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特許7478481ニッケルナノワイヤーおよびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-24
(45)【発行日】2024-05-07
(54)【発明の名称】ニッケルナノワイヤーおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/00 20220101AFI20240425BHJP
   B22F 1/054 20220101ALI20240425BHJP
   B22F 1/07 20220101ALI20240425BHJP
   B22F 1/0545 20220101ALI20240425BHJP
   B22F 9/24 20060101ALI20240425BHJP
   B22F 9/00 20060101ALI20240425BHJP
【FI】
B22F1/00 M
B22F1/054
B22F1/07
B22F1/0545
B22F9/24 C
B22F9/00 B
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022542610
(86)(22)【出願日】2021-07-20
(86)【国際出願番号】 JP2021027115
(87)【国際公開番号】W WO2022034778
(87)【国際公開日】2022-02-17
【審査請求日】2024-03-04
(31)【優先権主張番号】P 2020136833
(32)【優先日】2020-08-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 晴彦
(74)【代理人】
【識別番号】100197583
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 健
(72)【発明者】
【氏名】竹田 裕孝
(72)【発明者】
【氏名】山田 千夏子
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第103586479(CN,A)
【文献】特開2007-284716(JP,A)
【文献】中国特許第103978227(CN,B)
【文献】中国特許出願公開第101342598(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00-9/30
B82Y 25/00、30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
面心立方格子構造を有し、(111)の格子面の方向での結晶子サイズが30nm以上であり、飽和磁化率が20emu/g以上であ50nm以上1μm未満の平均径および10μm以上の平均長を有する、ニッケルナノワイヤー。
【請求項2】
前記ニッケルナノワイヤーにおける六方最密充填構造の面心立方格子構造に対する含有割合(hcp/fcc)は0.2以下である、請求項1に記載のニッケルナノワイヤー。
【請求項3】
前記ニッケルナノワイヤーが面心立方格子構造のみのニッケルで構成されている、請求項1または2に記載のニッケルナノワイヤー。
【請求項4】
(110)の格子面の方向での結晶子サイズが10nm以上であり、
(100)の格子面の方向での結晶子サイズが10nm以上である、請求項1~のいずれかに記載のニッケルナノワイヤー。
【請求項5】
請求項1~のいずれかに記載のニッケルナノワイヤーを含む分散液。
【請求項6】
請求項1~のいずれかに記載のニッケルナノワイヤーを含む成形体。
【請求項7】
反応溶液中で、磁場をかけながら、硫酸ニッケルを含む2種以上のニッケル塩を還元して、面心立方格子構造を有し、(111)の格子面の方向での結晶子サイズが30nm以上であり、飽和磁化率が20emu/g以上であり、50nm以上1μm未満の平均径および10μm以上の平均長を有するニッケルナノワイヤーを得る、ニッケルナノワイヤーの製造方法。
【請求項8】
前記ニッケルナノワイヤーにおける六方最密充填構造の面心立方格子構造に対する含有割合(hcp/fcc)は0.2以下である、請求項に記載のニッケルナノワイヤーの製造方法。
【請求項9】
前記ニッケルナノワイヤーが面心立方格子構造のみのニッケルで構成されている、請求項7または8に記載のニッケルナノワイヤーの製造方法。
【請求項10】
前記ニッケルナノワイヤーの(110)の格子面の方向での結晶子サイズが10nm以上であり、
前記ニッケルナノワイヤーの(100)の格子面の方向での結晶子サイズが10nm以上である、請求項のいずれかに記載のニッケルナノワイヤーの製造方法。
