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特許7478373堆積物微生物燃料電池を用いた底質改善方法及び底質改善装置
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  • 特許-堆積物微生物燃料電池を用いた底質改善方法及び底質改善装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-24
(45)【発行日】2024-05-07
(54)【発明の名称】堆積物微生物燃料電池を用いた底質改善方法及び底質改善装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 11/04 20060101AFI20240425BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20240425BHJP
   H01M 8/16 20060101ALI20240425BHJP
   H01M 8/04 20160101ALI20240425BHJP
【FI】
C02F11/04 Z ZAB
C12M1/00 A
H01M8/16
H01M8/04 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021214629
(22)【出願日】2021-12-28
(65)【公開番号】P2023098103
(43)【公開日】2023-07-10
【審査請求日】2022-11-21
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 第55回日本水環境学会年会(2020年度)講演集にて公開
(73)【特許権者】
【識別番号】591065549
【氏名又は名称】福岡県
(74)【代理人】
【識別番号】100120086
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼津 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100090697
【弁理士】
【氏名又は名称】中前 富士男
(74)【代理人】
【識別番号】100176142
【弁理士】
【氏名又は名称】清井 洋平
(72)【発明者】
【氏名】松木 昌也
(72)【発明者】
【氏名】平川 周作
【審査官】山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-175058(JP,A)
【文献】国際公開第2019/181281(WO,A1)
【文献】特開2017-183011(JP,A)
【文献】特開2015-210968(JP,A)
【文献】特開2020-174665(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 11/00-11/20
C12M 1/00- 3/10
H01M 8/00-8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
底質改善の対象となる閉鎖性水域の底質に埋設されるアノードと、該アノードと電気的に接続され前記底質の上方の直上水中に設置されるカソードとを有し、前記底質に含まれる有機物が該底質中の微生物に分解されて生じる電子が、前記アノードを通って前記カソードに移動することにより発電を行う堆積物微生物燃料電池を用いた底質改善方法において、
1又は複数の前記堆積物微生物燃料電池で発電される電力を蓄電し、昇圧しながら断続的にモータ駆動式の曝気用ポンプの駆動に必要な電力を供給して、該曝気用ポンプにより前記カソードが設置される前記直上水を間欠的に曝気して該直上水の溶存酸素濃度を上昇させ、前記底質を改善することを特徴とする堆積物微生物燃料電池を用いた底質改善方法。
【請求項2】
請求項1記載の堆積物微生物燃料電池を用いた底質改善方法において、前記曝気用ポンプによる曝気で前記直上水の溶存酸素濃度を2mg/L以上に上昇させることを特徴とする堆積物微生物燃料電池を用いた底質改善方法。
【請求項3】
