(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-24
(45)【発行日】2024-05-07
(54)【発明の名称】電気抵抗測定装置
(51)【国際特許分類】
G01R 27/02 20060101AFI20240425BHJP
G01R 27/14 20060101ALI20240425BHJP
G01R 27/08 20060101ALI20240425BHJP
G01N 27/60 20060101ALI20240425BHJP
【FI】
G01R27/02 R
G01R27/14
G01R27/08
G01N27/60 A
(21)【出願番号】P 2021135831
(22)【出願日】2021-08-23
【審査請求日】2023-03-22
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ・ウェブサイトへの掲載 掲載日:2022年 8月24日 ウェブサイトのアドレス: http://www.ecei.tohoku.ac.jp/tsjc/abstract_2020tsjc/index.html
(73)【特許権者】
【識別番号】508329405
【氏名又は名称】杉本 俊之
(73)【特許権者】
【識別番号】592177096
【氏名又は名称】ナプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100146732
【氏名又は名称】横島 重信
(72)【発明者】
【氏名】杉本 俊之
(72)【発明者】
【氏名】渡部 靖暁
(72)【発明者】
【氏名】田口 浩一
(72)【発明者】
【氏名】鄭 成鋒
【審査官】永井 皓喜
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-190815(JP,A)
【文献】特開2019-194544(JP,A)
【文献】特開昭58-153720(JP,A)
【文献】特表2021-518624(JP,A)
【文献】特開2003-022887(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 27/02
G01R 19/00
G01N 27/60
G01N 27/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電圧が印加されることでコロナ放電を生じる放電電極と、当該放電電極の近傍に配置された対向電極を有し、当該コロナ放電により生成するイオンの少なくとも一部を被測定物の表面の帯電部分に流入させることで帯電させる帯電手段を有する被測定物の電気抵抗を測定する電気抵抗測定装置であって、
上記放電電極に流入する電流量を検知する第一の電流量検出手段と、上記対向電極から流入する電流量を検知する第二の電流量検出手段とを有し、当該第一及び第二の電流量検出手段の検出量の差分に基づいて被測定物の電気抵抗を測定することを特徴とする電気抵抗測定装置。
【請求項2】
上記被測定物の表面の帯電部分とは異なる除電部分を介して、上記帯電手段により帯電させた電荷を被測定物から除電する除電手段を有することを特徴とする請求項1に記載の電気抵抗測定装置。
【請求項3】
上記除電手段は、上記放電電極と逆の極性の電圧が印加されることでコロナ放電を生じる第二の放電電極を有し、当該コロナ放電により生成するイオンの少なくとも一部を被測定物の除電部分に流入させることで除電することを特徴とする請求項2に記載の電気抵抗測定装置。
【請求項4】
上記除電手段は、被測定物の除電部分に導電体を接触させて電荷を流通させることで、除電部分を所定の電位に保持することを特徴とする請求項2に記載の電気抵抗測定装置。
【請求項5】
上記放電電極は、針状電極であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の電気抵抗測定装置。
【請求項6】
上記対向電極は、上記放電電極の周囲に設けられる環状電極であることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の電気抵抗測定装置。
【請求項7】
上記対向電極は、板状、メッシュ状、又はグリッド状に構成されることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の電気抵抗測定装置。
【請求項8】
放電電極に電圧を印加してコロナ放電を生じさせて、当該コロナ放電により生成するイオンの少なくとも一部を被測定物の帯電部分に流入させて帯電させる帯電操作を含む被測定物の電気抵抗を測定する電気抵抗測定方法であって、
上記放電電極に流入する電流量と、上記放電電極の近傍に配置された対向電極から流入する電流量の差分に基づいて被測定物の電気抵抗を算出することを特徴とする電気抵抗測定方法 。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体が有する電気抵抗を測定する測定方法、及び、電気抵抗測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