【請求項11】
前記2種以上のニッケル塩が硫酸ニッケルおよび塩化ニッケルを含み、
前記硫酸ニッケルと前記塩化ニッケルの合計に対する前記硫酸ニッケルの割合が70~98mol%である、請求項10のいずれかに記載のニッケルナノワイヤーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はニッケルナノワイヤーおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケルナノワイヤーは、強磁性体であるため、透明導電膜や高誘電率材料のような導電材料としてだけでなく、電波吸収材等の磁性材料としても用いることができる。ナノワイヤーの特徴は、繊維形状の異方性(高いアスペクト比)によりパーコレーションや磁気異方性を発揮することであって、粒子では得られない性能を得ることができることである(特許文献1)。
【0003】
例えば、特許文献1に開示のニッケルナノワイヤーは1種のニッケル塩の還元により製造され、(111)の格子面の方向での結晶子サイズが10nm超15nm未満である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公報2019/073833号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の発明者等は、従来のニッケルナノワイヤーは高温耐性に劣るという問題が生じることを見出した。
【0006】
詳しくは、ニッケルナノワイヤーは、想定する電池電極部材やコンデンサー等の用途によっては、高温環境下で使用または処理される場合がある。例えば、ニッケルナノワイヤーを含む不織布等の構造体は、高温環境下で収縮および/または融着を起こし、結果として形状変化に基づく体積変化を生じた。このため、当該構造体には、デラミネーションおよび/またはクラック等が発生しやすいという問題があった。デラミネーションは、ニッケルナノワイヤーの構造体を他の部材に貼付して使用するとき、剥離する現象である。クラックは、ニッケルナノワイヤーの構造体に亀裂が生じる現象である。
【0007】
仮に、ニッケルナノワイヤーが高温耐性を有していても、ナノワイヤーに期待される磁気異方性等の磁気特性が低下するという問題を生じた。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するものであって、高温耐性に十分に優れた不織布等の構造体を形成することができ、かつ磁気特性に十分に優れているニッケルナノワイヤーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、結晶子サイズを特定の範囲に制御することにより上記目的が達成されることを見出し、本発明に到達した。
【0010】
すなわち、本発明の要旨は、以下のとおりである。
<1> 面心立方格子構造を有し、(111)の格子面の方向での結晶子サイズが15nm以上であり、飽和磁化率が20emu/g以上である、ニッケルナノワイヤー。
<2> 平均径が50nm以上1μm未満である、<1>に記載のニッケルナノワイヤー。
<3> 前記ニッケルナノワイヤーにおける六方最密充填構造の面心立方格子構造に対する含有割合(hcp/fcc)は0.2以下である、<1>または<2>に記載のニッケルナノワイヤー。
<4> 前記ニッケルナノワイヤーが面心立方格子構造のみのニッケルで構成されている、<1>~<3>のいずれかに記載のニッケルナノワイヤー。
<5> 平均長が10μm以上である、<1>~<4>のいずれかに記載のニッケルナノワイヤー。
<6> (110)の格子面の方向での結晶子サイズが10nm以上であり、
(100)の格子面の方向での結晶子サイズが10nm以上である、<1>~<5>のいずれかに記載のニッケルナノワイヤー。
<7> 前記(111)の格子面の方向での結晶子サイズが30nm以上である、<1>~<6>のいずれかに記載のニッケルナノワイヤー。
<8> <1>~<7>のいずれかに記載のニッケルナノワイヤーを含む分散液。
<9> <1>~<7>のいずれかに記載のニッケルナノワイヤーを含む成形体。
<10> 反応溶液中で、磁場をかけながら、硫酸ニッケルを含む2種以上のニッケル塩を還元して、<1>~<7>のいずれかに記載のニッケルナノワイヤーを得る、ニッケルナノワイヤーの製造方法。
<11> 前記2種以上のニッケル塩が硫酸ニッケルおよび塩化ニッケルを含み、
