(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-24
(45)【発行日】2024-05-07
(54)【発明の名称】金型
(51)【国際特許分類】
B29C 33/42 20060101AFI20240425BHJP
B29C 43/36 20060101ALI20240425BHJP
【FI】
B29C33/42
B29C43/36
(21)【出願番号】P 2020023972
(22)【出願日】2020-02-17
【審査請求日】2023-01-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000225359
【氏名又は名称】内山工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002686
【氏名又は名称】協明国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】中川 健司
【審査官】北澤 健一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/143786(WO,A1)
【文献】特開2018-119624(JP,A)
【文献】特開平06-047761(JP,A)
【文献】特開2005-138417(JP,A)
【文献】実開昭59-090418(JP,U)
【文献】実開平02-148311(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/00-33/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
径方向に対向する外周側部材の内周面及び内周側部材の外周面のうちの第1面に摺接される環状のリップ部の摺接部に、被密封空間と外部空間とを連通させる連通溝を区画するように複数の突起が周方向に間隔を空けて全周に亘って設けられた密封部材の成形に用いられる金型であって、
前記リップ部の摺接部の突起及び連通溝に対応する凹凸が周方向に交互に設けられ、環状のキャビティを区画する凹凸周壁部を有した第1金型と、該第1金型の凹凸周壁部の径方向一方側に隣接され前記キャビティから溢出する成形材料を受け入れる環状溝が周方向に延びるように設けられた第2金型と、を備えており、
前記環状溝の径方向他方側の溝開口周縁部は、軸方向に見て一部が前記凹凸周壁部に応じた形状とされ、他の部位が円弧状の円弧部とされ
ており、
前記環状溝の前記円弧部は、前記凹凸周壁部の分割面側周縁の凹部の底部を結ぶ仮想円よりも径方向他方側に位置するように設けられていることを特徴とする金型。
【請求項2】
径方向に対向する外周側部材の内周面及び内周側部材の外周面のうちの第1面に摺接される環状のリップ部の摺接部に、被密封空間と外部空間とを連通させる連通溝を区画するように複数の突起が周方向に間隔を空けて全周に亘って設けられた密封部材の成形に用いられる金型であって、
前記リップ部の摺接部の突起及び連通溝に対応する凹凸が周方向に交互に設けられ、環状のキャビティを区画する凹凸周壁部を有した第1金型と、該第1金型の凹凸周壁部の径方向一方側に隣接され前記キャビティから溢出する成形材料を受け入れる環状溝が周方向に延びるように設けられた第2金型と、を備えており、
前記環状溝の径方向他方側の溝開口周縁部は、軸方向に見て一部が前記凹凸周壁部に応じた形状とされ、他の部位が円弧状の円弧部とされており、
前記環状溝の前記円弧部は、前記凹凸周壁部の分割面側周縁の凸部の先端を結ぶ仮想円と一致または該仮想円よりも径方向他方側に位置するように設けられており、
前記環状溝の前記凹凸周壁部に応じた形状とされた部位は、前記凹凸周壁部の分割面側周縁の凹部に応じた形状とされていることを特徴とする金型。
【請求項3】
径方向に対向する外周側部材の内周面及び内周側部材の外周面のうちの第1面に摺接される環状のリップ部の摺接部に、被密封空間と外部空間とを連通させる連通溝を区画するように複数の突起が周方向に間隔を空けて全周に亘って設けられた密封部材の成形に用いられる金型であって、
