(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-24
(45)【発行日】2024-05-07
(54)【発明の名称】肝臓の脂肪滴の肥大化抑制剤、肝臓の脂肪滴の肥大化抑制用組成物および肝臓の脂肪滴の肥大化抑制用食品組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/365 20060101AFI20240425BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20240425BHJP
A61K 31/7034 20060101ALI20240425BHJP
A61K 36/28 20060101ALI20240425BHJP
A61K 36/634 20060101ALI20240425BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240425BHJP
A61P 1/16 20060101ALN20240425BHJP
【FI】
A61K31/365
A23L33/105
A61K31/7034
A61K36/28
A61K36/634
A61P43/00 111
A61P1/16
(21)【出願番号】P 2017050740
(22)【出願日】2017-03-16
【審査請求日】2020-02-05
【審判番号】
【審判請求日】2022-05-16
(73)【特許権者】
【識別番号】306018376
【氏名又は名称】クラシエ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100150142
【氏名又は名称】相原 礼路
(72)【発明者】
【氏名】渡部 晋平
(72)【発明者】
【氏名】稲益 悟志
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 光博
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼科 庸子
【合議体】
【審判長】原田 隆興
【審判官】渕野 留香
【審判官】岩下 直人
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2014-0146407(KR,A)
【文献】特開2008-297209(JP,A)
【文献】Nutrients,2015年,Vol.7,p.2440-2455
【文献】Nutrition Research and Practice,2014年,Vol.8,No.6,p.655-661
【文献】Scandinavian Journal of Gastroenterology,2011年,46(11),p.1381-1388
【文献】International Journal of Biological Sciences,2017年02月25日,Vol.13,No.3,p.349-357
【文献】Biochemical and Biophysical Research Communications,Vol.412,2011年,p.197-202
【文献】日本内科学会雑誌、2016年、105巻、1号、p.15~24(URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/105/1/105_15/_pdf)
【文献】肝臓、2004年、45巻、2号、p.2(58)~9(65)(URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/kanzo1960/45/2/45_2_58/_pdf)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/00-31/80,36/00-36/9048,A23L33/10
CAPLUS/BIOSIS/EMBASE/MEDLINE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルクチゲニンおよび/またはアルクチインを有効成分として含有する、LXRαの発現抑制剤。
【請求項2】
アルクチゲニンおよび/またはアルクチインを有効成分として含有する、LXRαの発現抑制用組成物。
【請求項3】
前記アルクチゲニンおよび/またはアルクチインを、ゴボウ、ゴボウシ、ゴボウスプラウトもしくはレンギョウまたはこれらの抽出物として含有する、請求項2に記載のLXRαの発現抑制用組成物。
