(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-24
(45)【発行日】2024-05-07
(54)【発明の名称】固体電解質、電解質層および電池
(51)【国際特許分類】
H01M 8/1246 20160101AFI20240425BHJP
H01M 8/12 20160101ALI20240425BHJP
C04B 35/01 20060101ALI20240425BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20240425BHJP
H01B 1/08 20060101ALI20240425BHJP
【FI】
H01M8/1246
H01M8/12 101
C04B35/01
H01B1/06 A
H01B1/08
(21)【出願番号】P 2020567722
(86)(22)【出願日】2020-01-24
(86)【国際出願番号】 JP2020002552
(87)【国際公開番号】W WO2020153485
(87)【国際公開日】2020-07-30
【審査請求日】2022-12-08
(31)【優先権主張番号】P 2019010280
(32)【優先日】2019-01-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 日本化学会 第9回CSJ化学フェスタ2019 予稿集(菊地 優冴ら発表)(https://event.csj.jp/festa/program_list.php?enty=2019)、令和元年9月26日掲載
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 日本化学会秋季事業 第9回CSJ化学フェスタ2019(菊地 優冴ら発表) 令和元年10月17日開催
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【氏名又は名称】春田 洋孝
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【氏名又は名称】酒井 太一
(72)【発明者】
【氏名】八島 正知
(72)【発明者】
【氏名】辻口 峰史
(72)【発明者】
【氏名】藤井 孝太郎
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 栄貴
(72)【発明者】
【氏名】作田 祐一
(72)【発明者】
【氏名】村上 泰斗
(72)【発明者】
【氏名】安井 雄太
(72)【発明者】
【氏名】菊地 優冴
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雄貴
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-519191(JP,A)
【文献】特開2003-146754(JP,A)
【文献】特表2012-528438(JP,A)
【文献】特開2015-041597(JP,A)
【文献】特開平10-182268(JP,A)
【文献】特開2003-137641(JP,A)
【文献】特開平09-183657(JP,A)
【文献】FLOROS N,The n=2 Member of the New Layered Structural Family Ba5+nCa2Mn3+nO3n+14 Derived from the Hexagonal Perovskite: Ba7Ca2Mn5O20,Journal of Solid State Chemistry,2002年10月,Vol.168, No.1,Page.11-17
【文献】GARCIA‐GONZALEZ E,Crystal Structure of an Unusual Polytype: 7H-Ba7Nb4MoO20,Chemistry of Materials,米国,1999年02月,Vol.11, No.2,Page.433-437
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/12
C25B 9/00
C25B 13/00
C04B 35/01
H01B 1/06
H01B 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
六方ペロブスカイト関連化合物を含む固体電解質であって、前記化合物は、下記一般式(1)で表される化合物である、固体電解質。
Ba
7-αNb
(4-x-y)Mо
(1+x)M
yO
(20+z) ・・・(1)
[式(1)中、MはAg、Al、At、Au、Be、Bi、Br、Ca、Cd、Ce、Co、Cr、Cu、Dy、Er、Eu、Fe、Ga、Gd、Ge、Hf、Hg、Ho、I、In、Ir、La、Li、Lu、Mg、Mn、Na、Nb、Nd、Ni、Np、Os、P、Pb、Pd、Po、Pr、Pt、Pu、Re、Rh、Ru、S、Sb、Sc、Se、Si、Sm、Sn、Sr、Ta、Tb、Tc、Te、Ti、Tl、Tm、U、V、W、Xe、Y、Yb、ZnおよびZrからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素の陽イオンである。αはBa欠損量であり0以上で0.5以下の数値、xは-1.1以上で1.1以下の数値、yは0以上で1.1以下を満たす数値、zは酸素の不定比性であり-2.0以上で2.0以下の数値を表す。ただし式(1)中、|x|+y≧0.01を満たす。]
【請求項2】
六方ペロブスカイト関連化合物を含む固体電解質であって、前記化合物は、下記一般式(2)で表される化合物である、固体電解質。
Ba
7-αNb
(4-x―y)Mо
(1+x)M
yO
(20+z) ・・・(2)
[式(2)中、MはW、V、Cr、Mn、Ge、SiおよびZrからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素の陽イオンである。αはBa欠損量であり0以上で0.5以下の数値、xは-1.1以上で1.1以下の数値、yは0以上で1.1以下かつ|x|+y≧0.01を満たす数値、zは酸素の不定比性であり-2.0以上で2.0以下の数値を表す。]
【請求項3】
六方ペロブスカイト関連化合物を含む固体電解質であって、前記化合物は、下記一般式(3)~(
7)のいずれかで表される化合物である、固体電解質。
Ba
7Nb
(4-x)Mо
(1+x)O
(20+z) ・・・(3)
[式(3)中、xは-1.1以上で-0.01以下または0.01以上で1.1以下の数値、zは酸素の不定比性であり-2.0以上で2.0以下の数値を表す。]
Ba
7Nb
(4-y)MоM
yO
(20+z) ・・・(4)
[式(4)中、Mは、V、Mn、Ge、SiおよびZrからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素の陽イオンである。yは0.01以上で1.1以下の数値、zは酸素の不定比性であり-2.0以上で2.0以下の数値を表す。]
Ba
7Nb
4Mо
(1-y)M
yO
(20+z) ・・・(5)
[式(5)中、Mは、VおよびMnからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素の陽イオンである。zは酸素の不定比性であり-2.0以上で2.0以下の数値、yは0.01以上で1.1以下の数値を表す。]
Ba
7Nb
(4-y)MоCr
yO
(20+z) ・・・(6)
[式(6)中、zは酸素の不定比性であり-2.0以上で2.0以下の数値、yは0.01以上で1.1以下の数値を表す。]
Ba
7Nb
(4-y)MoW
yO
(20+z) ・・・(7)
[式(7)中、zは酸素の不定比性であり-2.0以上で2.0以下の数値、yは0.01以上で1.1以下の数値を表す。]
【請求項4】
六方ペロブスカイト関連化合物を含む固体電解質であって、前記化合物は、下記一般式(8)、(9)のいずれかで表される化合物である、固体電解質。
Ba
3W
(1-x)V
(1+x)O
(8.5+z) ・・・(8)
[式(8)中、xは-0.8以上で0.2以下の数値、zは酸素の不定比性であり-1.0以上で1.0以下の数値を表す。]
Ba
3Mo
(1-x)Ti
(1+x)O
(8+z) ・・・(9)
[式(9)中、xは-0.3以上で0.1以下の数値、zは酸素の不定比性であり-1.0以上で0.3以下の数値を表す。]
【請求項5】
六方ペロブスカイト関連化合物を含む固体電解質であって、前記化合物は、下記一般式(10)で表される化合物である、固体電解質。
Ba
7Ca
2Mn
5O
(20+z) ・・・(10)
[式(10)中、zは酸素の不定比性であり-1.0以上で1.0以下の数値を表す。]
【請求項6】
六方ペロブスカイト関連化合物を含む固体電解質であって、前記化合物は、下記一般式(11)で表される化合物である、固体電解質。
Ba
2.6Ca
2.4La
4Mn
4O
(19+z) ・・・(11)
[式(11)中、zは酸素の不定比性であり-1.0以上で1.0以下の数値を表す。]
【請求項7】
六方ペロブスカイト関連化合物を含む固体電解質であって、前記化合物は、下記一般式(12)で表される化合物である、固体電解質。
La
2Ca
2MnO
(7+z) ・・・(12)
[式(12)中、zは酸素の不定比性であり-1.0以上で1.0以下の数値を表す。]
【請求項8】
六方ペロブスカイト関連化合物を含む固体電解質であって、前記化合物は、下記一般式(13)で表される化合物である、固体電解質。
Ba
5M
2Al
2ZrO
(13+z) ・・・(13)
[式(13)中、MはGd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb又はLuのいずれかを示す。zは酸素の不定比性であり-1.0以上で1.0以下の数値を表す。]
【請求項9】
前記xが0.06以上0.30以下である、請求項1又は2に記載の固体電解質。
【請求項10】
前記化合物が一般式(3)で表される化合物であって、前記xが0.06以上0.30以下である、請求項3に記載の固体電解質。
【請求項11】
前記xが0.19以上0.21以下である、請求項
1から3のいずれか1に記載の固体電解質。
【請求項12】
前記化合物は、格子定数のa軸長、b軸長、c軸長(Å)、α角、β角、γ角(o)がそれぞれ、式(2)について5.35<a<6.56、5.35<b<6.56、15.14<c<18.52、89<α<91、89<β<91、119<γ<121である、請求項2に記載の固体電解質。
【請求項13】
前記化合物は、格子定数のa軸長、b軸長、c軸長(Å)、α角、β角、γ角(o)がそれぞれ、式(3)~(7)について5.35<a<6.56、5.35<b<6.56、15.14<c<18.52、89<α<91、89<β<91、119<γ<121
