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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-24
(45)【発行日】2024-05-07
(54)【発明の名称】車両用バッテリ固定構造
(51)【国際特許分類】
   B60R 16/04 20060101AFI20240425BHJP
   B62D 25/08 20060101ALI20240425BHJP
【FI】
B60R16/04 D
B62D25/08 E
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020202777
(22)【出願日】2020-12-07
(65)【公開番号】P2022090394
(43)【公開日】2022-06-17
【審査請求日】2023-09-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【弁理士】
【氏名又は名称】徳本 浩一
(74)【代理人】
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】多田 樹生
【審査官】浅野 麻木
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-168910(JP,A)
【文献】特開2017-124663(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0366702(US,A1)
【文献】中国実用新案第201703333(CN,U)
【文献】特開2019-014274(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 16/04
B62D 25/08
H01M 50/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前部空間に搭載されるバッテリが載置されるバッテリトレイと、該バッテリトレイを、車両前後方向に延びるサイドメンバの車両上方に間隔を空けて固定する固定部と、を備え、該固定部が、前記サイドメンバの後端部の車幅方向外側に隣接するストラットタワーよりも車両前方に配置されている車両用バッテリ固定構造において、
前記固定部は、前記バッテリトレイの車両前後方向で前側部分を固定する前側固定部と、前記バッテリトレイの車両前後方向で中央部分を固定する中央固定部と、前記バッテリトレイの車両前後方向で後側部分を固定する後側固定部と、前記前側固定部および前記中央固定部に連接する連接部と、を有し、
前記前側固定部は、前記ストラットタワーの車両前方に位置し且つ前記サイドメンバの車幅方向外側に隣接するフロントエプロンパネルに対して、該フロントエプロンパネルの前端部よりも車両前方に配置されており、
前記中央固定部は、前記フロントエプロンパネルの前端部よりも車両後方に配置されており、
前記連接部は、前記サイドメンバの車両上方および前記バッテリトレイの車両下方の両方に間隔を空けて配置されている、
ことを特徴とする車両用バッテリ固定構造。
【請求項2】
前記中央固定部は、車両上下方向で、前記バッテリトレイの側に配置される上側ブラケットと、前記サイドメンバの側に配置される下側ブラケットと、を有し、
前記上側ブラケットは、車両前方視で車両上方に開口したU字形状に形成され、開口側の両端部が前記バッテリトレイの前記中央部分に接合されており、
前記下側ブラケットは、少なくとも、車両上下方向に延びる立面部と、該立面部の上端部分から車両前方に延びる平面部と、を有し、前記立面部の下端部分が前記サイドメンバに接合されるとともに、前記平面部が前記上側ブラケットのU字形状の底部に固定されており、
前記連接部は、前記下側ブラケットの前記平面部の前端部分に連続して形成され、該前端部分から車両前方に延びて前記前側固定部に接合されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の車両用バッテリ固定構造。
【請求項3】