前記リップ部の摺接部の突起及び連通溝に対応する凹凸が周方向に交互に設けられ、環状のキャビティを区画する凹凸周壁部を有した第1金型と、該第1金型の凹凸周壁部の径方向一方側に隣接され前記キャビティから溢出する成形材料を受け入れる環状溝が周方向に延びるように設けられた第2金型と、を備えており、
前記環状溝の径方向他方側の溝開口周縁部は、軸方向に見て一部が前記凹凸周壁部に応じた形状とされ、他の部位が円弧状の円弧部とされており、
前記環状溝の前記円弧部は、前記凹凸周壁部の分割面側周縁の凸部の先端を結ぶ仮想円よりも径方向一方側に位置するように設けられており、
前記環状溝の前記凹凸周壁部に応じた形状とされた部位は、前記凹凸周壁部の分割面側周縁の凸部に応じた形状とされていることを特徴とする金型。
【請求項4】
請求項
2または3において、
前記環状溝の前記円弧部は、前記凹凸周壁部の分割面側周縁の凹部の底部を結ぶ仮想円よりも径方向他方側に位置するように設けられていることを特徴とする金型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密封部材の成形に用いられる金型に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、径方向に対向する外周側部材の内周面及び内周側部材の外周面との間に介在される密封部材が知られている。
例えば、下記特許文献1には、低トルク化を図るべくシール摺動面との間に油膜が形成されるように、シールリップに軸受内部空間及び外部空間に亘って連通する油通路を生じさせる突起を設けた構成とされたシール部材が開示されている。このようなシール部材を成形する際には、突起及び油通路に対応する凹凸形状が設けられた雌型と、溝開口周縁部が雌型の凹凸形状に応じた凹凸形状とされたバリ溝が設けられた雄型と、を備えた金型を用いて成形することが考えられる。この場合、金型の加工コストが増大し、また、雌型及び雄型の互いの凹凸形状を周方向に精度良く位置合わせする必要があった。
下記特許文献2には、シールリップ部に複数の突起を形成する凹凸形状を有する雌型と、キャビティの内径側周縁部に、径方向最大部の形状が円とされた内径側バリ溝を有する雄型と、を備えた金型が開示されている。また、この金型は、内径側バリ溝の径方向最大部の円の直径を、シールリップ部の複数の突起の先端に接する円の直径以下とする構成とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6523994号公報
【文献】特開2018-119624号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献2に記載された金型では、シールリップ部先端の隣り合う突起の間に、薄いバリが残存し易くなる傾向があり、更なる改善が望まれる。
【0005】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、金型自体の加工コストの低減が可能でありながらも、密封部材のリップ部の突起間におけるバリ残りを軽減し得る金型を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明に係る金型は、径方向に対向する外周側部材の内周面及び内周側部材の外周面のうちの第1面に摺接される環状のリップ部の摺接部に、被密封空間と外部空間とを連通させる連通溝を区画するように複数の突起が周方向に間隔を空けて全周に亘って設けられた密封部材の成形に用いられる金型であって、前記リップ部の摺接部の突起及び連通溝に対応する凹凸が周方向に交互に設けられ、環状のキャビティを区画する凹凸周壁部を有した第1金型と、該第1金型の凹凸周壁部の径方向一方側に隣接され前記キャビティから溢出する成形材料を受け入れる環状溝が周方向に延びるように設けられた第2金型と、を備えており、前記環状溝の径方向他方側の溝開口周縁部は、軸方向に見て一部が前記凹凸周壁部に応じた形状とされ、他の部位が円弧状の円弧部とされており、前記環状溝の前記円弧部は、前記凹凸周壁部の分割面側周縁の凹部の底部を結ぶ仮想円よりも径方向他方側に位置するように設けられていることを特徴とする。
