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特許7478374電磁波シールド材及びこれを備える信号処理ユニット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-24
(45)【発行日】2024-05-07
(54)【発明の名称】電磁波シールド材及びこれを備える信号処理ユニット
(51)【国際特許分類】
   H05K 9/00 20060101AFI20240425BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20240425BHJP
   C08K 5/098 20060101ALI20240425BHJP
   C08L 23/02 20060101ALI20240425BHJP
   C08L 83/04 20060101ALI20240425BHJP
   C08L 91/06 20060101ALI20240425BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20240425BHJP
【FI】
H05K9/00 W
C08K3/04
C08K5/098
C08L23/02
C08L83/04
C08L91/06
C08L101/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019546052
(86)(22)【出願日】2019-06-06
(86)【国際出願番号】 JP2019022505
(87)【国際公開番号】W WO2019235561
(87)【国際公開日】2019-12-12
【審査請求日】2022-04-12
【審判番号】
【審判請求日】2023-07-20
(31)【優先権主張番号】P 2018109081
(32)【優先日】2018-06-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】506083903
【氏名又は名称】株式会社新日本電波吸収体
(73)【特許権者】
【識別番号】591183153
【氏名又は名称】トーヨーカラー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591048508
【氏名又は名称】伊藤忠ケミカルフロンティア株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000108720
【氏名又は名称】株式会社タケチ
(74)【代理人】
【識別番号】100166372
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 博明
(72)【発明者】
【氏名】荻野 哲
(72)【発明者】
【氏名】増田 佳介
(72)【発明者】
【氏名】西内 正樹
【合議体】
【審判長】篠塚 隆
【審判官】山澤 宏
【審判官】富澤 哲生
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-144000(JP,A)
【文献】特開2009-19204(JP,A)
【文献】特表2013-519745(JP,A)
【文献】特開2018-137326(JP,A)
【文献】特開2019-197822(JP,A)
【文献】国際公開第2015/064708(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 9/00
C08L101/00
C08K 3/04
C08L 91/06
C08K 5/098
C08L 23/02
C08L 83/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主成分となる樹脂と、
電磁波の反射損失の絶対値が大きくなることに寄与する前記樹脂に含有される電磁波遮蔽物質1と、
電磁波の透過損失の絶対値が大きくなることに寄与する前記樹脂に含有される電磁波遮蔽物質2と、
を含む、電磁波シールド材であって、
前記各電磁波遮蔽物質(ただし、銀微粒子で焼結されていない)を前記樹脂に対して分散させる分散剤を含み、
その厚さが2mmである場合に、75GHz~110GHzの周波数帯域全体に亘り、反射損失の絶対値が5dB以上であり、かつ、透過損失の絶対値が15dB以上ある、電磁波シールド材。
【請求項2】
前記樹脂は熱可塑性樹脂であり、
前記各電磁波遮蔽物質はナノカーボンである、請求項1記載の電磁波シールド材。
【請求項3】