底質改善の対象となる閉鎖性水域の底質に埋設されるアノードと、該アノードと電気的に接続され前記底質の上方の直上水中に設置されるカソードとを有し、前記底質に含まれる有機物が該底質中の微生物に分解されて生じる電子が、前記アノードを通って前記カソードに移動することにより発電を行う堆積物微生物燃料電池を用いた底質改善装置において、
1又は複数の前記堆積物微生物燃料電池を有する発電部と、複数のコンデンサを有する充放電昇圧部と、モータ駆動式の曝気用ポンプと、前記充放電昇圧部を制御する制御部とを備え、該制御部は、前記発電部による前記充放電昇圧部への充電と、前記充放電昇圧部による前記曝気用ポンプへの放電を切替えて、前記曝気用ポンプの駆動に必要な電力を断続的に供給し、該曝気用ポンプにより前記カソードが設置される前記直上水を間欠的に曝気して該直上水の溶存酸素濃度を上昇させ、前記底質を改善することを特徴とする堆積物微生物燃料電池を用いた底質改善装置。
【請求項4】
請求項3記載の堆積物微生物燃料電池を用いた底質改善装置において、前記充放電昇圧部は、充電時に前記各コンデンサを1又は複数の前記各堆積物微生物燃料電池に接続し、放電時に前記各コンデンサを1又は複数の前記堆積物微生物燃料電池から切り離して複数の該コンデンサを直列接続する切替手段を有し、前記制御部は、所定の時間間隔で前記切替手段を動作させて前記充電と前記放電の切替えを行う自動スイッチング回路を備えていることを特徴とする堆積物微生物燃料電池を用いた底質改善装置。
【請求項5】
請求項4記載の堆積物微生物燃料電池を用いた底質改善装置において、前記自動スイッチング回路は、充放電時間設定手段を有し、該充放電時間設定手段で設定される充電時間と放電時間に従って前記切替手段による前記充電と前記放電の切替えが行われることを特徴とする堆積物微生物燃料電池を用いた底質改善装置。
【請求項6】
請求項5記載の堆積物微生物燃料電池を用いた底質改善装置において、前記充放電時間設定手段は、可変抵抗を有し、該可変抵抗の抵抗値が変更されることにより、前記充電時間と前記放電時間が調整されることを特徴とする堆積物微生物燃料電池を用いた底質改善装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物の有機物代謝を利用することにより、追加エネルギーを必要とすることなく、効率的に底質改善を行うことができる堆積物微生物燃料電池を用いた底質改善方法及び底質改善装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水が交換され難い湖沼及び港湾等の閉鎖系又は半閉鎖系水域(以下、これらをまとめて閉鎖性水域という)では、流れ込んだ産業排水及び生活排水に含まれる有機物が堆積してヘドロになると、栄養塩を放出して、アオコの大量発生及び硫化水素の生成による青潮の発生等を引き起こすという問題があった。そして、これらの有害物及び悪臭の発生並びに水中の溶存酸素の低下等は、水生生物の生育及び周辺住民の生活環境に対して悪影響を与えるため、閉鎖性水域の環境改善が求められてきた。しかし、堆積したヘドロ(底質)を取り除く浚渫工事に手間と費用がかかるだけでなく、残土の処分も問題となっている。そこで、環境負荷が少なく、低コストで底質環境を改善することができる技術が求められており、自然界に存在する微生物を活性化させて堆積したヘドロを生物学的に分解する方法が注目されている。例えば、堆積物微生物燃料電池(Sediment Microbial Fuel Cells、以下、SMFCともいう)を含む微生物燃料電池は、底質中の嫌気性発電細菌による有機物分(ヘドロ等)の分解(代謝)で生じた電子が、底質中に設置したアノード(負極)を経由して、水中に設置したカソード(正極)に移動し、水中の溶存酸素と反応することで発電する技術である。このように、微生物燃料電池は、底質のヘドロを分解、浄化する一方で電力も発生させることができるため、次世代の閉鎖性水域の環境改善技術として期待されており、特許文献1及び特許文献2に示すような改善提案が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-168560号公報