前記目的を達成するために、本発明に係る金型は、径方向に対向する外周側部材の内周面及び内周側部材の外周面のうちの第1面に摺接される環状のリップ部の摺接部に、被密封空間と外部空間とを連通させる連通溝を区画するように複数の突起が周方向に間隔を空けて全周に亘って設けられた密封部材の成形に用いられる金型であって、前記リップ部の摺接部の突起及び連通溝に対応する凹凸が周方向に交互に設けられ、環状のキャビティを区画する凹凸周壁部を有した第1金型と、該第1金型の凹凸周壁部の径方向一方側に隣接され前記キャビティから溢出する成形材料を受け入れる環状溝が周方向に延びるように設けられた第2金型と、を備えており、前記環状溝の径方向他方側の溝開口周縁部は、軸方向に見て一部が前記凹凸周壁部に応じた形状とされ、他の部位が円弧状の円弧部とされており、前記環状溝の前記円弧部は、前記凹凸周壁部の分割面側周縁の凸部の先端を結ぶ仮想円と一致または該仮想円よりも径方向他方側に位置するように設けられており、前記環状溝の前記凹凸周壁部に応じた形状とされた部位は、前記凹凸周壁部の分割面側周縁の凹部に応じた形状とされていることを特徴とする。
前記目的を達成するために、本発明に係る金型は、径方向に対向する外周側部材の内周面及び内周側部材の外周面のうちの第1面に摺接される環状のリップ部の摺接部に、被密封空間と外部空間とを連通させる連通溝を区画するように複数の突起が周方向に間隔を空けて全周に亘って設けられた密封部材の成形に用いられる金型であって、前記リップ部の摺接部の突起及び連通溝に対応する凹凸が周方向に交互に設けられ、環状のキャビティを区画する凹凸周壁部を有した第1金型と、該第1金型の凹凸周壁部の径方向一方側に隣接され前記キャビティから溢出する成形材料を受け入れる環状溝が周方向に延びるように設けられた第2金型と、を備えており、前記環状溝の径方向他方側の溝開口周縁部は、軸方向に見て一部が前記凹凸周壁部に応じた形状とされ、他の部位が円弧状の円弧部とされており、前記環状溝の前記円弧部は、前記凹凸周壁部の分割面側周縁の凸部の先端を結ぶ仮想円よりも径方向一方側に位置するように設けられており、前記環状溝の前記凹凸周壁部に応じた形状とされた部位は、前記凹凸周壁部の分割面側周縁の凸部に応じた形状とされていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る金型は、上述のような構成としたことで、金型自体の加工コストの低減が可能でありながらも、密封部材のリップ部の突起間におけるバリ残りを軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】(a)、(b)は、本発明の一実施形態に係る金型の一例を用いて成形された密封部材の一例を組み込んだ軸受装置の一例を模式的に示し、(a)は、一部破断概略縦断面図、(b)は、(a)におけるY1部に対応させた一部を省略した一部破断概略縦断面図である。
【
図2】(a)、(b)は、同金型の一例を模式的に示し、(a)は、
図3及び
図4(a)におけるX1-X1線矢視に対応させた一部破断概略縦断面図、(b)は、(a)におけるY2部に対応させた一部破断概略縦断面図である。
【
図3】同金型が備える第1金型の一例を模式的に示す一部破断概略平面図である。
【
図4】(a)は、同金型が備える第2金型の一例を模式的に示す一部破断概略底面図、(b)は、(a)におけるZ1部に対応させた一部破断概略底面図である。
【
図5】(a)、(b)は、本発明の他の実施形態に係る金型の一例を模式的に示し、(a)は、
図6(a)におけるX2-X2線矢視に対応させた一部破断概略縦断面図、(b)は、(a)におけるY3部に対応させた一部破断概略縦断面図である。
【
図6】(a)は、同金型が備える第2金型の一例を模式的に示す一部破断概略底面図、(b)は、(a)におけるZ2部に対応させた一部破断概略底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