前記樹脂は、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアルキレンテレフタレート樹脂、アクリル系樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリフェニレンスルファイド、ポリオレフィン、ポリスチレン樹脂、シンジオタクチックポリスチレン樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリブチレン、液晶重合体樹脂のいずれか又はこれらのうちいくつかの任意の組合せであり、
前記各電磁波遮蔽物質は、カーボンナノチューブ、カーボンブラック、カーボンナノコイル、カーボンナノファイバー、グラフェン、フラーレンのうち、電磁波の反射損失の絶対値が大きくなることに寄与する前記電磁波遮蔽物質1と、電磁波の透過損失の絶対値が大きくなることに寄与する前記電磁波遮蔽物質2との任意の組合せである、請求項1記載の電磁波シールド材。
【請求項4】
前記分散剤は天然・半合成・合成ワックスのいずれかである、請求項1記載の電磁波シールド材。
【請求項5】
前記分散剤は、パラフィンワックス、モンタンワックス、アマイドワックス、エチレン-ビス-ステアラミド、脂肪酸金属塩、シリコーン、ポリオレフィンワックスなどのいずれか又はこれらのうちいくつかの任意の組合せである、請求項1記載の電磁波シールド材。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか記載の電磁波シールド材を備える信号処理ユニットであって、
前記電磁波シールド材の厚さは2mm以上である、信号処理ユニット。
【請求項7】
前記電磁波シールド材を有する自動車用近接レーダー、携帯電話機・スマートフォン・PDA・タブレット端末・パーソナルコンピュータを含む通信機器、各種近接レーダーである、請求項6記載の信号処理ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波シールド材及びこれを備える信号処理ユニットに関し、特に、周辺環境からレーダーを保護するとともに、レーダーの信号伝達を阻害しないレーダーカバーに好適に用いることができる電磁波シールド材及びこれを備える信号処理ユニットに関する。なお、本明細書において「シールド」とは、吸収すなわち反射損失、遮蔽すなわち透過損失の少なくとも一方の意味で用いる。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、熱可塑性樹脂85重量%から95重量% 、カーボンナノチューブ1重量%から5重量%及びカーボンブラック3重量%から10重量%を含み、また前記カーボンナノチューブ及びカーボンブラックを3:7から1:7の重量比を含むことにより、優れた機械的物性とともにレーダー保護用として要求される電磁波の反射損失及び透過損失をバランス良く現わすレーダーカバー用熱可塑性樹脂組成物について開示されている。
【文献】特表2016-504471号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ここで、特許文献1に開示されているレーダーカバー用熱可塑性樹脂組成物は、周辺環境からレーダーを十分に保護するとともに、レーダーの信号伝達を阻害しないようにするためには、電磁波の反射損失及び透過損失について、改善の余地があることがわかった。
【0004】
具体的には、特許文献1に開示されているレーダーカバーは、2dBから9dB範囲の電磁波の反射損失、及び、3dBから12dB範囲の電磁波の透過損失が得られる旨が記載されているが(0036段落)、本発明者らの知見によれば、約60GHz~約110GHzの周波数帯域では、電磁波の反射損失と電磁波の透過損失との兼ね合いにもよるが、典型例を示すと、電磁波の反射損失は約5dB以上、電磁波の透過損失は約15dB以上であることが必要である。
【0005】
なお、本発明者らの知見に基づき、上記のような条件の数値が必要であるという根拠は、以下のとおりである。すなわち、電磁波の透過損失に着目すると、電磁波の透過損失が例えば20dBであれば、電磁波の遮蔽率は90%であるから、電磁波シールド材の第1面から入射した電磁波は、電磁波シールド材の第2面から出射する際には90%が減衰され10%となる。
【0006】
そして、残った電磁波が何らかの部材に衝突し、そこで反射されて、再び、第2面を通じて電磁波シールド材に入射すると、電磁波シールド材の第1面から出射する際には、その90%が減衰され10%となる。したがって、この例では、当初の電磁波に対して99%が減衰することになる。
