(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-24
(45)【発行日】2024-05-07
(54)【発明の名称】シンチレータおよびシンチレータ用単結晶の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09K 11/80 20060101AFI20240425BHJP
C09K 11/00 20060101ALI20240425BHJP
C09K 11/08 20060101ALI20240425BHJP
C30B 29/28 20060101ALI20240425BHJP
C30B 13/00 20060101ALI20240425BHJP
G01T 1/202 20060101ALI20240425BHJP
G01T 1/20 20060101ALI20240425BHJP
【FI】
C09K11/80
C09K11/00 E
C09K11/08 B
C30B29/28
C30B13/00
G01T1/202
G01T1/20 E
(21)【出願番号】P 2022505168
(86)(22)【出願日】2021-02-26
(86)【国際出願番号】 JP2021007278
(87)【国際公開番号】W WO2021177153
(87)【国際公開日】2021-09-10
【審査請求日】2022-09-02
(31)【優先権主張番号】P 2020037477
(32)【優先日】2020-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504143441
【氏名又は名称】国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003029
【氏名又は名称】弁理士法人ブナ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村上 健太
(72)【発明者】
【氏名】柳田 健之
(72)【発明者】
【氏名】河口 範明
(72)【発明者】
【氏名】中内 大介
(72)【発明者】
【氏名】赤塚 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】福嶋 宏之
【審査官】黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】MENG Qinghuan et al.,Synthesis and luminescent properties of Tb3Al5O12:Ce3+ phosphors for warm white light emitting diode,Journal of Molecular Structure,2017年09月14日,Vol.1151, No.5,pp.112-116
【文献】ONISHI Yuya et al.,Photoluminescence properties of Tb3Al5O12:Ce3+ garnet synthesized by the metal organic decomposition,Optical Materials,2017年01月21日,Vol.64,pp.557-563
【文献】BI Jun et al.,Co-Precipitated Synthesis and Photoluminescence Properties of Ce3+ Activated Terbium Aluminum Garnet,Key Engineering Materials,2014年03月12日,Vol.602-603,pp.1028-1033
【文献】NAKAUCHI Daisuke et al.,Effects of Ga substitution in Ce:Tb3GaxAl5-xO12 single crystals for scintillator applications,Japanese Journal of Applied Physics,日本,2017年12月01日,Vol.57, 02CB02,pp.1-5
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/
C30B 29/28
C30B 13/00
G01T 1/202
G01T 1/20
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ceを添加したTAGG(テルビウム・アルミニウム・ガリウム・ガーネット)系単結晶を含み、該単結晶の構成元素(Ce、Tb、RE(REはTbおよびCe以外のTbサイトの構成元素)、AlおよびGa)の原子数の比率Ga/(Ga+Al)が1%以上
3%以下、Ce/(Tb+Ce+RE)が
0.6%以上
0.8%以下である、シンチレータ。
【請求項2】
請求項
1に記載のシンチレータと受光素子を組み合わせたガンマ線検出器。
【請求項3】
前記受光素子が、ガイガーモードAPDである、請求項
2に記載のガンマ線検出器。
【請求項4】
Ceを添加したTAGG(テルビウム・アルミニウム・ガリウム・ガーネット)系単結晶を、原料中の元素(Ce、Tb、RE(REはTbおよびCe以外のTbサイトの構成元素)、AlおよびGa)の原子数の比率Ga/(Ga+Al)が2%以上
5%以下、Ce/(Tb+Ce+RE)が
2%以上
3%以下である酸化物原料を用いて製造する、シンチレータ用単結晶の製造方法。
【請求項5】
FZ法により前記TAG系単結晶または前記TAGG系単結晶を製造する、請求項
4記載のシンチレータ用単結晶の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、放射線の計測に使用されるシンチレータおよびシンチレータ用単結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シンチレータは、X線やγ線などの放射線を照射すると発光する物質のことであり、光検出器と組み合わせて、放射線の計測に使用される。シンチレータの主要な特性として、発光量とシンチレーション減衰時定数がある。特に、CT(computed tomography)、PET(positron emission tomography)などの医用画像診断用途には、画質の向上、被験者の被ばく量低減、検査時間の短縮のため、発光量が高くてシンチレーション減衰時定数が短いシンチレータが求められる。
【0003】
シンチレータ用材料の候補として、ガーネット系材料が着目されている。非特許文献1では、FZ(フローティングゾーン)法により、Ceを添加したTAG(テルビウム・アルミニウム・ガーネット)とTAGG(テルビウム・アルミニウム・ガリウム・ガーネット)とを作製し、特性を評価している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】D.Nakauchi,G.Okada,N.Kawano,N.Kawaguchi,T.Yanagida,Effects of Ga substitution in Ce:Tb3GaxAl5-xO12single crystals for scintillator applications,Jpn. J. Appl. Phys. 57,02CB02 (2018).
