以上20質量部以下が挙げられる。
【0053】
(E)架橋触媒
架橋触媒は、(A)シラングラフトポリオレフィンをシラン架橋させるためのシラノール縮合触媒である。架橋触媒の含有量は、例えば0.01質量部以上10質量部以下が挙げられる。
【0054】
架橋触媒、例えば、金属のカルボン酸塩、チタン酸エステル、有機塩基、無機酸、有機酸等が挙げられる。より具体的には、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジマレート、ジブチル錫ビスイソオクチルチオグリコールエステル塩、ジブチル錫β-メルカプトプロピオン酸塩等の錫化合物が挙げられる。
【0055】
(F)酸化亜鉛及びイミダゾール系化合物
酸化亜鉛及びイミダゾール系化合物は、耐熱性の向上、耐長期加熱性の向上に寄与する。酸化亜鉛の含有量及びイミダゾール系化合物の含有量はそれぞれ、例えば1質量部以上15質量部以下が挙げられる。上記含有量が上記の範囲であれば、絶縁被覆3が耐熱性や耐長期加熱性に優れると共に、製造過程では酸化亜鉛及びイミダゾール系化合物が樹脂成分中に分散し易い。そのため、酸化亜鉛及びイミダゾール系化合物が均一的に分散された絶縁被覆3が製造され易い。結果として、耐熱性に優れる被覆電線1が製造され易い。
【0056】
イミダゾール系化合物は、例えばメルカプトベンゾイミダゾール(MBI)が挙げられる。特に、イミダゾール系化合物が2-メルカプトベンゾイミダゾール、又はその亜鉛塩であれば高温での安定性に優れることで、耐熱性に優れる絶縁被覆3が得られる。なお、イミダゾール系化合物は、酸化劣化ではなく、ゴム炭化水素の過酸化物分解に基づく劣化を防ぐことから老化防止剤と呼ばれる。
【0057】
(G)酸化防止剤
酸化防止剤は、例えばヒンダードフェノール系酸化防止剤が挙げられる。特に融点が200℃以上であるヒンダードフェノールが好ましい。酸化防止剤の含有量は、例えば1質量部以上10質量部以下が挙げられる。上記含有量が上記の範囲であれば、酸化防止剤に起因するブルームが抑制される。上記含有量が2質量部以上であれば、耐熱性の向上効果も期待できる。
【0058】
(H)金属不活性剤
金属不活性剤は、導体2を構成する金属と絶縁被覆3とが接触することに起因する導体2の酸化を防止する作用を有するものが挙げられる。例えば、銅不活性剤、キレート化剤等が挙げられる。具体例として、ヒドラジド誘導体、サリチル酸誘導体等が挙げられる。金属不活性剤の含有量は、例えば0.5質量部以上10質量部以下が挙げられる。上記含有量が上記の範囲であれば、金属不活性剤に起因するブルーム、架橋阻害が抑制される。また、導体2を構成する金属が銅又は銅合金である場合には銅害の防止効果が良好に得られたりする。
【0059】
(I)滑剤
滑剤は、絶縁被覆3の潤滑性を高める。上述の樹脂成分との相溶性の観点から、滑剤は、エルカ酸、オレイン酸、ステアリン酸等の脂肪酸誘導体、又はポリエチレン系ワックスが好ましい。滑剤の含有量は、例えば0.1質量部以上10質量部以下が挙げられる。
【0060】
(その他の添加剤)
その他、絶縁被覆3を構成する樹脂組成物は、耐熱性に優れると共に平滑な表面を有するという目的を阻害しない範囲で上述の成分以外の添加剤を含んでもよい。上記成分以外の添加剤は、例えば、無機フィラー、顔料、シリコーンオイル等が挙げられる。
【0061】
無機フィラーは、例えば、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム等が挙げられる。無機フィラーは、樹脂の硬度の調整に利用できる。樹脂の硬度が適切に調整されることで、絶縁被覆3は融着性、耐加熱変形特性に優れる。無機フィラーの含有量は、樹脂強度の観点から、例えば30質量部以下が挙げられる。顔料は絶縁被覆3を着色可能である。
【0062】
《表面粗さ》
