(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-24
(45)【発行日】2024-05-07
(54)【発明の名称】超音波洗浄装置
(51)【国際特許分類】
B08B 3/12 20060101AFI20240425BHJP
H04R 3/00 20060101ALI20240425BHJP
H04R 17/10 20060101ALI20240425BHJP
【FI】
B08B3/12 B
H04R3/00 330
H04R17/10 330A
(21)【出願番号】P 2020128396
(22)【出願日】2020-07-29
【審査請求日】2023-04-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000243364
【氏名又は名称】本多電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114605
【氏名又は名称】渥美 久彦
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 雅和
【審査官】新井 浩士
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-021812(JP,A)
【文献】特開2013-086059(JP,A)
【文献】特開平07-289991(JP,A)
【文献】特開平08-131978(JP,A)
【文献】特開昭63-190578(JP,A)
【文献】特開2021-125655(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B08B 3/12
H01L 21/304
H04R 3/00,17/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗浄槽内の洗浄液に超音波を照射して被洗浄物を洗浄する超音波洗浄装置であって、
超音波を照射する単周波用の超音波振動子と、
前記超音波振動子を駆動するための高周波信号を発生させる電源回路と、
発振信号を出力して前記電源回路を駆動制御するとともに高周波信号を周波数変調する制御を行う制御手段と
を備え、
前記制御手段は、反共振点の周波数を基準とする最大で±3kHzの範囲を周波数変調時の変調幅とするとともに、前記変調幅の範囲に属しかつ互いに0.5kHz以上の差がある3つ以上の周波数を設定周波数として定義し、洗浄時に前記設定周波数を瞬時に切り換えることで高周波信号の周波数を段階的に変更する制御を行う
とともに、
前記制御手段は、
前記制御を行う際に前記反共振点の周波数を基準とする最大で±3kHzの範囲にて前記変調幅を変更しかつ変調周期を変更することにより、
前記変調幅が相対的に大きく前記変調周期が相対的に短いため超音波が均一に広がりやすい均一洗浄モード、または、前記変調幅が相対的に小さく前記変調周期が相対的に長いため超音波が広がらずに集中しやすい集中洗浄モードを選択して設定可能である
ことを特徴とする超音波洗浄装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記設定周波数を瞬時に切り換える際の変化量を1kHz以上かつ一定の値に設定することを特徴とする請求項1に記載の超音波洗浄装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記設定周波数を瞬時に切り換える際の変化量を1kHz以上の複数の値に設定しかつそれらの値からランダムに選択することを特徴とする請求項1に記載の超音波洗浄装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記電源回路の一次側電流を監視するとともに、前記一次側電流の電流値が所定値よりも大きいと判定した場合に、前記発振信号のデューティ比を下げて周波数切り換え時の電力を抑える制御を行うことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の超音波洗浄装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗浄槽内の洗浄液に超音波を照射して被洗浄物を洗浄する超音波洗浄装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、超音波振動子から洗浄液中に超音波を照射してキャビテーションを発生させ、その圧壊時に生じる衝撃波及びマイクロジェットによる物理的作用によって洗浄を行う超音波洗浄装置が実用化されている。超音波洗浄装置としては、眼鏡やアクセサリー等を洗浄する民生用の製品、機械部品、光学機器、半導体などを洗浄する産業用の製品などがあり、幅広い用途で利用されている。
