(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-24
(45)【発行日】2024-05-07
(54)【発明の名称】骨折治療用のインプラント、及び骨折治療用のインプラントの製造方法
(51)【国際特許分類】
A61B 17/68 20060101AFI20240425BHJP
【FI】
A61B17/68
(21)【出願番号】P 2020122099
(22)【出願日】2020-07-16
【審査請求日】2023-06-07
(31)【優先権主張番号】P 2020018187
(32)【優先日】2020-02-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000237167
【氏名又は名称】富士フィルター工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085660
【氏名又は名称】鈴木 均
(74)【代理人】
【識別番号】100149892
【氏名又は名称】小川 弥生
(72)【発明者】
【氏名】荒井 聡司
(72)【発明者】
【氏名】松本 貴志
【審査官】近藤 裕之
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-533551(JP,A)
【文献】特表2008-500140(JP,A)
【文献】特表2010-524642(JP,A)
【文献】特開昭53-041093(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体内の骨折治療対象部位に寄せ集められた骨片を覆い、該部位を観血的に整復固定する骨折治療用のインプラントであって、
1本又は複数本の生体適合性を有する金属素線から構成される金属線材が、丸編みにより筒状に編成された金属製ニット部
と、
1本又は複数本の生体適合性を有する樹脂素線から構成される樹脂糸が、丸編みにより筒状に編成された樹脂製ニット部と、を有し、
前記金属製ニット部と前記樹脂製ニット部とが軸方向に連続して編成されていることを特徴とする骨折治療用のインプラント。
【請求項2】
隣接する2つの前記樹脂製ニット部を構成する前記樹脂糸は、前記両樹脂製ニット部の間に位置する前記金属製ニット部内で連続していることを特徴とする請求項
1に記載の骨折治療用のインプラント。
【請求項3】
隣接する2つの前記金属製ニット部を構成する前記金属線材は、前記両金属製ニット部の間に位置する前記樹脂製ニット部内で連続していることを特徴とする請求項
1又は2に記載の骨折治療用のインプラント。
【請求項4】
軸方向の端部には、前記金属製ニット部のほつれを防止する端部加工が施されていることを特徴とする請求項1乃至
3の何れか一項に記載の骨折治療用のインプラント。
【請求項5】
前記端部加工は、前記金属製ニット部の軸方向の端部に位置する複数のループに前記金属線材の端部又は他の線材を順次挿通して引き締めて、前記金属製ニット部の端部の直径を縮小させる加工であることを特徴とする請求項
4に記載の骨折治療用のインプラント。
【請求項6】
生体内の骨折治療対象部位に寄せ集められた骨片を覆い、該部位を観血的に整復固定する骨折治療用のインプラントの製造方法であって、
1本又は複数本の生体適合性を有する金属素線から構成される金属線材を、丸編みにより筒状に編成して金属製ニット部を作製する工程と、1本又は複数本の生体適合性を有する樹脂素線から構成される樹脂糸を、丸編みにより筒状に編成して金属製ニット部を作製する工程と、を交互に実行することにより、前記金属製ニット部と前記樹脂製ニット部とが軸方向に連続して編成されたニット部材を作製する工程と、
前記樹脂製ニット部の軸方向の適所を切断する工程と、
を含むことを特徴とする骨折治療用のインプラントの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体内の骨折治療対象部位に寄せ集められた骨片(骨折片)を覆い、該部位を観血的に整復固定する骨折治療用のインプラントに関し、特に、金属線材から形成された金属製ニット部を備えるインプラントに関する。
【背景技術】
【0002】
骨折部を観血的に整復する方法として、以下の方法が知られている。
1.ピンニング法
ピンニング法は、K-Wire(キルシュナー鋼線)等からなるピンを骨折部に挿入して、骨片同士を正規の位置において固定する手術法である。ピンニング法は、骨折によって骨片が正規の位置から変位した場合のような単純骨折において選択される。
2.スクリュー固定法
スクリュー固定法は、骨片をネジのみで固定する手術法であり、単純骨折の場合に選択される。
3.プレート固定法
プレート固定法は、骨片をプレートとスクリューで固定する手術法であり、関節を形成する骨、及び/又は、関節付近の骨を骨折した場合に選択される。
4.創外固定法
創外固定法は、ピンやワイヤー等を用いて、骨片を身体の外部から固定する方法である。開放骨折、関節内骨折、又は、プレートやスクリューでは固定できない粉砕骨折の場合等に選択される。
5.髄内釘固定法
髄内釘固定法は、骨髄中に髄内釘(ネイル)を挿入して骨片を固定する方法である。主に上腕骨、大腿骨、脛骨など大きな骨の骨幹部が骨折した場合に選択される。
【0003】
特許文献1には、上腕骨近位骨折に使用される骨折治療用のインプラントが開示されている。このインプラントは、3.に示すプレート固定法に使用されるインプラントであり、例えばチタンから構成される。
特許文献1に示されるインプラントは、骨折部の一面に固定される帯板状のメインプレートと、骨折部の他面(反対面)に固定されてメインプレートと共に骨折部を挟むアウトリガープレートと、両者を接続する2本の線状の接続要素とを備える。
2本の線状の接続要素は、アウトリガープレートの側端縁の適所からプレート面に沿って並行に延出している。メインプレート内には、上記線状の接続要素を夫々挿通する2つの孔が、短手方向に沿って形成されている。両接続要素の先端部はメインプレートの孔から外部に露出する。
メインプレートとアウトリガープレートは、骨折部に添設可能な姿勢に自在に変形可能な柔軟性を有する。メインプレートを骨折部の一面に添設してスクリューにより固定し、アウトリガープレートを骨折部の他面に添設してスクリューにより固定し、メインプレートから露出した2本の接続要素の先端部を捻って、接続要素がメインプレートから引き抜かれることを防止すると共に、メインプレートとアウトリガープレートとの距離を固定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
膝蓋骨、肘頭、踵骨、又は大腿骨大転子を粉砕骨折したような場合は、上記各方法のうち3~5に示す何れかの方法が選択される。しかし、3~5に示す方法のみによる骨折治療は困難を極める。即ち、粉砕骨折した場合の骨片は数ミリ程度の大きさである。骨折線の入り方及び骨片の形状は患者毎に異なる為、患者毎に骨片の固定方法とスクリューの挿入位置等を決定する必要がある。
