(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-24
(45)【発行日】2024-05-07
(54)【発明の名称】めっき下地剤およびそれを用いた積層体
(51)【国際特許分類】
C23C 18/20 20060101AFI20240425BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20240425BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20240425BHJP
B32B 15/00 20060101ALI20240425BHJP
【FI】
C23C18/20 Z
B32B27/30
B32B27/36 102
B32B15/00
(21)【出願番号】P 2021537294
(86)(22)【出願日】2020-07-31
(86)【国際出願番号】 JP2020029510
(87)【国際公開番号】W WO2021024952
(87)【国際公開日】2021-02-11
【審査請求日】2023-01-10
(31)【優先権主張番号】P 2019144586
(32)【優先日】2019-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019144587
(32)【優先日】2019-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019144840
(32)【優先日】2019-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(72)【発明者】
【氏名】竹田 裕孝
(72)【発明者】
【氏名】森本 亮平
(72)【発明者】
【氏名】山田 千夏子
(72)【発明者】
【氏名】前田 幸史朗
【審査官】萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-108503(JP,A)
【文献】特開2017-210630(JP,A)
【文献】国際公開第2015/163258(WO,A1)
【文献】特開2016-011431(JP,A)
【文献】特開2013-000924(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 18/00-20/08
B32B 27/00-27/42
B32B 15/00-15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均径30~200nmおよび平均長1~50μmの金属ナノワイヤー
ならびにバインダー樹脂を含有するめっき下地剤であって、
前記バインダー樹脂がエステル結合含有ポリマーであり、
前記エステル結合含有ポリマーが下記のバインダー樹脂(A)~(C):
バインダー樹脂(A):親水基成分かつ(メタ)アクリル酸エステル成分を有するバインダー樹脂;
バインダー樹脂(B):共重合ポリエステル樹脂;
バインダー樹脂(C):ポリカーボネート樹脂
から選択される樹脂であり、
前記バインダー樹脂が前記バインダー樹脂(A)である場合、前記ナノワイヤーと前記バインダー樹脂(A)の質量比率(ナノワイヤー/バインダー樹脂(A))が0.2~3.0であり、
前記バインダー樹脂が前記バインダー樹脂(B)である場合、前記ナノワイヤーと前記バインダー樹脂(B)の質量比率(ナノワイヤー/バインダー樹脂(B))が0.3~4.0であり、
前記バインダー樹脂が前記バインダー樹脂(C)である場合、前記ナノワイヤーと前記バインダー樹脂(C)の質量比率(ナノワイヤー/バインダー樹脂(C))が0.3~4.0である、めっき下地剤。
【請求項2】
さらに媒体を含有する、請求項
1に記載のめっき下地剤。
【請求項3】
前記ナノワイヤーがニッケルナノワイヤーである、請求項1
または2に記載のめっき下地剤。
【請求項4】
前記バインダー樹脂がバインダー樹脂(A)としての親水基成分かつ(メタ)アクリル酸エステル成分を有するバインダー樹脂であり、
前記ナノワイヤーと前記バインダー樹脂(A)の質量比率(ナノワイヤー/バインダー樹脂(A))が0.5~2.0である、請求項1~
3のいずれかに記載のめっき下地剤。
【請求項5】
前記バインダー樹脂が、(メタ)アクリル酸エステルと(無水)マレイン酸を共重合成分として含む樹脂である、請求項
4に記載のめっき下地剤。
【請求項6】
さらにオキサゾリン化合物を含有する、請求項
4または
5に記載のめっき下地剤。
【請求項7】
前記バインダー樹脂がバインダー樹脂(B)としての共重合ポリエステル樹脂であり、
前記ナノワイヤーと前記バインダー樹脂(B)の質量比率(ナノワイヤー/バインダー樹脂(B))が1.0~3.0である、請求項1~
3のいずれかに記載のめっき下地剤。
【請求項8】
バインダー樹脂(B)が2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンおよび/またはそのアルキレンオキサイド付加体を共重合成分として含有する、請求項
7に記載のめっき下地剤。
【請求項9】
前記バインダー樹脂がバインダー樹脂(C)としてのポリカーボネート樹脂であり、
前記ナノワイヤーと前記バインダー樹脂(C)の質量比率(ナノワイヤー/バインダー樹脂(C))が1.0~3.0である、請求項1~
3のいずれかに記載のめっき下地剤。
【請求項10】
媒体として、水、トルエンとメチルエチルケトンの混合溶媒、またはジクロロメタンをさらに含有する、請求項1~
9のいずれかに記載のめっき下地剤。
【請求項11】
請求項1~
10のいずれかに記載のめっき下地剤を樹脂基材上にコーティングしてなる積層体。
【請求項12】
前記樹脂基材がポリカーボネート樹脂基材である、請求項
11に記載の積層体。
【請求項13】
請求項
11または
12に記載の積層体に無電解めっきを施した積層体。
【請求項14】
請求項
13に記載の積層体に電解めっきを施した積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、めっき下地剤およびそれを用いた積層体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
樹脂基材への金属めっき(以下、単に「めっき」と略称する場合がある。)は、例えば、自動車部品等の樹脂成形体への高級感や美観の付与や、電磁遮蔽や、プリント基板や大規模集積回路等の配線技術等に幅広く用いられている。
【0003】
めっきを施すためには、その前処理として、樹脂表面を脱脂し、クロム酸で微細な凹凸を設けて(エッチング)、中和洗浄し、スズ-パラジウムコロイドをエッチング部に吸着させ(キャタリスト)、酸で処理することでスズを溶出させ、金属パラジウムを生成させる(アクセレーター)ことが通常である。しかしながら、前記方法は、脱脂からアクセレーターに至るまでの前処理が非常に煩雑であるという問題があり、用いるクロム酸は環境負荷が高いという問題がある。
【0004】
上記問題を解決する方法としては、例えば、特許文献1および2に、クロム酸を用いずに基材表面に凹凸を付与する方法が開示されている。また、特許文献3および4には、アクセレーターの工程の代わりに、めっきの起点となる塗料をコーティングする方法が開示されている。
【0005】
また近年では、自動車用途を中心に耐熱および衝撃強度に優れるポリカーボネート樹脂基材へのめっきが検討されている。例えば、非特許文献1には、ポリカーボネート樹脂基材を改質し、エッチング適性を付与した後、めっきを施す方法が開示され、特許文献5には、樹脂表面に、特定の分子接着剤層を設けてめっきを施す方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2010-270389号公報
【文献】特開2016-113688号公報
【文献】特開2017-210630号公報
【文献】特開2017-197848号公報
【文献】特開2008-050541号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】実務表面技術33巻(1986年)12号 p.489-497
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1のオゾンを用いて基材表面に凹凸を付与する方法や、特許文献2のレーザーを用いて基材表面に凹凸を付与する方法は、環境負荷が大きいクロム酸を用いる必要がないものの、ピット状のアンカー孔を形成させるのが難しく、アンカー効果が弱く、密着性が劣るという問題があった。
【0009】
特許文献3や4における、バインダーを含む下地剤を塗布しめっきの起点となる塗料をコーティングする方法では、めっき触媒のパラジウム粒子自体またはパラジウムを表面に露出させるため表面をエッチングする必要があるが、これらの方法では、アンカー効果といえるほどの効果を得ることができず、密着性が劣るという問題があった。
【0010】
非特許文献1の方法では、ポリカーボネート樹脂基材にブタジエン等をコンパウンドする必要があるため、ポリカーボネート樹脂基材が本来有する耐熱性や衝撃強度等の特性が低下するという問題があった。また、特許文献5の方法では、ポリカーボネート樹脂基材自身の特性を変化させないものの、表面に接着層を設けただけのため、アンカー効果が弱く、めっき層の密着力が不十分であった。
【0011】
本発明は、上記課題を解決するものであって、環境負荷が高いクロム酸を用いてエッチングしなくても、高い密着力を有するめっき層を簡略な工程で設けることができる下地層を形成するためのめっき下地剤を提供することを目的とするものである。
【0012】
本発明はまた、上記課題を解決するものであって、ポリカーボネート樹脂基材を改質することなく、ポリカーボネート樹脂基材に対して高い密着力を有するめっき層を設けることができる下地層を形成するためのめっき下地剤を提供することを目的とするものである。
【0013】
本発明はさらに、環境負荷が高いクロム酸を用いてエッチングしなくても、より優れた均一性および密着性を有するめっき層(例えば無電解めっき層および電解めっき層)を設けることができる下地層を形成するためのめっき下地剤を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、ナノワイヤーとエステル結合含有ポリマーを含有するめっき下地剤を用いることにより、上記目的が達成できることを見出し、本発明に到達した。
【0015】
すなわち、本発明の要旨は、以下の通りである。
<1> ナノワイヤーおよびバインダー樹脂を含有するめっき下地剤であって、
前記バインダー樹脂がエステル結合含有ポリマーである、めっき下地剤。
<2> 前記エステル結合含有ポリマーが下記のバインダー樹脂(A)~(C)から選択される樹脂である、<1>に記載のめっき下地剤:
バインダー樹脂(A):親水基成分かつ(メタ)アクリル酸エステル成分を有するバインダー樹脂;
バインダー樹脂(B):共重合ポリエステル樹脂;
バインダー樹脂(C):ポリカーボネート樹脂。
<3> さらに媒体を含有する、<1>または<2>に記載のめっき下地剤。
<4> 前記ナノワイヤーがニッケルナノワイヤーである、<1>~<3>のいずれかに記載のめっき下地剤。
<5> 前記バインダー樹脂がバインダー樹脂(A)としての親水基成分かつ(メタ)アクリル酸エステル成分を有するバインダー樹脂であり、
前記ナノワイヤーと前記バインダー樹脂(A)の質量比率(ナノワイヤー/バインダー樹脂(A))が0.5~2.0である、<1>~<4>のいずれかに記載のめっき下地剤。
<6> 前記バインダー樹脂が、(メタ)アクリル酸エステルと(無水)マレイン酸を共重合成分として含む樹脂である、<5>に記載のめっき下地剤。
<7> さらにオキサゾリン化合物を含有する、<5>または<6>に記載のめっき下地剤。
<8> 前記バインダー樹脂がバインダー樹脂(B)としての共重合ポリエステル樹脂であり、
前記ナノワイヤーと前記バインダー樹脂(B)の質量比率(ナノワイヤー/バインダー樹脂(B))が1.0~3.0である、<1>~<4>のいずれかに記載のめっき下地剤。
<9> バインダー樹脂(B)が2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンおよび/またはそのアルキレンオキサイド付加体を共重合成分として含有する、<8>に記載のめっき下地剤。
