(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-24
(45)【発行日】2024-05-07
(54)【発明の名称】空気浄化装置
(51)【国際特許分類】
A61L 9/04 20060101AFI20240425BHJP
F24F 7/003 20210101ALI20240425BHJP
A61L 9/16 20060101ALI20240425BHJP
B01D 46/52 20060101ALI20240425BHJP
【FI】
A61L9/04
F24F7/003
A61L9/16 F
B01D46/52 A
(21)【出願番号】P 2020181131
(22)【出願日】2020-10-29
【審査請求日】2023-04-28
(73)【特許権者】
【識別番号】319013447
【氏名又は名称】株式会社エス・イー・イー
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】栗屋野 伸樹
(72)【発明者】
【氏名】内田 悦嗣
【審査官】横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-104824(JP,A)
【文献】特開2005-090831(JP,A)
【文献】特開2018-173236(JP,A)
【文献】特開平11-188214(JP,A)
【文献】特開2018-110648(JP,A)
【文献】特開2006-271583(JP,A)
【文献】特表2009-545429(JP,A)
【文献】特表2017-537294(JP,A)
【文献】国際公開第2019/150735(WO,A1)
【文献】国際公開第2022/102320(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/137465(WO,A1)
【文献】特開2001-104458(JP,A)
【文献】特開2005-009782(JP,A)
【文献】特開平10-071191(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 9/00-9/22
F24F 7/00-7/007
B01D46/00-46/90
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に空気が流れる筐体と、
前記筐体内に設けられ、菌又はウイルスを捕集する菌・ウイルス捕集フィルタと、
前記筐体内に設けられ、菌又はウイルスを不活性化させるための
菌・ウイルス不活性ガスを発生する菌・ウイルス不活
性ガス発生部と
、
前記筐体において前記菌・ウイルス捕集フィルタ及び前記菌・ウイルス不活性ガス発生部の下流側に設けられ、前記空気の流れを形成するファンと、
前記筐体において前記菌・ウイルス捕集フィルタの上流側に設けられ、前記筐体を開閉する入口側開閉部材と、
前記筐体において前記菌・ウイルス捕集フィルタの下流側で、かつ、前記ファンの上流側に設けられ、前記筐体を開閉する出口側開閉部材と、を有し、
前記菌・ウイルス不活性ガス発生部は、該菌・ウイルス不活
性ガス発生部及び前記菌・ウイルス捕集フィルタを含めて前記筐体内を閉じた状態で作動する
空気浄化装置。
【請求項2】
前記菌・ウイルス捕集フィルタは、JIS Z 8122で規定されたULPA、HEPA、準HEPAフィルタ又は中性能フィルタである請求項
1記載の空気浄化装置。
【請求項3】
前記菌・ウイルス捕集フィルタは、前記筐体に対して着脱自在に装着されている請求項1又は
2記載の空気浄化装置。
【請求項4】
前記菌・ウイルス不活性ガス発生部は、オゾンガス、酸化塩素、過酸化水素、次亜塩素酸、酸化エチレン、ホルムアルデヒトから選ばれた少なくとも1つを発生させる請求項1から
3いずれか記載の空気浄化装置。
【請求項5】
前記筐体内を閉じた状態で作動する前記菌・ウイルス不活性ガス発生部を作動させた場合の前記筐体内のガス濃度を0.5~10ppmの範囲内とする請求項1から
4いずれか記載の空気浄化装置。
【請求項6】
前記菌・ウイルス不活性ガスが、外部に出る前に処理する、不活性ガス処理フィルタを、筐体内の閉じた部分の下流側に設置した請求項1から
5いずれか記載の空気浄化装置。
【請求項7】
表面が光触媒で覆われた光触媒フィルタと、前記光触媒フィルタの光触媒を活性化させる光照射装置とが、前記菌・ウイルス捕集フィルタの上流側に設けられている請求項1から