このような理由から、粉砕骨折した骨折部の治療に必要な手術時間は、長時間化しやすい傾向にある。その一方で、手術時間の短縮化と手術費用の低コスト化が求められている。即ち、簡便且つ確実に骨片を固定できる新たな骨折治療用のインプラントが求められている。
本発明は上述の事情に鑑みてなされたものであり、簡便且つ確実に骨片を固定できる新たな骨折治療用のインプラントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明は、生体内の骨折治療対象部位に寄せ集められた骨片を覆い、該部位を観血的に整復固定する骨折治療用のインプラントであって、1本又は複数本の生体適合性を有する金属素線から構成される金属線材が、丸編みにより筒状に編成された金属製ニット部と、1本又は複数本の生体適合性を有する樹脂素線から構成される樹脂糸が、丸編みにより筒状に編成された樹脂製ニット部と、を有し、前記金属製ニット部と前記樹脂製ニット部とが軸方向に連続して編成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、簡便且つ確実に骨片を固定できる新たな骨折治療用のインプラントを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の第一の実施形態に係るインプラントを示す図であり、(a)はインプラントの概略構成を示す斜視図であり、(b)及び(c)は変形後の姿勢例を示す図である。
【
図2】(a)~(c)は、金属線材の構成例を示す模式図である。
【
図3】本発明の第一の実施形態に係るインプラントの実物画像を示す図であり、(a)はインプラントの全体画像を示す図であり、(b)は幅方向端部を拡大した画像を示す図である。
【
図4】インプラントの製造工程の一例を示すフローチャートである。
【
図5】(a)~(d)は、金属製ニット部の端部加工例を示す模式図である。
【
図6】(a)、(b)は、金属製ニット部の端部加工例を示す模式図である。
【
図7】金属製ニット部の端部加工例を示す模式図である。
【
図8】(a)、(b)は、金属製ニット部の端部加工例を示す模式図であり、(c)は(b)に示すスナップ結合部材の結合状態を示す模式的断面図である。
【
図9】本実施形態に係るインプラントを膝蓋骨の粉砕骨折の治療に適用する場合の模式図である。
【
図10】本発明の第二の実施形態に係るインプラントの概略構成を示す図である。
【
図11】
図4のステップS1にて作製される第二の実施形態に係るニット部材の概略構成を示す模式図である。
【
図13】(a)、(b)は、金属製ニット部の端部加工例を示す模式図である。
【
図14】金属製ニット部の端部加工例を示す模式図である。
【
図15】(a)~(c)は、金属製ニット部の端部加工手順を実物画像にて示す図である。
【
図16】金属製ニット部の端部加工方法を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載される構成要素、種類、組み合わせ、形状、その相対配置などは特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する主旨ではなく単なる説明例に過ぎない。
【0010】
〔第一の実施形態〕
図1は、本発明の第一の実施形態に係るインプラントを示す図であり、(a)はインプラントの概略構成を示す斜視図であり、(b)及び(c)は変形後の姿勢例を示す図である。
本実施形態に係るインプラント1は骨折治療に使用される。インプラント1は、例えば生体内の骨折部に寄せ集められた骨片(又は骨折片)を覆うために使用される。骨折部は、骨折治療の対象となる部位である。インプラント1は、骨折部を観血的に整復固定する。
インプラント1は、1本又は複数本の生体適合性を有する金属素線から構成される金属線材11を編み上げることにより形成された金属製ニット部10(ワイヤーニットメッシュ部)を有する点に特徴がある。本実施形態に示すインプラント1は、その全体が金属製ニット部10から構成されている。
【0011】
<金属製ニット部>
<<外観構成>>
インプラント1は、丸編み機を用いて、繊維状の金属線材11を筒状に編み上げることにより形成されている。インプラント1は、螺旋状に連続して形成されたループ(ニードルループ及びシンカーループ)によって筒状に編成されている。
図1(a)に示すインプラント1は、軸方向一端側から他端側に向かって編み上げられている。
インプラント1は、緯編み地から構成されている。即ち、インプラント1の周方向は編み地のコース(course)方向に等しく、インプラント1の軸方向は編み地のウェール(wale)方向に等しい。
インプラント1は、対向する内周面13を重ね合わせる(密着させる)ことにより、編み地が2枚重ねとなった姿勢にて使用される。インプラント1は、例えば矩形の布状の姿勢を初期姿勢とする。以下、インプラント1の初期姿勢が矩形状であるとして説明する。初期姿勢におけるインプラント1の幅方向長(軸方向と直交する方向における長さ)は、例えば編み上げ時におけるインプラント1の周方向長の半分の長さである。
インプラント1はニットから構成されるため、その軸方向、幅方向、及び、軸方向と幅方向の双方向と交差する方向に伸縮可能である。インプラント1は、初期姿勢のままで、或いは、初期姿勢から適宜変形された変形姿勢にて使用される。
【0012】
図1(b)、(c)において、破線はインプラント1の初期姿勢を示し、実線はインプラント1の変形姿勢を示す。
図1(b)に示すように、インプラント1は、初期姿勢から幅方向に伸長させた変形姿勢にて、骨折治療に使用できる。この変形姿勢では、その軸方向に短縮される。
図1(c)に示すように、インプラント1は、初期姿勢から軸方向に伸長させた変形姿勢にて、骨折治療に使用できる。この変形姿勢では、インプラント1は幅方向に短縮される。軸方向に伸張させた場合、インプラント1を紐として使用することも可能である。
或いは、インプラント1は、矩形状の初期姿勢から、更に2つ折り、3つ折り等にされた変形姿勢にて骨折治療に使用できる。
インプラント1はニットから構成されるため、所定の厚さを有する三次元構造体である。また、インプラント1は、金属線材により形成された多数のループに起因する多数の孔を有しているため多孔質構造体である。
【0013】
<<金属線材>>
インプラント1を構成する金属には、生体適合性を有し、体内に留置可能な金属が使用される。例えば、インプラント1を構成する金属として、純チタン、チタン合金、チタン-ニッケル合金、ステンレス鋼、コバルトクロム合金、タンタル、又は貴金属合金等を使用可能である。インプラント1を構成する金属としては、特に純チタン、又はチタン合金が好適である。
【0014】
図2(a)~(c)は、金属線材の構成例を示す模式図である。
図2(a)に示すように、金属線材11は、1本の金属素線12から構成されてもよい。即ち、金属製ニット部10は、モノフィラメントとしての1本の金属素線12から編成されてもよい。