【文献】T.Yanagida,Y.Fujimoto,T.Ito,K.Uchiyama,K.Mori,Development of X-ray induced afterglow characterization system, Appl. Phys. Exp. 7, 062401 (2014).
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示のシンチレータは、Ceを添加したTAG(テルビウム・アルミニウム・ガーネット)系単結晶を含む。単結晶は、Gaを実質的に含まず、構成元素(Ce、Tb、RE(REはTbおよびCe以外のTbサイトの構成元素))の原子数の比率Ce/(Tb+Ce+RE)が0.4%以上0.7%以下である。
【0006】
本開示のシンチレータは、Ceを添加したTAGG(テルビウム・アルミニウム・ガリウム・ガーネット)系単結晶を含む。単結晶の構成元素(Ce、Tb、RE(REはTbおよびCe以外のTbサイトの構成元素)、AlおよびGa)の原子数の比率Ga/(Ga+Al)は1%以上6%以下、Ce/(Tb+Ce+RE)は0.3%以上1.4%以下である。
【0007】
本開示のシンチレータ用単結晶の製造方法は、Ceを添加したTAG(テルビウム・アルミニウム・ガーネット)系単結晶を、原料中の元素(Ce、Tb、RE(REはTbおよびCe以外のTbサイトの構成元素))の原子数の比率Ce/(Tb+Ce+RE)が1.5%以上2.5%以下であるGaを実質的に含まない酸化物原料を用いて製造する。
【0008】
本開示のシンチレータ用単結晶の製造方法は、Ceを添加したTAGG(テルビウム・アルミニウム・ガリウム・ガーネット)系単結晶を、原料中の元素(Ce、Tb、RE(REはTbおよびCe以外のTbサイトの構成元素)、AlおよびGa)、AlおよびGa)の原子数の比率Ga/(Ga+Al)が2%以上10%以下、Ce/(Tb+Ce+RE)が1%以上5%以下である酸化物原料を用いて製造する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示に係るシンチレータ用単結晶の発光量とシンチレーション減衰時定数とを示すグラフである。
【
図2】パルス波高スペクトルの例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示に係るシンチレータについて説明する。シンチレータとは、X線やγ線などの放射線を照射すると発光する物質のことであり、光検出器と組み合わせて、放射線の計測に使用される。
【0011】
本開示の一実施形態に係るシンチレータは、Ceを添加したTAG(テルビウム・アルミニウム・ガーネット)系単結晶を含む。TAG系単結晶はガーネット構造の結晶構造を有し、主成分元素としてTb、AlおよびO(酸素)を有しており、Gaを実質的に含まない。TAG系単結晶は、副成分元素として結晶中に固溶可能な元素を1種以上、例えば、Tbと置換固溶可能な元素REを含む。元素REは、TbおよびCe以外のTbサイトの構成元素であり、例えば、Y、Gd、Luなどの希土類元素が挙げられる。単結晶の構成元素(Ce、TbおよびRE)の原子数の比率Ce/(Tb+Ce+RE)は、0.4%以上0.7%以下である。REは、結晶中に含有されていなくてもよいし、2種以上含有されていてもよい。REが2種以上含有されている場合、REの原子数は、REに該当する原子の総数となる。
【0012】