6いずれか記載の
空気浄化装置。
【請求項8】
前記光照射装置は、オゾンを発生するオゾンランプを有する請求項
7記載の
空気浄化装置。
【請求項9】
前記菌・ウイルス捕集フィルタは、ポリテトラフロロエチレン繊維から構成されている請求項1から
8いずれか記載の
空気浄化装置。
【請求項10】
前記筐体内のガス濃度を検出する濃度センサと、前記濃度センサの出力に応じて前記菌・ウイルス不活性ガス発生部を制御する制御部と、有する請求項1から
9いずれか記載の
空気浄化装置。
【請求項11】
タイマを有し、前記タイマの設定に合わせて前記菌・ウイルス不活性ガス発生部を制御する制御部と、有する請求項1から
10いずれか記載の
空気浄化装置。
【請求項12】
前記入口側開閉部材を駆動する入口側駆動部と、前記出口側開閉部材を駆動する出口側駆動部と、前記入口側駆動部及び前記出口側駆動部を制御する制御部と、を有する請求項1から
11いずれか記載の
空気浄化装置。
【請求項13】
前記制御部は、
さらに前記菌・ウイルス不活性ガス発生部を制御し、前記入口側開閉部材及び前記出口側開閉部材を閉じた後に、前記菌・ウイルス不活性ガス発生部を作動させるように制御する請求項
12記載の
空気浄化装置。
【請求項14】
前記制御部は、さらに前記ファンを制御し、前記ファンを停止した後に
前記入口側開閉部材及び前記出口側開閉部材を閉じるように制御する請求項
12又は13記載の
空気浄化装置。
【請求項15】
前記制御部は、さらに前記ファンを制御し、前記入口側開閉部材及び前記出口側開閉部材を開いた後に前記ファンを駆動するように制御する請求項
12から14いずれか記載の
空気浄化装置。
【請求項16】
前記制御部は、さらに前記ファン及び前記菌・ウイルス不活性ガス発生部を制御し、前記ファンを停止した後に前
記菌・ウイルス不活性ガス発生部を作動させるように制御する請求項
12から15いずれか記載の
空気浄化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
新型コロナウイルスが社会的問題になり、とりわけ医療分野での院内感染など、医療従事者の安全確保や、病院での感染を防止することが重要な課題である。新型コロナウイルスは空気中に浮遊するウイルスを含む微細粒子を吸い込むと感染することがWHOでも認められている。これらのウイルスを含む微細粒子は、つばや鼻水の粒子内に多数のウイルスを含むものである。セキやくしゃみだけでなく通常の会話をするだけでも口や鼻から放出されることが判明している。これら空気中の浮遊する微細粒子を、空気浄化装置のフィルタを使って捕獲し、ウイルスによる感染も防止することが考えられる。
【0003】
さらに数年前からMARS、SARS、そして今回のコロナウイルスなど、新種のコロナウイルスの発生と流行が繰り返し起きている。さらに豚が発生源となった新型インフルエンザなど、空気中を浮遊する微細粒子の吸引が感染ルートのひとつとされる感染が世界的課題となっており、対策が求められている。
【0004】
このため、高性能フィルタを空気浄化装置に搭載することが考えられ、高性能のHEPAフィルタを搭載した空気浄化装置は、例えば特許文献1に示すように公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これらの空気浄化装置では、ウイルスや細菌を捕獲はできるが、殺菌することはできず、捕獲したウイルスや細菌、および、空気浄化装置の内部壁に付着したウイルスや細菌で、2次感染のリスクがある。以下、原理を説明する。
【0007】
空気中に浮遊したウイルスを含む微細粒子は、ファンの力で空気浄化装置の中に吸い込まれ、HEPAフィルタを通過するときに、フィルタの繊維によって捕獲される。また、一部は空気浄化装置の内部の壁や、そのほかの部品の表面に付着する。外部空間に浮遊するウイルスや細菌の密度よりも、空気清浄装置の内部の方がウイルスや細菌を集める結果となり、存在密度が高い可能性がある。
【0008】
これらの付着したウイルスや細菌は、そのままの状態では生きている(活性がある)。コロナウイルスでは条件にもよるが1~14日間、感染力のある活性を維持していると報告されている。細菌ではもっと長く生きているものもあり、真菌などカビの胞子では数か月以上、生きているものも存在する。
【0009】