物体が有する電気抵抗は、当該物体の内部や表面における電荷(典型的には、電子)の易動度の程度を示す指標であり、その測定を行う際には、物体に対して電荷の移動を生じさせるための駆動力を印加した状態で、各種の手段により当該電荷の移動の状態を電流値や電圧値として計測する必要がある。
【0003】
上記電気抵抗の測定は、原理的には、当該物体に対して電位の異なる一対の電極を接触させて当該電極間に生じる電流と電圧を測定(2探針法)することで、当該電圧と電流の比に基づいて求めることができる。一方、2探針法では、当該測定に用いる測定器の内部抵抗や物体と電極間の接触抵抗等が測定誤差として測定値に含まれる問題を生じるため、これを回避する方法として4探針法が用いられる。4探針法では、被測定物内に既知の量の電流が流れる状態で、適宜の二点間に生じる電圧を被測定量として測定することにより、上記測定器の内部抵抗や物体と電極間の接触抵抗等に起因する測定誤差を回避して、当該二点間の抵抗値を求めることが可能になる。
【0004】
一方、上記2探針法や4探針法においては被測定物に対して電極を接触させる必要があるのに対して、被測定物表面の汚染や破壊を防止する等の目的で、非接触の状態で被測定物の電気抵抗を測定する手段が求められている。
上記被測定物に非接触の状態で電気抵抗を測定する手段として、渦電流を使用した測定方法が広く用いられている(例えば、特許文献1~3を参照)。当該渦電流を使用する方法では、被測定物に対して磁場を印加することにより被測定物内に渦電流を生じさせ、当該渦電流量を各種のセンサで検知することによって被測定物内の電気抵抗を測定することができる。一方、電気抵抗率が高い被測定物についての測定を行うとする場合には、印加する磁界の強度を高める必要があるため、一般には105Ω/□程度より高い電気抵抗率を測定することが困難である。
【0005】
また、非接触の状態で電気抵抗を測定する手段として、被測定物の所定の領域にコロナ放電等を利用して電荷を付与すると同時に、被測定物の所定の領域に設けた電荷検出手段によって当該領域の電荷量を測定し、当該電荷量が変化する際の過渡特性を取得することによって、被測定物の電気抵抗を評価する手段(コロナ帯電電位法)が記載されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2009-186433号公報
【文献】特開2009-204342号公報
【文献】特開2010-163908号公報
【文献】特開2010-190815号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
様々な範囲で電気抵抗を有し、その形態が多種多様である物体について、例えば、その製造工程における品質保証の裏付けの手段等として電気抵抗を非接触の状態で測定することが求められている。
本発明は、電極などを被測定物である物体に接触させず、非接触の状態で物体の電気抵抗を測定することのできる、新規の測定方法、及び、測定装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、電圧が印加されることでコロナ放電を生じる放電電極と、当該放電電極の近傍に配置された対向電極を有し、当該コロナ放電により生成するイオンの少なくとも一部を被測定物の表面の帯電部分に流入させることで帯電させる帯電手段を有する被測定物の電気抵抗を測定する電気抵抗測定装置であって、上記放電電極に流入する電流量を検知する第一の電流量検出手段と、上記対向電極から流入する電流量を検知する第二の電流量検出手段とを有し、当該第一及び第二の電流量検出手段の検出量の差分に基づいて被測定物の電気抵抗を測定する電気抵抗測定装置を提供する。
【0009】
また、上記被測定物の表面の帯電部分とは異なる除電部分を介して、上記帯電手段により帯電させた電荷を被測定物から除電する除電手段 を更に有する電気抵抗測定装置を提供する。
特に、上記除電手段が、上記放電電極と逆の極性の電圧が印加されることでコロナ放電を生じる第二の放電電極を有し、当該コロナ放電により生成するイオンの少なくとも一部を被測定物の除電部分に流入させることで除電するものである電気抵抗測定装置を提供する。
又は、上記除電手段が、被測定物の除電部分に導電体を接触させて電荷を流通させることで、除電部分を所定の電位に保持するものである電気抵抗測定装置を提供する。
【0010】
上記電気抵抗測定装置において、上記放電電極が針状電極である電気抵抗測定装置を提供する。また、上記対向電極が、上記放電電極の周囲に設けられる環状電極である電気抵抗測定装置を提供する。
【0011】
また本発明は、放電電極に電圧を印加してコロナ放電を生じさせて、当該コロナ放電により生成するイオンの少なくとも一部を被測定物の帯電部分に流入させて帯電させる帯電操作と、被測定物の表面の上記帯電部分とは異なる除電部分を介して、上記帯電手段により帯電させた電荷を被測定物から除電する除電操作を含む被測定物の電気抵抗を測定する電気抵抗測定方法であって、上記放電電極に流入する電流量と、上記放電電極の近傍に配置された対向電極から流入する電流量の差分に基づいて被測定物の電気抵抗を算出する電気抵抗測定方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、コロナ放電によって生じるイオンを媒体として被測定物に電荷を供給するものであり、被測定物に電荷を供給するために被測定物に接触して使用される電極などを使用することなく、非接触の状態で被測定物の電気抵抗を測定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係る実施形態の一例を示す模式図である。