図2(b)に示すように、金属線材11は、寄せ集められた複数本の金属素線12、12…から構成されてもよい。寄せ集められた複数本の金属素線12、12…は、撚り合わせられていなくてもよい。即ち、金属製ニット部10は、多本取りされた複数本の金属素線12、12…から編み上げられていてもよい。多本取りされた複数本の金属素線12、12…とは、束状にされた金属素線、又は、無撚の金属素線である。
図2(c)に示すように、金属線材11は、寄せ集められた複数本の金属素線12、12…から構成されてもよい。寄せ集められた複数本の金属素線12、12…は、撚り合わせられていてもよい。即ち、金属製ニット部10は、撚り線としての金属線材11から編成されていてもよい。
インプラント1の柔軟性を確保する観点、及び/又は、ストレスシールディングを防止する観点からは、金属製ニット部10は、1本の金属素線12、又は多本取りされた複数本の金属素線12、12…から形成されるのが好適である。
金属素線12としては、例えば横断面形状が円形の丸線が使用される。丸線の場合の金属素線12の線径(直径)は、例えばφ0.06mm以上φ0.70mm以下が好適である。金属線材11を複数本の金属素線12、12…から構成する場合、金属線材11の外径(直径)は、φ0.70mm以下とするのが好適である。
このような線径の金属素線12を使用することにより、インプラント1は、骨折部の整復形状に応じて、自在に湾曲変形(又は屈曲変形)する。このような線径の金属素線12を使用することにより、ストレスシールディングの発生を防止する。
なお、インプラント1には、必要に応じて、横断面形状が円形以外の金属素線12を用いてもよい。
【0015】
<<編み地>>
インプラント1には、ニットの三原組織である天竺編み、ゴム編み、パール編み、又はこれらを適宜組合わせた編み地を使用できる。
金属線材11(又は金属素線12)の線径、横断面形状、インプラント1の初期姿勢における幅方向長、編み目の密度、及び、編み地の種類等は、インプラント1が使用される生体内の部位、及び要求される伸縮量等に応じて適宜設定される。
初期姿勢におけるインプラント1の幅方向長と軸方向長は、治療対象とする部位を被覆可能な大きさを基準として決定される。
インプラント1を膝蓋骨骨折、肘頭骨折、踵骨骨折、及び大腿骨大転子骨折等の治療に使用する場合、初期姿勢におけるインプラント1の幅方向長は、例えば10mm以上60mm以下が好適である。
初期姿勢におけるインプラント1の軸方向長は、軸方向に形成される編み目の数(段数)に応じて任意の長さに調整可能である。また、骨折部の表面のみを被覆するか、骨折部及びその周辺を含む骨の全体に巻き付けて方位するか等、初期姿勢におけるインプラント1の軸方向長はその使用態様に応じて任意に決定されることが望ましい。
【0016】
<<実物画像例>>
図3は、本発明の第一の実施形態に係るインプラントの実物画像を示す図であり、(a)はインプラントの全体画像を示す図であり、(b)は幅方向端部を拡大した画像を示す図である。
本図に示すインプラント1は、線径φ0.5mmの純チタンからなるモノフィラメントとしての金属線材11を、天竺編みすることにより形成されている。図示されたインプラント1は、軸方向及び幅方向に伸張・短縮変形されておらず、軸方向端の金属線材を切断して丸編み機から取り外された状態である。図示するインプラント1の周方向長はφ64mm、軸方向長は130mmである。
【0017】
<<端部処理>>
インプラント1を構成する金属製ニット部10の軸方向の端部には、必要に応じて端部処理が施される。端部処理例については後述する。
【0018】
<インプラントの製造>
図4は、インプラントの製造工程の一例を示すフローチャートである。
【0019】
<S1:ニット部材作製工程>
ニット部材作製工程においては、金属線材に対応した丸編み機を用いて金属線材を丸編みして、インプラントの前駆体である筒状の金属製ニットを編成する。
金属線材を丸編みする丸編み機としては、実用新案登録第3178575号に記載の「ワイヤーメッシュ編み機」を用いることができる。
金属線材を丸編みするワイヤーメッシュ編み機の動作原理は、繊維糸を丸編みする丸編み機と同様である。丸編み機は既知の装置であるため、その説明を省略する。
【0020】
<S3:切断工程>
本工程では、作製された筒状の金属製ニットを丸編み機から取り外す。即ち、金属製ニットを形成した金属線材11を切断して、所定の軸方向長を有する金属製のニット部材を得る。
【0021】
<S5:洗浄・乾燥工程>
金属製ニット部材の表面に付着した酸洗浄溶液を洗浄により除去した後、金属製ニット部材を乾燥させる。
本工程を経て得られた金属製ニット部材を、インプラントとして完成してもよいが、必要に応じてステップS9以降の処理を実施する。
【0022】
<S7:端部処理工程>
金属製ニット部材の軸方向の少なくとも編み終わり側の端部に対して、所定の端部加工を実行する。
端部処理は金属線材11がほつれる(ほどける)ことを防止するために実行される。端部処理は、その態様によっては、インプラント1に所定の機能を付加するために実行される。
【0023】
<S9:洗浄・製品検査工程>
本工程では、必要に応じてインプラント1を洗浄する。また、インプラント1が所定の製品条件を満たしているかを検査する。
【0024】
<S11:梱包・出荷工程>
最後に、インプラントを梱包し、出荷する。本工程では、必要に応じて梱包後のインプラント1を滅菌処理する。
【0025】
<端部加工例>
金属製ニット部10(ステップS7、9における金属製ニット部材)の軸方向の端部には、必要に応じて所定の端部加工が施される。
端部加工の第一の目的は、金属製ニット部10のほつれを確実に防止することにある。但し、金属線材11は、湾曲又は屈曲変形した姿勢を保持できるため、端部加工をしなくても最終段のループの形状はある程度保持される。従って、ほつれ防止を目的とする端部加工は任意で実施される。ほつれ防止目的の端部加工は、少なくとも編み終わり側の端部10bに実施されるが、軸方向の両端部に実施されてもよい。
端部加工の第二の目的は、端部加工の処理態様に応じて、金属製ニット部10のみでは得られない機能をインプラント1に付与することにある。機能付与を目的とする端部加工は、機能を付与するべき箇所に応じて金属製ニット部10の軸方向の何れかの端部10a、10b(
図1参照)又は両端部10a、10bに施される。
なお、以下に示す各端部加工例は、適宜組合わせて使用することができる。また、金属製ニット部10の軸方向の一方の端部と他方の端部とで、施される端部加工が異なってもよい。
【0026】
<<端部加工例1>>
図5(a)~(c)は、金属製ニット部の端部加工例を示す模式図である。本図に示す端部加工は、金属製ニット部10の端縁10cが外部に露出することを防止するため、金属製ニット部10のほつれを防止することができる。
