(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-24
(45)【発行日】2024-05-07
(54)【発明の名称】含フッ素アルコールZrコンポジット
(51)【国際特許分類】
C08G 79/00 20060101AFI20240425BHJP
B01J 20/26 20060101ALI20240425BHJP
C02F 1/28 20230101ALI20240425BHJP
【FI】
C08G79/00
B01J20/26 B
C02F1/28 L
(21)【出願番号】P 2020031507
(22)【出願日】2020-02-27
【審査請求日】2022-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】502145313
【氏名又は名称】ユニマテック株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504229284
【氏名又は名称】国立大学法人弘前大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114351
【氏名又は名称】吉田 和子
(72)【発明者】
【氏名】根岸 亮太
(72)【発明者】
【氏名】木島 哲史
(72)【発明者】
【氏名】赤津 康彦
(72)【発明者】
【氏名】澤田 英夫
【審査官】谷合 正光
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-033164(JP,A)
【文献】特開平07-138047(JP,A)
【文献】特開平05-125083(JP,A)
【文献】特開2000-290535(JP,A)
【文献】特開2019-143102(JP,A)
【文献】特開2002-038038(JP,A)
【文献】特表2019-526371(JP,A)
【文献】国際公開第2021/171745(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 79/00
B01J 20/26
C02F 1/28
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式
HO(CH
2
)
a
CF(CF
3
)〔OCF
2
CF(CF
3
)〕
b
O(CF
2
)
c
O〔CF(CF
3
)CF
2
O〕
d
CF(CF
3
)(CH
2
)
a
OH 〔I〕
(ここで、aは1~3、b+dは0~50、cは1~6の整数である)で表される含フッ素アルコールおよびジルコニウム化合物の縮合体からなる含フッ素アルコールZrコンポジット。
【請求項2】
さらに有機けい素化合物を含む請求項1記載の含フッ素アルコールZrコンポジット。
【請求項3】
ジルコニウム化合物がオキシ塩化ジルコニウムである請求項1または2記載の含フッ素アルコールZrコンポジット。
【請求項4】
有機けい素化合物がオルトけい酸テトラ低級アルキルまたはヒドロキシル基末端ポリジメチルシロキサンである請求項2記載の含フッ素アルコールZrコンポジット。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかの請求項に記載された各成分を、塩基性触媒または酸性触媒を用いて縮合反応させることを特徴とする縮合体の製造法。
【請求項6】
塩基性触媒がアンモニア水溶液である請求項5記載の縮合体の製造法。
【請求項7】
酸性触媒が無機酸である請求項5記載の縮合体の製造法。
【請求項8】
排水中に含まれるフッ素化合物の吸着剤として用いられる請求項1または2記載の含フッ素アルコールZrコンポジット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素アルコールZrコンポジットに関する。さらに詳しくは、排水中に含まれるフッ素化合物の回収などに有効に用いられる含フッ素アルコールZrコンポジットに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、多様な応用分野での鉱物および非鉱物基体の永久耐油および耐水表面処理もしくは変性のための、改良された表面特性を有する新規のフッ素含有組成物であって、単一成分形態で存在する組成物が記載されている。
【0003】
同時にフッ素含有量を抑えながら、この組成物は著しく向上した応用例に特化した特性を示し、また適切な安定化成分および親水性シラン成分と組み合わせて、疎水性、疎油性および耐じん性に関して最適にすることも可能である。この組成物は、全般的にすぐれた保存安定性を示すと述べられている。
【0004】
すなわち、多孔性および非多孔性基体の永久的な耐油および耐水表面処理のための、固体樹脂に対するフッ素含有量5~75質量%を有する液状の、フッ素含有および単一成分の組成物であって、適切な安定化成分および親水性シラン成分と組み合わせて、保存安定性、疎水性、疎油性および耐塵性にすぐれた組成物が記載されている。
【0005】
しかしながら、ここでは現在環境面から削減が求められているパーフルオロオクタン酸およびその前駆体であるC8以上のパーフルオロアルキル基を有する含フッ素アルコールが用いられているばかりではなく、鉱物および非鉱物基体の表面処理剤の調製に際し、毒性の高いイソシアネート化合物を用いることでフッ素化合物にシリル基を導入しており、したがってその実施に際しては製造環境を整える必要がある。