【請求項4】
アルクチゲニンおよび/またはアルクチインを有効成分として含有する、LXRαの発現抑制用食品組成物。
【請求項5】
前記アルクチゲニンおよび/またはアルクチインを、ゴボウ、ゴボウシ、ゴボウスプラウトもしくはレンギョウまたはこれらの抽出物として含有する、請求項4に記載のLXRαの発現抑制用食品組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肝臓の脂肪滴の肥大化を抑制する作用を有する薬剤、組成物および食品組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
肝臓は、小腸で吸収された脂質を脂肪酸に分解し、脂肪酸から中性脂肪を合成してエネルギー源として肝細胞中に蓄積する。しかし、エネルギーとして使用されるよりも蓄積される脂肪が多いと、肝細胞に脂肪が溜まってしまう。全肝細胞の30%以上が脂肪化した状態を脂肪肝という。
【0003】
脂肪肝となる原因の1つとして、飲酒がある。アルコールは、肝臓で解毒されて体外に排出されるが、解毒の過程で肝臓の働きに異常が生じると、肝臓中に脂肪が蓄積してしまうことがある。飲酒が原因でできる脂肪肝は、アルコール性脂肪肝と呼ばれる。また、肥満、糖尿病および脂質異常症(高脂血症)などによりインスリンの働きが低下して脂肪肝となることがある。このような脂肪肝は、非アルコール性脂肪肝と呼ばれる。
【0004】
脂肪肝は、動脈硬化などの様々な生活習慣病を引き起こすおそれがある。また、脂肪肝は、脂肪性肝炎(アルコール性脂肪性肝炎(ASH)および非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)など)となることがあり、さらに肝硬変や肝がんなどに進行することもある。
【0005】
脂肪肝を抑制する方法として、特許文献1には、サラシア・レティキュラータおよびサラシア・キネンシスから選択される少なくとも一方の根部の抽出物を有効成分として含むことを特徴とする脂肪肝抑制剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、脂肪肝は、様々な生活習慣病を引き起こしたり、肝硬変や肝がんに進行したりするおそれがあるため、脂肪肝を効率的に抑制できる薬剤の開発が望まれている。本発明は、肝臓における脂肪滴の肥大化を抑制することが可能な新規の薬剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、アルクチゲニンを投与したレプチン受容体欠損モデルマウスの血中トリグリセリドおよび遊離脂肪酸の濃度がControl群と比較して減少することを見出した。そこで、肝臓組織を顕微鏡観察したところ、アルクチゲニン投与群(AG群)では、Control群と比較して脂肪滴が小さく、また数が少ないことを見出した。さらに、AG群では、Control群と比較して脂肪酸合成酵素の発現を制御するLXRαおよびSREBP1cをコードする遺伝子の発現量が減少していることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
本発明は、アルクチゲニンおよび/またはアルクチインを有効成分として含有する、肝臓の脂肪滴の肥大化抑制剤を提供する。
【0010】
また本発明は、アルクチゲニンおよび/またはアルクチインを有効成分として含有する、肝臓の脂肪滴の肥大化抑制用組成物を提供する。
【0011】
また本発明は、アルクチゲニンおよび/またはアルクチインを、ゴボウ、ゴボウシ、ゴボウスプラウトもしくはレンギョウまたはこれらの抽出物として含有する、上記肝臓の脂肪滴の肥大化抑制用組成物を提供する。
【0012】
また本発明は、アルクチゲニンおよび/またはアルクチインを有効成分として含有する、肝臓の脂肪滴の肥大化抑制用食品組成物を提供する。
【0013】
また本発明は、アルクチゲニンおよび/またはアルクチインを、ゴボウ、ゴボウシ、ゴボウスプラウトもしくはレンギョウまたはこれらの抽出物として含有する、上記肝臓の脂肪滴の肥大化抑制用食品組成物を提供する。
【0014】