実施形態の被覆電線1に備えられる絶縁被覆3は、平滑な表面を有する。定量的には絶縁被覆3の表面粗さRaは4.0μm以下である。このような実施形態の被覆電線1は平滑な外観を有する。この点から、実施形態の被覆電線1は外観に優れる。また、絶縁被覆3の外周に筒状の止水部材7(
図2)が取り付けられた場合では、止水部材7の内周面が絶縁被覆3の外表面に密着する。この密着により、絶縁被覆3の外表面と止水部材7の内周面との間に微小な隙間が生じない。そのため、毛管現象によって水が微小な隙間に浸入しない。このような実施形態の被覆電線1は止水性に優れる。更に、絶縁被覆3が平滑な表面を有することで、作業者等が被覆電線1を切断する際に絶縁被覆3からの切削屑が生じ難い。そのため、被覆電線1を切断する機械、切断された被覆電線1の端部に端子6(
図2)を取り付ける機械等の加工機械に上記切削屑が溜まり難い。結果として、上記加工機械から上記切削屑を除去する等のメンテナンスを行う回数が少ない。この点から、実施形態の被覆電線1はワイヤーハーネス5(
図2)の製造性の向上にも寄与する。
【0063】
上記表面粗さRaが小さいほど、被覆電線1は、外観、止水性、端子6の取付時の作業性に優れる。これらの効果から、上記表面粗さRaは3.0μm以下が好ましい。上記表面粗さRaは2.0μm以下がより好ましい。
【0064】
上記表面粗さRaの下限は限定されない。但し、上記表面粗さRaを可及的に小さくするためには、製造過程では樹脂混合物の水分量を可及的に少なくする必要がある。例えば乾燥時間を長くする等の過度の水分調整が必要である。製造性の点から、上記表面粗さRaは0.6μm以上でもよい。上記表面粗さRaが0.8μm以上であれば、上記乾燥時間が短くなり易い。
【0065】
上記表面粗さRaが0.6μm以上4.0μm以下、更に0.8μm以上3.0μm以下、1.0μm以上2.0μm以下であれば、外観に優れる被覆電線1が生産性良く製造される。
【0066】
《厚さ》
絶縁被覆3は導体2の外周を覆う。絶縁被覆3は、代表的には被覆電線1の軸方向の任意の位置において被覆電線1の外径が実質的に同じになるように設けられる。絶縁被覆3の厚さは、導体2の外周面と被覆電線1の外周面との間の距離に相当する。上記厚さは、使用電圧に対して所定の絶縁強度を有する範囲で適宜選択できる。例えば、自動車用途では、上記厚さは0.5mm以上2.0mm以下が挙げられる。なお、自動車用途における使用電圧のうち「高電圧」はJASO D624(JP)2015版に規定されている。「低電圧」はJASO D611(JP)2014版に規定されている。
【0067】
《外形》
被覆電線1の軸方向に直交する平面で被覆電線1を切断した場合の断面において、絶縁被覆3の外形は代表的には円形が挙げられる。この絶縁被覆3の外表面は円筒面である。
【0068】
〈導体〉
導体2を構成する金属は、例えば、純アルミニウム、アルミニウム合金、純銅、銅合金等が挙げられる。純アルミニウム又はアルミニウム合金から構成される導体2は、純銅又は銅合金から構成される導体2より軽量である、銅害を生じないといった効果を奏する。特に、アルミニウム合金から構成される導体2は、純アルミニウムから構成される導体2よりも強度や耐衝撃性等の機械的特性に優れる。純銅又は銅合金から構成される導体2は、純アルミニウム又はアルミニウム合金から構成される導体2より導電性に優れる。アルミニウム合金の組成及び銅合金の組成は公知の組成を利用できる。
【0069】
導体2は、
図1に示す撚線20、図示しない単線の金属線22、又は図示しない撚線集合体が挙げられる。撚線20は、複数の金属線22が撚り合わされてなる。撚線集合体は複数の撚線20が撚り合わされてなる。導体2は一つの撚線20を含む形態、複数の撚線20を含む形態のいずれでもよい。撚線20は、同じ断面積を有する単線の金属線よりも曲げ易いことで屈曲性に優れる。撚線集合体は、屈曲性に優れると共に大きな導体断面積を確保できる。