前記バッテリトレイと前記中央固定部との固定箇所のうちの少なくとも一部は、車両上方視で、前記バッテリトレイと前記前側固定部との固定箇所、および、前記バッテリトレイと前記後側固定部との固定箇所に対して、車幅方向外側にオフセットされていることを特徴とする請求項1または2に記載の車両用バッテリ固定構造。
【請求項4】
前記上側ブラケットは、U字形状の開口側の両端部のうち、車幅方向内側に位置する端部が前記バッテリトレイの底部下面に接合され、車幅方向外側に位置する端部が前記バッテリトレイの車幅方向外側に位置する側壁面に接合されていることを特徴とする請求項2に記載の車両用バッテリ固定構造。
【請求項5】
前記バッテリトレイに載置された前記バッテリを前記バッテリトレイに係止して保持するバッテリ保持具を備え、
前記バッテリトレイの車幅方向外側に位置する側壁面には、前記上側ブラケットの車幅方向外側に位置する端部が接合されている箇所に隣接する部分に、前記バッテリ保持具が係止される被係止部が設けられていることを特徴とする請求項4に記載の車両用バッテリ固定構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用バッテリ固定構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両に搭載されるバッテリは、例えば、パワーユニットが搭載されるエンジンルーム等の車両前部空間に取り付けられている。重量のあるバッテリには、車両の旋回時や制動時に比較的大きな荷重がかかる。このため、車両前部空間において十分な剛性を持つ車体フレームにバッテリを固定する構造が広く採用されている。例えば、特許文献1には、フロントサイドフレームの上方、且つダンパハウジングの車幅方向内側の側方にバッテリを支持するための構造が開示されている。
【0003】
上記特許文献1のバッテリ支持構造では、バッテリがバッテリ受け部に載置され、該バッテリ受け部の車体前後方向の後部の車幅方向の外側が、ダンパハウジング補強部材に固定された第1支持部材(吊り下げ支持部)によって吊り下げ支持されるとともに、前記後部の車幅方向の内側が、フロントサイドフレームに固定された第2支持部材(後脚部)によって支持される。また、バッテリ受け部の車体前後方向の前部の車幅方向の内側が、フロントサイドフレームに固定された第3支持部材(前脚部)によって支持されるとともに、前記前部の車幅方向の外側が、第4支持部材(マウント部材連結部)によって支持される。第4支持部材は、エンジンまたはトランスミッションのマウント部材を介して側壁補強部材に接続固定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-14274号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、車両前部空間には多数の機器が配置されるため、各々の機器を限られたスペースに効率良く配置する必要がある。この際、バッテリに接続する電気ケーブルの取り回しのために、バッテリの下方に空間を確保することが必要になる場合がある。この場合、バッテリを車体フレームの上方に間隔を空けて固定し、バッテリと車体フレームとの間に確保された空間を通して電気ケーブルの配線が可能となるような構造が求められる。このようなバッテリ固定構造では、車体フレームから離れた位置にバッテリを固定するために腕の長い部材を用いることが必要になるので、剛性の低下を抑えることが重要な課題の一つとなる。
【0006】
前述した特許文献1のバッテリ支持構造は、バッテリ受け部が第1支持部材によってフロントサイドフレームの上方の位置に吊り下げ支持されており、バッテリ受け部とフロントサイドフレームとの間に空間を確保可能な構造になっている。しかしながら、この従来構造では、バッテリ受け部の車体前後方向の前部と後部が骨格部材(車体フレーム)に支持されているだけであるため、車両の旋回時などにバッテリにかかる荷重によるバッテリ受け部の変形を十分に抑えることが難しく、剛性の確保という点で、改善の余地があった。
【0007】
