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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-24
(45)【発行日】2024-05-07
(54)【発明の名称】マスク
(51)【国際特許分類】
   A41D 13/11 20060101AFI20240425BHJP
【FI】
A41D13/11 Z
A41D13/11 D
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020132091
(22)【出願日】2020-08-04
(65)【公開番号】P2022029009
(43)【公開日】2022-02-17
【審査請求日】2023-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】513007930
【氏名又は名称】テクナード株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166800
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 裕治
(74)【代理人】
【識別番号】100167438
【弁理士】
【氏名又は名称】原田 淳司
(72)【発明者】
【氏名】原 真澄
【審査官】原田 愛子
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3157299(JP,U)
【文献】特開2006-247046(JP,A)
【文献】特開2019-131928(JP,A)
【文献】特開2007-021028(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D 13/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者の口及び鼻を覆うマスク本体部と、
前記マスク本体部の両端部に設けられ、前記マスク本体部を前記使用者の顔に保持する保持部と、
前記マスク本体部の裏面であって前記使用者の口及び鼻を覆う位置に設けられた調湿シートとを備え、
前記マスク本体部は、弾性層の両面に抗菌層が形成されてなり、
前記調湿シートは、生地の片面に、シリカゲルとポリアミド樹脂とを含有する調湿層を備え、前記調湿層を介して前記マスク本体部の前記抗菌層に接着されており、
前記マスク本体部であって前記使用者の口を覆う位置に、前記マスク本体部及び前記調湿シートを貫通する切り込みが設けられ、
前記調湿シートの中央部には、前記切り込みを覆うカバーシートが取り付けられている
ことを特徴とするマスク。
【請求項2】
前記カバーシートは、弾性層の両面に抗菌層が形成されてなる
請求項1に記載のマスク。
【請求項3】
前記マスクの周縁であって前記マスク本体部と前記保持部との間に、切欠きを有する
請求項1または2に記載のマスク。
【請求項4】
前記弾性層は、ポリウレタンを用いてなる
請求項1~3のいずれか一項に記載のマスク。
【請求項5】
前記生地は、綿製生地である
請求項1~4のいずれか一項に記載のマスク。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスクに関し、特に衛生・医療・医学等の分野を中心に用いられ、人体のうち顔の一部を覆う衛生マスクに関する。
【背景技術】
【0002】
新型コロナウイルスの感染拡大の防止を目的として演奏会などが中止・延期となっている。「withコロナ」の時代の演奏会はどうあるべきかについて、指揮者と奏者がゴーグルとマスクを装着し、ビニールのついたてを設置する等の試験演奏が行われている。
【0003】
弦楽器はマスクを装着した状態で演奏できるが、木管楽器や金管楽器等の管楽器は、マスクを装着した状態では演奏ができない。
【0004】
そこで、マスクをした状態で管楽器を演奏できるマスクの出現が待望されている。
【0005】