の数値範囲内である、請求項3に記載の固体電解質。
【請求項14】
前記化合物は、格子定数のa軸長、b軸長、c軸長(Å)、α角、β角、γ角(o)がそれぞれ、式(13)について5.35<a<6.55、5.35<b<6.55、22.23<c<27.18、89<α<91、89<β<91、119<γ<121
の数値範囲内である、請求項8に記載の固体電解質。
【請求項15】
酸化物イオン(O
2-)伝導体として用いられる固体電解質であって、300~1200℃の温度条件で用いるための、請求項1から8のいずれか1項に記載の固体電解質。
【請求項16】
300℃における電気伝導度を測定したとき、lоg[σ(Scm
-1)]で表される電気伝導度が-7以上の、請求項1から
8のいずれか1項に記載の固体電解質。
【請求項17】
固体酸化物形燃料電池(SOFC)、センサ、電池、電極、電解質、酸素濃縮器、酸素分離膜、酸素透過膜、酸素ポンプ、触媒、光触媒、電気・電子・通信機器、エネルギー・環境関連用機器または光学機器である、請求項1から
8のいずれか1項に記載の固体電解質。
【請求項18】
固体酸化物形燃料電池(SOFC)、センサ、酸素濃縮器、酸素分離膜、酸素透過膜または酸素ポンプに用いられる電解質層用である、請求項1から
8のいずれか1項に記載の固体電解質。
【請求項19】
請求項1から
8のいずれか1項に記載の固体電解質を含む電解質層。
【請求項20】
請求項1から8のいずれか1項に記載の固体電解質を含む電解質層を備える電池。
【請求項21】
固体酸化物形燃料電池(SOFC)である、請求項
20に記載の電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池等の固体電解質層に用いられる固体電解質、それを用いた電解質層、および電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年研究が進んでいる燃料電池のうち、固体酸化物形燃料電池(以下、「SOFC」という)は、発電効率が特に高く、燃料の改質装置を必要とせず、長期安定性に優れるため、家庭用及び業務用に広く応用できる可能性があり、注目されている。
【0003】
SOFCは、固体電解質層の両側に燃料極と空気極とを設けた固体電解質-電極積層体を備えて構成される。SOFCに用いる固体電解質層としては、酸化物イオン(O2-)伝導性セラミックスとしてイットリア安定化ジルコニア(ZrO2-Y2O3)(以下「YSZ」と記す)が知られている。
【0004】
SOFCに用いる固体電解質としては、このほか、電気伝導度の高い化合物、例えば酸化物イオン(O2-)やプロトン(H+)などのイオンを伝導する高いイオン伝導度を示す化合物を用いることができる。特許文献1には、陰イオン、陽イオン、プロトン、電子および正孔からなる群より選ばれた少なくとも1種のキャリアが伝導可能な結晶性無機化合物が開示されている。非特許文献1には、イオン伝導度(σ)が高い六方ペロブスカイト関連化合物であるBa7Nb4MoO20が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Sacha Fop, Novel oxide ion conductors in the hexagonal perovskite family, uk. Bl. Ethos. 701786, [平成30年12月25日閲覧]、インターネット<URL:https://ethos.bl.uk/OrderDetails.do?uin=uk.bl.ethos.701786>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のYSZを固体電解質に用いたSOFCは、充分な性能を得るには高温で動作させる必要がある。その理由は、YSZが電池に必要な酸化物イオン伝導度を確保するにはおよそ700℃以上の高温を要するためである。電池を700℃以上という高温で動作させるには、動作させる環境やスペース、電池を高温に保ち他の環境が高温とならないよう遮断又は冷却するための他の装置などを必要とする。
【0008】
SOFCを低温で動作させることができれば、上述した高温で動作させるための制約が軽減され、SOFCの有用性が著しく高まることが予測される。また、固体電解質のSOFC以外の利用法においても、低温で動作可能であることで応用範囲が大きく広くなることが予想される。そのため、低温において高い電気伝導度を有する固体電解質が強く望まれている。
【0009】
本発明は上記のような事情を鑑みてなされたものであり、低い温度領域においても高い電気伝導度を有する固体電解質、それを用いた電解質層および電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は以下の態様を有する。
[1] 六方ペロブスカイト関連化合物を含む固体電解質であって、前記化合物は、下記一般式(1)で表される化合物である、固体電解質。
Ba7-αNb(4-x-y)Mо(1+x)MyO(20+z) ・・・(1)
[式(1)中、MはAg、Al、At、Au、Be、Bi、Br、Ca、Cd、Ce、Co、Cr、Cu、Dy、Er、Eu、Fe、Ga、Gd、Ge、Hf、Hg、Ho、I、In、Ir、La、Li、Lu、Mg、Mn、Na、Nb、Nd、Ni、Np、Os、P、Pb、Pd、Po、Pr、Pt、Pu、Re、Rh、Ru、S、Sb、Sc、Se、Si、Sm、Sn、Sr、Ta、Tb、Tc、Te、Ti、Tl、Tm、U、V、W、Xe、Y、Yb、ZnおよびZrからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素の陽イオンである。αはBa欠損量であり0以上で0.5以下の数値、xは-1.1以上で1.1以下の数値、yは0以上で1.1以下を満たす数値、zは酸素の不定比性であり-2.0以上で2.0以下の数値を表す。ただし式(1)中、|x|+y≧0.01を満たす。]
[2] 六方ペロブスカイト関連化合物を含む固体電解質であって、前記化合物は、下記一般式(2)で表される化合物である、固体電解質。
Ba7-αNb(4-x―y)Mо(1+x)MyO(20+z) ・・・(2)
[式(2)中、MはW、V、Cr、Mn、Ge、SiおよびZrからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素の陽イオンである。αはBa欠損量であり0以上で0.5以下の数値、xは-1.1以上で1.1以下の数値、yは0以上で1.1以下かつ|x|+y≧0.01を満たす数値、zは酸素の不定比性であり-2.0以上で2.0以下の数値を表す。]
[3] 六方ペロブスカイト関連化合物を含む固体電解質であって、前記化合物は、下記一般式(3)~(13)のいずれかで表される化合物である、固体電解質。
Ba7Nb(4-x)Mо(1+x)O(20+z) ・・・(3)
[式(3)中、xは-1.1以上で-0.01以下または0.01以上で1.1以下の数値、zは酸素の不定比性であり-2.0以上で2.0以下の数値を表す。]
Ba7Nb(4-y)MоMyO(20+z) ・・・(4)
[式(4)中、Mは、V、Mn、Ge、SiおよびZrからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素の陽イオンである。yは0.01以上で1.1以下の数値、zは酸素の不定比性であり-2.0以上で2.0以下の数値を表す。]
Ba7Nb4Mо(1-y)MyO(20+z) ・・・(5)
[式(5)中、Mは、VおよびMnからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素の陽イオンである。zは酸素の不定比性であり-2.0以上で2.0以下の数値、yは0.01以上で1.1以下の数値を表す。]
Ba7Nb(4-y)MоCryO(20+z) ・・・(6)
[式(6)中、zは酸素の不定比性であり-2.0以上で2.0以下の数値、yは0.01以上で1.1以下の数値を表す。]
Ba7Nb(4-y)MoWyO(20+z) ・・・(7)
[式(7)中、zは酸素の不定比性であり-2.0以上で2.0以下の数値、yは0.01以上で1.1以下の数値を表す。]
Ba3W(1-x)V(1+x)O(8.5+z) ・・・(8)
[式(8)中、xは-0.8以上で0.2以下の数値、zは酸素の不定比性であり-1.0以上で1.0以下の数値を表す。]
Ba3Mo(1-x)Ti(1+x)O(8+z) ・・・(9)
[式(9)中、xは-0.3以上で0.1以下の数値、zは酸素の不定比性であり-0.1以上で0.3以下の数値を表す。]
Ba7Ca2Mn5O(20+z) ・・・(10)
[式(10)中、zは酸素の不定比性であり-1.0以上で1.0以下の数値を表す。]
Ba2.6Ca2.4La4Mn4O(19+z) ・・・(11)
[式(11)中、zは酸素の不定比性であり-1.0以上で1.0以下の数値を表す。]
La2Ca2MnO(7+z) ・・・(12)
[式(12)中、zは酸素の不定比性であり-1.0以上で1.0以下の数値を表す。]
Ba5M2Al2ZrO(13+z) ・・・(13)
[式(13)中、MはGd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb又はLuのいずれかを示す。zは酸素の不定比性であり-1.0以上で1.0以下の数値を表す。]
[4] 前記xが0.06以上0.30以下である、[1]又は[2]に記載の固体電解質。
[5] 前記化合物が一般式(3)で表される化合物であって、前記xが0.06以上0.30以下である、[3]に記載の固体電解質。
[6] 前記xが0.19以上0.21以下である、[4]又は[5]に記載の固体電解質。
[7] 前記化合物は、格子定数のa軸長、b軸長、c軸長(Å)、α角、β角、γ角(o)がそれぞれ、式(2)について5.35<a<6.56、5.35<b<6.56、15.14<c<18.52、89<α<91、89<β<91、119<γ<121である、[2]に記載の固体電解質。
[8] 前記化合物は、格子定数のa軸長、b軸長、c軸長(Å)、α角、β角、γ角(o)がそれぞれ、式(3)~(7)について5.35<a<6.56、5.35<b<6.56、15.14<c<18.52、89<α<91、89<β<91、119<γ<121、式(8)について5.23<a<6.4、5.23<b<6.4、18.96<c<23.19、89<α<91、89<β<91、119<γ<121、式(9)について5.34<a<6.54、5.34<b<6.54、19.12<c<23.39、89<α<91、89<β<91、119<γ<121、式(10)について5.23<a<6.41、5.23<b<6.41、46.23<c<56.51、89<α<91、89<β<91、119<γ<121、式(11)について8.85<a<10.83、5.11<b<6.26、14.07<c<17.21、89<α<91、100<β<104、89<γ<91、式(12)について5.05<a<6.19、5.05<b<6.19、15.57<c<19.03、89<α<91、89<β<91、119<γ<121、式(13)について5.35<a<6.55、5.35<b<6.55、22.23<c<27.18、89<α<91、89<β<91、119<γ<121の数値範囲内である、[3]に記載の固体電解質。