【文献】特開2018-12086号公報
【文献】特開2016-175058号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1は、底質に配置される第1の電極(アノード)と外部回路で電気的に接続される第2の電極(カソード)を水深の異なる位置に複数配置することや、縦長に形成することにより、第1の電極の上方の水深の異なる位置にある第2の電極において、水素イオン、電子及び酸素の反応を行わせ、水素イオンを効率よく捕捉し、水深や環境変化に応じて異なる水中の溶存酸素を効率的に利用して水生成反応を促進し、底質改善の能力向上及び安定化を図ろうとするものである。しかし、水中の溶存酸素量は限られているため、第2の電極の数を増やすことや、面積を拡大することだけでは底質改善の能力向上に限界があり、特に貧酸素環境では十分な底質改善効果が得られないという課題がある。
また、特許文献2は、光照射体を用いて底泥に光照射を行うことにより、藻類の繁殖を促し、藻類の光合成によって、水底周辺の貧酸素環境を改善しようとするものであるため、藻類が十分に繁殖するまでに時間がかかり、その間は、貧酸素環境を改善することができないという課題がある。さらに、貧酸素環境の改善を藻類の光合成に頼っているため、貧酸素環境の改善具合が藻類の繁殖状況によって左右され、改善効果が安定しないという課題もある。
一方、特許文献3には、ヘドロ浄化処理施設において、生物燃料電池で発電した電力でポンプを駆動し、ポンプの吐出側配管に配設した微細気泡発生装置から溶存酸素供給対象水域(水層中)に酸素を供給(吐出)して曝気を行う曝気装置及び曝気方法が提案されている。しかし、生物燃料電池は発電量が少なく、これまでの研究は消費電力の少ないセンサーへの利用を検討したものがほとんどである。つまり、ただ単に生物燃料電池にポンプを接続するだけではポンプの駆動に十分な電力を供給することは困難であり、例え駆動できたとしても一時的なものに過ぎず、長時間にわたってポンプを駆動し続けることは不可能である。従って、微細気泡発生装置の動作が安定せず、供給できる酸素量が限られ、広範囲の閉鎖性水域の底質を継続して安定的に改善することはできない。そこで、特許文献3では、生物燃料電池で発電した直流を蓄電器に充電すると共に放電する充放電制御装置を用いることが記載されているが、例え、一旦、蓄電器に充電してから放電するとしても、絶え間なく放電し続ければ、いずれは放電量が充電量に追いつき、電力を供給できなくなるため、充放電制御及び運転方法に何らかの工夫が必要である。しかし、特許文献3には、充放電制御装置の具体的な構成及び動作について記載されておらず、どのようにして安定した(継続的な)曝気を行い、底質改善を実現するのか不明である。また、生物燃料電池(堆積物微生物燃料電池)の電圧は低く昇圧も不可欠であるが、特許文献3では昇圧についても記載されていない。
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、堆積物微生物燃料電池由来の電力を有効活用し、底質改善の対象となる閉鎖性水域に安定的に酸素を供給して溶存酸素濃度を高めることにより、堆積物微生物燃料電池の動作を安定させると共に、広範囲の閉鎖性水域の底質を確実かつ効率的に改善することができる実用性及び省エネルギー性に優れた堆積物微生物燃料電池を用いた底質改善方法及び底質改善装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記第1の目的に沿う本発明に係る堆積物微生物燃料電池を用いた底質改善方法は、底質改善の対象となる閉鎖性水域の底質に埋設される第1の電極(アノード)と、該第1の電極と電気的に接続され前記底質の上方の直上水中に設置される第2の電極(カソード)とを有し、前記底質に含まれる有機物が該底質中の微生物に分解されて生じる電子が、前記第1の電極を通って前記第2の電極に移動することにより発電を行う堆積物微生物燃料電池を用いた底質改善方法において、
1又は複数の前記堆積物微生物燃料電池で発電される電力を蓄電し、昇圧しながら断続的にモータ駆動式の曝気用ポンプに供給して、該曝気用ポンプにより前記直上水を間欠的に曝気する。