本発明はこのような実状に鑑みてなされたものであって、その目的は、バッテリと車体フレームの間に空間を確保しつつ、高い剛性を確保してバッテリを安定に固定できる車両用バッテリ固定構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明は、車両前部空間に搭載されるバッテリが載置されるバッテリトレイと、該バッテリトレイを、車両前後方向に延びるサイドメンバの車両上方に間隔を空けて固定する固定部と、を備え、該固定部が、前記サイドメンバの後端部の車幅方向外側に隣接するストラットタワーよりも車両前方に配置されている車両用バッテリ固定構造を提供する。この車両用バッテリ固定構造において、前記固定部は、前記バッテリトレイの車両前後方向で前側部分を固定する前側固定部と、前記バッテリトレイの車両前後方向で中央部分を固定する中央固定部と、前記バッテリトレイの車両前後方向で後側部分を固定する後側固定部と、前記前側固定部および前記中央固定部に連接する連接部と、を有している。前記前側固定部は、前記ストラットタワーの車両前方に位置し且つ前記サイドメンバの車幅方向外側に隣接するフロントエプロンパネルに対して、該フロントエプロンパネルの前端部よりも車両前方に配置されており、前記中央固定部は、前記フロントエプロンパネルの前端部よりも車両後方に配置されており、前記連接部は、前記サイドメンバの車両上方および前記バッテリトレイの車両下方の少なくとも一方に間隔を空けて配置されている。
【発明の効果】
【0009】
上記のような本発明に係る車両用バッテリ固定構造では、固定部の前側固定部、中央固定部および後側固定部によって、バッテリトレイの車両前後方向の前側部分、中央部分および後側部分がそれぞれ固定されるようになる。これにより、前述した従来構造のように車体前後方向の前部と後部だけを固定する場合と比べて剛性を高めることができる。また、前側固定部および中央固定部に連接する連接部を設けたことで、車両の旋回時などに前側固定部および中央固定部にそれぞれ伝えられる荷重が連接部を介して前側固定部と中央固定部で分担して受けられるようになるので、該荷重によるバッテリトレイの変形の影響を緩和することができる。したがって、バッテリとサイドメンバ(車体フレーム)の間に空間を確保しつつ、高い剛性を確保してバッテリを安定に固定できる車両用バッテリ固定構造を実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係る車両用バッテリ固定構造により車両前部空間に固定されたバッテリおよびその周辺構造を車両の斜め前方から見た斜視図である。
図2図1のバッテリおよびその周辺構造を車両右方から見た側面図である。
図3図1のバッテリおよびその周辺構造を車両上方から見た平面図である。
図4図1のバッテリおよびその周辺構造を車両左方から見た側面図である。
図5図1のバッテリおよびバッテリトレイを取り外した状態を拡大して車両の斜め前方から見た斜視図である。
図6図1のバッテリおよびバッテリトレイを取り外した状態を拡大して車両の斜め後方から見た斜視図である。
図7図1のバッテリを取り外した状態を拡大して車両上方から見た平面図である。
図8図7のバッテリトレイを取り外した状態を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態について添付図面を参照しながら詳細に説明する。
図1図8は、本発明の一実施形態に係る車両用バッテリ固定構造を示すものである。なお、図において、矢印Fr方向は車両前後方向で車両前方を示し、矢印R方向は車幅方向で車両右側を示し、矢印U方向は車両上下方向で車両上方を示している。実施形態の説明における「左右」は、車両室内から前方を見たときの左右に対応している。
【0012】
本実施形態に係る車両用バッテリ固定構造1は、図1図8に示すように、バッテリ2が載置されるバッテリトレイ10と、該バッテリトレイ10をサイドメンバ3の車両上方に間隔を空けて固定する固定部20と、を備えている。バッテリ2は、車両のパワーユニットが搭載されるエンジンルームやモータルーム等の車両前部空間Eに搭載されるものであり、例えば、補機用バッテリなどの一般的な車両用バッテリである。車両前部空間Eの後端部には、ダッシュパネル4が配置されており、該ダッシュパネル4によって車両前部空間Eと車室Rとが区画されている(図1)。
【0013】