空気浄化装置のフィルタは、微細粒子だけでなく空気中のほこりなども捕獲するため、一定期間使用するとたまった埃で目詰まりを起こし、空気の流れが不十分になるため、交換などのメンテ作業が必要になる。また、その他の電気部品などが故障して修理する場合にも、筐体の内部を開けて修理することになる。フィルタを取り外した時には表面からウイルスや細菌がついた微細粒子が飛び散る可能性がある。また部品の修理で、筐体のカバーを開けた時にも、内壁に付着したウイルスや細菌を含む粒子が飛ぶ出す可能性は高い。これらのフィルタ交換や部品修理に際して、空中に再浮遊する粒子で作業者が感染するリスクはかなり高い可能性がある。
【0010】
本発明は、内部に捕獲したウイルスや細菌による二次感染のおそれを防止することができる空気浄化装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の特徴とするところは、内部に空気が流れる筐体と、前記筐体内に設けられ、菌又はウイルスを捕集する菌・ウイルス捕集フィルタと、前記筐体内に設けられ、菌又はウイルスを不活性化させるためのガスを発生する菌・ウイルス不活化ガス発生部とを有し、前記菌・ウイルス不活性ガス発生部は、該菌・ウイルス不活化ガス発生部及び前記菌・ウイルス捕集フィルタを含めて前記筐体内を閉じた状態で作動する空気浄化装置にある。
【0012】
好適には、菌・ウイルス捕集フィルタは、JIS Z 8122で規定されたULPA、HEPA又は準HEPAフィルタである。また、好適には、菌・ウイルス不活性ガス発生部は、オゾンガス、酸化塩素、過酸化水素、次亜塩素酸、酸化エチレン、ホルムアルデヒトから選ばれた少なくとも1つを発生させる。
【0013】
これらのガスは、人体に有害な場合が多いので、殺菌作業時には、空気浄化装置の送風を停止し、また、送風口をふさいで内部を密閉状態にして、その中で殺菌ガスを発生させて殺菌を行うことが好ましい。内部のガス濃度が殺菌に必要な濃度に達した段階でガスの発生は停止させるようにしてもよい。また、殺菌後、通常の空気浄化装置として使用するときは、送風口を開き、ファンを稼働させる。
内部の残留ガスは、空気浄化装置の出口側に配置された、処理フィルタで除去されるようにしてもよい。ただし、広い室内容積で薄められ、許容濃度以下が確保される場合は、処理フィルタを使用しなくてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、内部に捕獲したウイルスや細菌による二次感染のおそれを防止することができる空気浄化装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る空気浄化装置の外観を示す斜視図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態に係る空気浄化装置において蓋体を開けた状態を示す斜視図である。
【
図3】本発明の第1の実施形態に係る空気浄化装置の内部部品を示す斜視図である。
【
図4】
図4(a)は本発明の第1の実施形態に用いた入口部を示す分解斜視図であり、
図4(b)は本発明の第1の実施形態において入口部の入口側開閉部材を閉じた状態を示す斜視図である。
【
図5】本発明の第1の実施形態に用いた出口側開閉部材の周辺を示す斜視図である。
【
図6】本発明の第2の実施形態に用いた開閉部材を駆動する駆動機構を示す斜視図である。
【
図7】本発明の第2の実施形態に用いた制御装置を示すブロック図である。
【
図8】本発明の第2の実施形態における制御動作を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0017】
図1から
図3には、本発明の第1の実施形態係る空気清浄装置10が示されている。空気浄化装置10は、例えば縦長の直方体状に形成された筐体12を有する。この筐体12の前面には操作盤14が設けられている。この操作盤14には空気浄化装置10を駆動するための駆動スイッチ、後述する燻蒸モードにするための燻蒸スイッチ等の各種のスイッチ等が配置され、空気浄化装置10を作動させるための各種の操作を行う。
【0018】
また、筐体12は、該筐体12の上面に入口部16が設けられていると共に、該筐体12の下面に出口部18が設けられている。入口部16には多数の入口側孔20が形成されている。矢印Aで示すように、入口部16の入口側孔20から筐体12内に空気が入り、矢印Bで示すように、出口部18から空気が出される。
【0019】