図5(a)に示すインプラント1Aは、金属製ニット部10の端部10bを三つ折りすることにより形成された端部加工部20Aを有する。即ち、端部加工部20Aは、金属製ニット部10の幅方向に伸びると共に、金属製ニット部10の軸方向に離間した2本の折り線に沿って、金属製ニット部10の端部を巻き付けるように折り畳むことにより形成される。金属製ニット部10の端部10bは、三つ折りされた後、更に、ろう付け、抵抗溶接、又は接着剤等により、めくれないように固定されてもよい。
図5(b)に示すインプラント1Bは、金属製ニット部10の端部10bに取り付けられた留具20Bを備える。留具20Bは、例えば金属製ニット部10の端部10bを挟んでかしめられることにより、金属製ニット部10の軸方向端縁10cから所定の軸方向長の金属製ニット部10を被覆する。留具20Bは、生体適合性を有していれば、金属製でも合成樹脂製でもよい。留具20Bは、ろう付け、抵抗溶接、又は、接着剤等により金属製ニット部10に固定されてもよい。
図5(c)に示すインプラント1Cは、金属製ニット部10の端部10bに取り付けられた留具20Cを備える。留具20Cは、例えば軸方向に折り返された金属製ニット部10の端部10bの適所を挟んでかしめられることにより、金属製ニット部10の端縁10cを含む所定の軸方向長部位を外部に露出しないように被覆する。留具20Cは、生体適合性を有していれば、金属製でも合成樹脂製でもよい。留具20Cは、ろう付け、抵抗溶接、又は接着剤等により金属製ニット部10に固定されてもよい。
図5(d)に示すインプラント1Dは、金属製ニット部10の端部10bの一方の面に取り付けられた留具20Dを備える。留具20Dはプレート状であり、軸方向に折り返された金属製ニット部10の端縁10cを被覆しうる端部10bの適所に添設されて、固定されている。留具20Dは、生体適合性を有していれば、金属製でも合成樹脂製でもよい。
留具20Dはその構成材料に応じて、金属製ニット部10の端部10bに対して、ろう付け、抵抗溶接、又は接着剤等により固定される。留具20Dは、金属製ニット部10の端縁10cを外部に露出しないように被覆する。
このように、インプラント1は、金属製ニット部10の端縁10cが外部に露出しないように加工されている。上記端部加工例は、初期姿勢におけるインプラント1(金属製ニット部10)の幅方向長を変更せずに端部加工する例である。
【0027】
<<端部加工例2>>
図6(a)、(b)は、金属製ニット部の端部加工例を示す模式図である。
本図に示すインプラント1E、1Fに形成された端部加工部20E、20Fは、インプラント1の端部に合成樹脂を付着させることにより形成される。端部加工部20E、20Fは、溶融した合成樹脂中に金属製ニット部10の端部10bをディッピングして固化させることにより形成される。本加工例は、初期姿勢におけるインプラント1(ここでは金属製ニット部10)の幅方向長を変更せずに端部加工する例である。
図6(a)に示すように、端部加工部20Eは、金属製ニット部10の内周面13を密着させた状態で形成されてもよい。
図6(b)に示すように、端部加工部20Fは、金属製ニット部10の内周面13を密着させない状態で、即ち金属製ニット部10の端部10bを筒状に保持した状態で形成されてもよい。
図6(a)、(b)に示す端部加工部20E、20Fは、密着している金属線材11同士を密着した状態に維持するか、又は、密着していないが近接している金属線材11同士を近接した状態に維持する。このように、端部加工部20E、20Fを形成することにより、金属線材11同士の自由な動作が制限される。なお、ディッピング時における合成樹脂の粘度、金属線材11を被覆する合成樹脂の厚さ、硬化後の合成樹脂の弾力性等、の何れか又は全部を適宜調整することにより、端部加工部20E、20Fに所定の変形性を与えるようにしてもよい。
【0028】
<<端部加工例3>>
図7は、金属製ニット部の端部加工例を示す模式図である。
図7に示すインプラント1Gは、金属製ニット部10の端部10bに取り付けられた留具20Gを備える。留具20Gは、金属製ニット部10の端部10bを被覆して、金属製ニット部10の端縁10cが外部に露出することを防止する。留具20Gは、インプラントのほつれを防止する。留具20Gは、インプラント1の軸方向端部を先細り形状にする。
留具20Gは、生体適合性を有していれば、金属製でも合成樹脂製でもよい。
留具20Gは、カシメ、ろう付け、抵抗溶接、又は接着剤等により金属製ニット部10に固定される。
本例では、インプラント1Gの軸方向端部が先細り形状となるので、留具20Gを、金属製ニット部10の適所に挿通すること、他の骨折治療用のプレートに形成された孔内に挿通すること、又は、留具20Gをその他の孔或いは間隙に挿通することが可能となる。また、留具20Gを利用して、骨折部に添設したインプラント1Gが緩まないように締結することも可能である。
【0029】
<<端部加工例4>>
図8(a)、(b)は、金属製ニット部の端部加工例を示す模式図であり、(c)は(b)に示すスナップ結合部材の結合状態を示す模式的断面図である。本例に示すインプラントは、軸方向の両端部に対となる留具を備え、一方の留具を他方の留具に対して着脱自在に構成した点に特徴がある。対となる留具は、生体適合性を有する材料から構成される。本加工例は、初期姿勢におけるインプラント1H、1J(ここでは金属製ニット部10)の幅方向長を変更せずに端部加工する例である。
図8(a)に示すインプラント1Hは、金属製ニット部10の端部10a、10bに取り付けられた対となる面ファスナー20H(20Ha、20Hb)を備える。一方の面ファスナー20Haは、他方の面ファスナー20Hbに対して自在に接着し、また他方の面ファスナー20Hbから自在に剥離する。面ファスナー20Hは、金属製ニット部10に対して、例えば接着剤により取り付けられる。
図8(b)に示すインプラント1Jは、金属製ニット部10の端部10a、10bに取り付けられた対となるスナップ結合部材20J(20Ja、20Jb)を備える。スナップ結合部材20Jは平板状のベース21の一面から、該一面と交差する方向(図では直交する方向)に突出している。(c)に示すように、一方のスナップ結合部材20Jaは、他方のスナップ結合部材20Jbに係止されることによって、他方のスナップ結合部材20Jbと結合する。更に一方のスナップ結合部材20Jaは、他方のスナップ結合部材20Jbから自在に分離できる。スナップ結合部材20Jは、ベース21を金属製ニット部10に対して例えば接着剤により接合することで、金属製ニット部10に取り付けられる。
【0030】
<<端部加工例5>>
図13(a)、(b)は、金属製ニット部の端部加工例を示す模式図である。
本例に示すインプラント1(1K、1L)には、端部加工20(20K、20L)として、金属製ニット部10の軸方向端部に位置する少なくとも一の適当なループ(ニードルループ14(14A、14B)、又はシンカーループ)に金属線材11の端部11aを巻回して引き締める加工が施されている点に特徴がある。なお、図には一例として金属製ニット部の編み終わり側の端部10bを示している。