車両前部空間Eの左右には、車両前後方向に延びる一対のサイドメンバ3が設けられている。本実施形態では、左側のサイドメンバ3の車両上方にバッテリ2が配置される一例について説明する。ただし、右側のサイドメンバ3の車両上方にバッテリ2を配置する場合にも同様にして対応することが可能である。サイドメンバ3の後端部には、車幅方向外側に隣接してストラットタワー5が設けられている。
【0014】
ストラットタワー5は、図示しない車輪を懸架するサスペンションのばね、およびショックアブソーバからなる弾発装置を収納しており、ストラットタワー5の下部側にはホイールハウスが配置されている。ストラットタワー5の車幅方向内側に位置する壁面5aの下端部には、サイドメンバ3の車幅方向外側に形成されているフランジ部3aがスポット溶接等によって接合されている。ストラットタワー5の車両前方には、フロントエプロンパネル6が設けられている。
【0015】
フロントエプロンパネル6は、サイドメンバ3の車幅方向外側に隣接し、車両前後方向に延びて立設されている。フロントエプロンパネル6は、車両側方視で略三角形状に形成されている。フロントエプロンパネル6には、後端部から車幅方向内側に突出した後側フランジ部6aが形成されており、この後側フランジ部6aがストラットタワー5の前部側壁面5bにスポット溶接等によって接合されている。フロントエプロンパネル6の下端部には、サイドメンバ3の車幅方向外側に形成されているフランジ部3aがスポット溶接等によって接合されている。
【0016】
また、フロントエプロンパネル6には、前側縁部に沿って補強構造部6bが形成されている。補強構造部6bの後端側部分は、ストラットタワー5の車幅方向外側を通り、車室Rの側面に配置されているダッシュサイドパネル7まで延出して、ダッシュサイドパネル7の外側面の前端上部に接合されている(図1)。補強構造部6bの前端側部分には、サイドメンバ3のフランジ部3aが接合されている。
【0017】
サイドメンバ3のストラットタワー5よりも車両前方に位置する部分には、固定部20が配置されている。この固定部20は、図5図8に示すように、前側固定部21、中央固定部22、後側固定部23および連接部24を有している。前側固定部21は、バッテリトレイ10の車両前後方向で前側部分を固定する。中央固定部22は、バッテリトレイ10の車両前後方向で中央部分を固定する。後側固定部23は、バッテリトレイ10の車両前後方向で後側部分を固定する。連接部24は、前側固定部21および中央固定部22に連接している。
【0018】
具体的に、前側固定部21は、車幅方向に延びる上面部21aと、この上面部21aの前後端縁部から下方に延び、車両前後方向に対向する一対の側壁面21b,21cと、を有している。前側固定部21は、上面部21aおよび一対の側壁面21b,21cにより横断面コ字状に形成されている。上面部21aには、バッテリトレイ10の前側部分を取り付けてボルト等で固定するための複数の孔が形成されている。
【0019】
前側固定部21の一対の側壁面21b,21cのうち、車両前側に位置する側壁面21bには、下端部から車両前側に突出した前側フランジ部21dが形成されている。また、車両後側に位置する側壁面21cには、下端部から車両後側に突出した後側フランジ部21eが形成されている。前側フランジ部21dおよび後側フランジ部21eは、サイドメンバ3の上面部3bと車幅方向内側の側面部3cとにスポット溶接等によってそれぞれ接合されている。このようにしてサイドメンバ3に接合された前側固定部21は、フロントエプロンパネル6の前端部6cよりも車両前方に配置されている。さらに、一対の側壁面21b,21cは、車幅方向外側に位置する各端部が互いの側に屈曲しており、各々の先端部分が重ね合わされてスポット溶接等によって接合されている(図4)。
【0020】
中央固定部22は、フロントエプロンパネル6の前端部6cよりも車両後方に配置されており、車両上下方向で、バッテリトレイ10の側に配置される上側ブラケット25と、サイドメンバ3の側に配置される下側ブラケット26と、を有している。
【0021】