従来、口元の化粧をせずに外出したい場合、口周辺の整形手術直後、先天性の病気、等々、口および口周辺を覆い隠したい場合に利用することを目的として、「利用者(1)の口(2)および口周辺(3)を覆うマスク本体(11)と、このマスク本体(11)の左右に設けられ、利用者(1)の耳(4)に掛けられる耳掛け部(12)とを備えたマスクであって、前記マスク本体(11)の中央部分に設けられた開口(13)と、この開口(13)をマスク本体(11)の表側(11a)から開閉可能に覆う蓋片(14)と、を備えたことを特徴とするマスク。」が提案されている(特許文献1)。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のマスクは、マスクを装着した状態での管楽器の演奏を可能とする目的ではなく、しかも抗菌性がないためウイルス対策用のマスクとしては使用することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2017-2430号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、使用者がマスクを装着した状態で、管楽器の演奏を行うことができ、かつウイルス対策に有効なマスクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のマスクは、使用者の口及び鼻を覆うマスク本体部と、前記マスク本体部の両端部に設けられ、前記マスク本体部を前記使用者の顔に保持する保持部と、前記マスク本体部の裏面であって前記使用者の口及び鼻を覆う位置に設けられた調湿シートとを備え、前記マスク本体部は、弾性層の両面に抗菌層が形成されてなり、前記調湿シートは、生地の片面に、シリカゲルとポリアミド樹脂とを含有する調湿層を備え、前記調湿層を介して前記マスク本体部の前記抗菌層に接着されており、前記マスク本体部であって前記使用者の口を覆う位置に、前記マスク本体部及び前記調湿シートを貫通する切り込みが設けられ、前記調湿シートの中央部には、前記切り込みを覆うカバーシートが取り付けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、使用者がマスクを装着した状態で、管楽器の演奏を行うことができ、かつウイルス対策に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一態様に係るマスクを示す正面図である。
図2】本発明の一態様に係るマスクを示す背面図である。
図3】本発明の一態様に係るマスクを示す背面図である。
図4】本発明の一態様に係るマスクのマスク本体部を示す部分拡大図である。
図5】本発明の一態様に係るマスクのマスク本体部を示す部分拡大図である。
図6】本発明の一態様に係るマスクを示す平面図である。
図7】本発明の一態様に係るマスクを示す底面図である。
図8】本発明の一態様に係るマスクの展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<概要>
本発明の一態様に係るマスクは、使用者の口及び鼻を覆うマスク本体部と、前記マスク本体部の両端部に設けられ、前記マスク本体部を前記使用者の顔に保持する保持部と、前記マスク本体部の裏面であって前記使用者の口及び鼻を覆う位置に設けられた調湿シートとを備え、前記マスク本体部は、弾性層の両面に抗菌層が形成されてなり、前記調湿シートは、生地の片面に、シリカゲルとポリアミド樹脂とを含有する調湿層を備え、前記調湿層を介して前記マスク本体部の前記抗菌層に接着されており、前記マスク本体部であって前記使用者の口を覆う位置に、前記マスク本体部及び前記調湿シートを貫通する切り込みが設けられ、前記調湿シートの中央部には、前記切り込みを覆うカバーシートが取り付けられていることを特徴としている。
【0013】
この態様によれば、使用者がマスクを装着した状態で、管楽器の演奏を行うことができ、かつウイルス対策に有効である。
【0014】
また、前記カバーシートは、弾性層の両面に抗菌層が形成されてなる。
【0015】
これによれば、前記切り込みをマスクの裏面から覆うことができるため、非演奏時には、ウイルス対策に有効である。
【0016】
また、前記マスクの周縁であって前記マスク本体部と前記保持部との間に、切欠きを有する。
【0017】
これによれば、前記切欠きによりマスクが左右方向(使用者の耳方向)に引っ張られやすくなり、顔への密着性がさらに向上する。
【0018】
前記弾性層は、ポリウレタンを用いてなる。
【0019】
これによれば、マスクの弾力性が向上し、顔への密着性がさらに良好になる。
【0020】
前記生地は、綿製生地である。
【0021】
これによれば、繰り返し洗濯可能になり、肌触りもよくなる。
【0022】
<実施の形態>
以下、本発明の一態様に係るマスクについて、図面を参照して説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0023】
図1は、本発明の一態様に係るマスクを示す正面図である。以下、マスクの正面を表面、背面を裏面と呼ぶ場合がある。
【0024】
以下、図面において、矢印UPの方向は上方向、矢印DNの方向は下方向、矢印Lの方向は左方向、矢印Rの方向は右方向をそれぞれ示す。
