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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-24
(45)【発行日】2024-05-07
(54)【発明の名称】配管更新工法
(51)【国際特許分類】
   F16L 1/00 20060101AFI20240425BHJP
   E03C 1/02 20060101ALI20240425BHJP
【FI】
F16L1/00 J
F16L1/00 C
F16L1/00 D
E03C1/02
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019216956
(22)【出願日】2019-11-29
(65)【公開番号】P2021085502
(43)【公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000151025
【氏名又は名称】株式会社タブチ
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】寺田 孝
(72)【発明者】
【氏名】西條 一樹
【審査官】渡邉 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-150145(JP,A)
【文献】特開平11-218288(JP,A)
【文献】米国特許第03181302(US,A)
【文献】特開平04-337181(JP,A)
【文献】特開2005-009524(JP,A)
【文献】特開平06-238509(JP,A)
【文献】特開平08-061561(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 1/00
E03C 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状の保護材により覆われた既設配管を新配管に更新する際の、配管の更新工法であって、
前記既設配管の内周面に管軸方向に沿う溝を形成する溝付工程と、
前記既設配管を径方向及び管軸方向に切断することにより、複数の切断片に分割する既設配管分割工程と、
前記複数の切断片を前記保護材から引き抜く引抜工程と、
前記既設配管の設置対象物から前記保護材を取り外さない状態で、前記新配管を、前記保護材の内周面に沿わせつつ前記保護材の内部に通す新配管挿入工程と、
を含む工法であり、
索状体を巻き上げることのできるウインチを2台用い、前記2台のうち1台である一方側ウインチを前記既設配管及び前記保護材の一方側端部に配置し、前記2台のうち他の1台である他方側ウインチを前記既設配管及び前記保護材の他方側端部に配置し、
前記一方側ウインチの有する索状体の端部と前記他方側ウインチの有する索状体の端部との間に配管加工治具を、前記既設配管の内部を通過可能に接続し、
前記一方側ウインチと前記他方側ウインチとを交互に操作することで、前記既設配管に対して前記配管加工治具を往復移動させ、この往復移動に伴って、前記溝付工程と前記既設配管分割工程とが行われることを特徴とする配管更新工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保温材等の保護材により覆われた既設配管を新配管に更新する際の、配管更新工法に関する。
【背景技術】
【0002】
保温材等の保護材により覆われた配管が広く用いられている。このような配管は、例えば、建築物内に設けられる給湯配管として給湯器と給湯対象箇所とを結ぶ。または、給水配管として水道メータと給水対象箇所とを結ぶ。これらの配管は、建築物における床下等に設けられる。
【0003】
この配管が経年等により老朽化した程度に応じて、配管を更新することがある。従来、このような場合には、保護材及び配管を全て取り換えていた。
【0004】