【0006】
本出願人らは先に、環境中に放出されてもパーフルオロオクタン酸等を生成させず、しかも短鎖の化合物に分解され易いユニットを有する含フッ素アルコールを用いた含フッ素シリカコンポジット粒子として、一般式
HO-A-RF′-A-OH 〔Ib〕
(ここで、RF′は炭素数8未満のパーフルオロアルキレン基を有し、O、SまたはN原子を含有する直鎖状または分岐状のパーフルオロアルキレン基であり、Aはアルキレン基である)で表される含フッ素アルコールおよびアルコキシシランとシリカ粒子との縮合体からなる含フッ素シリカコンポジット粒子を提案している(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特表2011-511113号公報
【文献】特開2014-196480号公報
【文献】特開2008-38015号公報
【文献】米国特許第3,574,770号公報
【文献】特開平5-147943号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、一般式
HO-A-RF-A-OH 〔I〕
(ここで、RFは炭素数6以下のパーフルオロアルキレン基またはポリフルオロアルキレン基およびエーテル結合を有する基であり、Aは炭素数1~3のアルキレン基である)で表される含フッ素アルコールの縮合体からなる含フッ素アルコールコンポジットにおいて、フッ素化合物を含んだ排水中からフッ素化合物を吸着して分離するための吸着剤等として利用可能な含フッ素アルコールコンポジットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる本発明の目的は、一般式
HO(CH
2
)
a
CF(CF
3
)〔OCF
2
CF(CF
3
)〕
b
O(CF
2
)
c
O〔CF(CF
3
)CF
2
O〕
d
CF(CF
3
)(CH
2
)
a
OH 〔I〕
(ここで、aは1~3、b+dは0~50、cは1~6の整数である)で表される含フッ素アルコールおよびジルコニウム化合物の縮合体からなる含フッ素アルコールZrコンポジットによって達成される。このコンポジット中には、さらに有機けい素化合物を含有せしめることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る含フッ素アルコールZrコンポジットは、撥水撥油性、親水撥油性または撥水親油性とそれぞれ性質が異なるが、コンポジットはどの性質であってもフッ素化合物を吸着することができ、フッ素化合物を含んだ排水中からフッ素化合物を吸着して分離するための吸着剤等として有効に利用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
含フッ素アルコールとしては、
HO(CH
2
)
a
CF(CF
3
)〔OCF
2
CF(CF
3
)〕
b
O(CF
2
)
c
O〔CF(CF
3
)CF
2
O〕
d
CF(CF
3
)(CH
2
)
a
OH 〔I〕
a:1~3、好ましくは1
b+d:0~50、好ましくは1~20
b+dの値に関しては、分布を有する混合物であってもよい
c:1~6、好ましくは2~4
で表される化合物が用いられる。
【0014】
一般式〔I〕で表される含フッ素アルコールにおいて、a=1の化合物は特許文献3~4に記載されており、次のような一連の工程を経て合成される。
FOCRfCOF → H3COOCRfCOOCH3 → HOCH2RfCH2OH
Rf:-C(CF3)〔OCF2C(CF3)〕aO(CF2)cO〔CF(CF3)CF2O〕bCF(CF3)-
【0015】
また、ジルコニウム化合物としては、ジ-n-ブトキシジルコニウムビス(アセチルアセトネート)、ジ-n-ブトキシジルコニウムビス(エチルアセトアセテート)等も用いられるが、好ましくは塩化ジルコニウム、水酸化ジルコニウムまたは反応によってこれらを生成させるオキシ塩化ジルコニウムZrCl2O・8H2O等のジルコニウム酸塩が用いられる(特許文献5参照)。これらのジルコニウム化合物は、含フッ素アルコールに対して約0.1~10倍、好ましくは約0.2~4倍量程度用いられる。
【0016】
さらに、反応系には有機けい素化合物を共存させることもでき、例えばテトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、トリメトキシメチルシラン、トリエトキシメチルシラン、トリメトキシエチルシラン、トリエトキシエチルシラン等の炭素数1~5の低級アルキル基を有するオルトけい酸テトラ低級アルキルやトリエトキシクロロシラン、トリメトキシフェニルシラン、トリエトキシフェニルシラン等を、含フッ素アルコール100重量部に対して約500重量部以下の割合で用いることもできる。
【0017】
また、有機けい素化合物として、ヒドロキシル基末端ポリジメチルシロキサン、ヒドロキシル基末端ポリジフェニルシロキサン等を、含フッ素アルコールに対して約100重量部に対して約10~500重量部の割合で用いることもできる。
【0018】
これらの有機けい素化合物を含むコンポジットの方が、フッ素化合物の吸着性能はより向上する。
【0019】