【0025】
なお、左方向(矢印Lの方向)、右方向(矢印Rの方向)を、マスクの「耳方向もしくは耳側」と呼ぶ場合がある。また、左方向(矢印Lの方向)もしくは右方向(矢印Rの方向)から中心方向、すなわちマスク100の中心線101側を、マスクの「中心方向もしくは中心部側」と呼ぶ場合がある。
【0026】
1.全体構成
本実施形態のマスク100は、仮想の中心線101を対象軸として、左右対称の形状であり、使用者の口及び鼻を覆うマスク本体部10と、マスク100を使用者の顔に保持する保持部20とを備えている。
【0027】
図2に示すように、本実施形態では、マスク100の裏面側(使用者の口及び鼻と直接接する側)に調湿シート30が直接接着されている。
【0028】
2.マスク本体部
図6は、本発明の一態様に係るマスクを示す平面図である。図7は、本発明の一態様に係るマスクを示す底面図である。なお、図6及び図7においては、便宜上、切り込み50(図1参照)、カバーシート60(図2,3参照)、切欠き40,41は(図1参照)は省略して描いている。
【0029】
マスク本体部10の両端部に保持部20が設けられている。マスク本体部10の両端部とは、マスク本体部10の中心部から左右方向(耳方向)に向かう端部をいう。
【0030】
本実施形態では、マスク本体部10と保持部20とは同一材料で一体的に形成されている。すなわち、マスク本体部10と保持部20とは継ぎ目なく一体に接続している。
【0031】
図6及び図7に示すように、マスク本体部10は、弾性層1の両面に抗菌層2が形成されてなる3層構造である。
【0032】
2-1.弾性層
弾性層1の材質は特に限定はないが、ポリウレタンが好ましく、特に多孔質の発砲ポリウレタンが好ましい。多孔質の発砲ポリウレタンは、弾性があることから伸縮性に優れ、マスクを耳に掛けた際に顔への密着性が良好となる。
【0033】
弾性層1の厚さは、通常1~10mmであり、好ましくは2~5mmである。
【0034】
2-2.抗菌層
抗菌層2の材質は特に限定はないが、抗菌剤を練り込んだポリエステル糸が好ましい。具体的には、抗菌剤を練り込んだ抗菌ポリエステル糸(リブフレッシュ(登録商標)Pスーパー、KBセーレン社製)と、吸水速乾ポリエステル糸(ソアリオン(登録商標)YC、KBセーレン社製)とを織編したポリエステル糸があげられる。このポリエステル糸を使用することにより、銀イオンの優れた抗菌効果によりさまざまな菌の増殖を抑制できるとともに、Y型異型断面の毛細管現象により水分を素早く吸収・乾燥しマスク内を快適に保つことができる。また、吸水速乾性に優れるため、洗濯しても直ぐに乾くという利点もある。
【0035】
なお、抗菌剤を練り込んだポリエステル糸の表面に、酸化タングステン(WO)や酸化チタン(TiO)等を主成分とする光触媒を塗布することも可能である。光触媒に光があたると、触媒作用を発揮し、有機化合物(ウイルス、菌、臭い物質等)を二酸化炭素と水に酸化分解することで消滅させることができるため好ましい。
【0036】
抗菌層2の厚さは、通常0.1~1mmであり、好ましくは0.2~0.8mmである。
【0037】
2-3.突出部
マスク本体部10の上側には、立体形状の突出部12が形成されている(図1,3参照)。突出部12は、接合部11を中心として左右対称である。
【0038】
突出部12は、マスク100の裏面側(使用者の口及び鼻と直接接する側、図2参照)から表面側(裏面側の反対側の面であって、外気に直接触れる側、図1参照)に向けてなだらかに突出した山型の形状である。
【0039】
マスク100を装着した場合、接合部11が使用者の鼻の中心(鼻骨)と当接し、突出部12は使用者の鼻翼と当接するようになる。
【0040】
一方、マスク100の下側には、立体形状の突出部14が形成されている(図1,4参照)。突出部14は、接合部13を中心として左右対称である。
【0041】
突出部14は、マスク100の裏面側(使用者の口及び鼻と直接接する側、図2参照)から表面側(裏面側の反対側の面であって、外気に直接触れる側、図1参照)に向けてなだらかに突出した山型の形状である。
【0042】
マスク100を装着した場合、接合部13が使用者の唇から顎のライン(唇の中心線)と当接し、突出部14は使用者の唇部、顎部と当接するようになる。
【0043】
3.保持部
保持部20は、マスク本体部10の両端部に設けられている。マスク本体部10の両端部とは、マスク本体部10の中心部から左右方向(耳方向)に向かう端部をいう。
【0044】