【0003】
ところが、超音波振動子から照射された超音波は、液面で反射して、洗浄液中に定在波を生じさせてしまう。この定在波は、洗浄液の深さ方向に沿って音圧(音響放射圧)が最大となる部分(腹)と音圧が最小となる部分(節)とが交互に並んだものである。従って、被洗浄物を洗浄すると、被洗浄物の表面のうち、定在波の腹に対応する部分が効率良く洗浄される一方、定在波の節に対応する部分は殆ど洗浄されない状態となる。その結果、被洗浄物の表面を均一に洗浄できないという問題がある。そこで、超音波洗浄装置において、超音波振動子を駆動するための高周波信号に対して周波数変調(FM変調)を施す技術が開示されている(例えば、特許文献1,2参照)。このようにすれば、周波数変調に伴って定在波の腹節位置が移動するため、被洗浄物の表面を均一に洗浄することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平8-131978号公報(段落[0012],[0019]、
図1等)
【文献】特開2018-1120号公報(段落[0037]等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、高周波信号を単純に周波数変調したとしても、被洗浄物が例えば孔等の複雑な形状を有していたり、汚れが酷い場合には、被洗浄物に付着した汚れを落とすことができない。このため、洗浄効率を向上させて汚れを確実に落としたいという要望がある。
【0006】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、洗浄効率を確実に向上させることができる超音波洗浄装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためには、請求項1に記載の発明は、洗浄槽内の洗浄液に超音波を照射して被洗浄物を洗浄する超音波洗浄装置であって、超音波を照射する単周波用の超音波振動子と、前記超音波振動子を駆動するための高周波信号を発生させる電源回路と、発振信号を出力して前記電源回路を駆動制御するとともに高周波信号を周波数変調する制御を行う制御手段とを備え、前記制御手段は、反共振点の周波数を基準とする最大で±3kHzの範囲を周波数変調時の変調幅とするとともに、前記変調幅の範囲に属しかつ互いに0.5kHz以上の差がある3つ以上の周波数を設定周波数として定義し、洗浄時に前記設定周波数を瞬時に切り換えることで高周波信号の周波数を段階的に変更する制御を行うとともに、前記制御手段は、前記制御を行う際に前記反共振点の周波数を基準とする最大で±3kHzの範囲にて前記変調幅を変更しかつ変調周期を変更することにより、前記変調幅が相対的に大きく前記変調周期が相対的に短いため超音波が均一に広がりやすい均一洗浄モード、または、前記変調幅が相対的に小さく前記変調周期が相対的に長いため超音波が広がらずに集中しやすい集中洗浄モードを選択して設定可能であることを特徴とする超音波洗浄装置をその要旨とする。
【0008】
請求項1に記載の発明によれば、反共振点の周波数を基準とする最大で±3kHzの範囲を周波数変調時の変調幅とし、変調幅の範囲に属しかつ互いに0.5kHz以上の差がある3つ以上の周波数を設定周波数として定義することにより、各設定周波数が互いに近接した周波数となる。そして、制御手段が設定周波数を瞬時に切り換えるため、周波数の切り換え時のごく短時間のあいだに洗浄液中において音響的な不整合(乱れ)が生じる。その結果、単純な周波数変調を行う場合に比べて、被洗浄物の表面に対する超音波の作用の仕方が複雑になるため、洗浄効率が向上する。ゆえに、周波数を連続的に変化させる従来の周波数変調とは異なる洗浄効果を得ることができる。なお、変調幅が±3kHzよりも広くなると、変更した周波数が反共振点から離れすぎてしまうため、洗浄効率が低下するおそれがある。また、周波数同士の差が0.5kHz未満になると、周波数を瞬時に切り換えたとしても、音響的な乱れがさほど生じないため、洗浄効率が向上しにくくなる。
【0009】
ここで、洗浄液としては、水系洗剤(水、純水、機能水、アルカリ性洗剤、中性洗剤、酸性洗剤)、準水系洗剤(炭化水素、グリコールエーテル、アルコール等と水とを組み合わせた洗剤)、可燃性洗剤(アルコール系洗剤、脂肪族炭化水素系洗剤、グリコールエーテル系洗剤)、不燃性洗剤(フッ素系洗剤、塩素系洗剤、臭素系洗剤)などが用いられる。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1において、前記制御手段は、前記設定周波数を瞬時に切り換える際の変化量を1kHz以上かつ一定の値に設定することをその要旨とする。