【0070】
本例の導体2は撚線20である。撚線20を構成する複数の金属線22のそれぞれはアルミニウム合金線である。そのため、本例の導体2は上述のように軽量である、銅害が生じない、屈曲性に優れる等の効果を有する。
【0071】
導体2の外径及び断面積は、被覆電線1の用途に応じて適宜選択できる。例えば、自動車用途では、上記断面積は3mm2以上200mm2以下が挙げられる。
【0072】
〈用途〉
実施形態の被覆電線1の用途の一例として、自動車、船舶、航空機等の搬送機器、ロボットを含むその他の機器において、電源線、情報通信線等が挙げられる。電源線は、例えば上記自動車等の搬送機器に備えられるバッテリとモータとを接続する電線である。電源線は一般に高電圧用途の電線である。情報通信線は一般に低電圧用途の電線である。高電圧用途の電線では、通電に伴って導体2がジュール熱によって発熱する。使用電流が更に増大すれば、導体2の発熱量も増大する。そのため、絶縁被覆には高い耐熱性が求められる。実施形態の被覆電線1は上述のように耐熱性に優れる絶縁被覆3を備えるため、上記電源線等の高電圧用途の電線に好適である。
【0073】
自動車用電線は、国際規格であるISO 6722において許容耐熱温度に応じてAからEまでのクラスに分類される。実施形態の被覆電線1は上述のように耐熱性に優れることから、例えば耐熱温度150℃のDクラスの特性を有することが挙げられる。
【0074】
[ワイヤーハーネス]
実施形態の被覆電線1は、代表的には被覆電線1の両端部のうち少なくとも一つの端部に端子6(
図2)が取り付けられた状態で利用される。通常、被覆電線1の両端部にそれぞれ端子6が取り付けられる。端子6が取り付けられた実施形態の被覆電線1はワイヤーハーネスに利用される。ワイヤーハーネスの一例として、単一の電線を備える形態であってこの電線が実施形態の被覆電線1である形態が挙げられる。ワイヤーハーネスの別例として、複数の電線を備える形態であって複数の電線のうち少なくとも一つが実施形態の被覆電線1である形態が挙げられる。複数の電線を備える形態は、複数の電線を束ねる部材を備えてもよい。上記束ねる部材は、例えばコルゲートチューブのような筒状の保護材、粘着テープのような結束材等が挙げられる。
【0075】
以下、
図2を参照して、実施形態のワイヤーハーネスを説明する。
実施形態のワイヤーハーネス5は、実施形態の被覆電線1と、端子6と、止水部材7とを備える。端子6は、被覆電線1の二つの端部のうち少なくとも一方の端部に取り付けられている。止水部材7は絶縁被覆3の外周に取り付けられている。端子6及び止水部材7は公知のものを利用できる。
図2は孔63を有する圧着端子を例示する。
【0076】
端子6は、代表的にはワイヤバレル部60と接続部62とを備える金具である。ワイヤバレル部60は、被覆電線1に備えられる導体2との電気的な接続箇所である。本例のワイヤバレル部60は、導体2に圧着されることで、導体2に電気的に接続されると共に機械的に接続される。接続部62は被覆電線1の接続対象との電気的な接続箇所である。被覆電線1の接続対象の図示は省略する。本例の接続部62は平板状である。また、接続部62は接続部62の表裏に貫通する孔63を備える。孔63には図示しないボルトが挿通される。ボルトによって端子6の接続部62と上記接続対象とが電気的に接続されると共に機械的に接続される。
【0077】
止水部材7は、代表的には筒状のゴム部材であって、被覆電線1の外径より小さい内径と被覆電線1の外径より大きい外径とを有する。弾性変形によって止水部材7の内径が被覆電線1の外径より広がることで、被覆電線1は止水部材7の内周を挿通できる。また、弾性収縮によって止水部材7の内径が縮まることで、止水部材7の内周面は被覆電線1の外表面に密着する。この密着により、止水部材7が被覆電線1の外周に取り付けられた状態が維持される。