前述のように、本実施形態では、保持部20はマスク本体部10と同一材料で一体的に形成されている。すなわち、図6及び図7に示すように、保持部20も、弾性層1の両面に抗菌層2が形成されてなる3層構造である。
【0045】
保持部20は、使用者の耳に掛けるための開口21を有する。
【0046】
開口21の形状は特に限定はないが、ここでは横長の楕円形状をしている。
この開口21を使用者の耳に掛けることにより、マスクの中心部が耳の後方に引っ張られ、マスクが使用者の顔に密接して保持されるようになる。
【0047】
4.調湿シート
調湿シート30は、生地(図示せず)の片面に、シリカゲルとポリアミド樹脂とを含有する調湿層(図示せず)を備えている。図2及び図3に示すように、この調湿シート30が、調湿層を介してマスク100の裏面側(使用者の口及び鼻と直接接する側)に直接接着されている。
【0048】
4-1.生地
生地の材質は特に限定はなく、例えば綿、不織布、ガーゼ、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等の合成樹脂、レーヨン等があげられるが、綿が好ましい。綿であれば繰り返し洗濯可能であり、肌触りもよくなる。
【0049】
4-2.調湿層
調湿層は、シリカゲルとポリアミド樹脂とを用いて形成されている。ここでのポリアミド樹脂は、シリカゲルを生地に接着するためのいわゆるバインダーとしての役割を果たすものである。
【0050】
シリカゲルとポリアミド樹脂とを所定の割合で配合したものを、生地(例えば、綿)の片面にコーティング加工(シングルドット加工)することにより、シリカゲルがドット状に転写、固着させて調湿層を形成している。
【0051】
4-2-1.シリカゲル
シリカゲルは、調湿機能や吸湿機能に優れているため、マスク内側の吸気(使用者が吐いた息)の湿度を一定以上に保つことができる。そのため、のどの粘膜が乾燥した外気にさらされることがなく、粘膜の潤いを良好に保つことができ、ウイルスへの防御力を高めることができる。
【0052】
また、シリカゲルは水分の他に空気中に飛散する臭いの元であるアンモニア、トリメチルアミン、硫化水素、メルカプタンや、加齢臭の原因となるノネナールガス等も吸着する消臭機能も有する。
【0053】
シリカゲルの粒は、多数の微細貫通孔を有しており、高湿度雰囲気下では表面吸着又は毛細管現象により空気中の水分を吸収し、乾燥雰囲気下では吸収した水分を放出し得る機能を有するものが好ましい。そのため、かかる吸湿機能及び放湿機能を良好にするべく、本実施形態におけるシリカゲルには微細空間容積が0.5~1.0ml/g及び表面積が350~650m/gの範囲内にあるものが好ましい。
【0054】
また、微細貫通孔の孔径は30~120オングストロームのものが吸湿機能等を良好に発揮する上で好ましい。
【0055】
4-2-2.ポリアミド樹脂
シリカゲルとポリアミド樹脂との配合割合は特に限定はないが、シリカゲル40~80重量%:ポリアミド樹脂60~20重量%が好ましく、特に好ましくはシリカゲル50~70重量%:ポリアミド樹脂50~30重量%である。このような範囲であれば、ポリアミド樹脂がシリカゲルを生地に接着するためのバインダーとしての役割を良好に果たすからである。
【0056】
4-2-3.調湿シートの作製
シリカゲルとポリアミド樹脂とを所定の割合で配合したものを、生地(例えば、綿)の片面に、転写、固着させて調湿シートを作製する。具体的には、シリカゲル50~70重量%とポリアミド樹脂50~30重量%とを配合し、これを生地(例えば、綿)の片面にコーティング加工(シングルドット加工)(条件:ヒートロール温度:150~250℃、加工速度:1~10m/分)してシリカゲルをドット状に転写、固着させて調湿層を形成する。ドット状に転写されたシリカゲルの表面にポリアミド樹脂が存在するため、バインダーを使用することなく他の素材(例えば、マスク本体部10の抗菌層2)と接着することができる。
【0057】
調湿シート30の調湿層は、シリカゲルがドット状に転写・固着させており、ドット間に空間があるため、通気性に優れている。また、軟らかい生地(例えば綿等)に加工をした場合にも、生地の風合いを損なうことがない。
【0058】
調湿シート30を設ける位置は、マスク100の裏面側であって、少なくとも使用者の口及び鼻を覆う位置であれば特に限定はなく、マスク本体部10の裏面側の一部もしくは全部に設けることができる。
【0059】
図2に示すように、調湿シート30の上下両端が、マスク100の周縁(外縁)102と重なるように調湿シート30を設けることが好ましい。
【0060】
調湿シート30の大きさ(寸法、厚さ等)は、特に限定はなく、マスクの大きさ等に応じて適宜変更可能である。
【0061】