【0007】
このように考えてみると、透過損失が優れていれば、反射損失については5dB程度あれば十分ということができる。さらに、信頼性の高い電磁波シールド材を提供しようとするならば、電磁波シールド材の製造誤差などを原因として発生する個体差であったり、電磁波シールド材の使用環境であったりなどを考慮して、電磁波シールド材のユーザに対する品質保証の観点から、更に幾分かの電磁波の遮蔽をすればよいといえる。
【0008】
そうすると、電磁波シールド材を設置する個所の近傍に、金属などのように電磁波の遮蔽機能がある他のものが存在している場合には、反射損失が約6dBもあれば十分であろうと考えられ、また、電磁波の遮蔽機能がある他のものが存在していない場合であっても、反射損失が約7dBもあれば十分であろうと考えられる。
【0009】
一方、電磁波の反射損失に着目してみると、電磁波の反射損失が5dBであれば、電磁波の吸収率は50%であり、更に透過損失が20dBであれば、吸収率は90%であるから、100という電磁波のうち50%が反射されるとともに、残りの50%の電磁波のうち90%が遮蔽されるので、結果的には電磁波シールド材の出射面から出射される電磁波は5%まで低減されるとも考えられる。
【0010】
したがって、電磁波の反射損失は約5dB以上、電磁波の透過損失は約15dB以上であることが必要であるということがいえるのである。
【0011】
なお、ここでは電磁波の透過損失が20dBであることを前提に説明したが、これが仮に15dBとなっても、電磁波の遮蔽率は約82%であるので、反射損失が5dBであれば、残り約18%の電磁波は約9%まで低減できるし、必要であれば、反射損失が例えば6dBという条件の電磁波シールド材を用いればよいということになる。
【0012】
以上の考察から、本発明は、少なくとも90%以上の遮蔽性能が得られる電磁波シールド材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明の電磁波シールド材及びこれを備える信号処理ユニットは、
主成分となる樹脂と、
電磁波の反射損失50%以上になる分量で前記樹脂に含有される電磁波遮蔽物質1と、
電磁波の透過損失80%以上になる分量で前記樹脂に含有される電磁波遮蔽物質2と、
を含む。
【0014】
前記樹脂は熱可塑性樹脂とすることができ、前記各電磁波遮蔽物質はナノカーボンとすることができる。
【0015】
より詳しく一例をあげると、前記樹脂は、ポリオレフィン、ポリフェニレンサルファイド、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリブチレン、ポリエーテルイミドなどのいずれか又はこれらのうちいくつかを任意に組合せることができる。前記各電磁波遮蔽物質は、カーボンナノチューブ、カーボンブラック、カーボンナノコイル、カーボンナノファイバー、グラフェン、フラーレンなどのうち、電磁波の反射損失の上昇に寄与する電磁波遮蔽物質1と、電磁波の透過損失の上昇に寄与する電磁波遮蔽物質2とを、任意に組合せることができる。いくつかを任意に組合せることができる。
【0016】
また、前記各電磁波遮蔽物質を前記樹脂に対して分散させる分散剤を含んでもよい。前記分散剤は天然・半合成・合成ワックスのいずれかとすることができる。より詳しく一例をあげると、前記分散剤は、パラフィンワックス、モンタンワックス、アマイドワックス、エチレン-ビス-ステアラミド、脂肪酸金属塩、シリコーン、ポリオレフィンワックスなどのいずれか又はこれらのうちいくつかを任意に組合せることができる。
【0017】
なお、本発明の電磁波シールド材の製造工程は限定的でなく、例えば、プレス加工を採用してもよいし、射出加工を採用してもよい。なお、プレス加工を採用した場合には、電磁波シールド材の表面抵抗率は、概ね、250Ω/□~750Ω/□であり、電磁波シールド材の厚さが2mm~6mmという条件においては、300Ω/□~500Ω/□程度のものが好適な遮蔽性能を有することが分かった。
【0018】
また、本発明の信号処理ユニットは、電磁波シールド材を有する自動車用近接レーダー、携帯電話機・スマートフォン・PDA・タブレット端末・パーソナルコンピュータを含む通信機器、各種近接レーダーとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施例1の電磁波シールド材の透過損失を示す図である。
図2】実施例1の電磁波シールド材の反射損失を示す図である。
図3】実施例2の電磁波シールド材の透過損失を示す図である。