【0078】
実施形態のワイヤーハーネス5は、代表的には端子6及びその近傍が図示しないコネクタのハウジングに配置された状態で利用される。止水部材7は、上記ハウジングの内周面と被覆電線1の外表面との間に配置されると共に両者に圧縮される。止水部材7は、上記の圧縮によって弾性変形することで両者に密着する。この密着により実施形態のワイヤーハーネス5は止水性に優れることで、防水用途に好適に利用できる。
【0079】
[被覆電線の製造方法]
実施形態の被覆電線1は、代表的には以下の被覆電線の製造方法によって製造することが挙げられる。この被覆電線の製造方法は、上述の(A)から(F)の成分を含む樹脂混合物を導体2の外周に押し出すことで被覆層を形成する工程と、上記被覆層を架橋する工程とを備える。上記樹脂混合物は、上記成分に加えて適宜(G)から(I)、その他の添加剤を含んでもよい。上記樹脂混合物を構成する各成分は市販品を利用できる。
【0080】
上述の樹脂混合物は、押出前において上述の成分を混練することによって得られる。混練には、公知の混練機を利用することができる。上述のように相溶性に優れる成分であれば、均一な組成の樹脂混合物が得られ易い。
【0081】
上述の樹脂混合物の製造に際して、上述の少なくとも1種の成分とバインダー樹脂とを含むバッチを利用することが挙げられる。バインダー樹脂は、例えば上述の(A)シラングラフトポリオレフィンにおけるポリオレフィンとして列挙した1種以上の重合体が挙げられる。例えば架橋触媒を含むバッチを利用する場合には、大気中の水分によってシラングラフトポリオレフィンにおけるシラン架橋反応が進行することを防止する効果が期待できる。バッチを利用する場合には、各成分の含有量が上述の範囲を満たすようにバインダー樹脂の含有量を調整するとよい。
【0082】
多段階にわたってバッチを製造することもできる。具体例として、被覆電線の製造方法は、第一のバッチを製造する工程と、上記第一のバッチを含む第二のバッチを製造する工程と、上記第二のバッチを含む第三のバッチを製造する工程とを備え、上記第三のバッチを押し出すことが挙げられる。
【0083】
上述の被覆層を架橋する工程では、架橋された絶縁被覆3の架橋度がゲル分率で50%以上となるように架橋条件を調整することが挙げられる。上記ゲル分率が高いほど、絶縁被覆3は耐熱性に優れる。耐熱性の点から、上記ゲル分率は60%以上でもよい。上記ゲル分率は、一般に架橋電線の架橋状態の指標として用いられている。上記ゲル分率は、例えばJASO D608 2013版に準拠して測定することが挙げられる。
【0084】
実施形態の被覆電線1を製造するためには、押出前の樹脂混合物に含有される水分量を調整することが挙げられる。特に、上記樹脂混合物を乾燥することで上記水分量を乾燥前より少なくすることが挙げられる。押出前の樹脂混合物の成分にもよるが、例えば上記樹脂混合物における水分率は、上記樹脂混合物を100質量%として700質量ppm以下を満たすことが挙げられる。上記水分率が上記の範囲を満たすことで、平滑な表面を有する絶縁被覆3が製造され易い。上記水分率は、500質量ppm以下、300質量ppm以下でもよい。上記水分量の調整条件は、最終的に押し出すバッチにおける水分率(質量ppm)が小さくなるように設定することが挙げられる。また、上記水分量の調整条件は、例えば絶縁被覆3の表面粗さRaを指標として設定することが挙げられる。
【0085】
上述のように多段階にバッチを製造する場合には、各バッチを乾燥する形態、又は任意の一つのバッチのみを乾燥する形態、又は任意の複数のバッチを乾燥する形態が挙げられる。乾燥を行う工程が多いほど、また乾燥時間が長いほど、上述の水分率が小さくなり易い。但し、工程数の増大及び乾燥時間の長大は、被覆電線1の製造性の低下を招く。製造性の観点から、例えば絶縁被覆3の表面粗さRaが0.6μm以上を満たすように上記水分量の調整を行うことが挙げられる。