これらの含フッ素アルコール、ジルコニウム化合物(および有機けい素化合物)は、塩基性または酸性の触媒の存在下で反応させることにより、これらの縮合体よりなる含フッ素アルコールZrコンポジットを形成させる。
【0020】
縮合反応は、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類、アセトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類などの溶媒中、下記塩基性触媒または酸性触媒の存在下で行われる。その際、ジルコニウム化合物は、これらの有機溶媒溶液として添加される。
【0021】
これら各成分間の反応は、触媒量の塩基性触媒または酸性触媒、例えばアンモニア水あるいは水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等のアルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物の水溶液、または塩酸、硫酸等の存在下で、約0~100℃、好ましくは約10~30℃の温度で約0.5~48時間、好ましくは約1~10時間程度反応させることにより行われる。反応終了後、約50~90℃、減圧下で溶媒を蒸発させることにより、含フッ素アルコールZrコンポジットが取得される。
【0022】
含フッ素アルコールZrコンポジットの粒子径(動的光散乱法により測定)は約0.5~50μm、好ましくは約1~30μmである。
【0023】
含フッ素アルコールZrコンポジットは、相対的に親フッ素性(フルオロフィリック)に富み、したがってビスフェノールAF等のフッ素化合物を吸着する吸着剤等として用いることができる。
【0024】
具体的には、本発明の含フッ素アルコールZrコンポジットは、水やメタノール中で分散しているフッ素化合物を吸着することができるので、このコンポジット粒子を遠心分離機等で回収後、フッ素系溶媒中に分散させてフッ素化合物を分離することが可能となる。
【実施例】
【0025】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0026】
実施例1
容量13mlの反応容器に、含フッ素アルコール
HOCH2CF(CF3)〔OCF2CF(CF3)〕nO(CF2)2O〔CF(CF3)CFO2O〕mCF(CF3)CH2OH
〔OXF9DOH、n+m=7〕
100mgおよびメタノール5mlを仕込み、そこにオキシ塩化ジルコニウム(和光純薬製品)のエタノール溶液(濃度0.050g/ml)1ml(オキシ塩化ジルコニウムとして50mg)を加え10分間攪拌し、次いで25重量%アンモニア水溶液1mlを攪拌しながら滴下し、室温条件下で5時間攪拌した。
【0027】
その後、85℃、減圧下で溶媒を取り除き、得られた含フッ素アルコールZrコンポジット粉末を50℃、減圧下で1日乾燥させた。
【0028】
含フッ素アルコールZrコンポジット粉末を用いて、液滴の接触角測定および有機物吸着率の測定が行われた。
液滴の接触角(単位:°):
コンポジット粉末を直径5mm、深さ1mmのアルミニウム皿の中に平らになるように入れて測定サンプルとした。この測定サンプルに、シリンジを用いてn-ドデカンまたは水の液滴4μlを静かに接触させた。接触角計(協和界面化学製Drop Master 300)を用い、液滴がサンプルに吸収された場合が0°、液滴を接触させても全く吸収されずサンプルから離した際に液滴がシリンジの先に残存した場合を180°とした。
有機物質吸着率:
濃度3μmol/Lの有機化合物(ビスフェノールAまたはビスフェノールAF)の水94重量%-メタノール6重量%混合溶液を作製し、この溶液5mlにコンポジット粉末50mgを加え、スターラーで一日攪拌した。攪拌した溶液をシリンジに取り付けたフィルターを通してコンポジットを除去し、得られた溶液について、UV-visスペクトルにより極大吸収波長の吸光度Aの測定を行った。有機化合物吸着前の有機化合物溶液の吸光度A0を用いて、有機化合物吸着率を次の式により算出した。
有機化合物吸着率(%)={ (A0 - A) / A0 }×100
【0029】
実施例2
実施例1において、さらにオルトけい酸テトラエチル〔TEOS〕が0.25ml用いられた。
【0030】
実施例3
実施例1において、さらにヒドロキシル基末端ポリジメチルシロキサン100mgが用いられた。
【0031】
実施例4
実施例2において、さらにヒドロキシル基末端ポリジメチルシロキサン100mgが用いられた。
【0032】
実施例5
実施例4において、OFX9DOH量が50mgに変更された。
【0033】
実施例6
実施例4において、ヒドロキシル基末端ポリジメチルシロキサン量が50mgに変更された。
【0034】
比較例
実施例3において、ジルコニウム塩および25重量%アンモニア水溶液が用いられなかった。
【0035】
生成物は、粉末状ではないオイル状のため、静的接触角および有機物吸着率のいずれも測定できなかった。
【0036】
以上の各実施例における測定結果は、次の表に示される。
表
注1) ドデカンの静的接触角180°は撥油性を示し、
水の静的接触角180°は撥水性を示す。
注2) 実施例3の水の経時的静的接触角は、次の通りである。
注3) 比較例に関連して、ジルコニウム酸塩を添加してしない系では
アンモニア水溶液を添加しても反応が起きないので、アンモニア
水溶液を添加していない。