上側ブラケット25は、図5および図6等に示すように、車両前方視で車両上方に開口したU字形状に形成されている。この上側ブラケット25は、開口側の両端部25a,25bがバッテリトレイ10の車両前後方向で中央部分に固定されているとともに、U字形状の底部25cが下側ブラケット26に固定されている。具体的に、上側ブラケット25の開口側で車幅方向内側に位置する端部25aには、車幅方向内側に突出したフランジ部が形成されており、該フランジ部がバッテリトレイ10の底部10aの下面にスポット溶接等によって接合されている。また、上側ブラケット25の開口側で車幅方向外側に位置する端部25bは、U字形状の側壁の内側上端部分がバッテリトレイ10の車幅方向外側に位置する側壁面10bにスポット溶接等によって接合されている(図4)。つまり、上側ブラケット25は、バッテリトレイ10の底部10aと車幅方向外側の側壁面10bとを挟むように固定されている。なお、内側の端部25aと同様に、外側の端部25bにも車幅方向外側に突出したフランジ部が形成されているが、該フランジ部はバッテリトレイ10との接合には用いられていない。さらに、上側ブラケット25の底部25cには、下側ブラケット26をボルト等で固定するための孔が形成されている。
【0022】
下側ブラケット26は、図2図5および図6等に示すように、少なくとも、車両上下方向に延びる立面部26aと、該立面部26aの上端部分から車両前方に延びる平面部26bと、を有している。立面部26aの下端部分は、サイドメンバ3に固定されている。平面部26bは、上側ブラケット25のU字形状の底部25cに固定されている。本実施形態における下側ブラケット26は、例えば、車両側方視でL字形状に形成されている。ただし、下側ブラケット26はL字形状に限定されるものではなく、立面部26aおよび立面部26aに加えて、平面部26bの前端部分から車両下方に延びて下端部分がサイドメンバ3に固定されるもう一つの立面部を有するΠ字形状に形成されていてもよい。具体的に、L字形状の下側ブラケット26における立面部26aの下端部には、車両後方側に突出した下側フランジ部26cが形成されている。この立面部26aの下側フランジ部26cは、サイドメンバ3の上面部3bと車幅方向内側の側面部3cとにスポット溶接等によって接合されている。また、立面部26aの車幅方向外側の端部には、車両後方側に突出した外側フランジ部26dが形成されている。立面部26aの外側フランジ部26dは、サイドメンバ3のフランジ部3aに、フロントエプロンパネル6の下端部との3枚重ねでスポット溶接等によって接合されている。下側ブラケット26の平面部26bには、上側ブラケット25をボルト等で固定するための孔が形成されている。平面部26bの車幅方向外側の端部には、車両上方側に突出した外側フランジ部26eが形成されている。平面部26bの外側フランジ部26eは、フロントエプロンパネル6の補強構造部6bに接合されている。平面部26bの前端部分には、車両前後方向に延びる連接部24が連続して形成されている。
【0023】
連接部24は、下側ブラケット26の平面部26bの前端部分から車両前方に延びて前側固定部21の車両後側に位置する側壁面21cに接合されている。本実施形態では、連接部24と下側ブラケット26とが一体に成形されている。具体的に、連接部24は、下側ブラケット26の平面部26bの前端部から一定の横幅で車両前方に延びており、連接部24の前端部分には、車両上方に突出したフランジ部24aが形成されている(図6)。この連接部24のフランジ部24aは、前側固定部21の側壁面21cにスポット溶接等によって接合されている。本実施形態において連接部24は、サイドメンバ3の上面部3bに対して概ね平行に設けられており、サイドメンバ3の車両上方およびバッテリトレイ10の車両下方の両方に間隔を空けて配置されている。これにより、サイドメンバ3と連接部24との間の空間、およびバッテリトレイ10と連接部24との間の空間をそれぞれ通して、バッテリ2に接続する図示しない電気ケーブルの配線を行うことが可能である。
【0024】
後側固定部23は、中央固定部22よりも車両後方に配置されており、サイドメンバ3におけるフロントエプロンパネル6の後部側に隣接する部分に設けられている。サイドメンバ3の当該部分には、図示しないエンジンを搭載するためのエンジンマウント8が配置されている。このエンジンマウント8は、サイドメンバ3の上面部3bに固定されている基部8aと、該基部8aに固定され車幅方向内側に突出したエンジン搭載部8bと、を有している。後側固定部23は、エンジンマウント8の基部8aの周囲を覆うカバー部9を介してサイドメンバ3に固定されている。
