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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-24
(45)【発行日】2024-05-07
(54)【発明の名称】クリップと、天井下地及びその施工方法
(51)【国際特許分類】
   E04B 9/16 20060101AFI20240425BHJP
   E04B 9/18 20060101ALI20240425BHJP
【FI】
E04B9/16 B
E04B9/18 B
E04B9/18 K
E04B9/18 Q
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021566917
(86)(22)【出願日】2020-11-18
(86)【国際出願番号】 JP2020043011
(87)【国際公開番号】W WO2021131419
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2023-05-15
(31)【優先権主張番号】P 2019235925
(32)【優先日】2019-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000160359
【氏名又は名称】吉野石膏株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】須藤 潮
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 知哉
(72)【発明者】
【氏名】山下 琢治
(72)【発明者】
【氏名】渡部 裕輔
【審査官】土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】韓国登録特許第10-0763871(KR,B1)
【文献】韓国公開実用新案第20-2010-0007361(KR,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 9/16,9/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
野縁受けに対して、該野縁受けに交差する野縁を固定するクリップであって、
前記野縁受けの幅を有する頂片と、
前記頂片の一端から垂下し、左右に張り出して前記野縁に係合する第一係合突起を下方に備えている、第一垂れ片と、
前記頂片の他端から垂下し、左右に張り出して前記野縁に係止する第二係合突起を下方に備えている、第二垂れ片と、を有し、
前記第一垂れ片は前記第二垂れ片よりも長さが長く、
前記第一垂れ片の途中位置のみに、前記第二垂れ片の方向に張り出す凹部が設けられている、クリップ。
【請求項2】
野縁受けに対して、該野縁受けに交差する野縁を固定するクリップであって、
前記野縁受けの幅を有する頂片と、
前記頂片の一端から垂下し、左右に張り出して前記野縁に係合する第一係合突起を下方に備えている、第一垂れ片と、
前記頂片の他端から垂下し、左右に張り出して前記野縁に係止する第二係合突起を下方に備えている、第二垂れ片と、を有し、
前記第一垂れ片は前記第二垂れ片よりも長さが長く、
前記第一垂れ片の途中位置のみに、前記第二垂れ片の方向に張り出す凹部が設けられており、
前記第一係合突起のみが、該第一係合突起の張り出す根元において下方に窪んだ係合窪みを備えている、クリップ。
【請求項3】
前記第一垂れ片の途中位置にある前記凹部が、溝条の凹部である、請求項1又はに記載のクリップ。
【請求項4】
前記係合窪みの外側に補強リブが設けられている、請求項に記載のクリップ。
【請求項5】
前記第一垂れ片と前記第二垂れ片はいずれも、それらの下部の幅が上部の幅よりも狭くなっており、それぞれの該下部に前記第一係合突起と前記第二係合突起が備えてあり、該上部の幅と、該下部において左右に張り出す該第一係合突起の幅及び該第二係合突起の幅が、同一もしくは略同一である、請求項1乃至のいずれか一項に記載のクリップ。
【請求項6】
左右に張り出す前記第一係合突起は、それらの端部から前記第一垂れ片の下端に向かって内側に傾斜しており、
左右に張り出す前記第二係合突起は、それらの端部から前記第二垂れ片の下端に向かって内側に傾斜している、請求項1乃至のいずれか一項に記載のクリップ。