【0011】
請求項2に記載の発明によれば、高周波信号の設定周波数を瞬時に切り換える際の変化量が一定の値に設定されるため、制御手段による高周波信号の制御が容易になる。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1において、前記制御手段は、前記設定周波数を瞬時に切り換える際の変化量を1kHz以上の複数の値に設定しかつそれらの値からランダムに選択することをその要旨とする。
【0013】
請求項3に記載の発明によれば、高周波信号の設定周波数がランダムに変化するため、洗浄液の作用の仕方がより複雑になる。その結果、被洗浄物の表面がより確実に洗浄されるため、洗浄効率がよりいっそう向上する。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれか1項において、前記制御手段は、前記電源回路の一次側電流を監視するとともに、前記一次側電流の電流値が所定値よりも大きいと判定した場合に、前記発振信号のデューティ比を下げて周波数切り換え時の電力を抑える制御を行うことをその要旨とする。
【0015】
ところで、設定周波数を切り換えた直後に、周波数が瞬間的に反共振点から離れる等してインピーダンスが大きく低下し、電源回路に急激に大電流が流れてしまうことがある。そこで、請求項4では、制御手段が、電源回路の一次側電流の電流値が所定値よりも大きいと判定した場合に、発振信号のデューティ比を下げて周波数切り換え時の電力を抑える制御を行っている。その結果、電源回路に大電流が流れることが防止されるため、大電流に起因する電源回路の破損を防止することができ、電源回路の信頼性、ひいては超音波洗浄装置の信頼性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0016】
以上詳述したように、請求項1~4に記載の発明によると、洗浄効率を確実に向上させることができる超音波洗浄装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本実施形態の超音波洗浄装置を示す概略構成図。
【
図3】超音波振動子に印加される電圧信号の波形を示すグラフ。
【
図4】FMサイクル及びFM変調幅を説明するためのグラフ。
【
図5】共振点及び反共振点を説明するためのグラフ。
【
図7】設定周波数の切換時における、超音波振動子に印加される電圧信号の波形を概略的に示すグラフ。
【
図8】他の実施形態において、設定周波数の切換態様を示すグラフ。
【
図9】他の実施形態において、設定周波数の切換態様を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に基づき詳細に説明する。
【0019】
図1に示されるように、本実施形態の超音波洗浄装置10は、洗浄液A1を貯留する洗浄槽11と、洗浄槽11の底板12に装着される超音波振動子13と、超音波振動子13を駆動する超音波発振器14とを備えている。また、洗浄槽11には、洗浄液A1とともに被洗浄物15が収容されている。
【0020】
洗浄槽11の底板12は、ステンレス等の金属板からなり、超音波S1を放射するための振動板として機能する。また、本実施形態の超音波振動子13は、超音波S1を照射する単周波用のボルト締めランジュバン型振動子である。超音波振動子13は、振動面を上方に向けた状態で、洗浄槽11の底板12における複数箇所(本実施形態では4箇所)にボルト締めによって接合されている。超音波振動子13は、超音波発振器14に電気的に接続されており、超音波発振器14から供給される電圧信号Voに基づいて機械振動する。この超音波振動子13の機械振動によって、底板12から洗浄槽11内に超音波S1が出力される。
【0021】
図1に示されるように、超音波発振器14は、CPU21(制御手段)、ドライブ回路22、DC電源23、インバータ回路24(電源回路)、マッチング回路25及びフィードバック回路26を備えている。
【0022】
CPU21は、発振信号を出力し、ドライブ回路22を介してインバータ回路24を駆動制御する。なお、
図2に示されるように、本実施形態の発振信号は、周期T1(s)で出力される矩形波である。発振信号の電圧は3.3Vであり、発振信号のデューティ比は通常時で45%である。また、発振信号の周波数fは、f=1/T1の式から算出される。
【0023】