本開示の他の実施形態のシンチレータは、Ceを添加したTAGG(テルビウム・アルミニウム・ガリウム・ガーネット)系単結晶を含む。TAGG系単結晶は、ガーネット構造の結晶構造を有し、主成分元素として、Tb、Al、GaおよびO(酸素)を有する。TAGG系単結晶は、副成分元素として、結晶中に固溶可能な元素を1種以上、例えば、Tbと置換固溶可能な元素REを含む。元素REは、TbおよびCe以外のTbサイトの構成元素であり、例えば、Y、Gd、Luなどの希土類元素が挙げられる。単結晶の構成元素(Ce、Tb、RE、AlおよびGa)の原子数の比率が、Ga/(Ga+Al)が1%以上6%以下、Ce/(Tb+Ce+RE)が0.3%以上1.4%以下である。REは、結晶中に含有されていなくてもよいし、2種以上含有されていてもよい。REが2種以上含有されている場合、REの原子数は、REに該当する原子の総数となる。
【0013】
TAG系結晶およびTAGG系結晶は、Ce以外の共添加元素を少なくとも1種含んでいてもよい。このような共添加元素としては、例えば、Li、Na、K、Rb、Cs、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、W、Zn、Cd、B、In、C、Si、Ge、Teなどが挙げられる。
【0014】
シンチレータの主要な特性として、発光量とシンチレーション減衰時定数がある。特に、CT(computed tomography)、PET(positron emission tomography)などの医用画像診断用途に使用されるシンチレータには、画質の向上、被験者の被ばく量低減、および検査時間の短縮のため、発光量が高く、シンチレーション減衰時定数の短いシンチレータが求められる。
【0015】
シンチレータの発光量(Light Yield)とは、照射した放射線の単位エネルギーあたりにシンチレータから生じる光子数のことを表す。発行量の単位としては、photons/MeVを用いることができる。発光量は、放射線を照射したシンチレータからの発光を単一光子計数法によって評価することで測定できる。一実施形態に係るシンチレータにおいて、発光量は、137Cs線源からの約662keVのガンマ線をシンチレータに照射して測定した発光量のことを示す。
【0016】
シンチレーション減衰時定数は、放射照射時のシンチレータの蛍光減衰曲線(シンチレーション減衰曲線)から得られる。シンチレータの発光強度は、一般に指数関数的に減衰する。シンチレーション減衰曲線は、例えば励起源としてパルスX線を用いた時間相関単一光子計数法(Time-Correlated Single Photon Counting、TCSPC)によって測定することができる。シンチレーション減衰曲線は単一成分の指数関数、または複数成分の指数関数の和で近似することができる。近似式として下記の式を用いることができる。
Y(t)=Σ{Aiexp(-t/τi)}+C ・・・式[1]
【0017】
式中、Y(t)は時間tにおけるシンチレータの発光強度を表す。iは正の整数で1、2、3・・・を示し、単一成分の指数関数の場合にiは1に、2成分の指数関数の場合にiは2になる。Σは数学記号で、iが1からn(成分の数)になる時の括弧内の関数の和を計算することを意味する。Aiは減衰曲線全体に対するi成分目の関数の占める割合に関係する値で、Cは定数を示す。τiがi成分目のシンチレーション減衰時定数になる。
【0018】
本発明におけるシンチレーション減衰時定数は、パルスX線を用いた時間相関単一光子計数法によって得られたシンチレーション減衰曲線から、装置応答関数(Instrument Response Function、IRF)に相当する発光強度の減衰の開始から3ナノ秒以内の成分を除いた部分について、2成分で近似し、得られた早い成分および遅い成分の2つのシンチレーション減衰時定数の内、早い成分のシンチレーション減衰時定数のことを示す。
【0019】