図4】実施例2の電磁波シールド材の反射損失を示す図である。
図5】実施例3の電磁波シールド材の透過損失を示す図である。
図6】実施例3の電磁波シールド材の反射損失を示す図である。
図7】実施例4の電磁波シールド材の透過損失を示す図である。
図8】実施例4の電磁波シールド材の反射損失を示す図である。
図9】実施例5の電磁波シールド材の透過損失を示す図である。
図10】実施例5の電磁波シールド材の反射損失を示す図である。
図11】実施例6の電磁波シールド材の透過損失を示す図である。
図12】実施例6の電磁波シールド材の反射損失を示す図である。
図13】実施例7の電磁波シールド材の透過損失を示す図である。
図14】実施例7の電磁波シールド材の反射損失を示す図である。
図15】実施例8の電磁波シールド材の透過損失を示す図である。
図16】実施例8の電磁波シールド材の反射損失を示す図である。
図17】実施例9の電磁波シールド材の透過損失を示す図である。
図18】実施例9の電磁波シールド材の反射損失を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について図表を用いて説明する。
【0021】
本実施形態の電磁波シールド材は、
(1)主成分となる樹脂と、
(2)樹脂に含有される電磁波遮蔽物質と、
を含むことが必須である。
さらに、選択的に、樹脂に対して電磁波遮蔽物質を分散させる分散剤を含めることもできる。なお、本実施形態の電磁波シールド材自体は、金属物質を含有していない。
【0022】
本実施形態の電磁波シールド材は、反射損失は約6dB以上とし、透過損失は約15dB以上の性能とすることで、たとえ、電磁波シールド材の製造誤差、個体差などがあっても、製造品のほぼ全てが総合的に見た場合に、電磁波の90%程度の遮蔽を実現できるようにしている。なお、このような性能となる電磁波遮蔽体をプレス加工によって製造する場合には、表面抵抗率が約300Ω/□~約500Ω/□となることがわかった。もっとも、プレス加工に代えて、射出加工などの他の加工を採用することもできる。この場合には、表面抵抗率には大きな変化があろうが、体積抵抗率・導電率には理論上変化はない。
【0023】
なお、本実施形態の電磁波シールド材と特許文献1に開示されているレーダーカバー用熱可塑性樹脂組成物との相違点を明らかにするために、特許文献1に開示されている性能について付言すると、実施例1~3のものとしては、それぞれ、反射損失は、6dB、5dB、3dBであり、透過損失は、3dB、3dB、5dB以上である、とされている。
【0024】
両者を対比すると、実施例1の反射損失こそ6dBが得られているものの、その透過損失は3dBしかなく、実施例2,3のものは反射損失についても透過損失についても本実施形態のものに比して良い性能が得られていない。いずれにしても、特許文献1に開示されているレーダーカバー用熱可塑性樹脂組成物は、本実施形態の電磁波シールド材とは、その遮蔽特性が大きく異なることがわかる。
【0025】
また、樹脂は熱可塑性樹脂とすることができ、より詳しく一例をあげると、ポリオレフィン、ポリフェニレンスルファイド、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリエーテルスルホン、ポリブチレン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリアルキレンテレフタレート、ポリスルホン、ポリスチレン、シンジオタクチックポリスチレン、アクリロニトリルブタジエンスチレン、ポリフェニレンオキシド、アクリル系樹脂、液晶重合体樹脂などのいずれか又はこれらのうちいくつかを任意に組合せることができる。
【0026】
さらに、電磁波遮蔽物質は、電磁波の反射損失と透過損失との上昇に寄与する、一種類又は数種類のナノカーボンとすることができる。典型的には、カーボンナノチューブ、カーボンブラック、カーボンナノコイル、カーボンナノファイバー、グラフェン、フラーレンなどのうち、電磁波の反射損失の上昇に寄与するものと、電磁波の透過損失の上昇に寄与するものとを、任意に組合せることができるが、単一のナノカーボンを選択することもできる。
【0027】
このうち、電磁波の反射損失の上昇に寄与するものとしてはカーボンナノチューブ、電磁波の透過損失の上昇に寄与するものとしてはカーボンブラックが、市場での入手容易なものとして挙げられる。カーボンナノチューブについては、0.5nm~20nmの平均内径を有するものとすることができる。カーボンブラックについては、二次平均粒径が10μm~200μmのものとすることができる。