それとともに、CPU21は、超音波振動子13を駆動するための高周波信号Vpを周波数変調(FM変調)する制御を行う。具体的に言うと、CPU21は、高周波信号Vpの中心周波数を変調する。なお、
図4に示される一般的な周波数変調において、CPU21は、高周波信号Vpの周波数を、例えば、40kHz(中心周波数)→42kHz→40kHz→38kHz→40kHzの順に無段階で連続的に変化させる制御を行う。ここで、1秒間での往復回数(
図4に示す周期t(s)の回数)をFMサイクルという。FMサイクル(Hz)は1/tの式から算出される。また、中心周波数からの周波数の変化幅をFM変調幅(
図4では±2kHz)という。
【0024】
図1に示されるように、ドライブ回路22は、CPU21からの発振信号に基づいてインバータ回路24を駆動する回路であり、電流増幅、絶縁、デッドタイム生成、電圧レベルシフトなどの処理を行う。DC電源23は、インバータ回路24に直流電力を供給するための電源である。DC電源23としては、交流電源を整流回路によりAC-DC変換して直流電源を得るものや、電池などの電源が使用される。
【0025】
インバータ回路24は、超音波振動子13を駆動するための高周波信号Vpを発生させる回路である。具体的に言うと、インバータ回路24は、DC電源23から供給される直流電力を、ドライブ回路22からの出力信号(即ち、CPU21からの発振信号)を増幅してスイッチングし、交流電力の高周波信号Vpに変換する。本実施形態のインバータ回路24は、IGBT、MOSFETなどのスイッチング素子から構成されたハーフブリッジ回路により形成されている。なお、インバータ回路24は、フルブリッジ回路、プッシュプル回路などの他の回路トポロジにより形成されていてもよい。
【0026】
図1に示されるように、マッチング回路25は、トランスなどの素子によりインピーダンス変換し、超音波振動子13に所定の高周波電力を供給する。詳述すると、マッチング回路25は、インバータ回路24からの高周波信号Vpを、超音波S1の反共振点K2(
図5参照)付近の周波数で共振させ、超音波振動子13に高周波電力を供給する。なお、
図5に示されるように、周波数が反共振点K2であるときにインピーダンスが最も高くなる一方、周波数が共振点K1であるときにインピーダンスが最も低くなる。このため、反共振点K2の周波数で超音波S1を照射すれば、超音波洗浄を最も効率良く行うことができる。
【0027】
さらに、マッチング回路25は、インダクタやキャパシタなどの素子から構成され、高周波信号Vpを電圧信号Voに変換(フィルタリング)する。また、マッチング回路25は、超音波振動子13のリアクタンス成分をキャンセルして電気力率の改善を行う。なお、
図3に示されるように、本実施形態の電圧信号Voは、周期T2(s)で出力される正弦波である。周期T2は、CPU21からの発振信号の周期T1(
図2参照)と同期している。また、電圧信号Voの電圧は数kVである。電圧信号Voは、発振信号のデューティ比(
図2参照)と同期している。
【0028】
図1に示されるように、フィードバック回路26は、インバータ回路24の一次側電流の電流値を検出して、電流値を示す電流値信号を生成し、生成した電流値信号をCPU21に出力(フィードバック)する回路である。なお、CPU21には、電流値だけでなく、電流値に比例した電圧値も入力される。
【0029】
次に、超音波洗浄装置10を用いた被洗浄物15の洗浄方法について説明する。
【0030】
まず、洗浄槽11内に洗浄液A1とともに被洗浄物15を収容した後、超音波洗浄装置10の電源(図示略)をオンする。このとき、CPU21は、超音波発振器14から各超音波振動子13に対して電圧信号Voを出力させる制御を行い、各超音波振動子13を駆動させる。具体的に言うと、まず、電圧信号Voが超音波発振器14から超音波振動子13に供給される。このとき、超音波振動子13の電気-機械-音響変換により、洗浄槽11の底板12から超音波S1が照射される。なお、超音波S1は、洗浄液A1中を伝搬し、被洗浄物15に作用する。その結果、被洗浄物15の表面が洗浄される。
【0031】
また、CPU21は、被洗浄物15の洗浄効率を向上させるべく、高周波信号Vpの周波数変調(FM変調)を行う。具体的に言うと、まず、CPU21は、反共振点K2の周波数(
図6では40kHz)を基準とする±2kHzの範囲を、周波数変調時の変調幅W1として定義する。次に、CPU21は、変調幅W1の範囲に属しかつ互いに1.0kHzの差がある5つの周波数を設定周波数として定義する。