[9] 酸化物イオン(O2-)伝導体として用いられる固体電解質であって、300~1200℃の温度条件で用いるための、[1]から[8]のいずれか1に記載の固体電解質。
[10] 300℃における電気伝導度を測定したとき、lоg[σ(Scm-1)]で表される電気伝導度が-7以上の、[1]から[9]のいずれか1記載の固体電解質。
[11] 固体酸化物形燃料電池(SOFC)、センサ、電池、電極、電解質、酸素濃縮器、酸素分離膜、酸素透過膜、酸素ポンプ、触媒、光触媒、電気・電子・通信機器、エネルギー・環境関連用機器または光学機器である、[1]から[10]のいずれか1記載の固体電解質。
[12] 固体酸化物形燃料電池(SOFC)、センサ、酸素濃縮器、酸素分離膜、酸素透過膜または酸素ポンプに用いられる電解質層用である、[1]から[11]のいずれか1記載の固体電解質。
[13] [1]から[12]のいずれか1記載の固体電解質を含む電解質層。
[14] [13]に記載の固体電解質を含む電解質層を備える電池。
[15] 固体酸化物形燃料電池(SOFC)である、[14]に記載の電池。
【0011】
また、本実施態様は以下のような別の側面も有する。
[1A] 六方ペロブスカイト関連化合物を含む固体電解質であって、前記化合物は、下記一般式(1)で表される化合物である、固体電解質。
Ba7-αNb(4-x-y)Mо(1+x)MyO(20+z) ・・・(1)
[式(1)中、MはAg、Al、At、Au、Be、Bi、Br、Cd、Co、Cr、Cu、Fe、Ga、Ge、Hf、Hg、I、In、Ir、Li、Mg、Mn、Mo、Nb、Ni、Np、Os、P、Pb、Pd、Po、Pt、Pu、Re、Rh、Ru、S、Sb、Sc、Se、Si、Sn、Ta、Tb、Tc、Te、Ti、Tl、U、V、W、Xe、ZnおよびZrからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素の陽イオンである。αはBa欠損量であり0以上で0.5以下の数値、xは-0.15以上で-0.01以下または0.01以上で0.35以下の数値、yは0.01以上で0.35以下の数値、zは酸素の不定比性であり-0.2以上で0.2以下の数値を表す。]
[2A] 六方ペロブスカイト関連化合物を含む固体電解質であって、前記化合物は、下記一般式(2)で表される化合物である、固体電解質。
Ba7-αNb(4-x―y)Mо(1+x)MyO(20+z) ・・・(2)
[式(2)中、MはW、V、Cr、Ge、SiおよびZrからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素の陽イオンである。αはBa欠損量であり0以上で0.5以下の数値、xは-0.15以上で-0.01以下または0.01以上で0.35以下の数値、yは0.01以上で0.35以下の数値、zは酸素の不定比性であり-0.2以上で0.2以下の数値を表す。]
[3A] 六方ペロブスカイト関連化合物を含む固体電解質であって、前記化合物は、下記一般式(3)~(6)のいずれかで表される化合物である、固体電解質。
Ba7Nb(4-x)Mо(1+x)O(20+z) ・・・(3)
[式(3)中、xは-0.15以上で-0.01以下または0.01以上で0.20以下の数値、zは酸素の不定比性であり-0.2以上で0.2以下の数値を表す。]
Ba7Nb(4-y)MоMyO(20+z) ・・・(4)
[式(4)中、Mは、W、V、Ge、SiおよびZrからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素の陽イオンである。yは0.01以上で0.2以下の数値、zは酸素の不定比性であり-0.2以上で0.2以下の数値を表す。]
Ba7Nb4Mо(1-y)VyO(20+z) ・・・(5)
[式(5)中、zは酸素の不定比性であり-0.2以上で0.2以下の数値、yは0.01以上で0.2以下の数値を表す。]
Ba7Nb(4-y)MоCryO(20+z) ・・・(6)
[式(6)中、zは酸素の不定比性であり-0.2以上で0.2以下の数値、yは0.01以上で0.35以下の数値を表す。]
[4A] 前記xが0.06以上0.12以下である、[1A]から[3A]のいずれか1に記載の固体電解質。
[5A] 前記xが0.09以上0.11以下である、[4A]に記載の固体電解質。
[6A] 前記化合物は、格子定数のa軸長、b軸長、c軸長(Å)、α角、β角、γ角(o)がそれぞれ、5.83<a<6.08、5.83<b<6.08、16.4<c<17.17、89<α<91、89<β<91、119<γ<121の数値範囲内である、[1A]から[5A]のいずれか1に記載の固体電解質。
[7A] 300℃における電気伝導度を測定したとき、lоg[σ(Scm-1)]で表される電気伝導度が-6.2以上の、[1A]から[6A]のいずれか1に記載の固体電解質。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、低い温度領域においても高い電気伝導度を有する固体電解質、それを用いた電解質層および電池が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本実施例の試験例1のX線回折(XRD)パターンを示すグラフ図である。
【
図2】本実施例の試験例2のXRDパターンを示すグラフ図である。
【
図3】本実施例の試験例3のXRDパターンを示すグラフ図である。
【
図4】本実施例の試験例4のXRDパターンを示すグラフ図である。
【
図5】本実施例の試験例5のXRDパターンを示すグラフ図である。
【
図6】本実施例の試験例6のXRDパターンを示すグラフ図である。
【
図7】本実施例の試験例7のXRDパターンを示すグラフ図である。
【
図8】本実施例の試験例8のXRDパターンを示すグラフ図である。
【
図9】本実施例の試験例9のXRDパターンを示すグラフ図である。
【
図10】本実施例の試験例10のXRDパターンを示すグラフ図である。
【
図11】本実施例の試験例11のXRDパターンを示すグラフ図である。
【
図12】本実施例の試験例12のXRDパターンを示すグラフ図である。
【
図13】本実施例の試験例13のXRDパターンを示すグラフ図である。
【
図14】本実施例の試験例14のXRDパターンを示すグラフ図である。
【
図15】本実施例の試験例15のXRDパターンを示すグラフ図である。
【
図16】本実施例の試験例16のXRDパターンを示すグラフ図である。
【
図17】本実施例の試験例17のXRDパターンを示すグラフ図である。
【
図18】本実施例の試験例18のXRDパターンを示すグラフ図である。
【
図19】本実施例の試験例19のXRDパターンを示すグラフ図である。
【
図20】本実施例の試験例20のXRDパターンを示すグラフ図である。
【
図21】本実施例の試験例21のXRDパターンを示すグラフ図である。
【
図22】本実施例の試験例1、試験例6とYSZの電気伝導度の比較を示すグラフ図である。
【
図23】本実施例の試験例のMo過剰量xを0.02~0.10にしたBa
7Nb
(4-x)Mо
(1+x)O
(20+z)の電気伝導度を示すグラフ図である。このグラフ図は、比較のため、本実施例の試験例のMo過剰量xが0.0であるBa
7Nb
4MoO
20の電気伝導度も示す。
【
図24】本実施例の試験例のMo過剰量xを0.10~0.18にしたBa
7Nb
(4-x)Mо
(1+x)O
(20+z)の電気伝導度を示すグラフ図である。このグラフ図は、比較のため、本実施例の試験例のMo過剰量xが0.0であるBa
7Nb
4MoO
20の電気伝導度も示す。
【
図25】本実施例の試験例のCr、W、V、Si、Ge、Zrの各元素の陽イオンのドープ量yを0.1にしたBa
7Nb
(4-y)MоM
yO
(20+z)およびVの陽イオンのドープ量yを0.1にしたBa
7Nb
4Mо
(1-y)V
yO
(20+z)の電気伝導度を示すグラフ図である。
【
図26】本実施例の試験例のCrドープ量yを0.10~0.30にしたBa
7Nb
(4-y)MоCr
yO
(20+z)の電気伝導度を示すグラフ図である。
【
図27】本実施例の試験例1の900℃での電気伝導度の酸素分圧依存性を示すグラフ図である。
【
図28】本実施例の試験例6の800℃での酸素濃淡電池の起電力と酸素分圧の関係を示すグラフ図である。
【
図29】本実施例の試験例6の900℃での酸素濃淡電池の起電力と酸素分圧の関係を示すグラフ図である。
【
図30】試験例22であるBa
7Nb
4MoO
20の結晶構造を示す。
【
図31】試験例22~27であるBa
7Nb
(4-x)Mo
(1+x)O
(20+z)のXRDパターンを示すグラフ図である。
【
図32】Ba
7Nb
(4-x)Mo
(1+x)O
(20+z)のXRD測定図を異なる組成を持つ試験例28-37について示す。
【
図33】(a)試験例22~27であるBa
7Nb
(4-x)Mo
(1+x)O
(20+z)の伝導度を温度依存性で示す。(b)Ba
7Nb
(4-x)Mo
(1+x)O
(20+z)の伝導度を別の組成を持つ試験例28~35について温度依存性で示す。
【
図34】ある温度における試験例22~35であるBa
7Nb
(4-x)Mo
(1+x)O
(20+z)の伝導度を組成依存性で示す。
【
図35】試験例40~44と46であるBa
7Nb
(4-y)MоCr
yO
(20+z)のXRDパターンを示すグラフ図である。
【
図36】試験例40~44と46であるBa
7Nb
(4-y)MоCr
yO
(20+z)の伝導度を温度依存性で示す。
【
図37】試験例22、40~44と46であるBa
7Nb
(4-y)MоCr
yO
(20+z)の伝導度を組成依存性で示す。
【
図38】試験例52~58と81~83であるBa
7Nb
(4-y)MoW
yO
(20+z)のXRDパターンを示すグラフ図である。
【
図39】Ba
7Nb
(4-y)MoW
yO
(20+z)のうち試験例52~58、81、82の全電気伝導度について温度依存性で示す。
【
図40】試験例22、52~58、81、82であるBa
7Nb
(4-y)MoW
yO