前記硫酸ニッケルと前記塩化ニッケルの合計に対する前記硫酸ニッケルの割合が70~98mol%である、<10>に記載のニッケルナノワイヤーの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明のニッケルナノワイヤーは、高温耐性に十分に優れた不織布等の構造体を形成することができ、かつ磁気異方性等の磁気特性に十分に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1で作製したニッケルナノワイヤーのWAXD(広角X線回折測定)の回折パターンである。
図2】比較例1で作製したニッケルナノワイヤーのWAXDの回折パターンである。
図3】比較例2で作製したニッケルナノワイヤーのWAXDの回折パターンである。
図4】比較例3で作製したニッケルナノワイヤーのWAXDの回折パターンである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[ニッケルナノワイヤー]
本発明のニッケルナノワイヤーは、その結晶構造としてfcc構造(すなわち面心立方格子構造)を有することが必要である。格子構造(または結晶構造)は、WAXDにより解析することができる。
【0014】
ニッケルナノワイヤーがfcc構造を有するとは、以下の条件でのX線回折において、いわゆるfcc型結晶構造に固有の1つ以上(特に3つ)の主要なピークを所定の入射角度において示すことを意味する。fcc構造に固有の主要なピークとして、例えば、2θ=44.4°のピーク(111)、2θ=51.6~51.9°のピーク(200)および2θ=76.3°のピーク(220)等が挙げられる。
条件:CuKα線=1.54Å、50kV、300mA、2θ/θ法。
【0015】
本発明のニッケルナノワイヤーは、高温耐性および磁気特性のさらなる向上の観点から、fcc構造のみのニッケルで構成されていることが好ましい。本発明のニッケルナノワイヤーは、結晶構造として、厳密に、fcc構造のみを有さなければならないというわけではなく、他の結晶構造(例えば、hcp構造(すなわち六方最密充填構造))を含んでもよい。例えば、本発明のニッケルナノワイヤーは主としてfcc構造を有し、hcp構造を含んでいてもよい。
【0016】
本発明のニッケルナノワイヤーのhcp構造の含有割合(hcp/fcc)は、通常、0.15以下であり、磁気特性の観点から、好ましくは0.1以下(特に0.1未満)であり、より好ましくは0である。hcp構造の含有割合(hcp/fcc)は、ニッケルナノワイヤーにおけるhcp構造のfcc構造に対する割合である。hcp構造の含有割合は、詳しくは、WAXD(広角X線回折測定、CuKα線=1.54Å、50kV、300mA、2θ/θ法)の回折パターンにおいて、hcp構造における2θ=37.2°のピーク(010)の積分値の、fcc構造における2θ=51.6~51.9°のピーク(200)の積分値に対する割合(hcp(010)/fcc(200))により算出される値を用いている。
【0017】
複数のニッケルナノワイヤーから形成される不織布等の構造体が、高温環境下でデラミネーションやクラックを生じるのは、ニッケルナノワイヤーが比較的小さい結晶子サイズを有するためと考えられる。詳しくは、比較的小さい結晶子サイズを有するニッケルナノワイヤーは、ナノワイヤー1本当たりにおいて、結晶子間の界面が比較的多いため、過焼成による収縮および/または融着を起こしやすく、結果として当該構造体に体積変化を起こしやすい。そのため、高温環境下でデラミネーションやクラックが生じやすいものと考えられる。
【0018】
本発明のニッケルナノワイヤーの結晶子サイズは15nm以上であることが必要で、高温耐性および磁気特性のさらなる向上の観点から、30nm以上であることが好ましく、40nm以上であることがより好ましい。これにより、本発明のニッケルナノワイヤーは、1本当たりにおいて、結晶子間の界面が比較的少なくなるため、高温環境下において収縮および融着が十分に抑制され、高温耐性に十分に優れる。その結果、本発明のニッケルナノワイヤーを含む不織布等の構造体は、高温環境下において、体積変化を十分に抑制することができ、高温環境下でデラミネーションおよび/またはクラック等の発生を十分に抑制することができるものと考えられる。しかも、本発明のニッケルナノワイヤーは、hcp構造の含有量が十分に低減されるため、磁気異方性等の磁気特性に十分に優れている。結晶子サイズが小さすぎると、ニッケルナノワイヤーは、1本当たりにおいて、結晶子間の界面が比較的多くなるため、高温環境下において収縮および融着が起こり易くなり、高温耐性が低下する。その結果、当該ニッケルナノワイヤーを含む不織布等の構造体は、高温環境下において、体積変化を起こしやすくなり、高温環境下でデラミネーションおよび/またはクラック等が発生する。
【0019】
結晶子サイズの上限値は特に限定されないが、結晶子サイズが過剰に大きくなるとナノワイヤーを製造できない場合があるため、本発明のニッケルナノワイヤーの結晶子サイズは通常、100nm以下(特に80nm以下)であり、磁気特性のさらなる向上の観点から、好ましくは60nm以下、より好ましくは50nm以下である。