<10> 前記バインダー樹脂がバインダー樹脂(C)としてのポリカーボネート樹脂であり、
前記ナノワイヤーと前記バインダー樹脂(C)の質量比率(ナノワイヤー/バインダー樹脂(C))が1.0~3.0である、<1>~<4>のいずれかに記載のめっき下地剤。
<11> 媒体として、水、トルエンとメチルエチルケトンの混合溶媒、またはジクロロメタンをさらに含有する、<1>~<10>のいずれかに記載のめっき下地剤。
<12> <1>~<11>のいずれかに記載のめっき下地剤を樹脂基材上にコーティングしてなる積層体。
<13> 前記樹脂基材がポリカーボネート樹脂基材である、<12>に記載の積層体。
<14> <12>または<13>に記載の積層体に無電解めっきを施した積層体。
<15> <14>に記載の積層体に電解めっきを施した積層体。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、環境負荷が高いクロム酸を用いてエッチングしなくても、高い密着力を有するめっき層を簡略な工程で設けることができる下地層を形成するためのめっき下地剤を提供することができる。
【0017】
本発明によれば、樹脂基材を改質することなく、樹脂基材に対して高い密着力を有するめっき層を設けることができる下地層を形成するためのめっき下地剤を提供することができる。
本発明のめっき下地剤を用いれば、樹脂基材にコーティング後、溶媒を留去させ、めっき液に浸漬するだけで、めっき層を設けることができるため、従来のエッチング等をおこないめっき層を設ける方法に比べて、簡略かつ安価にめっき層の形成をおこなうことができる。
また、本発明のめっき下地剤を用いれば、ナノワイヤーの一部が表面に露出し、その他の部分はバインダー樹脂に埋もれた下地層を設けることができるため、非常に強いアンカー効果を有し、高い密着力を有するめっき層を設けることができる。
【0018】
本発明によれば、環境負荷が高いクロム酸を用いてエッチングしなくても、より優れた均一性および密着性を有するめっき層(例えば無電解めっき層および電解めっき層)を設けることができる下地層を形成するためのめっき下地剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<めっき下地剤>
本発明のめっき下地剤は、ナノワイヤーおよびバインダー樹脂を含有し、通常は媒体をさらに含有する。
【0020】
[ナノワイヤー]
本発明において、ナノワイヤーとは、長さ/直径で示されるアスペクト比が5以上のものを意味する。本発明のめっき下地剤に用いるナノワイヤーは、直径が30~200nmであって、長さが1~50μmの導電体の繊維状物質である。本発明においては、ナノワイヤーの分散性が向上し、めっき下地剤としてハンドリングが容易になるため、ナノワイヤーは、直径が60~150nmであって、長さが10~40μmであることが好ましい。本発明において、めっき下地剤はナノワイヤーを含むため、当該ナノワイヤーの一部が表面に露出し、その他の部分はバインダー樹脂に埋もれた下地層を設けることができる。このため、当該下地層上に形成されるめっき層に対して、非常に強いアンカー効果を発揮し、めっき層の密着性および均一性が十分に向上する。めっき下地剤がアスペクト比5未満のナノワイヤーを含有したり、または粒状の物質を含有したりしても、アンカー効果を十分に発揮できないため、めっき層の密着性および均一性は低下する。
【0021】
本発明のナノワイヤーは複数の粒子が一次元的に繋がった粒子連結形状を有するものが好ましい。粒子連結形状のナノワイヤーを用いることにより、ナノワイヤー表面に凹凸ができ、バインダー樹脂に埋もれた箇所のアンカー効果がより向上し、より強い密着力を有するめっき層を得ることができる。粒子連結形状は、略球形状を有する複数の粒子が直列かつ連続的に連結されてなる、全体として線状(または繊維状)の形状のことである。このような粒子連結形状においては通常、連結部分(粒子の境界部分)で凹部を形成し、粒子部分で凸部を形成し、粒子の連結方向(ナノワイヤーの長手方向)において凹部と凸部とが連続的に繰り返されている。本発明は、ナノワイヤーが表面に凹凸のない線形状(または繊維形状)を有することを妨げるものではない。
【0022】
ナノワイヤーは、半導体または金属、もしくは金属酸化物等からなるナノワイヤーが好ましい。中でも、無電解めっきを施す際に、めっきの起点となりやすいことから、金属のナノワイヤーが好ましい。金属の種類は特に限定されないが、例えば、ニッケル、銅、銀が挙げられる。ナノワイヤーは、めっき層(無電解めっき層および電解めっき層;特に無電解めっき層)の密着性および均一性のさらなる向上の観点から、ニッケルナノワイヤーであることが好ましい。
【0023】
下地層上に無電解めっきを施す場合には、通常、めっきの起点となる触媒金属としては白金、パラジウム等の酸化還元電位の高い貴金属が用いられる。それに対して、本発明では、表面に露出したナノワイヤーの一部を起点としてめっきが成長するため、酸化還元電位が低い金属であってもめっきを成長させることができる。具体的には、標準酸化還元電位が-0.8V以上の金属であってもめっきを成長させることができる。このため、本発明においては、比較的安価な卑金属であっても用いることができる。無電解めっきでは、ニッケルを用いることが多いことから、ナノワイヤーを構成する金属はニッケルが好ましい。
【0024】
本発明においては、ナノワイヤーが金属酸化物からなるナノワイヤーであっても、金属からなるナノワイヤーを用いる場合と同様、無電解めっきを施すことができる。通常、めっき液には還元剤が含まれているので、その還元剤によって、めっき下地層の表面に露出したナノワイヤーの一部が還元され、それを起点としてめっきが成長する。
【0025】
めっき下地剤中のナノワイヤーの濃度は、ナノワイヤーが分散できれば特に限定されないが、通常は0.01~40質量%であり、0.01~20質量%とすることが好ましい。特に、立体的な成形物に用いる場合は、スプレーでコーティングする場合が多いため、ナノワイヤーの濃度は、0.01~10質量%、特に0.05~0.5質量%とすることが好ましい。ナノワイヤーの濃度はめっき下地剤全量に対する割合である。
【0026】
[バインダー樹脂]
バインダー樹脂はエステル結合含有ポリマーである。エステル結合含有ポリマーは、エステル結合を有するポリマーのことである。エステル結合含有ポリマーは、エステル結合をポリマーの主鎖に有していてもよいし、ポリマーの側鎖に有していてもよいし、またはポリマーの主鎖および側鎖の両方に有していてもよい。エステル結合含有ポリマーは、めっき層(無電解めっき層および電解めっき層;特に無電解めっき層)の密着性および均一性のさらなる向上の観点から、ポリマーの側鎖に有することが好ましい。バインダー樹脂がエステル結合を有することで、下地層の濡れ性が向上し、下地層がめっき液をはじきにくくなり、めっき層が形成される際に発生するガスが下地層表面に滞留せず抜けやすくなる。このため、密着性および均一性に十分に優れためっき層(無電解めっき層および電解めっき層;特に無電解めっき層)を形成することができるものと考えられる。
【0027】
バインダー樹脂におけるエステル結合の含有量は特に限定されない。
例えば、バインダー樹脂がポリマーの主鎖(特に主鎖のみ)にエステル結合を有する場合、エステル結合の含有量は、ポリマーの少なくとも一部(好ましくは全て)の繰り返し単位にエステル結合を含むような含有量であってもよい。
【0028】
また例えば、バインダー樹脂がポリマーの側鎖(特に側鎖のみ)にエステル結合を有する場合、エステル結合の含有量は、バインダー樹脂をモノマー成分として構成するエステル結合含有モノマーとエステル結合フリーモノマーとの合計量に対して、エステル結合含有モノマーの含有量として、通常は1質量%以上であり、めっき層(無電解めっき層および電解めっき層;特に無電解めっき層)の密着性および均一性のさらなる向上の観点から、好ましくは3質量%以上、より好ましくは6質量%以上、さらに好ましくは8質量%以上である。この場合におけるエステル結合の含有量の上限値は特に限定されず、通常は100質量%であってもよい。エステル結合の含有量は、めっき層(無電解めっき層および電解めっき層;特に無電解めっき層)の密着性および均一性のさらなる向上の観点から、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下、さらに好ましくは20質量%以下、特に好ましくは18質量%以下である。エステル結合の含有量が少なすぎると、めっき層の基材に対する密着性および/または均一性(特に密着性)が低下する。エステル結合フリーモノマーとは、その分子構造中にエステル結合を有さないモノマー成分のことである。
【0029】
エステル結合含有ポリマーは、分子構造中、エステル結合を有する限り、いかなる構造を有していてもよい。エステル結合含有ポリマーは、例えば、以下のバインダー樹脂(A)~(C)から選択される樹脂であってもよい:
(A)親水基成分かつ(メタ)アクリル酸エステル成分を有するバインダー樹脂;
(B)共重合ポリエステル樹脂;
(C)ポリカーボネート樹脂。
これらのバインダー樹脂(A)~(C)については後で詳しく説明するが、バインダー樹脂は分子構造中、エステル結合を有する限り、他のポリマーであってもよい。
【0030】
めっき下地剤中のバインダー樹脂の濃度は特に限定されず、下地層表面にナノワイヤーの一部を露出させやすく、より均一でより高い密着力を有するめっき層を得ることができることから、通常は、ナノワイヤーとバインダー樹脂の質量比率(ナノワイヤー/バインダー樹脂)が0.1~5.0、特に0.2~4.0となるような量である。ナノワイヤーとバインダー樹脂の好ましい質量比率は、後述するように、バインダー樹脂の種類に応じて異なる。めっき下地剤中のバインダー樹脂の濃度は通常、50質量%以下(特に0.01~50質量%)であり、好ましくは0.01~20質量%である。バインダー樹脂の濃度はめっき下地剤全量に対する割合である。
【0031】
バインダー樹脂の分子量は特に限定されず、通常は数平均分子量が1000以上、特に1000~10万であってもよい。数平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)に基づく値を用いている。
バインダー樹脂のメルトフローレートもまた特に限定されず、通常は10g/10分以下、特に0.1~10g/10分であってもよい。メルトフローレートはJIS K 6730(190℃、2160g荷重)に準拠した値を用いている。
【0032】
本発明においては、バインダー樹脂は、めっき下地層においてナノワイヤーを露出させる観点から、めっき下地剤中、媒体に溶解していてもよいし、もしくは分散または乳化していてもよい。
【0033】
(親水基成分かつ(メタ)アクリル酸エステル成分を有するバインダー樹脂)
バインダー樹脂(A)は、親水基成分かつ(メタ)アクリル酸エステル成分を有する。親水性成分と(メタ)アクリル酸エステル成分は、ランダム共重合されていてもよいし、ブロック共重合していてもよいし、グラフト重合していてもよい。このため、均一で高い密着力を有するめっき層(無電解めっき層および電解めっき層;特に無電解めっき層)を得ることができる。
【0034】
親水基成分とは、静電的作用や水素結合等によって、水分子と結合をつくり、水中で安定になる原子団を意味する。親水基成分を有することで、濡れ性が向上し、めっき液をはじきにくくなり、めっき層が形成される際に発生するガスが下地層表面に滞留せず抜けやすくなるため、均一なめっき層を形成することができる。親水基成分は、めっき下地剤中の樹脂の分散安定性を向上させ、架橋剤を配合した際には、親水基成分を架橋点として三次元的網目構造を形成することができることから、酸性官能基が好ましい。
【0035】
酸性官能基としては、例えば、カルボキシル基、無水カルボン酸基、スルホン酸基、スルフィン酸基、スルフェン酸基、リン酸基、ホスホン酸基が挙げられ、中でも、めっき層との密着性の観点から、カルボキシル基が好ましい。前記官能基は、樹脂中に1つのみ有してもよいし、複数有していてもよい。また、前記官能基は、塩を形成していてもよい。
【0036】