(20+z)の全電気伝導度について組成依存性で示す。
【
図41】試験例38、39、45、47~51のXRDパターンを示すグラフ図である。
【
図42】試験例38、39、47~50の電気伝導度を温度依存性で示す。
【
図43】試験例59~67のBa
3WVO
8.5系の材料の結晶構造を示す。
【
図44】試験例59~67のBa
3W
(1-x)V
(1+x)O
(8.5+z)のXRDパターンを示すグラフ図である。
【
図45】試験例59~67のBa
3W
(1-x)V
(1+x)O
(8.5+z)の電気伝導度について温度依存性で示す。
【
図46】試験例59~67のBa
3W
(1-x)V
(1+x)O
(8.5+z)の電気伝導度について組成依存性で示す。
【
図47】試験例66のBa
3W
1.6V
0.4O
8.8について、全電気伝導度の酸素分圧P(O
2)依存性を示す。
【
図48】試験例66のBa
3W
1.6V
0.4O
8.8について、乾燥空気中での伝導度および湿潤空気中での伝導度について温度依存性で示す。
【
図49】試験例68のBa
3MoTiO
8の結晶構造を示す。試験例69と70のBa
3Mo
(1-x)Ti
(1+x)O
(8+z)も類似の結晶構造を持つ。
【
図50】試験例68~70のBa
3Mo
(1-x)Ti
(1+x)O
(8+z)のXRDパターンを示すグラフ図である。
【
図51】試験例68~70のBa
3Mo
(1-x)Ti
(1+x)O
(8+z)の電気伝導度について温度依存性で示す。
【
図52】試験例69のBa
3Mo
1.1Ti
0.9O
8.1について、全電気伝導度のP(O
2)依存性を示す。
【
図53】試験例71のBa
7Ca
2Mn
5O
20の結晶構造を示す。
【
図54】試験例71のBa
7Ca
2Mn
5O
20のXRDパターンを示すグラフ図である。
【
図55】試験例71のBa
7Ca
2Mn
5O
20の全電気伝導度について温度依存性で示す。
【
図56】試験例72のBa
2.6Ca
2.4La
4Mn
4O
19の結晶構造を示す。
【
図57】試験例72のBa
2.6Ca
1.4La
4Mn
4O
19のXRDパターンを示すグラフ図である。
【
図58】試験例72のBa
2.6Ca
1.4La
4Mn
4O
19の全電気伝導度について温度依存性で示す。
【
図59】試験例73のLa
2Ca
2MnO
7の結晶構造を示す。
【
図60】試験例73のLa
2Ca
2MnO
7のXRDパターンを示すグラフ図である。
【
図61】試験例74~80のBa
5M
2Al
2ZrO
13系の材料の結晶構造を示す。
【
図62】試験例74~80のBa
5M
2Al
2ZrO
13のXRDパターンを示すグラフ図である。
【
図63】試験例74~80のBa
5M
2Al
2ZrO
13の全電気伝導度を温度依存性で示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る固体電解質、電解質層および電池について、実施形態を示して説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0015】
(固体電解質)
本実施形態の固体電解質は、六方ペロブスカイト関連化合物を含み、この化合物は、後述する特定の一般式で表されるものを含む。ここで、固体電解質とは、イオンが伝導する材料であり、イオンおよび(プロトン、電子またはそのホール)の両方が伝導する材料も含む。本実施形態における六方ペロブスカイト関連化合物とは、六方ペロブスカイトユニットを含む層状構造をもつ化合物またはそれに類似した構造をもつ化合物である。
【0016】
本実施形態の固体電解質における六方ペロブスカイト関連化合物は、従来知られたBa7Nb4MoO20に対して、Nb濃度もしくはMo濃度を増加または減少し、および/または、1種以上の陽イオンを形成する元素の濃度を増加した組成を有する。上述の陽イオンを形成する元素は、Ag、Al、At、Au、Be、Bi、Br、Ca、Cd、Ce、Co、Cr、Cu、Dy、Er、Eu、Fe、Ga、Gd、Ge、Hf、Hg、Ho、I、In、Ir、La、Li、Lu、Mg、Mn、Na、Nb、Nd、Ni、Np、Os、P、Pb、Pd、Po、Pr、Pt、Pu、Re、Rh、Ru、S、Sb、Sc、Se、Si、Sm、Sn、Sr、Ta、Tb、Tc、Te、Ti、Tl、Tm、U、V、W、Xe、Y、Yb、ZnおよびZrからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素が好ましく、W、V、Cr、Mn、Ge、SiおよびZrからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素であることがより好ましい。
【0017】
具体的には、本実施形態の固体電解質は、下記一般式(1)~(13)のいずれかで表される六方ペロブスカイト関連化合物を含む。
【0018】
Ba7-αNb(4-x-y)Mо(1+x)MyO(20+z) ・・・(1)
[式(1)中、MはAg、Al、At、Au、Be、Bi、Br、Ca、Cd、Ce、Co、Cr、Cu、Dy、Er、Eu、Fe、Ga、Gd、Ge、Hf、Hg、Ho、I、In、Ir、La、Li、Lu、Mg、Mn、Na、Nb、Nd、Ni、Np、Os、P、Pb、Pd、Po、Pr、Pt、Pu、Re、Rh、Ru、S、Sb、Sc、Se、Si、Sm、Sn、Sr、Ta、Tb、Tc、Te、Ti、Tl、Tm、U、V、W、Xe、Y、Yb、ZnおよびZrからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素の陽イオンである。αはBa欠損量であり0以上で0.5以下の数値、xは-1.1以上で1.1以下の数値、yは0以上で1.1以下を満たす数値、zは酸素の不定比性であり-2.0以上で2.0以下の数値を表す。ただし式(1)中、|x|+y≧0.01を満たす。]
【0019】
Ba7-αNb(4-x―y)Mо(1+x)MyO(20+z) ・・・(2)
[式(2)中、MはW、V、Cr、Mn、Ge、SiおよびZrからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素の陽イオンである。αはBa欠損量であり0以上で0.5以下の数値、xは-1.1以上で1.1以下の数値、yは0以上で1.1以下かつ|x|+y≧0.01を満たす数値、zは酸素の不定比性であり-2.0以上で2.0以下の数値を表す。]
【0020】
Ba7Nb(4-x)Mо(1+x)O(20+z) ・・・(3)
[式(3)中、xは-1.1以上で-0.01以下または0.01以上で1.1以下の数値、zは酸素の不定比性であり-2.0以上で2.0以下の数値を表す。]
【0021】
Ba7Nb(4-y)MоMyO(20+z) ・・・(4)
[式(4)中、Mは、V、Mn、Ge、SiおよびZrからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素の陽イオンである。yは0.01以上で1.1以下の数値、zは酸素の不定比性であり-2.0以上で2.0以下の数値を表す。]
【0022】
Ba7Nb4Mо(1-y)MyO(20+z) ・・・(5)
[式(5)中、Mは、VおよびMnからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素の陽イオンである。zは酸素の不定比性であり-2.0以上で2.0以下の数値、yは0.01以上で1.1以下の数値を表す。]
【0023】
Ba7Nb(4-y)MоCryO(20+z) ・・・(6)
[式(6)中、zは酸素の不定比性であり-2.0以上で2.0以下の数値、yは0.01以上で1.1以下の数値を表す。]
【0024】
Ba7Nb(4-y)MoWyO(20+z) ・・・(7)
[式(7)中、zは酸素の不定比性であり-2.0以上で2.0以下の数値、yは0.01以上で1.1以下の数値を表す。]
【0025】
上記式(1)、(2)、(3)において、xは0.01以上0.34以下であることが好ましく、0.18以上0.22以下であることがより好ましく、0.19以上0.21以下であることが特に好ましい。xが上記値、特に0.20に近い値であると、低温における電気伝導度が特に高くなる。
【0026】
上記式(1)、(2)において、yは0.06以上0.24以下であることが好ましく、0.08以上0.22以下であることがより好ましく、0.09以上0.21以下であることが特に好ましい。yが上記値、特に0.1以上0.2以下の値であると、低温における電気伝導度が特に高くなる。
上記式(4)、(5)において、yは0.06以上0.14以下であることが好ましく、0.08以上0.12以下であることがより好ましく、0.09以上0.11以下であることが特に好ましい。yが上記値、特に0.10に近い値であると、低温における電気伝導度が特に高くなる。
上記式(6)において、yは0.16以上0.24以下であることが好ましく、0.18以上0.22以下であることがより好ましく、0.19以上0.21以下であることが特に好ましい。yが上記値、特に0.20に近い値であると、低温における電気伝導度が特に高くなる。
上記式(7)において、yは0.11以上0.19以下であることが好ましく、0.13以上0.17以下であることがより好ましく、0.14以上0.16以下であることが特に好ましい。yが上記値、特に0.15に近い値であると、低温における電気伝導度が特に高くなる。
【0027】
また、Ba3W(1-x)V(1+x)O(8.5+z) ・・・(8)
[式(8)中、xは-0.8以上で0.2以下であることが好ましく、-0.64以上で-0.56以下であることがより好ましく、-0.62以上で-0.58以下であることがより好ましく、-0.61以上で-0.59以下であることがより好ましい。xが特に-0.60に近い値であると、低温における電気伝導度が特に高くなる。zは酸素の不定比性であり-1.0以上で1.0以下の数値を表す。]を満たしていることも好ましい。
Ba3Mo(1-x)Ti(1+x)O(8+z) ・・・(9)
[式(9)中、xは-0.3以上で0.1以下であることが好ましく、-0.14以上で-0.06以下であることがより好ましく、-0.12以上で-0.08以下であることがより好ましく、-0.11以上で-0.09以下であることがより好ましい。xが特に-0.10に近い値であると、低温における電気伝導度が特に高くなる。zは酸素の不定比性であり-0.1以上で0.3以下の数値を表す。]を満たしていることも好ましい。
また、Ba7Ca2Mn5O(20+z) ・・・(10)
[式(10)中、zは酸素の不定比性であり-1.0以上で1.0以下の数値を表す。]を満たしていることも好ましい。
また、Ba2.6Ca2.4La4Mn4O(19+z) ・・・(11)