図6に示されるように、本実施形態では、38kHz、39kHz、40kHz、41kHz、42kHzの5つを設定周波数として定義する。そして、CPU21は、洗浄時に設定周波数を瞬時に切り換えることで、高周波信号Vpの周波数を中心周波数(40kHz)から段階的に変更する制御を行う。このとき、CPU21は、設定周波数を瞬時に切り換える際の変化量を、一定の値(本実施形態では1kHz)に設定する。よって、CPU21は、高周波信号Vpの周波数を、例えば40kHz→41kHz→42kHz→41kHz→40kHz→39kHz→38kHz→39kHz→40kHz→…の順に段階的に変更する制御を行う(
図6参照)。なお、CPU21は、設定周波数の切り換えを一定時間ごと(本実施形態では20msecごと)に行う。また、高周波信号Vpの周波数の切り換えに伴い、高周波信号Vpから変換された電圧信号Voの周波数も段階的に変化する(
図7参照)。
【0032】
なお、設定周波数を切り換えた直後に、周波数が瞬間的に反共振点K2(
図5参照)から離れる等してインピーダンスが大きく低下し、インバータ回路24に急激に大電流が流れてしまうことがある。そこで、本実施形態では、CPU21が、インバータ回路24の一次側電流を常時監視する。具体的に言うと、CPU21は、フィードバック回路26から電流値信号が入力される度に、電流値信号が示す一次側電流の電流値が所定値よりも大きいか否かを判定する。そして、一次側電流の電流値が所定値よりも大きいと判定された場合、CPU21は、発振信号のデューティ比を45%から20%に下げることにより、周波数切り換え時の電力を抑える制御を行う。なお、デューティ比は、超音波振動子13に印加される電圧信号Voの大きさと相関関係にあるため、デューティ比を小さくすると、超音波振動子13の出力が小さくなる。
【0033】
その後、作業者が電源をオフすると、CPU21により超音波発振器14が停止し、被洗浄物15の洗浄が終了する。
【0034】
従って、本実施形態によれば以下の効果を得ることができる。
【0035】
(1)本実施形態の超音波洗浄装置10では、反共振点K2の周波数を基準とする±2kHzの範囲を周波数変調時の変調幅W1とし、変調幅W1の範囲に属しかつ互いに1.0kHzの差がある5つの周波数(38kHz,39kHz,40kHz,41kHz,42kHz)を設定周波数として定義することにより、各周波数が互いに近接した周波数となる。そして、CPU21が周波数を瞬時に切り換えるため、周波数の切り換え時のごく短時間のあいだに洗浄液A1中において音響的な不整合(乱れ)が生じる。その結果、単純な周波数変調を行う場合に比べて、被洗浄物15の表面に対する超音波S1の作用の仕方が複雑になるため、洗浄効率が向上する。ゆえに、周波数を連続的に変化させる従来の周波数変調(
図4参照)とは異なる洗浄効果を得ることができる。
【0036】
(2)特許第4512721号公報(特開2002-096023号公報)に記載の従来技術には、2つの周波数を切り換える2周波の発振制御回路が開示され、回路の数を増やすことにより、3つ以上の周波数を切り換える多周波の発振制御回路を構成できる旨も記載されている。一方、本実施形態では、CPU21を利用して5つの周波数を切り換える制御を行っている。即ち、各周波数ごとに回路を準備しなくても済むため、小型で低価格の超音波洗浄装置10を実現することができる。
【0037】
(3)例えば、周波数が異なる複数の超音波振動子を使い分けたり、多周波用の超音波振動子を用いたりすることにより、本実施形態と同様の周波数の切り換えを行うことは可能である。しかし、本実施形態では、高周波信号Vpを調整するのみで周波数の切り替えを実現できるため、超音波洗浄装置10の小型化・簡素化を実現しやすくなる。
【0038】
(4)特開2010-172847号公報に記載の従来技術には、振動素子(超音波振動子)に流れる電流と振動素子に印加される電圧とをフィードバックし、フィードバックした電流及び電圧に基づいてインピーダンスを計算し、計算したインピーダンスに基づいて、空だき等の判定を行う旨が開示されている。しかし、この場合には、振動素子側(発振段)に検出回路が必要になるだけでなく、演算回路も必要になるため、システムが大型化してしまう。これに対して、本実施形態は、インバータ回路24の一次側電流の電流値のみに基づいて判定(大電流が流れたか否かの判定)を行うことから、超音波振動子13側に検出回路が不要になるため、システム(超音波洗浄装置10)を小型化・簡素化することができる。
【0039】
なお、上記実施形態を以下のように変更してもよい。
【0040】
・上記実施形態において、CPU21は、高周波信号Vpの設定周波数を瞬時に切り換える際の変化量を一定の値(1kHz)に設定していた(