一方、特許文献1には、保護材(特許文献1の記載によると「保護管」)に覆われた配管の更新工法が記載されている。この工法によると、保護材から既設配管を引き抜き、その後、既設の保護材に新配管を通すことによって配管を更新する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-150145号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来の工法では、建築物の一部(例えば、配管が床下に設けられていた場合には床材)を一時的に解体して、保護材及び配管を露出した状態としなければ作業できなかった。このため、更新工事が大掛かりになってしまい、その分、工事コストも大きくかかっていた。
【0007】
また、特許文献1に記載の工法では、配管の引き抜き作業をしやすくすることを考慮しつつ、配管新設の際にあらかじめ保護材及び配管を建築物等に敷設していた。このため、配管の敷設形状を考慮する分、配管新設時の施工に手間がかかっていた。また、金属強化樹脂管等、このような施工ができない配管もあった。
【0008】
そこで本発明は、配管の更新に当たって、建築物の解体を極力不要とし、また、配管新設時の施工に格段の配慮が不要な配管更新工法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、管状の保護材により覆われた既設配管を新配管に更新する際の、配管の更新工法であって、前記既設配管を径方向及び管軸方向に切断することにより、複数の切断片に分割する既設配管分割工程と、前記複数の切断片を前記保護材から引き抜く引抜工程と、前記既設配管の設置対象物から前記保護材を取り外さない状態で、前記新配管を、前記保護材の内周面に沿わせつつ前記保護材の内部に通す新配管挿入工程と、を含むことを特徴とする配管更新工法である。
【0010】
前記構成によると、既設配管を覆っていた保護材を建築物等の設置対象物に固定したままとしておき、この保護材を、新配管を敷設する際のガイドとして利用できる。しかも、既設配管分割工程と引抜工程とにより、配管の引き抜き作業を、配管の敷設形状に影響されにくく容易にできる。
【0011】
また、前記既設配管分割工程、及び、前記新配管挿入工程が、前記既設配管及び前記保護材が建築物の外部に露出した端部にて行われるものとできる。
【0012】
前記構成によると、既設配管及び前記保護材が建築物の外部に露出した端部で作業可能であるから、建築物の解体の必要がないので、工事の低コスト化に貢献できる。
【0013】
また、前記既設配管分割工程に先立つ、前記既設配管の内周面に管軸方向に沿う溝を形成する溝付工程を含み、前記既設配管分割工程では、前記溝付工程で形成された前記溝をガイドにして前記既設配管が切断されることができる。
【0014】
前記構成によると、溝付工程で形成された溝をガイドにして既設配管を切断することで、既設配管分割工程において切断に失敗することがなく、確実な切断が可能である。
【0015】
また、前記既設配管分割工程において、前記既設配管の内周面に事前の加工を行うことなく前記切断を行うことができる。
【0016】
前記構成によると、事前の加工を行うことなく既設配管分割工程を行うことにより、一連の工程を短縮化できる。
【0017】
また、索状体を巻き上げることのできるウインチを2台用い、前記2台のうち1台である一方側ウインチを前記既設配管及び前記保護材の一方側端部に配置し、前記2台のうち他の1台である他方側ウインチを前記既設配管及び前記保護材の他方側端部に配置し、前記一方側ウインチの有する索状体の端部と前記他方側ウインチの有する索状体の端部との間に配管加工治具を、前記既設配管の内部を通過可能に接続し、前記一方側ウインチと前記他方側ウインチとを交互に操作することで、前記既設配管に対して前記配管加工治具を往復移動させ、この往復移動に伴って、前記溝付工程と前記既設配管分割工程とが行われるものとできる。
【0018】
前記構成によると、ウインチを2台用い、索状体に接続された配管加工治具を往復移動させることにより、前記溝付工程と前記既設配管分割工程とが行われる。このため、新配管を挿入するための準備を効率良くできる。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、保護材を、新配管を敷設する際のガイドとして利用できる。しかも、配管の引き抜き作業を、配管の敷設形状に影響されにくく容易にできる。このため、配管の更新に当たって、建築物の解体が不要であり、また、配管新設時の施工に格段の配慮が不要であるとの効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態に係る配管更新工法の対象である配管の、建築物への配置例を示す概略図である。