【請求項7】
前記頂片と前記第一垂れ片と前記第二垂れ片にはいずれも、補強突起が設けられている、請求項1乃至のいずれか一項に記載のクリップ。
【請求項8】
ウエブと、リップを備えた二つのフランジと、を有するリップ付き溝型鋼により形成され、側方に開口を向けた状態で建物の躯体から吊り下げられている、野縁受けと、
ウエブと、リップを備えた二つのフランジと、を有するリップ付き溝型鋼により形成され、上方に開口を向けた状態で、前記野縁受けに対して交差しながら当接している、野縁と、
前記野縁受けに対して前記野縁を固定するクリップと、を有し、
前記クリップは、
前記野縁受けの幅を有する頂片と、
前記頂片の一端から垂下し、左右に張り出して前記野縁に係合する第一係合突起を下方に備えている、第一垂れ片と、
前記頂片の他端から垂下し、左右に張り出して前記野縁に係止する第二係合突起を下方に備えている、第二垂れ片と、を有し、
前記第一垂れ片は前記第二垂れ片よりも長さが長く、
前記第一垂れ片の途中位置のみに、前記第二垂れ片の方向に張り出す凹部が設けられており、
前記第一垂れ片が前記野縁受けの前記開口の一部を塞ぐようにして、前記クリップが該野縁受けに上方から嵌め込まれて、前記野縁受けの有する上方の前記フランジの隅角部に前記第一垂れ片の有する前記凹部が引っ掛けられており、
左右に張り出している前記第一係合突起と前記第二係合突起が、前記野縁の有する二つの前記フランジに係合もしくは係止している、天井下地。
【請求項9】
前記クリップの前記第一係合突起のみが、該第一係合突起の張り出す根元において下方に窪んだ係合窪みを備え、
前記リップが先端に折れ部を備えており、
前記係合窪みに前記折れ部が嵌まり込んだ状態で、前記第一係合突起が前記フランジに係合している、請求項に記載の天井下地。
【請求項10】
ウエブと、リップを備えた二つのフランジと、を有するリップ付き溝型鋼により形成され、側方に開口を向けた状態で建物の躯体から吊り下げられている、野縁受けと、
ウエブと、リップを備えた二つのフランジと、を有するリップ付き溝型鋼により形成され、上方に開口を向けた状態で、前記野縁受けに対して交差しながら当接している、野縁と、
前記野縁受けに対して前記野縁を固定するクリップと、を有し、
前記クリップは、
前記野縁受けの幅を有する頂片と、
前記頂片の一端から垂下し、左右に張り出して前記野縁に係合する第一係合突起を下方に備えている、第一垂れ片と、
前記頂片の他端から垂下し、左右に張り出して前記野縁に係止する第二係合突起を下方に備えている、第二垂れ片と、を有し、
前記第一垂れ片は前記第二垂れ片よりも長さが長く、
前記第一垂れ片の途中位置のみに、前記第二垂れ片の方向に張り出す凹部が設けられている、天井下地を施工する、天井下地の施工方法であって、
前記第一垂れ片が前記野縁受けの前記開口の一部を塞ぐようにして、前記クリップを該野縁受けの上方から嵌め込んでいき、この嵌め込みの過程において、前記野縁受けの有する上方の前記フランジの隅角部に前記第一垂れ片の有する前記凹部を引っ掛けた際に、該第一垂れ片の下端が該野縁受けの有する下方の前記フランジの前記リップに当接され、
前記クリップに対して下方から前記野縁を嵌め込むことにより、左右に張り出している前記第一係合突起と前記第二係合突起を、前記野縁の有する二つの前記リップ付きフランジに係合もしくは係止させ、該クリップにて前記野縁受けに対して前記野縁を固定する、天井下地の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、クリップと、天井下地及びその施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建物の躯体等から吊り下げられている複数の野縁受けに対して、複数の野縁を例えば相互に直交するように野縁の下方に位置決めし、野縁受けと野縁の格点をクリップ(固定具)にて固定することにより天井下地が施工されている。天井下地を形成する複数の野縁に対して、石膏ボード等の天井面材が嵌め込まれたり、ビス等による固定手段にて固定されることにより、吊り天井等の天井が形成される。
【0003】