【0020】
本発明のニッケルナノワイヤーにおける上記の結晶子サイズはfccの(111)の格子面の方向のサイズとする。なお、(111)の格子面の方向とは、(111)の格子面に対する垂直方向のことである。
【0021】
本発明のニッケルナノワイヤーにおける(110)の格子面の方向での結晶子サイズは通常、10.0nm以上(特に10.0~80.0nm)であり、高温耐性および磁気特性のさらなる向上の観点から、10.0~60.0nmであることが好ましく、20.0nm以上60.0nm以下であることがより好ましく、30.0nm以上50.0nm以下であることがさらに好ましい。
【0022】
本発明のニッケルナノワイヤーにおける(100)の格子面の方向での結晶子サイズは通常、10.0nm以上(特に10.0~80.0nm)であり、高温耐性および磁気特性のさらなる向上の観点から、10.0~60.0nmであることが好ましく、20.0nm以上60.0nm以下であることがより好ましく、30.0nm以上50.0nm以下であることがさらに好ましい。
【0023】
本明細書中、各格子面の方向の結晶子サイズはWAXDのピークにより算出される値を用いている。fccのニッケルの場合、(100)の格子面および(110)の格子面の反射は、消滅則により直接観測することができないため、それぞれ、(200)の格子面および(220)の格子面のピークから算出した値とする。
【0024】
通常、ナノワイヤーとは平均径がナノスケールの繊維状物質である。また、本発明のニッケルナノワイヤーの平均径は、各格子面の方向の結晶子サイズより必ず大きくなる。本発明においては、ニッケルナノワイヤーの平均径は、取扱いの観点および高温耐性および磁気特性のさらなる向上の観点から、50nm以上1μm未満であることが好ましく、50~500nmであることがより好ましく、90~300nmであることがさらに好ましく、100~250nmであることが特に好ましい。
【0025】
本明細書中、ニッケルナノワイヤーの平均径は、透過型電子顕微鏡(60万倍)による10視野中における任意の100点でのニッケルナノワイヤー径の平均値を用いている。
【0026】
ニッケルナノワイヤーの平均長は、取扱い性および導電性等の観点ならびに高温耐性および磁気特性のさらなる向上の観点から、10μm以上であることが好ましく、10~40μmであることがより好ましく、10~30μmであることがさらに好ましく、15~30μmであることがより好ましい。
【0027】
本明細書中、ニッケルナノワイヤーの平均長は、走査型電子顕微鏡(2000~6000倍)による任意の200本のニッケルナノワイヤー長さの平均値を用いている。
【0028】
本発明のニッケルナノワイヤーのアスペクト比(平均長/平均径)は通常、50以上であり、磁気特性のさらなる向上の観点から、好ましくは60以上であり、より好ましくは70以上であり、さらに好ましくは80以上であり、特に好ましくは90以上である。当該アスペクト比の上限値は特に限定されず、当該アスペクト比は通常、300以下、特に250以下である。
【0029】
本発明のニッケルナノワイヤーは、強磁性体であり、20emu/g以上の飽和磁化率を有する。本発明のニッケルナノワイヤーの飽和磁化率は、磁気特性のさらなる向上の観点から、好ましくは30emu/g以上、より好ましくは40emu/g以上、さらに好ましくは45emu/g以上である。当該飽和磁化率の上限値は特に限定されず、当該のニッケルの飽和磁化率は通常、60emu/g以下、特に55emu/g以下である。
【0030】
本明細書中、飽和磁化率は、後述するように、VSM(振動試料型磁力計)により測定することができる。特に、hcp構造の含有割合が0.1超(特に0.15超)のニッケルナノワイヤーは、十分な磁気特性を有さず、20emu/g未満の飽和磁化率を有する。
【0031】
[ニッケルナノワイヤーの製造方法]
本発明のニッケルナノワイヤーは、反応溶液中で、磁場をかけながら、硫酸ニッケルを含む2種以上(特に2種)のニッケル塩を用いて、還元することにより得ることができる。従来、ニッケルナノワイヤーの結晶子サイズを大きくする制御技術はこれまで知られていなかった。本発明において、硫酸ニッケルを含む2種以上のニッケル塩を用いることにより、単一のニッケル塩を用いた場合と対比して、結晶子サイズが比較的大きく、かつ磁気特性に十分に優れたニッケルナノワイヤーを得ることができる。硫酸ニッケルのみを用いた場合、結晶子サイズは大きくなるが、ナノワイヤーの成長過程で強磁性ではないhcp(六方最密充填)構造が混ざってしまい、磁気特性が低下する。さらには、ナノワイヤーへの成長が不十分であったり、あるいはナノワイヤー化しなかったりする。仮に2種のニッケル塩を用いたとしても、当該2種のニッケル塩が硫酸ニッケルを含まない場合、ニッケルナノワイヤーの結晶子サイズが低減したり、かつ/または、磁気特性が低下したりする。