図13(a)に示すインプラント1Kは、最後のニードルループ14Aよりも先端側に位置する金属線材11の端部11aが、最後のニードルループ14Aを形成する金属線材11部分に巻き付けられた例を示している。
図13(b)に示すインプラント1Lは、金属線材11の端部11aが軸方向端縁10cを形成する一のニードルループ14Bを形成する金属線材11部分に巻き付けられた例を示している。本例においては、端部11aが最後のニードループ14Aに隣接する前段のニードルループ14Bに巻き付けられている。
金属線材11のほつれを効果的に防止するために、端部11aはループ14に対して複数回巻き付けられることが望ましい。本例では、端部11aがループ14に対して2回巻き付けられた例を示している。また、端部11aをループ14に巻き付ける際には、端部11aがループ14周りに形成する夫々の「輪」が十分に小さくなるように、巻き付ける度に端部11aを金属線材11の先端方向(図中矢印方向)に強く引き締めることが望ましい。端部11aが形成する「輪」を十分に小さくすれば、金属線材11の塑性変形により、金属製ニット部10のほつれをより効果的に防止できる。
【0031】
図13には、編み終わり側の端部に施される処理例を示したが、同様の端部処理を編み始め側の端部に行ってもよい。また、端部11aの巻き付け対象となるループ14はシンカーループでもよい。更に、端部11aは、複数のループを跨いで挿通され、該複数のループに一括して巻き付けられてもよい。或いは、端部11aは、
図16に示すように複数のループに順次挿通された後に、
図13に示すように適当なループに巻き付けられてもよい。端部11aが複数のループ14に順次挿通されていれば、後段の各ループが前段の各ループから脱落しないため、ほつれを効果的に防止できる。
本例においては、軸方向端部におけるインプラント1の周方向長(或いは幅方向長)が、軸方向の他の部位とほぼ同様の長さに維持される。また、本例においては金属製ニット部10を形成した金属線材11を使用して端部処理をするため、端部加工のための材料を新たに準備する必要がない。
【0032】
<<端部加工例6>>
図14は、金属製ニット部の端部加工例を示す模式図である。
図15(a)~(c)は、金属製ニット部の端部加工手順を実物画像にて示す図である。
本例に係るインプラント1Mには、端部加工20Mとして、金属製ニット部10の軸方向端部に位置する複数のループ(ニードルループ14、シンカーループ)に、金属線材11とは異なる線材(ワイヤ15)を順次挿通して引き締めて、金属製ニット部10の軸方向端部の直径を縮小させる加工が施されている点に特徴がある。なお、図には一例として金属製ニット部の編み終わり側の端部10bを示している。
ワイヤ15は、金属製ニット部10を構成する金属線材11と同一材料から形成される金属線材とすることが好適である。しかし、ワイヤ15は、生体適合性を有する他の金属材料から形成される線材でもよいし、生体適合性を有する非金属製の線材でもよい。
図14に示すように、ワイヤ15が挿通されるループは、金属製ニット部10の軸方向端縁10cに位置する全てのニードルループ14、言い換えれば金属製ニット部10の最終段を形成する全てのニードルループ14とすることが望ましい。しかし、ワイヤ15は、金属製ニット部10の端部10bの直径を、ほつれが防止できる程度に縮小することが可能な位置及び数量の複数のループに挿通されていれば足りる。金属製ニット部10の端部10bの直径は、ほつれが防止できる程度に縮小されていればよい。
例えば、
図14、
図15(a)に示すようにワイヤ15を全てのニードルループ14に順次挿通した後、ワイヤ15を
図14、
図15(b)中に示す矢印方向に引っ張って、
図15(c)に示すように金属製ニット部10の軸方向端部10bの直径を最小化する。
【0033】
本例によれば、ワイヤ15が複数のニードルループ14に挿通されているため、金属線材11の端部11aが先端方向に引っ張られたとしても、ワイヤ15が挿通された各ニードルループ14が前段の各ループから脱落しない。従って、金属製ニット部10の編み目が解けない。また、ワイヤ15を用いて金属製ニット部10の軸方向端部10bの直径を絞ることによって、当該部分の金属線材11が塑性変形して互いに絡み合う(或いは噛み合う)ため、端部10bのほつれをより効果的に防止できる。
なお、ワイヤ15を引き絞るに際して、金属線材11の端部11aは切断されたままで特に端部処理を施されなくてもよい。或いは、
図13と同様に、金属線材11の端部11aは適当なループに巻き付けられてもよい。
図14及び
図15に示す端部処理は編み始め側の端部に行われてもよい。この場合、金属線材11の編み始め側の端部を、金属製ニット部10の軸方向一端部(編み始め側の端部)に位置するループ(ニードルループ又はシンカーループ)に順次挿通して引き締めればよい。
【0034】
<<端部加工例7>>
端部加工例7について、
図14、
図15を参照しつつ、
図16に基づいて説明する。
図16は、金属製ニット部の端部加工方法を説明する模式図である。本図は、
図14、
図15(a)に対応する図である。
本例に係るインプラント1Nには、端部加工として、金属製ニット部10の軸方向端部に位置する複数のループ(ニードルループ14、シンカーループ)に、金属線材11の端部(端部11a)を順次挿通して図中矢印方向に引き締めて、
図15(c)に示すような金属製ニット部10の軸方向端部の直径を縮小させる加工が施されている点に特徴がある。
本例は、ワイヤ15に代えて、金属製ニット部10を形成した金属線材11を使用して、
図14、
図15に相当する端部加工を実施するものである。基本的な構成は先に説明した通りであるため、詳細な説明を省略する。
本例においては金属製ニット部10を形成した金属線材11を使用して端部処理をするため、端部加工のための材料を新たに準備する必要がない。
【0035】
<手術適用例>
図9は、本実施形態に係るインプラントを膝蓋骨の粉砕骨折の治療に適用する場合の模式図である。
本図に示す治療例は、粉砕骨折した膝蓋骨を、既存のインプラント(キルシュナー鋼線、及び軟鋼線)を使用したテンションバンド法(Tension Band Wiring、TBW法)により治療する際に、
図1に示すインプラントを補助的に使用する例である。
【0036】
インプラント1は、膝蓋骨100の前面の全体を被覆している。膝蓋骨100の周囲にはインプラント1の上から軟鋼線111が取り回されている。軟鋼線111は、粉砕した多数の骨片101、101…を全体として引き寄せる。軟鋼線111は、本実施形態に係るメッシュ状のインプラント1を膝蓋骨100に固定する。図中上下方向に、複数の骨片101、101…を挿通するキルシュナー鋼線112、112は、骨片101、101…を整復固定する。キルシュナー鋼線112、112は、インプラント1を介して骨片101、101…に挿通されている。テンションバンドとしての軟鋼線113は、膝蓋骨100を引き寄せて締結するための圧迫力を加える。