また本発明は、アルクチゲニンおよび/またはアルクチインを有効成分として含有する、LXRαまたはSREBP1cの発現抑制剤を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、肝臓における脂肪滴の肥大化を効果的に抑制することができるため、脂肪肝や、脂肪肝に由来する様々な生活習慣病、肝硬変および肝がんなどを治療、予防または改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】Control群およびAG群の血中TG濃度(mg/dL)を示すグラフ。
【
図2】Control群およびAG群の血中遊離脂肪酸濃度(μEq/L)を示すグラフ。
【
図3】Control群の肝臓組織の顕微鏡画像を表す図
【
図5】各群の肝臓組織における脂肪滴数を示すグラフ。
【
図6】各群の肝臓組織における脂肪滴面積の平均値を示すグラフ。
【
図7】各群の肝臓組織における最大サイズの脂肪滴面積の平均値を示すグラフ。
【
図8】Control群およびAG群におけるSREBP1c、FAS、LXRαおよびACCの発現量を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、アルクチゲニンおよび/またはアルクチインを有効成分として含有する、肝臓の脂肪滴の肥大化抑制剤および肥大化抑制用組成物を提供する。
【0018】
本明細書において、「脂肪滴」とは、トリグリセリドおよびコレステロールなどの脂質を貯蔵する細胞小器官をいう。本明細書において「脂肪滴の肥大化を抑制する」とは、たとえば、細胞における所定の大きさ以上の脂肪滴の数を減少させること、細胞内の各脂肪滴の面積の平均値を減少させることおよび個体中の最大の脂肪滴の面積の平均値を減少させることなどを意味する。
【0019】
本発明の肝臓の脂肪滴の肥大化抑制剤および肥大化抑制用組成物は、アルクチゲニンおよび/またはアルクチインを有効成分として含有する。アルクチゲニンおよびアルクチインは、ゴボウ等の植物に含まれるジフェニルプロパノイド(リグナン類)の1つである。アルクチインは、アルクチゲニンの前駆体であり、生体内で代謝されてアルクチゲニンになることが知られている。アルクチゲニンおよび/またはアルクチインとして、化学的に合成したアルクチゲニンおよび/またはアルクチインを用いてもよいし、植物から単離したアルクチゲニンおよび/またはアルクチインを用いてもよい。また、アルクチゲニンおよび/またはアルクチインとして、アルクチゲニンおよび/またはアルクチインを含む植物そのものまたはこの植物の抽出物を用いてもよい。アルクチゲニンおよび/またはアルクチインを含む植物には、たとえばゴボウ(スプラウト・葉・根茎・ゴボウシ)、アイノコレンギョウ(花・葉・果実・根茎)、チョウセンレンギョウ(花・葉・果実・根茎)、レンギョウ(花・葉・果実・根茎)、シナレンギョウ(花・葉・果実・根茎)、ベニバナ、ヤグルマギク、アメリカオニアザミ、サントリソウ(ギバナアザミ)、カルドン、ゴロツキアザミ、アニウロコアザミ、ゴマ、モミジヒルガオ、シンチクヒメハギ、チョウセンテイカカズラ、テイカカズラ、ムニンテイカカズラ、ヒメテイカカズラ、トウキョウチクトウ、ケテイカカズラ、リョウカオウ、オオケタデ、ヤマザクラ、シロイヌナズナ、アマランス、クルミ、エンバク、スペルタコムギ、軟質コムギ、メキシコイトスギおよびカヤが含まれる。なかでも、ゴボウ(特にゴボウシおよびゴボウスプラウト)およびレンギョウ(特に葉)は、アルクチゲニンおよび/またはアルクチインの含有量が高いため好ましい。植物そのものを用いる場合、生または乾燥して刻んだもの、或いは乾燥して粉末としたものを用いることができる。
【0020】
アルクチゲニンおよび/またはアルクチインとして植物の抽出物を用いる場合、抽出物は、たとえば以下の方法によって植物から調製してもよい。本発明において使用される抽出物は、たとえばアルクチゲニンおよび/またはアルクチインを含む植物から、酵素変換工程および有機溶媒による抽出工程の2段階により抽出してもよい。
【0021】
酵素変換工程は、植物に内在する酵素であるβ-グルコシダーゼにより、該植物に含まれているアルクチインをアルクチゲニンに酵素変換する工程である。具体的には、植物を乾燥し切栽したものを適切な温度に保持することにより内在のβ-グルコシダーゼを作用させて、アルクチインからアルクチゲニンへの反応を進行させる。たとえば、切裁した植物に水などの任意の溶液を加えて、30℃付近の温度(20~50℃)の間にて攪拌することなどにより、植物を任意の温度に保持することができる。
【0022】