【
図2】
図1に示す実施形態において、被測定物10を介した電流の誘起に関与する事項を示す図である。
【
図3A】
図1に示す実施形態によって計測されたV-I特性の一例を示す図である。
【
図3B】
図1に示す実施形態によって計測されたV-I特性の一例を示す図である。
【
図3C】
図1に示す実施形態によって計測されたV-I特性の一例を示す図である。
【
図4】本発明に係る実施形態の一例を示す模式図である。
【
図5】本発明に係る実施形態の一例を示す模式図である。
【
図6】本発明に係る実施形態の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第一の実施形態)
図1には、本発明に係る実施形態の一例を、模式的に示す。
図1に示す実施形態においては、第一の放電電極1としての針状電極に正の電位(V
A)を印加可能であり、V
Aとして数kV程度の電位を印加することで放電電極1の先端付近にコロナ放電部5を生成可能とされている。また、
図1に示す実施形態においては、当該針状の放電電極1の周囲に、接地した円筒状の対向電極3が設けられる。
【0015】
上記放電電極1に正の電位(VA)を印加することで放電電極1の先端付近に発生するコロナ放電部5では、大気中に含まれる気体分子の電離を生じて正イオンが生成すると考えられる。そして、コロナ放電部5で生成した正イオンは、その電荷に起因して発生する放電電極1との間の斥力、及び、正イオン間で生じる斥力等により、放電電極1の周囲に発散するように分布して、正イオンが含まれる第一のイオン空間7を形成するものと考えられる。
【0016】
一方、
図1に示すように、接地した対向電極3等が存在する場合には、コロナ放電部5で生成した正イオンは、主に放電電極1と対向電極3等の間に存在する電界によって拡散して対向電極3等の表面に付着し、対向電極3等の表面から電子を得て中性の気体分子に戻るものと考えられる。
上記第一のイオン空間7では、放電電極1の電位や、その周囲に存在する対向電極3の電位等により外部から与えられる電界の他、イオン空間7内に存在する正イオン間に生じる電気的な斥力、正イオンの存在密度、正イオンの拡散による電荷の移動等の事項間での相互作用によって、内部に複雑な電界分布や正イオンの分布を有するものと考えられる。
【0017】
図1に示す実施形態においては、上記第一の放電電極1の周囲に形成される第一のイオン空間7に接触する形態で被測定物10が設置される。被測定物10がイオン空間7に接触する形態で設置されることにより、被測定物10の表面電位に応じてイオン空間7内の正イオンの一部が被測定物10の表面に引き寄せられて付着し、その後に被測定物10から電子を受け取ることによって中性化して気体分子となって脱離するものと考えられる。その過程において、第一のイオン空間7内の正イオンは、被測定物10の表面から電子を取り除くための媒体として作用するものであると理解することができる。
【0018】
上記イオン空間7内の正イオン(又は、負イオン)と被測定物10間の電子の授受は、イオン空間7と被測定物10の界面において生じると考えられる。当該電子の授受の過程は、イオン空間7内の正イオン(又は、負イオン)の密度やその実効的な拡散速度、イオン空間7と被測定物10間の電位差等によって決まる正イオンの被測定物10の表面への付着頻度や、正イオンが電子と結合して中性化される頻度等によって律速されるものと考えられる。
【0019】
上記イオン空間7内の正イオンと被測定物10間の電子の授受により、電子が取り除かれた被測定物10の表面電位が変化すると考えられる。一方、第一のイオン空間7においても、被測定物10と接触することにより外部から印加される電界の状態が変化し、また被測定物10との界面で正イオンが消滅する等により、イオン空間7内の正イオンの密度や電界分布が変化するものと考えられる。この結果、被測定物10の表面のイオン空間7と接触する部分の電位と、当該イオン空間7の状態は、その相互作用によって変化するものと考えられる。
【0020】
また、
図1に示す実施形態においては、第二の放電電極2としての針状電極が、その先端付近で生じるコロナ放電部6によって形成される第二のイオン空間8が、被測定物10の上記イオン空間7に接触する部位とは異なる部位(
図1では、被測定物10の裏面側)に接触するように配置される。当該第二の放電電極2には、負の電位(V
B)が印加可能であり、コロナ放電部6では大気中に含まれる気体分子に電子が付着して負イオンが生成し、当該負イオンが周囲に拡散することにより、第二のイオン空間8が形成されるものと考えられる。
【0021】
当該第二のイオン空間8と被測定物10との界面においては、被測定物10の表面電位に応じてイオン空間8内の負イオンが被測定物10の表面に引き寄せられて付着し、その後に被測定物10に電子を与えることによって中性化して気体分子となり脱離するものと考えられる。その過程において、第二のイオン空間8内の負イオンは、被測定物10の表面(
図1において、裏面側)に電子を供与するための媒体として作用するものであると理解することができる。