なお、一部の図では、他図に付している詳細な符号の一部を省略している。
また、以下の各実施形態では、金型の径方向、周方向及び軸方向を、各実施形態に係る金型を用いて成形された密封部材が組み込まれる軸受装置の径方向、周方向及び軸方向と同方向として説明する。
【0010】
図1~
図4は、第1実施形態に係る金型の一例、これを用いて成形された密封部材の一例及びこの密封部材が組み込まれる軸受装置の一例を模式的に示す図である。
本実施形態に係る金型1(
図2参照)は、
図1に示すように、径方向に対向する外周側部材4の内周面4b及び内周側部材5の外周面5bのうちの第1面に摺接される環状のリップ部34の摺接部35に、被密封空間8と外部空間とを連通させる連通溝37を区画するように複数の突起36が周方向に間隔を空けて全周に亘って設けられた密封部材3の成形に用いられる。
図1(a)では、この密封部材3を、相対的に同軸回転する外輪を構成する外周側部材4と内輪を構成する内周側部材5とを備えた軸受装置2に組み込んだ例を示している。
【0011】
この軸受装置2は、例えば、外周側部材4がハウジング等の軸受に嵌め込まれ、内周側部材5に軸9が挿通され、内周側部材5が軸9とともに外周側部材4に対して回転される構成とされている。
また、この軸受装置2は、外周側部材4と内周側部材5との間に転動体(図例では、玉)7を介装させた転がり軸受装置とされている。この軸受装置2は、自動車等の各種車両のトランスミッションの軸9を支持するものであってもよく、その他、種々の回転部として設けられる軸9を支持するものであってもよい。
これら外周側部材4と内周側部材5との間に、全周に亘って環状に被密封空間8が形成される。
【0012】
被密封空間8には、単列の転動体7がリテーナ(保持器)6に保持された状態で、外周側部材4の軌道輪4a及び内周側部材5の軌道輪5aを転動可能に介装されている。この被密封空間8には、適宜のグリースの充填や、オイルのはね掛け、ノズルからのオイルの噴射、オイルバス等によって潤滑油が供給される。なお、軸受装置2としては、外周側部材4と内周側部材5との間に、複列状に転動体7を設けた構成としてもよい。また、軸受装置2としては、図例のように、外周側部材4及び内周側部材5に、溝状の軌道輪4a,5aを設けた深溝玉軸受に限られず、アンギュラ玉軸受であってもよい。また、軸受装置2としては、転動体7を玉(ボール)とした玉軸受に限られず、転動体7を円筒ころや円錐ころ等としたころ軸受であってもよく、また、外周側部材4及び内周側部材5のうちの一方にフランジ状やハブ状等の固定部を有した軸受装置2であってもよい。
また、被密封空間8における軸9方向両側端部の外周側部材4と内周側部材5との間に、密封部材3,3をそれぞれに装着した構造としている。これら軸方向両側の密封部材3,3によって被密封空間8の軸方向両端部がシールされ、被密封空間8内への異物等の侵入や被密封空間8内に充填されたグリースの外部への漏出が抑制される。なお、これら軸方向両側の密封部材3,3は、互いに同様の構成であるので、以下では、一方の密封部材3を例にとって説明する。また、密封部材3が組み込まれる軸受装置2としては、上記したような構成とされたものに限られず、その他、種々の構成とされたものでもよい。
【0013】
密封部材3は、図例では、回転側部材となる内周側部材5の第1面を構成する外周面5bにリップ部34の摺接部35が摺接される構成とされている。つまり、この密封部材3は、径方向一方側となる内径(軸心)側にリップ部34を有した構成とされている。
この密封部材3は、軸9と同心状の環状とされており、芯金30と、この芯金30に固着された弾性部材33と、を備えている。芯金30は、ステンレス鋼板や冷間圧延鋼板(SPCC)などの金属材から形成された金属製とされ、板金加工されている。この芯金30は、固定側部材となる外周側部材4の内周面4bに嵌合される円筒部を構成する芯金円筒部31と、この芯金円筒部31の軸方向一方(外部空間)側端部に連なり、該端部から内径側に向けて突出するように環状に設けられた芯金円板部32と、を備えている。図例では、この密封部材3の円筒部が嵌合される外周側部材4の内周面4bを、軸方向他方(被密封空間8)側の内周面よりも拡径状とされた段部の内周面とした例を示しているが、このような態様に限られない。