【0086】
その他、混練条件、押出条件、架橋条件等は、公知の条件を参照することができる。
【0087】
(主な効果)
実施形態の被覆電線1は耐熱性に優れる。また、実施形態の被覆電線1は、絶縁被覆3の表面粗さRaが小さいことで平滑な表面を有する。このような実施形態の被覆電線1は外観も優れる上に止水性にも優れる。上記効果を後述する試験例で具体的に説明する。
【0088】
[試験例1]
組成が異なる複数の樹脂混合物を用いて被覆電線を製造して、各被覆電線の外観及び止水性を調べた。
【0089】
この試験では、導体の外周に樹脂混合物を押し出すことで被覆層を形成した後、被覆層を架橋することで絶縁被覆を成形した。従って、この試験で製造された被覆電線はいずれも架橋された絶縁被覆を有する。ここでの導体は複数のアルミニウム合金線から構成される撚線集合体である。
【0090】
(組成)
表1は各樹脂混合物の組成を示す。表1において各樹脂混合物を構成する各成分の含有量の単位は質量部である。ここでは組成No.1からNo.3、No.101という四種の樹脂混合物を用意した。
【0091】
組成No.1からNo.3の樹脂混合物はいずれも、(A)シラングラフトポリオレフィンと、(B)未変性ポリオレフィンと、(C)変性ポリオレフィンと、(D)難燃剤と、(E)架橋触媒と、(F)酸化亜鉛及びイミダゾール系化合物と、(G)酸化防止剤と、(H)金属不活性剤と、(I)滑剤と、(J)顔料組成物とを含む。
組成No.1からNo.3の樹脂混合物では(B)の成分が異なる。
組成No.1、No.2、及び後述する組成No.101の樹脂混合物は、成分(B)としてポリエチレン(PE)とポリプロピレンエラストマー(PPエラストマー)とを含む。組成No.1、No.2、No.101の樹脂混合物はブロックポリプロピレン(ブロックPP)を含まない。
組成No.3の樹脂混合物は、成分(B)としてPEとブロックPPとを含む。組成No.3の樹脂混合物はPPエラストマーを含まない。
組成No.101の樹脂混合物は、成分(A)から成分(E)と成分(G)から成分(J)とを含む。組成No.101の樹脂混合物は成分(F)を含まない。
【0092】
上述の各成分の原料は以下の市販品を用いた。
(A)シラングラフトポリオレフィンの原料は、シラングラフトポリエチレンとバインダー樹脂であるポリエチレンとを含むバッチを用いた。このバッチは三菱ケミカル株式会社製、SH700Nであり、表1では「シラングラフトポリエチレンバッチ」と示す。
(B)PEは、ダウエラストマー社製、エンゲージENR7256.02である。ここでのPEはベースポリマであり、表1では「ベースPE」と示す。
組成No.1に用いたPPエラストマーは、サンアロマー株式会社製、Q200Fである。
組成No.2,No.101に用いたPPエラストマーは、日本ポリプロ社製、ニューコンNAR6である。
組成No.3に用いたブロックPPは、日本ポリプロ株式会社製、EG7Fである。
(C)変性ポリオレフィンは、マレイン酸変性ポリエチレンである三菱ケミカル株式会社製、モディックM512である。
【0093】
(D)難燃剤は金属水酸化物である。具体的な難燃剤は水酸化マグネシウムである協和化学工業株式会社製、キスマ5である。
(E)架橋触媒の原料は、錫化合物を1質量部未満含むと共に残部がバインダー樹脂であるバッチを用いた。バインダー樹脂はポリエチレンである。このバッチは三菱ケミカル株式会社製、LZ015Hである。
(F)酸化亜鉛は、ハクスイテック株式会社製の亜鉛華1種である。イミダゾール系化合物は、2-メルカプトベンゾイミダゾールである川口化学工業株式会社製、アンテージMBである。
【0094】
(G)酸化防止剤は、ヒンダードフェノール系酸化防止剤であるBASFジャパン株式会社製、Irganox1010である。
(H)金属不活性剤は、ヒドラジド誘導体である株式会社ADEKA製、CDA-1である。