親水基成分(例えば酸性官能基成分)は、バインダー樹脂(A)を構成するモノマー成分として親水基(例えば酸性官能基)含有モノマーを用いることにより、バインダー樹脂(A)に導入され得る。
【0037】
親水基含有モノマー(例えば酸性官能基含有モノマー)としては、例えば、アクリル酸、メタアクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸等が挙げられる。
【0038】
バインダー樹脂(A)における親水基成分(特に親水基含有モノマー)の含有量は特に限定されず、めっき層(無電解めっき層および電解めっき層;特に無電解めっき層)の密着性および均一性のさらなる向上、めっき下地剤中のナノワイヤーの凝集および沈澱防止、コーティング操業性の向上、めっき層(例えば無電解めっき被膜)におけるピンホール等の外観不良の向上の観点から、0.1~15質量%とすることが好ましく、0.5~10質量%とすることがより好ましく、1~7質量%とすることがさらに好ましく、1.5~5質量%とすることが特に好ましい。親水基成分の含有量は、バインダー樹脂を構成する全モノマー成分の合計量に対する親水基含有モノマーの含有割合である。
【0039】
(メタ)アクリル酸エステル成分は、バインダー樹脂(A)を構成するモノマー成分として(メタ)アクリル酸エステル成分含有モノマーを用いることにより、バインダー樹脂(A)に導入され得る。
【0040】
(メタ)アクリル酸エステル成分(特に(メタ)アクリル酸エステル成分含有モノマー)としては、例えば、(メタ)アクリル酸と炭素数1~30のアルコールとのエステル化物が挙げられる。(メタ)アクリル酸エステル成分は、樹脂基材との密着性の観点から、(メタ)アクリル酸と炭素数1~20のアルコール(特に炭素数1~6(好ましくは1~3)のアルコール)とのエステル化物が好ましい。そのような化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、およびこれらの混合物が挙げられる。なお、「(メタ)アクリル酸X」とは、「アクリル酸Xおよび/またはメタクリル酸X」を意味する。Xは、例えば、上記したアルコールを構成する、あらゆるアルキル基であってもよい。
【0041】
バインダー樹脂(A)における(メタ)アクリル酸エステル成分(特に(メタ)アクリル酸エステル成分含有モノマー)の含有量は、特に限定されず、めっき層(無電解めっき層および電解めっき層;特に無電解めっき層)の密着性および均一性のさらなる向上、めっき層(無電解めっき層および電解めっき層;特に無電解めっき層)の析出性向上の観点から、1~40質量%とすることが好ましく、3~30質量%とすることがより好ましく、6~20質量%とすることがさらに好ましく、8~18質量%とすることが特に好ましい。(メタ)アクリル酸エステル成分の含有量は、バインダー樹脂を構成する全モノマー成分の合計量に対する(メタ)アクリル酸エステル成分含有モノマーの含有割合である。
【0042】
バインダー樹脂(A)は、親水基含有モノマーおよび(メタ)アクリル酸エステルモノマー以外に、他のモノマーをモノマー成分として含んでいてもよい。他のモノマーは、親水基成分も(メタ)アクリル酸エステル成分も含有しない重合性モノマーのことである。このような他のモノマーとして、重合性不飽和二重結合を有するあらゆるモノマーが挙げられる。重合性とは付加重合に関する重合性のことである。他のモノマーの具体例として、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン、スチレン等が挙げられる。
【0043】
バインダー樹脂(A)における他のモノマーの含有量は、特に限定されず、めっき層(無電解めっき層および電解めっき層;特に無電解めっき層)の密着性および均一性のさらなる向上の観点から、95質量%以下(例えば1~95質量%)とすることが好ましく、10~90質量%とすることがより好ましく、30~90質量%とすることがさらに好ましく、50~90質量%とすることが特に好ましい。他のモノマーの含有量は、バインダー樹脂を構成する全モノマー成分の合計量に対する他のモノマーの含有割合である。
【0044】
親水基成分かつ(メタ)アクリル酸エステル成分を有するバインダー樹脂(A)としては、例えば、(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、(メタ)アクリル酸エステル-無水マレイン酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル-無水マレイン酸共重合体、プロピレン-(メタ)アクリル酸エステル-無水マレイン酸共重合体、スチレン-(メタ)アクリル酸エステル-無水マレイン酸共重合体が挙げられる。中でも、融点や硬さ、樹脂材料およびめっき層との密着性の観点から、エチレン-アクリル酸エステル-無水マレイン酸共重合体が好ましい。
【0045】
バインダー樹脂(A)の分子量は特に限定されない。めっき下地剤に架橋剤を添加する場合であれば、分子量が数千程度でも十分である。
【0046】
バインダー樹脂(A)は、めっき下地層においてナノワイヤーを露出させる観点から、めっき下地剤中、媒体に溶解していてもよいし、もしくは分散または乳化していてもよいが、めっき層(無電解めっき層および電解めっき層;特に無電解めっき層)の密着性および均一性のさらなる向上の観点から、媒体に分散または乳化していることが好ましい。
【0047】
めっき下地剤中のバインダー樹脂(A)の濃度は、コーティング可能な粘度であれば、特に限定されない。通常、コーティングに適切な粘度とするためには、バインダー樹脂(A)の濃度を50質量%以下とすることが好ましい。特に、立体的な成形物に用いる場合は、スプレーでコーティングする場合が多いため、バインダー樹脂(A)の濃度は、0.01~10質量%とすることが好ましく、0.01~5質量%とすることがより好ましく、0.05~0.5質量%とすることがさらに好ましい。
【0048】
めっき下地剤中のナノワイヤーとバインダー樹脂(A)の質量比率(ナノワイヤー/バインダー樹脂)は、下地層表面にナノワイヤーの一部を露出させやすく、より均一でより高い密着力を有するめっき層を得ることができることから、0.2~3.0とすることが好ましく、0.5~2.0とすることがより好ましく、0.5~1.5とすることがさらに好ましい。
【0049】
バインダー樹脂(A)は、市販品として入手することもできるし、または公知の方法により製造することもできる。
【0050】
(共重合ポリエステル樹脂)
共重合ポリエステル樹脂は、バインダー樹脂(B)として用いられる。本発明において、共重合ポリエステル樹脂とは、二価カルボン酸成分と二価アルコール成分とから構成され、エステル結合を有する樹脂を意味する。
【0051】
二価カルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジカルボキシビフェニル、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、5-ヒドロキシイソフタル酸、フマル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、ヘキサデカン二酸、ヘプタデカン二酸、オクタデカン二酸、ノナデカン二酸、エイコサン二酸、ドコサン二酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、メサコン酸、マレイン酸、イタコン酸、グルタコン酸、シトラコン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、2,5-ノルボルネンジカルボン酸、ダイマー酸、水添ダイマー酸が挙げられる。二価カルボン酸成分は、その誘導体やその無水物であってもよい。二価カルボン酸成分は、上記のうち1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。中でも、耐熱性が向上することから、テレフタル酸が好ましい。
【0052】
二価アルコール成分としては、例えば、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,2-ブチルエチルプロパンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、スピログリコール、ダイマージオール、1,2-プロパンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,12-ドデカンジオール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン〔BisA〕、BisAのエチレンオキシド付加体〔BisAEO〕、BisAのプロピレンオキシド付加体、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン〔BisTMC〕、1,1-ビス-(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5,5-テトラメチル-シクロヘキサン、1,1-ビス-(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,4-トリメチル-シクロヘキサン、1,1-ビス-(4-ヒドロキシフェニル)-3,3-ジメチル-5-エチル-シクロヘキサン、1,1-ビス-(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチル-シクロヘキサン、1,1-ビス-(3,5-ジフェニル-4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチル-シクロヘキサン、1,1-ビス-(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチル-シクロヘキサン、1,1-ビス-(3-フェニル-4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチル-シクロヘキサン、1,1-ビス-(3,5-ジクロロ-4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチル-シクロヘキサン、1,1-ビス-(3,5-ジブロモ-4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチル-シクロヘキサン、1,1-ビス-(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチル-シクロペンタンが挙げられる。二価アルコール成分は、上記のうち1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。中でも、耐熱性が高いことから、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン〔BisA〕およびBisAのエチレンオキシド付加体、BisAのプロピレンオキシド付加体、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン〔BisTMC〕が好ましい。また、ポリカーボネート樹脂基材との密着性が高くなることから、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン〔BisA〕、BisAのエチレンオキシド付加体、BisAのプロピレンオキシド付加体が好ましい。また、耐湿熱性が高くなることから、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,12-ドデカンジオール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等の炭素数が6以上のジオールが好ましい。
【0053】
共重合ポリエステル樹脂は、めっき層(無電解めっき層および電解めっき層;特に無電解めっき層)の密着性および均一性のさらなる向上の観点から、BisAおよび/またはそのアルキレンオキサイド付加体を共重合成分として含むことが好ましい。BisAのアルキレンオキサイド付加体は、BisAのエチレンオキシド付加体、BisAのプロピレンオキシド付加体等を包含する。このとき、BisAおよび/またはそのアルキレンオキサイド付加体の含有量は、特に限定されず、めっき層(無電解めっき層および電解めっき層;特に無電解めっき層)の密着性および均一性のさらなる向上の観点から、好ましくは10~50質量%、より好ましくは15~40質量%、さらに好ましくは20~30質量%である。当該含有量は、共重合ポリエステル樹脂を構成する全モノマー成分の合計量に対するBisAおよび/またはそのアルキレンオキサイド付加体の含有割合である。