【0028】
さらにまた、選択的に電磁波シールド材に含めることが可能な分散剤は、天然・半合成・合成ワックスのいずれかとすることができ、パラフィンワックス、モンタンワックス、アマイドワックス、エチレン-ビス-ステアラミド、脂肪酸金属塩、シリコーン、ポリオレフィンワックスなどのいずれか又はこれらのうちいくつかを任意に組合せることができる。
【0029】
樹脂と電磁波遮蔽物質との混合割合は、樹脂としてポリプロピレン、電磁波遮蔽物質1としてカーボンナノチューブ、電磁波遮蔽物質2としてカーボンブラックを用いた場合には、[樹脂:電磁波遮蔽物質1:電磁波遮蔽物質2=約90重量%:約0.1重量%~約1重量%:約10重量]とすることができ、分散剤を用いる場合には、樹脂の分量を5%~40%程度減らして、その代わりに、分散剤を混合すればよい。
【0030】
もっとも、本発明者らの考察によれば、分散剤としては、市場流通性・価格などに着目すると、ポリエチレンワックスが選択しやすく、ポリエチレンワックス又はこれに類する分散剤を選択する場合には、樹脂等として選択する材料にもよるが、樹脂の分量を5%~20%程度減らして、その代わりに、ポリエチレンワックス等を混合すればよい。
【0031】
なお、特許文献1に開示されているレーダーカバー用熱可塑性樹脂組成物について付言すると、特許文献1には分散剤について考察及び言及がなされていないので、この点は明らかではないが、[熱可塑性樹脂:カーボンナノチューブ:カーボンブラック=85重量%~95重量%:1重量%~5重量%:3重量%~10重量%]であり、かつ、[カーボンナノチューブ:カーボンブラック=3:7~1:7]の重量比である。
【0032】
したがって、本実施形態の電磁波遮材は、カーボンナノチューブの組成割合が相対的に少ないという点で、特許文献1に開示されているレーダーカバー用熱可塑性樹脂組成物とは異なる。そして、一般的に、電磁波遮材を構成するもののうち、カーボンナノチューブは高価であることから、相対的にカーボンナノチューブの混合量を少なくできるということは、本実施形態の電磁波遮材は、安価に実現できるということになる。
【実施例
【0033】
以下、本発明の実施例の電磁波シールド材について、樹脂としてポリプロピレンを主成分としたもの、電磁波遮蔽物質1としてカーボンナノチューブ、電磁波遮蔽物質2としてカーボンブラックを用いて行った場合を例に説明する。また、実施例1~実施例4では、電磁波シールド材の厚さを約2mmとし、実施例5~実施例9では、電磁波シールド材の厚さを約6mmとした。
【0034】
このような厚さとした理由は、厚さが2mmのものについては、例えばADASのレーダーのように、電磁波シールド材を設置する個所の近傍に、金属などのように電磁波の遮蔽機能がある他のものが存在していて、かつ、電磁波シールド材の設置スペースが相対的に小さい場合に好適に用いることができる条件を想定しただけである。
【0035】
また、厚さが6mmのものについては、例えばADASのレーダーと当該レーダーを自動車に取り付けるために取付部とが一体となったレーダユニットのように、電磁波シールド材を設置する個所の近傍に、金属などのように電磁波の遮蔽機能がある他のものが存在しているが存在していて、かつ、電磁波シールド材の設置スペースが相対的に大きい場合に好適に用いることができる条件を想定しただけである。
【0036】
なお、レーダーでは、そのアンテナから放射されるバックローブが、その電子制御ユニット(ECU)に到達することを回避するために、電磁波シールド材を用いることが考えられる。そうすると、これに限定されるものではないが、一例をあげると、電磁波シールド材を電子制御ユニット自体に貼付することが考えられる。
【0037】
また、レーダユニットでは、その取付部に貼付する、又は、この一部或いは全部の材料とすることが考えられる。さらに、レーダーがホーン型アンテナを備える場合には、当該アンテナの外側に貼付することも考えられる。
【0038】
ここで、上記のように、電磁波シールド材の厚さを2mm、6mmとすることは、技術的観点からすると、それほど意味を持たないので、これらの厚さに限定されるものではない点には留意されたい。したがって、電磁波シールド材の用途及び設置環境に応じて要求される遮蔽性能を満たすものを、実施例1~実施例9の中から適宜選択して、信号処理ユニットに備えればよい。
【0039】
もっとも、実施例1~実施例9に示す製造条件は例示的であり、例えば、カーボンナノチューブの混合量が実施例1よりは少ないが、実施例2よりも多い条件で製造された電磁波シールド材が、信号処理ユニットへ採用できることが除外されるわけではない点についても留意されたい。