空気浄化装置10は、例えば医療現場に設置され、患者の診察が終わると空気清浄装置10の内部だけではなく、空気を集める空気浄化装置10の筐体12の外壁にもウイルスや菌の付着の可能性がある。通常はアルコールなどで拭いて殺菌するものであるが、より安全を担保するために、空気清浄装置10の外壁を殺菌素材で作ることが望ましい。
例えば筐体10の外壁などの殺菌素材として下記のものを用いることができる。
(1)表面に光触媒を含む、塗料や、光触媒の被膜をつけたもの。
室内光や窓からの光で光触媒が働いて殺菌する。ここでいう光とは紫外
線、可視光、赤外線を含む電磁波である。
(2)表面に金属の銅か銀を含むもの。
【0020】
また、筐体12の側面には蓋体22が設けられている。この蓋体22は、例えば、ねじにより、筐体12に着脱自在となるように取り付けられている。この蓋体22を取り外すと、
図2に示すように、開口部24が開かれ、筐体12内に収容されている光照射装置36や菌・ウイルス捕集フィルタ40等の内部の部材をメンテナンス時に交換したり、電気部品等が故障した場合に、作業できるようになっている。また、筐体12には、電力を供給する電源コード26及びプラグ28が接続されている。さらに、筐体12の下面には、例えば4つのキャスタ30が設けられ、空気清浄装置10の移動を補助するようになっている。
【0021】
図3に示すように、筐体12内には、上から順番に、プレフィルタ32、光触媒フィルタ34、光照射装置36、菌・ウイルス不活性ガス発生部38、菌・ウイルス捕集フィルタ40、ファン42、殺菌ガス処理フィルタ44及びポストフィルタ46が配置されている。
【0022】
プレフィルタ32は、目の粗いフィルタで、大きなごみやほこりは、ここで捕獲される。
【0023】
光触媒フィルタ34は、光触媒として酸化チタン、もしくは酸化タングステンなどが塗布されたフィルタである。光触媒は波長が短い紫外線で強く触媒機能を表すが、金属原子などを担持することで可視光でも触媒機能を表すことが知られている。
【0024】
光照射装置36は、この実施形態においては、効果の強い紫外線を使用し、複数本の紫外線ランプから構成され、この紫外線ランプから発生する紫外線によって、光触媒フィルタ34の光触媒は表面に発生する各種の活性酸素種によって、吸着した有機物の大半を分解することができる。
なお、紫外線を発生させるには、紫外線ランプの他に、紫外線LEDでも差し支えない。また、可視光を使用する場合は、可視光ランプやLEDでも差し支えない。
【0025】
この光触媒フィルタ34は、浮遊粒子の中で細菌やウイルスを大量に含む、比較的大きな唾液粒子などを吸着することと、悪臭ガスや有機溶剤ガスを吸着し分解する役割を有する。また、排出物や薬剤などによる悪臭、ホルムアルデヒドなどの有機溶剤ガスは医療現場ではよく存在し、この対策にも光触媒は有効である。ウイルスや細菌を含む大きな唾液粒子などがここで捕獲されることで、次段階の菌・ウイルス捕集フィルタ38などの負担を減らしメンテサイクルを延ばすことができる。また、唾液などで保護され後述する活性化ガスが効きにくい細菌やウイルスも分解殺菌することができる。
【0026】
菌・ウイルス不活性ガス発生部38は、例えばオゾン発生器から構成されている。オゾンガスの発生器は数種類あるが、下記に2例上げる。
(1)放電を使用したオゾン発生器
通常、オゾナイザーとして市販されている。高電圧の放電で空気中の酸素を原料にオゾンを製造する装置である。電圧、電流、時間でオゾン発生量を管理できる。
(2)紫外線オゾン管
紫外線ランプの紫外線波長が200nm以下の物は、空気中の酸素を原料にオゾンを発生させることができ、通称オゾン管と呼ばれる。市販されている。
なお、不活化ガスは、本第1の実施形態においてはオゾンで説明したが、酸化塩素、過酸化水素、次亜塩素酸、酸化エチレン、ホルムアルデヒドなどの不活化ガスを使用してもかまわない。
【0027】
菌・ウイルス捕集フィルタ40は、例えばJIS Z 8122で規定されたHEPAフィルタが用いられる。この菌・ウイルス捕集フィルタ40は、浮遊する微細粒子の中で、直径の小さい粒子は光触媒フィルタ34を通過する割合が多いが、これらの微細粒子は菌・ウイルス捕集フィルタ38で捕獲される。HEPAフィルタは0.3umの粒子を99.97%捕獲する性能を保障しており、医療用マスクN95で規定された感染保護上、安全とされる95%以上の捕獲率を担保できる。
【0028】