(I)滑剤は、エルカ酸アミドである日油株式会社製、アルフローP10である。
(J)顔料組成物は、顔料を1質量部含むと共に残部がバインダー樹脂であるバッチを用いた。バインダー樹脂はポリエチレンである。このバッチは、市販のカラーバッチである。
【0095】
この試験では多段階にわたってバッチを製造した。組成No.1からNo.3の樹脂混合物については、第一のバッチと第二のバッチと第三のバッチとを順に製造した。第一のバッチは、成分(B)と成分(C)と成分(F)とを含むと共に表1に記載される残りの成分を含まない。第二のバッチは、上記第一のバッチと成分(D)と成分(G)と成分(H)と成分(I)とを含むと共に表1に記載される残りの成分を含まない。第三のバッチは、上記第二のバッチと成分(A)と成分(E)と成分(J)とを含む。つまり第三のバッチは表1に記載される全ての成分を含む。
【0096】
組成No.1からNo.3の樹脂混合物では、上述の第二のバッチに含まれる水分量を調整した。ここでは第二のバッチの水分率(質量ppm)を測定した後に第二のバッチを乾燥させる時間を変化させることで、上記水分率を変化させた。乾燥時間が長いほど、乾燥作業前の状態に比較して上記水分率が小さくなる。上記水分率の測定には、例えばカールフィッシャー法を用いることが挙げられる。また、上記水分率の測定には市販の水分率測定装置を用いることができる。なお、上記第二のバッチに含まれる水分は上記第二のバッチが吸湿することに起因する。そのため、周囲環境等によっては、乾燥作業前の状態において上記水分量が少ない場合が有る。この場合には乾燥時間が短くてよい。又は、乾燥作業が不要な場合がある。
【0097】
組成No.101の樹脂混合物では、以下の第四のバッチと第五のバッチとを順に製造した。第四のバッチは、成分(B)と成分(C)と成分(D)と成分(G)と成分(H)と成分(I)とを含むと共に表1に記載される残りの成分を含まない。つまり第四のバッチの成分は上述の第二のバッチから成分(F)を除いた成分である。第五のバッチは第四のバッチと成分(A)と成分(E)と成分(J)とを含む。つまり第五のバッチは成分(F)を除いて表1に記載される全ての成分を含む。
【0098】
【0099】
(外観)
〈表面粗さ〉
上述の各樹脂混合物を用いて製造された各試料の被覆電線について、絶縁被覆の表面粗さRa(μm)を測定した。測定結果を表2から表4に示す。表面粗さRaは算術平均粗さである。表面粗さRaは、JIS B 0601:2013に準拠して市販の表面粗さ測定機を用いて測定した。
【0100】
〈光沢、ざらつき〉
各試料の被覆電線について、絶縁被覆の光沢・凹凸の有無と絶縁被覆のざらつきの有無とによって外観の良否を評価した。上記光沢・凹凸の有無の確認は、絶縁被覆を目視確認することによって行った。上記ざらつきの有無の確認は、作業者が素手の人差し指で絶縁被覆を触ることによって行った。評価は、予め定めた基準品と各試料における絶縁被覆とを対比することによって以下のように行った。評価結果を表2から表4に示す。
【0101】
上記基準品は、組成No.3の樹脂混合物を用いて製造された複数の被覆電線から任意に選択された一つの被覆電線である。上記基準品に備えられる絶縁被覆の表面粗さRaは3.5μmであった。
【0102】
《光沢・凹凸の評価》
評価がVery Goodとは、各試料における絶縁被覆の光沢が基準品より優れると共に目視では凹凸の確認が困難であることを意味する。
評価がGoodとは、各試料における絶縁被覆の光沢が基準品と同等であると共に目視では凹凸の確認が困難であることを意味する。
評価がBadとは、各試料における絶縁被覆の光沢が基準品より劣ると共に目視では凹凸の確認が困難であることを意味する。
評価がVery Badとは、各試料における絶縁被覆の光沢が基準品より劣ると共に目視で凹凸を確認できることを意味する。