【0040】
(実施例1)
樹脂:約88.80wt%
電磁波遮蔽物質1:約1.200wt%
電磁波遮蔽物質2:約10.00wt%
を混合し、これらが均一に分散するように二軸押出機を用いることによって適宜撹拌させ、プレス加工をするなど既知の手法によって、約2mmの厚さの電磁波シールド材を製造した。
【0041】
なお、実施例1の電磁波シールド材について、導電率及び表面抵抗率を測定してみたところ、導電率は約2.00S/mであり、表面抵抗率は約250Ω/□であった。
【0042】
図1は、実施例1の電磁波シールド材の透過損失を示す図である。図1の横軸には周波数[GHz]を示し、図1の縦軸には透過損失[dB]を示している。図1に示すように、実施例1の電磁波シールド材は、75GHz~110GHzの周波数帯域全体に亘り、透過損失が20dB以上であることがわかる。
【0043】
図2は、実施例1の電磁波シールド材の反射損失を示す図である。図2の横軸には周波数[GHz]を示し、図2の縦軸には反射損失[dB]を示している。図2に示すように、実施例1の電磁波シールド材は、75GHz~110GHzの周波数帯域全体に亘り、反射損失が6dB以上であることがわかる。
【0044】
(実施例2)
樹脂:約89.30wt%
電磁波遮蔽物質1:約0.700wt%
電磁波遮蔽物質2:約10.00wt%
を混合し、これらが均一に分散するように二軸押出機を用いることによって適宜撹拌させ、プレス加工をするなど既知の手法によって、約2mmの厚さの電磁波シールド材を製造した。
【0045】
なお、実施例2の電磁波シールド材について、導電率及び表面抵抗率を測定してみたところ、導電率は約1.67S/mであり、表面抵抗率は約300Ω/□であった。
【0046】
図3は、実施例2の電磁波シールド材の透過損失を示す図である。図3の横軸には周波数[GHz]を示し、図3の縦軸には透過損失[dB]を示している。図3に示すように、実施例2の電磁波シールド材は、75GHz~110GHzの周波数帯域全体に亘り、透過損失が20dB以上であることがわかる。
【0047】
図4は、実施例2の電磁波シールド材の反射損失を示す図である。図4の横軸には周波数[GHz]を示し、図4の縦軸には反射損失[dB]を示している。図4に示すように、実施例2の電磁波シールド材は、60GHz~90GHzの周波数帯域全体に亘り、反射損失が6dB以上であることがわかる。
【0048】
(実施例3)
樹脂:約89.40wt%
電磁波遮蔽物質1:約0.600wt%
電磁波遮蔽物質2:約10.00wt%
を混合し、これらが均一に分散するように二軸押出機を用いることによって適宜撹拌させ、プレス加工をするなど既知の手法によって、約2mmの厚さの電磁波シールド材を製造した。
【0049】
なお、実施例3の電磁波シールド材について、導電率及び表面抵抗率を測定してみたところ、導電率は約1.25S/mであり、表面抵抗率は約400Ω/□であった。
【0050】
図5は、実施例3の電磁波シールド材の透過損失を示す図である。図5の横軸には周波数[GHz]を示し、図5の縦軸には透過損失[dB]を示している。図5に示すように、実施例3の電磁波シールド材は、75GHz~110GHzの周波数帯域全体に亘り、透過損失がほぼ20dB以上であることがわかる。
【0051】
図6は、実施例3の電磁波シールド材の反射損失を示す図である。図6の横軸には周波数[GHz]を示し、図6の縦軸には反射損失[dB]を示している。図6に示すように、実施例3の電磁波シールド材は、60GHz~90GHzの周波数帯域全体に亘り、反射損失が6dB以上であることがわかる。
【0052】
(実施例4)
樹脂:約89.37wt%
電磁波遮蔽物質1:約0.630wt%
電磁波遮蔽物質2:約10.00wt%
を混合し、これらが均一に分散するように二軸押出機を用いることによって適宜撹拌させ、プレス加工をするなど既知の手法によって、約2mmの厚さの電磁波シールド材を製造した。
【0053】
なお、実施例4の電磁波シールド材について、導電率及び表面抵抗率を測定してみたところ、導電率は約1.00S/mであり、表面抵抗率は約500Ω/□であった。
【0054】
図7は、実施例4の電磁波シールド材の透過損失を示す図である。図7の横軸には周波数[GHz]を示し、図7の縦軸には透過損失[dB]を示している。図7に示すように、実施例4の電磁波シールド材は、75GHz~110GHzの周波数帯域全体に亘り、透過損失が15dB以上であることがわかる。