【0006】
第1の発明に係る堆積物微生物燃料電池を用いた底質改善方法において、前記曝気用ポンプによる曝気で前記直上水の溶存酸素濃度を2mg/L以上に上昇させることが好ましい。
【0007】
前記第2の目的に沿う本発明に係る堆積物微生物燃料電池を用いた底質改善装置は、底質改善の対象となる閉鎖性水域の底質に埋設される第1の電極(アノード)と、該第1の電極と電気的に接続され前記底質の上方の直上水中に設置される第2の電極(カソード)とを有し、前記底質に含まれる有機物が該底質中の微生物に分解されて生じる電子が、前記第1の電極を通って前記第2の電極に移動することにより発電を行う堆積物微生物燃料電池を用いた底質改善装置において、
1又は複数の前記堆積物微生物燃料電池を有する発電部と、複数のコンデンサを有する充放電昇圧部と、モータ駆動式の曝気用ポンプと、前記充放電昇圧部を制御する制御部とを備え、該制御部は、前記発電部による前記充放電昇圧部への充電と、前記充放電昇圧部による前記曝気用ポンプへの放電を切替えて、前記曝気用ポンプにより前記直上水を間欠的に曝気する。
【0008】
第2の発明に係る堆積物微生物燃料電池を用いた底質改善装置において、前記充放電昇圧部は、充電時に前記各コンデンサを1又は複数の前記堆積物微生物燃料電池に接続し、放電時に前記各コンデンサを1又は複数の前記堆積物微生物燃料電池から切り離して複数の該コンデンサを直列接続する切替手段を有し、前記制御部は、所定の時間間隔で前記切替手段を動作させて前記充電と前記放電の切替えを行う自動スイッチング回路を備えていることが好ましい。
【0009】
第2の発明に係る堆積物微生物燃料電池を用いた底質改善装置において、前記自動スイッチング回路は、充放電時間設定手段を有し、該充放電時間設定手段で設定される充電時間と放電時間に従って前記切替手段による前記充電と前記放電の切替えが行われることがさらに好ましい。
【0010】
第2の発明に係る堆積物微生物燃料電池を用いた底質改善装置において、前記充放電時間設定手段は、可変抵抗を有し、該可変抵抗の抵抗値が変更されることにより、前記充電時間と前記放電時間が調整されてもよい。
【発明の効果】
【0011】
第1の発明に係る堆積物微生物燃料電池を用いた底質改善方法は、1又は複数の堆積物微生物燃料電池で発電される電力を蓄電、昇圧しながら断続的にモータ駆動式の曝気用ポンプに供給して、曝気用ポンプにより直上水を間欠的に曝気することにより、堆積物微生物燃料電池で発電される電力を有効利用して底質改善を確実かつ効率的に行うことができ、省エネルギー性に優れる。
【0012】
第2の発明に係る堆積物微生物燃料電池を用いた底質改善装置は、制御部で、発電部による充放電昇圧部への充電と、充放電昇圧部による曝気用ポンプへの放電を切替えることにより、発電部の堆積物微生物燃料電池で発電される電圧が小さくても、充放電昇圧部を充電し、昇圧して使用することにより、曝気用ポンプの駆動に必要な電力を供給することができ、追加エネルギーを必要とすることなく、曝気用ポンプで直上水を間欠的に曝気して直上水の溶存酸素濃度を上昇させ、栄養塩の溶出抑制効果を高めて、低コストで効率的に底質改善を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施の形態に係る堆積物微生物燃料電池を用いた底質改善方法における堆積物微生物燃料電池の構成を示す模式正面図である。
図2】本発明の一実施の形態に係る堆積物微生物燃料電池を用いた底質改善装置の充電時の動作を示す回路図である。
図3】同堆積物微生物燃料電池を用いた底質改善装置の放電時の動作を示す回路図である。
図4】同堆積物微生物燃料電池を用いた底質改善装置の制御部の構成を示す回路図である。
図5】(A)、(B)はそれぞれ同堆積物微生物燃料電池を用いた底質改善装置における堆積物微生物燃料電池の電極間電圧の時間変化を示すグラフ及び曝気用ポンプを駆動するモータに印加される電圧の時間変化を示すグラフである。
図6】同堆積物微生物燃料電池を用いた底質改善装置が適用された閉鎖性水域における直上水の溶存酸素濃度の時間変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