図6参照)。しかし、CPU21は、周波数を瞬時に切り換える際の変化量を1kHz以上の複数の値に設定し、それらの値からランダムに選択するものであってもよい。例えば、
図8に示されるように、CPU21は、周波数を、38kHz→41kHz(変化量3kHz)→39kHz(変化量2kHz)→42kHz(変化量3kHz)→40kHz(変化量2kHz)→38kHz(変化量2kHz)の順に段階的に変化させる制御を行ってもよい。このようにすれば、周波数がランダムに変化するため、被洗浄物15の表面に照射される超音波S1の音圧が常に変化する。その結果、被洗浄物15の表面がムラなく洗浄されるため、洗浄効率がよりいっそう向上する。
【0041】
・上記実施形態において、CPU21は、設定周波数の切り換えを一定時間ごと(20msecごと)に行っていた。しかし、CPU21は、周波数を切り換える間隔を複数の値に設定し、それらの値からランダムに選択するものであってもよい。例えば、
図9に示されるように、CPU21は、20msec後に40kHz→41kHzに変化させ、10msec後に41kHz→42kHzに変化させ、40msec後に42kHz→41kHzに変化させ、30msec後に41kHz→40kHzに変化させ、30msec後に40kHz→39kHzに変化させ、40msec後に39kHz→38kHzに変化させる制御を行ってもよい。
【0042】
・上記実施形態では、5つの周波数を切り換える5周波の超音波発振器14が用いられていたが、3つまたは4つの周波数を切り換える3周波または4周波の超音波発振器を用いてもよいし、6つ以上の周波数を切り換える6周波以上の多周波の超音波発振器を用いてもよい。なお、切り替える周波数が多くなる程、超音波S1がより複雑に作用するため、洗浄効率が向上する。
【0043】
・上記実施形態において、CPU21は、インバータ回路24の一次側電流の電流値が所定値よりも大きいと判定した場合に、発振信号のデューティ比を下げる制御を行っていた。しかし、CPU21は、一次側電流の電流値とインバータ回路24に印加される電圧の電圧値とに基づいて電力を算出し、算出した電力が所定値よりも大きいと判定した場合に、発振信号のデューティ比を下げる制御を行ってもよい。
【0044】
・上記実施形態において、5つの周波数を段階的に変更する周波数変調とは別の周波数変調を行ってもよい。例えば、CPU21は、FM変調幅が相対的に大きくFMサイクル(変調周期)が相対的に短いため超音波が均一に広がりやすい均一洗浄モード、または、FM変調幅が相対的に小さくFMサイクルが相対的に長いため超音波が広がらずに集中しやすい集中洗浄モードを選択して周波数変調を行ってもよい。なお、均一洗浄モードでは、FM変調幅が例えば±2kHz、FMサイクルが例えば62.5Hzとなる。また、集中洗浄モードでは、FM変調幅が例えば±0.7kHz、FMサイクルが例えば1Hzとなる。このようにすれば、均一洗浄モードを選択して設定した際に、洗浄槽11内に均一に超音波S1が伝わる均一洗浄を行うことができるため、ムラのない洗浄が可能になる。また、集中洗浄モードを選択して設定した際に、洗浄槽11内の一部に超音波S1が集中する集中洗浄を行うことができるため、集中するポイントにおいて強力な洗浄が可能になる。
【0045】
・上記実施形態の超音波洗浄装置10は、4つの超音波振動子13を備えていた。しかし、超音波洗浄装置は、3つ以下の超音波振動子13を備えるものであってもよいし、5つ以上の超音波振動子13を備えるものであってもよい。
【0046】
次に、特許請求の範囲に記載された技術的思想のほかに、前述した実施形態によって把握される技術的思想を以下に列挙する。
【0047】
(1)請求項1乃至4のいずれか1項において、前記制御手段は、前記設定周波数の切り換えを一定時間ごとに行うことを特徴とする超音波洗浄装置。
【0048】
(2)請求項1乃至4のいずれか1項において、前記超音波振動子を複数備えることを特徴とする超音波洗浄装置。
【0049】
(3)請求項1乃至4のいずれか1項において、前記制御手段は、高周波信号を周波数変調する際にその中心周波数を固定して変調幅及び変調周期の両方を変更する制御を行い、変調幅が相対的に大きく変調周期が相対的に短いため超音波が均一に広がりやすい均一洗浄モード、または、変調幅が相対的に小さく変調周期が相対的に長いため超音波が広がらずに集中しやすい集中洗浄モードを選択して設定可能であることを特徴とする超音波洗浄装置。
【符号の説明】
【0050】
10…超音波洗浄装置
11…洗浄槽
13…超音波振動子
15…被洗浄物
21…制御手段としてのCPU
24…電源回路としてのインバータ回路
A1…洗浄液
K2…反共振点
S1…超音波
Vp…高周波信号
W1…変調幅