【0055】
図8は、実施例4の電磁波シールド材の反射損失を示す図である。図8の横軸には周波数[GHz]を示し、図8の縦軸には反射損失[dB]を示している。図8に示すように、実施例4の電磁波シールド材は、75GHz~110GHzの周波数帯域全体に亘り、反射損失が6dB以上であることがわかる。
【0056】
(実施例5)
樹脂:約89.73wt%
電磁波遮蔽物質1:約0.270wt%
電磁波遮蔽物質2:約10.00wt%
を混合し、これらが均一に分散するように二軸押出機を用いることによって適宜撹拌させ、プレス加工をするなど既知の手法によって、約6mmの厚さの電磁波シールド材を製造した。
【0057】
なお、実施例5の電磁波シールド材について、導電率及び表面抵抗率を測定してみたところ、導電率は約0.67S/mであり、表面抵抗率は約250Ω/□であった。
【0058】
図9は、実施例5の電磁波シールド材の透過損失を示す図である。図9の横軸には周波数[GHz]を示し、図9の縦軸には透過損失[dB]を示している。図9に示すように、実施例5の電磁波シールド材は、75GHz~110GHzの周波数帯域全体に亘り、透過損失が30dB以上であり、とりわけ、約90GHz~110GHzの周波数帯域全体では、遮蔽性能が40dB以上であることがわかる。
【0059】
図10は、実施例5の電磁波シールド材の反射損失を示す図である。図10の横軸には周波数[GHz]を示し、図10の縦軸には反射損失[dB]を示している。図10に示すように、実施例5の電磁波シールド材は、75GHz~110GHzの周波数帯域全体に亘り、反射損失が8dB以上であることがわかる。
【0060】
(実施例6)
樹脂:約89.76wt%
電磁波遮蔽物質1:約0.240wt%
電磁波遮蔽物質2:約10.00wt%
を混合し、これらが均一に分散するように二軸押出機を用いることによって適宜撹拌させ、プレス加工をするなど既知の手法によって、約6mmの厚さの電磁波シールド材を製造した。
【0061】
なお、実施例6の電磁波シールド材について、導電率及び表面抵抗率を測定してみたところ、導電率は約0.56S/mであり、表面抵抗率は約300Ω/□であった。
【0062】
図11は、実施例6の電磁波シールド材の透過損失を示す図である。図11の横軸には周波数[GHz]を示し、図11の縦軸には透過損失[dB]を示している。図11に示すように、実施例6の電磁波シールド材は、75GHz~110GHzの周波数帯域全体に亘り、透過損失が35dB以上であり、とりわけ、約90GHz~110GHzの周波数帯域全体では、遮蔽性能が40dB以上であることがわかる。
【0063】
図12は、実施例6の電磁波シールド材の反射損失を示す図である。図12の横軸には周波数[GHz]を示し、図12の縦軸には反射損失[dB]を示している。図12に示すように、実施例6の電磁波シールド材は、60GHz~90GHzの周波数帯域全体に亘り、反射損失が約7dB以上であることがわかる。
【0064】
(実施例7)
樹脂:約89.775wt%
電磁波遮蔽物質1:約0.225wt%
電磁波遮蔽物質2:約10.00wt%
を混合し、これらが均一に分散するように二軸押出機を用いることによって適宜撹拌させ、プレス加工をするなど既知の手法によって、約6mmの厚さの電磁波シールド材を製造した。
【0065】
なお、実施例7の電磁波シールド材について、導電率及び表面抵抗率を測定してみたところ、導電率は約0.56S/mであり、表面抵抗率は約400Ω/□であった。
【0066】
図13は、実施例7の電磁波シールド材の透過損失を示す図である。図13の横軸には周波数[GHz]を示し、図13の縦軸には透過損失[dB]を示している。図13に示すように、実施例7の電磁波シールド材は、75GHz~110GHzの周波数帯域全体に亘り、透過損失が30dB以上であり、とりわけ、約80GHz~100GHzの周波数帯域全体では、遮蔽性能が35dB以上、約100GHz~110GHzの周波数帯域全体では、遮蔽性能が40dB以上、であることがわかる。
【0067】
図14は、実施例7の電磁波シールド材の反射損失を示す図である。図14の横軸には周波数[GHz]を示し、図14の縦軸には反射損失[dB]を示している。図14に示すように、実施例7の電磁波シールド材は、60GHz~90GHzの周波数帯域全体に亘り、反射損失が8dB以上であることがわかる。
【0068】
(実施例8)
樹脂:約89.91wt%
電磁波遮蔽物質1:約0.09wt%
電磁波遮蔽物質2:約10.00wt%