HEPAフィルタを通過し、浄化された空気は、殺菌ガス処理フィルタ44及びポストフィルタ46を通過して外部に吹き出される。吹き出す空気にはウイルスや細菌はほとんど含まれない安全な空気である。
【0029】
HEPAフィルタとしては、繊維状の材質をからませて紙状にしたものを使用することが好ましい。この繊維の材質としてフッ素樹脂、例えばポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene, PTFEである)を使用することがさらに好ましい。ナイロンやビニールなどの化学繊維や、ガラス繊維などはオゾンで酸化され劣化する。フッ素樹脂はオゾンで劣化しにくい特徴と、さらに撥水性をもちウイルスや細菌、真菌を増殖させない特徴がある。また、フッ素樹脂であれば、圧力損失のすくない、径の細い繊維の製造も可能である。
【0030】
なお、本第1の実施形態においては、菌・ウイルス捕集フィルタ40としてHEPAフィルタを用いたが、感染防止で必要とされるウイルスや細菌の捕獲率95%以上を達成するには、同じくJIS Z 8122で規定されたULPA、準HEPAのどれを使用しても構わない。ULPAは、0.15um粒子のシングルパス捕集率99.9995%以上と規定され、HEPAは、0.3um粒子のシングルパス捕獲率99.97%以上と規定され、準HEPAは、0.3um粒子のシングルパス捕獲率95%以上と規定されている。また、対象となるウイルスや細菌の種類によって捕集効率が中程度でもよい場合は、5um以下の粒子に対して中程度の粒子捕集効率と規定された中性能フィルタを用いてもよい。
【0031】
この第1の実施形態においては、HEPAフィルタに加えて光触媒を併用しているが、併用する効果は次の通りである。
【0032】
空気中に浮遊する、ウイルスや細菌が微細粒子の中に含まれる場合に、つばや鼻水で保護された塊としてフィルタに捕獲された場合、下記の弊害が起きる可能性がある。
【0033】
つばなどの塊が大きく、HEPAフィルタの目詰まりが早い。
つばや鼻水で保護されて、ウイルスや細菌にオゾンガスが接触せず、殺菌効果が不十分になる。この対策として、HEPAフィルタの前段に、光触媒フィルタ34及び光触媒を励起するための光照射装置36を配置する。光触媒は、光により励起して活性種を発生し、表面に付着した有機物を分解することができる。つばや鼻水でつつまれた大きな粒子は、慣性力が大きいため、光触媒フィルタ34表面でぶつかって大半が捕獲される。光触媒の表面で、つばや鼻水を含め、細菌もウイルスも分解されるために殺菌も同時に完了する。したがって、大きな粒子を光触媒フィルタ34に受け持たせることにより、HEPAフィルタの負担を減らし、交換時間を延ばすとともに、つばや鼻水で保護されたウイルスや細菌の殺菌も確実にできる。前述したように、光触媒のもう一つのメリットとして、臭気ガスの分解効果があり、病室や介護室などの臭気対策、ホルムアルデヒドなどシックハウスや有機溶剤対策を同時に行うことができる。
【0034】
なお、光照射装置36は、今回の事例で示した紫外線ランプの中の1本を、波長が短くてオゾンを発生する、オゾンランプを使用して代替えとすることもできる。このオゾン管の波長は殺菌効果も有し、HEPAフィルタ表面に捕獲した細菌やウイルスを殺菌する効果もある。
【0035】
ファン42は、この第1の実施形態においては、菌・ウイルス捕集フィルタ40の下流側(下側)に配置されている。このファン42は、筐体12の内部に空気を吸い込み、吹き出しを行うためのものである。
【0036】
前述した入口部16は、
図4(a)に示すように、入口側開閉部材48が設けられている。この入口側開閉部材48には、例えば2つの長孔50、50が該入口側開閉部材48の左右端付近で平行に形成されている。この長孔50、50には、入口部16に固定された挿入ねじ52、52が挿入されており、この挿入ねじ52、52を緩め、長孔50、50が挿入ねじ52,52に沿って移動することにより、入口側開閉部材48が入口部16にスライドするようになっている。
【0037】
前述した入口側孔20は、筐体12側に形成された筐体側孔20aと、入口側開閉部材48に形成された開閉部材側孔20bとから構成されている。筐体側孔20aと開閉部材側孔20bとは、
図1に示すように、一致する位置にある場合は、入口側孔20を開いて通風可能状態とし、
図4(b)に示すように、一致しない位置まで入口側開閉部材48をC方向に移動させた場合は、入口側孔20を閉じ、通風禁止状態とする。