図1に示すように、本発明の一実施の形態に係る堆積物微生物燃料電池を用いた底質改善方法(以下、単に底質改善方法ともいう)における堆積物微生物燃料電池10は、底質改善の対象となる閉鎖性水域11の底質12に埋設される第1の電極(アノード)14と、第1の電極14と電気的に接続され底質12の上方の直上水15中に設置される第2の電極(カソード)16とを有し、底質12に含まれる有機物が底質12中の微生物(嫌気性微生物)に分解されて生じる電子が、第1の電極14を通って第2の電極16に移動することにより発電を行うものである。
【0015】
第1の電極14と第2の電極16は、例えば、チタン、鉄、ステンレス等の導電性を有する電気接続線18で接続されており、堆積物微生物燃料電池10で発電される電力は、曝気用ポンプ19を駆動するためのモータ(直流モータ、図示せず)に供給可能である。しかし、堆積物微生物燃料電池10で発電される電圧は小さく、曝気用ポンプ19(モータ)を安定して連続的に駆動することはできない。
そこで、本発明に係る底質改善方法では、複数の堆積物微生物燃料電池10で発電される電力を蓄電し、昇圧しながら断続的にモータ駆動式の曝気用ポンプ19に供給して、曝気用ポンプ19により直上水15を間欠的に曝気する。特に、曝気用ポンプ19による曝気で直上水15の溶存酸素濃度(DO)を2mg/L以上に上昇させることにより、栄養塩の溶出抑制効果を高めて、効率的に底質改善を行うことができる。
【0016】
第1の電極14の材料としては、金属材料及び炭素材料等の導電材料が用いられるが、微生物による有機物の分解で生じる電子を受け取ることができるものであれば特に限定されない。具体的には、金属材料として、鉄、ステンレス、チタン、アルミニウム、銅、白金等が用いられ、炭素材料として、グラファイト、炭素繊維等が用いられる。図1では、第1の電極14を四角形の平板状としたが、第1の電極の形態は、特に限定されるものではなく、メッシュ状、格子状、ブロック状、多孔質状等の様々な形態から選択され、外形も四角形に限らず、円形、多角形、その他の各種形状から適宜、選択される。なお、第1の電極が炭素繊維で形成される場合は、カーボンクロス、カーボンマット、カーボンフェルト、カーボンペーパー等を第1の電極として用いることができる。
第2の電極16の材料としては、第1の電極14の材料と同様のものが用いられるが、電気伝導度が高く、腐食し難い炭素材料が好適に用いられる。また、第2の電極の形態として、第1の電極の形態と同様のものが用いられるが、上記の形態は、屈曲又は湾曲されてもよいし、表面に凹凸が形成されてもよい。
【0017】
続いて、図2及び図3に示す本発明の一実施の形態に係る堆積物微生物燃料電池を用いた底質改善装置(以下、単に底質改善装置ともいう)20について説明する。この例では底質改善装置20は、複数(ここでは7つ)の堆積物微生物燃料電池10を有する発電部21、複数(ここでは7つ)のコンデンサ22を有する充放電昇圧部23、モータ駆動式の曝気用ポンプ19、及び充放電昇圧部23を制御する制御部25を備えている。そして、制御部25が、発電部21による充放電昇圧部23(各コンデンサ22)への充電と、充放電昇圧部23による曝気用ポンプ19への放電(電力供給)を切替えて、曝気用ポンプ19により直上水15を間欠的に曝気する構成となっている。
つまり、複数の堆積物微生物燃料電池10が発電した電力で複数のコンデンサ22を所定時間充電して十分な電力を蓄電し、昇圧してから放電することにより、モータの稼動電圧以上の電圧をモータに印加して曝気用ポンプ19を所定時間駆動することが可能となり、充電と放電が繰り返されることにより、直上水15の曝気が間欠的(断続的)に行われることになる。この曝気は、図1に示すように、曝気用ポンプ19の吐出口に接続された吐出管26の先側(出口)が直上水15の中に挿入され、空気(酸素)が吹き込まれることにより行われる。
【0018】
以下、底質改善装置20の詳細を説明する。