[式(11)中、zは酸素の不定比性であり-1.0以上で1.0以下の数値を表す。]を満たしていることも好ましい。
また、La2Ca2MnO(7+z) ・・・(12)
[式(12)中、zは酸素の不定比性であり-1.0以上で1.0以下の数値を表す。]を満たしていることも好ましい。
また、Ba5M2Al2ZrO(13+z) ・・・(13)
[式(13)中、MはGd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb又はLuのいずれかを示す。zは酸素の不定比性であり-1.0以上で1.0以下の数値を表す。]を満たしていることも好ましい。
【0028】
本実施形態の固体電解質の六方ペロブスカイト関連化合物のうち、好ましいものとしては、例えば、従来知られたBa7Nb4MoO20に対して、Mo/Nb比を増やしたものが挙げられる。すなわち、前記一般式(3)におけるxを、Mo過剰量xとした場合、xが正の値であること、具体的には0.01以上で0.50以下の値であることが好ましく、0.01以上で0.34以下の値であることもさらに好ましく、0.18以上0.22以下であることがより好ましく、0.19以上0.21以下であることが特に好ましい。具体的には、Ba7Nb4MoO20に対してMo過剰量xが0.20の場合、特に高い電気伝導度が得られる。
また、前記Mo過剰量xは-1.1以上で1.1以下の範囲内で、使用する原料や調整工程によって、製造しやすい量を適宜調整することもできる。例えば、前記過剰量xは0.01以上で0.20以下の値であってもよく、0.09以上0.11以下であってもよく、これらの値でも高い伝導度が得られる。また、例えば、Ba7Nb4MoO20に対してMo過剰量xが0.10である場合も、高い伝導度が得られる。
また、上記式(1)~(13)からBa3W(1-x)V(1+x)O(8.5+z)(x=-0.75、-0.60、-0.50、-0.40、-0.25、-0.10、-0.05、0.0、0.05、0.10)およびBa2.6Ca1.4La4Mn4O19を除くものから選択されてもよい。
【0029】
また、本実施形態における六方ペロブスカイト関連化合物の格子定数のa軸長、b軸長、c軸長(Å)、α角、β角、γ角(o)がそれぞれ、式(2)~(7)について5.35<a<6.56、5.35<b<6.56、15.14<c<18.52、89<α<91、89<β<91、119<γ<121、式(8)について5.23<a<6.4、5.23<b<6.4、18.96<c<23.19、89<α<91、89<β<91、119<γ<121、式(9)について5.34<a<6.54、5.34<b<6.54、19.12<c<23.39、89<α<91、89<β<91、119<γ<121、式(10)について5.23<a<6.41、5.23<b<6.41、46.23<c<56.51、89<α<91、89<β<91、119<γ<121、式(11)について8.85<a<10.83、5.11<b<6.26、14.07<c<17.21、89<α<91、100<β<104、89<γ<91、式(12)について5.05<a<6.19、5.05<b<6.19、15.57<c<19.03、89<α<91、89<β<91、119<γ<121、式(13)について5.35<a<6.55、5.35<b<6.55、22.23<c<27.18、89<α<91、89<β<91、119<γ<121の数値範囲内にあることが好ましい。ここで格子定数は、本実施形態の単位格子の形と大きさを規定する定数である。αはb軸とc軸、βはa軸とc軸、γはa軸とb軸がなす角度である。格子定数は、本実施形態ではXRD(X線回折)パターンを用いて得ることができる。また、格子定数の理論的に取り得る値については、密度汎関数理論(DFT)計算による構造最適化によっても得ることができる。
この格子定数を有する化合物は、低温における電気伝導度が高いという効果が得られる。
【0030】
本実施形態において、上述の各条件を有する化合物は、酸化物イオン(O2-)伝導体あるいは固体電解質として用いる場合に、有効な電気伝導度(酸化物イオン伝導度)が得られることを想定している。酸化物イオン(O2-)伝導体とは、酸化物イオンの伝導(移動)により電気が伝導する化合物である。また、本実施形態の化合物を用いた固体電解質は、300~1200℃の温度条件で用いることが好ましく、300~1000℃の温度条件で用いることがより好ましく、300℃以上700℃未満で用いることがさらに好ましく、300~600℃で用いることが特に好ましい。この温度条件で用いることで、従来のSOFCよりも低温で動作させることができるため、動作に必要な装置や配置等の制約が少なく、広い応用範囲が得られる。
なお、本実施形態の化合物を用いた固体電解質は、従来のSOFCのような600℃を超える温度で動作させることも可能である。
【0031】
約300℃において本実施形態の固体電解質の電気伝導度を測定したとき、lоg[σ(Scm-1)]で表される電気伝導度が-7以上であることが好ましく、-5.0よりも高いことがより好ましく、-3.5以上であることが特に好ましい。300℃における電気伝導度が充分に高いことで、低温において高い電気伝導度を有し、低温で作動する電池その他の装置に特に好適に用いることができる。
【0032】
(固体電解質層)
また、本実施形態の固体電解質は、層状に形成し、または層状の構造に含まれるよう形成して、固体電解質層として用いることができる。固体電解質層は、本実施形態の固体電解質以外にも他のイオン伝導体等を含んでいてもよい。本実施形態の固体電解質を用いた電池等が有効な電気伝導度を発揮し、また、特に後述の低温作動電池として有効に動作させるためには、例えば固体電解質層の50質量%以上、好ましくは70質量%以上、本実施形態の六方ペロブスカイト関連化合物を含む固体電解質を含有することが好ましい。
【0033】
(固体電解質又は固体電解質層を含む電池)
本実施形態の固体電解質、またはこの固体電解質を含む電解質層は、これを含む電池に用いることができる。本実施形態の固体電解質は、このうち上述したように固体酸化物形燃料電池(SOFC)に特に好適に用いることができる。
【0034】
なお、本実施形態におけるSOFCとは、電池を構成する電極や電解質が全て固体で形成されている電池をいう。特に、電極間のイオン伝導が酸化物イオンであるものであってもよい。
【0035】
本実施形態における固体電解質、またはこの固体電解質を含む電解質層を用いた電池は、低温作動電池に特に好適に用いることができる。低温作動電池は、本実施形態においては前述したように300~1200℃、好ましくは300~1000℃、より好ましくは300以上700℃未満、特に好ましくは300~600℃で動作する電池である。
【0036】
本実施形態における電池は、例えば、陽極、陰極およびこれらの間に介在している上述の固体電解質層を含む。陰極と固体電解質は一体化した陰極-固体電解質層接合体を形成していてもよい。
【0037】
(固体電解質の他の用途)
従来、ペロブスカイト関連化合物及びそれを含む固体電解質は、高いイオン伝導度を示すことから、電池、センサ、イオン濃縮器、イオン分離や透過等に用いる膜、及び触媒等にも幅広く応用されているが、本実施形態の固体電解質は、これらと同様に応用することができる。例えば、本実施形態の固体電解質は、前述した固体酸化物形燃料電池(SOFC)の他、その他の電池、センサ、電極、電解質、酸素濃縮器、酸素分離膜、酸素透過膜、酸素ポンプ、触媒、光触媒、電気・電子・通信機器、エネルギー・環境関連用機器または光学機器等に用いることができる。
【0038】
上述した本実施形態の固体電解質層は、固体酸化物形燃料電池(SOFC)、センサ、酸素濃縮器、酸素分離膜、酸素透過膜または酸素ポンプ等に用いることができる。
【0039】
本実施形態の固体電解質は、例えばセンサとしては、ガスセンサ等の電解質に用いることができる。電解質上に検知したいガスに応じた感応電極を取り付けることにより、ガスセンサまたはガス検知器等を構成できる。たとえば、炭酸塩を含む感応電極を用いた場合に炭酸ガスセンサ、硝酸塩を含む感応電極を用いた場合にNOxセンサ、硫酸塩を含む感応電極を用いた場合にSOxセンサが得られる。また、電解セルを組むことにより、排ガス中に含まれるNOxおよび/またはSOx等の捕集装置または分解装置を構成できる。
【0040】
本実施形態の固体電解質または、イオン等の吸着剤または吸着分離剤、または各種触媒等として用いることができる。
本実施形態の固体電解質はまた、イオン伝導体中の各種希土類が発光中心(カラーセンター)を形成する賦活剤として作用する場合がある。この場合、波長変更材料等として用いることができる。
本実施形態の固体電解質はまた、電子キャリアまたは正孔キャリアをドープすることにより、超伝導体になる場合がある。
【0041】
本実施形態の固体電解質はまた、固体電解質をイオン伝導体とし、その表面に伝導イオンの挿入・脱離によって着色または変色する無機化合物等を付着させ、さらにその上にITO等の透光性電極を形成することにより、全固体型エレクトロクロミック素子を作製することも可能である。この全固体型エレクトロクロミック素子を用いることにより、消費電力が抑制された、メモリー特性を有するエレクトロクロミックディスプレイを提供することができる。
【実施例】
【0042】
(試料合成)
(試験例1~21)
表1の試験例1~21の「組成」に示す化合物を固相反応法により作製した。なお表1の組成では、Baの酸化数を+2、Nbの酸化数を+5、Moの酸化数を+6、酸素Oの酸化数を-2、Wの酸化数を+6、Vの酸化数を+5、Crの酸化数を+6、Geの酸化数を+4、Siの酸化数を+4、Zrの酸化数を+4と仮定して、電気的中性条件から計算した酸素量を示しているが、酸素の不定比性zは陽イオンのモル比、温度、酸素分圧、合成法および熱履歴等に依存するため、酸素量(20+z)は表記された数値の限りではない。出発原料としては、BaCO3、Nb2O5、MoO3、WO3、V2O5、Cr2O3、GeO2、SiO2、ZrO2を使用した。あらかじめ出発原料を電気炉にて250~300℃で12時間乾燥させた後、陽イオンのモル比が目的の化学組成になるように電子天秤で秤量した。メノウ乳鉢を用いて、乾式の混合磨砕、およびエタノールを用いた湿式の混合磨砕を、繰り返し30分~2時間行った。得られた混合物を、電気炉を用い、大気下900℃で10~12時間仮焼した。仮焼した混合物を、メノウ乳鉢にてエタノールを用いた湿式の混合磨砕、乾式の混合磨砕を、30分~2時間の間繰り返し行った。一軸プレス機を用いて62~150MPaで加圧することで、混合物を直径10~20mmの円筒状のペレットに成型した。得られたペレットを電気炉に入れ、大気下にて1100℃で24時間焼結した。その結果、焼結体であるペレットを得た。得られた化合物の生成相をX線回折(XRD)により評価するため、焼結体の一部をタングステンカーバイド(WC)製の粉砕器で20分粉砕後、メノウ乳鉢で30分~1時間磨砕した。