【0025】
カバー部9は、エンジンマウント8の基部8aの前方、上方および後方を囲むように設けられ、車両側方視で中空の楕円状に形成されている筒部材9aを有している。筒部材9aの外側面下部には、車両前方、車両後方および車両下方に延びる第1固定部材9bが溶接されている。この第1固定部材9bは、サイドメンバ3の上面部3bと車幅方向内側の側面部3cとにボルト等で固定されている。また、筒部材9aの外側面後部および第1固定部材9bの後側上部には、車両後方視で下方側に開口したコ字状の第2固定部材9cが溶接されている。この第2固定部材9cの上面部は、前端部分から車両前方に延出し、筒部材9aの外側面頂部の位置で車幅方向外側に屈曲してフロントエプロンパネル6に向けて延びるL字形状部分を有している。このL字形状部分は、筒部材9aの外側面頂部に溶接されている。L字形状部分の先端はフロントエプロンパネル6に沿って車両上方に曲げられており、この先端の部分がボルト等でフロントエプロンパネル6に固定されている。このように、カバー部9の筒部材9aは、第1固定部材9bおよび第2固定部材9cによってサイドメンバ3およびフロントエプロンパネル6に固定されており高い剛性を有している。
【0026】
後側固定部23は、カバー部9の筒部材9aの外側面前部に固定されている。具体的に、後側固定部23は、車幅方向に延びる上面部23aと、この上面部23aの前後端縁部から下方に延び、車両前後方向に対向する一対の側壁面23b,23cと、を有している。後側固定部23は、上面部23aおよび一対の側壁面23b,23cにより横断面コ字状に形成されている。上面部23aには、バッテリトレイ10の後側部分を取り付けてボルト等で固定するための孔が形成されている。一対の側壁面23b,23cの各下端部は、カバー部9の筒部材9aの外側面前部にそれぞれ溶接されている。したがって、後側固定部23は、カバー部9を介してサイドメンバ3およびフロントエプロンパネル6に固定されている。
【0027】
バッテリトレイ10は、上記のような前側固定部21、中央固定部22および後側固定部23に取り付けられている。バッテリトレイ10の底部10aには、図7に示すように、車両前後方向へ延び車両下方に凹んだ溝部10dが設けられている。この溝部10dは、車両上方視で、前側部分が2つに分岐した略Y字形状に形成されている。溝部10dの分岐した前側部分には孔10eがそれぞれ設けられている。これら前側部分の2つの孔10eは、前側固定部21の上面部21aに形成されている複数の孔のうちの2つの孔とボルト等で固定される。また、溝部10dの後側部分にも孔10fが設けられている。この後側部分の孔10fは、後側固定部23の上面部23aに形成されている孔とボルト等で固定される。さらに、バッテリトレイ10の底部10aにおける車両前後方向の中央部分で車幅方向外側(溝部10cの脇)にも孔10gが設けられている。この中央部分の孔10gは、バッテリトレイ10に接合された上側ブラケット25の底部25cを下側ブラケット26の平面部26bにボルト等で固定する際に、該ボルト等にアクセスするために利用される。
【0028】
ここで、バッテリトレイ10と、前側固定部21、中央固定部22および後側固定部23との固定箇所の位置関係について図8を参照しながら説明する。
図8は、バッテリ2およびバッテリトレイ10を取り外した状態を車両上方から見た平面図である。図中の二点鎖線は、バッテリトレイ10の固定位置に対応した仮想線であり、×印は、バッテリトレイ10と、前側固定部21、中央固定部22および後側固定部23との固定箇所を示している。
【0029】
図8に示すように、バッテリトレイ10と前側固定部21との固定箇所は、前側固定部21の上面部21aに形成されている複数の孔のうちの2つの孔に対応している。また、バッテリトレイ10と後側固定部23との固定箇所は、後側固定部23の上面部23aに形成されている孔に対応している。これら前側の固定箇所および後側の固定箇所に対して、バッテリトレイ10と中央固定部22との固定箇所のうちの少なくとも一部は、車両上方視で車幅方向外側にオフセットされている。すなわち、バッテリトレイ10と中央固定部22とは、中央固定部22を構成する上側ブラケット25の開口側の両端部25a,25bの2箇所で固定されている。これらの固定箇所のうち、上側ブラケット25の車幅方向外側の端部25bに対応した固定箇所は、前側固定部21の2つの孔に対応した固定箇所よりも車幅方向で外側にあると同時に、後側固定部23の孔に対応した固定箇所よりも車幅方向で外側にある。このように中央固定部22(上側ブラケット25)との固定箇所が車幅方向外側にオフセットされていることにより、バッテリ2にかかる荷重によりバッテリトレイ10に発生し得る捩じれや曲げ変形に対する剛性が高められている。