上記するクリップに特徴を有する吊り天井が提案されている。具体的には、複数本の吊りチャンネルを水平吊りし、このチャンネル下に中間用として細幅のシングル野縁と、シングル野縁の二倍幅を有す要部張設用のダブル野縁とを交互させ、共用形のクリップを用いて双方を交差した状態で掛着させる。クリップは、所謂、片支持型のクリップであり、その上部には、吊りチャンネル上に折り当てする部分と、その先を二股に分けてなる曲げ止め片とを有し、その下部には、掛止部に嵌合して掛止する掛止脚を有する。吊り天井は、ダブル野縁のクリップ掛着口をシングル野縁の掛着口と同幅に狭めるとともに、該掛着口を一側の側板に近接して形成し、ダブル野縁の他側の側板を吊りチャンネル端外に突出することにより垂直壁面に当接させている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-13861号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の吊り天井によれば、ダブル野縁のクリップ掛着口をシングル野縁と同幅にしたことにより、一種のクリップにてシングル野縁とダブル野縁の双方を吊りチャンネル下に掛着することができ、クリップを取り扱い易くして無駄を解消することができる。しかしながら、クリップの曲げ止め片を曲げて吊りチャンネルにクリップを留めることから、施工性に課題がある。また、特許文献1をはじめとする、所謂、片支持型のクリップでは、例えば地震等の際の建物の揺れに対して野縁が野縁受けから外れ、野縁と天井面材が脱落する危険性がある。
【0006】
本開示は、施工性が良好であり、かつ、建物が振動した際の天井面材の脱落を抑制もしくは抑止できる、クリップと、このクリップを用いた天井下地及びその施工方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様によるクリップは、
野縁受けに対して、該野縁受けに交差する野縁を固定するクリップであって、
前記野縁受けの幅を有する頂片と、
前記頂片の一端から垂下し、左右に張り出して前記野縁に係合する第一係合突起を下方に備えている、第一垂れ片と、
前記頂片の他端から垂下し、左右に張り出して前記野縁に係止する第二係合突起を下方に備えている、第二垂れ片と、を有し、
前記第一垂れ片は前記第二垂れ片よりも長さが長く、
前記第一垂れ片の途中位置には、前記第二垂れ片の方向に張り出す凹部が設けられている。
【0008】
また、本開示の他の態様によるクリップは、
野縁受けに対して、該野縁受けに交差する野縁を固定するクリップであって、
前記野縁受けの幅を有する頂片と、
前記頂片の一端から垂下し、左右に張り出して前記野縁に係合する第一係合突起を下方に備えている、第一垂れ片と、
前記頂片の他端から垂下し、左右に張り出して前記野縁に係止する第二係合突起を下方に備えている、第二垂れ片と、を有し、
前記第一係合突起のみが、該第一係合突起の張り出す根元において下方に窪んだ係合窪みを備えている。
【0009】
また、本開示の他の態様によるクリップは、
野縁受けに対して、該野縁受けに交差する野縁を固定するクリップであって、
前記野縁受けの幅を有する頂片と、
前記頂片の一端から垂下し、左右に張り出して前記野縁に係合する第一係合突起を下方に備えている、第一垂れ片と、
前記頂片の他端から垂下し、左右に張り出して前記野縁に係止する第二係合突起を下方に備えている、第二垂れ片と、を有し、
前記第一垂れ片は前記第二垂れ片よりも長さが長く、
前記第一垂れ片の途中位置には、前記第二垂れ片の方向に張り出す凹部が設けられており、
前記第一係合突起のみが、該第一係合突起の張り出す根元において下方に窪んだ係合窪みを備えている。
【0010】
また、本開示の一態様による天井下地は、
ウエブと、リップを備えた二つのフランジと、を有するリップ付き溝型鋼により形成され、側方に開口を向けた状態で建物の躯体から吊り下げられている、野縁受けと、
ウエブと、リップを備えた二つのフランジと、を有するリップ付き溝型鋼により形成され、上方に開口を向けた状態で、前記野縁受けに対して交差しながら当接している、野縁と、
前記野縁受けに対して前記野縁を固定するクリップと、を有し、
前記クリップは、
前記野縁受けの幅を有する頂片と、
前記頂片の一端から垂下し、左右に張り出して前記野縁に係合する第一係合突起を下方に備えている、第一垂れ片と、
前記頂片の他端から垂下し、左右に張り出して前記野縁に係止する第二係合突起を下方に備えている、第二垂れ片と、を有し、
前記第一垂れ片は前記第二垂れ片よりも長さが長く、
前記第一垂れ片が前記野縁受けの前記開口の一部を塞ぐようにして、前記クリップが該野縁受けに上方から嵌め込まれており、