【0054】
共重合ポリエステル樹脂には、本発明の効果を損なわない範囲において、必要に応じて、二価カルボン酸成分や二価アルコール成分以外の他のモノマー成分を含有させてもよい。他のモノマー成分としては、3価以上のカルボン酸、モノカルボン酸、3価以上のアルコール、モノアルコール、ヒドロキシカルボン酸、ラクトン、オキシランが挙げられる。3価以上のカルボン酸としては、例えば、1,3,4-ベンゼントリカルボン酸、1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸、ピロメリット酸、トリメリット酸、テトラヒドロフタル酸が挙げられる。モノカルボン酸としては、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、安息香酸、p-tert-ブチル安息香酸、シクロヘキサン酸が挙げられる。3価以上のアルコールとしては、例えば、トリメチルプロパン、グリセリンが挙げられる。モノアルコールとしては、例えば、オクチルアルコール、デシルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、2-フェノキシエタノールが挙げられる。ヒドロキシカルボン酸としては、例えば、乳酸、グリコール酸、2-ヒドロキシ酪酸、3-ヒドロキシ酪酸、4-ヒドロキシ酪酸、2-ヒドロキシイソ酪酸、2-ヒドロキシ-2-メチル酪酸、2-ヒドロキシ吉草酸、3-ヒドロキシ吉草酸、4-ヒドロキシ吉草酸、5-ヒドロキシ吉草酸、6-ヒドロキシカプロン酸、10-ヒドロキシステアリン酸、4-ヒドロキシフェニルステアリン酸、4-(β-ヒドロキシ)エトキシ安息香酸が挙げられる。ラクトンとしては、例えば、β-プロピオラクトン、β-ブチロラクトン、γ-ブチロラクトン、δ-バレロラクトン、ε-カプロラクトンが挙げられる。オシキランとしては、例えば、エチレンオキシドが挙げられる。二価カルボン酸成分や二価アルコール成分以外の他のモノマー成分を含有させる場合、その含有量は、共重合ポリエステル樹脂に含まれる全モノマー成分100モル%に対して10モル%未満であることが好ましい。
【0055】
共重合ポリエステル樹脂の分子量は特に限定されないが、数平均分子量は、溶解時の作業性向上の観点から、1000~50000が好ましく、3000~30000がより好ましい。数平均分子量が3000未満でも下地剤としての効果は発現するが、めっき下地剤が脆くなる場合もあるため、そのような数平均分子量の共重合ポリエステル樹脂を用いる場合には、硬化剤を併用することがより好ましい。
【0056】
共重合ポリエステル樹脂は、めっき下地層においてナノワイヤーを露出させる観点から、めっき下地剤中、媒体に溶解していてもよいし、もしくは分散または乳化していてもよいが、めっき層(無電解めっき層および電解めっき層;特に無電解めっき層)の密着性および均一性のさらなる向上の観点から、媒体に溶解していることが好ましい。
【0057】
めっき下地剤中のバインダー樹脂(B)の濃度は、コーティング可能な粘度であれば、特に限定されない。通常、コーティングに適切な粘度とするためには、バインダー樹脂(B)の濃度を50質量%以下とすることが好ましい。特に、立体的な成形物に用いる場合は、スプレーでコーティングする場合が多いため、バインダー樹脂(B)の濃度は、0.01~10質量%とすることが好ましく、0.01~5質量%とすることがより好ましく、0.05~0.5質量%とすることがさらに好ましい。
【0058】
めっき下地剤中のナノワイヤーとバインダー樹脂(B)の質量比率(ナノワイヤー/バインダー樹脂)は、下地層表面にナノワイヤーの一部を露出させやすく、より均一でより高い密着力を有するめっき層を得ることができることから、0.3~4.0とすることが好ましく、0.8~3.2とすることがより好ましく、0.8~3.0とすることがさらに好ましく、0.8~2.2とすることが特に好ましく、1.0~2.0とすることが最も好ましい。
【0059】
共重合ポリエステル樹脂は、市販品として入手することもできるし、または以下に示すような公知の方法により製造することもできる。
【0060】
共重合ポリエステル樹脂は、二価カルボン酸成分、二価アルコール成分、必要応じてその他のモノマー成分を公知の重合法で重合する方法で得ることができる。公知の方法としては、エステル化反応をおこなった後、所望の分子量に達するまで重縮合する方法(A法)や、アセチル化反応をおこなった後、所望の分子量に達するまで脱酢酸重合反応する方法(B法)が挙げられる。
【0061】
A法におけるエステル化反応とは、二価カルボン酸成分、二価アルコール成分、必要に応じてその他のモノマー成分を用いてエステル化する反応のことである。エステル化反応においては、不活性ガス雰囲気下、180℃以上の温度で4時間以上、加熱溶融して反応させる。重縮合反応とは、エステル化反応で得られたエステル化物を、所望の分子量に達するまで、二価アルコール成分を留去させながら重縮合する反応のことである。重縮合反応においては、130Pa以下の減圧下、220~280℃の温度で、30分以上おこなう。エステル化反応、重縮合反応においては、重合触媒を用いることが好ましい。重合触媒としては、例えば、テトラブチルチタネ-ト等のチタン化合物や、酢酸亜鉛、酢酸マグネシウム、酢酸亜鉛等の金属の酢酸塩や、三酸化アンチモンや、ヒドロキシブチルスズオキサイド、オクチル酸スズ等の有機スズ化合物が挙げられる。重合触媒の濃度は、少量では反応が遅くなり、多すぎると得られる共重合ポリエステル樹脂の色調が低下するため、酸成分1モルに対し、0.1×10-4~20×10-4モルであることが好ましい。
【0062】
B法におけるアセチル化反応とは、二価アルコール成分をアセチル化する反応のことである。アセチル化反応においては、二価カルボン酸成分と二価アルコール成分と無水酢酸を反応させる。アセチル化反応は、不活性ガス雰囲気下、常圧下または加圧下、100~240℃の温度において、5分~8時間おこなう。二価アルコール成分のヒドロキシ基に対する無水酢酸のモル比は、1.00~1.20とすることが好ましい。脱酢酸重合反応とは、所望の分子量に達するまで脱酢酸重合する反応のことである。脱酢酸重合反応においては、500Pa以下の減圧下、240℃以上の温度で、30分以上おこなう。アセチル化反応、脱酢酸重合反応は、重合触媒を用いることが好ましい。重合触媒の種類やその濃度は、A法で例示した重合触媒の種類とその濃度と同じである。
【0063】
(ポリカーボネート樹脂)
ポリカーボネート樹脂は、バインダー樹脂(C)として用いられる。本発明において、ポリカーボネート樹脂とは、カーボネート結合を有する樹脂を意味する。
【0064】
ポリカーボネート樹脂は、特に限定されず、例えば、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとのエステル交換反応により得られるポリカーボネート樹脂であってもよいし、または芳香族ジヒドロキシ化合物とホスゲンとの水酸化ナトリウム水溶液および塩化メチレン溶媒の存在下での反応により得られるポリカーボネート樹脂であってもよい。
【0065】
溶融重合ポリカーボネート樹脂を構成する芳香族ジヒドロキシ化合物は、一般式:HO-Ar-OHで示される化合物である。式中、Arは二価の芳香族残基であり、例えば、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基、ピリジレン基、-Ar1-Y-Ar2-で表される2価の芳香族基である。Ar1およびAr2は、各々独立にそれぞれ炭素原子数5~70を有する2価の炭素環式又は複素環式芳香族基を表し、Yは炭素原子数1~30特に1~5を有する2価のアルカン基(すなわちアルキレン基)を表す。好ましいArはフェニレン基である。好ましいAr1およびAr2はフェニレン基である。好ましいYはイソプロピリデン基である。
【0066】
芳香族ジヒドロキシ化合物の具体例として、例えば、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、4,4’-〔1,3-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)〕ビスフェノール、4,4’-〔1,4-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)〕ビスフェノール、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレンなどのビス(4-ヒドロキシアリール)アルカン)等が挙げられる。中でも2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン[ビスフェノールA]が特に好ましい。
【0067】
芳香族ジヒドロキシ化合物は、単一種類でも2種類以上でもかまわない。芳香族ジヒドロキシ化合物の代表的な例としてはビスフェノールAが挙げられ、芳香族ジヒドロキシ化合物として85モル%以上の割合でビスフェノールAを使用することが好ましい。
【0068】
炭酸ジエステルの代表的な例としては、一般式:R1-Ar3-O-CO-O-Ar4-R2で示される置換または非置換のジアリールカーボネート類を挙げる事ができる。Ar3およびAr4はそれぞれ独立して二価の芳香族残基であり、例えば、フェニレン基、ナフチレン基が挙げられる。R1およびR2はそれぞれ独立して水素原子または炭素原子数1~10のアルキル基である。好ましいAr3およびAr4はフェニレン基である。好ましいR1およびR2はそれぞれ独立して水素原子または炭素原子数1~5のアルキル基である。より好ましいR1およびR2は相互に同じ基である。
【0069】
ジアリールカーボネート類の中でも、非置換のジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート、ジ-t-ブチルフェニルカーボネートのような低級アルキル置換ジフェニルカーボネートなどの対称型ジアリールカーボネートが好ましい。特に最も簡単な構造のジアリールカーボネートであるジフェニルカーボネートが好適である。対称型ジアリールカーボネートとは、水素原子および炭素原子を省略した化学構造式で表したとき、線対称性を有する化学構造式で表し得るジアリールカーボネートのことである。
【0070】
炭酸ジエステルは単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0071】
ポリカーボネート樹脂は、特に限定されず、コーティングする樹脂基材によって選択されることが好ましい。例えば、樹脂基材がポリカーボネート樹脂基材である場合、めっき下地剤のポリカーボネート樹脂は、ポリカーボネート樹脂基材と同一の骨格のポリカーボネート樹脂を用いることが好ましい。詳しくは、コーティングする樹脂基材が汎用の2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(BisA)型ポリカーボネートであれば、下地剤には、同じ骨格のBisA型のポリカーボネートを用いることが好ましく、コーティングする樹脂基材がレンズ用途のような特殊グレードの場合であれば、下地剤には、同じ骨格の特殊グレードのポリカーボネートを用いることが好ましい。
【0072】
ポリカーボネート樹脂の分子量は特に限定されない。めっき下地剤に架橋剤を添加する場合であれば、分子量が数千程度でも十分である。
【0073】
ポリカーボネート樹脂は、めっき下地層においてナノワイヤーを露出させる観点から、めっき下地剤中、媒体に溶解していてもよいし、もしくは分散または乳化していてもよいが、めっき層(無電解めっき層および電解めっき層;特に無電解めっき層)の密着性および均一性のさらなる向上の観点から、媒体に溶解していることが好ましい。
【0074】