図2】前記配管更新工法に用いるウインチと配管切断治具との組み合わせを示す概略図である。
図3】(a)は前記配管切断治具の半断面図である。(b)は前記配管切断治具に取付けられる第1刃物の平面図である。(c)は前記配管切断治具に取付けられる第2刃物の平面図である。(d)は前記配管切断治具に取付けられる第3刃物の平面図である。
図4】(a)は前記配管更新工法における溝付工程の準備段階を示す軸方向断面図である。(b)は溝付工程(1段階目)を示す軸方向断面図である。(c)は溝付工程(1段階目)の後の既設配管の径方向断面図である。(d)は溝付工程(2段階目)を示す軸方向断面図である。(e)は溝付工程(2段階目)の後の既設配管の径方向断面図である。
図5】(a)は前記配管更新工法における溝付工程(3段階目)を示す軸方向断面図である。(b)は溝付工程(3段階目)の後の既設配管の径方向断面図である。(c)は溝付工程(4段階目)を示す軸方向断面図である。(d)は溝付工程(4段階目)の後の既設配管の径方向断面図である。(e)は既設配管分割工程を示す軸方向断面図である。(f)は既設配管分割工程の後の既設配管の径方向断面図である。
図6】(a)は前記配管更新工法における引抜工程を示す軸方向断面図である。(b)は新配管挿入工程の準備段階を示す軸方向断面図である。(c)は新配管挿入工程を示す軸方向断面図である。(d)は新配管敷設後の状態を示す軸方向断面図である。(e)は新配管敷設後の状態を示す径方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
まず、本発明につき、一実施形態を取り上げて説明を行う。図1に、本実施形態の配管更新工法の対象である既設配管Poの、建築物への配置例を示す。既設配管Poは例えば給湯用の配管であって、外周が管状の保護材Gにより覆われている。既設配管Po及び新配管Pnは樹脂管であって、例えばポリエチレン管(PE管)、架橋ポリエチレン管(PE-X管)、ポリブテン管(PB管)である。樹脂管は、金属強化樹脂管等、アルミニウム合金等の金属層を挟んだ多層管とすることもできる。保護材Gは、既設配管Po及び新配管Pnの外径寸法以上の内径寸法を有しており、発泡樹脂等の柔軟な材料、例えば発泡ポリエチレンから形成されていて、径方向において断熱及び保温の機能を有している。前記「柔軟な」に関し、本実施形態においては、既設配管Po及び新配管Pnの抜き差しに際して各配管Po,Pnから保護材Gが外力を受けた場合に、軸線がずれるような変形、または、径方向への圧縮変形がなされる程度の柔軟性を有していればよい。ちなみに、従来の工法(例えば特開2004-150145号公報(特許文献1)参照)では、保護材から既設配管を引き抜く際、また、既設の保護材に新配管を通す際に、発泡樹脂等の柔軟な材料から形成された保護材が用いられていると、コーナー部やバンド固定部で配管が保護材を突き破って破損してしまう。すなわち、柔軟な材料から形成された保護材に対して従来の工法は施工できなかった。
【0022】
図1に、既設配管Poの建築物(例えば家屋)Cへの配置例を示す。なお、配管更新後の新配管Pnも建築物Cに対して既設配管Poと同じ形態で配置される。既設配管Poは、床材Fによって管軸方向の少なくとも途中部分が覆われている。なお「管軸方向」とは、既設配管Poの軸中心に沿う方向を意味する。また、既設配管Poにおいて管軸方向の入口端及び出口端が、床材Fから上方に、または外壁から側方に露出されており、既設配管Poの入口端は例えば給湯器(図示しない)に接続され、出口端は、例えば浴室の水栓Vに接続されている。既設配管Poは、通水時の水圧で暴れないように、床材Fの下方に位置する基礎Bに、バンド等によって管軸方向において所定間隔で固定されている。前記固定に際しては、図1に示すように、保護材Gはバンド等と基礎Bにより径内方向への外力を受け、発泡樹脂等の柔軟な材料で形成された保護材Gの外径は外力によって圧縮されて縮径される。
【0023】