【0032】
硫酸ニッケルと組み合わせる塩としては、例えば、塩化ニッケル、硝酸ニッケル、酢酸ニッケル、炭酸ニッケル等が挙げられる。前記塩は、水和物であっても無水物であってもよい。中でも、高温耐性および磁気特性のさらなる向上の観点から、硫酸ニッケルと組み合わせる塩として、塩化ニッケルおよび/あるいは酢酸ニッケルがより好ましく、塩化ニッケルがさらに好ましい。
【0033】
反応溶液中のニッケル塩の好ましい合計の濃度は、高濃度すぎるとナノワイヤーが形成できず、低濃度すぎると製造効率が悪くなる傾向がある。反応溶液中におけるニッケル塩の合計の濃度は、高温耐性および磁気特性のさらなる向上の観点から、0.01~1mmol/gとすることが好ましく、0.015~0.25mmol/gとすることがより好ましく、0.015~0.030mmol/gとすることがさらに好ましい。
【0034】
反応溶液中の各ニッケル塩の好ましい濃度比は、硫酸ニッケルと他ニッケル塩の合計に対する硫酸ニッケルの割合が75~98mol%であることが好ましく、85~98mol%であることがより好ましく、85~95mol%であることがさらに好ましい。前記割合が50mol%以上70mol%未満の場合、ナノワイヤーが形成されず、粒子状となる場合がある。前記割合が50mol%未満の場合、ナノワイヤーにおける(111)の格子面の方向での結晶子サイズが低減する。
【0035】
反応溶液に用いる溶媒は特に限定されないが、ニッケル塩を溶解しやすいことから、水、アルコール、NMP等の高極性溶媒や、沸点と極性が高いエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール系溶媒が好ましい。
【0036】
ニッケル塩を還元する還元剤としては、特に限定されず、高温耐性および磁気特性のさらなる向上の観点から、ヒドラジン一水和物(ヒドラジン)が好ましい。一般的な無電解ニッケルめっき用の還元剤である次亜リン酸やジメチルアミンボラン等のリン系やボラン系の還元剤は、リンやホウ素が金属中の不純物となり、金属の結晶性自体を低下させる。このため、ナノワイヤーができない場合、または得られるニッケルナノワイヤーの磁気的特性を低下させる場合があるので好ましくない。また、グリコールやアスコルビン酸等の有機系の還元剤は、200℃以上の高温にする必要があり、反応に用いる磁場や溶媒の状態(温度、沸騰等)が安定しないので好ましくない。
【0037】
還元剤としてヒドラジン一水和物を用いる場合、ヒドラジン一水和物のモル量は、ニッケル塩の合計量に対して1.1~2.0倍とすることが好ましく、1.2~1.8倍とすることがより好ましい。前記ヒドラジン一水和物のモル量が、ニッケル塩の合計量に対して1.1倍未満の場合、未反応のニッケル塩が残存し効率が悪い。一方、前記モル量が2.0倍を超える場合、反応が高活性になりすぎて、反応溶液が発泡し、ナノワイヤーの形成が阻害される場合がある。
【0038】
ヒドラジン一水和物でニッケル塩を還元する場合、還元反応の反応温度と液性が重要である。反応温度が高すぎると発生ガスによる発泡により反応系が不安定化し、反応温度が低すぎると還元反応自体が起きない傾向がある。反応温度は、ヒドラジンの常圧での沸点(114℃)以下とすることが好ましく、反応温度や発生ガス量の調整や対流拡散の観点から80~100℃、特に80~95℃とすることが好ましい。反応温度を80~100℃、特に80~95℃でおこなう場合、液性はアルカリ性にすることが好ましい。液性をアルカリ性にするためには、水酸化ナトリウム等の水酸化物塩を用いることが好ましい。ただし、水酸化物塩の濃度によっては不溶性の水酸化ニッケルの沈殿が発生する場合がある。その場合、水酸化ナトリウムとアンモニアを組み合わせて用いることにより沈殿を抑制することができる。水酸化ナトリウムを用いる場合、反応溶液中の水酸化ナトリウムの濃度は、0.020~1mmol/g(特に0.025~1mmol/g)とすることが好ましく、0.020~0.5mmol/g(特に0.025~0.5mmol/g)とすることがより好ましい。アンモニアは水酸化ニッケルの沈殿物をアンミン錯体化して再溶解する。アンモニアの添加量は特に限定されないが、再溶解には水酸化ニッケルに対して過剰量必要である一方、過剰量のアンモニアは気化熱による吸熱により反応系を不安定にする。そのため、水酸化ナトリウム1molに対して通常は3~30molの範囲が好ましく、高温耐性および磁気特性のさらなる向上の観点から、10~30molの範囲がより好ましく、10~20molの範囲がさらに好ましい。アンモニアは入手管理等の観点からアンモニア水での添加が好ましい。アンモニアの水酸化ナトリウム1molに対する上記添加量は、反応液中で上記範囲内であればよい。