図4(b)の白い部分は開口している状態を示し、黒い部分は閉鎖している状態を示している。
【0038】
また、
図5に示すように、ファン42の上流側(上方)で前述した菌・ウイルス捕集フィルタ40の下流側(下方)には、出口側開閉部材54が設けられている。この出口側開閉部材54は、筐体12内に設けられた固定板56上でスライド自在に配置されている。この出口側開閉部材54の一端側には手動で出口側開閉部材54を動かすことができるように取っ手部58が設けられている。出口側開閉部材54と固定版56とには出口側孔60が形成され、前述した入口側孔20と同様に、出口側開閉部材54をスライドさせることにより、この出口側孔60を開閉するようになっている。出口側開閉部材54にはガイド部分を有し、出口側孔60の周囲にはガスが漏れないようにパッキンが取り付けられている。
【0039】
次に上記第1の実施形態に係る空気浄化装置10の作用について説明する。
まず、空気浄化装置10により空気を浄化する通常モード時の作用について説明すると、通常モード時においては、入口側孔20及び出口側孔60が開かれている状態にあって、操作盤14の駆動スイッチを押すと、光照射装置36が作動し、その後、ファン42が回転を開始する。
【0040】
ファン42が回転を開始すると、
図1に示すように、入口側孔20を介して空気が筐体12内に入り、まずはプレフィルタ32により空気に含まれる大きなごみやほこりが捕獲される。次に光触媒フィルタ34により、空気中の浮遊粒子の中で細菌やウイルスを大量に含む、比較的大きな唾液粒子などを吸着し、また悪臭ガスや有機溶剤ガスを吸着し分解する。
【0041】
次に菌・ウイルス捕集フィルタ40により、光触媒フィルタ34を通過した直径の小さい粒子を捕獲する。
【0042】
さらに殺菌ガス処理フィルタ44及びポストフィルタ46を通過し、出口部18からウイルスや細菌はほとんど含まれない安全な空気が外部へ噴出される。
【0043】
次に、菌・ウイルス捕集フィルタ40や筐体12の内部の壁に付着したウイルスや細菌を不活化するモード(以下、燻蒸モードという。)について説明する。捕獲された状態のままでは、室内のウイルスや細菌を空気浄化装置10の内部に濃縮した状態で高濃度であり、メンテナンスのために蓋体22を開けて菌・ウイルス捕集フィルタ40を交換しようとすると、ウイルスや細菌が飛びちって二次感染の恐れが高い。このため、HEPAフィルタや内部の壁に付着したウイルスや細菌を不活化させる必要がある。
【0044】
空気浄化装置10を通常モードで稼働している間は、浮遊するウイルスや細菌を内部に捕獲するだけで、不活化処理は行わない。なぜならば、不活化処理に使用するガスは不活化できる濃度では人体に有害であるからである。
【0045】
昼間などに空気清浄装置10を使用し、夜間に使わない場合であれば、空気清浄装置10の停止後に以下の手順で燻蒸モードを行う。
【0046】
まず
図4(b)に示すように、入口側開閉部材48をスライドさせて入口側孔20を閉じる。また、同様に、出口側開閉部材54をスライドさせて出口側孔60を閉じる。出口側孔60を塞ぐのは、筐体12の出口部18でも差支えはないが、菌・ウイルス捕集フィルタ40の下流側で、ファン42の上流側が最適である。なぜなら、菌・ウイルス捕集フィルタ40でウイルスや細菌は止められてファン42に至ることはない。また、ファン42はオゾンガス等で配線が劣化しやすく、オゾンガス等にさらさない方がよいからである。
【0047】
入口側孔20及び出口側孔60をとも塞いで内部が密閉状態になったら、燻蒸スイッチを押す。燻蒸スイッチを押すと菌・ウイルス不活性ガス発生部38がオンとなってする。菌・ウイルス不活性ガスが発生する。ガスの濃度は、装置内部容積と発生時間からタイマで管理してオンオフ時間を制御しても良いし、内部にガス濃度センサを設置して規定濃度に達したら発生をオフするようにしてもよい。
【0048】
菌・ウイルス不活性ガスをオゾンとした場合、内部濃度は0.5~10ppmの範囲で決めることが望ましい。なぜならば、ウイルスや細菌のガスによる不活化効果は、濃度×時間の関数となることが知られているからである。また、内部装置や筐体12の劣化、および、燻蒸処理後に内部のガスを処理するうえでは、不活化ガス処理フィルタ44を使用するにも、室内の広さで許容濃度に薄めるにも、あまり濃度を高くしない方がやりやすいからである。