メッシュ状のインプラント1は、骨片101、101…を寄せ集められた状態に維持する。インプラント1は、TBW法では困難なごく小さな骨片の固定を可能にする。インプラント1は、膝蓋骨100の前面の全体を被覆することによって、小骨片の前面側への浮き上がりを防止して、小骨片を他の骨片に密着させた状態に維持する。
インプラント1は、骨折部に骨の欠損がある場合に、欠損部に充填された人工骨パウダーを骨片と共に押さえつけて固定する。インプラント1は、欠損部に充填された人工骨パウダーの流出を防止する。
インプラント1は、全面に多数の孔を有しているため、インプラント1の任意の箇所において、鋼線及び釘等を挿通することができる。インプラント1は、これに挿通された鋼線、及び/又は、釘によって、骨折部に固定できる。
【0037】
本実施形態に係るインプラント1は、図示した膝蓋骨骨折の他にも、肘頭骨折、踵骨骨折、及び大腿骨大転子骨折等の治療に特に好適である。
インプラント1は、少なくとも骨折部の治療が完了するまで、生体内に残置される。インプラント1は、骨折部が完治した後も、生体内に残置されてもよい。
インプラント1は、骨折治療において単独で使用されてもよいが、既存の他のインプラントプレート、及び/又は、鋼線等と共に複合的に使用されてもよい。この場合、インプラント1は、キルシュナー鋼線やプレート等の他のインプラントと協働して、骨折部の固定に必要な強度を確保する。
上記手術適用例には、膝蓋骨の表面を被覆する形態でインプラントを使用する例を示したが、インプラント1は、骨折部に巻き付けられることにより骨折部の全体を包囲する態様で使用されてもよい。
本実施形態に係るインプラント1は、上述の鋼線の他、結束バンド、ボルト、医療用ステイプラー、接着剤等、の1つ又は何れかの材料を適宜組合わせることによって、既存の他のインプラントに対して、或いは骨折部に対して固定することができる。
【0038】
<効果>
インプラント1の金属製ニット部10は、金属線材を編み上げることにより形成されているため、自由に湾曲又は屈曲変形させて使用することが可能である。従って、骨折部の形態に応じた所望の姿勢にて使用できる。
インプラント1の金属製ニット部10は、その全体がメッシュ状であるため、金属製ニット部10の任意の位置に鋼線やボルト等を挿通できる。従って、インプラント1と既存の鋼線やプレートを併用する場合であっても、鋼線自体やプレートを固定するためのボルト等と、インプラント1との干渉を気にすることなく、両者を組み合わせて使用できる。
従来のプレートや釘等のインプラントは高剛性であるため、集中的に繰り返して応力を受ける場合がある。このような場合に、従来のプレートや釘等のインプラントが体内で破損することがある。しかし、金属製ニット部10は、編み地から構成されているため、特定の箇所にのみ応力を集中的に受けることは考えにくい。従って、インプラントが体内で破損するという問題を解決する。
インプラント1の金属製ニット部10は、メッシュ状であるため、ごく小さな骨片を押さえつけて固定することができる。
インプラント1の金属製ニット部10は、金属線材11から形成されているため、生体内でインプラントとして使用するために必要な強度を有する。
一方で、金属製ニット部10は、繊維状の金属線材11を編み上げてメッシュ状としたので、従来の金属製プレート等のインプラントに比べて高い柔軟性を有している。
従来、骨折手術に使用されているプレートやピン等の固定材料は、弾性率(ヤング率)が生体と大きく異なる。上記固定材料は、通常、生体よりもはるかに高剛性である。このため、応力が固定材料に集中的に伝達され、生体に必要な負荷が伝達されなくなる応力遮蔽(ストレスシールディング)が発生する。ストレスシールディングは、骨萎縮等の原因となり、二次的な骨折を発生させる場合がある。
本実施形態に係るインプラント1は、従来のインプラントに比べて、生体内の骨との強度差(ヤング率の差)が大きく低減されている。即ち、本実施形態に示すインプラント1を、骨に荷重を伝達する部位に使用した場合であっても、生体に必要な応力を生体骨に伝達できるので、ストレスシールディングの発生を防止又は低減できる。
【0039】
〔第二の実施形態〕
図10は、本発明の第二の実施形態に係るインプラントの概略構成を示す図である。
本実施形態に係るインプラント2は、第一の実施形態に示した金属製ニット部10と、1本又は複数本の生体適合性を有する樹脂素線から構成される樹脂糸31を編み上げることにより形成された樹脂製ニット部30(樹脂ニットメッシュ部)と、を有する点に特徴がある。以下、第一の実施形態と同様の構成については、適宜その説明を省略する。
インプラント2において、金属製ニット部10と樹脂製ニット部30とは、軸方向に連続して編成されている。金属製ニット部10と樹脂製ニット部30は丸編みにより筒状に編成されている。
ここで、金属製ニット部10と樹脂製ニット部30は、軸方向の一端側から他端側に向かって編み上げられている。
図示するインプラント2は、3つのニット部(2つの樹脂製ニット部30、30と、1つの金属製ニット部10)を備える。樹脂製ニット部30は、インプラント2の軸方向の一端部2aと他端部2bとに配置されており、金属製ニット部10は軸方向の中間部(樹脂製ニット部30、30との間)に配置されている。
インプラント2を構成する金属製ニット部10の数は2以上であってもよい。インプラント2を構成する樹脂製ニット部30の数は3以上であってもよい。インプラント2の軸方向の一端部2aと他端部2bには、樹脂製ニット部30が配置されていることが望ましい。
【0040】
<樹脂製ニット部の構成>
樹脂製ニット部30には、生体適合性を有し、且つ体内に留置可能な樹脂が使用される。樹脂糸31には、手術用の縫合糸(スーチャー)を用いることができる。具体的には、非吸収性の材料として、ポリプロピレン、ポリエステル、又はナイロン等を用いた縫合糸を、吸収性の材料として、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリジオキサノン、又はカプロラクト等を用いた縫合糸を、樹脂糸31として使用できる。
樹脂糸31は、熱可塑性樹脂から構成されることが望ましい。樹脂糸31に熱可塑性樹脂を使用することにより、加熱により樹脂糸31を溶融させて、樹脂糸31同士を接着できる。樹脂糸31同士が溶融接着した部分はほつれないため、インプラント2全体のほつれを防止できる。また、樹脂糸31同士が溶融接着した部分を切断すれば、樹脂糸31の糸くず(U字状の切断片)の発生を防止できる。従って、糸くずを発生させずに、治療に最適な軸方向長のインプラント2を容易に得ることができる。樹脂製ニット部30は、インプラント2のほつれを防止する加工が施された端部加工部をインプラント2に形成する手段として機能する。なお、インプラント2の切断時には、樹脂製ニット部30の切断箇所周辺の樹脂糸31を溶融させればよく、樹脂製ニット部30の全体を溶融させる必要はない。
樹脂糸31には、生分解性の樹脂を用いてもよい。樹脂糸31に生分解性樹脂を用いることにより、樹脂糸が生分解された後は金属製ニット部10のみが生体内に残置される。