5.切り込み
主に図1を用いて説明する。
マスク本体部10であって使用者の口を覆う位置に、左右方向に延びる横長の切り込み50が設けられている。
【0062】
この切り込み50は、マスク本体部10の表面から裏面へと貫通し、マスク本体部10の裏面に設けた調湿シート30も貫通している。
【0063】
切り込み50は直線状であるが、マスク本体部10の中央部が山型になっているため、図1では切り込み50の両端51は中央よりもやや上側に盛り上がっているようにみえる。
【0064】
切り込み50の長さは、マスクの大きさ等により異なるため特に限定はないが、成人用マスクの場合、通常、60~80mmであり、好ましくは65~75mmである。
【0065】
切り込み50の幅は、管楽器の演奏ができればできるだけ小さい方がウイルス対策の点から好ましい。
【0066】
6.カバーシート
主に図2及び図3を用いて説明する。
図2及び図3は、本発明の一態様に係るマスクを示す背面図である。後述するが、図2は、カバーシート60を上側に上げて切り込み50を覆っていない状態(演奏時)、図3は、カバーシート60を下側に下ろして切り込み50を覆った状態(非演奏時)をそれぞれ示す。
【0067】
図2及び図3に示すように、マスク本体部10の裏面の中央部、すなわち調湿シート30の中央部には、切り込み50を覆うカバーシート60が取り付けられている。
【0068】
カバーシート60はマスクの左右方向に延びる横長形状であり、カバーシート60の一端(ここでは長手方向上端部)61は、切り込み50よりも上側の位置に、縫製等の手法で調湿シート30に直接取り付けられている。
【0069】
カバーシート60は、一端61を支点にして、いわゆる暖簾のように上下に上げ下げできるようになっている。
【0070】
演奏の際には、図2に示すように、一端61を支点にしてカバーシート60を上側に上げた状態にして、マスク100を装着する。
【0071】
一方、通常使用時(非演奏時)は、図3に示すように、一端61を支点にしてカバーシート60を下側に下ろした状態にして、マスク100を装着する。
【0072】
このように、カバーシート60は常時固定的に切り込み50を覆っているのではなく、演奏の有無により上下に上げ下げして使い分けられるようになっている。
【0073】
カバーシート60は、マスク本体部10と同様、弾性層の両面に抗菌層が形成されてなる3層構造である。
【0074】
弾性層や抗菌層の材質については、マスク本体部10で例示した弾性層1や抗菌層2と同様のものを使用することができる。
【0075】
図4は、管楽器の演奏の際等に、カバーシート60が上側に上がって切り込み50を覆っていない状態(図2参照)を示す部分拡大図である。すなわち、図4では、マスク本体部10の表面からみて切り込み50の奥、すなわちマスク本体部10の裏面にカバーシート60がなく、マスク100を装着した状態で管楽器の演奏を行うことができる。
【0076】
一方、図5は、カバーシート60で切り込み50を覆った状態(図3参照)を示す部分拡大図である。すなわち、図5では、マスク本体部10の表面からみて切り込み50の奥、すなわちマスク本体部10の裏面にカバーシート60があり、切り込み50は抗菌性のカバーシート60により塞がれている。そのため、管楽器の非演奏の際等には、ウイルス対策がなされている。
【0077】
カバーシート60の長手方向の大きさ(長さ)は、マスクの大きさ等により異なるため特に限定はないが、切り込み50の長さよりも少し大きめが好ましい。
【0078】
また、カバーシート60の短手の大きさ(幅)は、マスクの大きさ等により異なるため特に限定はないが、成人用マスクの場合、通常、40~60mmであり、好ましくは45~55mmである。
【0079】
7.切欠き
主に図1を用いて説明する。
本実施形態に係るマスク100は、マスク100の周縁(外縁)102であって、開口21の端部22(中心部側の端部)と垂直に接する仮想線23よりも少し中心部側に三角形状の切欠き40,41を有する。具体的には、本実施形態に係るマスク100は、上側の周縁102の左右に切欠き40を各1個、下側の周縁102の左右に切欠き41を各1個、合計4個の切欠き40,41を有する。
【0080】
切欠きの形状は特に限定はないが、本実施形態の切欠き40,41は、マスク100の内側から周縁102に向かって拡幅する三角形状の切り込み(スリット)である。
【0081】
上側の周縁102の切欠き40は、下側の周縁102の切欠き41よりも、中心部に近い側(すなわち、調湿シート30の端部に近い側)に設けられている。
【0082】