次に、本実施形態の配管更新工法に用いる装置及び治具につき説明する。本実施形態では、主に、ウインチ(巻上機)1、配管加工治具としての配管切断治具2、配管挿入治具3が用いられる。
【0024】
ウインチ1は2台で1組として用いられる。ウインチ1は、施工対象の配管の両端に1台ずつ配置される。ウインチ1は索状体であるワイヤ11を巻き上げることができるように構成されている。ウインチ1は、既設配管Poの一端側に1台、他端側にもう1台が配置されて用いられる。2台のウインチ1でワイヤ11がつながった状態で、1組中1台のウインチ1はワイヤ11が巻き上げられたことで引張力を発し、他の1台のウインチ1は前記引張力を受けてワイヤ11が引き出される。ウインチ1の駆動方式は手動であっても、電動等、原動機の動力を利用するものであってもよい。
【0025】
ワイヤ11の先端には治具接続部12が設けられている。治具接続部12には、ワイヤ11に接続されるワイヤ側接続部と、配管切断治具2に接続される治具側接続部と、ワイヤ側接続部に対して治具側接続部が回転可能となるように両接続部を連結する回転連結部と、を備える。この回転連結部として、治具接続部12にはベアリング121が内蔵されている。このベアリングは、ワイヤ11に対して治具接続部12が周方向に回転することを許容する。これにより、ワイヤ11に接続された配管切断治具2(より詳しくは、配管切断治具2に取り付けられた刃物4)を周方向にずらすことができる。このため、後述の溝付工程及び既設配管分割工程において、例えば、ワイヤ11にねじれがあった場合でも、配管切断治具2は前記ねじれの影響を受けることなく、既設配管Poに対して周方向に一定の位置を保って、配管切断治具2を管軸方向に移動させることができる。また、配管切断治具2が既設配管Po内を移動する際に既設配管Poから抵抗を受けても、該抵抗を緩和するようにワイヤ11に対して回転するため、加工抵抗を抑制できる。
【0026】
本実施形態の治具接続部12は、配管切断治具2の軸方向一端側と軸方向他端側とに各々設けられ、一方の治具接続部12が一方のワイヤ11を配管切断治具2の一端側に接続し、他方の治具接続部12が他方のワイヤ11を配管切断治具2の他端側に接続する。接続されたワイヤ11は、配管切断治具2に対して同軸上に延出する。
【0027】
配管切断治具2は、長手方向両端が縮径された略円柱状とされている。この配管切断治具2は、治具接続部12との組み合わせで配管加工用具として機能する。配管切断治具2の側面視の半断面形状を図3(a)に示す。配管切断治具2における長手方向中央側の大径部における外径寸法は、工事対象の既設配管Poの内径よりも小さい。配管切断治具2は、長手方向両端で径方向中央にワイヤ装着部21を備える。このワイヤ装着部21に、ワイヤ11の先端に設けられた治具接続部12が接続される。本実施形態では、両者は螺合により接続される。また、配管切断治具2は刃物装着部22を備える。
【0028】
ここで、刃物装着部22に装着される加工手段の一例である刃物4について説明する。この刃物4は、平面状であって配管切断治具2に取り付けた状態で径方向の両端に、既設配管Poに対して切断を行う刃41を有している。また、図3(a)~(c)に示すように、刃物4の中央部分に取付孔42が形成されている。つまり、加工手段としての刃物4は、中央部に加工手段装着部としての刃物装着部22への装着部としての取付孔42と、両端部に刃41と、を備える。両端部の刃41は刃先が同じ方向、具体的には、刃物4の幅方向一方側の方向に向けて設けられている。本実施形態では、既設配管Poへの切り込みの深さに応じ、刃物装着部22への装着時に径方向の長さが異なる第1刃物4A(図3(b))、第2刃物4B(図3(c))、第3刃物4C(図3(d))の3種を用いている。即ち、加工手段としての刃物4は、既設配管Poに対して異なる加工ができるように、複数種類の加工部材(本実施形態では、第1刃物4A、第2刃物4B、第3刃物4C)を含む。各刃物4A~4Cにおいて、刃41の高さの高い側が刃物装着部22の移動元に位置し、低い側が刃物装着部22の移動先に位置するように、刃物装着部22に装着される。各刃物4A~4Cの使い分けについては後述する。
【0029】