有機溶媒による抽出工程は、任意の適切な有機溶媒を使用して、植物からアルクチゲニンおよびアルクチインを抽出する工程である。すなわち、上記の酵素変換工程によりアルクチゲニンが高含量となった状態で、適切な溶媒を添加して、植物から抽出物(エキス)を抽出する工程である。たとえば、植物に適切な溶媒を添加して、適切な時間加熱攪拌して抽出物を抽出する。また、加熱攪拌以外にも、加熱還流、ドリップ式抽出、浸漬式抽出または加圧式抽出法などの当業者に公知の任意の抽出法を使用して、抽出物を抽出することができる。
【0023】
アルクチゲニンは水難溶性であることから、有機溶媒を添加することにより、アルクチゲニンの収率を向上させることができる。有機溶媒は、任意の有機溶媒を使用することができる。たとえば、メタノール、エタノールおよびプロパノールなどのアルコール、並びにアセトンを使用することができる。安全性の面を考慮すると、有機溶媒として30%量のエタノールを使用することが好ましい。抽出物から溶媒を留去するとペースト状の濃縮物が得られ、この濃縮物をさらに乾燥すると乾燥物を得ることができる。
【0024】
本発明の肝臓の脂肪滴の肥大化抑制剤および肥大化抑制用組成物は、任意の形態の製剤であることができる。肝臓の脂肪滴の肥大化抑制剤および肥大化抑制用組成物は、経口投与製剤として、たとえば糖衣錠、バッカル錠、コーティング錠およびチュアブル錠等の錠剤;トローチ剤;丸剤;散剤;硬カプセル剤および軟カプセル剤を含むカプセル剤;顆粒剤;ならびに懸濁剤、乳剤、シロップ剤およびエリキシル剤等の液剤などであることができる。
【0025】
また、本発明の肝臓の脂肪滴の肥大化抑制剤および肥大化抑制用組成物は、静脈注射、皮下注射、腹腔内注射、筋肉内注射、経皮投与、経鼻投与、経肺投与、経腸投与、口腔内投与および経粘膜投与などの非経口投与製剤であることができる。本発明の肝臓の脂肪滴の肥大化抑制剤および肥大化抑制用組成物は、たとえば、注射剤、経皮吸収テープ、エアゾール剤および坐剤などであることができる。
【0026】
また、本発明の肝臓の脂肪滴の肥大化抑制剤および肥大化抑制用組成物は、外用剤として提供されることができる。本発明の外用剤は、医薬品および化粧品などであることができる。本発明の外用剤は、皮膚、頭皮、毛髪、粘膜および爪などに適用するための外用剤であることができる。外用剤には、たとえばクリーム剤、軟膏剤、液剤、ゲル剤、ローション剤、乳液剤、エアゾール剤、スティック剤、シートマスク剤、固形剤、泡沫剤、オイル剤およびチック剤等の塗布剤;パップ剤、プラスター剤、テープ剤およびパッチ剤等の貼付剤;並びにスプレー剤などが含まれる。
【0027】
また、本発明の肝臓の脂肪滴の肥大化抑制剤および肥大化抑制用組成物は、食用に適した形態であることができ、たとえば固形状、液状、顆粒状、粒状、粉末状、カプセル状、クリーム状およびペースト状などであってもよい。
【0028】
本発明の肥大化抑制用組成物は、医薬品、化粧品および食品などに用いるための組成物であることができる。本発明の肥大化抑制用組成物は、医薬品、化粧品および食品に通常用いられる任意の成分をさらに含むことができる。たとえば、本発明の肥大化抑制用組成物は、薬学的に許容される基剤、担体、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤および着色剤などをさらに含んでもよい。
【0029】
肥大化抑制用組成物に使用する担体および賦形剤の例には、乳糖、ブドウ糖、白糖、マンニトール、デキストリン、馬鈴薯デンプン、トウモロコシデンプン、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸カルシウムおよび結晶セルロースなどを含む。
【0030】
結合剤の例には、デンプン、ゼラチン、シロップ、トラガントゴム、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロースおよびカルボキシメチルセルロースなどを含む。
【0031】
崩壊剤の例には、デンプン、寒天、ゼラチン末、結晶セルロース、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウムおよびカルボキシメチルセルロースカルシウムなどを含む。
【0032】
滑沢剤の例には、ステアリン酸マグネシウム、水素添加植物油、タルクおよびマクロゴールなどを含む。着色剤は、医薬品、化粧品および食品に添加することが許容されている任意の着色剤を使用することができる。