本実施形態では、4個の切欠き40,41は全て同じ形状であるが、場所毎に異なる形状であっても差し支えない。
【0083】
本実施形態のように、切欠き40,41を設けることにより、マスク100が中心部から耳方向に約10%程度伸縮可能になる。そのため、マスクの顔への密着性がより向上し、ウイルス対策としてさらに有効である。
【0084】
切欠き40,41を設ける位置、切欠き40,41の形状や数等については、特に限定はなく、この実施形態に限定されるものではない。
【0085】
5.マスクの製法
図8は、本実施形態のマスク100を作製するための展開図、いわゆる型紙110である。図8の表面は図1に示すマスク100の正面図に対応し、図8の裏面は図2図3に示すマスク100の背面図に対応する。図8の裏面(背面)の中央部には、調湿シート30(点線で示す)が接着されている。
図8の裏面(背面)の調湿シート30(点線で示す)の中央部には、図示しないがカバーシート(図2,3参照)が取付けられている。なお、図8においては、便宜上、切欠き40,41は(図1参照)は省略して描いている。
【0086】
8-1.型紙の作製
弾性層1(例えば、多孔質の発砲ポリウレタン)の両面に、抗菌層2(例えば、抗菌剤を練り込んだ抗菌ポリエステル糸(リブフレッシュ(登録商標)Pスーパー、KBセーレン社製)と、吸水速乾ポリエステル糸(ソアリオン(登録商標)YC、KBセーレン社製)とを織編したポリエステル糸)が形成されてなる3層構造のシートを作製する。具体的には、軟質ウレタンフォームを熔融して、抗菌層2(抗菌生地)と貼り合わせをするフレームラミネート加工により、3層構造のシートを作製する。もしくは、軟質ウレタンフォームの両面に抗菌層2(抗菌生地)を貼り合わせてもよい。この3層構造のシートは、図1に示すマスク100のマスク本体部10及び保持部20を構成する。
【0087】
また、前述の方法に準じて、生地(例えば、綿)の片面に、シリカゲルとポリアミド樹脂とを含有する調湿層を形成した調湿シートを作製する。
【0088】
次に、3層構造のシートの片面(抗菌層2)側の中央部に、調湿シート30の調湿層側を載置し、コーティング加工(シングルドット加工)(条件:ヒートロール温度:150~250℃、加工速度:1~10m/分)して、シリカゲルをドット状に転写、固着させる。このようなシートを、図8に示すような所定の形状に打ち抜き、マスク100を作製するための型紙を作製する。
【0089】
8-2.マスクの作製
図5に示す型紙110の上側にある、V字状の端部11A、11B同士を山型に縫い合わせて接合することにより、立体形状の突出部12を形成する(図1,6参照)。また、図8に示す型紙110の下側にある、V字状の端部13A、13B同士を山型に縫い合わせて接合することにより、立体形状の突出部14を形成する(図1,7参照)。
【0090】
このようにして、調湿シート30が、マスク本体部10の裏面であって使用者の口及び鼻を覆う位置に、調湿層を介して接着されている、本実施形態のマスク100を作製することができる。
【0091】
マスクの大きさは特に限定はないが、例えば、寸法:420×144mm(Lサイズ)、寸法:380×144mm(Mサイズ)、寸法:356×144mm(Sサイズ)とすることができる。
【0092】
9.管楽器
管楽器の種類は特に限定はなく、例えば、ピッコロ、フルート、オーボエ、クラリネット、ファゴット、サクソフォーン等の木管楽器や、ホルン、トランペット、トロンボーン、チューバ、コルネット、フリューゲルホルン、ユーフォニアム、ワグナーチューバ等の金管楽器等があげられる。
【0093】
10.飲食
本実施形態のマスク100は、マスク100を装着した状態で管楽器の演奏ができるのは勿論、飲食等を行うこともできる。
【0094】
水分補給の際には、お茶、ジュース等のドリンク類の入ったペットボトルや水筒等の容器にさしたストローの先端を、切り込み50に挿入すると、カバーシート60が上に上がり空間ができる。そのため、使用者の口元までストローの先端が届くため、使用者はマスク100を装着した状態でドリンク類を飲むことができる。
【0095】
また、ストロー等を使用しない場合は、ドリンク類の入った容器の先端を、切り込み50から軽く押し込むと、使用者の口元まで容器の先端が届くため、使用者はマスク100を装着した状態でストロー等を使用せずに、容器に入ったドリンク類を直接飲むこともできる。
【0096】
なお、飴(塩飴等)、ガム、ビスケット、クラッカー等の小さな食物を摂取したい場合は、ドリンク類の場合と同様にすれば、使用者はマスク100を装着した状態で食物を摂取することができる。
【0097】