刃物装着部22は、径方向に延びる2本の刃物用貫通穴221を有している。2本の刃物用貫通穴221は周方向に90度ずれ、かつ、長手方向に重ならないようにずれて設けられている。配管切断治具2では、刃物用貫通穴221に直交するようにねじ穴222が設けられており、このねじ穴222に固定ねじ(図示しない)を取り付け、刃物4の取付孔42に固定ねじの先端が嵌められることにより、刃物4を固定ねじの先端で押さえることで、刃物用貫通穴221に挿入された刃物4を固定できる。
【0030】
配管挿入治具3は、図6(c)に示すように、新配管Pnの端部に固定されて用いられる。新配管Pnへの固定は、新配管Pnに挿入する部分を、軸方向に段差が形成されたいわゆる「タケノコ」形状とすることで行ってもよいし、新配管Pnの側面を貫通して配管挿入治具3に至るねじを用いて固定してもよく、具体的手段は特に限定されない。配管挿入治具3は、新配管Pnの端部に固定された際に新配管Pnから露出する部分にワイヤ装着部31を備える。このワイヤ装着部31に、ワイヤ11の先端に設けられた治具接続部12が接続される。本実施形態では、配管切断治具2と同様に、両者は螺合により接続される。
【0031】
次に配管更新工法について説明する。本実施形態の配管更新工法は、溝付工程、既設配管分割工程、引抜工程、新配管挿入工程を含む。なお、以下において1組のウインチ1を図4図6に示す配置に応じ、右ウインチ1R、左ウインチ1Lと称して説明する。なお、以下における「左右」は説明の便宜上用いており、方向が以下説明のものに限定されることはない。
【0032】
溝付工程では、既設配管Poの内周面に管軸方向に沿う溝Sを形成する。溝付工程に先立ち、図4(a)に示すように、右ウインチ1R(図示していない)からワイヤ11が既設配管Poに通される。この際、ワイヤ11は作業者の手により、図示右方から左方に押し込まれ、既設配管Poの図示左端から出される。
【0033】
図4(b)は溝付工程の1段階目を示す。図4(a)に示す状態で、右ウインチ1Rのワイヤ11の先端と左ウインチ1Lのワイヤ11の先端とを、治具接続部12を介して配管切断治具2で接続する。この際、配管切断治具2には第1刃物4Aが1枚取り付けられる。このように、加工手段としての刃物4は、配管切断治具2に対して着脱可能であり、配管切断治具に取り付けられた状態では、両端部の刃41が配管切断治具2に対して径外方向に突出する。この状態で右ウインチ1Rを操作し、第1刃物4Aの刃41を既設配管Poの内面に接するようにして配管切断治具2を既設配管Poの図示左端から図示右端まで移動させる。ここで 、図3(a)に示すように、配管切断治具2の長手方向における両端部は縮径しているため、配管切断治具2は既設配管Po内に挿入しやすい。また、上述した通り、配管切断治具2の長手方向中央側の大径部における外形寸法は既設配管Poの内径より小さいため、配管切断治具2は既設配管Poから抵抗を受けにくく、既設配管Poの図示左端から図示右端まで容易に移動させることができる。この結果、図4(c)に示すように、径方向に対向する2本の溝Sが既設配管Poの内周部に形成される。
【0034】
図4(d)は溝付工程の2段階目を示す。配管切断治具2には第1刃物4Aが2枚、軸方向視で直交するように取り付けられる。第1刃物4Aの向きは1段階目と逆にされる。つまり、加工手段としての刃物4は、配管切断治具2に対して加工方向を配管切断治具2の軸方向一端側向きと軸方向他端側向きとに付け替え可能に構成されている。なお、刃物4の向きの変更は、刃物4が取り付けられた配管切断治具2の向きを変更してもよいし、刃物装着部22に対する刃物4の装着の向きを変更してもよい。配管切断治具2に第1刃物4Aが2枚取り付けられた状態で、左ウインチ1Lを操作して配管切断治具2を既設配管Poの図示右端から図示左端まで移動させる。この際、第1刃物4Aのうち1枚は1段階目で形成した溝Sに沿わせるようにする。つまり、この第1刃物4Aのうち1枚は、この2段階目では既設配管Poを積極的には切断せず、配管切断治具2(特に、装着されたもう1枚の第1刃物4A)を既設配管Poに対して周方向にずれることを防止する「ガイド」として機能する。そして、第1刃物4Aのうち他の1枚における刃41を既設配管Poの内面であって、1段階目で形成した溝Sに対して周方向で90度ずれた位置に接するようにして移動させる。この結果、図4(e)に示すように、周方向で90度おきに4本の溝Sが既設配管Poの内周部に形成される。以上、第1刃物4Aのうち一枚を「ガイド」として機能させることにより、4本の溝Sを確実に形成することができる。