本開示のシンチレータ用結晶は単結晶からなる。単結晶は、FZ(フローティングゾーン)法、CZ(チョクラルスキ)法などの方法で製造できる。本開示では、FZ法を用いて単結晶を製造した。FZ法は、原材料を棒状に成形し、鉛直方向にぶら下げて保持し、その一部を加熱溶融させて融液部を形成する。融液部を一方向に移動させることにより融液から単結晶を析出させることで単結晶を製造する方法である。
【0020】
本開示の一実施形態のシンチレータ用単結晶の製造方法は、Gaが実質的に含まれないCeを添加したTAG(テルビウム・アルミニウム・ガーネット)系単結晶を、原料中の元素の比率Ce/(Tb+Ce+RE)が1.5%以上2.5%以下であるGaを実質的に含まない酸化物原料を用いて製造する。
【0021】
本開示の他の実施形態のシンチレータ用単結晶の製造方法は、Ceを添加したTAGG(テルビウム・アルミニウム・ガリウム・ガーネット)系単結晶を、原料中の元素の比率Ga/(Ga+Al)が2%以上10%以下、Ce/(Tb+Ce+RE)が1%以上5%以下である酸化物原料を用いて製造する。
【0022】
1次原料としてCe、Tb、AlおよびGaの酸化物(例えば、CeO2、Tb4O7、Al2O3、およびGa2O3)、ならびに副成分元素の酸化物、共添加元素の酸化物を使用する。各元素が所望の比率となるように混合および焼成して得られたTAG系多結晶またはTAGG系多結晶を含む2次原料を原料として、単結晶を製造してもよい。原料中に、結晶中でTbと置換固溶可能な構成元素(例えばY、Gd、Luなどの希土類元素)の酸化物を含んでいてもよい。さらに、Ce以外の共添加元素の酸化物を含んでいてもよい。
【0023】
上記構成により、発光量が高く、シンチレーション減衰時定数の短いシンチレータを提供することができる。すなわち、TAG系結晶中の各元素の比率Ce/(Tb+Ce+RE)が0.4%以上0.7%以下、特に好ましくは0.6%以上0.7%以下であれば発光量が高く、シンチレーション減衰時定数の短いシンチレータとなる。TAGG系結晶中の各元素の比率Ga/(Ga+Al)が1%以上6%以下、特に好ましくは1%以上3%以下で、Ce/(Tb+Ce+RE)が0.3%以上1.4%以下、特に好ましくは0.4%以上0.8%以下であれば発光量が高く、シンチレーション減衰時定数の短いシンチレータとなる。
【0024】
本開示に係るシンチレータはシリコンフォトダイオードなどの任意の受光素子と組み合わせてガンマ線検出器とすることができる。すなわち、シンチレータから発せられた光を、受光素子によって電気信号に変換することによって、ガンマ線の有無および量を電気信号として捉えることができる。
【0025】
本開示に係るシンチレータは、受光素子との組み合わせに適した形状に加工して用いることができる。加工に際しては、公知のブレードソー、ワイヤーソーなどの切断機、研削機、あるいは研磨盤を何ら制限無く用いる事ができる。形状は特に制限されない。受光素子に対向する光出射面を有し、当該光出射面は平坦であることが望ましく、光学研磨が施してもよい。光出射面を有することによって、シンチレータから生じた光を効率よく受光素子に入射できる。
【0026】
光出射面の形状は限定されず、一辺の長さが数mm~数百mm角の四角形、あるいは直径が数mm~数百mmの円形など、用途に応じた形状を適宜選択して用いることができる。シリコンフォトダイオードの受光面の大きさよりも小さい方が、受光面に届かずに散逸する発光が少なくなるため好ましい。受光素子に対向しない面に、アルミニウム、硫酸バリウム、ポリテトラフルオロエチレンなどからなる光反射膜を施すことにより、シンチレータで生じた光の散逸を防止することができる。
【0027】
受光素子には任意のものを用いることができる。大きな利得が実現できるガイガーモードAPD(アバランシェ・フォトダイオード)を用いることで高感度にシンチレータの光を受光できる。一例を挙げると浜松ホトニクス社製MPPC(Multi-Pixel Photon Counter)を用いることができる。MPPCはSiPM(Si-Photo-Multiplier)とも呼ばれる素子で、ガイガーモードAPDをマルチピクセル化したものである。