【0014】
弾性部材33は、NBR、H-NBR、ACM、AEM、FKM、シリコーンゴム等のゴム材(弾性材料)からなり、後記する金型1を用いて芯金30に全周に亘って固着一体とされている。
この弾性部材33は、芯金円筒部31の径方向他方側となる外径(径方向外)側に向く外周面を覆い、芯金円板部32の軸方向一方(外部空間)側面を覆うように設けられている。図例では、芯金円筒部31の軸方向他方(被密封空間8)側端面を覆うように弾性部材33を設けた例を示している。また、図例では、芯金円板部32の内径側端部の軸心側端面及び被密封空間8側面を覆うように弾性部材33を設けた例を示している。
弾性部材33のリップ部34は、芯金円板部32の内径側端部から軸心側に向けて延びるように設けられている。このリップ部34は、芯金円板部32の内径側端部近傍部位よりも先端側となる軸心側の途中部位が薄く形成され、先端部が外部空間側に向けて屈曲するような形状とされている。
【0015】
リップ部34の軸心側に向くように設けられた摺接部35は、
図1(b)に示すように、リップ部34の被密封空間8側面から連なるように設けられ、凸湾曲面状とされている。密封部材3は、このリップ部34の摺接部35が内周側部材5の外周面5bに弾接(弾性的に接触)されるように適宜の締め代が設定されている。
摺接部35の突起36は、周方向に等間隔を空けて、かつ軸心側に向けて突出するように設けられている。また、この突起36は、軸心側に向くように設けられた摺接部35の軸方向の全体に亘って延びるように設けられている。この突起36は、摺接部35が内周側部材5の外周面5bに弾接された状態で、外部空間と被密封空間8とを連通させる連通溝37が隣り合う突起36,36間に形成されるように設けられている。この突起36の径方向への突出寸法(連通溝37の溝深さ寸法)及び隣り合う突起36,36間の周方向に沿う寸法(連通溝37の溝幅寸法)は、上記のような連通溝37が形成されて連通溝37に潤滑油が導入され易いように、また、周辺部材の摩耗粉等の被密封空間8側への侵入を抑制する観点等から適宜の寸法としてもよい。なお、図例のように被密封空間8側に向かうに従い突起36の突出寸法及び連通溝37の溝幅寸法を小としたような場合には、外周面5bに摺接される部分の突起36の突出寸法及び連通溝37の溝幅寸法を、適宜の寸法としてもよい。また、この突起36は、軸方向に見て突出方向先端側に向かうに従い先細り状とされていてもよく、略半円状とされていてもよく、その他、種々の形状とされていてもよい。
【0016】
金型1は、
図2(a)に示すように、上記したリップ部34の摺接部35の突起36及び連通溝37に対応する凹凸が周方向に交互に設けられ、環状のキャビティ19を区画する凹凸周壁部15を有した第1金型10を備えている。また、金型1は、この第1金型10の凹凸周壁部15の径方向一方側としての内径側に隣接されキャビティ19から溢出する成形材料を受け入れる環状溝を構成する内径側環状溝26が周方向に延びるように設けられた第2金型20を備えている。また、
図4(a)、(b)に示すように、第2金型20の内径側環状溝26の径方向他方側としての外径側の溝開口周縁部は、軸方向に見て一部が凹凸周壁部15に応じた形状とされた凹凸対応部28とされ、他の部位が円弧状の円弧部27とされている。このような構成とすれば、第2金型20の内径側環状溝26の外径側の溝開口周縁部を全周に亘って第1金型10の凹凸周壁部15に応じた形状としたものと比べて、第2金型20の内径側環状溝26の外径側の溝開口周縁部を大半に亘って円弧状にすることができるので、金型1自体の加工が容易となり、金型1の低コスト化を図ることができる。また、この溝開口周縁部の一部を第1金型10の凹凸周壁部15に応じた形状の凹凸対応部28としているので、凹凸対応部28とされた部位ではバリを小さくすることができ、バリを除去する際にその部位を起点にリップ部34先端の凹凸形状に沿ってバリが除去され易くなり、リップ部34の突起36,36間におけるバリ残りを軽減することができる。