【0033】
また、肥大化抑制用組成物は、必要に応じて、白糖、ゼラチン、精製セラック、ゼラチン、グリセリン、ソルビトール、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、フタル酸セルロースアセテート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、メチルメタクリレートおよびメタアクリル酸重合体などで一層以上の層で被膜してもよい。
【0034】
また、肥大化抑制用組成物は、必要に応じて、pH調節剤、緩衝剤、安定化剤、保存剤、防腐剤、希釈剤、コーティング剤、甘味剤、香料および可溶化剤などを添加してもよい。
【0035】
本発明はまた、本発明の肥大化抑制用組成物を含有する医薬品を提供する。本発明の医薬品は、肝臓の脂肪滴の肥大化を抑制するための医薬品であることができる。また、本発明の医薬品は、脂肪滴肥大に関連する種々の症状を治療、改善および予防するための医薬品であることができ、たとえば脂肪肝並びに脂肪肝に関連する動脈硬化、脂肪性肝炎、肝硬変および肝がんなどの種々の疾患および状態を治療、改善および予防するための医薬品であることができる。
【0036】
本発明はまた、アルクチゲニンおよび/またはアルクチインを有効成分として含有する肥大化抑制用食品組成物を提供する。本発明の肥大化抑制用食品組成物は、上述した肥大化抑制剤および肥大化抑制用組成物と同様に構成されることができる。本発明の食品組成物は、脂肪肝並びに脂肪肝に関連する動脈硬化、脂肪性肝炎、肝硬変および肝がんなどの種々の疾患および状態を改善または予防するための食品組成物であることができる。
【0037】
本明細書において「食品組成物」には、一般的な飲食品だけでなく、病者用食品、健康食品、機能性食品、特定保健用食品、栄養補助食品およびサプリメントなどが含まれる。一般的な飲食品には、たとえば各種飲料、各種食品、加工食品、液状食品(スープ等)、調味料、栄養ドリンクおよび菓子類などが含まれる。本明細書において「加工食品」とは、天然の食材(動物および植物など)に対し加工および/または調理を施したものをいい、たとえば肉加工品、野菜加工品、果実加工品、冷凍食品、レトルト食品、缶詰食品、瓶詰食品およびインスタント食品などが含まれる。本発明の食品組成物は、グルカゴンを抑制する旨の表示を付した食品であってもよい。また、本発明の食品組成物は、袋および容器等に封入された形態で提供されてもよい。本発明において使用する袋および容器は、食品に通常使用される任意の袋および容器であることができる。
【0038】
本発明の肥大化抑制剤、肥大化抑制用組成物および肥大化抑制用食品組成物におけるアルクチゲニンおよび/またはアルクチインの含有量は、脂肪滴の肥大化を抑制する効果を発揮できる量であればよく、適用する対象、目的および投与方法(摂取方法)に応じて適宜設定することができる。たとえばヒトに経口摂取させる場合、好ましくはアルクチゲニンおよび/またはアルクチインを1日あたりの摂取量が10~2000mgとなるように含むことができる。
【0039】
本発明はまた、アルクチゲニンおよび/またはアルクチインを有効成分として含有する、LXRαまたはSREBP1cの発現抑制剤を提供する。LXRαは、肝臓にある核内受容体の1つであり、活性化されるとSREBP1c(Sterol regulatory element-binding protein)の発現を上昇させる、核内転写因子である。SREBP1cは、脂肪酸合成酵素であるFAS(fatty acid synthase)およびACC(acetyl-CoA carboxylase)などの発現を制御する転写因子である。
【0040】
本明細書において「発現を抑制する」とは、たとえばタンパク質をコードする遺伝子の転写産物の量を減少させることおよびタンパク質の量を減少させることなどを意味する。
【0041】
本発明のLXRαまたはSREBP1cの発現抑制剤は、アルクチゲニンおよび/またはアルクチインを、ゴボウ、ゴボウシ、ゴボウスプラウトもしくはレンギョウまたはこれらの抽出物として含有してもよい。また、本発明のLXRαまたはSREBP1cの発現抑制剤は、上述した本発明の肥大化抑制剤、肥大化抑制用組成物および肥大化抑制用食品組成物と同様に構成されることができる。
【0042】