【0043】
試験例1及び6の組成を有する化合物については、焼結前に一度静水圧を加える手段によって高密度のサンプルを調整した。一方、焼結前に静水圧の処理を行わずに焼結した試料を低密度サンプルと呼ぶ。各サンプルの理論密度を5.85g/cm3として、以下の相対密度=100×(密度)/(理論密度)%を計算した。
試験例1の高密度サンプルは密度5.2725g/cm3、相対密度は90.1%であった。
試験例1の低密度サンプルは密度3.9659g/cm3、相対密度は67.8%であった。
試験例6の高密度サンプルは密度5.5951g/cm3、相対密度は95.6%であった。
試験例6の低密度サンプルは密度3.9165g/cm3、相対密度は66.9%であった。
【0044】
各試験例について、回折装置Bruker D8によりXRD測定を行った。得られたXRDパターンに対してDICVOL06を用いて指数付けを行い、格子定数を求めた。試験例1のXRDパターンを
図1に示す。
【0045】
試験例2~21についてもXRD測定を行った結果をそれぞれ
図2~21に示す。得られたXRDパターンから格子定数を求めた。試験例1~21の格子定数(a、b、c、α、β、γ)、格子体積Vを表1に示した。
【0046】
【0047】
(全電気伝導度測定)
試験例21を除く表1の各試験例の電気伝導度を、直流四端子法により測定した。ボールミルを使用して上述の(試料合成)において調製した試料の粒径を小さくした後、一軸加圧により5mmφのペレットに成型し、焼結して、伝導度測定用試料を作製した。直流四端子法による全電気伝導度測定用の焼結体に四本の白金線を巻きつけ、サンプルと白金線を密着させるために白金線上に白金ペーストを塗った。白金もしくは金ペーストに含まれる有機物成分を取り除くために、900℃で1時間加熱した。各試験例について測定した電気伝導度を表2~9に示す。なお表2~9の組成では、Baの酸化数を+2、Nbの酸化数を+5、Moの酸化数を+6、酸素Oの酸化数を-2、Wの酸化数を+6、Vの酸化数を+5、Crの酸化数を+6、Geの酸化数を+4、Siの酸化数を+4、Zrの酸化数を+4と仮定して、電気的中性条件から計算した酸素量を示しているが、酸素の不定比性zは陽イオンのモル比、温度、酸素分圧、合成法および熱履歴等に依存するため、酸素量(20+z)は表記された数値の限りではない。
【0048】
【0049】
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
【0054】
【0055】
【0056】
表2~9より、試験例2~20のいずれについても、280~909℃の温度範囲におけるlоg[σ(Scm
-1)]で表される電気伝導度が-7.0~-1.0の範囲内となっている。300℃における電気伝導度または上記データおよび
図22~26により外挿により求めたとき、lоg[σ(Scm
-1)]で表される電気伝導度は、試験例2~20では-6.2以上である。このため、試験例2~20のいずれについても、低温において高い電気伝導度を得ることができる。また、前記300℃における電気伝導度は、試験例2、3、5、6(高密度)、8~11、16及び20では-5.0よりも高い。すべての試験例のうち上述の300℃付近における電気伝導度が最も高い試験例は、試験例6であり、280℃における電気伝導度lоg[σ(Scm
-1)]の値は-3.7である。なお、試験例21については、電気伝導度は測定していないが、試験例20のBa
7Nb
4.05Mo
0.95O
19.975と同様に電気(イオン)伝導を示すと考えられる。
【0057】
従来用いられていたYSZ(比較例1)、試験例1(Ba
7Nb
4MoO
20)(高密度)、および試験例6(Ba
7Nb
3.9Mo
1.1O
20.05)(高密度)の各電気伝導度σについて、log[σ(Scm
-1)]を縦軸、表の温度から求めた絶対温度Tについて1000T
-1/K
-1を横軸にプロットしたグラフ(アレニウスプロット)を
図22に示す。
図22より、電気伝導度は温度が上昇するにつれて上昇している。600℃において、試験例1のBa7Nb4MoO20の電気伝導度に比べて、Mo過剰量xを0.10にした試験例6の電気伝導度σは5.5倍高く、Mo量を過剰にすることにより電気伝導度が向上することがわかった。
従来の試験例1は、600℃においてlog[σ(Scm
-1)]=-2.7程度となる。Mo過剰量xを0.10にした試験例6は、590℃またはそれ以下の温度においてlog[σ(Scm
-1)]がYSZ、試験例1のいずれよりも高く、従来用いられていた電解質よりも電気伝導度が高いことが示された。
【0058】
また、一般式(7)におけるMo過剰量xを0.02~0.10にしたBa
7Nb
4MoO
20の電気伝導度のアレニウスプロットを
図23、Mo過剰量xを0.10~0.18にしたBa
7Nb
4MoO
20の電気伝導度のアレニウスプロットを
図24に示す。
図23及び24には比較のため、本実施例の試験例のMo過剰量xが0.0であるBa
7Nb
4MoO
20の電気伝導度も示す。上述の試験例1(高密度、低密度)、2、3、4、5、6(高密度、低密度)、7、8、9および10が、それぞれMo過剰量x(一般式(7)のBa
7Nb
(4-x)Mo
(1+x)O
(20+z)におけるx)が0(高密度、低密度)、0.02、0.04、0.06、0.08、0.10(高密度、低密度)、0.12、0.14、0.16および0.18のサンプルに相当する。
高密度サンプルの試験例1(x=0)および試験例6(x=0.10)の電気伝導度は、いずれの温度でも低密度のサンプルよりも高い。
Mo過剰量xが0.02~0.18の範囲のサンプル(試験例2~10)のいずれも、xが0のBa
7Nb
4MoO
20(試験例1)の低密度のサンプルよりも、高い電気伝導度を示す。Mo過剰量xが0.10の高密度サンプルの電気伝導度が最も高く、およそ300℃の低温でも高い電気伝導度が維持されている。
【0059】
また、W、V(Moの一部を置換)、V(Nbの一部を置換)、Cr、Si、Ge、Zrのドープ量yを0.1にしたBa
7Nb
4MoO
20(一般式(4)~(7)のy=0.10)の電気伝導度のアレニウスプロットを
図25に示す。上述の試験例11、12、13、14、17、18および19が、それぞれW(Nbの一部を置換)、V(Moの一部を置換)、V、Cr、Ge、SiおよびZr(Nbの一部を置換)をドープした化合物の結果に相当する。これらの化合物のうち、プロットした温度域の全てにおいて、Wをドープした化合物の電気伝導度が最も高い。その他の試験例では、高温ではCr及びV(Moの一部を置換)をドープした化合物の電気伝導度が高いが、1000T
-1/K
-1が1.4以上、すなわちおよそ441℃以下の低温になると、Siをドープした化合物の電気伝導度が高くなる。
【0060】
また、Crのドープ量yを0.10~0.30にしたBa
7Nb
4MoO
20(一般式(10)におけるy=0.10~0.30のBa
7Nb
(4-y)MоCr
yO
(20+z))の電気伝導度のアレニウスプロットを
図26に示す。上述の試験例14、15、16が、それぞれドープ量yが0.10、0.20、0.30のサンプルに相当する。Crのドープ量yを0.10~0.30にしたBa
7Nb
4MoO
20(y=0.10~0.30)の電気伝導度は、Ba
7Nb
4MoO
20に比べて、800℃以下で高くなる。
【0061】
(全電気伝導度の酸素分圧依存性)
試験例1については、全電気伝導度の酸素分圧依存性を測定した。サンプルは上述の(全電気伝導度測定)と同様に準備した。また酸素O2ガス、窒素N2ガス、N2/H2混合ガスを用いて酸素分圧を制御した。
【0062】
酸素分圧範囲3.5×10-25~0.2atm、900℃で全電気伝導度の酸素分圧依存性を測定した。装置下流に設置した酸素センサーを用いて酸素分圧をモニターした。N2/H2混合ガスを窒素ガスに少量混合することによって酸素分圧を制御した。
【0063】
横軸の酸素分圧log[P(O
2)/atm]に対して、測定した電気伝導度log[σ(Scm
-1)]を縦軸にプロットしたグラフを
図27に示す。全電気伝導度が酸素分圧に依存せずほぼ一定な値をとることから、試験例1の化合物の電気伝導において酸化物イオンが支配的なキャリアであることが強く示唆された。類似の結晶構造を持つ試験例2~21についても同様に酸化物イオンを支配的なキャリアとする化合物であると考えられる。
【0064】
(酸化物イオンの輸率評価)
試験例6については、酸化物イオン輸率を決定するため、空気ガスとN2/O2混合ガスを用いた酸素濃淡電池による起電力測定を行った。ボールミルを使用して上述の(試料合成)で調製した試料の粒径を小さくした後、一軸加圧により25mmφのペレットに成型し、静水圧を加えた。1200℃で12時間焼結して、起電力測定用の試験例6の高密度のサンプルを調整した。サンプルの表面をダイヤモンドスラリーで削り、滑らかにした。試験例6のペレットの相対密度は96.0%であった。ペレットの中心に直径約10mmのPtペーストを塗り、白金ペーストに含まれる有機物成分を除くために、1000℃で1時間加熱した。白金ペーストと白金電極を瞬間接着剤で接着し、アルミナ管とガラスシール、サンプルも瞬間接着剤でそれぞれ接着し、白金電極を取り付けた。測定に用いる押さえにはアルミナ製の留め具を用いた。ガラスシール密着のために1000℃で1時間加熱したのち、酸素濃淡電池による起電力測定により、800℃と900℃で試験例6の酸化物イオンの輸率を求めた。
【0065】
温度800℃と900℃での試験例6の酸素濃淡電池の起電力測定の結果について起電力/mVを縦軸、酸素分圧log[P(O
2)/atm]について横軸にプロットした結果をそれぞれ
図28と
図29に示した。実測値は、理論値に近い起電力が得られ、特に900℃における酸化物イオンの輸率は94%であり、試験例6の化合物の電気伝導において酸化物イオンが支配的なキャリアであること、および試験例6の化合物が酸化物イオン伝導体であることが示された。類似の結晶構造を持つ試験例1~5および7~21についても同様の輸率を示すと考えられる。
【0066】
(密度汎関数理論計算による構造最適化)