【0017】
第1金型10は、
図2(a)及び
図3に示すように、キャビティ19を構成する第1凹部11を環状に設けた構成とされている。この第1凹部11は、密封部材3の被密封空間8側に応じた形状とされている。この第1凹部11には、芯金円筒部31を受け入れ、密封部材3の円筒部を成形する第1環状溝12が設けられている。この第1環状溝12は、溝底面12aと、内径側に向く内周面12bと、外径側に向く外周面12cとによって区画されている。この外周面12cの径は、芯金円筒部31の内径に応じた形状とされている。また、第1凹部11には、この外周面12cに連なるように、芯金円板部32が載置される載置面13が設けられている。また、第1凹部11には、この載置面13に連なるように、リップ部34の被密封空間8側を成形するリップ成形面14が設けられている。凹凸周壁部15は、このリップ成形面14の内径側端部から金型1の分割面(パーティング面)18に向けて立ち上がるように設けられている。
【0018】
凹凸周壁部15には、
図2(b)及び
図3に示すように、リップ部34の摺接部35の突起36に応じた凹部16と摺接部35の連通溝37に応じた凸部17とが周方向に交互に設けられている。凹部16は、外径側に向けて開口するように設けられ、凸部17は、外径側に向けて突出するように設けられている。また、これら凹部16及び凸部17は、リップ成形面14の内径側端部から金型1の分割面18に至るまで軸方向に延びるように設けられている。換言すれば、凹部16は、分割面18において溝長手方向一端を開口させた溝状とされている。図例では、この凹部16を、溝長手方向に見て略半円溝状とした例を示している(
図4(b)も参照)。凸部17の外径側に向く先端面は、軸方向に見て円弧状とされている。
【0019】
第2金型20は、
図2(a)及び
図4(a)に示すように、キャビティ19を構成する第2凹部21を環状に設けた構成とされている。また、第2金型20には、この第2凹部21の径方向他方側としての外径側に隣接されキャビティ19から溢出する成形材料を受け入れる外径側環状溝22が周方向に延びるように設けられている。この外径側環状溝22は、周方向に見て略半円溝状とされている。この外径側環状溝22の溝幅方向両側の溝開口周縁部は、分割面に連なるように設けられている。
第2凹部21は、密封部材3の外部空間側に応じた形状とされている。この第2凹部21には、芯金円板部32を受け入れ、密封部材3の円板部を成形する第2環状溝23が設けられている。この第2環状溝23は、第1金型10の載置面13に対向するように設けられた溝底面23aと、内径側に向く内周面23bと、外径側に向く外周面23cとによって区画されている。また、第2凹部21には、この外周面23cに連なるように、第1金型10のリップ成形面14及び凹凸周壁部15に対向されるリップ成形面24,25が設けられている。また、第2凹部21には、凹凸周壁部15に対向されるリップ成形面25に連なるように設けられ、リップ部34の外部空間側に向く先端面を成形し、分割面を構成するリップ先端成形面29が設けられている。
【0020】
この第2金型20の内径側環状溝26は、周方向に見て略半円溝状とされている。この内径側環状溝26の内径側の溝開口周縁部は、分割面に連なるように設けられ、外径側の溝開口周縁部は、リップ先端成形面29に連なるように設けられている。
また、この内径側環状溝26の円弧部27は、
図4(b)に示すように、本実施形態では、凹凸周壁部15の分割面18側周縁の凹部16の底部としての周縁凹底部16aを結ぶ底部仮想円16bよりも外径側に位置するように設けられている。つまり、円弧部27の径D1を、底部仮想円16bの径D2よりも大径状としている。このような構成とすれば、第2金型20の円弧部27がリップ部34先端の突起36の最突出部よりも連通溝37側に位置することとなる。そのため、リップ部34の突起36,36間におけるバリ残りを効果的に小さくすることができる。