左右に張り出している前記第一係合突起と前記第二係合突起が、前記野縁の有する二つの前記フランジに係合もしくは係止している。
【0011】
さらに、本開示の一態様による天井下地の施工方法は、
ウエブと、リップを備えた二つのフランジと、を有するリップ付き溝型鋼により形成され、側方に開口を向けた状態で建物の躯体から吊り下げられている、野縁受けと、
ウエブと、リップを備えた二つのフランジと、を有するリップ付き溝型鋼により形成され、上方に開口を向けた状態で、前記野縁受けに対して交差しながら当接している、野縁と、
前記野縁受けに対して前記野縁を固定するクリップと、を有し、
前記クリップは、
前記野縁受けの幅を有する頂片と、
前記頂片の一端から垂下し、左右に張り出して前記野縁に係合する第一係合突起を下方に備えている、第一垂れ片と、
前記頂片の他端から垂下し、左右に張り出して前記野縁に係止する第二係合突起を下方に備えている、第二垂れ片と、を有し、
前記第一垂れ片は前記第二垂れ片よりも長さが長く、
前記第一垂れ片の途中位置には、前記第二垂れ片の方向に張り出す凹部が設けられている、天井下地を施工する、天井下地の施工方法であって、
前記第一垂れ片が前記野縁受けの前記開口の一部を塞ぐようにして、前記クリップを該野縁受けの上方から嵌め込んでいき、この嵌め込みの過程において、前記野縁受けの有する上方の前記フランジの隅角部に前記第一垂れ片の有する前記凹部を引っ掛けた際に、該第一垂れ片の下端が該野縁受けの有する下方の前記フランジの前記リップに当接され、
前記クリップに対して下方から前記野縁を嵌め込むことにより、左右に張り出している前記第一係合突起と前記第二係合突起を、前記野縁の有する二つの前記リップ付きフランジに係合もしくは係止させ、該クリップにて前記野縁受けに対して前記野縁を固定する。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、施工性が良好であり、かつ、建物が振動した際の天井面材の脱落を抑制もしくは抑止できる、クリップと、このクリップを用いた天井下地及びその施工方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態に係る天井下地の一例を示す正面図である。
図2】実施形態に係る天井下地を構成する、野縁と、野縁受けと、実施形態に係るクリップの一例を示す分解斜視図である。
図3図2のIII方向矢視図であって、実施形態に係るクリップの側面図である。
図4】実施形態に係る天井下地の施工方法の一例を説明する工程図である。
図5図4に続いて、実施形態に係る天井下地の施工方法の一例を説明する工程図である。
図6図5に続いて、実施形態に係る天井下地の施工方法の一例を説明する工程図である。
図7図6のVII方向矢視図であって、クリップを介して野縁受けに野縁が固定された状態をクリップの第一垂れ片側から見た正面図である。
図8図6のVIII方向矢視図であって、クリップを介して野縁受けに野縁が固定された状態をクリップの第二垂れ片側から見た正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、実施形態に係るクリップと、天井下地及びその施工方法の一例について、添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0015】
[実施形態に係る天井下地とクリップ]
はじめに、図1乃至図3を参照して、実施形態に係る天井下地とクリップの一例について説明する。ここで、図1は、実施形態に係る天井下地の一例を示す正面図であり、図2は、実施形態に係る天井下地を構成する、野縁と、野縁受けと、実施形態に係るクリップの一例を示す分解斜視図である。また、図3は、図2のIII方向矢視図であって、実施形態に係るクリップの側面図である。
【0016】
尚、図1等において、T方向、U方向、R方向、L方向、F方向、及びB方向はそれぞれ、鉛直上方向、鉛直下方向、右方向、左方向、前方向、及び後ろ方向を示す。そして、右方向、左方向、前方向、及び後ろ方向は、説明上便宜的に設定した方向である。本明細書では、図1に示すように、野縁受け30の開口35が見える正面図において、右方向(R方向)と左方向(L方向)を設定している。また、図2に示すように、野縁40の延設方向(長手方向)において、クリップ50の第一垂れ片51側を前方向(F方向)に設定し、第二垂れ片52側を後ろ方向(B方向)に設定している。