【0035】
図5(a)は溝付工程の3段階目を示す。配管切断治具2には第2刃物4Bが1枚取り付けられる。第2刃物4Bの方が第1刃物4Aよりも径方向への刃41の突出量が大きい。この状態で右ウインチ1Rを操作し、第2刃物4Bの刃41を1段階目または2段階目で形成した溝Sに沿わせつつ、配管切断治具2を既設配管Poの図示左端から図示右端まで移動させる。この結果、図5(b)に示すように、径方向に対向する2本の溝Sが深くなる。
【0036】
図5(c)は溝付工程の4段階目を示す。ここでも、配管切断治具2には第2刃物4Bが1枚取り付けられる。第2刃物4Bの向きは3段階目と逆にされる。この状態で左ウインチ1Lを操作し、第2刃物4Bの刃を3段階目で沿わせた溝Sとは別の溝Sに沿わせつつ、配管切断治具2を既設配管Poの図示右端から図示左端まで移動させる。この結果、図5(d)に示すように、前記別の溝Sであって、径方向に対向する2本の溝Sが深くなる。溝付工程はこれで終了となる。上記溝付工程においては、複数の溝Sのうち、先に一部の溝Sを形成し、該溝Sをガイドにして残りの溝Sを形成することで、複数の溝S同士の間隔を軸方向に一定にすることができる。また、溝Sの形成を複数段階に分け、溝Sを徐々に深くすることで、加工抵抗を小さくして、軸方向に真っすぐな溝を形成することができる。以上の溝付工程により既設配管Poに溝Sを形成した状態で、下記の既設配管分割工程で既設配管Poを切断することで、既設配管分割工程において切断に失敗すること(例えば、切断片Psの幅が長手方向の途中で狭くなって切れてしまうこと)がなく、管軸方向の確実な切断が可能である。また、下記の既設配管分割工程において、溝Sに沿って切断することで、切断における抵抗を小さくすることができる。
【0037】
既設配管分割工程では、既設配管Poを径方向及び管軸方向に切断することにより、既設配管Poを径方向で間隔をあけて複数個所で管軸方向に切断して、複数の切断片Psに分割する。本実施形態では、径方向の切断が、周方向に一定の距離(角度で90度ごと)をおいて複数個所(4箇所)でなされ、この切断が管軸方向に連続して行われる。
【0038】
図5(e)は既設配管分割工程を示す。配管切断治具2には第3刃物4Cが2枚取り付けられる。第3刃物4Cの方が第2刃物4Bよりも径方向への刃41の突出量が大きい。この状態で右ウインチ1Rを操作し、第3刃物4Cの刃を溝付工程の3段階目及び4段階目を経て深くなった溝Sに沿わせつつ、配管切断治具2を既設配管Poの図示左端から図示右端まで移動させる。この結果、図5(f)に示すように、既設配管Poが周方向で複数に分割(図5(f)では4分割)される。また、上記既設配管分割工程において、溝付工程で形成した複数の溝Sに対応するように刃41を沿わせることにより、切断時の抵抗を小さくすることができる。さらに、本実施形態では、既設配管Poを周方向に一定の間隔で複数に分割することで、各切断片Psの形状は略同じ形状にできる。
【0039】
引抜工程では、図6(a)に示すように、例えば図示右方に、複数の切断片Psを保護材Gから引き抜く。これにより、保護材Gの内部から既設配管Poが除去される。引き抜きは、作業者が各切断片Psを手やペンチ等の工具でつかんで行う。基本的には1本ずつ引き抜くが、場合によっては複数本をまとめて引き抜くこともできる。各切断片Psは幅方向で湾曲した帯状であって、周方向に沿って4枚並んでいる。各切断片Psの断面形状は保護材Gの内部空間の断面形状に比べて小さく、当該内部空間において各切断片Psの可撓性が増すことにより、径方向及び周方向への移動の自由度が高いことから、既設配管Poを切断することなく管の状態のままで保護材Gから引き抜くことに比べ、はるかに小さな引張力で引き抜きが可能である。また、引き抜きに伴い、保護材Gを破損してしまう可能性も小さいため、既設の保護材Gを引き続き使用することができる。このように、本実施形態の引抜工程は、発泡樹脂等の柔軟な材料(破損しやすい材料)で形成された保護材Gに対して有効である。そして、保護材Gがバンド等と基礎Bにより径内方向への外力を受け、圧縮されて縮径されている場合に有効である。