めっき下地剤中のバインダー樹脂(C)の濃度は、コーティング可能な粘度であれば、特に限定されない。通常、コーティングに適切な粘度とするためには、バインダー樹脂(C)の濃度を50質量%以下とすることが好ましい。特に、立体的な成形物に用いる場合は、スプレーでコーティングする場合が多いため、バインダー樹脂(C)の濃度は、0.01~10質量%とすることが好ましく、0.01~5質量%とすることがより好ましく、0.05~0.5質量%とすることがさらに好ましい。
【0075】
めっき下地剤中のナノワイヤーとバインダー樹脂(C)の質量比率(ナノワイヤー/バインダー樹脂)は、下地層表面にナノワイヤーの一部を露出させやすく、より高い密着力を有するめっき層を得ることができることから、0.3~4.0とすることが好ましく、0.8~3.2とすることがより好ましく、0.8~3.0とすることがさらに好ましく、0.8~2.2とすることが特に好ましく、1.0~2.0とすることが最も好ましい。前記質量比率を0.8以上、特に1.0以上とすることで、より均一でより高い密着力を有する無電解めっき層を得ることができる。また、前記質量比率を0.8~3.2、特に1.0~3.0とすることで、無電解めっき層上に、より均一でより高い密着力を有する電解めっき層をより容易に得ることができる。
【0076】
ポリカーボネート樹脂は、市販品として入手することもできるし、または溶融重合法および界面重合法等の公知の方法により製造することもできる。
【0077】
ポリカーボネート樹脂の市販品として、例えば、ポリカーボネート(帝人社製、L-1225Y)等が挙げられる。
【0078】
[媒体]
本発明のめっき下地剤には、ハンドリングを向上させるため、さらに媒体を含有させることが好ましい。媒体を用いる場合、媒体は、溶媒、分散媒いずれであってもよい。媒体としては、ナノワイヤーとバインダー樹脂を凝集させないものであれば特に限定されない。媒体として、例えば、メタノール、エタノール等のモノアルコール(特に脂肪族モノアルコール);エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール(特に脂肪族グリコール);テトラヒドロフラン等のエーテル(特に環状エーテル);メチルエチルケトン等のケトン(特に脂肪族ケトン);ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素;ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素(特にハロゲン化脂肪族炭化水素);水;またはこれらの混合溶媒等が挙げられる。
【0079】
めっき下地剤がバインダー樹脂としてバインダー樹脂(A)を含むエマルションである場合、媒体は、コーティング時の乾燥温度等のハンドリングが高く、より均一でより高い密着力を有するめっき層を得ることができることから、モノアルコール;グリコール;水;またはこれらの混合溶媒が好ましく、中でも、水とグリコールの混合溶媒がより好ましい。
【0080】
めっき下地剤がバインダー樹脂としてバインダー樹脂(A)を含む溶液である場合、媒体は、めっき層(無電解めっき層および電解めっき層;特に無電解めっき層)の密着性および均一性のさらなる向上の観点から、エーテル(特にテトラヒドロフラン)が好ましい。
【0081】
めっき下地剤がバインダー樹脂としてバインダー樹脂(B)を含む溶液である場合、媒体は、めっき層(無電解めっき層および電解めっき層;特に無電解めっき層)の密着性および均一性のさらなる向上の観点から、芳香族炭化水素、ケトンまたはこれらの混合物が好ましく、中でも、芳香族炭化水素とケトンとの混合溶媒がより好ましい。
【0082】
めっき下地剤がバインダー樹脂としてバインダー樹脂(C)を含む溶液である場合、媒体は、めっき層(無電解めっき層および電解めっき層;特に無電解めっき層)の密着性および均一性のさらなる向上の観点から、ハロゲン化炭化水素(特にジクロロメタン)が好ましい。ジクロロメタンは沸点が低く、容易に除去可能であるため、樹脂基材(特にポリカーボネート樹脂基材)を必要以上溶解させることなく、表面を膨潤させるだけのため、基材の形状を変化させずに強固な密着力を得ることができる。
【0083】
[添加剤]
めっき下地剤(特にその媒体)は、本発明の効果を損なわない範囲で、架橋剤、硬化剤、消泡剤、レオロジーコントロール剤、濡れ剤、レベリング剤等の各種添加剤を含有させてもよい。
【0084】
(架橋剤)
バインダー樹脂(A)を含むめっき下地剤は、下地層の化学的耐性、熱的耐性を向上させるため、架橋剤を含有することが好ましい。バインダー樹脂(A)を含むめっき下地剤は、めっき層(無電解めっき層および電解めっき層;特に無電解めっき層)の密着性および均一性のさらなる向上の観点からも、架橋剤を含有することが好ましい。
【0085】
架橋剤は、水溶性の架橋剤であっても、非水溶性の架橋剤いずれであってもよい。水溶性の架橋剤を用いた場合であっても、コーティング後、乾燥することにより架橋反応が進行し、下地層は水に不溶となる。架橋剤は単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。架橋剤は、用いる樹脂に応じて適宜選択することができる。架橋剤としては、例えば、オキサゾリン化合物、カルボジイミド化合物、エポキシ化合物、イソシアネート化合物が挙げられ、反応性やポットライフの観点から、オキサゾリン化合物が好ましい。
【0086】
めっき下地剤中の架橋剤の濃度は、特に限定されず、めっき層(無電解めっき層および電解めっき層;特に無電解めっき層)の密着性および均一性のさらなる向上の観点から、0.001~1質量%とすることが好ましく、0.001~0.1質量%とすることがより好ましく、0.008~0.025質量%とすることがさらに好ましい。架橋剤の濃度はめっき下地剤全量に対する割合である。
【0087】
(硬化剤)
硬化剤は、バインダー樹脂(B)を含むめっき下地剤に含有されてもよい。硬化剤としては、例えば、フェノール樹脂、尿素、メラミン、ベンゾグアナミン、アセトグアナミン等のホルムアルデヒド付加物や、尿素、アクリルアミド等のグリオキザール付加物や、炭素数1~6のアルコールによるそれら付加物のアルキル化合物等のアミノ樹脂や、エポキシ樹脂や、酸無水物や、イソシアネート化合物およびそのブロックイソシアネート化合物や、アジリジン化合物や、カルボジイミド基含有化合物や、オキサゾリン基含有化合物が挙げられる。中でも、硬化反応性に優れることから、イソシアネート化合物およびそのブロックイソシアネート化合物、エポキシ樹脂、オキサゾリン基含有化合物が好ましい。また、150℃以下という比較的低温における硬化反応性に優れ、基材に与える熱的影響を最小限とすることができることから、イソシアネート化合物およびそのブロックイソシアネート化合物が好ましい。
【0088】
イソシアネート化合物としては、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネートや、ヘキサメチレンジイソシアネート〔HDI〕、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート単量体およびそれらの三量体が挙げられる。中でも、密着性等の性能が向上することから、ヘキサメチレンジイソシアネート〔HDI〕、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネートが好ましく、ヘキサメチレンジイソシアネート〔HDI〕がより好ましく、硬化反応速度が速いことから、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートが好ましい。また、耐溶剤性、加工性に優れる塗膜形成が可能なことから、アミノ樹脂が好ましい。
【0089】
めっき下地剤中の硬化剤の濃度は、特に限定されず、めっき層(無電解めっき層および電解めっき層;特に無電解めっき層)の密着性および均一性のさらなる向上の観点から、0.001~1質量%とすることが好ましく、0.001~0.1質量%とすることがより好ましく、0.008~0.025質量%とすることがさらに好ましい。硬化剤の濃度はめっき下地剤全量に対する割合である。
【0090】
<めっき下地剤の製造方法>
本発明のめっき下地剤の製造方法は特に限定されないが、例えば、ナノワイヤーの分散液と、バインダー樹脂の分散液または溶液をそれぞれ製造し、それらを混合する方法が挙げられる。混合する方法としては特に限定されないが、例えば、バインダー樹脂の分散液または溶液にナノワイヤーの分散液を攪拌しながら添加する方法や、ナノワイヤーの分散液にバインダー樹脂の分散液または溶液を攪拌しながら添加する方法が挙げられる。
【0091】
上記した添加剤は、それぞれ独立して、ナノワイヤーの分散液またはバインダー樹脂の分散液または溶液に予め混合されてもよいし、またはナノワイヤーの分散液とバインダー樹脂の分散液または溶液とを混合した後で混合されてもよい。
【0092】
[ナノワイヤーの分散液の製造方法]
本発明に用いるナノワイヤーの分散液の製造方法は特に限定されない。ナノワイヤーの分散液は公知のあらゆる方法により製造することができる。例えば、ナノワイヤーの分散液は市販のナノワイヤーを水に分散させることにより製造することができる。
【0093】
以下、金属ナノワイヤー(特にニッケルナノワイヤー)を製造しつつ、その分散液を製造する方法を詳しく説明するが、公知のあらゆる方法により、他の金属ナノワイヤー、半導体ナノワイヤー、および金属酸化物ナノワイヤーの分散液を製造してもよい。
例えば、ニッケルイオンを磁気回路内で以下のように還元反応をおこなうことにより、本発明に好適な粒子連結形状のニッケルナノワイヤーを収率よく製造することができる。
【0094】
還元反応は、グリコール中でおこなうことが好ましく、粘度、沸点の観点からエチレングリコール中でおこなうことがより好ましい。
【0095】
ニッケルイオンの供給源としては、塩化ニッケル等のニッケル塩を用いることが好ましい。ニッケルイオンの濃度は、ナノワイヤーの形状制御の観点から、反応溶液全量に対して10~25μmol/gとすることが好ましく、15~20μmol/gとすることがより好ましい。
【0096】
ニッケルイオンの一部は、還元前にクエン酸ニッケル錯体となる。クエン酸ニッケル錯体は、ニッケルイオンの溶けたグリコール溶液にクエン酸三ナトリウムを添加することにより得ることができる。前記錯体を還元反応前に予め形成させておくことにより、ナノワイヤーの形状を制御しやすく、凝集を抑制することができる。クエン酸三ナトリウムの濃度は、反応用液全量に対して0.5~2.0μmol/gとすることが好ましく、1.0~1.5μmol/gとすることがより好ましい。
【0097】
ニッケルイオンの還元反応を誘発するため、反応溶液はアルカリ性とすることが好まししい。反応溶液をアルカリ性とするためには、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等を添加すればよい。水酸化ナトリウムを添加する場合、その濃度は、反応溶液全量に対して10~40μmol/gとすることが好ましく、20~30μmol/gとすることがより好ましい。
【0098】
副生成により発生する水酸化ニッケル等の不溶物を抑制するため、アンモニアを添加することが好ましい。アンモニアは入手容易な28%アンモニア水でよい。アンモニアを添加する場合、その濃度は、反応溶液全量に対して、0.1~0.8mmol/gとすることが好ましく、0.3~0.6mmol/gとすることが好ましい。
【0099】
還元反応を開始する前にネオジム磁石等で構成する磁気回路により、反応容器にかかる中心の磁束密度が10~200mT程度の平行磁場を印加することが好ましい。
【0100】
還元反応は還元剤を添加することにより開始させる。還元剤としては、ヒドラジン一水和物が好ましい。ヒドラジン一水和物の濃度は、反応溶液全量に対して、5~40μmol/gとすることが好ましく、15~25μmol/gとすることがより好ましい。ヒドラジン一水物の添加量を5~40μmol/gとすることで、生成するナノワイヤーの収率を低下させず、ナノワイヤーの凝集を抑制することができる。
【0101】
還元反応は、80~100℃の温度範囲でおこなうことが好ましく、85~95℃の温度範囲でおこなうことがより好ましい。還元反応を100℃超える温度でおこなうと、アンモニアの突沸等が生じ、ナノワイヤーが得られない場合がある。一方、還元反応を80℃未満の温度でおこなうと、還元反応の速度が著しく低下する場合がある。