【0017】
図1に示す天井下地60は、吊り天井等の建物の天井を構成する下地であり、この吊り天井には、戸建ての家屋やマンション等の集合住宅、オフィスビルのシステム天井等が含まれる。
【0018】
天井下地60は、建物を構成する梁(図示せず)等の躯体から吊り下げられている野縁受け30と、野縁40と、野縁受け30と野縁40を固定するクリップ50とを有する。
【0019】
建物の躯体から吊りボルト10が垂下し、吊りボルト10の下端に固定されているハンガー20に対して野縁受け30が支持されている。天井下地60を構成する複数の野縁40に対して、石膏ボード等の天井面材(図示せず)が嵌め込まれたり、ビス等の固定手段(図示せず)にて固定されることにより、建物の天井が形成される。
【0020】
吊りボルト10は、左右方向及び前後方向に間隔を置いて複数設けられる。また、ハンガー20は、側面視略J字状に形成されており、略J字状の内部に野縁受け30が収容されることにより、野縁受け30がハンガー20により支持される。尚、ハンガー20は、側面視コの字状に形成され、コの字状の開口側が吊りボルト10により吊られ、コの字状の内部に野縁受け30が収容されて支持される形態であってもよい。
【0021】
野縁受け30は、クリップ50を介して野縁40を支持する部材である。野縁受け30は、その長手方向を左右方向に向けた長尺部材である。また、野縁受け30は、ウエブ31と、リップ33を備えた二つのフランジ32とを有し、例えば軽量鉄骨製のリップ付き溝型鋼により形成されている。リップ33の先端には、曲げ加工により折れ部34が形成されている。尚、ウエブ31には、プレス加工等により、その長手方向に延びる補強リブが設けられていてもよい。
【0022】
一方、野縁40は、その長手方向を前後方向に向けた長尺部材である。また、野縁40は、ウエブ41と、リップ43を備えた二つのフランジ42とを有し、例えば軽量鉄骨製のリップ付き溝型鋼により形成されている。リップ43の先端には、曲げ加工により折れ部44が形成されている。尚、ウエブ41には、プレス加工等により、その長手方向に延びる補強リブが設けられていてもよい。
【0023】
ここで、野縁受け30と野縁40には、ともにシングルタイプのリップ付き溝型鋼が適用されてもよいし、野縁受け30にシングルタイプのリップ付き溝型鋼が適用され、野縁40には、天井下地60の部位ごとに、シングルタイプ(ウエブの幅が例えば35mmの35型等)のリップ付き溝型鋼(シングル野縁)と、ダブルタイプ(ウエブの幅が例えば45mmの45型等)のリップ付き溝型鋼(ダブル野縁)が使い分けられてもよい。例えば、天井面材の切れ目にダブル野縁が適用され、他の箇所にシングル野縁が適用され得る。
【0024】
天井下地60においては、野縁受け30がその開口35を側方(前方向であるF方向)に向けた状態で建物の躯体から吊り下げられており、野縁40がその開口45を上方(T方向)に向けた状態で野縁受け30に交差し、野縁受け30の下方のフランジ32と野縁40のリップ43が当接している。一般には、野縁受け30に対して野縁40が直交する態様で相互に交差される。
【0025】
クリップ50は、野縁受け30の幅を有する頂片53と、頂片53の一端から垂下する第一垂れ片51と、頂片53の他端から垂下する第二垂れ片52とを有する。例えば、一枚の軽量鉄骨製の鋼板片を折り曲げ加工することにより、クリップ50が製作される。
【0026】
図3に明りょうに示すように、第一垂れ片51の長さt1は、第二垂れ片52の長さt2よりも長く設定されている。尚、双方の長さが同じ長さに設定されている形態であってもよい。
【0027】
図2に示すように、第一垂れ片は、上部51aと、上部51aよりも幅の狭い下部51bと、上部51aと下部51bを繋ぐ中間部51cとを有する。中間部51cは、正面視台形状を有し、左右の端辺は下方に向かって内側に傾斜している。
【0028】
第一垂れ片51の途中位置(図示例は、上部51aの途中位置)には、第二垂れ片52の方向に張り出す凹部58が設けられている。この凹部58は、第一垂れ片51のF方向からB方向に溝条にプレス加工することにより形成される。尚、凹部は、例えば、単数もしくは複数の窪み(半球状の窪み、円柱状の窪み、角柱状の窪み、円錐状の窪み、角錐状の窪み等)であってもよく、クリップ50の野縁受け30の上方から下方であるX方向に嵌め込んでいく際に、上方のフランジ32の隅角部に引っ掛かる形状であればよい。