本発明のLXRαまたはSREBP1cの発現抑制剤は、LXRαおよび/またはSREBP1cの発現を抑制することにより、脂肪酸合成酵素などの発現を抑制することができる。したがって、本発明のLXRαまたはSREBP1cの発現抑制剤は、肝臓の脂肪滴の肥大化を抑制し、脂肪肝を治療、予防または改善することができる。
【実施例】
【0043】
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0044】
(酵素活性の測定)
ゴボウシ中のβ-グルコシダーゼ活性は、以下の方法で測定した。産地やロットが異なるゴボウシをウイレー氏粉砕機により粉砕し、このゴボウシ粉砕品0.1gを10mLの水で希釈し、試料溶液とした。
【0045】
基質溶液として、p-ニトロフェニル-β-D-グルコピラノシド0.15gに水を加えて25mLに定容し、20mmol/L p-ニトロフェニル-β-D-グルコピラノシド水溶液を調製した。0.1mol/L酢酸緩衝液1mLに20mmol/L p-ニトロフェニル-β-D-グルコピラノシド水溶液0.5mLを加えて、反応混液を調製し、37℃で約5分予備加熱を行った。
【0046】
反応混液に試料溶液0.5mL加えて37℃で15分反応させた後、反応停止液である0.2mol/L炭酸ナトリウム水溶液を2mL加えて反応を停止させた。この液の400nmにおける吸光度を測定し、酵素反応を行わないブランク溶液からの変化量から下式により酵素活性を求めた。
酵素活性(U/g)=(試料溶液の吸光度-ブランク溶液の吸光度)×4mL×1/18.1(p-ニトロフェノールの上記測定条件下でのミリモル分子吸光係数:cm2/μmol)×1/光路長(cm)×1/反応時間(分)×1/0.5mL×1/試料溶液濃度(g/mL)
【0047】
(実施例1 ゴボウシ抽出物の製造1)
本発明のグルカゴン抑制用組成物の一実施例として、ゴボウシからエキス(抽出物)を抽出した。ゴボウシ(酵素活性8.23U/g)を切裁し、9.5mmの篩を全通するものをさらに0.85mmの篩に通し、75%が残ることを確認した。このゴボウシ細切80kgを29~33℃に保温した水560Lに加えて30分間攪拌した。次いで、エタノール265Lを加えて85℃に昇温し、さらに60分間加熱還流した。この溶液を遠心分離し、ゴボウシ抽出液を得た。この操作を2回繰り返して得られた抽出液を合わせて、減圧濃縮し、抽出物固形分に対してデキストリン25%量を加えて、噴霧乾燥した。アルクチゲニンおよびアルクチイン含量は、それぞれ6.2%および7.1%であり、アルクチゲニン/アルクチイン(重量比)=0.89のゴボウシ抽出物粉末(デキストリン20%含有)が得られた。
【0048】
(実施例2 ゴボウシ抽出物の製造2)
本発明のグルカゴン抑制用組成物の一実施例として、ゴボウシからエキス(抽出物)を抽出した。ゴボウシ(酵素活性8.23U/g)を切裁し、9.5mmの篩を全通するものをさらに0.85mmの篩に通し、75%が残ることを確認した。このゴボウシ細切80kgを30~33℃に保温した水560Lに加えて30分間攪拌した後、エタノール265Lを加えて85℃に昇温し、さらに30分間加熱還流した。この溶液を遠心分離し、ゴボウシ抽出液を得た。この操作を2回繰り返して得られた抽出液を合わせて、減圧濃縮し、抽出物固形分に対してデキストリン25%量を加えて、噴霧乾燥した。アルクチゲニンおよびアルクチイン含量は、それぞれ6.0%および6.8%であり、アルクチゲニン/アルクチイン(重量比)=0.87のゴボウシ抽出物粉末(デキストリン20%含有)が得られた。
【0049】
(実施例3 ゴボウシ抽出物の製造3)
本発明のグルカゴン抑制用組成物の一実施例として、ゴボウシからエキス(抽出物)を抽出した。ゴボウシ(酵素活性7.82U/g)を切裁し、9.5mmの篩を全通するものをさらに0.85mmの篩に通し、75%が残ることを確認した。このゴボウシ細切80kgを30~32℃に保温した水560Lに加えて40分間攪拌した後、60分後にエタノール258Lを加えて85℃に昇温し、さらに30分間加熱還流した。この液を遠心分離し、ゴボウシ抽出液を得た。この操作を2回繰り返して得られた抽出液を合わせて、減圧濃縮し、抽出物固形分に対してデキストリン25%量を加えて、噴霧乾燥した。アルクチゲニンおよびアルクチイン含量は、それぞれ6.2%および6.7%であり、アルクチゲニン/アルクチイン(重量比)=0.93のゴボウシ抽出物粉末(デキストリン20%含有)が得られた。
【0050】