【0102】
還元反応の還元時間は、ナノワイヤーが作製できれば特に限定されないが、通常10分~1時間であり、10~30分とすることが好ましい。
【0103】
ナノワイヤーは、還元反応後、吸引ろ過等のフィルタレーションにより容易に単離することができる。単離したナノワイヤーは、媒体と混合し、固形分を所望の濃度に調製することができる。
【0104】
[バインダー樹脂の溶液または分散液の製造方法]
本発明に用いるバインダー樹脂の溶液または分散液の製造方法は特に限定されず、例えば、バインダー樹脂を媒体に混合および溶解したり、またはバインダー樹脂を媒体に混合および分散させたりすることにより製造することができる。
【0105】
例えば、バインダー樹脂(特にバインダー樹脂(A))の分散液は以下の方法により製造することができる。
バインダー樹脂の分散液の製造方法は特に限定されないが、例えば、バインダー樹脂と塩基性化合物と水、さらに必要に応じて有機溶剤とを、密閉可能な容器中で加熱、攪拌する方法により製造することができる。前記方法によれば、乳化剤成分や保護コロイド作用を有する化合物等の不揮発性水性化助剤を実質的に添加しなくとも、バインダー樹脂の分散液を効率よく得ることができる。
【0106】
容器としては、液体を投入できる槽を備え、槽内に投入された媒体とバインダー樹脂との混合物を適度に攪拌できるものが好ましい。このような装置としては、固/液攪拌装置や乳化機として広く当業者に知られている装置を用いることができ、0.1MPa以上の加圧が可能な装置を用いることが好ましい。本発明においては、攪拌の方法、攪拌の回転速度は特に限定されないが、バインダー樹脂が媒体中で浮遊状態となる程度の低速の攪拌でも十分分散化が達成され、高速攪拌(例えば、1000rpm以上)は必須ではない。このため、簡便な装置でも分散液の製造が可能である。
【0107】
具体的には、この装置の槽内に水、バインダー樹脂と塩基性化合物と水、さらに必要に応じて有機溶剤とを投入し、好ましくは40℃以下の温度で攪拌混合しておく。次いで、槽内の温度を70~210℃、好ましくは80~180℃ 、さらに好ましくは90~150℃の温度に保ちつつ、好ましくは5~120分間攪拌を続けることにより、バインダー樹脂を十分に分散化させ、その後、好ましくは攪拌下で40℃以下に冷却することにより、安定な分散液を得ることができる。槽内の温度が70℃未満の場合は、バインダー樹脂の分散化が十分に進行しない場合がある。槽内の温度が210℃を超える場合は、バインダー樹脂の分子量が低下する場合がある。槽内の加熱方法としては槽外部からの加熱が好ましく、例えば、オイルや水を用いた加熱や、またはヒーターを槽に取り付けて加熱をおこなうことができる。槽内の冷却方法としては、例えば、室温で自然放冷する方法や0~40℃のオイルまたは水を用いて冷却する方法が挙げられる。塩基性化合物としては、ジメチルアミノエタノール、トリエチルアミン等が挙げられる。
【0108】
得られたバインダー樹脂の分散液は、例えば、分散媒の留去や希釈により、所望の固形分濃度に調整することができる。
【0109】
上記の方法により、バインダー樹脂の分散液は、バインダー樹脂が分散媒中に分散され、均一な液状に調製されて得られる。ここで、均一な液状であるとは、外観上、分散液中に沈殿、相分離または皮張りといった、固形分濃度が局部的に他の部分と相違する部分が見いだされない状態にあることを意味する。
【0110】
バインダー樹脂の分散粒子径は、他の成分との混合時の安定性および混合後の保存安定性の観点から、数平均粒子径が1μm以下であることが好ましく、0.8μm以下であることがより好ましい。なお、バインダー樹脂の数平均粒子径は動的光散乱法によって測定することができる。
【0111】
<積層体>
本発明のめっき下地剤を、樹脂基材にコーティングすることにより、表面にめっき下地層を設けた積層体を得ることができる。コーティング可能な樹脂基材の形状は特に限定されず、フィルムやシートだけでなく、立体的な成形物であってもよい。
【0112】
本発明に用いる樹脂基材は、本発明の目的の範囲内であれば特に限定されず、樹脂基材を構成する樹脂として、例えば、ポリカーボネート樹脂;ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂等のポリエステル樹脂;ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン樹脂が挙げられる。近年自動車用途を中心に、従来用いられていたABSより耐熱性や衝撃強度に優れるものが求められていることから、ポリカーボネート樹脂基材が好ましく、耐熱、衝撃強度により優れる汎用のBisA型ポリカーボネート樹脂基材がより好ましい。BisA型ポリカーボネート樹脂とは、モノマー成分としてBisAおよび/またはそのアルキレンオキサイド付加体を含むポリカーボネート樹脂のことである。
【0113】
本発明のめっき下地剤がバインダー樹脂(A)を含む場合、バインダー樹脂(A)は(メタ)アクリル酸エステル成分を有するため、得られるめっき下地層はポリカーボネート樹脂基材への密着性がより高い。
【0114】
樹脂基材へのコーティング方法は特に限定されず、樹脂基材の形状に応じて適宜選択することができる。フィルムやシートへのコーティング方法としては、例えば、ダイコーティングが挙げられ、立体的な成形物へのコーティング方法としては、例えば、ディップコーティングやスプレーコーティングが挙げられる。
【0115】
本発明のめっき下地層の膜厚は特に限定されないが、0.5~5μmとすることが好ましく、1~3μmとすることが好ましい。膜厚は、厚い方がより強い密着力を有する一方、複雑な形状への適応が難しくなる傾向がある。
【0116】
本発明のおいては、エッチング等の煩雑な工程を必要とせず、そのまま無電解めっき液に浸漬することで、樹脂基材にめっき下地層を設けることができる。めっきを施す方法としては無電解めっきを施す方法や、電解めっきを施す方法が挙げられるが、無電解めっきを施す方法の方が一般的である。本発明においては、ナノワイヤーとしてニッケルナノワイヤーを用いることにより、無電解めっきを好適に施すことができる。めっき層(無電解めっき層および電解めっき層;特に無電解めっき層)の密着性および均一性のさらなる向上の観点から、めっき下地剤を樹脂基材上にコーティングしてなる積層体に無電解めっきを施した後、電解めっきを施すことが好ましい。
【0117】
無電解めっきの条件は特に限定されないが、例えば、一般的な無電解めっきの条件である80~95℃で10~20分程度の浸漬をおこなうことで、めっき層を形成することができる。
【0118】
本発明のめっき下地剤を用いれば、樹脂基材にコーティング後、必要に応じて溶媒を留去させ、めっき液に浸漬するだけで、無電解めっき層を設けることができる。このため、従来のエッチング等をおこないめっき層を設ける方法に比べて、簡略かつ安価にめっきをおこなうことができる。また、本発明のめっき下地剤を用いれば、ナノワイヤーの一部が表面に露出し、その他の部分はバインダー樹脂に埋もれた下地層を設けることができる。この結果、樹脂基材上に、非常に強いアンカー効果を有し、高い密着力を有するめっき層を設けることができる。
【0119】
本発明では、無電解めっきを施した後、低コストで緻密かつ金属光沢に優れる電解めっきを施すことができる。電解めっきはバインダー樹脂が分解しないように低電圧に抑えて処理することが好ましく、具体的には、30~50℃(特に40℃)にて、1~3V(特に1.5V)程度の電圧で10~20分程度処理すればよい。
【実施例】
【0120】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、めっき下地剤の評価は、以下の方法によりおこなった。
【0121】
[評価方法]
(1)無電解めっきの評価
実施例および比較例の各々で調製しためっき下地剤を、2.5mm×7mm×2mmのポリカーボネート樹脂基材にスプレーコーティングし、室温で15分、乾燥し、下地層を設けた基材を作製した。
得られた下地層を設けた基材を、90℃に加熱した無電解ニッケルめっき液(奥野製薬工業社製トップニコロンXT-LF)に15分間浸漬した。
【0122】
(1A)無電解めっき層の均一性
得られた無電解めっき層処理を施した基材について、下記式により、析出率を求め、無電解めっき層が均一に形成されているかどうかを、以下の基準で評価した。
(析出割合)=(めっき析出部の面積)/(めっき液に浸漬した面積)×100
◎:99%以上;
○:90%以上99%未満;
△:20%以上90%未満;
×:20%未満。
本発明においては、「△」以上の場合、合格とした。
【0123】
(1B)無電解めっきの密着性
(1A)での評価が「△」以上の無電解めっき処理を施した基材について、めっき面に1cm角の切込みを入れ、該当部にセロテープ(登録商標)を貼り、瞬間的に剥離し、密着性を以下の基準で評価した。
◎:剥離なし。
○:ポリカーボネート樹脂基材と下地層の界面または下地層とめっき層の界面で、一部剥離した。
×:ポリカーボネート樹脂基材と下地層の界面ですべて剥離した。
××:下地層とめっき層の界面ですべて剥離した。
本発明においては、「○」以上の場合、合格とした。
【0124】
(2)電解めっきの評価
無電解めっき処理を施した基材を直流電源の(-)側に接続し、(+)側にニッケル板を接続した。接続したサンプルとニッケル板を3cmの間隔を空け、40℃に加熱した電解ニッケルめっき液(清川メッキ工業社製M-2)に浸漬し、1.5Vの電圧を15分間印加した。
【0125】
(2A)電解めっき層の均一性
得られた電解めっき処理を施した基材に、電解めっき層が均一に形成されているかどうかを、以下の基準で評価した。
◎:電解めっき層が形成され(金属光沢の向上があった)、ピンホールや膨れも発生しなかった。
○:電解めっき層が形成されたものの(金属光沢の向上があった)、ピンホールが発生した。
●:電解めっき層が形成されたものの(金属光沢の向上があった)、めっき面に膨れが発生した。
×:電解めっき層が形成されたものの(金属光沢の向上があった)、めっき面に一部剥がれが発生した。
××:電解めっき層が形成されなかった(金属光沢が向上しなかった)。
本発明においては、「●」以上の場合、合格とした。
【0126】
(2B)電解めっき層の密着性
得られた電解めっき処理を施した基材にセロテープ(登録商標)を貼り、瞬間的に剥離し、密着性を以下の基準で評価した。
◎:剥離なし。
○:一部剥離した。
×:すべて剥離した。
本発明においては、「○」以上の場合、合格とした。
【0127】
[材料]
(1)Ox:オキサゾリン基含有ポリマー、日本触媒社製 エポクロスWS700、固形分濃度25質量%
(2)NiP:ニッケル粒子、ヴァーレ社製、ニッケルパウダーType123
(3)PC:ポリカーボネート(帝人社製、L-1225Y)
(4)PVP:ポリビニルピロリドン(富士フイルム和光純薬製、K90)、K値90
【0128】
[実験例A]
実施例1A
(ナノワイヤーの水分散液の調製)
塩化ニッケル六水和物4.00質量部、クエン酸三ナトリウム二水和物0.375質量部をエチレングリコールに添加し、全量で500質量部とした。この溶液を90℃に加熱し、すべて溶解させた。
水酸化ナトリウム1.00質量部をエチレングリコールに添加し、全量で475質量部にした。この溶液を90℃に加熱し、水酸化ナトリウムを溶解させた。
上記2つの溶液を混合し、28%アンモニア水25質量部、ヒドラジン一水和物1.00質量部の順で添加し、すぐに、中心に150mTの磁場が印加できる磁気回路に入れ、当該磁場を印加し、90~95℃に維持したまま15分間静置して還元反応をおこなった。
還元反応後、吸引ろ過によりナノワイヤーを回収した。得られたナノワイヤー(NiNW)の平均長は23μm、平均径は93nm、粒子連結形状であった。
得られたナノワイヤーとジクロロメタンを混合し、固形分濃度が1.0質量%のNiNWの水分散液を調製した。
【0129】
(バインダー樹脂の分散液の調製)