を混合し、これらが均一に分散するように二軸押出機を用いることによって適宜撹拌させ、プレス加工をするなど既知の手法によって、約6mmの厚さの電磁波シールド材を製造した。
【0069】
なお、実施例8の電磁波シールド材について、導電率及び表面抵抗率を測定してみたところ、導電率は約0.33S/mであり、表面抵抗率は約500Ω/□であった。
【0070】
図15は、実施例8の電磁波シールド材の透過損失を示す図である。図15の横軸には周波数[GHz]を示し、図15の縦軸には透過損失[dB]を示している。図15に示すように、実施例8の電磁波シールド材は、75GHz~110GHzの周波数帯域全体に亘り、透過損失が30dB以上であることがわかる。
【0071】
図16は、実施例8の電磁波シールド材の反射損失を示す図である。図16の横軸には周波数[GHz]を示し、図16の縦軸には反射損失[dB]を示している。図16に示すように、実施例8の電磁波シールド材は、75GHz~110GHzの周波数帯域全体に亘り、反射損失が8dB以上であることがわかる。
【0072】
(実施例9)
樹脂:約89.928wt%
電磁波遮蔽物質1:約0.072wt%
電磁波遮蔽物質2:約10.00wt%
を混合し、これらが均一に分散するように二軸押出機を用いることによって適宜撹拌させ、プレス加工をするなど既知の手法によって、約6mmの厚さの電磁波シールド材を製造した。
【0073】
なお、実施例9の電磁波シールド材について、導電率及び表面抵抗率を測定してみたところ、導電率は約0.33S/mであり、表面抵抗率は約750Ω/□であった。
【0074】
図17は、実施例9の電磁波シールド材の透過損失を示す図である。図17の横軸には周波数[GHz]を示し、図17の縦軸には透過損失[dB]を示している。図17に示すように、実施例9の電磁波シールド材は、75GHz~110GHzの周波数帯域全体に亘り、透過損失が30dB以上であることがわかる。
【0075】
図18は、実施例9の電磁波シールド材の反射損失を示す図である。図18の横軸には周波数[GHz]を示し、図18の縦軸には反射損失[dB]を示している。図18に示すように、実施例9の電磁波シールド材は、75GHz~110GHzの周波数帯域全体に亘り、反射損失が7dB以上であることがわかる。
【0076】
(比較例1)
樹脂:約89.5wt%
電磁波遮蔽物質1:約0.5wt%
電磁波遮蔽物質2:約10.00wt%
を混合し、これらが均一に分散するように二軸押出機を用いることによって適宜撹拌させ、プレス加工をするなど既知の手法によって、約2mmの厚さの電磁波シールド材を製造したものは、95GHz未満の透過損失が15dBを下回ったので、所要の遮蔽性能が得られないことが分かった。
【0077】
実施例1~9の電磁波シールド材の各々について、電磁波の反射損失は自由空間法によって、透過損失はASTM D4935に基づいて測定した。具体的には、反射損失は実施例1~9の電磁波シールド材に対して75GHzから110GHzの電磁波を照射した後、試片の表面から反射されて出る信号強さと照射時の信号強さとの差から求めた。また、透過損失は、実施例1~9の電磁波シールド材に対して75GHzから110GHzの電磁波を照射した後、試片を通過して出る信号強さと照射時の信号強さとの差から求めた。
【0078】
実施例1~9の電磁波シールド材における電磁波の反射損失及び透過損失は、いずれも、反射損失が6dB以上であって、かつ、透過損失が15dB以上であることがわかる。加えて、実施例1~9の電磁波シールド材は、測定した周波数帯域全般での反射損失がフラットな傾向にあるため、電子回路設計がしやすいという利点もある。
【0079】
参考のため、ランダムに選定した実施例2,3,6,7の電磁波シールド材については、周波数帯域の下限を60GHzとして反射損失を計測してみた。その結果、いずれの電磁波シールド材については、反射損失が6dBであることを確認した。
【0080】
本実施例では、電磁波シールド材を自動車用近接レーダーに適用する例について説明したが、電磁波シールド材は、自動車用近接レーダー以外にも、73GHzの周波数帯域を使用する携帯電話機・スマートフォン・PDA・タブレット端末・パーソナルコンピュータなどに付帯する通信機器、76GHz~83GHzの各種近接レーダーなどにも適用することができる。これらの場合にも、電子制御ユニット或いはこれに相当する部材自体又はその周辺に電磁波シールド材を貼付又は配置すればよい。
図1
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