充放電昇圧部23は、充電時に、図2に示すように、各コンデンサ22を各コンデンサ22に対応する各堆積物微生物燃料電池10にそれぞれ接続し、放電時に、図3に示すように、各コンデンサ22を各堆積物微生物燃料電池10から切り離して複数(全て)のコンデンサ22を直列接続する切替手段27を有している。そして、制御部25は、所定の時間間隔で切替手段27を動作させて充電と放電の切替えを行う。ここで、発電部21(各堆積物微生物燃料電池10)と充放電昇圧部23(各コンデンサ22)の間には充電用回路28が設けられ、充放電昇圧部23(各コンデンサ21)と曝気用ポンプ19の間には放電用回路29が設けられている。従って、充電時は、切替手段27で充電用回路28が選択されることにより、各コンデンサ22が充電用回路28を介して各コンデンサ22に対応する各堆積物微生物燃料電池10にそれぞれ接続され、各コンデンサ22が独立して各堆積物微生物燃料電池10で充電される(複数のコンデンサ22が並列して充電される)。また、放電時は、切替手段27で放電用回路29が選択されることにより、複数(全て)のコンデンサ22が放電用回路29を介して直列に接続され、昇圧された状態で曝気用ポンプ19(モータ)への放電が行われる。なお、図2及び図3では、制御部25と切替手段27を接続する信号線(配線)を省略した。
【0019】
切替手段27には、リレースイッチ(スイッチング素子の一例)30が使用され、制御部25は、図4に示す非安定マルチバイブレータ回路を用いて、所定の時間間隔で切替手段27を動作させて充電と放電の切替えを行う自動スイッチング回路31及び自動スイッチング回路31を作動させるための電源32を備えている。自動スイッチング回路31は、充放電時間設定手段33を有し、この充放電時間設定手段33で設定される充電時間と放電時間に従って切替手段27による充電と放電の切替えが行われる。具体的には、充放電時間設定手段33は、可変抵抗34を有し、その可変抵抗34の抵抗値が変更されることにより、充電時間と放電時間がそれぞれ調整されるものが好適に用いられるが、これに限定されることなく、適宜、選択される。なお、切替手段の構成は、本実施の形態に限定されるものではなく、適宜、選択される。また、制御部(自動スイッチング回路)の構成も、本実施の形態に限定されるものではなく、切替手段、充電用回路及び放電用回路の構成等に応じて、適宜、選択される。
【0020】
本実施の形態では、1台の底質改善装置において、7つの堆積物微生物燃料電池に対応させて7つのコンデンサを用いた場合について説明したが、堆積物微生物燃料電池の数は、適宜、選択することができ、十分な電極面積を確保することができれば1つでもよい。また、コンデンサは昇圧のために複数であればよく、堆積物微生物燃料電池の数と同数である必要はなく、その数は、適宜、選択される。さらに、充電時の堆積物微生物燃料電池とコンデンサとの接続方法は、堆積物微生物燃料電池及びコンデンサのそれぞれの数に応じて、適宜、選択され、例えば複数のコンデンサを1つの堆積物微生物燃料電池で充電してもよいし、複数のコンデンサのそれぞれを複数の堆積物微生物燃料電池で充電してもよい。
【実施例
【0021】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実験結果について説明する。
(実施例1)
図2図4に示した底質改善装置20につき性能評価を行った。本実施例では、図1に示した閉鎖性水域11の状態を再現するために、横幅30cm×奥行き17cm×高さ25cmの水槽を使用し、その中に、富栄養化した池から採取した底質12を高さ10cmまで敷き詰め、その上に、直上水15として、同じ池から採取した表層水を水深10cm(水槽の底から高さ20cmの位置)まで充填した。なお、実験中に蒸発で減少する直上水15は蒸留水で補充した。第1の電極14として、4cm×10cmの7枚のカーボンフェルトを5cm置きに底質12に埋め込んだ。また、第2の電極16として、8cm×10cm(第1の電極14の2倍の面積)の7枚のカーボンフェルトを直上水15の中(第1の電極14の上方)に並べた。このとき、第2の電極16の上部が直上水15の水面から出るようにした。そして、第1の電極14と、対となる第2の電極16を、ステンレス線を用いた電気接続線18で1枚ずつ接続して7つの堆積物微生物燃料電池10を構成し、発電部21とした(図2図3参照)。また、充放電昇圧部23(切替手段27)、制御部25(自動スイッチング回路31)、充電用回路28、放電用回路29等のその他の構成は底質改善装置20(図2図4参照)と同様とした。