エチレン-アクリル酸エチル-無水マレイン酸共重合体(EAM、質量比:エチレン/アクリル酸エチル/無水マレイン酸=84.2/13/2.8、メルトフローレート(JIS K 6730準拠、190℃、2160g荷重)10g/10分以下)45.0質量部、105.0質量部のテトラヒドロフラン、3.0質量部のシクロヘキサン、9.0質量部のジメチルアミノエタノールおよび138.0質量部の蒸留水をガラス容器内に仕込み、攪拌翼の回転速度を300rpmとして攪拌した。この状態を保ちつつ、ヒーターの電源を入れ加熱し、系内温度を125℃に保って60分間攪拌した。その後、水浴につけて攪拌しつつ室温(約25℃)迄冷却し、80.0質量部の蒸留水を追加した。得られた分散液を容器に入れ、60℃に加熱しながら減圧し、155.0質量部の媒体を留去した。冷却後、液状成分を300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)し、乳白色の均一な固形分濃度が20質量%のEAMの水分散液を調製した。
【0130】
(めっき下地剤の調製)
EAMの水分散液0.9質量部を水89.1質量部で徐々に希釈した後、NiNWの水分散液10.0質量部を撹拌しながら添加して、めっき下地剤を調製した。
【0131】
実施例2A
(ナノワイヤーのエチレングリコール分散液の調製)
実施例1Aで得られたナノワイヤーとエチレングリコールを混合し、固形分濃度が1.0質量%のNiNWのエチレングリコール分散液を調製した。
【0132】
(めっき下地剤の調製)
EAMの水分散液0.9質量部をエチレングリコール89.1質量部で徐々に希釈した後、NiNWのエチレングリコール分散液10.0質量部を撹拌しながら添加して、めっき下地剤を調製した。
【0133】
実施例3A
(ナノワイヤーのエタノール分散液の調製)
実施例1Aで得られたナノワイヤーとエタノールを混合し、固形分濃度が1.0質量%のNiNWのエタノール分散液を調製した。
【0134】
(めっき下地剤の調製)
EAMの水分散液0.9質量部をエタノール89.1質量部で徐々に希釈した後、NiNWのエタノール分散液10.0質量部を撹拌しながら添加して、めっき下地剤を調製した。
【0135】
実施例4A
(ナノワイヤーのテトラヒドロフラン分散液の調製)
実施例1Aで得られたナノワイヤーとテトラヒドロフラン(THF)を混合し、固形分濃度が1.0質量%のNiNWのTHF分散液を調製した。
【0136】
(バインダー樹脂溶液の調製)
EAM0.18質量部をTHF89.82質量部で希釈して、固形分濃度1.0質量%のEAMのTHF溶液を調製した。
(めっき下地剤の調製)
EAMのTHF溶液90.0質量部に、NiNWのTHF分散液10.0質量部を撹拌しながら添加して、めっき下地剤を調製した。
【0137】
実施例5A~8A
めっき下地剤においてNiNWとEAMの質量比率が表1の組成になるように、NiNWの分散液とEAMの分散液の配合量を変更する以外は、実施例1Aと同様の操作をおこなって、めっき下地剤を調製した。
【0138】
実施例9A
(めっき下地剤の調製)
EAMの水分散液0.2質量部を水89.78質量部で徐々に希釈した後、Ox0.02質量部を徐々に添加して十分に撹拌した。その後、NiNWの水分散液10.0質量部を撹拌しながら添加して、めっき下地剤を調製した。
【0139】
実施例10A~13A
めっき下地剤においてNiNWとEAMとOxの質量比率が表1の組成になるように、NiNWの分散液とEAMの分散液とOxの配合量を変更する以外は、実施例9Aと同様の操作をおこなって、めっき下地剤を調製した。
【0140】
比較例1A
(めっき下地剤の調製)
EAMの水分散液0.9質量部を水99.0質量部で徐々に希釈した後、NiP0.10質量部を攪拌しながら添加して、めっき下地剤を調製した。
【0141】
比較例2A
めっき下地剤においてNiPとEAMの質量比率が表1の組成になるように、NiPとEAMの分散液と水の配合量を変更する以外は、比較例1Aと同様の操作をおこなって、めっき下地剤を調製した。
【0142】
比較例3A
EAMの水分散液0.2質量部を水99.66質量部で徐々に希釈した後、Ox0.04質量部を徐々に添加して十分に撹拌した。その後、NiP0.10質量部を撹拌しながら添加して、めっき下地剤を調製した。
【0143】
比較例4A
(バインダー樹脂の分散液の調製)
プロピレン/ブテン/エチレン共重合体(PBE、質量比:プロピレン/1-ブテン/エチレン=64.8/23.9/11.3、メルトフローレート(JIS K 6730準拠、190℃、2160g荷重)10g/10分以下)280質量部を、容器中において、窒素雰囲気下で加熱溶融させた。その後、系内温度を170℃に保って、攪拌下、無水マレイン酸32質量部とジクミルパーオキサイド6質量部とをそれぞれ1時間かけて加え、その後1時間反応させた。反応終了後、得られた反応物を多量のアセトン中に投入し、樹脂を析出させた。この樹脂をさらにアセトンで数回洗浄し、未反応の無水マレイン酸を除去した後、減圧乾燥して、酸変性プロピレン/ブテン/エチレン三元共重合体からなるポリオレフィン系樹脂を合成した。続いて、ヒーター付きの密閉できる耐圧ガラス容器を備えた攪拌機を用いて、45.0質量部の上記ポリオレフィン系樹脂、105.0質量部のテトラヒドロフラン、3.0質量部のシクロヘキサン、9.0質量部のジメチルアミノエタノールおよび138.0質量部の蒸留水をガラス容器内に仕込み、攪拌翼の回転速度を300rpmとして攪拌した。この状態を保ちつつ、ヒーターの電源を入れ加熱し、系内温度を125℃に保って60分間攪拌した。その後、水浴につけて攪拌しつつ室温(約25℃)迄冷却し、80.0質量部の蒸留水を追加した。得られた分散液を容器に入れ、60℃に加熱しながら減圧し、155.0質量部の媒体を留去した。冷却後、容器内の液状成分を300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)し、乳白色の均一な固形分濃度が20質量%のPBEの水分散液を調製した。
【0144】
(めっき下地剤の調製)
PBEの水分散液0.2質量部を水89.8質量部で徐々に希釈した後、NiNWの水分散液10.0質量部を撹拌しながら添加して、めっき下地剤を調製した。
【0145】
比較例5A~8A
めっき下地剤においてNiNWとPBEの質量比率が表1の組成になるように、NiNWの分散液とPBEの分散液と水の配合量を変更する以外は、比較例4Aと同様の操作をおこなって、めっき下地剤を調製した。
【0146】
比較例9A
EAMをPBEに変更する以外は、実施例9Aと同様の操作をおこなって、めっき下地剤を調製した。
【0147】
比較例10A~13A
めっき下地剤においてNiNWとPBEとOxの質量比率が表1の組成になるように、NiNWの分散液とPBEの分散液とOxと水の配合量を変更する以外は、比較例9Aと同様の操作をおこなって、めっき下地剤を調製した。
【0148】
本実験例の実施例および比較例で得られためっき下地剤の配合組成および積層体の評価結果を表1に示す。
【0149】
【0150】
実施例1A~13Aでは、ナノワイヤーおよび親水基成分と(メタ)アクリル酸エステル成分を有するバインダー樹脂を含有するめっき下地剤を用いたため、無電解めっき液に浸漬するだけで、ポリカーボネート樹脂基材に対して高い密着力を有するめっき層を設けることができた。特に、実施例9A~13Aでは、オキサゾリン化合物を含有することから下地層の化学的耐性が向上し、電解めっき後も、ポリカーボネート樹脂基材に対して高い密着力を保持していた。
【0151】
実施例1A~4Aを対比することにより、分散媒として、アルコール、グリコール、または水を用いためっき下地剤を用いたほうが、より均一でより高い密着力を有する無電解めっき層を得ることができることがわかる。
【0152】
また、実施例1A、5A~8Aを対比することにより、ナノワイヤーとバインダー樹脂の質量比率が0.5~2.0であるめっき下地剤を用いた方が、より均一でより高い密着力を有する無電解めっき層を得ることができることがわかる。
【0153】
さらに、実施例10Aおよび11Aを他の実施例および比較例と対比すると、バインダー樹脂(A)を用いる場合、ナノワイヤーとバインダー樹脂の質量比率が0.5~2.0であり、かつ架橋剤(特にオキサゾリン化合物)をさらに含むめっき下地剤を用いることにより、より均一で、より高い密着力を有する無電解めっき層および電解めっき層を得ることができることがわかる。
【0154】
比較例1A~3Aでは、ナノワイヤーではなく粒子を用いたため、密着性に劣り、剥離が発生しやすいめっき層(特に無電解めっき層)しか得られなかった。
比較例4A~13Aでは、バインダー樹脂にエステル結合を含有しないポリマーを用いたため、電解めっき後、電解めっき中に剥離が生じる等の密着性に劣るめっき層しか得られなかった。詳しくは、比較例4A~13Aでは、バインダー樹脂にエステル結合を含有しないポリマーを用いたため、無電解めっき層の均一性または密着性が劣り、仮に、均一性および密着性に優れた無電解めっき層が得られたとしても、当該無電解めっき層上に形成される電解めっき層の均一性および/または密着性が劣った。
【0155】
[実験例B]
実施例1B
(ナノワイヤーの分散液の調製)
塩化ニッケル六水和物4.00質量部、クエン酸三ナトリウム二水和物0.375質量部をエチレングリコールに添加し、全量で500質量部とした。この溶液を90℃に加熱し、すべて溶解させた。
水酸化ナトリウム1.00質量部をエチレングリコールに添加し、全量で475質量部にした。この溶液を90℃に加熱し、水酸化ナトリウムを溶解させた。
上記2つの溶液を混合し、28%アンモニア水25質量部、ヒドラジン一水和物1.00質量部の順で添加し、すぐに、中心に150mTの磁場が印加できる磁気回路に入れ、当該磁場を印加し、90~95℃に維持したまま15分間静置して還元反応をおこなった。
還元反応後、吸引ろ過によりナノワイヤーを回収した。得られたナノワイヤー(NiNW)の平均長は23μm、平均径は93nm、粒子連結形状であった。
得られたナノワイヤーとメチルエチルケトンを混合し、固形分濃度が1.0質量%のNiNWの分散液を調製した。
【0156】
(共重合ポリエステル樹脂A(PES-A)溶液の調製)
テレフタル酸(TPA)83質量部(50モル比)、イソフタル酸(IPA)83質量部(50モル比)、エチレングリコール(EG)50質量部(80モル比)、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンのエチレンオキサイド付加体(BisAEO)158質量部(50モル比)および重合触媒としてテトラブチルチタネート0.1質量部を反応器に仕込み、系内を窒素に置換した。そして、これらの原料を1000rpmで撹拌しながら、反応器を245℃で加熱し、溶融させた。反応器内温度が245℃に到達してから、3時間エステル化反応を進行させた(エステル化反応)。3時間経過後、系内の温度を240℃にし、系内を減圧した。系内が高真空(圧力:0.1~10-5Pa)に到達してから、さらに3.0時間重合反応をおこなった(重縮合反応)。
重合完了後反応器より共重合ポリエステル樹脂A(PES-A)を払い出した。
得られた共重合ポリエステル樹脂A(PES-A)の樹脂組成を1H-NMR、数平均分子量をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したところ、樹脂組成(モル比率)はTPA/IPA/EG/BisAEO=50/50/50/50、数平均分子量は18000であった。
共重合ポリエステル樹脂A(PES-A) 1.0質量部をトルエン/メチルエチルケトン混合溶媒(トルエン/メチルエチルケトン=4/1(質量比率))9.0質量部に溶解し、固形分濃度が10.0質量%の共重合ポリエステル樹脂A(PES-A)溶液を調製した。
【0157】
(めっき下地剤の調製)
1.0質量%のNiNWの分散液10.0質量部と、10.0質量%の共重合ポリエステル樹脂A(PES-A)溶液1.0質量部と、メチルエチルケトン89.0質量部とを混合して、めっき下地剤を調製した。
【0158】
実施例2B~6B
めっき下地剤においてNiNWと共重合ポリエステル樹脂の質量比率が表2の組成になるように、NiNWの分散液と共重合ポリエステル樹脂A溶液の配合量を変更する以外は、実施例1Bと同様の操作をおこなって、めっき下地剤を調製した。
【0159】
実施例7B
(共重合ポリエステル樹脂B(PES-B)溶液の調製)