【0029】
第一垂れ片の下部51bには、左右に張り出して野縁40に係合する第一係合突起54が設けられている。そして、上部51aの幅s1と、下部51bにおいて左右に張り出す第一係合突起54の幅s2は、同一もしくは略同一に設定されている。
【0030】
第一係合突起54は、下部51bから張り出す根元において、下方に窪んだ係合窪み55を備えている。そして、第一係合突起54は、係合窪み55の外側にあって上方に突出する凸部54aと、下部51bの下端に向かって内側に傾斜する傾斜部54bとを有している。凸部54aはその内側がR加工されており、この構成により、係合窪み55に対して野縁40の折れ部44を係合させる際に、凸部54aのR加工面に沿って折れ部44を係合窪み55にスムーズに案内することができる。また、傾斜部54bにより、野縁40に対する第一係合突起54の嵌め込み性が良好になる。尚、図示例の傾斜部54bは、一つのテーパー状の端辺を有しているが、角度の異なる二つ以上のテーパー状の端辺を有していてもよい。
【0031】
第一係合突起54の凸部54aと傾斜部54bの外周に加えて、下部51bの平坦な下端の外周には、連続した補強リブ56が設けられている。この補強リブ56は、第一係合突起54や下部51bの周縁の部分を、外側に折り曲げ加工等することにより形成される。
【0032】
図1に示すように、野縁40の折れ部44が係合窪み55に係合することにより野縁40にクリップ50が固定されるが、補強リブ56が設けられていることにより、下部51bや第一係合突起54の剛性が高められていることに加えて、係合窪み55の外側にあって幅の狭い凸部54aの破損が抑制される。尚、係合窪み55の外側の凸部54aの補強のみを目的とする場合は、凸部54aの外側にのみ補強リブを設けてもよいし、凸部54aと傾斜部54bの外側にのみ補強リブを設けてもよい。
【0033】
一方、第二垂れ片52は、上部52aと、上部52aよりも幅の狭い下部52bと、上部52aと下部52bを繋ぐ中間部52cとを有する。中間部52cは、正面視台形状を有し、左右の端辺は下方に向かって内側に傾斜している。
【0034】
第二垂れ片の下部52bには、左右に張り出して野縁40に係止する第二係合突起57が設けられている。そして、第一垂れ片51と同様に、上部52aの幅と下部52bにおいて左右に張り出す第二係合突起57の幅は、同一もしくは略同一に設定されている。
【0035】
第二係合突起57の側端は、上端から下端に向かって内側に傾斜しており、この傾斜する側端により、野縁40に対する第二係合突起57の嵌め込み性が良好になる。尚、図示例の第二係合突起57の側端は、一つのテーパー状の側端であるが、角度の異なる二つ以上のテーパー状の側端を有していてもよい。
【0036】
また、頂片53と第一垂れ片51と第二垂れ片52にはいずれも、補強突起59が設けられている。図示例においては、無端状の補強突起59が、頂片53と第一垂れ片51と第二垂れ片52の輪郭に沿う態様で設けられている。補強突起59は、頂片53と第一垂れ片51と第二垂れ片52をプレス加工することにより形成される。
【0037】
さらに、図3に明りょうに示すように、第一垂れ片51と第二垂れ片52は、高さが相違するものの、係合窪み55の平坦な下端のレベルと、第二係合突起57の平坦な上端57aのレベルが、同じレベルh1に設定されている。このことにより、天井下地60が形成された際に、野縁40の二つの折れ部44に対して、第一垂れ片51の係合窪み55と第二垂れ片52の第二係合突起57を同じレベルに係合及び係止することができる。
【0038】
図2に示すように、野縁受け30に対して野縁40が交差しながら双方が当接している状態において、野縁受け30の上方からクリップ50を下方であるX方向に嵌め込んでいくと、クリップ50は、野縁受け30を収容しつつ、野縁40に対して第一係合突起54が係合し、野縁40に対して第二係合突起57が係止する。そして、複数の野縁受け30と野縁40の交差箇所において、それぞれクリップ50を介して野縁受け30と野縁40が固定されることにより、図1に示す天井下地60が形成される。
【0039】