【0040】
新配管挿入工程では、新配管Pnを保護材Gの内周面に沿わせつつ保護材Gの内部に通す。新配管挿入工程に先立ち、図6(b)に示すように、右ウインチ1Rからワイヤ11が保護材Gの内部に通される。この際、ワイヤ11は作業者の手により、図示右方から左方に押し込まれ、保護材Gの図示左端から出される。次に、保護材Gの図示左方に新配管Pnを用意する。新配管Pnの右端部に配管挿入治具3を固定し、配管挿入治具3にワイヤ11の先端を、治具接続部12を介して接続する。なお、この段階では左ウインチ1Lとそのワイヤ11は使用しない。そして、図6(c)に示すように、右ウインチ1Rを操作して新配管Pnを引っ張ることにより、保護材Gの内部に新配管Pnを通す。引っ張りにより保護材Gの内部に新配管Pnを通すことで、押し込みにより新配管Pnを通すことに比べ、保護材Gの折り曲げられた箇所であっても、引っ掛かる可能性を抑えつつ新配管Pnを通すことができる。更に、保護材Gが発泡樹脂等の柔軟な材料から形成されていれば、例えば保護材Gが湾曲して設けられた箇所につき、新配管Pnを通す際に保護材Gが、軸線がずれるように変形して曲率が一時的に変わることから、新配管挿入工程において移動する新配管Pnに対して抵抗を与えにくい。また、保護材Gがバンド等により建築物Cに固定された箇所につき、保護材Gが径方向に圧縮されることにより、新配管挿入工程において移動する新配管Pnに対して抵抗を与えにくい。このように、本実施形態の新配管挿入工程は、発泡樹脂等の柔軟な材料(破損しやすい材料)で形成された保護材Gに対して有効である。そして、保護材Gがバンド等と基礎Bにより径内方向への外力を受け、圧縮されて縮径されている場合に有効である。新配管Pnから配管挿入治具3を取り外した状態を図6(d)(e)に示す。配管の更新はこれで終了であって、その後、両端部を給湯器や水栓に接続して工事を完了する。
【0041】
このように、本実施形態の工法では、既設配管Po及び保護材Gが建築物Cの外部に露出した端部で作業可能である。このため、既設配管Poを新配管Pnに取り換える作業を、既設配管Poの設置対象物(本実施形態では建築物Cの基礎Bや床材F)から保護材Gを取り外さない状態で行うことができる。また、各ウインチ1の操作、既設配管Poの保護材Gからの引き抜き、新配管Pnの保護材Gへの挿入が全て建築物Cの外部(詳しくは、建築物Cにおける床材Fと基礎Bとの間の閉鎖空間に対する外部)にて行える。このため、建築物Cの解体の必要がないので、工事の低コスト化に貢献できる。
【0042】
以上、本実施形態の配管更新工法によると、既設配管Poを覆っていた保護材Gを建築物Cに固定したままとしておき、この保護材Gを、新配管Pnを敷設する際のガイドとして利用できる。しかも、既設配管分割工程と引抜工程とにより、配管の引き抜き作業を、配管の敷設形状に影響されにくく容易にできる。
【0043】
また、配管の更新の際に建築物Cの解体を極力不要とし、また、配管新設時の施工に格段の配慮が不要である。この「格段の配慮」とは、配管に折損が生じるような急な曲がりを形成しないという最低限の配慮を超えた配慮を意味する。このように本実施形態の配管更新工法を採用することで、配管新設時における配管経路をラフに設定してもよく、しかも、配管新設時に、現場にて保護材Gに配管が抜き差しできるか否かのテストを行うことも不要であるから、配管新設時の工数が従来よりも増加することがない。
【0044】
また、配管切断治具2及び加工手段としての刃物4を有する本体部と、この本体部をワイヤ11に接続する治具接続部12を備えた配管加工用具において、配管切断治具2及び刃物4が、軸方向一端側から既設配管Poに進入して加工する場合と、軸方向他端側から既設配管Poに進入して加工する場合とで、異なる加工をできる。具体的には、溝付工程の各段階目や既設配管分割工程のように刃41の向きを変更することや、各刃物4A~4Cの種類を配管切断治具2に対して付け替えることにより変更することで、既設配管Poの入口から出口へ配管切断治具2の一端側が先頭で進入する往動の場合と、既設配管Poの出口から入口に配管切断治具2の他端側が先頭で進入する復動の場合とで異なる加工をすることができるので、既設配管Poに対して効率よく加工ができる。