(実施例4 ゴボウシ抽出物の製造4)
本発明のグルカゴン抑制用組成物の一実施例として、ゴボウシからエキス(抽出物)を抽出した。ゴボウシ(酵素活性7.82U/g)を切裁し、9.5mmの篩を全通するものをさらに0.85mmの篩に通し、75%が残ることを確認した。このゴボウシ細切80kgを30~32℃に保温した水560Lに加えて30分間攪拌した後、エタノール253Lを加えて85℃に昇温し、さらに40分間加熱還流した。この液を遠心分離し、得られた抽出液を得た。この操作を2回繰り返して得られた抽出液を合わせて、減圧濃縮し、抽出物固形分に対してデキストリン25%量を加えて、噴霧乾燥した。アルクチゲニンおよびアルクチイン含量は、それぞれ6.4%および7.2%であり、アルクチゲニン/アルクチイン(重量比)=0.89のゴボウシ抽出物粉末(デキストリン20%含有)が得られた。
【0051】
(実施例5 シナレンギョウ葉抽出物の製造1)
本発明のグルカゴン抑制用組成物の一実施例として、シナレンギョウ葉からエキス(抽出物)を抽出した。アルクチイン2.53%およびアルクチゲニン0.76%を含有するレンギョウ葉小刻み50gに水350mLを加えて37℃で30分間保温後、エタノール150mLを添加し30分間加熱抽出した。この溶液を100メッシュ篩を用いて固液分離し、凍結乾燥を行うことにより、アルクチゲニン含量が5.62%のシナレンギョウ葉抽出物18.62gを得た。
【0052】
(実施例6 シナレンギョウ葉抽出物の製造2)
本発明のグルカゴン抑制用組成物の一実施例として、シナレンギョウ葉からエキス(抽出物)を抽出した。アルクチイン7.38%およびアルクチゲニン0.78%を含有するレンギョウ葉小刻み720gに水5Lを加えて37°Cで30分間保温後、エタノール2.16Lを添加し30分間加熱抽出した。この溶液を100メッシュ篩を用いて固液分離し、凍結乾燥を行うことにより、アルクチゲニン含量が9.55%のシナレンギョウ葉抽出物343.07gを得た。
【0053】
(実施例7 ゴボウシ抽出物粉末配合顆粒剤)
本発明のグルカゴン抑制用組成物の一実施例として、ゴボウシ抽出物を用いて顆粒剤を製造した。「日局」製剤総則、顆粒剤の項に準じて顆粒剤を製造した。すなわち、下記(1)~(3)の成分をとり、顆粒状に製した。これを1.5gずつアルミラミネートフィルムに充填し、1包あたりゴボウシ抽出物粉末を0.5g含有する顆粒剤を得た。
【0054】
(1)実施例2のゴボウシ抽出物粉末 33.3%
(2)乳糖 65.2%
(3)ヒドロキシプロピルセルロース 1.5%
合計 100%
【0055】
(実施例8 ゴボウシ抽出物粉末配合顆粒剤)
本発明のグルカゴン抑制用組成物の一実施例として、ゴボウシ抽出物を用いて顆粒剤を製造した。「日局」製剤総則、顆粒剤の項に準じて顆粒剤を製造した。すなわち、下記(1)~(3)の成分をとり、顆粒状に製した。これを3.0gずつアルミラミネートフィルムに充填し、1包あたりゴボウシ抽出物粉末を2g含有する顆粒剤を得た。
【0056】
(1)実施例2のゴボウシ抽出物粉末 66.7%
(2)乳糖 30.3%
(3)ヒドロキシプロピルセルロース 3.0%
合計 100%
【0057】
(実施例9 ゴボウシ抽出物粉末配合錠剤)
本発明のグルカゴン抑制用組成物の一実施例として、ゴボウシ抽出物を用いて錠剤を製造した。「日局」製剤総則、錠剤の項に準じて錠剤を製した。すなわち、下記(1)~(6)の成分をとり、錠剤を得た。
【0058】
(1)実施例2のゴボウシ抽出物粉末 37.0%
(2)結晶セルロース 45.1%
(3)カルメロースカルシウム 10.0%
(4)クロスポピドン 3.5%
(5)含水二酸化ケイ素 3.4%
(6)ステアリン酸マグネシウム 1.0%
合計 100%
【0059】
(実施例10 肝臓の脂肪滴に対するアルクチゲニンの効果)
[実験動物]
レプチン受容体欠損モデルである、5週齢の雄性db/dbマウス(BKS.Cg-+Leprdb/+Leprdb/Jcl、日本クレア社より購入)を使用して、1週間の予備飼育後に実験を開始した。動物は温度23.0±5℃、湿度50.0±10%、12時間の明暗サイクルの環境下で飼育した。動物実験は慶應義塾大学動物実験委員会の承認を得て、慶應義塾大学動物実験規定に基づき実施した。
【0060】
[実験方法]