このように、使用者はマスク100を装着した状態で、ドリンク類や食物を飲食することができるため、水分補給の際等にその都度マスク100を外す必要がなく、熱中症対策にも効果がある。
【0098】
また、マラソン等のスポーツ時にも、マスク100を装着した状態で、容易に水分補給等を行うこともできる。
【0099】
<変形例>
以上、一実施形態に係るマスクを説明したが、本発明はこの実施形態に限られるものではなく、例えば、以下のような変形例であってもよい。また、実施形態と変形例とを組み合わせたものでもよいし、変形例同士を組み合わせたものでもよい。また、実施形態や変形例に記載していない例や要旨を逸脱しない範囲の設計変更があっても本発明に含まれる。
【0100】
1.抗菌層
本実施形態に係るマスクの抗菌層は、広義の抗菌を意味し、菌やウイルスを完全に死滅させる必要はなく、例えば除菌層、殺菌層、滅菌層であっても差し支えない。
【0101】
2.切り込み
実施形態の切り込み50は、左右方向に延びる横長形状の直線であるが、本実施形態における切り込みの形状は特に限定はなく、例えばT字状であっても差し支えない。
また、実施形態における切り込み50の数は1箇所(1本)であるが、本実施形態における切り込みの数は特に限定はなく、例えば2箇所(2本)以上であっても差し支えない。
【0102】
3.カバーシート
実施形態では、カバーシート60は、弾性層の両面に抗菌層が形成されてなる3層構造であるが、これに限定されるものではない。
【0103】
また、実施形態では、カバーシート60は、一端61を支点にして、上下に上げ下げできるようにしたが、短手方向端部を支点にして左右に開閉できるようにしても差し支えない。
【0104】
また、実施形態では、カバーシート60の一端61を、縫製等の手法で調湿シート30に直接取り付けらたが、取り付け手法はこれに限定されるものではなく、例えば、接着、溶着、マッジクテープ(登録商標)、スナップボタン等により取り付けてもよい。
【0105】
4.切欠き
実施形態では、切欠き40,41を設けたが、省略することも可能である。
【0106】
5.保持部
実施形態では、マスク本体部10と保持部20とは同一材料で一体的に形成したが、別部材で構成してもよく、例えば保持部20は耳の後ろで結ぶ紐状タイプであっても差し支えない。
【0107】
6.突出部
突出部12は、端部11A、11B同士を縫い合わせて接合することにより形成したが、溶着(高周波ウエルダーによる溶接)や接着剤等により接合してもよい。
【0108】
また、突出部14は、端部13A、13B同士を縫い合わせて接合することにより形成したが、溶着(高周波ウエルダーによる溶接)や接着剤等により接合してもよい。
【0109】
7.接合部
本実施形態では、接合部11の長さは、接合部13の長さよりも少し長く構成して、マスク100の上側と下側で突出部12,14の立体形状を少し変化させているが、接合部11の長さを接合部13の長さよりも短くしてもよく、もしくは同じ長さにしてもよい。
【0110】
接合部11と接合部13の長さに差を設けることにより。マスク100の上下で突出部12,14の立体形状に差ができるため、マスク100が顔により密着しやすくなる。
【0111】
マスク100を顔に装着する場合、通常、突出部12を人の鼻側、突出部14を人の唇部、顎部に装着するが、マスク100を上下逆にして使用しても差し支えない。このように、長さの短い方の接合部を上側、長さの長い方の接合部を下側にすることにより、顔への密着性がより向上するようになる。
【0112】
8.マーク
開口21の端部22の横側(すなわち、端部22と調湿シート30の端部との間)に、意匠性(デザイン性)を持たせるため菱形、丸等のマーク(目印)を付けてもよい。マークは切り抜いてもよく、ペイントやシール等を貼ってもよい。
【0113】
また、マスクの大きさ(例えば、L、M、S)に応じて、一目で視覚的に区別できるように、マークのデザインを変更したり、マークの数、マークを設ける位置等を変更してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明の実施形態に係るマスクは、マスクを装着した状態で管楽器の演奏を行うことができる他、水分補給等の飲食を行うことができることから、吹奏楽業界のみならず、マラソン、トライアスロン、競歩等のスポーツ業界への応用も期待されている。
【符号の説明】
【0115】
100 マスク
10 マスク本体部
20 保持部
30 調湿シート
50 切り込み
60 カバーシート
図1
図2
図3
図4
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図8