【0030】
バッテリ2は、図1図4に示すように、バッテリトレイ10の底部10a上に車両後側へ寄せた状態で載置され、バッテリ保持具30を使用してバッテリトレイ10に固定されている。バッテリ保持具30は、バッテリバンド31と、一対の固定ボルト32と、を有している。バッテリバンド31は、バッテリ2の上面中央部に載せて車両幅方向へ架け渡すことによって、バッテリ2の上面を支持するように構成されている。一対の固定ボルト32は、バッテリ2の固定時、車両上下方向に沿って配置されるJ字形状の長尺ボルトである。各固定ボルト32の上部には、ナットと螺合するネジ部がそれぞれ形成されており、各々のネジ部にバッテリバンド31の両端部が組み付けられる。各固定ボルト32の下部には、下端を斜め上方へ屈曲させたフック部がそれぞれ形成されている。
【0031】
バッテリトレイ10の車幅方向外側に位置する側壁面10bには、図4に示すように、バッテリ保持具30の車幅方向外側に配置される固定ボルト32のフック部が係止される被係止部10hが形成されている。この被係止部10hは、バッテリトレイ10の側壁面10bにおいて、上側ブラケット25の開口側で車幅方向外側に位置する端部25bが固定されている箇所に隣接する部分に設けられている。当該部分に被係止部10hを配置することで被係止部10hの強度が高められている。また、バッテリトレイ10の車幅方向内側に位置する側壁面10cには、図2に示すように、バッテリ保持具30の車幅方向内側に配置される固定ボルト32のフック部が係止される被係止部10iが形成されている。
【0032】
したがって、バッテリトレイ10に載置したバッテリ2をバッテリ保持具30で固定する際には、一対の固定ボルト32のフック部をバッテリトレイ10の各被係止部10h,10iにそれぞれ係止し、該各固定ボルト32のネジ部に、バッテリ2の上面に架け渡したバッテリバンド31の両端部を組み付けてナットを螺合することで、バッテリ2がバッテリトレイ10に固定されるようになる。
【0033】
以上説明したように本実施形態の車両用バッテリ固定構造1では、固定部20の前側固定部21、中央固定部22および後側固定部23により、バッテリトレイ10の車両前後方向の前側部分、中央部分および後側部分がそれぞれ固定されるようになる。これにより、上述した従来構造のように車体前後方向の前部と後部だけを固定する場合と比べて剛性を高めることができる。また、前側固定部21および中央固定部22に連接する連接部24を設けたことで、車両の旋回時などに前側固定部21および中央固定部22にそれぞれ伝えられる荷重が連接部24を介して前側固定部21と中央固定部22で分担して受けられるようになる。本実施形態において前側固定部21および中央固定部22は、フロントエプロンパネル6の前端部6cよりも前方および後方にそれぞれ配置されており、サイドメンバ3上で剛性の異なる位置に設けられている。このような配置であっても連接部24により前側固定部21および中央固定部22の間で荷重が伝達されるので、該荷重によるバッテリトレイ10の変形の影響を緩和することができる。したがって、バッテリ2とサイドメンバ3の間に空間を確保しつつ、高い剛性を確保した構造によってバッテリ2を安定に固定することが可能である。
【0034】
また、本実施形態の車両用バッテリ固定構造1では、中央固定部22が上側ブラケット25および下側ブラケット26を有し、上側ブラケット25が車両前方視で車両上方に開口したU字形状に形成され、下側ブラケット26が車両側方視でL字形状に形成されている。このように上側ブラケット25のU字形状と下側ブラケット26のL字形状とが互いの向きを90度相違させて配置されていることにより、車両前後方向および車幅方向のいずれの方向からの荷重に対しても中央固定部22の剛性を確保することができる。さらに、本実施形態においては、連接部24が、下側ブラケット26の平面部26bの前端部分に連続して形成され、該前端部分から車両前方に延びて前側固定部21に接合されている。これにより、前側固定部21および中央固定部22の間に位置し且つサイドメンバ3およびバッテリトレイ10の間に位置する空間を電気ケーブルの取り回しのために効率良く活用することができる。