予備飼育後に、マウスを(a)Control群および(b)アルクチゲニン投与群(AG群)の2群にわけ(各群n=8)、Control群には精製飼料(AIN-93G)を、AG群にはアルクチゲニン(>98.0%)0.2%配合の精製飼料を9週間自由摂取させた。投与6週目に尾静脈より採血を行い、血中TGおよび血中飽和脂肪酸濃度を測定した。投与終了後、18時間の絶食を行い、麻酔下で腹部大静脈より採血し、肝臓を採取した。採取した肝臓は一部を遺伝子解析用、一部を組織切片用に分けた。
【0061】
[血中脂質の測定]
血中のトリグリセリド(TG)および遊離脂肪酸の濃度は、それぞれ、デタミナーL TGII(協和メデックス株式会社製)およびNEFA C-テストワコー(和光純薬工業株式会社製)を用いて測定した。
【0062】
図1は、各群の血中TG濃度(mg/dL)を示す。また、
図2は、各群の血中遊離脂肪酸濃度(μEq/L)を示す。
図1および
図2における値は、6匹の平均±標準誤差(Mean±S.E.M)を表す。Student’s t-testの結果、p値が0.05より小さい場合には「*」を付した。
図1および
図2に示すように、AG群では、Control群と比較して血中TG濃度および血中遊離脂肪酸濃度が有意に低かった。
【0063】
[肝臓における脂肪滴蓄積]
Control群およびAG群の肝臓組織を10%ホルマリン液により固定後、組織切片を作製し顕微鏡下で観察した。
図3はControl群、
図4はAG群の肝臓組織の顕微鏡画像を表す図である。
図3および
図4に示すように、AG群では、Control群と比較して脂肪滴が小さく、また数が少なかった。
【0064】
次に、各個体についてランダムに5枚の画像を取得し、画像解析ソフトImageJを用いて各群の肝臓組織における脂肪滴数、脂肪滴面積および各個体中の最大サイズの脂肪滴面積を測定した。
図5は各群の肝臓組織における30μm
2より大きい脂肪滴数を示す。
図6は、各群の肝臓組織における脂肪滴面積の平均値(μm
2)を示す。
図7は、各群の肝臓組織における最大サイズの脂肪滴面積の平均値(μm
2)を示す。AG群における脂肪滴数、脂肪滴面積の平均値および各個体中の最大サイズの脂肪滴面積の平均値はいずれも、Control群と比較して低かった。
【0065】
これらの結果から、アルクチゲニンは、肝臓において脂肪滴の肥大化を抑制する作用を有することが示唆された。
【0066】
[脂肪酸合成関連遺伝子の発現量]
各群について、得られた臓器からtotal RNAの抽出およびcDNA合成を行った後、qPCRにより脂肪酸合成関連遺伝子であるSREBP1c、FAS、LXRαおよびACCをコードする遺伝子の発現量を比較した。コントロールとして、18S rRNAを用いた。qPCRのためのプライマーは、18S(F: TTCTGGCCAACGGTCTAGACAAC(配列番号1)、R: CCAGTGGTCTTGGTGTGCTGA(配列番号2))、SREBP1c(F: GGTACCTGCGGGACAGCTTA(配列番号3)、R: CCGTGAGCTACCTGGACTGAA(配列番号4))、FAS(F: CTGGAGGCCTTGCCACTGTA(配列番号5)、R: GCTTGCACCAACACTCAGTTGAC(配列番号6))、LXRα(F: CTGGAGACGTCACGGAGGTACA(配列番号7)、R: TGATGGCAATGAGCAGAGCA(配列番号8))、ACC(F: ACCAACTCCACTGTTTGTGA(配列番号9)、R: CCTTGGAATTCAGGAGAGGA(配列番号10))を用いた。
【0067】
図8はControl群およびAG群におけるSREBP1c、FAS、LXRαおよびACCの発現量を示す。
図8における値は、6匹の平均±標準誤差(Mean±S.E.M)を表す。Student’s t-testの結果、p値が0.01より小さい場合には「**」を付した。AG群では、Control群と比較していずれの遺伝子の発現量も低く、SREBP1cに関しては有意に低かった。
【0068】
これらの結果から、アルクチゲニンは、SREBP1c、FAS、LXRαおよびACCをコードする遺伝子の発現を抑制する作用を有することが示された。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、肝臓における脂肪滴の肥大化を抑制することができるため、脂肪肝や、脂肪肝に由来する様々な生活習慣病、肝硬変および肝がんなどを治療、予防または改善するための医薬品および食品などに利用可能である。
【配列表】