密度汎関数理論に基づく構造最適化計算をBa7Nb3MоMO20について実施した。ここで、MはAg、Al、At、Au、Be、Bi、Br、Ca、Cd、Ce、Co、Cr、Cu、Dy、Er、Eu、Fe、Ga、Gd、Ge、Hf、Hg、Ho、I、In、Ir、La、Li、Lu、Mg、Mn、Mo、Na、Nb、Nd、Ni、Np、Os、P、Pb、Pd、Po、Pr、Pt、Pu、Re、Rh、Ru、S、Sb、Sc、Se、Si、Sm、Sn、Sr、Ta、Tb、Tc、Te、Ti、Tl、Tm、U、V、W、Xe、Y、Yb、ZnおよびZrからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素の陽イオンである。また、構造最適化計算をBa7Nb3Mо2O20について実施した。プログラムVASPを利用して一般化勾配化近似とPBE汎関数を用いた密度汎関数理論計算を行った。表10~12および33~36に構造最適化により得られた格子定数の結果を示す。いずれの組成も最適化した構造は元の六方ペロブスカイト関連化合物の結晶構造を保っており、これらの組成を合成できる可能性を示している。これらの組成も酸化物イオン伝導を示すと考えられる。
【0067】
【0068】
【0069】
【0070】
(試験例22~83)
表13に示す試験例22~41、表14に示す試験例42~61、表15に示す試験例62~83の「組成」に示す化合物を、以下の手順に従い作製した。なお表13~15の組成では、Baの酸化数を+2、Nbの酸化数を+5、Moの酸化数を+6、酸素Oの酸化数を-2、Wの酸化数を+6、Vの酸化数を+5、Crの酸化数を+6、Geの酸化数を+4、Siの酸化数を+4、Zrの酸化数を+4、Tiの酸化数を+4、Alの酸化数を+3、Gdの酸化数を+3、Dyの酸化数を+3、Erの酸化数を+3、Hoの酸化数を+3、Tmの酸化数を+3、Ybの酸化数を+3、Luの酸化数を+3と仮定して、電気的中性条件から計算した酸素量を示しているが、酸素の不定比性zは陽イオンのモル比、温度、酸素分圧、合成法および熱履歴等に依存するため、酸素量(20+z)は表記された数値の限りではない。
(試験例22~58と81~83)
表13の試験例22~41、表14の試験例42~58、表15の試験例81~83の「組成」に示す化合物を固相反応法により作製した。出発原料としては、BaCO3、Nb2O5、MoO3、WO3、V2O5、Cr2O3、MnO2、GeO2、SiO2、ZrO2を使用した。あらかじめ出発原料を電気炉にて250~300℃で12時間乾燥させた後、陽イオンのモル比が目的の化学組成になるように電子天秤で秤量した。メノウ乳鉢を用いて、乾式の混合磨砕、およびエタノールを用いた湿式の混合磨砕を、繰り返し30分~2時間行った。得られた混合物を、電気炉を用い、大気下900℃で10~12時間仮焼した。仮焼した混合物について、メノウ乳鉢にて、乾式の混合磨砕、およびエタノールを用いた湿式の混合磨砕を、30分~2時間繰り返し行った。一軸プレス機を用いて62~150MPaで加圧することで、混合物を直径10~20mmの円筒状のペレットに成型した。得られたペレットを電気炉に入れ、大気下にて1100℃で24時間焼結した。その結果、焼結体であるペレットを得た。得られた化合物の生成相をX線回折(XRD)により評価するため、焼結体の一部をタングステンカーバイド(WC)製の粉砕器で約20分粉砕後、メノウ乳鉢で30分~1時間磨砕した。
【0071】
(試験例59~67)
表14の試験例59~61と表15の試験例62~67の「組成」に示す化合物を固相反応法により作製した。出発原料としては、BaCO3、WO3、V2O5を使用した。あらかじめ出発原料を電気炉にて300℃で12時間乾燥させた後、陽イオンのモル比が目的の化学組成になるように電子天秤で秤量した。メノウ乳鉢を用いて、乾式の混合磨砕、およびエタノールを用いた湿式の混合磨砕を、繰り返し1時間行った。得られた混合物を、電気炉を用い、大気下950℃で15時間仮焼した。仮焼した混合物を、メノウ乳鉢にて乾式とエタノールを用いた湿式で、1時間繰り返し混合磨砕した。一軸プレス機を用いて150MPaで加圧することで、混合物を直径10mmの円筒状のペレットに成型した。得られたペレットを電気炉に入れ、大気下にて1020℃で24時間焼結した。その結果、焼結体であるペレットを得た。得られた焼結体を用いて電気伝導度を測定した。得られた化合物の生成相をX線回折(XRD)により評価するため、焼結体の一部をタングステンカーバイド(WC)製の粉砕器で約20分粉砕後、メノウ乳鉢で約1時間磨砕した。
【0072】
(試験例68~70)
表15の試験例68~70の「組成」に示す化合物を固相反応法により作製した。出発原料としては、BaCO3、TiO2、MoO3を使用した。あらかじめ出発原料を電気炉にて250~300℃で12時間乾燥させた後、陽イオンのモル比が目的の化学組成になるように電子天秤で秤量した。メノウ乳鉢を用いて、乾式の混合磨砕、およびエタノールを用いた湿式の混合磨砕を、繰り返し30分行った。得られた混合物を、電気炉を用い、大気下900℃で12時間仮焼した。仮焼した混合物を、メノウ乳鉢にて、乾式とエタノールを用いた湿式で約1時間繰り返し混合磨砕した。一軸プレス機を用いて150MPaで加圧することで、混合物を直径20mmの円筒状のペレットに成型した。得られたペレットを電気炉に入れ、大気下にて1100℃で24時間焼結した。得られた焼結体をタングステンカーバイド(WC)製の粉砕器で20分粉砕後、メノウ乳鉢で約1時間磨砕した。一軸プレス機を用いて150MPaで加圧することで、混合物を直径5mmの円筒状のペレットに成型した。得られたペレットを電気炉に入れ、大気下にて1100℃で12時間焼結した。その結果、焼結体であるペレットを得た。得られた焼結体を用いて電気伝導度を測定した。得られた化合物の生成相をX線回折(XRD)により評価するため、焼結体の一部をタングステンカーバイド(WC)製の粉砕器で20分粉砕後、メノウ乳鉢で約1時間磨砕した。
【0073】
(試験例71)
表15の試験例71の「組成」に示す化合物を固相反応法により作製した。出発原料としては、BaCO3、MnO2、CaCO3を使用した。あらかじめ出発原料を電気炉にて250~300℃で12時間乾燥させた後、陽イオンのモル比が目的の化学組成になるように電子天秤で秤量した。メノウ乳鉢を用いて、乾式の混合磨砕、およびエタノールを用いた湿式の混合磨砕を、繰り返し約1時間行った。得られた混合物を、電気炉を用い、大気下900℃で12時間仮焼した。仮焼した混合物を、メノウ乳鉢にて、乾式の混合磨砕、およびエタノールを用いた湿式の混合磨砕を、30分間繰り返し行った。一軸プレス機を用いて150MPaで加圧することで、混合物を直径20mmの円筒状のペレットに成型した。得られたペレットを電気炉に入れ、大気下にて1200℃で12時間焼結した。得られた焼結体をタングステンカーバイド(WC)製の粉砕器で20分粉砕後、メノウ乳鉢で約1時間磨砕した。一軸プレス機を用いて150MPaで加圧することで、混合物を直径5mmの円筒状のペレットに成型した。得られたペレットを電気炉に入れ、大気下にて1400℃で24時間焼結した。その結果、焼結体であるペレットを得た。得られた焼結体を用いて電気伝導度を測定した。得られた化合物の生成相をX線回折(XRD)により評価するため、焼結体の一部をタングステンカーバイド(WC)製の粉砕器で20分粉砕後、メノウ乳鉢で約1時間磨砕した。
【0074】
(試験例72)
表15の試験例72の「組成」に示す化合物を固相反応法により作製した。出発原料としては、BaCO3、MnO2、La2O3、CaCO3を使用した。あらかじめ出発原料を電気炉にて250~300℃で12時間乾燥させた後、陽イオンのモル比が目的の化学組成になるように電子天秤で秤量した。メノウ乳鉢を用いて、乾式の混合磨砕、およびエタノールを用いた湿式の混合磨砕を、繰り返し約1時間行った。得られた混合物を、電気炉を用い、大気下900℃で10時間仮焼した。仮焼した混合物を、メノウ乳鉢にて乾式およびエタノールを用いた湿式で、約1時間繰り返し混合磨砕した。一軸プレス機を用いて150MPaで加圧することで、混合物を直径5mmの円筒状のペレットに成型した。得られたペレットを電気炉に入れ、大気下にて1200℃で12時間焼結した。得られた焼結体をタングステンカーバイド(WC)製の粉砕器で20分粉砕後、メノウ乳鉢で約1時間磨砕した。一軸プレス機を用いて150MPaで加圧することで、混合物を直径5mmの円筒状のペレットに成型した。得られたペレットを電気炉に入れ、大気下にて1200℃で12時間焼結した。その結果、焼結体であるペレットを得た。得られた焼結体を用いて電気伝導度を測定した。得られた化合物の生成相をX線回折(XRD)により評価するため、焼結体の一部をタングステンカーバイド(WC)製の粉砕器で20分粉砕後、メノウ乳鉢で約1時間磨砕した。
【0075】
(試験例73)
表15の試験例73の「組成」に示す化合物を固相反応法により作製した。出発原料としては、La2O3、MnO2、CaCO3を使用した。あらかじめ出発原料を電気炉にて250~300℃で12時間乾燥させた後、陽イオンのモル比が目的の化学組成になるように電子天秤で秤量した。メノウ乳鉢を用いて乾式の混合磨砕、およびエタノールを用いた湿式の混合磨砕を、繰り返し約1時間分行った。得られた混合物を、電気炉を用い、大気下900℃で12時間仮焼した。仮焼した混合物を、メノウ乳鉢にて、乾式とエタノールを用いた湿式で約1時間繰り返し混合磨砕した。一軸プレス機を用いて150MPaで加圧することで、混合物を直径5mmの円筒状のペレットに成型した。得られたペレットを電気炉に入れ、大気下にて1200℃で12時間焼結した。その結果、焼結体であるペレットを得た。得られた化合物の生成相をX線回折(XRD)により評価するため、焼結体の一部をタングステンカーバイド(WC)製の粉砕器で20分粉砕後、メノウ乳鉢で約1時間磨砕した。この化合物も試験例1~21の化合物と類似の結晶構造を持つため、酸化物イオン伝導性をもつと考えられる。
【0076】
(試験例74~80)
表15の試験例74~80の「組成」に示す化合物を固相反応法により作製した。出発原料としては、BaCO3、Al2O3、ZrO2、Gd2O3、Dy2O3、Ho2O3、Er2O3、Tm2O3、Yb2O3、Lu2O3を使用した。あらかじめ出発原料を電気炉にて300℃で12時間乾燥させた後、陽イオンのモル比が目的の化学組成になるように電子天秤で秤量した。メノウ乳鉢を用いて、乾式の混合磨砕、およびエタノールを用いた湿式の混合磨砕を、繰り返し30分行った。得られた混合物を、電気炉を用い、大気下900℃で10時間仮焼した。仮焼した混合物を、メノウ乳鉢にて、乾式で30分間混合磨砕した。一軸プレス機を用いて約50MPaで加圧することで、混合物を直径20mmの円筒状のペレットに成型した。得られたペレットを電気炉に入れ、大気下にて1600℃で12時間焼結し、焼結体を得た。得られた焼結体を用いて電気伝導度を測定した。得られた化合物の生成相をX線回折(XRD)により評価するため、焼結体の一部をタングステンカーバイド(WC)製の粉砕器で20分粉砕後、メノウ乳鉢で約30分磨砕した。