【0021】
また、本実施形態では、この円弧部27は、凹凸周壁部15の分割面18側周縁の凸部17の先端としての周縁凸先端17aを結ぶ先端仮想円17bと一致または先端仮想円17bよりも外径側に位置するように設けられている。つまり、円弧部27の径D1を、先端仮想円17bの径D3以上の径としている。このような構成とすれば、第2金型20の円弧部27がリップ部34先端の連通溝37の溝底に一致または溝底よりも外径側に位置することとなる。そのため、リップ部34の突起36,36間におけるバリ残りが略生じることがない。また、この場合、リップ部34先端の軸方向一方側にバリが残る懸念があるが、摺接面側ではなく軸方向側であるので、密封部材3の性能に影響を及ぼし難い構成となる。図例では、円弧部27の径D1を、先端仮想円17bの径D3よりも僅かに大径状とした例を示しているが、円弧部27の径D1と先端仮想円17bの径D3とを同径としてもよい。
【0022】
また、凹凸周壁部15に応じた形状とされた凹凸対応部28は、凹凸周壁部15の分割面18側周縁の凹部16に応じた形状とされている。このような構成とすれば、凹凸対応部28の周囲のバリ残りを効果的に軽減することができる。この凹凸対応部28は、軸方向に見て、凹凸周壁部15の凹部16の分割面18側の開口を塞ぐように、かつ円弧部27から内径側に向けて突出するように設けられている。つまり、この凹凸対応部28は、軸方向に見て(底面視して)、略半円状とされている。図例では、この凹凸対応部28の外径を、分割面18側周縁の凹部16の内径よりも僅かに小径状とした例を示しているが、このような態様に限られない。また、図例では、この凹凸対応部28を、内径側環状溝26の溝底に向けて延びるように設けられた突条状とした例を示しているが、このような態様に限られず、例えば、突片状とされたものでもよい。
また、本実施形態では、
図4(a)に示すように、凹凸対応部28を、周方向に間隔を空けて複数箇所に設けた構成としている。図例では、等間隔を空けて4つの凹凸対応部28を設けた例を示している。これら凹凸対応部28間の各円弧部27は、同一円周状に設けられている。なお、凹凸対応部28を設ける個数やピッチは、金型1の加工コストやバリ残りを軽減する観点等から適宜の個数やピッチとしてもよく、少なくとも1個であってもよく、2個以上であってもよい。
【0023】
上記のような金型1を用いて密封部材3を成形する際には、以下のようにしてもよい。
例えば、第1凹部11が上方側に向けて開口するように下方側に設置された第1金型10の第1環状溝12の外周面12c及び載置面13に沿わせるように芯金30を配置する(
図2(a)の二点鎖線参照)。そして、この芯金30上に例えばゴムシート等の成形材料を載置し、第2凹部21が下方側に向けて開口するように上方側に設置された第2金型20を第1金型10に対して相対的に移動させ互いの分割面18を当接させて金型1を型締めし、加圧及び加熱する。このような圧縮成形により、芯金30に弾性部材33が固着一体とされ、また、余剰の成形材料が外径側環状溝22及び内径側環状溝26に溢出する。そして、金型1を型開きし、外径側環状溝22及び内径側環状溝26に溢出されて成形された部位をバリとともに除去し、密封部材3を成形するようにしてもよい。なお、金型1を用いた密封部材3の成形方法としては、上記のような構成に限られず、その他、種々の変形が可能である。
【0024】
次に、本発明に係る金型の他の実施の形態について、図面を参照して説明する。
なお、以下の実施形態では、先に説明した実施形態との相違点について主に説明し、同様の構成については、同一符号を付し、その説明を省略または簡略に説明する。また、先に説明した実施形態と同様に奏する作用効果についても説明を省略または簡略に説明する。
【0025】
図5及び
図6は、第2実施形態に係る金型1Aの一例を模式的に示す図である。
本実施形態に係る金型1Aは、第2金型20Aの内径側環状溝26Aの構成が上記第1実施形態とは異なる。