樹脂製ニット部30を構成する樹脂糸31は、金属線材11の場合と同様に、単一の樹脂素線(
図2の金属素線12に相当)から構成されてもよいし(
図2(a)参照)、非撚り線である複数の樹脂素線から構成されてもよいし(
図2(b)参照)、複数の樹脂素線を撚り合わせた撚り線から構成されてもよい(
図2(c)参照)。
樹脂素線には、例えば横断面形状が円形の丸線が使用される。丸線の場合の樹脂素線の線径(直径)は、例えばφ0.06mm以上φ0.70mm以下が好適である。樹脂糸31を複数本の樹脂素線から構成する場合、樹脂糸31の外径(直径)は、φ0.70mm以下とするのが好適である。
【0041】
なお、樹脂素線の横断面形状は円形以外としてもよい。樹脂素線の線径は、金属素線12の線径と同一としてもよいし、異ならせてもよい。樹脂素線の横断面形状は、金属素線12の横断面形状と同一としてもよいし、異ならせてもよい。金属線材11を構成する金属素線12の本数と、樹脂糸31を構成する樹脂素線の本数は、同一であっても異ならせてもよい。
樹脂製ニット部30の編み地の種類、編み目の幅、編み目の高さ、編み目の度目(目の緩さ/粗さ)等は、金属製ニット部10と同一に設定されるが、金属製ニット部10と異ならせてもよい。
インプラント2の軸方向の各端部に位置する樹脂製ニット部30、30には、樹脂製ニット部30のほつれを防止することを目的として、
図5~
図8に示すような端部処理を施すことができる。
樹脂糸31に熱可塑性樹脂を用いる場合は、樹脂糸31同士を溶融接着し、該溶融接着部を切断することで、金属製ニット部10及び樹脂製ニット部30のほつれが防止される。この場合は、金属製ニット部10のほつれを防止することを目的とした
図5~
図8に示す端部処理を実施する必要がなくなる。
【0042】
なお、インプラント2の端部に位置する樹脂製ニット部30、30には、機能付加を目的として
図7~
図8に示すような端部処理を施してもよい。インプラント2の軸方向の端部を
図7のように先細り状に加工する場合は、樹脂製ニット部30を加熱により軟化させた後、樹脂製ニット部30の端部を先細り形状に変形させて硬化させてもよい。
図8に示す面ファスナー20H、又は、スナップ結合部材20Jは、樹脂製ニット部30に対して、例えば接着剤により、又は溶融させた樹脂製ニット部30を接着剤として、或いは両者を溶融接合させることにより取り付けることができる。
【0043】
<インプラントの製造>
インプラント2の製造工程の一部について
図4、及び
図11に基づき説明する。
【0044】
図11は、
図4のステップS1にて作製される第二の実施形態に係るニット部材の概略構成を示す模式図である。
ステップS1のニット部材作製工程では、ニット部材40が作製される。ニット部材40は、複数の樹脂製ニット部30と複数の金属製ニット部10とを備え、樹脂製ニット部30と複数の金属製ニット部10とが軸方向に交互に連続して編み上げられた構成を有する。インプラント2は、その前駆体となるニット部材40を切断することにより作製される。
上記ニット部材40を製造する丸編み機としては、実用新案登録第3178575号に記載の「ワイヤーメッシュ編み機」を用いることができる。ステップS1においては、金属線材11を丸編みして金属製ニット部10を作製する工程と、樹脂糸31を丸編みして樹脂製ニット部30を作製する工程とが交互に実行されて、ニット部材40が作製される。
軸方向に断続的に形成される各樹脂製ニット部30内には、金属線材11が樹脂製ニット部30の軸方向に渡されている。各樹脂製ニット部30内に渡された金属線材は、該樹脂製ニット部30の軸方向両端に編成される金属製ニット部10、10を構成する金属線材である。即ち、隣接する2つの金属製ニット部10を構成する金属線材11は、両金属製ニット部10、10の間に位置する樹脂製ニット部30内で連続している。樹脂製ニット部30は、直前の金属製ニット部10を構成した金属線材11を切断せずに作製される。
軸方向に断続的に形成される各金属製ニット部10内には、樹脂糸31が金属製ニット部10の軸方向に渡されている。各金属製ニット部10内に渡された樹脂糸は、該金属製ニット部10の軸方向両端に編成される樹脂製ニット部30、30を構成する樹脂糸である。即ち、隣接する2つの樹脂製ニット部30を構成する樹脂糸31は、両樹脂製ニット部30、30の間に位置する金属製ニット部10内で連続している。金属製ニット部10は、直前の樹脂製ニット部30を構成した樹脂糸31を切断せずに作製される。
なお、金属線材11と樹脂糸31は、夫々樹脂製ニット部30と金属製ニット部10の内周側において軸方向に渡される。
【0045】
ステップS1においては、インプラント2よりも軸方向に長尺のニット部材40が得られる。またステップS1においては、金属製ニット部10と樹脂製ニット部30の個数がインプラント2よりも多いニット部材40が得られる。金属線材11が樹脂製ニット部30内で渡された構成、及び樹脂糸31が金属製ニット部10内で渡された構成をニット部材40が備えることにより、最終製品としてのインプラント2の軸方向長によらず、丸編み機を連続して稼動させることができるので、インプラント2の製造効率が向上する。
ステップS3の切断工程では、ニット部材40を丸編み機から取り外す。即ち、金属線材11と樹脂糸31を切断して、所定の軸方向長のニット部材40を得る。
ステップS5、ステップS7を必要に応じて実行する。
ステップS9の端部処理工程においては、ニット部材40の樹脂製ニット部30の軸方向適所を幅方向に沿って切断して、軸方向に所要長さのインプラント2を得る。金属線材11が樹脂製ニット部30内で渡されているため、樹脂製ニット部30を幅方向に沿って切断しても、金属線材11の切りくず(U字状の切断片)が発生しない。また、熱可塑性の樹脂糸31を加熱により溶融させた後に樹脂製ニット部30を切断すれば、溶融した樹脂が金属線材11に接着して、樹脂製ニット部30内での金属線材11の離脱を阻止する。樹脂糸31同士が溶融接着した部分はほつれないため、インプラント2全体のほつれが防止される。
【0046】
インプラント2は、上記処理を実行して作製されるため、ニット部材40と同様に、インプラント2の金属製ニット部10内には樹脂糸31が、樹脂製ニット部30内には金属線材11が渡された(存在した)状態となる。
ステップS9の端部処理工程においては、必要に応じて、
図5~
図8に示す端部処理が実行される。
【0047】
図12は、ニット部材の部分拡大図である。
ニット部材40は、一のニット部(例:金属製ニット部10)の編み終わり部(終端部)に、次のニット部(例:樹脂製ニット部30)の編み始め部(始端部)が重なった重複部41を備える。重複部41は、金属製ニット部10と樹脂製ニット部30とが切り替わる部位に形成される。重複部41においては、金属線材11と樹脂糸31とが同時に編み上げられる。重複部41において、幅方向に並ぶ複数のループ(ニードルループ及びシンカーループ)を金属線材11と樹脂糸31の双方により形成することにより、ニット部材40の全体として、編み目の形状、大きさ、及び緩さ(度目)等を安定させることができる。