【0039】
反応溶液には、クエン酸塩等の錯形成剤を添加することができる。しかしながら錯形成剤を添加することによりニッケルナノワイヤーの結晶子サイズが小さくなる傾向があるため、錯形成剤の濃度は、結晶子サイズの増大に基づく高温耐性のさらなる向上の観点から、ニッケル塩の合計のモル数に対して15mol%以下とすることが好ましく、10mol%以下とすることがより好ましく、8mol%以下とすることがさらに好ましい。錯形成剤の濃度が高すぎる場合、還元反応が起きにくくなり、製造効率が低下する場合がある。
【0040】
反応は、磁場内でおこなう。中心磁場は、10~200mTとすることが好ましく、80~180mTとすることがより好ましい。反応時において磁場を印加しない場合、ニッケルナノワイヤーを製造することができない。
【0041】
還元反応の還元時間は、ニッケルナノワイヤーが作製されれば特に限定されないが、通常、1時間以下であり、10~40分程度とすることが好ましい。
【0042】
還元反応後、遠心分離、ろ過、磁石による吸着等で精製回収することにより、ニッケルナノワイヤーを得ることができる。反応後、ニッケルナノワイヤーの回収前にアンモニアを添加してもよい。これにより、副生成する水酸化ニッケルの沈殿を溶解し、不純物の除去を用意にすることができる。
【0043】
[分散液、塗料、ペーストおよび成形体]
本発明のニッケルナノワイヤーは、水、有機溶媒またはそれらの混合溶媒等の媒体、および/または硬化性樹脂に分散させることにより、分散液とすることができる。有機溶媒としては、従来からナノワイヤー分散液の媒体として使用されているあらゆる有機溶媒が使用可能であり、例えば、アセトン、イソブチルアルコール、イソプロピルアルコール、イソペンチルアルコール、エタノール、エチルエーテル、エチレングリコール、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノ-ノルマル-ブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジクロルベンゼン、キシレン、クレゾール、クロルベンゼン、酢酸イソブチル、酢酸イソプロピル、酢酸イソペンチル 、酢酸エチル、酢酸ノルマル-ブチルエチレングリコール、酢酸ノルマル-プロピル、酢酸ノルマル-ペンチル、酢酸メチル、シクロヘキサノール、シクロヘキサノン、N,N-ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、1,1,1-トリクロルエタン、トルエン、ノルマルヘキサン、プロピレングリコール、1-ブタノール、2-ブタノール、メタノール、メチルエチルケトン、メチルシクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノン、メチル-ノルマル-ブチルケトン等が挙げられる。硬化性樹脂としては、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂などが挙げられる。
【0044】
分散液中のニッケルナノワイヤーの含有量は特に限定されず、例えば、媒体100質量部に対して、0.01~50質量部、特に0.1~10質量部であってもよい。
【0045】
本発明のニッケルナノワイヤーを含む分散液を、バインダー樹脂と混合あるいは、硬化性樹脂を硬化する硬化剤と混合することにより、塗料、接着剤、モールド材として使用することができる。当該分散液には、その他、レベリング剤、濡れ剤、消泡剤、熱伝導等を目的とした無機フィラー等を添加することができる。
【0046】
バインダー樹脂や硬化性樹脂としては、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂などが挙げられる。硬化剤としては、アルデヒド、アミン、イソシアネート、イミダゾール、カルボン酸、酸無水物、ヒドラジド、ホルムアルデヒド系の化合物などが挙げられる。
【0047】
本発明のニッケルナノワイヤーを含む分散液、塗料およびペーストは、従来からおこなわれているようにコーティング等に用いることができる。コーティング膜は導電体あるいは高誘電率体であり、電気配線、電極材料、電波遮蔽材料、アンテナ基板、電波吸収材料などに好適である。
【0048】
特に、本発明のニッケルナノワイヤーを含む分散液をコーティングおよび乾燥して得られる不織布形態のナノワイヤー膜は電池電極として有用である。
【0049】