尚、第二係合突起も折れ部44に嵌まり込む係合窪みを備えていてもよいが、第一係合突起と第二係合突起の双方が備える係合窪みに折れ部44を嵌め込むようにすると、野縁40に対するクリップの取り付け性が低下することから、図示例のように、第一係合突起54のみが係合窪み55を備えているのが好ましい。
【0040】
また、第二垂れ片52に比べて第一垂れ片51が相対的に長いことにより、野縁40に対するクリップ50の固定度が高められる。さらに、以下で詳説するように、野縁40をクリップ50に取り付ける過程で、F方向に変形した第一垂れ片51の凸部54aのレベルと、変形しない第二垂れ片52の第二係合突起57の上端のレベルが近接することになり、第一係合突起54と第二係合突起57を略同一のタイミングでクリップ50に野縁40を嵌め込むことができる。
【0041】
さらに、第一垂れ片51と第二垂れ片52がいずれも傾斜した中間部51c、52cを有していることにより、上部51a,52aの左右方向の幅を可及的に長く設定することができる。そのため、上部51a,52aの左右方向の幅と同幅の頂片53の平面積を可及的に広くすることができる。このことにより、頂片53と野縁受け30の上方のフランジ32との接触面積を可及的に広くすることができ、クリップ50を介した野縁受け30と野縁40の固定度を一層高めることができる。尚、第一垂れ片と第二垂れ片が中間部を備えず、上部から下部に亘り左右方向に同幅の形態であってもよい。
【0042】
[実施形態に係る天井下地の施工方法]
次に、図4及び図8を参照して、実施形態に係る天井下地の施工方法の一例について説明する。ここで、図4及び図6は順に、実施形態に係る天井下地の施工方法の一例を説明する工程図である。また、図7は、図6のVII方向矢視図であって、クリップを介して野縁受けに野縁が固定された状態をクリップの第一垂れ片側から見た正面図である。さらに、図8は、図6のVIII方向矢視図であって、クリップを介して野縁受けに野縁が固定された状態をクリップの第二垂れ片側から見た正面図である。尚、図4乃至図6においては、補強突起59の図示を省略し、クリップ50の変形態様を理解し易くしている。
【0043】
図1に示すように、建物の躯体から複数の吊りボルト10が垂下されており、各吊りボルト10の下端に取り付けられているハンガー20を介して、左右方向に延設する複数の野縁受け30が前後方向に間隔を置いて支持されている。
【0044】
ハンガー20に支持されている複数の野縁受け30に跨るように、各野縁受け30の下端に野縁40を配設する。
【0045】
そして、図4に示すように、野縁受け30の上方から下方のX1方向に、第一垂れ片51が野縁受け30の開口35の一部を塞ぐようにしてクリップ50を案内し、野縁受け30の周囲にクリップ50を嵌め込んでいく。このようにしてクリップ50を嵌め込んでいくと、第一垂れ片51に設けられている凹部58が、野縁受け30の有する上方のフランジ32の隅角部32aに引っ掛けられる。そして、凹部58がフランジ32の隅角部32aに引っ掛けられた際に、第一垂れ片51の下部51bは、野縁受け30の下方のフランジ32のリップ33に当接する。
【0046】
尚、仮に、相対的に長さの短い第二垂れ片52が開口35の一部を塞ぐようにしてクリップ50を野縁受け30に嵌め込んでいく場合、すなわち、野縁受け30に対してクリップ50を間違った向きで嵌め込んでいく場合には、以下の課題が生じ得る。すなわち、この嵌め込みの過程で、第一垂れ片51に設けられている凹部58が、野縁受け30の有する上方のフランジ32の隅角部32bに引っ掛けられた際に、第二垂れ片52の下部52bは野縁受け30の下方のフランジ32のリップ33に当接することなく、開口35を介して野縁受け30の内側に入り込んでしまい、クリップ50のそれ以上の嵌め込みができない事態が生じ得る。
【0047】
これに対して、図示例のように、相対的に長さの長い第一垂れ片51が開口35の一部を塞ぐようにしてクリップ50を野縁受け30に嵌め込むこと、すなわち、野縁受け30に対してクリップ50を正しい向きで嵌め込むことにより、第一垂れ片51の下端が開口35を介して野縁受け30の内側に入り込むことが解消される。尚、クリップ50の取り付け方向を間違えた際には、上記するように、第二垂れ片52が開口35を介して野縁受け30の内側に入り込んでしまうことから、作業員は、クリップ50を図示例のように正しい方向に戻して野縁受け30に嵌め込むことにより、野縁受け30とクリップ50の取り付けを行うことができる。
【0048】