【0022】
上記第二のイオン空間8内の負イオンと被測定物10間の界面で生じる電子の授受は、上記第一のイオン空間7と被測定物10の界面における電子の授受と同様の要因によって律速されるものと考えられる。また、当該電子の授受等によって、被測定物10の裏面側の表面電位や、第二のイオン空間8内の負イオンの密度や電界の分布が変化するものと考えられる。
【0023】
なお、
図1においては、第一の放電電極1に対して正の電位を印加し、第二の放電電極2に対して負の電位を印加する例を示すが、当該各放電電極に対して印加される電位の極性を入れ替えることで、上記で説明した電荷の流れ等を逆転することが可能である。
【0024】
また、上記の過程において、上記第一のイオン空間7に含まれる正イオンによって電子が取り除かれた被測定物10の表面は正の電位に帯電し、上記第二のイオン空間8に含まれる負イオンによって電子が与えられた被測定物10の表面は負の電位に帯電するため、第一のイオン空間7と第二のイオン空間8は被測定物10の表面を帯電させる帯電手段を構成すると理解することができる。
本明細書においては、コロナ放電により生成するイオン空間について、当該イオン空間を構成するイオン種が正イオン/負イオンであることを問わず、被測定物10に対する帯電手段と称することがある。
【0025】
また、
図1に示すように、被測定物10に対して設けられる上記帯電手段を構成するイオン空間に含まれるイオン種の極性を相互に逆極性にした場合には、一方の帯電手段によって帯電した電荷が、他方の帯電手段によって除去(除電)される現象を生じる。当該場合において、一方の帯電手段を基準とし、当該帯電手段との関係において、他方の帯電手段を特に除電手段と称することがある。当該帯電手段/除電手段の称呼は、被測定物10に対して相互に逆の極性の電荷を供与可能であり、又は、一方の手段が被測定物10に供与した電荷を他方の手段が除去することを意味し、相互に置換可能であるものとする。
【0026】
また、被測定物10の所定の部位を介して配置される帯電手段/除電手段の一方について、上記イオン空間を介した帯電手段/除電手段に換えて、被測定物10に接触させた電極により帯電手段/除電手段を構成し、被測定物10の所定の部分に所定の電位の帯電を生じさせ、又は、接地電位に維持する等を行うことができる。
【0027】
図1に示す被測定物10が、例えば、電子による電気伝導を示すものである時には、当該被測定物10の表面の異なる部分に、それぞれ極性の異なるイオン空間を接触させることで、一方のイオン空間が被測定物10との接触部分に電子を供給するための給電子機構となり、他方のイオン空間が被測定物10との接触部分から電子を取り除く除電子機構となって、当該接触部分の間に所定の電位差を発生し、当該接触部位間で被測定物10の内部や表面に電流が誘起される。そして、当該現象を利用することにより、被測定物10の内部や表面の電気抵抗について、コロナ放電により生成されるイオン空間をプローブとして使用し、被測定物10の表面の汚染や破壊の原因となる電極等を接触させることなく測定することが可能であると考えられる。
【0028】
しかしながら、上記で説明したとおり、コロナ放電部の周囲に形成されるイオン空間内のイオン密度や電界の分布は各種の要因によって様々に変化すると共に、特に被測定物10との接触によっても変化すると考えられるために、各イオン空間と接触する被測定物10の部分に生じる電位等を明らかにすることは一般に困難である。更に、各イオン空間の内部ではイオン密度や電界の分布が必ずしも一様で無い結果、イオン空間と被測定物10の接触部分の内部での電位分布は必ずしも一様とならない等、イオン空間と被測定物10との接触部位に生じる電位を一意に定めることは困難である。
【0029】
図2には、
図1に示す実施形態が形成する回路において、被測定物10を介した電流の誘起に関与すると考えられる事項について示す。
図2に記載するように、コロナ放電によって生じるイオン空間を、被測定物10に対して電子を供給するための給電子機構、又は電子を取り除く除電子機構とする際には、外的な要因として、コロナ放電を生じさせるために放電電極1,2に印加される電圧V
A,V
Bを調整することによってイオン空間7,8に変化を与えることが可能である(
図2中のA、G)。
【0030】
その一方で、
図2に示すように、イオン空間7,8内のイオン密度や電界の分布等は、被測定物10の存在に応じて変化する(
図2中のB、F)と共に、イオン空間7,8との接触により被測定物10の表面に生じる表面電位は、当該イオン空間7,8の状態や被測定物10の導電率等によって変化する(
図2中のC、E)と考えられ、これらの事項を外部から積極的に決定することは困難である。
この結果、
図1の実施形態に示すイオン空間7,8は、例えば特許文献4に記載されるように、被測定物10の表面に対して給電や除電を行うプローブとなり得る一方で、特に、イオン空間7,8と接触する被測定物10の部分の電位を、放電電極1,2に印加される電圧等により所望の電位に保持することが困難であるために、被測定物10の抵抗値を定量評価する手段としての使用が困難であった。
【0031】
上記のような技術的背景に対して、本発明者が種々の検討を行ったところ、