【0022】
以上のように構成された底質改善装置20(堆積物微生物燃料電池10)を約3ヶ月馴化した後、動作確認を行った。なお、直上水15の水温は、外部電力で駆動されるヒーターにより26℃に調整した。
本実施例では、図4に示す制御部25(非安定マルチバイブレータ回路を用いた自動スイッチング回路31)の充放電時間設定手段33(可変抵抗34)で、充電(待機)時間を約88秒、放電(曝気)時間を約1秒に調整し、充電と放電を繰り返し行った。このときの各堆積物微生物燃料電池10の電極間電圧及び曝気用ポンプ19を駆動するモータに印加される電圧をそれぞれ電圧ロガーにより1秒間隔で測定した結果を図5(A)、(B)に示す。なお、図5(A)は、7つの堆積物微生物燃料電池10の電極間電圧の代表値を示している。
【0023】
図5(A)から、各堆積物微生物燃料電池10に接続されたコンデンサ22が、徐々に充電され一気に放電するサイクルを約1.5分周期で安定して繰り返していることがわかる。また、図5(B)から、充電中は、曝気用ポンプ19を駆動するモータに電圧は印加されず、約1.5分周期で訪れる放電のタイミングで、モータの稼動電圧(ここでは1.5V)以上の電圧がモータに印加されていることがわかる。
従って、本発明に係る底質改善装置20によれば、制御部25で、発電部21による充放電昇圧部23への充電と、充放電昇圧部23による曝気用ポンプ19への放電を切替えることにより、発電部21の各堆積物微生物燃料電池10の発電量が少なくても、充放電昇圧部23を充電して、曝気用ポンプ19の駆動に必要な電力を蓄電することができ、追加エネルギーを必要とすることなく、曝気用ポンプ19を安定して断続的(間欠的)に駆動できることが確認された。
【0024】
(実施例2)
次に、底質改善装置20による底質改善効果を確認するために、実施例1と同様の構成及び条件で底質改善装置20が稼動している場合と稼動していない場合(非稼動の場合)のそれぞれの直上水15の溶存酸素濃度(DO)の変化を調べた。ロガー付きDOメーターを用いて直上水15の溶存酸素濃度(DO)を約1時間置きに測定した結果を図6に示す。本実施例では、底質改善装置20を3日間稼動後、4日間非稼動とし、再び3日間稼動後に非稼動とした。
図6から、底質改善装置20の稼動中は、直上水15のDOが徐々に増加して、栄養塩の溶出抑制に効果が見られる2mg/L以上に達し、底質改善装置20の非稼動中は、直上水15のDOが徐々に低下する傾向を示すことがわかる。
従って、本発明に係る底質改善方法及び底質改善装置20によれば、曝気用ポンプ19により直上水15を間欠的に曝気して直上水15の溶存酸素濃度を上昇させることができ、栄養塩の溶出抑制効果を高めて、低コストで効率的に底質改善が可能であることが確認された。この底質改善装置20の構成をスケールアップすることにより、実際の閉鎖性水域における栄養塩の溶出を広範囲にわたって抑制することができるものと考えられる。
【0025】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。
底質改善の対象となる閉鎖性水域の水は淡水でも海水でもよい。1台の底質改善装置で使用される第1、第2の電極の数、大きさ及び配置は、適宜、選択される。また、一箇所の閉鎖性水域に設置される底質改善装置の数及び配置は、閉鎖性水域の広さ及び環境(汚染状況等)に応じて、適宜、選択される。曝気用ポンプが間欠運転される時間間隔も適宜、選択される。
【符号の説明】
【0026】
10:堆積物微生物燃料電池、11:閉鎖性水域、12:底質、14:、第1の電極、15:直上水、16:第2の電極、18:電気接続線、19:曝気用ポンプ、20:底質改善装置、21:発電部、22:コンデンサ、23:充放電昇圧部、25:制御部、26吐出管、27:切替手段、28:充電用回路、29:放電用回路、30:リレースイッチ、31:自動スイッチング回路、32:電源、33:充放電時間設定手段、34:可変抵抗
図1
図2
図3
図4
図5
図6