重複部41は、3目以上の適当な個数のループによって形成される。
【0048】
<効果>
本実施形態によれば、第一の実施形態と同様の効果を奏することができる。
インプラント2が、2以上の金属製ニット部10を備えている場合、治療現場で樹脂製ニット部30の軸方向の適所を幅方向に沿って溶融させて切断することにより、切断片を発生させずに所望の軸方向長に調整されたインプラントを得ることができる。
なお、ステップS1において樹脂製ニット部30を編成する際には、その直前の金属製ニット部10を形成した金属線材11を切断しても、ニット部材40を作製することは可能である。同様に、ステップS1において金属製ニット部10を編成する際には、その直前の樹脂製ニット部30を形成した樹脂糸31を切断しても、ニット部材40を作製することは可能である。
【0049】
〔本発明の実施態様例と作用、効果のまとめ〕
<第一の実施態様>
本態様は、生体内の骨折治療対象部位に寄せ集められた骨片を覆い、該部位を観血的に整復固定する骨折治療用のインプラントである。インプラント1、2は、1本又は複数本の生体適合性を有する金属素線12から構成される金属線材11が、丸編みにより筒状に編成された金属製ニット部10を有することを特徴とする。
金属製ニット部は、金属線材を編み上げることにより形成されているため、自由に湾曲又は屈曲変形させて使用することが可能である。従って、骨折部の形態に応じた所望の姿勢にて使用できる。
金属製ニット部は、所定の厚さを有する三次元の多孔質構造体であり、骨折治療対象部位に寄せ集められた骨片を覆うことが可能である。従来は固定が困難であったごく小さな骨片であっても、他の骨片に密着させた状態に維持することが可能となる。
本実施態様に示す金属製ニット部はメッシュ状であるため、金属製ニット部の任意の位置に鋼線やボルト等を挿通できる。従って、インプラントと既存の鋼線やプレートを併用する場合であっても、鋼線自体やプレートを固定するためのボルト等と、インプラントとの干渉を気にすることなく、両者を組み合わせて使用できる。
金属製ニット部は、金属線材を編み上げることにより形成されているため、インプラントとして使用するために必要な強度を有する。その一方で、生体内の骨との強度差(ヤング率の差)が大きく低減されているため、ストレスシールディングの発生を防止又は低減できる。
本態様によれば、簡便且つ確実に骨片を固定できる新たな骨折治療用のインプラントを提供できる。
【0050】
<第二の実施態様>
本態様に係るインプラント2は、1本又は複数本の生体適合性を有する樹脂素線から構成される樹脂糸31が、丸編みにより筒状に編成された樹脂製ニット部30を有し、金属製ニット部10と樹脂製ニット部30とが軸方向に連続して編成されていることを特徴とする。
樹脂糸には熱可塑性樹脂を用いることができる。樹脂糸には、生分解性樹脂を用いることができる。樹脂糸を構成する樹脂の種類に応じて、インプラントに種々の機能を付加することができる。
例えば、樹脂糸に熱可塑性樹脂を用いれば、樹脂糸を溶融させることにより、金属線材のほつれを防止することが可能となる。
【0051】
<第三の実施態様>
本態様に係るインプラント2において、隣接する2つの樹脂製ニット部30、30を構成する樹脂糸31は、両樹脂製ニット部の間に位置する金属製ニット部10内で連続していることを特徴とする。
本態様によれば、樹脂糸を切断せずに金属製ニット部と樹脂製ニット部とを作製するので、インプラントの製造効率が向上する。
【0052】
<第四の実施態様>
本態様に係るインプラント2において、隣接する2つの金属製ニット部10、10を構成する金属線材11は、両金属製ニット部の間に位置する樹脂製ニット部30内で連続していることを特徴とする。
本態様によれば、金属線材を切断せずに樹脂製ニット部と金属製ニット部とを作製するので、インプラントの製造効率が向上する。また、樹脂製ニット部の軸方向の適所を幅方向に沿って切断しても、金属線材の切断片が発生しない。
【0053】
<第五の実施態様>
本態様に係るインプラント1、2において、軸方向の端部には、金属製ニット部のほつれを防止する端部加工(20、30)が施されていることを特徴とする。
端部加工は、例えば、インプラントの端部を三つ折りすること、インプラントの端部に各種の留具を取り付けること、インプラントの端部を樹脂で固めること等が含まれる。また、金属製ニット部の軸方向の端部に続けて樹脂製ニット部30を編成することによっても、金属製ニット部のほつれを防止することが可能である。
【0054】
<第六の実施態様>
本態様に係るインプラント1において、端部加工20(
図14~
図16)は、金属製ニット部10の軸方向の端部10bに位置する複数のループ(ニードルループ14、シンカーループ)に、金属線材11の端部(端部11a)又は他の線材(ワイヤ15)を順次挿通して引き締めて、金属製ニット部の端部の直径を縮小させる加工であることを特徴とする。
本態様によれば、線材がループに挿通されているため、金属製ニット部の編み目が抜け落ちない。また、金属製ニット部の軸方向端部の直径を縮小させることによって、当該部分の金属線材が塑性変形して互いに絡み合う(或いは噛み合う)ため、端部のほつれをより効果的に防止できる。
【0055】
<第七の実施態様>
本態様は、生体内の骨折治療対象部位に寄せ集められた骨片を覆い、該部位を観血的に整復固定する骨折治療用のインプラント1、2の製造方法である。
インプラントの製造方法は、1本又は複数本の生体適合性を有する金属素線12から構成される金属線材11を、丸編みにより筒状に編成して金属製ニット部10を作製する工程と、1本又は複数本の生体適合性を有する樹脂素線から構成される樹脂糸31を、丸編みにより筒状に編成して金属製ニット部30を作製する工程と、を交互に実行することにより、金属製ニット部と樹脂製ニット部とが軸方向に連続して編成されたニット部材40を作製する工程(ステップS1)を含む。また、樹脂製ニット部の軸方向適所を切断する工程(ステップS9)を含む。
本態様によれば、金属製ニット部と樹脂製ニット部とが軸方向に連続したニット部材を作製してから、樹脂製ニット部を切断してインプラントを得るので、インプラントの製造効率が向上する。
【符号の説明】
【0056】
1…インプラント、1a…一端部、1b…他端部、2…インプラント、2a…一端部、2b…他端部、10…金属製ニット部、10a…一端部、10b…他端部、10c…端縁、11…金属線材、11a…端部、12…金属素線、13…内周面、14…ニードルループ、15…ワイヤ、20A、20E、20F…端部加工部、20B~20D、20G…留具、20H…面ファスナー、20J…スナップ結合部材、21…ベース、30…樹脂製ニット部、31…樹脂糸、40…ニット部材、41…重複部、100…膝蓋骨、101…骨片、111…軟鋼線、112…キルシュナー鋼線、113…軟鋼線