【0049】
不活化ガス処理フィルタ44を使用する場合、不活化ガスがオゾンの場合、二酸化マンガンによる分解や活性炭による吸着作用でガスを処理し、外部に出るガスの濃度を低減させる。ガス処理フィルタの配置場所は、燻蒸モード時に密閉される部分の下流側であればよい。さらに、ファンの上流側であればなお効果的である。なぜならば、不活化ガスを処理することで、ファンの配線が劣化することも防げるからである。
【0050】
上記のように燻蒸モードにより筐体12内を滅菌したり、ウイルスを不活性化した後、蓋体22を取り外し、光照射装置36や菌・ウイルス捕集フィルタ40等の内部の部材をメンテナンス時に交換したり、電気部品等が故障した場合に、作業を安全に行うことができる。
【0051】
次に本発明に係る第2の実施形態について説明する。前述した第1の実施形態においては、燻蒸モードの実施を手動で行うようにしたが、この第2の実施形態においては、燻蒸モードを自動で行うようにしている。第1の実施形態のように手動で行うことにより、通常動作と異なり、殺菌作業であるという意識付け(自分で管理する)に有効である。構造や電気回路がシンプルにできるメリットもある。一方、第2の実施形態は、燻蒸モードを容易に行うことができる。
【0052】
この第2の実施形態においては、
図6に示すように、入口側開閉部材48及び出口側開閉部材54の少なくも一方に駆動部62が設けられている。駆動部62は、入口側開閉部材48及び出口側開閉部材54の側面に取り付けられたラック64と、このラック64に噛合うギア66と、このギア66に噛合ウォーム68と、このウォーム68を回転させるモータ70とから構成されている。モータ70を正逆回転させることにより入口側開閉部材48及び出口側開閉部材54をスライドさせることができる。また、入口側開閉部材48及び出口側開閉部材54のスライド位置は、位置センサ72により検出してスライド動作の停止位置を制御することができる。
【0053】
さらに、空気清浄装置10は、
図7に示すように、制御部74を有する。制御部74は、例えばコンピュータから構成され、プログラムに従って動作する。この制御部74には、濃度センサ76、タイマ78及び駆動スイッチ80からの信号が入力される。また、制御部74は、光照射装置36、菌・ウイルス不活性ガス発生部38、ファン42及び駆動部62に制御信号を出力する。
【0054】
図7には、上記制御部74による制御のタイミングチャートを示されている。
まず、駆動スイッチ80をオンすると、まず駆動部62を介して入口側開閉部材48及び出口側開閉部材54が開かれ、次に光照射装置36及びファン42が作動する。
【0055】
例えば一日の作業が終了すると、駆動スイッチ80はオフとなり、光照射装置36及びファン42は停止し、その後、駆動部62を介して入口側開閉部材48及び出口側開閉部材54が閉じられて燻蒸モードに入る。
【0056】
燻蒸モードに入ると、タイマ78が係数を開始し、菌・ウイルス不活性ガス発生部38を作動させてガスを発生する。このガスが発生している間、濃度センサ76から取得した濃度情報に基づいて筐体12内の濃度を一定に保つようにしてもよい。
【0057】
その後、タイマ78がオフとなると、菌・ウイルス不活性ガス発生部38の作動を停止させ、燻蒸モードを終了する。
【符号の説明】
【0058】
上記実施形態においては、独立した空気浄化装置として説明したが、建築物などに設置する換気用の設備の中にユニットとして設置しても良い。この場合、筐体12は、換気用の設備のダクトに相当する。また、この場合、移動用のキャスタ30は不要で、操作盤14は離れた場所に設置するが、上記実施形態で説明した装置の動作や機能は同じである。
【0059】
10 空気浄化装置
12 筐体
14 操作盤
16 入口部
18 出口部
20 入口側孔
22 蓋体
24 開口部
26 電源コード
28 プラグ
30 キャスタ
32 プレフィルタ
34 光触媒フィルタ
36 光照射装置
38 菌・ウイルス不活性ガス発生部
40 菌・ウイルス捕集フィルタ
42 ファン
44 不活化ガス処理フィルタ
46 ポストフィルタ46
48 入口側開閉部材
50 長孔
52 挿入ねじ
54 出口側開閉部材
56 固定板
58 取っ手部
60 出口側孔
62 駆動部
64 ラック
66 ギア
68 ウォーム
70 モータ
72 位置センサ
74 制御部
76 濃度センサ
78 タイマ
80 駆動スイッチ