【0028】
本開示のシンチレータは受光素子の受光面に任意の光学接着剤や工学グリースで接合して、ガンマ線検出器として用いることができる。シンチレータを接着した受光素子は、環境中の光の入射を防ぐ目的で、光を通しにくい任意の材質の遮光材で覆ってもよい。
【0029】
受光素子は、電圧を印加することで高感度に用いることができ、出力される電気信号を観測することで、ガンマ線の検出を確認できる。受光素子から出力される電気信号は、前置増幅器、波形成形増幅器、多重波高分析器等に入力し、単一光子計数法によって測定してもよい。任意の電流測定器(例えばピコアンメーター)に接続して電流値の変化を調べ、受光量の変化を電流値の変化によって確認することもできる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明の実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら制限されるものではない。
【0031】
条件1~条件13のシンチレータ用単結晶を表1に示す原料組成で、FZ法により作製した。このうち、条件1、5、14は比較例である。条件5は、非特許文献1に記載のTAGG単結晶で、条件14は市販のCeドープLYSO(ルテチウム・イットリウム・シリケート)単結晶である。
【0032】
【0033】
FZ法によるシンチレータ用単結晶の作製は次の手順で行った。表1に示す組成の原料粉末を乳鉢で混合後、棒状に成形して静水圧プレスにより、20kNの圧力で10分間加圧した。次に電気炉により、1400℃、8時間の条件で焼結して原料棒を得た。原料棒は、ハロゲンランプによる加熱機構を備えたFZ法卓上型単結晶育成装置(キヤノンマシナリー製、Desktop IR Furnace)により単結晶化した。原料棒をカメラ画像で確認しながら溶融し、固溶界面が確認できる程度のランプ出力に設定しながら単結晶育成を行った。その際の原料棒の回転数は3rpm、引き下げ速度は3mm/hとした。得られた単結晶棒は、切断、研磨し、厚み2mm薄板状に加工し、評価用サンプルとした。
【0034】
各単結晶の発光量とシンチレーション減衰時定数、ICP-OES(IPC発光分析)による、条件8の結晶組成の分析結果、およびそれから予測される各条件の結晶組成を表1に記載した。比較例として、市販のCeドープLYSO単結晶(条件14)の測定も行った。
【0035】
発光量は単一光子計数法により測定した。試作した評価用サンプルは、光電子増倍管(浜松ホトニクス製、R7600U-200)の光学窓に、光学グリース(応用光研製、TSK5353)を用いて接着した。サンプルに137Cs線源によるガンマ線を照射して発光させた。光電子増倍管からの信号は、前置増幅器(ORTEC製、Model 113 Scintillation Preamplifier)、波形整形増幅器(ORTEC製、Model 570 Spectroscopy Amplifier)によって増幅整形し、マルチチャネルアナライザ(AMPTEK製、Pocket MCA8000A)を通してパルス波高スペクトルを得た。得られたパルス波高スペクトルにおいて観察された光電吸収ピークのピーク位置を、条件5のTAG単結晶の光電吸収ピークのピーク位置と比較することで、発光量を測定した。
【0036】