図1に示す実施形態において、特に、放電電極1,2に印加される電圧と共に、放電電極1に流入する電流、放電電極1に対する対向電極3から流出する電流に着目することにより、特に被測定物10が有する電気抵抗を反映した測定結果を得ることが可能であり、被測定物10の電気抵抗を測定可能であることを見出して本発明に至ったものである。
【0032】
図3A~Cには、
図1に示す実施形態において、被測定物10として、特に従来の非接触の抵抗測定方法である渦電流を使用した測定によっては測定が困難である10
8Ωcm以上の各種の抵抗率を有する板状の各試料(厚さ:0.5~0.6mm)を使用して評価を行った結果を示す。
【0033】
評価は、第一の放電電極1にVA=2.9(kV)を印加してコロナ放電部5にコロナ放電を持続的に生じさせると共に、第二の放電電極2に印加する電圧(VB)を-2.0~-6.0kVの間で変化させてコロナ放電部6にコロナ放電を生じさせた際の、放電電極1に流入する電流量(I1)と、対向電極3から流出する電流量(I2)を測定することにより行った。その際に、放電電極1,2として直径が1mmで先端を針状にした針状電極を使用し、対向電極3として円筒型の電極(内径4mm/外径6mm)を使用して、その断面の中心が放電電極1と一致するように配置した。また、被測定物10の表面に対して、放電電極1,2と対向電極3のそれぞれの端部が2mmの間隔を成すように配置した。
測定は、放電電極1,2にそれぞれ所定の電圧を印加した後、定常状態になった各電流量(I1,I2)を測定した。
【0034】
図3A,Bは、抵抗率がそれぞれ1.2×10
8Ωcm,2.4×10
8Ωcmになるように不純物が添加されたGaAs製基板について測定した結果である。また、
図3Cは、SiC製基板であって、上記特許文献4に記載されるコロナ帯電電位法によって、その抵抗率が8.1×10
10Ωcmと見積もられた基板について測定した結果である。
図3A~Cは、当該各試料について、上記で測定された電流量の差分(ΔI=I
1-I
2)を、第二の放電電極2に印加する電圧(V
B)に対してプロットした結果を示し、合わせて当該ΔIと第二の放電電極2に印加する電圧(V
B)間の関係を最小自乗法により直線回帰して求めた直線の傾きを、「A/V」の単位に換算した数値を示す。
【0035】
図3に示すように、評価に使用した試料(被測定物10)の抵抗値の違いによらず、第二の放電電極2に印加する電圧(V
B)と、放電電極1に流入する電流量(I
1)と、対向電極3から流出する電流量(I
2)の差分(ΔI)が直線的な関係を示すことが観察された。また、各試料における測定結果を直線回帰した際の回帰直線の傾きが、各試料が有する抵抗率と良く相関を示すことが示された。
【0036】
上記の結果は、
図1に示す実施形態が、被測定物の有する抵抗値を評価する手段として有用であることを示し、抵抗値が既知である試料によって検量線を作成する等によって、被測定物が有する抵抗値を評価する際の手段として使用可能であることが示された。また、上記評価で使用した試料は、いずれも渦電流を使用した従来の非接触による抵抗測定によっては測定困難である高い抵抗率を有するものであることから、特に、高い抵抗値を有する試料についての抵抗値の評価に有用であることが示された。
【0037】
図3に示す結果は、以下の様に理解することができる。放電電極1に流入する電流量(I
1)は、コロナ放電部5におけるコロナ放電によって生成した正イオンが放電電極1の周囲(第一のイオン空間7)に放出されることで放電電極1から流出した電荷量を示すと考えられる。一方、対向電極3から流出する電流量(I
2)は、第一のイオン空間7内の正イオンが対向電極3に付着して中性の気体分子となる際に、対向電極3から受け取った電荷量を示すと考えられる。
【0038】
そして、当該電流量I1,I2の差分(ΔI)は、放電電極1から電荷を受け取ってイオン化した後に、対向電極3に到達しなかったイオンの量を反映したものであり、主に被測定物10に到達して、被測定物10から電子を受け取って中性化したイオンの量を反映するものと考えられる。また、当該過程において、被測定物10においてイオンの中性化に供された電子は、被測定物10の内部等を経由する電流として供給されたものと考えられる。
【0039】
つまり、
図3におけるΔIは、
図2に示すA~Gの各事項が直列に配置された回路(
図1に示す実施形態)に対して放電電極1,2に電圧V
A,V
Bを印加するよって誘起される電流量を示すものと考えられ、
図3に示すV
B-ΔIの傾きは、
図1に示す実施形態が構成する回路の内部抵抗に対応するものであると考えられる。このことは、実験的にも
図3に示すV
B-ΔIの傾きが、被測定物10の抵抗値に対応して変化することによっても裏付けられる。
【0040】
上記の結果を考慮すれば、
図1に示す実施形態において、抵抗値が既知である被測定物(基準サンプル)を使用して当該抵抗値に対応するV
B-ΔIの傾きを計測し、これを検量線にすることにより、被測定物10と放電電極1,2、対向電極3等との位置関係を一定に保つことを条件に、当該被測定物が有する抵抗値を同定することにより測定することが可能であると考えられる。
【0041】