【0103】
《ざらつきの評価》
評価がVery Goodとは、各試料における絶縁被覆のざらつきが基準品より少ない状態であり、基準品より優れていることを意味する。
評価がGoodとは、各試料における絶縁被覆のざらつきが基準品と同等であることを意味する。
評価がBadとは、各試料における絶縁被覆のざらつきが基準品より大きい状態であり、基準品より劣ることを意味する。
評価がVery Badとは、各試料における絶縁被覆のざらつきが基準品より明らかに劣ることを意味する。このざらつきは、試験者が絶縁被覆に触った際に試験者が痛みを感じる場合がある程度の大きなざらつきである。
【0104】
(止水性)
各試料の被覆電線について、絶縁被覆と止水部材であるゴム栓との境界から水が浸入することの有無によって止水性の良否を評価した。ここではIEC 60529:2001に基づいて試験を行って、IP等級3の防水性能を満たすか否かを評価した。評価結果を表2から表4に示す。
評価がGoodとは、上記境界からの浸入がないこと、即ちIP等級3の防水性能を満たすことを意味する。
評価がBadとは、上記境界からの浸入が有ること、即ちIP等級3の防水性能を満たさないことを意味する。
【0105】
【0106】
【0107】
【0108】
以下、試料No.1からNo.8の被覆電線を特定電線群と呼ぶ。試料No.51からNo.56の被覆電線を比較電線群と呼ぶ。
表2から表4に示すように、特定電線群は光沢を有することから外観に優れる。また、特定電線群は止水性も優れる。更に、特定電線群はざらつきを生じるような凹凸もない。この点から、作業者は特定電線群を取り扱い易い。
【0109】
比較電線群は、光沢を有しておらず外観に劣る。また、比較電線群は止水性も劣る。更に、比較電線群は、ざらつきを生じるような凹凸が有る被覆電線を含む。この点から、作業者は比較電線群の取り扱いに注意を要する。
【0110】
上記の結果が得られた理由の一つとして、絶縁被覆の表面粗さRaの相違が考えられる。特定電線群における絶縁被覆の表面粗さRaは4.0μm以下である。上記表面粗さRaが小さいほど、光沢が有る上にざらつきがない。外観及び止水性の観点から、上記表面粗さRaは3.5μm以下、更に3.0μm以下、2.5μm以下が好ましい。また、(B)未変性ポリオレフィンがブロックPPを含むと、PPエラストマーを含む場合よりも上記表面粗さRaが小さくなり易い。この点から、ブロックPPは、製造過程において樹脂混合物の流動性の改善効果がPPエラストマーに比較して大きいと考えられる。また、ブロックPPを含む樹脂混合物を用いることで、平滑な表面を有する絶縁被覆が形成され易いと考えられる。
【0111】
試料No.111の被覆電線は、絶縁被覆の表面粗さRaが小さいことで外観及び止水性に優れる。しかし、試料No.111の被覆電線は特定電線群より耐熱性に劣る。試料No.111の被覆電線の耐熱性はISO 6722に規定される耐熱温度120℃のCクラスである。これに対し、特定電線群の耐熱性はISO 6722に規定される耐熱温度150℃のDクラスである。特定電線群が耐熱性に優れる理由の一つとして、絶縁被覆を構成する樹脂組成物が成分(F)を含むことが挙げられる。別の理由の一つとして、上記樹脂組成物が成分(G)を試料No.111よりも多く含むことが挙げられる。
【0112】
次に、絶縁被覆の表面粗さRaに相違が生じる原因について検討結果を説明する。
まず、特定電線群と試料No.111の被覆電線との比較から、成分(F)の有無が上記表面粗さRaに影響を与えると考えられる。樹脂混合物に含まれるイミダゾール化合物及び酸化亜鉛は粉末であることから、樹脂混合物の流動性を低下させ易い。樹脂混合物における流動性の低下がメルトフラクチャー等を生じさせる要因になったと考えられる。
【0113】