図4に示す状態から、クリップ50の頂片53を手指で押さえて野縁40のウエブ41を上方のX2方向に押し込むと、凹部58が上方のフランジ32を下方へ押し込みながら、クリップ50が下方に落とし込まれる。この際、凹部58に押し込まれる上方のフランジ32の隅角部32aの下方に開口35があることにより、上方のフランジ32の隅角部32aが下方のY1方向に変形し易くなる。このように、上方のフランジ32が下方に変形し易いことにより、野縁40を上方にスムーズに押し込むことができ、結果としてクリップ50が下方にスムーズに落とし込まれる。
【0049】
そして、野縁40が上方に押し込まれる(クリップ50が下方に落とし込まれる)過程で、第一垂れ片51はリップ33からF方向に押し込み力を受け、この押し込み力により、F方向に向かうY2方向に変形する。また、この際、野縁受け30の下方のフランジ32は、野縁40のリップ43にて下方から押されることにより上方に撓む。このように、第一垂れ片51がF方向に変形し、野縁受け30の下方のフランジ32が上方に撓むことにより、第一垂れ片51の凸部54aの上端と第二垂れ片52の第二係合突起57の上端57aの高さレベルが近接していく。
【0050】
図5に示す状態から、野縁40を上方のX2方向にさらに押し込むと、第一垂れ片51の第一係合突起54と第二垂れ片52の第二係合突起57が開口45を介して野縁40に挿入され、第一垂れ片51の凸部54aが野縁40の左右の折れ部44を乗り越えてリップ43の内側に嵌まり込む。この際、第一垂れ片51の凸部54aの上端の高さレベルと、第二垂れ片52の第二係合突起57の上端57aの高さレベルが例えば同程度となり、第一係合突起54と第二係合突起57が略同一のタイミングで野縁40に嵌め込まれる。
【0051】
図7に示すように、第一垂れ片51においては、左右の第一係合突起54の有する係合窪み55にそれぞれ、野縁40の有する左右の折れ部44が嵌まり込むことにより、第一係合突起54が野縁40に係合される。
【0052】
一方、図8に示すように、第二垂れ片52においては、左右の第二係合突起57の上端57aがそれぞれ、野縁40の有する左右の折れ部44に係止することにより、第二係合突起57が野縁40に係止される。
【0053】
このように、野縁40に対して、第一係合突起54が係合され、第二係合突起57が係止されることにより、クリップ50を介して、野縁受け30と野縁40が固定される。そして、複数の野縁受け30と野縁40の交差箇所において、それぞれクリップ50により野縁受け30と野縁40が固定されることにより、図1に示す天井下地60が施工される。
【0054】
図示する天井下地の施工方法によれば、良好な施工性の下で、天井下地60を施工することができる。そして、施工された天井下地60は、クリップ50の有する第一垂れ片51と第二垂れ片52が、野縁受け30をその両サイドから挟み込みながら野縁40に係合もしくは係止されることから、建物が振動した際の野縁40とこれに固定される天井面材の脱落を効果的に抑制することができる。
【0055】
尚、上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、また、本開示はここで示した構成に何等限定されるものではない。この点に関しては、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【0056】
本国際出願は、2019年12月26日に出願した日本国特許出願第2019-235925号に基づく優先権を主張するものであり、当該出願の全内容を本国際出願に援用する。
【符号の説明】
【0057】
10:吊りボルト
20:ハンガー
30:野縁受け(リップ付き溝型鋼)
31:ウエブ
32:フランジ
33:リップ
34:折れ部
35:開口
40:野縁(リップ付き溝型鋼)
41:ウエブ
42:フランジ
43:リップ
44:折れ部
45:開口
50:クリップ
51:第一垂れ片
51a:上部
51b:下部
51c:中間部
52:第二垂れ片
52a:上部
52b:下部
52c:中間部
53:頂片
54:第一係合突起
54a:凸部
54b:傾斜部
55:係合窪み
56:補強リブ
57:第二係合突起
57a:上端
58:凹部
59:補強突起
60:天井下地
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8