各表には、試験例22~83の格子定数及び格子体積Vも示した。また、一部試験例については全電気伝導度の温度依存性から見積もった伝導度の活性化エネルギーEa(eV)も示した。なお、900℃における試験例27の輸率は100%であった。
【0077】
図30に、試験例22で用いたBa
7Nb
4MoO
20の結晶構造を示す。この図では、空間群はP-3m1(No.164)、格子定数はa=b=5.8602Å、c=16.5311Åである。Ba
7Nb
4MoO
20系材料である試験例23~58および81~83も類似した結晶構造を有する。
図31と
図32は、Ba
7Nb
(4-x)Mo
(1+x)O
(20+z)のXRDパターンを示すグラフ図である。
図31にx=0、0.02、0.04、0.06、0.08、0.1、
図32にx=0.12、0.14、0.16、0.18、0.2、0.22、0.25、0.3、0.4、0.5の測定図を示している。Ba
7Nb
(4-x)Mo
(1+x)O
(20+z)の伝導度について、
図33にxの値ごとに温度依存性、
図34に温度の値ごとに組成依存性でプロットしている。
【0078】
図35は、試験例40~44と46で用いたBa
7Nb
(4-y)MоCr
yO
(20+z)のXRDパターンを示すグラフ図である。x=0.1、0.2、0.25、0.3、0.4、0.5の測定図を示している。Ba
7Nb
(4-x)Mo
(1+x)O
(20+z)の伝導度について、
図36に温度依存性でプロットしている。
【0079】
図37に、試験例22、40~44と46で用いたBa
7Nb
(4-y)MоCr
yO
(20+z)の伝導度について組成依存性でプロットしている。
【0080】
図38は、試験例52~58と81~83で用いたBa
7Nb
(4-y)MoW
yO
(20+z)のXRDパターンを示すグラフ図である。
図39に、Ba
7Nb
(4-y)MoW
yO
(20+z)の全電気伝導度について温度依存性で示す。
図40に、Ba
7Nb
(4-y)MoW
yO
(20+z)の全電気伝導度について組成依存性で示す。
【0081】
図41は、試験例38、39、45と47~51で用いた、その他固溶体として、Ba
7Nb
3.9MоM
0.1O
(20+z)(MはV、Mn、Ge、Si又はZr)、Ba
7Nb
4Mо
0.9M
0.1O
(20+z)(MはV又はMn)とBa
7Nb
4.05Mо
0.95O
(20+z)のXRDパターンを示すグラフ図である。
図42に、上記試験例38、39と47~50で用いた固溶体の電気伝導度を温度依存性で示す。
【0082】
図43に、試験例59~67で用いたBa
3WVO
8.5系の材料の結晶構造を示す。現在このBa
3WVO
8.5系は(a)の結晶構造を持つとされているが、解析結果より図(b)および(c)の結晶構造が提案されている。これらの図では、空間群はR-3m(No.166)、格子定数はa=b=5.808130(19)Å、c=21.094919(21)Åである。
図44は、Ba
3W
(1-x)V
(1+x)O
(8.5+z)のXRDパターンを示すグラフ図である。
図45に、電気伝導度について温度依存性で示す。
図46に電気伝導度について組成依存性で示す。電気伝導度は温度が上昇するにつれて上昇している。600℃において、試験例59のBa
3WVO
8.5の電気伝導度に比べて、試験例66のBa
3W
1.6V
0.4O
8.8の電気伝導度σは85倍高く、W量を過剰にすることにより電気伝導度が向上することがわかった。同じBa
3WVO
8.5系の材料である試験例59~65および67についても同様の事が考えられる。
【0083】
図47に、試験例66のBa
3W
1.6V
0.4O
8.8について、伝導度のP(O
2)依存性を示す。全電気伝導度が酸素分圧に依存せずほぼ一定の値をとる領域があることから、試験例66の化合物の電気伝導においてその領域内では酸化物イオンが支配的なキャリアであることが示唆される。
図48に、Ba
3W
1.6V
0.4O
8.8について、乾燥空気中での伝導度および湿潤空気中での伝導度を示す。試験例66に対する湿潤空気中および乾燥空気中の測定で全電気伝導度の変化が確認されなかったことから、試験例66においてプロトン伝導は起きていないことが強く示唆される。同じBa
3WVO
8.5系の材料である試験例59~65および67についても同様の事が考えられる.
【0084】
図49に、試験例68~70で用いたBa
3MoTiO
8系の材料の結晶構造を示す。この図では、空間群はR-3m(No.166)、格子定数はa=b=5.9548Å、c=21.2924Åである。
図50は、Ba
3Mo
(1-x)Ti
(1+x)O
(8+z)のXRDパターンを示すグラフ図である。
また、Ti過剰量xを-0.1および-0.2にしたBa
3Mo
1.1Ti
0.9O
8.1とBa
3Mo
1.2Ti
0.8O
8.2の電気伝導度の温度依存性を
図51に示す。本実施例の試験例のMo過剰量xが0.0であるBa
3MoTiO
8の電気伝導度の温度依存性も示す。Mo過剰量xが-0.1、-0.2の範囲のサンプルのいずれも、xが0.0のBa
3MoTiO
8(試験例68)のサンプルよりも、高い電気伝導度を示す。620℃以下では、Mo過剰量xが-0.1のサンプルの電気伝導度が最も高く、およそ300℃の低温でも高い電気伝導度が維持されている。
【0085】
(全電気伝導度の酸素分圧依存性)
試験例69については、全電気伝導度の酸素分圧依存性を測定した。横軸の酸素分圧log[P(O
2)/atm]に対して、測定した電気伝導度log[σ(Scm
-1)]を縦軸にプロットしたグラフを
図52に示す。全電気伝導度が酸素分圧に依存せずほぼ一定な値をとることから、試験例69の化合物の電気伝導において酸化物イオンが支配的なキャリアであることが強く示唆された。同じBa
3MoTiO
8系の材料である試験例68と70についても同様の事が考えられる.
【0086】
図53に、試験例71で用いたBa
7Ca
2Mn
5O
20系の材料の結晶構造を示す。この図では、空間群R-3m(No.166)、格子定数a=b=5.8195Å、c=51.3701Åである。
図54は、Ba
7Ca
2Mn
5O
20のXRDパターンを示すグラフ図である。
図55に、Ba
7Ca
2Mn
5O
20の全電気伝導度について温度依存性で示す。
【0087】
図56に、試験例72で用いたBa
2.6Ca
1.4La
4Mn
4O
19系の材料の結晶構造を示す。Ba
2.6Ca
1.4La
4Mn
4O
19の空間群はC2/m(No.12)、格子定数はa=9.8394Å、b=5.6823Å、c=15.6435Å、β=102.09°である。
図57は、Ba
2.6Ca
1.4La
4Mn
4O
19のXRDパターンを示すグラフ図である。
図58には、Ba
2.6Ca
1.4La
4Mn
4O
19の全電気伝導度を温度依存性で示す。
【0088】
図59に、試験例73で用いたLa
2Ca
2MnO
7系の材料の結晶構造を示す。この図では、空間群はR-3m(No.166)、格子定数はa=b=5.6200Å、c=17.2954Åである。
図60は、La
2Ca
2MnO
7のXRDパターンを示すグラフ図である。
【0089】
図61に、試験例74~80で用いたBa
5M
2Al
2ZrO
13系の材料の結晶構造を示す。この図では、空間群はP6
3/mmc(No.194)、格子定数はa=b=5.9629Å、c=24.7340Åである。
図62は、Ba
5M
2Al
2ZrO
13(MはGd、Dy、Er、Ho、Tm、Yb、Lu)のXRDパターンを示すグラフ図である。
図63には、大気中で測定した、Ba
5M
2Al
2ZrO
13の全電気伝導度を温度依存性で示す。試験例76については、乾燥空気中(Dry air)での全電気伝導度も温度依存性で示した。乾燥空気中で伝導度が低下したため、試験例76はプロトン伝導を示すことが示唆される。同じくBa
5M
2Al
2ZrO
13系材料である試験例74、75、77~80についても同様のことが考えられる。
【0090】
【0091】
【0092】
【0093】
試験例22~83のうち、電気伝導度を測定したものについての結果を表16~32に示す。なお表16~32の組成では、Baの酸化数を+2、Nbの酸化数を+5、Moの酸化数を+6、酸素Oの酸化数を-2、Wの酸化数を+6、Vの酸化数を+5、Crの酸化数を+6、Geの酸化数を+4、Siの酸化数を+4、Zrの酸化数を+4、Tiの酸化数を+4、Alの酸化数を+3、Gdの酸化数を+3、Dyの酸化数を+3、Erの酸化数を+3、Hoの酸化数を+3、Tmの酸化数を+3、Ybの酸化数を+3、Luの酸化数を+3と仮定して、電気的中性条件から計算した酸素量を示しているが、酸素の不定比性zは陽イオンのモル比、温度、酸素分圧、合成法および熱履歴等に依存するため、酸素量(20+z)は表記された数値の限りではない。
【0094】
【0095】
【0096】
【0097】
【0098】
【0099】
【0100】
【0101】
【0102】
【0103】
【0104】
【0105】
【0106】
【0107】
【0108】
【0109】
【0110】
【0111】
表16~32に示す試験例はいずれについても、280~909℃の温度範囲におけるlоg[σ(Scm-1)]で表される電気伝導度が-7.0~-1.0の範囲内となっている。このうち、例えば試験例32が306~606℃で-3.4~-2.0と低温で高い電気伝導度を示した。
【0112】
(計算例)
Ba7Nb4MoO20について、Nbの一部を他の元素に置換した構造を設計し、格子定数のa軸長、b軸長、c軸長(Å)、α角、β角、γ角(o)を計算で求めた。(試験例84~152、表33~36)
【0113】
【0114】
【0115】
【0116】
【0117】
試験例84~152の組成を有する化合物も、計算例によると、最適化した構造は元の六方ペロブスカイト関連化合物の結晶構造を保っており、これらの組成を合成できる可能性を示している。試験例1~83と同様に、これらの組成も固体電解質に用いることで、例えば低温における電気伝導度において優れた特性を示すと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明の固体電解質およびそれを用いた電解質層および電池によれば、低い温度領域においても高い電気伝導度を有する固体電解質、電解質層および電池が得られる。本発明の固体電解質はまた、固体酸化物形燃料電池、センサ、電池、電極、電解質、酸素濃縮器、酸素分離膜、酸素透過膜、酸素ポンプ、触媒、光触媒、電気・電子・通信機器、エネルギー・環境関連用機器または光学機器等に利用することができる。