基準として用いた条件5のTAG単結晶の発光量は、20℃に保持したシリコンAPDを用いたパルス波高スペクトル測定によって得られた光電吸収ピークを、59Fe線源によるガンマ線を同シリコンAPDで直接検出して得られたピークと比較する方法により算出した。Si中で1個の電子正孔対を作るのに必要な光子のエネルギーは3.6eVであることから、55Fe線源からの5.9keVのガンマ線を照射すると、5900/3.6=1640個の電子正孔対が生成する。この直接検出ピークの値との比較により、発生した電子正孔対の数を求め、用いたシリコンAPDの波長感度特性から発光量を測定した。
【0037】
シンチレーション減衰時定数は、励起源としてパルスX線を用いた時間相関単一光子計数法装置(浜松フォトニクス、非特許文献2)により得られたシンチレーション減衰曲線を式[1]の指数関数に近似することで得られた。ここで得られたシンチレーション減衰時定数は、指数関数への近似において、シンチレーション減衰曲線から装置応答関数に相当する発光強度の減衰の開始から3ナノ秒以内の成分を除いた部分について、2成分で近似して得られた早い成分及び遅い成分の2つのシンチレーション減衰時定数の内、早い成分のシンチレーション減衰時定数のことを指す。
【0038】
図1に、各単結晶の発光量とシンチレーション減衰時定数とを示す。条件2~4、6~13は、条件1の単結晶および公知の比較例である条件5(非特許文献1)および条件14(市販のLYSO単結晶)よりも、シンチレーション減衰時定数および発光量の少なくともいずれかが優れていることがわかる。特に、条件2~4、8~10および12は、発光量が高く(50000以上)、条件7~12はシンチレーション減衰時定数が小さい(29以下)。したがって、条件8~10および12はシンチレーション減衰時定数および発光量ともに特に優れていることがわかる。
【0039】
次に、本開示のガンマ線検出器の実施例について説明する。
【0040】
表1の条件9のシンチレータ用単結晶とシリコン受光素子を組み合わせることとで本開示のガンマ線検出器を試作した。シリコン受光素子には、複数のガイガーモードAPDで構成されるMPPC(浜松ホトニクス製、S13360-6075CS)を用いた。条件9のシンチレータ用単結晶の研磨面を、MPPCの受光面に光学グリース(応用光研、TSK5353)を用いて接着し、受光面に対向しない面をポリテトラフルオロエチレンからなる光反射膜で覆うことで、検出部とした。
【0041】
検出部のMPPCは、電圧印加、信号読み出しが可能な市販の回路系(ANSeeN製)に接続し、全体を遮光した。MPPCのゲイン(電圧利得)は温度変化によって変動する。当該回路系は室温付近における温度変化に対し、MPPCへの印加電圧をわずかに変化させることで、ゲインが一定になるように制御する機能を有している。当該回路系からの信号線は、前置増幅器(ORTEC製、Model 113 Scintillation Preamplifier)、波形整形増幅器(ORTEC製、Model 570 Spectroscopy Amplifier)、マルチチャネルアナライザ(AMPTEK製、Pocket MCA8000A)の順で接続し、本開示のガンマ線検出器の実施例とした。
【0042】
作製したガンマ線検出器に、約53Vの電圧を印加しながら、137Cs線源による662keVのエネルギーを有するガンマ線および241Amからの59.5keVのエネルギーを有するガンマ線を照射し、得られた信号からそれぞれ波高分布スペクトルを作成した。その際、高強度の信号が波高分布スペクトルの描画範囲に収まるように、波形整形増幅器の増幅率を適宜調整した。その結果、得られた波高分布スペクトルから、それぞれ明瞭な光電吸収ピークが確認できた。いずれのエネルギーのガンマ線の場合も、ピーク面積が照射時間(照射線量)に比例して増加することが確認できた。これらのことから本開示のガンマ線検出器が、662keVといった比較的高いエネルギーおよび59.5keVといった比較的低いエネルギーのガンマ線の計測に、好適に使用できることがわかる。