本発明のニッケルナノワイヤーを他の物質(例えばポリマー)と混合、溶融および混錬し、成形することにより、成形体とすることもできる。他の物質として、例えば、上記したバインダー樹脂と同様のポリマー(特に熱可塑性ポリマー)が挙げられる。他の物質と混合、溶融および混錬する方法は特に限定されないが、例えば、ミキサーおよびスクリュー型押出機等により混合、溶融および混練する方法が挙げられる。また、成形方法も特に限定されないが、例えば、プレス成形や射出成形が挙げられる。
【0050】
特に本発明のニッケルナノワイヤーをバインダー樹脂と混合、溶融、混錬および成形、熱処理して得られるシート状の成形体は電気配線、電極材料、電波遮蔽材料、アンテナ基板、電波吸収材料などとして有用である。
【0051】
本発明のニッケルナノワイヤーを含む構造体は、上記したニッケルナノワイヤー膜(例えば不織布)および成形体(例えばシート状成形体)を包含する。本発明のニッケルナノワイヤーを含む構造体(特にニッケルナノワイヤー膜(不織布))は高温環境での形状変化が少なく、デラミネーションやクラックが起きにくい。そのため、高温での処理が可能である。本発明のニッケルナノワイヤーをポリイミドやセラミック等と好適に混合、熱キュアすることが可能である。得られた構造体(特に成形体)中において、ニッケルナノワイヤーは、ナノワイヤーと他の物質(特にバインダー樹脂またはセラミック)との界面での剥離が抑制されるため、構造体の強度劣化が抑制される。また高温環境(例えば熱キュア)によるナノワイヤー間での融着が抑制されるため、その後の体積変化によるナノワイヤー自体の破壊が十分に抑制される。
【実施例
【0052】
以下、本発明を実施例によって説明するが、本発明はこれらの発明によって限定されるものではない。なお、ニッケルナノワイヤーの物性測定は、以下の方法によりおこなった。
【0053】
(1)平均径
得られたナノワイヤーをエタノールに分散し、支持膜付きグリッド上に薄く塗布し乾燥した。得られたサンプルを、透過型電子顕微鏡に用いて60万倍で撮影した。10視野中における任意の100点におけるニッケルナノワイヤーの径を測定し、平均値を算出した。
【0054】
(2)平均長
(1)と同様に試料台上に塗布乾燥したサンプルを、走査型電子顕微鏡を用いて2000~6000倍で撮影した。任意の200本のニッケルナノワイヤーの長さを測定し、平均値を算出した。
【0055】
(3)結晶構造
得られたニッケルナノワイヤーをガラス試料板に充填し、WAXD(広角X線回折測定)をおこなった。回折パターンから結晶構造を同定した。測定条件は、CuKα線=1.54Å、50kV、300mA、2θ/θ法とした。
【0056】
詳しくは、回折パターンにおいて、2θ=44.4°のピーク、2θ=51.6~51.9°のピークおよび2θ=76.3°のピークの存在により、面心立方格子構造(fcc)を同定した(例えば、図1および図2)。図1および図2はそれぞれ、実施例1および比較例1で作製したニッケルナノワイヤーのWAXD(広角X線回折測定)の回折パターンである。
他方、2θ=37.2°のピーク、2θ=43.2°のピークおよび2θ=62.8°のピークの存在により、六方最密充填構造(hcp)を同定した(例えば、図3および図4)。図3および図4はそれぞれ、比較例2および3で作製したニッケルナノワイヤーのWAXD(広角X線回折測定)の回折パターンである。上記両者の結晶構造のピークが存在する場合、当該両者の結晶構造が形成されているものとした。
回折パターンより、六方最密充填構造(hcp)の面心立方格子構造(fcc)に対する割合を算出した。詳しくは六方最密充填構造における2θ=37.2°のピーク(010)の積分値の、面心立方格子構造における2θ=51.6~51.9°のピーク(200)の積分値に対する割合(hcp(010)/fcc(200))を求めた。
【0057】
(4)結晶子サイズ
WAXDにより得られた回折パターンから、JADEソフトにより多重ピーク分離し、(111)、(220)、(200)に対応するピークの補正半値幅β(rad)を式(1)から求め、シェラーの式(2)から各格子での方向の結晶子サイズを求めた。具体的には、補正半値幅βは、式(1)で、1.3のデコンボリューションの定数と装置定数0.1の値を用いて求め、結晶子サイズは、式(2)で、定数Kを0.9、λを1.5406(用いたCuKα1のX線の波長)、βを補正半値幅、θを回折角の値として用いて求めた。
WAXDによる測定条件は以下の通りであった:
CuKα線=1.54Å、50kV、300mA、2θ/θ法。
【0058】
【数1】
【0059】
◎:40nm以上(優良);
○:30nm以上40nm未満(良);
△:15nm以上30nm未満(合格);
×:15nm未満(不合格)。
【0060】