本実施形態では、内径側環状溝26Aの円弧部27Aは、
図6(b)に示すように、凹凸周壁部15の周縁凸先端17aを結ぶ先端仮想円17bよりも内径側に位置するように設けられている。つまり、円弧部27Aの径D1を、先端仮想円17bの径D3よりも小径状としている。このような構成とすれば、第2金型20Aの円弧部27Aがリップ部34先端の連通溝37の溝底よりも内径側に位置することとなる。そのため、リップ部34先端の突起36の円弧部27Aに相当する部分において内径側環状溝26Aに溢出された部位と一連状となる部分を効果的に小さくすることができ、バリ除去の際に生じる懸念があるリップ部34先端の突起36の欠損や除去不足を生じ難くすることができる。
【0026】
また、図例では、円弧部27Aの径D1を、底部仮想円16bの径D2と同径状とした例を示している。このような構成とすれば、リップ部34先端の突起36の円弧部27Aに相当する部分において内径側環状溝26Aに溢出された部位と一連状となる部分を略なくすことができる。
また、凹凸周壁部15に応じた形状とされた凹凸対応部28Aは、凹凸周壁部15の分割面18側周縁の凸部17に応じた形状とされている。このような構成とすれば、凹凸対応部28Aの部位ではリップ部34の突起36,36間におけるバリ残りが略生じることがなく、また、その周囲のバリ残りを効果的に軽減することができる。この凹凸対応部28Aは、軸方向に見て、凹凸周壁部15の分割面18側周縁の凸部17を受け入れるような形状とされ、円弧部27よりも外径側に凹む形状とされている。図例では、この凹凸対応部28Aは、軸方向に見て(底面視して)、略方形状凹所とされ、内径側環状溝26Aの溝底に向けて延びるように設けられた溝状とされている。また、上記同様、周方向に等間隔を空けて4つの凹凸対応部28Aを設けた例を示している。
この金型1Aを用いた場合にも、上記と同様にして密封部材3を成形することができる。
【0027】
なお、上記各実施形態では、外径側環状溝22及び内径側環状溝26,26Aを、周方向に見て、略半円溝状とした例を示しているが、このような形状に限られず、その他、種々の形状とされたものであってもよい。
また、上記各実施形態では、外周側部材4に対して内周側部材5が回転される例を示しているが、このような態様に代えて、密封部材3が嵌合された側となる外周側部材4が回転されるものであってもよい。また、上記各実施形態では、内周側部材5の外周面5bを第1面とし、これに摺接されるリップ部34を有した密封部材3を成形する金型1,1Aを例示したが、このような態様に代えて、外周側部材4の内周面4bを第1面とし、これに摺接されるリップ部34を有した密封部材3を成形する金型1,1Aとしてもよい。つまり、外径側に向けて延びるようにリップ部34が設けられた密封部材3を成形する金型1,1Aであってもよい。この場合は、上記した金型1,1Aの径方向一方側を外径側とし、径方向他方側を内径側として把握するようにすればよい。つまり、第1金型10の凹凸周壁部15の外径側に隣接される外径側環状溝22の内径側の溝開口周縁部に、上記のような円弧部や凹凸対応部を設けた構成とすればよい。上記各実施形態に係る金型1,1Aを構成する各部の構成は、上記した例に限られず、その他、種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0028】
1,1A 金型
10 第1金型
15 凹凸周壁部
16 凹部
16a 周縁凹底部(分割面側周縁の凹部の底部)
16b 底部仮想円(周縁凹底部を結ぶ仮想円)
17 凸部
17a 周縁凸先端(分割面側周縁の凸部の先端)
17b 先端仮想円(周縁凸先端を結ぶ仮想円)
18 分割面
19 キャビティ
20,20A 第2金型
26,26A 内径側環状溝(環状溝)
27,27A 円弧部
28,28A 凹凸対応部(凹凸周壁部に応じた形状とされた部位)
3 密封部材
34 リップ部
35 摺接部
36 突起
37 連通溝
4 外周側部材
4b 内周面
5 内周側部材
5b 外周面(第1面)
8 被密封空間