上記検量線の作成、及び被測定物10の抵抗値の測定においては、コロナ放電部5,6が維持される範囲で放電電極1に印加する電圧VAの側を変化して行うことも可能である。また、抵抗値が未知である被測定物10の測定においては、放電電極1,2に印加する電圧VA,VBを変化させてV-ΔIの傾きを測定し、これを検量線と対比する手段の他、放電電極1,2、対向電極3等に対する被測定物10の位置関係を一定に保つことにより、適宜のVA,VBの組合せにおいて生じるΔIを測定し、当該測定結果を検量線と対比することによっても被測定物10の抵抗値を同定することができる。
【0042】
(第二の実施形態)
図4には、本発明に係る実施形態の他の一例を、模式的に示す。
図4に示す実施形態においては、上記第一の実施形態と同様に、針状の放電電極1と、その周囲に接地した円筒状の対向電極3が設けられ、当該放電電極1に電圧V
Aを印加することによりコロナ放電部5が生成可能とされている。また、当該コロナ放電部5において生じるイオンが分布するイオン空間7に対して、その表面側が接触するように被測定物10が配置されている。
【0043】
一方、被測定物10の裏面側に接触して導電相12が設けられ、当該導電相12を接地することにより、被測定物10の裏面側の電位が一定に保持可能とされている。被測定物10として、その表面の一部に接触することが可能である被測定物についての測定を行う際には、
図4に示すように、抵抗値の測定を行う際の除電手段(帯電手段)としての電極(導電相12)を、コロナ放電部5によるイオン空間7が接触する部位と異なる部位に接触させることにより、より簡便な測定装置によって抵抗値の測定を行うことができる。
【0044】
大気中等においては、数kV程度の電圧を針状の放電電極に印加することで、その先端にコロナ放電を生じさせることが可能であり、その際に放電電極に流入する電流は一般に数~30μA程度であることが知られており、それ以上の電流を伴う放電は、コロナ放電以外の形態の放電に移行することが知られている。
上記コロナ放電が示す特性は、コロナ放電を電気伝導として捉えた際には、対向電極等との間に10
7~10
9Ω程度に相当する内部抵抗が存在することを意味するものと考えられる。当該内部抵抗は、
図2に示すようなイオンの生成工程等に存在する律速に起因するものと考えられる。
【0045】
図4においては、本発明に係る実施形態において、放電電極1の周囲に存在する内部抵抗を模式的に示す。放電電極1と対向電極3との間には、その距離等に応じてイオン空間7を介して10
7~10
9Ω程度に相当する内部抵抗R1が存在する。また、放電電極1と導電相12との間には、イオン空間7や被測定物10との界面での律速に起因する内部抵抗R2と、被測定物10の抵抗値Rsが直列に存在すると考えられる。
【0046】
本発明に係る抵抗測定装置においては、放電電極1に流入する電流量(I1)と、対向電極3から流入する電流量(I2)を検知することによって、放電電極1に印加された電圧によって被測定物10を介して流れる電流量(ΔI)が検知される。その際に、放電電極1と対向電極3との間には、コロナ放電に固有の内部抵抗R1として107~109Ω程度に相当する抵抗値が存在するため、同程度の抵抗値を有する被測定物10について測定を行った際に、当該被測定物10の抵抗を精度良く検知可能であり、この結果として、従来の非接触の抵抗測定方法では測定が困難である高抵抗物の抵抗値の評価が可能であると考えられる。
【0047】
上記測定においては、放電電極1、対向電極3等の配置等に加えて、被測定量である被測定物10が有する抵抗値等に応じてイオン空間7内のイオン密度や電界の分布等が変化するために、イオン空間7が関与する内部抵抗R1,R2を直接的に決定することは困難であると考えられる。
【0048】
一方、
図3について説明したように、イオン空間と被測定物を介して誘起される電流量(ΔI)が、放電電極に印加される電圧との間で直線的な関係を示すことが実験的に確認され、このことから放電電極1、対向電極3、被測定物10の配置等が一定の状態においては、イオン空間7等に起因する内部抵抗R2と被測定物10の抵抗値Rsの和が一定であると近似可能であると考えられた。このことにより、イオン空間7を被測定物10に対する給電や除電を行うための手段(プローブ)として使用することで、電極等を接触させない非接触の状態でも精度良く被測定物10の抵抗値Rsを評価可能であることが示された。
【0049】
(他の実施形態)
図5には、本発明に係る他の実施形態の例を模式的に示す。コロナ放電に由来するイオン空間7を被測定物10に対する帯電手段(プローブ)として使用した被測定物の抵抗値の測定は、
図1,4に示すような、被測定物10の表裏面間の抵抗値の測定の他、
図5に示すように被測定物10の表面の異なる部分の間の抵抗値の測定に使用することができる。
【0050】
被測定物10の表面の異なる部分の間の抵抗値を測定する際には、正又は負の電圧が印加される針状電極1と、針状電極1のコロナ放電部で生成するイオンが流入可能な位置に配置された対向電極3を使用して、当該針状電極1の周囲のイオン空間に被測定物10の部分が接触するように配置することで、当該イオン空間を被測定物に対する帯電(除電)を行うためのプローブとして使用することができる。
【0051】