(5)磁気特性
得られたナノワイヤーをサンプルフォルダーに充填し、VSM(振動試料型磁力計)にて飽和磁化率(emu/g)を測定した。
◎:40emu/g以上(優良);
○:30emu/g以上40mu/g未満(良);
△:20emu/g以上30mu/g未満(合格);
×:20emu/g未満(不合格)。
【0061】
(6)高温耐性
得られたニッケルナノワイヤー1gを70mm直径の不織布に加工し、オーブンで300℃の熱処理を5時間行った後のニッケルナノワイヤー不織布の形状変化を下記の維持率および基準で評価した。
不織布は以下の方法により製造した。ナノワイヤー1gをエタノール1000gに懸濁させ、得られた分散液をKGS-90のフィルターホルダーとY100A090Aのフィルター(アドバンテスト社製)を使い、ナノワイヤーを不織布状に回収し、乾燥させた後、フィルターから剥離することにより、ニッケルナノワイヤー1gからなる70mm直径の不織布を得た。
【0062】
【数2】
【0063】
本発明においては、「○」以上を合格とし、「◎」であることが好ましい。
◎:維持率が94%以上であった(優良);
○:維持率が90%以上94%未満であった(合格);
×:維持率が90%未満であった(不合格);
××:クラックが発生した(不合格)。
【0064】
実施例1
硫酸ニッケル六水和物4.00g(15.2mmol)、塩化ニッケル六水和物0.400g(1.68mmol)、クエン酸三ナトリウム二水和物0.375g(1.27mmol)をエチレングリコールに添加し、全量で500gとした。この溶液を90℃に加熱し溶解させた。
別の容器に、水酸化ナトリウム1.00g(25.0mmol)をエチレングリコールに添加し、全量で499gにした。この溶液を90℃に加熱し完全に溶解させ、その後、ヒドラジン一水和物1.00g(20.0mmol)を添加した。
上記の2つの溶液を混合し、中心に150mTの磁場が印加できる磁気回路に入れ、90~95℃に維持したまま15分間還元反応をおこなった。
反応後、28%アンモニア水を25g(アンモニア量7g(=411.8mmol))添加し、ろ過により、ニッケルナノワイヤーを回収した。
【0065】
実施例2~3および比較例1~4
ニッケル塩の種類と使用量を表1に記載の量に変更する以外は、実施例1と同様の操作をおこなって、ニッケルナノワイヤーを回収した。
【0066】
実施例4
硫酸ニッケル六水和物4.00g(15.2mmol)、塩化ニッケル六水和物0.400g(1.68mmol)、クエン酸三ナトリウム二水和物0.375g(1.27mmol)をエチレングリコールに添加し、全量で500gとした。この溶液を90℃に加熱し溶解させた。
別の容器に、水酸化ナトリウム1.00g(25.0mmol)をエチレングリコールに添加し、全量で499gにした。この溶液を90℃に加熱し完全に溶解させ、その後、28%アンモニア水を25g(アンモニア量7g(=411.8mmol))、ヒドラジン一水和物1.00g(20.0mmol)を順で添加した。
上記の2つの溶液を混合し、中心に150mTの磁場が印加できる磁気回路に入れ、90~95℃に維持したまま15分間還元反応をおこなった。
反応後、ろ過により、ニッケルナノワイヤーを回収した。
【0067】
比較例5
塩化ニッケル六水和物と硫酸ニッケル六水和物の使用量を表1に記載の量に変更する以外は、実施例1と同様の操作をおこなって、ニッケルナノワイヤーを得ようとしたが、塩化ニッケル六水和物と硫酸ニッケル六水和物の濃度が等モル濃度であったため、ナノワイヤーを得ることができなかった。
【0068】
【表1】
【0069】
実施例1~4のニッケルナノワイヤーは、結晶構造がfccであって、(111)の格子面の方向の結晶子サイズが15nm以上であった。そのため、ナノワイヤーを高温処理しても形状が維持されていた。
特に実施例2、3のニッケルナノワイヤーは、(111)の格子面の方向の結晶子サイズが30nm以上、特に40nm以上であったため、形状の変化率が少なかった。
【0070】
比較例1と4のニッケルナノワイヤーは、硫酸ニッケルを含まない1種類以上のニッケル塩を用いて作製したため、(111)の格子面の方向の結晶子サイズが15nm未満であり、高温処理によりクラックが起き、不織布が破壊した。
比較例2、3は硫酸ニッケルのみのニッケル塩を用いて作製したため、hcp構造が混在しているため、磁気特性(飽和磁化)が低く、ナノワイヤーの平均長が短かった。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明のニッケルナノワイヤーは導電体あるいは高誘電率体であり、電気配線、電極材料、電波遮蔽材料、アンテナ基板、電波吸収材料などに好適である。
図1
図2
図3
図4