テレフタル酸(TPA)83質量部(50モル比)、イソフタル酸(IPA)83質量部(50モル比)、エチレングリコール(EG)38質量部(62モル比)、ネオペンチルグリコール(NPG)66質量部(63モル比)、PTMG1000(PTMG)50質量部(5モル比)および重合触媒としてテトラブチルチタネート0.1質量部を反応器に仕込み、系内を窒素に置換した。そして、これらの原料を1000rpmで撹拌しながら、反応器を245℃で加熱し、溶融させた。反応器内温度が245℃に到達してから、3時間エステル化反応を進行させた(エステル化反応)。3時間経過後、系内の温度を240℃にし、系内を減圧した。系内が高真空(圧力:0.1~10-5Pa)に到達してから、さらに3.0時間重合反応をおこなった(重縮合反応)。
重合完了後反応器より共重合ポリエステル樹脂B(PES-B)を払い出した。
得られた共重合ポリエステル樹脂B(PES-B)の樹脂組成を1H-NMR、数平均分子量をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したところ、樹脂組成(モル比率)はTPA/IPA/EG/NPG/PTMG=50/50/47.5/47.5/5、数平均分子量は28000であった。
共重合ポリエステル樹脂B(PES-B) 1.0質量部をトルエン/メチルエチルケトン混合溶媒(トルエン/メチルエチルケトン=4/1(質量比率))9.0質量部に溶解し、固形分濃度が10.0質量%の共重合ポリエステル樹脂B(PES-B)溶液を調製した。
【0160】
(めっき下地剤の調製)
1.0質量%のNiNWの分散液10.0質量部と、10.0質量%の共重合ポリエステル樹脂B(PES-B)溶液1.0質量部と、メチルエチルケトン89.0質量部とを混合して、めっき下地剤を調製した。
【0161】
実施例8B
(共重合ポリエステル樹脂C溶液の調製)
テレフタル酸(TPA)83質量部(50モル比)、イソフタル酸(IPA)83質量部(50モル比)、エチレングリコール(EG)42質量部(67モル比)、ネオペンチルグリコール(NPG)71質量部(63モル比)および重合触媒としてテトラブチルチタネート0.1質量部を反応器に仕込み、系内を窒素に置換した。そして、これらの原料を1000rpmで撹拌しながら、反応器を245℃で加熱し、溶融させた。反応器内温度が245℃に到達してから、3時間エステル化反応を進行させた(エステル化反応)。3時間経過後、系内の温度を240℃にし、系内を減圧した。系内が高真空(圧力:0.1~10-5Pa)に到達してから、さらに3.0時間重合反応をおこなった(重縮合反応)。
重合完了後反応器より共重合ポリエステル樹脂C(PES-C)を払い出した。
得られた共重合ポリエステル樹脂C(PES-C)の樹脂組成を1H-NMR、数平均分子量をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したところ、樹脂組成(モル比率)はTPA/IPA/EG/NPG=50/50/50/50、数平均分子量は22000であった。
共重合ポリエステル樹脂C(PES-C) 1.0質量部をトルエン/メチルエチルケトン混合溶媒(トルエン/メチルエチルケトン=4/1(質量比率))9.0質量部に溶解し、固形分濃度が10.0質量%の共重合ポリエステル樹脂C(PES-C)溶液を調製した。
【0162】
(めっき下地剤の調製)
1.0質量%のNiNWの分散液10.0質量部と、10.0質量%の共重合ポリエステル樹脂C(PES-C)溶液1.0質量部と、メチルエチルケトン89.0質量部とを混合して、めっき下地剤を調製した。
【0163】
実施例9B
(全芳香族共重合ポリエステル樹脂D溶液の調製)
テレフタル酸(TPA)83質量部(50モル比)、イソフタル酸(IPA)83質量部(50モル比)、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(BisA)114質量部(50モル比)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン(BisTMC)230質量部(75モル比)、無水酢酸255質量部(250モル比)を、撹拌装置を備えた反応容器に仕込み、窒素雰囲気下で、常圧、140℃で2時間撹拌混合させて反応させた(アセチル化反応)。続いて、140℃で4-(β-ヒドロキシ)エトキシ安息香酸(POB)69質量部(50モル比)を投入した後、280℃まで3時間かけて昇温し、280℃で1時間保持した。その後280℃で90分かけて130Paまで減圧し、2時間重合反応をおこなった(脱酢酸重合反応)。
重合完了後反応器より共重合ポリエステル樹脂D(PES-D)を払い出した。
得られた共重合ポリエステル樹脂D(PES-D)の樹脂組成を1H-NMR、数平均分子量をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したところ、樹脂組成(モル比率)はTPA/IPA/BisA/BisTMC/POB=50/50/50/50/50、数平均分子量は4000であった。
全芳香族共重合ポリエステル樹脂D(PES-D) 1.0質量部をトルエン/メチルエチルケトン混合溶媒(トルエン/メチルエチルケトン=4/1(質量比率))9.0質量部に溶解し、固形分濃度が10.0質量%の共重合ポリエステル樹脂D(PES-D)溶液を調製した。
【0164】
(めっき下地剤の調製)
1.0質量%のNiNWの分散液10.0質量部と、10.0質量%の共重合ポリエステル樹脂D(PES-D)溶液1.0質量部と、メチルエチルケトン89.0質量部とを混合して、めっき下地剤を調製した。
【0165】
比較例1B
(めっき下地剤の調製)
10.0質量%の共重合ポリエステル樹脂A(PES-A)溶液1.0質量部と、メチルエチルケトン98.9質量部とを混合し、さらにNiP 0.1質量部を撹拌しながら添加して、めっき下地剤を調製した。
【0166】
比較例2B
(NiNWの水分散液の調製)
実施例1Bと同様の方法で調製したNiNWを水と混合し、固形分濃度が1.0質量%のNiNWの水分散液を調製した。
【0167】
(めっき下地剤の調製)
PVP 0.1質量部を水89.9質量部に溶解し、さらに1.0質量%のNiNWの水分散液10.0質量部を攪拌しながら添加して、めっき下地剤を調製した。
【0168】
本実験例の実施例および比較例で得られためっき下地剤の配合組成および積層体の評価結果を表2に示す。
【0169】
【0170】
実施例1B~9Bは、ナノワイヤーと共重合ポリエステル樹脂とを含有するめっき下地剤を用いたため、無電解めっき液に浸漬するだけで、ポリカーボネート樹脂基材に対して高い密着力を有するめっき層を設けることができた。中でも、実施例1B~6B、9Bでは、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンおよび/またはそのアルキレンオキサイド付加体を共重合成分として含む共重合ポリエステル樹脂を含有するめっき下地剤を用いたため、ポリカーボネート樹脂基材に対してより高い密着力を有する無電解めっき層を設けることができた。
実施例1B~6Bおよび9Bを対比することにより、ナノワイヤーと共重合ポリエステル樹脂の質量比率が1.0~3.0のめっき下地剤を用いた方が、より均一でより高い密着力を有する無電解めっき層を得ることができることがわかる。
【0171】
さらに、実施例1B、3B、4Bおよび9Bを他の実施例および比較例と対比すると、バインダー樹脂(B)を用いる場合、ナノワイヤーとバインダー樹脂の質量比率が0.8~3.2(特に1.0~3.0)であり、かつ共重合ポリエステル樹脂が2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンおよび/またはそのアルキレンオキサイド付加体を共重合成分として含むことにより、より均一で、より高い密着力を有する無電解めっき層および電解めっき層を得ることができることがわかる。
【0172】
比較例1Bでは、ナノワイヤーではなく粒子を用いたため、めっき層を得ることができなかった。
比較例2Bでは、バインダー樹脂にエステル結合を含有しないポリマーを用いたため、下地剤が不均一で、密着力に優れる無電解めっき層を得ることができなかった。詳しくは、比較例2Bでは、バインダー樹脂にエステル結合を含有しないポリマーを用いたため、無電解めっき層の均一性または密着性が劣った。
【0173】
[実験例C]
実施例1C
(ナノワイヤーの分散液の調製)
塩化ニッケル六水和物4.00質量部、クエン酸三ナトリウム二水和物0.375質量部をエチレングリコールに添加し、全量で500質量部とした。この溶液を90℃に加熱し、すべて溶解させた。
水酸化ナトリウム1.00質量部をエチレングリコールに添加し、全量で475質量部にした。この溶液を90℃に加熱し、水酸化ナトリウムを溶解させた。
上記2つの溶液を混合し、28%アンモニア水25質量部、ヒドラジン一水和物1.00質量部の順で添加し、すぐに、中心に150mTの磁場が印加できる磁気回路に入れ、当該磁場を印加し、90~95℃に維持したまま15分間静置して還元反応をおこなった。
還元反応後、吸引ろ過によりナノワイヤーを回収した。得られたナノワイヤー(NiNW)の平均長は23μm、平均径は93nm、粒子連結形状であった。
得られたナノワイヤーとジクロロメタンを混合し、固形分濃度が1.0質量%のNiNWの分散液を調製した。
【0174】
(ポリカーボネート樹脂(PC)溶液の調製)
PC 0.1質量部をジクロロメタン89.9質量部に溶解し、固形分濃度が0.11質量%のPCの溶液を得た。
【0175】
(めっき下地剤の作製)
NiNWの分散液10.0質量部に、PCの溶液90.0質量部を撹拌しながら添加して、めっき下地剤を作製した。
【0176】
実施例2C~6C
めっき下地剤においてNiNWとPCの質量比率が表3の組成になるように、NiNWの分散液とポリカーボネート樹脂(PC)溶液の配合量を変更する以外は、実施例1Cと同様の操作をおこなって、めっき下地剤を調製した。
【0177】
比較例1C
(めっき下地剤の作製)
PC 0.1質量部をジクロロメタン99.8質量部に溶解し、さらにNiP0.1質量部を撹拌しながら添加して、めっき下地剤を調製した。
【0178】
比較例2C
PVP 0.1質量部をジクロロメタン89.9質量部に溶解し、さらにNiNWのジクロロメタン分散液10.0質量部を撹拌しながら添加して、めっき下地剤を調製した。
【0179】
本実験例の実施例および比較例で得られためっき下地剤の配合組成および積層体の評価結果を表3に示す。
【0180】
【0181】
実施例1C~6Cでは、ナノワイヤーおよびポリカーボネート樹脂を含有するめっき下地剤を用いたため、無電解めっき液に浸漬するだけで、ポリカーボネート樹脂基材に対して高い密着力を有するめっき層を設けることができた。
実施例1C~4Cでは、ナノワイヤーとポリカーボネート樹脂の質量比率が1.0以上であるめっき下地剤を用いたため、より均一でより高い密着力を有する無電解めっき層を得ることができた。
実施例1C、3C、4Cでは、ナノワイヤーとポリカーボネート樹脂の質量比率が1.0~3.0のめっき下地剤を用いたため、無電解めっき層上に、より均一でより高い密着力を有する電解めっき層を得ることができた。
【0182】
さらに、実施例1C、3Cおよび4Cを他の実施例および比較例と対比すると、バインダー樹脂(C)を用いる場合、ナノワイヤーとバインダー樹脂の質量比率が0.8~3.2(特に1.0~3.0)であることにより、より均一で、より高い密着力を有する無電解めっき層および電解めっき層を得ることができることがわかる。
【0183】
比較例1Cでは、ナノワイヤーではなく粒子を用いたため、めっき層を得ることができなかった。
比較例2Cでは、バインダー樹脂としてエステル結合を含有しないポリマーを用いたため、下地層が不均一で、無電解めっき層の密着力が弱かった。詳しくは、比較例2Cでは、バインダー樹脂にエステル結合を含有しないポリマーを用いたため、無電解めっき層の均一性または密着性が劣った。
【産業上の利用可能性】
【0184】
本発明のめっき下地剤は、樹脂基材へのめっき層の形成に有用である。詳しくは、本発明のめっき下地剤は、樹脂基材とめっき層との密着性向上を目的としてそれらの間に形成されるめっき下地層の形成に有用である。