そして、当該イオン空間が接触する被測定物10の部分に対して、抵抗値の測定対象とする部位を含んで離れた部分に適宜の除電手段を設けた状態で、針状電極1に電圧を印加してコロナ放電を生じさせ、放電電極1に流入する電流量(I1)と、対向電極3から流入する電流量(I2)を検知することによって、当該測定対象とした部位の抵抗値(Rs)を測定することができる。
当該除電手段として、他の放電電極2の周囲に生成するイオン空間8を使用してもよく(
図5(a))、蒸着等の手段により被測定物10の表面に接触させた導電相12を使用しても良い(
図5(b))。
【0052】
図6には、本発明に係る他の実施形態の例を模式的に示す。
図6に示すように、被測定物10が有する抵抗率に対して電気容量が大きい被測定物10については、放電電極1と対向電極3を有する帯電手段を用いることにより、その抵抗率を評価することができる。つまり、被測定物10の電気容量が十分に大きいことにより、除電手段の有無によらず、測定開始から所定の時間内においては帯電手段から所定量のイオンが被測定物10に流入することが期待され、これを利用することにより、予め抵抗率が既知の参照試料を使用して検量線を作成することにより、針状電極1におけるコロナ放電の開始直後に観測される各電流量に基づいて被測定物10が有する抵抗率を評価することができる。
【0053】
本発明に係る抵抗率測定装置においてコロナ放電部を生じるために使用される放電電極は、所定の導電性を有する導電体であれば、形状や材質は特に限定されず使用することができる。好ましい実施形態においては、突起を有する導電体を放電電極とすることにより、当該突起部分に印加される電圧が集中し、良好なコロナ放電の発生や維持を可能とすることができる。当該突起を有する放電電極として、特に切断した金属ワイヤの先端部や、針状の電極を好ましく用いることができる。印加される電圧の集中を生じ易い先端形状にすることにより、より低い印加電圧によってコロナ放電が開始されると共に、コロナ放電に費やされる電流量を安定化することが可能である。
【0054】
例えば、最先端の曲率半径が1μm程度の針状電極を使用し、その周囲に対向電極を設置した際には、一般的に3~5kV程度以上の正の電圧、又は、-1.5~-3kV程度以上の負の電圧を印加することでそれぞれコロナ放電が生成する。コロナ放電が維持される単一の放電電極に対しては、その印加電圧に応じて一般的に1~30μA程度の電流が流入し、当該電流量に応じた量のイオンがコロナ放電部で発生するものと考えられる。
【0055】
コロナ放電の発生電圧やコロナ放電により消費される電流量は、放電電極の形状の他、放電電極の周囲に存在する気体分子によっても変化する。本発明に係る抵抗率測定装置は、大気中におけるコロナ放電の他、大気に換えて各種の気体中でコロナ放電を生じさせることによって被測定物の抵抗値を測定することができる。
特に本発明においてコロナ放電により発生したイオンを含むイオン空間を被測定物に給電するためのプローブとして使用する際には、当該イオンが被測定物表面との間で電子の授受を行って中性化する過程において、被測定物に応じて当該イオンとの間で各種の化学反応を生じ、被測定物の表面の汚染等を生じる可能性が考えられる。当該場合には、例えば、アルゴン等の不活性ガス中で本発明に係る抵抗率測定装置を使用することにより、被測定物の表面の汚染等を防止することができる。
【0056】
本発明に係る抵抗率測定装置においては、放電電極において生じるコロナ放電により形成されるイオンが流入可能な位置に対向電極が設けられ、放電電極に流入する電流量と当該対向電極から流出する電流量に基づいて、被測定物を流通する電流量を求めることを特徴にする。このため、当該対向電極は、被測定物に流入するイオン以外のイオンを捕捉可能な形態で設けられることが好ましい。
【0057】
典型的には、放電電極のコロナ放電部を囲む環状や管状の対向電極とすることにより、イオン空間がコロナ放電部の周囲に閉じ込められ、対向電極や被測定物に流入しないイオンの発生を抑制できる点で好ましい。また、対向電極をドーム形状等として、イオン空間のイオンが漏出することを積極的に防止することも有効である。
対向電極は、導電性を有する金属等によって構成することが可能であり、板状の金属体等を使用する以外に、メッシュ状やグリッド状の形態とすることも可能である。また、被測定物の表面形状等に応じて、適宜の形態を有する対向電極とすることができる。
【0058】
対向電極を電気的に接地することにより安定した測定が可能となる一方で、以下に説明するように、対向電極と被測定物にそれぞれ流入する電流量の割合を調整する目的等により、対向電極に所定の電位を付与して使用することができる。例えば、対向電極に対して放電電極と同じ極性の電位を印加することにより、イオン空間から対向電極に流入する電流量が減少し、特に高抵抗値を有する被測定物の抵抗値の測定精度を高めることができる。
【0059】
例えば、
図4に示すように、本発明に係る抵抗率測定装置は、放電電極1から対向電極3を介して電流を生じる経路に存在する内部抵抗(R1)と、放電電極1から被測定物10を介して電流を生じる経路に存在する内部抵抗(R2+Rs)の比率を、当該各経路に生じる電流値を検知することによって評価するものである。
上記測定においては、内部抵抗R1,R2の大きさ等を適宜調整することによって、被測定物10の抵抗値(Rs)を検知する電流値において顕在化させることにより、被測定物10の抵抗値(Rs)の測定精度を向上し、また、その測定範囲を拡大することができる。