次に、特定電線群と比較電線群とを比較する。両者は成分(F)を含む点で共通する。しかし、両者の絶縁被覆の表面粗さRaが異なる。この相違の理由の一つとして、製造過程における樹脂混合物に含まれる水分率(質量ppm)の相違が考えられる。表2から表4に示す水分率(質量ppm)は、上述の第二のバッチに対する上記第二のバッチに含まれる水分の質量割合である。ここでは上記第二のバッチの水分率(質量ppm)が小さいほど、上記表面粗さRaが小さい。なお、上述の第三のバッチを押し出す直前において上述の第二のバッチにおける水分量の絶対値(グラム)が実質的に変化しない場合がある。又は上記水分量の絶対値(グラム)の増加が少ない場合がある。上記場合には上記第三のバッチの水分率(質量ppm)は上記第二のバッチの水分率(質量ppm)よりも小さい。押出直前の樹脂混合物である第三のバッチの水分率(質量ppm)がより小さいことで、表面粗さに対する水分の影響がより小さくなり易いと期待される。ひいては、表面粗さRaがより小さい被覆電線が製造され易い。
【0114】
表2,表3に示すように組成No.1からNo.4の樹脂混合物では、上記第二のバッチの水分率が400質量ppm以下であれば、上記表面粗さRaが4.0μm以下である。
【0115】
表4に示すように、組成No.3の樹脂混合物では、上記第二のバッチの水分率が750質量ppm未満であれば、上記表面粗さRaが4.0μm以下である。上記水分率が700質量ppm以下であれば、より確実に上記表面粗さRaが4.0μm以下を満たす。組成No.3の樹脂混合物は、組成No.1からNo.4の樹脂混合物に比較して、上記第二のバッチの水分率が高くても上記表面粗さRaが小さい絶縁被覆を製造できる。この点から、組成No.3における上記第二のバッチの乾燥時間は組成No.1からNo.4における上記乾燥時間より短くてよい。又は、組成No.3では、乾燥を省略できる場合がある。この結果から、樹脂混合物がブロックポリオレフィンを含む場合における上記乾燥時間は、ポリオレフィンエラストマーを含む場合における上記乾燥時間よりも短くなり易いといえる。
【0116】
なお、表4から、上述の基準品の製造に用いた第二のバッチの水分率は600質量ppm程度であったと推定される。
【0117】
各試料の被覆電線について、被覆電線の軸方向に直交する平面で切断した断面をとり、上記断面を観察した。比較電線群では、絶縁被覆に気泡が認められた。また、絶縁被覆の外表面に近い領域では、絶縁被覆において導体に近い内部に比較して気泡が多かった。このように比較電線群では、絶縁被覆における内部と外表面側の領域とで気泡の分布状態に明確な相違があった。これに対し、特定電線群では、気泡が実質的に認められなかった、又は気泡の分布状態の相違が実質的に認められなかった。特定電線群では、上述のように水分量が少ないことで、気泡が絶縁被覆の外表面側に少ない又は実質的に存在しないことからも、絶縁被覆が平滑な表面を有し易かったと考えられる。
【0118】
以上のことから、絶縁被覆が特定の樹脂組成物から構成されると共に絶縁被覆の表面粗さRaが4.0μm以下である被覆電線は、耐熱性に優れる上に外観も優れることが示された。また、上記の被覆電線は止水性に優れることも示された。更に、このような被覆電線は、原料に特定の組成の樹脂混合物を利用すると共に樹脂混合物の水分量を少なくすることで製造できることが示された。
【0119】
本発明は、これらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
例えば、試験例1において、絶縁被覆の原料に用いられる樹脂混合物の成分の種類、含有量を適宜変更することができる。例えば、試験例1の樹脂混合物は顔料を含まなくてもよい。
【符号の説明】
【0120】
1 被覆電線
2 導体、20 撚線、22 金属線
3 絶縁被覆
5 ワイヤーハーネス
6 端子、60 ワイヤバレル部、62 接続部、63 孔
7 止水部材