【0035】
また、本実施形態の車両用バッテリ固定構造1において、バッテリトレイ10と中央固定部22との固定箇所のうちの少なくとも一部(上側ブラケット25の車幅方向外側の端部25bに対応した固定箇所)は、車両上方視で、バッテリトレイ10と前側固定部21との固定箇所、および、バッテリトレイ10と後側固定部23との固定箇所に対して、車幅方向外側にオフセットされている。これにより、車両の旋回時などにバッテリ2にかかる荷重によってバッテリトレイ10に発生し得る捩じれや曲げ変形を抑えることができ、バッテリ2の固定構造の剛性をより高めることが可能になる。
【0036】
また、本実施形態の車両用バッテリ固定構造1において、上側ブラケット25は、U字形状の開口側の両端部25a,25bのうち、車幅方向内側の端部25aがバッテリトレイ10の底部10aの下面に接合され、車幅方向外側の端部25bがバッテリトレイ10の車幅方向外側の側壁面10bに接合されている。このようにバッテリトレイ10の底部10aと側壁面10bとを挟むように上側ブラケット25が固定されていることによって、バッテリトレイ10の中央部分の変形を効果的に抑えることができる。これにより、バッテリトレイ10での振動等の発生を低減することが可能になる。
【0037】
また、本実施形態の車両用バッテリ固定構造1において、バッテリトレイ10の車幅方向外側の側壁面10bには、上側ブラケット25の車幅方向外側の端部25bが接合されている箇所に隣接する部分に、バッテリ保持具30(具体的には、車幅方向外側に配置される固定ボルト32のフック部)が係止される被係止部10hが設けられている。このように上側ブラケット25の接合箇所と被係止部10hとが隣接していることで、被係止部10hの強度を向上させることができる。このため、バッテリ保持具30によってバッテリ2をバッテリトレイ10により安定して固定することが可能になる。
【0038】
以上、本発明の実施形態について述べたが、本発明は既述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて各種の変形及び変更が可能である。例えば、既述の実施形態では、中央固定部22が上側ブラケット25および下側ブラケット26を有する一例を示したが、1つのブラケットにより中央固定部22が構成されるようにしてもよい。また、下側ブラケット26と連接部24とが一体に成形される場合を説明したが、下側ブラケット26とは別部材の連接部24により、前側固定部21および中央固定部22を繋ぐようにすることも可能である。
【0039】
さらに、既述の実施形態では、下側ブラケット26がサイドメンバ3およびフロントエプロンパネル6に接合される場合を説明したが、下側ブラケット26をサイドメンバ3だけに固定するようにしても構わない。ただし、下側ブラケット26をフロントエプロンパネル6にも固定しておくことでより高い剛性を実現することが可能である。
【符号の説明】
【0040】
1…車両用バッテリ固定構造
2…バッテリ
3…サイドメンバ
4…ダッシュパネル
5…ストラットタワー
6…フロントエプロンパネル
6c…前端部
7…ダッシュサイドパネル
8…エンジンマウント
9…カバー部
10…バッテリトレイ
10a…底部
10b,10c…側壁面
10h,10i…被係止部
20…固定部
21…前側固定部
22…中央固定部
23…後側固定部
24…連接部
25…上側ブラケット
25a…車幅方向内側の端部
25b…車幅方向外側の端部
25c…底部
26…下側ブラケット
26a…立面部
26b…平面部
30…バッテリ保持具
31…バッテリバンド
32…固定ボルト
E…車両前部空間
R…車室
図1
図2
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図5
図6
図7
図8