【0060】
具体的には、被測定物10が有する抵抗値(Rs)に応じて、対向電極3から流出する電流量(I2)が、放電電極1に流入する電流量(I1)の1/2付近になるように測定系を調整することにより、被測定物10を介する内部抵抗(R2+Rs)の変化を精度良く検知可能となり、被測定物10が有する抵抗値(Rs)の測定精度を向上することができる。また、被測定物10を介する内部抵抗(R2+Rs)における、被測定物10が有する抵抗値(Rs)の比率を高めることで、当該抵抗値(Rs)の測定精度を向上することができる。
主にイオン空間等に起因して生じる内部抵抗R1は、コロナ放電部5と対向電極3の距離によって調整することができる。また、同様に内部抵抗R2はコロナ放電部5と被測定物10の表面の距離によって調整することができる。
【0061】
放電電極に対して所定の電圧を印加することで生じるコロナ放電部に対して接地された対向電極等を遠方から近づける場合、コロナ放電部と対向電極等の距離が数cm程度以下になった際にコロナ放電部の周囲のイオン空間から対向電極へのイオンの流入を生じ、対向電極から流出する電流量が観察されるようになる。その後、コロナ放電部と対向電極の距離を短縮することで、対向電極から流出する電流量が拡大し、その内部抵抗が縮小するものと考えられる。一方、コロナ放電部と対向電極の距離が1mm程度以下になった際には、放電電極と対向電極の間でアーク放電等を生じることで、コロナ放電の維持が困難になる。
【0062】
本発明に係る抵抗率測定装置においては、対向電極から流出する電流量が観察され、且つ、コロナ放電が維持される範囲内で、コロナ放電部に対する対向電極や被測定物の表面の距離を適宜調整することにより、イオン空間等に起因する内部抵抗R1,R2を調整することができる。
【0063】
本発明に係る抵抗率測定装置においては、被測定物10の内部に帯電手段から流入するイオンに起因する電流の流れを定常的に生じさせると共に、抵抗値を測定する部位を特定するために、被測定物10に対して除電手段を設けることが好ましい。
被測定物10に対して設けられる除電手段として、
図1に示すように、主に帯電手段として使用される放電電極1と別に設けられる放電電極2を使用し、当該放電電極2においてコロナ放電を生じさせることで生成するイオン空間8を除電手段とすることができる。又は、
図4に示すように、被測定物10の表面に導電相12を接触させることで除電手段とすることができる。
【0064】
図1に示すように、除電手段として放電電極2により生成するイオン空間8を使用し、放電電極1に印加される電圧と逆の極性の電圧を印加することにより、当該放電電極2に印加される電圧が放電電極1に印加される電圧と重畳して被測定物10に対して電界を与えるため、特に高抵抗値を有する被測定物10に対して好ましく使用される。また、放電電極2により生成するイオン空間8を除電手段のためのプローブとすることで、被測定物10に電極等を接触させない状態で抵抗値の測定が可能になる。
【0065】
また、除電手段を構成する上記放電電極2の近傍に対向電極を接地することで、放電電極2におけるコロナ放電を安定化することができる。更に、当該放電電極2と対向電極に流出/流入する電流量を測定することによって、被測定物10の抵抗値の測定の精度を高めることができる。
【0066】
一方、
図4に示すように、被測定物10の所定の部位に電極等を接触させることが可能な場合には、除電手段として、導電相12を電極として被測定物10の表面に接触させて使用することができる。導電相12を電極として除電手段を構成する際には、当該電極を接地させる他、当該電極に放電電極1と逆の極性の電圧を印加することにより、当該放電電極2に印加される電圧が放電電極1により印加される電圧と重畳して被測定物10に対して電界を与えるため、被測定物10が高抵抗値を有する際に好ましく使用される。また、当該電極に放電電極1と同じ極性の電圧を印加することにより、低い抵抗値を有する被測定物10の評価を行うことができる。
【0067】
本発明に係る抵抗率測定装置においては、被測定物10において抵抗値を測定したい箇所を含む経路に電流を誘起できる被測定物10の部分に、それぞれ帯電手段と除電手段を設けることができる。
例えば、ウェハー状の被測定物10に対しては、その表面側と裏面側にそれぞれ帯電手段と除電手段を作用させることで、主に被測定物10の厚さ方向に被測定物10の内部を流れる電流が誘起され、当該経路に沿った抵抗値を測定することができる。また、ウェハー状の被測定物10の一方の表面において、所定の距離をおいて帯電手段と除電手段を作用させることで、当該被測定物10の面内方向に、被測定物10の内部又は表面を流れる電流が誘起され、当該経路に沿った抵抗値を測定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明によれば、電極などを被測定物の表面に接触させない状態で、当該被測定物が有する抵抗値を測定可能となり、抵抗値の測定が求められる各種の用途に適用することができる。
【符号の説明】
【0069】
1,2 放電電極
3 対向電極
5,6 コロナ放電部
7,8 イオン空間
10 被測定物
12 導電相