【0045】
以上、本発明の実施形態について一例を挙げて説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更を加えることができる。
【0046】
例えば、保護材Gは断熱及び保温の機能を有したものであっても、断熱及び保温の機能を有しておらず単に配管(既設配管Poまたは新配管Pn)を覆うに過ぎないものであってもよい。また、保護材Gは配管の管軸方向の全部を覆っている必要はなく、管軸方向の一部が覆われていてもよい。また保護材Gは、径方向断面「C」字形状のように、周方向で切れ目を有していてもよい。
【0047】
また、前記実施形態ではウインチ1を使用したが、ウインチ(巻上機)に該当しない装置であっても、ワイヤや鎖等の索状材料を長手方向に引っ張ることのできる種々の装置を用いることができる。
【0048】
また、本実施形態では、一方側ウインチ(右ウインチ1R)の有するワイヤ11の端部と、他方側ウインチ(左ウインチ1L)の有するワイヤ11の端部との間に、配管切断治具2を接続して溝付工程と既設配管分割工程とを行う場合について説明したが、これに限られない。例えば、右ウインチ1Rの有するワイヤ11と左ウインチ1Lの有するワイヤ11に配管切断治具2を接続してもよい。これにより、ワイヤ11の先端に取り付けられた治具接続部12を利用する必要がなくなり、準備を効率よくできる。また、一本のワイヤの一方端側に一方側ウインチを設け、他方端側に他方側ウインチを設け、ワイヤの途中部分に配管切断治具2を接続する、即ち、一本のワイヤの両端に各々ウインチを設け、該ワイヤを配管切断治具2に挿通させるようにしてもよい。いずれの場合も、一方側ウインチを有するワイヤと他方側ウインチの有するワイヤとに配管切断治具2が、既設配管Poの内部に通過可能に接続される。よって、2台のウインチを用いて配管切断治具2を往復移動させ、溝付工程と既設配管分割工程と、が行われる。
【0049】
また、配管切断治具2は、前記実施形態では略円柱状であったが、既設配管Po内での管軸方向の移動に支障がなく、既設配管Poを切断する刃物を支持することが可能であれば、他の形状であってよい。また、配管切断治具2に装着される刃物は、固定刃、回転刃のいずれであってもよい。また、刃41の形状も特に限定されない。前記実施形態では、管軸方向の片方向で切断できる刃41であったが、管軸方向の両方向で切断できる刃41であってもよい。これにより、上述した刃物4の向きの変更を行うことなく、溝付工程又は既設配管分割工程を行うことができるため、本実施形態の配管更新工法を効率よく行うことができる。
【0050】
また、溝付工程内の段階に関する、段階の数及び処理内容は前記実施形態で示したもの(1段階目~4段階目)に限らず、種々に変更できる。更に、溝付工程は省略することもできる。つまり、既設配管分割工程において、既設配管Poの内周面に事前の加工を行うことなく切断を行うこともできる。この場合、事前の加工を行うことなく既設配管分割工程を行うことにより、一連の工程を短縮化できる利点がある。
【0051】
また、本実施形態では、上記既設配管分割工程において、溝付工程で形成した溝Sに沿って既設配管Poを切断する場合について説明したが、これに限らず、溝Sには、第1刃物4A又は第2刃物4Bの刃41を嵌め込み、これをガイドとして、溝S以外の部分を刃41で切断するようにしてもよい。いずれにしても、溝Sをガイドにして既設配管Poを切断することにより、切断に失敗することなく、確実に分割することができる。
【0052】
また、溝付工程及び既設配管分割工程を経た既設配管Poの分割数は、前記実施形態の4分割に限られるものでなく、3分割以下、または5分割以上であってもよい。特に、既設配管Poの径及び長さに応じ、引抜工程における切断片Psの保護材Gからの引き抜きやすさを考慮して、分割数を適宜決定してよい。また、切断軌跡を管軸方向に対して傾斜させることにより、螺旋状の切断片Psを形成してもよい。
【符号の説明】
【0053】
1 ウインチ
11 索状体、ワイヤ
12 治具接続部
2 配管加工治具、配管切断治具
3 配管挿入治具
4 刃物
C 建築物
Po 既設配管
Pn 新配管
Ps 切断片
S 溝
G 保護材
図1
図2
図3
図4
図5
図6